§6§「嫉妬」
「…オハヨォ……」
朝、制服を着たヒナがダイニングに顔を出した。
「おはよう、ヒナちゃん。・・・起きられたの?・・・良かった・・・」
母親が気遣わしげに微笑む。
「・・・ヒナ・・・学校へ行くのか?」
すでに食事を済ませ、お茶を飲みながら新聞を読んでいた兄の雄志が、新聞を畳んで眉を曇らせる。
ヒナは雄志の姿がそこにあることに驚いた顔をしたが、すぐにムッ、として、
「帝高校は土曜日でもお休みじゃないもん。…ってゆーか…何でお兄ちゃまがここにいるのぉ?」
と聞いた。
「そりゃ・・・ヒナが心配だから・・・」
「…ッ…何でもない、って言ってるじゃないッ。」
頬を膨らませたヒナの首筋から耳までが赤くなっていく。
透けるような白い肌は、すぐに剥き出しの感情を露呈させてしまう。
「・・・親父も出張中で不安だし、たまには里帰りしてもいいだろ?・・・そう邪魔にするなよ。な、ヒナ?」
「……新婚なのに、旦那様が実家に里帰りするなんて…朋子さんも可哀想ね。」
ヒナはツンと澄まして食卓の席に着く。
母親がヒナの朝食を前に並べていく。
「お?・・・朋子を認めてくれる気になったのか?」
「プーンだ。…一般論を言っただけですぅ。…ヒナなら絶対怒って、自分も実家に帰っちゃうけど?」
「ハハハ。朋子はそうゆう心配はないよ。理解あるし、しっかりしているからな。」
照れたような笑顔でそう言う兄を、眇めた目でひと睨みしたヒナは、
「…………ヤナ感ジ…………」
と、小声で呟き、食事を始める。
しばらくヒナが食事する様子を眺めていた雄志は、
「・・・ヒナぁ・・・ちゃんと魚も食べなきゃダメじゃないか。ジュースばかり飲んでないで、味噌汁も飲まないと・・・ハァァ・・・母さん、ヒナには食後にジュースを出すように言っておいただろ?」
と、我慢出来なくなって小言を言い出す。
「・・え・・・えぇ・・・でもねぇ・・・」
母親は言葉を濁して席を立ち、流しで洗い物を始めてしまう。
―――ずっと雄志がヒナに対しての主導権を握ってきたので、母親は娘であるヒナとの接し方がわからなくなっているようだった。
そうでなくても、雄志が結婚して家を出てからというもの、貝のように口を閉ざし、食も細くなって無理に薦めても吐いてしまう日々が続き、入院したりと、どう扱っていいのか母親としてもわからず、腫れ物に触るようにしていた。―――
「……ヒナ…パンの方がいいもん。」
拗ねた顔で魚をつつくヒナに、
「・・あ・・ごめんなさいね?・・・昨日は買い物出来なかったから・・・」
と、母親が振り返って言い訳を口にするが、”昨日”と言われて、箸の動きが止まったヒナの表情が曇る。
「母さん!」
雄志が母親の言葉を遮り、それからヒナに優しく微笑みかけ、
「お魚は体にいいんだぞぉ?・・・ほら、歌だってあるじゃないか。♪さかな、さかな、さかなぁ〜♪って・・・な?」
と、歌のお兄さんのようなヤケに明るい笑顔を作る。
ヒナは上目遣いに睨むものの、仕方なさそうに魚を口に運ぶ。
「よぉーしよし。ヒナぁ、偉いぞぉ。いい子だ、いい子だ。」
向かいの席から手を伸ばし、ヒナの頭を撫でる雄志は、まるで父親のようだ。
昔から、海外出張が多い父親の不在がちな家庭のせいか、妹への父性的責任感が人一倍強い。
ヒナは溜息を吐いてジュースを飲み干すと、
「…ご馳走様ぁ……」
と、小さな声で言って、席を立った。
――――――――――
大好きな兄が目の前にいるのだから、嬉しくないはずがない。
けれど、それは今だけのこと。
兄の帰る家は別にあり、毎朝この優しい笑顔に会える訳じゃない。
(ずっと一緒にいられる。ずっと甘えていられる。)と、疑いもなく信じていた頃が懐かしい。
思い出すと息が詰まり胸が苦しく痛むほど、懐かしくて悲しい。
「ヒナへの愛が消える訳じゃないんだよ?」と、兄は言ったけど、現実として兄嫁を退かして甘える気にはならない。
飛び込める胸は一つしかないのだから、ヒナはもう甘えないようにするしかないのだ。
手に入らないのに、目の前にその存在を見せつけられると、段々苦しくなってきてしまう。
だから、つい、反抗的になってそっぽを向いてしまうのだ。
……昨日のことを気遣ってくれてるのは知ってる……
…………思い出したくもない屈辱…………
――――――――――
ヒナが歯磨きをするのに付いて来た雄志が、
「・・・ヒナ・・・学校へ行くなら送っていってやるから・・・」
と、静かな声で言う。
「……ぃぃよぉ……」
「良くない。もうヒナは電車通学させないぞ。」
