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子猫白書U




<11>〜<15>



<10>
[春、夏、、、冬]
<11>春、夏、、、冬

 朝、仕事から戻った昭彦は、子猫を抱いてから昼まで睡眠をとるのが最近の習慣になっていた。まだ春休み中の子猫は、昭彦の寝息を確認してベッドから抜け出すと、シャワーを浴びてフルーツとヨーグルトの簡単な朝食をとった。それから、なるべく音をさせないように洗濯と掃除をして、昼食の支度をした。
 昼食には和食が好きな昭彦の為に、なるべくみそ汁と焼き魚を用意するようにしていた。子猫自身はあまり魚が好きではなかったが、昭彦が喜んで食べてくれると体中が魚臭くなりそうな不快さもどこかに消えてしまうのだった。

 遅めの昼食の用意がテーブルの上にすっかり調ったが、昭彦はなかなか起きてこなかった。それでも今日は昭彦の仕事が休みなので、午後は二人の時間がたっぷりあると、子猫は楽しみに待っていた。
 電話が鳴った。本体はリビングにあるが、子機は寝室と昭彦の書斎にそれぞれ設置されている。子猫は出た方がいいのか迷っていたが、10回ほど鳴った後音が消え、通話中の小さな光が点灯していた。防音がいいので寝室の音は聞こえてこなかったが、昭彦が起きたらしいので子猫は嬉しくなった。
 けれど、電話がかかってきてから30分近く経っても昭彦はリビングに出てこなかった。電話はまだ通話中になっている。子猫は面白くなくて大きくため息をついた。寝室を覗きに行きたい誘惑にもかられたが、知るべきではないことは知らない方がいい、という教訓は童話にもたくさん出てきている。父親が読み聞かせてくれたお話は今でも子猫の性格に大きく影響していた。

 やっと姿を見せた昭彦は、出掛ける用事が出来たと言って、忙しそうにシャワーへ向かった。
「えぇー・・・ご飯はぁ?」
子猫は後についていって、シャワーのしぶきがかかりそうになりながら文句を言った。
「今日はお休みだと思って楽しみにしてたのにぃ!」
「しゃぁないやろ。わしが行かんと言うこときかんちゅうて待っとるんや。」
「誰が?」
「夏美や。」
「女の人ぉぉぉ?!」
「せやから妹の方やっちゅうとろうが。」
「・・・名前まで聞いてなかったもん。」
「そやったか・・・妹が夏美で姉が冬美や。その母親が春江。みんな季節が入っとる名前やな。これでええか?」
「・・・もう・・・別れたんぢゃないのぉ?」
子猫はドアを開けたままの浴室の前にしゃがみ込むと膝を抱えてうつむいて言った。
「わしにとっての子供はそのふたりだけや。ずっと、わしの遺伝子を持つ子はいらんて思うてきたしな、二人を捨てた父親の代わりになるて思うた時に、こいつらを本当の娘として大事にしてやろうて決めたんや。」
子猫は言葉にはならないわだかまりを感じてしばらくうつむいたまま黙っていたが、黙っていることで納得してしまうのが面白くなかった。
「・・・娘の方が大事なんだ・・・」
つい口から不満が言葉となってこぼれた。
「何を比べとんのや?」
昭彦はシャワーを止め、雫を落としながら子猫の前に立った。タオルで勢いよく髪を拭くので股間の一物が揺れる。これを今この場でしゃぶったら昭彦は行かないと言ってくれるかな?とふと頭をよぎったが、これ以上愚図るのも可愛くないように思えて、ため息とともに立ち上がると、
「もう、いい。」
と言って背中を向けた。
「何がええのや?ちゃんと言うてみぃ!はっきりせんのはわしは嫌いやで!」
子猫の腕をつかんで振り返らせた昭彦はまだ濡れた体のまま子猫を抱き締めてキスをした。壁に子猫の体を押しつけて股間に手を伸ばし、乱暴に下着をづり下げた。子猫はつま先立って昭彦の肩にしがみついた。
「お前が何で嫉妬する必要があんねん?」
昭彦は少し腰を屈めて子猫の尻を抱え上げるようにすると一気に固い塊を押し込んできた。足が床から離れて体が浮かび上がるような感覚に子猫は必死で昭彦にしがみついた。
「あぁん・・・あん・・・あんん・・・」
突き上げられる度に体が上に抱き上げられて、子猫は両足を昭彦の腰に巻き付けた。
「わしの女は子猫だけや。そうやろ?」
「あぁぁぁ・・・ぅ・・うん・・・」
ズンズンズンと頭のてっぺんまで響いてくるように突き上げられる。めいっぱい押し広げられた膣がうねってビクビクと波だっている。圧倒的な存在感に体中が痺れてくる。
「子猫・・・お前・・・わしの子が欲しいんか?」
昭彦は子猫の耳をしゃぶりながら熱い息とともに囁いた。
「あぁぁ・・・そんなの・・・あん・・あん・・・決まってるぢゃん・・・あぁぁん・・・」
「どう決まっとるんじゃい!」
昭彦は激しく腰をぶつけるように音をさせて突き上げてくる。子猫は揺さぶられる体を落とされないように必死にしがみつきながら快感を貪っていた。
「ぅぅああぁぁぁ・・・欲しいよぉ・・・あきの子供ぉ・・・欲しいぃぃ・・・」
腰に巻き付けている両足をいっそうきつく締め上げる。それに合わせて肉襞も昭彦のモノを引きちぎろうとするかのようにきつく締め上げていた。
「そない欲しいなら生んだらええ。・・・ぅぅぅ・・・わしの子はどうでもええ。お前の子供がわしも欲しいで。」
昭彦は子猫を強く抱き締めて、
「イクでぇぇぇ。しっかり受けとめやぁぁぁ。」
と言うと眉を寄せ口で荒い息をしながら腰を細かく動かして登り詰めた。
「あぁっ・・・ううぅぅぅ・・・っぅぁああぁぁぁっっ!」
「あきぃ・・・あきぃ・・・あきぃぃ・・・」
子猫も昭彦と一緒にイクことが出来た。しばらくお互いの荒い息遣いをじっとして聞いていた。子猫の足から力が抜けて腰から離れた。昭彦は少し屈んで足を床に着けさせてくれた。それでもまだ繋がったままでキスをしていた。
「いつでも産んでええで。な?」
「・・・うん。」
キスを繰り返して見つめ合う。
「なるべく早く戻るで、そしたら町に出よか?ん?」
子猫は小さく何度か頷いてみせた。昭彦は笑ってもう一度キスをした後、ズルッと子猫の中から男の一物を抜いた。
「・・・ん・・ん・・・」
子猫は急に寂しさを感じて昭彦の胸に抱きついて頬ずりをした。
「続きは今夜たっぷりとしよな?」
昭彦の声は優しかった。肩にきつくキスをして赤い痕をつけると、
「それまで寝とったらええ。・・・わしのエキスを大事にしまっとき。子供が出来るようにな。」
と言って笑って、子猫を抱き上げると寝室まで運んだ。

「まだ寝らんないよぉ・・・」
と言う子猫をベッドに寝かせてキスをした昭彦は、
「横になって休んでおったらええねや。お前このところ頑張りすぎやで。家のことは適当でええっちゅうとるのに。起きとるとまた余計な心配するし、ちょっとはゆっくり寝ときや。そしたらすぐ帰ってくるがな。ん?」
と顔中にキスをしながら優しく言った。
「あん・・・待ってぇ・・・」
昭彦が支度しようと体を離した時子猫は昭彦の手を捕まえた。
「何や?」
子猫は上の服を自分でたくし上げて胸を露わに出すとそこに昭彦の手を押し当てた。
「ここもぉ・・いい子いい子してぇ・・・」
昭彦は苦笑して、
「しゃぁないなぁ・・」
と言ったが、両手で両乳房をつかんで乳首をきつめに吸いながらしばらく愛撫した後、ふたつの白い山にひとつずつ赤い痕をつけた。
「ほな、ええ子でおるんやで。」
昭彦は子猫に布団をかけてやると身支度を整えて出掛けて行った。

