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昭彦の愛




<16>〜<20>









































<*16*>
「北風の吹く日」
<*16*>「北風の吹く日」

 昭彦は夕食用のロールキャベツを煮詰めながら、遅い子猫を待っていた。今日は朝から冷たい風が吹き付ける日だった。
 トントン。
 軽いノックの音で子猫とわかる。
「はぅ…寒かったぁ…」
子猫が頬と鼻を赤くして部屋に入ってくる。
「遅かったやないかぁ?」
昭彦はレンジの火を止めると、子猫が靴を脱ぎきらないうちに、腰に手を回して抱き寄せ、キスをした。
 レロレロと舌を絡めてから、
「唇まで冷え切ってぇ・・・」
と、舐めて温めるように何度も子猫の唇を覆うようにキスをする。
「…ん、、、…また学校休んじゃったから、期末までは毎日補習だって…」
子猫は昭彦のキスに頬を染めて言うと、服を着替える為に襖の向こうの部屋へと入って行った。
 部屋は暖かく、しかも真新しいシーツが敷かれた布団が出ていた。
「やけに熱心な学校やなぁ。」
 これまで子猫が服を着替える時に、こっちの部屋へは入らなかった昭彦が入ってきた。
 もうすっかり裸の全身を見られているのだから、恥ずかしがるのも変だったが、見られる中で着替えるのは緊張してしまう。
 子猫がもたつきながら制服を脱ぐのを、昭彦はハンガーにかけて手伝ってやった。
 そして、子猫が下着だけになると、
「服着る前に、ええことしよなぁ。」
と、そのまま布団に子猫を押し倒した。
 下着を脱がせてすっかり裸にし、
「かなり痛みは引いたやろ?」
と、子猫の秘部を点検する。
 子猫は目を閉じて爪を噛みながら恥ずかしさに耐えて、昭彦のチェックが終わるのを待っていた。
「爪は噛んだらあかんで。」
昭彦の声がすぐ近くで聞こえ、子猫が目を開けると、また唇を重ねてきて子猫の舌を絡め取るように吸ってきた。
 子猫にキスをしながら昭彦も服を脱ぎ、恐ろしげな彫り物が姿を現すと、子猫を胸に包み込むように抱いた。
「昨夜はよく寝れたやろ?」
子猫の前髪を撫であげて、優しく囁く。
「…うん。…なんか家に着いた途端に眠くなって…」
子猫が甘えるように答えると、昭彦は笑みを浮かべて頷き、額にキスをした。
 調度ええ具合に効いたようやな。
 昭彦はハーブも利用した料理の結果に満足し、愛おしげに子猫の頬や顎を指先で撫でた。
「体はもう痛ぁないやろ?」
と、続けて聞かれた子猫は、
「…まだ…ちょっと…」
と、視線を逸らせて恥ずかしそうに答えた。
「ちょっとくらいは我慢せな・・な?」
「…うん…」
「ん、ええ子や。」
昭彦の掌が子猫のふっくらとした胸を揉む。
「…ぁ…ぁ、、、ん、、ん…」
乳輪から乳首の先端へと舌先でくすぐられ、子猫は体中に走る電流に仰け反ってしまう。
 ついさっきまで制服に身を包み、学年末のテストに頭を悩ませていたことが、違う世界のことのように遠退いていく。
 冷たい北風も昭彦の肌の温もりが忘れさせてくれる。
「もっとたっぷり時間をかけて愛撫したりたいんやけど、今夜は仕事に出なならんでのう。・・ちょっとでも長く繋がっていたいで、入れるな?」
そう言うと、子猫が適度に濡れてきた所で、昭彦はそそり立つ肉棒を子猫の中へと挿入してきた。
「ああぁぁぁぁ…あぁぁ…ん…」
子猫は切なく喘ぎ声をあげる。
 昭彦は根元まで深々と抉り込むと、
「子猫・・・お前の中にわしがおるのがわかるやろ?」
と、耳元に熱い息で囁いた。
「…ぁぅ…う、、ん。…わ、、かる、、…」
はにかんで答える子猫の体は、言葉以上に素直に反応するようで、肉棒をきつく締め上げていた。
「くっっ・・・よう締まるおめこやなぁ・・・」
昭彦はたまらないとばかりに身震いして腰を数回動かした。
「ぁ、、ぁぁ、、、昭彦ぉ…んー…」
「まだ痛いか?」
「…うん…猫…が…はちきれちゃうよぉ…」
「奥が当たって痛いやろ?」
「…うん…」
「けど、子猫の奥は深くて・・・ええ気持ちやでぇ。」
昭彦に目を覗き込まれて、子猫は拗ねたように睫毛を瞬かせ、またキュゥゥゥーーッッと締め付けた。
「うぅっ・・・はぁぁ・・・ホンマたまらんで・・・」
昭彦はまた立て続けに子猫を突き上げた。
 子猫が痛みに眉を寄せ、閉じた目に涙を滲ませる。
「あぁぁ…ぁぁん…ぁぁぁん…ぅ、、ぅぅ、、、…」
「ええ子やで・・・泣かんで我慢しぃや。」
「…ぅぅ、、、だって、、、…ぁぁ…ぁぁぁん…」
昭彦は子猫にキスをして口を塞ぐと、しっかりと抱き締めて、激しく突き上げた。
「…ん、、、…ぅ、、、ん、、、ぅぅ、、、…」
子猫は大きく仰け反って頭のてっぺんまで突き抜ける快感に痺れた。
「ぅー…ぁふっ、、、…はぁはぁはぁ…はぁはぁ…」
子猫が荒い息で不足していた酸素を補給する。うすうらと開けた睫毛が涙で濡れている。
「感じたやろ?」
「…う、、ん、、…でも…はぁはぁ…息苦しくて…目眩がしちゃう…」
子猫は鼻にかかった弱々しい声で泣きそうに言う。
「せやったか・・・。そしたら子猫が泣かんようになるまでは、今のはお預けやな。鼻水垂らしちょったら口でしか息が出来んでなぁ。」
昭彦が苦笑してそう言ったので、子猫はクスンと鼻を鳴らして拗ねた顔になった。
 しもうた。調子に乗り過ぎたわ。
 昭彦は宥めるように顔中にキスを降らせて、
「ゆっくり感じさせたるでな。ちゃんとわしにつかまっちょるんやで。」
と子猫を抱きすくめた状態で、優しく腰を動かし始めた。

 セーブしていても、昭彦も頂点では抑えきれずに、よがりながら啜り泣く子猫を激しく突き上げてしまう。
「あぁぁぁぁ、、、あぁっ、、あぁぁっ、、んん、、、」
「いくでぇ、子猫!・・・はぁはぁ・・・わしの全てを子猫の中に注ぎ込んだる!」
「ぅぅ、、、うん、、、ゥックッ、、、猫を…あきで…いっぱいにしてぇ、、、」
「ええ子やでぇ・・・うぅぅぅぅ、、、あぁぁぁぁぁぁ、、、はぅぅぅっっっ、、、」
「あぁぁぁ、、、ぁぁぁ、、、…はぁぁ、、、…はぁはぁはぁ…」
昭彦の動きが止まり、しばらくそのまま肩で息をしてから大きく深呼吸すると、静かに子猫から体を離した。
 子猫はのぼせたように目眩を感じ、ぐったりとしていた。
 狂おしいほどの痛みは引いていったが、ジーンと痺れる感覚に支配されている。
 よく船から降りても揺れを体が感じるように、今の子猫もまだ熱い陶酔の朦朧とした意識の中にいた。
「また薬塗っといたるでな。」
昭彦が力の抜けている子猫の両足を、膝を曲げて大きく開く。
 昭彦が最も深い所で迸らせた白いミルクが、とろぉりと溢れてくる。
 可愛いなぁ・・・。
 昭彦はこれまで中に出すという行為はほとんどしたことがなかった。万が一自分の遺伝子を受け継いだ子供が出来たらと思うとぞっとした。
 それに、子供まで”魔物”と不気味がられて苦しむとしたら、自分の苦しみを再び重ねるようで嫌だったのだ。
 だが、子猫には何故か生ませてみたかった。
 子供という絆が欲しいこともあったが、子猫の異質の”魔性”と組合わさったら、あるいは別の新しい生き物が生まれるかも知れない、などと興味もあった。
 とは言っても、何より子猫のふんわりした、悪く言ってしまえば天然ボケの遺伝子が昭彦の強烈過ぎると自覚する性格を中和してくれるように思えたのだ。
「ちょっとヒヤッとするけど怖ぁないで。」
昭彦は、昨日何度もミルクの溢れ出す子猫の花弁をティッシュで拭き取りながら、そのティッシュの感触が気に入らなかった。
 それで考えついたのが、赤ちゃん用のお尻拭きだった。
 厚手で柔らかく、しかも清潔なので調度良かった。
「…なに…?」
子猫が潤んだ目で昭彦の側にある箱を不思議そうに見た。
「厚手のウェットティシューや。」
昭彦は丁寧に子猫の花弁を拭きながら言う。
「…赤ちゃん用って…」
子猫は箱の文字を見てそれに気付くと、顔を真っ赤にし、それまでされるままになっていた足を閉じようとした。
「こら。まだ薬塗ってへんやろが。おとなしくしときや。」
「…だってぇ…んー…恥ずかしいもぉん…」
「なんも恥ずかしいことあるかい。子猫はわしにとって可愛さは赤ん坊以上やで。・・・そのうちおむつも試したろか・・・」
昭彦がにやっとして言うので、
「やぁ〜ん…」
と子猫が両手で顔を覆った。
「ええがなぁ・・クックックッ。子猫にはよう似合いそうやでぇ?」
「…ぅー…猫は赤ちゃんじゃなぁーい…」
「わしから見れば赤ん坊みたいなもんやで。せやから歳に見合ったように扱っちょるんやないかぁ?・・・これからわしがちょっとっつ大人にしたるで・・・背伸びせんで、今のマンマわしに見したらええんや。」
そう言って優しく笑った昭彦は、特製の薬をとって塗ってやった。
「どや?・・スーッと痛みが引くやろ?」
「…まだ…よくわかんない…」
子猫のジンジン痺れて熱をもった部分は、別の生き物のようにビクビクとヒクついている。
「昨日みたいに何度も塗り直してやれんで、今夜は風呂は禁止や。」
「…え…うっそぉー…やぁぁ…」
「それにこない寒い日に風呂入ってから外出たら、また風邪引いてまうやろ?・・バスやと待つ時間もあるし、夜道を歩かなならんでの。・・・明日は泊まれるようにして来たらええ。そしたらゆっくり出来るで。」
「え?…泊まっていいの?」
「その方がわしには安心や。」
「…でも…週末じゃないのに…」
「無理強いするつもりはないけどな・・・」
 昭彦は子猫の家の様子を知ってから、モラルや世間の常識にこだわって付き合うのはやめることにしたのだ。
 自分のやくざな世界から極力遠ざけようと、世間並みの付き合いを心掛けてきたが、そうした常識やモラルが子猫を守ってくれはしないのだと思い知らされた。
 ひとりで泣かせたない。泣くんやったら、わしの胸で泣かしたる。
「子猫はどうしたいねん?」
昭彦が子猫の顔に顔を近付け、目を見つめながら聞いた。
 子猫は嬉しそうに涙ぐんで、
「泊まるぅー!」
と、昭彦の首に腕を回して抱きついた。
 優しくされることに慣れてない子猫はうれしくてもすぐに泣いてしまう。
 首にしがみついて泣きじゃくる子猫を、昭彦は大事そうに抱き包み、髪に頬ずりをした。
「これからはいつでもわしがおるんやで。」
「うん…グシュ…」
「離れている時でも、わしは子猫の中におるんや。」
「うん…ヒック…」
「ずっとずっと一緒やで。」
「うん…クフン…」
「もう、ひとりで泣いたらあかん。泣きたなったら、わしを待って、わしの胸で泣くんやで?・・ええな?」
「うん…」
「ええ子やでぇ・・・ホンマ可愛い子や・・・」
昭彦は子猫にとろけるようなキスをする。子猫の口の中で舌を転がして口の中を愛撫してやるのだ。
 子猫はぱふぱふと溺れるように息継ぎをする。
 そんな仕草さえ愛しくて、昭彦は再び欲情していたが、今夜はどうしても出掛けなければならない用事があった。
「・・・もう出掛ける支度せなならんのや。」
「…うん…」
子猫は小さく頷いたが、急に寂しそうな表情になる。
「明日はゆっくりしよな?」
「…うん。」
抱いてやりたい気持ちをどうにか堪えて、昭彦は子猫を布団に寝かしつけた。
「少し眠って休むとええ。それから、料理を温めなおして、体を中から暖めてから帰るんやで?」
「…ぁぃ…」
子猫は寂しげな顔を見られたくなくて布団で顔を隠した。
 昭彦はフッと笑みを洩らし、布団からのぞいている額にキスをした。