”電車”と聞いて、ヒナの体がビクッとする。
ほら見ろ、と言わんばかりの溜息が、すぐ後ろで聞こえ、労るように肩をそっと抱かれる。
「……そんなこと言ったって……」
ヒナは歯磨き粉をつけた歯ブラシをくわえながら言う。
いつも以上に手を大きく動かし、肩まで回して兄の手を振り払う。
雄志はわずかに顔をしかめてから、少し離れて壁に寄り掛かった。
「・・・この家、学校の近くに越したらいいのになぁ。」
(……出来っこないじゃん……)
「まぁ、当座は僕が車で送迎するとしても・・・朝から裁判がある日はきついしなぁ・・・」
(…出来ないことばっか言ってぇ……)
ヒナが鏡越しに雄志を咎める視線を投げる。
「・・・本気だぞ?」
雄志が至って真面目な顔で断言する。
ヒナは急いで口を濯ぎ、クルッ、と振り返って兄の顔を真っ直ぐ見つめ、
「お兄ちゃま。…個人で開いてる事務所でもないのに、そんな勝手なことが出来る訳ないでしょう?しかも、車でなんて、朝の渋滞にかかって時間が掛かり過ぎるじゃん。下校時間だって、仕事を途中で抜けるようでしょ?そんなの続けられないよぉ。」
と、一気に喋る。
―――弁護士の兄に意見するには、相手の反論を聞く前に言いたいことを言っておかないと、言い負かされてしまう。
ヒナが一気に話す癖は、このどうにも過保護な兄に対抗する手段として、身についてしまったものだった。―――
「だから当座って言ってるだろ?すぐに引っ越しの準備をすれば、半月で学校の近くに越せるさ。」
事も無げに言ってのける兄に呆れて、
「この家はどーするのよぉ?!」
と、詰め寄る。
御門と同じくらいの身長がある雄志は、やはり顔を見上げて話すことになる。
雄志は、ヒナの自分を見上げる顔が、幼い頃のままに見えて、(可愛いなぁ・・・)と思わず顔が綻んでしまう。
「・・それは親父が考えればいいことだ。」
「……もぉ……お兄ちゃまの言ってること、わかんない……」
ヒナはプイッと視線を逸らし、兄の横を擦り抜けた。
土曜日の朝、御門は剣道部主将の西条一馬(さいじょうかずま)に、
「西条。今日は天気もいいし、風が花の香りを含んで気持ちいいぞ。たまには校庭で朝練をしよう。」
と、持ちかけた。
「わかりました。では、そのように。」
御門に心酔している西条は、直ぐさま部員達に号令をかけ、校庭へと走り出した。
胴着を着用しての校庭ランニングは、袴の裾が埃を巻き上げて、本来なら避けたいところだが、御門の意向では誰も文句は言えない。
黙々とランニングをした後は、素振りと型の練習をする。
朝練のない生徒達が、そうした剣道部の練習を、珍しそうに眺めていく。
女生徒達は、キャッキャ、と嬉しそうに声援を送る。
「御門様ぁ〜!素敵ぃ〜!」
「御門様ぁ〜!頑張ってくださいませぇ〜!」
朝日を浴びて竹刀を振る御門の姿は、いにしえの美剣士を彷彿とさせる凛々しさがある。
普段、稽古場までは覗く勇気がない女生徒達は、ここぞとばかりに熱い視線で見つめている。
中には鞄を教室に置いてきてから、また見学に来る者もいる。
そうした見学者の中に、新しく主従関係を結んだ三橋羊子もいた。
羊子は胸の前で両手を握り締め、頬を染めてうっとりとしている。
羊子の視線は御門を捉えていながらも、どこか白昼夢でも見ているようにトロンと虚ろげだった。
(・・・彼女・・・”お手つき”の子じゃない・・・)
御門に話があって校庭に出てきた京極沙也香は、目聡く羊子の表情に気付いた。
生徒会室で御門を待っていた沙也香は、御門と放課後の相談をしておきたかったので教室まで探しに行って、校庭の騒ぎを知ったのだ。
羊子は、御門が風を切って竹刀を振り下ろすたびに、微かに腰をピクンと反応させている。
しかも、ますます顔を赤らめて、切なそうな目が潤んでいく。
それは沙也香と共通する感覚であり、御門とのある境界線を越えた者のみが知り得る陶酔だった。
(・・・ふーん・・・あの子、奴隷になったのね・・・)
沙也香は周囲に気付かれないように、怒りの籠もった目を伏せ、肩で大きく息をした。
それから、ツイッと自信に満ちた顔を上げ、
「御門様ぁ・・・総会の資料のことですけどぉ・・・」
と、澄んだ声で御門に呼び掛けた。
御門は、ん?、と練習の手を休め沙也香に歩み寄り、沙也香の示す資料を覗き込みながら、幾つかの指示を出した。
沙也香も二三の質問をしてから、
「じゃぁ、そうしますね。・・練習、頑張ってくださいまし・・・フフッ。」
と、微笑みかけてから、クルリと背中を向けて校舎に戻って行った。
自分は騒ぎ立てるファンとは違うのだと、見せつけるように。
