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子猫白書U




<1>〜<5>



<1>
[目隠し]
<1>「目隠し」

 一糸纏わぬ姿で目隠しをされた子猫が布団の上に正座している。両手はまだ生えてきたばかりの薄い恥毛を隠すように前で組んでいる。一体何が始まるのか、どんな趣向で目隠しをされたのか。覚悟して望んだものとはいっても、子猫の息が自然と震える。

 バレンタインデーのこの日、付き合い始めて3ヶ月もの間手さえ握ろうとしない男に、子猫はブランデーをたっぷり染み込ませ、チョコでコーティングして、”子猫も食べて!”とメッセージを入れたケーキを作って贈った。男が甘い物もお酒類も嫌いだったのを承知で、もし食べてくれなかったら、この恋を諦めようと思って挑んだのだ。
「アホやな。・・・酒が飲めんわけやない。飲まんだけや。」
いつもは務めて標準語を話す大阪生まれの男、藤村昭彦が苦笑と共に呟いた言葉は、ゾクッとするほど馴染んだ大阪弁だった。
 昭彦はケーキをふた口食べてから、不安そうに見つめていた子猫の腕をつかんで引き寄せると、まだケーキの残るままキスをした。絡めてくる舌からブランデーの香りがして、まったくお酒の飲めない子猫はそれだけで体が火照ってくるようだった。
「後戻りは出来ないんやで。覚悟はあるんか?」
それがどんな意味なのか、わからないままに、子猫は頷いた。

 暖房を入れたばかりの寝室は二月の冷気をまだ漂わせ、肌を露わにしている子猫は鳥肌が立ちそうだった。乳首が痛いくらいに固く立っている。
 昭彦は子猫に服を脱いで敷いた布団に正座するように指示し、それに従った子猫に目隠しをすると、自分も服を脱ぎ始めたのである。服が畳に落ちる音がする。静かに近付く足音が消え、布が微かにこすれる音がして、熱い息を間近に感じた。
「愛している。」
耳元に囁きを聞いた途端、両手で隠した恥毛の奥に潜む秘部が疼く。思わず吐息がこぼれる口をゆっくりと唇で覆うように塞がれ、抱き寄せられた。初めて触れる肌と肌の温もりに子猫は切なく胸が締め付けられ、昭彦の背中に腕を回して抱きついた。昭彦はキスをしながらゆっくりと子猫を布団に寝かせた。

 長く執拗なキスが続き、舌を絡めては強く吸われ歯茎まで舐められて、子猫は圧倒されていた。これが3ヶ月、一切触れようとしなかった男のするキスなのだろうか。30代前半ではあったが、落ち着いた雰囲気は40歳過ぎにも見える重さがあった。子猫とは常に距離を保とうとしていたし、これまでの子猫の知ってる男性とは違って、そーゆーことが嫌いなのかな、と思っていたのである。
 胸を両側から鷲掴みにされ、固く突起した乳首を同時に摘まれグリグリとこねられる。
「あぁぁ・・・ん・・・」
目隠しをされているせいでいつも以上に感覚が鋭敏になっているような気がする。
「けっこう大きい乳首やな。・・けどピンクで綺麗やで。」
「・・・だって・・・寒かったから・・・ぁぁ・・・ぅぅん・・・」
「男知ってるんは承知の上や。気にせんでええ。わしは大きい方が好きやで。」
昭彦は両方の乳首をかわるがわる口に含んで強く吸いながら舌で愛撫した。乳首だけをこんなに愛撫されたことはなかったかも知れない。子猫はもうそれだけでいきそうなほど感じて、蜜を溢れだしていた。
 溢れた蜜がシーツを濡らしている。昭彦がようやく乳房を離れ、乳首から下へとキスをしながら移動していった時、子猫はおもらしをしたかと思うほど濡れてしまったことを知られるのが恥ずかしくて頑なに両足を閉じていた。
「今更恥ずかしがってどないすんや!アホォ!わしが欲しいんなら全部見したらんかい!」
昭彦は子猫の両膝を立ててから膝頭を掴むとグイッと左右に割った。
「ぁぁぁああっっ・・・」
「綺麗やないかい。・・・よぉー見してみ。」
昭彦は蜜で濡れた太股を舌で舐めながら言った。子猫は大阪弁の昭彦に戸惑いを覚えていたが、ゾクゾクする快感に支配されていた。乳首から疼きが子猫の秘部へと伝わって肉襞が待ちきれないとばかりにうねっている。ピクンピクンと収縮を繰り返し、その度に蜜が零れる。
「まさに貝の潮吹きやな。・・・艶々して綺麗なクリや。・・・ん?・・・これは珍しい貝やな。」
指先で広げながら鑑賞していた昭彦の言葉に子猫は不安になってたずねた。
「・・え・・・何?」
「知らんのかい。こんだけ左右対称の唇しておるのんは珍しいんやで。たいがいどっちかが上下にずれとるもんや。一万人に一人はおるそうやけど、見るんは初めてや。・・・しかもぷっくりとして形がええし・・・これやったらよぉー締まるやろな。」
「ぁ・・・んん・・・ぁぁ・・・」
丹念に花弁の周りを舐められて一層疼きが激しくなる。クリトリスを含んで舌でころがされ、子猫は頭の芯に火がついたように熱くなった。火は導火線を伝わるように全身に広がり、全ての毛穴から発火するように悶えた。
「ぁ・・・昭彦・・・あき・・・あきぃ・・・」
おねだりをするように名前を呼んだ。が、昭彦は花淫の唇へと深いキスを始めた。それは愛撫と言うより貪るように蜜を吸う飢えた獣のようだった。
「ぁぁぁぁぁぁ・・・・ぅんー・・・・・ん・・・ぁぁ・・・」
奥まで差し込まれた舌が乱暴に動き回り、溢れてくる蜜を全部吸い上げるかのように強く吸われて、子猫は昭彦の髪を掻きむしり腰を無意識に動かしていた。
「あああぁぁぁぁぁーーーーーー・・・・・」
堰を切ったような快感の渦に襲われて子猫は登りつめた。昭彦の舌を絡め取り引き千切らんばかりに吸い付いて締め上げながら。

