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子猫白書U




<31>〜<35>



<31>
[圭子の恋]
<31>圭子の恋

 週明けの放課後、子猫が帰ろうと校門を出た所で川原圭子に呼び止められた。いつもの自信に溢れた真っ直ぐな眼差しは何処かに消え、伏し目がちで元気がない様子だった。この週から中間テストの終了まで、部室の使用が禁止になっていたので、昼休みに圭子と会ってなかった子猫は、圭子の異変に戸惑った。
「どうしたのぉ?」
「うん。・・・ちょっといい?」
圭子が周囲を気にしてるので、子猫は圭子に誘われるまま、圭子の家に寄ることにした。

 圭子の家は高校から15分ほど歩いた所にある喫茶店だった。表の店構えの横を抜けて裏に回ると階段があり、そこを上がったとこが住宅スペースになっていた。一度昭彦が迎えに来た時に、圭子を送って店の前までは来たことがあったので喫茶店だということは知っていたが、裏までは寄らなかったので、子猫は慣れない状況にドキドキした。
「狭くって驚いちゃうでしょう?」
と、圭子が苦笑するので、子猫は慌てて首を振った。
「ううん。ただ、お店とかの舞台裏って見たことないから、不思議な感じがするの。」
「あは。そうだねぇ。お店は綺麗でも裏は意外に質素なものだって。」
圭子がやっと明るく笑ったので、子猫も何となく安心して笑った。

 圭子の部屋に案内されて、薦められるままに鞄を降ろしてクッションに座った子猫は、女の子らしい部屋に懐かしさを感じた。子猫が今暮らしている部屋はかなり昭彦の趣味が繁栄されていて洗練された簡素な部屋だった。圭子の部屋のあちこちに小さな可愛らしい小物が飾られているのも、女の子らしいこだわりを感じさせてくれている。が、さすがと思うのが、圭子の勉強机は整理されていて、本棚には参考書や問題集がびっしり並んでいた。子猫はもう随分勉強机に座って勉強してなかった。昭彦はマンションに入れる家具を選ぶ時、子猫用に勉強机も用意しようと言ってくれたが、もともとそれほど使うことがなかったので、いらないと言ったのだ。だから今はリビングのテーブルかキッチンか、たまにはベッドに寝転がって勉強している現状だった。そんなことを思い出しながら部屋を眺めている間に、圭子は瓶のジュースとコップを持ってきた。
「お店のだけど、友達が来てるって言って、貰ってきちゃった。」
「えー・・・悪いよぉ。」
「気にしない、気にしない。つーかさぁ、こっちのが仕入れ値だから安いってこともあるしぃ・・ふふ。」
「そうなんだぁ・・・じゃぁ、遠慮なく頂きまぁーす。」
子猫はちょこっと頭を下げて、ジュースをコップに注いだ。
「ん?・・・って、いつお店に行ったの?」
「二階からも厨房の方に行けるようになってるの。」
「へぇ・・・そっかぁ。考えてるなぁ。」
「そんなに感心してばっかいないで、気楽にしてね。」
「うん。ありがと。」
子猫がジュースを飲もうとした時、隣りの部屋でドシンドスンと音がした。
「ったくぅ・・・」
圭子が立ち上がって部屋のドアを開けたまま隣りの部屋を開けて、
「大介!祐介!また喧嘩してるの?友達が来てるんだから騒がないでよね。」
と言った。
「祐介が勉強の邪魔ばっかすんだよ!」
野太い声に続いて、
「兄ちゃんが悪いんだ!」
と変声期前の声が反論する。
「どっちもどっちでしょ。・・・ったく、もうちょっと仲良くしなさい。あ、そうだ。お金あげるから夕飯二人でどこかですませてきてくれない?」
「おっしゃぁー!」
「やった、やったぁ!兄ちゃん、僕ラーメンがいい。」
「姉貴、餃子代もな!」
「わかったわよ。でも、ちゃんと友達に挨拶していきなさい。」
「おう!」
「了解!」
圭子が戻ってきて、財布からお金を取り出していると、ドアから少年が二人照れくさそうな顔をして覗き込んだ。
「弟達なの。上が大介で中2、下が祐介で小6。」
圭子の説明に合わせてそれぞれが頭を下げて、
「こんちわ。」
と声をかけてくれた。子猫も座ったままだったが姿勢を正して、
「お邪魔してます。」
と頭を下げた。圭子は兄の大介の方にお金を渡すと、追い出すように二人をせき立てて、ドアを閉めた。
「賑やかでしょう?いつもこの調子だから話し方も男っぽくなるし、どうしても性格がサバサバしてるように見られちゃうみたい。」
「賑やかなのって羨ましいよぉ。」
「そっか、猫は一人っ子だもんね。・・・でも、賑やかなだけでさぁ、女は私だけじゃん?遊び方だって違うし、話も合うってことあまりないからさぁ、私も孤独だったりする時あるんだぁ。」
「そう・・・そなんだぁ・・・」
子猫は何となくわからなくもない気がして頷いた。圭子はジュースをちょっと飲んでから、
「やっぱりさぁ、相談って・・・友達でも相手選ぶよねぇ・・・」
と、呟くように言った。
「あぁ・・・そうかもぉ・・・」
子猫も小声で答えた。
「でね・・・やっぱ私が相談出来るのは猫かなぁって・・・いい?」
圭子が囁くように言って伺うような目線を送ってきたので、
「あまり役に立てるかどうか・・・でもちゃんと聞くから。」
と緊張して頷いた。圭子はクッションをずらして子猫の近くに座り直し、顔を近付けて小声で話し出した。

「実はさ、・・・土曜日、外泊しちゃったの。」
子猫は声を出さずに目と口を丸く開けて驚いた。
「親には部活の友達の子のとこに泊まったって・・・」
子猫は驚いた顔のまま、自分を指さし問いかけるように圭子の顔を見た。
「そう。猫のとこって。・・・いい?」
「あ・・・うん。それはかまわないけどぉ・・・電話は今いるとこにしてね。」
子猫は圭子にだけは昭彦のマンションで同棲していることを話してあった。
「これでも信用あるから、いちいち裏付け取らないから大丈夫だよ。」
「うん。・・・なら、いいけどぉ・・・でも、外泊する時には言っておいて貰える?電話に昭彦が出て話が通じないと困るでしょう?」
「うん。そうする。・・・けど、次があるかなぁ・・・」
「え・・・あ・・・そう言えば彼氏いないって・・・え・・・あれ・・・合コン?」
一昨日の土曜日に合コンをするというのは聞いていたが、そのまま外泊したと言うのだろうか。子猫はあまりにも急な転回に困惑していた。子猫自身ならありえなくもないと思えたが、圭子のこれまでのしっかりした言動からは信じられないことだった。子猫が困惑してるのが充分わかる圭子は、両肘をついてうなだれた顔を支えながら大きくため息をついた。
「自分でも何でこんなことになっちゃったかって思うんだけどさ・・・」
「・・・相手は合コンの人?」
「・・・うん。」
「それって・・・他の人も?」
「違うよぉ。二次会の後はお開きになったんだけどさぁ・・・途中でこっそり二人だけの三次会しようって誘われてたの。強引だけど、とにかく会話が楽しい人だったし、二人だけでもっと話したいなぁって思ってたから・・・みんなと別れた後で、約束してたとこに行ってみたの。」
「そっか・・・」
「・・・それで、二人だし店に行くより自分の部屋に来ないか?って・・・その方がゆっくり落ち着いて話せるだろ?って・・・」
「うん・・・」
「まぁね・・・予感はあったんだ。部屋に誘われた時から、何となくわかってた。・・・だって、彼の眼が、来るなら覚悟しろよ、って言ってたんだもの。」
子猫は息をつきながら頷いた。
「・・・テスト前なのに、って思った。知り合ったばかりじゃない、とも思った。でも・・・見つめられると・・・どうなってもいいから、彼についていきたい・・・って思っちゃったの。」
「そっかぁ・・・でも・・・そーゆー時ってあるよね。」
子猫はなるべく感じている驚きと動揺を隠して、普通げに答えた。一番動揺しているのは圭子のはずだったから。圭子は子猫の言葉に頷いたまましばらく黙っていたが、
「後悔はしてないよ。」
ときっぱり言った。子猫はなるべく明るい笑顔で、
「そうだよぉ。素敵な経験じゃん。祝、初体験、って感じ・・・かな?」
と、圭子の肩をそっと励ますように叩いた。
「でもさぁ・・・」
「ん?」
「・・・世界が変わっちゃうよね。・・・あんなに恥ずかしくてドキドキして興奮して・・・でも・・・どう表現すればいいのか、言葉が思いっきり空虚になるほど強烈で・・・あのなんとも言えない感覚を今まで知らずにきたのが悔しいくらいに素敵な気持ち良さだったの。」
子猫は思わずクスクスと笑い出した。
「あーん・・・笑わないでよぉ・・・」
「ごめん、ごめん。だってぇ、圭子があんまり可愛いからぁ。」
「ねぇ・・・猫も初めての時ってそうだった?」
「え・・・うん。そうだね。世界が変わった気がしたよぉ。・・・だって・・・その頃って死にたくなる程寂しかったから・・・満たされて繋がる喜びが沸き上がって・・・」
子猫は萩原との初めての時を思い出し、胸がキュンと切なく鳴った。
「・・・すごく嬉しかった。」
子猫は視線を落として、呟くように言った。こんなことは今は思い出すべきではないだろう。他の、まして初めての男を思いだしたことを昭彦が知ったら、烈火のごとく怒り出すのは目に見えていた。
「でもさぁ・・・」
圭子が眼を潤ませて切なそうに言った。
「恋しくてたまらないの。・・・会って抱かれたくて体がうずうずしちゃうの。」
「そっかぁ・・・そんなに良かったんだぁ。良かったじゃん。人によっては初体験で感じられなくて男性嫌いになっちゃう人もいるって聞くし・・・」
「それはね。・・・話し方はけっこう乱暴なとこもあるんだけどぉ・・・抱く時は優しくしてくれたし・・・一緒に朝を迎えた日曜日もずっと優しかった・・・」
圭子は思い出して堪らないとばかりに両腕を胸のとこで交差させた。
「また抱かれたくなったら電話しろ、って言ってくれたし・・・」
「じゃぁ、大丈夫じゃん。心配しなくたって次の約束が出来てるんだもん。」
「・・・でも・・・勉強が手に着かないの・・・」
「あぅぅ・・・勉強のことはぁ・・・猫に相談されてもどうにも出来ないなぁ。」
「んー・・・ま、それは期待してないから。」
圭子はクスッと笑って言った。
「何だか一人の胸だけにしまっておけなかったんだ。」
「そっか・・・お役に立てましたでしょうか?」
子猫は圭子がスッキリした表情になったのでおどけて言った。
「うん。まぁね。・・・これからも相談させてね?」
「・・・つーか・・・のろけられただけじゃん。まだ相談になってないよぉ。」
「えへへへ・・・そうかなぁ?」
「そうだよぉ。」
子猫と圭子はそう言い合うと顔を見合わせて笑い出した。圭子のどこかにあったかもしれない微かな罪悪感のようなものは、きっと話すことで解消出来たのだろう。子猫を呼び止めた時よりも顔色が良くなっていたので、子猫は内心ほっとしたのだった。子猫はそれから少し話していたが、遅くなれないからと圭子の家を後にした。

