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     ≪桃と薔薇はお似合い!?≫

   私の名前は香代。 今ベットに寝ころがって天井を見上げてる。
   もう何がなんだか分からない。
   こんな気持ちは初めてだ。

   私は恋をするのが怖い。
   春風みたいな暖かい気持ちが続くのはほんのわずかな時間だけで
   あとは絶え間ない嫉妬と苦しみに飲み込まれてしまうから。
   もう恋なんてしない。そう思ってたのに人間ってなんで同じこと繰り返すんだろう。
   そう私は今恋をしている。

   自分以外の誰かを好きになるのって素敵なこと。
   多くの人はそう言うけれど物事はそうシンプルにはいかないのよね。
   私だって悲観的に考えるのは好きじゃない。
   恋をしたのだってこれが初めてって訳じゃないし。
   だけど今度ばかりはどうしても今までと同じってわけにはいかないんだもん。
   だってその人女性だから。

   今まで好きになったのは男の子ばっかり。
   それはそれでそれなりにときめいたりしたりもしたけど
   今思うと本当に好きだったかは自信ないな。
   どっちかっていうと憧れだったのかもしれない。
   でもその人に対する気持ちは全然違う。
   だからこそ怖い。私が私でなくなっていく気がして。

   その人は毎日私がバイトしているカフェテリアにくる。
   ご注文は決まってホットピーチパイとローズジャムティー。
   それは私がバイトしはじめてからずっと変わらないこと。
   すっきりとした顔立ちに肩あたりで切りそろえられた髪。
   小さなお花のピアスが夕日をうけてキラキラと輝いている。

   少し寂しそうな顔はハッとする程奇麗で思わずため息がでてしまう。
   はじめて会った時からずっと好きだった。だけどあの人の名前さえ分からない。
   この気持ちどうしたらいいんだろう。考えはじめるとぐるぐると迷宮にはまってしまい、
   私は仕事も手につかないまましばらく茫然と彼女の横顔を眺める。それが最近の日課。

   私どうしたらいいのかなぁ..
   今日干したばかりの布団に寝ころがり私は大好きなスヌーピーの人形を抱き締めた。
   ふかふかの布団はお日様の匂いがして今日一日の疲れが溶けだしていくみたい。
   私は大切なことはスヌーピーに話すことにしてる。
   今この恋を知ってるのは私とスヌーピーだけ。だってこんなこと他の人には相談できない。
   あの人を男性に置き換えて友達に話すこともできるけど、それじゃもどかしさが残ってしまうから。
   それに大切なものは宝箱にしまっておいた方がいい。

   私って冷めてるのかなぁ..だけどそれが私だから仕方がないんだと思う。
   あの人はとても強い目をしていた。
   私はそこにどうしようもなく惹かれてしまうのかもしれない。
   もっとあの人を見ていたい。話してみたい。
   そのためには自分から動かなくちゃ。
   待ってたって女神様は助けてはくれないから。
   私はゆっくりと起き上がりホットココアを作りに台所へと向かった。今夜は長い夜になりそうだ。

   窓から差し込む光が白いかべに波模様を作っている。
   春にしては強すぎる光に少しクラクラしながら私はあの人が来るのを待っていた。
   昨日ほとんど眠れずに出した結論と勇気が消えてしまわないように自分を落ち着かせながら
   黙々と仕事をこなしていた。私が出した結論・・それは行動するしかないってことだった。
   我ながら陳腐だとは思うけどそれしかない。もう眠れない夜には終止符を打ちたい。
   後悔だけはしないように。その言葉だけが傷ついたレコードのようにグルグルと
   頭の中を回っていた。まだ3時。彼女が来るには時間がある。

   夕暮れが迫り空が淡いピンクからすみれ色に染まる頃彼女は店に現れた。
   五時ジャスト!彼女はいつも時間に忠実だ。
   高鳴る胸の動悸を押さえながら注文をとりにいき伝票にえんぴつを走らせながら
   彼女の顔を盗み見た。夕日が彼女の顔に影をつくりちょっと気だるそうに見える。
   言うなら今しかない。焦る気持ちとは裏腹に、昨日の夜何度も頭の中でシュミレーションしてきた
   言葉たちが彼女を目の前にした今アワのように消えていくのをぼんやりと感じていた。
   だめだ。やっぱり私にはできない。

