|
|
|
| <*21*> 「裏社会」 |
<*21*>「裏社会」 料亭の離れを借りて柏木に会うことにした昭彦は、売上のチェックと仕入れの発注をした後、 店の手伝いをしていた正次を連れて迎えの車に乗り込んだ。 料亭には先にマサが来ていて、離れの周囲をマサの組の若衆達が警戒していた。 昭彦は正次を部屋の外に待機させて、マサの隣りに座った。 「少し遅れたかの?」 「柏木には30分遅く時間を言うてありますよって、まだ来てへんし、大丈夫だっせ。・・・また、なんぞありましたんか?」 「いや、たいしたことやないけどな・・・店のことも放っとけんで、時間を押してもうたわ。」 「そうでっかぁ。・・・やっぱり、もうマスターは辞めて組の仕事に専念した方がええんとちゃいまっか?」 「・・・そやのう・・・」 「おやっさんはドクターが戻ってくれるなら、組長代理にしたいっちゅうとりますで?」 「今の態勢を変えんことには、時代の流れに押されて傾く一方やで。しっかりした会社組織にして基盤を安定させな、若い者の生き血を啜ってしのぐダニ同然や。そうなったら終いやでのう。・・・わしが戻るからには、その辺をきちっとさせなならん。」 「竜崎のボスは20年も前から、そうしてきはったですもんなぁ。」 「せやから、こんな時代でも関西は勢力を失わずにやってられるんや。・・・まあ、兄さんの目的が元から弾き出された者達の救済にあったでのう。それを誰にでも当てはめるっちゅう訳にはいかんやろけどな。」 「昨今不景気ですし、昔堅気の組が随分潰れちょるようですわ。」 「関東の方もかなり勢力を拡大しとるようやし、このままやったら潰されるで。・・・いくら資金稼いだかて、幹部が湯水のように使うてるようでは意味ないでのう。」 「おやっさんもその辺のとこをよく承知しているからこそ、ドクターを頼りにしちょるんでっしゃろ。・・・問題はおやっさんの直杯で長年一緒にやってきた連中でんな。ドクターやわてのように本家筋から流れてきた者を煙たく思っちょるで、何かといちゃもんつけよるんですわ。」 「わしが留守にしてた期間も長いでのう・・・」 「せやけど、その古株がしちょることとゆーたら、若い者達に乱暴なシノギを稼がせ、それを自分の稼ぎのように使うだけでんがな。・・・柏木がいい見本や。金庫番ちゅうたかて、その金庫を自分の財布のように思っちょる。おやっさんが女好きなんをええことに、嫁の知り合いを次々に紹介しては機嫌を取っちょるで、おやっさんは帳簿もろくに見んと任せきりなんですわ。・・・柏木の嫁は姐気取りで取り巻き引き連れて遊んどるし、困ったもんですわ。」 「・・・悪性の癌みたいなもんやな。」 「ホンマですわ。」 昭彦とマサが小声で話していると、 「ご苦労様っす。お待ちしておりました。」 と正次の声がした。 「おう、正次。真面目に勉強させて貰ってるか?」 柏木が正次に声をかける。 「まだこれからっすよ。」 正次の照れたような声に、 「そうか。まあ、頑張ってな。」 と言う。 昭彦とマサは顔を見合わせた。 マサは、やれやれ、とばかりに首を振り、昭彦はそれに対して、片頬で苦笑した。 実は二人とも、東竜会組長が正次を昭彦につけたのは、この柏木の計略ではないかと予想していたのだ。 マサの組の者をチンピラと呼び、言葉をかける価値もないように言う尊大な柏木が、誰からもハンパ者として見られている正次にどんな態度をとるか、を見る目的もあって、正次を部屋の隣りに待機させていたのだ。 とはいえ、正次に昭彦の人脈や仕事の内容を探るだけの能力があるとは思えない。 が、逆にそれが警戒を弱めて、正次を使うことで内情に踏み込み、頃合いを見て正次を煽ててうっかり口を滑らせるようにもっていこう、という計略なのだろう。 昭彦自身には正次に敵意はなく、人懐こさも嫌いではなかったし、マサは以前から可愛がっていたこともあって、出来れば柏木に利用されている状況を解いてやりたいと思っていた。 けれど、それも柏木の腹の内が見えるまでは、放っておくよりなかった。 「柏木のおじ貴がお出でになりました。」 襖の向こうで若頭の浜田が言う。 「おう。入って貰いや。」 マサがそう言うと、浜田が開けかけた襖を、柏木自ら勢い良く開けて部屋に入ってきた。 柏木に続いて付き従ってきた男達も入ろうとしたので、 「お連れの方は遠慮して頂きます。」 と、浜田が体を盾にするように襖の間を塞いだ。 「なんだと?!」 柏木組の若頭の植木が怒鳴る。 「っざけんじゃねぇ!自分は何様じゃ!」 「こちらもおやじとおじ貴だけですので、御遠慮願います。」 浜田は脇腹を蹴られながらも、キッと植木を睨みあげて言った。 「植木はそこで待ってろ。」 テーブルを挟んで昭彦達の向かいに座った柏木が面倒くさそうに言った。 「・・わかりました。」 植木は渋面で頭を下げると、面白くなさそうに、また浜田の足元を蹴った。浜田はグッと堪えて襖を閉めた。 「柏木はん。あんたのとこの者は相変わらず礼儀知らずやなぁ。」 マサが顔をしかめて言うと、 「少しばかり元気がいいのは仕方ないと思ってます。まして植木は自分の片腕として、長年一緒に修羅場を渡ってきてますので。」 と、東竜会にあっては自分達の方が古いのだと言いたげに、柏木が言った。 柏木の組の者達が傍若無人なのはいつものことなので、マサは今更抗議しても仕方ないと、大きくため息をついて、それ以上を言うのを諦めた。 柏木がきたので、料理と酒を運んで貰い、話し合いが始まった。 「色気のない酒は旨味も半減するな。」 マサのお酌で杯を進める柏木が嫌味げに言った後、 「どうせなら、本家のお小姓殿に注いで頂きたいものですね。30半ばを過ぎても、お美しい限りだ。今だに執着されてると噂を聞いてますよ。」 と、柏木が薄ら笑いを浮かべた。 「竜崎のボスはまだ本家の総領にはなってへんで。」 と、マサが言うので、昭彦は思わず、 いや、マサ。ツッコミ所がちゃうやろ。 と思いつつ、 「わしの酌でええなら、なんぼでもしたるがな。」 と、柏木の空になった杯に酒を注いだ。 「フフフ。これはどうも。・・・しかし、若頭殿。竜崎の大親分はすでに完璧に山神一門を掌握されてるでしょう?その影がチラつくだけで、こんな田舎の組でもビクビクと顔色を伺うほどだ。」 「それは、どーゆー意味でっしゃろのう?ドクターがボスのお気に入りやからちゅうて、おやっさんが大事にしとる訳やないんは、あんたかて知っちょるやろ?」 「そうそう。ドクターの人脈はおやじさえ掴みきれない、と聞いてますよ。その人脈から生まれる莫大な利益が、貧窮してる組には必要なのだと。だから、自分にも手伝うようにと言われているのに、一向に蚊帳の外。これでは手伝いようがないじゃないですか。」 「手伝うて貰える範疇やないんや。」 昭彦はそう言って、また柏木に酒を注ぎ、マサにも酌をしてやりながら喧嘩腰にならないようにと目配せした。 「わしの取引は匿名の団体や企業やでのう。それを誰かれとなく話す訳にはいかんのや。」 「ですが、ドクター。組のシノギなら組で取引するもんでしょう。それに、組の者を使えば、もっと手広く捌けて、利益も増やせるんじゃないですか?」 柏木はようやく話したかったことを口にした。 「個人を相手にするんは、リスクが大きいがな。っちゅうより、手広くしたら関東が黙ってへんで。・・・まあ、仕事のことは任しといて貰わんと、わしも困るんや。」 「でしたら、中国の方を紹介して頂きたいですね。何もオイシイ話を独り占めにすることはないでしょう?」 柏木が舌舐めずりをしながら言った。 マサは思わず、 「アホなことを・・・」 と呟いた。 「なんだと?」 柏木が目を剥いてマサを睨み付けた。マサも負けずに睨み返し、 「柏木はん。あんたが中国へ乗り込んだら、三日もせん内に、豚の餌になりまっせ。君子危うきに近寄らず、て言いまんがな。あんまし欲はかかんこっちゃ。」 と、低い声で言った。 柏木はカッとして、 「金魚のフンが偉そうに言うな!貴様なんてドクターがいなけりゃただのカスだろうが!」 と吐き捨てるように言った。 「カスかてええですわ。なんとでも言うとくれやっさ。少なくともあんたよりはマシなカスでっさかいのう。」 「マサ!・・やめときや。冷静に話し合わんかったら、何も話されへんやろが。・・・柏木さん。あんたも組の若頭であるマサに何言うとるんや?」 昭彦は呆れ顔で言うと、頬杖をついてため息をついた。 5年近い服役の後、組から離れていた昭彦は、マサと柏木の関係がここまでこじれていることを初めて知ったのだ。 昭彦が東竜会の世話になったのは実質的には3年ほどで、それを古参の者達よりも大事にする組長への納得のいかない憤りがあるのはわかるが、文句があるなら自分に言えばいい、と思う昭彦に対して、柏木はマサを標的にしているようだった。 柏木も関西時代の昭彦の噂を知っていたし、昭彦が服役した事件の凄まじい惨劇の顛末を知っているだけに、昭彦自身は怖かったのだ。そして、本来なら無期でも不思議はない罪状を、竜崎の圧力でこんなに短い期間で出て来れることが、恐ろしかった。 法律さえ曲げてしまえる竜崎の実力と、竜崎にそこまでさせる昭彦という存在は、若い者達が熱狂的に崇拝する一因になっていると、柏木は感じていた。 何より、組長までが昭彦に惚れ込んでいるのだから面白くない。面白くないが、直接昭彦を攻撃出来ない悔しさが、マサへの嫌味になっていた。 「おやじが岡田さんを若頭にしたのは、ドクターに戻って欲しいからでしょう?・・ったく、どいつもこいつも、自分等の築き上げてきた苦労を知りもしないで、ドクターを崇拝する。これじゃぁ、自分等が流してきた血と汗がたまったもんじゃありませんよ。」 「どんだけの血ぃや?知りもせんのんはわれの方やで。」 マサは自分のことはともかく、昭彦を中傷されるのだけは我慢が出来なかった。が、 「マサも、ええ加減にせぇ。関西の頃の話を持ち出しでもしゃぁーないがな。」 と昭彦に窘められて、 「済んまへん。」 と頭を下げた。 昭彦は、 「柏木さんが面白くないんもわかるけどな、今はその話とはちゃうやろ?マサは何も柏木さんを軽く見て言うたんやないで。・・・わしの繋がりでも中国関係はホンマに危険なんや。ただのチャイニーズマフィアとは違う筋やで、それを柏木さんに言うたら、わしもあんたも明日には命がないかも知れんのや。・・・それでも知りたいっちゅうんか?」 と、黒目がちの目を妖しく光らせて言った。 柏木は頬を痙攣させて黙り込んだ。 「それとなぁ・・わしをそれほど気にくわん、ちゅうなら、おやっさんに直訴したらええ。そしたら、わしにも違う考えがあるでな。」 柏木は杯を置いて、あぐらをかいている膝をつかんだ。 「・・・違う・・とは?」 「わしはシノギだけでおやっさんに頼られとるんやないんや。関西やその中国の強い組織力を見てきた経験を生かして、東竜会を立て直して欲しいて言われとるで、その方向で考えてきたんやけどな、・・・そない嫌やっちゅうなら、もう何もせぇへん。一切、東竜会からは手ぇ引いたるで、好きにしたらええんや。・・・ホンマにメンドイでたまらんわ。」 昭彦はうんざりした顔で投げ出すように言った。 