 中間テストが迫り、子猫は圭子のことが気になりながらも、時間の可能な限りは、もしくは脳の記憶容量の可能な限り、詰め込む努力を続けた。とは言え、せっかく覚えても昭彦に激しく抱かれて絶頂に達した時、かなり詰め込んだものをこぼしてしまっているようにも思われた。
「もぉ・・・頭がうにぃ・・・」
昭彦に腕枕されて、気怠さを楽しむように足を絡めていた子猫は、さっきから数学の問題を頭に思い浮かべていたのだが、公式が思い出せなくて思わず呻いた。
「また勉強のことを考えながら抱かれとったんかい。」
昭彦が苦笑して、子猫の頭を軽く小突いた。
「昨日はわしの肉質の筆を執って漢字の練習をしてたようやしなぁ?」
「ぅぅ・・・してないよぉ・・・ただ、不器用だからすぐには頭が切り替わらないんだもん。だから勉強したとこが気になっちゃうだもん。」
「夢の中じゃ英語でしゃべる犬に追われて怖がっちょるし、まったく難儀なこっちゃで。」
「あー・・・一年の期末の時の話はもう忘れてよぉ。」
子猫は拗ねた顔を肩に擦りつけた。
「クックック。テスト期間になると変な夢にうなされちょるで、あんまり有りすぎてどれがどれか忘れたわ。」
昭彦がいつまでもクスクスと腹筋を揺らせて笑っていたので、子猫は昭彦の乳首をキュッと噛んでみせた。昭彦が痛っ!と小さく言ったので、クスッと悪戯っぽい笑みを浮かべて、乳首の周りを舌の先でくるくると舐めまわした。
「アホ、誘っちょるんか?」
「誘ってなぁーい。」
そう言いながら、昭彦の上に上半身を乗り上げると、子猫は反対の乳首も同じように噛みついてから、またくすぐるように舐めまわした。ついでにみぞおちから脇腹へと舐めてくすぐっていく。
「ククッ、どこまで舐めるんや?・・・っこらっ、そこはくすぐった過ぎるで。」
子猫はかまわず昭彦の太股の付け根をぐるりと舐める。とうとう袋まで辿り着き、大きく開けた口に含むようにしゃぶりついた。その上にある男根はもうヘソに届くほど勃起している。が、それにはかまわず、反対の太股の付け根をまたぐるりと舐める。昭彦が思わず唸って体を捻らせた。
「あぁぁ・・・ええわぁ・・・可愛い女っちゅうんはあまり賢すぎない方がええで。」
「とか言ってぇ・・・賢い女性を大事にするくせにー。」
子猫は反り返った肉棒の裏筋を一気に上まで舐め上げた。昭彦は腰を浮かせて喘ぎ声を洩らした。
「っぅぅぅ・・・それはちゃうがな。」
「だってそうじゃん。」
「ええからしゃぶりついて、ちょっと黙っとき。今ぁ説明しちゃるで。」
「・・うん・・・」
子猫は言われた通り、昭彦の男根をくわえてしゃぶり始めた。
「男にとって可愛いのはアホな女や。賢い女は尊重するが、せなぁ喧しいからじゃ。マゾ男でもない限り、女に頭踏みつけられて喜ぶ男はおらんやろ?少ぉし間違うたくらいで揚げ足取りするような女も生意気でたまらん。」
「ほへは・・ふぁひほ・・・ふぉほふぃ・・・」
「アホォォォー!くわえたまましゃべるアホがどこにおんねん!」
昭彦は吹き出して笑いながら子猫を腹筋の上まで引き吊り上げると、くるっと回転して子猫を組み敷いた。激しいキスをしながら、子猫の片足を抱えて蜜壺に肉棒をめり込ませる。
「あぁぁぁ・・・あきぃ・・・」
一度奥まで届くのを確認して昭彦は体を起こすと、子猫の両足を思いきり広げた。カエル状態になった子猫の膝頭を押さえつけて、恥部が丸見えに晒されるようにして突き上げ始めた。天井の鏡にも、子猫の蜜壺を掻き回すように突き上げる肉棒が見えている。
「あ、あ、あ、あ、ん・・・あ、ぁぁ、ん、ん・・・」
感じてよがっている顔のすぐ下でミルクプリンのようなふたつの山が大きく揺れている。
「どや?・・よぉ見えるやろ?男に突かれまくって感じてるおまんこが?」
「ぁぁ、あ、あ、・・・う、ん、見、える・・・」
「これが可愛い女の姿やで。」
「うん、・・・あ、あ、・・・あきぃ・・・」
「ああぁぁ・・・ホンマたまらんわ。・・・あんまり可愛いで、壊れるまで抱きたくなるんや。・・・もう今夜は寝かさへんでぇ!」
「あああっぁぁ、あぁあぁぁっ・・・」
昭彦は力強く子猫を突き上げ続けた。蜜が焦げ付くほど蜜壺は加熱して、密接した部分は二人の心を溶かして融合させる溶鉱炉のようだった。
「昭彦・・・あき、ひこ・・・あ、き、ひこ・・・」
子猫が手を伸ばすのを捕まえて、昭彦はグッと引き寄せた。子猫は座位に抱っこされると昭彦にしがみついた。しがみつきながらも腰を降り続ける。
「あ、あ、あ、あぁぁぁ・・・」
声も目もかすれ、全ての感覚が一点に集中している。何度もいかされて、何も考えられない状態だったが、それでも熱い股間に意識を集中して、腰を降り続けている。
「どぉや?・・・ええやろ?・・・わしもめちゃめちゃええでぇ。・・・あぁぁ・・・」
「あきぃ・・・ああぁん、ん、・・・」
「女は全身がもう、おまんこ、そのものなんや。そうならな、ホンマの女やない。賢さでコチコチになった冷凍おまんこなぞ触れたくもないで。ええな?」
「うん、・・・あきのおまんこの猫がいい・・・ああぁぁぁぁ・・・」
子猫は大きく腰を振って、絞り上げながら擦りあげる。昭彦の髪をかきまわしながら舌を絡めてキスを繰り返す。昭彦も舌を出して絡ませてキスをし、揺れる子猫の白い胸を掴み上げてはきつく吸い付いた。
「あきぃ・・・あ、あ、あ、ん・・・あき、あき、あきぃ・・・」
子猫は陶酔しきって病的なまでに腰を降り続け、快楽を貪り続けた。
「ええでぇ・・・あぁぁぁ・・・お前がわしを狂わせるんや・・・はぁぁぁ、あ、あぅぅ・・・もっと狂わしたらええ・・・もっと・・・わしの魂の全てを吸い尽くすんやぁぁぁ・・・」
昭彦も狂ったように激しく子猫を突き上げ続けた。そして、長い熱い夜の向こうに、中間テストの当日が待ちかまえているのだった。
<32>
[誕生日]
<32>誕生日

 中間テストの最終日は子猫の17回目の誕生日でもあった。
「今日は帰りは何時頃や?」
朝、身支度を終えた子猫を抱き寄せて、キスをしながら昭彦が聞いた。
「テストは午前中でお終い。でも、部活動が解禁になるから・・・文化祭がいよいよ迫ってきてるし、その準備とか・・・打ち上げ会の相談もあるだろうし・・・」
「何やねん。今日は自分の一番大事な日やないかい。」
「・・・そんな大事でもないかも・・・」
「アホォ!なんちゅうひねくれた言い方すんねや。お前が生まれんかったら、わしが出会えることもなかったんやぞ。」
「・・・ごめんなさい・・・」
「親に反発してたかて、誕生日くらい自分の為に祝ってやりや。ん?」
「うん・・・そうだね。」
子猫はほんわりと笑って昭彦の胸に顔を擦りつけた。昭彦は子猫を抱き締めて髪に頬ずりをした。
「子猫と出会わへんかったら、わしは自分の生きる目的も見つからんまま、どこか薄暗い路地でのたれ死ぬことを願い続けておったやろな。」
「あきぃ・・・」
子猫が顔をあげて昭彦を見ると遠い眼差しをした苦しげな表情がそこにあった。昭彦は時々ひどく暗い眼をすることがあった。絶望と孤独の闇を覗いていような悲しい眼だった。誰もが恐れをなす徹底した冷酷さと、虫の命さえ慈しむ純粋さを同時に抱え、必要とあれば慈しみつつ虫を平然と握りつぶすことの出来る自分という存在を、嫌悪していた昭彦の心の闇だったのか。全身に刻みつけた極道の刻印を表社会との決別と言った昭彦は死に場所を求めて生きているのだろうか。
「昭彦ぉ・・・」
子猫の呼びかけにフッと笑みを浮かべた昭彦はいつもの優しい眼差しに戻っていた。強い光を灯した黒い目は時には情熱的に、時には妖しく、子猫を魅了するのだった。
「今日はマサがやってる店に連れてったるで。」
「マサさんの?」
子猫は目を輝かせて嬉しそうに笑った。
「マサも最近、店を始めたばかりで忙しかったで、なかなか顔出せんですまんこっちゃっちゅうとったで。」
「ふーん・・・」
橋本から最近マサがここへ来たことは聞いていたが、敢えて言わないことにした。本当に時間が合わないのかも知れないし、夜が営業のお店なら確かに忙しいのだろう。
「そのお店って何時から?」
「いつもは夕方の6時からや。けど、今日はその前に店借りて、子猫のお祝いをしようと思うてな、3時か4時頃には行くっちゅうてあるんや。」
「そっかぁ・・・じゃぁ、早めに部活抜けて来なきゃね。」
「支度して行く時間も考えなあかんで。」
「うん。わかったぁ。」
子猫は元気に頷くと昭彦にキスをして、出掛けていった。急に今日が誕生日だということが嬉しくなってきて、スキップでもしたい気分になっていた。
 学校に着いて一時限目が超嫌いな数学のテストだったことを思い出し、バスの中でどんな服を着ようか等と考えずに、公式のひとつでも頭に入れればよかったと後悔したが、それでも何だか楽しい気分の子猫だった。

