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子猫白書

<16>〜<20>

<16>
[月曜日]
<16>月曜日

 初めて知った圧倒的な経験。体の奥に自分ではない存在が力強く蠢き、体を内側から押し広げるように圧迫する。痛みに体を捻ってもその存在は居座ったまま圧迫し続ける。ズキズキとする感覚の中にドクンドクンと脈打つものを感じ、ビクビクと波打ちながら吸い付こうと収縮する肉襞の動きを他人事のように意識した。体の奥に違う自分が生まれた気がした。萩原はこれがひとつになることなのだと教えた。切なさが激情となって込み上げ、頭の先まで痺れるような感覚に圧倒され、泣きながらしがみついていた。・・初めての日。
 月曜日の朝がきても体の火照りは消えてない気がした。それに、思い出に残るように、と萩原が選んだ初めての場所から、ホテルに移動して更にくり返したっぷりと抱かれた体は、あちこち痛みや疼きをともなって記憶を鮮明に蘇らせていた。それでも痛みを感じながら、不思議と怠さはなかった。
 なるべく普通でいよう、と緊張して一日を過ごしていたが、昼休みにはノブに会いたくなくて保健室に行っていた。それで下校する時、昇降口で心配そうなノブに声をかけられた。子猫は務めて笑顔を見せて、塾があるからと会話を切り上げて逃げるように帰っていった。

 月曜日は塾の日だった。でも、その日の子猫は塾用のバックを持って出たものの、自転車ではなくバスで町に向かった。そして塾のあるビル前では降りずにそのまま町中へと向かった。
 萩原に教えられた喫茶店で30分ほど待っていると、
「待たせたかい?・・ごめんごめん。」
と言いながら萩原が向かいの席に座った。
「お仕事、もう終わったの?」
「いや、まだ。」
「・・いいの?」
「ハハ、いい。・・とゆーか、外回りが多い仕事だからね。会社にいる方が上司に睨まれる。ハハハ。」
子猫もつられてクスッと笑った。ウェイトレスが注文をとりにきて、萩原はコーヒーを頼み、その後ろ姿を見送ってから、
「食事は他の店でしようね。」
と小声で言った。子猫は、はい、と小さく答えた。萩原は満足そうに頷いてにこやかに笑いかけた。
「今日も可愛いね。・・どう?・・体は?」
「あ・・大丈夫です。」
子猫は耳を赤くして答えた。
「そっか。良かった。ちょっと無理をさせすぎたかと心配してたんだ。・・優しく扱ったつもりだけど・・それでも初めては辛いだろうからね。」
「うぅっ・・その話題は・・・」
「ハハ、わかったわかった。・・後にしよう。」
曰くありげにウィンクして見せる萩原に、子猫は頬まで赤くした。
「もっと早く来ようと思ってたんだけどさ、お客さんの話が長くてね。でも・・君に誕生日プレゼントを買ってやる為にもしっかり稼いでおかないとな。ハハハ。」
「え・・?!」
「だって、もうすぐ誕生日だって言ってただろ?」
「・・うん。」
「いつかな?今日?明日?」
「明後日です。」
「明後日かぁ・・・」
萩原は胸ポケットから手帳を出して確認した後、軽く舌打ちをした。
「チッ・・明後日は夜まで接待だ。」
「いいです。気持ちだけで嬉しいから・・」
「いいわけないだろ。」
萩原の声が低くなり怒っているのが感じられて、子猫は戸惑ってしまった。子猫が言葉をなくしてることに気付いて、萩原が苦笑した。
「誕生日の夜を僕じゃない誰とすごすつもりなんだ?例の彼氏か?」
「あ。違いますぅ〜。いつもと変わらず塾の日ですぅ〜。」
「塾か。・・今日も塾だろ?」
「・・そうだけど・・」
萩原は子猫の顔をじっと見ながら、しばらく考えていたが、
「よし!何とかしよう。」
と言って笑った。
「その日は僕がキープする。いいね?」
「キープって・・・」
「ボトルキープじゃなくボディーキープだな。ハハハハ。」
萩原は運ばれたコーヒーを熱そうに飲み干すと子猫に店を出るようにうながした。