マサは昭彦の駄々っ子のような言い方に忍び笑いを洩らした。 昭彦は物事に対して、決して積極的な性格ではなかった。昭彦にとって大切なのは、いつも人そのものであり、お金や力に拘るのも人あってこそのものだった。 それだけに、人への興味を失ったり、干渉する価値がないと踏んだ時の冷たさは徹底していた。 だからこそ、昭彦の魅力の虜となった者は皆、その価値を認められたいと、昭彦に尽くしてしまうのだった。 「ヘヘヘヘッ。それがええですわ。おやっさんに世話になった義理は、もう充分に果たしちょるんや。今更、立てる義理もおまへんがな。ドクターの思うように好きにやらはったらええんです。わても”金魚のフン”やさかい、ついていきまっせ。」 マサが嬉しそうに言う。 「いっそ、新しい組を旗揚げされはったらええですわ。ほしたら、竜崎のボスかて喜んで祝儀に来はりまっしゃろ。」 いや・・・それはあまり嬉しくないで・・・ 昭彦はマサのはしゃぎように目を眇めて内心舌打ちをした。 だが、マサの言葉は柏木を青ざめさせる結果になった。 ドクターを怒らせて組から追い出した、と本家から殴り込みが来るかも知れない。そうなったら、東竜会はお終いだ。いや、自分の命も危うい。 「済みませんでした。」 柏木が座布団から下がって土下座した。 「ドクターを怒らせるつもりではなかったんです。・・ただ、もっと自分等を使って頂きたいと申し上げたかっただけで・・・失礼な言い方がありましたらお詫び致します。」 「ほう・・・そやったんか。そら、全然わからんかったわ。」 昭彦は頬杖をついて他人事のように言う。 「・・・若頭との行き違いは・・・色々揉め事が重なってたもので・・・つい失礼な態度になりました。・・・済みませんでした。」 畳に額をつけている柏木の顔が悔しさに歪む。 「まあ、ええわ。お互いに誤解もあるやろし、手ぇと頭を上げてんか。・・・柏木さんのような古参の協力があってこその改革やでのう。」 「もちろん、何でも協力させて頂きます。」 顔を上げた柏木が手を握りしめて言った。 「ほな、よろしく頼んますわ。」 昭彦は優美に微笑んで、手を差し出した。 柏木は押し抱くように、両手でその手を握った。 内心の面白くなさはともかく、昭彦を敵に回す勇気は、柏木にはなかった。 こうなったら、少しでもドクターに自分を売り込んでおく方が得策だ。 そう踏んだ柏木は、 「他の文句を言う連中も、自分がきっちり押さえます。」 と、胸を張るようにして、笑みを浮かべた。 マサの舌打ちが聞こえてきそうだったが、昭彦も、 「そうして貰えると助かるでのう。まあ、仲良うやってきましょうや。」 と、酒を勧めた。 柏木はさっきとは態度を変えて、恐縮しながら杯を持った。その手がわずかに震えているのを見て、マサも仕方ないというようにため息をついた。 柏木との話が無事に済んで、昭彦はまた正次を同伴して店に戻った。 マサと浜田も別の車で店に同行した。 「お帰りなさい。・・どうでした?」 塚田がカウンターで迎えながら心配そうに言った。 「凄かったっすよ。補佐が土下座っすもんねぇ。」 正次が嬉しそうな顔で横から口を出した。 「アホ!ベラベラしゃべっとるんやないで!」 マサが慌てて正次の襟首を掴んだ。 「話の内容は言ってないっすよぉ。」 正次が苦しそうに泣きそうな声をあげた。 「話ちょるんと同じやないかい、ドアホ!」 マサは先が思いやられると思いつつ、手を離してやった。 「・・・済んません。」 正次は首を撫でながら、ペコリと頭を下げた。 「ま、そんな訳でこれから忙しくなりそうやで。」 昭彦は苦笑してカウンターに座った。 マサと浜田が並んで座り、正次はカウンターの中に入ると、隅の方でグラスを磨き始めた。 「そうなるとここの仕事は引き上げですか?」 塚田がどことなく寂しそうに言うので、 「なんや?マスターの仕事が気に入ったんか?」 とマサが可笑しそうに聞いた。 「そうっすね。面白いっすよ。」 「ほな、われが続けたらええわ。バックアップはしちゃるでの。」 「いいんすか?」 「おう。気張るこっちゃな。」 「はい!」 塚田はにっこり笑って頭を下げた。 昭彦は塚田の様子に笑みを浮かべていたが、 「せやけど、当分はわしもここで働いとることにして貰わんと、ちーと困るで。」 と言って、肩をすくめた。 「・・子猫はんでっか?」 「せや。・・・子猫にはわしがやくざやったちゅうんは話したんや。せやけど、もう縁がないて説明してあるでのう。」 「・・・そら・・・きついでんなぁ。」 「いずれは話さなならんてわかっちょるんやが、急には無理や。」 「・・・そうでんな。」 病院での子猫を知っているマサは、確かに、と頷いた。 「ええですがな。当分はここのマスターっちゅうことで。もし、子猫はんから電話が入っても、塚田に連絡させればええことでっしゃろ。なんも問題あらしまへん。・・・塚田もええな?」 「はい。ドクターのお役に立てれば光栄です。」 「ほな、そうさして貰うわ。よろしく頼むで。」 「はい。」 マスターの仕事は塚田が引き継いだが、昭彦には課題が山積みだった。 店で少し休んだ後、昭彦は浜田の運転する車で、人に会う為に出掛けていった。 マサは、取り残されて不服そうな正次に車を運転させて、組に戻っていった。 やっと昭彦がアパートに戻れたのは、夜中の3時を回ってからだった。 子猫はすでに熟睡をしていた。漢方茶がかなり効いたらしい。 昭彦は子猫が腰に当てていた湯たんぽを触って、ぬるくなっていたので、熱いお湯に入れ替えてやった。 そして、そっと布団に入ると、子猫の頭を枕から自分の腕へと移して、抱き寄せた。 子猫は眠ったまま、顔をすりすりと昭彦の肩に擦りつけた。 昭彦の股間のモノが一気に天を突いたが、子猫の髪を撫で、額にキスをするだけで、欲情を押さえ込んだ。 しばらく子猫の寝顔を見つめていたが、 「子猫・・・愛してるで。」 と囁いて、小さな花のような唇にキスをして、目を閉じた。 腕の中の子猫の存在が、忙しかった一日の疲れを癒してくれるようで、昭彦は深い眠りに落ちていった。 |
| <*22*> 「アモーレ」 |
<*22*>「アモーレ」 マスターの仕事をマサの組の塚田に引き継いだことで、昭彦は時間的に融通が利くようになった。 それで、なるべく子猫と一緒にいられる時間を優先させて、子猫がいない時間帯に仕事をするようにした。 ただ、夜の闇に紛れて活動する人間を相手にすることもあって、夜中まで帰れないこともあるので、一人で留守番をする子猫の安全を思うと、早くアパートからマンションに移りたいと思う昭彦だった。 子猫がブルーデーになってから数日が経過していた。 「なぁ・・・もう、そろそろええんとちゃうかぁ?」 食事の後、TVをつけて鞄から勉強道具を出す子猫にすり寄って、昭彦が猫なで声で言った。 「…ぇ…ぁ…まだなの。」 子猫は申し訳なさそうに、目を伏せた。 「けど、もうピークは過ぎたやろ?」 「…うん…」 「腰とかお腹も、もう痛ぁないやろ?」 「…そうだけどぉ…」 「なら、ええがな。」 昭彦は子猫を背中から抱き包むようにして、耳にキスをした。 「…だけど…まだ…汚しちゃうもん。」 子猫はキスを避けるように身を捩った。 「厚手のバスタオルを敷いちゃるで、そないなこと気にせぇへんかてええんやで?」 昭彦は子猫のお腹で腕を交差させ、うなじに唇を這わせた。 「…ぁ…ん、、、…だってぇ…」 子猫は思わず感じてしまいながらも困った顔をしている。 「残ってるんはわしが掻き出してやるがな。したら早う終わるで?」 「……嫌ぁ……」 子猫が首を振るので、昭彦は子猫の肩に額を押し当て、ため息をついた。 子猫は広げたテキストの問題を解き始めている。 が、昭彦は諦めきれずに、子猫のセーターに手を忍び込ませ、ブラジャーの紐をずらし、胸を愛撫し始めた。 「…ぁ、、ぁぁ、、、」 乳首を摘まれると、子猫のシャーペンが止まる。 「なぁ・・・ええやろぉ?」 昭彦は甘い息をはきかけて、子猫の首の付け根をきつく吸った。 「…ぁぁ、、ん、、…痕がついちゃうぅ…」 子猫が首をすくめるので、今度は昭彦の胸に子猫をすっぽり包み込むようにして、頬ずりをしてきた。 子猫は小さく息を吐くとシャーペンを置いて、体を後ろに捻りながら昭彦の胸に体を押しつけた。 昭彦は子猫を抱きとめて、そのまま後ろに倒れ、子猫を抱き締めながら唇を重ねた。子猫も昭彦の舌を吸って自らも絡める。 「・・・な?・・・Hしよ?」 子猫が昭彦の腕の中で、とろけそうな表情になっているのを愛おしそうに見つめて、昭彦が甘えるように言った。 「…猫だって…昭彦とひとつになりたいもん。」 「せやろぉ?」 「…でも…怖いんだもん。」 「なにがや?」 「…昭彦には…綺麗で可愛い猫でいたいの…」 子猫が切なそうに、クスン、と鼻を鳴らした。 「・・・アホやなぁ・・・」 昭彦は呆れたように言いながらも、優しく苦笑して、子猫の鼻にキスをした。 「綺麗に見せてる所しか愛せへんかったら、本物の愛やないがな。・・・言葉で言うてもわからんなら・・・今、教えちゃるわ。」 昭彦は体を起こして、愚図る子猫を強引に抱きあげた。 敷かれた布団の横には、すでにバスタオルやタオルがたたんで重ねられていた。 「…ぁ…いやいやぁぁ…」 「ええから黙っちょれ!」 昭彦は少し厳しい口調で言うと、仰向けに寝かせた子猫の上半身を、逆向きに跨いで押さえ込み、動きを封じた。 子猫がバタつかせている足を掴んで下着に手をかける。 「いやぁぁぁぁぁぁ…」 身動き取れない子猫は、唯一動かせる首を激しく振って抗議したが、昭彦は取りあってくれず、子猫の下半身を剥き出しにしてしまった。 そして、バスタオルを赤ん坊におむつを宛うようにお尻の下に差し込んだ。 それぞれの両足を昭彦の両腕に押さえ込まれて持ち上げられたお尻は、子猫の恥ずかしくてたまらない部分を昭彦の目の前に晒してしまっていた。 「いやぁぁぁ…ああぁぁ…昭彦の…バカぁぁぁぁぁぁ…」 信じられないことに、昭彦は子猫の秘部に舌を這わせて丁寧に舐め始めてしまったのだ。 子猫は呻くような声で泣きだしていた。 「なんで恥ずかしいねん。・・・こないに綺麗やないかぁ。」 ピチャピチャ、と音をたてて舐めながら、昭彦は甘く囁くように言った。 それでも、子猫があまりにも泣きじゃくっているので、 「しゃぁーないなぁ・・・」 と、子猫を開放してやった。 子猫はぐったりと体を投げ出したまま、えっぐ、えっぐ、と泣き続けていた。 「そない泣かんとき。」 一度子猫から離れた昭彦は、手早く服を脱いで、再び子猫の脱力状態の足を掴んで開かせると、一気に体を深く沈めた。 「ああぁぁぁぁ…いやぁぁぁぁ…」 「アホッ・・・こっちは好きやろが・・・」 昭彦は泣くじゃくる子猫を胸に抱き締めて、腰を動かし膣壁を擦った。 ヌルヌルといつもより滑りが良く、スムーズに奥まで届く。 ジュプッジュプッ、グチュッグチュゥッ。 淫靡な音も粘着質な響きが伴っている。 子猫は泣きじゃくって震えながらも、昭彦の動きに引き込まれて、膣を擦られる快感が沸き上がってきていた。 思いきり押し広げられても、いつもより痛みが薄いように感じた。 「…あぁぁ、、、…ん、、ん、、…ぁぁん、、、」 子猫が快感に素直に反応するようになったので、 「ほれ見ぃ。