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| <61> [修学旅行(1)] |
<61>修学旅行(1) 香ばしい卵焼きの匂い。子猫は微睡みの中で鼻をひくつかせる。 「・・ぁ・・・く・・ふっ・・・」 耳の後ろ側を鼻先でくすぐられる感触に、目を閉じたまま首をすくめる。それでも子猫は、夢の中のふんわり焼きたて卵焼きに、思わずよだれを垂らす。 「・・あ・・・ん、ん、・・・」 くすぐっても起きない子猫に、今度は耳全体をはむはむと唇でくわえ始めた。 「ぁ・・ぁ・・あふっ・・・」 すくめていた首を仰け反らせて熱い息をもらす唇に唇が重なる。ぐいぐいと侵入し子猫の舌を絡め取ろうと強く吸う。 「・・・んんっ・・・」 体の感覚が戻ってきて、火照りとともに残る熱い疼きが蘇ってくる。何度も繰り返す絶頂と狂うほどの陶酔に絶叫した喉がまだ痛む。何より、執拗に責め立てられた膣とアナルには、満たされた熱い迸りが、まだぬめってまとわりついている。 「ぁぁ・・・ん・・・んふっ・・・」 子猫も卵焼きの残像を惜しがりながら、舌を吸い返す。それにしても、夢のはずなのにまだ香ばしい匂いが消えない。 「ぁぁぁぁぁぁ・・・」 胸の膨らみをてのひらで優しく撫でられ乳首をつままれて、体が仰け反る。無意識に股が引き締められ、膣の肉襞がうねってびくびくと動き始める。アナルの筋肉もびくんびくんと収縮を繰り返す。アナルの調教はあの夏の日々でほぼ完了していた。今では子猫の方が欲しがってねだる時もある。 「あん・・・あぁ・・・あきぃ・・・」 乳首をこね回され、子猫は昭彦の名前を呼んで目を開けた。 「よっしゃ。目ぇ覚めたな?・・ほな、起きぃ。」 エプロンをつけた昭彦がクスクス笑いを浮かべて、寝惚けまなこの子猫を眺めている。子猫は怠い腕を伸ばして、 「あきぃ・・・抱っこぉ・・・」 と幼児語の訛りまじりにおねだりした。 「そんな時間あらへんやろ?・・バスに置いてかれるで。」 そう言った昭彦は、 「わしもまだ手ぇ離せへん。ちゃんと起きや。」 と言って、つまんで愛撫を続けていた乳首を軽く囓った。 「あんっ・・・んー・・・」 子猫は胸を押さえて体を丸めた。昭彦は頬にキスをして、キッチンに戻っていってしまった。仕方なく、子猫は怠い体を起こして時計に目をやった。午前4時少し前。眠ってまだ1時間くらいしか経ってないだろう。体の疼きが鮮明なのも無理はない。 「あぁ・・・そっかぁ・・・」 子猫はぼんやりする頭で、今日から修学旅行だということを思い出した。 「うっわぁー!」 子猫はカウンターに並ぶ料理に感嘆の声を上げた。10種類以上はあるだろう料理の豪華さだけではなく、それぞれが大皿に山盛りになっていることに驚いてしまった。 「どぉーしたのぉ?・・・この量って・・・?」 「1個作るんも10個作るんも手間は同じやでの。たまには若いモンにも、わしの手料理を食わしたろ思うてな。フッフッ。」 「そっか。ふふふ。料理上手な親分さんで子分さん達は幸せね。」 子猫はからかうように言って、夢に見てた卵焼きの切れ端をつまんで食べた。 「んー・・・美味ちぃ。」 子猫が嬉しそうに笑ったので、昭彦も、ふふん、と得意そうな顔をした。が、すぐに眉をしかめると、 「その件はまだ公には出来んのんや。色々正式な手続きを踏まなならんでな。お披露目なんちゅうやっかいなこともせなならん。せやから、他で言うたらあかんで。」 とたしなめるように言った。 「はーい。・・・つーか、わかってるもん。」 「ほな、ええわ。けどなぁ・・わしは会長になるんやから親分ちゅう呼び方はやめい。なんや肩凝るわ。」 「はーい。」 子猫は茹で上がったアスパラを見つけて、頬張りながら返事をすると、浴室へ向かった。モデルのように背筋を伸ばし、指先まで気を使ってしなやかに、つま先立つように歩いていく。一糸纏わぬ姿で。顔を上げ、あごを引き、肩と胸を反らし気味に。”羞恥心で猫背になるな。””裸体を晒すことで体型も動作もより美しく女らしく磨かれると思え。”と、躾けられた教えをことさらに強調させて歩いて見せた。そして、リビングを出る間際、どう?、とばかりに挑発的な視線を投げた。子猫をずっと目で追っていた昭彦は、まあまあやな、という顔で頷いて返した。子猫が、ん?、と不服そうな顔をすると、 「シッポがついてへんから減点や。」 と、片眉を上げてにやっと笑った。 「え・・・だってぇ・・・」 「口答えはせんのやろ?」 ピシッと言われると子猫は思わずビクッとしてしまう。 「・・はい。・・ごめんなしゃい。」 「ほれ、ええから早ぉせんかい。5時の出発やろ?ホンマに遅れるで。」 「あっ、マジだぁ。あーん・・・」 子猫は慌てて浴室へ急いだ。 荷物は昨日の内に確認してある。後はリュックに昭彦が作ってくれたお弁当と飲み物を入れて完了。昭彦は身支度を整えた子猫を見て、 「何でそない可愛い制服で行かなならんのや。」 と思いっきり面白くなさそうに言った。真っ白な夏のセーラー服、襟と袖口を囲む赤い2本のラインと赤いリボンがお揃いで、胸元の刺繍もワンポイントになっている。昔からの伝統的制服だったが、他校がブレザーの制服に移行する中で、可愛いと評判が高かった。 「上ぇカーディガン羽織ったらどうや?まだ、外は涼しいで。」 「うん。」 子猫は手に持っていたカーディガンに袖を通した。 「それは薄い方やないかぁ?」 「だって、まだ暑いもん。」 「肌が透けちょったら意味ないやんけ。毛糸の方にせい。」 「やぁーだもん。そんなの着たらあせもが出来ちゃうかもよ。いいの?」 性に関しては絶対服従でも、日常のことは別である。 「この際、あせもを選ぶ。背に腹は代えられへん。」 「どんな背と腹なのよぉ・・・もぉ・・・」 「せやから、いかにもスケベ親爺が好きそうな格好すんなっちゅうとんのやろ!」 「だって、猫だけじゃないもん。女子高なんだから、みんなこの支度なの。」 「お前は特別可愛いやんけぇ!」 「・・・それは思いっきり贔屓目でしゅ・・・」 「いや。この前の文化祭で大体のレベルはつかんぢょる。」 「・・・何を見てたのぉ?・・・あ!もう、時間じゃん!・・・あーん、昭彦が文句ばっか言うからぁ、お出かけのキスが出来ないじゃぁーん。しばらく会えなくなるのにぃ・・・くすん・・」 子猫は昭彦に抱きついて胸に顔を擦りつけた。 「まあ、ちょっとの辛抱や。」 そう言って、昭彦は子猫の顔を上げて軽いキスをした。 「・・・昭彦は寂しくない?」 子猫は体中が切なく疼いてたまらず目を潤ませて聞いた。 「どやろな?・・・クックッ。」 昭彦は悪戯っぽい目を輝かせて、子猫の顔を愛おしそうに撫でた。そしてもう一度ゆっくりキスをし、まだ名残惜しそうな子猫を促して、荷物を持つと下まで送っていった。 観光用の大型バスは各クラス1台ずつで、全部で5台。校庭でエンジンをかけて待っていた。生徒の大部分がもう整列をしていた。子猫はうつむき気味に自分のクラスに並んだ。校長先生の挨拶の時、保健の先生が子猫に近付いてきて、 「大丈夫?私も同じバスだから、いつでも声をかけてね?」 とにこやかに言った。 「はい。ありがとうございます。」 子猫は小さな声でそう言って頭を下げた。保健の先生はうんうん、と頷いて前に戻っていった。この保健の先生は夏休みが終わった二学期から赴任してきた先生だった。前の先生が体調を崩したということで、急遽代わることが決まったらしい。子猫は前の先生よりも優しい今度の先生が好きだった。 バスに乗り込むと、さっそくゲームを始めたり、興奮気味に話し込む生徒達もいたが、早い時間ということもあって、眠っていく生徒達も多かった。子猫もあまり寝ていなかったので、すぐに熟睡してしまい、途中の休憩所で隣りに座った美香に起こされるまで気付かなかった。 休憩はトイレだけで、各自持ってきたお弁当は移動するバスの中で食べることになっていた。朝食には遅く、昼食には早い時間だったが、午後1時頃に着く道頓堀で2時間の自由行動が許されていた為、みんなそこで美味しい物を食べるのを楽しみにしていたのだ。 「わぁー、豪華ぁ!」 と子猫のお弁当をみた美香が大きな声で言ったので、前の座席からも後ろの座席からも顔を出して覗き込んだ。 「ホントだぁ。子猫さんのお母さんって料理得意なんだねぇ。」 「いいなぁ。ウチなんてさぁ、時間早くて眠い、って文句言ってぇ、おにぎりだよぉ。」 「あ、じゃぁ・・良かったら好きなのとって。」 子猫はおかずの入った方を差し出した。 「いいのぉ?」 「うん。・・・何か・・・酔っちゃって。」 そう言ったが、本当は美香の叫び声に、あの血のこびりついたシッポを思い出して、食べられなくなってしまったのだ。 「そうなんだぁ。こんなに手間かけて食べれないんじゃもったいないもんねぇ。・・・じゃぁ遠慮なく貰っちゃお。」 「どうぞ、どうぞ。」 と、言って笑った子猫は、小さなおにぎりが手鞠のように並ぶ方をどうにか食べることにした。昭彦は多分、いや絶対、子猫が眠った後でそのまま料理を作っていてくれたのだろう。そう思うと食べない自分が申し訳ないと思いつつ、でも捨てる結果になるよりは、友達が喜んで食べてくれた方が、料理も生かされると思って、心で手を合わせた。 昭彦も4日間離れるのは寂しかったのだと思う。夏の日以来というくらい、激しく、いつ終わるともしれない、熱い愛欲の時間を過ごした子猫は、道頓堀に着くまで再び眠ってしまっていた。途中幾つかの場所をバスガイドが説明してたらしいが、夢の中で昭彦の腕に抱かれていた子猫には、その夢の方が幸せだった。大型バスのゆったりとした揺れとエンジンの振動が、微妙に刺激となって、気持ち良さにそんな夢を見たのだろう。目が覚めた時、乳首が突起しているのに気付いた。秘部にも熱いぬめりを感じていた。昭彦のミルクの残りを意識して、下り物用のナプキンを当ててきて良かった、と小さく吐息した子猫だった。 難波駅近くでバスを降りた生徒達は思い思いに数人ずつのグループで、大阪の街に散っていった。子猫がバスから降りると、 「猫ぉー!」 と叫びながら駆け寄り、抱きついたのは中村京子だった。後から川原圭子も笑顔で駆けつけてきた。 「なかなか降りてこないしぃ、すっごい賑やかな町だしぃ、もう迷子になっちゃったのかと心配になっちゃったよぉ。」 京子が明るい笑顔で言った。真昼の暑い陽射しがふくよかな頬を照らしている。圭子は子猫がカーディガンを羽織ったままなのを気にして、 「どうしたの?こんなに暑いのに・・・」 と心配そうに聞いてきた。 「あ、ううん。脱ぐの忘れてただけぇ。」 子猫は急いでカーディガンを脱いで、リュックにしまった。 「そう。じゃぁ、さっそく行動しますか。」 と圭子が言ったので、子猫も京子も笑顔で頷いた。 「まずは何と言っても、『おおだこ』の”たこ焼き”でしょう。」 圭子はメモを広げてそう言った。が、すぐに、 「あ、でもその前に駅の案内所に寄ってかない?色んなチラシがあって記念になるし、お薦めポイントも教えて貰えるじゃん?」 と言った。京子は、 「えー、歩いてればわかるよぉ。」 と少し不満げだったが、子猫が、 「じゃぁ、その間にちょっとトイレ寄っていい?」 と言ったので、三人は駅に寄ることにして構内に入っていった。 「ひとりで大丈夫?もしわからなかったらトイレの前で待っててね。」 と圭子に言われて、子猫は、 「大丈夫だよぉ。」 とちょっと口を尖らせて言った。それじゃぁ、と圭子と京子は観光案内所へと向かい、子猫はトイレへと向かった。ぬれた感触のナプキンを代えたかったのだ。 トイレの入り口が見えて、子猫がにこっとして歩みを早めた時、いきなり後ろから腕をつかまれ、引っ張られた。 「え・・・何を・・・」 と言いかけたが、ふわっと香る麝香に、子猫はへ?っと顔を上げた。 「あ・・昭彦ぉ?」 「ちーとこっちゃ来い。」 