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| <6> [新しい暮らし] |
<6>新しい暮らし 昼近くまで惰眠を貪っていた子猫を昭彦が背中に唇を滑らせるようにキスを繰り返して起こした。子猫がくすぐったがってクスクス笑ってると、 「もう起きんと今日中に向こう行かれへんで。」 と優しく言った。 「あ、そっか。今日から向こう?」 「そや。ここの物は必要あらへん。後で片しとくし・・今日からわしらの新しい暮らしが始まるんや。」 「うん!」 子猫は嬉しくて飛び起きた。 昭彦は先に起きてお風呂をすませていたようで、まだ湯船にはお湯が入っていた。気持ちがはやる子猫がシャワーだけでいいと言うと、 「ちゃんと温まらなあかんで。」 と言った昭彦は、肩まで浸かった子猫の顔の前にそそり立つ自分のモノを突き出した。 「ほれ、いいて言うまでこれをしゃぶっとき。」 子猫はお湯から顔と手だけ出して、昭彦の太い肉棒をくわえてチャプチャプお湯を揺らせながら愛撫した。お湯の中でも自分の股間に蜜が溢れ出すのがわかるのが不思議な感覚だった。 かなり長い間そうしていたので、子猫は顔から汗が噴き出し、男根をくわえてる口元まで流れてきて、しょっぱさと青臭い匂いを感じていた。もう限界なほどのぼせてきた子猫を、 「あかん・・気持ち良すぎてうっかりしとったわ。温まりすぎてもうたか?」 と苦笑しながら湯船から引きずり出した。フラフラとよろける子猫に、 「ちゃんと言わなあかんやろが。」 と言うので、子猫は口をとがらせ、 「口が塞がってるのに言えないぢゃん。」 と答えた。昭彦はますます苦笑して、 「そやったな。ほな、わしが体洗っちゃるで、わしにもたれて休んどきや。」 と、あぐらをかいた上に子猫を座らせた。 「あああぁぁぁ・・・・・あきぃ・・・・・」 子猫は座った途端、仰け反って声をあげた。昭彦のモノが座る時にいきなり挿入されたのだ。のぼせて半分目眩を感じてる子猫は、昭彦に背中をもたれかけて荒い呼吸を繰り返した。 昭彦はタオルに石鹸をたっぷりつけて泡立たせると、丁寧に子猫の体を擦り始めた。 「ぁぁああ・・・ぁぁん・・・」 子猫は感じてきて自分から腰を動かした。泡が重なる太股にも回ってきて滑りそうになりながら、片手を湯船につかませて動かし続けた。 「そない動いたらよう洗えんやろが?」 と言いながらも、昭彦も時々洗うのを忘れたように腰を動かして子猫を突き上げ、 「ぁぁぁ・・ええでぇ・・・ぅぅぅぅっ・・・」 と声をもらした。 泡で滑りが良くなっていたせいか、いつもよりも早い動きがスムースで、しかも滑りやすいお互いの体を密着させようとするので、淫靡な音が浴室に響くほど激しくぶつかり合った。 「あぁぁぁ・・ぁぁ・・ぁぁぁ・・ん・・・」 子猫の甘えたよがり声が押さえようとする意識に反して込み上がってくる。 「・・・んーん・・・ん・・・ぁぁあああ・・・ぁぁんん・・・」 何かを訴えたいかのように、甘く切ない声が昭彦を一層そそらせた。 狭い浴室で前かがみになった子猫に昭彦は、 「ああぁぁぅぅぅ・・・最高やでぇ・・・ううぅぅぁぁぁ・・・イクでぇぇぇぇ!」 と乱暴に腰をぶつけパンパンパンパンと音をさせて満タンの思いを迸らせた。 アパートの部屋を出る時、少し先の舗道で同じアパートのおばさんが近所の人と立ち話をしていた。何を話していたかはわからなかったが、子猫と視線が一瞬合った時汚い物でも見てしまったかのように顔をしかめてプンとそらせた。それからまたヒソヒソと何かを話出した。 子猫は大人達に良く思われないくらい平気だ、と自分に言い聞かせた。それよりもまだ火照りの残る体の疼きが何ものにも代え難く嬉しかったのだ。子猫は怠さの抜けない体を支えるように昭彦の腕につかまって歩いていた。そのまま通り過ぎてしまえばもう会うこともないのだ。と、無視して行こうとした時、昭彦が立ち止まって、子猫の手をそっとはずさせると、おばさんの間近に進み胸ぐらをつかんだ。 「ばばぁ!何ぐちゃぐちゃ余計なこと言い触らしとんじゃい!」 「わ・・私は別に・・」 「じゃかぁしぃわい!言い訳なんぞ聞く暇あるかい!」 表ではめったに大阪弁を使わず、人とも距離を置いて落ち着いた雰囲気で話をする昭彦だったが、この時の昭彦は見えない背中の獅子が吠えているように子猫には見えた。おばさんは息をつまらせたように恐怖に引きつった顔をしていた。 「自分の汚れた根性もよぉ見えとらんっちゅうに人様のことを言えるんかい!お!どないや!・・前から言おう言おう思うっとったんじゃ!金輪際無責任な噂垂れ流しよるとただじゃすまさんでぇ!よぉ覚えときや!」 昭彦が手を離すとおばさんは腰が抜けたようで地面にへたりこんでしまった。一緒に話をしていた相手はすでに逃げ出していた。 昭彦は子猫のとこに戻ると、おでこにキスをして、 「ほな、行こか。」 と笑った。 新しく移ることになったマンションはこれまでのアパートからはバスを乗り換えなければ行けなかったが、タクシーで行こうと言う昭彦に、場所を覚えたいからバスで行きたいと子猫が言ったのだ。 バスで行ってみて、子猫はそのマンションがむしろアパートよりも高校に近いことに気が付いた。子猫の家からは少し遠くなったが、学校帰りに寄ることの多い子猫にはこの方が嬉しかった。そのことを昭彦に言うと、 「そうやろ?」 とすでに承知していたようで得意げに頷いた。すべて子猫の為と言う昭彦の言葉がじんわりと胸に広がっていき、子猫は幸せいっぱいの気持ちだった。 マンションの部屋に入るとすでに暖かくなっていた。家具も電化製品もきっちり収まり、冷蔵庫には飲み物・果物・簡単な食材の他に子猫の好きなアイスもすでに入っていた。 ここに来る途中で食事はすませていたので、昭彦はコーヒーメーカーでコーヒーを入れてくれた。パンフレットで選んだ白いソファーはゆったりとした座り心地でしっとりとした柔らかい感触の皮だった。 「・・ぁぅ・・コーヒーこぼさないようにしなきゃ。・・・白選んでまずかったかなぁ・・・」 子猫が沈む体とコーヒーとのバランスに気を使いながら言うと、 「汚れたら買い換えたらええがな。気にせんでええねや。」 と苦笑した。 「何かいきなり高級なんだもん。緊張しちゃう・・・」 「すぐ慣れるコツあるけど・・」 昭彦の目がいつもの悪戯っぽい光をたたえている。 「・・・なに・・?」 「とりあえずそこら中でやりまくるんや。ここも・・そこも・・あそこも・・子猫のおまんこ汁でマーキングすればええのんや。クックック。」 「・・ぅぅ・・・やぁ・・・」 「何が嫌やねん?わしはそうするつもりでおるでぇ。想像するとわくわくするやろ?」 「せっかく大きなベッド買ったのにぃ・・・」 「そやなぁ、大きいベッドも楽しみやなぁ。まぁ、ちょっと足らんもんがあるが間に合わんかったから先の楽しみでしゃぁないわな。」 「足らない物?・・そだっけ?」 子猫はコーヒーをテーブルに置くと寝室へ行ってみた。ドアを開けると超キングサイズのWベッドがドォーンと目に入る。白い枠組みに白地に薔薇がちりばめられた柄の羽毛布団がドキドキする可愛さと色気を感じさせていた。 子猫は嬉しくなってダイブするようにベッドにうつ伏せに飛び乗った。バウンドは少なく固めのマットが気持ち良かった。超特大のフワフワの羽毛布団の上を転がってみる。いくらでも転がれるのが楽しくてしばらくそうして遊んでいた子猫は、クスクス笑って眺めてる昭彦に気が付いて、布団をちょっと胸元に抱え込んで小首を傾げてみせた。 「もう誘っとるんかい。お前も好っきやなぁ。」 と子猫の横に並んだ昭彦がキスをする。 「違うもぉーん。」 子猫は甘えてキスに応えながらも、拗ねて軽く睨んだ。 「あ・・ねぇ・・足らない物ってなぁに?ちゃんとみんな揃ってるようだけどぉ?」 「それは後のお楽しみや。」 「秘密なの?」 「そうや。」 「ひどぉーい。隠し事しない約束なのにぃ。」 子猫はからかうように笑っていた。昭彦も承知しているようで、 「プレゼントは隠すもんやで。」 と含み笑いをしながら、子猫のセーターに手を入れて乳房を揉み始めた。 「・・ぁ・・ん・・・もぉ?」 「ベッドの上で他にすることあるかい。」 「日向ぼっこぉ。」 真っ白いレースのカーテンを透けて午後の日差しがベッドを一層白く輝かせていた。 「わしはこっちゃがええで。」 昭彦は下着ごとセーターを首まで押し上げて子猫の胸を剥き出しにした。弾力のある乳房が丸くなだらかな丘陵を作り、日差しに照らされて真珠のような光沢を放っていた。