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子猫白書U




<71>〜<75>



<71>
[極猫]
<71>極猫

 姐。姐って何?
 子猫は授業中、黒板を見ながらも、先生の話を聞きながらも、ずっとそのことが頭から離れなかった。

 今度の週末に、山神組若頭・竜崎組組長の竜崎竜也が来る予定になっている。
 藤村昭彦が山神組系・東竜会会長を襲名した”お祝い”という名目だったが、本人は、ただ、遊びに来たがってるだけらしい。昭彦とは、20年以上の付き合いがあって、昔から可愛がってくれてる人だという。
 昭彦が関東に流れてきた理由が理由だけに、自分に関わることは、竜崎の不利になるから、と、昭彦の方で、ずっと交流を断ってきたらしい。
 だが、竜崎は、今や押しも押されもせぬ、大親分。現・山神組組長の大山が入院中で、しかも病状が思わしくないとなれば、次期・山神組組長になるのも、そう遠くはないだろう。
「同じ一門の可愛い弟分を訪ねて何が悪いんや?」
と、竜崎が言えば、誰にも意見は出来なかった。

 けれど、関東には三和会という関東一円に勢力圏を持つグループ、いわゆる暴力団組織があって、関西圏が主流の山神一門とは、度々、紛争を起こしていたのだ。関東のはずれにある東竜会は、むしろ北陸・東北への繋ぎ的存在で、関東圏には干渉していなかった。
 それで、細々とのんびり、ホテル産業やレジャー産業、土木建築業、金融業などを、ちまちまと真面目(?)に運営してきたのだ。
 そこに、山神一門の大親分が来るとなったのだから、組としては大騒動だった。
 三和会へは、東竜会会長襲名祝賀会を開く旨を伝え、それに伴って、兄弟分の竜崎組組長が来ることになっているが、迷惑はかけないから、と念を押し、その一方で、万一刺客が狙ってきても、万全の態勢で防げるように、準備しなければならなかった。

 そんな慌ただしさの中で、ゆっくり昭彦と話をする間もなかった子猫は、百人以上集まるという祝賀会に、姐としてどんな態度で望めばいいのか、さっぱりわからなかった。
「いつものままでええねや。黙って側におったらええ。」
と昭彦は軽く言うけれど、挨拶の言葉さえ、わからないのに・・・と不安でたまらなかった。
 祝賀会の後で、竜崎一行を温泉に招待することになっていて、それには、ごく身内だけの少人数で行くというので、昭彦の思い出話が聞けるかも、と、楽しみにしていた。ただ、
「昔話?・・・せえへん。・・・もう、過去や。」
と、昭彦が眉をひそめるように、あの山神一門・姐の摩耶とのことも、マサのことも、周凰明とのことも、聞いてはいけないだろうし、少年院へ行った過去も聞くべきではないだろうし、そうなると、聞ける思い出話がないかも?!とも思う。
 やっぱり黙っておとなしくしてるしかないよなぁ、と、子猫は気が重くなって、ため息ばかりを吐いてしまうこの頃だった。

 学校帰り、子猫はレンタルビデオのお店に立ち寄った。
 セーラー服を着た華奢な子猫の後ろには、マッチョな大男の黒岩が従ってついてくる。奇妙な二人連れは、店内でも注目を浴びてしまう。
「笑わなくていいからぁ、せめて怖い顔はしてないでね。」
と、複雑な要求をされた黒岩は、余計奇妙な表情になっていた。
 邦画のやくざ映画のコーナーに行った子猫は、そこに並ぶ恐ろしい形相の写真のカバーに、ふぇ〜ん、と内心で泣きながら、逃げ出してしまった。少しはやくざ世界の勉強をしようと思ったのだが、写真に睨まれただけで怖くて、とても観れそうもなかった。
 つい、足がアニメの方へと向いてしまう。子猫がお気に入りのアニメの新作を見つけようとしている時に、ひとつの題名に目が留まった。
 『極○の妻たち』・・・あ、これっていいかも。女性なら抗争や襲撃とかはないだろう、と思った子猫は、アニメと一緒に借りることにした。

 夜、マンションに戻った昭彦は、ソファーで膝を抱え込んで丸くなり、肩を震わせて泣いている子猫を見つけた。
「どないしたんや?」
そう言って、子猫の肩に手をかけた昭彦に、子猫はしがみついて、また、思い出したように声をあげて泣き出してしまった。昭彦は仕事から戻ったスーツのままで、子猫を膝に抱きかかえて、
「どないした?・・・ん?」
と、囁くように聞きながら、涙まみれの顔にキスを繰り返した。
「・・・だって・・・くふん・・・だって・・・えっく・・・」
子猫はしゃくりあげながら、借りてきたビデオのことを話した。
「・・・みんな・・・死んじゃう・・・」
「・・・・・アホやなぁ・・・映画なんちゅうもんは、何も起こらんかったら話にならんで、大袈裟に作っちょるもんやがな。」
よしよし、と、子猫の髪を撫でて、昭彦が笑った。
「・・・でも・・・女の人達・・・みんな綺麗だし・・・強いし・・・」
「ほう?・・・クックッ。その映画は観たことないで、ようわからんが・・・まあ、綺麗な女が多いんは当然やろなぁ。・・・子猫かて可愛いがな。ん?」
子猫は、”綺麗”が”可愛い”に変わってることで、仕方ないとは思いつつ、思いきり頬を膨らませた。
「クックックッ。綺麗な女は、そないふぐみたいに、ほっぺは膨らませんやろ。・・そやなぁ、子猫が二十歳すぎたら綺麗になるやろ。・・・けど、今は可愛いままでええんや。」
昭彦は赤くなった子猫の鼻に軽くキスをしてから、唇へ深いキスをした。舌を絡めながら、ベビードールの上から、子猫の胸を揉み始めた。
「…ぁ、、、ぁふっ、、、…ん、、、」
乳首がキュッと立ってくる。薄い布地と一緒につままれ、クリクリと指先で擦られると、蜜壺からトロッと暖かいものが溢れ出る。
「・・・だけど・・・強くないしぃ・・・」
子猫は、まだ、半分泣きべそ顔で、映画を引きずっていた。
「強い故の弱さもあれば、弱い中の強さもあるんや。・・・ここと同じやな。」
昭彦はベビードールの下の白いブルマに手を滑り込ませた。
「ぁ…ぁ、ぁ、、…くふっ…」
クチュックチュッ。昭彦は、中指と薬指の指先で花弁を弄びながら、親指でクリトリスを擦る。
「固い膣は弾力もない。・・子猫みたいに柔らかくて細かい襞がうねってるんは、じわじわと締め付けてきて、・・・吸い付いて離さん。」
クチュックチュックチュッ。指が蜜壺を掻き回す。
「あ…ぁぁん、、、ぁん、、ん…」
「しかも締め出したら・・・きついわ、うにゅうにゅと蠢くわで、たまらんで。クックックッ。・・・こない柔かいのにな。」
グチュグチュグチュ。
「ぁ、ぁ、ぁ、、ぁぁん…ぁん…」
わざと音をたてて、掻き回され、子猫は感じて、身悶えてしまう。
「可愛いでぇ・・・ええがな。可愛いまんま、弱いまんまで。・・・そんな子猫やから、わしは惚れたんやで。・・・ん?」
「…ぁ、、あきぃ、、ぁふ、、っぅぅ…」
子猫は、昭彦の肩に腕を巻き付け、頬から顎へ喉へうなじへとキスをしていく。もっと深くまで指を入れて欲しくて、腰を浮かせて、昭彦の手の方へと体をずらしていく。
「クックックッ。ご機嫌は直ったかな?」
昭彦はとろぉ〜っと蜜のついた指をブルマから抜き出し、料理の味見でもするように、一本ずつ舐めると、
「んー・・・ええ味や。甘酸っぱい果実やな。」
と言った。それから、子猫をソファーに戻して立ち上がり、
「取り敢えず、スーツ脱がしたってくれ。・・子猫は裸になってベッドで待つ。ええな?」
と、優しく笑って言った。
「うん…待ってるぅ。」
子猫は、もう頭の中が昭彦のモノでいっぱいになって、体中が疼いてくる。昭彦は、そんな子猫に、
「なぁ?・・・繋がっちょれば、怖ぁないやろ?・・・子猫は、いっつも、わしと繋がっちょるて、思うとったらええんや。」
と、誰にも見せない静かな笑みで囁くのだった。

 シルクのシーツに一糸纏わぬ体を横たえる。
 うつ伏せになって、軽く手足を曲げ、少し不安な気持ちを慰めるように、爪を噛む。昭彦を待つ間、それがほんのわずかな時間であっても、いつも緊張してしまう。何度、肌を重ねても、昭彦の肌が触れてくるまで、不安で頼りない気持ちになってしまう。全てをありのままに晒すことは、怖くてたまらなく、孤独でさえあった。だから、早く、昭彦でいっぱいに埋めて欲しい。昭彦と繋がって満たされていたい。と、ドキドキ、と体の芯が火照ってくるのだ。
 シルクのシーツは滑らかで、
「子猫の敏感な肌には、この方がええ。」
と、昭彦は言うけれど、時々、初めて昭彦に抱かれた、あのアパートが懐かしくなる。装飾品はなにもない、簡素で清潔で、どこか寒々とした部屋。壁が薄く、三件隣りの部屋にまで、愛し合う声が聞こえてしまい、よく、
「あんな若い子がねぇ。」
と、陰口を言われ、すれ違う時に挨拶しても、顔をしかめて無視をされた。
「世の中、乱れるばかりで、嫌んなるよ。」
と、聞こえよがしにため息つかれ、時代の暗い陰さえ、子猫に責任があるかのように言われた。
 そんな人の目に脅えた心を、隠していたつもりだったけど、昭彦はわかっていてくれた。だから、この部屋を探し、全てから守るように、一緒に暮らし始めたのだ。
 だけど、その為に昭彦が、どんどん危険な世界に引き戻されてしまうようで、辛くなる。大事にされ、贅沢な暮らしというものも知り、高級品を身につけることにも、以前より慣れてきたけれど、心までは変えられない。迷子の子猫は、やっぱり、温もりだけを求め続ける、臆病な子猫なのだ。

 ベッドが微かに揺れて、ふわっと、指が髪を後ろへ撫であげる。ぼんやりしていた子猫が、あっ、と目線をあげると、唇が重ねられ、ゆっくりと優しく抱き包まれた。昭彦の舌は、絡んでは離れ、絡んでは離れ、子猫の舌を誘い込む。子猫が、昭彦の舌を求めて、舌を伸ばすと、一瞬、強く吸って、それからそっと、唇を離した。
 ふにゃぁ〜ん、と、子猫は昭彦の胸に顔を押しつける。昭彦の肌からは麝香が香り、鮮やかに赤い牡丹が綺麗に咲き誇る胸を、魅惑的な空間へと変える。そして、子猫を、押さえようもなく淫らにさせる。
 子猫は、絵をなぞるようにキスをしていき、体を少しずつずらして、最も匂いの強い部分へと、鼻を擦りつけながらキスをしていく。大きく固くそそり立つ肉棒と、玉の形がよくわかる袋。
ペロッ。
子猫が袋を舐めると、
「こら!・・ちゃんと言うてからやぞ。」
と、ご主人様が含み笑いで命令する。
「…ぁぃ。…昭彦のたまたまと…おちんちん…舐めさせてくだしゃい。」
「ん。ええやろ。」
ペロッ、ペロッ。チュプチュプ。
子猫が、袋をそれぞれの玉ごとに、口に含んで舐める間、昭彦は子猫の蜜壺を啜る。昭彦の舌が花唇をなぞると、ゾクゾクッと快感が背中を走る。
チュパ、チュパ。ピチャピチャ。
肉棒の先端から、とろ〜っとぬめる液が垂れてくるのを、舌で舐め、張り出したカリの傘を舐めあげる。根元を袋ごと包み、指先で裏側を擦る。
ジュルジュル、レロレロレロ。
昭彦が蜜を啜りながら、花弁を舌先で弄んでいる。
「クリトリスがこんなに膨らんで・・顔出しちょるで。」
と、言って、舌でくすぐられると、漏らしたくなるほど気持ちいい。
「…ん…ぁ、、ん、、ん…」
「ええかぁ?・・ええなら、ちゃんと言わな、あかんで?」
「…ぅ、、ん…すごくぅ、、いい…ぁ、、ぁぁ…」
「ほな、しばらく、わしのをくわえちょれ。・・・蕾も綺麗に舐めちゃるで、顔またいで穴をよく見せるんや。」
「…ぁぃ…」
子猫は昭彦の顔をまたいで、お尻の穴を昭彦の鼻間近に向ける。
チュプッ、チュプッ、チュプッ。
子猫が、口をいっぱいに広げて、昭彦の大きな亀頭をくわえて、扱き始めると、昭彦も子猫のアナルに舌を這わせて愛撫し始めた。
「…ん…んん、ん…ぅ、ぅぅ…」
恥ずかしさでアナルが小さくつぼむ。
「まだまだやなぁ。・・・言うたやろ?パフパフ出来るようにならな、あかんて。・・・ほれ、穴を広げて・・パフパフしてみ。」
子猫は、恥ずかしい気持ちを紛らすように、昭彦の男根を夢中でしゃぶりながら、お尻の穴を広げる。
「ええでぇ・・・可愛いピンクの肉が見えてきたでぇ・・・」
昭彦が舌を穴の中まで差し込んでくる。
「んん、、、ぁ…ぅぅ…」
顔が火照って、涙ぐんでしまう。
 アナルを愛されることに慣れてはきたものの、込み上げる羞恥心は、まだ消すことが出来なかった。それでも、学校から戻ると、自分で浣腸して中の物を出しきり、それから、膣内清浄とアナル清浄は必ずするように心掛けていた。
「どっちでもええで。別に汚しても構へんて。」
と、昭彦は言うけれど、昭彦の激情がアナルに集中する夜は、何度も大量の精液が注がれて、行為中でさえ催してしまう時があった。大好きな人の前で、おしっこだけでなく、うんちまで、お漏らししてしまう恥ずかしさは、女の子なら泣きたくなっても当然だろう。