<*17*>
「猫」
<*17*>「猫」

 支度をした昭彦がアパートから出てくると、スーッと黒塗りの車が近付いてきた。
 昭彦は車に乗り込むと、
「ご苦労様。」
と言った。
「なかなか出て来られないので心配しました。」
と言った運転手はマサの組の若衆だった。
 昭彦がマスターをしている店はアパートから歩いて10分ほどで、車に乗るほどの距離ではない。
 子猫には言わなかったが、昭彦は今夜マサの所で客に会う予定があったのだ。
「可愛い子とおると時間がいくらあっても足りんでのう。」
「それはそうでしょうが・・・」
若衆は苦笑してから、真面目な顔に戻って、
「親っさんが難しい顔をしてましたし、時間に遅れると煩い相手かと・・・」
と声を低くして言った。
「クックッ・・・昔からの知り合いやで、気ぃ使う相手やあらへん。」
昭彦は忍び笑いを洩らすと、携帯を取り出し、マサに電話した。
「おう、わしや。・・・今、向かってるとこや。遅れて済まんの。・・・来ちょるんか?・・・クックックッ。不機嫌な顔が普通の奴やで、気にすることないねや。ま、甘いココアでも出しとけば機嫌ええやろ。・・・ククッ。それはホンマやで。・・・うん。そやな。・・・ほな、後で。」
電話を切った昭彦は携帯をしまおうとして、ふと、アパートにかけてみようか、と思ったが、眠っているかも知れない子猫を起こすのも可哀想に思えて諦めた。
 やっぱりタクシー呼んで帰るように言うた方が良かったな・・・
 昭彦は腕組みをして眉を曇らせた。
 これまでも、夜遅くに子猫ひとりで帰るのは普通にしていたことだったし、干渉しすぎても、と認めてきたことだったが、昭彦に抱かれた子猫は妖艶な魅力を増しているように思えた。
 顔つきや表情や言葉といったものは、あどけないままだったが、一晩離れて、アパートに来た子猫を見た瞬間、雰囲気が変わっていることに気付いたのだ。
 早春に綻び始めた梅の花のように、ほのかに甘く匂い立つ色気をまとっていた。
 男がそそられんわけがない・・・
 昭彦は舌打ちをすると、一度しまった携帯電話を戻し、もう一度マサにかけた。
「わしやけどな、・・・いや、別の頼みや。・・・子猫が今わしの部屋におるんやけどな、遅うなって家に帰るで、気付かれんようにガードして欲しいねや。・・・ああ、バスで帰っちょるで心配やねん。・・・そっちいってから頼むと客人に聞かれても困るでのう。・・・タクシー使えて言うてやりたいが、度重なると小遣いが足らんようになるやろ。・・・小遣い渡したりたいけど、、、傷つきかねんしのう。・・・そや、、、ちっこくてもプライドは高い子やで。・・・ああ、頼むわ。・・・うん、ほな。」
電話を切った昭彦はフゥッとため息をついた。
「本当に大事にされてるんですね。」
「そらそうや。惚れた相手は大事にせな、生きる価値がないで。」
「そうっすねぇ・・・そこまで惚れる相手に出会えるのも・・・なかなかないっすけど・・・」
「自分はいくつや?」
「26っす。」
「まぁだ若いやないかぁ。これからやで。・・わしもこの歳でようやっと見つけたんや。」
「ドクターはモテるじゃないですか。」
「パズルのようなものかも知れん。わしの心の空白に、ぴったりはまる相手はたった一人や。・・・ま、そう思わせる女に出会うことやな。」
「はぁ・・・」
若衆はわかったような、わからないような、曖昧な返事をした。
 昭彦はフッと笑みを浮かべた後、窓の外を流れる夜の町並みへと視線を向けた。

 山神組系東竜会:岡田組。
 小さいながらも、マサの所帯である。
 街の中心からは少し離れた、倉庫や資材置き場の多い地区の一角にあった。
「待たせたのう。」
昭彦が事務所に入ると、一階で待っていたマサがほっとしたような顔で、
「どうもあの男は苦手ですわ。」
と肩をすくめてみせた。
「どや?ココアは気に入ったやろ?」
「ようわかりまへんわ。まあ、お茶やコーヒーには手ぇつけへんかったんを、ココアはすぐに手を出したっちゅうとこを見ると、好きなんかも知れまへんけど・・・あのムスッとした顔では、何考えちょるんか、さっぱりでっせ。」
「冥龍は周凰明の人形やで、考えを読むこともないわ。クックックッ。そう思っちょれば気が楽やろ?」
「感情もなく、動く人形でっか?・・・それもぞっとしまんなぁ。」
「けど、ああ見えて、わしより人間味のある奴なんやけどな。」
「ほう?・・・どないなとこでっしゃろ?」
「そのうち教えたる。」
昭彦は含み笑いをして二階の応接室へと向かった。
 マサははて?と首を傾げたが、慌てて昭彦の後に従った。

 昭彦が組長室の向かいにある応接室に入ると、二人の男がソファーから立ち上がった。
『懐かしいなぁ、冥龍。まさか君本人がわざわざここまで来てくれるとは思ってなかったよ。』
昭彦が中国語で話しかけると、
「お久しぶりです。・・白虎。」
と、冥龍が日本語で挨拶を返した。
「私が伺うと申し上げたはずですが。」
「ああ・・・冗談かと思うたんや。」
冥龍がムッと眉を寄せる。
 昭彦はクスッと笑って向かい側のソファーに座り、マサにも座るように合図した。
「それにしても、随分流暢な日本語やなぁ?・・・そないわしに文句を言いたかったんか?」
「そうですね。」
冥龍が目を眇めて昭彦を睨むが、昭彦は頓着しない様子で笑みを浮かべたままだった。
 マサは中国で会った時も、今日訪ねて来てからも、冥龍の冷気をまとった雰囲気に圧倒され、冥龍が日本語で話すにもかかわらず、言葉が出てこなかったのを思うと、昭彦の態度が不思議に思えた。
「なら、聞いたるで、何か文句を言うてみ。」
「・・・今日伺うと申し上げたのは私ですが、場所と時間を指定されたのはあなたです、白虎。遅れるとは心掛けが悪いですね。」
「そやったな。そら悪かったわ。」
昭彦はあっさりと謝ってから、クスクスと笑い出した。
「なんや、苦労して覚えたのに、そないな文句しか言えへんのんかぁ?大阪弁を習うたらよかったで。」
「・・・あなたに文句を言う為だけに習った訳ではないので。」
「動機はそれなんやろ?目的をはっきりしないから中途半端になるんやでぇ。」
冥龍の氷のように冷たい眼差しが一層冷たく光る。
 マサは商談の相手をこれほど怒らせる昭彦にハラハラしながらも、口出し出来ずにいた。
 その様子に気付いた昭彦が、
「冥龍は昔わしが中国に行ってた時、中国語で文句ばかり言うてたんや。」
と、説明を始めた。
「せやから、言うてやったんや。わしは冥龍の文句を聞く為に中国語を習った訳やない。学ぶ為に覚えたんやさかい学べる言葉しか聞く気はない。わしが中国語を知らんかったら、冥龍がいくら文句を言うてもただの独り言やろ。相手に伝えたいことがあるなら、相手の言葉を理解してその言葉で言うたらええ。っちゅうたんや。」
マサはなるほど、と頷いたものの、
「そら、ドクターは語学が堪能でっさかい言えることでんがな。わてにはとても無理だっせ。」
と苦笑した。
「マサは文句を言う性格やないで必要ないやろ。わしへの小言は大阪弁で充分通じるでの。クックックッ。」
「そない冗談ばかり言うとって・・・お客人を怒らせるのはあかんでっしゃろ。」
「怒っちょらんやろ。・・のう、冥龍?」
昭彦は自分より5歳年上の冥龍にそう言って笑いかけた。
「・・・さぁ。」
冥龍は不機嫌そうに片眉を上げた。
「ただ、あなたを怒らせるなと、ボスの絶対命令ですので、私のことはどうでもいいのです、白虎。」
「ふん・・・相変わらずやなぁ・・・律儀なもんやで。」
「他の生き方がわからないもので。」
「猫とのんびり日向ぼっこする暮らしもええもんやで?」
冥龍がビクッとした顔をする。
「クックックッ。・・猫嫌いも相変わらずなんか。」
「その言葉を二度と言わないで頂きたい。・・私には構わず、仕事の話を進めてください。今夜中に横浜に戻らなければいけないので、早く用事を済ませたいのです。」
「ゆっくり出来んのか?田舎料理でも御馳走しようと思うちょったのに残念やなぁ。」
「申し訳ありません。また、時間のある時に・・・」
「うん。ええわ。・・・ほな、荷物を見して貰うとしよう。」
「はい。」
冥龍は隣りの男に中国語で指示をしてバッグをテーブルの上に置かせた。