ええやろぉ?」 と、頬ずりをして言った昭彦は、子猫の服も脱がせた。 ぷるん、と、こぼれ出た白い胸を掌に包んで揉み、指先で巧みに愛撫する。 「あ、、ぁぁ、、ん、、」 背中が浮くほど反り返って感じると、膣もキュゥゥーッと締め付けられる。 「ううぅぅぅ・・・はぁぁ・・・ええでぇ・・・」 昭彦は一層激しく子猫を突き上げる。 「あん、、、あん、、あぁぁん、、、」 子猫の意識の中から躊躇いは消えていた。 子猫自身も腰を振って、よがり声をあげる。 「あぁぁぁ、、、あきぃ、、、あぁぁぁん、、、」 「ええやろぉ?・・・わしもめっちゃ最高やでぇ。」 ほんの数日だけの我慢だったが、昭彦は溜まりに溜まった欲情をぶつけるように抱いた。 肉棒の激しいピストン運動に、結合している花弁の隙間から、蜜と混じり合った赤い汁が溢れてくる。 昭彦はタオルをもう一枚重ねてカバーしてやりつつ、腰を更に大きく振って蜜壺を強く擦り続けた。 「あぁん、、、はぁはぁ…あきぃ…いくぅ、、、いっちゃうぅぅ、、、あぁぁぁぁぁ、、、ん、、んんー、、、」 子猫が足の指まで反り返して歓喜の声をあげる。 「よっしゃぁー!わしもいくでぇー!」 昭彦が腰の動きを小刻みに早め、 「はぅぅぅっっっ・・・ああぁぁっっっ・・・くぅぅぅっっっ・・・」 と、息を詰めるようにして子猫の中に思いきり放出した。 全身を走り抜ける快感に身震いして大きく息を吐いた後、ズルズルズルッと穴に潜り込んでいたウツボを引っ張り出した。 子猫の足を広げさせたまま、自分が子猫の中に放出したミルクが、泡だってトロォーリと溢れてくるのを確認した昭彦は、 「今日はイチゴミルクやな。」 と、満足そうな笑みを浮かべて言った。 「…ぅぅ、、、…あきの、、、Hぃ、、、…」 子猫が泣き腫らした顔で拗ねたように言うと、 「Hやない男に価値があるかいな。」 と、片眉をあげて悪戯っぽく笑った昭彦は、 「ほな、もういっぺんや。」 と、また子猫を抱く態勢に入った。 「…ぇ…えぇ?」 子猫が戸惑っている間に、昭彦はイチゴミルクの溢れる中へと、血まみれの肉棒を押し込んだ。 「あーん…」 子猫の抗議の声がよがり声に変わっていく中、昭彦は、 「愛してる、子猫。・・・ホンマにきりないほど可愛いてたまらんでぇ。」 と、熱い息で囁くのだった。 立て続けに三度、子猫の中で熱いミルクを迸らせた昭彦は、恍惚とした表情で朦朧としている子猫に、 「ちゃんと綺麗にしてやるで、そのまま寝とったらええ。」 と、優しく言った。 それから、安心したように目を閉じた子猫の額にそっとキスをして、汚れた部分を丁寧に拭ってやり、新しい下着にナプキンを当てて子猫に履かせてやった。 子猫は女の子の日を恥ずかしいと感じているようだが、昭彦にしてみれば、中国時代の記憶で、腐りかけた傷口を無駄だと思いつつ手当してやった時のことを思うと、どんな基準で汚いという発想になるのかが理解しにくかった。 おそらくは潔癖症の母親が、子猫の生理用品を見るだけでも嫌がり、ちょっとでも汚れた物を目にしたら、自尊心がボロボロになるまで叱ったのだろうと、容易に推察出来る。 けれど、昭彦は視覚的な現象より、現象そのものが含む毒や悪意こそを醜い汚いものと感じていた。 純白の可憐な花がその根に猛毒を宿していたり、甘い香りのする劇薬があったりするように、人や自然においても、本質を見なければ意味がないと思っていた。 だから、子猫の綺麗な体から生じる全ての物は綺麗なのだ、と思うのだが、子猫が嫌がる内はあまり刺激しないようにしなければ、と、汚れたタオルを洗いながら思う昭彦だった。 シャワーを浴びて出てきた昭彦は、携帯の電話が鳴っていることに気付いた。 携帯はさっき脱いだ服のポケットに入れたままだった。 慌ててタオルを腰に巻いて寝室へ行くと、子猫が起きあがって不安そうな顔をしていた。 「何でもあらへん。仕事の話やろ。」 昭彦は急いで電話を取りだして、 「ああ、わしや。・・・もう出るとこやで・・・」 と言いながら部屋を出て襖を閉めてしまった。 台所の方から、微かに声が聞こえるが、内容まではわからない。 しばらくして、寝室に再び戻ってきた昭彦の髪はドライヤーで乾かしセットが済んでいた。 「お仕事?」 子猫がガウンを羽織って布団から起き出した。 「寝とったらええがな。夢を見ちょる間には戻って来れるでの。」 昭彦は、黒いワイシャツを着てシルバーグレイのネクタイを締めながら、側にきた子猫の頬にキスをした。 「…昭彦いないと…怖い夢見ちゃうもん…」 「ほな、また漢方茶入れたろか?」 「…あれ…苦いよぉ…」 「そない苦くないようにしたつもりやったがなぁ・・・甘茶もブレンドしたんやでぇ・・・」 昭彦は背広を着ながら、困ったように眉を寄せた。 「テスト近いから、勉強して待ってるぅ。」 「せやけど、時間はわからんで?」 「…いいの。」 子猫が背広の胸に顔を擦りつける。 昭彦は抱き締めて頬ずりをし、 「ほしたら、眠ぅなったら、ちゃんと布団で横になって寝るんやで?うたた寝しとると風邪引いてまうでな。」 と言って、子猫の顎をあげて唇を重ね、軽く舌を吸ってやった。 それから細かい注意をした後、 「鍵は掛けとくんやで。」 と念を押して、出掛けていった。 アパートの前にはすでに車が待機していた。 昭彦が乗り込むと、後部座席の奥でマサがにやにやしていた。車は目的地を承知の様子で、何も言わない内に静かに動き出した。 「夜は静かでんなぁ。ヘッヘッヘッ。」 「あ?・・・なんやねん?さっきからにやついてからに・・・」 昭彦は腕組みをして、横目でマサを睨んだ。 「ヘッヘッヘッ。・・”鍵は掛けとくんやで”と、ドクターの声が聞こえてきはりましてなぁ、浜田が吹き出しちょりましたで、叱ってやったとこでしたんや。」 「あー、おやっさん。言わないで下さいよぉ。」 車を運転しながら、浜田が首をすくめた。 「ほう・・・何が可笑しいんや?」 「いや、可笑しくないっす。・・ただ、あんまり優しい声でしたので、普段のドクターしか知らない者には意外だろうなぁ、と・・・」 「そら、当たり前やがな。男に甘い声出してどないすんねん。」 「あはは、そうっすね。そうでなくても、ドクターに惚れ込んでる男ばかりですし、違う危険が起きそうっすもんね。」 「・・アホ。」 昭彦はくだらない、とばかりに舌打ちをして、苦笑した。 夜の11時を過ぎてからの仕事だったが、浜田の明るい声は活力を与えてくれるようだった。 「・・・遅い時間の仕事で済まんのう。」 「構わないっすよ。待たせている彼女がいる訳じゃないですし。・・自分より、ドクターの方が心配でしょう?組の為に申し訳ないと思っております。」 浜田は神妙な顔つきになって、前を向いたまま頭を下げた。 浜田は昭彦のマスターの仕事を手伝うようになって、”組以外ではおじ貴と呼ぶな”と言われていることを忠実に守り、店の仕事がなくなった今でも外ではドクターと呼んでいた。 「そや・・・」 昭彦は思いだしたようにマサの方を向いた。 「なんでっしゃろ?」 マサはすぐに身を乗り出して聞いた。 浜田と昭彦の会話を何となく聞き流しているようでも、マサは昭彦の動向には常に注意を払っていた。 「ちょっとした知り合いなんやけどなぁ、競売にかけられそうな物件を先に処分したいっちゅうとるんや。」 「ヘヘッ。ええでんなぁ。」 「ゴルフ場と店舗の入ってる建物と二つなんやが、どっちかマサにやるで、どっちがええかと思うてな。」 「ええんでっか?」 「色々世話になっとるし、両方を組に差し出すんも、あの柏木を見とるとアホくさいでのう。ゴルフ場の方が安く叩けるやろが、すぐには動かせん物件やろし、建物は町中にあるで用途は広いで。・・・どや?」 「そうでんなぁ。ほなら、建物がええでんな。」 「そうか。なら、そうしよう。『アモーレ』とかいうレストランが入っとるが、追い出してマサの好きにしたらええ。」 「ああ、あの建物でっか。そらええわ。」 マサが、うんうん、と嬉しそうに頷くと、 「あの場所は最高っすよ。」 と、浜田も弾んだ声で言った。 「なんや、二人とも知っちょったんか。」 「小さな清流沿いにある散歩道が綺麗なデートコースっすよ。川には鯉も泳いでますし、アヒルが放し飼いになっている所です。『アモーレ』が出来たのは・・・そっか・・・ドクターが・・・」 浜田が済まなそうに言葉を途切れさせた。 「デートコースかぁ。・・近い内子猫を連れていってやるか。」 昭彦は、気にしない様子で言った。 5年も娑婆を離れていれば知らないことがあっても当然だった。 「そうでんな。」 マサがしんみりと頷いた後で、 「・・・で、買い取りの資金はどないします?」 と聞くと、 「クックックッ。その相手には、わしの貸しとる金が大分あるで、残りは数日中に都合つけるから心配せんでええ。」 と、妖しく目を光らせて言った。 「へぇ。」 マサは頭を下げて返事をすると、感心した眼差しで昭彦を惚れ惚れと見つめた。 恋に溺れても、肝心な所は抜かりがない。誰も追いつけないほどに、昭彦の頭脳は常に回転しているのだ。 だからこそ、昭彦がどんなに子猫に甘い顔をして甘い声を出していても、マサや浜田達崇拝者には絶対的存在なのだった。 そのことを知らない柏木達古参の不穏分子は、昭彦自身よりもそのバックが怖いのだと勘違いしていた。 そして、昭彦は自分の怖さを教えてやるほど親切ではなかった。 |
| <*23*> 「梅の精」 |
<*23*>「梅の精」 アパートの階段を上がる音で、子猫だとわかる。 まだ、起ききらない意識の中でそれを聞いていた昭彦は、部屋の鍵をそっと開ける音に、軽く微笑み、また目を閉じた。 今朝、子猫を送り出した時、今日で学年末テストが終わると嬉しそうに言っていた。 テスト勉強をしながら帰りを待っていた子猫を抱いて寝かせた後、数件電話で商談をまとめ、朝食の支度をしてから、子猫を起こして学校へ送りだした。 それから洗濯を済ませて眠ったので、まだ4時間ほどの睡眠だった。 昨夜も深夜まで人に会っていた。 子猫には言えないが、相手は春江だった。お金を無心する為だけに帰ってくる夏美の様子がおかしいと相談されたのだ。 東竜会に組みする山藤組が、東南アジアから入ってくる安物の麻薬を捌いているという話は知っていたが、そこの若衆と付き合っている夏美もどうやらその薬にはまってしまったらしい。 何度も注意し、警告もしてきたことだったが、娘として見てやると約束してある以上、放っておけなかった。 だが、子猫にしてみれば、別れた女に今でも会っているという事実は面白くないだろうと思うと、話す訳にはいかなかった。 「…ただいまぁ…」 子猫が小さな声で言いながら部屋に入ってきた。 昭彦が目を閉じたままでいると、すぐ側に座って様子を伺っているようだった。 「ただいまぁ…」 耳元に囁く子猫の甘い息がかかる。 それでも目を閉じていると、子猫の冷たい唇が唇に触れた。 「冷えとるやないかぁ。」 「…ぁん…起きてたのぉ?」 「足音で目ぇ覚めたんや。」 昭彦は子猫の頬に手をあてて、冷たい唇を舐めるようにキスをしてやった。 「制服かけて、入ってきや。」 そう言ってやると、 「うん。」 