|
|
| <26> [海に抱かれて] |
<26>海に抱かれて 石橋と橋本が日焼けした赤い顔でアイスボックスを自慢そうに下げて帰った。表情から見てそれなりの成果があったようだった。昭彦はさっそく浜焼きの準備を始め、手伝うと言う二人に先に風呂で疲れを取るようにと労った。 風呂から上がった二人はアロハの上下を着込んで浜に降りてきた。昭彦はすでに二人が釣ってきた魚をさばいて塩焼き用にしたり、刺身にしていた。昨日買ってきたウニやサザエやエビも一緒に焼くことにして火を熾しているとこだった。 「あれ?子猫さんは?」 「ああ、準備が出来たら連れてくる。」 「そうっすか。大漁の魚を見て欲しかったなぁ。・・っつーか、後は自分がやりますから。」 若い橋本は疲れを見せずにこまごまと昭彦を手伝い始めた。 「それにしてもぎょーさん釣ったもんやなぁ。」 昭彦がぐったりとイスに座っている石橋にビールを勧めながら言うと、軽く頭を下げてからビールを一気に飲み干した石橋は、 「自分もこんなに釣れるとは思わなかったっすね。一日魚と格闘して腰が立たなくなりました。」 と苦笑しながら答えた。 「専用の急速フリーザーが置いてある訳やな。食べきれそうもないで、残ったのはそこに入れといたし、帰りの土産にするとええ。」 「あ、すみません。遊ばして貰った上に手伝いも出来なくて・・」 「今日、ここを開けてくれて頼んだのはわしやし、連休も付き合わせちょるんやから、気にせんで楽しんでや。・・橋本もそう気ぃ使わんと好きなのを飲んでな。わしはわしの好みで飲まんだけやし、遠慮なしにしよや。」 「すんません。それじゃ遠慮なく頂きます。」 「出来れば刺身も早い内に胃に収めて貰えるか?・・子猫は生は苦手やから。」 「え?あ・・そうなんっすか。それで隠れてるんすか?あはは。」 「そーゆー訳でもないが、生きた魚が焼かれるのは見たぁないらしい。クックック。姿焼きだと怖がるで、全部さばいてもうたが我慢して付き合ってな?」 「我慢なんてとんでもない。プロ並みの包丁さばきに敬服してたとこです。」 石橋は刺身に舌鼓をうって、自分で注いだビールを美味そうに飲んだ。橋本も魚を焼いたりテーブルで刺身を摘んだりして、美味いを連発しながらビールを飲んでいた。 「若頭からドクターの料理の腕前の評判はお聞きしてましたが、噂以上ですねぇ。」 「やっぱ料理は男っすかね?板前とかは男ですし。・・うちの嫁も気が強いくせに魚はさばけないって切り身しか買ってこないっす。」 「さばくっちゅうんは意外と力がいるで男向きかも知れんな。せやけど、じっくり煮込むような家庭料理は子猫もけっこう上手いで。・・女房泣かすばっかやのうて、われもたまには料理したれや。」 「じゃぁ今度ドクターに弟子入りしようかなぁ。あはは。」 「ええで。メスさばきも解体も多少腕に自信あるでな。」 ビールを飲みかけていた橋本が思わずむせて咳込んだ。 「か・・勘弁して下さい。」 「クックック。冗談やがな。・・・さて、だいたい焼けてきたようやし、子猫を連れてくるわ。」 「はい。いってらっしゃいませ。」 ヤケに緊張した橋本が直角に頭を下げた。石橋も一度立ち上がって昭彦を見送った。 暗くなりかけた岩壁の階段を、子猫を腕に抱き上げた昭彦が、ゆっくり足元を確認しながら降りてきた。白い豪華なレースをふんだんに使ったワンピースを着た子猫は、昭彦の肩に腕を回して顔を隠すようにしていた。一段降りるごとにたっぷりとしたフレアと腰の大きなリボンが揺れた。石橋も魚の焼け具合を見ていた橋本もしばし呆然とその様子に見入っていた。 「おばんです。」 と声をかけた石橋は立ち上がったまま言葉を失った。昭彦は大事そうに子猫をイスにかけさせてやっていた。橋本は焦げ付きそうな魚を火の弱い所に移動させながら、 「子猫さん、今夜は一段と可愛いっすね。ドクターが人形を抱えてきたのかと思っちゃいましたよ。」 と笑いながら声をかけた。が、昭彦の背中で見えなかった子猫の顔を見た途端、石橋同様言葉を無くした。 「もう焼けてるやろ?」 昭彦に呼びかけられて、橋本はハッとして、はい!と答えた。 「そしたらみんな席について食べよや。」 昭彦の声は変わらず穏やかな調子だったが、席についた石橋も橋本もテーブルから視線を上げられず緊張した様子だった。理由は一目瞭然だった。子猫が目を真っ赤に潤ませて、頬も鼻も赤くなるほど泣きはらした顔をしていたからである。唇も下唇に切れた後があり、赤く腫れていた。視線はぼんやりと虚ろげに見える。が、昭彦は気にする様子もなく、焼けた物を大皿に盛ってテーブルに置くと、 「どないした?冷めんうちに食べようや。」 と言って、子猫の前の小皿に料理を取ってやった。 「頂きます。」 低い声でそう言った石橋と橋本は、なるべく子猫を見ないようにして料理に手を出し始めた。昭彦は魚の切り身を更に小さくほぐしてやると、子猫の口まで運んでやっては、 「美味いか?」 と優しい声で聞いていた。子猫はあまり食欲がないようだったが、それでも聞かれるとコクリと頷いては、また昭彦が口元に運ぶものを咀嚼していた。 「・・・あのぉ・・・喧嘩でもしたんすか?」 橋本が気まずさに思いあまったように聞いた。石橋は舌打ちをして小さく首を振り橋本を睨んだ。その様子に昭彦は苦笑して、 「喧嘩なんてするかい。なぁ?」 と、子猫の顎を愛しそうに撫でた。子猫も言葉はなかったがコクリと頷いた。 「ちょっと今日、初めての経験をしたから、それが辛かったようやっちゅうだけのこっちゃで。」 「初めて・・っすか?・・・え?まさか・・・」 「アホ。われの考えるようなこととちゃう。」 「そうっすよねぇ?あはは。昨夜あれだけ激しい夜を過ごしたのに・・」 「なんや。聞いとったんかい。」 「聞くつもりなくても聞こえます。お陰で寝不足ですよ。」 この手の話題は男達には何よりの潤滑剤のようだった。気まずさの中、緊張していた石橋も話しに参加し始めた。 「寝不足で大漁かい。そら足腰立たんようになるわな。・・ん?・・けどあれか?獲物にアンコウがおらんのは、アンコウ捕まえてわれのをくわえさしとったんやないか?クックック。」 「いくらなんでもアンコウが食らいつくほどデカくないっすよ。」 「橋本はトラフグか?」 「うぅわっ・・噛まれて毒がまわるのは嫌っすねぇ。」 こうした会話に飽きる男は希だろう。すっかり互いの経験談や自慢話に華が咲き、お酒もビールからウォッカへと移って、空には満天の星が瞬くようになっていた。ランプとたき火の篝火だけの明かりの中で、打ち寄せる波の音が闇に響く。 料理がすっかりなくなる頃、昭彦が席を立った。 「風がだいぶ冷えてきたようやな。子猫が風邪引くとあかんし、わし等は先にあがるわ。まだ冷蔵庫にはチーズやキャビアがあるし、勝手に出して適当にしてな。」 「はい。お言葉に甘えさして貰います。」 石橋が立ち上がって礼を言うと、橋本も立ち上がりながらランプを手に持った。 「階段、もう暗いっす。テラスまで送ります。」 「大丈夫や。夜目も勘もええ方やで。ゆっくりしとき。」 「そうっすか。ども、っす。」 橋本が頭を下げたのに頷いてから、昭彦はまた大事そうに子猫を抱え上げた。 「あ、ドクター。明日は予定通りでよろしいですか?」 子猫の様子に石橋が懸念したようだった。子猫は予定という言葉を聞いてビクンとして昭彦にしがみついた。石橋と橋本はえ?っと顔を見合わせた。 「怖がらんでええ。今日の予定とはちゃうのんや。今日のは体に負担かかるで毎日はせぇへんて。」 昭彦は苦笑を漏らしながら、肩に顔を押しつけて震える子猫の髪にキスをした。 「明日はクルーザーを借りてあんのや。波に揺られて風に吹かれるのもええもんやろ?」 「・・お船?」 子猫が顔をあげて小さな声で聞いた。かすれてはいたがあどけなくさえ聞こえる声だった。そして石橋と橋本がその日初めて聞く子猫の声だった。顔が腫れ唇が切れ声が枯れるほど泣き叫んだ初めての経験が何か、二人の男の頭を疑問と好奇心がお酒の酔いと一緒になって回っていた。 「船に乗りたいやろ?」 「うん。」 子猫がフッと霞みのように笑った。昭彦も誘われるように微笑んで思わずキスをしていた。確かに喧嘩や諍いのあった二人ではなかった。 「ほな、明日も頼むわな。今夜は子猫を休ませるし、二人も寝不足にならんで済むやろ。」 「いやぁ・・初体験がなんなのか気になって寝れないっすよ。」 「あぁ?」 「すいません!」 聞き返されて橋本はビクッと頭を下げた。 「クックック。何や、さっきのことぉまだ気にしとったんかい。・・石橋もそうなんかぁ?」 「え・・まぁ・・聞かせて頂けるなら知りたいもんですね。」 昭彦はクスクス笑って子猫に伺うような視線を向ける。子猫は耳まで真っ赤にして、また昭彦の肩に顔を埋めた。 「そやなぁ・・まぁ、ええやろ。・・・アナルセックスを経験さしてやったんや。」 「ア・・・アナルっすか・・・」 「そやかていきなりやないで。