子猫白書
| <46> [母と娘] |
<46>母と娘 朝になって、萩原に家まで送られた子猫は、玄関前で大きく深呼吸をして家の中に入った。学校の支度を急いでしなければ間に合わない時間で、当然母親もすでに起きていた。 「話があるの。こっちへ来なさい。」 「あ・・でも・・支度しないと・・・」 「いいから来なさい!」 母親の顔は犯人を取り調べる刑事のような凄味があった。子猫は言われた通りに居間のソファーに座った。子猫が脇に置いた塾のバッグをチラリと一瞥しながら、母親は子猫の向かい側に座った。 「昨日、塾に出たまま家に帰らなかったわね?」 「・・・うん。」 「どこで何をしてたのかしら?」 「・・・わかんない。」 「わかんないことはないでしょう?今だって車で送って貰ってるじゃないの?あの人はいったいどーゆー人なのかしら?」 「・・・友達・・・」 「どーゆー友達なのよ?」 子猫は説明出来ずにいた。 「あなた、前にも聞いたら友達の親って言ってたわね?・・そうなの?」 「・・・猫の友達だよ。」 「友達なの?・・こんな朝帰りするほど遊ぶ友達だって言うの?」 「・・・じゃぁ・・・彼氏って言えば納得する?」 子猫が上目遣いに母親を睨んだ。母親は予想していた答えだったが、子猫の態度にちょっとした驚きがあったようで、息を吸い込んだまましばらく唖然としていた。だんだん、母親の目が険しくなっていき大きく息を吐くと、 「何て子!」 と叫んだ。 「彼氏ですって?・・・やっぱり・・・やっぱり、そうなのね?ずっとママを騙してたのね?」 「・・・猫のことなんて・・・」 「え?」 「・・・興味ないくせに・・・」 「興味って・・そーゆー問題じゃないでしょう?あなたを信頼してたから信じてきたんじゃないの。それを裏切って・・・男と・・・」 母親は言葉さえ口にしたくないように一度大きく息をついてから、 「・・朝帰りするようなまねをして・・・一体何を考えてるのよ?自分がわかってるの?まだ中学生なのよ?・・・しかも受験だって迫っているって時に!」 と怒りに体を小刻みに震わせながら言った。 「・・・中学生だから?・・人を好きになっちゃいけないの?」 「子供じゃないの!まだ、大人のことも社会のこともわかってないくせに!人を好きになることだってわかるもんですか!」 「・・・ひどいー・・・そんな言い方って・・・」 「あなたに何がわかるのよ!体ばっかり一人前になって!・・・いやらしい!」 母親は吐き捨てるように言った。 「・・・ママ・・・」 子猫は返す言葉が見つからず涙を浮かべて母親を見ていた。母親は怒りが収まらないようで子猫のそんな表情さえ嫌悪を込めて蔑視していた。 「あなた・・ズルイわよ。何かと言えばすぐそーやって泣いて誤魔化して・・・媚びるような目で甘えて・・・いつだってそう!・・・パパはそれに騙されてもママまで騙せると思わないでね!」 「・・・騙すなんて・・・」 「パパがあなたに甘すぎたのよね。・・・溺愛しすぎたのよ。・・・だいたい異常じゃないの。中学生にもなった娘を腕枕して寝かしてやったり、お風呂で体洗ってやったり・・・」 「パパを悪く言わないで!」 「あなたにママの気持ちがわかるの?」 母親の声は悲鳴に近かった。 「・・ぅぅ・・・だって・・・パパはママにも優しかったじゃない。」 「あなたの前ではそうだったかも知れない。でも・・・毎晩娘と一緒に寝ている夫が優しい訳ないでしょう?」 「・・・わかんない・・・」 「そうよ!子供のあなたにわかるもんですか!・・・目の前で膝に抱っこした娘にキスを繰り返されて・・・」 「わかんないよぉ!それに今はパパは関係ないじゃない!」 子猫が泣きながら抗議すると母親はしばらく横を向いて黙っていた。が、大きくため息をついてから、 「あなた・・・パパとは何もなかったの?」 と冷たい声で言った。 「え?」 子猫は質問の意味がわからず、母親の顔を見ていた。 「・・・パパと・・・セックスしてたのか聞いてるの。」 「ママッ!それ・・それって・・・パパへの侮辱だよ!」 母親の目にも涙が浮かんでいた。 「あなたに・・何がわかるのよ。・・・私がどんなに苦しかったか。・・・疑う自分さえ嫌だったわ。・・・だから・・・あなたは子供なんだって・・・何も知らないんだって・・・そう思うことで自分の中に浮かんでは消える疑惑を消してきたのに・・・」 母親は顔を両手で覆うと肩を震わせて泣き出した。 「男に抱かれて朝帰りするような子を・・・どうやって信じたらいいのよ!」 「・・・ひどい・・・パパは関係ないのに・・・パパはそんな人じゃないのに・・・」 「あなたがママを苦しめるんじゃないの!」 「・・・彼を好きになっちゃっただけだもん。」 「中学生がつき合うような相手じゃないでしょう?」 「・・・そんなこと・・・決めつけないでよ。」 「いやらしい。・・・なんていやらしい子なの。・・・ママが必死で働いている時に・・・男に甘えて・・・抱かれて・・・異常だわ。どうかしてる。汚らわしいわよ!」 「・・・そんなに・・・そんなに猫が嫌い?」 「あなたは自分の行為が間違ってるとは思えないの?」 「・・・セックスが悪いことだとは思わないもん。」 「中学生がすることじゃないでしょう?」 「中学生だって本気で人を好きになれるもん!」 「あなたはそう思っていたって・・・相手はどうかわからないでしょう?」 「彼も愛してくれてるもん!」 「本気で愛してるなら待ってくれるでしょうに!まして大人ならそれくらいの常識がなくてどうするのよ!それを体を先に欲しがるような人が何で信頼出来るの?」 「先のことなんてわかんないじゃん!今愛して欲しいの!」 「やっぱり・・・あなたが誘ってるの?」 子猫はもう何を話してもお互いが理解することは無理だと思った。そして、 「だったら何?どうせ異常だよ!いやらしい子で汚らわしくて!どうせ狂ってる!・・・だけど・・・猫が悪い子だからってパパのことまで悪く言わないで!猫がいやらしい子だからってパパのことまで疑うようなことしないで!」 と言うと、ソファーから立ち上がった。 「子猫!」 「ママはすぐ猫がわかってないって言う。だけど、ママだって猫のことわかってないじゃない。ママはいつも頑張って疲れてるかも知れないけど、猫だってママの役に立ちたくて頑張ってたのに。・・・猫は猫なりに頑張ってきたのに・・・ママは全然見てもくれなかったじゃない。」 「・・・忙しいんだから仕方ないでしょう?」 「だったら猫は猫で愛してくれる人を探すんだから・・・放っといてよ!」 子猫はそう言い切ると居間を飛び出して2階へと駆け上がって行った。 1時間ほど子猫がベッドに突っ伏して泣いていると、ドアがノックされた。鍵をかけておいたので開けられることはないだろうと、黙っていた。ノックが止まって、ちょっとしてからドア越しに母親が話しかけてきた。随分落ち着いたようで声は普段の調子に戻っていた。 「子猫・・・さっきはごめんなさい。・・・ママあなたを信じてただけにショックだったのよ。」 そこで返事を待つように少しの間があった。が、子猫は黙ったままでいた。 「仕事、休めないから出かけるわね。・・・あなたは・・・今日はもう学校へは行きたくないだろうから・・・休んでいいわ。・・・そしてよく考えてみて頂戴。・・・ホントにそれでいいのかどうか。」 