羊子はその後ろ姿を見送り、フゥーッ、と小さく溜息を吐く。
御門が、「沙也香は愛奴だ。」と言っていた。
到底自分なんか敵う相手ではない、と思う。
それでも、御門の一部として認めて貰ったことを誇りに思いたい。
羊子が寂しそうな顔になって御門に視線を戻すと、御門が羊子を優しい笑みを浮かべて見ていた。
一気に顔が火照ってしまい、ドキドキと胸が高鳴る。
束の間、羊子と視線を絡めた御門は、フッ、と妖しく笑ってから、再び練習を始めた。
沙也香は肩越しにそっと様子を伺っていたので、羊子のあからさまに嬉しそうな顔にムカッとして、拳を握り締めた。
沙也香にしては珍しく嫉妬を表に出した瞬間だったが、皆、御門を見ていて、それに気付く者はいなかった。
ホームルームが始まる時間が近付き、校庭で練習をしていた他の運動部が引き上げていく。
御門の声援をしていた女生徒達も、名残惜しそうな表情で校舎に戻っていく。
「御門会長。ウチもそろそろ引き上げませんと・・・」
剣道部主将の西条が、練習を切り上げようとしない御門に伺いを立てた。
「・・・・・そうだな。ここまでにしよう。」
胴着から制服に着替える時間もみなければならず、ギリギリ限界だった。
御門は先に部員達や西条を行かせ、ゆっくりと戻り始めた。
誰にも気付かせなかったが、御門はずっと校門を気にしていたのだ。
保健室での一件で三日間学校を休んだヒナが、昨日の放課後の出来事に出会して、登校する気が起きないとしても無理はない。
―――御門も自分自身がしている行為が、正しいとは思っていなかった。
だが、枠にはめられたり、上からの圧力や権力に屈するのは我慢ならなかった。
まして帝高校は、戸籍だけで言えば、御門の何代か前の祖先が創始者で、今でも父親ほども歳の離れた異母兄が理事に名前を連ねている。
その異母兄とは父親の葬儀で一度顔を合わせたきりで、名前を置いているだけの理事で学校に顔を出すこともなく、はっきり言って御門とは無縁に近かった。
(・・・逆流を遡ってやる・・・)
自分を排斥しようとする見えない圧力。
”無”という圧倒的力を持った空間に、”有”という存在を主張する。
それは”生きている”というプライドのようなものだった。
奴隷という形の支配を広げていく行為も、そこに機縁していると言えるのかも知れない。―――
それだけに、ヒナを消し去ることを御門自身望んでいなかった。
目的があって自らの意志で学校を去るのなら、止めたりはしない。
だが、誰かに屈するように自分で自分を消してしまうことは許せない。
それはヒナに限らず、誰に対しても思うことだった。
―――事実、御門が生徒会長になってから、風紀や規律は厳しくなった反面、校内でのイジメという行為がなくなった。
各学年のクラス委員は、毎週の生徒会集会で自分のクラス状況を報告しなければならないし、もし見逃してイジメによって不登校になった生徒が出たりしたら、厳しく糾弾されてしまう。
「クラスに馴染めない者に声を掛けて、皆と一緒に行動出来るように気遣えないなら、クラス委員を任せられないな。代わって貰おう。」という御門の独断で、降ろされた委員は片手では数えきれない。
「間違えるな。協調と強制は違う。自由と身勝手も違うし、自立と孤立も違う。個性は認め合い尊重しつつ、学校という、世間から見ればあまりにも小さな世界で、協調し手を取り合って、共に学ぶことが出来ずに、何が人間だ。人としての自覚があるなら人間になれ。」と、烈火の如くイジメ問題に対して論じたこともある。―――
御門がヒナを気にする理由には、そうした訳もあった。
剣道部の朝練をわざわざ校庭ですることにし、ずっと校門にヒナの姿が見えるのを待っていた御門だったが、(・・・やはりダメか・・・)と振り返った時、校門脇に車が横付けされた。
降りてきたのは、白鳥比奈。
車の送迎も認められてはいたが、ヒナが電車通学なのはプロフィールで知っていたので、(・・・何かあったのか?)と怪訝に思いながら立ち止まって眺めていた。
ヒナは特に変わった様子もなく校門を通り抜ける。
御門は、ホッとしてわずかに笑みを浮かべた。
が、すぐに、ヒナが後ろの車を振り返った。
長身のスーツ姿の男が、車から降りてきて、ヒナに歩み寄りながらノートを差し出す。
ピシッとした背広がヤケに似合うその男は、「アッ…」と苦笑してノートを受け取ったヒナの、制服の白い衿を直してやってから、腰を屈めて顔を近付け、額が付きそうな距離で微笑み、ヒナのサラサラの髪を撫でた。
(・・・ぬぁにッ?!)