前からちょっとっつ調教しとったんや。・・けど、まぁ、アンコウっちゅう訳にはいかんやったようやで。かなり泣かしてもうたわ。」 「そうゆうことだったんですね。なるほど・・」 「それでも最後にはかなり感じとったよなぁ?・・ん?」 昭彦が子猫の耳元に囁くように言うと、子猫は顔を埋めたまま小さく呻いた。 「ぅぅぅ・・・知らない・・・」 「もっとぉ・・もっとぉ・・っちゅうとったやないか?」 「・・・知らないもん・・・」 「時々はまたして欲しいやろ?」 「・・・わかんない・・・」 「ほならもう二度と嫌か?」 「・・・・・・・・・」 「クックック。・・・せやろぉ?」 「・・・知らないもぉーん・・・」 子猫は顔をあげて赤く腫れた頬を膨らませて昭彦を睨んだ。それは拗ねた駄々っ子の表情そのものだった。納得のいった石橋と橋本は昭彦と子猫の会話をさりげなく聞き流すようにしながら、口元には好色そうな笑いを浮かべていた。 「そんなに嫌やったんなら、もうせんわ。それでええか?」 「・・・・・・・・・・」 「また、欲しいんやろ?」 「・・・・・すぐは・・・ヤ・・・」 「ん?」 「・・・だって・・・痛いんだもん・・・」 橋本が真っ先に吹き出して笑い出した。我慢していた石橋もつられて吹き出すと肩を震わせて笑い出していた。昭彦も声こそ出さなかったが、ヒクヒクと笑い出し、子猫を抱き上げている腹筋がヒクヒクと動いていた。 「たまらん可愛さやろ?」 「そうっすね。参りました。」 「いや、本当に完敗です。」 男達の会話が子猫には意味がわからず、眉を寄せて訝しそうな顔になった。昭彦は笑いが収まらないまま、子猫の顔に鼻を擦りつけた。 「子猫がわしの宝やっちゅうことを納得したっちゅうこっちゃ。」 そう言って昭彦はキスをすると、まだ笑っている二人を残して岩壁の階段をゆっくりと登っていった。 次の日は約束通り近くの港からクルーザーで大海原へと出港した。船を操縦する船長が天気は大丈夫そうだと言ったので、昭彦が今夜はこのクルーザーに泊まると言った。それを聞いて子猫は目を輝かせて喜んだ。石橋と橋本はすっかり釣りにハマったようで、燦々と降りそそぐ日の光を浴びながら、竿を垂らして大物狙い競争をしていた。昭彦と子猫は日陰で寝そべり、本を読んだり、ゲームをしたりしてのんびりしていた。一度船室に入って3時間ほど昼寝を楽しんで来た後、ピッタリと寄り添って気怠そうで満たされている二人だけの世界を醸しだしつつ午後を過ごしていた。 夜には船の明かりを消してしばらく星空を楽しんだ。船長と石橋、橋本が船室に消えると、昭彦は毛布を甲板に広げて、星空の中で子猫を抱いた。真っ暗な揺れる海のただ中で子猫は昭彦との繋がりをいつも以上に強く感じていた。船に当たって弾ける波の音。潮の香りいっぱいの風。満天の星空。この広い広い闇の空間に二人だけ存在しているかのような錯覚に囚われ、切ない思いとひとつになっている喜びとが入り交じって、子猫は何もかもを忘れて感じていた。 翌日、午前中に船から降りて別荘に戻ると、石橋と橋本はもう我慢出来ないとばかりに地元の街へ繰り出して行った。明日はここをたって戻ることになっていたが、すっかりあてられた二人は帰る前に手頃な女を見つけて遊ぶことに決めたらしい。そう昭彦から二人がいそいそと出掛けた理由を説明された子猫は、石橋には妻だけでなく子供もいると聞いていたのに、と顔を曇らせた。が、昭彦は笑って、遊びと不倫は違うと軽く言った。どう違うのか子猫には漠然とはわかっていた。子猫自身不倫で苦しんだ経験があるのだから。ただ、そのことは昭彦には話していなかった。子猫の過去の全てを受け止めると言ってくれた昭彦だったが、子猫が話さないことは敢えて聞こうとはしなかった。昭彦が初めての相手ではないことも許してくれていた。だが、それでも不倫していたとは言えなかった。一瞬不安がよぎったが、今を大事にしていけばそれでいいようにも思えて、昭彦の優しい眼差しに包まれて幸せを噛みしめる子猫だった。 翌朝、すっきりした顔の二人が戻り、子猫達は別荘を後にした。帰りに水族館に立ち寄ったので、子猫は圭子と部用のお土産を買った。他にもあちこち立ち寄って帰ったので、マンションに着いた時にはすっかり夜になっていた。 こうして4泊5日の素晴らしい休日が終わった。明日から、またいつもの生活に戻るのが不思議な気がした。自分自身さえも変わってしまうような多くの思い出の詰まった日々だった。 |
| <27> [マンション玄関] |
<27>マンション玄関 連休明けの昼の時間に、子猫は圭子にお土産を渡した。小さな貝やヒトデを象った飾りが揺れる銀のブレスレットだった。圭子はさっそく腕につけると、 「超ー可愛いー!サンキュ!」 と言って喜んでくれた。 「ごめんね。特出に参加出来なくて。どうだった?進んだ?」 「まぁまぁかな。子猫には当分放課後に自分の担当分は仕上げて貰いますから。」 「あーん・・・お土産あげたのにぃ・・・」 「それとこれとは別ぅ。ふふふ。」 「仕方ないっか。ふふ。」 圭子は文芸部のみんな用に買ってきたお菓子の包みも開けて、ひとつつまんで袋からクラゲの絵が描いてあるビスケットを出すと口に放り込んだ。 「んー・・これも美味しいー!」 「クラゲのエキス入りだって。」 「ウソッ?!」 「ウッソでぇーす。きゃは。」 「もぉー・・・でもいいなぁ。猫、何か幸せぇって顔してるぞ。」 「そうかなぁ?・・圭子は連休何してたの?」 「二日間はしっかり文化祭の準備してたでしょう?」 「あはは、はいはい。」 「後は家の手伝いかなぁ。不景気のくせに忙しいんだから。」 「大変だぁ・・・」 「あは、何もしないでゴロゴロしてるのが悪いんだけどさ。そんな暇なら手伝えって。・・・彼氏でもいてデートに出掛ければいいんだけどねぇ。」 「文化祭で申し込まれるかもよぉ。彼氏作るチャーンス!」 圭子の話を聞けば聞くほど、浮かれ気分の自分が悪い気がしてきていたので、何とか明るい話題に向けようと思う子猫だった。 「文化祭・・・彼も来る?」 「うん。見たいって言ってくれてるから。」 「猫の彼氏じゃなくぅ・・・いつも一緒にいる・・・正次さんだっけ?」 子猫はドキッとして圭子の顔を見た。圭子はコーヒーカップを両手で持って、ゆっくりすすりながら、照れたような目線を子猫に向けていた。 「正次さん・・・転勤になっちゃったみたい。」 「えー!ウッソォー?」 嘘も何もあの一件以来、子猫も正次には会ってないのだ。正次の名前を出すだけでも昭彦は自分を裏切った虫けらと吐き捨てるように言って、二度とその名を言うな、と釘を刺すのだから、圭子の淡い想いを応援出来るはずもなかった。 「それに・・・付き合ってる彼女ってひとりだけじゃないみたいだし・・・」 「えぇ・・・そうなんだぁ・・・やっぱそうだよねぇ。若いのにあんな高級な車乗ってお金持ちそうだしぃ、かっこいいもんね。・・・はぁぁ・・・打ち明ける前に失恋かぁ・・・」 「ごめん・・・」 「猫が悪いんじゃないから、気にしないで。」 「・・・うん。・・・でも、正次さんが好みなんて・・・変わってない?」 「あー!猫の好みだって相当なもんじゃん。」 「え?・・・そっか・・・あは・・・」 「何かさぁ、高校・大学くらいの親のスネかじってるような男って、どっか甘えてるようで嫌なんだぁ。と言ってもおじ様だと話す話題がみつかりそうもないしさ、正次さんくらいの社会人っていいなぁって思っちゃうんだ。」 圭子はコーヒーを飲み干すとちょっと肩をすくめ、 「ま、焦らず自分に合った人を探します。」 と言って笑った。子猫も微笑んでうんうんと頷きながら、圭子のしっかりした姿勢に感心していた。そして正次の人懐っこそうな笑顔がフッと懐かしく思い出された。 日の暮れるのが遅くなったこともあって、7時までに帰れば迎えはよこさないと約束して貰っていたので、文化祭の準備に追われながらも6時バスには乗って帰る子猫だった。 連休が明けて数日経過したこの日も、子猫は7時目前にマンションに戻ってきた。そしてマンション玄関にカードキーを差し込もうとしていた時、背後から人が近付いてきた。人影に気付いた子猫はキーを差し込むのをやめて振り返った。 「あ・・・冬美さん・・・ですか?」 一度会っただけだったが、忘れるはずもなかった。昭彦が娘と呼ぶ相手である。 「こんにちわ。おひさしぶり。」 冬美は仕事帰りなのか、淡いオレンジ色のジャケットスーツを着ていた。胸元から見える白いブラウスのレース飾りがさりげなく大人の女性の色気を醸しだしていた。 「おひさしぶりです。」 子猫は内心面白くなかったが、頭を下げて挨拶をした。 「あの・・昭彦さんなら仕事に行ってると思いますけど・・」 「そうね。でも最近はクラブの方には行ってないでしょう?」 「え?・・・クラブ?」 子猫は本当に仕事の内容を聞くことがなかったので、冬美の言ってる意味がすぐにはわからなかった。冬美はそんな子猫の様子を見て、微かに冷たい笑みをこぼしたようだった。 