子猫は沈黙を守っていた。 「それじゃぁ・・でかけるわね。」 母親はそう言い残して出かけて行った。 (ママ・・・ママはわかってない。・・・確かにママの言うように・・・猫は異常な子だよね。・・・でも、ママは知らないんだ。・・・こんなどーしょーもなく異常な猫を愛してくれる人達が・・・猫より全然まともで立派な人だって。・・・こんな・・・狂った子がママの子供なんだよ。・・・誰も悪くない。・・・猫が悪いだけ。・・・ママが嫌うならもういいの。・・・猫は猫だもん。・・・犬にも鳥にもなれないもん。・・・ありのままに生きていくだけ。) 子猫は疲れ果てて眠かった。ほとんど無意識にベッド脇の棚から薬を取ると、種類も確かめず数も数えず口へ運んだ。 (パパ・・・ごめんね。) 子猫の意識は次第に遠のいていった。 死のうと思っていた訳ではなかった。が、深夜遅くまで眠りつづけただけで意識が戻ったのは幸運だったらしい。薬がなくなって貰いに行った時、間違って飲み過ぎたと言ったら担当の藤井先生に思いっきり叱られた。目が覚めても体が痺れたように重く、母親が帰ったのかを確かめる気にもならずに、目覚ましだけはセットして、また眠ったのだ。 次の日、起きて鏡を見た子猫の青白くクマの出来た顔は中国映画のゾンビのようだった。母親は子猫に病院へ行くように言って家を出た。けれど子猫は胸につけられた痣がある間は診察には行けないと思っていた。感覚が麻痺したような怠さがあったので学校は休むことにして子猫はまた深い眠りについた。そして夜まで起きることが出来なかった。が、さすがに丸二日以上何も食べていなかったことに気付いて、ようやく起き出し台所で牛乳を飲んだ。 この諍い以後、母親は子猫と目を合わせて話をしなくなった。更に父親に関しての話題が二人の間に出ることは一切なくなった。法事等で知り合いと話す時でさえ母親にはぎこちなさがあった。そんな時子猫はなるべく席をはずすようにその場から離れた。もうパパの思い出を人と話せなくなったことで、子猫は二重に父親を失ってしまったような寂しさを感じていた。 |
| <47> [月下美人] |
<47>月下美人 子猫は3日休んだ後、学校へ行った。昇降口でノブが心配そうに声をかけてきた。昨日電話で明日には行けるからと説明してあったが、子猫の青白い顔に不安が増したようだった。ノブは今日の帰りは家まで送るからと言って自分の教室へ向かった。 「子猫ってさぁ・・ホント綺麗だよな。」 昼休み、窓際の日溜まりに立ってぼんやり空を眺めてた子猫にノブと同じ野球部の斉藤が話しかけてきた。子猫は眩しい光に目が馴染んでいたのですぐにははっきり姿を捉えられず視線を泳がせながら答えた。 「全然綺麗じゃないぢゃん。何にも特徴ないし・・・」 「その何にもないとこが綺麗なのさ。無の美とでもいうか・・」 「ぅ・・誉めてない気がするぅ。・・猫的にはもっと大きな目でもっと丸いお鼻でもっと厚い唇が良かったんだけどぉ・・仕方ないし・・あまり顔のことは気にしないことにしてるんだぁ。」 「あっは、そうなのかぁ?けどさ、気にしないでいれるってとこが綺麗な証拠だろな。」 誰が聞いてるかわからない所でやみくもに誉められるのが嫌いな子猫はちょっと口を尖らせて肩をすくめた。二人だけの時はいっぱい誉めて欲しい。大袈裟でも嘘でもいいから誉めて貰えると愛されている安心感に浸れた。でも、それ以外ではむしろ第三者の反感が怖かったのだ。 「何なのぉ?・・・いきなりぃ・・・」 「あ、ごめん。今さぁ、光に透けそうな白い肌見てたら月下美人って花を思い出してさ。」 「月下美人?」 「知らない?一晩だけしか咲かない花なんだけど最高に綺麗なんだ。」 「ふぅーん・・斉藤君は見たことあるんだぁ?」 「密閉されたガラスの球体の中でホルマリン漬けになってるのなら見たことあるよ。」 「・・・ホルマリン?」 「詳しくはわからないけどさ・・花びらが透けるように薄くて真っ白なんだ。その水溶液の中でヒラヒラと漂う様は天女の羽衣のようなんだ。」 「くすっ・・斉藤君って・・いつからそんなにロマンチストになったのぉ?」 「おっ、言ってくれるなぁ。・・・でも・・ま、そうだな。・・・きっとその花を見た時から・・・子猫が好きだって気がついたんだろな。」 子猫は困ったように視線をそらした。 「・・・ずっと・・ごめんな。・・・嫌いじゃないのに・・近付けなかった。」 「いいの。気にしないで。・・ねぇ、そのホルマリンのって猫も見てみたいなぁ。」 「あ・・ああ!よく行くレストランにいつも飾ってあるから・・今度案内するよ。」 「うん。」 子猫は斉藤に向かって嬉しそうに笑った。斉藤は照れながらも笑い返した。 放課後、ノブは子猫よりも早く昇降口で待っていた。帰りながら話すのはやはり期末テストの結果と毎週疑似受験のようにしているテストのことだった。理数はかなり自信がついてきたが、国語が苦手で手こずっていると言って、 「俺も猫みたいにもっと本を読んでれば良かったな。」 と苦笑した。 「ノブって・・ホントに頑張ってるんだねぇ・・・」 「俺は猫みたいに塾行ってないしさ。・・まいったよなぁ、夏以降どこの塾もいっぱいなんだから。出来れば猫と同じとこに行きたかったんだけどな。」 「でも、国立行ってる親戚の人が見てくれてるんだもん。そっちの方が効率はいいかも。塾は休んだりすると先に進んじゃうし・・・」 「まぁ、それはあるな。・・猫、休みがちなのか?」 「・・・んー・・・怠いと・・・」 「そっかぁ・・体調悪いと出かけるだけで辛いもんな。」 「ノブとも・・会えなくなって・・ごめんね。」 「俺のことはいいから、猫はちゃんと体治すようにしろよ。今はみんなが色んなプレッシャーやストレスに耐えて頑張ってる時なんだ。合格が決まれば思いっきり遊ぶことも出来る。猫とゆっくり会うこともさ。あは。・・そんな長い期間じゃないんだし、お互い出来るだけのことはして頑張ろうな?」 「・・・ノブって先生みたいなこと言うんだ・・・」 「猫。俺が真剣に頑張ってるのは猫を思えばこそだぞ。」 「・・・猫・・・ノブにはふさわしくないかも・・・」 「何言ってるんだ?・・誰かに何か言われたのか?・・また先生に注意された?」 「ううん。ノブ頑張ってるもん。先生が注意することなんてないぢゃん。・・ただ・・猫・・・あまり頑張れないし・・・成績も落ちてきてるし・・・」 「調子悪い時はあるさ。弱気になるなよ。だいたい、成績ぐらいのことでふさわしくないとか言うなよ。そんなん関係ないだろ?」 「・・・ごめんなさい・・・」 子猫はつぶやくように言った後、家まで黙ってしまった。子猫の家の前まで来た時、ノブは子猫を引き寄せて短いキスをした。 「なぁ・・今度の休みに久しぶりに森へ行かないか?」 「え・・・あ・・・今は・・・受験が終わらないとそんな気分になれないもん。」 「そ・・っか・・・俺も猫が欲しくてたまんないけど・・一度自分の欲望を許しちまうと後の我慢が出来なくなりそうで・・マジ、辛いけど我慢してるんだ。やっぱまずは今ある目標をクリアすることだよな。」 「・・・うん・・・」 「そのかわりー!受験終わったらたっぷりデートしような?あっは。」 「・・・そだね。」 ノブは子猫が家に入るまで見送って、戻って行った。 