昭彦は足早に人の流れから外れた陰へと子猫を連れてきた。昭彦の後ろからついてきた男達がついたてのように並んで人々の視界から二人を隠す。 「昭彦ぉ・・・どうしたのぉ?」 子猫は戸惑い顔で昭彦に抱きついた。 「わしもこっちに用事があってな。」 昭彦はとぼけたように笑うと、子猫を抱き締めてキスをした。それから、 「けーど、なんやぁ?どーゆーこっちゃねん。」 と、少し怒った調子で言った。 「一人でふらふら駅歩いて。誘拐されたらどないすんねん。アホ。」 「あ・・圭子と京子が一緒なの。で、猫だけトイレ寄ろうと思って・・」 「それくらいわかっとるわい。バス降りるとこからずっと観察しちょったんやさけぇの。そのトイレまでが危ないちゅうとんじゃ。」 「・・ん・・もぉー・・・猫は幼稚園児じゃないもぉーん。」 「子牛か?・・いや、ちゃうちゃう。」 何故か大阪で見る昭彦はテンションが高いような・・・。 「現にわしに補導されちょるがな。クックックッ。」 「昭彦だってわかったからついてきたんじゃん。・・・用事ってぇ?」 子猫は昭彦の背中に腕を回したまま、スーツに頬をすりすりしていた。 「一応挨拶しとこう、思うてな。」 「そっかぁ・・・頑張ってね。」 子猫は鼻をすりすりして言うと、もう一度キスして欲しげに顔を上げた。昭彦はぎゅっと抱き締めて熱いキスをしてくれた。子猫は立っている感覚がなくなるほど、ぼぉーっとして唇が離れた後もうっとりと目を閉じ、胸に抱かれていた。何か、予期しなかった場所で会えたことが嬉しかった。 「用事はもう済んだで、わしが案内したるわ。」 「え?!」 子猫は自分が着いたばかりなのに、と不思議そうな顔をした。 「わし等は観光やないで、新幹線使うたんや。」 「・・・そうなんだぁ・・・」 「でぇ、ちゃっちゃと用事済まして待っとったら・・・なぁんや、ぽーっとした顔しちょるで、どないしよったんやと思たで。ん?」 「あ・・・」 子猫は恥ずかしそうに顔を赤らめた。キスですっかり上気した頬が更に赤く染まる。昭彦が訝しげに眉を寄せた。 「バスん中でオナっちょったんか?」 <違うー!>と声を出さずに叫んだ。 「何やねん?」 「・・・ただ・・・夢の中で昭彦に抱かれてたの・・・」 小さな声で呟くように白状した。 「・・・だから・・・濡れちゃったの・・・」 ビクンッ!と昭彦の股間が脈打ったように感じた。そして、あっと言う間に固い塊が盛り上がって、抱きついている子猫の下腹部を圧迫した。 「アホ。・・あんまり可愛いことゆうちょると夜まで待てんやろが。」 「夜・・・?」 「同じ旅館に部屋とったんや。夜中忍んでくるんやで?」 「・・・ぁ・・・」 子猫はきゅぅーっと蜜壺が収縮してどくんどくんと脈打ち始めてしまった。想像するだけで、ドキドキわくわくしてしまう。蜜が溢れ出してくるのを感じて、子猫は昭彦にしがみついた。 「夜まで我慢せぇよ。」 「・・・ん。」 子猫はドキドキしながら頷いた。 子猫がトイレに寄って、外に出てくると、圭子と京子が昭彦に驚きながら会話していた。そして、昭彦が案内すると言ったのを拍手して喜んでいた。 「猫ぉ・・・ラブラブゥ〜。」 と京子が歩きながら、そっと耳打ちをした。子猫はドキドキしながら耳まで赤くした。 昭彦は軽い冗談を言っては子猫達を笑わせ、色々な店に連れていってくれた。すれ違う他の生徒達が不思議そうに眺めていたが、子猫は気にならなかった。昭彦の横顔を見るだけでもドキドキした。フッと視線が合ってしまうと、たちまち顔が火照ってきてしまう。のぼせたような顔を陽射しの暑さのせいにしていたが、”夜中忍んで来い”と言われた言葉がずっと頭で響いていたのだ。だから、昭彦のどんな小さな仕草でも、夜の甘い愛撫を想像させてしまうのだ。 もう、制服一枚隔てた内側は昭彦の奴隷の子猫になってしまっていた。昭彦もそれがわかっているから、あえて子猫に接近しすぎないように注意していた。それでも肝心な所では子猫の手を握って引いてくれた。そんな時、子猫はふわふわと雲の上を歩くように昭彦の顔だけを見ていた。 集合時間になって、昭彦と別れて自分のクラスのバスに乗り込んだ時は、夜には会えるとわかっていながら、寂しくて切なくて泣きたくなった。 けれど、それからも昭彦は子猫が行く場所行く場所に、さりげなく姿を見せた。さすがにクラスで移動してる時は近づかずに、誰にも気付かれないよう、そっと合図してくる程度だった。子猫はその度に切なさと恋しさを募らせていった。そして、ふと、予定表を二日借りていったのはこうゆーことだったのかぁ、と納得した。 |
| <62> [修学旅行(2)] |
<62>修学旅行(2) 圧倒的な音響と極彩色の世界がまばゆい証明の中に浮かび上がり、会場全体をひとつの陶酔に包み込む。それは、団体客用のはるか後方で見ている子猫達でも、充分引き込まれるものだった。ミュージカルは初めてではなかったものの、その規模や絢爛豪華さはかつてない経験だった。仮想世界ではあっても、確かにそこに息づく世界だった。男役の人が切なく恋の歌を歌うと「はぁぁぁ…ん」と思ってしまう。だから、最後のレビューで大きな羽を背負って輝く階段を降りてきた男役のトップスターが、上の階の観客へも手を振ってくれた時は、みんな「きゃぁーーー!!」っと叫んで手を振った。子猫も多少控えめではあったが、例外ではなかった。 興奮の冷めないまま、旅館についた生徒達は、クラスのグループごとに割り当てられた部屋へ行った。荷物を置いてすぐに広間へ移動し食事、その後、クラスごとに入浴時間を割り当てられた。夜12時以降は自由に入浴可能で、女の子の特別な日という子は、女性の先生方の部屋にある内風呂を使用することも出来た。それで、割り当てられた時間に行かない子も何人かいて、子猫もその一人だった。 旅館は団体客を主体としているようで設備は大きなものばかりだったが、同行してる先生方や校長用の特別室のような小さめの部屋もあるようだった。「忍んで来い。」と言われていた子猫は、昭彦から部屋の名前は聞いていたが、夜中にいきなり探すのは不安だったので、みんなが入浴に行くのに合わせて下見することにした。 初めは、どうやってその部屋に行けばいいのかもわからなかったが、建物の内部が仕切られていて、使用するエレベーターも団体客とは違うのだと気付いて、一度ロビーに戻ってから別のエレベーターで行くことにした。だいたい、名前が付いている部屋とゆーことはそれなりに特別な部屋だろうとは思っていたが、ステンドグラスのドアで仕切られている入り口にその名前を見つけた時には、気後れしてしまった。 そっと、ドアを開けて中に入ると、通路に10人くらいの男達が警戒顔で立っていた。その中の数人は、子猫を見ると姿勢を正して頭を下げたが、他の数人は怪訝な表情を浮かべて鋭い視線を投げつけてきた。子猫は驚きを隠せなかったが、とにかく昭彦に会いたい一心で昭彦のいる部屋の名前を見つけてドアに近付くと、鋭い眼差しの男達が立ちふさがって遮った。彼等の眼はあきらかに他の男達とは違っていた。 「何の用やねん?ガキの来るとこやないで、とっととママんとこ帰り。」 「・・あ・・・でも・・・」 子猫は口ごもりながらメモを確認した。部屋の名前は間違っていない。と、子猫に挨拶をした方の男の一人が、 「すみません。ウチの会長の・・・姐さんなんで・・・」 と、男達から子猫をかばうように間に割り込んだ。 「・・・はあ?・・・何かの聞き違いやろか?」 「もちろんまだ正式ではないですが・・・ドクターが会長襲名後は姐さんになられる方です。」 「はあぁぁぁ?・・・そないネンネの嬢ちゃんがかや?」 「ドクターが大切にされてる方です。」 男が念を押すように言うと、目つきの鋭い男達は声を上げて笑い出した。 「ぶわぁーっはっはっはっは。なんの冗談やねん。」 「ひぃーっひっひっひっひ。ホンマでんなぁ。」 「くっ・・わっはっはっは。ガキは遊びだけにしときなはれや。」 「そーや。いくらめんこいオナゴいうたかて、所詮はガキやないかぁ。」 男達の笑いはなかなか収まりそうになかった。昭彦とは違う組の人達なのだろう、と子猫でもわかる雰囲気があった。昭彦側の男達はうつむきがちに歯をくいしばり、下げた手を握りしめていた。力関係の差は歴然としていた。 「・・・ごめんなさい。・・・後でまた来ます。」 子猫は自分がいることで屈辱的な思いをさせてしまってることに苦しくなって、かばってくれた男に頭を下げて戻ろうとした。と、ドアが開き、 「おどれら、何騒いどんじゃい!」 と、ビシッとしたスーツを着こなした男が顔を出した。 洗練された風格がある40歳半ばの男は、睨みを効かせて、笑っていた男達を一瞬で黙らせると、ん?、と子猫に視線を投げた。子猫は帰ろうとしていたが、凄味のある声に足が止まってしまっていた。それで、思わず視線が合って慌てて頭を深く下げてお辞儀をした。 「フッ。・・ドクの面倒見ちょるお嬢さんかな?」 「あ、・・はい。・・・あ、・・いえ。」 子猫はどっちの意味で言われたのか、迷ってしまった。娘という意味なら、それは冬美か夏美だろう。子猫が困っていると、 「クッフフフッ。こりゃ、言い方が悪かったようやわ。・・ドクの奥さんやろ?」 と、嫌味ではない笑顔で言った。男は俳優にでもなれそうな均整の取れた顔で、柔和に微笑みかけてきた。落ち着いた渋みのある風貌は、かなりファザコンの強い子猫にとって、見つめられるとドキドキしてしまう。 「え?・・・いいえ・・・」 結婚してないのに、と思い、子猫は頬を赤くして首を振った。 「こがいなガキぃ、ボスが相手することあらしまへんでぇ。」 と、さっき一番に笑った男が子猫を蔑むように言った。一瞬でボスと呼ばれた男の目の色が変わる。 「ダボッ!ドクはわしの兄弟やで!おどれらには叔父貴やないけぇ!」 「せ・・せやかてボス・・あげな田舎の・・・」 「じゃかぁしぃ!・・・ドクが怒りよったら、わしでも怖いわ。フッフッ。・・っちゅうより、わしの可愛い弟分なんや。礼儀わきまえんかい!」 「す・・済んまへん・・・」 そう言って頭を下げた男は青ざめた顔に脂汗を滲ませていた。子猫もボスと言われている男のお腹に響くような声に、首をすくめてしまった。しかも、優しそうに見えて急に怒ったり、怒りながら笑ったり、つかみ所がない態度は、昭彦に負けないくらい危ない性格に思えた。 「やぁ、驚かせてもうたやろか?済まんのう。・・・こいつ等はよう事情知らへんねや。まあ、ドクのことは、わしが全面的にバックアップして立派なお披露目したるで・・・そうなりゃ、誰にもケチはつけさせへんよってな。」 また微笑みかけられても、子猫は息がつまって声が出ず、ぎこちない笑みで頷くのがやっとだった。 やくざって怖い。子猫は初めてそう感じた。昭彦の怖さとは別の怖さ。それに昭彦は怖いといっても、子猫にとって愛する獅子の雄叫びのようで頼もしくもあった。それに、笑った男達が言ったように、しのぎをけずる権力闘争からはかなり離れた環境にある東竜会は、組員達もどこかのんびりしていた。本場の大阪で、神経を研ぎ澄ませて闘ってきているやくざには、独特のオーラがあるようだった。逆に言えば、そうした世界にいた昭彦やマサが爪を隠し息を潜めていても消せないオーラが、東竜会の中で特殊だったのも頷けた。 「そっちの若い衆にもいらん気ぃ使わしてもーて悪かったのう。」 昭彦側の男達も相当脅威を感じたようで、 「とんでもないっす。」 と、緊張して頭をさげた。ボスと呼ばれる男は、うんうん、と頷くと、また子猫に向かって微笑みかける。 「そやそや、まだ自己紹介もしてへんかったの。わしは山神組若頭をさして貰てる竜崎っちゅうもんや。こいつ等はわしの竜崎組のもんで、ちーと偉そうな顔したがりなんや。注意しとんのやけど直らへん。・・・怖がらせてもうたら堪忍やで。」 子猫は力なく笑って首を振った。