 しばらく、そうしてお互いを舐め合った後で、
「今夜はええ子やで、御褒美に鈴つけたるで。」
と、ご主人様がにこやかに言った。
 いつもの、赤いベルトの鈴を、首と両手・両足首につけ、
「ここにもつけよな。」
と、乳首には細い糸に通した鈴をきつく括りつけた。固く立った乳首の根元に、細い糸がグルグルに巻かれ、食い込んで、ズキズキと痛む。
「どや?・・ええやろ?」
いつも以上に大きく赤い乳首を、鈴ごとしゃぶられ、
「ぁぁ…ぃ、、ぃ、…で、、しゅ…」
と、痛みに耐えて答える。
「ええ子や。・・・ホンマ、可愛いなぁ。」
昭彦は、子猫の上気した頬を撫でながら、愛おしげに見つめ、
「鈴が鳴ると嬉しいやろ?」
と謎かけをするように言う。
「…うん…ぁ…嬉しいです…」
「そやなぁ?・・・そしたら、どんなおめこが一番ええと思う?」
「…え、、っとぉ… … …騎乗位?」
「そうやぁ、それがええわ。」
微笑んだ昭彦がキスをしてくれる。
「けど・・・何か足らんと思わへんかぁ?」
子猫は、すぐにはわからず、大きな目を瞬きながら小首を傾げる。
「クックッ。・・・そないな顔は小学生並みやぞ。クックックッ。」
昭彦が苦笑するので、子猫が困って唇を尖らせると、
「嬉しい犬は何をふるやろ?・・ん?」
と、片眉を、どうかな?、と言うようにあげる。
「…ぁ… … …シッポ…」
「そや。・・・シッポをどうしようなぁ?」
「…つけて下ちゃぃ…」
「ん。ええやろ。」
昭彦は、満足そうに微笑み、子猫の頭を、よしよし、と撫でて、シッポを愛具ケースから取り出す。愛具ケースの中には、色々な道具が入っているが、子猫が開けて見ることは許されてなかった。まだ、使ってない物もあるようで、子猫にとっては、嬉しいような怖いような、魔法の箱だった。
ズ、ズズッ、ズブズブズブゥー。
ローションをたっぷり塗って、子猫が犬のポーズで待っているお尻に、シッポの下がっている円筒形のゴムを押し込む。
「…くっ、、、ぁぁ、、ぁ、、嬉しいでちゅ…」
昭彦に責められる時、子猫は、思いっきり幼児語になってしまう。徹底した支配を受ける内に、意識が無抵抗の幼児に退行していき、それが言葉にも出てしまうのだ。

 昭彦が、そう望んでいる訳ではなく、時には、退行しすぎて泣きじゃくる子猫を、抱き締めて宥めながら、
「なんや・・赤ちゃんやなぁ。・・・そない怖がってばかりやと、先に進まれへんやんか。もうちっと、我慢出来る大人になるよう、努力しよな?」
と、やんわりと叱ったりもする。
 それでも、無理はしないように、少しずつ子猫の知らない世界を開発していき、子猫が未熟なりに出来るようになると、
「ええ子や。よう出来たで。・・よちよち、ええ子や。」
と、めいっぱい甘やかしながら誉めてくれた。
 そうした夜を続けていると、
「人前ではしゃんとせな、あかんぞ。」
と、言いつけられていても、退行した意識がなかなか戻らなくなってしまうこともあって、昭彦は、子猫の表情や仕草を見て、調整しながら、調教しているようだった。

 昭彦は、今は忙しい中で、後からのフォローが甘くなると思いながらも、映画から受けた情報に、恐怖心を持ってしまった子猫を、自分の支配下に置くことで、意識のコントロールをしようとしていたのだ。
 今度から借りるビデオも制限させんとあかんな。昭彦は、内心そう呟くと、子猫の調教を続けた。
「ほな、お馬さん、しよな。リンリン、シャンシャン、可愛い音をいっぱいさせて、走るんやで?」
「…ぅん…」
「上手に出来たら、御褒美のミルクをたっぷりやるでな。」
「…ぁぃ…」
昭彦が仰向けになって、
「一人で出来るとこまでやってみるんやで。ん?」
と、言うので、子猫は、
「…ぁぃ…」
と、小さく答えて、昭彦の腰をまたぐ。昭彦の長い男根は、ちょっと足を上げないと、蜜壺の花唇に宛えないほどで、大きく張った亀頭を、ズブッ、と花弁の中に入れてから、両膝をついた。
グチュ、ググゥ、グチュゥ。
「ぁぁぁ、、ん、、、ん、、、あぁ、、、はぁはぁ…」
一度、ゆっくり体を沈めて、お尻を着いて座れるまで挿入させる。アナルの圧迫がある分、入り口の抵抗が大きくて、子猫は、やっと奥まで入ってホッとして息継ぎをした。
「ほれ!・・お馬に乗れたら、パッパカ、パッパカするんやで。」
「…ぁ…うん…」
昭彦に促されて、子猫は腰を上下に動かし始めた。
リン、リンリンリン、リンリン。
可愛い音が響き始める。シッポも左右に揺れている。
「…あ、、あぁ、、ぁぁ、、あ、あ、あぁぁ、、ん…」
グッチュ、グッチュ、グッチュ。
リン、リン、リン、リン。
「あぁ・・・ええ感じやで。・・・けど、もっと早く走るんや。ほれ!」
「ぁぃ…」
リンリンリンリン、リンリン、リンリン。
ジュプジュプ、グチュグチュグチュッ。
「ぁぁぁぁ、、ぁ、、ぁん、、ぁぁぁん、、、」
腰を振りながら、体が仰け反ってくる。乳首が一層大きくなってきて、締め付けられたところが痛む。
リンリンリンリン、リンリンリンリン。
ジュップジュップジュップジュップッ。
「あ、あ、あ、ああぁ、、…はぁはぁ…ぁ、ぁふっ…くぅ、ぅ、ぅぅ、、」
乳首を揉んで、痛みを和らげたいのに、鈴で揉めない。アナルの鈍い痛みが強まっていく。痛みが長く持続しないように、子猫が早く”いって”しまおうとすると、
「わしが、ええ、言うまで”いっ”たらあかんで。」
と、見抜かれ、叱られてしまった。

「…くふん…ぁ、ぃ、、…」
子猫は、また花唇をきつく締め付けながら、逞しすぎる肉の塊を扱きあげていく。
リンリンリンリンリンリンリンリン。
胸が大きく揺れて、乳首がキリキリ痛む。
ビチュビチュビチュビチュッ。
蜜が飛び散り、濡れた肌がぶつかり合って、より淫靡な音をたてている。
「あん、あん、、あん、、…はぁはぁはぁ…あぁん、あんん、、」
シッポも大きく揺れて、蜜と汗で毛先が湿ってきている。
リンリンリンリンリンリンリンリン。
しばらく、痛みに耐えていると、痛みの奥に、ムズムズする快感が起こり、子宮を突き抜けるように、襲ってくる。
「ああぁぁぁぁ、、…あぁぁ、、、あぁぁぁ、、、ん…はぁはぁ…」
「ええ子やでぇ・・・ちゃんとわかるようになってきたなぁ。よしよし。」
昭彦はそこで起きあがると、子猫を抱き締めてキスをした。
「後はわしがいかしたるで。ん?」
「…ぅん…いかせて…くだちゃぃ…」
「振り落とされんように、しっかり掴まってるんやでぇ!」
そう言った昭彦は、子猫を抱っこした座位で、大きく突き上げ始めた。
「あぁぁぁぁぁ、、、あっぁぁぁ、、あぁぁん、、あぁぁぁぁぁ、、、」
リンリンリン、リンリンリンリン、リンリンリンリン。
「あああ、あ、あぁぁぁあ、あ、あ、ぁぁぁ、、、いっちゃうぅぅーー!!」
「ん・・・ええでぇ・・・はぁはぁ・・・このまま一気にいくでぇぇぇーー!!」
リンリンリン、リンリンリンリン、リンリンリンリン。
ヂュップッヂュップッヂュップッヂュップッヂュプッ。
「ああぁぁ、、、いく、いく、、、いくいくいくいくぅぅぅーー…あ、、あぁぁぁぁああぁぁぁぁーーー!!!」
ドッピュッ・・ドピュピュッ・・ドクンドクドクドクドクドクドク。。。。。
子猫の絶叫に合わせて、昭彦も子猫の中に、思いきり射精した。
 昭彦は、一度、体を離して子猫を横に寝かせてやり、それから胸に抱き寄せた。昭彦にぴったり体を寄せる子猫の花唇からは、トロリと白いミルクが溢れていた。
<72>
[入籍]
<72>入籍

