§8§「それぞれの想い」
心地良い微睡みの中、懐刀に触れてくる優しい感触に、股間が熱を帯びてくる。
・・・スゥ〜リスゥ〜リ、、、フニフニフニ、、、
小さくて指も細い可愛い手が、意外なほど巧みに懐剣を弄ぶ。
意識はもうすっかり目覚めているが、悪戯な人形の手遊びをもう少し楽しもうと、目を閉じたまま感触を味わっている。
伝説の妖刀ムラマサの如き、妖しく光る刀剣は、人形を諫めようと妖力を増して切っ先を天に向ける。
・・・スリスリ、、、グニグニ、、、プニプニプニ、、、ムギュッ!ムギュムギュッ、、、
飽きてきたのか、次第に扱いが乱暴になる。
「・・・おい・・・」
目を開けて悪戯な人形に、「チッチッチッ・・」と首を振る。
「…アァーン……怒ッチャ…ヤ、、デスゥ……」
ヒナ人形は、明るい色の目をうるうるさせて、上目遣いに瞬きをする。
「眠っている時に俺の刀を盗もうとする、イケナイ手はどれかな?」
「……ドレェ…?」
胸の前で、キラキラ星のフリマネをするように、両手を動かすヒナ。
「この手だろ?・・・イケナイおテテには・・・」
ペシッ!・・・ペシッ!
「ッキャ……アンッ……痛ィデスゥ……クスン……」
片方ずつ手に取り、軽くシッペをすると、たちまち涙ぐむ。
そこで、優美に微笑んでやり、
「クスッ・・・おいで・・・ヒナ。」
と、胸に抱き寄せてやる。
「そんなに俺の刀が好きなのか?」
華奢な体をそっと撫で、髪にキスしてやる間にも、ヒナの手が股間の刀に伸びていく。
・・・スリスリ、、、ムキュムキュ、、、
「…コレェ……好キィ……ナメナメ、、シテ、、イイデシュカァ…?」
長い睫毛を人形さながら、ゆっくり瞬きしてねだる。
「ククッ・・・さっき、ヒナの蜜をいっぱいつけちゃったままだぞ?」
「……ウン……ソレデモ、、イイノォ……」
透き通る白いセルロイドの頬をピンクに染めて、おねだりする。
ドクンッ!・・・ドクンッ!
可愛さが股間を更に熱くして、刀がビクンビクンと天を突く。
「じゃぁ・・・ナメナメして貰おうか・・・」
「…キュフ……ウレチィ、、デチュ……」
少女人形は、つるつると節のない体を丸めて、小さな手で胴長の太い刀に挑む。
「…ペロン…チュプッ……オイチィ、、デチュゥ……」
額で切り揃えたサラサラ髪を揺らして微笑むヒナ人形。
「…ペロン…ペロン…ピチュ…ピチュ……ンクッ……ンンッ……」
刀の切っ先を、無理矢理小さな口に押し込もうとして、赤い唇を張り詰めさせる。
「無茶はするなよ?」
上体を起こし、ヒナの顎を指でつかむ。
濡れた唇が赤味を増して腫れたようにぷっくりとしている。
頬に掛かる髪もサラサラと揺れ、数本が唇に張り付いている。
中指で退かしてやる間も、舌で刀の切っ先を舐めてみせ、潤んだ瞳で見つめている。
「・・・可愛いヒナ・・・愛しい人形・・・」
ヒナの両脇を挟むようにして膝の上に引き上げ、熱い口づけをする。
「…ンァ……ヒナァ…モットォ、、ナメナメ、、シュリュゥ……」
キスをしていても、刀が気になり、手を伸ばしてくる。
「クックックッ・・・もう、お口の回りがヨダレでベトベトだぞ?」
「……ムーーーン……」
赤い唇を尖らせて、体を左右にひねって駄々を捏ねる。
「よしよし。それじゃぁ、ヒナに・・・これをあげよう。」
赤ん坊のヨダレ掛け。
「…ワァァ……可愛イィィ……」
「ほぉら・・・ヒヨコさんがいるよ。」
「ウンッ……カァワイィーー……マロォ…アィガトォ……」