と、嬉しそうに返事をした子猫が、制服を脱いでハンガーにかけた後、下着姿で布団の中にモゾモゾと入ってきた。 子猫の体はひんやりとしている。 「寒かったやろ?」 昭彦は抱き包んで背中を摩擦で温めるように擦った。 「…うん。…でも、梅の花が咲いてたよ。」 子猫は昭彦の肩に甘えるように顔を擦りつけながら言った。 「もう、そんな季節かのう。」 昭彦は去年、塀の中で見た梅の花を思い出した。 真白い梅の花の下で、甘い香りに浸りながら遠い空を眺めていた。目的なく生き続ける虚しさを、甘い香りだけが癒してくれるように感じていた。 子猫はまるで、あの梅の精のようやな。 「子猫と出会うまで、わしはカラッポやった。しがらみだけで辛うじて生き繋いでおったものの、いつ命が終わってもいいと思うような抜け殻やったんや。」 「…昭彦?…いきなり、どうしたの?」 子猫が訳がわからないという顔で昭彦を見つめた。 昭彦は苦笑し、 「ちーと、塀の中で見た梅を思い出してもうたわ。」 と、言うと、子猫にキスをした。 「ぬくい紅梅の花見でもしよかの。」 「…ん?」 「ここの可愛い花のこっちゃがな。」 昭彦は悪戯っぽく笑って布団に潜ると、子猫の下着を剥ぎ取って、花陰に舌を差し込んだ。 「…ぁ、、ぁ、、…」 子猫は目を閉じて、頭を仰け反らせた。 春休みまではまだ3週間あるが、テストの心配もなく補習もないことが、子猫の気持ちを開放的にしているようだった。 昭彦に抱かれて嬉しそうに腰を振って感じる子猫を、 「そない気持ちええんか?」 と、昭彦がからかうように笑った。 「ぁ、、ぁ、ぁ、、…気持ちいいのぉぉ、、、ぁぁぁ、、、」 「もう、わしの大きさに順応しよったんか。」 子猫の花弁に吸い付かれ、肉襞に根元まで扱きあげられて、昭彦自身快感が背中を駆け登っていくのを、時々目を閉じて味わいながら、子猫の若い体に感心していた。 騎乗位にさせるのはまだ二度目だったが、前は昭彦に体を密着させて座るのも辛そうにしていたとは思えないほど、大胆に腰を動かし、丸みのあるふっくらとした胸を大きく揺らせて、体を弾ませている。 元々ゆるい女は二度も抱く気にはなれない。 が、子猫の締め付けるきつさはかつて経験がないほどに吸い付き、締め付けながら絶妙に蠢いて刺激してくる。 この体なら、どんな男も虜になるだろう、と思うと、危うくまた嫉妬にかられそうになる。 「まだ当たるとこが苦しいやろ?」 「…う、、ん、、、…ぁぁん、、、…でも…それがいいのぉぉ、、、」 子猫の赤みの強い乳首が乳輪が消えるほど固く突起している。 「ほう・・・痛いのもええんか?」 「…ぁぁん、、、…ちょっと、、だけ、、、」 子猫は腰の動きを早めながら、切なそうに答えた。 昭彦の目が妖しい光を宿した。 これは・・・掘り出し物やで・・・ 昭彦が試しに、固くなった乳首をキュゥゥーッと抓りながら捻ると、子猫は大きく仰け反って、昭彦の固い肉棒を負けじとばかりにキュゥキュゥと締め上げてきた。 さらに強く捻ると、全身を震わせて、 「あぁぁぁぁぁ、、、あぁぁぁん、、、」 と甘いよがり声をあげて感じている。 これだけの痛みに全身で感じるっちゅうことは、子猫は潜在的マゾやなぁ。奴隷願望が強い子っちゅうことや。 昭彦はニヤリと笑った。 ええやないかぁ。わしの奴隷にしたるでぇ。 「ええ子やでぇ。」 昭彦は起きあがって子猫を抱き締めると、熱いキスをして、舌を激しく絡めた。それから、 「四つん這いになりや。ワンワンスタイルやで。」 と、言って子猫にお尻を突き出させると、これまで加減してきた戒めを解いて、思いきり突き上げた。 肌のぶつかる音がするほど強く腰を打ち付け、容赦ない激しさでビンビンに張った肉棒を突き立てる。 摩擦で肉棒が熱を持ち、蜜壺が熱く熟していく。 子猫の白い肌も全身が桜色に染まっていき、甘く掠れるよがり声をあげ続けた。 「ぁ、、あぁぁ、、あ、、ぁぁぁ、、、…もう、、ぁぁ、、、ダメェ、、、ああぁ、、」 子猫がイク時はギュウギュウに締め付けてきて体が痙攣するのでわかるが、昭彦は何度も子猫をいかせながらも責め続けることを辞めなかった。 昭彦も先走りが止め処なく溢れていたが、コチコチの固さを維持させたまま、まだ発射させずにいた。 「はぁはぁ・・・ダメやのうて、お願いします、やろ?」 「…ぅぅ、、、…昭彦ぉ、、、」 「どないしたんや?言えへんのか?」 可愛くてたまらない思いとは裏腹に、厳しい口調で言った。 「…はぁはぁはぁ…お願いしますぅ、、、」 「なにをや?」 「…あぁぁ、、、ん、、、…昭彦も、、いってください、、、ぁぁ、、はぁはぁ…」 子猫があえぎながら言うと、 「ええ子や。・・・ちゃんと言えるやないかぁ。」 と優しい口調になって、 「今日はこの辺でええやろ。」 と言ってから、 「いくでぇぇぇぇ!」 と、腰を更に激しく早く打ち付け始めた。 「はぅぅっっ・・・ううぅぁぁぁぁぁぁっっっ!」 昭彦の雄叫びと同時に大量のミルクが迸り、子猫の中に注ぎ込まれた。 「あぁぁぁぁぁ…」 ミルクの熱さが伝わるかのように、子猫は恍惚とした表情で甘い絶叫をあげて受け入れた。 長く続いた行為にお互い息を荒げて、ぐったりと体を横たえた。 しばらく目を閉じて息を整えていた昭彦が、ズッポンッと満足しきった男根を抜いた。 子猫は陶酔の余韻に意識を投げ出して、力無く目を閉じていた。 足を開かせ、溢れてくる白いミルクを、目で確認出来る愛の印のように、愛おしく思いながら眺めていた昭彦は、これを子猫にも見せてやりたい、と思った。 そおや。あの部屋の寝室は鏡張りにしよう。 昭彦は先日買ったマンションの部屋を思い浮かべながら、そこの寝室を思いきり愛し合う空間にしようと、楽しく想像した。 わしに抱かれる姿を、子猫の目に焼きつかせたる。わしの物やと自覚させ、わししか見えんようにしたるで。 昭彦は含み笑いをしながら、子猫の体に寄り添い、布団をかけてやった。 テスト勉強などで睡眠不足気味だったこともあって、子猫は2時間ほど眠っていた。 昭彦も子猫の小さな寝息を子守歌に微睡んでいた。 「目ぇ覚めたんか?」 子猫がふぅっと息をついて顔を胸に擦り付けてきたので、昭彦は髪を撫でながら声をかけた。 「…う、、ん、、…」 子猫は戸惑ったように返事をした。 「・・・ん?・・・どないした?」 「…だって…昭彦…怖かったんだもん…」 「アホォ・・・怖いことあるかい。」 昭彦は子猫を優しく抱き寄せて、額にキスをした。 が、子猫は視線を逸らすように、また胸に顔を埋めてしまう。 「・・・そない・・怖いこと、あらへんがな。」 宥めるように背中を撫でる。 「・・・怖いわしは・・嫌いか?」 子猫は胸に顔を埋めたまま首を振った。 「…でも…」 「・・・ん?」 「…怒ってるみたいで…どうしていいか…わかんなくなっちゃうんだもん…」 「なんも怒っちょらんやろが・・・」 昭彦は困って、下へ下へと潜ろうとする子猫を吊り上げ、顔を逸らそうとするのを押さえつけてキスをした。 キスで落ち着いたのか、涙に濡れた睫毛を瞬かせて、昭彦を上目遣いに見てくる。 「なぁに泣いちょるんや・・・アホ。」 「…やっぱ…怒ってるぅ…」 「ちゃうて、ホンマに・・・大阪弁のアホには二種類あるんや。・・・子猫に使うアホは”愛してる”のアと”惚れてる”のホなんやで。」 「…そうなの?」 「そうや。」 昭彦が愛情を込めてもう一度キスをしてやると、子猫はやっとホッとしたように笑顔になった。 「ほな、支度して出掛けよか?」 「…ぇ…どこへ?」 「たまには外で食事しよや。な?」 「うん。」 子猫の明るい目がキラキラと輝いて、嬉しそうに頷いた。 「そない外食がええんか?」 昭彦は少し不服そうに言った。 「だってぇ、デートだもん。…料理は昭彦の方が美味しいけどぉ…」 「クスッ・・・それもそうやな。」 納得した昭彦は満足そうに頷いた。 揃って部屋を出ようとした時、昭彦の携帯が鳴った。 すでに靴を履いていた子猫は、 「じゃぁ、外で待ってるね。」 と言って、先に表に出た。 電話の相手は東竜会組長からで、話を簡単に済ませる訳にもいかず、15分ほど話し込んでしまった。 やっと話を切り上げて部屋を出た昭彦は、下の通りで子猫が若い男と話しているのを目にして息を飲んだ。 相手は隣りの部屋の大学生だった。 子猫が昭彦に気付いて手を振ったので、その学生は、 「じゃぁ。」 と、子猫から離れて、アパートの階段を上がってきた。 昭彦はゆっくりと鍵をかけながら、学生が自分の部屋を開けるのを待っていた。 学生は昭彦にちょっと頭を下げると、鍵を開け部屋に入っていこうとした。 そのタイミングを待っていた昭彦は、学生を突き飛ばすようにして学生の部屋に入り、ドアを閉めた。 「何するんですか?」 「じゃかぁしぃ!われぇ!人の女にちょっかい出すたぁどーゆーこっちゃねん!」 昭彦は、外で待っている子猫に聞こえないように、声を殺しながらもドスを効かせた口調で言った。 「お・・俺は別に・・・この前、醤油を借りたお礼を言ってただけで・・・」 学生は土足のまま上がった部屋を、青ざめた顔で後ずさりしていた。 昭彦はやはり土足のまま、学生に睨みを効かせながら、 「軽々しく口きくもんやないで!」 と、腹部を殴った後、よろけて倒れそうになる学生の襟首をつかんで、壁に押しつけて宙吊りにした。 学生は声も出せずに全身を硬直させていた。 「二度と話かけんなや!」 地獄の底から吹き上げる風のような昭彦の声に、ぶるぶる震えながらやっと頷いた学生を、昭彦は突き飛ばすように離した。 それから昭彦は、学生の部屋を出る前に衿を正し、眉間のシワを指で伸ばして表に出た。 子猫は学生の部屋から出てくる昭彦を不思議そうに見ていた。 「どうしたの?」 表情の硬い昭彦を子猫が覗き込む。 「・・いや、ちょっと・・・留守番を頼んできたんや。」 「…ふーん…そっか…」 子猫はニコッと笑って、昭彦の腕に腕を絡めた。 昭彦の腕につかまって、時々顔を擦りつけるのが、最近の子猫のお気に入りだった。 やくざ時代には女に並んで歩くことを許さなかった昭彦だったが、子猫はいつコケて転ぶか気になって、こうしてつかまっていてくれる方が安心できた。 何もない所でもコケる時があるので、触れずに守ると決めていた頃は、いつ転ばないかと気が抜けなかった。 何かに気を取られると、歩いていることも忘れてしまって、人にぶつかりそうになるので、その度に腕をつかんで避けさせてやったりしていた。 子猫が顔を擦りつけてくる度に股間がムズつくのだが、それくらの我慢の方が心配するよりマシだった。 子猫は昭彦と並んで歩くのが嬉しそうで、顔を擦り付けては昭彦の顔を甘えた視線で見上げた。 そんな仕草を可愛いと思いながらも、今の昭彦はまだ学生への腹立たしさが消えなかった。 「・・・醤油貸したんやて?」 「え?…あぁ、さっきの彼?…うん。貸したってゆーか…分けてあげたんだけどぉ…いけなかった?」 「聞いてへんがな。」 昭彦がムスッとして言った。 「…ごめんなさい…」 「わしのおらん時は人が来ても無視せんとあかんで。」 「えー……なんでぇ?」 危険だから、とは言えなかった。 「子猫があんまり可愛いで、誘拐されたらたまらん。」 