 夕食を御馳走になった後、萩原の車に乗った子猫はそのまま家に送って貰うつもりだったが、車は郊外のラブホテルへと入って行った。まさか、と半信半疑だったが、萩原は当然のように求めてきた。子猫はこれが大人の付き合いなんだぁ、と思いながらも、求められることが嫌ではなく、むしろ嬉しかった。
 ひんやりしたシーツに裸の二人の肌が重なる。こんなにドキドキして興奮してるのに、その一方でかつてない安らぎがあった。子猫にはもう他のことはどうでもよく思えた。ただ、繋がっていられる時間だけがとても大切に思えた。
<17>
[火曜日]
<17>火曜日

 朝、目覚めるとさすがに体が怠くてすぐには起きあがれなかった。ようやく上半身だけ起きあがると疼く部分を抱き締めるように膝を抱え込んで顔を伏せた。
(どうしよう?)
怠さの中には気持ちの重さもあるように思えた。今日は塾のない日なのだ。塾のない日はノブと神社で会う日だった。
(今日こそはちゃんとうち明けよう。)
ノブは傷つくだろう。でも隠していたらもっと傷つけることになる。だいいち隠せることぢゃない。二日連続で萩原の太くて固い情熱を受け入れた子猫の秘部は熱をもってヒリヒリしていた。トイレがこんな風に辛くなるものだとは思わなかった。ウォシュレットの水流を一番弱くしてやっと我慢出来る状態では、ノブのいつもの要求には応えられなかった。とゆーか・・そーゆー問題でもなかったが。
「いつまで寝ているのぉ?」
下から母親の声がして子猫はあわててベッドから降りた。

 学校での一日をなんとか無事に終えた子猫は、雨が降り出しそうな空を気にしながら帰宅した。どうにか間に合って洗濯物を取り込んだものの、天気が悪かったせいでまだ湿っぽい感じだった。
(乾燥機使うとアイロンするのが増えるからメンドイなぁ。出かけるのが遅れるかも。)
子猫はため息をついて洗濯物を乾燥機に入れ時間をセットして、シャワーを浴びた。
 シャワーから出てバスタオルをとると、電話が鳴った。体を拭く暇もなくバスタオルを体に巻き付けドライタオルを持って電話のところに急いだ。
−「はい。夢野です。」
−「やぁ!僕だけどわかるかな?」
−「ヒロ!!」
電話は萩原からのものだった。子猫は嬉しそうに名前を呼んだ。
−「ハハハ、正解。御褒美は今夜のディナーでどう?」
−「えー残念ー。。今日は町には出られないの。」
−「何か用事があるのかい?」
−「うん・・・」
子猫はソファーに座って雫がしたたり落ちる髪をドライタオルで拭き始めた。
−「どんな用事?」
−「アイロンかけたり・・買い物したり・・食事作ったり・・」
そう言いながら居間のガラス戸から外を眺めると雨が降り出していた。
(雨?!降ってきたんだ。)
雨だと神社には行けないかな?と子猫の頭にノブの顔が浮かんだ。
−「子猫ちゃん?」
−「ん?」
−「急に黙り込んでどうしたの?」
−「あ・・今ねぇ、シャワー浴びてて雨が降ってきてたのに気が付かなかったのぉ。出てすぐヒロの電話に出たから、まだ髪もよく拭けてないんだよぉ。」
−「それじゃぁ・・は・だ・か?」
電話の向こうで含み笑いが漏れる。
−「バスタオル巻いてますぅー!」
−「ハハハ、それは着ているとは言えないだろ?フフフ、いっきにタオルの端をひっぱって剥いてしまおうかな。」
−「うー・・・」
−「いや、マジにさ。ディナーの前に御馳走が食べたくなった。」
子猫の体が疼いてくる。萩原の声を聞いてるだけで体温が上昇するのを感じていたが、萩原の誘う言葉に体の奥から熱いものが溢れ出してくるのを押さえようがなかった。
−「・・・だって・・・」
子猫の声が小さく甘えるようなトーンになっていくのを電話の向こうの萩原は敏感に察知しているようだった。
−「明日なんとか都合がつきそうだから、その相談をしようと思ってね。」
萩原の声も低く甘い響きを含んでいた。
−「うん・・・でもぉ・・・」
−「門のとこまで車で横付けするから、車が着くまでに支度しておいてくれる?」
−「・・・うん。」
結局断ることも出来ないまま電話を切った子猫は髪を勢い良く拭いてソファーから立ち上がった。