子猫が怖いと感じたのは、この竜崎そのものだったからだ。 「消灯前やのに、もう自由行動なん?まだ、点呼とかあるんやろ?」 え?っと子猫は竜崎の顔を見つめた。 「ドクが話さんかて、それぐらいつかんどるわい。おのれの惚れとるオナゴが大阪に来るよって、心配でぇついてきてからに。たまには遊びぃ来いやてぇ誘うたかて、ちーとも来よらんくせしてのう。ホンマにしょーもない奴っちゃ。クフフフッ。」 「あ・・え・・でも、大阪にはご挨拶に来たって・・」 「そーや。挨拶だけやで。一緒に食事しよう言うても用事あるっちゅうて、マサだけ残してさっさと消えよった。」 「・・・済みません。」 子猫が謝るのはどうかとも思ったが、思わずそう言ってしまっていた。 「ええて。お嬢さんが悪いんやないで、気にせんでな。」 柔和で気さくな笑顔だった。一瞬で形相が変わることを除けば、ぽうっと見取れてしまうほどに素敵な紳士だった。と、現に子猫はぽうっと見取れてしまっていた。昭彦もかなり端正な顔立ちだったが、更にあか抜けてお洒落な感じがした。昭彦よりどれくらい年上なんだろう?と思いながら、じぃーっと見つめていると、その観察している顔がだんだん近くに見えてきた。 「ホンマに可愛いなぁ。クッフッフッ。肌が白ぉて透き通るようやないかぁ。」 鼻がつきそうなほど間近で言われて、子猫は我に返ったが、身じろぎできずにそのままじっとしていた。 「肌理が細かいんやなぁ・・吸い付く肌っちゅうんはええもんや。」 と、言いながら、竜崎はじっと子猫の目を覗き込んでいた。片手を腰のベルトに当て背筋と足は伸ばしたままで前屈みになり、子猫の目線に合わせていた。竜崎はブルーグレーの眼をしている。ん?・・えええ??・・・カラーコンタクトしてるのかぁぁ??子猫は、大阪のやくざってこんなにお洒落に気を使うものなのかぁ・・・、と、驚きと共に目を見開いた。 「プックフフフッ。おもろい子ぉやなぁ。」 竜崎は体を起こすと、 「こげに怖がられもせんとじっくり観察されるんも珍しいわ。フフフッ。」 と、苦笑した。 「済みませーん。」 怖いですぅ。・・・でも田舎者なので・・・。と、心で言い訳しながら、子猫はまた頭を下げた。 それにしても、さっきから竜崎は友好的に話してくれてはいるが、子猫を昭彦のいる部屋に入れてくれる気配がなかった。昭彦も様子を見に顔を出さなかった。気が付かないのだろうか、気が付いても出られない事情があるのか、子猫は不安になってきた。ちょっと様子を見にきただけなので、さっき竜崎が言っていたように、消灯前の点呼が気になる。もう、みんな部屋に戻ってる頃だろう。 「あの・・・昭彦さんに会いたいんですけど・・・」 「おう。そやったのう。今ぁウチの姐さんが込み入った話しとんのやわ。」 竜崎は眉を寄せて少し考え込んでいたが、舌打ちをすると、 「チッ。・・・姐さんにも困りもんやで。」 と、呟いた。 「・・・あのぉ・・・」 子猫が困ってもう一度言うと、竜崎は、 「ま、ええわ。姐さんは誰も入れるな、ちゅうとったが、・・ついて来。」 と、真顔で言った。子猫は、パッと目を輝かせて、 「はい!」 と、嬉しさに弾んだ声で返事をした。竜崎はクスッと笑いを漏らすと、人差し指を唇にあてて、ドアを開けた。 ドアの内側は一間ほどのスペースがあって、スリッパを脱いで上がった所の左右がトイレと浴室の入り口になっているようだった。一畳ほどの板の間はふすまがしまっていて、男がひとり正座して待機していた。竜崎が子猫を連れてくると、正座していた男が少し抗議した表情になったが、竜崎のひと睨みで黙ってうつむいた。 「せやからねぇ、昭彦はん。あんたが戻ってくるんが一番やないの?」 ふすまの向こうから、艶のある女性の声が聞こえてきた。 「姐さん、失礼します。」 竜崎は立ったまま、そう言ってふすまを開けた。そして、部屋の中に入ると子猫を手招きした。その様子に和服姿の女性が眉をひそめた。 「お邪魔します。」 子猫は一度、敷居の外側で正座して頭を下げながら挨拶をした。顔を上げると、女性の冷たい視線と腕組みをした難しい顔の昭彦が目に入った。 「ええから、気にせんと入り。ここはわし等が予約した部屋とちゃうんやからの。どうどうと入ったらええのんや。」 子猫が正座したまま動けずにいたのを、竜崎がまた手招きして言った。竜崎はテーブルの奥にあぐらをかいて座りながら、 「姐さん。ええ加減に諦めたらどないやねん。」 と、たしなめるように言った。子猫は気まずい雰囲気に、どうしよぉ、と部屋の中に視線を泳がせた。大きめのテーブルを挟んで昭彦と和服の女性が対峙している。竜崎は二人を横から見る位置に座っている。テーブルを離れて取り囲む男達は、昭彦の若衆と竜崎の若衆だろうか。と、壁際で正座して腕組みをしているマサに気付いた。子猫は膝をそのままするようにして、マサの近くまでそっと移動した。マサは子猫が側にくると腕組みを解いて、 「ちっとばかし、辛抱しちょくれやっさ。」 と小さな声で囁いた。子猫は黙ったまま笑みを浮かべ、うん、と頷いた。 「おやっさんの入院しとる時やっちゅうに。」 竜崎は煙草を取りだしながら、ため息まじりに言った。竜崎が煙草をくわえると後ろに控えていた男がすかざず火を差し出す。 「そないな時やからこそ昭彦はんに戻って貰たら、心強いんやないの。」 姐さんと呼ばれている女性はそのまま美人女優で通りそうなほど綺麗な人だった。和服姿が板についていて、30歳前後に見えるが、あるいはもう少し上だろうか。 「ほぉー、わしは信用されとらんようじゃのう。」 煙草の煙を吐き出しながら言う、竜崎の声に凄味が加わった。 「まあ、そげなことはどうでもええんじゃ。・・・けどな、おやっさんに、姐さんの面倒よう見てやっちょくれ、ちゅうて頼まれよったで、我が侭も聞いてやっとったんじゃ。・・・こない勝手なことされちょったら、もう面倒見きれまへんなぁ。」 姐さんはテーブルにあったお茶を竜崎に向かって投げつけた。うわっ!と子猫は目を丸くした。あんなに高級そうなスーツなのに、なんてもったいない、と思ってしまった。思ってから、やっぱり緊張感に欠けている自分に反省した。 「ホンマに困ったオナゴじゃのう。」 竜崎は後ろに控えていた男が差し出したハンカチで軽くお茶の滴を払うとため息を吐いた。 「今日、ここへ来たいちゅうのを聞いてやったんは、組の連中のいる前でおかしなマネされとうなかったからや。・・・ドクかてこれからは責任ある立場になるんや。また変な噂立てられて立場まずくしたらあかんやろが。え?・・・せやから話したいことは話して、気持ち整理して貰わな、っちゅう、わしの精一杯の思いやりだっせ。・・・のう?兄弟。」 え?・・また?・・変な噂?・・気持ちの整理?子猫はキーワードを頭の中で巡らせていた。あ!っと子猫は思い出して、体に悪寒が走った。かつての昭彦の恋人で、その美しさに組長が横恋慕して・・・。そこまで記憶を辿ったが、子猫はたまらなくなって目を閉じ、正座している膝に置いた手を握りしめた。 「竜崎の兄貴、わしには何も整理するもんはないで。」 昭彦は髪を掻き上げた。 「クッフフフッ。そらそうやわなぁ。あげな可愛い子がおるんやさかい。肌がすべすべしちょってええなぁ。なんや甘い香りがするわ。」 「兄さん・・・」 「ファッハハハッ!冗談やがな、冗談。指一本かて触れとらん。・・・ホンマに・・・久々に会えたと思うたら、懐かしがるわしへの挨拶より、心配で飛んでいきよったでのう。噂には聞いとったが、そこまで惚れ込んどるとは・・・良かったのう、ドク。」 竜崎の声にはどこか昭彦への思いやりが感じられる暖かい響きがあった。子猫は目を開けて竜崎と昭彦を見比べた。 「・・・ずっと心配しとったんやで。ほしたら向こう行っても女がらみで問題起こしよる。ホンマにモテる男やで。フフフ。・・・でぇ、女に裏切られて組に迷惑かけたっちゅうケジメを、自分一人でつけたんはええがのう・・・娑婆に戻ってからずっと落ち込んどったようじゃで、もう人生捨てよったんかいな、ちゅうに思うとったんやで。」 「そないな過去はもうとっくに忘れちょりますわ。」 「ほうか。幸せな今があればええてか?」 「子猫さえおったらええですわ。」 「クフフフッ。よう言うわ。あてられてまうやないけ。・・・けど、周大人が誉めとったで、どんな子やろ、思うたら・・・おもろい子やなぁ。」 「クックックッ。おもろい・・・ですわな。」 そう言うと、昭彦は初めて子猫に視線を投げた。口元には笑みを浮かべているが、目の奥には苦悶の色があった。子猫は不安になって、え?、っと問うように見つめ返した。昭彦は視線を反らして、うつむきがちに息を吐くと、 「兄さんの言う”おもろい”は複雑やで、子猫には通じへん。子猫は素朴な子なんや。”おもろい”言われたら、まんま受け止めてまう。人の言葉の裏まで探らへん。っちゅうか、わからん子なんや。・・・それでいて、わしの心を何も言わんでもわかってくれる。ええ子ですわ。」 と、静かに言った。 「姐さんがわしを引き立てたいっちゅう気持ちには感謝しちょります。・・・けど、わしはこの子を守りたいだけや。それ以上の望みは何もあらへん。・・・腹のさぐり合いやら、裏切りやらのはびこっちょる世界におっても、なんもおもろないわ。」 「やったら辞めたらええわ!」 姐さんと呼ばれている女性は、さっきからの竜崎と昭彦の会話を腹立たしそうに扇子を仰ぎながら聞き流していたが、たまりかねたように叫んだ。 「なんやとぉ?!・・・いくら姐さんかて、わしのドクがようやっと戻ってきたちゅうに、そない勝手なこと言わさへんでぇ!未練がましい嫉妬は見苦しいわい!」 竜崎が再び怒りを露わに、お腹に響く怒声をぶつけた。 「うちは一門を思うてゆうちょるんや!代紋背負うちょるのに、その責任も感じられへんゆうんやったら、やめたらええて思わへんかぁ?どないやねん?竜崎はん!」 「じゃかぁしーわい!!」 バンッッ!!と竜崎がテーブルを叩いた。罵声と共に部屋の空気まで震わせるようだった。 「・・・わしは・・・ドクほど親思いの子は知らん。・・・義理に厚く、人情に深く、自分捨てても親には尽くす。・・・せやのに・・・いっつも報われへん。」 竜崎の険しい表情をした眼尻に涙が滲む。 「ドクが関東に行かされた時には、まだ、わしには庇うてやれるだけの力がなかった。・・・けど、いつかは呼び戻したろ、思うてのう、誰にも文句言わさへんだけの力つけたんや。」 「それやったら・・」 「人の話は最後まで聞けぇ!ダボッ!」 「その台詞!ウチの人の前でも言えるんか!」 「フッ・・・見てみぃ。所詮オナゴはそれやがな。散々威勢のいいことぬかしよっても、都合が悪くなったら庇護しとる男の陰に隠れよる。」 「兄さん、わしの為に言い過ぎたらあかん。・・・摩耶姐はん・・・あん時は守ってやれへんで、済まんことしたわ。けど、先代姐から引き継いで立派に一門の姐さんにならはったで、良かったと思うちょります。・・・竜崎の兄貴や他の兄貴達とも仲良う、一門を盛り立てていっちょくれやす。頼んますわ。」 昭彦は座布団から降りて後ろに下がると、両手をついて頭を下げた。 「あんたは助けてくれへんのん?・・ねぇ、昭彦はん・・・」 姐さんが切なそうに甘える声で言う。昭彦は土下座していた頭をあげ、 「本家のことは、わしのしゃしゃり出ることやないですわ。」 ときっぱりと答え、また腕組みをした。 「・・・冷たいんやね。・・・うちがこんなに一人で頑張っちょるんに。」 それは”姐”というより”女”の言葉だった。 「頑張りたないんやったら、頑張らなええやろ。生き方決めるんは自分自身やで。」 昭彦の返した言葉は”男”の言葉だった。 子猫はたまらなくなってぽろぽろと涙がこぼれてきてしまった。マサがすぐに気付いて、そっとハンカチを差し出してくれた。