明るい目がガラスのように輝いて、喜ぶヒナ人形の愛らしさ。
「・・・ヒナはもっと可愛い・・・」
ヒヨコのヨダレ掛けを首に掛けてやると、首を左右に傾けて眺めている。
首を傾げるたびに、サラサラ、、サラサラ、、髪も揺れて流れる。
「・・・良く似合うよ、ヒナ。」
「…ウフン……マロォ、、ダァイ好ュキィ〜…チュッ…チュッ…チュゥ……」
抱きついて頬にキスをするのが、くすぐったくて、つい笑みがこぼれる。
「あぁ・・・ヒナがあんまり可愛いから・・・また欲しくなっちゃったぞ?」
困ったなぁ、と謎掛けをしてみせる。
「……ンフッ……ヒナモォ、、マロ、、、欲シィ……」
「・・・いいのか?・・・さっき、モゥ、、ダメデチュゥ、、・・って泣いたのは誰だぁ?」
「ゥ……ヒナデチュ……」
「また泣くかもなぁ・・・」
「……モゥ、、泣カナイ、、デチュ……抱イテ、、デチュ……」
「クスッ・・・イヤだ、って言っても抱こうと思ってたところさ。」
ヒナを思い切り抱き締め、頬ずりをしてやってから、上体をベッドに倒して、ヒナを股間に乗せる。
「お馬さん、パカパカ、だよ?」
「…ァィ……ヒナァ、、オ馬シャン…好キ、、デチュ……」
ヨダレ掛けをした少女人形が、スベスベに白い太腿を開いて、天を突く刀を自分の股間に押し当てる。
「…ッ…ンンッ……アッ…アァァッ……」
・・・ズブッ、、ズブリッ、、、ズルッ、、、ズブズブズブゥ、、、
見る見ると華奢な人形の体の中に、刀が吸い込まれていく。
スパイラルな煽動が刀を取り巻き、締め付けてくる。
「あぁぁ・・・いい子だ・・・気持ちいいぞ・・・ハァァ・・・」
目を閉じて、しっとりと包まれる感触を楽しむ。
「・・あぁ・・・何て気持ちのいい花園なんだ・・・ヒナ・・・」
「アゥン……ヒナモォ……溶ケチャイ、、マチュゥゥ……アァァン……気持チィ、、イイ、、デチュゥゥ……」
根元まで包まれた時、目を開けて歓喜に仰け反るヒナに視線を向ける。
ヨダレ掛けの下で、二つの膨らみがぷるぷると震えている。
セルロイドの肌にしては柔らかそうで、意外にふっくらとしている可愛い胸。
二つのピンクの突起がツン、、ツン、、と上を向いている。
キュッ、、と、指先で抓むと、
「アァァン…アフン……感ジ、、チャイマチュゥ、、ゥゥ……」
と、切なそうに腰をグイグイ回す。
・・・グイグイ、、グルグル、、グッニュ、、グッニュ、、、
腰の動きに合わせて、刀を包む襞もギュゥ、、ギュゥ、、と締め付けてくる。
「あぁぁ・・・何て素敵なんだ・・・ヒナ・・・ヒナ・・・」
「…ハゥゥ……マロォォ……」
「ヒナ・・・続けて・・・続けてくれ・・・ヒナ・・・」
《…ジリジリジリジリ…》
「さぁ・・・もっと・・・続けて・・・ヒナ・・・」
《《・・ジリジリジリジリジリジリジリジリッ・・》》
「・・・・・ヒナ?・・・・・??」
《《《ジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリッ!!!》》》
(・・・喧しい・・・)
御門は目を閉じたまま眉をひそめた。
(・・・・・ヒナはどうした・・・・・?)
喧しい音に耐えながら、状況を把握しようと五感を働かせる。
(・・・ん?)
ふと、自分の手が股間のモノを握っていることに気付く。
妖刀ムラマサだか知らないが、毛布を高く持ち上げて、懐刀が天を睨むように突っ立っている。
ガバッ!