 しばらく子猫の痙攣のような激情が収まるまで待ってから、体を起こした昭彦は、
「ええおまんこしてるでぇ。舌も痺れたけど・・心も痺れまくりや。」
と言って子猫の匂いのする口で顔中にキスをした。そして、目隠しをされたままの子猫がそれにちょっと眉をしかめたのを見咎めて、
「アホ!自分の匂いが嫌なんかい?・・わしはもっとキツイ匂いがええで。・・まぁこれからやな。イカのミミとかぎょーさん喰わしたる。」
と言った。
「イカの・・ミミ?」
「あの三角のとこがあるやろ?あれをミミてゆうんや。あれを食べてると・・ここの匂いが強ぅなる。おまんこの匂いが薄いうちはまだおしっこ臭いガキみたいやで。」
「・・・昭彦の・・・イジワルゥ・・・」
「クックック。まぁしゃーないわな。ホンマにガキなんやから。これからわしが一人前の女にしたるわ。」
子猫は口を尖らせて拗ねて見せた。が、昭彦の表情を見ることが出来ず、たまらなくなって目隠しに手をあてた。昭彦はそれを押さえて、
「アホ!ええ、ゆーまでそのままにしとかんかい!」
と声を荒げた。目隠しに涙が滲んでいく。
「これからが本番やがな。・・・ほれ、こいつをしゃぶってみ。」
昭彦に誘導されて子猫は固くそそり立つ男根を顔の前で両手の中に包み込んだ。
 え?!と子猫は胸騒ぎを覚えた。太さもそうだったが、両手で包んでもまだ余るその長さは経験のない感覚だった。子猫が戸惑っていると昭彦が、
「どや?こいつが欲しかったんやろ?ちゃぁーんとご挨拶せなあかんがな。」
と口に押しつけた。子猫は手探りで全体にキスをした。袋も顔を覆うように押しつけられ、目隠しでわからないままに触れてくるものをそっと舐めてはキスを繰り返した。
「初めてやし、挨拶はそのへんでええやろ。」
そう言って昭彦は子猫の足を開いて上へ抱え上げるようにした。子猫の花弁からはまた新たな蜜が溢れてきていた。

「あああぁぁぁああぁぁ・・・」
昭彦の固い肉棒は容赦なく子猫の花弁を引き裂くように侵入してきた。それでも一度途中で止まるとその場で少し馴染ませるように微妙に動かし、子猫の肉の壁を確認するかのように擦りあげた。
「・・ん・・あぁ・・ん・・・あん・・ぁぁん・・・」
子猫が押し広げられた太さに馴染んで甘い喘ぎ声を出すのを見計らったように、次の瞬間一気に根元までグググゥゥゥーっと残りの部分を押し込まれた。
「あ・・ああ・・・ぃゃぁ・・・ぁぁあああぁぁぁ!」
子猫は痛みに悲鳴に近い声をあげて、思い切り体を仰け反らせた。
 昭彦は子猫の体を羽交い締めにし、一突きごとに力を込めて奥へ奥へと太く長い肉棒を押し込んでくる。
「ぅぅうう・・・ぁぅぅ・・・あぁぅぅ・・・うぅぅぅ・・・」
子猫は体の奥深くに鈍い痛みを感じて呻いていた。突き上げられる度に胃まで圧迫されて吐きそうになった。口を大きく開けて鯉のように酸素を求めた。痛みに腰が痺れてくるようで、子猫はいつしか泣きじゃくり出していた。
「これがわしや。じき体は慣れる。我慢せい。」
と言いながらも、昭彦は子猫を宥めるように優しくキスを繰り返した。
 足の先まで痺れてくるように痛みが走っていた。これ以上はないほどに押し広げられた膣は収縮を求めて肉襞を絞り込もうと繰り返しているが、徒労に終わるかのように虚しくまた押し広げられる。それでも、鈍い痛みと引き裂かれるような痛みとが重なり合って麻痺してくるような痺れの中でいいようのない快感が体中を支配していった。
「ああぁぁぁ・・・あぁぁん・・ああぁぁんん・・・」
子猫は昭彦に必死にしがみつきながら沸騰しそうな熱情に心を任せた。もう、何も考えられない。突き上げられる度に変わっていく何かに支配され、子猫は貪欲な獣になって、悶え喘ぎ歓喜の声をあげた。
 もう自分の体がどうなってるのかさえわからなくなっていた。ただ津波のように襲ってくる快感に支配され、何度も絶頂を繰り返して、意識が遠のいていった。
<2>
[理由]
<2>理由

「・・・ん・・・」
喉の乾きを感じていた。気怠い微睡みからゆっくりと意識が戻ってくる。目を開ける前に子猫は昭彦の腕枕で暖かい布団に包まれているのがわかった。顔を昭彦の顎あたりに擦りつけた。
「ああ・・・目ぇ覚ましたか。」
昭彦は大きく息をして、子猫にキスをした。キスをしながら昭彦の唾液が送られてくる。子猫はその唾液を飲み込んで喉の乾きを潤した。
 まだ目を閉じたままだったが、目隠しが解かれていることにやっと気が付いて子猫は薄目を開けた。昭彦のいつもの優しい眼差しが目の前にあった。あの目隠しにはどんな意味があったのだろう?
「子猫。もうお前はわしの女や。この先何があろうとちゃぁーんと受け止めなあかんで。」
優しく甘く響く大阪弁だった。
「・・・どうして・・・?」
「何がや?」
「・・・んっとぉ・・・」
聞きたいことはたくさんあった。が、頭がまだはっきりしない子猫は昭彦の目を見つめながら、取り敢えず今疑問に感じたことから聞くことにした。
「・・・関西弁だし・・・」
「アホ。」
昭彦は苦笑した。
「関西弁なんてのがあるかいな。大阪はもちろん、京都も奈良も兵庫も和歌山もみぃーんな違う言葉やで。ひとつに括ったらあかん。・・・とは言うてもわしは大阪弁は嫌いやけどな。・・・嫌いやが・・・わしの地が出る時には使うてしまう。関東弁ではいまひとつ気持ちが入らん。」
「・・痔?」
子猫の悪戯っぽい目の色に’じ’の意味に気付いた昭彦は、
「わしが真面目に話してる時は真面目に聞かんかい。」
と笑顔のまま子猫のおでこを軽く指で弾いた。
「ぁ・・ぃたぁ・・」
子猫は額に手を当ててクスクス笑った。と言うより笑いかけた。が、途中でドキッとしてその笑いも凍り付いてしまった。おでこを弾いた昭彦の指を目で追う。そして手首から上へゆっくり肩へと視線を舐めるように這わせた。
 視線を肩から首の付け根あたりで止めた子猫は激しくなっていく鼓動と引いていく血の気で息が乱れていた。そこから上へと視線を上げることが出来なかった。唐突に昭彦と目を合わせるのが怖くなってしまったのだ。
「子猫・・・」
昭彦の声が低くなっている。子猫は目をギュッと閉じて体を固くした。
「・・・これがわしなんや。しゃぁーないやろ?」
子猫は言葉が出てこなかった。体が熱いような悪寒に襲われて小刻みに震えてくる。閉じた目にはたった今見た肌ではない肌の鮮やかな色が焼き付いている。
 昭彦は震える子猫の肩を包むように抱き、もう一方の手で髪を撫で、
「覚悟したんやろ?そない恐ろしいもんやあらへんで。ただの絵ーやないかい。なーんてこともあらへん。わしはわしや。」
と耳元に囁いた。
「・・・でも・・・これって・・・」
子猫はやっと声を出して目を開いた。目の前には鮮やかに赤い花が咲いている。鎖骨から背中に向けても濃紺をベースとした絵柄が続いている。
「・・・タトゥー?」
子猫の声はすでに半泣き状態になっていた。
「タトゥーか。今はそない言うんやな。彫り物、刺青、モンモン・・色んな呼び方はあるやろけど・・この彫り物があるってことの意味はわかるやろ?」
昭彦の話し方は淡々とした中に大人が子供をあやすような優しさがあった。子猫はまだその肌ではない肌の迫力に脅えていたが、少しずつ落ち着きを取り戻してきた。が、それに反比例するように何故か涙が止まらなくなっていった。
「・・・それって・・・そうなの?」
子猫はひくひくとしゃくりあげながら聞いた。
「前はな。・・・確かに暴力団と呼ばれる組織の組員やったこともある。」
「・・・前?」
「今はもう堅気やで。」
「・・・ホント?」
子猫はやっと昭彦の顔を見ることが出来た。昭彦は笑って子猫の涙を指先で拭いながら、
「ああ、ホンマのことや。・・・やくざなんて汚い世界や。わしはもう戻りとうない。いや、戻らんつもりや。・・・けど過去は消せへん。この彫り物と一緒に一生背負ってかなならんし・・・わしと付き合う以上はこの背負ってるもんも承知しといて貰わなならん。・・・せやから覚悟はええかて聞いたんや。」
と穏やかな声で言った。それは子猫の知っているいつもの昭彦だった。
「怖かったか?」
「・・・少し・・・だって・・・別人みたいだったんだもん・・・」
「これまでお前に見せてきたわしもわしやが・・・さっきのわしもわしや。隠し事は好きやない。全部見したるで、しっかり受け止めや。・・ん?」
「・・・ぅん・・・」
「あぁ・・・そやけどやくざの世界のことはお前には話さん。お前が知る必要はあらへんし・・・知ったら知ったで危険になるしな。わしが嫌うてる世界やて思っとったらええんや。」
「・・・うん・・・」
「今ならちゃんとこーしてわしの説明も聞けるやろ?」
「・・・うん・・・」
「けど・・・いきなりわしの体見たらお前には耐えられんやろと思うたんや。わしに抱かれてあんなに感じてよがっておいた今かてこれやがな。」
「・・・ごめんなさい・・・」
子猫は昭彦の腰に腕を回して、甘えるように体を合わせ、赤い牡丹の花が咲く肩に顔をこすりつけた。昭彦の体の一部はさっきから固く熱を持ち、存在を誇示するように子猫の体に押しつけられていた。
 子猫はさっきの気絶するほど激しい快感が蘇ってきた。痺れて熱くなっている股間からまた蜜が滲み出てきた。
「どんな昭彦でも好き。」
子猫は自分からキスを求めて唇を合わせた。