「まっさかぁ…」 子猫は目を丸くして言うと、きゃっきゃと笑い出した。どうやら昭彦の単純な嫉妬と思ったようだった。 「・・・子猫はあーゆー学生みたいなんも好きなんか?」 「ぜんぜーん。…猫はおじ様が好きぃ。…ふふっ。」 子猫はまたすりすりと顔を擦り付ける。 昭彦は複雑な心境でため息を吐いた。 二十歳過ぎの娘に父親として見られていても、そうした役割だと思っているので何の抵抗もなかったが、子猫におじ様と見られているのかと思うと焦りを感じてしまう。 こうして並んで歩いていると、ある人は親子と思うかもしれない。それはそれで人それぞれの印象なのだから気にすることでもなかったが、子猫にはもっと若さをアピールしたかった。 「・・わしはまだまだ若いんやで。」 呟くように言った昭彦の言葉に子猫はキョトンとしてから、 「ぁ…モチ、昭彦をおじ様なんて思ってないよぉ。」 と、ふわっと微笑んだ。 「…でも…落ち着いた感じが好き。」 そう恥ずかしそうに言う子猫の頬がポッと赤らむのを、まぁええか、と思いながら笑みを浮かべた昭彦だったが、ジムで鍛え直すで、と密かに思うのだった。 『アモーレ』で食事をし、清流沿いの綺麗な舗道を子猫と腕を組んでゆっくり歩いていると、数人の派手なスーツを着た男達が反対方向から歩いてきた。 子猫はお腹もいっぱいになった満足感で、一層密着して甘えている。 「ここは鯉もいるらしいで。」 「…そうなのぉ?…いるかなぁ?」 子猫は腕につかまったまま川を覗き込んだ。 子猫の気を逸らせてる間に昭彦は、昭彦に気付いて駆け寄ろうとしている男達に、手で来ないように合図した。 男達は立ち止まって深々と挨拶すると、邪魔をしないようにと脇道に入っていった。 「…あっ…いるいるぅ。」 子猫は気付かずに、小さな魚を見つけて嬉しそうにしていた。 「・・・なんや。色のない鯉かい。」 昭彦は内心ほっと安堵の息を吐きながら、気のない返事をした。 「でも、可愛いよぉ。」 「クックッ。そうか?」 「うん。」 子猫の向ける笑顔に、昭彦は優しく微笑み返した。 |
| <*24*> 「制裁」 |
<*24*>「制裁」 夏美に薬をやめさせるにも、原因となっている男と別れさせないことには、また繰り返しかねない。 それで、昭彦はマサと共に男が出入りしている山藤組を訪ねた。 組長の山藤は柏木と同じに東竜会組長の直杯で、やはり昭彦やマサを快く思っていない人物だった。 山藤は、組長が昭彦に執着し、戻ることを強く望んでいることも、戻った時には組長代理にしようとしていることも知っていたし、マサに対しても東竜会の若頭となっている為、柏木のようなあからさまな嫌悪感は出さずに、表向きは遜った態度で丁寧な言葉を使っていた。 だが、言葉とは裏腹に、昭彦が夏美の付き合っている男のことを持ち出しても、自分はかかわりがない、ととぼけるばかりだった。 「いくらウチに出入りしていると言っても、まだ杯をわけてやってない以上、その責任を私どもに言われても困りますよ、ドクター。」 山藤は口の端に皮肉っぽい笑みさえ浮かべている。 「ほう・・・そうかぁ。・・・せやけど、夏美が使うとる薬はここで扱っちょる物やろが。関係ないて言い切れるんか?」 「まあ、ドクターが父親代わりとおっしゃるなら、これからはお嬢さんの教育なり、キチッとされることですね。」 バンッ!! マサが目の前のテーブルを思いきり叩いた。 「ふざけたらあかんで!・・・山藤はん。あんた自分が何言うとるか、わかっちょるんか?」 「そうはおっしゃられてもですね、若頭。そんな下っ端のことにまでいちいち責任は取れんでしょうが?」 「問題はそんなことやないで。あんたんとこの若い者が、ドクターのお嬢はんを薬漬けにしたっちゅうことやねんで?」 「ですから・・・」 「その男の責任問題を言うちょるんやない!ドクターの娘である夏美はんにした行為をどう思うとるんやっちゅうとんや!」 マサが声を荒げて、凄味を効かせて睨んだ。 「そない言うなら、あんたんとこの家族を、ウチに出入りしているだけやっちゅう誰かが殺したかて、わては一切関係ないっちゅうことでええんやな?」 山藤が顔色を変えて、マサを睨んだ。 「そーゆーことやないんかい!え!どないや!!」 マサも負けてはいなかった。 「そしたら葬式にでも行って、これからはもう少し家族が危険な目に合わないように気をつけることや、っちゅうたらええんか!!アホンダラ!!」 マサの剣幕は尋常ではなかった。 昭彦は腕組みをして同じように山藤を睨んでいる。 「ドクターが東竜会に戻ることは決まっちょるんやで!組長のたっての願いでのう!そん時、どないな顔でドクターの前に出るつもりや!考え違いもええ加減にさらせや!!」 山藤の顔色が次第に青ざめていく。 マサの勝ちやな。 昭彦は山藤を睨みつけたまま、内心でニヤリと笑った。 こうした時に下手に出たら、軽く見られてあしらわれるだけなのだ。何が何でも相手が悪いと言った者勝ちである。 「・・おい!その男を引っ張って来い!」 とうとう山藤が部下に叫んだ。 組員が総動員して男を捜して連れてきたのは1時間後のことだった。 「俺の顔に泥を塗りやがってぇ!」 山藤はマサに怒鳴られた腹いせも込めて、男を殴り続けた。それから、昭彦とマサの見ている前で指を詰めさせて、 「二度とウチの組の敷居は跨がせません。」 と、昭彦に頭を下げた。 「・・・せやな。」 そう言うと、それまでほとんど表情を変えずに眺めていた昭彦が男に歩み寄った。 顔が変形するほど殴られ、血まみれの手をタオルで巻いた男は、脅えて後ずさりした。 昭彦が背広の内ポケットに手を入れたので、男は拳銃で撃たれると思ったのか、思わず失禁してしまった。 だが、昭彦が出したのは帯のかかった札束だった。 束が三つ、男の前に放り投げられた。 「手切れ金や。顔を見ればまた恋しくなるかも知れんでのう。これで県外に姿隠してくれや。ええな?」 男はガタガタ震えながら頷いた。 昭彦は山藤に顔を向け、 「ほな、夏美は引き取らせて頂きますわ。」 と言って、マサを促した。 夏美は男と一緒の所を連れて来られ、別室に保護されていた。 「ドクター。これだけはわかって頂きたい。私は本当に、この男がドクターのお嬢様に御迷惑をかけているとは知らなかったのです。決して悪意のないことを信じて頂きたい。」 山藤の言葉に、昭彦は氷のような視線を投げ、 「ほうかぁ。・・したら、これからは自分とこの若い者へも気ぃつけて、キチッと教育するこっちゃな。」 と言った。 怒鳴りつけたのはマサだったが、それにも負けないほど昭彦が怒っていたことを、山藤は思い知らされる結果となった。 昭彦は泣き叫ぶ夏美を車に乗せ、懇意にしている院長のいる病院に連れて行き、母親の春江に連絡した。 春江は仕事中だったが、すぐに駆けつけてきて、説明をする昭彦の胸に泣き崩れた。 「ここで薬を体から抜く治療をしてくれるように頼んでおいたが、本人も辛いだろうし、かなり荒れる時もあると思う。泣かないで、しっかりしないとな?」 昭彦の言葉に涙を拭って頷いた春江は、 「・・取り乱して・・ごめんなさい。」 と、昭彦の胸から離れると、 「でも・・・やっぱり、母親だけじゃダメなのかしら・・・」 と、苦しそうに息を吐いた。 「何弱気になっているんだ?・・・やくざな父親がいるよりも、しっかりした母親がいてくれれば子供は立ち直れるものだよ。・・・後は本人の心掛け次第だがな。」 「・・・もう・・・私には夏美がわからないの・・・」 春江は涙を拭ったハンカチで顔を覆った。 以前の昭彦なら、その震える肩を抱いて優しくさすってやっていただろう。だが、春江がいくら待っても昭彦の暖かい手が触れることはなかった。 「反抗期は誰にでもあるもんでっしゃろ?・・春江はんなら大丈夫だっせ。」 昭彦の代わりにマサの声が近くで聞こえ、春江は顔をあげた。昭彦は数歩離れた所で腕時計を見ていた。 春江は昭彦をもう男として見てはいけないことを悟った。 「ドクターは今、色々と組の問題とかも抱えてはって忙しいんや。なんぞ手助けが必要な時はわての方に言うてくれやっさ。わてに出来ることなら何でも援助さして貰いまっさかいのう。」 マサは、春江の悲しげな視線に気付いて、励ますように言った。 「・・・はい。・・・ありがとうございます。」 春江はマサに深々と頭を下げた。 「相手の男には、ドクターが手切れ金を渡して、姿を消すように言うてあるでな。後は夏美はんが立ち直ってくれるように祈るばかりや。・・・ちゅうても、ドクターの言わはるように、本人が気付かな、誰が言うてもあかんやろ。・・・春江はんも辛いやろが、母親でも父親でもこれ以上は何もしてやれん、っちゅうもんもあるやろと思うで。甘やかすばかりでも、あかんのやで?」 「・・・はい。」 マサの言葉に春江は弱々しく頷いた。 「ほな、失礼しまっさ。」 マサは軽く会釈して、腕組みをして待っている昭彦とその場を後にした。 浜田の運転する車に乗り込んだ昭彦は、再び腕組みをして難しい顔でため息をついた。 「夏美はんも今度のことで反省してくれるとええでんなぁ。」 マサが昭彦を気遣うように言うと、 「その話はもうええ。」 と昭彦が不機嫌そうに言った。 「責任放棄したら、大阪の兄さんに叱られそうやで、わしに出来ることをしてやったまでや。これ以上関わるんは御免やで。」 マサは困惑気味に、 「そない言わはっても・・・」 と言いかけたが、言葉を飲み込んだ。 娘をタチの悪いやくざと別れさせる父親役を果たした昭彦自身が、子猫という普通の高校生と付き合っているのだ。 子猫の母親から見れば、昭彦もタチの悪いやくざと変わらないだろう。 何が良いか悪いかは、主観と客観では違ってくる。 自分にとって都合が悪ければ悪人となり、どんなに罪を背負っていても自分に都合が良ければいい人だと思ってしまう。 結局は付き合う本人が自分の責任で判断し選ぶしかないのだ。 相手がどんな悪人でも、本人がそれでいいと思うなら、本来は放っておくべきことなのかも知れない。 問題はその本人に責任意識があるか、どうかだろう。 春江や姉の冬美が心配して泣きついてくるから、昭彦も干渉せざるを得なかったが、とことん男に惚れ抜いて、一緒に落ちるとこまで落ちていく気持ちが夏美にあるなら、好きな生き方を認めるのも、一つの道だろう。 マサも腕組みをしてため息を吐いた。 「・・・わて等もやくざでおますしなぁ・・・」 マサが呟くように言うと、 「付き合う女を薬漬けにするんは、やくざの常套手段や。・・せやけど、惚れた女を薬漬けにする男はいないやろ。つまりは利用されちょるだけやがな。そないなこともわからんのか・・・わかってても自暴自棄になっちょるんか・・・困った娘やで。」 と、昭彦が眉をひそめて言った後、 「いずれにしても、わしに関わる者に危害を加える相手はどんな理由があろうと許さへん。まだ夏美の本心がわからんから、今回は生かしておいてやったが、あの男に次はないで。」 と続けた。 マサは目を瞬かせ、 「そうでんな。」 と頷いた。 どうやら昭彦はマサが気に掛けていたことなど考えてもいなかったようだった。 すでに昭彦には善悪の判断などどうでも良かったのだ。