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第一章   光輝舞う


「だからあ、どーして俺たちがこおおんなことしなくちゃなんないんだ!?」
「仕方ないですね。あの人の命令なんですから」
「そうそう!」
「あのなあっ」

 こんなこととはバケモノ退治のことである。
 兄弟たちに言われてもまだ納得できず、次男 四方道(しほうどう) 翼(よく)は不満そうだ。
 まだ、言うかと長男 四方道 仁(じん)はあきれる。
 三男 四方道 貴(たか)はすでに完全無視。

「うう……隆(りゅう)だけは分かってくれるよなあ〜」
 そうら来たっと隆は身構えた。
「いまさら、言ってもどうにもならないと思うけど?」
 くうっ、と翼はうなる。
「翼兄、それより前」
 ん? と翼は振り向き、次の瞬間、拳を繰り出した。
 ドゴッ! 拳はまともに直撃する。
「ああっ〜、うっとおしいッ!」
「こんな時に不平不満をいうからですよ」

 そう、今は俗に言う戦闘時である。
 緊張感のかけらもない会話に隆は脱力感をおぼえた。
 しかし、この余裕の訳は知ってるので口には出さない。
「まあ、確かにいい加減あきてきましたからね。そろそろ、仕上げといきましょうか。翼、やりますよ。隆は守りの方をたのみます」
 仁に言われて隆はうなずき、かまえた。
「貴は……分かってますね」
 雑魚を操っている奴を引きずり出した直後の攻撃を。
 貴はニコッと笑った。
「OKッ! まかせてっ」

「では――……『我が名において命ずる 古えよりの盟約 我が望みを叶えよ』」
 ザザ――ッと風が起こる。
「『我が名において命ずる 古えよりの盟約 我が望みを叶えよ 汝ら 我が下に集いて 浄化の炎よ 踊れ』」
 仁に続いて翼も呪文を呟く。仁の周りを囲むように紅蓮の炎が生まれた。
「『この世に 息づく風よ 汝らの力をもちいて 我が命に従え』」
 続く仁の言葉に風が一層強くなり、紅蓮の炎を巻き上げた。
 翼は腕を振り下ろし、大きくなぎ払う。

 ゴオォ――ッ!! ジュワッッ!

 あっという間に周りに群がっていた低級妖魔たちは塵と化した。
 ザンッ!!
 地が割れるような音がして、ハッと仁と翼は振り向いた。
 そこに女が立っていた。
 ハアハアハア。息が荒い。
 四人の視線に気づき、女はギンッとにらむ。
「これは、また美人のお出ましと来たか」
 翼が感嘆の声を漏らした。
「おのれ……、貴様ら、よくも、よくも……私の配下をッ!! 人間風情が、私をこけにしてくれたな!」
 女は迫力のある表情で叫ぶ。
「しゃーねえんだよ。俺だって好きこのんでやってるわけじゃない」
「おや、そうだったんですか。そのわりに積極的だったようですが」
「じぃぃんにぃい〜」

 ああ、せっかくの緊張感がだいなし……。
 隆はガクッとする。
 クスクス……。鈴が転がるような笑い声。
 ハッとみんなが声のした方を見る。
 さっきまで誰もいなかったはずの壁の上に同じくらいの齢の少女が座っていた。
「なっ……!?」
「馬鹿な……一体、いつ?」

 その場にいたすべての人の驚愕の眼差しに気づき、少女は微笑んだ。
「ごめんなさい。あまりにも、たのしそうな会話だったものですから」
 軽やかに少女は壁から飛び降りた。
 サラサラ……と長い髪が流れる。
 隆は少女の周りに輝く純粋な白銀の月の光のような光輝を見た。

 え――――?

「申し訳ないけど、ここは延いてくれません? 私、あの人に聞きたいことがあるんです」
 少女は毅然とした態度で言い切る。澄んだ綺麗な瞳に強い光りが輝いていた。
 少女は綺麗で秀麗な顔立ちをしていて、癖のない黒髪を腰より長く伸ばしていた。
 全員が何も言えないでいると、沈黙を肯定ととったのか少女は振り返り、妖魔族の女に向き合った。

「……幻妖玉女(げんようぎょくにょ)はどこにいるのですか?」

 バッ! と女は身をひきかけるが、それはできずに終わった。
 女の肩にいつのまにか青銀の鷹が止まり、その鋭い爪は首もとにあてられていた。
「! ……何のことだか」
「嘘はいけないわ。あなたは知っているはずよ? まさか、忘れたなんてことはないわよね? 彼女はあなたたちの女王なのだから……」
 恐れを含んだ声で女は答えた。
「……知らぬ。我が知る訳ないだろう。――三影将(さんえいしょう)の方々ですら判らぬものを……」
 三影将――幻妖玉女の忠臣の強大な力を持つ妖魔三人衆。