   プラスティックのお盆を抱えながら体の熱を覚ましながら
   ホットピーチパイを頬張る彼女を見つめていた。
   いつの間にか空はダークブルーに染まり彼女はぼんやりと窓から景色を眺めている。
   せっかくのチャンスだったのに..いざとなると勇気がでない。やっぱり無理なのかな。

   そんなことを考えているうちに彼女が荷物を持ち椅子から立ち上がるのが見えた。
   今を逃したらもう二度とチャンスはこない。そんな気がする。
   伝票を一枚破り、ケータイの番号と簡単なメッセージを書き殴り、
   私はあわててレジへと向かった。息を整え会計をすませると、
   レシートの後ろにそっと紙切れを隠し彼女に差し出した。
   彼女は上の空でレシートを受け取り、乱暴にお釣りごとポケットにしまうと
   夜の闇の中に踏み出した。

   「ありがとうございました!」
   勢いよく頭を下げ闇の中に彼女の姿が見えなくなるまで私はそのままの姿勢でいた。
   あんなに悩んだのになんてあっけなかったんだろう。
   自分の大胆な行動に驚きながら、私は緊張がとけ体から力が抜けていくのを感じていた。
   彼女はきっと驚くだろう。もう店に姿を現さないかもしれない。
   不安はあるけど後悔はしていなかった。
   それどころか自分にこんな行動力があったんて褒めてあげたいくらい。
   少なくとも私は一歩前に踏み出したんだから。
   あぁ、神様!どうか彼女があの紙切れに気が付いてくれますように。

   あれから一週間が過ぎた。携帯がなるたびに一喜一憂していたけれど、
   彼女からは何の音沙汰もなく私は失意の中にいた。お店にも来ない。
   やっぱり駄目なのかな。冷静に考えれば当然のことなのかもしれない。
   携帯を床に投げつけ枕に顔を埋めた。
   でもこの気持ちをあきらめることなんてできるんだろうか。もう何も考えたくない。

   いつまでそうしていたのか、部屋の中に鳴りひびく携帯の着信音のせいで
   現実に引き戻された時にはすでに日は落ち部屋の中が薄暗くなっていた。
   私はゆっくりとベットから起き上がり、暗闇の中をまさぐり床に放り投げたままの携帯を拾いあげた。
   暗闇の中で人工的な白い光を浮かび上がらせている画面には知らない番号が表示されていた。
   もしかしたら彼女がかけてきてくれたのかもしれない。
   見慣れない番号に喜びととまどいを感じながら鳴り続ける電話の画面を見つめた。
   一回、二回・・・電話は切れない。
   何を戸惑っているの?もし彼女からだったら今受話器を取らなきゃ私はきっと自分を許せない。
   深呼吸をしておそるおそる受話器のボタンを押した。

   『もしもし..』
   『失礼かもしれないけど、小さな紙に番号書いたのあなた?』

   あぁっ、やっぱり彼女だ!
   彼女のちょっと押し殺したような声は一週間の月日を埋め、
   苦しいくらいのいとしさをあきらめかけていた私の胸の中に満たしていく。

   『はい、ご迷惑だとは思ったんですけど、どうしてもあなたと話してみたくて』
   『ごめんなさい、声聞いたら思い出すと思ったんだけど・・・私達どこかで会ったかしら?』
   『あの、私SОRAでバイトしてて、それであなたのこといつもきれいだなぁって思ってて、
    うまく言えないんですけど、あなたと話してみたいなって思ってて、それであの、つい・・・』

   沈黙が流れていく。次に彼女がなんと切り出してくるのか、不安で携帯を握る手に力がはいる。
   ここであせっちゃだめだ。長い沈黙の後信じられない言葉が受話器から流れ出した。

   『そうなの。そう・・・電話で話しててもらちがあかないわね。
    あなたおもしろいわ、私もあなたと一度話してみたいと思うんだけど、一度あってみない?』
   こんなことが起こってもいいんだろうか。
   突然女神様が差し出してくれたプレゼントに私の胸は高鳴った。
   やっぱり女神様は私を見捨ててなかったんだ!