と、起き上がった御門は、握っていたモノを離し、額に手をあてた。
(・・・何て夢だ・・・)
・・・どうせ夢なら、もう少し楽しみたかった・・・という思いは封じて、御門はベッドから抜け出した。
天に向けて刀を振り翳した状態で、浴室に向かう。
適度に筋肉がつき、均整の取れた美しい肉体の中心が、微妙に揺れる。
レストルームの鏡に写して見ると、ヤケに立派な天狗の鼻のようにも見える。
全身、象牙色の美しい肌をしているので、そこだけ鳥居のような朱色で聳える刀は、おぞましくも見えるが、御門には自慢の逸物だ。
御門は両肩と首を回し、(・・・男なんだから朝立ちくらい当然だろう・・・)と言い訳しながら浴室のドアを開けた。
勢い良く冷たいシャワーを出して、熱くなっている刀に浴びせ掛けるが、一向に構えを崩さない。
仕方なくシャワーを止めると、ローションを手に塗り、仁王立ちになってマスターベーションを始めた。
と、脳裏に夢の映像が蘇ってくる。
(・・・ヒナのヨダレ掛け姿・・・可愛かったな・・・)
ドクンッ・・・
扱いている手の中で、御門の男のシンボルが一回り太くなり固さを増す。
(・・・笑うとあんなに可愛いのに・・・)
ドクンドクンドクン・・・
腰から背骨が熱く焦げていく切なさに、目を閉じ顎を上げる。
(・・・フェラの顔も可愛い・・・小さな赤い口も・・・ドールそのものだな・・・)
瞼の裏側が赤く染まっていく。
「・・ハァァ・・・ヒナ・・・ハァハァ・・・ヒナ・・・うっ・・・うぅぅッ・・・ヒナッ・・・いくぞッ!」
御門は手の動きを加速し、一気にクライマックスに到達する。
大量のスペルマが弧を描き噴出する。
(・・・サラサラの前髪も・・・長い睫毛も・・・ツンと可愛い鼻も・・・赤い唇も・・・ヒヨコのヨダレ掛けも・・・熱い白濁液を浴びて・・・俺の色に染まっていく・・・)
御門の妄想の中では、愛奴になったヒナが嬉しそうに笑っている。
だが、すぐに現実が戻ってくる。
(・・・早く支度しないと、迎えが遅くなる・・・)
御門は熱いシャワーを浴びて、体に纏い付く妄想を、洗い流した。
「おはよう、ヒナ。」
夜の内に降った雨で、新緑の樹木や草花が露に濡れている。
そこここで、虹色の輝きが生まれ、御門を包み込む。
「……オハヨォゴザイマス……」
ヒナは上目遣いにチラッと御門を確認するが、プィッ、とすぐに横を向く。
(・・・チッ。・・・夢の中じゃ、あんなに可愛いのに・・・)
御門は顔に出さずに舌打ちしてから、送りに出てきたヒナの母親に挨拶した。
車に乗り込む時、御門はポケットから棒付きキャンディーを出し、
「チュパポップ・・・やるぞ?」
と、ヒナの前に突き付ける。
ヒナは顔を近付けて、<オレンジ>の文字を見つけると、目を輝かせる。
蜜柑系の味が好きなことを、東郷からリサーチ済みだ。
「…ありがとぉ……」
ヒナが珍しく素直に礼を言って受取り、車に乗り込むなり、包装を剥いて口にくわえる。
(・・・よしよし。懐柔作戦その1は成功。)
「・・雨上がりの朝は、気持ちがいいな。」
「そうだな。」
相槌を返したのは助手席の東郷だけ。
御門は片頬で苦笑し、・・ヒナは?・・とバックミラーで様子を伺う。
ヒナは鞄を膝に乗せ、教科書を開いて眉をひそめている。
丸いアメで頬がプクッと膨れているのが可愛い。
棒が突き出している唇が、わずかにヨダレで濡れている。
(・・・マジにヒヨコのヨダレ掛けを買っておくか・・・)
今朝の妄想が再び浮かんで、股間がザワザワと騒ぎ出しそうになり、
「もう宿題が出たのか?」
と、顔を少し後ろに回して呼び掛ける。
妄想はおくびにも出さず、高校生らしい話題で自らも意識を正常化させようと、気持ちを引き締める。
「…ジュルッ……違うけど…よくわかんないんだもん……」
ヨダレを啜り、どうにか返事をしてきたヒナ。
送迎四日目にしての快挙だった。
昨日までの三日間は、ほとんど無視状態か、膨れ顔の憎まれ口くらいしか返さなかったのを思うと、(・・・慣れてきたか・・・)、ジワーンと喜びが湧いてくる。
――――――――――
ヒナの態度以外にも、色々大変な三日間だった。
まず、御門の車でヒナが登校してきたことで、帝高校の全校生徒が騒然となった。