「子猫さん、パパの仕事先知らなかったの?」 「・・・詳しくは・・・」 「それに今は組事務所に行ってることの方が多いのよ。パパが戻ったことくらいは聞いているんでしょう?」 「・・・はい。」 いちいち勘に障る言い方に聞こえてしまう。それにこんな所でいつまでも立ち話をしていたくなかった。7時には昭彦からちゃんと帰っているか、確認の電話が入るのだ。 「ここへは朝にならないと帰らないと思いますので、御存知ならそっちにいらして下さい。」 子猫は感情を押さえて事務的に言った。 「やだぁ、組事務所になんて顔出したら、パパに叱られちゃうじゃないの。」 ますますムカついてきた。子猫の知らないことを得意げに話した挙げ句に、勝手にすればと言いたいのを我慢して丁寧に言えば、さも子猫が酷いことを言ったような態度をとる。 「すみませんけど、急いでますので・・・」 「そんな邪険にしないでよ。」 「別に・・」 「今日は子猫さんにお願いがあってきたの。少し話す時間頂けないかしら?」 「え?」 子猫には冬美と話さなければいけないことがあるように思えなかった。子猫が困ってうつむいていると、冬美が子猫の腕をつかんだ。 「あなたにお願いする筋じゃないかも知れないけど、ずっとパパと思ってきた存在を失ってしまう者の気持ちもわかって欲しいの。」 どうしてこうも神経に障る言い方をする人なんだろう、と思わずにはいれなかった。わかって欲しいということは子猫にはわかってないと言ってるようなものだ。そして、どうしてわからないと彼女に言い切れるのか。子猫だって父親を失った悲しみを知っている。それを、今、子猫が彼女達の父親を奪ったと言われてる気にさせられていた。そうなのだろうか?昭彦の子猫への溺愛を思えば、そうかも知れない、と思うことが辛かった。 「・・・でも・・・猫には・・・」 「もう8年パパと思ってきたのよ。夏美だってそれを信じてるから我が侭をぶつけてきたんだし、パパだってずっと大事にしてきてくれたの。」 あなたに会うまでは。と言葉にはしないけれど伝わってしまうものがあった。子猫は泣きたくなった。もう7時を回ってしまった。冬美がどうしたいのかもよくわからない。わかったとしても自分に何が出来るのかもわからない。しかも冬美は自分の言いたいことを一方的に押しつけてくる。小学校のいじめっ子によくいたタイプだな、と思い出してしまう。相手の言い分は聞かず言わせず、しかも相手の気持ちまで勝手に決めつけて、自分の言いたいことだけを言うのだ。子猫は気持ちがだんだん凍り付くのを感じていた。 「今ここでそう言われても困ります。」 「こんなにお願いしても聞いてくれないって言うの?」 「何をお願いされてるのかわからないんですけど・・」 「だから話す時間が欲しいって言ったでしょう?」 子猫はため息をついた。玄関で立ち往生している子猫の気持ちは冬美にはわからないのか、と言ってやりたかった。 「一度部屋に行って鞄を置いてきたいんですけど。」 「あら、部屋では話せないって言うの?」 冬美の言葉に子猫は真正面から冬美を睨み付けた。 「冬美さんは昭彦さんの許可を取られたんですか?許可のない人を部屋にはあげないように言われています。それを敢えて犯せと言う権利はあなたにはないはずです。」 子猫のキツイ視線と言葉に冬美はたじろいだ。 「そんなこと言ってないじゃないの。それに私の知らない話じゃない。」 「どうしても話があると言われるなら、鞄を置いて着替えてから降りてきます。お願いするなら待つくらいの態度を見せてください。」 「・・・わかったわ。」 冬美はくやしそうに唇を噛んだ。だが、自分が折れてでも子猫との話はしたいらしい。玄関の階段を降りて背中を向けた冬美を見ながら、子猫はカードキーを差し込んで中に入って行った。ロックされた厚いガラス越しに冬美の背中を見た子猫は、急に自分が意地悪だったような罪悪感にとらわれた。立場が弱いのは冬美なのだ。子猫には昭彦から愛されている自信がある。それなら、いくら冬美の言い方が無神経だったとしても、子猫の方で気遣って話を聞くべきだったのではないか。ただ、部屋にだけはあげられなかった。昭彦の書斎は子猫でも立入禁止なのだ。そうした場所がある以上昭彦が同伴してない相手は決して入れられない。正次の時も子猫さえもっと注意していれば、何も問題はなかったはずなのだ。ともあれ、冬美の話はちゃんと親身になって我慢強く聞いてあげよう、と思いながら部屋へ続くエレベーターに乗り込む子猫だった。 部屋の玄関を開けた時から電話が鳴り続けていた。子猫は足がもつれそうになりながらリビングにある電話の受話器を取った。 −「何しとんじゃい!遅いやないか?アホ!」 いきなり怒鳴られて子猫は受話器を耳から離し気味にした。 「ちゃんと間に合うように帰ったもーん。」 −「いい加減なことぬかすなや!さっきからずーっとかけっぱなしやぞ!」 「ごめんなさいー!・・・でもぉ・・・」 −「ちゃんと時間に帰らな心配するやないか?わかっとんのか?」 「だから謝ってるじゃぁーん。」 −「一体何やっとったんじゃい?変な男に言い寄られちょったんか?」 「違うってばぁ・・・冬美さんなのぉ・・・」 −「ああ?」 「いつまでも怒ってるなら言わなぁい。」 −「何やねん。冬美が何で関係あんのや?」 「だからぁ、帰ってきたら玄関のとこで冬美さんに会ったのぉ。」 −「・・・どーゆーこっちゃ?」 やっと昭彦の声のトーンが下がってきたので、子猫は受話器を耳にあてると、簡単にさっきのことを話して遅れた訳を説明した。そして約束したから、これから着替えて出掛けるけど、心配しないで許可して欲しいと頼んだ。子猫の外出も昭彦の許可がない限り許されてなかったのだ。 −「お前が冬美と話す必要はないやろ。」 「でも・・・待ってるし・・・」 −「無視したらええやないかい。」 「そんな酷いこと出来ないよぉ。」 −「わしが相手にせんちゅうて子猫に文句言うのは筋違いやないか。」 「でもね、何か・・・何か・・・本当に困ってるみたいなの。」 −「どうせまた夏美のことやろ。キリがないでもう相手にせんことにしたんや。」 「・・・それはまだ聞いてないからわかんないもん。」 −「夜の外出はあかんちゅうとるやろ?わしがついてない限りは他の誰とおっても許さへんで。」 「それじゃぁこの部屋にあげるの?」 −「アホさらせ!わしのおらん時は誰であってもあげるなっちゅうたんを忘れたんか!」 「忘れてないよぉ・・・だからさっきだって・・・」 −「そやろ?子猫はちゃーんとわかる子や。」 「でも・・・」 昭彦のため息が聞こえた。子猫が粘り続けるので根負けしたようだ。 −「わかった。冬美が話したいんはわしやろ?橋本を迎えに行かせるからこっちで話し聞いたるわ。お前はそのまま部屋におったらええ。」 そう言って昭彦は少しの間電話を離すと、誰かに指示を出したようだった。 −「今行かせたから、15分もかからんやろ。子猫は何も心配することない。」 「猫が一緒に行っちゃいけないの?」 −「高校生が夜に出歩くもんやないで。テスト勉強かてせなならんのやろ?」 「そうだけどぉ・・・でも約束を破ることになっちゃうもん。」 −「無茶言っちょるんは冬美の方やろが。わしが冷たいからて子猫に何頼むっちゅうねん。」 「・・・昭彦がちゃんと話を聞いてくれるようにってことかなぁ?」 −「せやろ?結局はそれが目的やないかい。」 「・・・かも・・・」 −「でぇ、子猫はお人好しやからすーぐ聞こうとするやろ?」 「・・・わかんない・・・」 −「余計話がややこしくなるだけやで。ええか?もうこの件で子猫が気にすることはないのや。冬美にもよーく言い聞かしたるでな。それと、子猫の気ぃ済むように、今回だけはちゃんと聞いたることにする。な?それでええやろ?」 「・・・うん。・・あ、でも冬美さん、いきなり橋本さんが来たらびっくりしない?」 −「冬美は携帯持っちょるで連絡入れとくわ。せやから、子猫は何もせんでそこにおったらええ。わざわざ下行って、冬美と橋本をご対面させることもないで。ええな?」 「うん。・・わかった。」 −「後でまた電話するで、心配せんといつものようにしちょるんやで?」 「うん。」 −「夕飯はシチューパスタにしたで、メモ見てそのように温めて食べるんやで。」 「うん。ありがと。」 −「そしたらお帰りのキスや。愛してるで。Chu!」 「猫も愛してるぅ。Chu!」 電話が終わって子猫は大きく息をついた。これで良かったのか、と不安になったが、かといって他の方法はなかったと思う。子猫は玄関の前の道路が見える窓に行くと、部屋の電気はつけないままでじっと様子を眺めていた。ほどなく黒い大きな車が入って来て、冬美がそれに乗り込んでいくのを息を潜めて見ていた。車はすぐにまたマンションから走り去って行った。子猫は車が見えなくなってからもしばらくぼんやり外を眺めていたが、そのときの気持ちは複雑で、自分自身にも言いようのない不安と焦燥が何故なのかつかめなかった。 |