 最後の教科のテストが終了するチャイムが鳴ると、校舎中に歓声とため息が溢れ、一気に賑やかさを取り戻す。文化系も体育系も今日から部活動が再会されるし、6月の頭にある文化祭はもう間近だったので、大部分の生徒は午後も残るはずである。
 掃除当番の子猫は腕時計を見ながら、手早く掃除を済ませて、部室へと向かった。部室にはもうかなりの部員が集まってきていた。そして皆がテーブルを囲んで口々に何かを言っていた。子猫は後ろから覗き込み、
「どうしたのぉ?」
と声をかけた。子猫のすぐ前にいた1年部員の松木麗奈が振り向いて、
「あ、今、文集が届いたんです。」
と言ってから、顔を赤くして体をそっと引いた。ただでさえ全員が集うには狭い部室だったが、いっせいにテーブルを囲んだので、寿司詰め状態だったのだ。子猫とぴったり胸を合わせてしまった麗奈は、集団から離れると、赤くした顔から吹き出す汗をハンカチで拭った。
「今は見るだけです。ちゃんと各学年各クラスに人数分配るんだから。これはスポンサーと学校関係者に配る分だから汚さないように。」
子猫が山積みになった文集の一部を取ろうとした時、久しぶりに見る3年の部長が言った。テーブルの一番奥に同じ3年の部員と並んで座っている部長は子猫に冷たい視線を投げかけた。子猫は出しかけた手を引いて数歩後ろに下がった。
 部長は、レズビアンの関係にあった前部長が子猫に強引に迫ったことを、今でも根に持っているようだった。その前部長が卒業して以来、やる気をなくして、まったく部活動に参加しなかったのに、今更何の用だろうと、子猫は半分ムカつきながら思った。
「私と3年の部員、後副部長の川原さん、」
「あ、はい。」
川原圭子は窓際に存在感なく立っていたが、名前を言われて返事をした。その時初めて圭子がいることに気が付いたくらい、元気がないようだった。
「・・で、文集を届けます。他の部員の皆さんはディスプレイの確認、会場の準備等していてください。顧問が車を出してくれるけど、きっと遅くなるから、皆さんは用事が済んだら適当に解散してください。以上。」
1,2年の部員は「はーい。」とため息まじりの返事をした。皆一様に口には出せない不満を顔に浮かべていた。約束していたテスト打ち上げ会も、部長の出現で流れてしまいそうな雰囲気があった。
 部長はいくつかの袋に文集を入れると3年の部員と圭子を引き連れて部室を出ていった。子猫は圭子と何も話せないまま、
「頑張ってね。」
と声をかけて見送った。圭子は力無く笑みを浮かべて部長の後に従った。
「もぉ・・・最悪ぅ!」
部長達が出掛けて少ししてから、中村京子が吐き出すように言った。
「どうして急に部長が出てくる訳ぇ?なぁんにもしてなかったくせにさぁ!」
「何かねぇ、前の部長が文化祭見に来るって言ってきたらしいよ。」
訳知り顔の2年が声をひそめて言った。
「ふーん。だからってねぇ・・・あーあ。恋か絡むと醜くてヤダねぇ。」
「猫も大変だね。目の敵にされてるからぁ。」
「え・・・あ・・・別に・・・」
子猫は壁際の長椅子に座って何をしようかと考えていた所に声をかけられて戸惑っていた。麗奈が子猫の横に座って肩に手をかけながら、
「何で猫先輩が目の敵にされなきゃならないんですか?そんなの絶対許せません!」
と抗議するように言った。2年の部員達は顔を見合わせて困ったように笑った。
「1年は知らなくていいの。」
「そうそう。この話はオフレコだから。」
「そんなぁ・・・」
麗奈は不服そうに眉を寄せたが、
「取り敢えずお弁当食べちゃおう。用が始まらないから。」
と京子が言って話が途切れてしまった。それで、麗奈はまだ子猫の肩に手をかけたままだった状態で子猫の顔を覗き込むようにして、
「猫先輩がいじめられないように麗奈がきっと守ってあげます。」
と力強く言って、肩の手に力を込めた。
「ありがと。でも、大丈夫だよ。」
子猫が麗奈を見上げるようにふわっと笑った。麗奈の方が身長も座高も高いので、どうしても見上げる形になってしまった。麗奈は間近で見つめ合う状態になって、また顔をさっき以上に赤くした。が、子猫は気が付かないフリをしてその長椅子から立ち上がると、テーブルでお弁当を開き始めたみんなと並んで座った。
「あ、コーヒー入れまーす。」
麗奈が立ち上がってそう言うと他の1年部員に声をかけて用意を始めた。麗奈はここ文芸部でもバスケ部でも1年のリーダー的存在らしい。活発で仕草も言葉も歯切れのいい爽やかな少女だった。
 京子が子猫の腕を指先でちょっとつついてから、意味ありげなウインクをして見せた。子猫は小首を傾げてわからない、という素振りをした。前に圭子から、麗奈が子猫に恋をしている、と言われたことはあったが、特別麗奈が変わった態度をとることもなかったので気にしないできたのだ。が、さっきの様子で、その時の話を思い出していた。京子もそれを言いたかったのだろう。
「でもぉ・・・そうなると打ち上げ会はどうなるのかなぁ?」
京子が何かを言おうとする前に、子猫は別の話題をフルことにした。
「そうそう!それが問題だよね。」
京子も気になっていたようで、真剣に頷いた。他の部員も同じように相づちを打って、大きなため息をついた。
「部長ってそーゆーのが好きじゃないもんねぇ。」
諦めたような2年の言葉に、
「えー!それってあんまりです!」
と麗奈が言った。
「私達1年も楽しみにしてたんですよー!この部室が狭いからって昼休みに使えるのは2年になってからだし、放課後だって体育系と違って一緒に練習するとかってこともないし、なかなか先輩方との交流が持ちにくいんですから。その話があった時はすっごく嬉しかったんです。バスケ部だって打ち上げコンパや交流会をしてるんですよー。」
「そうだよ!やっぱやるべきだって!」
京子の力強い言葉にその場にいた部員全員が頷いて賛成した。参加不参加は各自の自由ということで、非公式的なものでもみんなで打ち上げ会をしようという方向で話はまとまった。  食事の後もコーヒーを飲みながら不平不満談義が続いていたので、子猫は今日が誕生日で出掛ける予定があるからと、先に帰らせて貰うことにした。みんなは「おめでとう!」と言ってくれてハッピーバースデーの歌を歌ってくれた。そんなことが今までなかった子猫は、恥ずかしくて真っ赤になり、感激して涙がこぼれそうになった。
 昇降口で子猫が靴を履き替えている時、麗奈が駆け寄ってきた。
「猫先輩!忘れ物!」
そう言って笑いかけた麗奈は、え?っと自分の持ち物を確認する子猫の前に、小さな袋を差し出した。
「麗奈からのプレゼント、貰うのを忘れてます。」
「・・・え・・・」
「なぁーんて。えへっ。・・・部室で渡すのは気恥ずかしいから、バスケ部の方にいきます。って抜けてきちゃいました。麗奈は猫先輩のファンなんです。一方的なファンなので気にしないで下さい。・・・でも・・・プレゼント、受け取って貰えますか?」
麗奈は快活な顔を少し不安げにして袋を差し出していた。
「・・・ありがとう。すっごく嬉しい。」
子猫は照れながら、そっと袋を受け取った。
「こちらこそ、ありがとうです。」
麗奈はぺこっとお辞儀をすると、
「でも、ホント恥ずかしいから、後で見てください。」
と言って、体育館の方へ走っていった。子猫は袋を胸にギュッと抱き締めて嬉しさを味わっていた。みんなが歌ってくれたことも嬉しかった。いつの間にか、子猫はみんなに受け入れられていたのだ。そのことが感じられた今日という日が、子猫には本当に嬉しかった。

 帰りのバスの中で、子猫は麗奈のくれた袋に入っていた小さな包みを開けてみた。麗奈自身で包装紙を買って苦心して包んだのだろうと思える可愛い包みの中には、小さな銀の籠に白いレースのハンカチが花のように敷かれてあり、その花の中央に透明なガラスでできた猫がちょこんと座っていた。5cmほどの小さなガラスの猫は、頭をちょっと傾げて空を見ているようなポーズをとっていて、長いシッポの先を少し丸めているのがまた愛らしかった。子猫は思わず「可愛いー。」と小さな声を漏らしてしまった。バスの中で独り言を言うのは恥ずかしい。子猫はあわてて口元を押さえた。そして、包みをしまおうとして、ハンカチの影になっていた銀の籠の脇にカードが差し込まれてあったのに気付き、カードを開いてみると、
『子猫様へ お誕生日おめでとうございます☆
 見た途端、猫先輩のイメージと重なった猫です。
 麗奈もお揃いの猫を買いました。(*^_^*)』
と書かれてあった。甘えん坊の子猫が後輩から慕われるなんて、と不思議な感覚にとらわれながら、17歳という大人との境界線にまできてしまっている自分を改めて自覚するのだった。

 悪口大会に参加するのは小さい頃から苦手だった。小学生の頃も、たまに友達と喧嘩して分裂したグループが、子猫への同情を装って近付き相手の悪口を言い始めることもあったが、困って黙っていることの多かった子猫にすぐに飽きて離れていった。そうした一面では人の心の裏側が見え過ぎる冷めた心が、信じやすい幼い心と対比するようにあった。仲間意識がよくわからなくて、自分のモラルと感じるものに対してのみ忠実だった為、友達が潔癖症と言うように、親しい友達に対しても冷めている部分を確かに持っていた。
 文芸部のほとんどの部員は部長よりも子猫に好意を持ってくれているのがわかって嬉しかったのも本心ではあったが、一方では集団で一個人を批判する人達よりも、我が侭でも何でも自分の意志を持った発言や行動の出来る人が子猫は好きだった。用事があるならぎりぎりまでは部活動をしようと思っていたが、みんなのやる気が失せていたのは明白で、いつまでも愚痴や文句の言い合いになりそうだったので、昼食が済んですぐに抜けてしまったのだ。
 それで、思っていたよりも早く帰宅出来たので、支度するにしてもゆっくり時間があった。昭彦はスポーツジムから戻ったばかりのようで、子猫の早い帰宅にさっぱりした顔で迎えた。組に戻ってからの昭彦は、前に冬美が言っていたようにお店の仕事はしてないようにみえた。なるべく子猫といられる時間を作ってくれたし、夜中には帰宅するようにもしてくれていた。マンションに移ってからまだ3ヶ月だったが、生活もそうだし昭彦自身も大きく変わっていった。それが子猫の為だと言われれば嬉しくもあったが、不安が過ぎることもあった。が、漠然とした不安に悩むよりも、昭彦を愛して信じていけばいい、と思う子猫だった。

 支度にはまだ早いからと昭彦は子猫を制服のまま抱き上げて寝室のベッドに寝かせた。
「クックック。セーラー服の子猫を抱くのは久しぶりやな。」
と、悪戯っぽく笑うと、手足を薄絹のスカーフで縛り上げ、レイプするように抱いた。しかも顔面シャワーで大量の白濁液を飛ばしたので、制服にまで飛び散る、垂れるで汚してしまった。スカートも、最後まで着たままだったので、子猫の蜜や体から溢れ出た昭彦のミルクでベトベトになっていた。
「もぉ・・・こーゆー趣味?」
やっと手足を解かれて、赤くなった手首をさすりながら子猫が恨めしそうに言うと、
「ええやんか。わしの女をどう扱おうと。」
と笑って言った。こんな時の昭彦の眼は子供のように楽しそうに輝いていた。子猫は文句を言うのをやめて、昭彦の胸にもたれ、片足を昭彦の足に絡めるようにした。下着をつけないままスカートが肌に触れるのが不思議な感覚だった。昭彦の足を股で挟むようにすると、ジンジンと熱く疼く部分にスカートが当たる。体の火照りが制服の中にこもっている。
「ん、・・・気持ち良くて眠くなっちゃう。」
「そやろ?」
昭彦が声を出さずに笑って、腹筋が揺れる。静かで穏やかな時間がゆっくりと流れていく。ぼんやりと霞んでいく意識の中でさっきまでの激しい行為が頭の中に蘇ってくる。乱暴な言葉で責め立てられ、嬲り続けながら乱暴に突き上げられた。それでも感じてしまう子猫を卑猥な言葉でなじり、辱めた。無性に悲しくなって、泣いて甘えようとすると、一層罵られた。動きの取れない手足がもどかしく、必死に動かしたので余計布が食い込んでしまった。そんな激しさが嘘のように今の昭彦は優しかった。まるで嵐が去った後のように。
「けど・・・そろそろ支度せんとな。」
昭彦の声で目を覚ました。少し眠っていたらしい。んー、と鼻声を洩らし、顔を胸にすりすりする子猫を、昭彦は笑って抱き締めキスをした。
「ホンマに可愛い女やで。」
服をたくし上げて胸を優しく撫でていたが、乳首をギュッとつまんで、
「目ぇ覚まさな、あかんで?」
と言って、子猫が泣きを入れるまでグリグリときつく捻り続けた。
「あーん・・・起きるからぁ・・・」
と、ようやく昭彦の手を逃れて、子猫は起きあがった。

 開店前のマサの店を借りて昭彦が開いてくれた誕生パーティーはごく内輪のもので、お店で働いているホステス達の姿はまだなく、子猫が気遣うことなくお店の雰囲気を楽しめるようにセッティングされていた。豪華な料理が山盛りに並べられ、凝った飾り付けの大きなケーキも用意されていて子猫が蝋燭を吹き消すと、高価なシャンパンで乾杯された。付き合いで参加しただろう昭彦やマサの下にいる数名の若衆も、それぞれプレゼントを用意していてくれた。
 マサは今日の為にイギリスから取り寄せたという、ふわふわの大きなクマのぬいぐるみをプレゼントしてくれた。有名なお店の物らしく、肌触りがすべすべで抱き心地のいいクマだった。子猫が抱き締めて頬ずりをすると、マサは細い眼を一層細くして、満足そうに頷いていた。その時、ふと松木麗奈のくれた猫の置物のことを思い出し、文芸部員のみんなが歌ってくれたのも含めて話した。
「何やねん。そんな話聞いとらんで?」
と昭彦が不満そうに言うので、子猫は、
「だって、あきが制服脱ぐ暇もないうちに・・・」
と言いかけて、ぁっ、と口を押さえて赤面してしまった。その場の男達は制服という言葉で全てを察したように、にやにやと口の端に笑いを浮かべていた。
「だいたい、その女は何で子猫の誕生日を知ってたんや?」
「え・・・わかんないけど・・・」
「前に子猫を慕ってるちゅうてた後輩か?」
昭彦が片眉を上げて睨むので、子猫はうつむきがちに頷いた。
「まぁまぁ、ドクター。ええでんがな。ほれ、よくある・・・女子高の淡い恋心っちゅうもんでっしゃろ?実害はないんやさかい。ヘッヘッヘ。」
と、マサが意味深な笑いを漏らした。
「男の物がないっちゅうても触るやないかい。わしはレズだろうとわしの女に触れる奴は許せへん。子猫。ええか?気ぃ許してまんこに指突っ込ませるんやないで?」
昭彦の言葉に子猫はますます赤面して首筋まで赤く染めた。
「しない。しない。」
と顔を覆いながら子猫が首を振って言うので、昭彦もようやく納得したようだった。
 気を取り直した昭彦が渡してくれたプレゼントは、その時まで別室に置かれていた蓋付きの籠に入っていた。子猫が籠を受け取るとゴトゴトと動いたような気がした。え?っと恐々開けると、小さな仔猫が敷かれたタオルの上で丸くなっていた。
「可愛いー!」
子猫は思わず大きな声で叫んでいた。猫はずっと飼いたかったのだが、母親が嫌っていたので、ずっと飼えなかったのだ。仔猫は子猫の声に驚いたように声を張り上げて鳴き出した。子猫は仔猫を抱き上げて背中を撫でた。仔猫は細い爪を立ててしがみついてくる。細いだけに食い込んで刺さり痛いのだが、それでも可愛くてたまらない。子猫はもうすっかり仔猫に夢中になってしまっていた。小さい内に抱きすぎると股関節が弱くなる、と昭彦から注意されて、しぶしぶ籠に戻したが、蓋は閉めずに眺めてばかりの状態だった。
「そない猫ばかり見ちょったら他のみんなに悪いやろ。」
と昭彦が籠に蓋をして、また別室に置いてきてしまった。子猫はちょっと頬を膨らませたが、帰ってからゆっくり眺めようと思うとまた嬉しくなってずっとドキドキがおさまらなかった。
 豪華な料理を堪能しながら歓談し、歌ったり踊ったりして楽しい時間が過ぎていった。そして、もうそろそろお開きにしようという頃、いきなり会長がお店に現れた。皆一様に驚いて緊張した様子だったが、会長は笑顔で、
「いやいや、突然ですまなかったね。今夜ここでお嬢さんの誕生日会があると聞いてね、また顔を見たくなって寄らせて貰ったよ。」
と言い、子猫に大きな花束とダイヤの飾られた腕時計をプレゼントしてくれた。腕時計の入っていた箱を開けた子猫はあまりにも高価そうな品物だったので戸惑ってしまった。それで、思わず、
「こんな高価な物は頂けないです。」
と返そうとした。が、
「ハハハ。心配するほどの物ではないから、遠慮せんといてな。娘がおったら贈りたいと思うような物を選んだんだ。わしの為と思うて納めてや。」
と、会長が気さくな笑顔で言ってくれ、昭彦も、
「おやっさんの気持ちやし、貰うといたらええ。」
と言ったので、お礼を言って受け取ることにした。
 会長が来たことで新しいお酒が開けられ、また酒宴が始まった。そうするうちにホステス達が次々と出勤してきた。ホステスは子猫達のいるテーブルに来ると会長や昭彦にことさら丁寧に挨拶をしていった。
「こっちはええから、そっちで開店の準備でもしてんかい。」
と、マサが少し苛立って言うほど、男性陣へアピールしていった。それで、昭彦ももうお開きにしよう、ということで子猫を連れて帰ることにした。会長はせっかくだからと他のみんなとゆっくりしていくことにしたらしい。子猫はみんなにお礼と挨拶をするとプレゼントを抱えて店を後にした。持ちきれないプレゼントは昭彦と橋本が手伝った。橋本はお酒は乾杯の時だけで、後は料理ばかりを食べていたが、車の運転があるので控えていたらしい。
「意外に真面目ぇ。」
と、帰りの車の中で子猫がからかうように言って笑った。
「やっぱライセンスとかって取ると飲酒運転は出来ないの?」
と、聞く子猫に、橋本は当然とばかりに頷いた。
「そりゃ、せっかく取ったライセンスは剥奪されたくないっすよ。他にも車両関係だけじゃなく免許をいくつか持ってますしね、まだ勉強中のもありますから。」
「そーなんだぁ。」
子猫は改めて感心してしまった。けれど、その感心も仔猫の鳴き声ですぐに忘れてしまった。籠の蓋を開けて眺め始めた子猫はマンションに着くまで目を離せなくなっていたのだ。昭彦は苦笑しながらそんな子猫を見守っていた。