自分でもそんな時、脇から乳首までの丸いラインが好きだなと思ってしまう。子猫は乳首を吸う昭彦の髪を梳くように撫でながら、日差しに目を細めて男に愛される体の充実感に浸っていた。 母親に嫌悪されてもかまわない。常識顔の大人達が眉をひそめて陰口を言おうとかまわない。馴染めないクラスメートが子猫の素行を噂しようとかまわない。男に愛される以上の幸せがどこにあるのか、とぼんやり考えている間に、子猫はすっかり服を脱がされていた。 「これからはもっと簡単な服がええな。いや、むしろ何も着ん方がええかな?」 昭彦も全裸になると服をベッドの外に放り投げた。 「24時間春夏秋冬自動調整されとるんや。裸でも暮らせるやろ?」 「えぇぇ・・・何か不安だもん・・・やだぁ・・・」 「何がや?ここなら誰も勝手に入ってこられんし安全やろが。」 「だってぇ・・・掃除とか料理とかぁ・・・」 「お前に家事をさせるつもりはないで。」 「・・あぁ、バカにしてるぅ。家事くらい出来るもぉーん!」 「アホ!ちゃうがな。お前が何でも出来るんはよぉわかっとるわい。」 「ぢゃぁ何でなのぉ?・・・ぁああぁぁ・・・ん・・・」 昭彦が子猫の足を広げて中にゆっくり入ってきた。子猫は干上がったカエルのような格好を光りの中に晒していることに羞恥心を感じながらも、羞恥心をかなぐり捨てることで自分を淫獣と認めることに快感を覚えていた。昭彦の彫り物がよりくっきりと鮮やかに蠢いている。恐ろしいと思っていたのが嘘のように今は昭彦の彫り物を愛していた。 「ぁぁぁぁああああぁぁぁん・・・ぁぁぁぁぁぁあん・・・」 いつも以上に甘えた声をあげて淫獣となった自分を解放する。 「ええでぇ。いくらでも好きに鳴きやぁ。・・ぁぁあ・・めっちゃ可愛いでぇ。ここならその可愛い声の全てがわしだけのもんや。・・・ぁぁ・・いい締まり具合やでぇ。」 昭彦は子猫をじっくり鑑賞するように腰を動かしている。 「ああぁぁん・・・あぁぁあん・・・昭彦ぉ・・・」 「ぅぅううぅっ・・お前が可愛くてたまらん。・・何で家事なんかさせられるっちゅうんや。・・あぁぁぅぅ・・そないなもんより大事なことがあるやろ。・・ほれ!」 「あん!」 「ほれ!」 「あぁぁん!」 強く突き上げられる度に頭がじんじん痺れてくる。昭彦は枕と一緒にあった円筒形の固いクッションを手を伸ばしてつかむと子猫の腰の下にあてた。それが何の為にそこにあったのか子猫はやっと意味がわかった。両足を両腕で抱え上げた昭彦はリズムを刻むように腰を動かし始めた。 「あぁぁん・・あぁ・・あぁ・・あぁぁぁあん・・・」 「お前はわしの女や。・・ぅぅううぅぅ・・そうやぁ・・あぁぁ・・そうやってわしのモンだけ考えとったらええねん。・・はぁぁ・・たまらんでぇ・・ぅぅ・・気の利く女は一緒に暮らすには便利やけどな・・うぅぅ・・そやけどそれまでや。・・あぁぁぅぅ・・こない男を夢中にさす女が最高なんやで。」 「あん・・あん・・んん・・・でもぉ・・・あぁぁぁぁ・・・」 「ましてお前はB型やろ?・・くぅぅ・・・なんちゅう締まりの良さや。・・腰がとろけそうやで・・ぁぁぁ・・でな・・はぁぁ・・初めは頑張ってやりすぎるほどやるやろけど・・はぁはぁ・・そのうち飽きて面倒になる。・・ぁぁ・・怒ると余計締まりよる。・・ちぎれそうやで。・・まぁ怒らんと聞けや。・・ぅぅぅ・・なぁ・・一度それだけのことを当然のようにやってまうと・・はぁ・・手を抜くにも抜けなくなる。」 「あぁぁん・・抜かないもぉん・・・」 「こっちは抜かさんように吸い付いとったらええ。・・クックッ・・あぁ・・ええ気持ちや。・・とにかくお前はわしのんくわえることだけ思っとたらええねん。・・ぅぅぅ・・溶鉱炉で溶かされるようやわ。・・余計な負担で悩ましとうないんや。ええな?」 「・・ぁぅぅ・・・ぁぁああぁん・・ぅぅ・・・」 昭彦はこれまでも子猫をこんなに甘やかしていいのかと思ってしまうほど大事にしていた。それは体の関係が出来る前からそうだったのだが、関係を持って以来過保護に拍車がかかってしまったようで、逆にそのことが子猫を不安にさせる時もあるくらいだった。 「ぁぁああん・・・ああぁぁぁん・・・」 「よぉおまんこ汁が溢れてくるでぇ。・・もう布団がべとべとやがな。・・ックックック・・あぁぁ・・すぐにそこら中にマーキングが出来そうやで。クックッ・・うううぅぅ・・・」 昭彦のピストン運動はいつも以上に執拗で長かった。 「今が永遠にも感じる。・・はぁぁぁぁぁ・・このまま・・お前と繋がったまま人生終わったらええなぁ。・・あああぁぁ・・」 「・・・あきぃ・・・あん・・・ぁぁん・・・いくぅ・・ぁぁぁん・・・いくぅぅ・・・」 「わしより先に死んだらあかんで?・・っくぅぅっ・・そや、そうやってわしにしっかりしがみついとるこっちゃ。・・ぁぁああっ・・わしが死ぬ時にはお前も一緒に連れてっちゃる。・・ぅぅぅっ・・死んでもお前を放さへん!・・くぅぅぅぅ・・ぁぁあああぁぁぁぁぁぁ!!」 「あっあっあああっああああああああああっっっ・・・」 子猫は光の洪水の中で目眩を感じて自分がどうなってるのかわからなかったが、一度ゆっくり体を離れた昭彦が子猫を抱きかかえるようにして布団の中に寝かせてくれてるのを霞む意識で感じていた。 「お前はわしの命や。」 子猫を腕枕で抱えた昭彦がつぶやくように言った。子猫は昭彦の上下する胸に手を乗せて息を合わせるようにしていたがだんだん眠くなっていった。昨夜から繰り返される愛欲の嵐に、子猫の体は自分のものでないように感じるほど激しい快感の渦の中で悶え疼き痺れていた。女になる、と言うことがこうゆうものなのかと、昭彦の女としての自覚を感じながら、子猫は深い眠りに落ちていった。 |
| <7> [終わりと始まり] |
<7>終わりと始まり マンションで週末を過ごした日曜日、昭彦が仕事に出掛ける支度を始めたのに合わせて、子猫も家に帰る用意をしていた。例え夜更けであってもその日のうちに帰るなら、塾帰りが遅くなったと周りは思うらしく、制服姿でも差し支えはなかったが、休みの日には制服では帰れない。通学バッグと制服を大きめのスポーツバッグに詰め込んで重さを確かめる。もう家で教科書を開くことなどほとんどなかった子猫だったが、県立の進学校では学校に教科書を置いておくことを禁止していた。 先に支度を終えた昭彦はバッグを肩にかけてため息をつく子猫を腕組みして眺めていた。 「お待たせぇ。」 子猫はいったんバッグをソファーの端に置いて昭彦に笑いかけた。昭彦がバス停のとこまで送ってくれると言っていたのだ。 「まぁ、こっちきて座れや。そう急ぐこともないやろ?」 「え?猫は大丈夫だけどぉ・・・」 「わしも今日は遅れてもかまへんねや。」 「そうなのぉ?」 子猫は昭彦の横に座って肩にもたれるとすりすり頬を擦りつけた。微かに麝香が薫る背広姿の昭彦も子猫は大好きだった。昭彦は柑橘系の香りを好まず、わざわざ中国からお気に入りの香を取り寄せているようで、お酒も煙草も嗜まない昭彦の唯一のこだわりのようだった。 子猫は私服を上下が分かれているものを着るようになっていた。車の免許がない昭彦とは外出する機会も少なく、部屋ですごす時間が多いので、すぐに手を胸に入れたがるのだ。 「もうすぐ春休みやな。」 甘いキスの後、昭彦は子猫の胸を触りながら言った。 「・・ん・・・水曜日が終業式・・」 「どやろ?春休み中に必要なもん、こっちに移して、こっから学校へ行ったらええがな。生活に必要なもんならこっちで揃えたらええし、まぁ学校で必要な最低限のもんだけ持ってくればええねん。」 「・・あ・・・それって・・・」 「まぁ世間では同棲っちゅうわな。けど、夜更けに家帰ったかて寝るだけやろ?ここの方が学校に近いねんから、こっから学校行った方がええやんか。」 昭彦は子猫の肩を抱いて額や髪やこめかみにキスをしながら、一方の手は休みなく胸を愛撫している。子猫は思考がぼやけてくるのを何とか考える方向にむける努力をしていた。 「ここだけでって・・・やっぱ家への連絡とか色々親に渡すのがあるから・・・無理っぽいな・・・」 「そやったらそーゆー時だけ帰ったらええやん。」 「だって多い時は毎日あるし・・・」 「何やねん!そないわしと暮らすんが嫌なんか?」 「そんなこと言ってないー!」 「出来るかどうか、出来る努力もせんと初めから否定することはないやろ?」 「・・・それは・・・そうだけど・・・」 「お前を一人で遅い時間に帰すんが心配でたまらんのや。まして前より家が遠くなっとるし、今度のバス停は人通りが少ない。何かあってからでは間に合わへんがな。」 