 ひとり取り残されたような気持ちでぼんやりしていた子猫は、無意識に昭彦が強く吸った乳首を摘んで愛撫しながらさっきのセックスを思い出していた。トロッと熱いものが股間を濡らす。子猫は乳首を愛撫したまま、もう一方の手を下へ伸ばした。ショーツはさっきの場所に脱ぎ捨てたままだった。クリトリスがまだぷっくりと膨らんで熱を持っている。そしてその先は熱く濡れた状態でそこから溢れたものがお尻にまで伝わってスカートを汚してしまっていることを感じた。熱さを確かめるように中指だけそっと中に滑らせた。と、さっきの快感が蘇ってきて子猫はひとしきり喘いで誰もいないベッドでひとり登り詰めた。
「あ・・・あぁ・・・あぁぁぁぁ・・・」
ぼんやり天井の鏡と向き合って子猫は甘えん坊の泣き虫顔を眺めていた。息が落ち着いて、濡れた指を布団から出すとそっと匂いを嗅いでみた。ツンと青臭い昭彦の匂いがする。子猫は指をゆっくりくわえて舐めながら口に広がる苦みを味わっていた。
 少しだけ慰められた気分になって子猫は睡魔に誘われ始めていた。と、電話が鳴りだした。始めは無視していようと思ったが、10回鳴っても20回鳴っても鳴り止む気配がなかった。仕方なく子猫は電話に出ることにした。
−「もしもし?」
−「え?」
そう言ったきり相手は何も言わなかった。子猫はムッとして電話を切ろうとした時、
−「あんた、猫?」
と相手が言った。いきなり”猫”と呼びつけられて子猫はますますムカついてきた。
−「どちら様ですか?」
−「こっちが聞いてるんだからそっちから答えなよ。あんたがパパの飼ってる猫なのかって聞いてんだよ。」
昭彦をパパと呼ぶ女性をもう一人知っているが彼女でないことはわかった。
−「・・・夏美さん?」
相手の舌打ちと大きなため息が聞こえてきた。
−「へぇ・・・パパからもう聞いてるんだ。すぐ来るって言っといてちっとも来ないと思ったら・・あんたにご丁寧に説明してたって訳ぇ?・・・ったく、これだもんなぁ。」
−「・・・昭彦さんならもう出掛けてます。」
−「あんたさぁ・・パパの女だからっていい気になってんじゃないよ。パパの女なんていくらでも変わりがいるんだから。あたし達娘とママはパパにとっては特別なんだからね。間に割り込むようなことするんじゃないよ!」
一方的に言いたいことを言って夏美は電話を切った。子猫は切れた子機をしばらく呆然と見つめていた。が、そのうち怒りが込み上げてきた。
(許せない!夏美も・・冬美も・・・春江って人も・・・みんなみんな許せない!)
いくら彼女達の方が付き合いが長いからって”あんた”呼ばわりされて、”間に割り込んだ”と言われる筋合いはなかった。子猫の中で言いようのない憎悪が芽生えていた。
<12>
[町で]
<12>町で

 ひとりで町を歩くのは久しぶりだった。昭彦と暮らすようになってからは、近くへの買い物以外、人がたくさんいる場所にはいつも昭彦と出掛けていた。もう、すっかり春の陽気で、午後の暖かな日差しが気持ち良かった。
 町に来る目的はなかったが、不愉快な電話にせっかくの眠気も飛んでしまい、血の繋がらない娘に会ってる昭彦をひとり寂しく部屋で待っているのが嫌になったのだ。昭彦と自分の為に用意した食事は手つかずのまま流しの横に全て捨ててしまった。そして、待っているようにと言われていたのをメモも残さずに出掛けてしまえば、少しは自分が怒っている気持ちが昭彦に伝わるのではないかと思ったのだ。
 昭彦のこれまでの生き方を否定するつもりはないし、そこに生まれた付き合いが大切なものだというのもわかっているつもりだったが、自分を侮辱する相手まで受け入れる気にはなれなかった。子猫の中のわだかまりには夏美だけでなく、あの冬美の姿もあった。そしてその背後の影として付きまとう二人の母親春江の姿も、見えないまま脅威に感じていた。
 愛されている自信がなかった訳ではない。が、愛は移ろいやすく不安定なもので、そこでは自分自身の気持ちさえ確かなものではなかった。絶対的な存在はやはり家族という単位のものなのだろうか。そう思う時、自分がまた叶わぬ恋をしているように思えてしまう。心も体も疲れ切ってようやく断ち切った辛い恋の記憶が蘇ってくる。子猫は立ち止まり目を閉じて胸に手をあて切ない痛みに耐えた。

「気分でも悪いのか?」
近くで声がして目を開けた子猫は、見覚えのある顔に苦笑して、
「何でもない。・・てゆーか、懐かしいね。」
と言った。
「中学卒業以来だもんな。この前クラス会があったんだぞ。何で来なかったんだ?会えるのを楽しみにしてたのにさ。」
斉藤は一段と伸びた背の上から子猫を眩しそうに見ていた。
「あ・・そなんだ。ごめん。気付かなかった。・・・でも、猫は参加しても話す相手いないし・・・知ってても行かなかったと思うし・・・ごめん。」
「クラスの女子は冷たかったもんな。・・けど男子は全員がっかりしてたぞ。これマジ。」
「クスクス、相変わらず調子いいことばっかり言ってるぅ。」
「だからマジだって。・・・あ、もし時間あったらどこか店入って話さないか?」
「うん。猫はいいけどぉ・・斉藤君は?」
「今日は本を探しに来たんだ。他にはこれといって用事なし。」
斉藤は紙袋を持ち上げて子猫に見せると笑った。
「そっか。うん。じゃぁ・・・何か食べれるとこにしよぉ。斉藤君の顔見たら急にお腹が空いてきちゃった。ふふ」
「あー、何だよぉ。随分だなぁ。ははは。」

 子猫は斉藤と近くのラーメン店に入った。朝が軽かったままお昼も食べていなかったので本当にお腹が空いていたのだ。
「この店、餃子が旨いんだ。食べてみる?」
と斉藤が言うので、
「ホント食べ物屋さんには詳しいねぇ。」
と笑いながら子猫も注文することにした。
 両面に焦げ目が付いてお焦げも一緒に盛りつけられた餃子は確かに香ばしくて美味しかった。熱々の餃子を歯を立てるように恐々かじると肉汁が零れ出た。
「ぁっつぅ・・・でも・・・はふ・・・おいひぃ・・・」
口の中ではふはふしながら食べる子猫を斉藤は相変わらず眩しそうに見ながら笑った。
「やっぱ・・・猫って可愛いなぁ。はは。」
「あんまり食べるとこ見てないでよぉ。そーゆーのって失礼だと思うけどぉ。」
子猫はちょっと拗ねて睨んでみせた。
「あはは。そうやって拗ねるとこも変わんないなぁ。」
子猫は肩をすくめると斉藤の視線を無視して注文した塩ラーメンを食べることに集中した。斉藤もチャーシュー麺を豪快に食べ始めた。
 子猫がまだ半分も食べないうちに斉藤は食べ終わってコップの水を飲み干すと、
「うーん、美味かった。」
と言って笑った。
「少し手伝って。」
と、子猫は餃子の皿を斉藤の前に進め、塩ラーメンも汁までカラになっていた斉藤の器に移した。
「おう、サンキュ。まだ、そんな小食なのか?だから丈夫になれないんだぞ。」
「だってぇ・・・多いんだもん。」
「まぁ、こーゆー店は男性客を基準にしてるからな。女の子には多いかな。・・けど、さっき貧血起こしてたんじゃないのか?去年の秋にまた入院してるって聞いたから・・心配してたんだ。よっぽどお見舞いに行こうかと思ったんだけど・・入院先を学校にも伏せてるみたいだって話だったから遠慮したんだ。」
「斉藤君って情報通ぅ・・・」
「好きな子のことは何でも知っておきたいと思ってるけどさぁ・・けど、マジで猫ってファン多いからどうしても噂になるぜ。ま、中にはとんでもなくいい加減な噂ってのもあるけどな。」
「えぇ・・・どんなのぉ?」
「やめやめ。くだらない噂はやっかみがほとんどだし、口にするのも馬鹿らしい。」
斉藤は子猫が分けたのも綺麗にさらって水をおかわりしてくると子猫の食べ終わるのを待っていた。子猫は噂が気になって食欲がなくなってしまったが、かなり斉藤が手伝ってくれたので何とか食べきると、斉藤と連れ立って店を後にした。

 子猫がCDを見たいというと斉藤も付き合ってくれた。子猫の好きな曲を一緒に探したり、斉藤の薦める曲を試聴したりして今度一緒にカラオケに行こう、と誘われたりした。それから同じ建物の二階にあるゲーム売り場で、お互いの持ってるゲームの話や、最新作やこれから出る話題作の話に興じた。
 その店を出る頃にはもう夕闇がせまっていた。子猫はひさしぶりに自分が高校生である実感に浸れた気分だった。学校へ行って勉強しているだけでは得ることの出来ない実感だった。そもそも学校での子猫は、自分がそこにいることが不思議に思うくらい違和感と虚無感に苛まれ、拘束される時間が苦痛でたまらなかったのだ。けれど、斉藤と取り留めもなく談笑し、目的があるような、ないような漠然とした行動の中にも心が躍る楽しい時間があった。これが普通の高校生らしい交際なんだろうか、と、本当に久しぶりに少女としての自分に戻れた気がしたのだ。
「もう、こんな時間かぁ。なんかあっという間だったなぁ。はは。・・そろそろ帰るか?・・もし、迷惑でなかったら送っていくけど?」
子猫は斉藤の言葉に家には帰れない自分を思いだした。
「あ・・ごめん。・・これから、ちょっと約束してる用事があって・・・」
「これから?・・・って・・・デートとか?」
「・・・さぁ・・・どうかなぁ・・・」
斉藤の顔が曇ってため息がこぼれた。
「否定しないってことはそうなんだろうな。・・・はぁぁ・・・残念だなぁ。今度こそ交際を申し込めたらって思ってたんだけどさ。」
「・・・ごめんね・・・」
「俺っていっつも間が悪いんだよなぁ。ついてないぜ。」
「もう彼女出来てると思ったけど・・・」
「俺さ、けっこうマジで部活頑張ってるんだぜ。夏の甲子園目指してるんだ。遊びで女の子と付き合ってる暇ないよ。たまたま今日は開いてたけどな。」
「そうだったんだぁ。じゃぁ猫はついてたかも。ふふふ。」
子猫が笑うと斉藤も笑顔になった。
「そっか。なら良かった。・・・そのツキ・・俺にも分けて貰うかな。」
「え?」
子猫がキョトンと斉藤の顔を見上げると、斉藤は長身を屈めて子猫の唇を奪った。一瞬斉藤の舌が子猫の口を割って侵入し子猫の舌を捉えて強く吸った。
「はは。俺もラッキーだな。ずっと惚れてる子にキス出来た。」
悪びれもせず、そう言った斉藤は、
「それじゃ、また。気が向いたら電話してくれな。猫は特別だから。」
と言って握手を求めてきた。
「うん。・・ありがと。」
と子猫が握手に応えると、それじゃ、と何度も振り返って手を振りながら去って行った。子猫はその度に手を振っていたが、角を曲がって斉藤の姿が見えなくなると、ため息をついた。