 こうして17回目の誕生日がすぎ、これからは17歳のちょっと大人になった子猫の青春が始まるのである。とは言っても、どこがどう変わることもないような日々が続くようにも思えるのだったが。
<33>
[文化祭(1)]
<33>文化祭(1)

 6月に入って最初の週末が子猫の通う高校の文化祭だった。前日は夜までかかって振り分けられた教室にディスプレイをしていた。皆で調べたものを模造紙に大きく書いて張り出し、新聞の切り抜きも拡大コピーして展示した。子猫が受け持った警察での取材も一角に貼られ、関連本も手前に並べられた。文集の販売コーナーも設けられ、例年通り1年生が担当していた。2年生は閲覧に来た人達の接客係で、3年生は自由参加になっていた。部長は前の部長が日曜日に来ると言ったらしく、土曜日には顔を出さなかった。部長がいないと他の3年生も面倒なのか、居づらいのか、朝の内に一度眺めに来ただけで、他へ行ってしまった。1、2年生も交替で他の展示やイベントを見にいくことは出来たが、親や別の高校へ行った友達が見に来るのを待っているようで、人待ち顔にまばらな客への応対をしていた。
 文化祭では文芸部はマイナーな存在と言えた。体育系では部費を稼ごうと屋台や出店や趣向を凝らした喫茶店などを出展していたし、パフォーマンスで言えば、音楽系の部活動やサークルが華々しく大音量で、日頃のうさを晴らすかのように演奏していた。ボランティアグループによるバザーの他に、個人グループのフリーマーケット参加も許されていたので、校舎内よりも外の賑わいの方がはるかに活気に溢れていた。

「そろそろお昼だし、交替で済ませてきちゃおか。」
と、副部長の川原圭子が言った。
「他の展示やイベントを見に行くのは、家族や知り合いが来た時に行くってことで、取り敢えず30分ずつお昼休憩にします。」
そう言うと圭子は中村京子を誘って部室へと行ってしまった。

 子猫は圭子とここ数日気まずくなってしまっていた。原因はわかっている。自由参加で開かれたテスト打ち上げ会は圭子も参加したが、ずっと塞ぎ込んでいるようだった。そしてカラオケでみんなが盛り上がっている時に、部屋の隅で子猫に聞いたのだ。
「ねぇ、・・・翔って知ってる?」
「翔?」
聞き返しながら子猫はすぐに顔を思い浮かべていた。中学の頃友達のような恋人のような不思議な関係だった相手である。その強烈な印象は忘れられるはずがなかった。
「私が付き合い始めた彼って翔なの。」
子猫はドキッとして圭子の顔を見た。圭子は探るような視線で子猫を見ていた。
「それって・・・猫の知ってる翔・・君?」
子猫はなるべく平静を装って聞いた。
「・・・そう・・・やっぱり知ってたんだ。」
「まだ知り合いか、わかんないじゃん。」
「きっと知り合いだと思うよ。」
圭子は目を反らして呟くように言った。
「何でぇ?翔なんて名前はいっぱいあるじゃん。」
「・・・彼にね、文集を見せたの。・・・そしたら・・・」
そこで圭子は大きくため息をついた。
「翔・・・猫の詩で・・・泣いたの。」
子猫は胸がキュンと切なく痛んだ。それでも動揺しないようにと気持ちを落ち着かせようと努力していた。勉強一筋だった圭子が初めて付き合い始めた彼氏なのだ。
「・・・だって・・・詩はペンネームで出してるし・・・」
「そう。ノエルだよね。・・・でも・・・じっと詩を見つめたまま涙ながして・・・”あのバカ。”って呟いたんだ。だから知ってるの?って聞いたんだけど・・・答えてくれなかったの。」
子猫は胸が熱くなって涙が込み上げそうになった。が、かつては体の関係もあった相手だと圭子には言えない。それに中学の時に終わっている関係なのだ。昔のことで圭子に余計な苦しみは与えたくなかった。
「翔って・・・同じ病院に入院してて友達になった翔太郎君なら知ってるけど。」
子猫はなるべく明るく答えた。
「入院?」
「うん。中学の時にもちょっと体調壊して2ヶ月ほど。」
「ふーん・・・」
圭子はまた詮索するような視線を子猫に投げかけた。
「パパが亡くなったばかりで落ち込みがきつくて殻に籠もってたから、翔君が声をかけてくれて友達になったの。・・・いっぱい励ましてくれたのに・・・今でも父親を恋しがってるから、”あのバカ。まだそんなくよくよジメジメしてるのか。”って思ったのかもね。・・あ、知ってる翔君ならってことだけど。」
「そうなんだ。・・・そっか。・・・それで付き合ったの?」
「え・・・友達としては退院後も何度か会うことはあったけど・・・やっぱ、学校が違うとそんなに会う機会もないし・・・高校に入ってからは会ってないし、それだけだよ。」
「・・・そっか・・・」
圭子はまだ納得出来ないようだったが、他のみんなが部屋の隅でヒソヒソ話してる二人に歌うようにと声をかけてきたので、その話はそこで打ち切りになった。
 その日以来、圭子は直接子猫と向き合っては口をきかなくなっていたのだ。副部長として全体に声をかけたり、準備の指示をすることはあったが、態度のよそよそしさは他のみんなも感じているようだった。

 人足の途絶えた教室の窓から外の賑わいを眺めながら、ぼんやりと物思いにふけっていた子猫は、いきなり肩に手を置かれて、ビクッと体を震わせた。
「バーカ。何ボケッとしてんだよ?」
振り返って見上げると、ますます身長の伸びた翔が、初めて出会った時のように光を浴びて笑っていた。子猫はしばらくポカンと口を開けたまま翔の顔を眺めていたが、ハッとして、
「あ・・・圭子は今、交替でお昼食べに・・・」
と教室の中を見回して確認しながら言った。
「お前の顔を見に来たんだよ。・・ったく、相変わらずガキくせぇ顔してるぜ。」
翔は目を眇めて子猫を見下ろした。
「ガキっぽくないもん。」
子猫は頬を膨らませてうつむいた。
「ほら。そーゆーとこがガキくせぇんだよ。ひさびさの俺様の顔を見せに来てやったんだ。もっとじっくり見たらどうだ?」
翔は子猫の顎を指先ですくうようにして顔を上げさせた。
「やめてよぉ。圭子が見たら誤解するじゃん。」
子猫は慌てて翔の手を振り払った。翔はムッとして、
「なら、俺に付き合え。」
と言うと子猫の手をつかんでひっぱるようにした。子猫は前のめりになりながら踏みとどまり、手を離そうとしたが、翔は強く握って放さなかった。
「ちょっ・・ちょっと困るよぉ。」
「話があるんだ。ここではまずいだろ?」
翔はさっきまでの笑顔が消え、眉間にしわを刻んでいた。そう言えば、圭子はあれから翔に会ったのだろうか。子猫が友達だったと言ったことを翔に話したのだろうか。確かに子猫も気がかりなことがあった。ここで話すと圭子に伝わりかねない。と子猫も思った。
「・・うん。」
「わかったら、黙って俺についてこい。」
翔は子猫の手をつかんだままずんずんと大股に歩きだした。子猫は小さく早歩きしてついて行くしかなかった。190cm近いだろうと思える翔は人混みの中でも頭が見える。中学の頃は可愛い顔立ちでジャニーズ系と女の子達から騒がれていたが、高校生になって精悍さが加わって男らしくなっていた。子猫の手をひきながら一歩前を歩く翔の横顔を見ながら、手の温もりを懐かしいとふと思ってしまう子猫だった。