ただ、自分に敵対する相手は攻撃するのみ。 これでこそ、昭彦なのだ。 マサは嬉しくなって、 「ヘッヘッヘッ。今度あいつの顔を見ることがあったら、1ミリ単位で刻んでやりまっさ。」 と答えた。 「・・・せやけど、子猫に娘の存在を知られたのは痛かったで。」 そう言って、昭彦が眉間のシワを指で押したので、マサは、ああそれで、と納得した。 昭彦の機嫌の悪い理由はそこにあったのだ。 「子猫はん、ショック受けはったんでっか?」 「そらショックやろ。・・しかも初めは冬美をわしの元愛人と勘違いしちょったで、泣くわ、拗ねるわで大変やったで。」 マサが苦笑を洩らすと同時に、運転していた浜田が吹き出した。 「浜田。ドクターが困っちょるんを笑うんやないで。」 マサは咳払いして誤魔化しながら浜田を注意した。 「済んません。・・・でも、確かに冬美さんは美人ですもんねぇ。」 「ほう・・浜田の好みなんか?それやったら嫁にするか?」 昭彦がからかって言うと、 「勘弁して下さい。怖くて夫婦喧嘩も出来ないっすよ。」 と浜田が首をすくめた。 「クックックッ。夫婦喧嘩にまで口を挟むかい。」 「それに結構冬美さんもファザコンでしょう?何かにつけてドクターと比べられたらたまらないっすよ。ドクターに勝る男なんている訳ないっすから。」 自分自身より、昭彦のことを自慢げに言う浜田に、 「そない言うちょると、浜田もわてのように一生結婚出来へんでぇ。」 と、マサが苦笑しながら言った。 「結婚は成り行きでいいっす。・・・けど、彼女は欲しいっすね。」 と答えた浜田が、 「そう言えば、先日ウチの者が子猫さんを見たって喜んでました。」 とにやにやして言った。 「あぁ・・そやったのう。」 昭彦は『アモーレ』の前の通りで行き会いかけた男達の姿を思い出した。 「めちゃめちゃ可愛いって、さすがドクターの付き合う相手は違う、って言ってましたよ。」 「あんまり子供っぽいんで呆れてたやろ?」 「あはは。中学生でも通るくらい可愛いとは言ってましたけど、あんなに無邪気に甘えられたらドクターも立ちっぱなしで大変だろう、と・・・あ、済みません。」 「クックックッ。ホンマやで。けど、子猫本人には自覚がないで、余計に始末が悪いんや。」 昭彦は困ったように首を振ったが、子猫の話題になって気分が高揚したようで、表情が和らいでいた。 「ドクター、鼻の下が伸びてまっせ。」 マサが目を眇めてボソリと言うと、 「鼻の下だけやのうて、下の亀も首を伸ばしよる。」 と、昭彦が言って笑った。 これにはマサも呆れて、 「よう言いまんなぁ。」 と笑い出し、浜田も加えて男同士だけの笑いにしばらく興じた。 東竜会組長から呼ばれていた昭彦はそのまま組事務所へと向かった。 浜田を車に残し、マサと組長室に入ろうとした昭彦を、柏木組の者が足止めした。 「何のまねや!」 マサが怒鳴ると、 「あ、いや・・済んませんけど、・・若頭には遠慮願うようにとウチのおやじが・・・」 と、足止めした若衆が頭を下げた。 「フン。放っとけや。」 昭彦は取りあわずにドアを開けた。 組長は中央正面のソファーに座っていた。 その右側に柏木と柏木組若頭の植木が座っていた。 「失礼します。」 と、昭彦が組長に頭を下げると、 「ドクター。今日は組長との話やろが?若頭は遠慮して貰いたいもんやで。」 と、柏木が料亭での意趣返しのように、片頬に皮肉げな笑みを浮かべて言った。 「あんましアホ過ぎて話にもならんわ。」 昭彦は柏木を冷たく蔑視して左側のソファーに座った。 マサも柏木を睨みつけながら昭彦の隣りに座った。 「組長。済んませんけど、ちーとこのアホにわからしてやってええですか?」 「まぁ、ほどほどにな。」 組長は昭彦に任せると言った表情で肩をすくめた。 その様子に柏木は唇を噛んだ。 「柏木さんよ。あんた見当違いもええ加減にせぇよ。組の大事な話があるっちゅうから来とんのに、何で組の若頭が同席したらあかんのや?・・組長とわしだけの密談っちゅうならまだしも、あんたが同席してマサが席を外すなんてふざけた道理があるんか?しかも、あんたは自分の子分まで同席させとる。・・・今ぁこの組でマサとあんたとどっちが上や?言うてみぃ!」 柏木はフンとそっぽを向いた。 「料亭での話し合いに、あんたの腰巾着を同席させんかったんが、そない気にくわんかったんか?・・せやけど、あの時はマサんとこの若頭かて同席はしてなかったんやで?・・・ったく、そないなこともわからんようなあんたがおるから、組がバラバラになるんや。」 昭彦は完全に柏木を敵視したようだった。 「そんな偉そうなことを言ってられるのも今だけだぞ、ドクター。貴様の裏切り行為を今日は組長の前ではっきりさせてやるからな。」 柏木も敵意を剥き出しにしてきた。 「そーゆー筋書きかい。それでわしの弁護をせんように、マサを除け者にしたかったんか?・・・アホクサ。わしは何も裏切っとらんし、マサの弁護もいらんで。」 「とぼけてもネタはあがってるんだ!」 柏木が唾を飛ばして怒鳴った。 「柏木。落ち着けや。」 組長が宥めるように言った。それから、 「どうも、柏木の言うことだけではわからんこともあるで、説明して貰おうとドクターに来て貰うたんや。」 と、昭彦に向かって言った。昭彦は、 「柏木さんがわしを陥れん限り裏切りなんてありえんこっちゃ。頼まれ事によっては出来るか出来ないか選ばして貰いますけど、わしは裏切り行為は大嫌いやで、そないなことを自分でしようとは思わへんですわ。」 と、組長に言ってから、 「人を陥れようっちゅうからには、それなりの覚悟があってのことやろうな?・・冗談やったでは済まさへんで?ええな?」 と、柏木を睨み据えた。 柏木はたじろぎながらも、 「冗談なもんか!」 と睨み返した。 「ほな、あんたの言う裏切りがなんなのか、聞かして貰おか?」 昭彦はソファーにゆったりともたれかかると、腕組みをして足を組んだ。 柏木が説明を始めた。 昭彦が周凰明との取引に使った東竜会の資金を、別の用途にも利用して着服していると言うのだ。 「あんたやあるまいし、アホらしい。」 と昭彦は鼻で笑ったが、証拠があると柏木は言い張った。 それは、昭彦がマサに贈った建物のことだった。 柏木もその物件が動きそうなので狙っていたが、いつの間にかマサの物になってしまっている。しかも、建物だけでなく、建物がある敷地とその周辺の土地もすべて含めての物件で、どんなに安く見積もっても20億は下らない代物だと熱弁した。 娑婆に戻ったばかりでアパート暮らしの昭彦に買えるはずがない。組の資金を購入資金の一部にあてているはずだ。 と、柏木は昭彦を罵倒した。 昭彦とマサは黙って聞いていたが、その内、可笑しそうに忍び笑いを洩らし始めた。 ただ、笑いながらも柏木への怒りは確実に増していった。 「わしが組から預かった金はたかだか5億やで?どう使うたかて、組の金で買える物件やないやろが?」 「だから、その5億を元手に儲けた金をそっちに回したんだろうが!」 「証拠もなしに憶測でものを言うたらあかんで。・・・組長。・・・わしが組の資金で取引したものは全部、組に還元しとるのはご存知でしょう?」 昭彦が呆れて言うと、組長はうんうんと頷き、 「確かにのう。5億が50億で戻ってくれば、充分やと思うがのう。」 と言った。 「え・・・ご・・50億ですか?」 柏木の顔からサーッと血の気が引いていった。 「ああ。まだ言うてなかったかの?・・・会社設立資金やで、まだ組の者には言わないようにドクターから言われとったもんやでのう。」 「そ・・それでも・・・それが全部還元されてるとは言えないでしょう?」 「そうや。その可能性もあるで、ドクターの説明を聞く為に呼んだんやないかい。」 「そうですとも!・・本当はもっと稼いでいるはずです。」 柏木は何とかこじつけようとしているようだった。 昭彦は舌打ちをして面倒臭そうにため息を吐いた。 「柏木さんよ。あんた、わしを誰やと思うとるんや?・・・人を竜崎の兄貴の小姓呼ばわりするんやったら、その意味も考えたらどうや?」 「・・い・・意味・・・?」 柏木はまだ虚勢を張ろうと、にやけた笑みを浮かべた。が、昭彦の氷のような視線に、引きつった笑顔のまま固まった。 「わしは金のない悔しさを知ってるでの。・・その為に妹も亡くしちょる。・・・いざとなったら金は必要や、と思う方や。・・・竜崎の兄貴は金に頓着せんが、わしはわし自身で稼いだ金は個人的に投資したり、貸したりして増やしてきたんや。もちろん、決まり通りのシノギは上納しちょるで、何も後ろめたい金やないで。」 「そ・・それは・・・む・・昔の話だろうが。」 「山神組におった12年間。しかも商才にかけては超天才と言われる竜崎の兄貴の下におったんや。・・それにわしは、あの矢木沢コンツェルンが矢木沢貿易だった頃からの株主やで。・・その意味がわかるか?」 柏木は言葉もなく顔を痙攣させていた。 「せやけど、わしが個人的な金を作っちょったんも、兄貴が困った時があったら使おうと思ったからやで、自分の為に使う気ぃはなかったんや。せやから、関東に来てからは一切手をつけんかった。・・・それでも東竜会に世話になっちょった時は、いつも相当のシノギを稼いできたはずやで?」 「そうやったのう。」 組長がもっともだとばかりに頷いた。 「大阪におった頃の金はないものと思うて、使いたくなかったんやが、・・・どんな金を使うても幸せにしたりたい存在が出来たで、管理を任せとった弁護士に言うて、いくらか用意させたんや。・・・そこから、いつも世話になっちょるマサにも、調度ええ物件があったで、礼に贈っただけやがな。それに、売り主は前からの知り合いやで、差し押さえになる前に何とかしてくれ、て頼まれたこともあって、柏木さんが言うほどの値は出さんかったで。」 昭彦がそこまで説明した時には、柏木は両手を握りしめて項垂れていた。 「何で自分の金で物を買うて裏切りになるんやろのう?」 「いや。ようわかったで。説明さして済まんかったが、ちょっとした誤解や。怒りを収めてくれんか?」 「おやっさん。わしは組の為と思うて、周との危険な取引もしとるんや。それを、やれ美味しい話を独り占めにしちょるやの、組の金を着服しちょるやのと言い掛かりを付けられて、言いたくもない過去まで話して説明せなならんかったんやで?・・・笑うて収めるちゅうんは、どないしたかて無理やとは思いまへんか?」 「・・・それはそうなんやが・・・困ったのう。」 「初めに言うたように、柏木さんにはそれなりの責任を取って貰わんことには、収めようもないですわ。」 「・・・どんな責任や?」 組長は顔をしかめて腕組みをした。 「今後、余計なことを言わんように、舌でも引き抜いて貰いましょうや。」 「グェッ・・」 柏木が恐怖におののいた顔で口元を両手で覆った。 「・・ドクター・・・いくら何でもそこまでは・・・わしの嫁も柏木の嫁の友達やでのう。何とか穏便にしてくれんか?」 組長が困った顔で言うので、昭彦は苦々しい笑みを浮かべた。 「まぁ、わしはまだ組に復帰もしてへん身ぃやで、組長が昔馴染みを大事にしたいっちゅうなら、それまでや。わしが稼いでやった金は戻して貰いますわ。その上で一切の縁は切らせて貰いましょう。」 