「・・・う・・ん・・・」 「そしたら春休みになったら必要なもん買い揃えよな。」 「え・・・」 「欲しい物とかメモしとくんやで。それと家の方からの荷物とかもまとめときや。」 子猫はまだ迷っていたが昭彦にはもう決定事項のようだった。ママとの確執で居心地の悪い家ではあってもパパとの思い出がある家を出てしまうことは寂しい気もする。それにそこまでのことをして、ママがどんな態度に出るか、不安だった。 「何も心配せんでええ。文句しか言わん親と毎日顔を合わせとる方が辛いやろが。」 子猫の不安そうな表情を見て昭彦は軽く笑って言った。 終業式が終わって子猫は高校1年生としての長い一年間をどうにか乗り切ることが出来た。今の自分を一年前の自分には到底想像もつかなかった。100%ではないが、別の男性との将来を信じていたのだ。自分から言い出した別れだった以上、思い出して泣く資格はなかったかも知れないが、愛していた気持ちに嘘はなかっただけに、今でも当時を振り返ると胸が痛くなった。 ふと過ぎる思いに不確かな未来の儚さを感じて子猫は虚ろにうなだれて校門を出た。春の陽光が舗道に反射している。ふと、校舎を囲む塀と舗道の繋がる角隅に小さな花が風に揺れているのを見つけて立ち止まった。こんなとこでしか咲くことの出来ない花が哀れに思えた。豊かな大地に太い根を張り、種を結んで次の世代を確信して枯れていける花もあるのに。 ため息をついて目を閉じると軽い目眩を感じた。とその時、 「何してるんだ?」 と言う声と同時に肩をつかまれた。思わずビクッとして振り返ると、スーツを着込んだ昭彦が少しムッとした表情で立っていた。 「あ・・・え?・・・どうしたの?」 子猫と昭彦の横を同じ高校の生徒が通り過ぎて行く。 「まぁ、いい。話は後にしよう。」 昭彦はそう言うと、手をちょっとあげて合図した。子猫が訝しそうな顔をしてる間に車がスーっと近づき二人のそばで止まった。昭彦は後部座席に子猫を乗せると自分も隣りに乗り込んだ。 「え?・・・何、これ?」 「何が何や。呼んどるのにちぃーとも返事せんと、どないしたんじゃ?」 「・・・別に・・花が咲いてるのを見てただけだもん。」 「何やねん。花かい。花見したいならもっとええとこ連れとったるで。・・あんまり悄気とるで余程成績悪ぅて落ち込んどるんやないかて思うたがな。」 運転席で笑い声が漏れた。子猫はチラッと運転してる人を見てから昭彦の方を向いて、 「昭彦こそどうしたの?」 と聞いた。 「昨日荷物はまとめてあるっちゅうてたし、友達が車出してええっちゅうから、調度引っ越しするのにええて思うたんや。お前が来るのを待っとるより迎えに来た方が早いし、直接家の方に行けるやろ?」 「あ・・そうだったの。・・どうもすみません。お世話になります。」 と子猫は運転席に向かってお辞儀をした。 「あはは、いやいや、かまわないっすよ。」 後ろを向かず手をあげて挨拶を返した彼は、愛想のいい笑い声で言いながらも、必要以上には会話に参加しない態度のようだった。昭彦とは歳も違うし言葉も違うが昭彦が大阪弁で話しをしているからにはうち解けた相手だろうと思われ、どんな友達だろう、と不思議に感じながらも子猫は昭彦との話を進めた。 「でも、今日マンションに移るとは言ってないぢゃん。」 「もう、決めたことやがな。早い方がええ。・・・それに今部屋に工事の人間が入っとるんや。夕方までには終わらすちゅうてたし、荷物積んだらドライブして食事しよやないかい。」 「え・・工事?・・・何処を?」 「それは夜のお楽しみやわ。クックック。」 昭彦が笑うと運転席の彼もまた笑いを漏らした。言い出したら聞かないとこのある昭彦に子猫は諦めて従うしかないと、小さくため息をつき、深いシートに背中をもたれかけて、窓の外を眺め始めた。やけに暗い車内に子猫はスモークガラスになっていることに初めて気付いた。ゆったりした革張りの車内、運転する彼は仕立てのいいスーツから派手なワイシャツが見えている。そう言えば手をあげた時に金色に輝く高価そうな時計をしていたような。嫌な予感がして子猫は昭彦の顔をマジマジと見つめた。 「ん?どないした?」 「・・・だって・・・人前では大阪弁使いたくないって言ってたのに・・・」 「あぁ・・そやったな。」 「・・・友達って・・・どんな?」 「・・たまに仕事で一緒になることもあるが・・麻雀仲間ちゅうた方がええかな。」 「えぇ・・・昭彦って麻雀したっけぇ?」 「お前がいる時にしてもしゃぁないやろ。それにたまにや。」 「ふぅ〜ん・・・知らなかったぁ。」 「麻雀はほとんど負けたことないでおもろないわ。」 「えー・・負ける方がつまんないと思うけどぉ・・・」 「勝ちっ放しやといらん恨みを買いよるで適当に負けたるのがメンドイねん。」 「・・・そんなもんなんだぁ。」 「ああ、そや。こいつには300万貸しがあるで、欲しいもんあったら買うて貰たらええで。」 昭彦がからかうような口調で言うと、運転席の彼は、 「ぅわちゃ。勘弁して下さいよ、ドクター。今日のお抱え運転手でチャラってことにしといて貰えないっすか?」 と苦笑しながら答えた。子猫はドキッとした。賭け麻雀の貸し借りのことはどうでも良かったが、彼が言った”ドクター”と言う言葉に、子猫は血の気が引いていくようだった。昭彦をドクターと呼ぶのは組関係者以外考えられなかったからだ。 「正次のドアホ!言葉には気ぃつけいちゅうたがや!・・・こない抜けとる顔しちょるが勘のええ子やで、バレてもうたやないかい!」 「す・・すんませんっす!」 正次と呼ばれた彼は慌ててペコペコ頭を下げた。昭彦はため息を吐くと子猫の肩に腕を回して、青ざめた子猫の額に優しくキスをした。 「この前の姉に頼まれた妹のこともあるで、ちょこっと挨拶に行っただけのこっちゃがな。心配することあらへんで。組に戻った訳やない。わしは今でも堅気の仕事しとるんや。・・正次は連絡係でよく仕事場に顔出しよるで、ちょいと暇な時に遊んだだけや。」 子猫は返事をする代わりに眉をひそめて昭彦を睨んだ。 「何やねん?」 「・・・抜けてる顔って言ったぁ・・・」 子猫が頬を膨らませたので昭彦は吹き出すように苦笑した。 「クックック・・ええがな。・・何考えとるんかわからん猫みたいなとこも好きなんやで。ボォーっと何も考えてへんようで、何やわしには見えんもんまで見とるようなとこが神秘的なんや。・・生き馬の目を抜こうて小狡く計算しちょる人間ばかりに囲まれとるとな、お前とただぼんやり出来る時間がいっちゃん安らぐんや。」 昭彦は子猫の頬を軽く摘んで空気を出すとそのままキスをした。昭彦が人前でキスをするのも初めてのことだった。以前は腕を組んで歩くのも敬遠していたが、最近やっと普通に手を繋いでくれるようになっていた。唇を名残惜しそうにちょっと噛んだ昭彦は、子猫の頬を指先でなぞりながら熱い視線で子猫を見つめた。 「せやからな、子猫は何も難しいこと考えることはないんや。わしを信じとったらええねん。お前を危険に巻き込むことはせぇへん。」 「・・危険?」 「たまに日本で認可されとらん漢方薬とかを取り寄せてやることがあるくらいのことやし、たいしたことやあらへんて。なぁ?」 「あっ・・そうっす!それだけっす!」 「・・・そうなんだぁ・・・」 それでも違法じゃないかと子猫は思ったが、もうそれ以上を聞く気にはなれずに、昭彦の胸にもたれると目を閉じて顔をすりすりした。 「アホ・・あんまし人前で甘えるもんやないで。・・お前の可愛い顔見せるんが勿体のうてたまらんのや。」 と小さく囁きながらも、昭彦はいかにも可愛くてたまらないというように髪を撫でていた。 自宅に着いた子猫は手早く着替えて、脱いだばかりの制服も、まとめておいた荷物の中にしまった。子猫が支度する間、昭彦は子猫の部屋を眺めまわしてそこここで感嘆の声を漏らしていた。 「童話にでも出てきそうな部屋やがな。こない発想がどっから出てくんのやろ。」 「どーゆー意味?」 子猫は少しムッとした。この部屋は父親がわざわざ海外から取り寄せて気に入る家具を入れてくれ、他の誰にも任せずに自分で改装したり飾り付けたりしてくれた愛情の詰まった思い出深い部屋なのだ。今でも父親の香りがその深い愛と一緒に残っているようで、子猫が昭彦との同棲にすぐにいい返事を返せなかった理由でもあった。 「気ぃ悪ぅせんかてええがな。わしとは縁のなかった世界っちゅうこっちゃねん。・・この部屋におる子猫はまるでお姫様のようやで。」 昭彦は機嫌をとるように子猫を抱き締めてキスをした。そして、 「・・そやな・・このまま出て行くんは寂しいやろ。それよりええ思い出残してこか?」 