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子猫白書

<36>〜<40>

<36>
[夏休み]
<36>夏休み

 中学3年の夏休みにわくわくするような楽しい思い出がいっぱいあるとしたら、その人はきっと中学4年まである人だと思う。だいたい夏休みがいくら長くてもそれに平行して休める親がどれほどいるのか。あるいは休み期間中を充実した思い出作りに励めるだけの経済的余裕のある親がどれだけいるか。大部分の親は塾やキャンプに参加させて、親としての義務を果たした気になり、後は子供達の自主性に任せるのだ。が、任せる一方で、家でだらけていれば叱り、いつまでも外で遊んでいれば叱り、外で適当に時間を費やせるだけのお小遣いもないのに適当に遊んでくれるだろうと思い込み、目を届かせるだけの余裕もないのに、非行に走ることなどありえないと信じ込むか、非行に走ればそんな子に育てた覚えはないとなじる。けれど、大抵の子供達は親の知らない紙一重のところでどうにかバランスをとり、自分には夏休みもないとこぼす親への健気な感謝の気持ちで自分自身の危険を回避しているのだ。その気持ちが崩れた時、紙一重のバランスが砕け散ってしまうことを親は知らない。

 夏休みに学校から渡される物の中に、必ず夏休みの予定表と、その脇にその日の日記を書かせる部分がある。毎日毎日日記を綴れるような出来事が起こるはずもないのに、いや、むしろ起こっては大変だろうに、毎日の生活ぶりを書かせるのは、非行に走らないように監視報告する役目を、監視される側に要求しているようなものだ。それを正直に自己申告しているのは、日記の裏に隠された密かな陰謀に気付くこともない余程純真無垢な魂の存在か幸運な人達だけだろう。どれだけ旅行したか、遊びに行ったかを自慢したい人以外の多くが、書き込む話題に困り果て、単調な同じ文句を並べるだけである。
 去年までの子猫はその幸運なひとりだった。そして今年の子猫は単調な文句を並べるだけの子供になっていた。ただ、他の人達と違っていた、あるいは同じだったのは、その文句の裏に真実を隠していたことである。真実を書き込めば、当然、監視報告を見た教師は警笛を鳴らし、罪状を数え上げ、判決を下しただろう。

 子猫の夏休みは、ほとんど塾と母親に任されている日々の雑用に費やされた、つまらないものだった。ただ、決して表に出されない事実として幾つかの出来事があったにはあったが。

 それは、まず、萩原と3泊4日で青森まで行ったことである。初日は早朝出発し、太平洋側の海岸線に沿って北上し、ある程度まで行った先で海沿いのホテルを捜して宿泊した。翌日、青森に入り、予約しておいた十和田湖Gホテルにチェックイン後、近くを散策してゆっくり休養をとった。三日目は奥入瀬渓流を散策し、十和田湖の遊覧船に乗り、休屋周辺をドライブして回った。三日目、Gホテルを早めに立って日本海側の海岸線に沿ってしばらくドライブした後、高速をつかって帰郷したのだ。
 海は大好きだけど海水浴は嫌いと言う子猫の為に萩原が立ててくれた計画だった。当初の予定は2泊で計画するつもりだったが、海岸線を通って、なるべく子猫に海を楽しませてやりたかった萩原が、友子にかなりのお小遣いを渡して子猫のアリバイ作りをしっかり協力してくれるように頼んだのだった。子猫に紹介されて初めて萩原を見た友子は、まだ若々しくエネルギッシュでありながらも落ち着いた大人の雰囲気のある彼に舞い上がっていたようだった。そして萩原の渡した封筒の中身が友子の1ヶ月分のお小遣いを上回ってるのを見た時、アリバイはいつでもバッチリOK!です、と宣言していた。
 子猫は萩原の家庭にはほとんど触れないようにしていたが、四日も家を空けることで心配になって聞いてみた。萩原は出張の多い仕事だからいつものことだと言って笑った。それでも、夜には宿泊先から必ず電話をしていたし、昼間も携帯に電話がかかってくることがあって、そんな時、子猫は見えてないとは言え、罪の意識から透明人間になったように息を潜めていた。  それでも旅行は楽しい思い出になり、別れ際、また旅行しよう、と言ってくれた萩原の言葉が嬉しかった。

 次の出来事は、山田信夫の中学での部活動が終了し、子猫の行っている塾が募集していた夏休み後半の夏期講習を、子猫と一緒に受けるようになったことである。それに伴って、子猫が夜の塾のない日には、夏期講習の帰りに”恋人達の森”に寄るようになった。それと今後、神社で会うことはやめよう、と言い出したことも小さな変化だった。ノブによれば、神社を利用する恋人達を覗きにきている者達がけっこういるらしい、という情報を耳にしたというのだ。しかもその覗きをしているのが、周辺の暇な大人だけでなく、中学の生徒も複数いるらしい、ということだった。それを聞いた時、子猫はあまりの恥ずかしさで顔から火を噴き出しそうなほど真っ赤になって泣き出してしまった。ノブはそいつ等がわかったらボコってやる、と怒りを露わにし、子猫を慰めた。そして、部活も終わって時間に余裕が出来たから、いつでも”恋人達の森”を利用出来ると話した。

 そして最後に、悲しいのか切ないのかよくわからない出来事が、夏休みも終わり近くになって起こってしまった。
<37>
[夏の終わり]
<37>夏の終わり

 夏休みも終わりに近いある日、最後に思いっきり遊んじゃおう、と、友子が言った。山田信夫が部活動を終了して以来、子猫の時間をほとんど独占していたので、子猫に会えなくなっていた友子が不満をこぼしたのだ。子猫も久しぶりに友子とゆっくり話がしたかったので了解した。  この前と同じように先に友子の家に泊まる為の荷物を置いた二人は、少し遠出して隣の県の有名な遊園地へ行った。子猫も何度か行ったことのある遊園地だったが、電車で行くのは初めてで無事に着くか不安だったが、友子はもう何度か子供同士だけで行ったことがあって、大丈夫だよ、と笑って言った。
 かなりの方向音痴の子猫は右も左もわからなくて、友子に手を引かれるままついて行った。遊園地でもすぐに迷子になりそうになる子猫を、友子は面倒見良くカバーしてくれていた。子猫は友子が欠かせない存在であることを実感した。