その週の休みの日、子猫は斉藤に案内されて月下美人があるというレストランに行った。飾り棚でほんのり青白い照明に照らされた月下美人の花は妖しいほどの美しさで、そこに存在しているのに幻を見ているような気分になった。 飾り棚に張り付くようにずっと眺めてる子猫を案内のウェイターが笑いをこらえながら待っていてくれた。落ち着いた雰囲気のレストランだと聞いていたので、子猫はシルクのワンピースを着てきていた。斉藤もジャケット姿でネクタイまで締めていた。 「そうやってキメてるともう高校生・・大学生でも通るかもね。」 子猫がくすくす笑って言うと、 「子猫も最高に可愛いぜ。」 と少し気取って言った。 「可愛かったら意味ないぢゃん。」 斜にちょっと睨んでスパゲティーを口に運ぶ子猫を、斉藤は始めのうち正視出来ないほど照れていたが、次第に長く見つめるようになった。 「でもぉ・・ホントに綺麗な花なんだねぇ・・・月下美人ってぇ・・・」 「だろう?・・・しかもあの青い照明が月明かりのようで・・・」 斉藤は急に顔を赤らめると喉を詰まらせたようでコップの水を飲んだ。 「え?・・・そんなに好きなんだぁ。でも照れることないぢゃん。男の人が花好きだっていいと思うけどぉ?」 「いや・・・その・・・あの花見ると・・・思い出しちゃってさぁ・・・」 「何を?」 「・・・あは・・・話してもいいけど・・怒るなよぉ?」 「・・ぅぅ・・・どうだろぉ?」 「子猫ぉ、絶対悪い意味じゃないから・・怒らないで聞いてくれぇ・・・でないと言えない・・・」 「うーん・・・聞く前ぢゃ答えらんないぢゃん。・・・何?もったいぶってぇ・・」 「あのさ・・子猫・・白いフレアスカート持ってるだろ?」 「うん。フレアのが好きだし・・白は色々あるけどぉ・・・」 「・・・しかも・・・子猫って肌が白いもんな・・・特に・・・胸とか・・・お尻とか・・・」 子猫はえ?と斉藤の顔を凝視した。 「暗がりでも・・・白って浮き立って見えるんだよな・・・」 子猫の耳が赤くなっていく。 「剥き出しの・・・胸や尻の丸いラインが月明かりにくっきり見えてさ・・・」 「・・・それって・・・」 「あいつが・・・子猫を・・・してる間中・・・スカートがヒラヒラ揺れてるんだよなぁ・・・」 「・・・神社?・・見てたの?」 「・・ああ・・野球部の連中はみんな一度は鑑賞に行ってたぜ。・・俺も一度くらい・・・子猫が鳴いてるってとこが見たくてさ。・・・まさかあそこまで大胆にしてると思わなかったし・・・普段の子猫からは想像出来なかったけど・・・いやらしさより・・・綺麗でドキドキしたよ。」 「・・・ひどぉ・・・ぃ・・・」 「ごめん。・・・けど・・・その罰は充分受けてるぜ。・・・何しろ好きな子が他の奴にされてよがってるのをじっと見てなきゃなんないんだからな。・・・惨めで悔しくて・・・自分が情けない分、山田が憎くてさ・・・しばらく子猫を普通の時でもまともに見れなくなったよ。」 子猫は何故か怒る気にならなかった。斉藤の表情にはからかうようなものはなく、むしろ苦しそうな様子が息遣いからも感じられたからかも知れない。 「ふぅーん・・・そなんだぁ。」 子猫は意外にあっさり言うとスパゲティーを食べ続けた。 「・・怒って・・ないのか?」 だって・・斉藤君が今自分で罰は受けたって言ったぢゃん。」 「それは・・・そうだけどさ・・・もう人でなしってなじられるの覚悟だったんだぜ。」 「くすっ・・・うっそだー・・・」 子猫がくすくす笑うので拍子が抜けた顔をしてた斉藤だったが、 「やっぱ、子猫って不思議なとこあるよな。」 と言って笑った。 「えぇ・・どんな?」 「こうやって話してるとすっげぇー明るいじゃん。そのくせクラスじゃおっとなしいしさぁ。・・・なんかいつもいい匂いさしておしとやかにしてっから、お嬢様っぽいのに・・・あんなに大胆に感じまくって・・・」 「全然普通の一般庶民なのに・・・性格は壊れてるかも知れないけどぉ・・・もぉ神社の話はやめよぉーよぉ・・・」 「あ・・悪い。」 斉藤はスパゲティーを大口を開けてあっと言う間にたいらげてしまった。それから、 「ここ、けっこう美味いだろ?」 とまだ半分までしか食べられてない子猫に言った。 「3年くらい前に出来た店なんだけどさ、ピザとかラザニアもいけるし、他のメニューもひととおり試したけどみんな美味かったよ。」 「そなんだぁ。チーズをここで削ってくれて香りがよくていいよね。」 「ああ。あれは俺も気に入ってる。」 「うん。」 「・・・けど・・・一番気に入ってるのがあの月下美人なんだ。」 「ふぅーん・・・食べれないぢゃん。」 斉藤は吹き出して笑ってからあたりを気にして咳払いした。 「ったく、意外に冗談も言うしなぁ・・まいったなぁ・・・」 「だんだん失望してくでしょう?ふふふ」 子猫が悪戯っぽい顔でウィンクするので斉藤は苦笑した。 「逆だよ。・・諦めるように言い聞かせてきたのに・・・」 「大袈裟だなぁ・・・高校行けばいくらだってもっと気に入る子に会えるぢゃん。」 「・・・かもな。」 斉藤は水を飲み干してため息をついた。 「けど・・ここに来る度に子猫を思い出すんだ。・・・初めてあの花を見た時、子猫のイメージと重なってさ・・・」 「猫はあんなに綺麗じゃないんだからぁ・・もぉ・・・」 「だってさぁ、子猫っていっつもヒラヒラの服着てたじゃん。レースのとか透けそうなのとか・・」 「透け・・てないよぉ・・・」 「あ・・ほら、ワンピースとかの上にまたヒラヒラがさぁ・・何て言うかよくわかんないけどさ・・」 「・・・何だろ?猫も知らない。・・・自分で買ってる訳ぢゃなかったし・・・」 「あれが俺的イメージにあって・・・今も白いけど昔の子猫って超真っ白って感じでまるで作り物みたいなとこあったしさぁ・・・しかも何か華奢で・・・儚げで・・・」 「・・・あれは・・・病気のせいだもん・・・」 「ごめんな。・・・可愛いって・・綺麗な子って意識はあったんだけど・・・そーゆーのってみんなにわかるとカッコ悪いって思ってたんだな・・・今ほど相手の気持ちとか考えられなかったし・・・無言のうちに傷つけてたんだなって・・・今ならわかるよ。」 「もぅいいってばぁ・・猫だって・・殻に籠もってたし・・・」 「言い訳ばっかで今の俺も最低だけどさ・・・あの頃って女子が強かったし・・・女子のは・・・子猫への嫉妬だったんだろな。」 「・・・さぁ・・・」 「子猫って駆け引きとか出来ない子だからな。」 「何?・・・それ・・・?」 「自分から相手に認めさせようとか・・輪の中心に入り込もうとか・・出来なくて・・ただひっそりと咲いている花・・・それがあの月下美人を見た時ぴったりはまったんだ。」 「・・・月夜の花かぁ・・・」 「好きだぁーーーーーーって思った。・・・けど・・・子猫・・・俺とか側行くだけで怖がってるようで・・・話しかけること出来なかったんだ。・・でさ、ここに来てあの花見ては子猫と重ねて好きな気持ちを打ち明けてたんだけどさ・・・」 「・・・暗ぁ・・・」 「男って意外にシャイなんだぞ。・・・けど・・・あれを見ちまってから・・・あの月明かりの光景とダブるようになって・・・その度苦しくなって・・・」 「もう忘れてってばぁ・・・」 「・・・忘れられたらって・・・俺も何度も思ったけどなぁ・・・夜になるとより鮮明に浮かび上がってくるし、あの・・甘く・・震えるような・・切ない子猫の声がBGMのように頭ん中で響いてるし・・・で、ついつい・・・」 斉藤はコップを持つような手の形を作ってシェークさせて見せた。