 最初の物を確認した昭彦は、
「さすが白龍の扱う物は最高級やな。・・ええやろ。代金は後で振り込んどけばええんやったな?」
と満足そうに頷いた。
「九龍が信用取引をするのは珍しいことですが、白虎では仕方ないと白龍も申しておりました。」
「感謝してるで。大人(タイジン)にもそう伝えてや。」
「承知しました。」
冥龍は無表情、というか、端からみると不機嫌そうな顔で頷くと、
「では、別の頼まれた物を・・・」
と、また隣りの男に指示をした。
 マサが最初の物を組長室の金庫にしまってくる間に、昭彦は別の物を確認していた。
 数十種類はあると思える粉や乾燥した小さな塊を、口に含んで確かめている。
「漢方薬でっか?」
マサは粉が飛ばないように、そっと昭彦の隣りに座り直すと、昭彦の口元を気がかりそうに見た。
 そもそも昭彦が体を壊したのも、こうして怪しげな薬を試すせいだと、マサは思っていたので、心配でたまらなかったのだ。
「・・・ぎょーさん、あるもんでんなぁ。」
「まだまだ、一部やで。取り敢えず必要なんを頼んだんや。」
「わてが買うてきたのでは足りまへんか?」
「いや、マサには頼めん物ばかりやでの。輸入が禁止されちょる物は頼めんやろ。・・後は稀少過ぎて流通に乗らない物もあるで、あれとは別なんや。」
「・・・そないに危ない薬でっか?」
「時にはさじ加減で良薬にもなれば劇薬にもなるっちゅう物もあるけど、ここにあるんはそれほど危険な物はないで。」
「ホンマでんな?」
「嘘言うてもしゃぁーないやろが。」
「せやけど・・・また体悪くするのではたまりまへんがな。」
「・・・心配性やなぁ・・・マサはタイガーバームっちゅう薬を知っとるやろ?・・あれかて成分に麻薬が入っちょったで長い間日本では輸入販売が禁止されちょったんや。最近になって販売されるようになったのは、その麻薬の効用を別の物で代用して日本用に作られた物なんやけどな、やっぱり効果はガタ落ちや。」
「そうなんでっかぁ・・・」
「まあ、何も知らない素人が宣伝文句だけを信じ込んで危険な薬を簡単に使用する危険性を回避する為やろけど・・・非合法でも効果の高い薬を扱いたい医者はけっこうおるんやで。」
「ほう・・・」
マサはなるほどと頷いた。
 マサと話ながらも昭彦は確認作業を進めて、全てのチェックが終わると、
「確かに、間違いないようやな。」
と冥龍に言った。
 冥龍は、
「もちろんです。もっと私共を信用して頂きたいですね。」
と、言って、初めて口元に笑みを浮かべた。
 昭彦は目を眇め、
「その笑みが一番信用出来んで、冥龍。良からぬことを策謀している時ほど嬉しそうな顔をするんは、感情が筒抜けしとるようなもんやで。」
とドスの効いた声で言った。
「・・・やっとボスからの伝言を言えそうなので、単純に喜びが出ただけです。」
「嘘や。何か企んどるやろ?」
「・・・何も。」
冥龍がムッとして睨んだので、
「ふん。まあ、ええわ。・・で、伝言てなんや?」
と昭彦は腕組みをして聞いた。
「こちらの物はボスからの贈り物だそうです。」
「ほう・・・そら助かるなぁ。相当高価なんもあるで支払いは分割にして貰うつもりやったんや。」
「それと白虎が必要とする薬ならいつでも届けるとのことです。」
「うん。電話でも、そう言うちょったけど、礼を言っていたと伝えて貰うか。」
「はい。・・・ボスもあなたの体のことを大変心配されております。一度自分の元で静養してはどうか、と。」
「クックックッ。そら遠慮するわ。浦島太郎になってもうたら大変やでのう。」
「は?・・意味がわかりませんが・・・」
「三日のつもりで行って、30年も帰って来れんようになってもうたら困るっちゅう話や。」
昭彦が黒目がちの目を妖しく光らせて、冥龍を覗き込むようにして言うと、冥龍は眉をひそめてからテーブルに視線を落とした。
「・・・ボスは白虎と末のお嬢様との縁談を考えておられます。」
「そら、あかん。わしには他に惚れとる女がおるでの。」
冥龍は、ハッと顔をあげると、まじまじと昭彦を見つめた。
「・・・知りませんでした。」
「大人にもこれは言うてなかったな。わし自身が、はっきり彼女と言い切る自信がなかったで、隠しとった訳やないけど・・・そんな訳で日本は離れへん、ちゅうといてや。」
「・・・伝えるだけは伝えますが・・・」
昭彦は表情の暗い冥龍に、
「自分が立候補したらええがな。惚れとるくせに・・・」
と言ってため息をついた。
 冥龍は苦虫を噛み潰したような顔で昭彦を睨んだ。
「ボスとお嬢様が白虎に惚れてらっしゃいますので・・・私のことはどうでもいいのです。」
「アホやなぁ・・・」
「なんとでも。」
「女は惚れられて大事にされた方が幸せやで。」
「九龍にとっても白虎は必要とボスはお考えのようです。」
「冥龍がおったら充分やないか。大人はそない言うても寂しいだけや。クックックッ。せやから、いつまでもわしなんかにこだわっとるんや。・・・けど、大事な存在は身近すぎても気付けへんことがある。・・・押しの一手で押し倒したらどうや?」
「・・・ボスをですか?」
冥龍が思いきり顔をしかめた。
「アホー・・お嬢様をや。」
昭彦が可笑しそうに笑うので、冥龍はソファーから立ち上がった。
 マサは一瞬飛びかかってくるのかと身構えたが、
「用件は全て終わったので帰らせて頂きます。」
と、冥龍が言ったので、フゥと息を吐くと、マサも立ち上がった。よく見ると、冥龍の耳が赤らんでいる。
 40歳をすぎてこの反応は、ある意味純情とも思えた。昭彦が、”わしより人間味のある奴”と言った言葉がわかるような気がして、マサはこれまで不気味だった冥龍の不機嫌さも、見方を変えれば昭彦のように”可愛い奴”と感じるのかも知れないと納得した。
「そうかぁ・・・もっとゆっくり話したいんやけど、忙しいなら仕方あらへんなぁ。」
「・・・いずれまた。」
「そやな。わざわざ足を運んでくれて嬉しかったで。」
「私も・・・あなたが思ったより元気そうなので安心しました。」
冥龍はそう言うと手を差し出した。
 昭彦はゾクッとするほど極上の微笑みで、その手を握り返した。
「私自身、あなたから教えられることは多かったのです。・・無理をしても会いに来て良かったと思っています。どうか、お元気でいてください。」
「ありがとう。わしも冥龍はええ友人と思うとる。・・まあ、喧嘩友達っちゅうとこか?」
「・・そうですね。そうしておきましょう。」
「お互い、油断は禁物やでの。」
「ええ。」
昭彦の手を離した冥龍は、マサに、
「ココアは美味しかったです。ご馳走様でした。」
と軽く頭を下げて言った。
「いやぁ・・・何も構えへんで済まんこって。」
マサは恐縮して、頭を掻きながら下げた。