 熱い陶酔から覚めきらないまま、子猫が昭彦の腕の中で微睡んでいると、
「・・・なぁ・・・子猫。・・・入籍しよう。」
と、昭彦が言った。
「・・・・・ん?」
子猫は、言葉が脳に届くまでに時間がかかり、届いた言葉を理解するにも時間がかかっていた。もう一度、聞き返そうと、昭彦の顔を見ると、黒目がちな輝く眼が、一層燃えるような強い光を放って、子猫を見つめていた。
「・・・昭彦?」
「お前をわしの愛人と呼ばせたないんや。入籍して、正式な姐として、みんなに紹介したいねん。」
子猫はやっと”入籍”という意味がわかってきた。
「こんなことにならんかったら、卒業を待つつもりやった。・・けど・・・これからは、色々・・・あるやろし、全てをわしの責任が行き届くようにしときたいんや。お前のことは、全部、わしが責任持って守ったるで・・・わしの女房になれ。」
「・・・うん。」
「あ?・・・ええんか?」
「うん。」
他に答えようがなかった。だが、昭彦は、あれこれ悩んだ末に出した結論だったのだ。あまりにも、あっさり了解されると、かえって不安になる。
「・・・入籍の意味は・・知っとるやろな?」
子猫は頬を膨らませ、
「知ってるもん。結婚するってことでしょう?」
と、そこまでバカじゃないよぉ、と言いたそうな目で、軽く睨んだ。
「・・・いや・・・ホンマによく考えたんかと・・・」
「難しいことは、わかんないけど・・・昭彦とずっと一緒にいれるなら、それでいいの。うふ。」
「・・・うふ・・ちゅうてもなぁ・・・色々大変になるんやで?」
「・・・そう言われても・・・わかんないもん・・・」
「やくざの女房になったら、世間かて冷たい目で見るやろし・・・」
「・・・世間なんて・・・関係ないもん・・・」
「一癖、二癖・・七癖もあるような男達とも、時には話すこともあるやろし・・・」
「・・・挨拶くらい・・・ちゃんとするもん・・・」
「わしが、き・・」
昭彦は、”危険”と言いかけて、怖がらせたくなくて口ごもった。子猫に最も拒絶反応を起こさせてしまう言葉は避けたかった。それでも、返事をするからには、多少なりとも”やくざの女房”になるという事実を認識して、承知して欲しかったのだ。子供を騙すようにして、後から後悔させたくなかった。
 昭彦は、ふと、自分がやくざの世界に入った時のことを思い出した。あの時、竜崎の兄さんがあれほど反対していた気持ちが、今頃になってわかった気がした。
「・・・き?」
子猫は昭彦が難しい顔で黙り込むので、困惑していた。どうして、承知したのに、喜んでくれないんだろう?本当は断って欲しかったの?、と思うと、悲しくなってきた。
「あ・・わしが・・き・・キスしたいと思っちょても人目があれば出来へんやろし・・・」
苦しい言い訳になってしまった。これまでだって、キスくらいどこでもしてきたのだから、誰に憚るものでもないと思えたが・・・。
「… … …ふぇ〜〜ん…」
「い・・いや、キスはしたる!誰にも文句は言わさへん!」
子猫がいきなり、目にいっぱい涙をためて愚図りだしたので、昭彦は焦っていた。キスくらいで、承諾しないと言い出されては困る。
「結婚してからも、いっぱいキスしたるでぇ?な?」
「・・・違うもん・・・」
「ん?・・お?・・Hかていっぱいしたるでぇ。朝でも昼でも夜でも、はめまくって、ひーひー言わせたるがな。」
「・・・・・ひーひーは・・・言わない・・・」
「例えやがな。。・・・心配せんかて、子猫を一番に考えとるで?ん?・・・せやからこそ、ちゃんとした形にしときたいんやがな。な?」
「・・・だって・・・」
「ん?」
「・・・だから、うん。って言ったのに・・・喜んでくれない。。。」
子猫は昭彦の言いように、涙は引いていたものの、まだ納得出来ない気持ちで、拗ねた目で昭彦を上目遣いに見ていた。
「あ・・・クッククククッ。そやったかのう・・・」
「ぷん。」
「いや、めっちゃ嬉しいわぁ。嬉しすぎて感動するのを忘れちょったで。」
「・・・喜んでくれる?」
「ああ。喜んどるでぇ。・・・一緒に生きてこな?」
「・・・猫でいいの?」
「他に誰がおるんや?子猫以外はおらんで!」
「・・・ホント?」
「愛してるで、わしの子猫。・・・これからは、全部わしのもんや。わしだけの子猫や。・・・わしが一生守ったるでな。」
「・・・うん。」
子猫は潤んだ目で頷いた。
 昭彦は優しく笑って、髪を撫でた。それから、唇を重ね、ゆっくりと舌を絡め合わせた。舌を絡めながら、腕を絡め、お互いを強く抱き締めながら、足を絡めた。絡めた足を開き、キスをしたまま深く結びついた。
「あ、、あ、、あ、、あ、、」
昭彦の腰に足を巻き付け、しっかりとしがみついていた。楽しむ為のセックスではなく、心の繋がりをもっと強く感じる為に結び合う。こうしたセックスも子猫は好きだった。
「…はぁはぁ…ん、ん、、あぁ…」
感じすぎないでいたい。ちゃんとした意識の中で、昭彦と結ばれ繋がっていることを確認していたい。でも、気持ちいい。
「あ…ぁぁ、、ぁあぁぁ、、あ、、ぁん、、んん…」
キスをしたまま、子猫が堪らず声を洩らす時には、昭彦は唇の端をなぞるように、キスを繰り返している。
「感じてええんやで。わしが、しっかりつかまえちょる。」
昭彦はグイグイグイ、と子宮深くまで突き上げる。
「…ぁ…くふっ、、ぁぁ、、だって、、ぁぁん…」
昭彦のものとして、この繋がりを意識していたい。今までも、昭彦のものだったけど、それでも何処か不安だった。迷い込んだ場所に踞っているようで、人目を避けて隠れていたかった。だけど、もう迷子の子猫ではなくなるのだ。心から、”ただいま”と言って、帰る場所が出来たのだ。それが、今、こうして繋がっている昭彦なのだと、この深い繋がりを、いっぱいに押し込まれた逞しい男根で感じていたい。
「ううっ・・・そないに・・・あぁ・・はぁ・・・締め付けて・・・はぁぁ・・・」
昭彦が喘ぐ息で、愛しげに囁く。子猫のうねる肉襞が絡みつくように締め付けてくるのだ。もっと、奥へ奥へと、誘うように、深く深くと、引き込むように、離さないとばかりにしがみついてくる。強い引力に精子がざわつく。早く、行かせてくれ、と。あの強烈に吸い寄せる神秘の体内へと、早く飛ばしてくれ、と急かしてる。
「なんちゅう吸い付きなんやぁ・・・たまらんでぇ・・・」
まだや、おとなしくしちょれ、と精子を叱る。お前等の出番はまだや。もっとわしの魂を注ぎ込み、この子の魂を包み込んで膜を張るんや。もう、誰にも手を出させんように。
「ぁぁ、ぁ、、ぁぁぁああ、、あぁん、、ん、ぁぁ、、、」
可愛い声で鳴きよる。この子の恍惚とした表情がたまらん。わしの魂に包まれて、気持ち良さげに漂っちょるて、感じられるええ顔をするんや。
「はぁはぁ・・・ええ子や・・・ホンマ可愛いでぇ・・・」
もっともっと、わししか見えんようにしたるんや。心も魂もわししか見えんように。
「あぁぁぁ、、、あきぃ、、、あぁぁん、、、あきぃ、、、」
「わしのもんや。・・・はぁはぁ・・・離さへんでぇ。」
昭彦は壊さないように優しく、けれど身動き取れないほどに強く、子猫を抱き締めながら、奥深くまで太い肉棒で貫いた。
「あ、、ぁ、、ぁ、ぁぁぁぁ、、、あん…いっちゃぅ…はぁはぁはぁ、、ぁぁぁ、、、」
感じて感じてたまらない。子猫は虹色の光の渦の中で、激しく揺れる舟に乗っているようだった。太く長くて固い舵にしがみついて、痺れて感じて気持ちよくて、意識が途切れそうになる。
「はぁはぁはぁ… ぁぁぁ… あきぃ… はぁはぁ…」
子猫は、何とか、快感に我を忘れてのめり込みそうになる意識を、引き戻そうと、名前を呼んで顔を見つめる。昭彦が熱い眼差しで見つめ返してくれる。
「…あきぃ… …はぁはぁ… ん、、ぁぁ、、ぁぁ、、ん…」
「はぁはぁ・・・いきそうなんやろ?・・・ぅぅう、、、・・・はぁはぁ・・・わしもや・・・」
「ん、、ぁ、、…ぁぁぁ …あき、、あき、、ぁぁぁぁ、、、はぁはぁはぁはぁ…」
甘えた鼻声は、澄んだ響きがあって、天からの声のように聞こえる。と昭彦はいつも思う。高く切なく柔らかな声は、昭彦の心をいつも愛しさに震わせるほど心地よかった。
「大丈夫や。・・ちゃんと、抱いちょるで。・・・いったかて、ちゃーんと、わしの腕の中に戻ってこれるんやで?」
「…ぅん… …はぁぁぁ、、、っぁあぁぁ、、、 じゃぁ…いくぅ…」
「よっしゃ。いかしたるでぇぇ。」
「…うん…」
子猫は昭彦に思いきりしがみついた。昭彦は、腰を浮かせ、繋がった部分だけを激しく突き動かし、昭彦自身も喘ぎ声を呻くように漏らした。そして、子猫が、
「ぁぁあああぁぁぁぁぁあああぁぁ…あああああーーーーーーー!!!」
と、一際綺麗な声で鳴いた時、鉢巻き締めて、ヨーイドンの態勢で、待ち侘びていた精子軍団が一斉に飛び出していった。
 昭彦が中出しをする相手は過去にはいなかった。報われない精子はゴムの中で息絶えたのだ。自分の遺伝子はこの世に残したくない、とずっと思っていたからだったが、子猫の中には入れたかった。何処にでも自分の存在を示したかった。そして、それで子供が出来たとしても、子猫のふわふわとした魂に包まれて、自覚している自身の激しすぎる魂も、穏やかになるような気がした。そう思っているのに、まだ子猫が妊娠することはなかった。卵子が未熟なのかもしれない。こんなに男を虜にする子宮を持ちながら、まだ未完成だと思うと、先が思いやられた。今のうちにしっかり調教して、躾ておかなければ、といつも思う昭彦だった。

 次の日の朝、藤村昭彦と夢野子猫は婚姻届を出した。そして、子猫は藤村子猫になったのだった。
 まだ、18歳にならない子猫は、結婚するにも親の許可が必要だったが、それは、もう昭彦が先に子猫の母親に通達して、承諾書を手に入れていたのだ。すでに、親としての権利も義務も放棄していた母親が、あっさり承諾したのは当然だったかもしれない。
 婚姻届を出した後、車の中で、昭彦が結婚指輪をプレゼントしてくれた。いつの間にサイズを計ったのか、ぴったりだった。実は、昭彦は会長襲名が決まった時から、ずっと結婚のことは考えていたのだ。そして、着実に準備を進め、子猫の返事を聞くばかりになっていた。が、子猫に負わせる負担を思うと、言い出せないままになっていたのだ。
「すぐ、言えばいいのにぃ・・・」
子猫がクスクス笑って言うと、
「子猫はまるでおままごとの世界やなぁ・・・」
と昭彦が苦笑して言った。

 この日、子猫は、学校を休むことにしたので、一日中結婚指輪をはめていた。ふっと視線が手にいった時、キラキラ光る銀のラインが見えるのが嬉しかった。太陽の光に向けて手をかざし、眺める時もあった。シッポのないパトラがそばに寄ってきて、何を見てるのかと、一緒に手を眺めた。
「パトちゃぁん、ママでちゅよぉ。」
と、指輪の光る手で額をくすぐった。パトラは子猫にプレゼントされてからもう4ヶ月以上になる。生後半年は過ぎてるだろう。それでも、まだ仔猫のようだった。成長期に色々あって、成長しきれなかったのかもしれない。それを思うと、可哀想でたまらなくなる。でも、パトラはあどけない顔で手にじゃれついてくる。
「こちょこちょこちょぉ…」
ひっくり返ったお腹をくすぐりながら、子猫は、パトラは自分が可哀想ってことに気付いてないのかも、と思った。だから、こんなに澄んで綺麗な眼でいられるのかも。先のことまで望まない。今ある現実の中で、自分が出来ることをする。それが、一番自然なのかも。子猫は弱くしか生きれない者同士として、パトラが愛おしくてたまらなくなった。
「ニャッ…ニャッ…」
パトラの声はか細く儚げだった。普通の猫のように、語尾を伸ばして鳴けなかったのだ。
「にゃっ…にゃぁ…」
子猫が鳴き真似をすると、まん丸な目でじっと見つめる。子猫はふわっと笑って、パトラの喉を撫でた。

 すぐには結婚式も披露宴もしてやれないから、と、せめて今夜は記念にレストランでディナーにしよう、と、昭彦は言って仕事に行った。子猫は昭彦が作る料理の方が、どのレストランで食べる料理より好きだったが、ネオンがきらめく夜景を眺めながら、ゆっくり食事をするのは雰囲気が好きだった。
 でも、夜まではどうしよう、と子猫は、遊び疲れて丸くなって眠っているパトラを眺めていた。なんだか、子猫も眠くなってきて、うとうと、微睡み始めた。
 そこに電話がかかってきて、石橋夫人が子猫に結婚のお祝いを言った後で、子猫の買い物をサポートしてくれると言う。これから迎えに行くから、出られる用意をしておいて欲しい、という電話だった。買い物のことは聞いてなかったので、戸惑っていると、昭彦から電話がきて、同じ内容を子猫に伝えた。これからは、不意に色々な席に出る用事が出来るかもしれないから、その時になって困らないように、用意しておくのだという。
 和装・洋装、それぞれ昼用・夜用、用途に合わせて冠婚葬祭、エトセトラ。それに合わせた靴・バッグ・小物類。石橋夫人が馴染みにしている店を何店か巡って、子猫に似合いそうな物を見立ててくれた。
 仕立てる物は採寸をし、既製品でも子猫の体型に合わせて、お直しをする。女の子が欲しかったと言う石橋夫人は、子猫に上品でありながら可愛い物を選んでくれた。

 すっかり暗くなってからマンションに戻ると、すでに昭彦は帰っていて、マサや石橋、橋本も部屋にあがっていた。
「子猫はん、おめでとうさんだっせ。・・おぉっと・・これからは、姐さんて呼ばな、あきまへんなぁ。ヘッヘッヘッ。可愛い姐さんでんなぁ。どうぞ、会長をよろしゅう頼んまっさ。」
そう言って、マサは、見事なルビーのネックレスとイヤリングと指輪がセットになっている物をプレゼントしてくれた。
「姐さん、ご結婚、おめでとうございます。家内は役に立ちましたでしょうか?・・こんなに遅くまで連れ回して申し訳ありませんでした。」
と、石橋に言われ、慌てて、子猫が今日のお礼を言うと、
「お役に立てればなによりです。これからも、家内にはサポートさせますので、何でも言ってきてください。」
と、これも見事な大粒真珠のセットをプレゼントしてくれた。
「姐さん、おめでとうございます。これからも、よろしくお願いします。」
橋本は、緊張気味に、腰を直角になるほど曲げて言うと、
「まだ、勉強中の立場なのでたいした物じゃないんすけど・・」
と、言いながら、綺麗な金細工の3点セットにブレスレットも添えて、プレゼントしてくれた。きっと礼子さんが選んだのだろうと思える、お洒落なデザインで、普段身につけるには最適の物だった。
 子猫はすっかり舞い上がって、驚いたり感激したり喜んだり戸惑ったりしながら、とうとう最後には泣き出してしまった。昭彦は子猫を胸に抱き寄せて、よしよし、と髪を撫でながら、
「まだ、近い者達にしか話してないんや。・・けど、明日にはお祝いが殺到するやろ。泣いちょる暇もなくなるで。」
と、言って笑った。
 留守居の者を数名来させるから、子猫は普通に学校へ行っていい、と言われたが、東竜会会長になった昭彦の妻になるということの大変さが、じわじわとわかってきた子猫だった。