子猫は意味がわかって頬を赤らめると少し顔をしかめて首を小さく振った。 「程度の差はあるだろうけど・・一度でも見た奴等はみんなそんな感じらしいぜ。」 「・・ぅぅ・・・やだぁ・・・」 「今日また子猫の可愛い顔をたっぷり見ちまったしさ・・・当分はお世話になりそうだな。」 斉藤は冗談っぽく言って笑った。子猫はちょっと怒った顔をしてみせたが、すぐに苦笑した。ノブとの関係が負担に感じて気持ちも沈みがちだったので、こうした受験生であることを忘れられる会話が楽しかった。 「ご馳走様・・・ごめん。美味しいけど量があるから・・・」 「そっか、子猫って小食だもんな。」 「そーでもないけど・・・」 「残すのもったいないから喰っていいか?」 「うん。いいよ。」 「サンキュ。」 斉藤が綺麗に食べてくれたので、ふたりはレストランを出ることにした。帰る時、もう一度眺めた月下美人は清楚でありながら艶めかしい妖しい輝きを増しているように見えた。 |
| <48> [飼い主] |
<48>飼い主 「そうか・・・オナペットね・・・」 萩原は自分のそそり立つ肉棒をくわえてる子猫の顔をそのまま少し上げさせて目を覗き込んだ。 「それで?・・・彼のもこうしてやったのか?」 子猫は眉を寄せ首を振って抗議した。それに合わせて萩原のモノも左右に動く。子猫は一度口から出して根元や袋の部分を舐め始めた。 「・・・もぉ浮気しないもん。」 「そうか。ハハ、お仕置きが効いたかな?」 「・・・かも・・・それにあの後ヒロに会う時間だったからすぐ別れたもん。」 「おいおい、時間があったらしてそうな言い方じゃないか。」 「しないー。浮気しないー。」 「よしよし、いい子だ。・・あぁぁ・・気持ちいいよ。好きなだけ味わっていいからね。そう・・感じる。・・・とても上手だよ。・・・これは君のモノなんだから・・・たっぷり磨いてくれよ。・・ぅぅ・・・後で御褒美をいっぱいあげるからね。」 「うん。」 子猫はまた口いっぱいに頬張って萩原と視線を絡めながら首を上下に動かした。 「この可愛い顔をこのまま写真に撮って彼にプレゼントしてやろうか?」 「・・ぅぅーー・・・」 子猫はくぐもった声を洩らして、また首を振る。 「ハハハ、冗談に決まってるだろ。・・でも、僕用には欲しいかな。・・繋がった部分のアップとか君のいく時の表情とか・・」 「ぅ〜ぅ・・・」 「こらこら。そんなに乱暴に振り回していいのか?・・・ぅ・・・そぅ・・・もっと深く・・・そぅ・・・いいね。・・・子猫は自分のを見たいと思わないのか?・・・ぁぁ・・・わかったわかった。嫌なら無理にとは言わないさ。」 萩原はしばらく子猫にしゃぶらせて楽しんだ後、子猫の意識が完全に飛ぶまで繰り返しいかせた。 子猫が微睡みから覚めると愛しそうに見つめる萩原の顔があった。もう、それだけで幸せを感じて萩原の胸に顔を擦りつけた。萩原はいつもこうして子猫が後産に喘ぐ間抱き締めてキスをしながら快感をより一層強いものへと引き出してくれるのだった。それによって子猫は快感の余韻をより長く深く体にまといつけた。 カチャッと音がして子猫が萩原の胸から顔を上げた。 「・・・時間?」 萩原が腕時計をちょっと見たのだ。 「いや。まだ大丈夫。」 萩原が子猫の髪にキスをする。 「・・・ホントに会ってもいいの?」 「会うさ。ダメだってね。・・・だが、可奈子が君を知ってるだけに・・今は波風はなるべく立てたくないとは思ってるけどね。」 体を少し起こした萩原が煙草に火をつけた。子猫は横になったまま、萩原のおへそから上へ下へと指でなぞっていく。 「くすっぐったいよ。」 萩原はくすくす笑って子猫の髪を撫でている。 「抱かれるのはもちろん好き。・・・でも余韻のこの時間も好き。」 「僕も好きだよ。」 煙草の煙を満足そうに吐いて言う。 「・・・今日はこの前の社長とパーティーに行ってることにして貰ってるんだ。後で合流して一緒に飲むことになってるんだが・・・ようは君とどうだったかを聞きたいんだろ。ハハハ。」 「そうなんだぁ・・・」 「君も連れて来いとか言ってたけど・・この前の朝帰りは僕も反省してるしね。今日はあまり遅くならないうちに送っていかないと・・ますます信用をなくしてしまうからな。」 「ママなんかどうでもいいのぉ・・電話で説明したぢゃん。」 「そうは言ってもなぁ・・・」 「ママは猫が嫌いなんだもん。猫が好きな人ってだけでもう嫌いなんだから。」 「好きな人か・・そう宣言して貰えたのは嬉しいけど・・君が辛い思いを抱え込んでるのが可哀想でたまらないよ。」 「だって・・・ヒロは関係ないことだもん。」 「僕が無責任な付き合い方をすれば君が責められてしまうだろう?・・それは困る。また無意識に薬を飲むようなことになったらと思うと気がきじゃないよ。」 「・・・もぉしなぁーい・・・」 萩原は煙草を灰皿に捨てると、体を横に戻して子猫を抱き締めた。 「絶対だぞ?」 「うん。」 子猫にキスをした萩原は強く抱き締めて頬ずりをする。 「必ず僕が幸せにしてやるからね。」 「・・うん・・・嬉しい・・・」 「可奈子が落ち着いたら君のこともきちんと話して・・今後のことを相談していこうと思っているんだ。」 「・・まだ退院出来ないんでしょう?」 「いや・・もう数日もすれば大丈夫だろう。」 「・・そぅ・・よかったね。・・・流産なんて・・きっとショック大きいだろうし・・優しくしてあげてね。」 「正直言って・・僕は君の方が心配なんだけどな。自分勝手な言い分だとは承知してるけどね。・・もう可奈子には同情を持ち続けるのも疲れる。・・それでも気を使っているのは可奈子が君に危害を加えないかが心配なのさ。かなり気持ちが荒れているからね。」 萩原は額にかかった髪をかきあげて重い息をついた。 「・・・猫・・・ずっと愛人のままでもいいよ。」 「僕はちゃんと結婚したい。」 「でも・・高校行かなきゃなんないし・・・」 「親が認めれば16歳でも結婚出来るんだがなぁ・・」 「ママ・・・きっとそんなみっともないことって認めないと思う。・・自分の世間体の為に・・・」 「うぅーん・・・」 「だから・・・愛人でいい。愛して貰えたらそれでいいの。」 「君が愛人でいる間は僕の心配が絶えないよ。・・・誰かにさらわれそうで・・・」 「猫はもうヒロだけでいいの。ヒロさえいてくれたらそれでいいの。・・・ノブとは合格決まった後でちゃんと別れるし・・・翔にも・・・さよなら言うから・・・」 「・・・え・・・」 萩原は驚きを隠せないように目を見開いた。しばらくそうして子猫を見ていたが、溢れる涙をそのままに熱いくちづけをした。 「嬉しいよ。・・・本当に僕でいいんだね?」 「ヒロがいいのぉ。」 「うん・・・わかってる。・・・ただ・・・君と翔君の特別な繋がりを思うとね・・・どんなに君を独占したいと思っていても・・・それを言うことは出来ないと思っていたんだ。・・・なにしろ僕は条件が悪すぎるしね。・・・あぁ・・・でも・・・君を僕だけのものに出来るなんて・・・ハハ・・・いい年して涙がこらえきれなかったよ。」 「ヒロが好きぃー・・・猫をヒロだけのものにしてぇ・・・」 「ああ・・君は僕のものだ。・・・僕だけの子猫だ。・・・心から愛してるよ。」 「ヒロ・・・猫は自分がわからなくなる時があるの。・・・時々・・・いけないこともしちゃうし・・・」 「その時は僕がきっちり叱ってあげるよ。」 「うん。悪い子の時は叱って・・お仕置きしてね。」 「ハハ・・・お仕置きが気に入った?」 「・・・うん。」 「そうか・・・じゃぁ・・・時々お尻ぺちぺちしようね。・・・悪い子になる前にね。なってからは困るよ。ハハハ・・お仕置きされたいからってわざと悪い子のマネされたら僕が泣きたくなる。」 「・・・そっか。きゃは。」 「くすくす・・・まったく・・・君はなんて可愛い子なんだ。・・・僕の天使・・・僕の小悪魔・・・僕の愛人・・・愛しい人・・・可愛い僕の猫。」 「みゃぁーぅーん・・・飼い主様ぁ・・・見ぃーっけ。・・うふ。」 |