 冥龍とその連れが帰っていってから、マサは気が抜けたようにソファーにぐったりともたれて、簡単ドリップで入れたコーヒーを飲んだ。
 アルコールでも飲みたいところだったが、まだ用事があって、そこまでくつろぐわけにはいかなかった。
 昭彦もマサの入れたコーヒーをゆっくりと飲みながら、次の仕事の段取りを考えていた。
「印象よりも、いい人のようでんなぁ。」
と言うマサの言葉に昭彦は、琥珀色の液体をぼんやり見ていた顔を上げた。
「冥龍か?・・・陰険な奴やで。」
「へ?」
「クックッ。少なくともいい人なんて言葉は当てはまらんで。」
「そうでっかぁ・・・」
「わしも人のことは言えんけど、お互いそれを承知しちょるで、言いたいことも言えるんやろと思うで。」
「言いたいことは、ドクターの方が多かったように思えますけど。途中あんまり遠慮がないさかい、ハラハラしましたで。」
「怒らせるくらいで調度ええんや。でないと本音も見えてきぃへんのんや。感情殺して、周の命令のままに動くよう教育されとるでのう。」
「・・・洗脳でっか?」
「洗脳される奴等もおるが、冥龍はちゃうやろなぁ。。・・少なくとも自分の意志は残っちょるでな。・・・猫が今だに苦手なんも、ココアが好きなんも、変わっとらんかったで。」
「猫が・・でっか?」
「そうや。それで向こうにいた時に、よく冥龍の布団の中に猫を入れといてやったもんや。クククッ。そん時の怒りようときたら・・・マサにも見せたかったで。おもろうてたまらんかったわ。」
「見たくもないでんがな。」
マサは片手を顔にあて、やれやれ、とばかりに顔を振った。
「冥龍はマサに似とる。・・・自分を愛せん奴やでのう。」
「・・・ほう?」
「中国の歴史は上面をなぞれば絢爛豪華でも、裏から見れば”飢え”の歴史や。・・・今かて貧しい村では飢える人達がおるほどやでのう。」
マサはうんうんと頷いた。
「冥龍が生まれた村はそれなりに食べていけた村やったが、周囲の飢饉で苦しむ者達が流れてくるだけでなく、大きな干ばつで村人の全てが飢える状況に陥ってしまったそうや。・・・そうなったら、人が人の心を維持するのは大変なもんやで。」
「・・・でっしゃろなぁ・・・」
「中華料理はあらゆる食材を使うちょるし、材料も骨から筋から血まで、無駄なく使う。」
「確かにそうでんな。」
「高級な漢方をふんだんに使うた宮廷料理から、血を固めて料理するような庶民の料理、あらゆる虫も喰うてまう物やら色々あるが、・・・最悪なのは何やと思う?」
マサは顎に手をあて、首を傾げる。
「はて・・・何でっしゃろ?」
「木の根っこを囓るくらいはまだましなんや。・・最悪なんは愛するものを喰う時やろ。」
「・・・愛するもの・・でっか?」
「中国の歴史には、その家の一番小さい子を交換し合って喰うたっちゅう過去がある。」
マサは小さい目を剥いて息を飲んだ。
「日本でも間引きやうばすてっちゅう習慣があったが、それ以上に悲惨やで。・・・せやから、中国人の生きる為の執念はすさまじいもんや。」
「・・・壮絶でんなぁ・・・」
「冥龍も可愛がってた猫を知らずに喰うてもうたそうや。」
マサはその手の話は苦手だったので顔をしかめた。
「まだ3〜4歳の頃やったそうやが、親に隠れて餌になる食べ物を運んでいたんやそうや。自分も腹が減っちょったが、半分野良の猫を大人達の目から隠すように大事に可愛がっとった。・・で、ある日、親がやけに機嫌のいい時があって、久しぶりに食卓には肉料理が出た。親は機嫌がいいし、栄養失調状態の体には肉ほど嬉しいものはない。冥龍も喜んで喰うたそうや。・・・けど、以来猫の姿が見えなくなった。・・・ある日、父親の帽子に暖かそうな毛皮がついた。それが、あの可愛がっていた猫の柄をしちょった訳や。」
「・・・そらショックでんなぁ。」
「結局冥龍自身、5歳の時、親に芸人小屋に売られたんやが、6歳で覚えたナイフ投げの腕を買われて周の元で修行するようになったらしい。」
「・・・色々ありまんな。」
「まあな。・・・その芸人小屋におった頃、小屋に野良猫がよく集まってきたそうや。客の食べ残しや投げてくれる餌をあてにしてやろうけど、まだ5歳の冥龍は失った友達の代わりを求めるように猫に近付いた。けど、猫にとったら知らん子やし、子供は何かと悪戯するで、子供嫌いの猫は多いもんや。それを知らんかったんやな、撫でようと近付いて、肉が抉れるほどひっかかれたそうや。しかも数匹の猫が怒って嵐を吹きながら幼い冥龍を取り囲むように睨んどる。きっと猫を喰うたことを猫達は知っておるんや、と泣きながら逃げ出した。・・・それがいつまでもトラウマで残っちょるんや。」
「ははぁ・・・なるほど。」
「そない言うたかて、周の元での暮らしはもっと悲惨な地獄を見る日々や。それが平気で何で今更猫を怖がる必要があんねや、とわしなら思うとこやが、・・・覚悟して受け入れるものと、無垢な幼い魂に受けた傷とは違うらしいでのう。」
「・・・それを、猫を布団に・・・は残酷でっしゃろ?」
「けど、元は猫が好きやったんやでぇ?・・・また好きになれて仲良うなれた方がええがな。」
昭彦はケロッとした顔で言う。
「・・・ホンマ・・・ドクターは恐ろしい人でんなぁ・・・」
「クックッ。・・・わしにはようわからんでな。しゃーないがな。」
「・・・それでいて、惚れた相手は命がけで大事にする。ボスの時もそうでしたけど、今度のお嬢さんには底なしになっていってまんなぁ。・・・今になってもようわからんお方ですわ。」
「マサにわからんもんは、わしにもわからん。」
「へぇへぇ、さいでんな。」
「けど・・・ククッ・・・冥龍の奴、わしが惚れとるんが”子猫”やて知ったら、どないな顔するやろの?」
「そら、思いきり嫌そうな顔するでっしゃろ。」
「やろな。そしたらもっと猫の祟りをふっかけてやるか・・・」
「穏便にしとくんなはれや。」
「”子猫”に余計な手出しは出来んくらいにしたりたいで。」
「・・・子猫はんに危険が及びまっしゃろか?」
「・・・場合によっては・・・ま、周が諦めてくれたらええけどな。」
「ドクターに惚れるとしつこいらしいですから・・・ヘッヘッヘッ。」
「アホ。笑うとる場合やないで。・・・周はホンマに怖い人やでの。」
「へぇ・・・済んまへん。」
「まあ、ええ。・・・で、今夜は大丈夫なんやろな?」
「そらもう。ちゃんと家の明かりがつくまで確認せい、ちゅうときましたで。」
「うむ。なら、ええ。」
昭彦は子猫の甘える顔を思い出し、優しい笑みを浮かべて頷いた。

<*18*>
「お預け」
<*18*>「お預け」

 朝、子猫から電話があった。
−「ごめんなさい。起こしちゃった?」
「・・いや・・・大丈夫やで。どないしたん?」
昭彦は手を伸ばしてつかんだ電話の子機を耳にあてながら、時計を見た。
 朝の7時40分。昭彦が寝てから4時間弱、まあまあ寝れた方やろ、と前髪を掻き上げた。
−「今日、泊まっていい、って言ったでしょう?」
「ああ。・・・都合悪くなったんか?」
−「ううん。ただ、学校の明日の用意とかあるし、今日も補習あるし、一度家に戻ってからアパートに行くと遅くなっちゃうと思って…」
「遅くても待っとるで、心配せんと勉強頑張りや。」
−「…うん。」
「今、学校からなんか?」
−「バス停の近くの公衆電話。…学校からは電話出来ないから…」
「・・そやろな。帰り迎えに行ったろか?」
−「ううん。…時間がはっきりしないもん。」
「そうかぁ・・・早く補習が終わるとええなぁ。」
−「…うん。」
「学校は何時から始まるんや?」
−「8時からホームルームだから…もう、行かなきゃ…」
子猫の声が寂しそうに小さく震える。
 昭彦は子猫の声を聞きながら、気付いたら股間のモノを握っていた。
「もう少し、子猫の声を聞かせてや。」
−「…え?…うーん…急に言われると何話していいか、わかんないよぉ…えっとぉ…」
「なんでもええねや。」
昭彦は目を閉じて、固くそそり立つ肉棒を握っている手をゆっくり動かす。
−「ねぇ…あきぃ…猫のこと…好き?」
「めちゃめちゃ好きやでぇ。可愛いてたまらん。」
−「きゃは…やっぱ嬉ちぃ…ふふっ…」
子猫の笑い声が耳をくすぐる。
 昭彦は肉棒を擦る手を早めて、熱い吐息を洩らす。
「はぁぁ・・・ホンマ可愛い声やなぁ。声だけでいきそうやでぇ・・・」
−「…ん?…って…昭彦…何かしてる?」
「クククッ。子猫の声を聞きながら、扱いてるだけや。」
−「あー…ズルゥーイ…」
「何がズルイねや?そしたら子猫もオナニーするか?」
−「…公衆電話だって言ってるじゃん…」
「部屋の中ならするんか?・・ククッ・・なら今度アパートで留守番してる時にさしたろか?」
−「…ぃゃン…エッチ…」
昭彦はクスクス笑って、また熱い吐息を子猫に聞こえるように電話口に吐きかけた。
−「あーん…ダメェェ…」
「何がや?」
−「猫のいないとこで、感じちゃイヤァァ…」
昭彦の手が止まる。
「・・・そない言われても・・・」
−「ダメったらダメェェェ…」
「・・・いや・・・けど、これはちと辛いで・・・」
−「…なら…学校行かないでアパートに行くぅ。」
「何言うとるんや。目の前が学校やろが・・・」
−「…だってぇ…」
子猫の声が泣きそうに愚図りだす。
「わかった。何もしない。会えるまで我慢するから・・な?」
−「…ホント?」
「ホンマや。」
−「約束する?」
「約束や。」
−「…誰かにフェラさせるのもダメだからね?」
「う・・・あれは・・・もう、二度といたしません。・・っちゅうたやろ?」
−「…うん…あ…もう時間ないから…じゃぁ…」
子猫が電話を切って、昭彦は取り残された気分になった。
 昭彦の男根も目的を失って、行き場のない怒りを真っ赤になって訴えている。
「・・アホ・・・我慢せい。」
昭彦はため息をつくと起き出して、風呂場へいくと、冷たい水シャワーを股間にかけた。
 そして、頭からも浴びて、全身を水シャワーで引き締めた。

 せっかくいつもより早く起きたので、昭彦はスポーツジムへ行くことにした。
 ストレッチと水泳で体を引き締め、サウナで筋肉をほぐしながら汗をかいた後、スーツに身を包んで、東竜会に顔を出した。
 組長に昨日の取引の説明と、これからの段取りを説明し、
「全てはドクターに任せとるでよろしゅう頼むわ。組の者はいくらでも好きに使うてええ。組員達にもドクターの指示に従うように言うてあるでのう。金庫番の柏木にも良く言うとくし、必要な資金はいくらでも使うてええで。」
と、約束を取り付けた。
 組長は更に、
「早く組に復帰してくれんと、わしも安心出来んでなぁ。」
と、戻ることを強く勧めた。
 昭彦は、
「済んません。もう少し、自由に遊ばして下さい。」
と言って、東竜会を後にした。
 組長は、足代わりに使うようにと、正次という男を昭彦の運転手としてつけた。
 正次は優しげな顔立ちの明るい性格の青年で、祖父の代からやくざ稼業をしている流れで、東竜会の杯を受けていた。
 だが、気弱な性格とお人好しの所があって、”すけこまし”をしているものの、いつも女に逃げられてしまうという。
 それで、昭彦について、少しは男の修行をさせたい、と言われたので、預かることになった。
「よろしく頼んます。」
と、照れ笑いをしながら言う正次に、昭彦は、
「わしにつく上で、これだけは守って貰わなならんことがある。」
と、鋭い光を放つ目で睨みつけて言った。
 正次はビクッと体を震わせ、数歩後ずさりした。
「・・な・・何すか?」
「わしを絶対裏切るな。」
「そ・・そんな・・もちろんっすよ。」
「裏切ったら、われの命はないと思え。わしは脅しでは言わん。それがわしにつく者への掟やでの。出来んと思うたら、わしにつくのは今この段階で辞めとけ。」
「う・・裏切らないっすよ。・・・ドクターのお噂はかねがね聞いてます。自分はずっと憧れてきたんすから・・・」
正次はビクビクしながら答えた。
 昭彦は目を眇めて正次を観察するように眺めた後、ため息をついた。
 覚悟もないまま、気付いたらやくざの世界にいた、というようなこの若者が、厳しい世界を渡っていけるか疑問ではあったが、組長からの頼みでもあるし断る訳にはいかなかった。
 まあ、マサに教育させるか。
 昭彦は、不安を感じながらも、正次の運転する車でマサの組へ向かった。