御門と東郷は、ヒナが東郷の義理の”妹”であることと、”体調が悪い”ことを強調して、口が怠くなるほど”正当な理由”を言って回った。
更に御門は、東郷との友情と生徒会長としての存在意義をアピールして、反感を買いそうな女生徒達の理解を仰いだ。
同時に、囁かれ始めた”ある噂”に対しても速やかに対応し、「余計な噂を立てるつもりなら、内申書には[人を貶める奴:要注意]と書き込むぞ。」と、陰険に脅して、面白可笑しく噂を広めることのないように処理した。
学校側は、御門に異議を唱える教師もなく、簡単に送迎の許可が下りた。
一番の問題は、やはり愛奴達の反応だろう。
中でも沙也香は、表面上が穏やかなだけに油断出来なかった。
「あら・・・そうなの。大変ね。」
と、静かにヒナに微笑んだが、放課後ヒナを会長室で待たせていると、自分の忙しさを見せつけて邪魔そうにしていた。
沙也香の真意を知らないヒナは、度々「…スミマセン…」と首を竦めて、頭をペコペコ下げていた。
御門はその場は見ないフリでいたが、ヒナを自宅に送った後、沙也香を呼び出し、沙也香が落としたペンケースを渡して、
「ヒナは故意であったことを気付いてないが、俺まで騙せると思うな。」
と、厳しく詰問した。
「何故、自分を慕う後輩に、そんな嫌がらせをする?」
そう問われて、沙也香は、
「雄志様にずっと恋い焦がれていました。けれど、雄志様は妹しか目に入られてないご様子で、どんなに悔しい思いをしたか・・・。それが、今度は東郷様を兄と呼ぶ図々しさ。・・・御門様だけには、近付いて欲しくなかったのです。」
と、涙ながらに訴えた。
「だが、この高校に誘ったのは沙也香だろう?」
「誘ってません。ただ、もう雄志様には興味がないことを強調したかったのと、あの子の知能レベルでは到底入学出来ないだろうと、見せつけてやりたかった。・・・まさか、合格してしまうなんて・・・」
開き直った沙也香の口から出される言葉は、女の情念の恐ろしさを如実に感じさせるものだった。
「・・・それがどんな結果をもたらしたか・・・もう噂は聞いてるだろう?」
「そこまで考えてませんでした。」
「事故を起こした者の言い訳と同じだぞ。スピードは出し過ぎていたが、人を轢いてしまうとは思わなかった、とな。」
「私が悪い、と?」
「・・・いや。俺にも責任はある。・・・だが、流してしまうには二人とも罪が重い。しばらく、距離を持とう。」
「そんなッ?!」
「沙也香だけにペナルティは下さない。俺も全ての関係を凍結する。それが、俺が自分に下した罰だ。・・・わかってくれ。」
沙也香は承伏出来ないという表情で、唇を噛んでいた。
「沙也香・・・ヒナを恨むな。沙也香自身で招いた結果だぞ。・・・ヒナの受けた傷に多少なりとも贖罪の気持ちがあるなら、憧れの先輩としての姿勢を崩さず、凛とした威厳と優しさを持って接してやれ。」
と、御門は沙也香を説得した。
他の愛奴、奴隷、お手つき達にも、
「しばらく、学業と、夏に向けての剣道及び弓道の鍛錬に、専念することにした。」
と、宣言した。
凍結がいつまでなのか、その後をどうするのか、まだ御門にもわかっていない。
こんな状況でヒナに手を出したら、ヒナが御門の彼女達から集中攻撃されてしまうことは、目に見えている。
当座は、宣言通りに、勤勉で健全な姿勢を維持しなければならないだろう。
とは言え、季節は春。
悶々と萌える欲望を抑えきれずに、あんな夢を見てしまう。
(・・・色即是空、空即是色・・・)
効果があるとも思えない経を、頭で唱えてみる御門だった。
――――――――――
「ねぇ…お兄ちゃん。…ここぉ…よくわかんないのぉ……」
ヒナが腰を浮かせ、助手席の東郷の前に、教科書を開いて見せる。
前に出した腕とは反対側から顔を伸ばして、自分も教科書に視線を落とす。
東郷と御門の間に頭を出した感じの態勢だ。
「・・・んー?・・・どこだぁ?」
東郷が数学の教科書を点検しながら聞く。
「…んとねぇ…ジュルル……」
喋ろうとした時、下向き加減のヒナの口からヨダレが垂れる。
タラッ・・と滴り、東郷の制服の肩に落ちてしまう。
「…ぁ…ジュル…ごめん……」
(ドァァァァァーーーッ!俺のヨダレがぁぁぁーーーッ!)