 ホテルの展望レストランの個室で、子猫は、ほぅっ…とため息をついた。目の前に並ぶ料理をとても食べられそうもなかった。胸のドキドキが治まらず、顔は上気して火照ったままだった。自分が自分でないような、不思議な感覚だった。
「騒がしいのは初めのうちだけやで、じき落ち着くまでの辛抱や。」
「・・・・・うん・・・」
「新妻にそない浮かない顔されたら、わしも辛いで。・・ん?」
”新妻”と言われたのが嬉しくて、子猫は照れながら微笑んだ。
「わしの女房になったこと・・・後悔すんやないで。ええな?」
「・・・うん。・・・多分・・・」
「なるべく負担かけへんようにする。心配もさせないて約束する。怖がらせたりもせえへん。・・・せやから、後悔の涙だけは流さんといてくれ。」
「・・・うん。・・・頑張る。。」
「そない頑張らんでええから。クククッ。頑張りすぎて疲れてもうたら、後で愚図って大変やでの。・・・文句言いたい時は言えばええ。泣きたい時は泣いたらええ。・・・どんなことでも、わしが受け止めちゃる。わしの男をかけて、守っちゃる。」
「・・・うん。」
子猫は色々ありすぎた一日に、かなり自信喪失状態だったが、昭彦の優しい言葉が嬉しくて、笑顔で頷いた。
 ほっとしたように、笑みを浮かべる昭彦が、すごく大人に見えた。実際19歳年上なのだから、大人なのだが、子猫には踏み込めない世界を持っているように感じてしまう、距離感のようなものかもしれない。それでも、だからこそ惹かれてしまう理由でもあって、自分が生まれる前の昭彦がどんな風に生きていたのか、知りたくなってしまう。
「そしたら・・・今日の記念と、わしからの・・感謝や。」
昭彦は、子猫がうっとりと昭彦に見取れている間に、持ってきていた袋から箱を取りだし、子猫に差し出した。
「え?・・・あ・・ありがとう。・・・でも・・感謝って・・・」
「この世に、生まれてきてくれたこと。わしと出会ってくれたこと。そして、わしを愛してくれたこと。全てに感謝しちょる。」
子猫は感激で胸がはち切れそうになり、また、うるうると涙が溢れてきてっしまった。
「・・・でも・・・あきぃ・・・猫だって感謝してるもん。」
「そうかぁ、嬉しいなぁ。わしは、その気持ちだけで、充分満足やで。・・・ほれ、記念なんやから、ちゃんと受け取ってくれんかったら困るで。」
「あ・・うん。ありがとう。」
子猫はこぼれる涙を拭って、箱を開けた。中には、燦然と輝くダイヤモンドのネックレスとイヤリングがあった。子猫はしばらく目を見開いたまま息が止まっていた。それほどに綺麗で、これまでに見たこともない輝きだった。
「おい!・・ちゃんと息をしながら見んとあかんやろ。」
子猫は、やっと大きく息をついて、それからしばらく、のぼせた頭をさますように深呼吸を繰り返した。そして息が落ち着いてくると、
「…ふぇ…ふぇ〜ん…」
と、泣きじゃくりだした。
「気に入ったか?」
「…ぅん…うん。・・・でも・・・豪華すぎて・・・持ってるだけでも怖いよぉ・・・」
「ん?・・・まだ子供やから、控えめにしたつもりやったんやがなぁ・・・」
「・・・だって・・・いっぱい光ってるんだもん・・・」
「クックックッ。一連やがな。それなら普段でも出来るやろ?」
「普段なんて出来ないよぉ・・・昭彦の金庫にしまっておいてぇ。」
「あそこは・・・」
拳銃ばっかやで、と内心呟き、苦笑した。
「それくらい持っといたらええがな。祝賀会かてじきやし。・・・ま、パーティーには、それより豪華な宝石身につけた女も、ぎょーさん来るやろと思うけど・・・歳に合わんのはかえって可愛くないでな。・・・これから、歳を重ねるごとに、記念日にプレゼントしちゃるで、少しずつ、ええ女になってったらええ。」
昭彦はそう言って、優しく微笑み、子猫の頬の涙を指先で拭った。子猫は目眩を覚えながら、昭彦からのプレゼントを胸に抱き締めて、頬に触れる昭彦の指の温もりを永遠に感じていたい、と思うのだった。
<73>
[竜崎登場]
<73>竜崎登場

 『東竜会会長襲名祝賀会』
 ホテルのロビーに入るとすぐに大きな立て看板が出ている。今日一日は、ホテルを借り切ってあるのだ。
 パーティーに出席するのは、各々の組の幹部クラスのみだったが、出席者の着替え用に部屋を用意し、各々が同行してくる子分達の控えている部屋も用意しなければならなかったので、ホテルを丸ごと借り切っても間に合わないかと思うほどだった。その部屋割りにも系列やランクや友好関係を気にしながら設定しなければならず、会場を任された石橋はここ数日眠れないほど頭を悩ませていた。
 それでも、ようやく今日に漕ぎ着けて、スーツに身を包んだ石橋は男をあげて見えた。
「石橋さん、何だか晴れ晴れとして男らしいね。ふふ。」
子猫がそっと耳打ちすると、石橋夫人がクスクスッと笑った。
「そうねぇ・・・ここまできたら、腹を括るしかないって思ったんじゃないかしら。昨日まではため息ばっかだったのよ。ふふふ。・・あ、でも、これは内緒ね。」
「そっかぁ・・・やっぱ、緊張するよねぇ?・・・全然いつもと変わんない昭彦さんが羨ましい。。」
子猫は、鼓動が聞こえるんじゃないかと思うほどドキドキしている胸を押さえて、大きく息をついた。
 今日着ている服は昭彦が用意してくれたものだった。白い豪華なレースが幾重にも重なり、ふわっと広がったスカートに、ウェストに巻き付いた赤いベルベットのリボンがポイントになっている、とてもフェミニンなドレスだった。腰の赤いリボンと胸元の深紅の薔薇のコサージュがまるで可愛い花嫁のように初々しく見えた。首と耳には昭彦が贈ってくれたダイヤモンドが輝いている。
「・・・あぁ・・・ドキドキしちゃうー・・・」
子猫は、休憩する為の部屋も用意されていたし、支度が整ったらメイン会場となる第一ホールに行っているようにと言われていたものの、一人でいるのが不安でたまらず、さっきからずっと石橋夫人の後をついてまわっていた。
「大丈夫よ。女は花。そう思って花の気持ちになって微笑んでいればいいのよ。ふふ。男の社会のことは、男の方に任せましょう、・・ね?」
石橋夫人はロビーで、出席者に同行してくる女性達への案内や説明など、応対に追われていたが、それでも子猫を見守るように気を使いながら側にいさせてくれていた。
 こうして石橋夫人を見ていると、シックなドレスに華美にならないアクセサリーをさりげなく着けていながら、内面から滲む美しさがあって、どんな豪華なドレスを纏ってくる女性客にも引けを取らなかった。子猫は、こーゆー女性になれたらいいなぁ、と思いつつ、まだまだ遠いよなぁ、と大人の女性への柵の高さを感じてしまうのだった。
 子猫が石橋夫人に倣って、女性客への応対をしていたので、女性客達はすぐには子猫が藤村昭彦の妻だということに気付かなかった。中には用意された部屋が気に入らなかったり、設備の悪さを文句言う女性もいて、子猫が頭を下げて謝罪する場面もあり、
「子猫姐さん、応対は私共が致しますから、休んでいらして下さいませね。」
と、石橋夫人が子猫が姐であることを気付かせるように言いながら、庇ってくれた。
 それでも、各々の組の姐ともなると、すでに情報をつかんでいるようで、子猫の姿を見るなり、にこやかに近付いて挨拶してくれた。子猫はその度に何とか覚えた挨拶を間違えないように、相手へ失礼のないように、と緊張しながら挨拶を返した。

 東竜会グループには八つの直系と20の枝系の組が存在した。直系のほとんどは前の組長の杯を受けている親分で、昭彦よりも古株だった。それに昭彦は去年の春頃まで長期の服役をしていた存在で、娑婆に戻ってからもしばらくは組から離れていた立場にあった。
 前会長の昭彦への信任が厚く、若頭を務める岡田組組長:岡田正博、通称マサが、昭彦のいない間も、そのポジションをしっかりガードするように目を光らせていたこともあって、復縁自体は何の抵抗もなく、皆すんなり受け入れていた。
 だが、会長襲名となると、古株から異論が出そうであったが、何と言っても昭彦が、山神組組長の直杯を受けているという事実が大きかった。東竜会が山神一門の系列である以上、直杯には絶対的重みがあったのだ。
 昭彦が復縁後、東竜会は大きく改革されていった。きちんとした会社組織を組み立て、これまで曖昧だった役割分担も、争いが少なくなるように各分野ごとに整理させ、お金の動きも明瞭化された。不正や誤魔化しが利かなくなった組の中には不平を漏らす者達もいたが、下の組員達にも配慮されたシステムは概ね歓迎された。そうした刷新された雰囲気はこれまで以上に仕事の受注を受けるようになり、組全体の経済状態も向上していた。(もっとも、昭彦と周凰明との取引による裏の仕事を知る者はごくわずかで、その膨大な利益こそが、組を支えていることは知られていなかったのだが・・・。)
 そうした背景もあって、まだ30代半ばの若い総領の誕生ではあったが、皆一様に敬意を持って受け入れていた。

 そして、その妻となった子猫は数百人の組員を抱える東竜会の姐となるのだ。東竜会の女達の頂点に立つともいえる。17歳という年齢自体若輩であり、更に精神年齢の低さは、高校の後輩からも可愛いと撫で撫でされてしまうほどで、到底大人の世界に踏み込めるとは思えなかった。
 本来、石橋夫人自体も表立つことが苦手な性格であったが、女性達の中にあっては、自分が守ってやらなければ子猫が潰されてしまう、と、母性をフルに発揮して子猫を庇ってくれていた。そうして、ここにも女性達の勢力の世代交代が水面下の出来事としてあった。
 これまで全会長の姐や愛人に阿ってパーティーでの花となっていた女性達は、どうやって子猫に近付こうかと狙っているものの、子猫が隅っこで隠れるようにしている上、石橋夫人のガードがあって近付けずにいた。
 石橋夫人にも好き嫌いはあって、これまで不愉快な思いをさせられてきた人達には、表向きは笑顔で応対しても、子猫との関係を取り持とうという気にはなれなかった。当然、これまで気が合っていた人達が周りを取り囲み、二重に子猫と石橋夫人をガードする形になって、ひとつのテリトリーになりつつあった。

 そうした人間模様も繰り広げつつ、パティーの開催時刻は刻々と迫ってきていた。ほとんどの客はすでに受け付けを済ませていたが、一番の大物がまだ到着していなかった。
キーキキキーーッッ!!!
騒々しいブレーキ音を響かせて車が停まった。後続の車も同じようにブレーキの音をさせた。ロビーにいた人達は何事かと玄関に注目した。
 ホテルマンが車のドアに手をかける前にドアが勢い良く開かれた。それで思わずホテルマンが仰け反ってよろけてしまうほどだった。そして、降りてきたのは、少し怒ったように顔をしかめた竜崎竜也だった。
「さっさとせい!!大事な席に遅れたらどないすんじゃ!!」
後続車から降りてくる者達を待ちきれないように怒鳴る罵声が、ロビーにまで聞こえてきた。派手な関西弁に、ロビーにいた人達が騒然となった。
「あれが噂の竜崎の親分なのか?」
「竜崎組の親分だ。」
「山神組若頭・・・次期組長候補No.1の竜崎竜也だ。」
ヒソヒソ声が飛び交う。
 と、竜崎と同じ車から降りてきたもう一人にも人々は驚かされた。
「あれは・・・矢木沢賢悟じゃないか?!」
「まさか?!・・矢木沢コンツェルン総帥のか?!」
竜崎自体大物だったが、矢木沢が同行してくることを知らなかった人達は愕然としていた。そして、二人が(矢木沢は半歩竜崎より下がっていたが・・)並んで、ホテルに入ってくるのを固唾を飲んで見守っていた。