 正次を連れてマサの事務所に入っていくと、半ば嫉妬まじりの冷たい視線が正次に向けられた。
 正次は持ち前の明るさと愛想のいい笑顔で挨拶をし、昭彦に下で待つように言われると、まだ杯の貰えない若い舎弟達を相手に女談義を始めた。
 若頭の浜田が昭彦について二階に上がりながら、
「あんな半人前のチンピラをつけるなんて、おじ貴への侮辱じゃないっすか。」
と声をひそめながらも、怒った口調で言った。
「おじ貴の足ならウチの組の者がいつでもしますし、どんなことでもウチの者を使ってください。」
「組長の頼みやでしゃーないがな。」
「ですが、ウチの者なら根性座った奴等ばかりですが、あいつは腰抜けっすよ。側に置く方が危険が増えるようなもんっす。」
「まあ、わしを信じてついて来れるなら、わしが守ったる。」
「おじ貴の優しさを甘さと勘違いするような奴です。その違いをわかってないと、有頂天になりかねないっす。」
「しばらくはマサに教育して貰うで、かしらも面倒見てやってくれや。」
「ウチの親父は・・・甘いっすから・・・」
若頭は苦笑して頭を掻いた。
「なら、マサのええペットになるやろ。クックックッ。」
昭彦は正次のとてもやくざには見えない所が、いずれ子猫の足として使うにも調度いいかも知れないと思っていた。
 昭彦を崇拝し、礼儀正しいマサの組員達は、見るからに違う雰囲気を漂わせている為、子猫を怖がらせてしまうだろう、と思うと、正次のような愛想のいい男が好都合に思えたのだ。
 ただ、まだ正次自身の人間性がつかめない内は、迂闊には子猫の周辺には近付けられないとも思っていたので、マサに人としての基本だけは教えて貰おうと考えたのだった。
 マサは事情を聞くと、
「いいですけど・・・ドクターの怖さを正視出来る根性がないと、普段の優しい一面に甘えるばかりだっせ。ドクターも厳しい態度でいてくれやっさ。」
と、苦笑した。
「そうは言っても、わしは店の仕事の他に、例の物を捌かなならんし、その上で子猫との時間もなるべく作ってやりたいでのう。正次に構っとる時間が持てへんねや。・・・それに、正次が誰の息がかかってるかがわからん内は、裏の仕事にも子猫にも近付けられへんしの。」
「そうでんな・・・」
「当分は、店かマサのとこで遊ばせとくしかないで、面倒見たってくれや。」
「へぇ。承知しました。」
マサは以前から東竜会に顔を出す度に、仕事に失敗して落ち込んでる正次に何かと声をかけてきたこともあって、親のない正次をどこか息子のように感じていた。
 やくざの一家に生まれてなかったら、普通にホストをするくらいで、やくざには近付くことも出来ないほど気の弱い正次が、哀れに思えていたのだ。
 よりにもよって、もっとも熾烈な生き方をしてきた昭彦につけるとは、無茶をさせるものだ、と組長にそう勧めただろう何者かの腹の内が憎くさえ思えた。

 昭彦は子猫と暮らす部屋を探したいから、と正次をマサの所に置いて、マサの組の車で出掛けていった。
 子猫の通学に都合のいい場所で、しっかりした構造と防音効果の高い建築で、安全性の高い物件を探す必要を感じていた。
 何故なら、子猫には二つの危険があると思えたからだ。
 ひとつには、子猫の魔性とも言える可愛さに誘惑された男達が狙ってくる危険性があったし、もうひとつは、昭彦の関わる組織関連で、子猫を昭彦の弱点として狙う可能性があったからだ。
 それを踏まえた上で、子猫に喜んで貰えるような快適な空間を選ぶ必要があった。
 数件をあたって、ひとつ気に入った物件があったので、一応押さえて後で詳しい調査をしてから決めることにした。
 そして、買い物をしてアパートに戻った昭彦は、夕食の準備を始めた。

 夜、7時を過ぎて、私服の子猫が旅行でもするような大きなバッグを持ってアパートにやってきた。
 上がり口に、ドサッと置いた音で相当重い荷物だったことが伺えた。
「この荷物はどないしたんや?」
昭彦は荷物を奥の部屋に運んでやりながら、改めて重さに呆れていた。
「教科書とか参考書とか…学校に必要なのをまとめて持ってきちゃった。」
子猫は毛糸の手袋を外して、赤くなった指に息を吐きかけて言った。
「こない重い荷物になるなら家まで迎えに行ってやったのに・・・アホやなぁ・・・」
昭彦は子猫の手を包むように握って撫でてやった。
「だってぇ…昭彦を待っている間に、ママが帰ってきちゃったらヤだったんだもん。鉢合わせしたら…ママの嫌味が昭彦にまで降りかかっちゃう…」
子猫はうつむきがちに唇を尖らせた。
「わかった、わかった。お疲れさんやったの。」
 昭彦はその唇を含むように唇を重ね、気持ちをほぐすように舌を絡めた。
 子猫が甘えて体を押しつけてくるので、朝”お預け”をさせられた昭彦の男根が一気に勢いを取り戻していた。
 子猫が服の上から掌でさする。
「…いい子にしてた?」
背の高い昭彦を上目遣いに見る子猫の眼差しは、ゾクゾクするほど艶めいていた。
「あぁ・・・我慢するように言い聞かせとったで。」
昭彦はクスッと笑って、また子猫にキスをする。
チュッ、、チュッ、、チュゥゥッ、、、。
と音をさせてキスをしながら、子猫のコートを脱がせたが、
「先に食事にしよう。お腹が空いとるやろ?」
と、昭彦はそれ以上進めるのを我慢して言った。
「…昭彦もお腹空いた?」
「わしより子猫にちゃんと食べさせな、心配やねん。・・先に食べておけば、たっぷり抱かれた後、そのまま寝れるやろ?」
「…たっぷり…?」
「あぁ・・・そうや。」
昭彦は熱い吐息を、子猫のまだ冷えてる頬にかけてやりながら、甘く囁いた。
「今夜は遅れるて言うといたで、たっぷり可愛がったるでぇ。」
「…昭彦ぉ…」
子猫は囁きだけでいきそうなほどに感じて身悶えた。
「ククッ・・・食事が終わるまでは”お預け”やで。」
「…あ〜ん…」
子猫は目を潤ませ、拗ねた視線で昭彦をチラッと睨むと、顔を首筋に擦りつけてきた。
 アホォー!わしの方が我慢しとんじゃー!
 昭彦は心で叫びながらも、
「朝のお返し。」
と言って、子猫の額にキスをした。

<*19*>
「涙」
<*19*>「涙」

 夕食のメニューは、豚肉の角煮、ゴボウとニンジンのキンピラ、カボチャの甘露煮、けんちん汁、でご飯だった。
「うわぁ…この角煮トロトロで美味しいー。」
「せやろ?…今日は遅いて言うちょったで、時間かけて煮たんや。」
「全然臭味がないし…昭彦ってほんと、料理が上手ぅ…」
「子猫を元気にしたいっちゅう愛情が籠もっとるからやろ。」
子猫が嬉しそうに食べるのを、昭彦は満足そうな笑みを浮かべて眺めながら、自らも箸を進める。
 昭彦は一口大にした物を的確に口へ運ぶ。
 男性にありがちな頬張ることがなく、子猫は昭彦の食事する姿にさえ見取れてしまう。
 昭彦は箸の持ち方も違うような気がして、どうしたらあんなに形良く持てるのだろう、などと考えてしまう。
 と、気を取られる子猫は、ご飯粒がポロッとこぼれたり、煮物の汁を顎に垂らしたりしてしまうのだ。
「ほれ・・・垂らしちょるがな。」
昭彦がティッシュで子猫の口元を拭いて、苦笑する。
「キンピラも柔らかくしたで、ちゃんと食べな、あかんで?」
「うん。これ、辛くなくて美味しい。」
昭彦は、うんうん、と頷く。
 子猫が辛い物と苦い物が苦手なので、味付けには気を付けていた。それと、まだ咀嚼力が弱いので、固い物や噛み切りにくい物は避けていた。
「カボチャに全然手をつけてないがな。」
「…ぅ…」
子猫は箸の先をくわえて、拗ねたような顔をする。
 昭彦は柔らかい部分だけ摘んで、子猫のご飯の上に乗せてやった。
「ぁぁー…」
「お菓子みたいに甘くしたったで、食べれるはずやで。」
そう昭彦に言われた子猫は、躊躇いがちにカボチャを口に運んだ。
「…ん…ぁ…美味ちぃ…にゃん。」
子猫は明るめの大きな目をクルンと輝かせ、嬉しそうに笑って小首を傾げながら”にゃん”と甘えた声で言った。
 昭彦が思わず照れてしまうほどの愛らしさに、言葉が出なくなってしまう。
「もっとぉ…」
子猫は自分でカボチャを取ろうとしないで、ご飯茶碗を前に出して昭彦に欲しがった。
 昭彦は込み上げる笑いを堪えつつ、子猫が欲しがる度に取ってやった。
 食後の楽しみがあるせいか、いつも以上に甘いムードのハートが飛び交いそうな食事風景だった。