 屋上に出た翔は転落防止の金網に寄りかかるようにして、あらためて子猫の顔をじっくりと眺めた。子猫は恥ずかしくなって、翔と並んで金網に寄りかかった。
 屋上には園芸部の温室があって、今日はその前でハーブの苗を販売していた。その隣りには何故か金魚すくいや綿菓子屋さんが出ていた。反対側のスペースは空いていて、ダンス部とバトン部の公演時間が書かれた看板が立っていた。翔と子猫はその今は空きスペースになっている場所の校庭が見える手すり前の金網の所に立っていた。
「圭子が付き合い始めたのが翔だって聞いてビックリしちゃった。」
翔が何も言わないので子猫から話し出した。
「別に圭子だけと付き合ってる訳じゃないさ。」
さほど関心がないような口振りで翔が言うので、子猫はキッと翔を睨んだ。
「圭子は真剣なんだから、いい加減な言い方しないでよ。」
「あいつにも言ってあるはずだけどな。他にも付き合ってる子がいるってさ。」
「・・・え?」
「それでも良ければいつでも抱いてやるって言ったんだ。」
「ひっどぉーい。・・・不良。」
「あっはっはー。これでも真面目になった方だぜ。族だってお前がずっと嫌ってたから去年引退したしよ。」
「そうなんだぁ。・・・って・・つーか、猫をそこで出さないでよ。」
「バーカ。いつ俺が諦めるって言った?お前がしょーもない奴に入れ込んで不倫に夢中になってるし、俺的にも族の方が大変だったから巻き込みたくなくて引いてはいたが、お前に惚れてる気持ちに変わりはないんだぜ。」
翔らしい、いつもの勝手な言い分だった。自分の気持ち次第でみんなを振り回すとこは変わってないように見える。
「圭子と付き合ってるんじゃん。他の彼女までいるようだし。なのに平気でそーゆーことを言うんだぁ。呆れちゃうなぁ。」
子猫は突き放すように皮肉っぽく言った。
「あっはっはーだ。俺も男だしな、やせ我慢はしないことにした。美人で可愛い子なら来る者は拒まずってことにしたのさ。つーか、お前と付き合う前はずっとそうだったんだぜ。前に戻ったとも言えるかな?はっはー。」
おかしそうに笑う翔の脇を初夏の風が吹き抜けていく。さらさらの髪が風になびいて、相変わらず綺麗な男だと子猫は思った。綺麗だけど狂暴。綺麗だけど傲慢。でも、我が侭さも強引さも許せるほどに輝いている。他にも彼女がいると知っていても、圭子が好きになるのも無理はないと思えた。しかも中学生で県内最大の暴走族のリーダーだった翔の思考は驚くほど大人で、頭も超天才なのだから、学生は子供っぽいと言っていた圭子でも翔に魅了されるのは不思議ではなかった。むしろ、この翔でなければ圭子は変わることもなかっただろう。
「ひさびさに俺を見て惚れ直したか?」
翔を鑑賞するように見ていた子猫に、顔を近付けて言った。子猫は顔を背けて体を少し離して距離をとると、
「そうだね。前も素敵だったけど、今はもっと素敵でかっこいいよ。」
と、眉をひそめて言った。
「何だぁ?言ってることと表情が違いすぎないかい?ベイベェー。」
翔はおどけたように笑ってウィンクしてみせた。
「だって、前から翔はカッコイイって言ってるじゃん。翔のことを好きなのも変わらない。・・・でも、そんなことはどうでもいいの。だって、翔は圭子と付き合ってるんだし、猫にも彼氏がいるんだし。」
翔の目に怒りの炎が灯った。
「ああ。そうだってな。」
「圭子から聞いたんだ?それなら、猫が翔のことをただの昔の友達だって説明したことも聞いた?」
「ったく呆れるぜ。お前がそんな嘘を言うなんてな。」
「だって・・・圭子は今、一番仲のいい友達なんだもん。気まずくなりたくないの。」
「俺は嘘は嫌いだ。適当なことを言ってると、結局後から自分も相手も傷つくことになるんだぜ。そんなこともわからないのか?」
子猫より何ヶ月か下の翔だったが、いつも子猫を子供扱いにして諭すように話すのが、付き合っていた頃からの翔のくせのようだった。
「・・・だって・・・あ・・・それじゃ話したの?」
「まだ、なんとも答えてねぇよ。」
「ほーら。翔だって圭子に知られるのが嫌なんじゃん。」
「っざけんじゃねぇ!」
ガシャン!と音をさせて、子猫を挟み込むように金網をつかんだ翔は、怒りを露わに睨み付けた。瞬間的に表情が変わるのも前と同じ。感情さえも自分の都合で調整してしまう翔は、喧嘩でさえも自分好みに演出するところがあった。それら全てが乱反射する光の玉のように輝いている翔を、子猫は懐かしさと憧れを持って見ていた。が、翔は永遠の憧れであっても、居心地のいい場所ではなかった。
「・・・怒ることないじゃん。」
子猫はうつむきがちに上目遣いに翔を見上げ、困ったような瞬きを繰り返した。翔の表情に苦悶の色が浮かび、燃え立つような怒りが揺らいで消えていく。
「・・・ったく・・・お前可愛すぎるぜ。しかも俺がそーゆー顔に弱いってのを承知してんだからな。それがどんなに残酷か、お前はわかってねぇしよぉ・・・」
翔は顔を近付けると耳元に苦しげな息を漏らし、子猫の肩に額を押し当てた。微かな震えが伝わってくる。子猫は無意識に翔の髪を撫でていた。指の間を抜けるサラサラの髪の感触を何度愛しく感じたことか。孤独な心を子猫にだけ見せていてくれた翔を、こうして撫でたことも度々あった。
「・・・お前を抱き締めてぇ・・・」
肩に頭を押しつけたまま、呻くように言う。金網がギシギシと音がする。腕を張って金網を強くつかむ翔の腕も震えている。
「・・・翔・・・」
どう言えばいいのだろう。この状況を早く何とかしなければ、圭子がお昼休憩から戻ってきてしまう。園芸部の場所からは少し離れているものの、普通ではない様子がわかるようで、それとなく眺めているようだったし、屋上に顔を出す人達の視線も気になっていた。
「翔・・・お願いだから・・・困らせないで。」
翔は子猫の肩に頭を乗せたまま、鼻を首筋にこすりつけるようにして何度か息を吸いこんだ。
「媚薬みてぇだぜ。お前の匂いが俺を狂わせるんだ。」
「・・・バーカ。」
子猫は翔の口振りをマネして言った。翔はようやく頭を上げると、顔を近付けたまま子猫に息がかかるほどの距離で、
「キスしてぇ。・・・ったく俺もお前が相手だと意気地がねぇぜ。」
と言って苦笑した。それから真剣な眼差しで子猫の目を覗き込むと、
「子猫。お前、今、幸せか?」
と聞いた。
「翔が困らせなければ幸せだよ。」
「俺は真剣に聞いてんだ。ちゃんと答えろよ。」
「・・・わかんない。でも・・・多分・・・きっと幸せかも。」
「彼氏はいい奴なのか?」
「・・・うん。優しくしてくれるし・・・」
「何で前の男と別れた時に俺に言ってくれなかったんだよ。え?俺があいつはダメだって何度も言ってたのを聞かないで・・・」
「だから・・・」
「え?」
「だもん。・・・いくら悲しくたって寂しくたって、今更のように翔に泣きつけないじゃん。・・・で、そーこーする内にまた入院しちゃったし・・・」
「それは知ってたぜ。検査で病院に行った時、馴染みの看護婦がそう言ってたからな。病室まで行ってチラッと覗いたんだけどな、何かやつれ果てて死んだみたいに眠ってるお前見たら、こんな時に会いたくないだろうなって、声かけなかったんだ。」
子猫は初めて聞いた事実に驚きを隠せず、翔を見つめ返した。
「それが失敗だったよなぁ。退院の日を聞き込んだから、花束持って待ってりゃよぉ、知らない男が俺のよりデカイ花束持って迎えに来てたんだから・・・っくそっ!・・・しかも懲りもせずにまぁーたいいオヤジで・・・お前の甘えるような視線が腹が立ってクソムカついて、花束ぶん投げて帰っちまったのさ。」
「あはっ。」
「あは、じゃねぇ!」
「だって・・・」
「だって、じゃねぇーぜ!ったく・・・俺だってヤケになる時だってあるぜ。」
翔の言い方が拗ねた子供のようだったので、子猫は思わず小さな笑いをこぼしていた。それに、別れたままだと思っていた翔が、ずっと子猫を気に掛けていてくれたことも、内心嬉しかったのだ。
「俺は何つー損な役回りなんだ。泣けてくるっつーもんだぜ。」
「・・・ごめんね。」
子猫は笑みを浮かべて言った。
「キスさせろ。」
「へ?」
「同情するならキスさせろ!」
「バ・・・バカ!」
そんなことをしたら、圭子との関係は決定的に壊れてしまう。それに昭彦がもし知ったら、猛烈に怒り出すのが目に見えている。子猫は金網と翔の両腕に挟まれていて動きが取れない状態だったが、とっさにスルッと下に滑り落ちるように屈んだ。
「・・・おい?」
天から翔の声が降ってくる。子猫は屈み込んだまま翔を見上げた。両手で金網をつかんだまま子猫を見下ろす翔と、その足元で小さく踞る子猫。
「何か捨て猫みたいだぞ。その格好は。」
「だって・・・翔が脅すんだもん。」
子猫は開き直ったように思いきり頬を膨らませた。
「・・・ったく子猫は可愛いな。」
そう呟いた翔は金網から手を離して、数歩後ろに下がった。子猫は踞ったまま、膝をスカートの上から抱き締めた。
「・・・いいさ。圭子にはお前は妹みたいな奴だって言っておいてやるさ。・・・だがよぉ、バレた時一番辛くなるのはきっと子猫だぞ。・・・俺は元々女の愚痴なんて聞きゃーしねぇーし、圭子は裏切られたの、騙されたのと怒ってお前を責めるだろうし、そうなりゃ、結局またお前は自分を責めるだろうが、え?それでいいっつーならそうしろよ。」
「・・・うん。」
子猫は悩みながらも他に方法が思いつかなかった。翔は舌打ちをすると踵を返して、
「先に戻るぜ。俺を冷静に見れる覚悟が出来たら戻ってこい。それまでは女子高生のみなさんをかまって遊んでてやるからよ。あっはっはー。」
と、少し低くなった高笑いを残して校舎の中に戻って行った。取り残された子猫は昼時の空に顔を向けて目を閉じた。6月に入ったばかりとはいえ、ジリジリと照りつける陽射しが痛かった。翔への憧れは思い出の中に溶かしてしまおう。もう、恋人に戻れることはないのだから。自分で選んだ道なのだ。そして昭彦との新しい道を歩きだしているのだから。と、光を受けた瞼の赤さを感じながら、何故か切なくなる心に言い聞かせる子猫だった。

 子猫が文芸部の展示教室に戻ると、教室の中にはかなりの人が集まってきていて、その中心から笑いが起こっていた。取り巻かれていてもわかる長身の翔がチラッと子猫の姿に視線を投げた。が、すぐに何でもないように目を反らすと、
「俺に聞いてくれりゃぁ、もっとすっげぇー犯罪だって教えてやったのによぉ。」
と話の続きを始めた。
「だってぇ、翔と付き合う前に調べたんだしぃ・・・」
圭子の甘えたような上擦った声が聞こえる。翔の回りにはいつも人が集まってくる。時には反感を買うほど傲慢ではあっても、誰しもが憧れる強い光を放っている翔は、どんな集団の中でも抜きん出て中心となってしまうカリスマ性があった。それは圭子にも似た所があって、眩しいくらいに光り輝くカップルだよな、と子猫は思った。
「あ、猫ぉ。」
取り巻く人をかき分けて圭子が声をかけてきた。
「お昼休憩、行ってきていいよ。」
そう言って笑う圭子の肩には翔の手がさりげなく置かれていた。それだけのことがそんなに嬉しいのかと思うほど、圭子は上気した顔を輝かせていた。
「あ、うん。じゃぁ、そうする。」
子猫は翔の顔を見ないように圭子に笑顔で答えた。
「おい!お兄ちゃんにご挨拶もなしか?」
”お兄ちゃん”を強調して翔が不機嫌そうに言った。子猫は肩越しに目を眇め、
「あんまり懐かしくて姿が見えなかったみたいよ。年下のお兄ちゃま。」
と”年下”を強調して答えてやった。
「・・・ったく可愛くねぇな。さっきだって心配して色々聞いてやってるのにうるさがるしよぉ、もちっと男への礼儀を学んだ方がいいぜ。なぁ、圭子?お前もこんな奴じゃ大変だろうけど、しゃーないから面倒見てやってくれな?」
子猫を軽く睨んだ後、圭子にウィンクして笑いかける翔を、圭子は眩しそうに見て頷いていた。翔はそれっきり子猫に関心を示さず、また別の話題を話し出したので、また取り巻く人垣が多くなったようだった。子猫はそっとため息を洩らして背中を向けた。
「猫先輩!」
教室を出かけた子猫に麗奈が声をかけてきた。
「一緒に休憩しようと思って待ってたんです。いいですか?」
「うん。」
子猫はなんだかホッとして、笑って頷いた。
「お腹空いちゃいましたねぇ。屋台でジャガバター買ってきませんか?」
「あ、いいかもぉ。・・でも混んでないかなぁ?」
「バスケ部のですから、優先的に作って貰います。」
「えー・・いいのかなぁ・・」
「大丈夫ですって。さぁさぁ、行きましょう。」
麗奈は強気に笑って子猫の肩に手を回すとグッと力を込めた。子猫は戸惑いながらも押されるように歩き出した。
<34>
[文化祭(2)]
<34>文化祭(2)