 雨の向こうに車が止まった。すでに支度を終えていた子猫は鍵を持って玄関から出ようとした、その時また電話が鳴った。このまま出ちゃおうかとどうしようか迷ったが、子猫は居間に戻って電話に出ることにした。
−「猫?」
電話の相手はノブだった。
−「あ・・・ノブ・・・どうしたの?」
−「雨で練習が切り上げになったんだ。」
−「そっか・・・」
−「神社来られそう?・・ってちょっと無理かぁ。そこからだと歩きでは遠いし、この雨だもんなぁ。」
−「うん。ごめんね。今日は行けないみたい。」
−「俺がそっち行こうか?」
−「え?!・・・あ・・・あのね・・・」
−「会えないのは辛いよ。」
−「うん・・でも・・・」
−「そんなに長くはいないから。」
−「でも・・ママが帰ると・・マズイから・・」
−「うーん。。そっかぁ。。残念だけど仕方ないかぁ。。」
電話の向こうで大きなため息が何度も聞こえる。
−「・・・ごめんなさい。。」
−「学校でさぁ・・猫の顔見る度に抱き締めたくてたまらない衝動にかられるんだ。それを我慢出来るのもふたりだけの秘密の時間があるって言い聞かせてるからなんだぞ。」
−「・・・うん。。」
−「何て・・ゴメン!愚痴っちまったな。無理なものは仕方ないしな。」
−「ごめんね、ノブ。。」
(ごめんなさい。ごめんなさい。)
子猫は心で何度もつぶやいていた。ノブは子猫の辛そうな声に気付いて明るく笑ってみせた。 −「気にするなよ。今度雨の日に会える場所考えておくからさ。」
−「うん。そだね。」
(何言ってるんだろう。何で嘘ついてるんだろう。ちゃんと話すって決めてたのに、・・言い出せないよぉ。。)
子猫は自己嫌悪で電話しているのが辛くなっていた。ノブはもっと話していたいようだったが子猫は用事をみつけて電話を切り上げた。

 車の中では萩原が訝しげに子猫を待っていた。子猫は涙をうるませて車に乗り込むと、
「ごめんなさい。電話だったの。」
と言ったまま黙り込んだ。萩原はこの場では追求しないまま、夜の雨の中へ車をゆっくり発進させた。
<18>
[欲しいビーム]
<18>欲しいビーム