| <49> [作戦会議] |
<49>作戦会議 子猫は翔との別れを心に決めて、塾のない日の夕方、マンションを訪ねた。翔はいちいち玄関まで出迎えるのは面倒だからと子猫にはいつも勝手に入ってくるように言っていた。それで特にチャイムを鳴らすこともなく玄関を開けた子猫は、玄関に置ききれないほどの靴がずらーっと並んでいるのに戸惑ってしまった。子猫が自分の靴をどうしようかと悩んでいると、茶髪のパンチパーマに剃り込みを入れた眉のない男が居間の方から顔を出した。 「うーっす。姉御、いらっしゃいやし。」 と言って玄関にかがみ込み、靴を適当に重ねて子猫の為のスペースを作り始めた。子猫が圧倒されて後ずさりしかけた時、 「くぉぉるるらぁぁ!何が姉御だぁ!子猫をビビらすんぢゃねぇぇ!」 と眉なしの尻あたりに蹴りをいれた翔が笑って立っていた。 「うっす!すんませんっす。」 眉なしは蹴られた勢いで前につんのめり散らかった靴を慌ててなおしていた。 「気にしねぇで上がれよ。」 「・・・でも・・・」 「怖かぁねぇって。ほら!」 翔は子猫の手を引いて部屋の中へと引っ張っていった。子猫は靴を揃えて脱ぐ暇もなく、気になって振り返ると眉なしが子猫の靴も綺麗に並べてくれていた。 2LDKの広いリビングには10人近い見るからにつっぱりとわかる男達が思い思いに座っていた。部屋の中には煙草の煙が充満していて、萩原で慣れていた子猫でも思わず咳き込んでしまった。 「おらおらおるぁぁぁ!手前ぇ等ぁぁ換気くらいまめにしやがれぇぇ!」 翔は子猫の手を握ったまま指図して、部屋の空気を入れ換えたり、転がった酒瓶を片付けさせた。 「悪ぃな。今、ちょっと極秘の作戦会議しててな・・こいつ等支部のNo.1No.2とかで昨日から泊まり込んでるんだ。・・ま、お前が気にするこたぁねぇよ。あっはっはー!」 翔は笑ってサラサラの黒髪をかき上げると子猫の腰に腕を回して抱き寄せキスをした。素早い動きに子猫は逆らう暇もなかった。長く執拗なキスに子猫がぼぉーっとしてきた時、 「翔。」 と、後ろから声がした。族の仲間で翔をそう呼ぶ者はいないはずだった。翔はやっと子猫にキスをするのをやめて顔を上げて笑った。 「はっはー、そうそう。紹介するのがまだ残ってたな。」 と言って子猫の肩を抱き振り向かせた。寝室ではない、機械類のある部屋のドアが開いていてそこに立っていた男が腕組みをし、目を眇めた表情で眺めていたのだ。更にその後ろから二人の男が出てきて、その男の隣りに並んだ。三人のうち一人は翔くらいだったが、後の二人は大学生か社会人か迷うくらいの感じに見えた。 「耕太と昌太郎と和也先輩だ。」 「え・・しょうたろう?」 「ああ、こいつのしょうは昌って字を書くんだ。おっさん顔だろ?これでも耕太と同じに俺の幼馴染みなんだぜ。でも全然見えねぇーしすでにハゲてるし・・」 「ハゲてねぇーよ!」 「あっはっはー!自分ぢゃ見えねぇーんだろ!・・んで、みんなは昌の字からマサ・・もしくはそのままマサのじって呼ばれてんだぜ。」 「それだけはやめてくれ。俺はお前みたいにやくざの世界に入る気はないんだ。」 「バーカ!誰がやくざだよ!俺はやくざはでぇぇっ嫌ぇぇだぜ!」 「似たようなもんだろ。フン!」 マサは翔とは相当仲がいいことが伺えた。これだけ言いたいことが言えて、しかも言葉とは裏腹に翔が楽しそうに笑っているのだ。翔と同じかそれ以下に見える耕太は人の良さそうな笑顔で二人のやり取りを見ていた。和也はさっきから子猫をじっと食い入るように眺めている。 「二人のは痴話喧嘩だから気にしないで大丈夫だよ。子猫ちゃん。」 耕太が子猫に笑いかけて言った。 「ぐわぁぁぁぁ・・・痴話と言うなぁぁぁ!こいつと痴話りたくねぇぇぇ!」 「だってさぁー、いっち番、仲いいぢゃん。」 「耕太、やめろ。子猫さんが誤解されると困るだろ?俺も迷惑だ。」 「うっせぇー!誤解なんかするかよ、バーカ!お前はどーせホモだろーがよ!」 「ホモぢゃねぇーよ!お前がそーやって俺を陥れてんだろ!」 「陥れるもなんも初めっからそのおっさん顔ぢゃモテねぇーだろがよぉー!あっはっはー!」 「・・そうだな。翔。お前がモテるのはよぉーっく知ってる。が・・いいのか?それを子猫さんに言っても。」 「うっ・・待て。・・それはやめろ。」 「フフン。」 「何鼻で笑ってんだ、マサ!余計なこと言いやがると・・殺すぞ!」 「もう!翔もマサもやめなよぉ。子猫ちゃんが呆気にとられてるだろぉ?」 耕太は相変わらず人の良さそうな笑顔で肩をすくめた。 「おっと・・悪ぃ。いつもの調子でマサをかまっちまったぜ。」 翔はきょとんとした顔のまま止まっていた子猫に軽くキスをした。マサはまた眇めた目でため息をついた。和也は子猫をひたすら見つめていた。それに気付いた翔が、 「和也先輩・・そんなにジロジロ見てんなよ。」 と言うと、 「かっ・・・かぁぁっ・・わいーー!抱き締めたいーー!」 と初めて声を出した。そして開いた口からよだれが垂れた。一見インテリ風なおしゃれな眼鏡の似合うその男のゆるんだ表情に並んでいた二人が思わず後ずさりする。翔の顔に険がよぎった。 「っのぉぉぉ・・・」 「待て、翔!今度の作戦には和也先輩の協力がかかせない。」 マサは翔の凶暴性は熟知しているようで、すかさず釘を刺した。 「ごめん、翔。兄貴、ちょっとロリコンでさ・・・」 耕太も焦って取り繕うように言って苦笑した。 「ロリコンだとぉぉ・・・おお、上等ぢゃねぇーか!」 「あ・・いや・・その・・噂以上に幼・・ぃ・・あ・・いや・・可愛いもんだから・・つい・・」 「耕太の兄貴ぢゃなきゃ今頃ボコボコにしてるとこだぜ、和也先輩よぉ。子猫に余計な色目使いやがったら、そん時ぁ誰の兄貴だろぉーと関係ぇーねぇーからな!覚えとけ!」 「わ・・わかった。悪かった。・・・すまん。」 「いい加減にしろよ、翔。手伝わせておいて何脅しかけてるんだ。ったく。」 「子猫はこれまでの女とは違ぇんだ。マサもそこんとこよぉーく理解しとけよ。」 「あー、わかってるさ。ま、俺は今んとこ女は興味ねぇーから手は出さねぇーよ。」 「あっはー!見ろ!やっぱホモぢゃんか。」 「ウブ・・と言ってくれ。」 「ハゲ!」 「ハゲてねぇーよ!」 「ホモ!」 「ホモぢゃねぇーって言ってんだろ!今はPCのがいーんだよ!」 「どっちもカタカナ2文字だろ。同じぢゃんか。あっはっはー!」 翔にとってマサとの痴話喧嘩は激昂しやすい性格の緩和剤のようなものらしい。