 子猫と友子が二人の住む町の駅に戻ってきた時にはもう夜になっていた。が、二人ともまだ遊びたい気持ちで、町へ繰り出した。二人でカラオケを楽しんだ後、これで帰るかと思っていた子猫に友子は行きたい店があるから、と言って、子猫を引っ張って行った。
「え・・・ここって・・・」
「でしょう?」
裏通りに入った時、子猫はそこが前に一度来た場所だということに気が付いた。
「兄貴の友達にぃ・・そっち系に詳しい人いるからぁ・・聞き出しちゃったぁ〜・・・うふっ。」
「うふって・・・友子ぉ・・ここはヤバイって言ったぢゃん・・・」
「いいぢゃぁーん。見学するだけだしぃ〜・・行こ行こ!」
「やだぁ・・怖いよぉ・・・ほらぁ・・こっち睨んでるぢゃぁん・・・」
「だってぇ〜私達は翔の友達なんだよぉ〜!大丈夫だってぇ〜!」
「しぃー・・・友子、声大きいよぉ・・・絶対ダメだってばぁ・・・」
さっきのカラオケ店でチューハイ3杯飲んでいた友子は、酔った時の癖で強引な駄々っ子になっていた。通りの角で押し問答をくり返している二人を、店の入り口付近にたむろしていたレディースが怪訝そうに睨んでいた。その時、店からの階段を降りて通りに出てきた特攻服姿の男が子猫達の方を見ると走ってきた。
「うっす!子猫さんっすよね?ヘッドがお待ちかねっす!」
「え・・・?」
子猫は当惑して友子を見た。友子もわからない、と肩をすくめた。男はその様子に笑って、この通り周辺はいつも仲間が見張っていることを教えた。その一人から翔の携帯に連絡が入り、彼に子猫達を迎えに来させたと言うことだった。