ピキンッ・・・と、御門の中で何かが切れた。
(・・・まさか朝デートしての登校じゃないだろうな?!)
御門の目が鋭く銀色に光る。
と、そこに意外な男が校舎から飛び出して走っていく。
間違えようもなく、東郷の巨体だ。
東郷はヒナと男の所まで行くと、頭を掻きながらペコペコとお辞儀をしている。
ヒナは東郷の腕をつかんで、校舎へと引っ張って行く。
「ヒナ。迎えに来るから待ってるんだぞ?」
取り残されたスーツの男が、少し声を大きくして呼び掛けた。
命令口調でありながら、優しい響きのある落ち着いた声が、御門の場所まで届いた。
ヒナは赤くなった頬を膨らませた拗ね顔で、後ろを向いたまま手を振った。
(・・・あの男・・・どこかで見たような・・・)
朝デートをしてきた男への態度にしては、ヒナの行動は反抗的に見える。
そこで、御門はハッ、と気付いた。
(・・・俺としたことが迂闊だったな。・・あの男は東郷の姉さんの旦那だ。東郷から結婚式の写真を見せられたのを忘れているなんて・・・)
御門はヒナを送ってきた男が、ヒナの兄だとわかって納得し、急いで部室へと駆け出した。
その日の夜。
三橋羊子は、御門のマンションをお泊まりの用意をして訪ねた。
御門のメールには、―@「体一つで来ればいい。」とあったが、やはりそこは女の子、一泊旅行に行くような荷物を一式揃え、小さめのスポーツバッグに詰め込んで来た。
迎えに出た御門は、全身を覆う革製のライダースーツを、ピッチリと着込んでいた。
そして、羊子を部屋に招き入れると、
「今夜はお前を俺の性奴隷として調教する。・・・覚悟してここに来ただろうね?」
と、尋ねた。
「・・はぃ・・御門様・・・ぁ・・ぃぇ・・・ご主人様。」
羊子は息苦しいほど高鳴る動悸をどうにか押さえ、掠れがちな声で答えた。
御門は、優しく笑って、
「よろしい。」
と、頷くと、羊子を黒々とした革の張った胸に抱き寄せた。
優しいキスから始まり、次第に舌を絡め合うディープキスに移行し、羊子は革の匂いに軽い酔いを感じていた。
キスをしながら寝室までくると、
「ヨーコ。服を全て脱いでベッドに上がるんだ。いいね?」
と、御門が命令する。
「、、、はぃ、、、」
羊子は羞恥心に震えながらも一糸纏わぬ姿になって、御門が待っているベッドへと上がった。
羊子は鏡の前に座るように命じられ、その通りにする。
御門はライダースーツを着たまま、鏡に向いている羊子を背中から抱き締めた。
明るめの照明が羊子を詳細に映し出している。
御門の総身を黒い革で包んだ姿は、羊子の体の輪郭を、より鮮明なものにしている。
羊子は、浄瑠璃で黒子に動かされる人形になった気がしてきた。
「目を逸らさず、鏡を見ているんだぞ?ヨーコの体も心も全てを鏡の中に映し出すんだ。」
「、、、は、、ぃ、、、ご主人様、、、」
自分だけが全裸であることが、一層恥ずかしさを増大させる。
けれど、御門の命令に逆らう訳にはいかなかった。
御門は羊子の両脇から手を差し入れて前に出し、ふわっと乳房を包み込んだ。
「、、ァゥ、、、」
春と言っても夜はまだ寒く、寝室は暖房が効いている。
それでも、羊子は全身総毛立ち、乳首を固く隆起させた。
御門が固く窄んだ乳首を指先で転がし、時々摘んで捏ね回す。
「、、、ァァァ、、ン、、、」
羊子は御門に凭れて仰け反り、喘ぎ声を洩らした。
正座して座っている股間の奥が、熱くなって濡れてくるのが自分でもわかる。
鏡に映る自分の乳房が、自在に変形し、操られ弄ばれている。
「、、ァァ、、、ハァ、、、ァァン、、、ハァ、、、」
開いた口が乾いてきて、舌で唇を舐め回す自分を、なんて淫乱な顔だろうと思ってしまう。
だが、
「可愛いよ・・・ヨーコ。」
と、囁かれると、嬉しくて涙が滲んでくる。
羊子は、御門の愛撫をもっと感じたくて、心の戒めを解いていった。
「足を前に出し、開いてごらん。」
その命令がきっと出されると覚悟していた。
羊子は素直に従って、尻をベッドに付けて座り、両足を開いてみせた。
三角に伸びた恥毛の先が、蜜の滴る花陰に届き、毛先を濡らしている。
毛深いだろうか、と不安になった羊子が、恥ずかしさから目を逸らすと、
「目を逸らすな。淫らな自分の姿をちゃんと見るんだ。俺の前に何もかも晒して、認めてやれ。・・・ほら・・・もう、こんなに蜜を溢れさせ、俺を欲しがっている。・・・とても可愛い姿だろう?」