「・・・アホヒナ・・・」
御門は、東郷への羨ましさ八割の怒りを押し殺して、呟いた。
「……ゥ……」
ヒナが助手席につかまっている手に鼻先を押し付けて、落ち込んだ顔をする。
「いいよ。気にするな。」
東郷は人のいい笑顔を向け、自分のハンカチで肩を軽く拭いた。
(・・・もったいないことを・・・。ヨダレくらい付けとけ。オレンジのいい香りがするぞ。)
御門は東郷のハンカチを欲しそうに見ながら、片眉を上げた。
「物をくわえながら喋るからだ。話をする時くらい、出しておけばいいだろう?その為の棒だろうに・・・」
東郷への嫉妬を隠すように、もっともな説教をする。
「…………プン……」
ヒナは頬を膨らませながらも、自分が悪いと思ったのか、チュパポップの棒を持って口から出し、顔の脇に持ちながら、東郷に、
「お兄ちゃん…ここぉ…問:4がねぇ……」
と、質問する。
御門は運転をしながら、チラチラ視線を向けて見ていたが、教科書を見ようとするたびに、ヒナが握っているチュパポップが気になってしまう。
「・・・えっと・・・それはだなぁ・・・」
東郷も数学が得意ではなかったので、二年前の記憶を辿りつつ、前文の解説を読み耽っている。
「それは単純な応用だ。割り切れない場合は分数計算をすればいいだろうが。そんなのは中学の基本だぞ。」
御門が先に答えを導くべく指摘し、ついでにヒナの持っていたチュパポップを、くわえて取り上げてしまう。
「…フーーン……んッ?!」
ヒナがサラサラの髪を大きく揺らし、自分の手と御門の口から出てる棒を見比べた。
「……あ゙ーーーッ!ヒナの゙ぉぉーーーッ!!」
コアラ叫び再び・・・。
「うおッ・・・」
耳元で叫ばれて、東郷は体を窓側に傾け耳を塞ぐ。
御門も眉間にシワを刻み、
「帰りにまた買ってやるから・・・目の前にあって邪魔だったんだよ。」
と、言い訳する。
ヒナは後ろのシートにドシッと座ると、運転席の背もたれを蹴り、
「マロのバガーーッ!」
と、真っ赤な顔で叫んだ。
「こら!新車なんだぞ。」
「プーーーンだ!…大ッ嫌い!」
「・・・たかが飴くらいで・・・しかも、俺がやったんだろ?」
「貰ったら、もぉヒナのだもん。…ヒナのを取られるのはイヤなのぉ。」
「・・・わかったよ。・・・悪かった。機嫌直せ。な?」
「ヤダ。」
「帰りは・・・三個買ってやるから・・・な?」
「…………貰ってから考える……」
ヒナはそう言うと、頬を膨らませたまま、窓の外に視線を向け、黙り込んでしまった。
東郷は、どうにか騒ぎが治まったことにホッとしたが、
(・・・あれが御門の言ってた”コアラ叫び”か・・・確かに凄まじい威力だ・・・御門が焦ったのも無理ないかもなぁ・・・)
と、驚きを感じていた。
御門は、(・・・ヒナを怒らせてしまった・・・)と思いながらも、ヒナのヨダレをわずかでも手に入れた満足感を、すっかり棒だけになっても、しゃぶり続けながら味わっていた。
校門前でヒナと東郷を降ろした御門は、学校近くの駐車場に車を停める為、走り去る。
ヒナはムスッとした顔でさっさと校舎に向かい、東郷は部室へと別れて行く。
初めは非難めいた視線をヒナに向けていた女生徒達も、四日目になり、そうした光景に慣れてきつつあった。
御門が生まれながらにして美しく、頭脳明晰であるように、世の中には、理由なく恵まれている存在が確かにいるのだと、諦めの心境でもあった。
―――だが、沙也香は面白くない。
お互いのペナルティだと言いながら、登校してくる御門が楽しそうな様子なのだ。
颯爽と胸を張り、いつもの涼やかな顔をしていても、沙也香にはわかる。
(・・・御門様は・・・あの憎たらしいヒナに惹かれてらっしゃるんだわ・・・)
沙也香の心に鬼の角が芽を出した。―――
昇降口で一年の早坂翔子が、ヒナに声を掛けた。
クラスは違うが同じ手芸クラブなので、昼休みには廊下で立ち話をする程度の仲になっていた。
「お早う、ヒナ。」
「おはよぉ、ショコラ。」
ヒナも翔子のニックネームだと教えて貰った呼び方で、挨拶する。
「いいなぁ、ヒナは・・・毎朝同伴登校なんてぇ。」
「…そぉかなぁ……?」
「クラスのみんなも羨ましがってるよぉ。」
「……ふーん……」
ヒナは肩を竦め、小さく溜息をこぼし、上履きを履こうと足を入れた。
「…………ッ痛ッ!」
つま先に激痛が走り、慌てて足を引いた。