 本当に約束がある訳ではなかったし、まだ昭彦の部屋に戻る気持ちにはなれなかった。子猫はその場に立ち尽くしている訳にもいかず、また町の中を彷徨うように歩き始めた。辺りは闇に包まれ始め、ネオンライトが一段と眩しく輝いて見えた。
 どうして普通につき合える人を選べないんだろう、と子猫は自分の中に潜む魔性のサガを恨めしく思った。好きな人、憧れる人、ときめく人、と棲み分けされてしまう。みんな好きなのに、体はときめく危険な香りのする人を嗅ぎ分け欲情してしまう。選択するのはいつでも自分である以上、責任も自分にある。責任があるのだから、苦しんでも仕方がない。
 斉藤と別れてから、自問自答を繰り返しながら、時々店先に並んだ可愛い小物を立ち止まって眺めたりして、行き場のない自分を持て余していた。
「あれ?・・子猫ちゃん?」
後ろで聞き覚えのある声がして子猫は振り返った。
「あ・・・正次さん・・・」
「やれやれ、やっと見つけたよ。」
正次は子猫の顔を見るとホッとしたように息をついて苦笑した。
「見つけたって?」
「ドクターが心配してましたよ。・・ったく・・あの人を怒らせると怖いって知らないんすか?」
「知らなぁーい。」
「いや、マジに。冗談じゃないっすよ。」
正次はそう言いながら携帯をポケットから取り出して番号を押し始めた。
「・・チクルの?」
子猫が睨むと、正次は苦笑して、
「何言ってるんだか・・・このまま放っとけないでしょうが・・・あ、もしもし?正次っす。」
と携帯を耳にあてて、話始めた。相手が昭彦だということは詮索するまでもなかった。子猫はクルッと正次に背中を向けるとスタスタと歩き始めた。
「あっああっ・・・ちょっと待ってください。・・・子猫ちゃん、ヤバイっすから・・・」
正次は子猫の手首をつかんで真剣な表情で首を振ってたしなめた。
「あ、はい。ここにいます。・・・一人っす。・・・送っていきましょうか?・・・あ、はい。・・・うぅーん・・今、俺を睨んでますから・・・あ・・はい。」
正次は子猫の手首をつかんだまま携帯を顔の前に突き出した。子猫はプイッとそっぽを向いて受け取ろうとしなかった。正次は声を出さないように、出てくれぇー、と何度も口をパクパクした。その表情があまり真剣なので仕方なく子猫は携帯を受け取って耳にあてた。
−「・・・昭彦?」
−「お前何しとんねや?待っとれっちゅうたがや?」
昭彦の声はそれほど怒ったようでもなく穏やかに聞こえた。が、子猫はすぐには素直になれなくて、わざとそっけなく答えた。
−「・・・ふぅーん・・・猫ばっか悪いんだ。あっそう。」
−「何ごねとんねん?心配しとったんやぞ?」
−「あっちの心配、こっちの心配でぇ・・忙しくて大変だね。」
−「・・・今ごちゃごちゃ言い合ってもしゃぁないやろ?帰ってきたら納得出来るように話したるで、早う帰りや。」
−「・・・帰りたくない。」
−「あぁ?何言うちょるんや?」
−「だって・・・また夏美さんから電話あるとヤダもん。」
−「それはもう片がついとる。一度母親のとこに連れて帰ったが、薬で酷く荒れてるから病院に入れたんや。」
−「・・・薬?」
−「少し調子に乗って遊びすぎたらしいわ。」
電話の向こうで昭彦のため息が聞こえた。それがまた子猫の神経を逆撫でするようだった。
−「・・・ふぅーん・・・手の焼ける娘は心配でたまらないよねぇ。」
−「何いちいち突っかかる言い方しとんねや?・・それかて、お前待たせてるって思うて、わしに出来るだけのことした後は母親に任して、すぐに戻ったんやで?・・そしたらお前が料理全部ぶちまけて消えとるやないかい。何で辛抱出来んのや?」
−「・・・どうせみんな猫が悪いんだよね。・・もういいよ。」
−「誰が悪いっちゅうとるんや?勝手なこと言うとらんと人の話をちゃんと聞けや。」
−「・・・町中で・・・よく聞こえない。」
−「せやからこっちに戻ったら話したるっちゅうとるやろ?・・料理に手をつけんかったのは謝るよって・・な?」
−「・・・そのことぢゃないもん。」
−「何やねん?・・遅かったからか?」
−「そうぢゃないもん。」
−「寝れんかったからか?」
−「・・・だって・・・夏美さんが・・・」
−「どないしたん?」
−「・・・あの後・・・また電話きて・・・」
−「・・うん・・・ほいで?」
−「・・・それで・・・・・」
−「夏美からの電話があってそれに子猫が出たんやな?・・・ほいであいつ何ちゅうたんや?」
−「・・・もう・・・いい・・・」
−「そない酷いこと言われたんか?」
子猫は優しく話す昭彦の声の調子が変わってきていることに気が付いた。
−「何でもない。・・もういいの。」
−「ええことあるかい。ちゃんと言うてみ。ん?」
−「・・・電話で話すことじゃないから・・・」
−「ほな、帰るか?」
−「・・うん。」
−「わかった。待っとるで、早ぅ戻るんやで?」
−「うん。」
−「そしたらちょっと正次に変わりや。送らせるよって。」
−「あ・・うん。」
子猫はそこで正次に携帯を返した。正次は子猫の手首をつかんだまま少し話して携帯をしまうと、肩の力を抜いてため息をついた。
「それじゃ、送ってくからね。」
「・・・うん。ごめんなさい。・・・っつーか、もう手を離してよぉ。」
「逃げないって約束したら離すよ。」
「逃げないー。・・・何か強制送還されるみたいぢゃん。もぉ・・・」
「はは。子猫ちゃんはまだドクターの怖さ知らないからそんな悠長なことが言えるんっすよ。」
「・・・そんなに怖い?」
「そりゃぁ・・・あっ・・・つーか、そんなこと言ってたの知られたら俺がまたどやされる。これ以上は言えないっす。」
「ふぅーん・・・そんなに怖いんだぁ・・・」
「だ・・だからぁ・・・もう・・早く戻りましょう。」
正次は子猫の手を離して、ついてくるように合図した。子猫は戻ってから昭彦がどれくらい怒るだろうかとぼんやり想像しながら後に従った。
<13>
[猫可愛がり]
<13>猫可愛がり

「ちょっと寄っていかない?」
と言う子猫に正次は引きつった笑顔で頑なに辞退し、玄関を開けた昭彦が、
「おう。ご苦労さんやったな。」
と声をかけると、
「お役に立てて良かったっす。」
と言って何度か頭を下げてから、踵を返して立ち去ってしまった。
 正次が何をそんなに警戒してるのか、子猫にはわからなかったが、叱られるかも知れないという思いは子猫自身にもあった。それで、昭彦に肩を抱かれて玄関を入った時もなるべく顔を合わせないようにしていた。
 昭彦は玄関を閉めると、言葉もないまま子猫を抱き締めて、激しく唇を重ねてきた。そして、子猫がまだ靴を脱ぎきらないうちに、スカートをたくし上げるように手を入れてくると、つけていた下着を一度に引き下げた。
「他の男に何もさせんかったやろな?」
唇を子猫の唇から離さないままに熱い息とともにそう言った昭彦は、その場に子猫を押し倒し、膝に引っかかっていた下着の全てを剥ぎ取った。倒れる時肘を強く打って子猫は顔をしかめたが昭彦はそのまま子猫の股を開かせようとしていた。
「あっ・・ああっ・・いやっ・・・」
「何が嫌なんじゃ?後ろめたいことがあるんかい?」
「ないよぉ!・・ないけどぉ・・・」
「っやったら早う足を開かんかい!」
昭彦の怒声に、子猫は仕方なく玄関先で大きく膝を割って、股間を露わにしてみせた。昭彦は鼻を押し当て舌を差し込んで念入りに調べているようだった。
「ちょっと町へ行ったからってぇ・・すぐに浮気するわけないじゃん。」
子猫は昭彦の髪を宥めるように撫でながら、花弁から溢れてきた蜜を舐める昭彦に抗議するように言った。
「町にひとりで行くなっちゅうとるやろ?わしの言いつけが守れんのか?」
やっと安心したように一呼吸おいた昭彦が、頭をあげて言った。
「・・・だって・・・」
子猫は夏美に言われたことを言おうか迷っていた。が、くだらない、気にするな、で済んでしまうことかも知れないと思うと、言いつけるようなことをするだけ虚しい気がしていた。だが、そう思うと今度は自分が惨めになってきて、涙が後から後から溢れてきた。
「子猫・・・どないした?・・・何で泣くんや?」
昭彦が子猫の零れる涙を吸うようにキスをする。玄関からリビングへ続く狭いフロアで、下半身を剥き出しにした子猫と、上半身裸で鮮やかな彫り物を晒しスェットパンツを履いた昭彦が寄りそうように横になっている様子は奇妙すぎる光景だった。
「・・・ここ・・・寒い・・・」
子猫は泣いている意識はなかったが涙が止まらず、言い訳のように呟いた。
「っそやったな。廊下はいくらか気温が低いから、その冷気が入ってくるんやろ。」
いつも通りの話し方になっていた昭彦が、子猫を抱き上げて、
「乱暴なことして悪かったな。・・お腹空いたやろ?子猫の好きなラザニア作っといたで。」
と耳元に優しく囁いた。