「あ・・いや・・・それは・・・」 「ホンマにぬるうてたまらんわ。・・・柏木の嫁がなんぼのもんじゃ?どんだけ組に貢献しちょるっちゅうんや?女が自分の身ぃを危険に晒して、自分の手ぇ汚して、シノギをあげとるっちゅうんか?人の寝とる夜中まで走り回って働いちょるゆうんですか?・・・亭主が捕まってお務めしちょる間、亭主に代わって組をまとめちょる姐っちゅうならまだしも、・・・男のチンポをしゃぶるんが上手いだけの女が、何で組のことに顔を出すんかわからへん。自分の女をどう大事にするかは、男自身の甲斐性やないんですか?・・・そないケジメが出来んような組におったら、命賭けちょる下の者はたまったもんやない。」 「・・・うむ。」 組長はぐうの音も出ないというように目を閉じて呻った。 形勢が悪いのを歯を食いしばって見ていた柏木組の植木が、 「てめぇも女に骨抜きにされてるだろうが!」 と叫んだ。 昭彦がほとんど無表情に植木を見た。 無表情だったが、その眼差しは悪魔そのものだった。 「われの舌も抜けや。」 昭彦の声は死に神の宣告のように冷たく響いた。 「話をすり替えたらあかんで。・・・わしがわしの女を大事にするんは、わしの甲斐性やがな。わしがわしの大事にしちょる者達を守るんかて、わしの甲斐性や。・・・せやけど、わしがいつそのことで組の運営方針をどうとかちゅうたんや?何も話の場には出しとらんやろが?」 昭彦はうんざりしたため息を大きく吐き出した。 「せやから、わしの女をわしの留守中に始末されたかて、何も言うとらんのやないか?あん時かて、わしは女がかけた迷惑分はきっちり返したはずやがな。・・・女が可愛いて言うちょるんやない。自分の女の始末は自分でつけるつもりやったんや。」 「・・うぅむ・・・済まんかったのう。」 組長が渋面で済まなそうに言った。 組長がすっかり昭彦にのまれていることに、柏木は危機感を感じて、 「おやっさん。関西から流れてきたような奴の言い分なんて聞くことない。関東は関東でやっていきましょう。」 と言った。 「アホォ!!わしも関西出身やで!!」 組長が柏木を罵倒した。 「しかも本家は大阪やないかい!!ドクターはその本家から預かったんやで!!何考えとんじゃ!!」 組長の気持ちは一気に昭彦に傾斜した。 「柏木!舌をドクターに差し出せや!そっちの植木もや!ええなッ!!」 柏木は蒼白になって立ち上がった。 「・・・冗談じゃない。・・・もうやってられるかぁぁー!!」 柏木が拳銃を取り出した。 が、銃口を向ける前に昭彦にソファーごと蹴り倒され、銃を握っていた手をメスで床に貼り付けられてしまった。 「ウギャァァァァァーーー!!!」 柏木の叫び声に、ソファーと一緒に倒れ込んでいた植木が、自分も拳銃を取り出した。 プシュ!! マサが消音銃で植木の頭を撃ち抜いた。 柏木の叫び声に、外にいた柏木組員と、東竜会直属の組員が部屋に飛び込んできた。 「おとなしゅうせい!これは制裁や!」 組長が組員達の動きを制した。 柏木組員が目を剥いて、 「おやっさん?!・・・おじ貴・・・」 と声をあげた途端、東竜会組員に喉元に銃口を突きつけられ、ヒッと息を飲んで硬直した。 「グワァァァーーー!ギャァァァーーー!!」 掌を貫通したメスが床に刺さり、痛みと恐怖で柏木が叫び続けている。 「ホンマにやかましいやっちゃな。」 昭彦が二本目のメスを取りだした。 と、その時、 「ドクターがお手を汚されることはありません。」 と、東竜会組員の一人が言って、柏木に向かって拳銃を発射させた。 プシュッ! やはり、マサと同じ消音銃だった。それから、 「おい!さっさとくるんで運び出せ!これ以上汚い血で組長室を汚されたら、たまらないだろう!」 と、下の者達を指図した。 「さすが、石橋やな。手際がええで。」 昭彦が感心して笑うと、石橋は、 「恐れ入ります。」 と、丁寧に頭を下げた。 鉄砲玉の処分と違って、組長と若頭の遺体は組に戻されることになった。 が、先に銃を向けたのが二人自身であり、それも失態の責任を問われて逆上しての行為で、東竜会組長の”制裁”と言う言葉に、柏木組の反論の余地はなかった。 警察に主犯として自首した組の若い者も、正当防衛でそう長いお務めにはならないだろう。 柏木の女房が、友人でもある東竜会組長の姐に泣いて訴えたが、姐も組長に取りあわないように言われていて、どうすることも出来なかった。 この一件後、昭彦は東竜会に復帰し、組長代理として、組織編成の建て直しをすることになった。 けれど、それは子猫のまったく知らないことだった。 子猫は新しいマンションに移ったばかりで、昭彦と二人で暮らすのに必要な物を、あれこれ考えながら、同棲を始める春休みを待ち遠しく待っていた。 梅の花が風に舞い散る春浅い頃の出来事だった。 |
| <*25*> 「桃」 |
<*25*>「桃」 懸案事項であった柏木の問題が片付いたことで、昭彦は組の建て直しに本格的に取り組むことになった。 その一方で、新しいマンションでの生活も始まり、子猫を思いきり鳴かせることが出来るようになった。 ただ、柏木組の残党が、組長と若頭を同時に失った仇を討とうと、狙っている可能性も考えなければならなかった。 昭彦自身が狙われるなら、いくらでも防ぎようはあったが、何も知らない無防備の子猫が狙われたら一溜まりもなかった。 柏木組の組員だったほとんどの者達は、他の組に流れたり、他の土地に出たりして、残党はさほど残ってはいなかったが、柏木と仲が良かった山藤が今度の一件を面白くなく思っていることもあって、山藤組に流れた者も危険を含んでいるといえた。 けれど、柏木よりも狡賢い山藤は、何かあった時の鉄砲玉にしようと思いつつも、流れてきた柏木組の組員達が勝手なマネをして、自分の足を引っ張らないように警戒をしていた。 それで、非は柏木にあるのだから、と勝手な敵討ちは禁止していた。 そうは言っても、昭彦にとっては子猫が心配でたまらなかった。 じき春休みになれば、一緒に暮らせるようになる。 もちろん、これまでもほとんど同棲と同じ状態ではあったが、子猫は時々家に戻っていたし、その行動をカバーしきれない部分があった。 マンションのすぐ前にあるバス停から、子猫の通う高校へ向かうバスに乗ることが出来るとはいっても、バス停からマンション玄関まで安全だとはいえなかった。 やはり、子猫の側にいてガード出来る存在が欲しかった。 そうした事情から、同棲をスタートさせる機会に、正次を友人として紹介することにした。 子猫は正次の明るく気さくな性格にすぐに馴染んだようで、恥ずかしそうに頬を染めながらも、無邪気な笑顔を向けていた。 昭彦は思わず嫉妬を覚え、親しくなりすぎることに警戒したが、子猫を怖がらせずにガードするには、ある程度の我慢が必要なのだと、自分に言い聞かせていた。 同時にマサも紹介したが、子猫はマサから漂う闇の臭いに脅えてしまい、やくざだと聞いて相当のショックを受けたようだった。 無理もないだろう。 昭彦がやくざだったのは過去であって、足を洗った今は関わりがないと言ってきたのだ。 それが今でも付き合いがあると知ったことへの動揺は大きくて当然だった。 それで昭彦は、マサとは大阪の頃からの親友だから、と怖い付き合いではないことを強調して説明し、マサの辛い過去を話すことで、子猫の同情を誘発した。 子猫は人の悲しみに感化されやすく、同じ痛みを感じようと心を同調させてしまう所があったので、マサのことを話してやってからは、昭彦よりも更に年上のマサを、母親のような心境で見るようになってしまったようだった。 傷ついた我が子をふくよかな胸に押し抱いて頬ずりをするような、慈愛に満ちた子猫の眼差しには、マサの方が面食らってしまったようで、 「ドクター。堪忍してくんなはれ。わてには子猫はんの側には、よう行かれまへんわ。あの透明な眼差しはわてには眩しすぎまっせ。何やら、訳もなく泣きたなってかないまへん。・・・ドクターと地獄を生きると決めたわてでんがな。今更、涙なんて柄にもないもんは遠慮さしてくんなはれや。」 と、本気で困って昭彦に訴えてきた。 「・・・せやろ?・・・わしも、どうゆう訳か涙が止まらなくなる時があんねや。あない子供で、何も知らんし、甘えん坊やし、ホンマ頼りないし、危なっかしくて目が離せん子ぉやのに・・・一緒におると不思議と温こうて気持ち良くて、泣けてまうんや。・・・わしが守る、と決めたはずやのに、いつの間にか守られてるような気ぃさえしてくる。・・・招き猫やのうて、守り猫みたいなもんかも知れへんなぁ。」 昭彦もしみじみと言った。 「そうでっかぁ。・・・そら、ドクターが惚れ込む訳がようわかりますわ。・・・せやけど、その神聖な空間はわてが入り込む訳にはいきまへん。必要がない限り、子猫はんに関わるのは遠慮さして貰いまっさ。」 それが賢明なのかも知れへんなぁ。 昭彦は子猫の魔性を感じ取って、足を踏み込まないようにしたい、と言うマサに同意して頷いた。 「せやけど時々は顔を見してやってや。めちゃめちゃ寂しがり屋な子ぉやで、自分が嫌われたと思うて落ち込むでなぁ。」 「嫌うわけないですがな。ドクターの大事な方はわてにも大事な方でっせ。」 「いや・・・それがのう。そーゆー大事は嫌いらしいねん。」 「ヘッヘッヘッヘッ。難しいお子ちゃまでんなぁ。」 マサが楽しそうに笑う。 昭彦がこうした愚痴を言い出すのは一種の”惚気”なのだと、マサは承知していた。 「ホンマやで。ええ体しちょるくせに、精神年齢は今時の小学生にも負けるほどガキやで、手間がかかってたまらんわ。」 「しょーがあらへんでっしゃろ?・・・猫は猫ちゃんでっさかい。」 「せやなぁ。しかもまだ子猫やで、ミルク欲しい、て泣いてばかりや。クックックッ。」 「ヘッヘッヘッ。どないなミルクでっしゃろ?」 「そら、わしのミルクやろが。」 マサが堪えきれないとばかりに笑い出し、昭彦も声を出して笑った。 マサにとっては、昭彦は絶対の神であり、こうして共に笑える関係こそが最高だと感じていた。 昭彦自身が我が侭だったが、そうした所が一層魅力的だった。 この関係を崩さない為には、子猫に近付きすぎることが危険なのだと感じたのだ。 昭彦はずっと、「涙を流す理由が見つからない。」と言っていたが、理由もなく泣けるなら、理由を見つける必要もない。 そんな赤ん坊の頃の無垢な心に戻れる相手と、昭彦が巡り会えたことがマサは嬉しかった。 昭彦の活力がマサにとっては生きる光だった。 けれど、子猫の存在が昭彦にとって無垢な魂が安らぐ場所とするなら、ある意味危険な場所ともいえた。 昭彦にとっても、そこは計算や予測の出来ない未知の場所なのだ。 だから、マサは自分は少し離れて、遠くからこの二人を守りたいと思うようになっていた。 正しこの二人へ危害を加える者があったら、命を賭しても守ってみせる、と固く心に誓うのだった。 3月ももうすぐ終わろうとしていたある日。 「最近マサさん見ないなぁ。」 と、子猫が昭彦の腕の中で、まだ眠りたくなげな様子で思い出したように言った。 「ああ、マサなら今中国へ行っとんのや。」 「中国?」 子猫が目を輝かせて驚いた顔をする。 「ん?・・・子猫は中国が好きなんやったかのう?」 