「はっはー!俺が恋しくなったか?」
子猫の顔を見ると翔は綺麗な少年の顔に不敵な笑みを浮かべながら言った。細身の長身を黒い皮のつなぎで包み、その上に腰まであるはっぴのようなものを纏っていた。長い足を邪魔そうにテーブルの上に投げ出し、指先で煙草を摘むその姿は、見るからに暴走族そのものだった。子猫の好きなサラサラの黒髪も今夜はワックスで後ろに流して固めてあった。
 翔は身振りで子猫に自分の横に座るよう指示した。促すと言うより、絶対的服従を余儀なくさせるような威圧感があった。子猫はこの前助けて貰ったこともあって渋々それに従った。友子は向かい側の少し離れた席に座った。
「・・っつーかお前なぁ、俺に会いてぇーなら電話しろよ。なぁーにこんなとこまで来てんだぁ?」
「町まで来たついでに会いにきてやったんぢゃん。」
翔の言葉を友子がとって返事をすると、翔は急に不機嫌そうになり、
「・・っちっ!お前ぇにゃ話してねぇ。黙ってろ。」
と言った。
「翔。友子にそーゆー言い方しないで。大事な友達なんだからぁ・・」
「ああ・・そー言やぁ友子とか言ったっけな。・・お前ぇに言っとくことがある。」
翔はテーブルの足を降ろすと友子を睨み付けた。
「ガキ二人で夜遅くまでふらふらしてんぢゃねぇ!おい、友子!子猫がおとなしいからっていいように連れ回してっとヤキいれるぞ!」
翔の声は背筋に悪寒が走るような凶暴性があった。睫毛の長い大きめの目が獲物を捕獲する時の獣の冷酷さを帯びていた。
「・・翔ぉ・・だからぁ・・やめてって言ってるのにぃ・・・」
子猫が不安そうに翔の腕をつかんだので、翔はソファーにドッと背をもたれてにっこり笑った。
「なぁに、こいつにはこれくらい言ってやらなきゃわかんねぇのさ。」
翔が笑うと瞬間冷却された空気が一気に溶解するようだった。翔は新しい煙草に火をつけ、
「あっはっはー!・・にしてもお前は赤ん坊顔のまんまだなぁ。」
と子猫の頭を撫でた。子猫はムッとして、
「翔こそ相変わらずのアイドル顔のくせしてぇ。」
と言い返した。
「ふん。この顔は俺の責任ぢゃねぇ。けど、お前の顔はお前の責任だ。」
「う・・・勝手な言い分・・・」
「バーカ。勝手ぢゃねぇ。それがわかんねぇからガキなんだよ。お前は童顔なんぢゃねぇ。表情が心のまんまに甘ったれてんだ。」
「・・・どうせガキだもん。・・別にいいもん。」
「ガキだと思うならガキらしくしろよ。俺はお前と付き合いてぇと思ってるけどなぁ、お前を族にまでつき合わせる気はねぇんだ。」
「バイクに乗せたくせにぃ・・・」
「あん時ゃそれっしか方法がなかっただろーがよぉ。」
子猫と話す翔の声には熱を帯びた甘さがあった。翔の座っているボックス席にも仲間が数人座っていたし、周囲を囲むように仲間が立っていたが、二人の会話する雰囲気に遠慮して押し黙っていた。が、向かいに座らされて黙って二人を見てるしかなかった友子は無視されてる状態に少し苛立っていた。
「翔が会いたいかと思って猫を連れてきてあげたのにぃ〜・・ちょっとは感謝してよぉ〜。」
「・・っせーつってんだろ!おとなしく黙ってろ!ガキが!」
「なぁにいちいちつっかるのさぁ・・・いちいちキレて・・・そっちがガキぢゃん。」
友子の言葉に翔は煙草を灰皿に投げ捨て、
「おーそうかい!上等ぢゃねぇか!・・ふん!お前ぇわかってねぇーよーだなぁぁ?俺を誰だと思ってやがんだぁぁぁ?ガキのくせしてあんまぁ生意気ぶってやがると女でもただぢゃおかねぇぞ!特にお前ぇはなぁ!えぇ?」
と、また凄味をきかせて睨みつけた。
「何で特に私なのぉ?ひっどぉーい!」
「ぶってんぢゃねぇー!お前ぇが年中その辺遊び歩ってるくらい知ってんだぜ?・・スレた女にゃぁスレた女への対応があるのさ。・・・あっはっはー!」
「ふーん、そう?なぁーんか憧れてたのにガッカリだなぁ。」
「おう、上等だぜ!お前ぇなんかにゃ好かれたくもねぇ!」
「翔、やめてよぉ。友子は友達なんだからぁ、ひどい言い方しないでぇ。」
「猫ぉ、もぉ行こぉ〜。こんなすぐキレる奴相手してらんない。」
腰を浮かせた友子を後ろに立っていた翔の仲間が肩をグッと押して再び座らせた。
「あっはっはー!誰がキレるってぇ?俺はこれまでキレたことなんかねぇ。状況判断でキレた振りはすっけどなぁ。相手にどう対処すんのが一番妥当かを常に冷静な頭脳が指示してんだよ。3つの時から仏教の経典から心理学の本まで読まされて、叩っ込まれちまってるのさ。人の上に立つ人間としての王道学をな。」
「なら、なんで猫が頼んでるのに、友子をイジメるのぉ?・・やっと・・やっと出来た大事な友達なのに・・・友子に対しての態度は猫にそー言ってるのと同じだもん。」
子猫が泣きそうに抗議すると、翔は、
「あぁ・・・わかった。俺が悪かった。もう言わねぇよ。・・・な?」
とため息をついて子猫の手を握った。
「・・ちーっと不愉快なことを思い出しちまってさ・・・いや・・・何でもねぇ・・・」
「友子がこのお店を探してくれたんだよぉ。・・猫ぉ全然覚えてなかったからぁ・・・」
「お前がこの店を覚える必要はねぇだろ?会いたきゃいつだって会いに行ってやるって言っといたはずだ。」
「・・・うん・・・そぉだけどぉ・・・」
「ま・・受験勉強で忙しいみたいだし・・会う暇がなかっただろうけどな・・・」
翔の声が暗く沈む。子猫は次々に変化する翔の態度に困惑していた。
「翔だってぇ・・受験生ぢゃん・・・」
「あっはっはー!俺には中学の勉強は簡単すぎてかったるいぜ。あんなんは寝てたって出来ちまうさ。実際学校のテストなんて5分で終わる。もちろん全て完璧な答えでだ。・・はっはー、一度なんて俺の回答が先公の回答以上だってんで100点満点で150点とっちまったぜ。あっはっはー!」
「ほぇぇ・・・すごぉーい!」
「まぁ、たいしたことぢゃねぇけどな。」
「そう言えば全国模試に翔の名前があったっけ・・・去年だけど。」
友子が腕組みをして足を組みながらそう言った。
「今年はウザイから受けてねぇ。・・つーか・・今年の夏はちっとヨーロッパ回ってたからな。」
「うっわぁ・・・いいなぁ・・・」
「お前が行きたきゃ連れてってやるぜ?はっはー。」
「友子も一緒がいいなぁ〜・・」
「バーカ、誰がそいつまで連れてくかよ。お前ぇ等レズってんぢゃねぇーぜ。・・ったく・・羨ましいぢゃねぇかよぉ・・ふん。」
翔は冗談っぽく言ったが、子猫と友子は顔を見合わせた。普段から二人の様子を見て仲が良すぎると言う人達がからかってそう言うことはあったが、さすがに友子も人前では押さえていたし、からかう人達も冗談以上のものはなかった。が、さっきからの翔の態度には友子への敵意が感じられていた。その理由がそれかもしれないと、交わした目が言っていた。
「なぁーんだぁ、ヤキモチ妬いてたんだぁ。私に嫉妬するくらいなら猫を自分からどんどん誘ってものにしちゃえばいいのに。」
「え?・・友子ぉ・・・」
「っざけたこと言ってんぢゃねぇ!嫉妬とかなぁ俺はそんな小せぇ男ぢゃねぇんだよ!・・・見ろ、子猫。こいつはこーゆー奴なんだぜ?自分の了見でしかものが見れねぇんだ。お前の気持ちなんて考えもしねぇ。こんな奴といるとろくなこたぁねぇ。」
翔の言葉に友子は内面を見透かされたような気がして顔が紅潮した。友子は子猫がノブとばかり仲良くしているのが面白くなく、二人の関係が壊れればいいと思うようになっていたらしい。もちろん萩原のことをノブに言ってしまえば簡単だったが、子猫を傷つける形では嫌だったのだ、と友子は後で子猫に打ち明けた。友子は子猫自身が他の男性にも興味を持つことで、ノブから引き離したかったというのだ。が、この時の友子はそんな自分の醜い感情を子猫に知られたくなかった。それで翔に対して、