と言うと、子猫をベッドに押し倒して、着たばかりの服を脱がせ始めた。 「ちょ・・・ちょっとあきぃ!」 「お姫様をさらう時はこうするもんや。」 「ぅ・・そぉ・・・って・・やだぁ!やめてよぉ!」 昭彦は簡単に前だけ開けて固く勃起しているモノをいきなり子猫に挿入してきた。ズブズブズブと音がしそうな摩擦を感じながら奥まで強引に押し込まれた時、子猫は串刺しにされたカエルの絵が何故か頭に浮かんだ。 「ぁぁぁああぁぁぁ・・・ぅぅぅーん・・・」 子猫は抗議するように呻いた。門の前に停めた車では、正次が今か今かとじれながら、二人が荷物を持って出てくるのを待っているはずである。が、昭彦はかまわずに腰を少し動かしながら、子猫の服を全部脱がせると自分も服を脱いでいった。 ベビーピンクやスノーホワイトのレースやリボンをふんだんに使って飾られた部屋に、天蓋付きベッドの四隅には薄く透けるレースのカーテンがゆったりと括られている中で、布団に沈む子猫にのし掛かって動いている昭彦は、その背中に背負っている荒獅子のようにどう猛な獣そのものだった。それでも子猫は、スーツに彫り物を隠すように、重厚で穏やかな表情に隠された昭彦の激しい気性に惹かれていた。 突き上げられる度に快感が押し寄せてきて、子猫は昭彦にしがみついてよがり声をあげた。 「何ちゅうはしたない姫様や。クックッ・・せやけどそんな素直なとこがめっちゃ可愛いでぇ。」 そう言ってキスをする昭彦はベッドの天蓋が揺れるほど激しく子猫を責め立てた。 荷物を持って玄関から出てきた二人を見て、正次は車から降りて迎えに走り、荷物を受け取った。一時間以上も待たされたことへの疑問もないようで、黙ってトランクに荷物をしまうと後ろに乗った二人を確認して車を発進させた。 子猫は遠ざかる家を振り返って見たい衝動にかられたが、昭彦によりかかってじっと我慢していた。昭彦は子猫の髪を撫でながら時々頬ずりをしていたが、 「聞こえたんか?」 と、唐突に言った。 「あ・・いや、聞こえてないっす。窓閉めてラジオ聞いてましたし・・」 「正次・・ちょっとは勉強せいや。そこまで言うたら聞こえたて言うちょるもんやで。」 「えっ・・・あっ・・・いや、聞いてないっす!」 「まぁええ。・・そないなことやから、すーぐ手ぇ読まれてまうんやで。」 「すんません・・」 「・・マサからの借りはなんぼや?」 「あ・・・150くらいっす。」 「しゃぁない。わしのマサからの勝ち分で相殺したるわ。」 「え!・・マジっすか?あっ・・いや、ありがたいっす!」 「その代わりぃ・・子猫のことは組の者には言い触らすんやないで。」 「それはもう!承知してますから!」 「ほならええ。・・さてぇ子猫がお腹空かしてミャウミャウ泣き出す前にどこか美味い店に行かんとな。」 昭彦はそう言って笑うと眠そうにしている子猫にキスをした。 |
| <8> [マサ] |
<8>マサ 子猫が映画を観たいと言ったので、昭彦と正次はスーツが場違いに見えるほど、子供で賑わうアニメ映画を付き合って観るはめになった。でも、実は昭彦自体アニメは好きな方で、ファンの監督作品を集めて持っていたりするとこがあった。ただ、人前で思わず涙ぐむような姿を晒したくないと、映画はビデオで観る方がいいと言って、なかなか連れていってくれなかった。それでも今日はどうしても夕方まではマンションに戻れないと言うので、子猫の希望が勝ったのだった。さすがに正次には、アニメは合わなかったようで、途中いびきをかいて二度ほど昭彦にひじ鉄を貰っていた。 映画の後、そのまま町で夕食をすませて、マンションに着いた時にはすっかり夜になっていた。正次は子猫の荷物を両手に抱えて二人の後ろに従っていた。 「そう言えば・・工事の人って勝手に帰ったの?」 工事をしているから夕方まで帰れないと聞いていたが、そんな時に留守にしていいのかと、今更ながら疑問に思った子猫はエレベーターの中で聞いてみた。 「わしの懇意にしとる奴がおるんや。そいつに留守を頼んである。」 「それがマサの旦那っす。」 正次が子猫の後ろから補足して言った。 「あぁ・・そっか。そうだよねぇ。留守中に勝手に工事するのも変だもんね。」 子猫は納得して笑った。 「ぢゃぁ、きっと遅いーって泣いてるかもぉ。お腹空かせてるんぢゃない?」 「そうやな。」 昭彦も笑って、映画ですっかり機嫌のいい子猫を満足そうに見ていた。 部屋の玄関を開けて中に入ると、音を聞きつけてすぐにマサが迎えに出てきた。 「お帰りなさい。もうすっかり出来とりますで。」 「そうか。留守番ご苦労さんやったな。」 「いつも暇しちょりやすで、なんぼでも使うとくれやっさ。」 丁寧な大阪弁を話すマサを子猫は昭彦の後ろに隠れるようにして見ていた。子猫はマサの姿を見るなり昭彦の背中にしがみついたのだ。ちょっと見ホストっぽくも見える正次と違って、マサは見るからにやくざ者だった。チリチリのパンチパーマで、派手なスーツに派手な開襟シャツ、大きく開いた胸元には太い金の鎖が光っている。が、それだけでなく、この顔で笑ったらむしろ不気味だろうと思ってしまうような風貌だった。普通の人なら半径20mは絶対に近付かないと思えるほどの凄味があったのだ。マサと並ぶと昭彦が善良な紳士に見えてくるほどだ。 「何や?そない恐ろしいもんでも見たんか?」 と後ろの子猫を肩越しに見ながら笑った昭彦は、 「これがわしの子猫や。まぁ、そう会うこともないやろが、一応紹介するわ。わしはもう杯を返した身やし、堅気の常識で付き合うとるんや。そこんとこは了解しとってな。」 とマサに言った。 「へえ。承知しやした。・・子猫はん、以後よろしゅうお見知り置きを。」 マサが子猫を覗き込むように体を向けてそう言ったので、子猫はますます昭彦にしがみつき、 「・・ぁ・・はぃ・・・よろしくですぅ・・・」 と、顔を半分以上隠したまま、やっと聞こえる小さな声で返事を返した。 「でぇ、マサ。自分、わしらが遅いーて泣いとったんか?」 「はぁ?何でっしゃろ?」 「子猫が心配しとったで。」 「ヘッヘ。そないな気遣い、わてには必要あらしまへんがな。」 昭彦のからかうような口振りにマサが遠慮がちに笑った。不気味だった。マサに比べたらゴリラさえ愛くるしく思えるほどだ。こめかみに走る傷痕がパンチパーマに自然な剃り込みを作っている。どこを見ているかわからないような細い目の奥が時々鋭く光るように感じて、子猫はなるべく視線を合わせないようにしていた。 「ドクター、荷物はどこ置いたらいいっすか?」 正次が荷物を重そうに両手にさげたまま待っていた。 「おう、そやったな。取り敢えず寝室のクローゼットに入れとくか?」 「あ、うん。ぢゃぁ持ってくね。」 子猫が荷物を受け取ろうとすると、 「お前はみんなにコーヒーいれといてくれや。わしが運んどくで。」 と、昭彦は子猫をキッチンに行くようにうながした。昭彦が正次から荷物を受け取ろうとすると、 「いいっすよ。俺が運びますから。」 と正次がにやけて言った。 「わしが運ぶで、自分はここまででええて。」 「そんなぁ殺生っすよぉ。いいじゃないっすか。運ばしてください。」 「しゃぁーないなぁ。今回限りやで。」 「えへへ、わかってますって。」 昭彦と正次は不思議な会話を残して寝室に入って行った。子猫はマサと二人だけの状況に肩を強ばらせながら、キッチンに向かった。 荷物を置くだけのはずなのに、昭彦と正次はコーヒーが入る頃になってやっと寝室から出てきた。子猫はキッチンとリビングの間を仕切るカウンターでカップにコーヒーを注ぎながら上目遣いに昭彦を睨んだ。 「どないした?」 昭彦が子猫の隣りに並んで肩に手をおいて言った。子猫は無言のままチラッとマサに目をやった。マサは子猫がコーヒーを入れる間ソファーに座って一言も口をきかずTVを見ていた。そこに、寝室から出てきた正次が少し顔を赤くして、ますますにやけた笑いを浮かべながら、マサの隣りに座った。子猫はムッとした顔になって、また昭彦を睨みあげた。 「何やねん?」 「・・・だってさ・・・」 子猫はコーヒーを注ぎ終えると、クルッと背中を向けて新しいコーヒーの用意を始めた。 「正次、これをそっち運べや。」 昭彦は正次にそう声をかけておいて、子猫の肩を抱くようにして囁いた。 「何を機嫌悪ぅなっとるんや?」 子猫は頬を膨らませたままコーヒーメーカーをセットしていた。正次は適当にコーヒーカップをガラスのテーブルに並べると自分の分を熱そうにすすりながらTVに目をやっていた。 「何も言わんとわからんやろ?」 昭彦は子猫の顔を覗き込んで今にもキスをしそうに唇を近付けた。が、子猫はプイッと顔をそむけた。 