 目を閉じてキスをすればそこには子猫が恋をした昭彦がいる。昭彦の想像を超えた男根にはまだ慣れることが出来なかったが、それでも愛されている思いとともに、熱い陶酔が子猫を包む。目さえ開けなければ。
 引き裂かれる痛みと突き上げられる痛みにしがみつく昭彦の体は子猫の知らない男のようだった。感じるというより、苦しいような感覚に喘いで呻いてしまう。特に激しい腰の動きに耐えられず泣き声がまじっていた。
「ああぁぁああぁぁ・・・あぁぁああぁあっあっぁ・・・」
「そない泣いたら近所迷惑やろ。アパートやから壁が薄いんや。我慢せい。」
「・・っうっ・・・ぅっくっ・・・ぅ・・ん・・・あぁぁああぁっ・・・」
「それにしても・・・よぉー吸い付くおまんこやなぁ。きゅぅきゅぅ締め付けてくるやないかぁ?・・・誰に仕込まれたんや?・・・仕込んだ男殺したろかい。」
「・・ぃ・・ゃ・・違っ・・ぅ・・・」
「それとも生まれつきか?・・・そうかも知れへん。わしの極道な性格と一緒やな。」
「あっ・・ぅぅぅ・・・ぁぁあぁぁ・・・あきぃ・・・」
「あぁ・・ええおまんこや。・・最高に美味いチョコまんやな。」
昭彦は悪戯っぽく笑って、キスをすると腰の動きを大きく激しくしていった。
「あぁんん・・・ぃゃぁぁぁ・・・んん・・・あぁぁぁ・・・」
子猫は悲鳴まじりに泣き声をあげながらも、体中を駆け巡る快感に痺れていくのだった。

 昭彦は子猫が気絶するまで激しく抱いた後、自分の全身をじっくりと子猫に見せてくれた。絵柄は”唐獅子牡丹”というものだと説明した。
 子猫はたまに時代劇やTVで流れる映画で見たことがあるくらいで実際に見ることがなかったが、これほど鮮やかで、しかも全身を覆うものは初めてだった。手首のすぐ上くらいからびっしりと彫り込まれ、膝のすぐ上から首の付け根まで、前身は真ん中のラインが少し開いているものの、背中は元の肌がどんな色だったかもわからないほど彫り物で覆われていた。
 特に背中の絵柄は神社でみる狛犬のようなどう猛な顔をした獅子像が動き出しそうなほど生々しく、恐ろしげだった。赤い牡丹の花が所々に咲いて、一層彫り物を生き生きとしたものに感じさせていた。しかも体のあちこちに傷痕があり、特に左太股の傷はそうとう深かっただろうことが伺えるものだった。これまでの生き方が映し出されているような裸体に、子猫は胸が痛くなった。
 体の傷痕は子猫にもある。今では薄くなっていたし、誰もそのことを言わないでいてくれたが、子猫が夏にビキニを着ない理由がそこにあった。昭彦もこれまで袖口がぴったりとした長袖の物を着て決して腕まくりすることがなかったし、衿もしっかりボタンで止めていた。どこか共通するコンプレックスを感じたのか、目隠しをして子猫を抱いた昭彦の気持ちがわかる気がした。もちろん、昭彦の傷痕が子猫のものとは意味も訳も違っていることはわかっていたが、子猫は昭彦の人生が刻まれた体がだんだん好きになっていくのを感じていた。
「中学を卒業してすぐに愛知まで行って有名な彫り師に頼んで彫ってもろたんや。」
「中学出て・・・すぐ・・・?!」
「まぁ・・表社会との決別の覚悟やな。」
子猫は膝を抱えて座っていたが、両腕で膝小僧をギュッと胸に引きつけた。昭彦は子猫の正面に足を伸ばして座り、膝を立てると両足で子猫を挟み込むようにした。子猫の膝頭にキスをし、散々泣いて泣きはらした顔の子猫の頬に手をあててさすった。
「後悔しとるんか?」
子猫は首を振って、潤んだ目を昭彦に向けた。目が熱くて火照る頬がひりひりする。疲れて怠くて眠かった。
「わしのことは少しずつ話したる。すぐに何もかもを受け止めるんはお前には出来んやろ。・・・わしな・・初めてお前を見た時から惚れとったんやで。けんど、わしは生き方も性格も極道すぎる。・・・せやから、お前はわしの妹としてそばで見ていようて思うとったんや。手ぇも出さんとな。出せる訳ないやろ?こない可愛いつらしよってあどけない目ぇして。・・・けど・・・もう遅い。子猫は今日からわしの女や。ええな?」
「・・・うん。」
子猫は頷いて目を閉じ、昭彦の掌に自分の手を重ねると、そっと握ってキスをした。
<3>
[娘]
<3>娘