子猫は到底別れ話を切り出せる状態でないことを感じて小さくため息をついた。それに気付いた翔が、 「つーか、俺はちょこっと大事な用事があるんだ。」 と言って、子猫の手を取って寝室のドアへ歩き出した。子猫はえ?っと翔の顔を見上げた。耕太は目を丸くして耳を赤くし、言葉を詰まらせたようにむせた。マサは眉をひそめ、 「おい!何考えてんだ!」 と少し怒った声で言った。 「っっせぇー!ここんとこ会う暇もなかったんだ。溜まりに溜まっちまったぜ。我慢出来っか。」 翔は寝室のドアを開けて子猫を先に入れると、リビングにいた仲間に、 「ピザでも寿司でも好きなもん注文して喰ってていいぜ。」 と声をかけた。 「うっす!」 「御馳っす!」 「ごゆっくり!」 「おぉよ。いい声聞かしてやるぜ。あっはっはー!・・・耕太、そっちも夕飯喰っててくれな。」 「あ・・うん。わかった。」 緊張したような耕太の声がした。それから翔が寝室に入るとドアを後ろ手に閉めた。 翔は困惑して泣きそうな子猫をベッドに座らせると、その前に立ってズボンの前をはだけ、すでに固く勃起している長い竿を子猫にくわえさせた。子猫は逆らうことも出来ず、くわえて頭を動かし始めた。翔は子猫の髪を両手の指で梳くように優しく撫で、 「気にするこたぁねぇって。怖がることねぇんだぜ。」 と穏やかな声で言った。 「・・・翔ぉ・・・」 子猫が竿から口をはずしかけると、グッと頭を押しつけ、更に奥まで飲み込ませた。子猫は息苦しさに耐えながらまた首を動かし続けた。 「俺のもんだけに集中してろ。そうすれば他は関係なくなる。」 「・・・ん・・・」 子猫は言われるままにフェラチオに専念しようと首を振り続けた。翔が呻くように息をはく。ドアの向こうからは出前の希望をまとめてる声が聞こえている。きっとこっちの声も向こうには聞こえるはずである。神社の時のように見られる訳ではないが、確実にその行為は衆知の中でおこなわれようとしている訳で、しかも今回は子猫自身に知られているという自覚があるのだ。子猫は体中の血がざわざわと騒いで寒気を感じていた。 「あぁぁぁ・・・いいぜ。・・・お前・・めちゃくちゃ上手いよなぁ。」 翔は片手で子猫の髪をつかんで頭を押さえ込むと腰を小刻みに動かし出した。喉の奥が擦られてひくひくと痙攣する。口から垂れそうになる唾を飲み込む度に翔の固い肉棒が締め付けられる。 「くぅぅぅ・・・最高だぜ。・・・海外の裏ビデオぢゃ見たことあるけど・・・あぁぁぁ・・・ここまで飲み込める子はめったにいねぇだろなぁ・・・うぅぅぅぅ・・・」 翔は子猫に自分の竿をくわえさせたままベッドに上がらせ、四つん這いの姿勢にさせると、子猫の頭を両手で挟むように押さえて根元近くまで飲み込ませた。この姿勢の方が喉が真っ直ぐになるのだ。 「マジ、溜まっちまってて我慢出来ねぇ。このまま一度いくからこぼすんぢゃねぇぜ。」 今日の翔はいつもよりも興奮して態度も言葉も乱暴になっていた。次第に腰の動きが早く激しくなってきた。 「うぅぅっ・・・ぐぅぅぅっっ・・ぁぁ・・あああぁぁぁぁぁーーー!」 雄叫びとともに身震いするように翔が子猫の喉の奥に濃い汁を迸らせた。部屋の外が一瞬静まったようだった。が、また賑やかな話し声が聞こえてきた。 翔が子猫の服を脱がせにかかった。子猫は無言のまま首を振って抵抗した。それでも翔の力強い手に押さえ込まれて逃げようもないまま一糸纏わぬ姿にされてしまった。翔も服を脱ぎ捨てて子猫を腕に抱き締めた。乱暴にキスをされながら、膣を指で掻き回されて適度に濡れてきた所で、固く反り返る竿を一気に挿入された。 「・・ぃ・・やぁ・・ぁぁ・・・」 子猫が初めて声を上げた。その声は泣き声まじりで普段でさえ幼い声と言われるものを更に幼く響かせていた。 「泣くなよ。・・・今ここにいるのはお前と俺だけ・・・そう思ってろ。」 「・・・だって・・・あぁぁっ・・・」 「お前は俺を信じて感じてりゃいいんだよ。」 「・・・だけど・・・あぁん・・・あぁ・・ん・・・」 翔の腰の動きに、脅える心とは裏腹に体が熱く萌えて感じてきてしまう。 「ぁぁ・・・ぁぁあぁぁん・・・ぁぁん・・・」 なるべく声を我慢しようと翔にしがみついた。 「それでいい。お前は俺の女だ。・・・壊れちまっってる心と体・・・お前と俺はひとつなんだぜ。」 「・・・翔ぉ・・・ぁぁ・・ん・・・」 子猫の目から涙がつぅーっと流れた。翔は吸い取るように優しくキスをした。 「愛してる。・・・子猫・・・俺から離れるなよ。」 翔の声はまるで子猫が別れようとしているのを知っているかのように苦しげな悲しい響きがあった。子猫は胸が切なく締め付けられるようで、翔が子猫を泣かせたくないと思うように、子猫も翔を泣かせたくないと思っていることに気付いた。心が翔に傾斜していく。と同時に子猫にはもう二人の世界しか見えなくなっていた。 「・・あぁぁ・・翔ぉ・・・翔ぉ・・・ぁぁぁ・・・ん・・あぁぁぁぁ・・・・」 子猫は甘く切ない思いにすすり泣きながら感じるままの世界に陶酔していった。 「子猫・・・愛してる・・・子猫・・・愛してる・・・」 繰り返される翔の言葉が一層切なく聞こえる。この時の子猫は翔の求めるまま全てを捧げてもいいと思っていた。 3時間以上もの間、翔の情熱は衰えることがなかった。子猫は何度もいかされ続け翔も数回思いを遂げた。そして朦朧としている状態の子猫に、 「彼奴らをあまり待たせておけないからな・・・どうする?このまま寝てるか?・・それとも一緒に向こう行くか?」 と聞いてきた。子猫は今は翔の側を離れたくなくて、 「・・・ぃくぅ・・・」 と小さく答えた。翔は子猫の体を起こしてやると抱いた後の残るまま服を着せていった。寝室を出る時、 「愛してるぜ。」 と言って翔はもう一度キスをした。子猫はまだ覚めきらない夢心地で翔にもたれるようにしていた。 寝室から子猫を支えるようにして姿を現した翔に、仲間が少し疲れた顔で笑いかけた。 「お疲れっす。」 「あんまし終わんねぇから・・こっちがバテちまったッスよ。」 と冷やかす声がうわずっていた。翔は気にする様子もなく仲間の間をわって座り、子猫も自分の横に座らせた。子猫がぼんやりと視線も定まらない様子で翔にもたれかかるので、 「こいつにもキツかったか。・・ま・・気にするな。あっはっはー!」 と笑って、子猫の湿った髪に労るよううにキスをした。いつもの翔からは考えられないほどの甘さぶりに、仲間は戸惑いさえ感じているようだったが、 「腹減ったぜぇー。」 と翔が言うと、次々と取っておいたものを目の前に並べた。翔は横で小さくなっている子猫に時々口元まで食べ物を運んで、 「喰うか?」 と聞いた。子猫は首を少し振って、 「・・ぃぃ・・・」 と、やっと声を出して答えた。余韻の残る体と心では、とても何かを食べられる状態ではなかったので、ペットボトルの水ばかりを飲んでいた。 翔の仲間は、半分は食事をする翔と談笑し、半分はカードで遊びながらチラチラと二人の様子を盗み見ていた。 「翔。のんびり喰ってる暇はないぜ。」 と顔を出したマサが言った。その後ろから顔を真っ赤にした耕太がなるべく二人を見ないようにしながら、 「やっとハッキングに成功したよ。これで相手の情報はバッチリだね。」 と説明した。 「時間がないぞ。