| <28> [重い石] |
<28>重い石 冬美が訪ねて来た次の日、子猫は部活を休んで早めにマンションに帰ってきた。一日授業にも身が入らなかった。冬美と昭彦の間でどんな話があったのかはわからないが、夜の昭彦からの電話で、出掛けることになったから朝までに帰るのは無理だ、と言うことと、帰ったら説明するから、とだけ聞いていた。何度寝返りをうっても目が冴えて眠れぬまま朝を迎え、紅茶を一杯飲んだだけで寂しく登校したのだった。 玄関を開けて昭彦の靴がないかと見たが、まだ帰った様子がなかった。朝使ったティーポットがそのままの状態であった。目を閉じてため息をついた子猫は軽い目眩を感じて、寝室へ向かった。制服を脱ぐのももどかしく、そのままベッドに倒れ込んだ。 電話の音で目を覚ました。まだ明るい内に帰った子猫だったが、目を覚ますと寝室は薄闇に包まれていた。ベッドの上を這うようにして電話に出ると、 −「ちゃんと帰っちょるか?」 と、いつもの昭彦の声がした。 「んー・・・」 子猫はまだはっきり目覚めきらない声で答えた。 −「どないした?元気がないようやないか?」 頭が重く、体もまだ起ききってなく怠かった。 「今、起きたとこぉ・・・」 −「ん?・・学校休んだんか?」 「部活休んだの。昭彦が帰ってるかと思って。でも、いなかった。」 −「済まんかったなぁ。昼には戻っちょったんやけどな、こっちの仕事も急ぎのもんがあっちょったで帰れんかったんや。」 「そなんだぁ・・・」 −「寝ちょったて言うたな?調子悪いんか?」 「ううん。ただ、昨夜は気になって眠れなかったから・・それだけ。」 −「そうかぁ。寂しい思いさしてホンマに済まんかったなぁ。後一時間もすれば帰れるでええ子で待っちょるんやで?」 「ホント?」 子猫はガバッと起きあがった。 −「ああ。夕飯は何か旨い物見繕って帰るさかいな。」 「うん。わかったぁ。」 電話を切った子猫は急に元気が出てきたようで、着たままだった制服を脱いで、シャワーで汗を流した。それから、昭彦好みの服を選んで着ると今か今かと待ちわびていた。 昭彦の姿を見るなり飛びついた子猫を、昭彦は抱き締めてキスをしてくれた。そして、買ってきた夕食の袋をカウンターに置くと、子猫を抱き上げて寝室へ行った。 「我慢出来んわ。夕飯よりこっちが先や。」 昭彦は子猫の服をいささか乱暴気味に脱がせて、乳房をしゃぶりながらそう言うと、もどかしそうに自分も服を脱ぎ捨てていった。 「猫もぉ・・昭彦が一番欲しいー。」 昨日の朝から一日半ぶりの昭彦の匂いを深く吸いこんで、子猫も切なそうに言う。麝香の香りの奥に昭彦の野性的な男の匂いがする。 「浮気しなかった?」 子猫がそそり立つ昭彦の肉棒を自分の恥部に押し当てながら聞くと、 「アホ!お前以外の女に興味あるかい!」 と怒声を発しながら、昭彦が一気に子猫を貫いた。空虚だった子猫の体が熱く満たされ、いっぱいに押し広げられた。 「ああぁぁぁーーー・・・」 この感覚をどれほど恋しく待っていたか。この固さ。この充実感。子猫は昭彦の背中に強く抱きついて、肉棒を強く強く締め付けた。 「うぅぅぅぅーーー・・・これやっ・・・この吸い付きがたまらんのやっっ!」 昭彦は子猫に激しくキスをしながら、好きなだけ子猫が締め付けるままにさせた。締め付けは止まらず、昭彦が苦痛に眉を寄せるほどきつく締め上げていた。子猫は自分でもどうにもならないまま一気に登り詰めた。 「ああぁぁぁーーー・・・イクゥゥゥーーー!」 昭彦が貫いたまま一度も動かさないうちに、初めの絶頂に達した子猫は、虹色の光の渦の中で共鳴する鼓動を感じていた。 「お前さえおったら他の女はいらんわ。」 昭彦は固いまま子猫をいかせた肉棒で、子猫のビクビクと痙攣するように波打つ肉襞を擦り上げ始めた。 「ああぁぁぁぁ・・・あきぃ・・・あきぃ・・・昭彦ぉぉぉ・・・」 子猫の締め付けはまだ続いている。昭彦は呻いて熱い息を吐いては、ゆっくりゆっくりとその感触を楽しみながら突き上げる。 「あぁぁぁぁぅぅぅ・・・たまらんわ・・・ホンマに堪えられん・・・」 昭彦は時々たまりかねたように、苦悶の表情で目を閉じ、腰を震わせるように小刻みに動かし、切なく悶える喘ぎ声を洩らす。子猫も昭彦とぴっちり肌を合わせて、昭彦の快感を一緒に味わっている。そして時々、意識しないのに強烈に締め付けてしまう。 「はぁぁぅぅ・・・そない寂しかったんかぁ・・・そうかそうかぁ・・・今夜のここはいつも以上に熱いでぇ・・・たまらん熱さやぁ・・・くぅぅぅ・・・めちゃめちゃ最高やでぇぇぇ・・・」 「あきぃ・・・あきぃ・・・」 子猫はまた的を絞り込むような絶頂感に近づいていった。昭彦ももう堪えきれないとばかりに次第に動きを早めていった。 「いくでぇ・・・いくでぇ・・・ええかぁ?」 「あん、あん、あぁぁぁん、ん、あん、・・・猫もイクゥゥゥーーー!」 「よっしゃぁぁぁーー!いくでぇぇぇーー!・・・ぐぅぅぅ・・・あああーーーーーっっっ!!!」 熱いものが迸り子猫を満たしていく。 「愛してる、子猫。・・・愛してる。」 昭彦は子猫にキスを繰り返し、ゆっくり体を離した。 逞しく跳躍する獅子の背にまたがって、赤い牡丹が咲き乱れる虹色の雲の上を駆け巡った。獅子が雲を蹴散らすように跳躍する度、筋肉の動きを密着する股間で感じていた。獅子は麝香の香りと青草の香りを全身から発散させ、肩から胸へと繁るたてがみを風に勇猛となびかせていた。 「そらぁ、背中の獅子も本望やったろうなぁ。」 そんな夢を子猫が語るのを、昭彦は彫り物で覆われた腹筋を震わせてくすくす笑いながら聞いてやっていた。子猫は昭彦の胸に体を預け、足を絡ませながら囁くように話していた。 と、・・・グゥゥゥー・・・っと昭彦のお腹が鳴った。 「あかん。忙しすぎて昼も喰うとらんのや。」 昭彦が苦笑して言った時、子猫のお腹も小さく鳴った。 「猫も・・・今日は何も食べてなかったかも・・・」 「ったく、これやから・・・食事はちゃんとせいっちゅうとるやろ?」 「昭彦だってぇー・・・」 昭彦はグッと言葉を詰まらせると片目を眇めてからクスッと笑った。 「ほな、夕飯にしよか。点心色々買うてきたよってな。」 「わぁ、楽しみぃ。ふふ。」 昭彦は買ってきた料理を温め直してお皿に盛りつけた。長身で筋肉質の体の昭彦だったが、普段はそれほど大食漢ではなく、サッパリとした料理を好んでいた。甘い物は苦手といいつつも、子猫の好きなゴマだんごも買ってきてくれていた。金魚の形の水餃子も可愛くて美味しかった。先がピンク色の桃まんじゅうもあって、子猫はウーロン茶を飲みながら料理を満喫した。昭彦もあれこれ味見しては子猫に薦め、子猫が「美味しい。」と言うと嬉しそうな笑顔で頷いていた。 「もう先物が出ちょったで。」 昭彦がデザートに小玉スイカを出した。半分に切って皿に乗せ、自分と子猫の前に置いたのだ。 「スイカほど美味い物はないなぁ。」 と、スプーンですくって食べながら、昭彦は満足そうに笑った。 「・・・そうなの?」 「夏の食事っちゅうたらスイカが一番やな。大玉を半分にして昼と夜で喰うんや。」 「ふーん・・・」 「子猫は嫌いか?」 「ううん。好きだよ。・・でも、こんなには食べきれないかも・・・」 「残ったらわしが喰っちゃるで、食べれるだけ食べたらええ。」 「うん。」 子猫は半分残すのを目安に食べ始めた。真ん中だけ先にすくうと味の薄い場所だけ残ってしまうので、小さく切り分けたのを食べるのと同じ感覚に食べていった。 昭彦が春江さんと暮らしていた時はスイカは2個をやっぱり半分ずつ食べたのだろうか、と思った時、冬美の話が気になり出した。 「ねぇ、あきぃ・・・冬美さんの話って何だったの?」 「フン。いつものこっちゃがな。夏美のボケが・・・」 昭彦は顔をしかめて吐き捨てるように言った。 「聞いちゃいけないことなら聞かないけどぉ・・・」 ん?っと昭彦は子猫の顔を見た。少しの間があったがフッと笑みを洩らした。 「冬美の方で押し掛けてきたもんを黙っちょるんも面白くないやろ?」 そう言って昭彦は昨日のことも含め、これまでの経緯を話し出した。 夏美が付き合っていたのは元々は昭彦と同じ組の舎弟だった。だが、賭博にのめり込み、その負債を埋めようと薬にも手を出すようになった。 「薬っちゅうんはよっぽど注意して固い気持ちで扱わな自分がやられてまうんや。」 と、昭彦が言うように、その男も薬に自分自身が溺れていった。当然付き合ってる夏美も引き込まれた。昭彦が間に入ってその男を破門にし、夏美も入院させたのだが、病院を抜け出しては男の所へ走ってしまう。この前の時には、夏美を監視の厳しい病院に入れる一方で、男に手切れ金を渡して夏美の知らない場所へ身を隠すようにと言い渡したのだった。 一旦は承知して姿を眩ましていたが、金に困り出すと、また夏美にこっそり連絡を入れたらしい。夏美はまた病院を抜け出し男の元に走った。 