 矢木沢コンツェルンは世界的シェアで経済界に君臨する一大企業だった。その陰に竜崎ありと噂されるものの、国によっては、トップがころころ変わる政府よりも、信頼関係が深いと言われ、日本政府が正式な国交のない国からも認められ優遇されていた。その為、政府の方でそこの国家とのコンタクトを取りたい時には、逆に矢木沢の方に依頼してくるほどだった。
 矢木沢コンツェルンが元は竜崎の会社から分かれた存在であることは、政府や各省庁の高官なら皆承知していることだったし、警視庁の幹部クラスになれば、竜崎が国家から非公式ではあったが黙認される立場にあることも知っていた。
 かつて、あまりの竜崎の勢力増大を恐れた政府高官や法務省、警視庁の幹部達が、竜崎と腹を割った会談を開いたことがあった。その席で、竜崎は、
「そない目障りなら、全て解散させましょうか?わしが抱えとる連中全てを、一般大衆の中へ放流してええっちゅうならそうしましょう。・・・けど、元々まっとうに生きれん不器用な奴等のこと、きっとご迷惑をかけてしまうかも知れんことは、ご承知おき下さい。・・・あの連中は、不器用とはいえ、適材適所といいましてな、才能を生かせる場所があれば、おとなしい平穏な生き方の出来る一般人以上に働いてくれるものなんや。そうした才能によって、今のわし等があるんですわ。・・・けど、それをみんな面倒見てくれるっちゅうなら、わしはたった今引退したかてええんです。・・・どないしますか?」
と、言ってのけたのだった。確かに、統制のつかなくなったやくざ者達が、表社会に溢れ出したら、一気に犯罪が増え、手に負えなくなるだろう、と誰もが納得した。それで、政治には介入しない今の立場を守ってくれるなら、竜崎達の存在を認めよう、という取り交わしがあったのだった。

 ロビーに立った竜崎は、軽く襟を正すと、周囲を見回した。
 竜崎竜也は、40代半ばではあったが、鍛えられた筋肉の張りを感じる厚い胸と逞しい腕、引き締まった腰をした伊達男だった。服にもセンスの良さが光り、豪華なタキシード姿は映画のワンシーンを思わせるほどに強いオーラを放って輝いていた。
 子猫の姿に目を留めた竜崎は、パッと目を輝かせ厳しかった表情を和ませて笑みを浮かべた。ずっと様子を眺めていた子猫は、え?、と緊張して、強ばった笑顔で、まだ離れている竜崎に頭を下げた。
 竜崎は白い歯をこぼした映画スターのような笑顔で、軽く両手を開きながら子猫に歩み寄ってきた。歩く姿にさえオーラが見える、そんな竜崎に圧倒されて、子猫だけでなく、その場にいた全ての女性達は頬を赤らめた。

「おー、今日は格別に可愛いのう。ドクの奥さん。」
そう言った竜崎は、広げていた手で子猫の腰を挟むと肩の上まで掲げて、一回、、、二回、、、と回転させた。昔、パパにして貰ったことはあったが、それも小学生までだったので、子猫は嬉しさと恥ずかしさで真っ赤になってしまっていた。そして、竜崎に降ろされた時、足に力が入らず、へたり込みそうになった。竜崎の腕が咄嗟に支えてくれて、
「・・ぁ・・済みません・・・」
と、耳まで真っ赤になって子猫が言った時、
「竜崎の兄貴。私の嫁を誘拐しないで下さい。」
と、苦笑まじりに言う昭彦の声がした。
「おう、済まん、済まん。わしのドクの可愛い奥さんだでのう、ちーと感激し過ぎてもうたわい。クッフフフフッ。」
竜崎はそう言って笑うと、
「大丈夫か?」
と子猫に確認してから、支えていた腕を放した。そして、もう一度両手を広げると、今度は昭彦をギュゥーーッと抱擁した。数秒そうしてから、
「立派になったのう。」
と、言って肩をポンポンと軽く叩いた。皆、呆気に取られてその様子を眺めていたが、マフィア映画でのワンシーンのように、何故か納得してしまっていた。竜崎にはそんな他を圧倒し納得させてしまうカリスマ性があったのだ。

 竜崎が後ろをちょっと振り返り、控えるように立っていた矢木沢に目配りをした。それで、矢木沢は、一歩前に進むと、
「昭彦様、お久しぶりでございます。」
と言って頭を下げたのだった。
「・・・もう、その”様”はやめましょう。私も独立した大人になったのですから。」
「あ・・これは失礼致しました。では藤村様とお呼びした方がいいでしょうか?」
「いえ・・・ですから、その”様”は・・・」
「藤村様が竜崎会長の大切な方でいらっしゃることに変わりはないのですから、そう呼ばせて頂くことはお許し下さい。」
50歳を越える落ち着いた紳士の矢木沢はそう言って穏やかに微笑んだ。昭彦がちょっと眉を曇らせて、竜崎に視線を向けた。
「呼び方なんて何でもええやないかい。それより、矢木沢もドクに会いたがっとったで、連れてきたんや。何しろ、矢木沢は一般人やからのう、まさか向こうでの襲名式には呼べんかったし、ええやろ?」
「・・・そうですね。」
昭彦は軽い吐息をもらして頷いた。
「ん?・・それにしても・・・なんや?固い言葉やなぁ・・・」
「東竜会は関東ですから、仕事ではこちらの言葉を使うことにしました。組員ももちろんですが、取引相手もこちらの言葉が慣れているようですし・・・竜崎の兄貴には聞き辛いかもしれませんが、個人的な会話以外はこれで許して下さい。」
「そうかぁ・・・ドクも親分になると色々大変やのう。わしのことは気にせんでええ。後でゆっくり話も出来るこっちゃでの。・・せやけど、たいしたもんやないかぁ。矢木沢に標準語習っといて良かったのう。クッフッフッ。」
竜崎は目を細めて昭彦を眺めていた。その眼差しは暖かく、愛情溢れるものに感じた子猫は、昭彦の本当のお兄さんなんだろうか、と思ってしまうほどだった。
「ん?・・奥さんは矢木沢とは初対面やったかのう?」
いきなり声をかけられ、子猫は、
「ぁ・・・はい、初めてです。」
と上擦った声で答えた。竜崎は優しく笑って、
「何も怖いことないでぇ。・・矢木沢は昔、わしの会社におった奴での、ドクの教育係もしておったんや。」
「え・・・教育係・・ですか?」
「そうや。何しろ、ドクがわしのとこに来たんは中学出たばかりやったで、ちゃんと高卒に負けんくらいの教育は受けさせなならんて思うたでのう、・・・今は偉い奴になっとるが、矢木沢も気持ちのええ奴で、昔のまんまや。まだ、教え子と思うとるかも知れんなぁ。クッフフフフッ。」
と説明してくれた。子猫だけでなく、その関係を不思議に思っていた周囲のみんなは、ようやく会話の意味がわかって頷いた。子猫もそうした人が来てくれたことに感激して、矢木沢に目を向けると、矢木沢も笑顔で、
「初めまして、奥様。襲名並びにご結婚おめでとうございます。」
と言ってくれた。子猫は目を潤ませ、
「ありがとうございます。」
と頭を下げた。

「おお、そうや。忘れるとこやったで。」
そう言った竜崎は後方で固まっている子分に声をかけた。呼ばれたのは花束を抱えている子分と大きな包みを抱えている子分だった。
「結婚のお祝いや。」
と竜崎は子猫に花束を渡してくれた。子猫は大きな花束をやっと抱えて、
「ありがとうございます。」
と、かろうじて頭を下げた。それから竜崎は大きな包みの方を昭彦に渡した。
「開けてみ。」
と、言われたので、昭彦は時間を気にしながらも、渋々包みを開いた。中から出てきたのは小さな布団が敷かれ、レースで飾り立てられた籠だった。昭彦は眉を寄せて、子猫と顔を見合わせた。二人にはすぐに意味がわからなかったのだ。
「あら・・可愛い。赤ちゃん用の籠ですね?」
石橋夫人が控え目ながら目を輝かせて言った。
「・・・ぁ・・・赤ちゃん?」
子猫は真っ赤になって、頭から湯気が出そうになった。
「・・・兄さん・・・気が早すぎや・・・」
昭彦が思わずそう呟いた。
「どや?ええやろ?・・・わしは早うドクの子をこの手で抱いてみたいんや。高い高いして、爺やぞー、と言うてみたいんや。」
「・・・そこまで年寄りやないやろ・・・」
「ええがな。ホンマにそうしたいねんで。・・・ちゅうか・・クフフッ。言葉が大阪弁に戻っとるぞ。これくらいで動揺してどないすんねん。ファッハハハ。」
竜崎が豪快に笑って、周囲もつられて笑った。子猫も何だか嬉しくてクスクス笑った。
「・・ま、お祝いは有り難く頂きます。・・・そろそろ他の招待客も待ってますので、よろしくお願いします。竜崎の兄貴。」
昭彦は軽く頭を下げてそう言うと、籠を子猫に渡した。が、子猫が前も見えない状態になっているのに気付いて、クスッと笑みを浮かべると、花束を持ってやり、その花束を肩に担いだ。そして、竜崎に身振りで、どうぞ、と促して会場のホールへと案内した。子猫も石橋夫人と籠の使い方とかを聞きながら、後に従って会場へ行った。
<74>
[子猫姐]
<74>子猫姐

 祝賀会は祝辞と讃辞が続くものらしい。しかも、招待された男達は、滅多に会うことも叶わない大物二人の参列に興奮気味で、ここぞとばかりに自分をアピールしようと雄弁を震うので、皆規定時間を超えてしまっていた。
 超豪華な料理が並ぶ別の会場では、氷の彫刻の溶け具合や、暖かい料理が冷めないかと心配し、ホテルのマネージャーが時間超過を何度も責任者である石橋に訴えにきていた。石橋が困った顔で、会長の昭彦や他の客の様子を見回していると、
「まあ、ええやないか。貸し切りなんやろ?次の心配があるわけやないで、気長に気楽に構えとったらええねや。」
と、竜崎がウィンクして、そっと言ってくれた。石橋はちょっと驚いた顔で竜崎を見てから、感激に胸をつまらせたような顔になって、頭を下げた。普段、あまり感情を出さない石橋だったが、誰よりも忙しく生きているだろう竜崎と矢木沢が今日の為に時間を割き、しかも誇張と雑言肥大な讃辞が繰り返される祝辞をじっと聞いていてくれる、その姿勢に感動してしまったのだ。参列者の中には自分の祝辞が終わった途端、他の祝辞の長さにうんざりした顔を露わにする客もいた。竜崎や矢木沢にとっても楽しいはずはないだろうに、真摯に耳を傾けることが、昭彦への思いやりなのだと思ってくれていることを感じたからだった。しかも、時間を気にするホテル側と遅々として進まない現状の狭間で苦慮している自分の気持ちを汲んで、声をかけてくれた竜崎の人としての大きさに、石橋は震えるほど感動してしまったのだった。

 石橋と竜崎の会話はほんの一瞬のことだったが、昭彦の後ろでじっと佇んでいる子猫の目に映っていた。昭彦も気が付いたようで、石橋と目が合った時、微かに笑みを浮かべて頷いていた。
 子猫は祝辞を受ける側として、昭彦の後方に控えるように立っているしかなかった。うつむきがちに、自分の足元や昭彦の靴の踵をぼんやり眺めていた。時々、顔を上げて祝辞を大きな声でスピーチする人の顔を確認するように見るものの、何だか怖くなって、すぐにまたうつむいてしまった。
 高校の校長先生も話が長くて、講話が女性のあるべき姿にまで及ぶ時には、生徒からため息がもれた。そんな時も子猫はぼんやり自分のつま先を眺めていることが多かった。たまに、涼子先生が側にきて体調を気遣ってくれたりしたが、今日の祝賀会に篠原涼子の姿はなかった。橋本の彼女の渚礼子の姿もない。
 涼子の恋人(?)の川本も礼子の恋人の橋本も受け入れ側として雑用に追われているようだった。そもそも女性を同伴出来るのは組長クラス幹部クラスだけなのだから、仕方がないとも言えたが、子猫が話せる相手が石橋夫人しかいないのが寂しかった。それに、石橋夫人の存在は心強かったが、夫人も女性客の対応に追われて大変なのを思うと、頼り過ぎて迷惑をかけないかと不安になってしまう。
 こんなに盛大なパーティーで、偉い方の参列もある祝賀会に、今こうしていることが子猫には不思議な感覚だった。子猫自身はちっぽけなつまらない子なのに、なんでこうしているんだろう。もちろん、祝賀会は昭彦の為のもので、昭彦がそれだけの実力を持った存在なのだろう、ということはわかる。その昭彦が、子猫にいて欲しい、と思うから、自分はここにいるのだ。それぐらいはわかっている。
 だったらそれでいいじゃないか、全てを受け入れたはずなのだから文句は言うな、と心の一部が叱りつけている。だけど、弱い産毛しか生えてないようなヒナの心が脅えて震えてしまうのだ。