 それからの昭彦はむしろ猫っ可愛がりと言えるほど子猫に優しく接していた。子猫をソファーに座らせると、ラザニアを熱々に温め直して持ってきて、一口ごとに息を吹いて冷ましながら子猫の口に運んだ。
「どや?・・美味いか?」
と何度も聞いてきて、子猫の唇にとろけたチーズが垂れて熱がるとすぐに舐め取ってやりながらキスをするといった感じだった。子猫が半分ほどで、もう食べられないという意思表示をすると、
「何や?今日のはいつもより美味ぁないんか?」
と残った分を味をチェックしながら食べていた。
 とても、中学校の同級生と食事したこと等言えるはずもなく、まして別れ際にキスをしてしまったことは決して言えないと思う子猫だった。優しくはあったが、どこかいつもの昭彦と違うように感じていた。嵐の前の静けさのような言いようのない違和感がずっと付きまとっていて、子猫はそれが何かわからないまま緊張気味に昭彦に従っていた。
 それでも昭彦の優しさは相変わらずで、食事の後は一緒にお風呂に入って、子猫の体中を丁寧に洗ってくれた。浴室へ行く時も出てからも、昭彦がずっと子猫を抱っこして運ぶし、お湯に浸かる時さえ抱きかかえて入るほどで、子猫はまるで人形にでもなった気分だった。
 バスローブを着て特製ジュースを飲む子猫の傍らで、腰にタオルを巻いた総身入れ墨の逞しい男が、濡れた髪の雫をドライタオルで慎重に拭き取ってやっている姿はほとんど倒錯の世界のようだった。と、言ってもそれは別に二人の間では珍しいことではなかったが、昭彦を知る者には想像もつかない姿だったかも知れない。
 娘に対しても昭彦はこうだったのだろうか?と、子猫の頭に自分とは別の対象のイメージが浮かんできてしまった。こうして愛された記憶があったら、例え血の繋がりはなくても父と慕う気持ちは強くなるはずである。
「ねぇ・・・あきぃ・・・」
「ん?」
昭彦は子猫がジュースを零さないように静かに髪の水気を拭っていた。
「昭彦ってどんなパパだったの?・・・一緒に暮らしている時・・・」
「言うたやろ?躾には厳しかったて。・・けど、夏美は中一で冬美が高一やったし、もう性格自体は出来上がっとったし、わしが言うても直らんもんは変えようもなかったがな。」
「・・・ふぅーん・・・」
子猫はジュースをストローで混ぜながら夏美の言葉を思い出していた。昭彦は子猫の横顔を伺うように見ていたが、髪を拭くのをやめると、肩を抱き寄せるようにしてこめかみに唇を押し当てた。
「わしが躾いうんはおかしいか?」
「ううん。・・だって、あきってきっちりしてるもん。」
「まぁ、性格もあるやろが、わしの父親も厳しかったし・・身に付いた習慣てのもあるやろな。」
「・・猫には厳しくないけどね。」
子猫は昭彦の顔を見て小さく笑った。これまでは、と添えるべきかも、と今日の帰った時のことを思い出した。
「女はまた別や。・・子供っちゅうのんは女でも女とは思うてへん。」
「・・・娘は特別・・・ってことか・・・」
「またそない言い方しよる。そうやないやろ?子供には男でも女でも区別なく礼儀っちゅうもんをわきまえさせる必要があるっちゅうこっちゃがな。」
「・・・礼儀?・・・あれが・・・ふぅーん・・・」
「夏美と電話で話したてゆーてたな・・・そない酷いこと言われたんか?」
「・・・わかんない・・・酷いことなのか・・・本当のことなのか・・・でも、もういいの。」
「ええことあるかい。はっきりさせんままでいつまでも引きずっとる方が邪魔くさいやろが。」
昭彦は子猫の持っているジュースのコップを取ってテーブルに置くと、子猫を自分の膝に抱きかかえてあやすようにゆっくり揺らしながら、
「何言われたんかちゃんと言うてみ。」
と耳元にキスをして囁いた。子猫はこれ以上黙っていることが不自然に思えてきて、
「・・・パパの女はいくらでも変わりがいるって。・・・自分達は特別なんだって。・・・だから割り込むなって。」
と昭彦の肩に顔を隠すようにして言った。自分の口で言葉にすると大したことでもないように聞こえた。あの時の全身の血が沸騰しそうな怒りが居場所をなくしてくすぶっている。
 子猫は昭彦の反応を待っていた。が、昭彦は何も言わなかった。まだあるのかと思って待っているのだろうか、と子猫はゆっくり顔を上げて昭彦の顔を見てみた。昭彦は一点をじっと見つめるようにして表情が止まっていた。
「・・・あきぃ・・・?」
子猫が昭彦の頬をそっと撫でた。それで静止画像がやっと動き出した。
「裏切られるくらい情けないことはないな。」
昭彦は深いため息とともに吐き出すように言った。
「・・・え・・・?」
「言ってええこと悪いこともわからんようでは人として失格や。・・・ましてわしの大事な女に何っちゅうことぬかしよんねん・・・飼い犬に手ぇ噛まれた気分やで・・・」
最後の方はもう呟きに近かった。
「あっ・・でも・・ほら・・・薬のせいで感情のセーブがきかなかったからかも・・・」
子猫は昭彦の声があまりにも沈んでいるので、もう自分が感じた憤りはどうでもよくなっていた。両腕を昭彦の肩にまわしてヒクヒクと震える頬に鼻を軽く擦りつけた。
「そうもいかんで。・・・何ちゅう恥っ晒しの女じゃ。・・・もう見限るしかあらへんな。」
「・・・あき・・・」
「お前は何も心配せんでええ。・・・済まんかったな。嫌な思いさせてもうたわ。」
「もういいの。ホントにもういいから。・・・言わない方が良かったみたい・・・ごめんなさい・・・」
子猫は昭彦がこんなに怒るとは思っていなかったのだ。もちろん多少は怒ってくれるかも、と思う期待はあったし、だからこそ言ってしまう自分が醜く思えてなかなか口に出せなかった、という伏線はあった。が、口に出してしまうと、それくらいは娘なら言いそうなことだと思えたし、何より昭彦がこれほど失意の表情を見せるとは予測出来なかったのだ。
「ごめんなさい・・・聞き流せば済んだことなのに・・・」
「子猫が謝るこっちゃないやろ。・・怒って出掛けたくなるのも無理なかったわな。」
「でも・・・猫も悪かったの。・・・娘って存在に嫉妬してたから・・・」
昭彦が唇をキスで塞いだ。静かで優しい、確かめ合うようなキスだった。子猫も甘えて昭彦の口を吸った。そして、次第に貪るキスに変わり、昭彦の手が子猫のバスローブの胸元を開けてプルンと弾む胸を鷲掴みにした。
「あ・・・ぁあん・・・」
「もう、その話題はお終いにしよな?」
「・・うん・・・」
昭彦は膝に抱きかかえている子猫の顔をじっと見つめた。首を少し傾けて見る様子に子猫は哲学者の趣きと詩人の奥ゆかしさを感じた。
 そう、いつも思うのだ。何て渋くていい男。この彫り物と乱暴な大阪訛りさえなければドクターと呼ばれることに何も不思議は感じないだろう。病院の患者用ホールでいつも静かに本を読んでいた昭彦の横顔に恋をしたのだ。ランドリールームに近い場所で洗濯物が終わるのを待っていた子猫が昭彦の横顔の物思いにふける様に見とれている時、フッと視線に気付いたのか、子猫を見て微笑んでくれた嬉しさを今でも覚えている。
「何考えとんのや?」
昭彦がその時と同じ微笑みをこぼした。
「・・ん・・病院で・・・昭彦と目が合った時のこと・・・思い出してたの。」
「ほぉ・・・」
昭彦が少し目を見開いてから微笑みを深くした。
「わしもや。・・・わしも調度あの時の子猫を思い出しとったわ。・・・不思議なもんやな。」
「そうなのぉ?・・クスクス・・ホント、ふ・し・ぎ。」
子猫は嬉しくなって昭彦にギュゥっと抱きついた。昭彦も大事そうに子猫を抱き締め、キスを繰り返した。
「あ・・ぁぁ・・あん・・・」
子猫の乳首を摘んで反応を楽しむようにじっとまた見つめる。
「んぅー・・・」
子猫はじれったくなって拗ねた顔をしてみせた。
「クックック・・・ホンマに可愛い子やで。・・・あのな・・・」
「・・ん?」
「ホンマのこと言うたらな、わしの方が先に子猫に惚れとったんやで。」
「・・えぇ・・・猫が先だよぉ・・・」
「クックッ・・お前にわしを印象付けよう思うてわざわざあの場所で本を読んどったんや。」
子猫は呆気に取られてしばらく昭彦を見ていたが、嬉しさが込み上げてきて照れたようにクスクスと笑った。
「どや?見事に釣れたやろ?」
「クスクス・・うん、釣られたぁ。ふふ。」
「わしに惚れたか?」
「うん。惚れてる。」
「わしはその何倍も惚れとるで。」
「・・あっ・・ズルゥ・・・」
「クックック・・・わしの方が策士やてよぉ覚えとき。・・ええな?」
「うん。」
子猫はクスクス笑いながらキスをした。昭彦も笑ってキスを返す。ふたりはしばらく笑いが止まらなくて歯がぶつかりそうになりながらキスを繰り返していた。
 そしてその夜はあたりが白々と明けてくるまで深く愛し合ったふたりだった。
<14>
[シッポ]
<14>シッポ