「ええ加減にせぇや。言いたいことがあるなら言うてみぃ。」 「だって・・・寝室で正次さんと何してたの?」 「あ?」 「荷物置くのにそんなに時間かかるわけないぢゃん。」 「・・・それはなぁ・・・後で説明したるわ。」 「Hなことしてた言い訳なんて聞かないから。」 「な・・・」 昭彦が言葉を言う前に正次が吹き出しそうになったコーヒーを無理矢理飲み込んで激しく咳き込んだ。マサが肩を震わせてヒーヒーと顔を覆うようにして笑っている。 「何でわしが男なんぞを相手にせなならんのや!アホなこと考えんやないで。」 「・・・だって・・・」 「工事したて言うたやろ?それがどないなったか見とったんや。」 「あ・・・」 子猫はマサの出現に圧倒されてすっかりそのことを忘れていたのだ。 「納得したか?」 昭彦は子猫を抱き寄せて軽くキスをした。 「正次も出掛ける前の状況しか知らんもんやから、どないなったか見たいっちゅうてついてきたんや。」 「だったらぁ猫にも見せてくれたらいいのにぃ。」 「お前には後でゆっくり見さしたるでええがな。」 「何でぇ?猫も見たいー!」 「後でええやろ?」 「今見たいのぉ!」 昭彦はため息をついて、子猫を抱いていた手を離すと肩をすくめた。 「ほな、好きにしぃや。」 「好きにするもん。」 子猫はつんと澄ました顔をして寝室へ向かった。 寝室に入った途端、子猫は唖然とした。昨日までクローゼットだったはずの壁一面が鏡で覆われていたのだ。でも、荷物をクローゼットに入れたはずだし消えていることはないだろうとよく調べてみると、扉部分には手の入るスペースがあって、そこを開けば前通りのゆったりした内部があった。北側の壁全体がクローゼットになっている広い収納スペースが気に入っていた子猫だったが、まさかそこ全体を鏡で覆ってしまうとは想像もつかなかった。多少扉の開け閉めが不便になりそうだと思いながら鏡を見ていて、子猫は鏡にベッド全体が映っていることに気が付いた。 (え?!) 一度振り返って超キングサイズのベッドを見てから、また鏡に映るベッドを見た子猫はこれが何を意味しているのか、ようやく理解した。 (これって・・・Hしてるのを見れちゃうってことぢゃん・・・) 子猫は大胆な格好で乱れる自分を知っていたが、それを客観的に見ることはなかったので、繋がって感じる感覚だけに酔うことが出来た。昭彦に見られることは今更だったが、それでも羞恥心が込み上げてきて目眩をおこしそうだった。 子猫は疲れを感じてベッドに座り込み、そのまま後ろに倒れた。ため息をつきながらぼんやり天井を見ていた子猫は、そこに自分の赤くなった顔を見つけ、潤んだ目と見つめ合ってしまった。ガバッと起きあがった子猫はまじまじと天井を眺めた。天井一面も鏡で覆われていたのだ。寝室の照明がいつもと違う感じがすることにもっと早く気が付くべきだった。鏡を囲んで四隅とその間に照明が取り付けられている。と言うことは、ベッドに横たわった状態の全てがそこにも映し出されてしまうということだった。 (どうしよぉ・・・) 子猫は顔から火を吹きそうなほど赤面していた。全身が汗ばんでくる。家を出る置き手紙を置いてきてしまった。もう後戻りは出来ない。これから一体どうなるのかと、子猫は不安を覚えながらも、もう進むしかないと覚悟するしかなかった。 子猫が寝室からおずおずと出ていくと、昭彦はソファーから子猫を手招きした。子猫は顔を真っ赤にして黙って昭彦の隣りに座った。 「せやから後で見したるて言うたんやで。」 昭彦は子猫の肩を抱き寄せて髪にキスをしながら、囁くように言い、 「何や?熱出しとるんかい。クックック。ほんまにまだガキやなぁ。」 と、昭彦の胸に顔を隠すようにもたれた子猫に頬ずりをしながら苦笑した。 「けっこうよう出来とるやろ?ほんとはここに移る前に改装しときたかったんやけどな、なかなか大きい鏡が手に入らんかったんや。それを寸法合わして加工せなならんしで今になってもうた。・・・今夜が楽しみやろ?」 耳元に昭彦の低い笑い声を聞いて子猫は一層体から汗が噴き出してくるようだった。顔をひたすら胸に押しつけて隠しているが、耳が真っ赤になっているのは隠しようがなかった。 「可愛い〜お耳が見えてるよぉ〜♪」 昭彦が童謡の”可愛い隠れん坊”という曲に合わせて小さく口ずさみながら、子猫の赤くなった耳を指先でなぞった。 空気が一瞬静止したようだった。正次とマサがカップを持った状態で止まった。子猫が顔をあげて昭彦を見ると昭彦はただひたすらに子猫を見つめていた。 「・・・もっと・・歌って・・・」 子猫の声は小さな子供がおねだりする鼻にかかった甘え声だった。 「なんぼでも歌うてやるで。子守歌かて歌うてやるで。・・ふたりきりの時にな。」 「・・・うん。」 どんな不安があるというのだ、これほど愛されているのに、と子猫は思った。昭彦を信じてついていけばいいだけ。昭彦の子猫を見つめる目に映る子猫自身を見てさえいればどんなことがあろうと怖いことなどない、と思えてくる。 「昭彦ぉ・・・愛してるぅ・・・」 「ああ、わしもや。・・わしもその何倍も子猫を愛してるで。」 見つめ合うふたりの時間だけが過ぎようとしていた時、マサが咳払いをした。 「そしたら、そろそろ帰らして貰いやす。」 「あ・・そ・・そうっすね。」 マサが立ちかけたのを見て正次も赤い顔をして立ち上がった。 「ああ、二人とも今日は世話になったな。」 昭彦は自嘲気味に苦笑いを浮かべながら二人に軽く手をあげた。 「へっへっ、わてこそええもん見さして貰うたわ、ドクター。今度カラオケ行きまひょ。そんで今の、も一度聞かして貰いたいもんですわ。へっへっへっ。」 「アホぬかせ。これは子猫スペシャルっちゅうもんやで。」 「へへ、さいでっしゃろなぁ。長い付き合いでぇ初めて聞きやしたさかい。」 「うっかり口をついて出てもうたんや。それ以上からかうんやないで。わしもよぉ覚えとったと自分に呆れとるわ。」 「ほな・・今のはこの胸に閉まっときまひょ。」 「ああ、そうしてくれや。」 マサはニヤリと笑って、子猫の方を向いた。 「子猫はん・・コーヒー御馳走さんでした。・・・おい、正次!ちゃんとご挨拶せい!」 「あ・・御馳走さんっした!」 「ほな、失礼しやす。」 マサは子猫にも丁寧にお辞儀をして部屋を出て行った。正次も頭をかきながら後に続いた。 玄関の閉まる音がして昭彦が笑って言った。 「怖い顔しとるが、ええ奴やろ?」 子猫はうぅーん、と少し考えてから、ちょっとだけ頷いた。 「マサはわしがこっちに来る時、一緒について来たんや。向こういる時、薬に溺れてたのをわしが立ち直らしたのをいつまでも忘れんと、何かとわしを助けてくれとるんや。見かけよりええやっちゃで怖がらんといてやりや。」 「・・・うん・・・」 「あの顔は生まれつきやそうやで。それで母親も恐ろしゅうなって捨てたて・・・」 「え?!」 「そない本人は思うちょる。クックック、まぁ、違う理由があったんやろが・・・わしかて母親が出て行った時は捨てられたて思うたもんや。」 「・・・そなんだぁ・・・」 「それをグレた言い訳にする気はわしも・・マサかてないけどな。・・・親に嫌われたて思う子供はどこかで自分に自信を失うもんやで、失うた自信を何かで埋めなあかん。・・それがわしは極道な生き方やったし・・マサは薬やったんやな。薬欲しさに暴れてあの怪我負って、ボロボロの死にかけた状態で道端に転がっとったのを拾うたんや。」 「・・・そうだったんだぁ。・・・わかった。・・・怖がらないように・・・頑張るね。」 「ええけどな。実際あの凄味が今は役に立っとるようやし。」 「ほぇ??」 「組のシマの守をしとるんや。マサが顔を出すだけでぐずぐず言う客もいっぺんでしおれるらしいで。」 昭彦がクスクス笑って言った。子猫はなるほどぉと納得した。 「けど・・あいつはまだやくざしとるし、子猫が仲良う付き合う相手でもないで、関わらん方がええけどな。」 「・・・うん。」 子猫は見た目で怖がっていたことを反省した。親に嫌われることがどれほどミジメで辛いかは子猫自身よくわかっていたのだ。しかもそれが生まれついてのものだったなら、自分ではどうしようもないと思ってしまう。 「・・・今度お料理作って招待しよっかな・・・」 子猫がそう昭彦に伺いを立てるように言うと、昭彦は、 「関わらん方がええて言うたばかりやないかい。」 とちょっと睨んでみせたが、 「だってぇ・・・」 と口を尖らせる子猫に苦笑して、 「しゃぁないなぁ。一度だけやで。」 と、キスをした。 |
| <9> [鏡] |