「あっはは、やぁ〜だぁ〜!酔っぱらっていい加減なことばっかり言ってぇ〜。」
と、食い下がって言った。
「酔ってんのは手前ぇだろーが!・・俺はこれから集会があるから今夜は酒は一滴も飲んぢゃいねぇーぜ。俺は飲んでる奴は走らせない、乗せない、来させない、って決めてんだ。」
「きゃははは、うっそぉー!そんな暴走族なんて聞いたことないー!」
翔の顔色が変わった。周囲から息を飲む気配がして、一層の沈黙が広がった。次の瞬間、
「っざけんぢゃねぇーっっ!俺は嘘が一等ー嫌ぇーだぁぁぁーーっっっ!!」
腹の底から唸るような罵声が響いた。友子は口を手で押さえ目を丸くしていた。子猫もビクッとして思わず握られたままだった手を引いた。
「頭とってメンバー束ねてく以上責任があんだよ!俺がトップである限りは俺の流儀に従って貰う!・・飲む時は飲む。走る時は走る。走りには命がかかってるんだ。・・わかるだろ?」
翔は子猫の手をもう一度優しく握り、顔を覗き込んだ。
「お前だって自分の命に責任持てよ。・・この前も言ったけどなぁ・・こんな・・こーんな・・かぁーわいー!!・・って叫び出しちゃいたいくらいの超マブ姿でなぁ・・こーんな夜更けまで町ん中ふらついてりゃー何処の誰に何されっかわっかんねぇだろぉーがよぉー・・なぁ?」
「・・・ごめんなさい・・・」
子猫はここまで心配してくれる翔の気持ちが胸に痛かった。潤んだ目に涙がいっぱいになってポロッと零れ落ちた。
「泣くな。・・・バーカ・・・お前を泣かせちまったら意味ねぇだろ。・・・俺はもうお前を泣かせたくねぇんだ。・・生きる為に必死に戦って・・辛いこといっぱい背負っちまって・・お日様の温もりでしか、もぉ寂しさを癒せなくて・・日溜まりの中で溶けて消えそうになってたお前を見た時から・・・俺は・・・俺はお前を守るって決めたんだ。」
「翔・・・あ・・・あのね・・・猫ぉ・・・」
子猫が涙をポロポロ零しながら、消えそうな声で言いかけた時、翔が子猫の唇を塞いだ。それほど長いキスではなかったが、子猫の唇を名残惜しそうに離した時、
「・・悪い・・・理性・・飛んだ。」
とすまなそうに言った。
「・・・翔・・・」
「言うな。・・言わないでくれ・・・お前の口からつき合ってる奴等のことは聞きたくねぇ。」
「・・・え?!」
「お前のことはみんな知ってる。・・・親父が使ってるプロにお前の調査を頼んであるんだ。・・・もっと早くしてりゃ良かったんだけどよぉ・・しばらく家を離れてたし・・他にも色々あってさ・・・やっとお前を手に入れる段取りをしようと調査させたら・・もう・・・お前には男が出来ちまいやがってた。・・くそっ・・しかも二人もだぜ?・・・俺がそこに入り込みゃお前がパンクしちまうだろ?・・・だから・・・会いたくても会えなかったのさ。・・・っくしょぉぉっっ!どんなに会いに行きたかったか知れねぇぇっっ!」
子猫はあっけにとられていた。頭の中を翔の言葉が理解出来る場所を探して飛び回っているようで、目眩を感じた。
「あんまし辛ぇから・・お袋と妹達につき合うなんてバカをしちまったぜ。向こう行きゃ一族の跡取りとしての顔でいなきゃなんねぇのによ。家族の旅行なんて小学校卒業と同時に願い下げしてたんだけどなぁ・・・」
「・・・ひどぃ・・・」
「あ?」
子猫は翔の手を振り解き、ソファーから立ち上がった。そして、少し眉を寄せ問いたげな表情で子猫を見た翔の顔を思い切り平手打ちした。
「あっ・・こいつ!」
「手前ぇヘッドに何しやがんだぁぁっっ!」
殺気立つ周囲を翔は子猫の顔を見つめたまま片手を伸ばして征した。
「子猫?・・どうした?」
「どうして調査なんかするの?」
「そりゃお前が病院を退院しちまってっから、つき合うには調べるしかねぇだろーが?」
「だって・・今は?」
「状況を把握しておかなきゃ、お前が困ってても助けてやれねぇだろ?」
「助けてくれなんて言ってないぢゃん。」
「そーは言うがなぁ、お前は危なっかしくて見ちゃいらんねぇんだよ!」
「見なきゃいーぢゃん。」
「心配なんだよ!」
「関係ないぢゃん。」
「俺はお前を守るって決めたんだ!」
「そんなこと頼んでないぢゃん。」
「お前に惚れてんだからしょーがねぇーだろ!!」
「わかんないー!」
子猫は青ざめて体が震えていた。翔は子猫の体を支えるように両腕をつかんだ。
「子猫。落ち着け。落ち着いて話そう。」
「・・・猫はバカだもん。・・・いくら話したって翔にはかなわないもん。」
「何でも聞くから・・とにかく座ってゆっくり話そうぜ?・・な?」
「・・・翔の気持ちは嬉しいけど・・・好きだって言って貰えて嬉しいけど・・・でも・・・わかんないけど・・・なんか違う気がするぅ・・・」
「わかった。違うって思うとこをじっくり検討しよう?お前のいいように・・・」
「だから・・・猫・・バカだから・・・わかんないのぉー!」
子猫は身動いで翔から逃れようとした。が、どんなに体を振っても、それほど強くつかんでないはずの翔の手を振り解くことが出来なかった。
「わかんねぇならわからせてやるさ!」
翔は立ち上がって子猫を脇に抱え込むようにして抱き上げた。翔が立ち上がると同時に、座っていた仲間も立って席から離れた。その一人に向かって、
「集会は少し遅れる・・・つーか・・今夜は中止だな。」 と言った。
「うっす!じゃぁ□□橋と○○崎の方にも連絡しときやす。」
「ああ。悪ぃな。」
「ヘッドあっての俺達っすから。・・思う存分に。」
「あっはー!こいつを納得さすのに手間取りそーだぜ。」
「まぁ、一晩でも二晩でもじっくりどうぞ。」
「やだー!放してぇー!」
子猫が苦しげに叫ぶと友子が翔に掴みかかろうとした。が、翔に触れる前に他の仲間達に捕まってしまった。数人の男に押さえ込まれ、口も手で塞がれた友子は悔しそうに足をバタつかせていた。
「こっちはどうします?」
「そいつには俺達の怖さをたっぷりと教えといた方がよさそうだな。」
「そうっすね。後々うるさそうっすし・・」
「お前ぇ等で朝までたっぷりわからせてやれ。」
「うっす!」
「ダメェー!友子に何もしないでぇー!」
「もう遅ぇぇんだよ。こいつは俺を怒らせすぎたぜ。・・・お前の言うことは何でも聞いてやりてぇがなぁぁ・・こいつは俺達・・つーか・・男ってぇもんを甘く見すぎてやがんだ。・・このままいいように放っときゃぁなぁ・・お前を壊されちまうしよぉぉぉっ・・・まぁそのこともこれからじっくり教えてやるけどな。・・・きっちりわからせる必要があんだよ。」
「やぁーー!・・お願いーー!」
「・・・なぁ?・・・そーやってお前は庇おうとするだろ?・・けどなぁ、これが俺ぢゃなく知らない他の誰かだったらどうすんだ?・・つーか・・この体勢で言っても、説得力ねぇか。はっは・・」
翔は苦しそうにする子猫を今度は肩に担ぎ上げた。細身の長身に見えた翔の肩には意外なほどしっかりした筋肉がついていた。
「猫を手名付けるにゃぁ時間が掛かりそうだぜ。・・特に子猫は・・あっはっはー!」
「可愛い子猫ちゃんならひっかかれるのも楽しいんじゃないっすか?」
「そーゆーことだな。あっはっはー!・・・ぢゃぁ、後は頼むぜ。」
「うーっす!」
「お疲れさんっした!」
「ヘッド!後で差し入れしやすぜぇ!」
囃し立てる仲間に軽く手を挙げて、翔はしゃくり上げながらぐったりしている子猫を肩に抱えたまま店を後にした。
<38>
[ふたつの魂]
<38>ふたつの魂