 春休みが終わって子猫は高校2年生になった。始業式を終えてその足で自分の家に戻った子猫は、親への連絡と提出しなければならない物をリビングのテーブルに置いて、すぐに昭彦のマンションに戻った。
 すでに起きていた昭彦はピザを焼いて子猫を待っていてくれた。
「どやった?わしもついて行ってやれば良かったんやが・・」
「大丈夫だよぉ。それにママは仕事でいなかったし、書き込むやつは記入したらこっちに送ってくれるようにメモしてきたし・・問題はないっしょ。・・うん。・・多分・・えへっ。」
子猫はピザをかじりながら笑った。
「一度電話で話したきりやからなぁ・・・近いうち、ちゃんと会って話さなあかんやろとは思うとるんや。」
「うーん・・・ママってキツイとこあるからぁ・・・昭彦かなり気分悪くなると思うし・・・いいよぉ。」
「キツイ女なんぞいくらでも知っとる。ちゃんと礼儀心得とるいいママやないかぁ?」
「ママのは体裁って言うのぉ。自分の体面が大事なんだから・・・」
「そない自分の親を悪ぅ言うもんやないで。」
「・・・ママの味方する昭彦って嫌い。」
「クックッ。すぐ拗ねる子猫はアホガキやで。そろそろわしの女としての躾が必要やな。」
「・・・躾?・・・猫はあきの子供ぢゃないもん・・・」
「もちろん、そうや。子供の躾と女の躾は全然違うもんやで。」
「女房の躾とかって超古臭い言葉は聞いたことあるけどぉ・・・三つ指ついて挨拶するとか・・・」
「そないアホなことはさせん。」
昭彦は含み笑いをしてウーロン茶をゆっくり飲み干した。