黒いハイソックスなので、すぐにはわからなかったが、痛むつま先をつかんでいる手に血が滲んでくる。
「ヒナ?・・・うわぁ・・・何、これぇ?・・・ヒドーイ・・・」
ヒナの上履きを手にした翔子が、裏に刺さっているカッターナイフの刃を見て、顔色を変える。
「ヒナ・・大丈夫?・・・保健室へ行こう?」
保健室と聞いて、ヒナは顔を曇らせた。
保健室には、御門と付き合っている保険医の石塚静江がいる。
あの目撃した日以来、静江と顔を合わせたくなくて、保健室を避けていた。
「…たいしたことないから……」
「でも・・・血が出てるよぉ?」
「…ぅん…教室に傷テープ置いてあるから、大丈夫……」
ヒナは取り敢えずハンカチをつま先に巻き、翔子に学校のスリッパを持ってきて貰って履いた。
ヒナの上履きは、両方ともカッターの刃が刺さっていて、しかも短く折られているので抜けそうになく、ゴミ箱に捨てることにした。
ホームルームが始まる直前、御門がいきなりヒナの教室に入って来た。
すでに教師が教壇に待機していて、唖然とした顔をしている。
御門はヒナの席の前で跪き、
「怪我をしたのはどっちだ?」
と、真剣な顔でヒナに尋ねた。
「…ぇ……別に……」
「早坂君・・・ヒナの友達が教えてくれたんだ。ちゃんと、見せてみろ。」
御門は有無を言わせず、ヒナの足を膝に乗せてスリッパを外した。
傷テープだけでは噴き出す血が抑えられず、ハンカチを巻いたままにしておいたのだが、そのハンカチが真っ赤に染まっていた。
「ッ・・バカッ。何ですぐに・・・」
・・・保健室で治療しない、と言いかけて言葉を飲み込んだ。
保健室を行きにくい場所にしてしまったのも、自分の責任だった。
御門はイスに座っているヒナを軽々と抱き上げ、
「保健室に連れて行きます。」
と、ヒナのクラス担任に向かって言った。
担任も、ヒナのつま先が血まみれになっているのを見ては、許可しない訳にいかない。
「あ・・あぁ・・・そうしてやって下さい。」
と、動揺した声で答えた。
「…ぃぃよぉ……放っといてぇ……」
ヒナが嫌がって体を捻るが、
「いい訳ないだろ。」
と、ピシリと却下し、ヒナを抱き上げたまま教室を抜け出した。
静江は言葉少なに、ヒナの傷の手当をした。
治療が終わってから、御門が、
「・・・誰がしたか・・・心当たりはあるか?」
と質問したが、ヒナは髪を揺らして首を横に振った。
(・・・心当たりは俺の方か?)
御門は、ヒナを襲う様々な障害が、全て自分に起因していると思うと、胸が痛くなった。
これまでの、女性を軽く見るような言動のツケが、ヒナに向かって噴出しているのだ、と自らを責めていた。
(・・・俺は・・・守りたいと思うたった一人の存在すら、守ってやれない男なんだ・・・)
弄んできたつもりはなくても、恨みを買っている場合はあるだろう。
御門には心当たりが多すぎて、誰か一人を特定することが出来なかった。
見える敵なら挑むことも出来る。
だが、不特定多数の見えざる敵に抗う術が見つからない。
(・・・”守る”ことは、”戦う”よりも難しい・・・)
「ナイトになってやる。」などと、軽々しく口にしていた自分が恥ずかしい。
御門はヒナの真っ赤な血を見ながら、そのことを痛感していた。
―――静江は一つの恋の終わりを予感していた。
はっきりと別れを告げられた訳ではないが、ヒナに向ける御門の熱い眼差しは、これまで一度も自分に向けられたことがないものだった。
御門はいつも優しかった。
付き合い始めた頃は、御門には自分より年上の彼女もいたし、一緒にいる時は常に主人であろうとしてくれたので、年齢差を気にすることなく甘えられた。
自分の知らない所で、他の誰かを愛しているとしても、自分といる時はいつも自分を一番大事にしてくれた。
けれど、今、目の前にいる御門は、心を飾ったり装うことなく、真っ直ぐにヒナを見つめている。
そして、ヒナの血で染まったハンカチを、捨てる物と一緒にしようとした時、そっと拾い上げた御門が一度手の中に包み込んでキスをしてポケットにしまい込んだのを、静江は見逃さなかった。
意識が遠くなりそうなほど辛い。
御門の背中に縋り付いて泣きたいくらい悲しい。
それでも、今の自分は保険医として、ここに立っていなければならない。
かつての自分が、そうやって妻という立場の女性を苦しめ続けていた、報いなのかも知れない。