「はふぅ…まんぷく、まんぷくぅ…」
子猫は暖かなホットカーペットの上で、大きなクッションにもたれてTVを見始めた。
 まあ、すぐには無理やろな。食休みはさせんと・・・
 昭彦は子猫の傍らに座って一緒にTVを見ながら、時々子猫の髪を指先で梳いたりして、TVを見ている横顔にキスをした。
「ねぇ…昭彦はどんなTV番組が好き?」
「・・・『水戸黄門』。」
「…へ…?」
「・・・あかんか?」
昭彦はキョトンとした顔を向けた子猫の唇に軽くキスをする。
「…ん…猫も見ることあるけど…昭彦が好きって何か不思議ぃ。」
「他はニュースくらいしか、よう見ぃへんで、わからん。」
「…そっか…」
「子猫が好きなのはアニメやろ?」
「…うん。」
「新しい部屋には大画面のワイドTVを置いたるでな、好きなだけビデオ借りて観たらええ。」
昭彦は子猫の頬にキスをしながら、唇を離さないままに囁いた。
「新しい部屋?」
「ああ。ここは寒いし、壁も薄いしで、子猫も居づらいやろ?」
「えー…そんなことないのにぃ…落ち着く感じで好きだよぉ。」
「そら、子猫の家は牢獄みたいやで、こんな所でもほっと出来るのはわかるけどな、ここにも煩いおばはんはおるんや。・・・Hの声が喧しいっちゅうて大家に文句を言うような・・な。」
「…ぁ…」
子猫は目を大きくしてから顔を真っ赤に染めた。目が赤く潤んでくる。
 昭彦は子猫の肩を抱き寄せ、髪を撫でてやる。
「気にせんでええ。子猫はなんも悪くないんや。・・・やっかみや嫉妬なんて、気にしてたらキリがないでのう。」
「…猫の…声…大きい?」
「そない叫ぶほど大きい訳やないがな。・・・ただ、まぁ・・・けっこう声をあげる方かも知れん。」
「…ごめんなしゃい…」
「わしは可愛いと思うちょるんやで。ホンマにええ声やわ。甘くて透明でゾクゾクするで。」
子猫は恥ずかしがって、昭彦の胸に顔を埋めた。
 昭彦は子猫がプレゼントしたベストを着ていてくれている。
 子猫が麝香の香る柔らかな毛糸の感触を楽しんで顔をスリスリしていると、昭彦の含み笑いが聞こえた。
「ククッ。くすぐったいがな。」
昭彦が子猫の髪を撫でながら、指先で耳をくすぐるので、子猫は思わず、
「…ぁ、、ん、、…」
と声を出してしまう。
「こない可愛いのを我慢はさせとうないで。・・時と場合によっては、声を我慢せなならん状況も出てくるやろけど、子猫の歳では夢中になって我を忘れてまうのも仕方あらへんでのう。」
「…時と…場合…?」
子猫は昭彦の胸から昭彦を見上げて、首を傾げた。
「旅行とかで旅館に泊まったりする時に、知らない誰かに声を聞かれるのは、腹が立つがな。子猫の声はわしのもんやで。」
「…声も?」
「そうや。・・子猫の心も体も声も、みーんなわしのもんや。」
「…ぅ…歌ったり…話したり…出来ないの?」
「そやな。なるべく黙っとき。」
「えー?!」
子猫は目と口を大きく開いて、
「ウッソォー!?」
と叫んだ。
「あははははは。・・まあ、ジョークっちゅうことにしとこか。」
そう言った昭彦は子猫をカーペットに押し倒して、貪るように激しいキスをした。

 一度唇を離した昭彦は、子猫のうっとりした表情を確認すると、再び唇を重ね、今度はゆっくりと舌を絡めながら、手をスカートの下からショーツの中へと忍びこませた。
 子猫の薄くて柔らかな陰毛を撫で回すと、
「…ん、、ん、、…」
と、口を塞がれている子猫が、鼻を鳴らし、体をピクピクさせる。
 陰毛の毛先がすでに溢れ出した蜜で濡れている。
 蜜を指先に取ってクリトリスに塗り付け、そのままクルクル回して刺激する。
「んー、、、ん、ん、、、…ぁ…はぁ、、ん、、、…」
子猫が仰け反ってキスを逃れ、熱い息を吐いて身悶え始める。
 昭彦は片方の手で子猫の頭を支えて、再びキスで唇を塞ぐ。
 執拗に擦られたクリトリスはぷっくりと膨れて、花陰から顔を覗かせる。
 昭彦がきつく摘むと、子猫は、
「ん、、んー、、、」
と、昭彦の口の中で喘ぎ声をあげ、お尻を浮かせて震わせた。
 昭彦は子猫がお尻を上げたタイミングに合わせて、指を一本蜜壺に差し込んで細かく動かし始めた。
チュプチュプチュップチュプッ。
蜜がたっぷり溜まっていた膣は指の動きに大きな音をたてる。
「ぅぅぅ、、、んー、、、んふっ、、、ん、、、」
子猫は昭彦の肩に腕を回してしがみつき、何度も体を反らせ背中まで浮かせて感じている。
「ええ子やでぇ。」
昭彦がようやく唇を離して言った。
「これくらい我慢出来れば、どこでもこのくらいの愛撫はしてやれるようになるでの。」
「はぁはぁ、、…ぁ、、ぅ、、、…はぁはぁはぁ…」
「子猫の感じてる可愛い顔も可愛い声も、誰にも見せたくないのに・・・子猫にはいつでも触れていたいねん。」
「…ぁぁ、、、…あふっ、、、…ぁぁん、、、」
子猫は昭彦の動き続けている指に翻弄されていて、言葉が思うように返せなかった。
「そない気持ちええんか?」
クチュクチュクチュクチュッ、ピチャピチャピチャッ。
「ぁぁぁ、、、ん、、、ぁん、、、…感じるぅ、、、ぁぁん、、、」
昭彦は子猫の顔をじっくりと眺め、
「何でこないに可愛いんやろなぁ・・・」
と独り言のように言うと、また唇を重ねて、今度は指を二本にして蜜壺をこね回し始めた。
「んー、、、んふ、、、ん、、ん、、、」
子猫は切なそうに腰を震わせ身悶える。
クチュクチュクチュクチュッ、チュプチュプチュプッ。
昭彦の指は止まらずに刺激し続け、子猫は快感の渦がつま先から脳天へと駆け上がっていった。
「んー…んっ、、、んーんー、、、」
 ・・・っくぅ・・・こら、きついわ・・・
子猫の膣口が細く締まって、膣壁がギュゥゥーッと締め付ける。
 キリキリと絞るように肉襞が蠢いて、昭彦の指は動けなくなり、抜くことも出来ないほど強く吸い付かれていた。
体を痙攣したように震わせて絶頂に達した子猫が、くったりと力を抜いたので、昭彦は塞いでいた唇を離してやった。
「…あふっ、、、はぁはぁはぁはぁ…」
目を閉じている子猫が喘ぐように息継ぎをしている。
 昭彦は子猫の額にキスをしてから、抜いた指をスカートの中から出した。
「この果汁は食後のデザートに調度ええなぁ。」
うっすらと目を開けた子猫と視線があった昭彦は、指を舐めながら妖しく微笑んだ。

 場所を布団の敷いてある部屋に移動した。
 全裸になって抱き締められると、ビロードのような昭彦の肌の感触に、子猫は夢心地になる。
 まだ、彫り物全体を正視するには怖くて目を閉じてしまうが、肩の赤い牡丹の花が綺麗だと思えるようになっていた。
 昭彦はしばらく音を立てて蜜を啜っていた。
 それから、顔を上げると、
「子猫もしゃぶるか?」
と聞いた。
 子猫が頷くと、仰向けになって両足の間に子猫を座らせ、
「食後やで無理することないで。挨拶程度でええからな。」
と言って、子猫の頬を撫でた。
 子猫は全体を丁寧に舐めてから口にくわえ、手も添えて扱き、時々カリの周りを舌先で撫で回したり、袋の裏側まで玉を含むように舐めた。
「・・・うぅぅ・・・はぁぁぁ・・・」
昭彦は子猫の巧みな舌使いや、ツボを心得た愛撫に、目を閉じて苦悶の声を洩らした。
 ソープへ行ったら、たちまちナンバーワンやなぁ・・・
 そう感心する一方で、このテクニックを教え込んだ男が憎くなった。
 過去は問わないと言ったものの、子猫を愛せば愛するほど、子猫にのめり込むほどに、他の男の存在が許せなく思えてきていた。
 けれど、子猫は子猫で、かつてない大きさに戸惑っていた。
 これまでは喉の奥まで飲み込むようにくわえ込むことが出来て、陰毛に鼻を埋めるほど深くしゃぶって奉仕出来たのに、昭彦の男根は飲み込むには長く太くて息が止まりそうだった。
 頑張って練習しないと、とても満足して貰える愛撫が出来ないように感じていた。
 少しでも気持ちよくなって欲しい、と思いながらしゃぶるのが好きな子猫の、新たな課題のように、昭彦の男根は天を突いて存在していた。
 子猫がどうやって責めようかと思いを巡らせ、出来る限り深くくわえてしゃぶっていると、
「もう、それくらいでええで。」
と、少しだけ怒ったような声で昭彦が言った。
 子猫はドキッとして昭彦の顔を見つめた。昭彦の眉を曇らせた表情は、喜んで貰えなかったように見える。
「…猫…ヘタ?」
体を起こした子猫が正座して不安そうに昭彦に聞いた。
「・・・巧すぎやで・・・アホ・・・」
昭彦は前髪を掻き上げて、視線を逸らしながらため息を吐いた。
「ソープでバイトでもしちょったんか・・」
 しまった!言い過ぎや!
 出た言葉は戻せない、といったような諺があったように思いつつ、昭彦は焦って体を起こしたが、すでに遅く、子猫は目に涙をいっぱいに溜めていた。
 そして、次の瞬間、わっ、と両手で顔を覆って泣き出してしまった。
「済まん。・・・嫉妬や。・・・忘れてくれや・・・な?」
顔を覆ったまま激しく首を振る子猫は、昭彦が抱き寄せようとしても拒絶していた。
「わしが悪かったで・・・何遍でも謝るさかい、許してくれ。」
子猫は肩を震わせ嗚咽を押し殺すように泣きじゃくっている。
「ホンマ、済まんかった。子猫を責めるつもりはなかったんや。・・・こないに嫉妬を感じてまうのは初めてのことで、わし自身戸惑ってるんや。・・・それが、つい・・・あんなヒドイ言葉になってもうた。・・・堪忍やで・・・のう?」
昭彦は何とか泣き止んで貰おうと言葉をかけたが、子猫の両手が顔から離れることはなかった。
 体に触れようとすれば、ビクッとして肩を捻って嫌がり、一層激しく泣いてしまう。
 昭彦は子猫の体が冷えるのが心配になってきて、考えた末に、毛布で子猫の体を包み込んで抱き締めた。
「子猫が許してくれるまで、肌には触れんさかい・・・こうやっちょるんは許してくれや。」
昭彦は苦しそうに言って、毛布の上から子猫の肩や背中を撫でてやった。
それで、やっと、
「…ごめんなさい…」
と、子猫が小さな声で言った。
 まだ、両手で顔を覆った状態で、聞き取れないほどに小さな声だったが、昭彦は、
「わしが悪いんや。」
と、子猫の髪にキスをしてやった。
 子猫は首を振り、
「…昭彦が…初めてじゃなくて…ごめんなさい…」
と、また繰り返して言った。
「そうやない。ちゃうんやて・・・そないなことはええんや。子猫の過去は問わないっちゅうたし、その気持ちは変わらんのに・・・つまらん嫉妬をしてもうた。」
「…もう…猫のこと…嫌いでしょう…?」
震える声で言うと、また泣き出してしまう。
「アホォ!そないなことあるかい!・・あ・・いや。アホはわしやけど・・・めちゃめちゃ、どうしょうもなく惚れちょるで、くだらんことまで妬いてまうんやないか。・・・過去を言い出したら・・・」
・・・わしの方がキリないわ・・・
と、言いそうになったが、これ以上話がこじれることを危惧して、言葉を飲み込んだ。
 昭彦自身の過去は、色々ありすぎて、全てを話しても、今の子猫には受け止めきれないだろう。
 だが、話しておかなければならないこともある。ただ、それは日を改めて、子猫の機嫌の良さそうな時に整理して話そうと思っていた。
「…昭彦に…嫌われたら…猫…生きてけない…」
 あぁ・・・そうやろなぁ・・・
 昭彦は充分承知していた。
 出会った時、すでに子猫の魂は死にかけていたのだ。
 わずかな陽射しの中だけで、微かに息づく、透明なほどに消えそうな魂を、愛しいと思ったからこそ、命をかけて守ると己に誓ったのだ。
 子猫は昭彦がいなければ、生きられない子だと、昭彦自身わかっていることだった。
 わかっていたはずなのに、子猫の妖艶な愛らしさに翻弄され、魔性の肉体の虜となる内に、その肝心な部分が霞んでいたのだ。
 わしにとって子猫が生きる理由なら、子猫にとってもわしは生きる糧なんや。せやから、子猫は必死にわしに奉仕しようとしたのを、わしは怒って突き放してしもうたんや。・・・なんちゅうアホや・・・
「言葉では言い尽くせないほどに愛しているんや。・・・嫌う訳がないやろ。」
いつの間にか、昭彦から涙が溢れ出していた。
 ポタポタと子猫の髪や手に涙が滴となって落ちた。
「…昭彦…?」
子猫が恐々と両手を顔から離した。
 昭彦が子猫にめいっぱい優しく微笑みかけた時、大粒の涙が一斉に子猫の顔に降ってきた。
 昭彦を見上げていた子猫の目にも涙が落ちて、子猫の涙とひとつになって、子猫の頬を伝った。
「…昭彦ぉ…」
子猫が毛布から腕を伸ばして昭彦の首に巻きつけ、涙に濡れたお互いの頬を擦り合わせた。
 昭彦は子猫をそっと抱き締め、優しく横にして、ひとつになった。
 子猫は昭彦にしがみつきながらも、感じてしまうことに脅えているようだった。
「愛してる、子猫・・・愛している・・・」
昭彦は子猫に囁き続け、子猫が素直に感じてくれるようになるまで、祈るように丹念に愛し続けた。
 そして、子猫が可愛い声をあげて、何度も繰り返しいった後、目眩く陶酔の中に意識を開放させるのを、感謝の思いで受け止めた。
 それから子猫の体を腕にしっかりと抱いたまま、
「今夜は仕事休むわ。」
と簡単に電話した後、いつまでも子猫の髪を撫でてやっていた。