子猫は顔を覆うようにハンカチを押し当てて、声を出さないようにしたが、涙は止まらず、しゃくり上げる度に体が震えた。 ふわっと麝香の香りに抱き包まれた。 「・・アホやなぁ。・・・泣かんでええ。わしはここにおるがな。ん?」 耳に昭彦の息がかかる。 「・・・ぅ・・・ぅぅ・・・」 子猫は昭彦にしがみついて胸に顔を押しつけ、嗚咽した。 「・・・なんも心配あらへんねん。・・・怖ぁない、怖ぁない。」 昭彦は子猫の髪を撫でながら頬ずりをした。そして、そのままの状態で、 「済んまへんけど、もう引き取って貰えまへんやろか?」 と言った。 「おお・・済まんかったのう。泣かせてもうたか・・・」 竜崎はそう言うと立ち上がり、 「姐さん。親分の迎えがくる前に帰るこっちゃ。」 と低い声で言った。 「あんたに言われんかて、わかってるがな。・・フン!昭彦はんも随分男を下げたもんやな。そないしょーもない赤子に手ぇ焼いちょって見苦しいわ!・・・アホクサ!」 山神一門の姐はそう捨て台詞を残すとさっさと部屋を出ていった。すぐ後に続いたのは姐についてきた男達だろう。竜崎は苦笑しながら後ろ姿を見送った。 「クッフッフッフッ。見苦しいんは自分やで。・・・のう、兄弟。」 「どうでもええですわ。」 「まあまあ、そう拗ねんと。・・・男の真価も知らへん、哀れな女やと思うたれ。・・・けど・・・お嬢さんには気の毒なことしたなぁ。部屋に入れようか、どないしょうか、迷うたんやけどな。対面すれば辛うなるんはわかっとったんやが・・・蚊帳の外に置かれとるんも、別の意味で辛いやろと思うてな。」 「・・・兄さんの気遣いには感謝しちょります。」 昭彦が頭を下げたのを、子猫は埋めている胸の動きで感じた。昭彦は相変わらず子猫の髪に頬を押し当てていた。抱き包む腕がなだめるように静かに背中をさすっている。 「ほな、わしも戻るわ。・・・ドク、今度ゆっくり話そうな。」 竜崎はそう言って、ふすまの敷居をまたぎかけたが、 「お、そやそや。」 と昭彦の近くまで引き返すと、内ポケットから丸く束ねてある札の塊を出し、そこから一万円札を引き抜いて、 「修学旅行の餞別や。とっとき。」 と、子猫のそばに差し出した。子猫はずっと昭彦の胸に顔を押しつけていたが、昭彦に促されて顔をあげた。竜崎が片膝を立てて屈み込んでいる。 「・・・でも・・・」 「遠慮せんかてええ。・・そやなぁ、わしへの土産はドクに預けといてや。そしたら、ドクも嫌やっちゅうても、またわしに会いに来なならんやろ。」 と、ブルーグレーの眼でウィンクして見せた。 「・・あ・・・はい。・・・ありがとうございます・・・」 子猫は一万円札を受け取ると、昭彦の胸の中で小さく頭を下げた。竜崎は頷いた後、クスクス笑って、 「泣き顔もめっちゃ可愛いなぁ。」 と、わざと昭彦を煽るように言った。甘えてこない弟をかまいたい兄のようで、子猫は思わず笑みをもらした。が、失礼になると思い、すぐに昭彦の胸に顔を隠した。 「・・・兄さん・・・土産は宅急便で送らして貰います。」 「ボケェ。爆弾と間違えられて、捨てられたらどないすんじゃ。大事な土産やぞ。持参せんかい!・・クフフフフッ。」 竜崎は楽しそうに笑いながら、部屋を出ていった。 竜崎が立ち去ってから、昭彦は甘い甘いとろけるようなキスをしてくれた。不安も嫉妬も寂しさも悲しみも、全てが消えてしまうほどに甘いキスだった。 「・・ん・・んん・・・」 子猫は喉を鳴らして昭彦から注がれる唾液を飲んだ。 「済まんかったなぁ・・・」 昭彦は一度唇を離してから、そう言うと、今度は子猫の顔中にキスをしながら言う。 「すぐにも抱き締めてやりたかったんやが・・・あれは怖いオナゴやで、子猫に火の粉がかかるとあかん思うてな。」 「・・・猫が・・・いけなかったのぉ。・・・夜中の約束だったのに・・・ごめんね、昭彦・・・」 「それはかまへん。・・・けど、もう来てええんか?」 「・・・ダメ。・・・マジ、ヤバイ。」 「あ?」 「もう・・・ヤバすぎ・・・」 「どーゆーこっちゃ?」 「だって・・・くすん・・・」 「こら、泣いちょってもわからんやろ?ちゃんと説明してみ。」 子猫は場所を確認しておきたくて、昭彦の顔も少しだけ見れたらいい、くらいの気持ちで来たことを話した。もう、点呼の時間は過ぎてしまっているだろうことも。 「クックックックッ。そら大変やなぁ。」 「・・・だから・・・もう戻らなきゃ・・・」 「今夜はもう離さへん。離せるわけないやろ。」 「・・・だって・・・」 昭彦は子猫の口をキスで塞いだ。子猫が体の芯まで感じてぷるっと震えたのをみて、唇を離し胸に包み込むと、 「マサ、川本を呼んでくれ。」 と言った。 呼ばれて入ってきた男は子猫をドアの所でかばってくれた人だった。 「お呼びだそうで。」 川本は正座して頭を下げた。 「ああ。・・例の先生は一人部屋やったな。」 「はい。具合の悪くなった生徒を別で休ませる為という理由で、そするように言ってあります。」 「子猫が点呼に戻れへんで、適当に言い訳つけといてくれ。」 「はい。承知しました。」 「今夜はこのままこっちで預かるよって、アリバイ頼むで。」 「はい。」 「子猫が困らんようにな。」 「はい。心得ております。」 「そんで、夜めいっぱいイジメたればええ。あの先生、われに相当狂うちょるそうやないか?・・クックックッ。」 「いえ・・まあ・・・たいしたことではないですが・・・」 「・・・ん?・・・そら困るで。」 「あ、いえ。済んません。・・どんなことでも大丈夫です。仕込んでありますから。」 「クックックッ。なら、ええわ。」 「はい。済みませんっした。」 「ええて。・・ほな、頼んだで。」 「はい。失礼致します。」 川本は深々とお辞儀をすると部屋を出ていった。子猫は今の会話の意味がわからずにキョトンとしていた。 「ヘッヘッヘッ。あの川本なら大丈夫だっせ。」 マサがでがらしのお茶を啜りながら笑った。 「ドクターに惚れ込んじょりますよって、女溺れさしても、女には溺れへん。すけこましには最適な条件でんなぁ。ヘッヘッヘッ。」 「そやな。・・・で、なんでそないなマズイ茶ぁ飲んどるんや?」 「ちーと、腹が空きましてなぁ。」 「せや。・・・しつこう粘られて、食事も出来んかったで。」 「料理、運ばせまひょか?」 「わしは後でええ。マサの部屋に運んじょって貰うてくれ。・・・この子が・・・可愛いでな。」 「ヘッヘッヘッ。わかってまんがな。ほな、そうしまひょ。」 「先に食べて休んどってもええし・・・久しぶりのミナミを楽しんできてもええで。」 「ミナミかて・・わてに・・ええ思い出あるはずないでっしゃろ。・・・わての故郷はドクターの中にありますわ。」 「おいおいおい・・・子猫がまぁーた誤解しよるでぇ。」 「ヘッヘッヘッ。済んまへん。・・・けど、子猫はんもよぉわかってくれちょりますよってな、大丈夫でっしゃろ。ヘッヘッ。」 「・・・そないゆーたら、わしが妬くで。」 「勘弁しちょくんなはれや。こんだけ熱うに見せつけられちょりまんがな。・・・わてはお邪魔っちゅうことでんな。退散さして貰いますわ。ヘッヘッ。」 子猫はキョトンとしたまま会話を聞いていた。マサは、 「気ぃ済みはったら、言うちょくれやっさ。料理お持ちしますよって。」 と言って部屋を出ていった。 「マサの奴・・・最近・・・えらい明るうなったわ。」 昭彦は誰に言うともなく呟いて苦笑した。それから、 「・・・待たせてもうたなぁ・・・欲しいやろ?」 と、子猫の胸を撫でた。 「ぁ・・・うん。・・・あ・・・でも・・・あの先生って?」 「二学期から代わった保健の先生がおるやろ?」 「うん。」 「あれは川本の奴隷や。」 子猫は目を丸くして絶句した。 「せやから、本来やったら、子猫が倒れて早退した時かて、真っ先にこっちに連絡せなならんかったんや。・・ック・・・ボケッとしよって。・・・よう叱るように言うたったで、今度はもう少し気ぃ回すようになったやろ。」 子猫は思考する言葉さえ見つけられなかった。昭彦は困惑する子猫を優しく抱き上げると、 「お前は何も考えんでええ。」 と言って、隣りのベッドのある部屋へと移動した。 |
| <63> [修学旅行(3)] |
<63>修学旅行(3) 昭彦にそっとベッドに寝かされる。いつもとは違う空間。見上げる天井には鏡はない。シーツには糊が効いていてパリパリ音がしそうだ。枕が小さくて固い。子猫はいつになく緊張してしまう自分を感じた。 「クックッ。・・まるで初めての時みたいな顔しちょる。」 全裸になった昭彦が子猫とぴったり体を寄せて横になり、子猫の額に掛かる髪を撫で上げながら耳元にキスをする。 「・・ぁ・・・」 電流が耳元からつま先まで駆け抜け、またつま先から駆け上がってくる。全身が鳥肌立って乳首が固く勃起する。 「あきぃ・・・」 子猫は昭彦の首に腕を巻き付けて身悶えた。それだけで頭が枕から落ちてしまう。昭彦は枕を乱暴に払って、子猫の顔を両手で優しく挟み込むと、 「子猫・・・お前は誰にも渡さへん。わしだけのもんや。」 と、言って、強い輝きを放つ眼で見つめた。 「あきぃ・・・昭彦も・・猫だけのあきでいてぇ・・・?」 子猫が潤んだ目で切なそうに言うと、 「ったりまえやがな!・・・わしはもう・・お前の為にしか生きへん。そう決めたんや。」 と、怒ったように言って、激しく口を吸ってきた。乱暴に舌を奥まで差し込み、子猫の舌を根元から絡め取るように強く吸った。息苦しさに仰け反る子猫の頭を押さえて更に歯茎まで丹念に舐めてくる。子猫の体で昭彦の舌の洗礼を受けてない場所はなかった。今でも慣れない恥ずかしい場所はあったが、子猫は恥ずかしさに耐えて全ての洗礼を受け止めていた。 「・・・ん?・・・なんや?」 手探りで子猫の浴衣の帯紐を解いた昭彦は、キスを中断して、はだけた浴衣に目を向けた。浴衣の下が下着だったらこんな反応はしなかっただろう。 「・・・体操着、着とったんか・・・クックッ・・」 「だって・・・決まりなんだもん。」 「決まりてなんや?」 昭彦は子猫の浴衣をすっかり脱がせ、白い半袖の体操着に紺のハーフパンツという姿にすると、一度体を起こしてまじまじと眺めた。 「旅館ではジャージでいるようにって。・・で、寝る時も浴衣の下には体操着を着るのが旅行中の決まりなの。」 「ほう・・・クックックッ。女子高ともなると、学校も配慮しとんのやなぁ。」 昭彦はにやにやと笑いを浮かべて観察するように眺めている。 「・・・なんか・・・あき、Hっぽい・・・」 「ええがな。」 「うー・・・もぉぉ・・・脱ぐぅ。」 子猫が自分で脱ごうとすると、 「アホォ、楽しみが減るやないかぁ。そのままにしちょれ。クックックッ。」 と、なぜか嬉しそうに笑って言う。 「・・・何でぇ?・・・体操着なんて珍しくないじゃーん。」 「洗濯してやることはあっても・・・着たとこは見てないやんか。・・・なるほど。こーゆー格好見ると、いつもとは違う興奮があるもんなんやなぁ。」 「・・・どんなぁ?」 「裸になれば、どない子供っぽいかて、女は女や。胸に膨らみあって、おめこついとりゃ、たいして変わらん。」 「・・・むぅぅぅ・・・」 子猫は昭彦の言いように唇を尖らせて抗議した。 「なんも、わしは子猫が子供っぽいちゅうて好きなわけやないで。たーだ、歳に合った扱いしちょるだけや。・・いや・・精神年齢っちゅうた方がええかの?クックックッ。」 子猫は頬を思いっきり膨らませた。 「クックックッ。ほーら、むくれよったで。」 昭彦が笑って子猫の頬を指で挟みプスッと空気を抜いた。そして、キスをしながら、手を子猫のお腹のとこから、ハーパンに挟んであった体操着を引き上げて、中へと侵入させた。ブラジャーの肩ひもをちょっとずらし、ブラジャーの中の胸を揉み始めた。体に密着する白い体操着が昭彦の手の分だけ膨らんでうごめく。 「こうしちょると・・・ほんまに子供やったんやて・・今更のように思うてまうわ。