   『いいんですか!?すっごくうれしい!私いつでも暇なんで
    いつでも都合がいい時に呼んでください!』
   『 でもバイトがあるんじゃないの?』
   『あっ、忘れてた!でもだいじょうぶです、休んででもいきます!』

   くすっと彼女の小さな笑い声が受話器から流れる。
   さっきよりも柔らかくなった声で彼女はこう伝えた。

   『本当おもしろいわ。分かった。SОRAってたしか水曜日休みよね?
    じゃあ今度の水曜日7時に駅前のKUMOってカフェで待ってるわ』
   『はい!水曜日の7時にKUMOですね!』
   『それじゃ水曜日にね♪』

   電話が切れた後私はベットに飛び乗り、スヌーピーを力いっぱい抱き締めた。

   ねぇ聞いてよ、スヌーピー!やっと願いが叶ったの。あのお姉様にお茶に誘われたのよ!
   こんなに素敵なことってあるかしら。なんて幸せ者なんでろう、私は。
   ダメもとで書いたあの殴り書きが女神様の目に届くだなんて。
   あぁこんなことならもっとキレイな字で書いておけばよかった。
   今更になって、なんでこんなに恥ずかしいんだろう。
   あの方はあの紙を見たのよね。そして私に電話をくれたのよね。
   あぁ、もう最高。今なら死んだっていい..
   あっ、それはダメ!水曜に会うんだから。会えるんだから!

   完全に顔がニヤけてるのが自分でもわかる。
   それでも興奮したこの気持ちは当分おさまりそうにない。
   フツフツと湧き上がってくる嬉しさに一人で笑うしかなかった。

   その夜、私はあの方の夢を見た。静かに微笑んでいらっしゃる。
   いつもの疲れた雰囲気はどこにもない。ただただこちらを向いて笑っている。
   そばに寄ろうと駆け寄った。えっ、遠くにいかないで・・

   そう思った瞬間、私は目覚し時計に起こされた。
   トゥルルル♪軽やかな音楽が6時を指した時計から流れ出ていた。
   もう少し寝たいたかったのになぁ..あとちょっと走ればもっと近くに行けたかもしれない。
   夢の中のお姉様が何度も頭の中で蘇る。
   やっぱり綺麗だった..。

   それから歩みの遅い日々が刻々と過ぎ去っていった。
   時間が経つにつれ、会えることの喜びをかみ締めるよりも
   会った後のお姉様との未来を想像するのに忙しかった。

   KUMOでお姉様はきっといつもの通りにホットピーチパイを頼むんだろうなぁ。
   でもあの店ってローズジャムティーはないのよね。何飲むのかしら。
   あぁ、それより、どんな服を着てくるんだろう。私のためだけに
   きれいなワンピースかなにかでも着てきてくれないかしら。
   「今日はこんな服着てきちゃった♪今時ワンピなんて古いかしらね(クスッ)」
   言われてみたいセリフがポンポン頭の中に浮かんでは消える。

   水曜に仲が良くなったら、そのあとはどうしよう。
   日曜にどこかに誘おうか。映画館がいいかな。遊園地がいいかな。
   あっ、でも私から誘うより、お姉様から誘われたいなぁ..。
   「香代、今度の日曜空いてるかしら?」なんて。きゃは。もーダメだ。
   完全に心が暴走してる。まだお名前も聞いていない方なのに。
   そーだ、あの方をどうお呼びしたらいいんだろう。
   やっぱり最初に名前を訊くべきよね..挨拶したらすぐ?なんかそれも変。
   あぁ、どうしたらいいのかなぁ。