 雨の音が激しくなったようだった。
さっきまでは、萩原に手取り足取り促されるまま教えられるまま、熱くうねる激情の波に身を任せていて、外界の音を意識する余裕はなかった。今、子猫は萩原の腕の中、髪を撫でられながら次第に意識が現実世界に戻ってきていた。触れ合う肌が気持ちいい。額に触れる唇も髪にかかる息も気持ちいい。父親の腕の中にいた頃の安心感がここにはあった。
「・・・眠い・・・」
子猫は萩原の顎の下に潜り込むようにして顔を襟元に押しつけると鼻の先で首筋ををくすぐった。
「こら。・・また欲しくなっちゃうだろ?」
萩原は子猫をギュッと抱き寄せキスをしてから、額をつけて子猫の顔を覗き込んだ。
「ディナーがまだなんだけど・・どうする?」
「ん・・・今夜はパスするぅ。。」
「大丈夫なら・・いいけど。ま、僕も今はこうして君を抱いていたい。」
萩原は子猫の肩を引き寄せ、再び口づけをする。萩原の手が子猫の手を男の固いモノへと誘い握らせる。そして子猫の胸を掌で包むようにして優しく撫でる。子猫の指は意識する前にそのモノの形をなぞるようにさすっていた。
「それじゃ、ディナーは明日までのお楽しみにとっておこう。」
「うん。。」
「あぁ・・そぅ・・・とても上手だよ。・・・続けて・・・そぅ・・」
熱い吐息とともに囁かれる言葉は子猫にとって知らない男性の一面だった。
(パパもこんな声を出すことあったのかな?)
そう思うと同時に母親の顔が浮かんできた。チクリと胸が痛む感覚が走り、子猫は初めて母親への憎しみと言いようのない淋しさを意識した。
「今日は浮かない顔だね?・・どうしたのかな?」
「・・・わかんない。」
「続けて・・・そぅ・・・いい子だ。何でも話して欲しいな。辛いことでも悩みでも話すことで気持ちが軽くなる時もある。・・・あぁ・・そのまま・・そぅそぅ・・・それに君と僕はもうひとつに結ばれた関係なんだ。隠し事はしないで欲しいな。」
「うん・・・」
子猫はさっきの電話の内容と山田信夫とのことを説明した。萩原は時々子猫の手をとって握り方や動かし方を教えたり、子猫の乳首を強くつまんで言葉をつまらせて喘ぐ表情を楽しむようにしながら聞いていた。そして、
「つき合ってやってもいいんじゃないか?」
が、萩原の出した答えだった。子猫にとってはありえない回答だったので、一瞬全ての思考回路が止まってっしまったかのようだった。萩原は子猫の手の動きが止まったことに講義するように、
「・・ほら・・いい子だから続けて・・・」
と言って宥めるようにキスをした。
「だって・・つき合っていいって・・・?」
「今学校で一番君のそばにいてくれる存在なんだろう?」
「・・・そうだけど・・・」
「しかも人気者君だ。」
「うん。」
「その彼を君がふったと知ったら、一層の反感を買うんじゃないか?」
「それは・・だけど・・・問題が違う気が・・・」
「僕はこうして君を抱いてあげることは出来ても、学校へ行って君を直接守ってやることは出来ないんだ。君のそばに誰かいてくれる方が安心出来るじゃないか。・・ん?」
「・・・ひとりには慣れてるもん。。」
「そんな悲しそうな君を見るとたまらなくなるよ。・・でも・・僕も全ての時間を君とだけには使えない。それはわかってくれるだろう?・・仕事も不規則だし・・」
「わかってるよぉ。。我慢するもん。。待ってるもん。。」
「・・・いい子だ。」
萩原はキスをして優しく笑う。
「すごく嬉しい。これは本音だよ。・・ただ、君はもっと自由でいていいんだ。」
「・・・意味・・・わかんない。。。」
「つまり・・・所詮は中学生の男女交際だろ?その辺をわきまえてつき合うくらいならいいんじゃないか?ってことだよ。」
「あ・・・・・うん・・・・・」
「セックスしていいとは言ってない。ハハハハ。」
「・・・うん。」
「まぁ・・やりたい盛りの年頃だろうが・・彼氏にはもう少しゆっくりつき合いたいって言っておくんだな。」
「でも・・・」
「胸までは・・・目をつぶろう。それ以上は拒否すること。」
「だって・・・」
「男につけ込ませないこと。それには・・・レディーになることだな。」
「レディー?」
「今みたいに、欲しいー欲しいーかまって欲しいー抱いて欲しいー奪って欲しいー犯して欲しいー、という欲しいビームで男心をそそらないことが大切だ。」
「ぶぅー!!そんなビーム出してないもぉーん!」
「充分出してるぞ。困ったことに本人は全然自覚なしにな。計算されてないだけにたちが悪い。油断してる男はみんなひっかかりそうだ。」
「・・・嘘ぉ・・・」
「何で毎日誘ってると思う?そうしなきゃ他の男が犯しちまうからだろ!」
「ヒロ・・・?!」
「これからは君がしっかりレディーのたしなみを身につけるように教育してやる!わかったな?」
「ヒロォ・・何だか・・怖いよぉ・・・」
「わかんないのか?・・・本気で惚れてるってことだよ!」
「猫だってぇ・・ヒロを愛してるもぉーん。」
「ああ、わかってる。そう言いたいのはわかってる。ただ、君はまだ本当の愛さえわかってないんだ。」
「わかってるよぉ。」
「・・・そうだな。・・・よしよし。今はそれでいい。・・・だが欲しいビームは絶対ダメだ!」
「出してないー!」
「今だって欲しいー欲しいーと誘ってるだろうが!欲しいなら僕がいつでも抱いてやる。欲しがるのは僕だけにするんだ。」
萩原は子猫の上になっていきり立つ固まりを深く突き刺した。
「あぁぁぁぁぁ。。。」
子猫は体を弓なりにのけ反らせる。もう、言葉はなかった。ただ萩原の獣のような息づかいが子猫のすすり泣くような喘ぎと重なって雨音を消し去っていった。
<19>
[誕生日]
<19>誕生日