<9>鏡 寝室は南側の大きな窓に枕を向けてある。だから、北側のクローゼット部分の鏡を敢えて見ないようにすることも出来た。が、横になればどうしても天井が目に入ってしまう。しかも四隅からの照明で影が出来にくくなっている為、姿がより鮮明に映し出されている。そしてその間にある照明が柔らかな発色で淡い光彩を醸し出していた。 照明は手元の操作で色を選んだり光の強さを調整出来ることも昭彦の説明で初めて知った。説明する間も子猫はまともに上を見ることが出来なくて、横を向いたまま手元のシーツを見ていた。一通りの説明を終えた昭彦は子猫の背中にぴったりと体をつけて、腕を前に伸ばしてきた。子猫の肩越しに首筋へ唇を滑らせ、胸を軽く愛撫する。 「ここにおるのはお前とわしのふたりだけや。照れることないやろ?」 「・・・だって・・・自分のこと・・・見たくないもん。」 「何でや?こない可愛いんやから自信持ったらええがな。」 「ぁ・・・あん・・・ぁぁ・・・」 昭彦が子猫の股の間に手を入れてきた。子猫は足をずらして昭彦が手を動かしやすいようにした。湿った膣に指二本が入ってくる。親指でクリトリスを擦りながら、指が忙しく蜜壺を掻き回す。 「ぁぁぁ・・・ぁぁあん・・・」 子猫は目を閉じて広がっていく快感に甘い声でこたえた。 「感じてる顔かてこないに可愛いんやで。・・・ほれ、こっち向きや。」 「・・・ん・・・」 子猫は仕方なく目を閉じたまま昭彦の方に体を回した。昭彦のクスクス笑う息が顔にかかり、薄目を開けてみた。昭彦の目が悪戯っぽい輝きを灯して優しく子猫を見つめていた。 「ああぁぁぁ・・・ん・・ん・・・」 昭彦の指がGスポットと言われるツボをグリグリと刺激する。子猫はのけぞり気味に喘いだ。 「感じてたまらんっちゅう顔しとるで。何もかんも晒したらええねや。晒してから全てを受け入れるこっちゃ。・・・そうやって自分を認めてやらんで、何で他人を認められるっちゅうねん。」 「ぁぁあん・・・ぅ・・ん・・・」 「わしに抱かれる自分をよぉ見とるんやで。しっかり見なあかんで。ええな?」 「・・・う・・ん・・・」 子猫が頷くのを見て、昭彦は唇を重ねて舌を絡めてきた。しばらくそうしてから、 「ほな、行くで。」 と言って子猫の上に覆い被さってきた。 昭彦が子猫の中に入ってきた。急がずゆっくりと奥まで挿入して腰を少し回転させてから、昭彦は子猫の耳元で甘く囁く。 「どや?・・見れるか?」 子猫は昭彦の直の体から天井に視線を移して鏡を見た。 「・・・見える・・・」 「何が見える?」 「・・・あきの・・・獅子・・・」 「そや。それがわしや。ええか、目ぇ離すんやないで。」 「・・・うん・・・」 子猫はめいっぱい感じる体と鏡に映し出される姿との不思議な関係にまだ戸惑いながらも、これまで感じたことのなかった切なさが込み上げてきて、体の内部と両手両足とで昭彦の全てにしがみついた。 「ぅぅぅ・・・ああぁ・・・ええでぇ。わしを感じるやろ?・・・ぁぁぁ・・・お前の中にいるわしを・・・」 昭彦はゆっくり腰を動かし始めた。 「・・・んっ・・・んぁぁ・・・あぁっ・・・」 子猫はつま先まで感じる痺れるような疼きと蠢く中心の熱さに意識がとられていくように感じる一方で、波打つように上下する荒獅子を見ていた。鮮やかに赤い牡丹が肩にも臀部にも咲き乱れ、荒ぶる獅子に捧げる命のように毅然と咲き誇っている。獅子が荒ぶれば牡丹も舞い踊り、子猫の体を熱く駆け巡るようだった。 「あぁっ・・・ああぁっ・・・あぁぁぁっ・・・」 子猫は次第に激しく天駆ける獅子に振り落とされまいとしがみつき、きゅぅきゅぅきゅぅと締め付けた。 「ううぅぅっっ・・・お前のミミズは元気やなぁ。めちゃめちゃ締めよる。・・・ぅぅああぁぁっっ・・・」 「あっ・・あっ・・あぁっ・・ああぁぁぁっ・・・」 子猫は奥まで突き上げられて仰け反りよがり声をあげた。 「自分も見るんやで。ほれ、どない顔しちょるかわかるか?」 「・・あぁぁぁぁ・・・ぃ・・・やぁ・・・」 「何がいやや?・・・いやならもう抱くんはやめるか?あ?」 「いやぁぁっ・・・うぅぅ・・・」 「泣いたらあかんやろが。自分の泣き顔なぞなんぼでん見ちょるやろ?感じちょる顔を見たらんかい!」 昭彦は子猫の首筋に顔をつけるようにして抱き締め、腰を動かし続ける。 「昭彦ぉ・・・」 子猫は眉を寄せて目を悲しそうに潤ませてる自分の顔を見まいと目を閉じた。昭彦とひとつに繋がって解け合うように萌える感覚に意識を集中させた。素直に感じよう、感じるままに受け入れよう、と子猫もリズムを合わせて腰を動かし、快感を貪った。蜜底から突き上げてくるものが頭の先まで駆け上っていく。 「あぁぁ・・・あぁぁぁ・・・ぃぃぃ・・・」 子猫は目を開けて、絶頂に登り詰めていく自分を見つめた。牡丹の花びらのひとひらのように上気した頬、夢見るように陶酔した眼差し、微かに笑みを浮かべた赤い口元、男に満たされる淫獣がそこにいた。 「・・ぃぃ・・ぃくぅ・・・ぁあぁぁ・・・ぃくっ・・いくぅ・・・っぁああああああああぁぁぁっっっ!」 子猫は霞んでいく視界の中で荒獅子にまたがり、天空を目指す妖魔を見たような気がした。 「・・どやった?」 「ん・・・気持ち・・ぃぃ・・・」 子猫は心地良い気怠さに包まれながら、昭彦の足に足を絡ませて余韻に浸っている。 「アホ、気持ちええのはわかっとるわい。」 昭彦は苦笑して子猫の額を指で軽くはじいた。 「ぁんっ・・・だって・・・」 「何を聞いとるか承知しとんのやろ?・・とぼけちょると休みなしでも一度いくで?」 「いやぁ〜ん・・・嬉しいかもぉ・・・クスッ」 「おいおい・・・わしはこれでも子猫の調子を見ながら抱いとんのやで?この体はわしの物でもあるんやからな。ちゃんと管理せなあかん。」 昭彦はわざとぎゅっと力を入れて抱き締めると頬ずりをしてみせ、力を緩めてからキスをした。子猫が手を伸ばすと昭彦の一物がすでに天を仰いでいた。子猫はそっと握って固さを確かめるようににぎにぎした。 「やれやれ・・ちゃんと聞いとるんかい。」 「・・聞いてるもん・・・」 「それなら言うてみぃ?」 「・・・言いたくないかも・・・」 「何でや?・・そない恐ろしかったんか?」 昭彦の声が少し心配そうに言った。 「・・・猫が・・・」 「あ?・・何言うとんねん。お前はめっちゃ可愛かったやろが。お?」 「だって・・・自分が自分ぢゃないみたいだったんだもん。」 昭彦は苦笑しながら、よしよしと子猫の髪を撫でた。 「慣れんうちはそうかもしれんが、そのうちようなるて。視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚・・五感の全てで相手と自分を感じるんや。・・お互いの全てで完全なひとつの塊になるんや。それを感じて欲しかったんやで。わかるか?」 昭彦に目を覗き込まれて、子猫は半分わからなかったが取り敢えず頷いて答えた。 「・・・ん・・・多分・・・」 「まぁええ。これからは毎日ちょっとづつ、いろんな格好楽しんでいこな。クックック。」 「・・・うん。」 「愛している・・子猫・・・」 「・・・猫はその何倍も昭彦を愛してるもん。」 ん?と昭彦が意表をつかれたような顔をした。子猫は得意げにニコッと笑ってみせた。 「しもうた。わしのセリフ取られてもうたわ。」 と言いながら、昭彦は楽しそうにクスクスと笑っていた。 |
| <10> [もてなし] |