   訊きたいことはたくさんあるのに、それを聞くために尋ねるセリフを思い浮かべると
   そこでいっつもストップしてしまう。どう切り出せばいいのか分からない。
   空気とか話の流れとか、そーゆーのを感じ取るのがホトホト苦手。
   第一、まん前で話すだなんて、きちんと声が出るかどーかも心配だわ。
   もし恥ずかしくて何も私がしゃべらなかったら?
   お姉様は愛想をつかしてすぐに去ってしまうかもしれない。
   相手がしゃべらないんじゃ座ってても面白くないだろうし。どぉしたらいいんでろう。
   この果てしない感情を押さえながらもお姉様を楽しませるには...。

   香代にとってそれは難題だった。年上の女性。しかも恋焦がれる人。
   自分の行動、言動一つ一つが相手にとって
   香代の価値を決定付ける要素であることに変わりはない。

   失礼のないよーに。つまらないと思われないよーに。
   最近自分でも溜息が多くなったのを感じる。
   ヤバイ、このままではお姉様に会う前に自滅してしまう。
   そう思い立った香代は窓を思いっきり開いた。
   よし、きちんと一から考えよう。会ったところでこれから先上手くいくとは限らない。
   お付き合いがはじまるだなんて、そんな妄想はやめて、
   きちんと水曜にコミュニケーションがとれるようにそれだけを考えよう。

   そうこうしてるうちに念願の水曜がやってきた。
   ロングスカートやジーンズ、キャミソールなど10数着がベッドの上に転がっている。

   どれ着てこっかなぁ。地味だとカッコワルイし、あまり派手なのはお姉様がイヤがるかもしれない。
   藤色のタイトスカートと白の半袖シャツにしよっかなぁ。
   まずは子供っぽさを隠さないと…。

   桃色の小さなリョックサックを背中に背負い鏡の前で一回転してみる。
   背筋をピシッとしてきれいに足を出して歩かなくっちゃ。
   普段しないような姿勢で一歩一歩練習を重ねると、なかなかさまになってきた。
   よぉ〜し、これでオッケィッ!!

   意気揚々で階段をドタバタ下り、リビングの扉を開ける。
   「おかぁさ〜んっ、図書館で試験勉強してくるぅ。」
   「一人で?香代がぁ?」カラカラと笑うマミー。
   「ん〜?テニサー(テニスサークル)のみゆたんも一緒だよっ。」
   母の返答が聞こえるものの、これ以上何も訊かれないようにそそくさと家を出た。

   これで夜8時くらいまではだいじょ〜ぶっと♪
   先ほどの練習はどこへやら、弾む気持ちを抑えきれずに軽やかなスキップを街なかで繰り広げた。

   タ〜ララッタッタァ〜♪頭の中は可愛い天使とともに音楽がクルクル回っている。
   周囲の人の目も気にせず、香代は暴走を続けた。
   SORAの前を通った時は、ガランとした店内をチラッと覗きながら走り幅跳びのようにジャーンプ。
   そんな調子でKUMOの5メートル手前まで来た。

   「ねぇ」突然肩を叩かれた。
   ステップを止め振り向くとお姉様が立っている。
   「!?」
   「あなたよね?SORAのバイトさんは。」
   「そ、そうですっっ」ろれつの回らぬ舌を必死に動かして答えた。
   「あなた本当に面白いわね。ビックリしちゃった、普段見かける顔のコが踊ってて。」
   あちゃー!おとなしい装いと仕草で勝負かけようと思ってたのに…
   香代が落ち込む隣でお姉様は乾いた笑い声をあげる。
   なんで私っていっつもこうなんだろう…

   「ねぇ、自己紹介まだよね。お名前は?」
   「香代です。香りに代わるって書いて…」
   もう胸がバクバクだ。
   「そう、私はバーバラ。父がインド生まれでね、英語名なの。でも黄色人種には変わりないわ。」
   クスっと笑う表情を見るとキュンとしてしまう。
   そっかぁ、だから目鼻立ちがハッキリしてるんだ…。

   ボーッとしてると、お姉様がKUMOへ歩いていくのが見えた。


































































































































































































































































     ≪END≫

     ***********************************************************************************

     ☆執筆後記☆

     人生こんなに上手くいきませんよね(苦笑)




♪随時、追加・書き足していきます♪

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