 子猫は高校の授業が終わると、その足で制服のまま昭彦のアパートに行くのが日課になっていた。昭彦は夜の仕事だったので、いつも朝方アパートに帰ってきた。それから洗濯や掃除等の用事をして寝るので、子猫が訪ねた時にまだ眠っていることもあった。時には早めに起きて買い物をすませ、子猫に手作りの夕飯を食べさせてくれることもあったし、仕事が休みの日には外で食事をしたり、遊びに出ることもあった。が、どんな時でもかかさないのが子猫との愛し合う行為だった。仕事に出るぎりぎりまで抱いていることも多かったので、子猫は昭彦が出かけてから少し眠って、夜遅くになって家に帰るようになっていた。
 この頃はもう母親は子猫の性癖を極端に嫌悪していたし、余程の問題でもない限りは干渉することも疲れてしまっていたようだった。子猫ももう母親に愛されようと努力することは諦めていたし、家の用事を進んで手伝うこともしなくなっていた。外泊するにも言い訳は必要ではなくなっていたので、休みの時には子猫はほとんど昭彦のアパートですごしていた。

 北風が一日中強く吹き付けていた日の夕方、子猫が昭彦の部屋の前に差し掛かった時、ドアが開いて中から二十歳は過ぎてると思える落ち着いた感じの女性が出てきた。
「それじゃ、気をつけて。」
ドアのすぐ向こうに昭彦の声がした。女性は声に少し笑顔を返し、
「お願い、忘れないでね。」
と上目使いの視線で甘えたように言った。子猫はカチンときて、その女性を睨んだ。視線に気が付いたのか、ドアを閉めて帰ろうとしたのか、子猫に気が付いた女性は少し驚いた顔になって子猫を見つめた。それから、フッと笑って、
「パパの新しい彼女がきたようね。」
とドアの向こうに声をかけた。
「おっと、もうそんな時間か・・」
と声とともにサンダルを履く音がして、ドアの向こうから昭彦が顔を出した。昭彦は子猫の不機嫌そうな表情に苦笑して、
「何て顔してるんだ?寒かっただろ?早く中に入りなさい。」
と表向きの関東弁で言った。が、アパートの狭い通路をドアを開けて更にその横に女性が立っているのだから、女性を押しのけない限り中には入れなかった。しかも女性はまるで邪魔をするかのようにドアの取っ手を握って離さなかったのだ。
「病院で一度見かけた子ね?パパは妹みたいな子だって言ってたのに、まさか彼女になってるなんて知らなかったなぁ。」
彼女は昭彦に向かって話をしていた。昭彦には笑顔で話しながら、子猫をチラッと見る目には冷たい敵意があるように感じられた。言葉の端端にもトゲがあるように聞こえて、子猫はますます不機嫌になっていた。
「報告する義務はないだろ。」
昭彦は彼女の背中を軽く押してドアの前から退かせると、子猫の腕を掴んで引き寄せた。そしてその場で抱き締め、
「すっかり冷えとるやないか。」
と優しい声で言って冷たい髪に頬ずりをした。子猫は昭彦の暖かい胸で深呼吸して昭彦の匂いを嗅ぎながら、チラッと彼女の方を見た。軽く押した割には彼女はよろけて前のめりになり、少し離れた所で子猫を睨んでいた。
「それじゃ、帰ります。」
彼女は澄まし顔でクルッと背中を向けると足早に立ち去って行った。昭彦は答えずにその時にはもう子猫にキスをしていた。

 子猫にキスをしながら部屋の中に入れて、ドアを閉めた昭彦は、厚い冬用のコートの前を開けてスカートの中に手を入れてきた。
「・・い・・やぁ・・」
不機嫌の直らない子猫は昭彦の手を押しのけようとした。
「何やねん?何怒っとるんや?」
強引に子猫の下着をずらして手を滑り込ませ、指先で陰部を弄びながら、昭彦はキスの合間に熱い息で囁いた。
「あ・・ぁぁん・・いやぁぁ・・・」
子猫は相変わらず逆らおうとしているものの、昭彦の力強い腕から逃れられず、股間への愛撫と熱いキスにだんだん動きが鈍くなっていった。子猫がおとなしくなったのを見て、昭彦はコートを脱がせると、制服のままの子猫を抱き上げ、布団の敷いてある部屋へと連れていった。
「いやいやいやぁぁぁ!」
子猫は布団に寝かされても抵抗を見せていた。
「何がいやなんや?訳わからんわ。言うてみ?」
「前の彼女と会ってたくせにぃー!」
「誰が前の彼女や?そんな奴がどこにおんねん?」
「さっきの人ぉ!」
「アホォー。あれはわしの娘じゃ。」
「む・・・娘って・・・歳が合わないぢゃん!嘘つきぃー!」
「正式には娘にはなってないが、しばらく一緒に暮らしてた女の娘やで。わしは娘としてしか見とらん。妬く必要あるかい!」
「嘘嘘嘘ぉー!」
子猫は泣きながら体を震えさせていた。昭彦はため息をつくとズボンの前を開けてすでに勃起している男根を子猫の顔に押しつけた。
「よぉー匂い嗅いでみーや!お前の匂いが染みついてるやろが?え?他の誰の匂いもないやろ?何勘ぐっとるんや!」
子猫は昭彦の巨根をそっと持って鼻に当ててみた。
「どや?納得出来たか?・・疑った詫びに丁寧にしゃぶらんかい!あれとのかかわりを説明しちゃる。」
子猫は涙を拭って、
「ごめんなさい。」
と言うと素直に昭彦の逞しい肉棒をしゃぶり始めた。

 昭彦があぐらをかいて座ったので、子猫はまるく踞って、口いっぱいに開きながらビンビンに張り出したカリを擦るように頭を上下させた。昭彦は制服の上の部分をたくし上げ、乳房を剥き出しにして揉みながら、説明を始めた。
「もう7年以上前になるわ。わしは20代やったが、組からラブホテルをいくつか任されておった。人を使う立場やと仕事以外にも従業員の相談相手とかせなならんし、そん時に知り合ったのがあいつの母親やった。30半ばのまぁそこそこの美人やったが、当時金にも女にも困らんわしが気に入ったのはよぉー気が付くとこやったな。・・っつ!」
子猫は前の女性でも、昭彦が誉めるのが面白くなくて、鬼頭に歯を立てて噛んだのだ。昭彦は苦笑して、
「昔のことやがな。いちいち妬くもんやないで。」
と言って子猫の髪を撫でた。
「で、一人暮らしも色々面倒やったし、その女のとこで一緒に暮らすようになったんや。当時あいつは中学、妹の方はまだ小学生やったな。その頃のわしは実際の歳より自分を上に置きたがるとこがあったし、二人の娘に対しては絶対的な父親として躾にも口出すくらい徹底して親父しとったんや。・・パパてゆーてたやろ?」
「・・・だって・・・パトロンのパパかと思ったんだもん。」
「そんな金あるかい。余裕あったらこんなアパートやなく、もっとええとこに暮らしとるで。・・ま、近いうちにもちっとましなとこに移るつもりやけどな。・・夜中でもお前が気ぃ使わずに声出せるとこ探しとるとこや。」
そう言って昭彦は子猫の乳首をキュッと捻った。子猫は昭彦のモノを口いっぱいにくわえながら身をよじって悶えた。
「当時は他にも女はおったけどな・・・わしが娑婆に戻るまで待っとったんはその女だけやった。・・・まぁ5年近くも入ってたんやから無理もないがな。」
「・・・え?」
子猫は思わず顔を上げた。昭彦は子猫を膝に抱きかかえてキスをしながら、
「この足の傷が出来た時のことや。」
と囁くように言った。