<*20*>
「温もり」
<*20*>「温もり」

 夜中の2時過ぎ、夢を見ていた子猫は、
「…ぅー…ぅぅー…イヤァ…」
と、声を出して、目を覚ました。
 目を覚ましたものの、すぐには状況がつかめない子猫がぼんやりしていると、
「どないしたんや?・・・怖い夢でも見たんか?」
と昭彦が頬ずりをしながら、そっと囁いた。
 子猫は段々意識がはっきりしてきて、昭彦の腕に包まれていることに気が付いた。
「…昭彦…?」
「そうやで。・・・ククッ。泊まったのを忘れちょったんか?」
「…そうかも…」
子猫は昭彦の筋肉の張った胸に顔を擦りつけた。
 昭彦の体温を感じる暖かい空気は麝香の香りに満ちている。子猫はうっとりと目を閉じて、肌の感触と香りに浸った。
 昭彦は服を着ていると全体にスリムに見えたが、彫り物に覆われた体は引き締まった筋肉が盛り上がっていて、弾力があり、気持ちが良かった。
 いつもなら、怖い夢で目が覚めた後で、暖房の切れた冷たい闇の中、暖かくない布団の中で膝を抱えるように丸くなって震えている所だ。
 体温が低くて、なかなか温まらない体をさすりながら、怖い夢のイメージが何度も蘇る夜には、孤独感に苛まれ涙が止まらなくなることもあった。
 でも、今夜は昭彦の温かな腕の中。どんな夢だったのかも、もう忘れてしまっていた。
「…あ…でも…昭彦…お仕事あるって…?」
ふと思い出した子猫が言うと、
「今夜は子猫の側にずっといたかったんや。」
と、昭彦は優しく微笑んで子猫の鼻にキスをした。
「…ごめんなさい…」
「謝ったらあかんちゅうとるやろ?・・・わしがそうしたかっただけやで。」
「…うん…」
子猫はジュワッと涙が込み上げてきて、昭彦に体を押しつけながら、
「温かぁーい…」
と、また顔を擦りつけた。
「くすぐったいでぇ・・・クックックッ。」
と笑った昭彦は、
「どないな夢を見たんや?」
と髪を撫でながら聞いた。
「…ん…忘れちゃったから…きっと何でもない夢だったのかも。」
「怖い夢とはちゃうんか?」
「うん。…多分。…だって、いつもなら映画のワンシーンみたいに、いつまでも頭に残ってるもん。」
「そうかぁ・・・なら、ええけどな。」
「うん。」
子猫が笑みを浮かべて頷くと、昭彦は唇を重ねてきた。
「…ぁ…ん…」
キスをしながら子猫がモゾモゾと動くので、昭彦が、
「・・・ん?」
と、尋ねるように顔を覗き込んだ。
「…あのね…」
「うん?」
「…おトイレに…行きたいの…」
子猫が言いにくそうに言うと、昭彦は、
「クスッ・・なんや。早う言うたらええのに。」
と言って起きあがり、子猫が寒くないようにと自分のガウンを着せてやった。

 子猫がトイレから出てくると、昭彦がホットレモネードを入れてくれていた。
「今、風呂の湯を入れてるとこやで、いっぱいになったら入ろな?・・・朝、入るよりええやろ。ゆっくり洗うてやれるしの。」
「…うん。」
子猫はカップの湯気を顔にあてながら、愛されている幸せに満たされて頷いた。
「せやけど、もっと広くて暖房の入っている風呂場がええなぁ。」
「…猫は別に…」
「ゆっくり洗ってる間に風邪引かせてもうたら大変やがな。・・・この前、部屋探すっちゅうたやろ?」
「ぁ…うん…」
「結構、ええ部屋があったんや。設備は充分やで、後は設計やメンテナンスを確認して決めるつもりなんや。」
「そうなんだぁ…」
子猫は昭彦の素早い行動に感心して、レモネードを飲みながら、昭彦のきらきら輝く目に見取れていた。
「学年末テストはいつなんや?」
「…ん…っと…八日後から…」
子猫は指を折り、口の中で数字を言いながら確認した。
「ほな、テスト終わったら家具を見に行こう。一緒に見て、子猫の気に入った家具を買いたいでな。」
「…うん。」
子猫は何だか新婚生活の相談をしているようで、恥ずかしくなってしまい顔を赤らめた。
 昭彦も早く子猫と一緒に暮らせたらと思っていたが、それまでに、もっと自由になる時間とお金が必要だと考えていた。

 お風呂の湯が溜まり、一緒に入ることになった。
 けれど、小さめの湯船は二人では入れなかったので、交互に温まるしかなかった。
 温まった後、二人はボディーソープをいっぱい泡立てて、体の洗いっこをした。
 昭彦は子猫の洗い方がくすぐったいと身を捩って逃げるので、子猫が悪戯っぽい笑い声をたててじゃれつくと、
「シーッ・・・夜中やで。」
と、昭彦がキスで子猫の口を塞いだ。
 それからは、ずっとキスをしたままで、お互いを洗い、シャワーで流し、体を拭き合ったので、昭彦の男根はヘソにつくほどの勢いでコチコチに勃起してしまっていた。
 それで、髪をタオルでざっと拭くと、昭彦は子猫を抱き上げて布団に戻り、再び愛し始めたのだった。

 朝日がカーテンの隙間から差し込むまで、昭彦の熱情は衰えることなく子猫を求め続け、子猫は激しくも甘美な陶酔の中で、切ないよがり声を上げ続けた。
 横になった態勢で後ろから抱きすくめ、激しく突き上げた後、何度目かの放出をした昭彦は、しばらくそのままで、朝日の中、白く輝く子猫の恍惚とした表情を愛おしく眺めていた。
 が、時間的に、もう起きて支度を始めなければならなかったので、未練がましく子猫の中にいたがる体の一部を引き抜いた。
 子猫をこのままそっと寝かせてやりたかったが、テスト前では学校を休む訳にはいかないだろうと、声をかけて朦朧としていた意識を現実に戻してやった。
 子猫が制服を着て出掛ける支度を済ませる間に、昭彦が朝食の用意をしてやったが、
「…食べれないから…お弁当で持ってくぅ…」
と、かすれがちの声で小さく言った。
 昭彦は、ハッ、として、初めて無理をさせすぎたことに気が付き、体に力が入らない子猫の様子に、夢中になりすぎた自分を反省した。
 昭彦が入院中の子猫に料理を届けていたタッパがあったので、それに詰めてやり、
「今日、可愛いお弁当箱を買うてきてやるでの。」
と言って渡すと、子猫は嬉しそうに頷き、
「うん。ありがとぉ。」
と子供のような笑顔で言った。
 子猫はバスで登校するつもりだったようだが、昭彦が呼んだタクシーがすぐに来たので、それに乗って高校へ向かった。