「夏美が追っていったのは知っちょったが、もうかまってられへん。せやから、また薬をやっちょるの、体売っちょるのと聞いても放っっといたんや。」 昭彦はため息をついて首を振った。そして、そこからが冬美の話になっていった。 男は夏美をソープで働かせて薬代にしていたが、夏美が働いてる間にまた賭博にのめり込んで、400万という借金をしてしまった。地元の暴力団が運営する賭場でのことで、即金で返せないなら夏美を遠洋漁船に乗せると言い出したのだ。夏美がいくらソープで稼いでも二人の薬代で消えていくのは目に見えている。待っても払えない以上、組の方で払う段取りをつけよう、ということらしかった。遠洋漁船は一度日本を出ると数ヶ月は帰って来ない。それで男ばかりの不満を解消する為に商売女を秘密裏に船に乗せるというのはよくあるそうだ。船での生活は楽ではない。漁がない時は暇な男達が昼夜を問わず、並んで次々に体を求めてくる。水が貴重な為、毎日風呂に入ることも出来ない。相手をする男達も風呂に入らない汚れたままの体である。不衛生の中で続けられる行為で下半身はただれてしまう。それでも公衆便所のように男の排泄処理は続けられる。船が他国に寄港する時は船倉の汚い箱に隠される。そうやって日本に戻った時には心身共にボロボロになってしまうのだと言う。 「一度徹底的に痛い目ぇ見て懲りた方がええとも思うたんやがな・・」 これが最後の父親としての誠意だと冬美に念を押し、400万と相当のお金を用意して、その男と夏美がいる某県へ行ってきたという。地元のやくざに直接男の借金分を支払い、今後夏美からは一切の手を引いてくれるように頼み、夏美の働いていたソープでの前借り分も払ってやった。 「男への落とし前はきっちりつけるつもりやが、そこまではまだ時間がなかったでな、夏美を連れ帰って、今度は鍵のかかるとこへ入院さしたんや。夏美にも帰る車ん中でこんこんと言い聞かしたで、今後自分で自分を貶めることしたかてもう助けんちゅうたし、ちょっとはわかったやろ。・・・ま、わからんでも、もう知らん。・・・そーゆうこっちゃ。」 長い話をじっと聞いていた子猫は、夏美にも冬美にも春江にも、そして昭彦にも怒りが込み上げてきていた。夏美が冬美に助けを求めたのは明らかだ。だから冬美は昭彦に助けを求めに来たのだ。夏美が自分でそう決めて、周囲の忠告も聞かずに好きなように行動したのだから、何があろうと覚悟していればいいのに。困った時だけ泣きついてくるなんて。昭彦は本当に父親として大事に接してきたのだろう。だから、泣きつけば何とかしてくれると思うのだ。冬美もそうだし、母親の春江にしてもそうだ。3人が3人共、昭彦なら何とかしてくれると思っているのだ。そして昭彦もこれまでそうしてやることが父親としての誠意だとばかりに甘やかしてきたのだろう。なんてベトベトした気色の悪い関係なんだ、と子猫はむしずが走る思いだった。 「子猫?」 じっとテーブルの一点を見つめたまま表情を固くしている子猫を見て、昭彦が手を伸ばして頬をさすった。子猫はビクッとして昭彦を見たが、無意識に昭彦の触れた頬を腕で拭うようにしてしまった。 「・・・どないしたん?」 昭彦の表情も強ばってきた。子猫から初めて受ける非難を含んだ視線に戸惑っているようだった。 「何が言いたいんや?言いたいことがあったらちゃんと言うてみ。」 言えるはずがなかった。少しでも彼女達への非難を子猫が口にすれば、今の昭彦なら子猫の言い分を取るだろう。そうなったら、子猫が割り込んだと言う夏美達の言い分がそのままの事実になってしまう。子猫が言ったからではなく、彼女達自身が気付くべきことなのだ。どんな生き方をしようと、極端に言ってしまえば、勝手だろう。だが、勝手に生きる以上、どんな結果が舞い込もうと、自らにその責を問うべきではないか。仮に昭彦が何度でも助けてくれるお人好しだったとしても、自分の意地を通す為に断るのが筋ではないか。それがプライドというものじゃないのか。 「ご馳走様・・・」 子猫はテーブルを離れてソファーに座るとTVをつけた。気持ちを変えよう。言ってはいけないことを口走る前に怒りを静めよう。画面には何かを話しては笑う人達が映っている。TVから流れてくる言葉は意味のあるものとして子猫の耳には入らなかった。だが、影絵をみる思いで子猫は画面を見続けていた。 「どないしたんや?」 昭彦が隣りに座って子猫の肩を抱き寄せながら、優しく言ってくる。肩に置かれた昭彦の掌から伝わってくる温もりが嬉しくもあり、逆に気持ち悪いと思ってしまう嫌悪感もあった。 「別に・・・」 子猫は悲しくなってきた。自分は冷たすぎるのだろうか。彼女達への怒りは嫉妬ではないという確信はあった。だが、一個の人間としての境界線がお互いの甘えの中であやふやになってしまう親子はいくらでも世間にいるじゃないか。子猫が甘えられる親がいないから、彼女達のルーズさが許せないだけなのではないか。 「子猫・・・」 子猫の目から涙がぽろぽろとこぼれ落ちてきた。昭彦は、何も話そうとせず、人形のように凍り付いた表情の子猫から、流れる涙を唇をつけて吸うと、きつく抱き締めた。 「何も言うてくれへんかったら、わからんやろ?」 「・・・自分でもわかんない・・・」 本当にどうして涙が込み上げてしまうのかもわからなかったのだ。嫉妬ではない。自分が甘えられないからでもない。それでも納得出来ないものが、ずっしりと重い石を抱え込んだように、心を重く閉ざさせていた。 「・・・昭彦ぉ・・・」 子猫は昭彦の胸に顔を埋めた。流してしまえばいい。愛する思いを激流に変えて、心にのし掛かる重い石を流してしまおう。可愛げのない嫌な女にはなりたくないもん。と子猫はそれ以上考えることを放棄した。 「キスして・・」 子猫は顔をあげて昭彦の目をしばらく見つめてから目を閉じた。昭彦が優しく唇を重ねてくる。蛇のように伸びて絡みつく熱い舌に、子猫もゆっくりとこたえて舌を絡ませた。心のどこかでじりじりと焦げ付く臭いがする。指先の血が静かに引いていく。一瞬、知らない男とキスをしているような錯覚に囚われ、思わず体を離して顔を背けてしまった。 「子猫?」 「あ・・・ごめんなさい。・・・ちょっと食べ過ぎてお腹が痛くなってきちゃった。」 子猫はなるべく顔を見ないようにそう言って立ち上がると、トイレに向かった。トイレに入った途端、吐き気に襲われて今し方食べた物をみんな吐いてしまった。情けなくてまた涙が溢れてきた。トイレから出るとすぐにシャワーを全開に出して飛び込んだ。服のままだった。シャワーを浴びながら、全身の血が足の裏から抜けていくような寒気に襲われて、子猫はその場に踞ってしまった。 「何やっとんじゃ?!」 様子のおかしい子猫を見に来た昭彦が子猫を抱き上げようとしたが、子猫は腕を払いのけて嫌がった。 「どないせぇっちゅうんじゃ?何考えとんじゃ?何で何も言うてくれへんのや?」 昭彦が怒鳴りつける。子猫は怒った昭彦の顔も声もさっきのTVのように遠くで眺めているように感じられた。何も考えたくない。考えられない。どんどん嫌な女になっていく。昭彦ともいつか終焉を迎えるのかも知れない。と不安が過ぎった。 「いやぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっっ・・・・・」 悲鳴をあげて子猫は昭彦にしがみついた。そして堰を切ったように声をだして泣き出した。昭彦は訳の分からないまま子猫を抱き締めていた。 |
| <29> [激流] |
<29>激流 中間テストまで2週間をきり、昼休みに教科書や参考書を開いている生徒が増えてきた。子猫もお弁当と一緒に教科書を持って部室に来ていた。昭彦との非日常的な暮らしで普段勉強するということを忘れがちだったが、さすがにテストは怖い。 「ほー、猫も勉強するのか・・フムフム・・」 「教科書くらい目を通しておかなきゃ。追試になったら最悪だもん。」 「あはは、まぁ、悪い意味で目立っちゃうよね。」 「圭子は余裕だなぁ。さすが学年上位をキープしてるだけのことはあるじゃん。」 「勉強が趣味なつまらない女なんて言うなよぉー。」 「言ってないじゃん。圭子の場合、全然頑張ってなさそぉーなとこがスゴイよねぇ。」 「どーも。これでも夜はそれなりに勉強に励んでるんだけどねぇ。猫だってぇ、毎晩励んでるように見えないとこがスゴイよぉ。」 「・・・圭子ぉ・・・」 意味深な笑いを浮かべる圭子を軽く睨んだものの、飾らない圭子との会話はホッする。 「せっかく勉強を頑張ろうって思ってる時に、頼みにくいんだけどさぁ・・」 「ん?」 「今度の土曜日、空けられない?」 「え・・学校あるんじゃなかったっけ?」 「午後だけでいいの。」 「なぁに?」 子猫は少し警戒して聞いた。簡単に請け負うのは警察への取材で懲りていたからだ。 「実はさぁ・・・」 と圭子は切り出した。圭子は生徒会の役員をしているクラスメートの木村洋子とも仲が良かった。