 夏休みが終わり2学期が始まった。友子とはあの夜以来まだ一度も話をしてなかった。友子の家に泊まる予定で持っていっていた子猫の荷物は、子猫の気付かない間に、翔が借りているマンションの部屋に届けられていた。翔の話では、友子もあの夜は家に戻らず、翌日の昼近くに翔の仲間に家まで送られたということだった。そして、その時に子猫の荷物も預かってきたそうなのだが、翔の仲間が差し入れと一緒に荷物を届けに来た時は、子猫は夢の中だったのだ。あの夜友子に何があったのか、子猫はどうしていたのか、お互いがそれに触れることはその後もなかった。子猫は友子のことがずっと気になっていたが、時々姿を見かけたり廊下ですれ違うことがあっても、以前のように友子が子猫に駆け寄り話しかけてくることはなくなった。子猫も声をかけるのがはばかられて、なるべく気が付かないふりをして、うつむいたまま通り過ぎた。その変化に気付いた山田信夫がどうしたのかを聞いてきたので、子猫は喧嘩しちゃった、とだけ言った。

 翔がマンションの部屋を借りたのは病院を脱走した後で、それ程自由でいたいなら自分の行動には自分で責任を取れ、と父親に家を出るように言われたかららしい。が、実際には部屋代を払うのは父親だし、自家用車代わりにタクシーを父親の名前で使うことも許していたし、ホテルのスィートもヘリコプターも自由に借りられたし、自由に使えるカードも何枚も持っていたのだから、親の庇護にあるのは間違いなかった。家を出ることになった本当の理由は、年頃になりかけた二人の妹への影響を母親が心配して、朝帰りばかりしている翔を離したかったらしい。その母親も翔が悪い仲間と会う心配のない海外では旧知の友人に自慢の息子として挨拶させているのだから、子猫から見れば充分愛されていると思うのだが、翔には自分の生き方を認めてくれない親への反発が強かった。とゆーよりも、要求されることが多く、親の言いなりになる人形でいたくない、と思う気持ちが強かったようだ。
「俺の本当の野望は自分だけの力で親父より成功してやることだ。親父より金持ちになって、親父よりデカいビルを建て、親父より有名になってやる。」
それは、心臓の欠陥というハンデを持った息子を不良品のように見下した父に対しての、翔の意地だったのかも知れない。

 子猫は時々、塾をさぼって翔のマンションに行くようになっていた。
「勉強なら俺が教えてやるぜ。」
と言っていた翔だったが、子猫を抱いた後はTVゲームに熱中したり、族の仲間や古くからの友人との電話で卑猥な会話に興じて、とても勉強を教える状態ではなかった。ただ、一体いつ勉強しているのだろう、と子猫が不思議に思うほど、翔は頭が良かった。翔が言っていたように学校の勉強だけでなく、あらゆる分野で大学生を凌ぐかも知れないと思えるほどの知識を持っているようだった。大学生という存在をあまり良くは知らない子猫なので正確な比較は出来なかったが、喧嘩で切られたという傷口を医者が使うような道具を出してきて自分で縫って閉じた時には、子猫は恐怖と生々しさに吐いてしまった。翔は、
「バーカ、これぐれぇたいしたことぢゃねぇー。こんくらいの医学の知識はもう頭に入ってんだよ。・・・んなことより・・っくしょーっっ!あれくらいの人数で怪我した自分が情けねぇぜ!」
と、数人を病院送りにしておきながら悔しがり、傷口を心配する子猫に、
「開いたらまた閉じるまでだぜ。お前のここと同じになぁ?あっはっはー!」
と言ってベッドに押し倒した。そして、そんな時の翔はいつもより一層激しく、執拗に子猫を求めるのだが、それさえも、
「喧嘩で脳内物質のアドレナリンが上昇しドーパミンが出ることで男の性能を・・」
と子猫が聞いてもわからないことを説明するのだった。

 翔が魅力溢れる輝く存在であることは皆が言うように子猫も感じていた。そして翔は子猫に対して独断的で支配的である一方で寛容で優しかった。だから、萩原や山田信夫と別れるように言ってはいたが、いつまでも関係をクリアにしない子猫を責めることもしなかった。追いつめられるとパニクって何も考えれなくなる子猫をよく理解していたのだ。
「彼奴ら・・いつか絶対ぇー殺す!」
と、たまにつぶやくことはあったが。
 子猫は翔の魅力の虜にはなっていたが、翔に抱かれても満たされなかった。セックス自体に問題があった訳ではなく、むしろ大人も負けるほどのテクニックで、子猫を何度もいかせて夢中にさせた。が、どんなに感じても心は悲しく寂しくなるのだった。
「お前の気持ちは俺が一番よくわかる。俺の気持ちはお前が一番わかってくれる。・・出会うべくして出会い、結ばれるべくして結ばれたふたつの魂。・・元々ひとつだったのに引き裂かれてふたつになっちまった魂がようやくお互いを見つけたんだ。・・ほら・・こうしてひとつになってる時こそ完全なる姿・・本来あるべき姿なんだ。」
とキザなセリフをサラリと言っても似合う翔は、その腕の中に抱かれているにもかかわらず、子猫には眩しすぎる存在だったのだ。子猫は翔に愛されれば愛されるほど、抱かれれば抱かれるほど、自分が惨めに感じた。何故なのか、はっきりした理由は見つからなかったし、子猫のそうした気持ちさえ読み取っていた翔に、
「自分が信じられないなら俺を信じろ。お前を選んだ俺を信じろ。お前に惚れてる俺を信じろ。俺を信じていればいつか自分をもっと評価出来るようになるぜ。」
と言われても、漠然とした寂しさが消えることはなかった。
<39>
[幸せ]
<39>幸せ