 それからしばらくはキスと愛撫で話は途切れていた。昭彦は子猫を犬のように四つん這いにさせると、制服のスカートを突き出した丸いお尻の上までたくし上げ、腰をつかんでいきり立った肉棒をねじ込んだ。
「ぅぅっ・・・ぁぁぁああぁっ・・・」
子猫は感じてくると声を我慢出来なかった。子猫のよがり声は甘くかすれがちでそれほど大きな声ではないはずだったが、キーの高い声は響くらしい。ひとつ部屋をおいた先の部屋のおばさんに冷やかされて以来アパートを移ることを本気で考えているようだった。
「あっ・・・あっ・・・ぁぁん・・・あん・・・」
子猫は枕にしがみついて顔を押し当てると、昭彦の激しい腰の動きに沸き上がる悦楽の喘ぎ声をかみ殺すように耐えていた。
「早ぅ何とかせな。お前の可愛い声を思い切り聞きたいでぇ。」
「・・・ぃぃ・・・我慢するぅ・・・ぁぁぁああっ・・・」
「アホ。わしが嫌なんやないか。隣りの小生意気な学生にお前の可愛い声を聞かしたくない。お前残して仕事出るのが心配でたまらんで。」
「ぁぁぁ・・・猫・・・浮気しないもん・・・」
「アホんだらぁ!浮気なんぞしたら殺したるで!」
昭彦は肌のぶつかり合う音が響くほど激しく子猫を突き上げた。
「ぅぅぅ・・・あぁぁ・・・あああああああああああっ!」
子猫は体を仰け反らせて叫んだ。
「ほれみぃ。我慢出来んやろが。」
昭彦は子猫の体を繋がったまま起こすと、あぐらの上に後ろ座りにして抱きかかえ、肩越しに熱いキスをした。それからゆっくりと体を揺すりながら両乳房をつかんで揉み、髪や首筋に唇を這わせながら囁いた。
「もう女を本気で愛さへんと決めとったわしを本気にさせたんや。・・この髪も・・声も・・可愛い口から漏れる息ひとつまでわしのもんや。」
「・・ぁ・・ん・・・なんで・・・?」
「愛さんと決めた理由か?」
「・・ぅん・・・」
「女は裏切る。・・・この傷が出来た時も嫉妬で逆恨みした女が裏切って、対立しとった組に秘密を流したからや。その女はわしが塀の向こうにいる間に組のもんに始末されたわ。」
子猫は怖い話になりそうで体が萎縮し、膣も急激に萎縮した。
「・・・っっつぅ・・・しゃぁないやろ。裏切ったら命のない世界やで。・・・ぁぅぅ・・ちぃーとキツすぎるで。・・・怖がらんでええ。お前にはなぁんもせぇへん。・・・わしは女には優しいんやで。・・そん時かて女を責める気ぃにはならんかったんや。せやからわしが自分でケリつけたんやけどな・・秘密バラすんは大罪や。組が許さんかったんや。」
昭彦は腰を動かして子猫の緊張をほぐすように自分のものを感じさせた。子猫は昭彦にもたれて繋がってる感覚に身を委ねた。
「ぁぁん・・・ぁっ・・ぁぁぁっん・・・」
「ええ声で鳴きよる。・・・この声で隣りのクソガキがマスかいてると思うと腸が煮えくり返るようやがな。・・・早ぅ防音の効いたとこ探さなたまらんで。わしの留守中寝込み襲われるかも知れんやろが。」
昭彦は子猫の首筋を強く吸って赤い痕をつけた。毎日幾つかずつ新しいキスマークがつけられる。時には服で隠しきれない場所につくこともあって、バンドエイドを貼って誤魔化していたが、勘のいいクラスメートは気が付いているようだった。
「お前はわしのもんや。お前を物欲しそうに見る奴等もぶち殺したなるわ。」
「・・・ぁぁん・・だめぇ・・ぇ・・・」
「わしにそないさせとうないならお前も気ぃつけや?」
「・・ぅん・・・」
昭彦は子猫をぐるっと回転させて向き合いになるように抱っこした。キスをし、目を覗き込んで確認するように言う。
「わしを裏切ったらあかんで。ええな?」
「うん。」
「こないまっすぐ人を好きになったんは初めてやで。・・わしの捨てとった心にすっぽりと入り込んでしもうた。自分で呆れるほどどうしようもなく惚れとるんや。小さいやきもちなぞ必要ないで。・・過去のことてゆーてもやくざの世界の話をお前に言わん理由もわかったやろ?」
「・・うん。」
「お前を危険にはさせとうないんや。・・足洗ったゆーても完全に切れるもんでもないしな。」
「・・・・・ぇ・・・?」
「さっきのあいつの妹が組の若いもんに熱あげとって心配やてゆーてな、わしから注意してくれて言うてきたんや。」
「・・・そぅ・・・」
子猫にはそれだけとも思えない彼女の態度だったが、昭彦がそう言うならそれでもういいと思うようになっていた。彼女に昭彦を慕う気持ちがあろうと、今愛されているのは自分なのだと思うと嬉しかった。ただ、5年もの間待っていたという彼女の母親の方が気になっていた。
「・・・ぁ・・お母さんは・・?」
昭彦は苦笑した。
「妹の方はお前と近い歳やで?母親の言うことなんか聞くかい。」
「・・・高校?」
「去年卒業したけどな・・・家にはほとんど帰って来んらしい。・・・わしもこーしてお前を離さんのやから偉そうなことは言えんがな。・・ほれ・・どや?・・ええか?」
昭彦は子猫の体を弾ませるようにして奥まで突き上げながら子猫の感じる顔を鑑賞していた。
「あん・・あん・・・・・ぁぁぁ・・ん・・・」
「けど・・若いもんは大概遊ぶだけ遊んだら女を売る。・・娑婆に戻ってしばらく世話になった義理があるし・・まぁその辺のことはよーく言い聞かしとく必要があるやろな。」
「・・・義理?」
「何や、またやきもち妬いとるんかい?今更恋愛感情なんてもんないで。・・それでも5年待ってくれてた礼に結婚しよか、言うたんやが・・妹の方が反対しよるし・・・だらだらしとる間に5年分の体の無理が出て入院したんや。」
「・・・ぁ・・・」
「そうや。そこでお前に惚れて・・・先に退院した時から一人暮らしを始めてたんや。ちゃんとケジメつけなお前とは向き合えん思うてな。」
「昭彦ぉ・・・」
子猫は胸がきゅぅんと切なくなってキスをしながら自分から腰を動かした。きゅうきゅうと締め付けながら擦り上げられて、昭彦も熱い息を漏らして呻いた。
「やっとわかって貰たか。・・あぁ・・・最高やでぇ。・・・お前ほど可愛い女は他にはおらん。・・あぁぁ・・ええ気持ちや。」
昭彦は我慢しきれないとばかりに子猫を強く抱き締めると、激しく子猫を弾ませ、子猫がひとしきりよがり声を上げていく瞬間、長い間溜め込んでいた激情のミルクを一気に子猫の中に放出させた。
<4>
[新居]
<4>新居

