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愛飲酒多飲様の詩











◇◆◇「幕舎の祈り」◇◆◇


波の音は黄昏に包まれて静まり

竈を砂に埋めて仰げばはや朧月

銀の漣は水平遥か金色に溶けて

波間を舞う幾千のウミネコの声


凪ぎを余所に豊浜の海辺の岩に

何を啼くのかウミネコに問えば

頭を垂れて啄ばむ歌は鎮魂の歌

哀しき歌は遥か残光の空を翔る


波寄せ返す砂浜をそぞろ行けば

月は昇りて満天に散りばむ星影

星の煌きに過ぎし日を想いつゝ

水平線を見やれば烏賊釣船の灯


戯れに貝殻を拾いて幕舎に戻り

ランプに翳せばほむらは揺れる

揺れるに合わせて枕に響く音は

隧道を伝う崩落の涙のしたたり


天空に煌く川よ凪ぎの日本海よ

潮騒に一夜の安寧を求めし人よ

寄せ返す波と星の瞬きにのせて

厳かに歌おう鎮魂のこのうたを





◇◆◇「夏は逝く」◇◆◇


見上げればもはや天は高く

南からの風も肌に心地良し

裏の石段に廻り出てみれば

植垣の辺りに漂う濃緑の漣

葱坊主ひとつ佇んで陰長し


頂点まで昇り詰めし太陽の

軌道の位置に来し方を訪ね

在りし日の想い出に浸れば

ああ父よ母よと唇は叫びて

萎んだる葱の花に俤は暫し


春風は扉を開くが如く来て

匂い仄かに頬を打つ縦の波

秋風は拡がる横波の巻絨毯

春と夏の思い出を敷き包む

濃緑と黄と緋との葛織絨毯


地上の全てを覆い尽くして

葛織の色模様は純白の冬へ

雄々しき自然は粛然と巡り

どの色の糸を手繰ろうかは

想い出に寄せるあなた次第





◇◆◇「贋物」◇◆◇


人類の歴史は文化の集積

文化は感性と知識との合作

何かがひとの感性を触発し

斬新な考えをイメージしても

それはまだ予感だけの存在


考えと考えとが一致したとき

感性と感性とも共感し合って

初めて知識と呼ぶに相応しい

予感と予感との共鳴故の知識

知識は共有されてこその存在


声高に知識を如何に誇れども

共感のない知識は贋物だろう

卓越した閃きはいつか顕れて

従来の生活を変えるけれども

贋物は只管に披露を望むだけ


受け売りの知識に過ぎぬ物を

己の頭蓋の坩堝で攪拌した後

例えば純金に紛う知識を得ても

胸に慢心あれば鍍金は剥げる

怪し人前に知識かざすこそ怪し





◇◆◇「楽園」◇◆◇


希望の如何を訪ぬれば、形あるもの全てを拒みし君

寂しさを隠して明るさを懸命に装った無垢な姿こそ

げに床しき振る舞いにして我が胸いとど打ち震えん

漆黒のまなざしの底に映りしは汚れ無き君の心ぞや


   現れし姿を例うとすれば鏡面に浮かびたる睡蓮の如

秘め持つ宝を例うなればトプカピに煌くエメラルド

日ごと夜ごとに交わせし言葉は遥けく夢路を越えて

流離いゆかん君の名を呼べば木霊よ響け山峡の谷に


   嗚呼、何とせん君がくれないの唇の哀しき叫び声よ

吹きすさぶ嵐はたれの呻きか雪は舞い雷雲は翔くる

出来得れば若し出来得れば略奪の末逃避行をせむと

君と我の棲まんとす楽園はいずくそは愛の里なりき





◇◆◇「飛び石の想い」◇◆◇


手から放たれた瞬間から 意識が芽生えるのでしょうか

こんな小さな一握りの石に 意思が宿るのでしょうか


こころを自分のこころと 感づくまでのひとときを

放たれた空間に短く描く 湖面までの短い距離を

わたしの命の始まりとして 朝靄を衝いて飛ぶのです


選ばれた円平の体型が 最初に湖面を叩いたとき

静まりかえっていた水面は まだ沈むには早すぎると

穏やかに応えてくれて 跳ね返されて又飛んだのです


二回、三回と重ねて 幾度も幾度も繰り返したけれど

とうとう今力尽きて あなたの表面を裂いてしまったのです

透明の水を湛えていて 弱い冬の光線が湖底に届くまえに

わたしも沈んで行くでしょう 湖底は柔らかなあなたの胸


あなたの胸で振り返ります 放たれた頃の運命を

あなたの表面に触れるたび 鼓動を聴いたのです

鼓動がわたしを震わせて 空中に泳がせたのです


あなたの胸で振り返ります 静かな淡い光のもとで

わたしの生涯は何なのか 風を切る飛跡にあったのか

あなたの胸のこの安ぎなのか 反芻しますこの底で
 




◇◆◇「背高泡立ち草」◇◆◇


静けき凪の石狩に

沈む夕陽を焦がれしか

  黄金色に身を染むる

泡立ち草のみ知りし仲


探りあゆみし砂浜の

闇間に消える波のおと

少年の日のときめきは

寄せては返す波のおと


流るゝ風よ甘き香よ

折れに触れににし君が裾

ともに花火に火を点せば

波に両頬ぞ照り映ゆる


心に癒えぬ疵あると

  長き睫を潤ませて

語れる君の唇に

燃ゆる花火の妖しけれ

 
夢路に乱る黒髪よ

醒めて辿りし北関東

匂い優しきその胸も

白きうなじも誰がため


強く生きむと誓う身が

今宵何故又斯く悩む

思い出すまじ泡立ち草

疎ましき哉強き花





◇◆◇「シルクロード」◇◆◇
 

春爛漫の大路を吹きし風よ

なの身ぞ知る昔日の栄華を

その一煽に語らせたまえよ

見果てぬ夢の朽ちた由来を

楼蘭の都に匂いし花の名を


富を運びし人の夢と希望を

遙か辿らん大路に残る跡に

一片の瓦礫に全てをとどめ

東西を翔けし欲望は何処か

往時の人の踏みしは此処か


砂漠の空を染めなす黄砂に

訊ねて知るは人の世の儚さ

逆巻く砂塵に立つ虹は幻か

石塊の篆刻の溝の紅は消え

潰えぬ欲望のみぎわも哀し





◇◆◇「ぼくらは何処へ」◇◆◇
 

砂浜に転がって空を仰げば

ゆっくりと流れる白いくも

一体何処から来て何処に行くんだろ

ゆっくりと流れながらどんどんと形を変えて

西から東と円い軌跡を残しながら

くっついたり離れたり


オヌシを大きな方に乗せ

ワシは千切れた後ろに乗って

海原遠く旅に出よう

何処までも続く水平線は

雲の上から弧に見えるだろうか


七つの海を眼下に見て

オヌシに何の話をすればいい?

いのちを育んだ母なる海の

空と繋がる遥かに結ぶ

オヌシとワシとで架ける虹橋





◇◆◇「リンドウの紫に想いて」◇◆◇
 

北国にも初夏が訪れて

森の緑は日々に深まり

荒き肌の楡の葉陰濃く

小径を行けば郭公の声


耳に響く鳥の声余所に

趣くままに心たゆとえば

思いは馳せる愛の里へ

君が胸打つ声何ならん


幹を分けて笹を漕げば

踵の脇に咲く竜胆の紫

紫に誘わる想い遙かに

紫苑に佇む影を追わん