それで、生徒会が各高校に文化祭のポスターを貼らせてくれるように頼みに回るのにも付き合って行ったのだと言う。その中の一校の生徒会役員に素敵な人がいたらしい。気さくな雰囲気で楽しく話せて、せっかくだから合コンしようという話にまで発展したというのだ。 「私と洋子ともう一人は生徒会の一年の子が行くって。でも、相手が4人で来るって言ってるからさぁ、もう一人誰がいいかなぁって。」 「それが何で猫なのぉ?彼氏いたらダメじゃん。」 「いや。いた方がライバルが減っていいでしょ?頭数だけはそろうし。」 「頭数ですかぁ・・・」 「あははは、冗談だって。・・てゆーかさぁ、そんな濃い合コンじゃないからさ。でもテスト前じゃん?ヘタに誘って成績落ちたりしたらマズイしねぇ・・・」 「猫はもともと低いからいいだろうってぇ?」 「いじけるんじゃないのぉ。友達だから頼んでるんじゃん。可愛いから彼氏いたって相手も喜ぶと思うしね。どうかなぁ?」 他の男と会うと言ったら昭彦が許さないだろう。だが、昭彦との気まずい夜を過ごした子猫は、何となく気分転換がしてみたい気持ちもあった。 「即答できないけど・・・やっぱ許可貰ってからじゃないと何とも言えないから・・・」 「じゃぁ今夜聞いて貰える?明日ここで結果聞かせて貰うってことで。」 「うん。わかった。なるべく行けるように交渉してみるね。」 「そうそう。たまには気分変えなきゃ。」 圭子は子猫の肩をぽんぽんと叩いて笑った。 7時近くになって子猫がマンションに帰ると、昭彦がエプロン姿で台所に立っていた。 「お帰り。なんや、まだ文化祭の準備が終わらんのか?」 「今日で仕上げたから明日からは早く帰れるけどぉ・・・昭彦はお仕事いいの?」 「子猫の調子悪いみたいやから、今日は休みにしたんや。」 「あ・・・ごめん・・・」 そうだった。昨日の夜、吐いた後で昭彦が様子のおかしい子猫を抱こうとした時、体の不調を訴えて拒んだのだった。 「弁当箱出しや。洗っとくで。」 「あ・・・うん・・・ご馳走様ぁ。」 「どや?ちょっとは食べれたんか?」 「・・・半分は友達が・・・ごめんなさい。」 子猫はお弁当箱を開いて流しにつけた。スポンジを取って洗おうとすると、 「ええから、着替えてきぃや。そしたら夕飯にしよな?」 と昭彦が子猫からスポンジを取り上げて頬にキスをした。 「ポタージュにしたから消化ええし、カボチャ入りやから元気でるで。」 「うん。」 優しすぎる昭彦に子猫は胸が切なくなった。子猫自身もよくわからない違和感を抱いていることを、きっと昭彦も感じているのだろう、と思うと、余計悲しくなった。 夕食の後、子猫は昼間、圭子から頼まれた件を話すことにした。合コンと聞いた時から昭彦の表情は険しくなっていたのだが、子猫が参加していいかを聞いた途端に、眉間のしわが深まり、バンッ!とテーブルを叩いた。 「ええも、悪いもあるかい!どーゆーこっちゃねん?何で他の男に会う必要があんねん!っざけたことぬかしちょっとしばいたるで!」 「ただの頭数だもん。その場にいるだけだし、ちゃんと彼氏がいるって言うもん。」 「アホぬかせ!お前みたいに可愛い子が目の前にいたら、彼氏がいようがいまいが関係あらへんやろが!どうせ色目使うて、手やの肩やのと触るに決まっちょるやろ!」 「話するだけだよぉ。」 「男はそない甘うないで!ちょっとの隙さえあればどーにかしようて思っちょるもんや!それとも、われはどーにかされんのを待っちょるんか?」 「・・・そんなつもりは・・・」 「だいたい、ようそないな事が言えるなぁ?合コン行きたいっちゅうんは浮気してええかっちゅうてるのと同じやで!」 「・・・違うもん。」 「じゃかぁしぃ!同じやっちゅうたら同じなんや!」 「・・・友達の付き合いするだけなのに・・・」 「女友達と遊びたいっちゅうなら反対はせぇへん。せやけど、わざわざ男と会うことはないやろ?ちゃうんかい?え?」 言われればそうかも知れない。子猫は返す言葉が見つからなくなって、上目遣いに昭彦を見たまま唇を噛んだ。昭彦は子猫が反論しなくなったので、責めるのは止めにしたものの、まだ腹の虫が治まらないようだった。 「仮に誘われたっちゅうたかて普段のお前なら断っちょるやろ?一体どないしたんや?昨日からずっとおかしいやないか?何便も言いたいことは言えっちゅうとるのに、なぁんも言わんと、挙げ句が合コンだぁ?あんまし愚図っちょるとお仕置きやぞ!」 「・・・お仕置き?」 子猫は聞き慣れない言葉に興味を持った。 「ちゃんとわかるようにケジメつけちゃるっちゅうこっちゃ。」 「・・・ケジメ・・・って・・・」 「今夜は嫌っちゅうても・・・アナルや。」 子猫はビクンッと体が震えた。あの抉られるような痛みはまだ記憶に新しい。つい最近まで痛みが後を引いていたのだ。ほんの一瞬でも感じていたのが嘘のように思えた。もう二度とあの痛みとその後の痛みは経験したくなかった。 「・・・ぅぅ・・・嫌ぁ・・・」 「わしのお前への気持ちが納得出来へんなら、体でわからせるまでや。」 逃げ出せなかった。心では嫌だ、嫌だ。と叫んでいた。怖い、怖い。と拒絶していた。けれど、催眠術にでもかかったかのように、言われるままに従っていた。 「ほな、まずはご挨拶からや。」 昭彦は天を向いてそそり立つ男根を子猫の顔の前に突き出した。子猫は跪いて、両手で包むように握ると先をくわえて、頭を振り始めた。 「わしの目を見てやらんかい!」 子猫の髪を掴んでグッと上を向かせる。昭彦の情熱的な黒い目が妖しく輝いている。 「おらおら!もっと奥までくわえなあかんやろ!」 精一杯に口を広げている子猫の頬を軽く叩く。軽いのにピシッとされたとこがヒリつく。子猫は喉に当たるまで深くくわえて吸うように擦り上げる。 「そうや。よぉーく丁寧にしゃぶるんやで。今夜はわしのミルクを飲ましたるさかいな。さっきのポタージュと合わさって、わしだけの特製ポタージュや。どや?最高の料理やろ?クックック。」 昭彦が方頬で笑った。子猫は昭彦が今夜の夕飯をポタージュにした時から、こうすることを決めていたのを知って鳥肌が立った。 「ちんたらじゃれとらんで、もちっと早うせぇや!」 また、頬をピシッピシッと叩かれた。両手で握っても余る長い男根は子猫の指が回りきらないほど太くもあった。掌の中で浮き上がった筋がドクンドクンと力強く脈打っている。 「あぁぁぁ・・・そうやぁ・・・ちゃんとええ子になれるやろ?ん?」 昭彦は時には怒鳴って頬を叩き、時には誉めて髪を撫でた。 「ほな、そろそろいくでぇー!」 子猫の髪を掴むと、腰を振り、グゥッと喉の奥まで押し込んだ瞬間、濃厚なミルクを放出した。数秒間、息が止まった。ズルッと蛇が後ずさりするように喉から抜かれた途端、呼吸が回復し、強烈に青臭い香りと苦みが口一杯に広がった。 崩れるように絨毯に倒れた子猫を抱き上げ、昭彦はベッドの中央へうつ伏せに寝かせた。子猫はチカチカと目の前に星が飛んで耳鳴りを感じていて、ぐったりとしたまま動けなかった。と、昭彦は子猫のお尻を抱え上げるように足を開き、粘りのあるローションをアナルにたっぷりと塗り始めた。 「ぅぅぅー・・・嫌ぁぁぁ・・・」 子猫はされるままになりながら、小声で抗議した。昭彦は指でアナルの中までローションを塗り込みながら、 「お前はわしの女やっちゅう自覚が足らんのや。言うてわからんのなら、体に教え込むまでや。ちゃんと体で覚えたら、アホなことも思わんようになるでな。」 と言って、自分のモノにもローションを塗りつけ、擦りながら固さを確認していた。子猫にミルクを飲ませたばかりだったが、逞しい肉棒はすぐにまた固く反り返ってきた。 「ああああーーっっ!!」 ちょっと待って。と言う間もなく、子猫の心の準備が出来ないうちに、固くて太い男根が強引にアナルを押し広げて侵入してきた。 「うううぅぅぅぅぅーーー!!」 両手を握りしめて痛みに耐える。腰が割れそうな痛みとアナルが裂けそうな痛みに体が震えてくる。昭彦の長くて太い男根は、ゆっくりゆっくりめり込んでくる。根元まで完全に埋没されると内蔵を押し上げられるような鈍い痛みも加わってくる。 「どうや?」 「・・・ぅぅぅー・・・痛ぁ・・・・・」 子猫はやっとの思いで言葉を出した。歯を食いしばっているのでシーッと息が洩れる。昭彦はまだ動かさずに子猫がしばらく慣れるのを待っているようだった。 「わしの女やっちゅうのがわかっちょるんか?あ?」 「・・・くぅ・・・んー・・・・・」 「これは子猫だけの痛みや。お前だけしか知らんわしや。わかるか?」 「・・・ぅぅ・・・ぅん・・・・・」 子猫は涙が溢れてきて、ポトポトとシーツに落ちた。 「ぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・あきぃ・・・・・」 「お前の体にわしっちゅうもんをよぉーく覚え込ましたるで!」 「・・・うん・・・・・」 昭彦はゆっくり腰を動かし始めた。