・・・これ着て、先生の号令に合わせて・・イッチニ、イッチニて運動しちょんのやなぁ?・・ククククッ。」 「あきぃ・・・ぁ・・ぁぁあん・・・」 「まあ、わしかて中学の頃から女は知っちょるし、珍しくもないけどな。・・・けど、その頃はわしも変わらん中坊やで、・・この歳になってみると、また違うた興奮があるらしいわ。」 「・・・そーゆーの・・・嬉しくないもん・・・」 「たまにはええがな。他の子に興味があるんやなし、子猫やから余計に犯したなるねん。」 「・・・犯す・・・?」 「そうや。・・学校は、やれ神聖な領域やの、健全なる教育やのと、偉そうにしちょって・・・わしの子猫やのに支配しちょる気でおる。・・・どこにおっても子猫はわしのもんや。それをこうして証明したるんやないけ。」 子猫はうーん・・ちょっと違うような・・とも思ったが、それよりも気になることがあった。 「・・でもね・・・」 「今夜はこのまま犯しちゃる。どんな時でもわしが頭から離れんように、体操着でおってもわしを恋しがるように、記憶に刻みつけちゃるで。」 「あきぃ・・だってぇ・・・」 昭彦のキスで口を塞がれる。胸を揉んでいた手が、今度はお腹を滑るように、ハーパンの中へ入ってくる。 「子猫も感じちょるやろ?・・・ほれ・・・」 「あ・・あぁ・・ん・・・」 昭彦の指が花弁を開いて蜜の溢れる花びらを弄ぶ。 「っん・・・ん、ん、・・・」 クチュ、クチュ、クチュ、と紺のハーフパンツの中で音がする。子猫は蜜壺を掻き回される刺激にたまらない快感を覚える一方で、昭彦に犯されるという感覚に陶酔し始めてしまった。頭の隅で、体操着が汚れたら困るのに、と、理性の欠けらが警告している。 「んっ、・・くふっ、・・・あふっ、・・・」 更に感じる部分を刺激されて喘ぐ口からよだれがこぼれる。昭彦が子猫のよだれを舌ですくい、口の中の唾液を啜る。 「あきぃぃ・・・」 最後の理性も飛んで、子猫は犯される快感にのめり込んだ。 「あっぁぁ、・・・なんでもしてぇぇ、・・・どうにでもしてぇぇぇ、、、」 「クックックッ。・・合意のレイプなんてあったやろか。・・・まあ、ええわ。わしが犯すんは子猫やない。子猫をわしから取り上げようとしよる世間の常識や。・・せやろ?」 「・・・ぅ、あぅ、・・うん、・・・」 子猫はハーパンの中で一層激しく指を動かす昭彦の腕を、両足を巻き付けるようにしてしがみついた。 「そんなにええんか?・・ん?」 昭彦は指を動かし続けながら、耳をしゃぶり、囁いて子猫に自覚させる。グチュ、グチュ、グチュ、と、わざと大きく音を出す。 「・・ぁふっ、・・うん、・・す・・ごく、、感じる・・ぅ、・・・」 子猫は腰を丸めるように足を上げて、ぎゅぅぅっと股に腕を挟み込んだ。お尻が浮きアナルがヒクヒクと痙攣している。昭彦は蜜でぐっしょりと濡れた指を今度はアナルへと差し込む。 「・・ん、ん、・・・っくふっ、・・・ぁ、ぁ、・・・」 「こっちはどうや?」 「ぁ、ぁぁ、・・・そこ・・もぉ・・すごくぅ、、いいのぉ・・・」 いきなりの二本指でぐるぐると回転されながら、子猫は全身が痺れるように感じて、快感に震えた。昭彦は代わる代わるに膣とアナルを愛撫した。集中した愛撫だけで何十分が過ぎただろう。その執拗な愛撫に、 「ぁ、・・ぁぁ、、・・どうしよぉ・・・漏れちゃう、・・ぁ、ぁ、、ぅ、ぅ、・・・」 と、言うやいなや、子猫はおしっこを漏らしてしまった。昭彦は前もって多めのタオルを用意しておいたが、間に合わずにベッドにまでかかってしまった。 「ぅ、ぅ、・・・ごめんなしゃぃぃ、、・・・ぐしゅっ、・・・ぅぅ、・・」 グーにした両手を口元にあて、泣きそうな子猫を抱き締めた昭彦は、 「ええねや。後で弁償すればええこっちゃ。気にせんでええねや。」 と、抱き締めて、握った子猫の手をそっと顔から離させると、なだめる甘いキスをする。粘る唾液を行き来させるような甘いキス。 「ほな、もう・・わしのを入れちゃるわ。・・・ちょっとその格好で、わしのモノをしゃぶらせよ、とも思っちょったが、泣く子にしゃぶらせとうないでな。」 そう言った昭彦は、子猫に、おしっこで濡れたハーパンを履いたままの状態で、お尻を高く突き上げる猫のような四つん這いをさせた。そして、 「自分でお尻出してお願いするんや。ええな?」 と少し厳しい口調で言った。 「・・うん。」 子猫は片手で体を支え、もう片手をお尻に回して、少しずつウェストの部分を下げていった。片手なのでもたついていたが、昭彦は気長に眺めていた。ようやく、股のあたりまで降ろすことが出来て、白くて丸い双子の山があらわれた。 「そんくらいでええ。」 そう言った昭彦は、先が濡れて艶々とした極太のイチモツを、花唇にすりすりと擦りつけ、 「・・・どや?」 と、焦らしながら言った。 「ぁぁ・・欲しいですぅ・・・」 「欲しいんやったら、ちゃんとお願いせなあかんやろ?」 「入れてぇ、入れてぇぇぇ。昭彦の物が欲しいのぉぉぉ。」 「・・・・・素直すぎるで。」 「・・・だって・・・」 「そない素直に言うたらイジメ甲斐がないやろ。」 「・・・ぅ、ぅ、ぅ、、・・・すみましぇん、、・・・」 「まあ、ええ。しゃぁーないわ。さっきのおしっこ漏らし事件で、すっかりレイプ気分が失せてもうた。・・クックックッ。・・・今の気分は・・・」 昭彦は先をぐっと押し込み、ズブッ、ズブズブッ、と根元まで挿入すると、感じてたまらない熱い息を、何度か切なそうに吐いた後、 「・・ふぅ、・・・今の気分は・・・お尻ペンペンや!」 と言うなり、腰をしっかりつかんで、激しく子猫を突き上げ始めた。 「あぁ、あ、あ、あ、あぁぁ、・・・ぁぁん、・・・っんあ、あ、あぁぁぁ・・・」 子猫は天を仰いで、切なく甘い悲鳴をあげた。 「あ、あ、あ、ああああああ、ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ、、」 いきなりの激しさに快感の渦が高波のように次々と押し寄せてくる。ひとつの波が去る前に次の波が覆い被さり、子猫は我を忘れて悶え狂った。 「まだまだや・・もっと奥まで痺れさしたる。」 昭彦は繋がったまま腰を軽くあげて、子猫のハーフパンツを脱がした。 「後で洗っといちゃるでな。」 と言って床に投げると、子猫の足を大きく開かせて、再び激しく、更に奥まで突き上げた。 「あああん、んん、ああぁぁ、ああぁん、あん、あん、あああぁぁん、、」 パシ、パシ、パシッ、パン、パン、パンッ、肌がぶつかり合う。 「あうっ、ぅぅ、ぁぅぅ、ぁああん、あん、あん、あっぁん、、、」 子猫の両足が痙攣する。腹筋も痙攣する。仰け反る肩も腕も、全てが快感に痺れていた。もうコントロールがつかない激情に、子猫は淫獣としての叫びをあげ続けた。 「あぁぁぁ、、いく、いく、いく、いくいく、いくぅぅぅ、、あぁぁ、あぅぅぅ、、」 もう何度もいっている。というより、いったままの状態がぎりぎりの限界まで突き抜けながら、昭彦の激しさが気絶することも許さなかったのだ。繋がり責められ続ける時間が、かれこれ2時間は続いている。 「・・・もう・・限界やな・・・いかしたるわ。」 ズン、ズン、ズン、、と呼吸とリズムを合わせて大きく突き上げた。 「あ、あ、あ、あああ、あああああああああああああ・・・・・」 子猫は昭彦の腕の中で意識を失った。 ひんやりしたタオルが何度も替えられては、のぼせた顔や頭にあてられた。意識が戻っても目眩がしていた子猫は目を閉じたまま、タオルの冷たさに浸っていた。 「ドクター・・用意出来やしたで。どないしはります?」 「・・・そやなぁ・・・」 「子猫はん・・・どないだす?」 「今のとこは落ち着いちょる。・・・けど、・・・ちーと、セーブ間違うたったで・・・やりすぎてもうたわ。」 「ヘッヘッヘッ。よぉ響く声でんなぁ。下の階から、上が変やてフロントに連絡しよった者がおったそうですわ。ホテルのマネージャーが駆けつけて来よりましたで、金ぇ握らして返しときました。」 「下か・・・今度の旅行は急やったで、この特別フロアを借り切るんがやっとやったでなぁ。・・・ここは防音やないんかい・・・」 「ヘッヘッ。完全な防音やと警備上マズイんでっしゃろな。・・悪いことしちょる訳やないし、金ぇ渡すんもどうかとは思うたんですけど、穏便が一番やろと・・・勝手しやして、済んまへん。」 「・・・それは任しとったで好きでええ。・・・せやけど・・・」 「は?」 「・・・可愛い声やろ?」 「そうでんなぁ。・・・ま、わては初めてでもないですよって、慣れちょりますが・・・若い者には刺激が強すぎたようですわ。・・・ヘヘヘヘッ。鼻血垂らしちょるで、そげな不様晒しちょっと玉取るでぇ、と叱っちょきました。ほいで、子猫はんに失礼な態度にならんよう、処理して来い、ちゅうて、遊びに行かさしました。」 「ふむ。・・なら、ええわ。・・・で、川本はうまいことやっちょるんか?」 「それが、先生が校長に呼ばれちょるとかで、そっちの用済ますん待って、さっき部屋の方へ行きよりましたわ。けど、子猫はんのことは、校長んとこ行く前に、先生が担任と部屋の班長に自分の部屋で休ませてある、ちゅうといたそうですし、大丈夫でっしゃろ。何やケチつける者がおっても、校長を味方につけちょりますよって、問題にもならしまへんですわ。ヘッヘッヘッ。」 「校長も何しに来ちょるんや。好き者やなぁ。クックックッ。」 「川本に仕込まれたテクがありますよって、先生に首っ丈でっせ。先生が、子猫はんは弱いから守ってやりたい、言えば、そーか、そーか、と何でも信じちょるそうですわ。」 「クックックッ。そりゃ都合がええな。」 「へぇ。・・・で、どないしはります?・・食事は?」 「・・・子猫は、も少し寝かしちょくか・・・」 昭彦はまた、タオルを氷水で絞って子猫の額にあてた。それから、脈と呼吸使いを確認すると、そっと部屋を出ていった。 |
| <64> [修学旅行(4)] |
<64>修学旅行(4) 朝、まだ早い時間に、保健の篠田涼子が昭彦の部屋に子猫を迎えにきた。みんなが起き出してあちこち移動する前に、子猫を本来のクラスの部屋に連れていく為である。けれど、部屋の前で待っていた涼子を川本が呼び入れた。 「あっ・・」 涼子は恋しい男を目の前にして頬を赤らめた。昨夜の甘く狂おしい交わりを思い出してしまう。川本は抱くだけ抱いた後、この旅行は仕事で来てるから甘い気分に浸っていられない、と、部屋を出ていってしまったのだ。 「呼んでまいりました。」 川本は正座して両手をつき、頭を下げた。涼子も少し後ろで同じように正座して、テーブルの前に座っている昭彦に、挨拶をした。窓際の障子が開かれていて、そこの籐椅子に座っている子猫の姿を見つけ、微笑んだ涼子に、子猫もペコッと頭を下げた。 「先生、子猫が熱を出してもうて、どうしたもんかと迷うちょるんや。」 「え・・高いんですか?」 「38度5分あんねん。」 「それは・・・ちょっと・・・大変ですね。」 「旅行続けるんは無理やてゆうたんやが、どうしても行くぅ言うて聞かへんねや。今日は乗り継ぎや移動が多いで、ついて行かれへんやろ、ちゅうても、絶対行く、の一点張りや。・・・先生はどない思う?」 「・・・そうですねぇ・・・」 涼子は保健医としての表情になって子猫に目をやり、 「ちょっと、診てもいいでしょうか?」 と昭彦に伺った。昭彦が頷くのを見てから立ち上がると、涼子は窓際の籐椅子が置かれてるスペースへといった。 「子猫さん、・・・どう?・・気分は悪くないの?」 そう聞く涼子は真面目に医療に携わる博愛精神に満ちた表情をしている。 「大丈夫ですぅ・・・」 そう答えながら、子猫はこの優しく真面目そうな先生が、あの川本の奴隷だということが信じられない気がした。 「頭痛とか腹痛はない?」 そう聞きながら、涼子は片方の手で子猫の手を握り、もう片方の手を額や首に当てて様子を診ているようだった。