”因果応報”という言葉が静江の脳裏を駆け巡る。
静江は、御門との恋の終決を静かに迎えようと、覚悟を決めた。―――
……ズキズキズキズキ…ズキズキズキズキ……
つま先が痛くてたまらないヒナは、授業に身が入らず、ポーッとしている。
「あまり歩かないようにすれば、授業に出られるでしょう。」と、保険医の静江が言ったので、手当した後、教室に戻って来ていた。
(……どうしてあんなことを……)
カッターナイフの刃の部分だけ、しかも刃先が2mmほど内側に出ていた。
普通、足を滑らせて入れるのだから、ザックリ切れるのは当たり前だ。
(……ヒナってそんなに悪い子なんだろか……)
兄の雄志が結婚して家を出るまで、普通に友達がいると思っていた。
けれど、気付けば兄のいなくなった寂しさを埋めてくれる友達どころか、普通に話せる相手さえいないことに気付いた。
考えれば、ヒナの友達も雄志が声を掛けて誘ってくれてた部分が多く、休日には皆を映画や遊園地に連れて行ってくれたりしていた。
そうした環境に甘えて、積極的に人と話す努力をしなかったのが、自分自身でも悪かったと思う。
寂しい時も悲しい時も、不平不満や我が侭までも、雄志が包み込むように何でも聞いてくれていたから、自分が人に好かれようとする努力をしなかったように思う。
そう思っても、いきなり急に自分の性格を変えられなかった。
学校でも家でも独りぼっちになって、自分という存在が消えていくような気がした。
だから、入院していた時、見舞いに来てくれて、久し振りに会えた沙也香先輩の楽しげな話や笑顔が眩しくて、生き生きとした先輩にも、先輩がこれほど輝いていられる帝高校にも、強い憧れを抱いたのだ。
「沙也香先輩のいる帝高校へ行く。」と親にも兄にも中学の担任にも宣言して、一心不乱に猛勉強をした。
強い憧れと、強い希望が、全てを凌駕した。
ヒナのイメージする帝高校は、目映いばかりに光輝く天上の如き美しい世界だった。
その夢の輝きが、どれほど闇の中で足掻き苦しもうと、常に心に清涼な薫風を届けてくれた。
ヒナは努力したのだ。
雄志が効率的な勉強法やポイントのつかみ所を教えてくれはしたが、最終的には自己との戦いであり、ヒナは頑張ったのだ。
そうしてようやく高い競争率の難関を抜けて、合格することが出来た。
優遇されて入学した訳じゃない。
皆と少しも変わらず、同じ努力をしたからこそ、入学することが出来たと思っている。
なのに、また羨ましがられてしまう。
憧れを失望へと変えた御門生徒会長のせいだろうか……
それともやっぱり自分がいけないのだろうか……
ヒナにはわからなかった。
……ズキズキズキズキ……
何もわからないままに、傷だけは悲しくなるほど痛かった。
授業が終わった時、前の席の男子が勢い良く立ち上がった。
イスがヒナの机にぶつかり、机の脚が押された勢いでヒナのつま先にぶつかった。
「…ッくぁッ……クゥゥ……」
ヒナが顔を開いていたノートに伏せて呻いた。
「うわッ・・・ごめんッ。・・・ぶつけちまったか?」
前の席の天野耕祐(あまのこうすけ)が、振り返り、ヒナの顔を覗き込む。
「悪いッ・・・次が体育だろ?急いで着替えようと思っててさぁ、うっかりしてたんだ。・・・大丈夫か?」
「……ダ、、イ、、ジョウブ、、、……」
ヒナは机に額を押し付けたまま、やっと返事をした。
「傷口開いちゃったかなぁ・・・もう一度保健室に行った方がいいなら、手を貸すぞ?」
「……ウウン……ヘイキ、、ダカラ……」
痛さでまともに声が出せないが、これ以上目立つことはしたくなかった。
「けどなぁ・・・あ・・高倉!」
天野に呼ばれて、高倉操(たかくらみさお)がヒナの席まで来る。
「どうしたの?・・・白鳥さん、また具合悪いの?」
「いや、俺が怪我してる足をぶつけちまってさ・・・」
「もぉぉ・・天野君って乱暴なんだからぁ・・・」
「ごめん、って言ったぞ。・・でさ、女子の方の体育教師に、白鳥の怪我のことを話して、見学するのも辛そうだって話しといてやれよ。」
「あー・・そうね。じゃぁ、白鳥さんは、教室で休んでいてね?ちゃんと連絡しておくから。」
女子のクラス委員である高倉操が、ヒナの肩に軽く触れて言う。
ヒナは少し顔を上げて、笑みを浮かべ、
「…ウン……アリガトォ……」
と、答えた。