と、耳元で囁かれる。
「さぁ・・・もっとよく見えるように、広げて見せろ。ヨーコ自身の指で花唇を開いて、どこが俺を欲しがってるか、見せてごらん。」
御門は、羊子をもっと自分に凭れ掛かるようにさせ、仰け反り気味に股を大きく開かせて命令した。
羊子は何度か躊躇いの吐息を繰り返していたが、ようやく股間に両手を伸ばして、指先で花陰を押し開いた。
どうしてこんなに厭らしい場所があるのかと思ってしまうほど、生々しい色をした花陰の奥から、赤々とした肉が現れ、蜜でテラテラ光って見えた。
「いい子だ。・・・ヨーコはとても素直ないい子だ。素直なヨーコと同じ綺麗な膣の色だ。恥ずかしがらなくていい。とても綺麗だよ。」
御門は、そう言って、御褒美のキスをしてやった。
「それじゃ、次は・・・自分で愛撫してごらん。自分が一番感じやすいやり方でいい。エクスタシーを感じられるまで、自分でオナニーをするんだ。」
「、、、、、はぃ、、、、、」
羊子は泣きそうな顔になりながらも、命じられるままにオナニーを始めた。
御門はずっと羊子の乳首を愛撫し、首筋やうなじにキスを繰り返して、羊子がちゃんと感じられるようにサポートしている。
「、、ン、、、アッアァッ、、、ンン、、、アァン、、、」
擦られて赤く膨れたクリトリスが、黒い恥毛の間から、テカテカの頭を覗かせる。
花唇も指先で捲るように擦る。
「さぁ・・・いつものようにするんだ。・・・指を入れて思い切り掻き回してやれ。」
「、、、、、は、、、ぃ、、、、、」
御門の見ている前で、自分の膣に指を入れてみせる行為は、かなりの勇気が必要だった。
躊躇いで息が震えるが、頭の中で御門の命令がグルグル回って催促している。
指先が抗おうと震えているのに、催眠術にでも罹ったように、秘密の花園へと伸びていく。
・・・クッチュゥ・・・
羊子は中指を蜜壺に押し込んだ。
溜まっていた蜜が零れ出てきてシーツをかなり濡らす。
粘って糸を引く愛液が、明るい光の中で輝いている。
「そう・・・いいぞ、ヨーコ。とても綺麗だよ。・・・そのまま思い切り感じさせてやろう。指を好きなだけ動かして、快感を貪れ。」
「、、、、、はぃ、、、、、」
羊子は真っ赤になった顔で顎を引き、鏡に映るワギナを見ながら、指を動かし始めた。
・・・クチュッ・・・クチュクチュクチュッ・・・チュプッ・・・クチュプチュヌチュッ・・・
「アッァァ、、、アン、、、アフッ、、、アァン、、、」
背中を大きく浮かせて感じると、
「そうそう・・・上手に出来るじゃないか。・・・可愛いぞ、ヨーコ。」
と言って、御門が髪を撫でてくれる。
羊子が乱れて淫乱になればなるほど、御門が誉めてくれる。
羊子は御門に上半身を預けきり、ひたすら指を動かして快感を貪った。
初めは一本だった指も、二本使いになり、やがて三本を奥まで突っ込んで、思い切り蜜壺を掻き擦った。
「、、、ア、、ア、、ア、、、ア、ア、ア、アァァァッ、、ンンーーーッ、、、、、」
指を入れたままの股間を閉じて、太腿をピッタリと揃え、体を痙攣させて、羊子はオーガズムに達した。
御門もその瞬間、乳首の愛撫を止めて、羊子を背中からしっかり抱き締めてやっていた。
「、、、ハァハァ、、、ご主人様、、、ハァ、、、イキました、、、ハァハァ、、、」
グッタリとした羊子がうわ言のように報告する。
「偉いぞ、ヨーコ。初めてなのに、こんなに上手に出来るなんて、ヨーコは感じやすいんだな。・・ククッ・・・とても素敵だったよ。」
御門は誉めてやってから、優しくキスをした。
「上手に出来た御褒美をやろう。」
ようやく体を起こして大きく深呼吸をした羊子に、御門が謎めいた微笑を浮かべて言った。
羊子は火照ってトロンとした顔を傾げる。
「・・・こっちへおいで、ヨーコ。」
ベッドを降りた御門が、クローゼットから柔らかそうな布を取り出した。
羊子が言われるままに側に行くと、御門がその布を肩から掛けた。
それは春物の薄いロングコートで、羊子の汗ばんだ全裸の体を、優しく包み込んだ。
「・・・・・ぇ?・・・・・コート?」
「そう。俺からのプレゼントだ。・・・あぁ・・・まだ、肝心な物があったな・・・」