 食事の後で昭彦は子猫に服を全て脱いでくるように言った。子猫は制服をクローゼットにしまって、一糸纏わぬ姿でリビングのソファーに座っている昭彦の前に立った。昭彦も全裸で待っていた。
「よしよし、ええ子や。」
昭彦は子猫の乳首を両方同時にキュッとつまんでから、胸の形を愛でるようにしばらく撫でていた。子猫は立ったまま、時々目を閉じて感じながらじっとしていた。
「注文しといた物がやっと手に入ったんや。」
一度子猫から手を離した昭彦は傍らに置いてあった紙袋を引き寄せた。
「・・・なぁに?」
「まぁ、待っとれ。」
子猫が覗き込もうとするのを制止して昭彦が初めに取り出したのは赤い皮の可愛いベルトに鈴のついたものだった。
「あっ・・可愛いー。」
子猫が笑うと昭彦も満足そうに笑って、
「可愛いやろ?子猫は肌が白いからよぉ似合うで。」
と言って首につけてやった。子猫は少し首を振って鈴の音をたてながら喜んだ。
「まだ、あるで。」
昭彦はそれから4つの鈴つきベルトを出して、子猫の両手首と両足首につけてやった。子猫はクスクス笑いながら喜んでいた。実際何もつけない裸でいるよりも鮮やかに赤い首輪を身につけているといつもより躰が綺麗に見えるようで嬉しかったのだ。鈴の音もうるさすぎず可愛い音色で動く度に鳴るのが楽しかった。
「どや?気に入ったか?」
「うん。超ー可愛いー。ありがとぉ、あき。」
「ほーかぁ、そりゃ良かった。・・・けど、まだあるんやで。」
そう言って出した物はやはり皮製だったが、黒くて複雑な形をしていた。
「・・・なに?」
「貞操帯っちゅうもんや。聞いたことくらいあるやろ。」
「あぁ・・・これがぁ・・・」
「今つけてもしゃぁないけど・・試しにつけてみるか?」
「うん・・・」
子猫も興味がないわけではなかったので、素直に昭彦が装着させてくれるのに従っていた。
「どうや?ええか?」
「・・・あまし・・・気持ちくない・・・ごわごわして・・・何か当たるとこが痛い気がするもん・・・」
「まだ痛くはないはずやけどなぁ。まぁ、絹のパンツのようなわけにはいかんやろけど。」
と昭彦は苦笑したが、子猫を上から下まで眺める目は満足そうに輝いていた。
「ちょっとその辺歩いてみ。」
「・・・うん。」
子猫は初めぎこちなくリビングを行ったり来たりと歩いていたが、ちょっと慣れてきたので、鈴がよく鳴るように飛び跳ねてみせたりした。昭彦は声を出して笑っていた。
「ホンマに無邪気とゆーか・・・猫体質ちゅうか・・・可愛い子やで。」
踊るようにくるくる回っていた子猫を昭彦が手招きしたので、子猫は昭彦の前まで赤ちゃんがハイハイするようにして行ってみせた。昭彦は膝元にきて、その股間にそそり立つモノをくわえようとする子猫を膝に抱き上げた。
「あん・・・」
「それはまだこれからや。」
そう言って昭彦は子猫の胸を愛撫しながら熱いキスをした。貞操帯で隠された子猫の秘部が疼いてビクビクと痙攣している。それに誘われて蜜が溢れ出してくる。
「あ・・・汚しちゃう・・・」
「大丈夫や。ちゃんと洗えるようになっとるし防水加工もされとる。」
「ねぇ・・・でもこれぇ・・・あそこが・・・触れないみたい・・・」
「あそこてどこや?」
「・・・猫のおまんこ・・・」
「そうやな。ちゃんとわかるように言わなあかんで。」
「ぁぃ・・・」
「クックック。そりゃそうやろ。その為につけるもんなんやから。せやから今つけてもしゃぁないて言うたやろ?・・・けど、今日はしばらくつけとき。」
「あーん・・・我慢出来ないー・・・」
「そのかわり、別の楽しみを教えちゃるで。」
「別ぅ?・・・フェラ?」
「それもまだおあずけや。」
「・・・えぇ?・・何ぃ?」
昭彦は子猫を抱きかかえたまま袋からふさふさの毛皮がついているものを取り出した。
「これは何やろ?ん?」
「・・・何かぁ・・・シッポに見える・・・」
「そやなぁ。シッポみたいやなぁ。クックック。」
「・・・で?・・・なぁに?」
「せやからシッポやで。ほれ、触ってみ。ええ感触やろ?」
子猫は細長い毛皮を触ってみた。スルッとすべるように柔らかい感触で確かに気持ち良かった。が、昭彦が握っている方が気になっていた。円錐形のゴムのようなものが見えたのだ。
「それを・・・どうするの?」
「もちろん子猫がつけるんや。首輪かてよう似合うとるしなぁ・・シッポもあった方がええやろ?」
「・・・どうやって?」
子猫の声が小さくなっていた。昭彦は子猫に黒いゴムの部分を見せてやった。円錐形の下の部分は一度くびれて細い管になって毛皮のシッポ部分と繋がっていた。
 昭彦に向き合った状態でまたいで座るように指示された子猫は恐々言われるままに従った。貞操帯に阻まれたその前に昭彦のモノが固く天を仰いでいる。疼く秘部から蜜が溢れてきて子猫はやるせなくて躰が悶えた。
「あきぃ・・・これぇ・・・はずしてぇ・・・」
子猫が甘えた鼻声でおねだりすると昭彦は、
「クックック。ちゃんとええ子に出来たら後でたっぷりしゃぶったるがな。」
と乳首の先をぐりぐり回して更に感じさせながら含み笑いをしたままキスをした。唾液を絡め取るようなキスの後で、昭彦は自分の唾液と合わせると、指先に唾液を出した。そして片方の腕で子猫の腰を抱え上げるようにすると唾液のついた指をアナルに差し込んできた。
「あっ・・ぁぁあっ・・・」
子猫が痛がって腰を浮かせるのを押さえ込みながら、中指を第二関節まで押し込んだ昭彦は、
「入れやすいようにマッサージしたるで、ちぃっと我慢せい。」
と、指を回転するように動かした。
「・・痛いよぉ・・・あきぃ・・・」
子猫は恥ずかしさによる抵抗感もあって緊張していたが、敢えて逆らうことも出来なかった。腰を浮かせて昭彦の肩に腕を回してしがみつき、顔を首筋に擦りつけて泣きそうになる思いをこらえていた。
「緊張するから余計痛いんやで。・・息吸ってぇ・・・吐いてぇ・・・吸ってぇ・・・吐く時に力抜いてみ。」
「・・・うん・・・」
「吸ってぇ・・・吐いてぇ・・・」
昭彦の指が付け根までぐぐっと押し込まれた。
「あ・・ああ・・あぁ・・・」
「力抜きや。ええな。」
「うん・・・」
「そうや・・・ほれ、ちゃぁんと出来るがな。」
昭彦は長い中指を力強く動かし始めた。子猫はそこをそんな風にいじられることがなかったので恥ずかしさと痛さですすり泣き出してしまった。狭い入り口を開かれる痛みと奥の内側を押し広げるようにぐるぐる回して圧迫される鈍い痛みとでお腹が痛くなりそうだった。
「ぅぅ・・・うぅぅ・・・ぁあぅぅ・・・」
呻き声を漏らしながらすすり泣く子猫を、昭彦はキスをして宥めながらマッサージを続けていた。子猫が我慢出来なくて思わず強く収縮させて指を締め上げても、怒ることもなく根気強く緊張をほぐしてまたマッサージをしていた。が、
「もう大分柔らかくなったようやな。」
と言って指を抜いた。子猫はホッと息を吐き出して昭彦の膝に座った。昭彦はキスで子猫の涙を拭ってやりながら、
「そしたら・・・シッポつけてみよか?」
と聞いてきた。子猫は答えられずに躊躇していた。黒いゴムの円錐形は昭彦の親指よりも一回りは大きかったのだ。
「頑張ってみよか?・・・これをつけたら可愛いでぇ。な?」
「・・・そんな太いの・・・無理だよぉ・・・」
子猫の声は途切れがちで震えていた。
「今ならマッサージで筋肉も柔らかくなっとるし、そない痛ぁないやろ。大丈夫やて。な?」
子猫は目を閉じてうつむき首を振った。昭彦は子猫と額を合わせるようにしてつけ、
「子猫はわしの女やろ?」
と言い聞かせ、承諾を促した。子猫は目を開けて昭彦と目を合わせた。
「・・・昭彦の女・・・って・・・みんなこれをするの?」
「アホ。似合わんやつにさしても可愛くもないしおもろないわい。これをさしたんは過去に一人だけや。・・・けどもうこの世にはおらんし・・・きっと子猫の方が似合うやろな。」
「・・・二番目ぢゃ・・・つまんない・・・」
「あの頃はこんな可愛いのはなかったで。最近はよぉ出来とるなぁ。しかも子猫はわしが知る限り最高の女やで。」
「・・・嘘・・・その人って女優さんより綺麗だった人でしょう?」
「そやったかなぁ。もう忘れたわ。・・顔よりおまんこの方が大事やしな。」
「・・・猫の・・・おまんこは・・・?」
「最高やで。何遍も言うとるやろ?」
「・・・でも・・・ブス?」
「アホォ!可愛いっちゅうとるのがわからんかい!何グズグズ言うとんねん?」
「・・・痛いのぉ・・・怖いんだもん・・・」
子猫がまた涙ぐむのを昭彦がキスと愛撫で宥めながら、
「最初のうちだけやがな。おまんこかてそうやったろ?」
と、子猫が承知するまで根気よく説得した。子猫は承諾するしかないことを感じて頷いた。
「ええ子や。ほな、ちょっと頑張ろな?」
と言った昭彦は、トロッとして粘りのあるローションを取り出すと円錐形のゴムにたっぷりと塗りつけた。腰を浮かせさせて腕を回し、
「緊張したらあかんで。さっきみたいにゆっくり呼吸してみ。吸ってぇ・・・吐いてぇ・・・」
とゴムを子猫のアナルに押し当てた。
「吸ってぇ・・・吐いてぇ・・力抜くんやで。・・・吸ってぇ・・・吐いてぇ・・・」
そこでグゥゥッと力を込めて押し込んだ。
「ああっ・・・あああぁぁ・・・ぃ・・ぃ・・やぁぁぁ・・・」
かなりの痛みとともにズボッと体に異物が入り込む感覚があった。その痛みが引いていくのにつれて、今度は鈍い痛みが腰からお腹へと伝わっていくように思えた。
「・・ううぅぅぅ・・・うぅー・・・」
子猫が抗議するように呻くのを昭彦は抱き締めて優しく宥めていた。
「ほら、大丈夫やったろ?もう楽になるで。」
と言いながら、昭彦は子猫のお尻から垂れ下がっているシッポをつかんで数回握ったり離したりした。子猫の中で異物が膨張していくように感じてまた呻いた。シッポの中にエアを送るポンプが仕込まれていたのだ。
「うぅぅ・・・あぁぁ・・・あぁーんん・・・」
子猫が身を捩って嫌がるとシッポは左右に揺れ、首や腕の鈴が激しく鳴った。
「こうしとくとわしがええ言うまでは絶対に取れんのや。」
「ぅぅぅー・・・意地悪ぅぅぅ・・・」
「何言うとん?めっちゃ可愛いがな。鏡で見したるわ。」
「嫌ぁぁぁー・・・嫌ぁぁぁ・・・」
子猫は泣いて身を振り続けていた。昭彦は子猫を抱き上げると寝室へ連れて行った。
 寝室の壁の鏡の前に子猫を立たせると、泣きじゃくる顔を上に上げさせた。体の痛みで前に屈みそうになるのを肩をつかんで姿勢を正させて言った。
「ちゃんと見てみ。可愛い子猫ちゃんの完成やで。・・・ホンマに何ちゅう可愛さや。」
子猫は鏡の中の昭彦の顔を睨むように見ていた。
「わしがどれほど惚れとるかこの胸を裂いて見せたいほどやで。もうわしはお前の為やったら命はいらん。いつでもお前にくれてやるで。」
昭彦は後ろから抱き締めて、鏡の中の子猫に真剣な眼差しで言った。危険なほど熱くたぎる眼差しには狂気さえ潜んでいるように感じられ、子猫は苦しさを感じながらも、昭彦の強く激しい愛に溺れ始めている自分を見つめていた。

 その日昭彦は仕事には出掛けず、子猫は夜まで貞操帯とシッポをつけていた。子猫が動く度にシッポが揺れ、鈴が鳴るのを昭彦は愛しそうに眺めては満足そうに笑った。子猫は圧迫され続ける苦しさを忘れようと昭彦の逞しい男根に夢中でしゃぶりついた。
 先に貞操帯をはずした昭彦は、
「明日からわしがいない時にはこれをつけてるんやで。」
と言った。
「・・・でも・・・明日は身体測定なの。・・・明日は無理っぽい・・・」
子猫は昭彦の女としてすっかりおとなしい言い方をしている自分に気付いた。アナルを圧迫し続けるシッポはまだ揺れてはふさふさの毛皮が股をくすぐっている。
「病院で診断書貰って提出すればええやろ?明日は休んだらええ。」
と、昭彦はあっさり言って、子猫のベトベトになっている股間を指で愛撫した。ようやく許された秘部への愛撫に子猫は感じて腰を震わせた。
「クックック。ホンマに好きなおまんこやで。そない我慢しとったんか?」
「だって・・・あぁぁん・・・だってぇ・・・」
子猫は昭彦に抱きついてキスを求めて舌をからめた。
「貞操帯にはここにバイブを入れるタイプもあるが子猫にはわし以外のものは入れとうない。せやからこれをつけとる間はきっちり我慢出来るようにならなあかんで。ええな?」
「・・うん・・・」
「そしたら後でいっぱい愛しちゃるで。ん?」
「うん。」
「ほなら、今日の御褒美やろうな。」
「・・・ぅぅ・・シッポ・・・」
「それはつけたままで御褒美や。」
「そ・・・そんなぁ・・・きっと・・・無理な気がするぅ・・・」
「新しい感じ方もいい経験になるで。」
昭彦は子猫を抱っこするようにして今日一日天を向いたままの男根を挿入してきた。
「あ・・・あぁぁぁ・・・ぅぅん・・・ぅぅうう・・・」
アナルがまた強く圧迫される。広がろうとする筋肉に押しつけられる圧迫感が重なり、やっと慣れてきた部分に痛みが走る。更に膣の肉襞をこすられて収縮する動きがアナルも収縮させて痛みを増幅していた。それでも膣は長い間の我慢を強いられていた為、ようやく得た快感にビクビクと反応し男根に吸い付いていく。腰は無意識にも動いてしまう。
「あぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・ううぅぅぅぅ・・・・・」
子猫はすすり泣きながら腰を動かして悶えた。
「どや?痛いんか?」
「うん・・・あぁぁぁぁぁ・・・痛いのぉ・・・」
「けど、ええんやろ?」
「あぅぅぅぅ・・・わかんないぃ・・・うぅぅー・・・痛いのぉ・・・」
子猫はすすり泣いて腰を動かし、昭彦に甘えてキスを求めた。シッポが揺れ続け、鈴がリズムをつけて鳴り続ける。
「あぁぁ・・・あぁぁぁん・・・ああぁぁんん・・・」
「ええ子や。ホンマに可愛いでぇ。あぁぁぁ・・・よぉ締まっとるでぇ・・・」
昭彦も腰をぐいぐいと押し込みリズムをつけて突き上げた。子猫は仰け反って痛みと快感に悶え喘いだ。遠退く意識の中で、子猫はずっと感じていた自分の中の別の生き物を見つけたように思えた。赤い首輪をつけ、鈴を鳴らし、シッポを揺らす姿は、まさに捕らえられた淫獣そのものだった。
「あきぃ・・・あき・・あき・・・」
「子猫ぉ・・可愛いでぇ・・ホンマ可愛いでぇ・・」
「イク・・イク・・イクゥゥゥ・・・」
「お前こそわしの最高の女や。・・・最高最後の女やでぇ・・・」
「あぁぁぁぁぁぁ・・・あああぁぁぁんんんー・・・」
「わしの全てで愛しちゃるでぇぇぇ・・・うううぅぅっっっ・・・ああぁぁぁっっっ!!」
ともに絶頂に達して昭彦は繋がったまま子猫を抱き締めてベッドに体を横たえ、子猫の髪に額に頬にとキスを繰り返していた。
<15>
[四季]
<15>四季