長い肉棒の半分ほどまで引き、またググゥッと根元まで押し込む。押し込まれる度に痛さが脳天まで駆け上がる。引かれる時は密着する肉ごと裏返されるのではないかと錯覚するような痛みが広がる。子猫は呻きながら泣きじゃくり出していた。 「他の誰でもない。子猫がわしの女なんやで?」 「・・・うん・・・ぅぅぅ・・・うん・・・・・」 子猫は泣きじゃくりながら頷く。痛みが全身に回って、掌も指先も足の裏も痺れてくる。痺れながら、痛みに震えながら、子猫は昭彦の熱い激情を感じて、責められ支配されることの快感に溺れ始めた。 「あぁぁぁ・・・あきぃ・・・ぅぅぅー・・・・・」 「ええやろ?どうや?」 「ぅ・・・うん・・・いい・・・・・」 「何が気にくわんかったんや?今なら言えるやろ?」 「・・・ぅぅ・・・わかんないぃぃ・・・・・」 「まだ言えんのか?」 「ち・・・違っ・・・うぅぅ・・・・・」 「何やねん?・・え?」 昭彦は腰の動きを早めて、乱暴に突き上げ始めた。子猫は悲鳴をあげて、一層激しく泣きじゃくった。泣きながら歯を食いしばり、呻きながら首を振る。 「・・・いいのぉ・・・もぉ・・・・・」 「いいことあるかい!ちゃんと答えるまで許さへんで!」 「あぁぁぁぁぁーーっっ・・・猫がぁ・・・いけなかったのぉぉぉ・・・・・」 「わしを疑うたんか?ああ?」 「・・・ごめんなさいぃぃ・・・・・」 「わしの女はお前だけやぞ!」 「うん・・・ぁぁぁぁぁ・・・猫が・・・悪いのぉぉ・・・・・」 「お前はわしのもんや!ええな!」 「うん・・・猫はあきのものぉぉ・・・・・」 「せやから、こーして責めちょるんやで!」 「あぁぁぁ・・・もっとぉ・・・もっと・・・責めてぇぇぇ・・・・・」 子猫は泣きながら叫んでいた。もっと、もっと。この痛みを忘れないように。昭彦が全身に彫った入れ墨にはかなわないだろうが、見えないタトゥーが体中に刻まれていく思いがしてた。もっと、もっと、痛くていい。強い痛みの向こうにはまだ踏み込んだことのなかった喜びの光が射し込むのを感じていた。 「誰にも渡さへん。誰にも触らせへん。わしのもんやぁー!」 昭彦はズンズンズンズンと力強く腰をうねらせて突き上げ、勢いのまま情熱の熱い滴りを飛ばした。 子猫が泣き静まるまで、昭彦は腕の中であやすように優しく髪を撫でていた。涙はもうなかったが、泣きすぎて腹筋がヒクヒクとひくついている。それでも子猫は昭彦に包まれて居心地のいい時間を取り戻していた。昨日から胸にのし掛かっていた重い石は、何処かに流れ去っていった。今は昨日よりももっと強く結ばれた絆を感じ、愛されている喜びに満たされていた。全てを支配される充実感は寂しがりやの子猫には何にも勝る安心感を与えてくれた。 肩にすりすりと顔をこすりつけてから昭彦を見る。昭彦はいつもの優しい眼差しに戻って、子猫を愛おしそうに見つめていた。 「泣き顔もめっちゃ可愛いで。」 鼻の頭にキスをして笑う。それからふと真顔になると、 「わしの気持ちがわかったか?」 と子猫の泣きはらした目を覗き込んだ。 「うん。」 子猫は見つめ返して頷いた。 「もう変な気ぃ起こすんやないで?」 「うん。」 子猫はもう一度頷いてから、昭彦にそっと抱きついた。下半身はジンジンと痺れて痛みが続いているし、虚脱感で腕にも力が入らなかったが、昭彦への思いはコンコンと沸き上がってくるのだった。そして、それは昭彦にも伝わるようで、満足そうな笑みを子猫に向けていた。 |
| <30> [非日常と日常] |
<30>非日常と日常 朝方、寝返りをうった子猫が昭彦の腕からこぼれると、昭彦がそのまま上に乗ってきた。ぼんやりした意識の中で、股間にヒヤッとする感覚がしたと思うと、昭彦がグググゥーッと侵入してきた。 「ん・・ああぁぁぁっっ・・・」 寝惚けていた体の感覚が一気に戻ってくる。と、同時にアナル周辺とお尻から太股にかけた筋肉にも痛みが走る。膣が押し広げられ、それに伴って筋肉の収縮がおこり、昨夜のアナルセックスで受けた痛みが刺激されるのだ。 「あん、あん、あん、・・・ぃ・・・痛ぁ・・・」 「アナルの痛みだけ感じとったらバランスが悪いやろ。今、おまんこをめちゃめちゃ感じさせちゃるでな。」 「・・・ぅ・・・ん・・・あ、ああん・・・」 足を動かすだけでもズキンと痛みが走る。満足に足を上げることが出来ないでいると、昭彦が子猫の両足をそれぞれ両肩にかけるようにして、更に奥へと強く突き上げた。 「あぁぁーー・・・ああぁぁん、ん、ん・・・」 頭がまだはっきりしないのに、体だけは快感に満たされていく。何も考えられない中で絶頂が近付いてくる。 「あ、あ、あ、・・・いきそう・・・イク・・・イクゥ・・・あああ・・・」 「よっしゃ。一回先にいかしたる。」 昭彦が腰の動きを早めた。 「あああああぁぁっっっ・・・イクゥゥゥーーー!」 閉じた目の裏が赤く燃え、白く強烈な光に幻惑されて、全身が電撃を受けたように痺れていく。 「ぁぁぁぁ・・・ぁぁ・・・」 昭彦にしがみついて余韻を味わう。 「ホンマに可愛い顔でいくなぁ。」 「・・・うそ・・・みっともない顔してる・・・」 昭彦の肩越しにチラッと天井の鏡に目をやった子猫が唇を尖らせる。 「昨夜・・・泣きすぎて・・・目が腫れてるぅ・・・」 「そんなの関係あらへんがな。」 子猫の蜜壺の中で固いままのモノをドクドクと脈打たせて昭彦が笑う。 「造りの可愛さをゆーちょるんやない。心の可愛さや。」 「・・・心?」 「そうや。普通は”気持ちいいー!”って顔でいくもんやけどな・・・」 「うん・・・」 「子猫は”あなたがいかせてくれるのー!”って顔をするんや。」 「・・・わかんない・・・」 「クックッ。まぁ、ええ。けどな、せやからおまんこかて”離さないー!”って感じに吸い付いてくるんや。っちゅうても、これはわしやないとわからんことかも知れんな。」 そう言って笑った昭彦は子猫の顔中にキスをした。 「ほな、次ぃいくでぇ。」 昭彦は肉襞の絡みつく熱い肉棒を、また力強く動かし始めた。 そのまま朝を迎え、お風呂にお湯を入れた昭彦は子猫を抱き上げて浴室へ連れて行き、優しく泡で包むように洗ってくれた。お風呂からあがって、初めて自分の足で立った子猫は立つだけでもこんなにも筋肉を使うのだと思い知らされた。昨夜のアナルセックスで受けた下半身の痛みがズキンと響いて足が震えてきてしまう。椅子に座るにも痛みが走るし、座ればまたアナルが刺激されズキズキと痛みが続く。アナルセックスそのものの痛みよりも、こうした後からの痛みがやっかいだった。けれど、この痛みを昭彦の愛の刻印と思うと不思議な充実感もそこにはあるように感じた。とは言え、人前では苦痛に歪む顔は見せられない。これは昭彦と二人だけの秘密の儀式なのだ。 昭彦は学校を一日くらい休むようにと言ったが、テスト前だけに休みたくなかった。けれど、バスでは揺れた時に立っていれない状態で、とても無理と思えた為、仕方なく橋本に送って貰うことにした。黒塗りの外車だけは絶対嫌だと頼んだので、一般的なファミリーカーを借りてきてくれた上、身支度も休日のお兄さん的格好をして迎えに来てくれた。 昭彦が鞄と大きめのクッションを持って、マンション玄関まで送ってくれた。 「おはようございます。」 橋本が車から飛び降りて直角に頭を下げた。 「ほな、頼むわ。帰りも迎えに行ってやってな。」 「はい。承知しております。」 軽く頷いた昭彦はクッションを後部座席に置いて子猫をもたれかからせた。学校に着くまでのわずかな時間だけでも休ませてやりたいという気持ちが伝わってくる。子猫は素直にそれに従い、 「無理せんときや?辛かったらすぐ迎えに行かせるさかいな?」 と言う言葉に、微笑んで頷いた。 昭彦が子猫にキスをして車から体をひき、ドアを閉めたので、橋本はペコッと頭を下げて運転席に乗り込んだ。そして、 「では、お送りしてきます。」 と開けた窓から挨拶をして車を発進させた。子猫はクッションにもたれたまま、心配そうに見ている昭彦に小さく手を振った。 車がマンションを出て、しばらくして橋本が子猫に声をかけた。 「もしかして・・・アレですか?」 「・・・アレ?」 「あ、いや・・・あのアレっす。別荘の時の・・・」 「あぁ・・・うん。・・・わかっちゃう?」 「一度、直後の様子を見てますからね。目に腫れが残ってるようですし、その体勢じゃ気が付かない方が無理っすよ。」 「そっか。・・・学校ではちゃんとしないとなぁ。でも、腫れぼったい目はどう言い訳しよぉ・・・」 「今日くらい休めないんっすか?」 「テスト前だもん。」 「あはは。真面目ですねぇ。」 「全然。・・・でも、追試になると、上位成績者と一緒に名前が書き出されちゃうんだもん。それって超悲惨でしょう?」 「ふぇー・・・さすがに進学校だけあって厳しいっすねぇ。」 「そなの。だから、それだけは避けたいから・・・休めないんだ。」 「なるほど、大変だぁ。・・・じゃぁ、少しゆっくりめで行きましょう。その間だけでも休んでいて下さい。」 