 お昼休憩が終わって子猫が麗奈と展示教室に戻ると、あの人混みはなくなり、また静かな空間が戻っていた。翔と圭子の姿も見えなかった。
「お帰りー。」
と京子が気の抜けたような笑顔で迎えた。
「圭子の彼氏って格好良かったねぇ。・・猫とも知り合いだったんだって?」
「あ、うん。ちょっとだけね。・・帰ったの?」
「ううん。圭子が他を案内しに行ったから。」
「あ、そっか。それで、やっと静かになってくれた訳か。ふふ。」
「話が面白いから、みーんな集まってきちゃったからね。客寄せにはいいかも?」
「ダメだよぉ。話すのをきゃぴきゃぴ聞くばっかで、展示物は全然見てくれないしさぁ、逆に展示を見ようとしてくれるお客様は入れないし・・・」
子猫は窓際にいくつか置かれてるイスのひとつに座って、ガランとした教室を見回した。
「猫はこーゆー静寂の方が好き。」
と、静かに微笑んだ。京子も隣りに座ると、
「でもさぁ、あれだけイケてたら何でもOKって感じだなぁ。」
と思い出したように笑った。
「入学早々で生徒会長に立候補して、見事当選しちゃったんだって?」
「へぇ・・・翔らしい・・・」
「あれ?猫は知らなかったの?」
「知らないよぉ。だってずっと会ってなかったもん。」
「でも妹的存在って猫のことを言ってたよ。」
「入院してた時はね。色々教えて貰ったし、励まして貰ったりしてたから・・・」
「ふーん・・・そうなんだぁ。え・・それじゃぁ彼も?」
「うん。何でかは知らないけど・・・喧嘩して怪我でもしてたのかな・・」
子猫は翔の心臓の欠陥については話さないことにした。翔自身がそのことで同情されたり気遣われるのが嫌いだったからだ。
「あはは。そうかもねぇ。何かそんな感じもするね。」
京子は納得したように笑った。誰も翔を見て体に欠陥があるとは思わないだろう。子猫も発作で苦しがる翔を見てなければ信じられないほどに、鍛えられた均整のある体をしていたのだ。しかも翔は親しい友人に、「俺が発作で死にそうな時でも冗談言って笑わせろ。それが出来ないなら俺の前に顔を出すな。」と言ってのけるほど気丈な性格でもあった。翔がどこまで圭子に話し、圭子がそれをどこまで京子に話したのかわからないのだから、余計な事は言えなかった。
「んー・・・でも、いいなぁ。妹でもいいからもっと近くで見ていたいよぉ。」
「前はもっと可愛い顔してたんだよ。で、ファンがいっぱいいて。」
「だよねぇ。ファンがたくさんいても不思議じゃないよねぇ。」
「でも、本人は可愛いって言われるのが超嫌いでね、年上のお姉様方から可愛いーって言われる度にムキになって怒ってたんだよぉ。」
「あははは。男気が強いのかもね。」
「うん。かなりね。」
子猫はもう翔のことは話したくなかったが、京子は興味が尽きないようで、あれやこれやと聞いてくる。子猫はあまり踏み込まないように受け答えしていたが、
「でも、本当に高校入ってからは全然会ってなかったから、今のことって何にも知らないの。付き合ってる圭子の方が詳しいはずだけど。」
と、それとなく話を打ち切るように言った。
「だけど・・・」
京子が声を落として耳打ちするように顔を近付けた。
「圭子が猫に冷たかったのって、猫の方が彼氏の翔君と先に知り合いだったってことが原因なんでしょう?」
子猫はさぁ、と肩をすくめた。
「それくらいであーゆー態度をとるって圭子らしくないよねぇ。」
「・・・仕方ないよ。圭子の彼氏が翔だったなんて猫もけっこうビックリしたし・・・」
「妹的存在って何か気になるけどね。言ってみれば小姑だもん。」
「えっ・・・うっそぉー・・・それって超嫌ぁー。取り消して貰わなきゃ。」
「取り消すって・・」
「だって、猫の方が年上だもん。お姉様的存在にして貰う。」
「えー、マジ?」
「翔は水瓶座。猫は双子座。完璧な年下だもん。」
「あ、じゃぁ、私も年上だぁ。つーか、圭子もじゃん。」
「昔っから年上キラーだったのかも?看護婦さんからの受けもいいし。」
「って中学生でしょう?年下って言ったら小学生になっちゃうじゃん。」
「あは。それもそうだねぇ。」
子猫と京子はヒソヒソ話しながらクスクスと笑った。