 女ってなんだろう?涼子さんの方がよっぽど大人でしっかりしていて賢いじゃないか。礼子さんの方がずっと綺麗で洗練されているじゃないか。橋本夫人こそ姐にふさわしい性質を供えている。・・・なのに、涼子さんも礼子さんも参列することも出来ない。橋本夫人は子猫を庇いながら引き立ててくれる。
 参列したいか、したくないかは、今問題じゃない。ここにいるのが苦痛だというなら子猫だってそうなのだ。そうではなく、そうしたランク付けをされてしまう女というものが、子猫にはわからなかった。
 男は自分の力でのし上がる。大金持ちや大物の令息というのなら、違う場合もあるかも知れないが、少なくとも昭彦のいる世界では、実力のない男は這い上がれないのだ。昭彦や竜崎やあの矢木沢という人達を見てるとそう思う。強い意志と情熱が黙っていてもオーラとなって輝いているのだ。才能ももちろんあるだろう。そうした実力のある人達が上にいる社会は幸運だと思う。上を目指すなら、そうした実力を持った人に近付けるよう、自身が努力すればいいのだ。挫けそうな時は先陣の努力を偲べばいい。それでも、届かず挫折したとしても、諦めがつくし、納得も出来るのではないかと思う。
 だけど、この世界の女は男次第なのだ。女親分を気取るならそれはそれでいいけれど、愛される女でいたい限り、女はただ、愛する人に従うしかない。それが、石橋夫人の言った”女は花”という意味なのだろうか。咲く場所は選ばない。ただ愛される時を待って、ひっそりと咲いていましょう、と。

 そしたら、姐なんて言葉はいらない。そんな特別の女なんていらないじゃない。・・・だけど、そうした弱い立場だからこそ、姐が必要なのだろうか。
 自分が姐として出来ることが何かあるのだろうか。参列している女性は、皆、子猫を圧倒するほどに強いオーラを放って輝いている。自分を鼓舞する術は充分心得ている、と言わんばかりの自信に満ちている。子猫が心で会話したいと望んだとしても、決して本音は言わないだろう。女としての辛さがないとは思わないけど、それを表に出すことを恥と思うに違いない。飾り立てた姿を見てるとそう思えてしまう。
 だけど、この社会の女には、こうして表で煌びやかに微笑む女性ばかりではなく、むしろ表に出ることもなく、男の野望の陰で泣いている女性の方が多いのだろう。涼子さんを見ているとそう思ってしまう。そうだとするなら、姐という名を貰った女は、そうした悲しみの代表として、少しでも泣く女性の支えとなるべきじゃないだろうか。
 ”干渉してはいけない”と昭彦には言われている。もちろんそれは当事者の問題だというのはわかるし、女性自身そうした生き方を選んだ以上、余計な干渉は受けたくないだろう。それはわかっている。わかっているし、そもそも子猫に全ての女性を支えることなど出来るはずもない。でも、いつでも心の間口は開いているべきなのではないだろうか。傷ついて震えている心に出会ったら、そっと抱き締め、いくらかでも助けられるように気を配る、それが姐という存在なのではないだろうか。

 子猫はため息をついてしまう。いくら心でそう思っていても、子猫自身が弱かったら何も出来ないじゃない。あぁぁ…なんてちっぽけな子なんだろう。姐なんて名乗る資格ない。自分自身が傷つくのを恐れていたら、傷ついている人を救うことなんか出来っこないのに。
 子猫はもう一度ため息をつくと、会場をぼんやりと見渡した。と、マサさんが子猫と目が合うなり、にっこりと笑顔になった。”子猫はん。大丈夫やでぇ。綺麗でんがな。輝いてまっせぇ。”と言ってくれるように、うんうん、と頷きながら、”大丈夫、大丈夫。”と応援するような笑顔を送ってくれるのだ。マサさんには自分の気持ちをわかって貰える、と子猫はいつも感じていた。子猫は思わず泣きそうになって、「マサさん…」と声には出さずに名前を呼んだ。
 マサは子猫が今にも泣き出しそうなのに慌てた様子で、急にオロオロとし、身振り手振りで”泣いたらあかん。泣いたらあかんよ。頑張っちょくんなはれ。”と自分が泣きそうな顔になっていた。

 マサには子猫のふわふわで柔らかな魂が天女の羽衣のように思えていた。けれど、儚く脆いこともわかっている。傷つきやすいことも知っている。そしていつも自分自身を小さな存在だと卑下して苦しんでいる、その気持ちが自分にはよくわかるのだった。
 輝くことの出来る男達がいる。だけど、自分には輝けない。産まれてきたことを呪った時もある。こんな自分を産んだことを恨んだこともある。だから、全てを恨み呪い憎んで、自分を落とせるとこまで落として死んでいこうとした。だが、「あるがままに生きろ。人の評価がなんぼのもんや。地獄は心にあるものやで。その地獄に見た目の美醜が関係あるもんか。山を見てみぃ。岩山は醜いんか?そうやないやろ。海を見てみ。荒れ狂うたら醜いんか?醜いと思う心こそが醜いんやで。負け犬になるんやない。自分を認めん奴等の為に負けてやるこたないんや。」と昭彦に魂を救われた。でも、その昭彦さえ、美しく輝いていた。全てが美しかった。姿も心も魂も。どんなに自分が気を穿こうと、届かない存在は確かにいるのだ。それでも、これほどに美しい男でも地獄を知っているのだ。地獄はある意味では天国より平等なのかも知れない。それなら、この男と共に地獄を生きてみよう。と思った。
 だから、叶わないと自分を虐めてしまう心の弱さをマサは知っていたし、自分が追い込まれた地獄を、子猫には見せたくなかった。”幸せになってくんなはれ。笑って輝いていてくんなはれや。”と、マサはいつも願っていたのだ。
 そうした思いがいつも子猫を見る時の優しい眼差しになっていたし、さり気なくフォローする行動にも現れて、子猫はマサに父親のような温かさを感じて慕っていたのだった。

 昭彦はマサの奇妙な素振りで、子猫が今にも泣き崩れそうなほど脅えてしまっていることに気付いた。こんなに側にいて、すぐに気付いてやれなかったことが悔やまれる。だが、悔やんでも始まらない。どうすればええんや!
 昭彦の顔色が変わった時、竜崎が素早い身のこなしで子猫を抱き上げていた。
「お前が動揺してどないすんや。お前の足を引っ張ったと思うて余計苦しめることになるで。休む部屋はあるんやろ?客には、具合が悪いようやで休ませる、ちゅうたらええ。この子の分もお前は踏ん張っとれ。」
そう、耳元で叱りつけた竜崎は、子猫を石橋夫人の所まで運んだ。
 駆け寄ってきた子猫のボディーガードの黒岩に子猫を手渡すと、石橋夫人にも付き添ってやってくれるようにと指示をした。黒岩は緊張で腕を硬直させながら、子猫を抱きかかえた。ざわつく会場に、昭彦が、
「申し訳ありません。妻は体が弱く、体調を崩してしまったようですので、下がらせて頂きます。ですが、会はこのまま続けさせて頂きますので、お気遣いなさらぬようお願い致します。」
と説明する中、子猫を抱きかかえた黒岩とそれに付き添う石橋夫人が会場を後にした。

 会が立食パーティーに移行した段階で、昭彦が子猫の休んでいる部屋に様子を見にきた。石橋夫人はそれまで泣きじゃくる子猫を何とか落ち着かせようと宥めていたが、昭彦の姿に微笑むと、部屋を出ていった。
 子猫はベッドで毛布を頭から被り、丸くなって泣きじゃくっていた。
「子猫・・・泣かんでええんや。何も心配ないんやで?」
昭彦が毛布の上から、震える丸い物体に触れると、ビクッとした物体はますます小さく丸まってしまった。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
小さくくぐもった声が震える丸い中心から聞こえてくる。昭彦は丸みをそっと抱き包むようにして撫でながら、
「ええんや。まだ無理なんはわかっちょったのに、無理さしたわしが悪かったんや。・・・わしの中に可愛い子猫を自慢したい気持ちがあったのがいかんかったんや。・・・今やなくても良かったものを・・・済まんかったと思うちょる。」
と優しい声で言った。丸い毛布はぶるぶるぶると大きく震え、
「猫がいけないのぉー!・・・うぁぁーーん・・・ごめんなさいーーー・・・」
と藻掻くように蠢いた。昭彦は手探りで子猫の頭部を見つけると、体の部分を抱き締めながら、頭を子猫の頭部に軽く押し当てた。
「泣かんでくれや。・・・わしが悪かったで。・・・しかもすぐに気付いてやれんかった。・・・ホンマに情けなくなるわ。」
昭彦は優しい声を震わせて囁くように言う。
「何の為に・・・わしは会長なんかになるんや。・・・わしは兄さんのような生き方は出来ん。・・・兄さんは太陽や。多くの命を育み、鍛え、高めていく。自分の為に生きたことがない人や。・・・けど、わしは同じ道を歩めんかった。・・・ずっと、兄さんの役に立ちたい思うて生きとった頃もあったんやけどな。・・・けど、わしこそが兄さんの手枷足枷になっとることに気付いた時、兄さんが産まれた時から授かっていた天命の為に、わしが離れることが、わしに出来る最大の恩返しなんやと思うたんや。・・・」
丸い毛布がじっと聞き入っているようだった。昭彦は撫でてやりながら、また話し出した。
「そしたら・・・わしは何の為に生まれてきたんやろ。・・・そう思うて、ずっと探しとった。わしが守ってやれる存在を。・・・せやけど・・・呪われた命なんかのう。・・・わしが手を触れるものは皆傷ついてしまうんや。・・・せやから・・・子猫に初めて会うた時から、可愛いて可愛いて・・・守ってやりとうてたまらんかったのを堪えちょったんや。」
毛布がすすり上げるようにひくひくと震える。
「・・・けど、子猫はなんも考えんで・・・飛び込んできよった。・・・仔猫のように細い爪立てて、必死にしがみついてきよる。世の中のこと、綺麗も醜いも知らず、何も見えんままに、わしだけを信じて、わしだけを見つめて、甘えてくる。・・・それがどんなに、わしの心を救てくれたか、知らんまま、無邪気に笑いかけてくれるんや。・・・わしは・・・やっと・・・わしの生きる意味を見出せたと思うた。もちろん今かてそう思うちょる。わしは子猫を守る為に生きるんや。・・・のう?」
昭彦は縮こまっていた丸い物体が強ばりをなくしたことに気付いて、そっと子猫の体を自分に添わせるように抱き締めた。毛布越しにキスを繰り返す。見つけた唇に唇を重ねる。毛布伝いに子猫も応えてくれるのがわかる。
「子猫・・・お前あってのわしなんや。子猫を苦しめるだけなら、会長なんてやらん。わしは兄さんとはちゃう。・・・向こうに行った時な、兄さんにそう話したんや。兄さんは、それでええ、ちゅうてくれた。だから子猫は何も心配せんかてええんやで?わしは何も困ったりはしとらんのやから。子猫は何も悪ぅないんやからの。」
そう言うと、昭彦は毛布をそっと手繰って、子猫の頭から剥がした。
 子猫の真っ赤な顔が現れた。セットした髪はくしゃくしゃで、頬が赤くテカっている。だが、その顔がどんなに愛おしくてたまらないか、どんなに今会いたかったか、思いを込めて、昭彦は熱い口づけで伝えた。子猫は泣きやんではいたものの、しばらく横隔膜の痙攣が治まらずに、その度に息を震わせて吸っていたが、昭彦の優しい思いと優しいキスに、萎縮していた心をやっと解きほぐすのだった。