 昭彦が昔の女と話すのを初めて聞いた。それはまだ子猫が朝の微睡みの中にいた時のこと、夢のように意識に入り込む昭彦の声が続いていた。子猫を起こそうとしているものではないことは何となくわかって、体がまだ動き出せない状態のままぼんやりと聞いていた。
「ああ・・・そうだな。それはもう君に任せるよ。私にはこれ以上どうしようもない。・・・私が夏美に紹介したのでもないし・・・それはそうだが・・・そこまで責任は持てないな。・・・ああ・・・」
また夏美さんのことか、と子猫は朝の気持ちいい微睡みを妨げられたことにムカついていた。
(また、あの冬美って人と話してるのだろうか?)
「冬美ももう妹のことを気にしないで自分の生活を大事にしたらいいと言ってやればいいだろう?・・・母親ならそれくらい言えるだろう?」
(母親?!)
子猫は息を飲んだ。これまで姿をまったく意識することのなかった昭彦の昔の女が電話の向こうにいるのだ。娘ではなく、昭彦に抱かれたことのある女が。そう思うとかつてない程に血がざわついてくる。それでも子猫は昭彦に気付かれないようにじっと息を殺して身動きしないようにしていた。
「君も私が新しい暮らしを始めてることくらいわかってるだろう?・・・もちろん、そうは言ったが・・・夏美にはやくざの怖さも薬の怖さもよーく言い聞かせた。それでも聞かないなら・・・しかしなぁ・・・」
昭彦のため息が聞こえてくる。その息は突き放すような冷たさがあった。話し方は子猫が付き合い始めた頃の丁寧な関東弁だったが、その頃の聞き慣れた話し方と違って、穏やかな口調の奥には事務的な響きがあった。それは子猫にとって少しだけホッと肩の緊張が和らぐものだった。
「夏美にちゃんと自分を治そうという気持ちがあるなら入院費くらい出してやってもいいが・・・抜け出す度に連れ戻してやるなんてことはもう出来ないな。・・・だから冬美も君も・・・しかしそう言われても・・・おい・・・春江・・・母親ならもっとしっかりして・・・春江・・・そんな感情的に言う君じゃないだろう?」
昭彦がかつての女の名前を呼んだ。それだけで子猫は胸が苦しくなった。子猫は昭彦に背中を向けていた。昭彦の表情を見ることは出来なかったが、子猫が電話を聞いていることも気付かれずに済むと思っていた。子猫は布団にそっと顔を押し当てて震えてくる息を押さえていた。  と、その時いきなり脇の下に手を差し込まれたと思うと、布団から引きずり出され、ベッドに起きあがって座っていた昭彦の股の間までひっぱられてしまった。乱暴な扱いに脇が痛くなって子猫は昭彦の股間から真上にある昭彦の顔を見上げた。昭彦は子猫に苦笑してみせ、目配せで股間のモノをしゃぶるように指示してきた。
 昭彦の一物はまだ昨夜の疲れを残してシーツに力の抜けきった体を投げ出していた。子猫が頭におはようのキスをするとゆっくり伸びをしながら起きあがってきた。くびれた首に縮れた毛がはりついているのをとってやり、べとつく顔を丁寧に舐めてやると嬉しそうに全身を赤らめて、元気な姿を披露するように胸を反り返した。子猫がからかうように舌の先でくすぐってやるとムキになって怒り出し、血管を浮き上がらせて体を揺らした。子猫はどくんどくんと脈打ちながら頭を突き出してくるのを捕まえ、頭を優しく舐めまわしてやった。小さなひとつしかない目から白っぽい涙が浮かび上がってくる。それを舌の先ですくいとり味わってから、唇を押し当て舌で目をつついた。怒っているのか喜んでいるのか、子猫の手の中でどくどくと脈打っては一層体を反り返らせる。子猫は体中を舐めまわしてから、びんびんにえらを張り出したてかてかの頭をかぽっとくわえた。
「っぁぁ・・・」
相変わらず電話で話を続けていた昭彦が思わず熱い息をもらした。
「・・・いや、何でもない。・・・はっきり言ってもう私をそうあてにして欲しくないんだ。それは君にもわかることだろう?」
子猫は昭彦の男根の根元を握って擦り、頭を上下して鬼頭部分をしゃぶりながら、時々昭彦の顔を見上げていた。昭彦は電話に相づちをしながら子猫の髪を指で弄んでいる。
「ん?・・・クックック・・・ああ、わかるか?・・・ああ・・・可愛い子だよ。・・・ぁぅっ・・」
昭彦は鬼頭を強く噛まれて顔をしかめて子猫を見た。子猫が男根をくわえながら拗ねた目で睨んでいた。
「あ?・・・いや、君との会話に自分のことを出されるのが嫌らしい。・・・ああ、思いっきり噛みつかれた。クックッ・・・そこがまた可愛いところだな。・・・そうゆうことだ。・・・だからこれ以上は話すこともないだろう?・・・君はそうでも夏美にはわかってないらしい。・・・それは無理だな。・・・わかっているが・・・こっちの生活を壊されたらたまらないよ。・・・ああ、傷つけられて泣いていた。」
昭彦はひたすらしゃぶっている子猫を愛おしそうに見つめて髪を撫でた。
「君が謝っても仕方がない。・・・いや、これ以上こっちに干渉してこないで欲しい。・・・もう、いいだろう?・・・どうしても閉じ込めたいなら別の病院を紹介してもいいが・・・いや、どっちも院長と知り合いだからどうにでもなるが・・・そうだな。・・・ああ、考えてみてくれ。・・・ん、それじゃ。」
昭彦がやっと電話を切ったので、子猫はいったんしゃぶるのをやめて、
「長いー!」
と文句を言った。
「母親っちゅうんはしつこいもんや。」
昭彦はいつもの大阪弁で言って苦笑した。
「春江さん?」
「ああ。」
「・・何で大阪弁じゃないの?・・・あぁ・・んん・・・」
子猫は起きあがって昭彦にまたがると自分で昭彦のモノを挿入した。奥まで入れて気持ち良さそうに呻くとゆっくり体を揺らして感じている。
「春江とは大阪弁で話したことはないな。色々な相談に乗ってた時からそうやったし、一緒に暮らすようになっても子供に影響があっても困ると思うてずっと関東弁やったわ。」
「・・ふぅーん・・・こうしてる時も?」
子猫は感じてとろんとした眼差しで昭彦を見ていた。
「どやろ・・・ちょっとは訛りも出たかも知れんが・・・お前とのセックスみたいに興奮することはなかったで・・・そないは使うてへんやろな。」
「・・そう・・・」
子猫は昭彦の唇を吸って舌を絡ませながら腰の動きを早めた。
「あぁぁ・・・気持ちいい・・・んー・・・あんん・・・」
子猫の甘い声はいつもより鼻にかかって挑発的だった。昭彦は体をずらしてベッドに仰向けに横たわり子猫がもっと動きやすいようにした。子猫はリズムをつけて昭彦の固い肉棒を擦り上げ締め付けた。昭彦もたまらないというように体を仰け反らせ呻き始めた。
「うぅぅぅぅぅ・・・あっぁぁ・・・たまらんでぇ・・・」
「あぁん・・・昭彦のその声・・・春江さんに聞かせてやろうかなぁ・・・んん・・・ぁぁああん・・・」
「お前がそうしたいなら電話したろか?・・クックッ・・はぅぅぅ・・・けど、お前が期待するような反応はしないやろな。・・・ぅぅぅ・・・元々ラブホテルの従業員やったんや。こない声くらいでは何とも思わへんやろ。・・・ぁぁっっ・・・まぁ、わしの声は懐かしいかも知れんが・・・」
「あぁー・・・もぉぉ・・くやしいぃぃぃ・・・」
子猫は腰を浮かせてぐるぐる回転させながらぎゅうぎゅうと締め付けた。昭彦の息遣いと呻き声が大きくなって体を捩りながら反り返えらせた。子猫は荒馬を乗りこなすように腰を動かして責め続ける。
「うぅぅ・・はぁはぁ・・・それでも・・ぅぅぅ・・・こない感じることはなかったで。・・・はぁぁ・・・脳天まで痺れてくるわ。・・ぁぁぁっっ・・・獅子が背中から飛び出しそうやでぇ。・・っくぅぅっっ・・・」
「ぁぁああぁぁ・・・猫もぉぉぉ・・・こんなに気持ちいいのぉ・・・知らないぃ・・・あぁぁぁんん・・・」
子猫は力強いピストンのように腰を上下させながら、悶えて仰け反り体中を駆け巡る快感に酔っていた。肌がぶつかる音と湿ったものがこねられる淫靡な音に、ふたりの喘ぎ声と荒い息遣いが入り交じって、神聖な性域が朝の眩しい光の中で作り上げられるようだった。子猫の白い体が朝日を浴びて滲むように輝いている。子猫は天井を仰いで鏡に映し出される二匹の性獣がのたうつ姿を見ていた。
「あぁぁ・・・もぉ・・・どうかなりそぉぉ・・・んんんー・・・」
「ぅぅぅ・・わしはとうに狂うとるでぇ・・・あっぁぁぁっっ・・・」
「あぁぁん・・・気持ちいいぃぃぃ・・・感じすぎるぅぅぅ・・・んんっっ・・・」
子猫は激しく揺れる自分の乳房を両手でつかんで乱暴なくらいに揉んで乳首をきつく抓った。
「あぁああぁぁ・・イクッ・・・あああっっ・・・イクゥッ・・・あきぃぃぃ・・・」
「まだや・・・ぅぅっ・・・まだ狂わしたるでぇぇ・・・」
昭彦は子猫の腰をつかんで膝を立てると下から激しく突き上げた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ」
子猫は絶叫して登り詰め、そのまま気絶した。