「あのぉ・・・ちょっといいですか?」
展示を眺めていたブレザーの制服を着た男子高校生が声をかけてきた。子猫と京子は、「はい。」と答えて席を立った。高校生は展示内容の説明だけでなく、今の高校生のあり方についても議論を交わしたかったようで、子猫と京子に代わる代わる意見を聞いてきた。それに答えるうちに周りに人が集まってきて、ちょっとしたディスカッションの場になっていた。京子は議論を闘わせるのが好きなようで積極的に答えていたが、子猫は聞いていることの方が多かった。それでも、熱が入った高校生が子猫に、どう思うか?とムキになって問いただすように詰め寄ってきた。子猫にはこうした論客は対処しきれず、困ってうつむいた時、不意に肩に手を置かれた。ビクッと身をすくめた子猫が、ちょっと引かれたと思うと、高校生の前に立ちふさがるように長身の翔が割り込んで、
「議論にかこつけてナンパしてんじゃねぇー!」
と一喝した。子猫は翔の背中にまわっていたので表情はわからなかったが、磁石を反転したように一斉に周りが数歩下がったのを見ると、余程睨みを効かせていたのだろう。元暴走族のリーダーとしての威圧感は健在のようだった。が、感心している場合ではないので、
「ちょっと・・・翔・・・誤解だって・・・」
と説明しようとしたが、翔はチラッと肩越しに顔を向けると、
「ったく・・相変わらずトロいなぁ・・。こーゆー奴等は議論ふっかけて相手が困るのを楽しんでるんだぜ。相手が女なら余計に絡んでくる。お前みたいにトロい・・・良く言やぁ素直で純粋な可愛い子は格好の獲物なんだ。」
と言って、また高校生に顔を向けると、
「お前ぇみてぇな奴等は最っ低ぇーなんだよ!」
と罵倒した。
 翔が怒ってる時には口出しは出来ない。また、言っても聞いてくれることは滅多になく、後になって「俺なりに計算して脅しかけてるんだ。そんな時は黙ってるのが可愛い女なんだぜ。」と甘い囁きで諭されたものだ。
「お前こそいきなり失礼じゃないか。」
翔の怒りの形相に一度は後ろに引いたものの、公然と無辱された高校生は反撃しようと口を引き締めていた。
「おお!上等じゃねぇか!議論したけりゃ、俺が相手になってやるぜ。ただし、屁理屈こねやがるとただじゃおかねぇぜ?模試で何度も全国1位になったことのある俺様を相手に出来るっつーなら、やってやろぉーじゃねぇかよ!え?」
「い・・いい加減なことを言うな。」
「信じねぇのはてめぇの勝手だがよぉ、大樹高の翔って言やぁ、ちったぁ有名なはずだぜ!」
「大樹高の・・翔?!・・・あ・・あの元暴走族だった?!」
「あっはっはー!そこまで知ってるなら、俺がいい加減なことを言ってねぇこともわかるってもんだろよ!あ?どうなんだよ!」
ブレザーの高校生は青ざめた顔でガタガタと体を震わせていた。
「翔、やめて。お客様なのよ。」
呆気にとられていた圭子が気を取り直して仲裁に間に入ってきた。
「邪魔すんじゃねぇ!退いてろ!」
翔の剣幕に圭子はビクッと震え、泣きそうな顔になって後ずさりした。戦意を喪失していた高校生も更に後ろに下がると、
「くだらない。やってらんないよ。」
と小さく捨て台詞を言って背中を向けた。
「・・っんだとぉぉ!くぉるぁぁぁ!」
大股に素早く動いた翔は次の瞬間には高校生の胸ぐらをつかんで宙づり状態にしていた。ヒッと息を飲む音と、小さな悲鳴が教室に広がった。
「翔っ!」
子猫は思わず翔に駆け寄り、背中から腕を回して抱き締めた。
「・・・お願い。」
背中に顔を埋めて言った言葉は小さくくぐもっていた。瞬間的に時間が止まったような間があった。
「・・っちっ!・・しょーがねぇなぁ。」
翔は苦笑して吊り上げていた高校生をゆっくり降ろすと手を離した。高校生はもう言葉を出す気力もなく、転びそうな足取りで逃げるように教室を出ていった。周囲からはホッとしたため息も聞こえてきたが、まだ翔から目を離せない様子で興味深そうに眺めていた。翔はそんな周囲は気にするようでもなく、前に回された子猫の手に自分の手をそっと重ね、愛おしむように撫でた。
「・・・バーカ・・・これぐらいで泣くなよ。」
穏やかに優しい声で翔がゆっくり宥める口調で言った。
「・・・泣いて・・・ない・・・」
そう言いながら、子猫は翔の背中に埋めた顔をあげれなかった。  なんて危険な激情。純粋で無垢だからこそ暴走する魂。この魂をどんなに愛していたことか。恐れながら憧れた想いは少しも変色することなく、子猫の中で息づいていたのだ。だが、子猫には憧れることしか出来なかった。目まぐるしく飛び回る光の玉をつかむことなど出来ない。  子猫は前に回した腕をそっと引き抜こうとした。が、翔が子猫の片方の手をつかむと体を反転させて子猫を抱き締めてしまった。30cmの身長差がある翔に抱き締められると、腕の中にすっぽりと包まれてしまうようだった。
「ったく・・・放っとけねぇよ。いつでもポケットにつっこんで持ち歩きてぇくらいだぜ。」
「・・・翔・・・」
「何で俺じゃダメなんだ。・・・こんなに愛してるのに。」
翔の言葉に子猫は息を飲んだ。それだけは圭子の前で言ってはいけない言葉なのだ。子猫は慌てて翔の腕の中から抜け出そうと藻掻いた。けれど、翔は子猫の両肩を大きな手でしっかりつかんで離さない。
「嘘や言い訳なんて言う必要はないんだ。はっきり言えばいいだろ?俺の片思いだって!そうさ!いつだって俺の一方的な恋なんだ!お前は俺じゃダメなんだからな!」
翔の声は苦しく悲しげだった。子猫は大きく首を振った。
「・・・違うぅぅ・・・」
人前で感情を晒すことも、それによって誰が傷つこうと、気にしないのが翔である。常に光の中にあって、ありのままの自分でいること、自分の感情に正直であることが、暴走族にもし、生徒会長にもさせるのだろう。
「お前ほど俺をわかってくれる奴はいない。お前ほど俺を信じてくれる奴もいない。お前の痛みは俺の痛み。俺の痛みはお前の痛み。俺の魂の半身はお前しかいないんだ。」
「・・・やめて・・・翔・・・」
「お前だって俺を好きなんだろ?愛してるんだろ?なのに何でなんだよ?何で俺を受け入れてくれねぇんだ?何で俺じゃダメなんだ?」
再び、強く抱き締められ、頭にぐりぐりと顔を擦りつけられて、子猫は逆らう気力を無くしてしまった。そっと背中を抱き包むように腕を回すと、翔の懐かしい匂いに浸った。
「・・・わかんない。」
そう呟いた時、大粒の涙がボロボロと溢れ出した。
「泣くな。お前に泣かれるのが一番辛いんだ。お前が泣いていいのは俺に抱かれて感じてる時だけだぜ。」
それでも溢れ出す涙を抑えられず、翔の胸で嗚咽した。翔は子猫の髪を撫でながら、髪にキスを繰り返した。
「子猫は俺が守る。そう決めたあの日から、俺の気持ちは少しも変わっちゃいないんだ。お前だって俺を求め続けてる。そうだろ?」
「・・・わかんない。」
「何でわかんねぇんだ?自分のこったろが?・・つーか、お前はいっつも考えるのがメンドクなると、わかんない、だよなぁ。そんなだから、すーぐ流されて人のいいように利用されちまうんだぜ。」
「だって・・・わかんないもん。・・・それに・・・翔だって猫だってそれぞれ恋人いるじゃん。それなのに・・・そんなこと考えたくないもん。」
「わかんなきゃ、俺が教えてやる。考えたくないなら、俺の言うままにしてりゃいいんだ。」
翔は子猫の顔を顎の下に手を当てて上げると、涙を指で拭って、顔を近付けた。視線が絡み合った次の瞬間、唇が重ねられた。激しく熱い、情熱を注ぎ込むようなキスは頭の芯を痺れさせる。子猫は体の力が抜けていき、うっとりとキスを味わってしまった。
 周囲の囃すかけ声の間から、呻くような泣き声が聞こえた。圭子が顔を覆って体を震わせていた。子猫は幻覚から覚めたように目を開けると、翔のキスから逃れようと両腕を張って翔の胸をそっと押し返した。翔はようやく子猫を離して、
「・・・悪い。」
と言って大きく息をはいた。そして、
「おらおらおらおるぁぁぁ!てめぇ等、用もねぇのに見物してんじゃねぇぇぇ!」
と、周囲を遠巻きに囲んで見ていた人達を教室から追い払って、ドアを閉めた。教室には翔と文芸部員だけになった。ガランとして静まりかえった教室に圭子のすすり泣く声だけが響いていた。圭子の肩に手を置いてさすっていた京子が、
「どーゆーつもりなの?」
と、キツイ視線を翔に投げかけた。
「はん!わかんねぇのかよ。頭悪ぃ女だぜ。」
「あんたが猫に片思いしてるってことはわかったけど、だからって酷すぎるじゃない!」
「っせぇーんだよ!何にも事情知らねぇで口出しすんじゃねぇー!」
興味のない女性に対しては残酷なほど冷酷になる翔は、京子に睨みを効かせて怒鳴りつけた。京子は唇を噛むと次の言葉を詰まらせた。
「ま・・・そうだな。圭子には悪いことをしたよ。・・・だいたい、圭子と付き合い始めたのも、子猫と同じ高校だったからだしな。子猫の情報が欲しかったのと、こうして会えるチャンスが欲しかったって気持ちが正直あったってことは認める。・・・まさか同じ文芸部で、友達とまでは知らなかったけどな。」
「・・・私は・・・利用されただけ?」
圭子が涙に濡れた顔を上げて、翔に切なそうな視線を向けた。
「いや。・・・きっかけはそうだったとしても、子猫に男がいるのは知ってたし、俺もやりたい盛りだしよぉ。ま、素顔が綺麗な女は基本的に好きだしな。あっは。・・・振り向いてくれない女に操を立て続けるのも辛いもんがあるしな。・・・忘れたいと思ってたのも正直な気持ちかもな。消せない想いは胸の奥に閉じ込めちまいたかったのかも。」
翔は項垂れてため息をついた後、髪をかき上げて天井に顔を向けた。
「けどよぉ・・・昔のまんまなんだぜ?・・・命がけで惚れた時のまんま・・・綿菓子みてぇにフワフワで柔らかくって甘くってよぉ・・・」
天井を向いたまま目を閉じた時、一筋の涙が翔の頬を伝わった。
「顔を見ちまったら・・・閉じ込めてた想いが一気に吹き出しちまったんだ。」
暫くの沈黙があった。翔はゆっくり圭子の方を向くと、
「悪かったな。」
と微かに苦笑いを浮かべて言った。
「んで、どーする?俺を一発殴って終わりにしたけりゃそれでもいいぜ。全面的に俺が悪いんだ。無抵抗のまま受け入れてやるぜ。」
圭子は呆然と翔を見つめていた。止まらない涙が顎から雫となって床に落ちた。
「だがな、これだけは言っておくぜ。今回のことで子猫を責めるんじゃねぇ。俺を友達だとしか言えなかった気持ちもわかってやってくれ。・・・お前等だってそうだろ?友達の彼氏を”なぁーんだ。私が前に付き合ってた男じゃん。”なんて言えるか?・・そりゃ、レディースの連中はよく言ってるけどよぉ、・・・俺が族を率いてた時に付き合っていたと言ってもな、子猫は人形みてぇにいい子だったんだ。・・・人形みてぇに心もなくしちまってた。・・・だから、俺の命を吹き込んでやりたかったんだ。」
そこまで言うと、翔は返事を待つかのように息をついて沈黙した。だが、誰も何も言えなかった。子猫も壁際まで下がってずっとうつむいたままでいた。また大切な友達をなくしてしまった、と自分の性の宿命のようなものを感じながら、翔を拒みきれなかった自分を責めていた。
「・・・猫は?・・・どうしたいの?」
やっと圭子が凝固した沈黙を破って言った。子猫はハッと顔を上げて圭子を見た。圭子の表情からは怒ってるのか、悲しんでるのか、恨んでるのか、わからなかった。
「・・・どうって・・・どうにもならないじゃん。」
「翔の気持ちを受け入れて付き合うのか、それとも断るのか。はっきりさせなさいよ。」
子猫はあらためて問われると言葉が出てこなかった。答えられずに翔を見た。こんなに傷ついている翔を突き放すことがどうして言えるだろう。でも、一方では傷ついている圭子がいる。自分の曖昧な態度がどちらも傷つけていることを感じながら、それでも言えなかった。
「副部長、猫先輩はずっと拒否してるじゃないですか!問題はこの騒ぎを起こしてる男が悪いんです!この男を呼んだのは猫先輩じゃないんですよ?誘ったのは副部長自身じゃないですか!責任を猫先輩に向けるのは違うと思います!」
いつのまにか子猫のそばに立っていた麗奈が抗議した。
「それくらいわかってるわよ!・・・猫は、ただ可愛いだけ。ただ優柔不断なだけ。・・・素直で優しい子だってことくらいわかってるわよ。・・・ただね・・・時々、それがすっごく残酷なのよ。・・・でも、責めてるんじゃないの。翔の為にもはっきりさせてあげなさい、って言ってるの。」
「だけど・・」
まだ反論しようとしていた麗奈の腕をそっとつかんで首を振り、
「・・・うん。・・・ごめんね、圭子。」
と、子猫は小さく頷いて言った。と、その時、
「はっはー!圭子もいい女だぜ。普通は嫉妬に狂って、いいも悪いも関係なくなっちまうのによ。そーゆーとこが圭子の魅力だよな。」
と翔が笑って言った。
「けどな、はっきりもなにも子猫が俺を拒絶するのはわかってるのさ。なにしろ子猫は超ファザコンだからよ。オヤジぐれぇの年上じゃなきゃ甘えられねぇって子なんだ。あの詩を見たってわかるだろうが。・・・はっきり言えねぇのは俺を傷つけたくねぇからさ。・・・俺達にゃぁ共通のハンデがある。俺も子猫もいつ壊れるかわかんねぇ心臓を抱えて生きてかなきゃならねぇってゆーハンデがよ。。」
圭子の顔が愕然となり、他の部員達も信じられないとばかりに目を見開いた。翔はそうした反応には慣れているとばかりに、肩をすくめて笑った。
「うまく生き延びたとしても、人の半分も生きれるか知れねぇ。だから、俺も子猫もお互いをこれ以上傷つけたくねぇって思っちまうのさ。・・・だから・・・子猫が優柔不断だからって、責めないでやってくれ。・・・1年で5つくらい歳をとれりゃ、追いつけるのにな。・・・どうやっても、子猫の望む歳にゃなれねぇよ。こればっかりは努力のしようがないぜ。」
翔は大袈裟に両手を天に差し出す真似をして見せた。それから、圭子に向かって、
「どうするか決めるのはお前だぜ?・・・子猫への未練を断ち切れない。適当に遊ぶ女は他にもいる。しかも元暴走族でトップを極めた悪だってことも言ってなかったしな。最悪なのがこの壊れた心臓だ。・・・こんな男とはもうつき合えないって言うんなら、それでいいんだぜ?」
と不敵な笑みを浮かべて言った。
「・・・それでも・・・好き。」
圭子は翔に駆け寄ると胸にしがみついた。
「それでも、なんでも、好きなの。好きで好きでたまらないの。」
「マジでいいのか?」
翔の顔が真剣な表情になった。圭子は翔を見上げて、
「どんな翔でも好き。・・・愛してるんだもん。」
と訴えかけるように言った。
「あっはー!モテる男は罪だぜぇ!」
翔はケロケロとして笑いながら言うと、
「んじゃ、もうここを抜けようぜ!超ーやりたくてたまんねぇーよ。テンション上がってドーパミンが出まくってるぜ。触ってみるか?ビンビンのコチコチだぞ。」
と、圭子の体を抱き締めて、前の部分を押しつけてみせた。
「あ・・・スゴ・・イ・・・」
顔を赤くした圭子が呟くと、翔はますます楽しそうに笑った。
「もう、こいつの虜なんだろ?舐めたくてたまんねぇって顔してるぜ。」
「・・・バ・・カ・・・」
圭子は耳まで赤くして翔の胸に顔を隠した。
「どうすんだよ?行くのか、行かねぇのか。やりてぇのか、やらねぇのか。早く決めろよ。」
「・・・するぅ。・・・抱いてぇ。」
部員達は圭子の言葉に驚きを隠せずに、顔を見合わせた。
「よっしゃ!決まりな。」
翔はそう言うと、圭子の手を握って歩き始めた。
「あ・・荷物・・部室に取りにいかなきゃ・・・」
圭子は翔に従って歩きながら、困ったように言った。
「荷物?そんなものはいらねぇだろ?」
「だって・・置いていけないし・・・」
「しょーがねぇなぁ。・・おい!子猫!」
翔がドア付近で振り返って、
「悪ぃけど、圭子の荷物を家に届けてやっといてくれな?」
と苦笑まじりに言った。
「うん。わかった。」
子猫はちょっと肩をすくめ、ため息まじりに笑って承諾した。麗奈は隣りで思いっきり顔をしかめて睨み付けていた。
「サンキューな。」
と子猫に軽くウィンクした翔は、麗奈を指さし、
「そこの女・・か男かわかんねぇ奴。子猫に手ぇ出すんじゃねぇぜ。」
と、凄味を効かせた声で言い残し、圭子の手を引いて教室を出て行った。

「何て奴!何て奴!何て奴ーー!!」
麗奈が地団駄しながら悔しそうに言った。
「あれだけ大勢の前で猫先輩を好きだの、何だのと言って騒ぎを起こしておいて!今度は副部長とHするから、荷物を届けろですってぇ!?何考えてるんだろ!!」
子猫はクスクス笑って麗奈の手を宥めるように握った。
「それが翔だから。・・・自分のしたいことに正直に生きる。それを認めるか、認めないかは自由だし、ついていけないと思えばそれも自由。ただ、翔はひとりでも爆走する。誰にも真似出来ないほど格好良く、煌めく流星のように。・・・だから、みんなが憧れて必死についていっちゃうんだろなぁ・・・」
「猫先輩・・・っとにぃ人がいいなぁ。・・だって、悔しくないですか?」
「ん?・・・どして?」
「副部長と結局Hするなら、わざわざ猫先輩とのことを暴露しなくたって良かったじゃないですか!何か、痴話喧嘩のダシにされたみたいで面白くないです!まして・・傷つけたくないとかいいながら、猫先輩の名誉を傷つけてるじゃないですか!」
「猫に名誉なんてないから大丈夫。」
そう言って、ふわっと笑う子猫を麗奈は目を潤ませて魅入っているようだった。繋いだ手を痛くならない程度の強さで握りしめてくる。子猫は麗奈の慕う想いを感じながら、今、麗奈がいてくれたことに感謝していた。笑っていても、本音はどこか寂しかった。自分に昭彦という恋人がいながらも、好きだと言ってくれた憧れの人が他の女性を抱くことに胸の隅がちりちりと焦げ付いた。
「そんな言い方しないで下さい。猫先輩が好きな後輩はいっぱいいます。みんな、猫先輩に憧れてます。・・・なのに・・・あいつ・・・許せないです!」
「もぉ・・・そんなに怒らないでぇ。ね?・・お願い。」
繋いだ掌を下から指先でそっとくすぐった。周りからは見えてないが、麗奈はたちまち顔を赤くしていった。繋いだ手だけで愛撫し合うテクニックも子猫は知っていた。それが特に、子猫に好意を寄せる女性には、たまらなく感じてしまうことも承知していた。
「それにしても騒がしい男だよねぇ。」
京子が子猫に近付いてきて言った。子猫は意外そうに京子を見て、
「・・・猫のこと、最低だと思ったでしょう?」
と聞いてみた。京子は苦笑して首を振ると、子猫の肩に手をかけて軽く叩いた。
「あんなに一方的じゃ対処しきれないよぉ。それに圭子はそれでもいいって言ったんだしぃ、もう猫が気にすることはないんじゃない?」
「・・・そう言って貰えると・・・ほっとするぅ。・・・ありがと、京子。」
京子はうんうん、と頷くと、そのまま子猫達に並んで、なんとなくその場に立っていた。子猫と麗奈は後ろ手に握り合ったまま離さなかった。
「そー言えばさぁ、猫の彼氏っていつ来るの?」
京子はそんな麗奈には気付くこともなく、子猫に話しかけていた。
「んー?あはは。明日かなぁ・・・」
「そっかぁ。良かったじゃん。あんな場面に鉢合わせしてたら悲惨じゃない?」
「あうぅぅー・・それは超悲惨だよぉー。・・・つーか、超悲惨で済まないかもぉ・・・」
「って?・・怒るだろうとは思うけどぉ・・それ以上に悲惨?」
「うーん・・・実際にそーゆー場面の経験はないからわかんないけどぉ・・・」
「あはははー!出ましたぁー!猫のわかんないー!」
「京子ぉー・・・」
「ごめん。冗談だって。・・それで?」
「殴り合いの喧嘩になってたかもなぁ・・・わかんないけど・・・」
京子がまた、プッと笑った。子猫が拗ねたように頬を膨らませたので、京子がはいはい、と苦笑しながら手をあげて降参の身振りをした。それから、チラッと黙ったままのぼせたような顔で立っている麗奈を見て、
「彼女、どうしたの?」
と小声で子猫に囁いた。
「何か翔とは気が合わないみたい。」
子猫も小声で答えると、クスッと笑いをこぼした。
「そっか。・・まぁね、好きか嫌いか、両極端だろうなぁ。あのキャラは。」
「京子はどっち?」
「カッコイイのは認める。・・・でも、独善的なのは嫌い。」
「そう・・・翔が酷いこと言ったしねぇ・・ごめんね。」
「だからぁ、猫が謝ることないって。」
そう言って笑った京子は大きく伸びをした。
「あー・・それにしても今日は疲れたねぇ。」
「・・・うん。」
「副部長の圭子が抜けてデートじゃ、頑張る気力も失せるじゃんねぇ?」
「あはは。まぁ、いいじゃん。丸く収まったんだしぃ。」
「あたし達も適当に休憩しよう。」
「うん。いいよ。京子、先に見学してきて。」
「いいの?猫は?」
「ちょっと騒ぎが後引いてて・・・もう少し人が減ったら回ってみるかなぁ。」
「そっか。じゃぁ、先に休憩してくるね。」
「うん。ごゆっくり。」
京子は数人に声をかけると、揃って教室を出ていった。
 残った半数ほどの部員は退屈そうに、おしゃべりをしたり、単行本を出して読み始めたりしていた。子猫は麗奈を促して窓際の椅子に座った。座る時に一度離した手を、椅子の背もたれに隠れるようにして、また繋いだ。子猫はふっと自分の罪深さを感じたが、翔と圭子を黙って見送らなければならなかった寂しさは、麗奈の好意を利用しても埋められないほどに大きかった。
<35>
[文化祭(3)]
<35>文化祭(3)