 子猫にはやっぱり萩原の腕の中が一番居心地のいい場所で、萩原といる時が一番幸せだった。許されない関係だということは承知していたし、家庭を壊してまで独占しようとは思っていなかった。だから、萩原から指示されていない限りは、子猫から萩原に連絡することはめったになかった。萩原も子猫が中学3年という受験を控えた時期であることを配慮し、週末しか会えないという子猫を尊重していた。
 土曜日か日曜日のどちらかという約束だったが、両方の都合で会えなくなる時もあって、半月ぶりに会うと子猫は涙が止まらなくなるほど切ながってすがるように甘えた。それほど辛いなら普通の日でも会う時間を作ろう、と萩原は何度も子猫を口説いたが、集会のある週末以外に会うことを翔が許さなかったのだった。

 前の週末に会えなかった翌週、萩原は、久しぶりにゆっくりしよう、と泊まりで会うことを提案した。子猫もそうしたくてたまらなかったのでOKしたものの、友子との関係はまだ修復されてなく、アリバイをどうしようか迷った末に、母親にだけ友子の家に泊まると言ってみた。母親は、
「あら、そう。」
と言っただけで、それ以上を聞こうとしなかった。
 子猫の母親は夏くらいからある政治団体に参加したらしく、仕事が終わってもそっちの事務所に寄ることも多くなり、今まで以上に帰宅が遅くなっていた。子猫は、母親が子猫の日常に興味を持たないのと同じに、母親のしていることには興味がなかった。というより、聞きかじりで話をしようとすると、子供が口を出すことじゃない、と思いっきり嫌悪されたので、無視することにしたのだった。

 とにかく、アリバイ作りに成功した子猫は、半日の学校が終わるのが待ちきれないほど舞い上がり、萩原を恋しがって疼く下半身を意識しないように努力していても、体温は上昇し頬が赤みを帯びて焦点の定まらないような目が潤んで、授業中でも何をしているかもわからない状態だった。担任の森脇先生が受け持つ授業の時、子猫はビクビクと痙攣するように疼く部分を強く収縮させながら、萩原のモノをしゃぶっている自分を想像していた。無意識に赤い唇が開き舌が上唇をなぞる。子猫は静かに息を漏らすと、目を閉じて軽く指をくわえ、クラスメートにはわからないように指先を舐めていた。二度ほど森脇が黒板消しを落とし皆が笑ったので、子猫がぼんやり目を開けると、顔を赤くした森脇が、
「今日は暑いな・・・」
と、四苦八苦の言い訳をして、チラッと子猫に視線を投げた。子猫がちょっと笑いかけると、吹き出した汗を拭きながら黒板の方を向いて、いつもより上擦った声を張り上げながら説明を始めた。それからの時間中、森脇はほとんど黒板に向かい、たまに上半身だけを生徒の方に向けて声をかけた。その度に子猫をチラチラ見ては、また顔を赤くするので、
(今度、先生のもフェラしてあげちゃおうかな?)
と目を伏せてこっそりと笑みをもらす子猫だった。

 学校から帰った子猫は急いで支度して駅に向かった。車で迎えに来る時には町で待ち合わせするよりも、駅前の車が入る場所で待っている方が良かったのだ。
 萩原の車に乗り込むなり抱きついてキスをする子猫に、
「こらこら、こんな人の多い場所でいけない子だなぁ。」
と、顔をしかめてみせ、
「ちゃんと座ってシートベルトを閉めなさい。・・っと、その前にドアをちゃんと閉めてくれないかな?車を出せないだろう?ハハハハ。」
と苦笑した。子猫は、あ、と小さく声をあげ、手早く言われた通りにした後、車を発進させる萩原の肩に顔をぐりぐりと押しつけた。煙草と香水の匂いの奥に萩原の体臭を感じて、子猫は懐かしさに涙が込み上げてきた。ほんの半月だったが、胸がキュンと切なく締め付けられて、会えない長い夜を思い出し、やっとたどり着いた心境になるのだった。しゃくりあげて泣き出す子猫に、萩原は、
「ハハハ、君が化粧しない子で良かったよ。・・と言うより・・化粧するくらい周囲を意識するようになれば、ドアの閉め忘れはしないかな?」
と、冗談を言って、萩原の腕をつかむように腕をまわして顔をすりすりしている子猫の頭をよしよしと撫でた。
「・・・意地悪ぅ・・・早く抱いてぇ・・・」
「ハッハハハハ。君も言うようになったなぁ。」
「だって・・・欲しいんだもん・・・」
「んー・・困ったなぁ。ホテルに行く前に食事したいんだけど・・・」
「やぁ〜ん・・・我慢出来ない〜!」
「しょうがない子だなぁ・・ハハハ。」
「ヒロォ・・・欲しい〜・・・」
子猫は萩原の股間に手を伸ばし、ズボンの上から固くなっているモノを擦り上げた。子猫が形をなぞるようにさすると、ますます固さを増してズボンの中で膨張した。
「・・仕方ないなぁ・・じゃぁレストランを変えよう。」
「・・・ん?・・・ヒロ?」
「すぐにわかるよ。」
萩原はくすくす笑って運転していた。
 ビルの地下駐車場に車を止めた時、子猫は少しガッカリしていた。そんなに食事の方が大事なのかと思うと口がとがって頬が膨れてくる。その顔を見て思わず吹き出した萩原は、
「なんて顔してるんだい?駄々っ子ちゃん。」
と言って、座席のシートを倒した。子猫の方の座席も完全に倒すと、
「すぐに入れるよ?・・ここではあまり時間をかけられないからね。」
と子猫のスカートをたくし上げた。子猫の秘部はもうヌルヌルに濃い蜜を溢れさせていたので、萩原の逞しいモノはズブズブゥーっと奥まで一気に貫いた。
「あぁぁぁぁぁ・・・」
「しぃー・・・声は我慢だよ。総合ビルでもレストランも入ってるんだ。人の出入りはそれなりにあるからね。」
萩原は一度奥まで押し込むと動かす前に子猫に注意した。子猫が小さく頷くのを確認して、萩原は腰を動かし子猫の子宮を突き上げ始めた。
「・・ぅっ・・ぅっ・・・ぁっ・・・ぅぅっ・・・」
子猫は萩原にしがみついて声を必死に我慢した。が、萩原の動きに合わせて車体が揺れ、剥き出しの子猫の足が車の窓に張り付くようにして揺らめいていたのだから、通りかかった人が気が付かないはずはなかった。いつ人が来るかというスリルの中で、子猫は立て続けにいった。萩原も声を押し殺して呻くように子猫の中に射精した。
「いい子だ・・僕も我慢したくなかったのさ。ハハハ。」
と言ってキスをした萩原は、ティッシュをピンポン玉くらいに固く丸めた物を子猫の秘部に押し込んだ。
「・・・ん・・痛っ・・・ナプキン持ってるのにぃ・・・」
「それでも外に出ると匂うかも知れないだろ?・・僕のは特にいい匂いらしい。ククク。」
「・・・うぅ・・・」
「ホテルまでそのまま入れておきなさい。着いたら取ってあげるから。・・ちょっと違和感があるだろうけど・・それくらいは我慢しなきゃね?ミルクを食事前にたっぷりあげたんだから。・・ん?」
「・・・うん・・・」
「ハハハ。よしよし、いい子だ。・・さて、次の運動の為に、運動後の食事をしよう。」
シートを起こした萩原は車を降りる前に一度子猫を抱き締めると熱いキスをした。子猫は愛されている実感に浸って幸せを感じていた。
<40>
[キスマーク]
<40>キスマーク