 1時間近くもそうしてキスを重ねていただろうか、
「おーう、いつまで籠もっとるんやぁ?」
とドアの向こうで竜崎の声がした。
 竜崎はずっと、席を外す昭彦に変わってホストを務めてくれていたのだ。昭彦は一度起きあがってドアを開けると、またベッドに戻り、座り込んで子猫を抱き寄せた。
「・・・おいおい・・・」
数歩部屋に入った竜崎は昭彦の様子に片眉をしかめ、口元には苦笑を漏らして、呆れたように言った。
「そろそろ料理もなくなるで、帰る客も出てくる頃や。最後くらいはお前自身で締めなあかんやろが。」
「いやや。」
昭彦は抱き締めた子猫の髪に頬ずりをしながらそう言った。入り口で様子を伺っていた石橋が目を丸くして瞬かせている。昭彦がこんな言い方をする相手がいたのだと驚いてしまったのだ。傍らの石橋夫人は、まぁ、と微笑んでクスクス笑いをこぼした。石橋がそれを顔を顰めて窘める。
「・・・あのなぁ・・・」
竜崎がため息を吐きながらそう言って言葉を続けようとしたのを、
「もう知らん。」
と昭彦が遮った。竜崎は一瞬天を仰いでから、
「ほぅかぁ・・・せやったら奥さんの意見も聞いてみよかぁ?」
と構うように言った。昭彦は眉をひそめて、竜崎を睨んだ。
「クッフフフフッ。まぁったく、そーゆーとこは変わらんやっちゃのう。奥さんやったら心配いらん。ほれ、料理かて良さそうなとこを持ってきてやったで。」
ドアの陰から、料理を盛った皿の乗ったトレイを持つ矢木沢が顔を出した。
「な?・・・ずっとわしと矢木沢で客達のいらん話を聞いとったんや。後の締めくらいせい。その間、わしと矢木沢で奥さんと遊んでてやるで。」
昭彦の顔がますます険しくなった。
「わしは何と・・・」
竜崎はそう言ってポケットに手を入れ、
「花札を持ってきとるんやでぇ。どや?ええやろ?」
と言って、花札ケースを取りだして見せた。
「温泉行ったら、一緒にやろう、思うてな。クッフフッ。懐かしいやろ?」
「・・・別に珍しくもないで。」
「フン。ドクのことやで、わしが相手せんかったら、こんな遊びもようせえへんやろが。・・・せやから、奥さんに教えながら待っとってやるで、ちゃんと挨拶してこんかい!ボケ!」
竜崎は語尾だけ怒ってみせた。本気でないのは、すぐに浮かべた愛嬌のある笑顔でわかった。
「奥さんは花札は知っとるかの?」
そうふられて、子猫はプルプルと首を振った。
「そんなん教えるもんやないで。この子はまだ高校生やぞ。」
昭彦がムッとして言うのを、
「どこが悪いねや?賭けんかったらええやないかぁ?・・・綺麗な日本の伝統美やぞ。のう?」
と、また子猫に笑いかけた。子猫は二人のやり取りが可笑しくなって、笑みを浮かべた。その笑みに竜崎が微笑んで頷くと、
「頼むわ。ドクを動かしたって。今、駄々をこねとるドクの機嫌を取れるんは奥さんだけやでの。」
と優しい声で言った。子猫は、え…と、目を丸くしてから、昭彦の顔を見上げた。昭彦は心配そうに子猫を見ている。
「…ぁ… あのね…」
子猫がどう言えばいいか、言葉を探していると、昭彦は目を閉じて大きくため息をついた。
「・・・わかった。行けばええんやろ?・・・ったく、策士やで。」
そう言って立ち上がった昭彦に、竜崎は、
「そうかぁ?ドクに誉めて貰えるとは嬉しいのう。クフフフッ。」
と得意げに笑った。昭彦は眇めた目で一瞥してから、
「ほな・・・なるべく早く戻るで・・・寂しがらんで、待っちょるんやで?」
と子猫の頬を撫でながら言った。子猫は昭彦の手に軽く手を重ねて、コクリと頷いた。昭彦は愛おしげに微笑んで子猫にキスをした後、姿勢を正し、
「そしたら、子猫をよろしく頼みます。」
と、竜崎に頭を下げた。
「おう。心配するな。」
と竜崎が言うと、トレイを持った矢木沢も、
「お任せ下さい、藤村様。行ってらっしゃいませ。」
と、昔と変わらぬ声の調子で言った。昭彦は矢木沢にも、
「では、よろしくお願いします。」
と頭を下げて言うと、石橋を伴って会場へと向かった。残った竜崎は、入り口にいた石橋夫人に笑顔を向けて、
「そっちの奥さんも一緒にやりましょう?」
と楽しげに言って、花札を見せた。石橋夫人はクスクス笑みをこぼしながら、
「私・・・以外に強いんですのよ。」
と言った。
「う・・・これはまいった。ファハハハハッ。」
竜崎の明るい笑い声に子猫もいつしか声を出して笑っていた。
<75>
[渓谷の宿]
<75>渓谷の宿(もしくは警告の宿)

 祝賀会が終わった後、昭彦は竜崎と矢木沢を案内して、山間の渓流沿いにある温泉旅館へと向かった。同行するのは昭彦と子猫に近い人達と警護する者達だけだった。
 休火山を抱える土地柄で温泉だけは豊富にあったが、特にこの山間の温泉は効用も高く、また森林に囲まれた渓流のせせらぎが趣があったので、招待する場所に選んだのだ。宿泊する旅館は下の賑やかな温泉街を更に山奥へと登った先にあった。シンと静まりかえった深い山肌の森林を背景に、急流らしい飛沫をあげた流れがサワサワザワザワと聞こえてくる。

「おぉー・・・ええとこやのう・・・」
車から降りた竜崎が目を細めて思わず深呼吸をする。その表情を見て、昭彦は無理をしてもここに頼んだ甲斐があったと思った。実はこの旅館は規模は小さいながらもかなり由緒のある旅館のようで、予約が何ヶ月先まで埋まっているという人気旅館でもあったのだ。そこを旅館ごと借り切るというのはあまりにも無謀だった。絶対無理だという旅館側にすでに予約している客へのフォローはさせて頂くからと頼み込んだのだった。
 経緯はともあれ、それでもにこやかに迎えてくれた女将は、自慢の露天風呂などを説明しながら自ら部屋まで案内してくれた。
 こうした小規模の旅館でもVIP用の特別室は用意されていた。歴代総理大臣に宿泊頂いているという部屋には竜崎と矢木沢に泊まって貰い、昭彦は子猫と、石橋夫婦、マサは組の者数名、黒岩と川野、橋本は礼子、川本は涼子、と各々に部屋を取り、後は竜崎の子分や矢木沢の秘書や同行者と東竜会の警護にあたる者達もいくつかの部屋に分かれた。
 子猫は涼子も来ていることを旅館に着いて知ったので、姿を見つけた時には嬉しくて抱きついてしまった。涼子と礼子は先に着て待っていたらしい。
 宴会の席も設けてあったが、まだ時間があったので、先に女性陣と男性陣に分かれてお風呂に入ることになった。混浴の露天風呂もあるということで、
「どや?一緒にはいるか?」
と竜崎が構ってきたが、女性陣からあっさり断られた。

 浴衣に丹前を羽織った女性達が宴会用の部屋に来ると、石橋、橋本、川本、黒岩、川野はもう席に着いていた。礼子は嬉しそうに橋本の隣りに座り、涼子も申し訳なさそうに川本の隣りに行った。
「あれ?・・昭彦さん達はぁ?」
「リラクゼーションルームの方に行ってらっしゃいます。」
石橋がにこやかに言った。祝賀会を任された責任を果たせたことでホッとしているようで、浴衣の胸元を開いて、風呂上がりの汗を乾かしているようだった。チラッと見える彫り物に、あー…石橋さんもやっぱモンモンの人なんだなぁ、と子猫は改めて実感した。石橋夫人は子猫を気遣って、座ろうかどうしようか迷っているようだった。
 ここ温泉での責任者は石松という、やはり昭彦が信頼している男だったが、仕事面での関係が深く、子猫との接点がなかった。今回は夜通しの警備も任されてるので、宴会には加わらないで他の子分達と簡単に食事を済ませたらしい。
 石橋には慰労ということもあって、ここではゆっくりするように言って貰っていたので、かなりリラックスした表情だった。
「もう、そろそろ始まるんでしょう?」
子猫が更に聞くと、石橋は腕時計を見て、
「そうですねぇ・・・」
と言った。
「じゃぁ、猫が呼んできまぁーっす。」
と、すっかり機嫌を直していた子猫が言った。石橋夫人も子猫と一緒に行こうとしたが、子猫は大丈夫だから、と言って、一人でリラクゼーションルームへ向かった。

 リラクゼーションルームはいくつかのマッサージチェアや映画を楽しめるリクライニングチェアとワイドTVが置かれている個室等もあって、宴会用の部屋とは同じフロアにあった。
 ドアは開かれていたが、入り口の上にリラクゼーションの文字があったので、子猫はにこっとして中を覗いた。
 並んでいるマッサージチェアーに、矢木沢とマサが、リクライニングを倒し気味にして横になっていた。昭彦は近くの長ソファーに足を組んで座っている。竜崎がその革張りのソファーの肘掛け部分に腰を下ろし、背もたれの上に腕をかけていた。その腕の手を下げた所に昭彦の肩があった。
「マサ、どこが凝っちょるんや?違うとこのマッサージのサービスでもして貰た方がええんやないかぁ?クックックックッ。」
昭彦が構うように言うと、
「その違うとこやったら、わてはぼちぼちほぐしちょりまっせ。マッサージが必要なんはボスや矢木沢の旦那の方でっしゃろ。ヘッヘッヘッヘッ。」
と、マサが言った。
「なんやぁ?マサも言うようになったもんやなぁ。」
竜崎は苦笑してそう言いながら、背もたれに乗せた腕の手で昭彦の肩を撫でている。昭彦も竜崎もまだ汗が引かないのか、丹前は羽織ってなく、緩めに開いた胸元からは彫り物が覗いている。マサもたくし上げた二の腕に彫り物が見えた。毛深い肌で、彫り込まれた絵から毛がわさわさと生えているのは不思議な気がした。そう言えば、昭彦は綺麗な肌だったなぁ、と、子猫は今になって気が付いた。
「昭彦。お前、どんな教育しとるんや。んー?」
竜崎が昭彦の頭の上に顎を乗せて言った。
「教育もなにも・・・マサが勝手にわしについて来ちょるだけやで。わしは知らん。」
昭彦は腕を組んで、フッと冷笑した。子猫はドキッとした。今までに見たことのない昭彦の表情だったのだ。
「わしが、お前のことが心配やから、子守りしったってくれるように言うといたんや。・・・せやのに・・・何で服役せなならんドジを踏んだんや?」
竜崎の手がそっと首筋から頬を撫でる。昭彦は別段表情を変えることなく、
「ドジやない。やくざの世界と縁切ろうと思うて、わざと捕まってやったんや。・・・もう、メンドイわ。」
と言った。
「おいおい・・・会長になったばかりで言う言葉やないやろ?」
竜崎は苦笑しながら、昭彦の濡れた髪にキスをした。・・・え??・・・子猫は思わず覗いていた顔を引っ込めて固まった。それでも気になって、もう一度、そぉーっと覗いた。
「・・・けど・・・酷い大怪我やったしのう・・・どれだけ心配しとったか・・・」
竜崎が髪に頬ずりをしながら、愛撫するように頬を撫でていた手を昭彦の浴衣の襟から直接肌に触れるように肩へと滑り込ませた。
「兄さんのお陰でしばらくは医療刑務所で楽さして貰うたで、感謝しちょる。・・・けどもう・・・わしのことは放っといてくれたらええんや。兄さんかて忙しいんやし。」
「お前がおらんとわしもつまらん。」
昭彦は背もたれに頭をもたれて竜崎の顔を見上げた。
「クックックッ。それでも人の為に動いてまうのが、兄さんの性格やろ?」
「どうにも・・・この性格は直らんのう。・・・せやから・・・お前の我が侭が可愛いんや。お前がおった頃の振り回されっぱなしやった毎日が一番楽しかったでぇ。」
竜崎は苦しげな表情で昭彦に熱い視線を注いでいる。昭彦は口元の冷笑が消えないままに黒目がちの輝く眼を冷たく光らせていた。と、その顔が重なった。子猫にはすぐに理解が出来なかった。が、昭彦の喉が動いた。・・・竜崎と昭彦がキスをしているのだ。
「ヘッヘッヘッ。変わらないんはボスも同じでっせぇ。ボスがどんな我が侭でも聞いたるさかい、ドクターは勝手なままなんでっしゃろ。・・・しゃーけど、そこがわては好きなんでおますけど。ヘッヘッヘッ。」
「本当に昭彦様は楽しい方です。・・・もっとも私には見守る以外に近づける方法がわからないままですが。私に出来るのは、会長のお役に立つことだけです。・・・お二方と出会えたことは私には他のどんなことより楽しく、有意義で、人生の生きる張り合いになりました。」
「楽しすぎて・・・ドクターに惚れ込んだ男は、みーんな、結婚することも忘れてまんがな。ヘッヘッヘッ。」
「・・・会長に跡継ぎがいらっしゃらないのが残念ですね。」
「アホ!せやから昭彦に子供が出来るんを楽しみにしとるんやないかぁ。」
竜崎はマサと矢木沢の勝手な会話に、やっと長い口づけを解いてそう言った。子猫は心臓がバクバクと不規則に打ち付けて苦しくなってきた。もう、これ以上ここにはいられない、とそっと足音を忍ばせて立ち去った。

 何だろう?・・・相手が女性だったら、こんなに落ち着いてないし、もっと悲しんでるはずなのに・・・と子猫は動揺しているものの、込み上げてくる悲しみという感情が起こらないのを不思議に感じた。それでも、なんだか今いる自分がどこかの異次元にでも迷い込んでしまったかのように、ふわふわと地に足のつかないような感覚にとらわれていた。

 子猫がぼんやりした様子で宴会用の部屋に入ってきた。それから焦点の合わないような視線を泳がせて、石橋夫人を見つけると、ふわぁーっと側にいき、両隣に石橋と橋本がいた為、後ろに座ると背中にもたれるようにした。
「あら、、・・・どうしたの?」
石橋夫人が戸惑ったように顔を後ろへ向けた。
「姐さんの席はあちらです。」
石橋が前を指し示した。子猫は石橋夫人の背中に頬を擦り付けるようにしながら、ぼんやり前の空いている席を眺めた。が、目を閉じると、
「・・・わかんない。」
と呟いた。
「子猫ちゃん?」
石橋夫人は様子を伺おうにも身動きがとれずに、心配そうに声をかけた。
「…ぁ… ・・・場所がわかんなくて・・・迷っちゃった・・・」
子猫が呟くように言った。
「あらあら・・・一緒に行けば良かったわねぇ?」
夫人は子猫の様子にそれだけではないものを感じていたが、他の言葉が浮かばなかった。
「では、私がお呼びして参ります。」
石橋がそう言って席を立ち上がって、部屋をでていった。