「ありがとう。・・・つーか・・・その話し方って・・・」 言いかけて子猫はため息をついた。仕方がないのだ。昭彦の下にいる者にとっては、子猫は”昭彦の女”という品物なのだ。友達になれたのは正次とマサだけだが、正次とはもう会うこともないだろうし、マサも部屋に遊びに来なくなっていた。でも、その方がいいのだろう。必要以上に親しくなることを昭彦も嫌っているだろうから。 「あ・・・ねぇ・・・」 「はい?」 「冬美さんが来た後で昭彦さんが出掛けた時も一緒に行ったの?」 「ああ、夏美さんを迎えに行った時ですね?そうっすよ。自分が運転してました。」 「そう・・・で、夏美さんってどんな感じの人?」 「どんなかぁ・・・まぁ、美人の部類には入ると思いますが・・・」 「ふぅーん・・・」 「ただ、薬でだいぶやつれてましたね。それに薬が切れかけて荒れ始めて、母親がおとなしくさせようとしても、乱暴な言葉で罵ってましたから・・・ドクターも手を焼いてましたね。」 「・・・母親って・・・春江さん?」 「そうっす。・・・え?・・あ、聞いてなかったっすか?」 橋本の背中に緊張が走った。 「夏美さんのことは聞いてるから。ただ、春江さんも一緒だったって知らなかったけど。・・・でも、仕方ないよね。昭彦さんがいくら父親代わりだっていっても、正式な親権者じゃないし。」 「そ・・そうです。ヘタに若い子を連れて来れませんから。」 「うん。そうだよね。・・・で、春江さんはどんな感じの人だった?」 「んー・・・けっこう派手な美人って感じっすかねぇ。歳には見えないっすね。」 「ふぅーん・・・」 「やっぱ、昔の彼女は気になりますか?」 「ちょこっとだけ・・ね。」 「じゃぁ、今度は今の彼女をどんな感じかって聞いて下さいよ。」 「・・・今って・・・?」 「あはは、子猫さんじゃないっすか。それを聞かれたら、めちゃめちゃ可愛い天使みたいな子ですーって答えますから。」 「くすっ・・・お世辞言ってぇ・・・」 「マジっすよ。何か綿菓子みたいなフワッとしてほんのり甘いって感じで、つかみたいのにつかめないから、いっそ食べちゃおうって気にさせられるとこありますね。」 「・・・変なのぉ・・・」 そう言いながら、子猫はクッションに顔を埋めてクスクス笑った。 橋本は校門から少し離れた所に車を止めてくれた。子猫がお礼を言って降りると、通学中の他の生徒達が眉をひそめて通りすぎていく。余程体調が悪くない限りは、基本的に自家用車での送迎は禁止されているのだ。 「あー、ちょっと。夢野。」 校門を通りすぎようとした時、生徒指導の教師に呼び止められた。 「はい・・・」 子猫はやっぱり、と内心ドキドキしてそばに行った。 「個人の車での登校はマズイだろう?」 「済みません。体調が悪くて・・・」 子猫は頭を下げてから、上目遣いに教師を伺い見た。 「まぁ、君は去年も入院してるし、病弱だとも聞いてはいるがなぁ・・・誰に送って貰ったんだ?」 「母が忙しかったので、近くの知り合いに頼んでくれたので・・・」 「そうか。そーゆーことなら、今回は仕方ないが、送迎して貰うならなるべく身内にして貰うように。他の生徒の誤解を招くような相手は避けるようにな。」 彼は子猫の髪を撫でるようにしてから、肩に手を置いてグッと一瞬、力を入れた後、笑って手を離した。子猫のお尻が力を込められた時にズキッと痛みを感じた。 「はい。今度から気を付けます。」 そう言って、子猫はまた頭を下げると、うつむきがちに昇降口へ急いだ。歩くと腰に響いたが、痛みを隠し、歩き方がおかしくならないように注意した。生徒指導の教師はもっと本来は容赦ない言い方をする先生だったが、以前から子猫には何かと大目に見てくれるとこがあった。 なんとか午前中の授業を終えた子猫は部室に来ると長椅子に横になった。木のベンチのような簡単な物が壁の棚の前に置いてあるのだ。会議の時等に一年生が並んで座ることがよくあったが、普段は棚の上の物を取る時の踏み台にされたり、鞄が置かれたりしている固い椅子だった。それでも、お尻が当たらずにすむだけで痛みが和らいだ。 「どーしたのぉ?」 圭子が部室に入ってくるなり驚いた顔して聞いた。 「ちょっとお腹が痛くて・・・」 「保健室行った方がいいんじゃない?」 圭子に続いて入って来た他の部員も心配そうに言ってくれる。 「ううん、大丈夫だから。・・・保健室行くと授業休めとか親に連絡するとかって言われちゃうじゃん?」 「あー、それはあるねぇ。」 「今だけ休めればいいの。邪魔だろうけど・・・ごめんね。」 「平気、平気。」 「良かったら、そこのお弁当食べて貰える?」 「いいのぉ?ラッキー。猫のお弁当って美味しいんだよねぇ。・・つーか・・少しは食べなきゃ・・食べられないの?」 「うん。無理っぽい。」 子猫は目を閉じて苦しそうに息をついた。圭子や他の部員はテーブルを囲んで食事を始めた。初めのうち、子猫を気にして静かに食事していたが、その内いつものように賑やかな雑談になっていった。 食後のコーヒーが入れられて部屋いっぱいに香ばしい匂いが広がる。 「はい、猫。ミルクたっぷりにしたから。」 圭子がコーヒーを差し出してくれたので、子猫はうつ伏せに姿勢をかえてカップを受け取った。 「ありがとぉ。」 一口飲んでほっと息をつく。熱いコーヒーが喉から胃へ流れていくのがわかる。クリームの甘さが体中の痛みを癒してくれるようだった。 「美味しいぃ・・・」 「午後も頑張るなら、それくらいは飲んで元気出さなきゃね。」 圭子はふふっと笑って、横になっている猫の近くにイスを引いて座った。 「ねぇ・・・それで、どうなった?」 「あ・・・ごめぇーん・・・」 「ダメだったのかぁ・・・」 「合コンに行こうって思うことがもう浮気心だって・・・」 「そんなもんかなぁ・・・んー・・・そうかもって思う部分がない訳じゃないけどねぇ。」 「彼が嫌だって思う以上は議論しても仕方ないし・・・圭子には悪いけど・・・」 「ううん。気にしなくていいって。1年の子に誰か誘わせよう。」 圭子は片目をつぶって見せてから、明るく笑った。 「女同士の付き合いなら反対はしないって言うし、その時は誘ってね?」 「うんうん。そーだねぇ。テスト終わったらパーッと遊びたいよねぇ。」 「うん。」 子猫も肩の荷がおりて、小さく笑った。 「文化祭もあるから準備もしなきゃならないけど、カラオケか映画くらいは行きたいしね。猫はどっちがいい?」 「んっとぉ・・・両方ぉ。」 「じゃぁ映画観てぇ、カラオケしよう。」 「いいな、いいな。その話、私ものったぁー!」 普段おとなしい2年の中村京子もそばに来て話に加わった。 「そっかぁ。じゃぁ、いっそ文芸部のテスト打ち上げ会にしちゃおっかぁ?」 「賛成、賛成!」 他の部員からも声があがった。 「よぉーし!では、決定ね。みんな、くれぐれも追試にならないように。」 部室に笑い声が起こる。圭子は立ち上がって腰に手をあてて、うんうんと頷いている。そんな圭子を見ていると、リーダーシップが取れるってすごいなぁと感心する子猫だった。 放課後、橋本が朝と同じ車で迎えに来てくれていた。後部座席のクッションもそのまま置いてあった。子猫はどっとクッションに倒れ込み呻いた。 「お疲れさま。」 橋本が車を発進させながら苦笑して言った。子猫は頬を膨らませ気味に橋本の背中をちょっと睨んでから怠そうに聞いた。 「・・・昭彦さんはぁ?」 「今日は出掛けないって言ってましたから、待ってるんじゃないっすか。」 「そっか・・・お仕事休ませちゃったかなぁ・・・」 「大丈夫っすよ。ドクターの仕事は頭脳労働ですし。昼間若頭が来てましたし。」 「マサさん?」 子猫は頭を上げて聞き返した。 「はい。あ、けどもう帰られましたよ。」 「・・・なぁーんだぁ・・・」 ため息とともにもう一度クッションにバフッと頭を沈めた。 「若頭が好きなんっすかぁ?」 橋本が意外そうな声で言った。 「だって・・・友達だもん。」 「友達?」 「マサさんが言ってくれたんだもん。猫と会う時はやくざのマサじゃない。って。それにマサさんって、超優しいから・・・大切なお友達なの。」 「はぁ・・・」 子猫は言ってから、橋本に話しても仕方のないことだと思った。それに子猫のいる時間に顔を出さなくなったということは避けてるのかも知れない。そう思うと寂しさを感じた。子猫は深いため息をついて目を閉じた。一日の疲れがどっと襲ってきて、睡魔に引きずり込まれた。 マンションに着いた時、昭彦に抱き上げられて一度目を覚ましかけたが、 「疲れたやろ?寝とったらええ。」 と言う昭彦の言葉に安心して、また眠りに落ちていってしまった。夜になって目が覚めた子猫に、昭彦は暖かい煮込みうどんを用意しておいてくれた。そして、 「よぉ、頑張ったな。偉かったで。」 と暖かい笑顔で包んでくれた。うどんをすすりながら、自分にとって一番居心地のいい場所はやっぱり昭彦なのだと子猫はしみじみ実感した。 |
|
|
|