<10>もてなし マサを食事に招待することになった日、子猫は朝から張り切って掃除・洗濯・買い物と忙しく午前中をおくった。朝仕事から戻った昭彦はまだ熟睡していたので、子猫は軽く昼食をすませると夕食用の仕込みを始めた。下味をつける物・寝かせる物・長く煮込む物等、メモを見ながら手早くこなしていく。昨日、もてなし料理のメニューと材料と手順をメモしておいたのだ。 一通り初めの段階がクリア出来た子猫は、買い物の途中で見つけた可愛い花をあちこちに飾り始めた。切り花が嫌いだったので全て鉢植え物を買ったので、持ち帰るのに苦労したが、ひとつひとつを飾っていくと心も華やぐようで、やっぱり買って良かったと満足の笑みがこぼれた。 「ほう・・・可愛い花やな。」 起きてきた昭彦がカウンターの隅にひっそりと咲く桜草を見つけて言った。 「でしょう?ふふ。・・マサさん、喜んでくれるといいなぁ。」 「何や、マサの為かい。わしの為やないのんか?」 かまうように言って笑った昭彦は子猫の出したコーヒーを熱そうにすすった。 「だって、あきは猫が花を飾るのが嫌いなの知ってるぢゃん。」 作っておいたサンドイッチを昭彦の前に置きながら子猫は拗ねたように答えた。 「そりゃそうやけどな。そいでもマサの為ならええのんか?」 「うぅーん・・・」 子猫は爪を噛みながら虚空を睨んでしばらく考えているようだった。昭彦はフッと唇の端で笑ってサンドイッチを食べ始めた。 「あ・・・我が侭をぶつけられるのが恋人、で・・我が侭をぶつけないようにするのが友達。・・・ってゆーのはどう?」 「ほほぅ・・考えたもんやなぁ。けど、我が侭言えん友達っちゅうのはお座なりの付き合いっちゅうことにならんやろか?」 「うーん・・・」 また考え出した子猫を昭彦は面白そうに眺めている。昭彦は時々そうやって子猫を試すようにかまうことがあった。 「・・・我が侭が言えるくらいの友達って知らないからわかんないけどぉ・・・マサさんに限って言えばぁ・・・猫は無言のうちに傷つけてしまったことを出来れば言葉にしないで謝れたらいいなって思ってるしぃ・・・猫はマサさんのことを全然知らないんだからぁ相手の好きな物でもてなしたいって思ってもわかんないからぁ・・・取り敢えず可能性としてぇ・・・花を飾るのもひとつの好意ぢゃない?」 「なるほど。・・ただ問題なのは・・・」 「うん。」 「マサがまったく傷ついてない可能性も高い。」 「うん・・・でも、それは猫の気持ちの問題だし・・・」 「それから・・」 「うん。」 「どうせ謝りたいなら、はっきり口に出した方がええ。相手にこっちの気持ちを察しろと言うのは傲慢や。それこそ一方的やろ?」 「・・あ・・そっか・・・」 「後な、・・」 「うん。」 続きを待っている子猫を斜に見ながら、昭彦は最後のサンドイッチを口に入れ、コーヒーを飲み干した。それから一呼吸おいて言った。 「マサを友達にせんでええわい!やくざと友達になるもんやないで!ドアホ!」 子猫は拗ねた上目遣いで昭彦を睨んだ。昭彦は言葉とは裏腹に楽しそうな笑いを残して、シャワーを浴びる為に浴室へと向かった。 夜まで時間を潰してくると言って昭彦は出掛けて行った。子猫は夕方までかかってようやく料理を完成させた後、身支度を整えてソファーに体を沈めた。朝からの疲れでうとうとしていた時、昭彦がマサと正次も伴って帰ってきた。 「ども。俺も呼ばれさして貰いました。」 と正次はケーキの詰め合わせを子猫に手渡した。 「あ、どうもありがとぉ。いっぱい作っちゃったから助かるかもぉ。ふふ。」 昭彦が正次も連れて来たのが意外だったが、笑顔で迎え入れた。 「マサが自分だけやと話の間が持てんっちゅうて、どうしても正次も一緒にしてくれ言うたんや。・・また、誤解して妬くんやないで。クックック。」 「もうしないってばぁ・・・」 昭彦がからかって言うので子猫は赤くなって膨れた。 「へっへっ、いやいや、ホンマのこと言うたら、こうやってあてられるんはひとりじゃかなわんさかいですねん。・・どーも、今夜は呼んで貰ておおきに、子猫はん。」 不気味に笑ったマサが頭を下げながら言って、チョコレートの詰め合わせを差し出した。子猫はマサと視線が合って一瞬たじろいでしまったが、すぐに笑顔で、 「この前の時はごめんなさい。ちゃんとご挨拶も出来なくて失礼なことしちゃって・・気分を害させちゃったかと思って心配してたの。来て頂けて嬉しいです。」 と、昭彦に注意された通り、言葉に出して謝った。 「いやぁ、あはは。やっぱり女の子が暮らすと雰囲気が変わるっすね。」 ソファーに座って部屋の中を見回した正次が陽気に言った。 「まだ何日でもないぢゃん。それに掃除は昭彦さんの方が得意だしぃ・・あっ・・料理もそうかなぁ・・・でも、今日のはちゃんと猫がひとりで作った物だから・・不味くても我慢してね。」 子猫はキッチンとリビングを行ったり来たりして料理を運びながら正次と軽く言葉を交わしていた。確かに正次がいてくれる方が話がしやすくて助かると内心感じた。 「可愛い子が作れば何だって美味いもんっす。楽しみだなぁ。」 「おい、正次。今夜のメインはマサやで。忘れるんやないで。」 昭彦は正次にワインを注いでやりながら苦笑した。 「ええですて。わては招待して貰ただけで充分やし、話も得意やないさかいおとなしゅうしとりやす。・・・それより、ドクターが飲まんのに、わてらばかり頂いて申し訳ないですわ。」 「気にせんとどんどんやってや。」 「へぇ、おおきに。」 昭彦は空になったマサのグラスにまたワインを注いでやった。 「どうぞぉ、好きなのから手を出してねぇ。」 用意した料理の半分ほどでテーブルがいっぱいになってしまったので、取り敢えずカウンターに他の料理を置いた子猫が声をかけた。 「頂きます。」 正次は待ってましたとばかりに、取り皿に取るのもじれったそうに次々と料理を平らげていく。マサも少しずつ手を出して味わっているようだった。昭彦も、 「なかなかよう出来とるで。これなら合格やな。」 と笑った。 「めちゃ美味いっすよ、ドクター。子猫ちゃんの歳でこれだけ作れたらもぉ大変っすよ。」 「何がや?」 「嫁の申し込みが殺到するんじゃないかと・・あ・・・」 「アホぬかすんやないで。他の男なぞ近付かせるかい。」 ムッとした昭彦の膝に手をおいた子猫が、 「誉め言葉の定番だねぇ。ふふふ。素直に喜んでおこっと。」 と正次に言ってから、昭彦に笑いかけた。昭彦は片方の眉を微妙に上げて苦笑した。 「でも正次さんの言い方って古い〜〜。」 子猫がクスクス笑って言うので正次は照れたように頭を掻いた。 「俺、ばぁちゃん子だったから・・感覚がたまに古いらしいっす。」 「そやな。そいでナンパもよぉ出来んでおやっさんにどやされちょるんやろ。」 「まぁ、正次はそんだけの顔しちょるしナンパ自体はそない難儀なこともあらへんのですけどな、後が軟弱やっさかい結局女に逃げられちょるんで。そうかて武闘派になる度胸もあらへんし、いつまでん遣い走りやす。ヘッヘッヘ」 「ナンパがお仕事?・・・ほぇ?」 「すけこまし、っちゅうて女落として風呂屋で稼がせるんですわ。」 マサはこともなげに言って笑った。 「ここでそこまで言わなくてもいいじゃないっすか。」 正次は少しイラついたように言った。 「正次もやくざやっちゅうことを子猫はんにわかっといて貰た方がええねん。子猫はんはドクターの大事なお人なんやし、正次に好感持つと困るでな。」 子猫はキョトンとして正次とマサを交互に見ていた。 「風呂屋っちゅうんはソープのことや。石鹸やないで。女が男にサービスするとこや。」 「あ・・・そっか・・・ふぅ〜ん・・・」 子猫は昭彦の説明に、そうかぁ、と納得し、さり気なく聞き流そうとしたもののぎこちなく笑顔が凍り付いた。正次が舌打ちしてワインを一気に飲み干した。子猫が注ごうとするのを昭彦が瓶を取り上げて自分で注いでやった。 「後は自分で適当にやってや。」 昭彦は正次に瓶を渡し、 「子猫、料理でもてなすくらいやったらかまへんけどな、酒の酌と煙草の火をつける女になったらあかんで。わしはそない女は嫌いや。」 と子猫を睨んだ。 (え?!) 子猫は昭彦の顔を見たまま固まってしまった。これまで昭彦がお酒を飲むことも煙草を吸うこともなかったので、子猫が言われたようなことをする機会はなく今日まできた為、昭彦のそうした考えを聞くこともなかった。が、子猫にとってその行為は普通に今までしてきたことだった。特に前に付き合っていた男性は子猫にそうさせることを当然のように受け止めていたし、喜んでくれてもいたのだ。 「何や?」 子猫の泣きそうな顔に昭彦が怪訝な顔になった。正次もマサもおや?っと言う顔で子猫を見ていた。ここで泣いたらまた失礼になる、と子猫は何とか気持ちを変えようと思ったが、一度心にひっかかった言葉が棘が刺さったように抜けなくてチクチクと痛みを生じていた。 「・・・猫がっそない女やったら?」 昭彦の言葉のままに子猫が言った。 「ほぉ・・そやったんか。・・まぁ、ええ。これからは気ぃつけてせんようにすればええこっちゃ。」 昭彦も子猫が言った意味を理解して、流すように話を終わらせようとした。 「うん・・・ごめんなさい。」 子猫はうつむいて小さくため息をついた。 「気にすることないっすよ。ドクターのはヤキモチなんすから。」 正次がとりなすように言って子猫に笑いかけた。 「素人はんはあまり気にしないでっしゃろけど、わてらの世界ではそれはお水の女を意味しまっさかいな。やくざ者にはそない女を抱えてる者も多いんですわ。風呂屋の上級版っちゅうとこでっしゃろか。せやからドクターは子猫はんが大事やてゆう意味であかんて言うたんやろ思いますわ。ヘッヘッ。」 マサの説明を子猫はじっと顔を見つめて聞いていた。恐ろしげに映っていた風貌から優しさが滲み出てくるのを感じて、嬉しくなった子猫は、 「うん。