 くすくす……と少女は嬉しそうに笑った。
 場違いな柔らかな笑み。
「そう……では、玉女が復活するのは間違いないのね」
「なっ! 貴様!?」
「――玉女がどこにいるのかは判らない、だけど、いないわけじゃない。そういうことだわ……」
 カッと女妖魔が激怒する。
「おのれっ! 謀ったな!」
 シャッッッア! 怒りを込めて妖魔が力を放つ。
「あっ!」
 隆は息を飲む。しかし、事態は思わぬ方向に進んだ。
 肩に乗っていた青銀の鷹が妖魔を切り裂いたのだ。
「ギ、ギャアアアアアァ――――」
 女妖魔の絶叫が響いた。

「信じられぬ。何故、我が敗れる……?」
 少女は少し傷むように微笑み、答えた。
「申し訳ありません……。あなたが私に危害を加えようとしなければ、銀は力を奮わなかったんですけど――」
 ぐ……と女妖魔はかすかに呻き、そして消滅した。
 ふうぅと少女が息をついたとき。

「あなたは何者です?」
 背後から、声を掛けられて少女は振り向く。
 光りが舞った。
「さぁ……、知らないわ。私は私でしかないし、私は『私』という存在しか知らないもの。だから――、私は自分が何者かなんて知らないわ――」
 警戒した仁の台詞に少女は見事に答えた。
 仁が絶句していると、少女は立ち去ろうとした。
「あ、あのっ」
 隆の声に皆が本人を見る。
「あの、どうも……ありがとう。僕、四方道 隆っていいます。え、と……?」
 少女はにっこりと微笑んだ。
 え――――? 今の……?
「ひさき。私の名は妃咲というのよ」
「妃咲さん、本当にありがとう」
 妃咲はうなずくように微笑んで立ち去った。

■    ■    ■

「それで……逃げられたというわけですか」
 わずかに困ったような響きを含んだ美声で美しい青年は言った。
「うぅう〜……そうなるのかな」
 ひるみながら翼は答えた。
「……そんなにおびえなくても」
 取って食べるわけじゃ、あるまいし。
 青年――葵(あおい)は翼の反応に苦笑した。

 乙夜橋(いつやばし) 葵。乙夜橋家の若き当主であり、煌珠王の現世の存在である人。
 世界は次元を挟んで三つ存在する。
 妖魔たちが巣くう闇の世界――妖幻界、神精族が住まう光の世界――天上界、そして、自分たち人間がいる世界――物質界。
 彼は天上界の神精族の王なのだ。
 そして、隆たちは彼に仕えてたという四人の現世の姿らしい。
 らしいというのは自分たちはその時の記憶がないからだ。葵にはあるらしいだが……。

「その女性が幻妖玉女の存在を知っていたとしたら?」
 仁の言葉に葵の表情がなくなる。
「知っていた? それは――」
「敵、とは言い切れません。妖魔を撃ったことですし――しかし、味方でもないでしょう」
「で、でも、敵意はなかったよ。邪気もなかった、悪い人じゃないよ」
 隆はあわてて妃咲をかばった。

「――そうなると、困ったな。情報がないことには調査もできない」
「名前は分かってます。彼女の名前は妃咲、です。隆が聞き出しました」
「聞き出すなんて、教えてくれたんだよ」
 隆が律義に訂正する。
 くすり。葵は小さな笑み浮かべた。
「それは……さすがだね」
 あ――。
「そっか、葵さんだったんだ……」
「え?」
「あ、妃咲さん、誰かに似てるなと思ってたんだけどそれって葵さんだったんだ」
「似てるぅう〜? そっかあ?」
 翼は首をかしげた。
「なんて言ったらいいのかな? 姿とじゃなくて、そう――周りの空気がすっごく綺麗で澄んでいて、研ぎ澄ませてるような感じで」
 そして、葵さんは強い鮮烈な光で妃咲さんは儚く淡い不思議な透明感のある光という違いはあるけど清浄な輝きは同じで。
「似ている」

 それは、まるでその存在自体が。

 え――? まさか、そんなわけない。
「隆?」
 仁が眉をひそめて呼びかけた。
「ううん、なんでもない。なんでも……」




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