 昭彦が仕事休みの日、子猫が来るのを待ちかねたように、
「遅かったやないかぁ。早う服着替えや。出掛けるでぇ。」
と楽しそうに言った。子猫はせかされて、いくつか持ち込んでいた私服を選ぶ余裕もないままに着替えながら、
「出掛けるってどこへ行くの?」
と聞いた。昭彦は着替えてる子猫のそばで、隙があればキスをしようとまとわりついていたが、
「あ・・あかん・・・キスしたら体も欲しぃなる。家具見に行かれんようになてまうわ。」
と言って笑った。
「家具?」
「そうや。手頃なマンション見つけたんじゃ。せやから家具を入れんとな。どうせなら、子猫の気に入る物がええやろ?」
「あ・・・うん・・・え?・・・でもマンションって・・・」
「いい部屋探すて言うてたやろ?」
「でも・・・高いのに・・・」
「金のことは心配せんとき。友達にちぃーと頼まれ事あって、臨時収入があったんや。」
「頼まれ事?」
「たいした事やあれへんて。細い事気にせんと・・・支度は出来たんか?」
「ん・・もうちょっと・・・」
「何しとんねん。どないな格好やてええがな。子猫は何も着てへん時がいっちゃんめんこいでぇ。」
いつになくハイテンションの昭彦に戸惑いながら子猫は急いで支度を済ませた。コートを羽織って、
「お待たせ。」
と笑顔を向けた子猫に、
「寒うないか?」
とまだ前の開いていたコートのボタンをかけて言う。
「うん。大丈夫。」
「よっしゃ。ほな、行こか。」
昭彦は入り口のドアを開ける前に子猫を抱き寄せ軽くキスをした。

 家具屋に行くと、すでに下見をして貰っていたらしく、担当の店員がそれぞれの部屋に必要な家具で間取りに合う物をピックアップしていて、説明をしてくれた。
「部屋数はいらないから、防音とセキュリティーの設備のいい物件を選んだのさ。」
店員の提示したパンフレットを見ながら、昭彦は子猫に言った。
「ホントにあのマンションは良く出来てますね。やっぱり最近の物はシステムが違います。うちのはもう古くてちょっとした地震でも潰れないかと冷や冷やですよ。」
店員はかなりの取引になりそうな昭彦に愛想笑いで言う。昭彦は話の間に入られて少し眉をひそめて舌打ちをした。店員はえ?とした後、昭彦から漂う雰囲気に圧倒されてしどろもどろになり、ポケットから出したハンカチで冷や汗を拭いた。
「どれがいい?ここに気に入ったのがなければ他を探してもいいけどな。なるべく早く移りたいだろ?」
「あ・・う・・ん・・・全部揃えるの?」
「キッチンはシステムで作りつけになってるが、リビングと寝室と・・ちょっと私の仕事関係の部屋も持つつもりだから・・その辺は揃えないとね。」
「そっか・・」
子猫は頷いてパンフレットを眺めた。昭彦が標準語を話すのが前は普通だったのに、今は何となく違和感を感じる。
「うわっ・・・たっかぁー・・・」
指で0を数えないと金額がわからないくらい高価な物が並んでいて子猫は思わず声を出してしまった。
「あ、もちろんここに載っている金額よりは割引させて頂きますが・・」
「・・・ふぅ〜ん・・・」
「細かい数字は気にしないで気に入ったのを選びなさい。」
「だってぇ・・・」
「任せきりにするのはつまらないだろ?私達の新居なんだから。」
あ、と子猫は昭彦の顔を見た。新居という言葉が気に入って嬉しくなって笑った。昭彦も子猫の嬉しそうな顔を見て、満足そうに頷いた。
「いやぁ・・お若い奥様で羨ましい限りです。」
定員の言った奥様という言葉に子猫はポッと頬が赤くなった。
「やはり家の物を決めるのは奥様が主導権を持たれるのが一番ですよね。」
と、定員は更に愛想笑いで言った。定員が本当に子猫を奥様と思っているかは疑わしかったが、そう言って貰えることが嬉しくて気持ちが舞い上がってしまった。昭彦を見る目も自然と甘えが入り、それに昭彦が笑顔で頷くのでますます嬉しくなっていった。
 子猫は定員が説明する物から明るい白を基調とした物を選び絨毯とカーテンを深紅にしてまとめる案を出した。昭彦も気に入ったようで、更に小物を深紅でポイント的に使うよう意見した。

 家具屋で相談が決まると次に家電メーカーに行って必要な電化製品を部屋のバランスを崩さない物を選んで決めた。店を出た時にはすっかり夜になっていたので、
「後の小物は少しずつ揃えて行こう。」
と、言った昭彦は、夕食の前にマンションを見せたいからと、タクシーを捕まえて子猫を案内した。
 最近建ったばかりというマンションはまだ全部の住人が入ってはいないようで所々の窓から灯りがこぼれているくらいだった。カードと暗証番号で開ける玄関や、やはりカードで階を指定するエレベーターに子猫は驚かされた。が、室内に入って更に、建物の玄関フロアと個別の玄関前とがモニターで見れるシステムになっているのに、更に驚いてしまった。室内は常に温度と湿度が自動調整されていて、不用意に窓を開けると警報機が鳴ることも教えられた。キッチンには、ガスレンジの代わりに電気で調理出来るコンロや自動食器洗い機まですでに設置されていた。
「すごすぎるぅ・・・」
子猫は色々なシステムに混乱しそうになってつぶやいた。
「こないなもんはじき慣れる。どや?気に入ってくれたか?」
「・・・何か・・・気軽に遊び来れなくなりそう・・・」
「アホォ!何言うてんねん!全部お前の為やがな。」
それを言われるのが子猫には一番辛いものがあった。子猫の為とは言っても、一体これだけのお金をどこで用意したのかと不安になる。でも、それを口に出して聞くのがなんとなく怖かった。それで子猫は不安を別の言葉で誤魔化していた。
「・・・だって・・・猫・・・きっとわかんなくなっちゃうよぉ。機械苦手だもん。」
「お前に家事をやらせようとは思ってへんで。ここはピアノ演奏も安心して出来るちゅう売り文句やったんや。それが一番の気に入った理由やな。」
そう言って笑う昭彦の目は子供のように輝いていた。子猫はそんな時の昭彦が大好きだったので、目を見つめながら、
「うん。」
と言って笑った。昭彦も子猫を見つめて力強く抱き締めた。
「ええやろ?」
「うん。」
子猫は昭彦を信じることにして、もう不安がるのはやめることにした。子猫が納得したのを感じた昭彦は、更に強く抱き締めるとキスをした。
<5>
[一万本の薔薇よりも]
<5>一万本の薔薇よりも