涼子のひんやりとした手が気持ち良かった。細く長く繊細な指をしている。 「大丈夫です・・・」 怠いことは怠いし、目が潤んで熱っぽいのは自覚している。でも、自分だけ途中で帰るなんてことは惨めすぎた。 「主治医から色々お薬貰ってますから・・・バッグがお部屋なので・・・でも、それを飲めば大丈夫です。」 「・・・そう・・・それじゃお薬飲んで様子みてみる?」 「はい・・・」 涼子は静かに微笑んで子猫の頬を撫でると、昭彦の方を向いて、 「藤村様、ここで子猫さんを説得して連れ帰っても、今度それが精神的トラウマになってしまう場合もあります。私が側について一緒に行動するように致しますので、もう少し様子をみて差し上げてもよろしいんじゃないでしょうか?」 と、言った。子猫は、え?っと、意外そうな顔をした。昭彦も、ん?っと涼子の顔をみつめた。昭彦を崇拝する川本の奴隷という涼子が、まさか、昭彦の望まない回答をするとは思っていなかったのだ。 「・・・そやな。・・・先生がそう言うてくれるんやったら、もう少し様子みよか。」 昭彦はフッと笑って言った。生徒に対しては、あくまで生徒の気持ちを思う保険医であろうとする姿勢に感心しているような表情だった。子猫もほっとして、やっぱり好きな先生だぁ、と、嬉しくなった。 保険医の涼子と子猫が、クラスの班別の部屋に戻ると、半分ほどの生徒はもう起き出して、朝の支度を始めていた。涼子に言われて、班長がクラス委員と担任を呼んでくる間、涼子は子猫の薬を確認して飲ませたり、支度を手伝ってくれていた。クラス委員と担任は、涼子から子猫の状態を説明されて困惑顔だったが、クラスとは別行動に自分の側で同行させると聞くと、ほっとした明るい表情になった。子猫は自分がお荷物になっているのを感じて、胸がシクリと痛くなった。そんな子猫の表情に気付いた涼子は、 「誰にでも具合の悪い時はあるんだから、気にしちゃダメよ。」 と言ってくれた。 新大阪から博多までの新幹線でも、子猫は涼子と同じグリーン車席に座ることになった。この席は校長が自分と涼子用に用意させたものだったが、他の生徒と一緒だと騒がしくて休ませられないから、と、涼子が校長に席を替わってくれるように頼んだのだ。随行の担任と副担任は生徒と同じ車両に乗るので、席をずらして校長もそっちの生徒の方へと座ることになった。校長は始め不服そうな顔をしていたが、涼子が、 「生徒の為ですもの。・・お願いします・・ね?」 と、小首を傾げて少し甘えた声を出すと、微かに赤らめた顔に笑みを浮かべて、気持ちよく了承し席を移動していった。子猫は思わず、昨夜のマサと昭彦の会話を思い出して、あの話は本当なんだぁ・・と複雑な心境になってしまった。 列車が駅を出発してしばらく、子猫はじっと窓の外を眺めていた。なんとなく涼子の顔を見たくなかった。涼子はそんな子猫の気持ちを察っしたのか、薬を飲んだ後だからそっとしておきたいのか、やはり黙っていた。20分ほど過ぎた頃、 「ちょっと冷房が効きすぎてるようだけど、寒くない?」 と涼子が子猫に聞いた。 「・・・少し・・・」 と子猫が言うと、涼子はちょっと待っててね、と言って席を立ち、毛布を借りてきて掛けてくれた。肩が冷えないようにと丁寧に掛けてくれる涼子の顔をじっと見ていた子猫は、こんなに優しいのに・・・こんなに親切なのに・・・どうして奴隷なんだろう、と、切なくなってしまった。 愛する思いが服従心に通じることは子猫にも理解出来る。子猫だって昭彦の奴隷でいいと思っている。だけど・・・。 「まだ2時間は乗ってるようだから・・・何か飲む?」 そう言って顔を覗き込む涼子に、背を向けるようにして、子猫は首を振った。目に込み上げてきた涙を見られたくなかったのだ。 「・・・そう。・・・それじゃ、何か欲しくなったら言ってね。」 涼子は自分のバッグから本を出して読み始めた。 なぜ涙が込み上げてきてしまったのだろう。同情するのは失礼だ。結果的に涼子のしていることは子猫の為ではあったが、それは愛する川本への忠誠であって、そうすることが愛の証と思っているからのはず。だから、後悔も戸惑いもなく、行動出来るのだろう。でも、それだけでなく、涼子が保険医として、誠心誠意に尽くそうとしてくれているのも感じている。 医療という道を進む人を子猫は尊敬していた。優しさだけではやっていけないほどキツイ仕事なのを入院や通院を通して見聞きし知っている。けれど一方では、だからこそ、優しい奉仕精神がなければ続かない仕事なのだろうとも感じていた。しかも難しい勉強を頑張らなければなれない職業だろう。 聡明で優しい女性がどうして奴隷に・・・いや、奴隷というより、どうして愛する人からの命令だからと言って、他の男性に抱かれることが出来るのだろう。 そう思った時、子猫の脳裏に、もう一人の女性の顔が浮かんできた。昨日の和服姿の美しい婦人、山神一門の姐である摩耶という女性だ。昭彦が一度だけ呼んだ名前が忘れられなかった。 あの、女優さえ負けそうなくらいに綺麗な女性も、昭彦に言われて組長の愛人となったのだ。10年近く経っても、まだ恋しがるほどに昭彦を愛していながら、他の男に体を捧げる。心は決して愛する男のもとを離れないのに、それでも命令をひたすら全うする。・・・だから奴隷なのか。と、したら・・・。 子猫は奴隷になりきる怖さを感じた。そして、果たして自分に奴隷になりきることが出来るのか、と振り返って考えた時、そうする自信がなかった。昭彦が命令したら・・・他の男に抱かれられるだろうか?・・・ズキン、ズキン、と胸が痛くなった。自分にはきっと出来ない。そう思うと、自分はあの摩耶という女性よりも昭彦を愛していないのだろうか?という不安と疑問に苛まれてしまう。 奈々の兄のなすがままになっていたのは、自分で決めた結果がそうなってしまったからだ。自分でしたことの責任は自分でしか償えない。だから、間違った選択をした以上、もう逃げようもない以上、死を覚悟したのだ。 もし昭彦が、「他の男と寝ろ。」と命令したら、もしかしたら、自分は昭彦を軽蔑して嫌いになるかもしれない。そんな、譲れない潔癖症を子猫は自覚していた。どんなに恋しくても、相手が信じられなくなったら、自分の心を殺しても、プライドを守ろうとしてしまうかもしれない。そして、行きずりの男に、封印した心のまま、ひと時の温もりだけ求めて、抱かれるのだろうか。前の彼の時がそうだっただけに、そんな弱さを否定出来ない。 愛する男に命令されて、他の男に抱かれるのと、プライドを守る為に、恋しいと思う気持ちを押し殺した心で、自ら他の男に抱かれるのでは、意味が違うと思う。・・・だけど、プライドって何なんだろう?・・・愛する男に心底惚れたら、プライドなんて捨てられるはずじゃないのか? 命がけで愛することは出来る。愛する人を守る為ならどんなことでもする。愛する人の命と引き替えに、相手の男から体を求められたら、どうぞと差し出すだろう。愛する人を失うより、自分を消滅させたい。・・・だけど、裏切られたら・・・どんなに愛していても許せないと思う。愛する人が自分に、他の男と寝ろ、と言うのは、裏切りと同じに思えてしまう。だって、それはもう、自分への執着を失っているということなのだから。 自分を愛してくれない人に、追いすがることは出来そうもない。子猫は愛されて、初めて自分を見出せるのだから。愛してくれない相手に自分は映し出せない。何も見えない。何も聞こえない。孤独の闇に落ちていく。自分さえ見つからない闇の底に。 ・・・子猫は、自分が我が侭で優しくないと思う。だから、奴隷になりきれる女性が羨ましく感じる。羨ましく感じながら、でも、その心が悲しくなった。・・・だけど、当の女性は哀れみなど受け付けないだろう。そうした生き方に誇りがあるから。・・・哀れなのは、プライドを捨てられない自分かもしれない。 頭の中を色々な思いが駆け巡り、胸が苦しくなって、涙が後から後から湧いてきてしまう。子猫は、肩の毛布を顔まで引き上げると、声を殺して泣いた。 「子猫さんの様子はどう?」 小声でぼそっと聞いてくる声がした。よく聞き取れなかったが川本だろう。 「あ・・うん。大丈夫よ。」 「会長が様子を報告するように言ってるんだ。大丈夫よ、じゃ報告にならないだろう?」 「・・ごめんなさい。・・・そうね・・・お薬のせいか、よく眠ってるから、博多に着くまではそっと寝かせておいてあげようと思ってます。少し冷房が効きすぎてるけど、毛布借りたし、特に心配することはありません。・・・って、これでいいかしら?」 「わかった。そう伝える。・・ああ、子猫さんが起きたら、会長は大阪での用事が出来て、明日長崎へ行くことになった、と話して差し上げてくれ。」 「わかりました。」 「うん。・・・しっかりな。」 「はい。」 短い、必要なことだけの会話だった。けれど、涼子の声には満たされる喜びの明るさがあった。やっぱり好きなんだなぁ、と感じてしまう。 「・・・聞こえてた?」 涼子がそっと言った。 「いいのよ、そのままで。・・・子猫さんには色々ショックだったでしょうから・・・ごめんなさいね。・・・ゆっくり休んでいてね。」 そう言った涼子は、しばらく子猫の毛布にくるまった体を、母親が赤ん坊にするように、ポン、ポン、ポン、と、軽く叩いていた。優しさが染み込んでくるようだった。何も知らない世間知らずの子猫の考えや想像など、及ぶはずもなかった。 子猫はもう考えることをやめて、ただ染み込んでくる優しさに、苦しく軋む心を解き放った。涼子はもう充分に大人なのだ。子猫があれこれ推測するべきじゃない。涼子の心の葛藤は子猫が探るべきことでもない。・・・今、こんなにも穏やかに優しい人がいる。そのことだけを感じればいい。・・・あの摩耶という人のことも、子猫が触れるべきではないのだ。 子猫は少しずつ安心感が広がって、やがて本当に眠くなっていった。 博多駅から特急でまた2時間、ここでも子猫は涼子とグリーン車席に座った。かなり熱も引いてきて、お弁当も配られたこともあって、子猫は涼子と楽しく会話しながら2時間をすごした。話す内容は料理やお互いの趣味など、当たり障りのない話だったが、涼子が編み物を得意なことを知って、真剣にコツや綺麗な編み方を聞く子猫に、 「クスッ。好きな・・彼・・にプレゼントしたいんでしょう?」 と楽しそうに笑って、今度編み方を教えてくれると約束してくれた。 「わぁ・・・じゃぁ、今度保健室で休むような時には編み物セット持ってこぉっと。ふふっ。」 「いいわよぉ。・・・ん?・・・でも具合悪い時はちゃんと休まなきゃマズイわねぇ。」 「元気でも休んだりしてぇ・・・」 「あらあら・・・それはダメよぉ?・・・様子みながら、編み物が出来そうな時には教えてあげるわね。・・・そうそう、用具棚にまだスペースあるから、置いておいけばいいわ。そうすれば、昼休みとか自習時間とかでも来て出来るでしょう?」 「うんうん。そうするぅ。・・うふっ。保健室へ行くのが楽しくなっちゃった。」 「よかったら、他のお友達を誘ってもいいのよ。」 「あ、じゃぁ圭子とか誘ってみます。圭子もきっと・・・むふっ。」 「ふーん・・・圭子さんにも彼がいるんだぁ。」 「ひ・み・つ・ですぅ。」 「クスクス。それは、いるって言ってるのと同じかもよ。」 「え・・・ですかぁ?」 涼子が笑いをこぼしながら頷くので、子猫も一緒に笑い出した。 気分も良くなって、楽しい会話で過ごせたので、長崎駅に着いた時には子猫もすっかり元気になっていた。 午後2時の到着後、観光バスで各観光地巡りをする時には、クラスと一緒の行動がとれるようになっていた。ただ、微熱が残っていて、薬で抑えてるところもあるので無理は出来ないから、と涼子がずっと付き添ってくれていた。平和公園 ・長崎原爆資料館・浦上天主堂・シーボルト記念館を回って旅館に着いた。 