 ほどなく、昭彦達が宴会用の部屋に入ってきたが、皆一様に表情を固くしていた。石橋が、子猫が先に昭彦達を呼びに行ったことを、話したようだった。子猫は石橋夫人の背中ですりすりと頬を擦りつけたままで、昭彦が入ってきても顔を見ようとはしなかった。
「子猫・・・こっちに来いや。」
昭彦が席に座って呼びかけた。けれど、子猫はぼんやりとしたまま、その場から動こうとはしなかった。
「しゃぁーない子やなぁ・・・」
そう言った昭彦は、一度座った席から立ち上がり、子猫の所まで来るとふわっと抱き上げた。そして席に戻ると、子猫を抱いたままあぐらをかいて座った。子猫は昭彦のあぐらの内側にすっぽりと収まって、肩にもたれていた。視線は焦点が定まらないままで、表情も呆けたように感情が消えていた。
「・・・あれは・・・兄さんの悪ふざけや。気にすることないんやで。」
昭彦は子猫の耳元で小さく囁いた後、髪にキスをして頬ずりをした。子猫は目を閉じて昭彦の胸に顔を押し当てた。いつもの麝香が香る。そして、そのまま顔をすりすりと擦りつけるようにした。
 石橋は異様な雰囲気に戸惑いながらも、このままでいる訳にもいかないと思い、
「それでは・・・始めてよろしいでしょうか?」
と竜崎に声をかけた。竜崎は眉を寄せたまま頷いた。それで、ビールやジュースの栓が抜かれ、石橋夫人や礼子、涼子が甲斐甲斐しくお酌をして回った。
「そしたら・・・」
と竜崎が大きく息を吐いてから、
「無事祝賀会も済んだことやし、今後のドクの活躍と・・・奥さんとの幸せな結婚生活が順風満帆であることを願って・・・乾杯!」
と音頭をとった。
「乾杯ー!」
「ご苦労さまでした。」
「お疲れ様です。」
一時、席についた女性達も他の男達も口々にそう言って、コップに口をつけた。昭彦も左手で子猫を支えるように抱きながら、右手でウーロン茶の入ったグラスで乾杯をした。

 竜崎は女性三人を相手に冗談を言っては笑わせていた。石橋や川本は矢木沢に成功する秘訣を教えて貰おうとあれこれ質問をしていた。マサは黒岩や川野を相手に子猫の学校での生活や通学で困ったことがないか、等と聞いては、気を使ってやるんやでぇ、と頼んだりしていた。皆、普通ではない事が起こっているのを感じながら、普通にする事が自分に出来る最大の最善策のように思えて、務めて明るく話を進めていた。昭彦も矢木沢の会話に参加したり、竜崎に女性達を構いすぎないように言ったり、マサに子猫の学校の様子などを話していた。
 だが、昭彦がいくら話しかけても、呆けたままの子猫は何も答えなかった。ただ、じっと昭彦の胸に頬を押し当てて、昭彦の鼓動だけを聞いていた。
「眠ぅなったんやろ。・・・今日は奥さんも朝から大変やったろうし、疲れとるんやないか?・・・部屋で休ましたらええ。大事に介抱したりや。」
居たたまれない気分の竜崎が、昭彦が子猫を連れて退席出来るように、そう声をかけてやった。昭彦も、
「そやなぁ・・・」
と、子猫を見ながら返事をした。
 すると、
「・・・猫ねぇ・・・今夜はぁ・・・石橋夫人と寝るのぉ・・・」
と、眠そうに目を擦りながら子猫が言った。会が始まってから初めて聞く子猫の声に、皆シンとして注目をした。
「・・・アホ・・・お前にはわしがおるやろ。」
昭彦が静かに、言い聞かせるように言った。
「だってぇ・・・もう決めたんだもぉん・・・猫はぁ・・・今夜はぁ・・・石橋ママと寝るのぉぉ・・・」
どこか空気が漏れてるような声で、焦点も定まらないままの子猫がゆっくりと言う。昭彦は苦しそうに息を洩らすと、
「ええ子やで・・・無理言わんと・・・わしと寝よな?」
と、両腕で子猫を抱き締めた。
「・・・昭彦はぁ・・・竜崎パパとぉ・・・ゆっくりお話すればいいじゃぁーん・・・久しぶりなんだもぉん・・・積もる話とかぁ・・・色々ぉ・・・クスクスクスッ・・・」
子猫は口元に手を丸めて、指をくわえるようにしながら笑いをこぼした。それだけ受け答えしているにもかかわらず、子猫はどこも見ていなかった。クスクスと笑う声がどこか危なげだった。
「ええんや。話すことなんてない。」
昭彦の顔が苦しげに歪む。
「奥さん・・・わしはドクの顔が見れたで充分や。後は奥さんによろしゅう頼んますわ。」
竜崎が済まなそうに眉を寄せ、それでも何とか笑みを浮かべて、優しく子猫にそう言った時、子猫は初めて竜崎の顔に視線を向けた。竜崎は目をちょっと見開いて動けなくなってしまった。何かを言おうとしたが、声も詰まってしまったようだった。
 子猫はしばらくじーーーっと竜崎を見つめていた。それから、
「… … ぃぃのぉ… …昭彦を… 今夜は…ぁ…げ…る…」
と、甘く切なく消え入りそうな声で言った。
「な・・・・」
竜崎は今度こそ絶句した。眉間が痙攣し、眉がビクビクと動く。浮きかけた態勢で膝に置いた手が膝に食い込み、体がガタガタと震えてくる。
 そうか。と石橋は理解した。そんな噂を昔聞いたことがあった。あのドクターと呼ばれる男は竜崎の恋人だと。だが、噂ほど無責任なものはない、と思って聞き流していたきり忘れていたのだ。だが、子猫の様子が変わったのは迎えに行ってからだとすると、その時に何か、関係を暗示するようなことがあったのだろう。
 石橋が青ざめて唇を噛んだ時、竜崎が、
「いや。・・・さっきは済まんかったのう。・・・昭彦の黒獅子を久しぶりに見て・・・昔の気分に戻ってしもたようやで。・・・けど、今、昭彦は奥さんのもんや。何も気にせんでええねや。」
と、両手を前について頭を下げて言った。
「… … だって… ずっと… ずっと… ずぅーっと… 昭彦が好きだったんでしょう? …女性は嫌だけどぉ… 竜崎パパならぁ… 貸して…あげるぅ… キャハハハハハ… …」
「子猫!わしは物やないで!」
昭彦が呻るように声を荒らげた。子猫は、うっ、と眉を寄せ唇を尖らせてから、
「・・・猫が、・・昭彦を、・・物だと、・・思ってると、・・・思うのぉぉぉーーー?!」
と、区切り区切りに言った後、最後は悲鳴のような声だった。
「・・・だって・・・だって・・・」
子猫は顔を覆って泣きじゃくり始めた。
「・・・竜崎さん・・・可哀想じゃない。・・・すっと・・・好きなのに。・・・昭彦だって・・・ホントは好きなのに・・・ひっく・・・昭彦が嫌いなら・・・仕方ないけど・・・でも・・・昭彦だって・・・」
「わしはお前がええんや。」
昭彦がそう言って子猫をきつく抱き締めても、子猫には昭彦の声が聞こえないように言葉を続けた。
「ずっと・・・考えてた。・・・離れても・・・ずっと好きなのって・・・どんな思いなんだろうって・・・。あの摩耶さんも・・・春江さんも・・・やっぱり・・・ずっと昭彦が好きなんだよなぁ・・・。好きなのに・・・思い続けるしか出来ないって・・・どんな気持ちなんだろうって・・・。・・・猫も・・・いつか・・・そんな風に・・・昭彦を恋しがる日がくるのかなぁ・・・って・・・」
「離さへん!っちゅうたやろ!」
「・・・ずっと・・・切ない思いを抱いて生きるって・・・なんて長い時間なんだろう・・・。だけど・・・思いを抱いたまましか生きれないって・・・なんて儚い一生なんだろう・・・。恋しくて・・・恋しくて・・・でも届かなくて・・・あぁぁ・・・なんて・・・心って・・・悲しいんだろう・・・。」
「もうええ!」
昭彦は子猫を自分達の部屋に連れて行こうと、抱き上げようとした。
「いやぁぁぁーー!!ダメなのぉぉぉーー!!」
子猫がまた悲鳴をあげた。
「・・・そんなの・・・たまらない。・・・好きな人が・・・同じ屋根の下で・・・違う人を抱いてるなんて・・・そんなの・・・猫には・・・耐えられない・・・」
「ええんや!わしが選んだんはお前なんや!」
子猫は悲しそうに昭彦に顔を向け首を振る。ただ、その目に昭彦は映っていないかのように不安定な目線だった。
「・・・猫も・・・いつか・・・昭彦に・・・捨てられる・・・」
「わしが離さん!」
「・・・お願いだから・・・その時は・・・目の前で・・・他の人を・・・抱かないで・・・」
子猫には聞こえてないのだ。そう思った時、昭彦は子猫を抱き上げていた。
「きゃぁぁぁーーー!!!」
誰への悲鳴なのだろう。何の為の悲鳴なのだろう。それさえも子猫にはわかっていなかった。昭彦が口づけで塞ぐ。
「昭彦・・・早う行け。行って思いきり抱いてやれ。」
竜崎が昭彦の背中を押した。昭彦は叫ぶ子猫の顔を胸に押しつけるようにして宴会場を後にした。

 浴衣を脱がせるのは簡単だった。昭彦もすぐに脱ぎ捨てて裸になった。裸と裸で抱きしめた。けれど、子猫が脅えて嫌がるのだ。意識が混濁していた。見えているのに見えなかった。聞こえているのに聞こえなかった。ただ、触れてくる感触だけが鮮明で怖かった。
「子猫・・・わしはお前を離さん。・・・信じてくれ。」
そう言ってキスをしようとしても苦しそうに顔を逸らしてしまう。
「お前を捨てたりせえへん。失って生きれんのはわしの方や。」
何とか聞いてくれ、と心で叫ぶ。何とか思いが届いてくれ、と祈る。
「ひとつになるんや。繋がってわしを感じるんや。」
昭彦が子猫のももを開かせようとすると、また泣き叫んで拒絶する。無理矢理挿入させるのは簡単だった。だが、今以上の負荷をかけたら、子猫の心が粉々に砕けそうに思えて、力ずくには出来なかった。
「好きで好きでたまらんのや。どうしようもなく惚れちょるんや。わかってくれ。・・・子猫ぉ・・・愛しちょるんやでぇ。」
前を頑なに閉じていても、手を後ろに回せば秘部にすぐ指が届く。身を捩って嫌がるほど、指は確実に花唇を捕らえる。昭彦は子猫の花唇を割って、指先を侵入させた。
「あ、、あ、、いやっ、、、いやぁぁぁっ、、、」
子猫が辛そうに体を捩る。涙を飛び散らせながら首を振る。
「感じてくれ。・・・頼むで・・・感じてくれ。」
指が膣の肉襞を捉える。
「いやぁぁぁぁっ、、、、、」
昭彦は子猫を抱き締めながら、感じてくれ、と祈りながら、指でいつもなら喜ぶ場所を刺激し続ける。膣はビクッビクッと痙攣し、花弁が指を包み込むように締め付けてくる。指が次第に蜜で濡れてくる。それでも子猫は泣いて嫌がるのだ。
「ひとつになればわかることやろ?・・なぁ・・わしを受け入れてくれ。頼むで・・・なぁ・・・」
固く勃起した亀頭から涙が零れる。中に入りたいと蜜壺の入り口あたりを彷徨っている。グッと力を入れれば、すぐに愛おしい肉襞に包まれるのに・・・。
「ええ子やから・・・ええやろ?・・・ええな?・・・入れるで?」
昭彦はたまらずに子猫の中に侵入した。
「ひっ… ぁ… ダメッ… ダメ・・・ ダメェェェーーー・・・」
子猫の悲鳴を聞きながら、昭彦はグッ、グッ、ググッ、と奥へ奥へと深く体を埋めた。それから、子猫を抱き締めてキスを触れるとこ全てに降りそそぎながら、腰をゆっくりリズミカルに動かした。
「お前がわしの命なんや。お前のいない人生などいらん。わかってくれ。」
子猫は力の入らない体で、嫌がって首を振っている。昭彦は、
「感じるんや。わしを感じてくれ。」
と、腰の動きを早めて、強く突き上げる。グチュ、グチュ、グチュ、と愛しい音がするのに、子猫の口から可愛い喘ぎ声が聞こえてこない。代わりに、悲しげにすすり泣く声が、傷つけ過ぎた報いのように聞こえてくる。
「わかってくれ。・・・お前を失えんのはわしなんや。・・・わしを捨てんでくれ。・・・どこにも行かんでくれ。・・・子猫・・・わしの子猫・・・」
昭彦の目から涙がこぼれた。こぼれ出すと止まらなくなった。嗚咽はなく、ただ、ただ、涙が止まらなかった。昭彦は涙を流し続けながら、いつ果てるともわからずに子猫を抱き続けた。



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