 新しい部屋の準備が整い、いつでも転居出来る状態になっていた。それでも昭彦はアパートで最後の夜を過ごそうと言った。せっかくの休みの日で一晩中一緒にいられるのに、と子猫は早く移りたい気持ちでいっぱいだったが、昭彦は最後の夜にこだわっていた。

 その夜、昭彦は珍しく布団に入ったまますぐには子猫を抱こうとしなかった。
「こっちに捨てていきたいものがあるんや。」
子猫は昭彦の腕枕で何となく暇を持て余して肩の牡丹を指でなぞっていたが、
「え?」
と昭彦の顔を見た。
「捨てていくもの?」
「ああ。そうや。向こうでのわしらの新しい暮らしの為にな。」
「・・・何?」
「過去の女や。」
「・・・過去の・・・女・・・」
「まだお前には全部話してないやろ?せやから今夜はお前にわしが付き合うた女のことを全部話ちゃる。」
「・・・ゃ・・・」
子猫は苦しそうな表情になり首を振った。
「聞きたくないぃぃ・・・」
昭彦は子猫の肩を撫で髪にキスをしながら、
「辛いのんはよぉわかる。聞きとないのんもわかっとる。けど、今話しとかんと、後でどんな話の流れで昔の女のことが出てくるかわからんやろ?その度に嫉妬したり悲しんだりはさせとないんや。わかるか?」
と優しく言った。それでも子猫はすぐには承諾出来ずに体を強ばらせて無言のうちに拒否していた。
「他の女にはこんな話したことないんやで?お前がわしの最後の女やから言うとるんや。お前にはわしの全てを受け止めて欲しいねん。わしの全部でお前を愛したいんやないかい。」
子猫は昭彦の言うことを何とか頭で理解したものの心が反発して言葉が出なかった。それでも昭彦がもう決めてしまっているのを感じてぎこちなく頷いた。
「ええか?ちょっとの辛抱やで。ええな?」
子猫はまた小さく頷いた。昭彦は確認するように子猫の目を覗き込み、宥めるような熱いキスをしてから、大きく深呼吸すると話し始めた。

「初めに母親のことを話さなあかんやろな。わしがこの世に生まれて初めてかかわった女なんやから。」
そう言って昭彦は母親とのことを話し始めた。5歳で母親が家を出て、7歳で正式に離婚し、小学校時代は厳格な父親の元で育ったこと。中学校は超有名私立を2校受けてどちらも合格したが父親への反発が強く、どうしても母親と暮らしたいと家出して母親の所へ行き、普通の公立中学に行ったこと。

「中学2年で初めて女を知ったんや。仲間うちで回されとる誰とでも寝る女やったし、たいした思い出もあれへん。・・けどそいつの友達に純情な子がおってな、わしに気があるちゅうて紹介されたんや。」
その頃はもう悪い仲間と付き合うようになっていて何度も補導されるようになっていたこと。鑑別所を2回経験し、保護観察処分を受けていたこと。彼女とはしばらく真面目に付き合っていたが、反目していたグループに彼女をさらわれて、助ける為に相手を刺したことで、少年院に送られたこと。
「彼女は泣きながらわしが戻るのを待っとるっちゅうたがや。けど、中学も終わる頃に少年院から出されて、まるで卒業する為だけに戻ったようなもんやが、彼女は新しい男作っておった。女の涙はあてにならんっちゅう最初の経験やったで。」

「まぁ、それが原因ちゅう訳でもないんやが、彫り物入れてな、組長の庭に三日土下座して頼み込み、組に入れて貰たんや。」
使い走りのような毎日を送りながらも、時間があると独学で勉強し、高校・大学は出なかったが元々勉強が嫌いではなかったこともあって、特に薬学関係では専門家並みの知識を持つようになったこと。組長にもそれを認められて、いつか仲間からドクターと呼ばれるようになって、色々重要な仕事も任されるようになったこと。

「そうなれば金も女も自由や。馴染みの店では必ず新しい子を紹介される。試してみて良ければ上客としてついてやってくれっちゅうことやろな。店はひとつやないし、一夜限りの女もおれば、しばらく面倒見てやった女もおる。その中に女優にもおらんくらいの別嬪がおってな、初めわしの女やったんやが、組長が噂聞いてその店に行きよってな、惚れたっちゅうし仕方あらへん、女によう言い含めて組長のとこに行かせたんや。それでも時々こそっとわしのとこに来ては、辛いっちゅうて泣きよった。・・・それがバレてわしは関東の方に来させられたんや。」
こっちでも薬の知識が買われて羽振りは良かったが、その関係で2回刑務所を経験したこと。刑務所を出てからも組の待遇は良かったこと。水商売の店を任されたこともあるし、自分で店を持ったこともあるということ。
「2回目のムショ暮らしの間、わしの女やったママに店のことを任せとったんやが、ホストに入れあげて潰しよった。わしが出るゆうのんを聞いて男と逃げよったが、金がなくなるとすぐに捨てられたようやわ。組のもんが見つけてわしの前に連れて来た時には風呂屋で働かされとってボロボロやったで。若いもんは落とし前つけさせるちゅうたんやが、組長がホテル任せてくれとったし別に困らんしでそのまま風呂屋に返してやったわ。」

「金離れさえ良ければ綺麗な女はいくらでも寄ってくる。けど、わしもいい加減水商売の女にはうんざりしてきたとこやった。そんな時に知り合った女が女子大に行ってた子でな、綺麗やった上に頭もいいしで、雰囲気自体わしが付き合うたことのないタイプやったんや。田舎から出てきて寮に入ってるちゅうから、わしは部屋を借りてやって小遣いもかなり渡してやっとったんや。素人にしてはやくざの世界を怖がらん子やったから、どこにでも連れていった。卒業したら結婚しようて言うてあったしな。・・まぁ、それがあかんかったんやが・・その女に入れあげる一方で、わしは子供ふたり抱えて健気に仕事しとる女が気になっとったんや。話を聞いてやればやるほど惹かれてなぁ・・・結局その女の面倒も見てやるようになったんや。それがあの姉妹の母親なんや。それでも付き合いでお水の女の世話もしとったし、女子大の子はすぐに嫉妬してうるさいしで、だんだんその母親の方がよくなっていったんやな。それが前にも言うた事件に繋がるんやが・・・まぁ、そんなとこやな。」