夜、旅館でチャンポンと皿うどんが出て、子猫は皿うどんの細麺タイプのパリパリした食感が気に入り、ファンになっていた。 涼子が今夜は自分の部屋で泊まるようにと薦めてくれたが、遠慮して班のみんなと一緒に寝ることにした。校長の涼子への目線やそれとない態度で、今夜も部屋に来るよう示唆しているのを感じたので、校長に抱かれた後の涼子を見たくなかったし、きっと、務めを果たした後は川本の胸で甘えたいだろうと思ってしまってたのだ。 翌日、午前中に・グラバー園・孔子廟・大浦天主堂・オランダ坂・出島跡地・新地中華街を回った。忙しく移動する中で、子猫はお店で見つけた、ガラスで出来た笛のような楽器”ぽっぺん”が気に入って、お土産にすることにした。繊細で薄く、今にも壊れそうなガラスで、色々な形のものがあった。貴婦人姿や、オランダ人、ガラスの中にまたガラスが複雑に張られた物、どれも気に入ってしまって、あれやこれやと選ぶ内に、20個近くも買っていて、涼子にクスクスと笑われてしまったが、そーゆー涼子も自分用にと数個買い求めていた。繊細な作りなのでひとつひとつを丁寧に包装してくれるので、二人でバスに乗り込んだ時には、待たされたみんなの視線が痛かった。それでも、涼子も子猫も嬉しくて頬を上気していて、お互いに顔を見合わせ笑いを噛み殺した。 ハウステンボスに到着するのがかなり遅れてしまったのは、別に子猫達だけのせいではなく、みんな買い物に奔走して、観光地を観るだけでは済まなかったからだった。 子猫達が泊まるホテルのロビーで、遅い到着を心配していた昭彦の姿があった。サングラスをかけてはいたが、一目で気付いた子猫は、初めて見る昭彦のサングラス姿に、思わずうっとりとしてしまった。どうしてサングラスをしているのが格好いいのか、また考える課題が出来てしまったと、もう一人の自分が頭の隅で笑っていた。 昭彦は、元気そうで機嫌のいい子猫に、ほっとしたようで、遠くから見かけた涼子に対して、感謝が伝わる姿勢で、軽く挨拶をした。涼子がそれに気付いて、微かに笑みを浮かべて挨拶を返したのを、子猫はなんだか嬉しく思いながら見ていた。大人のさり気ない礼儀のようなものを感じたからだろうか。素敵な大人同士の光景が、ほのぼのとしていながら格好良く見えたからかもしれない。 慌ただしく遅い昼食を済ませたみんなは、思い思いの私服でハウステンボスの異国情緒溢れる町並みに飛び出して行った。子猫も圭子や京子とロビーで待ち合わせした。子猫が保険医の涼子も誘ったことを、圭子と京子は半分ぎこちなく笑って了解してくれたが、ほどなく二人とも涼子の人柄が気に入って、すっかりうち解けていた。 昭彦は自分が案内出来ない場所なのが悔しそうに、遠巻きに若衆を引き連れてついてきていた。そこにマサの姿がなかったのが気になっていたが、後で昭彦が予約していた、綺麗な波止場が見渡せるレストランで、昭彦達と合流した時、聞いてみたら、昭彦は、マサはまだ大阪に用事があって残ったことをそっと教えてくれた。 こうして目が回る忙しさと慌ただしさの中、多くの思い出と・・・複雑な悩みと・・・幾つかの懸念を残しつつ、どうにか無事に、子猫の修学旅行は終えようとしていた。 |
| <65> [会長襲名] |
<65>会長襲名 修学旅行から戻ると、昭彦は、 「また、しばらく忙しくなるで、ええ子で学校の勉強頑張りや。」 と言って、夜に帰れない日が続くようになった。それと、身辺が騒がしくなるから、と、落ち着くまで、また黒岩が子猫のボディーガードとしてつけられることになった。 昭彦が東竜会会長に就任するには、系列である山神組の最高幹部会で承認される必要があったのだ。マサはその相談や下準備があって、子猫達が帰ってきてからも、ずっと大阪に行ったままだった。山神組組長大山虎蔵は、もう半年入院していて、ひそかに「もう、あかんやろ。」と噂されていた。それで今、組を取り仕切っているのが、山神組若頭で竜崎組組長の竜崎竜也だった。竜崎に対抗する勢力もあるにはあったが、大山組長の絶対的信任を得ている竜崎に、表立って対抗出来る者達はいなかった。 その竜崎の全面的バックアップを得ての最高幹部会なのだから、昭彦が承認されるのは間違いなかったが、問題は組長の愛人摩耶の動向だった。組長の前妻はすでに他界していたが、生前苦労かけたことへの罪滅ぼしと子供達への配慮から、後妻は娶らないと霊前に誓ったこともあって、摩耶は大山組長の愛人のままだった。けれど、大山組長の寵愛厚く、山神一門姐として、山神一門の女達の頂点に君臨するだけでなく、組長クラスの男達にも意見する存在になっていた。 竜崎は、摩耶の時として女の我が侭を前面に出す性格に手を焼きながらも、大山組長の愛人になった頃から面倒を見てきてやっていた。摩耶が愛人になった頃には、まだ組長の妻も健在だった為、陰の立場としての苦労もあったようだ。大山組長の妻は夫の愛人へも気遣いや配慮をする女性で、極道世界の女性の生き方に信念を持っていた人だった。それで、摩耶へもアドバイス的に意見することもあって、気性の激しい摩耶には屈辱だったのだろう。昭彦に泣きついては愚痴をこぼしていた。昭彦は話を聞いて宥めはしたものの、組長の女になった摩耶へは一歩身を引いて接していた。にもかかわらず、昭彦の才能に嫉妬した者達がわざと流した噂によって、組長の怒りを買うことになってしまった。昭彦を弟として以上に可愛がっていた竜崎は、何もしてやれない悔しさと手元から離れてしまう寂しさに泣いた。その昭彦の代わりと思って、あれこれと摩耶の我が侭を聞き、面倒を見てきたのだ。 だが、権力を握った女が望むものは、男の場合とは違うのだろう。より強い権力を握る為に権力をつかもうとする男の心理はよくわからない。が、権力欲の為だけに権力をつかむ女性は少ないだろう。心が女を捨てない限り、女は男に愛されたいはず。そして、摩耶が今でも恋しているのは昭彦だった。昭彦と離されてからは追いかけることも出来ず、大山の女として自分をより高く位置づけることが、生き甲斐であるかのように、あれこれと画策した。大山組長の妻が亡くなったことで、他の女達を守れる存在がなくなり、摩耶は大山が面倒見ていた女達を次々と貶めて排除していった。その中には20年以上囲われて、子供もいる女性もいたが、大山の寵愛をいいことに、摩耶は容赦なく切り捨てさせた。 竜崎は摩耶のその激しさを心配していた。それで、マサに他の幹部達へも充分な根回しをするようにと指示していたのだ。 マサが大阪から戻る夜に、昭彦はマンションに身近な人達を招待して、パーティーを開くことにした。子猫が買ってきたお土産を渡せる機会を忙しいままに作ってやれなかったことと、その翌日には昭彦も大阪へと出発しなければならなかったこともあって、子猫に楽しいひと時を持たせてやりたかったのだ。招待するのは、マサ、石橋夫婦、橋本と礼子、川野、黒岩、それに子猫の希望もあり、川本と涼子。 涼子を招待しようと誘った時、自分は参加出来る立場にないので遠慮したい、と言うのを、子猫の友人として来て欲しい、と、お願いした。昭彦の話では、川本の奴隷は他にも数名いるらしい。涼子もそれを承知しているのだという。涼子が遠慮するのは川本への気遣いだろうということだったが、そんな大人の事情は子猫にはわからなかった。ただ、一緒にいて欲しい、という気持ちだったのだ。 「それって・・・猫が我が侭?」 子猫は愛されたばかりの体をぴったり寄り添わせて、昭彦の胸に顔をすりすりしながら聞いた。 「ええんやないか?・・お前の為のパティーなんやから、先生にいて欲しいて思うんやったら、それでええ。」 昭彦は沈んだ表情の子猫の頬を愛しそうに指先で撫でた。 「でも、子猫だって昭彦のおつき合いの範囲の中で、ってわかってる。こーゆー席に学校の友達を呼べるわけないもん。」 「クックッ。まあ、呼んだとしても楽しめんやろ。」 「だから涼子さんを学校関係のお友達として呼ぶんじゃいけない、って思ってる。・・・川本さんの・・恋人として招待したつもり・・・」 「ええ、ちゅうとるやろ?・・わしの関係と学校とがはっきり別れるのが困るよって、先生が子猫の高校へ入れるように手を回したんやし、その先生と仲良くなれたんなら、わしとしても安心やで。・・ん?」 「・・・うん。」 昭彦は子猫の沈んでいる原因が、もっと深い所にあることはわかっていたが、昭彦自身にも、それをどうやって子猫に納得させたらいいのか、わからずに困っているようだった。 「・・ただな、子猫・・・」 「・・・なぁに?」 「川本には川本の考えがあるで、子猫がそれを意見したらあかんで。彼女に味方してやりたいっちゅう時も出てくるやろとは思うが、それをやってもうたら、川本の立場がなくなってまう。ええな?」 「・・・うん。」 子猫は何でそんな辛い恋をする人がいるんだろう、と思うと、また悲しくなってしまった。 「わし等は極道や。綺麗事だけではやっていかれへん。」 昭彦は子猫を抱き締めてキスをし、 「・・・いややゆうても手放さへんちゅうたやろ?」 と言って、再び子猫を組み敷くと、足を開かせて、自分のモノをミルクの残る蜜壺の中へ押し込んだ。 「・・あっ、あぁっ、・・・」 昭彦の体に満たされて、子猫は苦悶の表情で喘いだ。 「あきぃ・・・あきぃ・・・」 昭彦はゆっくりとした息を吐きながら、腰を回転させている。自分の存在をはっきりと意識させるような動きだった。 「ぅっんん、・・・はぁ・・・ええか、子猫。わしとおればどうしたって、理屈に合わんことや、許せへんて思うことと出会うやろ。・・・ふぅっっ・・・それをわしにぶつけるんは構へん。どんなことでも聞いちゃるで。・・・はぁぁ・・・けど、人に意見したらあかんねん。・・・筋の通らんことはわしが叱ちゃる。が、わし等の世界での筋やで世間にはわからんこともあるんや。・・・すぅぅっ、、はぁぁ・・・わしかて色々と川本を使うちょる。先生のことかてな。せやろ?」 昭彦自身も子猫との繋がりをじっくり味わっているようだった。熱い息遣いに狂おしいほどの激情がこもっている。 「・・・うん。・・ぁぁん・・わかってるぅ・・ぅぅ・・ぁ、ぁふっ・・・」 子猫は切なくて昭彦のモノをきゅぅぅ・・きゅぅぅ・・と締め付けた。 「ぅぅ・・・あぁぁ・・・ほんま・・たまらんなぁ・・・すぅっ、、、ふぅぅ、、、魂が吸いこまれそうやでぇぇ・・・こうしてひとつになったまま・・・はぁぁ・・・どこでも連れ歩きたいわ。・・・あの世までもな。」 昭彦は子猫のお尻をつかんで、更に押しつけるように奥まで深く・・深く・・愛した。 「ぁぁ・・・連れてってぇ・・・どこまでもぉ・・・地獄の底までもぉぉ・・・」 繋がってれば怖くない。何があっても。真っ暗闇でも。 「・・・アホやなぁ。・・・地獄は・・生き地獄っちゅうて・・・この世にこそあるんや。・・・この世におればつかむ手があるやろ。・・・こうして繋がることも出来る。・・・離さへん。離れへん。子猫はわしのもんや。・・・けど・・・死んでも離しとうないのんや!」 昭彦は溜め込んだ激情を吐き出すように言うと、激しく腰を動かして突き上げ始めた。 「あぁぁぁ、、ぁぁぁああぁぁ、、、」 子猫は仰け反って快感を貪った。不安も悩みも頭から押し出されていく。激しく突き上げられる度に、世界の全てがどうでもよくなってしまう。昭彦さえいてくれたら、他に欲しいものなんてない。昭彦の可愛い女でいることが、子猫の夢であり、希望であり、願う未来なのだ。 「あきぃ・・・あきぃ・・・ああん、あん、あん、んん・・・あきぃ・・」 子猫が手を伸ばすと、昭彦はガバッと力強く抱き締めてくれた。抱き締めながら突き上げ続け、腕の中で仰け反らせ、喘ぐ声に耳を寄せた。自分と繋がって感じている子猫の、全ての反応さえも愛惜しむように。子猫は昭彦の愛に抱き包まれて、まばゆい天国の光を見ていた。 パーティー当日、昭彦が忙しいので、料理は女性達が作ることになった。