「うん。だってぇ、ロマンだもん。」 夢見る少女のような顔をして言う子猫に、昭彦はクスクスと笑った。 「中国も表の歴史と裏の歴史ではかなり違った現実があるんやけどな。」 「そうなんだぁ…」 「せやけど、わしも子供の頃は歴史が好きやったし、中国にも興味があったで、子猫の気持ちはわかるで。」 昭彦はそう言って、子猫の額にキスをした。 「マサは仕事で行ってるんやが、漢方薬も頼んであるし、今回は子猫にも土産を買うとか言うとったで、帰ったらまた食事に招待しよう。」 「うん。」 昭彦の提案に子猫は嬉しそうに頷いた。 今夜は出掛ける用事がないと、昭彦が言ったことが、子猫の気分を高揚させているようで、深く愛し合った余韻に浸りながらも、眠ってしまうのがもったいないように、子猫は昭彦の腕の中で、彫り物をマジマジと眺めたりして甘えていた。 初めは正視も出来ないほど怖がっていたのに、と昭彦は子猫が自分を受け入れてくれたようで嬉しく思いながら、子猫を見つめていた。 せやけど、子猫はまだ、わしがやくざに戻ったことを知らへんのやなぁ。 そう思うと不安がよぎる。 「・・・なぁ・・・」 昭彦が子猫の顎に手をあてて、指先で顎のラインを撫でながら、 「子猫はやくざをどう思う?」 と、ずっと聞けずにいたことを聞いてみた。 子猫は昭彦の目をじっと見つめてから、フッと視線を逸らし、 「よくわかんない。」 と答えた。 「そら、実体がわからんのは当然やと思うが、なんとなくはわかるやろ?・・・なんとなくでええからどない思う?」 「…んー…」 子猫は眉を曇らせて爪を噛む。 「・・・嫌いか?」 昭彦が不安に胸が締め付けられながら、そっと聞くと、子猫は目を大きくして首を振った。 嫌い、という言葉の発想がなかったらしい。 「・・・せやけど・・・怖いんやろ?」 子猫は返事の代わりに、また爪を噛んだ。 「爪は噛んだらあかんて言うてるやろ?・・この癖が直らん内はマニキュアは禁止やで。ええな?」 昭彦にそう言われて、子猫は拗ねたような上目遣いで長い睫毛を瞬かせた。 それから、 「…どうしてそんなことを聞くの?」 と不思議そうな顔をした。 昭彦はドキッとして、 「マサがやくざと聞いて怖がっちょった癖に、今は会えんと寂しがるで、どーゆー心境の変化なんやろうと思うたんや。」 と言い繕った。 「…そっか…うーん…」 子猫は頷きながら、また無意識に指を口へ持っていこうとするので、昭彦はそっと手を包むように握った。 子猫は小さくため息をつくと、昭彦の胸に顔を擦りつけ、 「…やくざだけじゃなく…猫が怖いのは…戦争や災害、事件、事故、…そーゆー人の生き死にが関わることが怖いの。」 と、小さな声で言った。 ああ・・・そやろなぁ・・・ 昭彦はゆっくりと頷き、子猫を抱き締めて頬ずりをした。 「…でも…猫は…誰が悪いかとかって…わからない。」 「・・・やくざでもか?」 「うん。…でも…反社会主義みたいな気持ちはないの。…警察は社会の秩序を守る為に頑張ってくれてるんだって思ってるし、政治家は国民の為に少しでもいい国造りを目指していてくれてる、って…思いたい方だもん。」 「・・クックッ。・・思いたい・・ね。」 「…だって…ニュースとかって…政治家とか政策の批判ばっかしてるし…警察の不祥事や教師とか病院が起こした事件ばっか流してるんだもん。…そーゆーのを見ると…悲しくなっちゃう。」 「・・・そうやなぁ・・・」 「だから…見えてる正義が絶対だとは思わないし…声に出せない悲鳴をあげてる人達もいるんだろうなって思うの。」 「・・・うん・・・」 「…やくざとか…暴走族とか…そうゆう人達って…なんだか言葉では言い表せない悲鳴をあげてるように感じる…」 昭彦は目を閉じて子猫の髪に唇を押し当てた。 「・・・子猫は優しいな。」 「ううん。そんなんじゃないよぉ。」 子猫は小さく首を振った。 「…猫ね…ずっと友達が出来なくて…仲間はずれだったの。…理由もなく、嫌がらせされたり、陰口を言われたりしてきた。」 昭彦はハッと目を開けて子猫を見つめた。 「…多分…猫にも悪い所があったんだろうとは思うけど…それでも…猫は何もしてないのに…どうしてそこまで攻撃されなきゃいけないんだろう、って思うと…辛くて悲しかった。」 昭彦は労るように子猫の頬を指先で撫でた。 「…猫にもっと勇気があったら…言いたいこと言い返せるのに…違うと思えば違うって言えるし、こんなに傷ついてるんだって言ってやれる。」 「・・・そやな。」 「…でも…現実は…相手の言い分ばっか聞いてなきゃならない自分がいるの。」 「・・わしは、そんな子猫が好きやで?」 「猫は…嫌い。…言い返せないくせに、心の中では悔しがってるんだもん。…醜いよ。」 「そない自分を責めることないやろ。」 「…だから…言える人が羨ましいの。」 「勝手なことばかり言う奴もおるでぇ?」 「どんなことでも、どんな形でも、自分を主張出来るっていいなって思うんだぁ。…自分の意見をはっきり主張して強気に生きていける人。気に入らないことは気に入らないって言える人。…困ってる人がいれば、すぐに手を差し出せる人。ボランティアに積極的に参加出来る人。」 「まぁ・・・そないな形ならのう・・・」 「やくざだっていいじゃん。」 「・・・ほう?」 「世の中…矛盾に満ちてる。…だけど、ほとんどの人達は我慢するか、何も出来ないくせに文句ばっか言うか…矛盾に上手く乗ろうとするか…負けていじけるか…」 「クックッ。結構厳しい目ぇ持っとるやないか。」 「…猫は…そーゆー…何も出来ない人間だし…出来ない以上、あるがままを受け入れるしかないって思っちゃうから。…お金持ちが贅沢するのも…権力ある人達が好き勝手するのも…それはそれでいいじゃん、とかって思っちゃう。」 「・・・そんなもんかのう・・・」 「だって、自分が何もしないのがいけないんだもん。自分に力がないのを、人を羨んだり、妬んだりしたって自分がもっと惨めになるだけじゃん。…苦しかったら苦しいって叫ばなきゃ。…辛いなら辛いって訴えなきゃ。…羨ましいって思うなら戦って勝ち取らなきゃ。」 「そうや。」 昭彦はその通りだと力強く頷いた。けれど、子猫が、 「…でも…猫には出来ない。」 と言った時、 「・・・そうやなぁ・・・」 と、思わず納得してため息をついてしまった。 どんなに理想を掲げられても、どんなに正論を説かれても、性格的に行動出来ない者もいるものだ。 努力を怠る訳ではなく、理解出来ない訳でもないのに、自分自身の心の弱さに負けてしまう者もいる。 それを非難したり、軽蔑するのは簡単だろう。 だが、それでも生きていかなければならない弱い存在もあるのだ。 「でも…猫みたいに…強い人達の言いなりにしか生きれない人達ばかりだったら…いつだって強い人達や恵まれてきた人達ばかりが、楽しい世の中で…虐げられ、不幸に喘ぐ人達の叫び声さえ届かない。」 昭彦は言葉もなく、うんうん、と頷いた。 「…そんな悲鳴や叫びが形になった存在が…やくざなんじゃないかなぁって思うの。」 「・・・そうかぁ・・・」 「もちろん、してる行為はいけないことかも知れないけど…そうでもしなければ戦えないと思うし…もともと…戦う時に相手の同情ばかりしていたら結局は負けちゃうもん。」 「せや。戦争かて大義名分ですることは殺しやでのう。その善悪かて、勝った者の言い分がまかり通るんや。」 「うん…だから…猫は…そうしたことが怖いけど…怖いからって否定はしたくない。…絶対悪とか絶対正義なんて存在しない、って思うの。いつだって、それは受け止める人に都合のいいように解釈されるだけだって。」 「・・・そうやのう。」 「だって…神様だって人間の命を奪うじゃん。」 「・・・ん?」 「例えば…ノアの箱船だって…」 「ああ・・・神話の話か・・・」 昭彦は子猫らしいと苦笑した。 「それに…すべからく神様の御意志だとするなら…台風や地震、あらゆる災害も神様の御意志のまま。…そうした災害で亡くなる大勢の中で、奇跡とかで救われた人が神様に感謝したら、他の亡くなった人達が可哀想じゃん。…神様って、そんなに不公平なの?」 「・・・不公平かも知れへんで。」 「じゃぁ、どうやってその選ばれた人達が決められるの?」 「・・・さぁ。・・・わしは神様と話したことがないで、ようわからんわ。」 「…猫も…わからない。…それに、神様は不公平だとも思いたくない。…だから、生かされていることに感謝して、今を賢明に生きるしかない、って思うけど…それでも…あんまり辛いと…死にたくなっちゃうの。」 「アホ!アホなこと言うとると怒るで!」 「…だって…戦えないし…何も出来ないし…存在する価値がないんだもん。」 「価値は自分で決めるもんやないっちゅうたやろ?・・子猫の価値はわしの中にあるんやで。」 「…昭彦ぉ…」 子猫は昭彦の胸で目に溜まっていた涙を拭った。 「子猫に戦えんかて、わしが戦ったるがな。ほいで、子猫がわしの戦うエネルギーになるんや。それでええがな。せやろ?」 「…いいの?」 「ええも悪いも、子猫がおらんかったら、わしが死にたなるがな。もう、アホなこと言うたらあかんで。」 「…うん。」 「・・・神様は・・・結局、生き様を見とるんかも知れへん。・・・もしくは地獄の閻魔大王の閻魔帳に書き込まれるんか・・・どっちにしても、そこには大義名分も正論もないやろ。勝ち誇った奴等の勝手な論理も通用しないんや。・・・せやったら、自分の信じるように生きたらええがな。・・・わしは子猫を愛して守り抜く。その為やったらどんなことかてしたるわい。・・・正義面なんて今更する気はないけどな、これがわしの生き方、生き様や。誰にも文句は言わさへん。」 昭彦の言葉に子猫はクスッと笑みをこぼした。 「・・・ん?」 「…昭彦って…孫悟空みたい。」 「あ・・・?」 「だって…我が侭放題、好き勝手にしても、純粋で一生懸命で…悪いことしてもお釈迦様にはお見通しで、しかも愛されている。…ってそんな感じなんだもん。」 「・・・アホやなぁ。」 昭彦はすぐ物語の世界に行ってしまう子猫の子供っぽさに呆れながらも、そんな所が愛しいと感じていた。 「ほなら、子猫が三蔵法師なんか?」 「違うよぉ。…猫はそんなに立派じゃないし…どこも目指さないもん。」 「・・・確かにのう。・・・三蔵法師っちゅうたら・・・兄さんかのう。」 「兄さん?」 「ああ・・・大阪の頃世話になった人で、マサのボスや。」 「…ふーん…」 「せや。・・せやから、マサは悟空の頭を締め付ける金の輪や。何かにつけては小言を言うでな。」 そう言って昭彦が笑うと子猫も、 「そうなのぉ?」 と、クスクス笑った。 「そしたら、子猫は、孫悟空が天界で食べた桃やな。悟空はその桃で不老不死になったが、わしは子猫っちゅう桃で元気になるんや。」 昭彦はそう言って、子猫の胸をつかむと、噛みつくマネをしてチュウゥゥッとキスをした。 「…ぁ…いやぁ〜ん…」 「桃はいやや言うたらあかんがな。おとなしゅう食べられなあかんでぇ。」 「あぁ〜ん…」 昭彦が子猫にじゃれつき、子猫は笑みをこぼしながら身を捩る。 こうなると、もう難しい話は必要なかった。 じゃれ合い、もつれ合って、愛の時は深まっていくのだった。 |
|
|