御門は棚の一つから、太めの鎖を持ってきて、羊子の首に掛けた。
それは引っ張ると輪が狭まる犬の調教用の鎖首輪だった。
ずっしりと肩が重さを感じるほどで、冷たい鎖をいきなり火照る肌に掛けられて、羊子は首を竦めて、「ヒッ・・・」と小さく声を上げた。
「うん。・・・なかなか似合うぞ。」
御門は満足そうに頷くと、羊子のコートの前を合わせ、
「じゃぁ、出掛けようか。」
と、首輪の端をつかんで引っ張った。
何が起きているのか、羊子には判断がつかない状況だった。
ただ、わかっている事実は、自分が調教用の犬の鎖首輪を装着され、全裸に薄いコートを着ただけの格好で、夜の通りを歩いているということだけだ。
しかも、オナニーでオーガズムに達したばかりで、股間が熱く熟れた状態になっている。
歩くと太腿に伝わる愛液がベタベタとまとわりついて歩きにくい。
顔だって、きっと火照って目が充血し潤んでいるはずだ。
御門はライダースーツ姿で、普通のカップルのように羊子の肩に手を置き、平然とした顔で歩いている。
羊子もなるべく普通のフリをしようと背筋を伸ばして歩くが、時たま足元から吹き上げる風に、何も付けてない股間を強烈に認識させられる。
すれ違う人の視線が気になるが、かといって、目が合ってしまうのも怖く、御門に寄り添って道路ばかりを見て歩いた。
御門が向かった先はコンビニだった。
通りにも照明があったが、コンビニの眩しいほどの灯りの中で、羊子は自分がとんでも無く恥ずかしい姿でいることに気付いた。
まだ夜の帳とも言うべき時間で、コンビニ前には若者達がたむろしているし、店内にも客が多い。
コート姿に不審な点はないだろうが、柔らかな素材なので体のラインが見えてないかと不安になる。
御門が羊子の肩から手を外し、買い物カゴを持って、
「何か欲しい物がある?」
と、聞いてくる。
「・・・ぃぃぇ・・・」
羊子は御門の腕に腕を絡ませ、顔を隠し気味にしながら小声で答えた。
「食事に連れて行ってやりたいが、今は食べることよりヨーコとの時間を大事にしたいんだ。コンビニの物で済ませていいかな?」
「ぁ・・はぃ・・・」
羊子は誰かに御門のセリフを聞かれてないか、ドキドキしながら返事をする。
けれど、本心を言えば嬉しかった。
全裸でコートだけを着た姿でいることは、恥ずかしくてたまらないが、一方では、自分の全てが御門という存在だけに包まれているような感覚があり、御門の一部になっている実感が湧いてくる。
御門の動きに合わせて、羊子も前屈みになるたび、鎖の首輪が、カチャッ・・カチャッ・・と音を立てるのも、隷従している幸せを感じる。
鎖をファッションに取り入れるのが流行っている時なので、派手な鎖のネックレスだと思えば、思えないこともない。
商品をあれこれ選んで買う内に、羊子も少しずつ今の状況に慣れてきていた。
会計を済ませてコンビニを出た御門は、片手に荷物を持ち、また片手を羊子の肩に置いた。
「まだ時間も早いし、少し散歩をしよう。・・近くに樹木の多い公園があって、新緑の風を感じられる気がして好きなんだ。」
「・・はぃ。」
少し度胸がついた羊子は、御門との散歩が楽しくなり、笑顔で頷いた。
「・・ククッ。・・いい子だ。」
御門は羊子の髪を撫で、コメカミに軽くキスをして、大股に歩き始めた。
羊子は濡れた股間に風を感じながら、御門に遅れないように足を進めた。
羊子が思っていたより遠かった公園に着くと、御門と羊子はベンチに座り、コンビニで買ったお茶を飲みながら、会話を楽しんだ。
夜の公園でもカップルの姿があちこちに見られ、話し声は囁き合うほどの小声だったが、普段学校では見せない陽気で楽しい御門の話に、羊子は笑い声を抑えながら聞き、自分も色々なことを話すことが出来た。
興奮しているせいか、やたら喉が乾き、羊子が500mlのお茶を飲み干してしまうと、御門は自分の分も差し出した。
そして、「寒くない?」と肩を抱き寄せて、唇を重ねてきた。
羊子は、「ぃぃぇ・・・」と小さく首を振り、御門のキスを受け入れた。
公園内のカップルは皆、多少の差はあれ、そうした行為を人目もはばからすにしていたので、羊子も抵抗なく甘いキスに浸れた。
が、胸に御門の暖かい掌を感じて、息を飲み込んだ。
いつのまにか、コートの上のボタンが外され、御門の手がコートの中に侵入していたのだ。