「悪いけど今日早く帰れないのよ。」
「別にいいよ。・・塾の日だし。」
「そう。ケーキくらい用意したかったんだけど・・・これで好きな物買って頂戴。」
「うん。ありがと。」
サラダボールの横に母親が置いた1万円札をチラッと見て子猫は感動もなく答えた。その様子に少し苛立ちを覚えた母親が眉をひそめたが、ため息をついて席をたった。が、思い出したように振り向いて聞く。
「でも夕飯がいつものマックじゃ誕生日なのに情けないわね。」
「・・・友達がお祝いしてくれるって言うから・・・塾の後で友達の家に行くかも。」
「塾の後って遅くなるじゃないの。」
「そうだけど・・・」
「ねぇ、どんな友達なの?最近私より帰りが遅い時があるでしょう?一体どんな友達とつき合っているの?」
「ごく・・・普通の友達だよ。今時、泊まりで友達の家に行くのだって当たり前なんだから。一緒に宿題したりしてると遅くなるのは仕方ないぢゃん。」
「でも車で送って貰ってるようだけど・・・」
「だからぁ、友達の家の人が遅くなったからって送ってくれてるんぢゃん。」
「それならいいけど。まさか、あの不良の子とつき合ってるんじゃないでしょうね?」
子猫は思わず吹き出して笑った。
「まさかぁ。」
その様子に、母親は納得しきれないものの、ひとまず安心したようで出かける支度に取りかかった。子猫は暴走族の翔のお陰で母親の詮索の的が外れたことに内心感謝した。そして今夜遅くなる言い訳が出来て、萩原とゆっくり会えると思うと嬉しさが込み上げてきた。といっても、この3日間毎日会っているのだが。

 学校の校門を抜けると待っていたように山田信夫が白い歯を見せて笑いながら近付いてきた。
「おはよう!」
「おはよぉーですぅ。」
子猫はつき合っていいと言った萩原の言葉で少し気が楽になっていたせいか、明るい笑顔で挨拶を返した。髪が風になびき、朝日が子猫の白い肌を輝かせていた。ノブの目が眩しそうに細められた。
「キスしたいくらい綺麗だ。」
「しぃー!!・・何言ってるの?・・・もぉ。。」
ノブは慌てて周囲を見回し、
「セーフ。」
と言って笑った。
「今日、猫の誕生日だろ。部活休んじまうかなぁ。」
「だって・・猫だって塾だもん。そう言ったぢゃん。」
「一日くらい塾休んでもいいだろぉー?」
「今日は・・テストがあるから休めないの。」
「そうなのかぁ?・・・くそぉー・・・残念だなぁ。」
「・・・ごめんなさい。」
「いいけどさ。それじゃぁ、帰りちょっとプール脇の・・水道のとこで待っててくれる?プレゼントを渡したいからさ。」
え?っと子猫が見上げると、ノブが照れくさそうに短く刈り上げた頭をかいた。子猫の胸に暖かい感情が込み上げてきて、弾んだ声でお礼を言った。
「ありがとう。。」
「まだ、早いだろ。」
「あ・・うん。でも・・・嬉しいー!」
子猫の頬が上気するのをノブも嬉しそうに見つめていた。