 ホテルのルームサービスで水割りを注文した萩原は枕を背中にあてて体を起こし、ゆっくりと水割りを味わうようにしながら、激しい運動後の休憩をしていた。子猫は飲み干したジュースのコップに氷をいっぱい入れて、ベッドにうつ伏せに寝転がり、氷をひとつ口に入れてはガリガリと音を立てて食べている。
「あっ・・こら・・フフフ。」
子猫が氷で冷たくなった口で萩原のモノをくわえたので、少し驚いた顔をした萩原だったが、愛しそうに子猫を見て、髪を顔から後ろへと撫で付けてやった。
「ねぇ・・・」
子猫はまた新しい氷を口に入れ頬を膨らませながら萩原の顔を見上げた。
「ん?」
「さっきからぁずぅーっと黙ったままなんだもぉん・・・どぉしたのぉ?」
氷をほお張っている子猫の口調はいつも以上に子供っぽく聞こえる。萩原は指先でそっと膨らんだ頬をなぞって、優しく微笑みかけた。
「氷のキスもなかなかいいもんだな。もう一度やってごらん。」
「ん?・・・こぉ?」
子猫は氷を前歯で挟んで固定すると、萩原のモノに片手を添えながら、亀頭からカリへと氷を滑らせていった。
「んー・・・いいねぇ・・刺激的だ。」
誉められた子猫が顔を上げて嬉しそうに笑った時、氷をくわえたままに開いていた唇の端からよだれが滴り落ちた。
「ハハハ、まるっきりハイハイしてる赤ちゃんだな。」
「もぉ・・・すぐ子供扱いするんだからぁ・・・」
子猫はよだれを手でふきながら氷をガリガリ噛み砕いた。
「ホントに氷が好きだなぁ・・お腹を壊すんじゃないか?」
「平気だもぉーん。」
子猫はまた新しい氷を口に放りこんだ。その様子をしばらく眺めていた萩原が表情を少し暗くして言った。
「子猫・・・」
「なぁに?」
「新しい彼が出来たのか?」
「・・・え?」
子猫はドキッとしてまだ大きな塊だった氷を飲み込んでしまった。
「・・・やっぱりそうなんだな・・・」
萩原は大きくため息をついた。
「ち・・ちが・・ぅ・・・」
子猫は翔のことはいつかは話さなければいけないことと思っていたが、急に指摘されたことで動揺し、否定しようとしたが言葉にならなかった。
「嘘は言わなくていい。」
萩原はまたため息をついた。
「君が以前から前の彼氏と関係してることには気がついていたんだ。」
「・・・ぁ・・・」
子猫はシュンとしてうつむいていた。居心地悪そうに裸の体に毛布を巻きつけ、氷をひとつつまんで口に運ぶ。
「僕の家庭のことが君の負担にならないようにと思って交際を許した以上、僕にも責任があると思って、そのことは追求しなかったんだ。」
「・・・ごめんなさい・・・」
「今時の中学生ってものを甘くみていたと実は後悔したけどね。」
萩原は自嘲するように苦笑した。
「・・今度の相手は大人なのか?」
子猫はガリガリと音をさせながら首を振った。
「中学生?」
「・・うん。」
「何で前の彼氏と別れたんだ?・・というようり、何故次の彼氏を作るかなぁ・・僕の存在は君にとって何なのか聞きたくなるよ。」
子猫はうつむいたままだった。シーツに涙がポトポト落ちていく。
「少しキツイ言い方をしてしまったかな・・」
萩原は自分の水割りのコップと子猫が持っていた氷のコップをサイドボードに置くと、子猫の毛布をはがして震える小さい体を胸に抱き締めた。
「ばかだなぁ・・これくらいで僕の気持ちは変わらないさ。」
「・・・ヒロォ・・・」
「ただ・・隠し事はお互いしないようにしたい。」
「・・うん・・・」
「ちゃんと話してくれるね?」
萩原は子猫を宥めるように髪を撫でながらキスを繰り返した。