石橋夫人が指示して、涼子と礼子が手際よく、分担された作業をこなしていく。子猫は邪魔にならないように、助手に徹し、調理器具を渡したり、調味料を出したり、お皿を用意したりしていた。 子猫と一緒に行動している、川野と黒岩はカウンターの席で、手持ちぶさたに新聞を読んだり、TVを眺めている。そこに川本が、昭彦達とは別に一足早く訪問を告げた。黒岩が下まで確認の意味もあって迎えに行った。 川本は子猫に薦められるままにソファーの方に座ったが、しばらく女性達の様子を見ていて、涼子を手招きして呼んだ。 「はい?」 涼子は恥ずかしそうにエプロンの裾を握って、川本の側へ行った。 「お前、どうゆうつもりなんだ?」 「・・え?」 「さっきから見てれば、子猫さんにあれしろ、これしろと。」 子猫はそれを聞いて、ドキッとした。涼子先生にしてみれば知らない台所だから、器具や材料のある場所がわからなくて、取ってくれるように言っていただけなのに、と。そう言おうとしたが、昭彦から意見しないように言われていることを思い出して、言葉を詰まらせた。 「・・・済みません。」 涼子は弁解しないでそう言った。子猫が困っていると、 「あらあら、仲がいいこと。・・クスッ。・・でも、お台所のことには、男性方は口を出さないものですよ。・・涼子先生、大変よぉ、お鍋が焦げちゃうわぁ。」 と、石橋夫人が優しい笑顔で言った。子猫はほぉー・・と感心すると、そうかぁ、そーゆー風に言えばいいのかぁ、と、にっこりしながら頷いた。 「はい。すぐいきます。」 涼子はペコッと頭を下げて、キッチンに戻った。 すっかり料理が完成し、綺麗に盛りつけられたお皿が並べ切れないほどに置かれた時になって、昭彦はマサ、石橋、橋本を伴って帰ってきた。 「見事な御馳走やなぁ。子猫は楽さして貰たんやろ?」 「えへへぇ・・わかるぅ?」 「匂いで味もわかるもんや。子猫はまだまだ未熟な匂いがするでな。」 「・・・うー・・・」 子猫が頬を膨らませると、昭彦はその頬にキスをして、 「ええ勉強になったやろ?」 と優しく言って笑った。 「うん!すっごく参考になったよぉ。」 と子猫も笑顔で嬉しそうに返すと、よしよし、と頭を撫でた。昭彦のそんな甘い態度に慣れてない黒岩と川本は、不意をつかれたように耳を赤くし、目のやり場に困っているようだった。 昭彦は女性陣に、料理のお礼と来てくれたことを、丁寧な言葉で感謝した。涼子に対しても、 「先生にも来て頂けて、子猫も喜んぢょります。これからもよろしゅう頼んますわな。」 と言ったので、涼子以上に川本が恐縮していた。 しばらく料理を堪能した後、子猫は修学旅行のお土産をみんなに配った。石橋夫人は、 「ああ、これねぇ。昔持ってたんだけど・・・懐かしいわぁ。」 と嬉しそうに頬を染め、礼子は、 「こーゆーのがあるって知ってはいたけどぉ・・初めて見るなぁ。」 と試しに恐々鳴らして喜んでくれた。 「先生は一緒にいっぱい買ってたからぁ・・」 「ええ。そうなんですよぉ。あんまり可愛いので幾つも買っちゃったんです。」 涼子は自分にお土産がないのは当然なのだと、夫人と礼子にわかるように笑顔で説明した。が、子猫は袋からクッションを取り出すと、涼子に渡した。 「だから、これ。ふふっ。いっぱい頂いた薔薇で作ったポプリが詰まってるの。石橋夫人と礼子さんに手伝って貰って作ったのぉ。」 そう言う子猫を、涼子は驚いた顔で見ていたが、クッションに顔を近付け、 「・・・あぁ・・いい香り・・・」 と呟くと、胸に抱き締めて涙ぐみながら、 「ありがとう。子猫さん。」 と言った。子猫が困って照れていた時、パリンッ、と音がした。 「あっ?!」 そう叫んで黒岩が固まった。 「あーーーー・・・」 子猫も思わず叫んだ。でも、黒岩の青ざめて固まった表情を見て、エレベーターで必死でかばってくれていた姿を思い出し、 「黒岩さんの怪力ー!ぷぷぷぅ・・・」 と吹き出して笑ってしまった。 「す・・済みません!どれくらいの硬度なのかと・・つい、力を入れたら・・・」 「ボケェ!何やっとんじゃ!」 昭彦はそう怒鳴ったものの、苦笑しながら掃除機を持ってきて、ガラスの欠けらを吸い込みだした。そして、黒岩の親指の付け根から少し血が滲んでいるのに気付くと、消毒してやってからバンドエイドを渡し、 「貼るくらい自分で出来るやろ?・・そこまでやったら、子猫が妬くでな。クックックッ。」 と笑いをこぼした。黒岩はよほど厳しく叱られると思っていたようで、昭彦のそうした態度に顔を真っ赤にして感激していたが、川本もまたまた唖然とした顔で見ていた。 「なんやねん?そないわしが変か?・・ボケェ、わしがやらんかったら子猫がするやろ。子猫に触らしたなかったんや。クックックッ。・・・ま、冗談・・やないが、自分の家に招待しちょるんや。物のある場所知ってる者が動くんは当然やろ。」 さらっとそう言った昭彦に、 「はぁー・・そうっすねぇ・・」 と、うわごとのような返事をした川本は、感じ入ったように熱い眼差しを、昭彦に向けながら頷いていた。 子猫の思い出話に涼子も加わってひとしきり楽しい会話が続いた後で、昭彦が子猫にリボンを掛けた包みを渡した。 「えー?・・なんでぇ?」 と、不思議がる子猫に、 「みんなにお土産渡すっちゅうてたやろ?子猫だけなんもなかったら寂しいやろと思うてな。」 と言って優しく笑ってから、 「それに・・・明日からちょっとの間、留守にせなあかんやろ?・・・その前に・・・それを観せときたかったんや。」 と、静かな口調で言った。みんなは興味深く様子を伺っていたが、雰囲気的に口を挟む状況でないことを感じて黙っていた。子猫も嬉しい一方で戸惑いながら、包みを開けた。中身は、CDとビデオだった。 題名は『ゴースト -ニューヨークの幻-』。 「時間がなくて新品が見つからんかったんやが、中古でもそない使うてないっちゅう物や。ええやろ?」 「うん。もちろん。・・でも、なんで?」 「子猫は観たことないんか?」 「うん。」 「ほな、探して良かったわ。・・・わしの気に入っちょる映画やし、その中の音楽も好きやねん。・・・それと・・・今のわしの気持ちや。」 子猫はどうして急に?、と、昭彦の顔を見ながら思ったが、昭彦の静かな笑みに、微かな不安を感じて聞けなかった。 「今、観ていい?」 「わしは構へんけど、・・・みんなはどや?」 みんな、その映画を知っていた。観たことはなくても、TVで流れた宣伝の映像が頭によぎる。子猫は当時はまだ小学生で、しかも入院してた時期だった為、知らなかったのだ。しかも、父親は子猫にはそうした、ホラーではなくても死のまつわる話のものは、極力見せないようにしていたので、これほどの名作を知らないままでいたのだ。 「ええ。久しぶりに観てみたいです。」 と石橋夫人が言うと、みんなも頷いて賛成した。 どう言えばいいのだろう。言葉が出なかった。ラストの方の、ゴーストとなった恋人とその彼女がキスをするシーンでは、涙で画面が見えなくなるので、何度もまばたきをして観ていた。・・・と、昭彦がそっと子猫の肩を抱き寄せ、髪を優しく撫でてくれた。子猫は画面から目を離さないまま、昭彦にもたれて、涙のこぼれるままに映画を見続けた。 ビデオが終わっても、子猫はしゃくりあげながら、画面を眺めていた。女性の全てが泣いていた。男性もそっと涙を拭っていたようだった。昭彦は考え込むような遠い目をしていたが、子猫がいつまでも涙をこぼしているのに気付いて、 「ええ映画やろ?・・今のわしの気持ちを伝えるには丁度ええと思うてな。・・・例え死んでも、わしはお前を愛し続ける。死んでも離さへん。」 と、言って熱いキスをした。子猫は切なくキスに応えていたが、昭彦がやっと唇を離した時に、不安になって聞いた。 「・・・死んでもって・・・どうして?」 「いや、たいした意味はないで、心配せんかて大丈夫や。」 「・・・大阪へ行くのって・・危険なの?」 「いや。・・・あの町が危険なんは前からのことや。」 子猫は目がこぼれ落ちそうなほど大きく見開いて、 「いやぁーー!」 と、叫んだ。 「いやだぁー!いや、いや、いやぁー!大阪行っちゃやだぁー!」 胸にギュゥゥゥーと抱きついて、声を上げて泣き出してしまった。 「あ・・・だからやな・・・それは一般論・・・ちゅうかやな・・・」 「やー、やー、だめぇぇぇー!うぇぇーーん・・・」 「・・・まいった。・・・誤解させてもうたか?」 昭彦は助けを求めるように石橋を見たが、石橋は肩をすくめて苦笑した。 「まあ、確かに、大阪行く前に、この映画をお見せになられたかった気持ちはわかりますが、誤解をされてしまうのも無理はないかと・・」 「離れていても魂は側におるで、っちゅう意味やがな。」 昭彦がため息を吐くと、 「いいなぁ。死んでも離さない。なぁんて私も言って欲しいなぁ。」 と、礼子が橋本に意味ありげに流し目をした。橋本はへ?っと口もとをひくつかせてから、照れ隠しに残っていた料理に手を出して頬張りだした。 「自分が!」 川本がいきなり叫んで立ち上がった。 「何があろうと自分が盾になって、会長をお守りしましす!」 一瞬、呆気に取られた空気が部屋に流れた。が、 「いやぁぁぁーーー!ふぇぇぇーーん・・・あぁぁーーん・・・」 と、また子猫が泣き声をあげた。 「アホォ!肯定してどないすんや!肯定して・・ったく・・・マサ、密かに含み笑いしちょらんで、なんとか言うたってくれ。」 「ヘッヘッヘッ。そうでんなぁ・・・子猫はん、そない心配せんかて大丈夫ですよって・・・泣かんでええですわ。子猫はんも知っちょられる竜崎のボスもおられますよってな。」 「・・・竜崎さん?」 「あっそーや・・竜崎の兄貴に子猫のお土産持っていかなならんかったで。・・どれを持ってったらええねや?」 「・・・あ・・・うん・・・」 子猫はしゃくりあげながら、やはり”ぽっぺん”の箱を昭彦に渡した。 「わかった。ちゃんと預かったで。ん?」 「・・・うん。」 子猫はやっと泣き腫らした顔に笑みを浮かべた。 「なんも心配せんで、待っちょったらええねや。」 昭彦は子猫の赤い鼻にキスをして、クスッと笑った。 翌朝、昭彦は子猫を学校に送りだしてから、大阪へ向かった。大阪で一泊し、翌日某温泉で幹部会と承認式がおこなわれ、昭彦は正式に「東竜会会長」を襲名した。その夜は、そこの温泉で竜崎の主催で、襲名祝いが開かれた。そして、その翌日には昭彦は帰路に着いたのだった。 無事何事もなく、三日目の夜には、昭彦は子猫を思いきり抱き締めて愛してくれた。そして、熱い陶酔がすぎて、昭彦の胸の牡丹をなぞっていた子猫に、 「竜崎の兄貴・・子猫の土産を喜んでたでぇ。」 と、言った。 「ほんとぉ?・・・うふっ。良かったぁ。」 「ああ。・・でな、今度こっち遊びに来るっちゅうとったわ。」 「えー・・・そうなんだぁ。良かったねぇ。」 「・・・何がやねん?」 「だってぇ・・・あんなに昭彦のことを思ってくれてるんだもん。また交流出来るようになって・・・嬉しいでしょう?」 「・・複雑やな・・・大山組長に睨まれんとええけど・・・」 「・・・ふーん・・・色々難しいんだねぇ。」 「そやな・・・難しい時期やし・・・兄貴には無理して欲しくないんやけど・・・恩義あるでな。」 「そっかぁ・・・」 「せやから、兄貴がこっちくるのに合わせて、会長襲名祝賀会を組ですることになったんや。そないしとけば、理由が立つでな。向こうで祝賀会をやって貰うた礼にもなるで。」 「うんうん。そだねぇ。」 「子猫も連れて行くで。」 「え?」 「姐として初デビューやな。」 「ええ?!」 「クックックッ。そない焦らんと。いつものまんまでええねや。」 「えーー!」 昭彦はクスクス笑いながら、再び子猫を愛し始めた。 |
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