 この日嬉しいことはまだ続いていた。昼休みになるまでに子猫はすでに14通の誕生日カードと5通の手紙と11個のプレゼントを受け取っていたのだった。その中にはクラスメートでノブとは同じ野球部の斉藤君からのものもあった。
 昼休み、ノブに会った子猫は嬉しくてそのことを話した。ノブは意外でもなさそうに聞いていたが、斉藤君の名前が出ると眉を怒らせ、あいつ!と舌打ちした。プレゼントは全て男子からのものだったが、それでも子猫には意外でたまらなかったのを、ノブはむしろ、そんな子猫を愛おしげに見つめて言った。
「猫。お前なぁ・・なんでわかんないんだ?」
「何を?」
子猫は不思議そうに小首を傾げてノブを見上げた。
「自分がモテてるってことをだよ!」
「嘘ぉ・・モテたことなんてないもん。。」
「あのな・・・誰も大声で好きだ好きだとは言わないだろ?だけど視線とか雰囲気で注目されてるって気が付かないのか?」
「・・・冷たい視線なら感じてるけどぉ。。ノブが人気あるせいでさ・・・下級生まで睨むんだから。。」
「俺はもっと男共からの強烈な嫉妬の視線を浴びせられてるよ。」
「ほぇ?」
「斉藤なんて俺が抜け駆けしたって、ずっと口きかないし視線だって合わせようとしないんだ。」 子猫は頭が混乱し始めていた。
「でも・・・斉藤君は・・・小学校の時・・・」
「あぁ。それは聞いてる。俺は違う小学校だったから知らなかったけどさ、みんなで猫を無視してたんだってな。・・ったく!最低だよな!!・・斉藤に言わせりゃ壊れそうで怖かったって言ってたけどさ。そんな言い分があるか??いくら後悔したって取り返しつくもんかよ!」
「あ・・あのね・・もういいんだってば。猫もひとりでいる方が落ち着いたし。」
「それは結果論だろ!」
「ノブ・・もう、いいって言ってるぢゃん。」
子猫は怒りをエスカレートさせるノブに戸惑って、そっと腕に手を伸ばして触れた。ノブはハッ!として大きく息をつき、子猫の手を握った。
「子供ってのは我が儘で自分勝手で残酷だよな。」
「猫もまだ子供だけど。。」
子猫は少し心苦しさが込み上げてきて苦笑して見せた。
「幼いけど子供じゃないよ。」
「またぁ・・わかんないこと言う〜」
子猫はプッと頬を膨らませて唇を尖らせた。
「あはは、ほらな。そーゆーとこが幼い。てゆーか表情が幼くなるってゆーかさ。・・でも、めちゃめちゃ可愛くて抱き締めたくなるんだなぁ。」
「可愛くないのにぃ〜。自分の顔、嫌いだもん。」
「まさか?!冗談だろ?」
「ホントだもん。全然可愛くないー!」
ノブが困ったような顔をした時、昼休みの終わるチャイムが鳴った。
「もう、教室行かなきゃ。」
「ああ・・それじゃぁ帰りに待っててくれよな。」
「うん。」
子猫とノブは急いで校舎へと向かった。

放課後、プール脇の指定された場所で子猫が待っていると、ユニフォーム姿のノブが走ってきた。息をきらせながら、
「ごめん。すぐ行かなきゃならないけど・・これ。」
と言ってから、綺麗にラッピングされた小さな小箱を子猫に渡した。子猫はあらためてお礼を言って受け取ると開けてみようとしたが、ノブはすぐに校庭に走って行ってしまった。小箱の中には小さなハートをいくつかあしらった金のブレスレットが入っていて、小さなカードに”愛してる”と書いてあった。
<20>
[誕生日の夜]
<20>誕生日の夜

 その日、家に帰るまでに子猫は朝からのを含めて全部で21通のカードと7通の手紙と14個のプレゼントを受け取っていた。家に帰ってからシャワーを浴びた子猫は髪を乾かしながらベッドの上にそれを並べて一つずつ開いて見ていった。カードと手紙の半分はプレゼントと一緒に渡されたもので可愛い小物が選ばれている中学生らしい物だったが、残ったカードと手紙もとても心のこもった優しい言葉が並んでいた。それらを見るうちに、今まで嫌われているイジメられっ子と思っていた子猫の中で、違う意識が芽生え始めるのだった。
(でも、どうして?)
 子猫は自分をそれほど可愛いと思ったことがなかった。特徴のない卵みたいにつるんとした顔で、笑っても悲しげに見えてしまう暗い顔。胸が同級生よりも大きく膨らんでいるのもコンプレックス以外のなにものでもなかったのに。ただ一つだけ、赤みのある唇ときめの細かい肌の輝きは自覚していたが、女の子ならどこかに一つくらいは自分の好きな部分を持っているし、その程度のものでしかなかった。しかも弱い体質は初めから競争心を諦観に変えていたし、人と向き合わなければならない時は理由のわからない敵意を向けられる時だっただけに、なるべく目立たないように伏し目がちに生きてきたのである。
 けれど、今、ちっぽけな存在の自分を認めてくれる人達がいる。それが素直にとても嬉しい子猫だった。