 子猫は黙っていた。昭彦はさすがに疲れたようで、飲みかけだったポカリスェットを一息に飲み干し、大きく息をついた。
「たいしたことなかったやろ?」
子猫はじっとしたままやはり黙っていた。
「なんや?話が長すぎて寝てしもうたんか?」
「・・・寝てないもん・・・」
子猫が枕に顔を埋めたまま小さく言ったので、昭彦は苦笑しながら顔を上げさせた。が、子猫の泣き顔に真顔になるとギュッと抱き締めて、
「軽く話したつもりやったが・・やっぱり辛かったんか?」
と言うとキスをしようとした。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
子猫は両手を突き出すようにして昭彦の体を押し退けた。掛け布団をはね除けてペタンとしゃがみ込み肩を震わせて息も震えていた。
「どないしたんや?過去の話やちゅとるやないかい。」
昭彦も起きあがって、子猫を落ち着かせようと手を伸ばしかけた。が、子猫は体を引いて拒絶すると、悲鳴に近い声で叫んだ。
「どうせ猫なんか綺麗ぢゃないもん!」
「・・・あ?」
「頭だってよくないもん!」
「・・・お?」
「嫉妬ばっかしてうるさい子だもん!」
「・・・な・・」
「どうせ猫のことなんかすぐ飽きるに決まってるもん!」
「なぁ・・」
「猫のことだってすぐ過去の女って言うようになるんだもん!」
「じゃかぁしぃー!われ!勝手なことばかしほざいとるんやないで!」
昭彦の怒声に子猫はビクッとして声をつまらせた。涙がまた一気に溢れ出し頬を伝ってポトポトとシーツに落ちる。昭彦は大きくため息をついて、涙で濡れたシーツに指先で触れ、濡れた指をペロッと舐めて言った。
「わからんのか?わしがこないに惚れとるっちゅうのが、え?」
「・・・だって・・・ゥック・・・猫は・・・ヒック・・・つまんない子だもん・・・ェック・・・」
「誰がつまらん子やて言うたんや?わしはそないなこといっぺんかて言うたことないで。」
「・・・だけど・・・グシュ・・・昭彦は・・・エッグ・・・綺麗で素敵な・・・ウック・・・女性を・・・グジュグジュ・・・いっぱい知ってるんだもぉーん!」
ワァァァァ・・・と子猫は声を出して泣き出した。昭彦が抱いて宥めようとしても身を捩って嫌がっていた。
「お前かて可愛いやんかぁ?」
子猫は両手で顔を覆ってイヤイヤをする。
「お前に泣かれると辛いで。泣かしとうない。・・・せやかていつか知ってまうかも知れんことやし・・話してケジメつけときたかったんや。・・・それだけのことやないか。」
昭彦がどう慰めても子猫はイヤイヤをするばかりだった。
「どないせぇっちゅうねん!・・・こんだけ言うてもわしが信じられへんのんか?・・・なぁ・・・何でも言うてくれ。どないしたら信じて貰えんのや?」
子猫は息をひくつかせながら昭彦の困り切った顔をしばらく眺めていた。
「・・・愛してるって・・・」
「愛してるにきまっとるやろ!」
「・・・じゃなく・・・」
「なんや?」
「・・・今の話よりも・・長く・・・」
「ん?」
「・・・一万回・・・愛してるって言って。」
子猫は体中をひくつかせて言った。
「わかった。言うてやるで。それでわしの真実を証明出来んのやったら何遍かて言うてやる。」
昭彦は子猫を抱き寄せた。今度は子猫も素直にそれに応じた。布団から起きあがって裸のまま長い間向き合っていたので、二人の体はすっかり冷えてしまっていた。昭彦は子猫を胸に抱きかかえて横になると、布団でくるむようにして体をさすってやった。
「こない冷えてからに・・風邪引いたらどないすんや。わしの大事な子やで。もちっと大切にして貰わなかなわんで。」

 子猫の体がいくらか暖まってきたのを確認して昭彦は約束の言葉を始めた。
「子猫、愛してる。」
一度言う度に顔にキスをする。
「子猫、愛してる。」
指を折りながら数えて10回目には、
「子猫、愛してる。これで10回やで。」
と念を押す。
「子猫、愛している。」
10回を10回繰り返して、
「子猫、愛している。これで100回や。」
と言う。子猫は繰り返しキスをされ、囁かれ、だんだん温もりの中でうとうとしてきてしまった。それでも昭彦は続け、
「子猫、愛してる。これで500回やな。」
と自分に言い聞かせるように言っては、また続けていた。
「子猫、愛している。」
意識が遠のきながらも時々目を覚ますと、昭彦の囁きが聞こえてきて、キスが優しく肌に触れた。
「子猫、愛している。1000回目やで。」
昭彦は特に起きているようにとは言わず、ただひたすらに囁き続けていた。
「子猫、愛している。」
子猫も何とか起きていようとは思うのだが、眠くなってはうとうとしていた。
「子猫、愛している。これで半分の5000回や。」
「・・・あきぃ・・・」
「子猫、愛している。」
「・・・ねぇ・・・」
「子猫、愛している。」
「ねぇ、もぉいいよぉ。」
「子猫、愛している。」
昭彦は気にせずに続けた。
「子猫、愛している。」
声もかすれがちになっていた。
「子猫、愛している。」
「ねぇ・・・」
「子猫、愛している。」
「あきぃ・・・」
「子猫、愛している。」
キスは変わらずに優しかった。
「子猫、愛している。」
「もぉわかったからぁ・・・」
「子猫、愛している。」
「もうやめていいってばぁ・・・」
「子猫、愛している。5000と10回目や。約束したことや。わしがそうしたいんや。気にせんでええ。眠たいなら寝とき。一万回目の時起こしちゃるで。」
「・・・あき・・・」
「子猫、愛している。」
「・・・ごめんね。」
「子猫、愛している。」
子猫が何を言っても昭彦は一度約束したことだからと言ってやめなかった。

 そして、声もかすれ果てた最後、
「子猫、愛している。・・・これで10000回や・・・」
と言うと、泣きはらして頷く子猫を思い切り抱き締めた。
「わしが信じられるか?」
「うん。」
子猫の涙は悲しみでも嫉妬でもなく、感激の涙だった。
「もう自分を悪く言うたらあかんで?」
「うん。」
子猫は胸がいっぱいで嬉しいのに切なかった。
「わしの愛をしっかり受け止めたか?」
「うん。」
子猫も昭彦を抱き締めた。昭彦は大きく深呼吸を繰り返し、
「そしたら抱かしてくれや。もう我慢出来へんで。」
と言って笑った。
「うん。」
子猫もクスッと笑って、
「昭彦・・・愛してる。」
と言った。
「何や?1回だけなんか?」
「・・・ぅ・・・」
「クックック・・冗談や、アホ。これからまた始まったらたまらんわ。」
昭彦は悪戯っぽい目を輝かせて笑った。そして子猫のキスで乾いた舌を潤そうと唾液を貪ったが、
「こっちの方がええわ。」
と言って、布団に潜り込むと、子猫の蜜壺を吸い始めるのだった。
 子猫は感じて蜜を溢れさせながら、今夜のことを一生忘れないと心に誓うのだった。一万本の薔薇よりも嬉しい、一万回の愛の言葉の贈り物だった。



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