 夜中の1時過ぎ、お風呂から上がってきた昭彦が、腰にバスタオルを巻いて寝室に入ってきた。子猫は背中を向けていたが、入浴剤のほのかな香りを感じた。
「どやった?文化祭は?」
昭彦が背中を向けたままの子猫の髪を撫でた。子猫は息をひそめて寝たふりをしていたのだが、昭彦には通用しなかったようだった。それでも子猫が黙っていると、ドサッと横になり、子猫の髪を指先で後ろに梳いて頬に唇を押し当てた。
「寝たふりしとってもわかるで。ん?どないした?」
昭彦の全身から湯上がりのいい香りと暖かさが伝わってくる。
「・・ん・・眠いのぉ・・・」
子猫は目を閉じたまま、怠そうに答えた。
「眠いかて、いつもやったら玄関入ってすぐに飛びついてくるやろが。」
そう言いながら子猫の耳たぶを甘噛みする。
「明日早いから嫌ぁ。」
「せやから・・・そないドラマの台詞みたな事をゆーちょる子猫がおかしいねんやろ?」
子猫は仕方なく目を細く開けて、体を上向かせた。
「だってぇ・・一日中立ちっぱなしで、お客様の相手してたんだもん。気も使うしさ・・・疲れちゃったのぉ。」
間近に子猫を見つめる昭彦の視線を避けるようにして、子猫はため息まじりに言った。
「何言い訳しちょんねん。疲れたなら疲れたで、甘えてきよるくせして。今夜のお前は何や、おかしいで。」
何もかも見透かされるように言われてしまう。
「頭痛いのぉ・・・」
子猫は眉をひそめて、また目を閉じた。
「そない酷いんか?」
昭彦が子猫の前髪をあげて掌を額にあてる。
「熱はないようやけどな。・・・薬飲むか?」
「・・・嫌・・・」
「どーゆーこっちゃ?」
「苦いから嫌なのぉ。・・余計に吐き気しちゃうもん。」
実際、子猫は軽い目眩と頭痛を感じていた。けれど、それ以上に気持ちが鬱いでいたことも確かだった。ただ、その理由を問われたくなくて、つい不機嫌な態度になってっしまっていた。
 ため息をついて額から手を離した昭彦は、ベビードールの裾から手を入れて子猫のふっくらと柔らかい乳房を愛撫し始めた。
「ん・・・ぁぁ・・・」
乳首をつままれると思わず体が仰け反ってしまう。
「あ・・あ・・嫌ぁ・・・」
感じ始めた時、不意に翔と圭子の絡み合う生々しい姿が頭に浮かんできて、思わず昭彦を突き飛ばしてしまった。
「何が嫌やねん!」
昭彦の少し怒った声に、子猫はビクッと目を開けた。涙がジワーッと込み上げてくる。完璧に嫉妬だった。圭子に嫉妬して、翔が恋しかったのだ。目の前に大好きな昭彦がいるのに、手を伸ばせば抱き締めてくれる愛があるのに、拒絶し続けるしかなかった相手が恋しかった。
「・・・ごめんなさい。」
「何があったんや?」
「・・・わかんない。」
「話せへんっちゅうことか・・・」
そう呟くように言った昭彦は仰向けになって、頭の後ろで手を組むと目を閉じた。
「なぁーら、もうええわ。かまわへんさかい勝手にせい!」
子猫はシュンとなって昭彦の方に体を向けた。昭彦は組んだ手を枕に目を閉じたまま静かな呼吸をしていた。しばらくその様子を眺めていたが、規則正しい息遣いに眠ってしまったようにも見えた。子猫は取り残された不安に、体を寄せて肩に頭を乗せた。
「・・・あきぃ?」
何も反応しない昭彦に寂しくてたまらなくなってしまった。
 子猫は思いついて、昭彦の腰のバスタオルを外し、鎮座しているなまこ状のモノを口にくわえた。さほど口を動かす間もなく、なまこはウツボへと変化を遂げていった。眠っていても反応するっけ?と思いながらも、愛撫を続けた。ソフトクリームのように舐め回したり、頬や鼻で擦りつけたり、舌の先で先端からぐるりを刺激したりして反応を楽しんだ。先から苦いミルクが滲み出てきたので、ちょっと先を吸ってから、そのまま奥までくわえこんで頭を早く振り始めた。吸いこむようにしながら、なるべく奥までピストン運動を続けていると、
「はぁぁああぁぁ・・・たまらん・・・」
と昭彦が息を吐き出して言った。子猫は内心ウフッと得意になったが、そのまま首を振り続けた。少し乱暴に捻りをいれて強く吸いこみ擦り上げると、
「ああああぁぁ・・・あかん・・・我慢出来へん・・・うぅぅ・・・」
と何度も体を反らせて捩り悶えた。子猫はここぞとばかりに一層激しく吸い上げた。
「行くで・・ああぁ・・・行くでぇぇぇ・・・はぁあああぅぅぅ!!」
昭彦は絶叫とともに、熱いミルクを迸らせた。
 昭彦のミルクを味わって飲み干した後も、子猫はもぐろうとするウツボを捕まえて、ちゅぽちゅぽと音をさせながら舐め回した。それなら、とばかりに、ウツボはまた元気に体を伸ばしてきた。反り返ったウツボはこれ見よがしに体を揺らせて、どくんどくんと脈打っている。
「何やねん。・・嫌がってたかと思えば、急に甘えよって。ん?」
昭彦の声は満足そうに甘い響きがあった。
「疲れてたのはホントだもん。・・・ただ・・・」
「ただ?」
「心も疲れちゃってたのぉ。」
子猫はそう言うと、昭彦にまたがって狂暴なウツボを体内へと誘った。
「あ、ああ、あぁぁぁぁ・・・」
昭彦の26cmの太いモノは硬直して、存在を誇示している。鍛えられた腹筋の上で両膝を合わせて、体の奥深くで抱き締めると、それだけでイッてしまう。
「あっ、ああ、あああああっ!」
小刻みに体が震えて呼吸が速まり、閉じた瞼の裏に光の渦が押し寄せる。子猫はしばらく息を整えてから、膝を昭彦の両脇腹に戻し、ゆっくり腰を上下させ始めた。
「そない嫌な奴でもおったんか?」
揺れる乳房をつかんで愛撫しながら、昭彦が言った。
「・・・どうして?」
子猫は胸を反らせ、腰を回転させながら上下させて、締め付け続ける。昭彦がたまらなそうな息を吸って、喘ぎ声と一緒に吐き出した。
「うぅぅ・・・はぁぁ・・・心が疲れるのはよっぽどのことやろ?」
「んー・・っとぉ・・やっぱ猫って人の多い場所は苦手なのかも・・・」
子猫も昭彦も一度イッた後なので、今度はゆっくりとお互いの感覚を確認し合っていた。激しく動かなくても、昭彦の巨根は子猫を強烈に刺激し続け、子猫の肉襞は波打ちながら絡みつきうねっては締め付けていた。子猫も昭彦もお互いを最高の存在として認め合っているし、お互いにそう思っていることも承知していた。
「わしはけっこう好きやで。・・特に祭りなんてええな。」
「あ、猫もお祭りは好きぃ。」
「そうかぁ。そしたら夏が楽しみやな。綿アメ買うたるで。」
「うん!」
子猫は昭彦と浴衣を着て縁日の屋台を見て回る姿を思い浮かべると、急に楽しい気分になった。屋台の金魚すくいや風船ヨーヨーで遊び、りんご飴にかじりつく。そう思ったら鬱いでいたことも忘れていた。
「クックック。急に元気になって、ホンマに子供やで。」
と、笑いながらも、子猫の機嫌が良くなったことを、昭彦も喜んでいた。
 心が明るく晴れると抱かれるのも幸せをいっぱいに感じられる。子猫は目一杯甘えて体をうねらせた。昭彦はそんな子猫を下から突き上げて何度もいかせてくれた。それから、体を起こして主導権を握ると、色々な体位で弄ぶように激しく抱いた。子猫は乱れれば乱れるほど、感じて昭彦にしがみつき、「もっと・・もっと・・」と甘えた。猛り狂ったウツボは子猫の内蔵を貪らんばかりに暴れまくり、熱くとろけさせた。
 気絶したまましばらく眠っていたようだ。ぼんやりとした意識の中で薄目を開けて深呼吸をした。昭彦は子猫を腕に抱いたまま眠っているようだった。背中に回した昭彦の手が子猫の乳房を包むようにつかんでいる。子猫は昭彦の肩に鼻を擦りながら、痺れの残る体とじんじんと熱く麻痺した秘部の感覚を、満たされた思いで確認していた。そうする内に、また意識が朦朧としてきて睡魔に誘われていった。

 朝、寝坊しそうになって、慌ててベッドから飛び起きた子猫がリビングへ行くと、仔猫がゲージの中で切なそうに鳴いていた。まだ小さいからと、側についていれない時はゲージに入れておくように昭彦が言ったので、朝起きて真っ先に仔猫を抱いてやるのが毎日の日課になっていた。けれど、遅刻しそうな今日は、離乳食を作って水をかえることしか出来なかった。
「ごめんね。帰ったらブラッシングしてあげるからね。」
と、ふわふわに柔らかい毛の頭を撫でて言うと、浴室に急いだ。
 シャワーの後、ドライヤーで髪を乾かしてリビングに戻ると、ソファーに座った昭彦が仔猫を膝に抱えて背中を撫でながらあくびを洩らしていた。
「ねぇ、あきぃ。今日文化祭に来れるんでしょう?」
「ああ。一度お前の勉強しとる学校がどんな感じか見ときたいしな。」
「いつ頃来れる?」
「そやなぁ・・・昼は一緒に食べれるんか?」
「屋台も喫茶店もあるから食べ物はあるけどぉ、どこも混んでるから待つことになるし、屋台だと立ち食いになっちゃうと思うけど・・」
「それもカッコ悪いなぁ。・・昼を済ませてから行くことにするわ。」
「じゃぁ、猫は友達と部室でお昼食べちゃうね。」
「そうやな。そしたら何時頃がええ?」
「今日は4時から片付けになっちゃうからぁ・・2時までには来て欲しいなぁ。」
「わかった。ほな、それくらいに顔出ししちゃるで。」
「うん。待ってるね。」
子猫は昭彦の頬にキスをして、仔猫の頭にもキスをすると、身支度を忙しく整え、学校へ出掛けて行った。



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