 冷たいタオルの感触に子猫は目を開けた。昭彦が子猫の顔に絞ったタオルをそっと押し当てていたのだ。
「大丈夫か?・・少し無理をさせたかな?」
子猫は大きく吸った息を吐きながら微笑んで首を振った。
「大丈夫ぅ・・・そんなに心配しないで。」
「せやけど子猫が一昨日病院で貰うてきた診断書がちと気になっとるで・・あまり無理はさせれんて思うとるんや。・・ポカリ飲むか?」
「うん。」
子猫は起きあがってペットボトルを受け取った。
「そんな特別のことはなかったけどぉ?」
「貧血ってのは軽く見とると怖いで。」
「いつものことだもん。」
「そうやって無茶するからすぐ入院することになるんやで。わしがついてながらそないことはさせれんで。薬貰てきとるんやからなるべく忘れんようにせんとな。」
「・・・うん。」
子猫はポカリを一口飲んで頷いた。
「でもぉ・・猫ってぇ・・Hしてる方が調子いいみたい。うふ。」
「それは低血圧と低体温が上昇するからやろ。けど、体力つけんと消耗はきついで。レバーとかステーキとか食べれたらええのになぁ。」
「いやいや。それは絶対いやぁ。」
「我が侭言うたらあかんで。」
「我が侭ぢゃないもん。・・・なら昭彦は納豆食べて。」
「アホォ。あんなんが喰えるかい。」
「これだから関西の人ってぇ・・・」
「何や?」
「わ・が・ま・ま。きゃははは。」
子猫の無邪気な笑いに昭彦も苦笑する。
「まぁ、ええわ。そない笑える元気があれば大丈夫やな。そしたら起きれるか?・・昼まで寝かしてやろかと思っとったが、薬あるうちは朝を抜かす訳にはいかんからな。」
子猫はポカリを飲みながら頷いた。

 子猫がシャワーを浴びてる間に昭彦が朝食を作ってくれていた。カウンターを挟んで向き合って座って、ベーコンエッグとほうれん草のソテーとクロワッサンを食べる。
「ご飯でも良かったのに・・・」
「子猫は朝からご飯やと食欲がなくなるんやろ?わしは何でもええんや。」
「・・ごめんなさい・・・」
「謝ることやないやろ?遠慮しとったらあかんで。」
「・・うん。・・・あきぃ・・・大好きぃ。」
「そうか?」
昭彦は満更でもなさそうに笑みをこぼして、ちぎったクロワッサンを口に入れた。手首近くまである彫り物はこれまでの生き様を語っていたが、一方で上半身を晒していても昭彦にはどこか品性を感じる優雅さがあった。
「何見とれとるんや?クックッ。」
「だって・・・かっこいいんだもん。」
「アホ。照れること言うとらんでちゃんと喰わなあかんやろ。」
「食べてますぅ。」
子猫はカフェオレを一気に飲み干し、カップを昭彦の前に出した。
「おかわり?」
「うん。」
「ほな、ミルク温めなおしたるわ。」
そう言ってカップを受け取った昭彦はレンジに向かった。昭彦は部屋にいる時は大抵上半身は何も身につけずスウェットパンツを履いていた。外では決して肌を露出しない為、反動があるのだろと子猫は思っている。昭彦の背中を見ながら、子猫はあの春江という人の家庭ではこうした姿はなかったのだろうか、と今朝の電話を思い出していた。
「あきぃ・・・」
「ん?・・もうちょっと待ちぃ。」
「・・・あき・・・あき?・・・あぁ!あき!」
「何やねん?」
「昭彦があきだぁ・・・」
「だからそれがどないしたっちゅうねん。」
昭彦は温めたミルクとコーヒーを合わせてカップに注いだ。湯気の立つカフェオレを、
「熱いから気ぃつけや。」
と言って子猫の前に置いた。子猫は眉をひそめて昭彦の顔を見ていた。
「何ボケとるんや?気ぃつけいて言うとるやろ?」
「・・・だってぇ・・・」
「何やて、まったく。」
「昭彦があきだから・・・春夏秋冬が揃うんだもん・・・」
「・・・あ?今頃気付いたんか?」
「だって・・・昭彦の昭の字が違ってたから季節ってイメージがなかったんだもん。」
「ならそれでええやろ?」
「でも・・・今・・・あきが入ってオールシーズンになるって気がついたんだもん・・・」
「たまたまやがな。しかも子猫の言うように字も違うとるし、気にするこっちゃないで。」
「・・・だって・・・何か・・・悔しい・・・」
「そないくだらんことで嫉妬するなら、初めに名前教えた時にしたらええんや。そしたら字が違うから関係ないて言おう思っとったんやで。先に字が違うから気付かへんかったて言われたら、慰める言葉が見つからんわ。・・ホンマにしゃぁーない子やなぁ。」
「・・・ぅぅぅ・・・」
「まぁ・・そんなボケとるとこも可愛いてたまらんのやけどな。」
「・・・誉められてるのか、けなされてるのか、わからないー・・・」
「わしが子猫をけなしたことがあるか?」
「・・・ぅぅ・・・多分・・・ないと思うけどぉ・・・」
「そやろ?わしが惚れとることは確かなんや。つまらん嫉妬はせんかてええ。」
「・・・うん・・・」
「そしたらもうそのことは終いや。それよりちゃんと残さんように食べなあかんで。」
「・・・うん。」
子猫はまだ半分気持ちが落ち込んでいたが、昭彦の優しい眼差しに少し慰められて、朝食の残りにとりかかった。昭彦も自分の残りを食べ始めた。そして、先に食事を済ませると子猫が食べるのを楽しそうに見守りながら言った。
「お前とおるとホンマにホッとするんや。何ちゅうか気持ちが開放されて真っ新な自分に戻れる気がするんやな。・・・お前のおまんこに狂うとるのに矛盾しとるやろか?・・・けど何もかも・・魂まで吸い取られとる気がするわ。・・・それでええねん。わしの何もかもをお前にやるで。体も心も魂も・・・命もな。・・・そない思うから無になれるのやろか?・・・けど・・・そない思うから怖いんやろな。誰かが悪さしよったらどないしよとか、お前が倒れたらどないしよとか、心配で心配でたまらんのや。・・・その辺の心配とはちゃうんやで?ええか?それをよぉーく肝に銘じとくんやで。」
「・・・おまんこぉ?」
子猫はベーコンがなかなか喉を通らず黙って聞いていたが、やっとカフェオレと一緒に飲み込むと拗ねて口を尖らせた。
「猫が好きなのって・・・おまんこなのぉ?」
昭彦は吹き出し、声を上げて笑った。
「そないボケとるとこもぜぇーんぶや。何もかも全部好きなんや。・・これでええか?」
「ぅぅ・・・うん・・・多分・・・」
「よしよし。ええ子やで。」
昭彦は笑いが収まらないままカウンター越しに子猫の額にキスをした。



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