羊子は戸惑いながらも、御門の為すがままに任せた。
コンビニで大胆になれたことが、羊子に奴隷としての自覚を持たせたようだ。
キスをしながら鼻を鳴らして甘える。
時々、御門が唇を離して、
「可愛いよ、ヨーコ。」
と、言ってくれるので、ますます(・・・あぁ・・・もうどうなってもいい・・・)と思ってしまう。
胸から一度離れた手が、今度はコートの裾の前合わせ部分から、太腿に触れてくる。
「コートの端を持って少し上げておけば、誰にも気付かれないさ。ヨーコは俺の肩に頭を乗せて、眠っているフリをすればいい。」
そう言われ羊子は御門の肩に凭れて、体を少し捻り、コートを御門の腕が隠れるように持った。
「足を広げて・・・そう・・・お尻を浮かせ気味に・・・よしよし、いい子だ。」
羊子は目を閉じて、大きく深呼吸を繰り返しながら、御門の指示に従う。
御門の手が太腿の間に差し込まれ、指先が恥毛をまさぐり始める。
グッショリと濡れている恥毛が、御門の指に絡みつき、たまに毛が縺れて抜けるので、羊子は軽い痛みに眉を寄せた。
けれどクリトリスへの愛撫が始まると、今度はあまりの気持ちよさに苦悶の表情となり、思わず零れ出そうになる喘ぎ声を、御門の肩に顔を押し付けて我慢する。
「、、、、、ゥッ、、、、、ンッン、、、、、ンァッ、、、ハァハァ、、、ンンンー、、、、、」
我慢していても堪えきれずに声が洩れ、息遣いも荒くなっていく。
しかも、御門の長い指が膣に挿入されて、細かいバイブレーションを効かせて奥の方まで擦るので、体が無意識にも身悶えてしまう。
羊子の指とは比べ物にならない御門の指の存在感に、目眩く快感が全身を駆け巡っていく。
長さも太さもテクニックも違い過ぎる男の指。
この日初めて御門に愛撫されているのだから、沸き上がる快感の激流に飲み込まれそうになっても無理はない。
「、、、アァァ、、、御門様、、、ご主人様、、、、ハァハァ、、、、我慢が、、、アァァァ、、、、、」
「俺の革の衿を噛み締めて声を我慢しろ。我慢出来れば、このまま一気にエクスタシーの頂点にいざなってやるぞ?」
「、、、はぃ、、、、、」
羊子は御門のライダースーツの衿をくわえ、キツク目を閉じた。
御門は一本だった指を二本にして、羊子の膣壁を巧みな指使いで愛撫する。
・・・グチュグチュズチュッ・・・クチュクチュヌチュッ・・・
「、、、ウゥ、、、、、ンンッ、、、ハァハァ、、、ァゥゥッ、、、、クッ、、ンンーッ、、、ハァハァハァ、、、」
羊子は御門から遠い方の片足を御門の膝に乗せ、大きく股間を広げて腰を震わせている。
とても眠っているようには見えないが、泣いて縋っているように見えなくもない。
体が震えてしまうのを抑えきれず、瞼の裏側がスパークする快感に恍惚とした表情になっていく。
革製のライダースーツの衿を噛む力が弱まってしまい、羊子は自分で口を押さえて声を堪えた。
快感の渦が脳天を突き抜ける。
「アァッ、、、、、ンッンーーーッ、、、、、アンンンンーーッ、、、、、」
羊子にオーガズムの痙攣が起こり、御門は肩に置いていた腕を背中に回して、しっかり抱き留めてやる。
「、、、、、ハァハァハァハァ、、、、、ハァハァハァ、、、、、」
どうにか全身の震えが治まってきたが、グッタリとした羊子は、朦朧と洗い息継ぎをしている。
御門は、濡れた手を羊子の体から抜いて、コートのボタンをちゃんと掛け直してやり、意識を飛ばしたままの羊子を両腕で優しく包んでやった。
意識が戻った羊子は、ハッ、として凭れている頭を起こした。
「、、、ぁ、、、、、ス、、スミマセン、、、、、」
そう長い時間ではないが、少し眠ってしまったらしい。
「大丈夫。・・・それでいいんだ。」
御門が羊子の顎をそっとすくい、労るようにキスをする。
羊子は、(・・・あぁ・・・この方の奴隷になれて嬉しい・・・)と、満たされている喜びを実感した。
「じゃぁ、そろそろ帰ろうか。」
「・・・はぃ。」
御門に手を取られて立ち上がった羊子は、ピタッ、と張り付く感覚にドキッ、とした。
座っていた部分のコートの裾が、愛液でグッショリ濡れた尻に張り付いてしまっている。
「・・ぁ・・・ぁ・・・私・・・・・」
羊子がうつむいて困っている理由を、すぐに理解した御門が、裾を引いて剥がしてくれた。