ありがとう、マサさん。」 と言って微笑んだ。マサは視線が合うと気まずそうに反らしてワインをあおった。 「正次さんもありがと。・・みんないい人達で猫・・嬉しい。」 破顔一笑。何の陰りもない無邪気な笑顔を正次とマサだけでなく昭彦さえも眩しそうに見つめていた。 「そない信用されても困りもんやすなぁ。わてらはやくざ者やっさかいな。ヘッヘッヘッ。」 照れ隠しのようにマサが笑ったが、子猫はもうそれを不気味とは感じなくなっていた。 「でもね、昭彦さんはやくざと友達になるなって。それに猫にはやくざのことは話さないって言うの。だから、猫にはマサさんも正次さんもただの昭彦さんのお友達。猫にとっては普通に変わらないお友達。・・・てゆーか・・・猫、友達ってあまりいないし・・・友達って思わせて貰えると嬉しいんだけどぉ・・・無理かなぁ?」 子猫はマサと正次の顔を見てから、昭彦を見た。 「まぁ、ええやろ。」 昭彦は子猫の髪を撫でながら苦笑した。 正次の参加もあって、多いと思っていた料理がそれほど残ることもなく食べて貰えたことで、子猫は招待した満足感に浸れた。一流シェフが作るような御馳走は作れるはずもなかったので、普通の家庭料理的なものばかりだったが、かえってそれを正次もマサも喜んでくれているようだった。正次が、 「ばあちゃんの料理みたいで懐かしいっす。」 と言って、ばあちゃんを連呼するので、すっかり正次の祖母気分になってしまった子猫が苦笑したのを見て、昭彦がどやしそうになったり、 「この薄味が最高でんなぁ。わてにはこっちの料理は辛くて苦手なんやけど、これやったらなんぼでもいけまっさ。」 とマサが誉めてくれたりした。 これといったイベントもない食事会のようなものだったが、和やかな雰囲気の中で楽しい会話が続いたことも子猫は嬉しかった。その中で子猫は、正次の父親も極道ですでに他界していることと、母親とは小さい頃別れて逢ったことがないことを知った。母親と縁が薄いのは昭彦もマサも同じだったし、子猫のように自分から反発して背を向ける事がとても我が侭なことのようにも思えてきた。何よりも子猫は父親の愛情を一身に受けて大事に育てられてきたことを思えば、バチが当たりそうなほど幸せなのだと今更のように実感した。 不幸だから悪に染まっていい、とは思わなかったが、少なくとも目の前にいる人達は、悪を悪と承知する一方でそれをよしとは思えない優しさを持った人達だという印象を持った。だから、からかうようにけなしながらも、女を道具として利用出来ない正次を昭彦もマサも可愛がっているのだろうと納得出来たし、正次も昭彦やマサに身内のような暖かさを感じて甘えているのだろうと感じられた。 「ねぇ・・聞いていい?」 「何や?答えられんことは聞かんとき。」 「う・・大丈夫だと思うけどぉ・・・あのね、この中で誰が一番怖いかなぁって思って。ふふ。」 「ヘッヘッ、そりゃもぉ、何ちゅうても子猫はんでっしゃろ。ヘッヘッヘッ。」 「え〜?!うっそぉー!」 「ホンマやな。子猫が一番怖いで。」 「あきぃ!」 「あはは、そうっすねぇ。あははは。」 「うぅー・・・」 「ほれ、そないしてすぐ膨れるわ、拗ねるわ、泣いて愚図るわで、機嫌直さすのに偉い苦労やで。・・しかも細い鋭い爪でひっかくわで、獅子も傷だらけでかなわん言うとるで。クックッ。」 「そりゃ怖いっすねぇ。あははははは。」 「もぉぉ・・・真面目に聞いてるのにぃ・・・」 「わてかて大真面目でんがな。ヘッヘッ。」 「つーかぁ、猫抜きにして誰かなぁってことなのぉ。」 一瞬の間があった。と、同時に正次とマサの視線が昭彦に行ったのを子猫は気が付いた。が、正次が何かを言おうとするのをマサが小さな舌打ちで止めた。 「怖いやくざ者なら町にいくらでん徘徊しとりやっさ。子猫はんもよぉ気ぃつけなあきまへんで。・・っちゅうてもわてらもやぐざ者やっさかい町では怖いかも知れへんなぁ。ヘヘヘッ。」 「けどなぁ、近頃は壊れたガキも見境なしのとこあるし、怖い奴はいるよなぁ。」 「怖いちゅうてもそれは個人の怖さや。個人の怖さはどれだけそいつが狂うとるかちゅう怖さやろ。そんなもんはたかが知れとる。ホンマに怖いんは組織や。裏だけやないで。表かてそうやがな。組織っちゅう化け物には誰もかなわん。・・個人は人を殺す時でもまぁだ人やと意識しとる。けど、組織は人の命かてそろばんではじきよる。」 「そうでんなぁ。」 昭彦の話にマサが神妙な顔で相づちを打った。正次は頬杖をついて酔った頭で理解しようと努力しているようだった。 「うぅぅ・・・そんな難しいことを聞いたんぢゃないのにぃ・・・」 「クックッ。・・そしたら子猫は誰やと思うねん?」 「んー・・っとぉ・・・わかんない・・・」 「そやろ?クックックッ。それでええねや。わからんでええのんや。」 昭彦は優しく笑って子猫の頬や首にキスをした。子猫もくすぐったがってクスクス笑った。ただ、笑いながら、怖いやくざと言うのは昭彦のように頭の切れる人の方が怖いものなんだろうな、と思う子猫だった。正次だけでなく、いくら昔の恩があるとはいっても、歳の変わらないマサでさえ一歩身を引いて昭彦に接しているのが不思議だったのだ。でも、もう現役をやめているのに、とも思ったが、必要以上に詮索するべきではないのが昭彦の態度から感じられて、子猫は話題を他へと移した。 正次が持ってきてくれたケーキを締めくくりに出してわかったことは、お酒を飲まない昭彦以外、けっこう甘党でもあると言うことだった。お腹がいっぱいの子猫には一個がやっとで顔をしかめる昭彦に無理矢理手伝わせたのに、正次もマサもケーキは入るとこが違うと二個ずつ平らげて満足そうに笑ったのだ。普通逆でお酒好きは辛党じゃないかと思ったが、 「嫌いなんじゃなく、食べないだけ?」 と前に昭彦がお酒に関して言った言葉を真似て聞いてみたら、 「アホぬかせ!ケーキの甘さは口が腐るわ。特に生クリームなぞ鳥肌立ちそうやで。」 と真剣な顔で抗議する昭彦だった。 「えー・・・ぢゃぁなんで正次さんもマサさんも甘いお土産を持って来てくれたのぉ?」 「あぁ、それっすけど、俺的には花束を持って来ようかと思ったんす。そしたらドクターが子猫ちゃんが困るからやめてくれって言ったもんすから。」 「わても花だけは持ってこんようにと念押されやしたさかい。」 「え・・・あ・・そうだったんだぁ・・・」 「やっぱり子猫はんがいっちゃん怖いようやすなぁ。ヘッヘッヘッ。」 「うぅぅ・・別に人の趣味までどうこう思ってないのにぃ。貰えばそれなりに嬉しいしぃ・・・」 子猫が昭彦をちょっと睨んだ。 「あはは、ドクターを正面から睨める者は組中見渡してもいないっすよ。やっぱ子猫ちゃんは怖いんだなぁ。ははは。」 「正次さんまでぇ・・・」 「けど、子猫ちゃんは何で花が嫌いなんっすか?・・っつーか飾ってるし・・・」 「え・・・嫌いじゃないよぉ・・・」 「子猫は切り花は命が狩られたようで綺麗と思うより先に可哀想と思うてまんのや。鉢植えかてもっと広いとこで自由に咲けたらもっと幸せやのにて言うてな。けど、今日はマサの為やゆーて買うてきたんや。良ければお土産代わりに持ってってや。」 「はぁー・・繊細だなぁ。・・・けど俺、花はすぐ枯らしちゃうんすよぉ。」 「実を言うと猫もなのぉ。お水の上げ方とか本見てしても栄養パックさしたりしても何故か枯れちゃうんだなぁ。・・・それが悲しくて・・・えへ・・それだけの理由かも。」 「ほな、わてが頂きまひょ。せっかくの子猫はんの気持ちやっさかい。」 「そうしてくれるか、マサ。好きなんだけでええで。後はわしが面倒見ちゃるし。」 「えぇ・・あきってそーゆーのも得意だったの?」 「フッ・・生かすも殺すもコツさえ知っちょれば簡単やで。」 「ご・・誤解されそうな言い方ぁ・・・」 子猫がたじろいでぎこちなく笑うと、昭彦は悪戯っぽい目で、 「イかすも泣かすもて言うた方がええかったかの?」 と子猫の耳に囁いた。 「・・・それは違う気が・・・」 子猫は赤くなってもじもじした。 結局正次もマサに聞いて世話してみると言って鉢植えの花を一つ持っていってくれた。マサもふたつ選ぶと丁寧に礼を言って持ち帰っていった。 ふたりを見送って、ホッと息をついた子猫を昭彦が抱き締め、 「ご苦労様。」 と言ってキスをしてくれた。子猫は自分が少しだけ役に立てたような気分になって嬉しかった。本当は必要ないことだったかも知れないが、昭彦にもっと近付けた気がしたのだ。 |
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