相手がハッキングに気付いてこっちを探ってくるかも知れない。どうする?」 マサが食べかけの料理を見ながら言うと、 「ぢゃぁすぐに始めようぜ。」 といつもの不敵な表情に戻った翔が立ち上がった。翔は子猫の腕をつかんで立たせると、 「面白いもんを見せてやる。」 と頬にキスをした。子猫はわけもわからず機械のある部屋についていった。 翔の姿を見た和也がPCの前のイスから立ち上がり翔に譲った。そして画面を真剣な表情で見始めた翔に何かを説明し始めた。翔と和也の会話に時々マサと耕太も意見するように何かを話していた。が、専門知識のない子猫には、彼等が日本語を話しているとはとても思えず、まるで宇宙人が人間の姿を借りて会話しているように見えた。 翔は自分の横に別のイスを持ってこさせ子猫を座らせたが、画面に集中していて子猫の存在にまで気が回らないようだった。子猫には翔のしていることがさっぱり理解出来ず、何が面白いのかもわからなかった。 「・・っちっ・・あくどい事してやがんなぁ。いっそウィルスでも送り込んでやるかぁ?はっはー!」 と楽しそうに翔が笑って言った。 「いや。微妙に違うデータにすり替えた方が今後の計画にいいだろ?」 「取り敢えず今回は様子を見て、次の時にした方がいいだろうね。」 「足跡はちゃんと消してから戻らないとヤバイよ。」 四人の会話にため息をついて、子猫はイスから立ち上がり、 「ごめん。もう、遅いから今夜は帰るね。」 と言った。翔は、 「そっか。・・耕太、タクシー呼んでやってくれ。」 と画面を操作しながら言った。 耕太は子猫を外まで送って、タクシーが来るまで一緒にいてくれた。 「・・ねぇ・・わかんないけど・・ハッキングっていけないことぢゃない?」 子猫はタクシーを待つ間、気がかりだったことを聞いてみた。耕太は慌てて周囲を見回し、 「しぃー・・・もちろんいけないことさ。・・・でも、ヤクの販売までしてる族のグループを潰したいって・・・それにはまずバックについてるやくざの・・・あ・・ごめん。これ以上は言えないけど・・・そうじゃなかったら兄貴だって協力はしないよ。」 と小声で教えてくれ、 「翔はああ見えても昔っから正義感が人一倍強いんだよ。」 とまた人懐っこい顔で笑った。 「うん・・・そうだね。」 子猫もつられたように笑ってから、信頼し合ってる仲間っていいな、と、どこか寂しさの漂う心で思うのだった。 |
| <50> [聖夜] |
<50>聖夜 冬休みに入っても学校と塾の補習や模擬試験で忙しい毎日だった。子猫の家ではまだ喪が明けていないのでクリスマスツリーも飾らなかった。翔とはあの日以来会っていなかったし、萩原とも会う時間がなかった。それでも、後輩や3年の男子からカードや小包が届き、子猫の沈みがちな心を慰めてくれた。イブには翔からも萩原からも誘われていたが、どちらかを選ぶことが出来なかった子猫は、そんな気分になれないから、と両方断っていた。それでイブの日には翔からは大きな薔薇の花束が届けられ、萩原からはプレゼントの詰まった大きな箱が届けられた。ポストにはノブからの可愛いプレゼントが長い手紙を添えて置かれていた。 イブの午後、子猫は一人で町へ出かけ、後輩と3年の男子へのささやかなお礼の小物をカードを添えて発送し、ノブと翔へもそれぞれが似合いそうなマフラーを選んでカードを添えて発送してくれるように頼んだ。萩原へは何を贈り物にしようか迷った結果、奥様の目に触れることはないだろうと思える会社用のペン立てを選んだ。が、これは発送することが出来ないので、次に会う時に渡そうと持ち帰ることにした。 デパートを出た時にはもうすっかり日が落ちていたが、町のイリュミネーションは眩しいほどに辺りを照らし出して煌めいていた。子猫はすぐに家に帰る気がしなかったので、ぶらぶらしながら賑わう町の様子を眺めていた。と、一応バッグに入れてきた携帯の呼び出しが鳴った。この携帯は萩原名義で子猫との連絡用にと持たせてくれているものだったので、番号は萩原しか知らなかった。子猫は商店の間のなるべく静かな場所に行って電話に出た。が、 −「ん?・・随分賑やかな音がしてるが・・町に来てるのか?」 と、萩原はすぐに気付いて聞いてきた。 −「・・・うん。カードとか貰ったお返しがまだだったから・・ちょっと遅れちゃうけど一応出しておこうかと思って。・・ヒロにも気持ちだけの安い物だけど・・可愛いペン立てがあったから・・会社で使って貰えれば奥様に見つかることもないだろと思って・・今度会った時に渡すね。」 −「そうかぁ!ハハ、それは楽しみだな。・・けど・・町に来る時間があったのなら会いたかったなぁ。」 −「だって・・ヒロだって忙しいでしょう?・・それに今日を楽しみにしてるお姫様がいるぢゃん。」 −「・・・夜には帰るつもりだけどね・・でもどの道これから会社の方のパティーに顔出してからだし・・少し遅れてもいいから・・ちょっと会わないか?」 −「今日は会わないって・・昼間も言ったぢゃん。」 子猫は萩原からのプレゼントのお礼を言うのに昼休みの時間を見計らって電話していたのだ。 −「せっかく僕へのプレゼントを用意してくれたんだろ?」 −「今日は嫌なの!」 −「・・・子猫?・・・どうした?・・今、どこにいるんだ?」 −「もう家に帰るとこだもん。」 −「なら家まで迎えに行こうか?」 まだ帰るつもりがなかった子猫は言葉に詰まってしまった。 −「とにかく今どこにいるかを言いなさい。」 萩原は子猫の頑なさが自分の家庭に遠慮してのことだとわかるだけに、不安を掻き立てられたようだった。 −「お願い・・・今日くらいは猫を悪い子にさせないで。」 −「顔を見て、プレゼントを受け取るくらいいいだろう?」 −「・・・顔・・・見たら・・・泣いちゃうもん・・・」 −「子猫・・・」 −「今日・・・悪い子したら・・・もう一生サンタさんに来て貰えなくなっちゃう・・・夢の中でさえ・・・サンタさんに会えなくなっちゃうもん・・・」 しばらくの沈黙の後、萩原のため息が聞こえた。 −「・・・仕方ない・・・それなら1時間後にまた電話する。その時、君が家に戻ってなかったら、君の家の前で帰るまで待つことにするから。・・いいね?」 −「・・・ぁ・・ぅん・・・」 −「ちゃんと約束出来るね?」 −「・・わかった・・・」 電話を切ってバッグに戻した子猫は、その場に立ちすくんだまま涙ぐんだ目でイリュミネーションを眺めていたが、小さくため息をついて歩き出した。 1時間後、約束通りに自分の部屋で萩原からの電話に出た子猫は務めて明るく応対した。萩原の電話からは軽快な音楽が聞こえていて、会社のパーティーの途中のようだった。萩原は子猫に気遣いながらも、短めに話しを終えて電話を切った。子猫はホッとすると同時に涙が溢れてきて声を出して泣いた。母親も仕事先の付き合いがあるからと、朝、言って出かけた通り、まだ帰ってきていなかったので、子猫は誰にも遠慮することなく思いっきり泣くことが出来たのだ。 散々泣いて泣き疲れた頃、家の方の電話が鳴った。子猫は初め無視しようとしたが、いつまでも鳴りやまなかったので、仕方なく部屋の子機に手を伸ばした。 −「・・はい・・・」 −「気が済んだ?」 静かな優しい声で翔が言った。 −「・・翔?・・・何?」 −「思い切り泣いて気が済んだかって聞いたんだ?」 −「え?・・・どーゆー事?」 −「・・・お前が泣きやむまで・・・待ってたんだ。」 −「待つ・・・って・・・」 −「窓から外を見て。」 子猫は子機を耳にあてたままベッドから起きあがって窓まで行ってみた。 −「今、カーテン越しに子猫の姿が映ってる。」 子猫はカーテンを開けて外を見てみた。子猫の部屋の正面の垣根越しに翔が立っていた。翔は子猫と視線が合うとちょっと笑って手を振ってみせた。 −「翔?!どうしたの?」 −「今夜はお前のサンタになろうかと思ってな。」 −「だって・・・今日は会えないって言ったぢゃん。」 −「お前があいつと会うようなら諦めたけどさ・・・気になって来てみたら泣き声してるし・・・声かけようにもかけれないし・・・まいったぜ。」 −「・・・翔・・・」 −「あいつとのことは俺には慰めようがないし・・・ま、泣きたい時もあるだろうから・・・思い切り泣くのもたまにはいいと思ってさ。」 子猫は返す言葉がみつからないまま通りの翔を見ていた。 −「ぢゃぁ・・・サンタになるか。待ってろな。」 翔は携帯を切るとポケットにしまった。それから白い袋を肩にかけると門を開けて窓の下まで足音を忍ばせてきた。子猫は窓を開け、身を乗り出して下を覗き込んだ。翔はすでに辿る場所を決めていたように、軽業師のような手早さで屋根に上がり、 「ちょっとそこ下がってろ。」 と、小声で言った。子猫は呆気に取られ窓から離れた。手すりに手がかかったと思うと一気に窓の縁に飛び上がった翔は長身を屈めて笑いながら、 「メリークリスマス!」 と言った。 「ちょ・・・ちょっと・・・翔・・・何してるの?」 「だからサンタだって言ってんだろ?」 「だからって・・・ママはまだ帰ってないし玄関から上がればいいぢゃん。」 「それぢゃサンタの意味ねぇぢゃん。」 翔は靴を脱いで肩の白い袋の口を開けて放り込むと、子猫の部屋に立った。 「それに玄関からぢゃ、お前、俺を部屋には入れねぇだろ?」 「・・・それは・・・そうだけどぉ・・・」 「かっわいい部屋だなぁ。はっはー。ピンクピンクしててレースやら小物やら・・和也先輩が見たらこれだけで鼻血もんだな。あっはっはー。」 「ちょっとぉ・・そんな高笑いしないでよぉ・・・」 子猫は翔の入ってきた窓を閉めカーテンをひいた。 「あっとぉ・・そうだったな。・・・そうだ、これ・・・」 翔は白い袋から更に袋に入ったものを取り出した。そしてその袋からシャンパンとプラスティックのコップを出すと、 「乾杯しようぜ。」 と子猫にウィンクした。 シャンパンは思いっきり泡を立てて部屋中に甘い香りをまき散らした。本物特有のアルコールの香りに、お酒が飲めない子猫はそれだけで酔いそうだった。翔はコップについでやり、 「気持ちのもんだから、ちょっと舐めればいいさ。」 と、笑って、自分は一息で飲み干した。 「冬空の下でずっと縮こまって待ってたんだ。体がすっかり冷えちまったぜ。」 「・・・ごめん・・・」 そう謝ったものの、何で自分が謝ってるのか、子猫自身にもわからなかった。 「・・でも・・翔ならいっぱいパーティーの誘いとかあったんぢゃないのぉ?」 「今夜はお前の為にだけスケジュールを取っておいたんだ。それが仮に潰れたとしても他の予定を入れるつもりはなかったぜ。」 「・・・翔・・・」 「けど・・お前も素直に俺の誘いに乗ってりゃよぉ・・・今頃ヘリで夜間飛行しながら乾杯出来たのにさ・・・その後はホテルのスィートも取ってあったし・・・ったく・・・バーカ。」 翔は自分でコップにシャンパンをついでは飲んでいた。ベトつく手を気にしているようなので子猫はウェットティシューの箱を渡した。翔は少し眉をしかめてウェットの匂いを嗅いだが、消毒薬の匂いがしなかったので気に入ったようだった。 「・・そんな気分ぢゃないもん・・・それに・・・そーゆーのって好きくない・・・猫は翔とは住んでる世界が違うんだよ・・・きっと・・・」 「場所なんかどこだっていいんだぜ?そーゆーのが嫌なら俺の部屋だって良かったぢゃんか?・・ま、子猫の部屋も悪くはねぇな。はっは。」 翔は一応声をひそめて笑った。そして、子猫を抱き寄せてキスをした。子猫は今夜はもう翔に逆らう気がなかった。むしろ甘い香りのするキスに酔いたかった。 タクシーの停まる音、門が開閉する音、玄関が開けられる音を、子猫は翔の胸に抱かれて聞いていた。 「・・・ママが帰ってきたよ・・・」 子猫が囁き声でつぶやくように言った。 「どうせ酔っぱらってんだろ?すぐ寝ちまうさ。」 翔も小さく囁いた。子猫も翔もついさっきまで愛し合っていたばかりの余韻に包まれて、ベッドの中で裸の体を寄せ合っていたのである。 「子猫ぉー・・・起きてるー?」 階段の下から母親の声がした。子猫はビクッとして緊張で体を強ばらせた。翔は子猫の肩をそっと撫でて、身振りで指を口にあてて声を出さないようにと合図し、緊張をほどくように優しく額や髪にキスをした。 コンコン。子猫の部屋のドアがノックされた。子猫は翔の胸に顔を押し宛てた。 「寝たの?・・・プレゼント・・ここに置いておくから。」 子猫は息さえもひそめて押し黙っていた。翔は子猫の震える体をそっと抱き締め、頬ずりをしていた。しばらくの静寂の後、1階から物音が聞こえてきて、母親が下に戻ったことがわかった。 子猫は大きく息を吐いて体の緊張を解いた。 「・・・翔・・・どうするの?」 「んー・・・母君は明日は休みなのか?」 「・・母君?・・・プゥ・・・」 子猫が声を出さないように体を揺らして笑ったので、翔はチッと小さく舌打ちした。 「っせぇよ。で?どうなんだ?」 「多分仕事だったと思うけど・・・」 「そっか。なら、ゆっくりするぜ。子猫の部屋は滅多に来れそうもないし・・堪能しなきゃな。」 「・・ぅっ・・・泊まるつもりなのぉ?」 「もてなせとは言ってないだろ。・・お前さえいりゃぁ充分さ。」 「そーゆー意味ぢゃなくぅ・・・いびきかかないでよ・・・」 「俺はおやぢぢゃねぇ!」 「声・・・小さくしてぇ・・・」 「酒飲みは寝ちまえば後は朝までぐっすりさ。」 「まだ寝てないかもぉ・・・」 「・・ぢゃぁ・・・も少し待つか・・・」 「・・・ん?」 「今夜は聖夜だぜ?・・さっきので充分だなんて思ってねぇだろ?」 子猫は目を見開いて翔を見た。翔は口の端で笑って、 「スペシャルな夜にしようぜ。」 と熱いキスで抗議しようとする子猫の口を塞いだ。 翌朝、子猫は早めに起きてシャワーを浴びると、出かける母親の為に朝食を作った。夜中の2階の秘め事に気付いてないか不安だったが、母親はプレゼントの確認をしただけで他のことは何も言わなかったし、表情も少し二日酔いの頭痛で機嫌悪そうな以外は普段と変わらなかった。子猫はホッとしてプレゼントのお礼を儀礼的に言った。 母親が仕事に出かけてから、子猫は二人分の朝食を作って、2階に持って行った。翔はまだ子猫のベッドで気持ちよさそうに熟睡していた。子猫はカーテンをレースだけにして朝の光を部屋に入れると、ベッドのそばに座って、翔の顔を間近で眺めていた。そのうち子猫もまた眠気を感じ、そのままベッドにもたれて眠り始めた。穏やかな優しい感情に包まれたクリスマスの朝だった。 |
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