 子猫はすぐには話し出す言葉が見つからなかった。萩原の腕の中でしばらく泣きじゃくりながら葛藤する心は答えを探していた。萩原は子猫が落ち着いて話し出すのを、肩や背中を優しくさすりながら根気よく待っていた。
 子猫には何を話しても、どう説明しても、自分の言い訳の為に誰かを傷つけてしまうような気がしていたのだ。翔もノブも友子も、もちろん萩原も、子猫は大好きだった。そうするしかなかった、逆らえなかった、と言った瞬間、自分がみんなを裏切るように思えた。翔とのことも、病院で会ったことやその後の出来事を話せば、まるで強引な翔に無理矢理つき合わされてるように受け取られかねなかった。ノブとのことも、別れようと何度も思ったと言ったら、今でも子猫を信じきって愛してくれているノブに申し訳なかった。友子と翔の間で何があったかを言えば、傷ついている友子を更に傷つけそうだった。そして、何よりも、萩原といる時が一番幸せなのだと言ってしまうことが自分自身として許せなかった。それを言った時、翔の情熱もノブの純情も友子の友情も失ってしまう気がした。
「・・・あのね・・・」
子猫がようやく言葉を発したのは1時間以上も経過した後だった。
「・・うん?」
「・・・あのね・・・」
「うん。」
「・・・話したくない・・・」
萩原は天井に顔を向けて目を閉じ、しばらくじっとしていたが、深いため息とともに顔を子猫に向けた。
「・・・そうか・・・仕方ないな。それだけ考えて言えないなら・・・無理矢理言わせることで君を失ってしまいそうで・・・怖くなるよ。」
「・・・ごめんなさい・・・」
「でも何も知らないと言うのもまた不安でね・・・いくつか質問してもいいかな?・・答えたくなければ答えなくていい。・・・出来そうかい?」
「・・・うん・・・」
「よしよし・・・いい子だ。」
萩原は子猫の気持ちをほぐすように、少しの間、キスをしながら胸や花弁や蜜壺を愛撫した。初めは強ばっていた子猫の体も、巧みで丁寧な愛撫に次第に反応し始めた。子猫が鼻にかかった喘ぎ声をもらすようになったのを見て、萩原は質問を始めた。
「始めに・・・どうして前の彼氏と別れることになったのかな?・・今の彼氏の方が良かったからかい?」
「・・ぁ・・わ・・別れてないの・・・」
「・・え?・・・そうか。わかった。・・・じゃぁ次に・・・君が僕とつき合っていることを彼氏は知っているのかな?」
「・・・ノブは知らない。・・・翔は知ってる。」
「ノブ・・は前・・じゃなく初めの彼氏だね?・・じゃぁ新しく付き合い始めた彼氏が翔って子か・・」
「うん・・・」
「そうか・・・それであんなとこにキスマークをつけたんだな。」
萩原は納得したように頷いていた。子猫は、
「え?」
と意味がわからない顔をした。萩原は苦笑し、
「さっきも言ったように・・君が僕以外の男と関係しているくらい見抜く目は持ってるよ。だから・・そのノブ君とのこともわかっていた。・・・が・・・彼はまだあんなとこにキスマークを残せるほど愛し方を知らないはずだと思ってね・・・それで・・新しい彼氏が出来たんだな、と思ったのさ。」
と説明した。子猫は’あんなとこ’がわからずに体を見回した。
「ハハ・・・君には見えない場所だよ。・・・これは・・・明らかに僕への挑戦状なんだろうな。」
見えない、と聞いて子猫は背中を見ようと体を曲げた。
「いやいや、そこじゃない。」
萩原は子猫の花弁の脇を指さした。そこは確かに覗きこんでも見えそうになかった。
「翔君は君に見える場所では君が隠すと思ったんだろうな。・・背中だって鏡で見れば気が付くだろう?・・・が・・そこを普段鏡で見る子はそういないだろうからね。ハハハ。」
「・・・ぅぅぅ・・・翔ぉぉぉ・・・」
「で・・翔君はいつ君と僕のことを知ったのかな?・・それとも初めから知っていた?」
「・・・うん・・・」
「僕から奪ってやるって?」
「・・・わかんない・・・」
「わからない?・・・どうゆうこと?」
「・・・別れて欲しい・・とは言われるけどぉ・・・」
「・・けど?」
「・・・別れられるようになるまで待ってるって・・・」
萩原は眉をひそめた。そして、しばらく考え込むようにしていたが、
「そうか・・・翔君はよほど君のことを理解しているようだな。」
と、呟くように言った。それからまた考え込むと、
「・・待ってる・・・キスマーク・・・待ってる・・・が、別れて欲しい・・・キスマーク・・・」
とくり返した。
「そうか・・・待ってるのか・・・それで・・・キスマークをつけて僕を試したんだな・・・」
「・・・試す?」
「僕がそのキスマークを見て激昂し・・君をなじる等して傷つけたなら・・待ってやる必要もない相手と思っただろうし・・・まして君に他の男がいると知ったことで君と別れると言い出すような男なら、さっさと別れてしまった方がいいと考えたんだろう。」
「・・・ぅぅ・・・わかんない・・・」
「そしてキスマークを見ても君との関係を続けたいと思う男だったなら・・自分という存在がいるという自己主張になる。・・・まいったな、ハハハ。・・・ホントに翔君は中学生なのかい?」
「うん。同じ3年・・・でも・・・超天才かも・・・」
「あぁ・・・なるほど・・・」
萩原は苦笑して首を振った。
「彼・・翔君とは一度会って話す必要があるかも知れないな。」
「え?!・・・だめぇぇぇー!」
「ん?・・・子猫?」
「だめぇぇ・・・翔を怒らせたら・・・ヒドイ目に遭わされちゃうよぉぉぉ・・・」
「子猫?」
「だって・・・だって・・・翔は・・・翔は・・・暴走族のリーダーなんだもぉぉーん!」
萩原はさすがに驚いてしばらく言葉をなくしていた。が、顔をしかめて、
「まさか君は違うだろう?」
と問いただすように言った。
「・・・もしそうだって言ったら?」
「やめさせるに決まってるだろ?・・もしそうだったとしたら・・翔君には失望する。」
「・・・違うけど・・・違うって言いたくない。だって・・自分は違うって言ってるみたいでやなんだもん。・・・翔が暴走族だってことも言いたくなかった。・・・暴走族って一括りにする見方で見て欲しくなかったんだもん。・・・翔は・・・過激かもしれないけど・・・怒ると・・ヒドイことも平気でしちゃうけど・・・でも・・・でも・・・そんな悪い人ぢゃないんだもぉぉーん!」
「・・・そっか・・・子猫は翔君が好きなんだね?」
「好きだよ。・・・みんな好きだよ。・・・ノブも好きなの!翔も好きなの!ヒロも好きなのぉぉぉ!」
子猫は萩原の腕を振り解いて枕に顔を押しつけると、
「・・ぃやぁぁぁぁあぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっっ・・・」
と悲鳴をあげて泣き出した。激しく身を捩り、体を震わせて号泣した。萩原は背中から抱き包むようにして、
「泣かなくていいんだ。僕も好きだって言って貰えて嬉しいよ。・・大丈夫だから・・泣かないで。大丈夫だよ。・・・君を愛しているんだ。・・・愛してる。・・・泣かないで。・・・子猫・・・子猫・・・」
と、子猫が泣きやむまで囁き続けた。

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