 家を出る時、子猫は塾用のバッグを持ち、膝上丈のジーンズにTシャツという普通の格好をしていた。が、バスに乗って駅前で降りると構内のトイレでバッグに入れてきた支度に着替えた。黒のタイトスカートに黒のキャミソール、衿が大きく開いた丈の長い白いレースのサマーニットを黒いベルトで締め、靴も黒いハイヒールに履き替えた。トイレの大きな鏡の前でチェックをする。格好だけなら二十歳に見えるかもしれない。胸は形良く張り出し黒いベルトに充分映えていた。髪は両サイドが後ろに流れるようにドライヤーを当ててきた。ただ、化粧を知らない顔はどう表情を作ってみても子供っぽいとしか言いようがなかった。子猫は諦めたようにため息をついてトイレを出ると、スニーカーと着替えたものを入れたバッグをコインローッカーに閉まった。
 駅の公衆電話から萩原の教えてくれた番号に電話して駅に着いたことを報告した。15分ほどして萩原の車が子猫の待っている近くで止まり、子猫が乗るのを待って駅を後にした。

「良かった。よく似合ってるよ。・・サイズも調度良かったみたいだな。」
子猫の姿をチラチラと見やりながら萩原は満足そうに言った。子猫が着替えた服は昨日萩原から着てくるようにと渡されていたものだった。ホテルのレストランでディナーをするからと言われ、子猫は戸惑いながらも着替えたのである。
「似合わない気がするぅ。。」
子猫は遠慮がちにではあったが抗議っぽい口調で言った。
「ハハ、そのアンバランスがまた絶妙にセクシーなのさ。」
萩原はタイトスカートから覗いている子猫の足に左手を乗せた。
「そうだ。・・少し腰を前にズラしてリクライニングを軽く倒してごらん。」
「ん?」
子猫は何のことかわからないまま言われる通りにした。と、萩原が子猫のスカートの裾を上にずらして股を割るように手を差し込み、巧みな指使いで子猫の秘部へと侵入してきた。車が信号待ちすると一層奥まで刺激した。萩原と出会ってから逆らうことをしたことがない子猫は、歩道を歩く人や隣りの車にいる人の視線を気にしながらも、萩原の指に翻弄されるままに感じていた。
「ほら。・・・こんなに色っぽい。充分似合うよ。フフフ」
萩原はそう言って子猫から抜いた指を胸のハンカチで拭い、また胸ポケットに戻した。
「まだ足りないかな?」
「・・・意地悪。。」
子猫は上気した頬とうるんだ眼差しでこれから行こうとしてるホテルを見ていた。
「まだ足りないな。」
萩原はフフっと笑って、
「パンツを脱ぎなさい。今夜の食事はノーパンでして貰うことにした。」
と命令口調で言った。子猫は
「嘘?!」
と萩原の顔を見たが、そんな子猫に萩原は一層強く命令した。子猫は仕方なく言われた通りにした。

 フランス料理のフルコース、マナーくらいは身につけていたが、下着をつけずにいる違和感と不安で緊張状態の子猫には料理の味を楽しむ余裕はなかった。しかも、萩原が時々胸ポケットのハンカチを取り出して、口元を押さえる素振りをしながら鼻にあてて息を吸い込んでは意味ありげな視線を送ってくる為、ますます子猫はいたたまれない羞恥心で手が震えてきてしまうのだった。
 食事の後、予約してあったスィートには薔薇の花が飾られ、氷で冷やされたシャンパンとグラスも用意されてあった。レストランではジュースとワインでの乾杯だったが、シャンパンをグラスに注ぐと、萩原は、
「乾杯。これまでの15年間とこれからの君の人生を祝して。」
と言って子猫にも口をつけるように促した。甘い子供用のシャンパンなら飲んだことがあったが、本物はウェッとなりそうな不思議な味だった。それでも我慢して飲み干した子猫は胃から体全体へと血が導火線のように火がついた感じに熱くなるのを感じた。
 その夜のセックスで子猫は初めて”いく”というのが何であるかを知った。快感が足の指先から頭の頂点まで走り抜け、痺れるようにカラッポになった意識が虹色の雲が浮かぶ天上まで飛んでいくようだった。
「これが僕からのプレゼントだよ。」
意識が戻った子猫を腕の中に抱き締めて、萩原はそう囁いた。

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