けれど、薄い布地だけに染み出しているようで、足が竦んでしまっていた。
「クククッ。困っている羊子の顔も可愛いな。・・心配ないさ。もう夜で誰も気付かないよ。」
御門は軽く笑って羊子の手を引き、歩くように促した。
「少し公園を回ってから通りに出よう。・・・春風が乾かしてくれるかな?」
悪戯っぽくウィンクして、御門が歩き出す。
羊子はドキドキしながら、御門に手を引かれるまま歩いた。
春の宵とはいえ、風が冷たく感じてきた。
体の芯はまだ熱く火照っているのに、足元から這い上がる冷気が、羊子を悩ませ始めた。
御門は森林浴でもするような顔で、樹木が集まった場所をゆっくりと歩いている。
羊子は、脂汗が浮いてきて、もじもじと尻を動かしている。
(・・・あんなにお茶を飲まなければ良かった・・・)
公園から御門のマンションまで、歩いて帰るにはけっこうな距離がある。
(・・・あぁぁ・・・どうしよぉ・・・・・)
羊子は苦渋の顔で、溜息を吐いた。
「・・・ん?・・・どうした?」
「・・・・・ぁ・・・ぃぃぇ・・・・・」
「奴隷が隠し事をするのを許さない。」
御門が少しキツイ言い方をした。
羊子は、ビクッ、として、
「・・スミマセン・・・あの・・・トイレに行きたくて・・・」
と答え、公園内にトイレはないか、と周囲を見回した。
今いる場所の反対側にトイレらしき小さな建物が見える。
「あの・・・行ってきてもいいでしょうか?」
羊子がそう願い出ると、
「わざわざ行くまでもないさ。・・・ここでしろ。」
と、御門が命令した。
羊子は目を丸くして御門を見つめる。
樹木の茂った葉で公園の照明もここでは薄暗かった。
だが、闇の中にあっても、御門の強い光を灯した銀色の目が、じっと羊子を見据えていた。
「・・・・・・・・・・はぃ・・・・・」
羊子は、悪魔に魅入られたかのように答え、目の前の木の幹近くに、コートの裾を捲り上げて屈んだ。
・・・シャァァァァァァーーーッ・・・
我慢していただけに、勢い良くオシッコが飛び出す。
湯気が立ち、オシッコの臭いが側にいる御門まで漂いそうだ。
羊子は涙が溢れてきて、啜り上げながら用を済ませた。
「ククッ。・・・おバカさんだな。泣くことなんかないのに・・・」
御門は目を細めて笑い、泣いている羊子を抱き締めた。
「・・・自分が・・・情けなくて・・・クスン・・・」
「こうなるように、俺がさせたのさ。羊子がいつ我慢しきれなくなるかと、楽しみに待ってたんだ。」
「・・・・・ぇ・・・・・」
「主人の前でオシッコが出来れば、かなりの進歩だ。ヨーコは優秀だな。」
御門は、驚きながらも嬉しそうにはにかむ羊子に、甘いキスをしてやり、
「今夜の調教はこれくらいにしょう。・・・帰ったら御褒美に、たっぷりと可愛がってあげるよ。」
と、優しく囁いた。
マンションに戻った羊子は、鎖の首輪をはめたまま、御門の激しい愛を受けた。
全てを鏡に映し出されながら、羊子は嗚咽し吠え、歓喜に悶えて、オーガズムを繰り返した。
意識が朦朧とし、涙と汗で霞む目に映る銀の鎖が、御門の奴隷である勲章に見えてくる。
羊子は、女として生まれた喜びを噛み締め、御門に支配される栄誉を味わっていた。
長く熱い夜が、やがて静寂に包まれる。
深い眠りに漂う羊子は、規則正しい寝息を立てている。
御門はシャワーを浴びて、体を洗い流すと、書斎の机に向かい読書を始めた。
いつもなら充実し、満たされた時間になるはずだった。
だが、今夜の御門は、満たされない虚しさを感じていた。
目を閉じて目頭を指で押さえると、不意に今朝の光景が蘇る。
(・・・兄妹か・・・)
・・・チリリッ・・・と胸で焦げ付く音がする。
御門は、自分の中にわだかまるものが、家族の縁が希薄な自分に内在する弱さだと、思い込んだ。
(・・・くだらん。・・・人は所詮孤独な存在なんだ。)
はらりっ、と額にかかった前髪を、首に掛けたタオルで上に押し上げ、本に意識を集中させるよう気合いを入れた。
(・・・暖かい温もりなんて・・・俺には必要ない。)
御門は、消そうとしても消えない光景を、あの澄ましたヒナの兄の首を締め上げる想像をして、不敵にほくそ笑んだ。
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