 慌ただしく子猫を見送った昭彦は、一人で朝食を食べ、味気ない寂しさを感じた。
 慣れているはずの一人での食事も、こうして取り残された気分でいると、単なる栄養補給の動作にすぎなく思えてくる。
 まだ、精神的にも肉体的にもひ弱な子猫にとって、どれほど一人の時間が寂しかっただろう、と思うと切なくなった。そして、子猫がまだ保護者を必要とする子供なのだということを痛感した。
 昭彦にとって、これほど欲情を駆り立てられる相手はかつてなかった。純粋に子猫の肉体に魅了されていると言っていい。
 子猫が円熟した大人の女性で、健康に何の不安もなければ、思いきり溺れてみたくなるほどの体だった。
 けれど、その肉体に宿る魂は、まだまだ幼い子供なのだ。
 迸る激情をそのままぶつければ、子猫の健康を損ねかねないし、高校生としての生活にも支障が出てきてしまう。
 高校生だから、と枠にはめるつもりはないが、高校生活を維持させるにはそれなりの配慮がいるのだと、お弁当を受け取った子猫の無邪気で嬉しそうな笑顔を見た時、改めて実感した。
 一人の男として、惚れた女にのめり込んでしまう耐え難い欲望を感じる一方で、守ってやれるのは自分だけなのだという強い使命感もあった。
 わしが育ててやるんや。
 昭彦は自分の手の中に、生まれたての赤ん坊を抱き上げたような気持ちになっていた。
 せやけど、わしのミルクは特製やでのう。吸い口の大きな哺乳瓶付きやし、どんな子に育つことやら・・・。
 自分で思い描いたイメージに自分でウケた昭彦は、クスクス笑いながら食後のコーヒーをゆっくり味わって飲んでいた。

 この日、昭彦は、午前中は家の用事を済ませた後スポーツジムで過ごし、午後はマサの運転する車であちこちへと奔走していた。
 夕方、アパートに戻ると、アパートの前の細い道路に黒塗りの高級外車が停まっていた。スーツを着た若い男が、車の側で辺りを窺うようにしている。
「気ぃつけてくれやっさ。」
マサが車を降りる昭彦に声をかけ、座席下の隠しポケットから拳銃を取りだし、そっと握りしめた。
 昭彦が高級外車に数歩近付くと、ドアが開いて、紫のスーツを着た40歳過ぎの男が現れた。外にいた若い男は、慌ててドアに手をかけ頭を下げた。
「・・・柏木さん・・・招待もせんのにいきなり自宅に訪ねて来られるのは、随分と礼儀知らずやないですか?」
「組長(おやじ)からドクターを補佐するように言われているのに、どこを彷徨っておられるのか、一向にお顔を見ることも叶わないので、仕方なしに伺ったまでですよ。」
「なるほど。・・・そう言えば、昨夜も店の方で随分待って頂いたようですね。・・・けど、わしにも色々都合があるよって、そうそう期待には答えられんのですわ。わしに用事がある時は、マサに伝えといてくれるようにと、おやっさんにも言うてあるはずですが?」
マサは話の様子に、すぐに揉めることではないだろうと判断し、拳銃を握った手をポケットに突っ込んで車から降りた。
「その若頭の岡田さんが、ドクターの足代わりでは連絡しようにも出来ないじゃないですか。仲良し関西コンビなのか・・・本家のお気に入りのお守りかは知りませんが、若頭としての本分も忘れないで頂きたいものですね。」
「わてがおらんでも、組の者がしっかり留守居しとるやないかぁ?わての組の者から連絡は逐次入っちょるが、あんたからの伝言は一切なかったで。どうゆうこっちゃ?」
「フン・・・チンピラごときにきく口は持ち合わせてないものでね。」
「何やて?・・われがなんぼのもんじゃい。」
柏木とマサが睨み合って、嫌な空気が漂い始めた。
  「マサ、やめとき。」
昭彦がマサの肩に手を置いて宥めるように言った後、
「柏木さんも、いちいち突っかかる言いようは大人げないやないですか。・・・わしの家の前で喧嘩売るんやったら、わしもそれなりに考えさしてもらうでのう。」
と、静かな口調ながら、妖しく揺れるどす黒いオーラが見えるような禍々しさで言った。
 柏木は思わず生唾を飲んで、半歩後ずさりしてしまっていた。
 何が怖いのか、わからない。ただ、悪寒が背筋を駆け上がっていくのだ。
「・・話し合いが持ちたいと、わざわざ待っていたのを、そちらが喧嘩腰に言われるので・・・弁明しただけです。」
柏木は頬を引きつらせながら、無理に笑みを浮かべた。
「おやっさんとは、わしの身辺に組の者を近付けない約束になっとるんや。聞いとらんかったのなら、今日のところは水に流しましょう。・・ただ、すぐに引いて頂きたい。・・話があるなら、夜にでもこちらから場所を決めて連絡しますよ。」
「わかりました。では、後ほど。」
柏木は昭彦に頭を下げてから、車に乗り込んだ。
 マサは面白くなさそうに舌打ちしていたが、
「コーヒー入れるで、寄ってきや。」
と言われて、肩の力を抜いてため息をつくと、車に戻ってアパート用の駐車場に車を入れた。

「・・ったく、柏木の言いようはなんでっしゃろ。れっきとしたわての組の者をチンピラ呼ばわりしてからに・・・」
マサはコーヒーを飲みながら、まだ悔しそうに言った。
「しゃーないがな。努力しても性に合わん相手はおるもんや。」
「それくらいで済む話やったらええですけど・・・あの男・・何やら企んどるようで危険な臭いがしまっせ。」
マサはそう言って、ポケットからさっきの拳銃を取り出し、テーブルに置いた。
「持っといてくれやっさ。使わんのが一番ですけど、いざという時にはボディーガードより役に立つこともありますよって。」
昭彦は拳銃を手に取って、感触を確かめながら、
「試し撃ちしとかんとクセがつかめんやろな。」
と目を鋭く光らせた。
「ヘッヘッヘッ。ほなら、近い内に狩猟に行きまひょ。」
「ええなぁ。鹿でも仕留めよか?」
「猪も美味いでっせ。」
「ライフルもあるんか?」
「へぇ。何でも用意しまっせ。」
狩猟の話になって、マサも機嫌が直ったようだった。
 関西にいた頃は、昭彦も竜崎と海外へ出る度に猟をして楽しんでいたし、マサも同行することがあったので、当時の話に花が咲いた。
 それから、柏木と話し合う場所と時間を決めて、マサが帰っていった。
 昭彦は拳銃を漢方薬の入っているケースの奥にしまった。漢方とはいえ使用法を間違えると危険な物もあるからと、子猫にはケースに触れないように言ってあったので、子猫に拳銃の存在を知らせない為には一番いい場所だったのだ。

 今夜は柏木と会う予定が入ったこともあるし、昨日仕事を休んでいるので、色々な段取りをする為に早めにアパートを出ようと、昭彦は子猫を待っていた。
 それで、子猫が部屋に上がるなり、
「済まんけど、今夜は人に会わなならんで、もう出掛けなあかんのや。なるべく早う帰れるようにするで、ええ子で先に寝とってくれんか?」
と、すでに着替えていたスーツ姿で言った。
「…ぇ……ぁ……うん……」
子猫はすぐに言葉が浮かばないようで、コートを着たまま頷いた。
「途中電話出来たら入れるし、子猫から携帯に電話してくれてもええけど・・・場合によっては電源オフにする時もあるやろから・・・出れん時は堪忍やで。」
そう言って、昭彦は子猫を抱き締めキスをした。
 子猫は戸惑った様子で、昭彦が立て続けに言う注意事項や約束事を聞いていたが、昭彦が出掛けようと靴を履いた時、
「…あのね…猫…今夜は帰ろうと思ってたの。」
と言った。
「あ?」
振り返りながら聞き返すような声を出した昭彦の顔はムッとしていた。
「…だから…」
「何でや?・・朝になる前には帰るで、そしたら抱いてやれるがな。今日は寝不足やろし、早めに寝とったらええ。そしたら明日は寝不足にはならんやろ?」
「…そうじゃなく…」
子猫は説明しようとしながらも、上手く言えないもどかしさに、爪を噛んでうつむいてしまった。
 昭彦は一度履いた靴を脱いで部屋に上がると、子猫を優しく抱き寄せた。
「・・・堪忍。・・・わしが一方的やったな。・・・ちゃんと聞いてやるで、焦らんと落ち着いて言うてみや?」
髪を慰めるように撫で、うつむいている子猫の顎に、手をそっとあてて顔を上げさせた昭彦は、ゆっくりと額にキスをした。
「・・・家に用事が出来たんか?」
子猫は小さく首を振って、
「…そうじゃないけど…」
と言いにくそうに言ってから、昭彦の耳にそっと囁いた。
 昭彦は前屈みになって、じっと聞いていたが、うんうん、と頷いてから苦笑を洩らし、
「アホやなぁ。抱くだけが一緒におる目的やないやろ?」
と、愛しそうに熱いキスをした。
「…ぁ…ん、、、ん、、、…あふっ、、、…昭彦ぉ…」
キスの後、子猫は昭彦のスーツに甘えて顔を擦りつけた。
 昭彦は子猫の髪に頬ずりをしながら、
「・・・子猫の顔を見れるだけでもわしは嬉しいんや。寝顔を見てるだけでもええ。この腕にそっと抱いていれるだけでもええ。・・・何も恥ずかしがることはないし、隠すこともないんやで?・・・腰とかお腹は痛くないんか?」
と労るように言った。
「…少し…」
「そうかぁ・・・可哀想やなぁ。・・・そや、湯たんぽしたるわ。それと痛みを和らげてよく寝れる薬を煎じてやるで、ちょっと待っとき。」
「…でも…昭彦…忙しいのに…」
「大丈夫や。・・それにこっちのが大事やで。」
昭彦はスーツの上着を脱ぐと、手早くあれこれと用意した。
 煎じた漢方茶は食後に飲むように言い、湯たんぽは布団の中に入れてやった。
「・・・出来ればずっと一緒にいてやりたいんやけどなぁ・・・」
昭彦が心配そうに言うので、子猫は嬉しさで頬を染めながら、
「大丈夫だから…お仕事に行って。」
と言った後、昭彦の顎に背伸びしてキスをすると、
「行ってらっしゃい。…気を付けてね。」
と小首を傾げて微笑んだ。
 昭彦は感激したように子猫にキスを返すと、
「ほな、いってくるで。」
と、部屋を出た。
 新妻に見送られるような気分の昭彦は、軽い足取りで店へと向かった。