そのヒナの顔をじっと見ていた天野は、視線を動かしたヒナと間近で見つめ合う形になり、急に顔を赤らめて離すと、
「・・・っと・・・それじゃ、悪いけど俺も行かなきゃならないんだ。俺、体育委員してっからさぁ・・・」
と、照れながら言った。
「…ウン…イイヨ……」
ヒナは天野にも笑顔で答え、また机に額をつけた。
痛さもあったが、みんなに心配されたり迷惑をかけてしまう自分が、情けなかったのだ。
「・・じゃぁ・・・また後でな。」
そう言った天野の走っていく足音が、廊下に消えると、教室はシーンと静まり返った。
入学早々倒れてしまったヒナは、そうでなくても厄介なクラスメートとして見られているような疎外感を感じていた。
それが、生徒会長に車で送迎されたり、訳のわからない怪我をしたりと、益々倦厭されそうで、思い切り惨めな気持ちだった。
(……オニィ…………)
心の中で叫びたい言葉を飲み込むと、悲しくなって涙がこぼれ落ちた。
”藁にも縋る”思いで手を伸ばし求めた東郷だったが、時々困ったように苦笑されると、自分が物凄く悪い子になった気がしてきて、甘えたくても甘えられなくなる。
だからいつも、(…側にいてくれる?…側にいていい?…)と問うように、「お兄ちゃん…」と呼び掛ける。
そして、東郷が手を差し伸べてくれた時だけ、思い切りしがみついた。
それでも、人から見れば羨ましいのだろうか……
御門にはもう恨みも憎しみもない。
考えて見れば、帝高校を理想郷のように思い描いていたのは、ヒナ自身の都合であって、御門の問題じゃないし、人の恋愛に干渉する気もない。
(…ぁ…アメのことはまだ怒ってるかも……)
とは思っても、その程度の感情だ。
それがどうして、すぐに文句の言い合いになるのか、ヒナにもよくわからない。
ただ、あまりにも目立ち過ぎる御門に、もう構って欲しくないのかも知れない。
構って欲しくない、と思うのに、気が付けば目の前にいる。
寂しさを隠したいヒナにとって、それが嬉しいのか迷惑なのか……
わかっているのは、御門が沙也香の恋人であるということと、他にも保険医の静江や噂される人達がいるらしい、ということ。
目の前にいても、手を伸ばすことが出来ない、という意味では、雄志にも似ている。
だから、つい、憎まれ口で突き放そうとしてしまうのかも……。
なのに、雄志と同じで、御門も全然こたえる様子もなく、反撃してくる。
素のままにぶつかっても、ドーンと跳ね返される手応えが、楽しい。
……などと、喜んでいられる状況とも思えないが……
ヒナは考えることに疲れて、大きく溜息を吐いた。
開いた窓から、心地良い春風がそよいでくる。
目を閉じたヒナは、束の間、優しい微睡みに浸った。
どうにか放課後まで、痛みを堪えながら過ごしたヒナを、御門がすぐに自宅に送ってくれた。
東郷には御門が「後輩の練習をみてやれ。」と言ったので、この日の帰りは御門だけとなった。
御門は朝の約束通り、途中でコンビニに立ち寄り、ヒナにチュパポップを10本以上まとめて買ってやった。
「……こんなにぃ?」
「これくらいあれば、多少足の痛みを忘れてられるだろ?」
「…ぇぇー……逆に歯が痛くなりそぉ……」
東郷がいないので、助手席に座ったヒナが口を尖らせると、
「マメに歯磨きしろ。」
と、額を小突かれた。
「……痛いなぁ……」
ムッとして額をゴシゴシと擦ったヒナだったが、すぐに機嫌を直してチュパポップを舐め始めた。
お気に入りのオレンジ味なので、つい頬が綻んでしまう。
御門は、フッと微笑み、(・・・可愛いなぁ・・・)とホクホクと嬉しそうな顔になる。
「CDあるけど、何か聴く?」
御門がCDケースを指し示す。
「……ぅん……」
ヒナは細かい英語に眉を寄せながら、ケースのCDを真剣に吟味する。
どれもヒナとは馴染みのない外国の曲ばかりなので、結局CDケースの写真で選んで御門に渡した。
御門がCDプレーヤーにセットすると、優しいアリアが流れ始めた。
「……へぇ……」
綺麗な写真で選んだだけだったが、けっこう気に入って、ヒナが嬉しそうな顔をした。
(ウッ・・・激可愛いぞぉーーーッ!)
御門は悶々と股間に血液が集結してくるのを感じながら、
(・・・フッフッフッ。懐柔作戦その2、成功。)
と、思わずほくそ笑んでいた。
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