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「野外X'masパーティー」
§16§「野外X'masパーティー」

 温かく包まれる揺れ具合のせいか、満たされた開放感のせいか、マサトまでミルクと一緒にうとうとと眠ってしまっていた。
 だが、研ぎ澄まされた獣の神経は部屋のドアの前に人の気配を感じて、警鐘を鳴らす。
 次の瞬間、ドアをノックする音がする。
 声がする前に若松だとわかる。
 大抵は部屋に近付く数メートル先で気配を感じ取れるが、若松の気配と何故かミルクだけは直前まで感じ取ることが出来なかった。
 そんなマサトだけに、ミルクが突然目の前に現れて、驚かされることが度々ある。
 顔には出さないが、いきなりミルクの明るく澄んだ目に笑いかけられ、ドキドキしてしまうことさえあった。
 敵の背後からの接近を絶対的に許さないマサトにとって、ミルクの無の気配は本当に不思議な驚きだった。
 だから、姿を見れば引き込まれて目を奪われるミルクが、ずっと目立たない存在として友達の後ろに位置してきたのも頷ける。
 風が頬に触れても気にしないように、心地のいい無の気配に、人は優しく包まれていることさえ忘れてしまうのだ。
 けれど、優しさに飢えた戦士達は、一陣の風にさえ目を細め深呼吸するのと同じに、ミルクの無の優しさが心に染み込むのだろう。
 部下達がミルクを慕うのも無理からぬことと思えば、多少のことは黙認出来る。
 それに、部下達が、ミルクを通してマサトにも、緊張から解きほぐされた笑顔を見せるようになった。
 マサトの立場では、時には冷酷にも厳格にも、ならなければいけないこともある。
 マサトも部下達もわかっている。
 だが、心和むひと時には、笑顔でいるのも悪くはない。
 そう思えるようになっていた。

 少し間をおいて、もう一度ドアがノックされ、
「若松ですが・・・よろしいでしょうか?」
と、声がした。
 マサトはミルクに服装の乱れはないかを確認して、
「入れ。」
と答えた。
「失礼致します。」
 若松は、ジャケットの上から割烹着を着るという、奇妙な出で立ちで部屋に入ってきた。
 プッ。
 思わず吹き出した口を拳で押さえ、
「何だ?」
と、苦笑まじりに聞く。
「はい。雪かきも完了致しましたので、皆の慰労も兼ねてバーベキューをしよう、ということになりまして・・・一度、お伺いしようと思ったのですが・・・ご遠慮した方が良いかと。・・・それで、参謀の許可を頂き、バーベキューの用意を進めました。」
「バーベキューか・・・なるほど。」
 最近、何故か料理が上手くなった若松も、手間をかけた料理を用意していたのだろう。
 日本のバーベキューは焼くだけの料理をイメージするが、アメリカではかなり本格的なワイルドな料理として人気があるらしい。
 料理の腕が上達すると共に、料理への蘊蓄も移動中のマサトに話すようになった若松は、腕の見せ所とばかりに張り切っているのだろう。
 マサトの影として地味な存在で、その実力はSSSだけが理解している若松に、こんな一面があったのも意外な驚きだった。
 それとも、影だけに影の努力の賜か・・。
「で、景山も料理に夢中か?」
 景山は元々料理自慢だった。
 マサトの教育係である立場は、同時にマサトの学友達も指導し保護する立場でもあり、時には食べ盛りの連中の腹を満たしてやることも必要だった。
 今、若手の教育係は財前になっていたが、機会さえあれば腕を振るいたがる景山も、時々こんな割烹着姿をする。
「はい。・・それで、準備が整いましたので、ボスとアリス様にお越し頂くようにと。」
「わかった。すぐに行こう。・・そう伝えておいてくれ。」
 料理に戻りたいのか、割烹着の裾を無意識に指先でつまんでいる若松の姿は、はっきり言ってキモイ。
 先に戻っていい、と言われ、若松は、
「では、お待ちしております。失礼致しました。」
と、元気に頭を下げて、部屋を出ていった。
 ミルクは穏やかな寝息を立てているが、食い気が先に立つ”餓鬼”だけに、すぐに飛び起きるだろう。
 マサトは優しい笑みを浮かべてミルクの頬を軽く叩いた。

 ミルクがマサトと手を繋いで地上に出ると、倉庫街の雪はすっかり隅の一箇所に退かされて、いつも通りのアスファルト路面に戻っていた。
 陽射しは暖かく、風も穏やかで、急拵えの囲炉裏が幾つも並んでいた。
 だが、そんな中、その場にいる者達に緊張が走っていた。
 パトカー2台がすぐ前に停まっていて、凄味のある顔を顰めて腕組みをしている大男のボムを警官が睨み上げていたのだ。
 景山が側で警官を宥めている。
 地上はあくまでも表の世界。
 穏便に話し合うことが必要だった。
「ただのバーベキューです。何も問題はないでしょう?」
「しかしな、数日前に爆発事故を起こしたばかりで、不審な煙が立ち上がっていれば、警戒中の警邏から連絡が入って当然だろう。」
「大体、事故騒ぎで周囲へ迷惑をかけておきながら、バーベキューをしようなんて不謹慎だろうが。」
 二人の警官が厳しい顔で注意している。
「バーベキューの何が悪いッ!あッ?」
 野太い声が頭上から響くのに、警官が眉をひそめる。
「何だね?この男は?・・・治安を守る警察に対する冒涜だぞ。」
「警察が何だッ?」
 ボムを放っておくと、侮辱罪を問われ兼ねないことまで言い出しそうな雰囲気だった。
 ドルフィンがボムの肩に手を伸ばし、
「やめなよ。頭の悪い連中を相手にしてもつまらないだろ。」
と、言ってから、アッ、と口を押さえ、
「済みません。日本語が弱くって・・・頭の固い・・でしたね。」
と、美貌の麗しい笑みを浮かべた。
 ”悪い”も”固い”も似たようなものだ。
 すっかり気分を害した警官は、ドルフィンの笑みにも眉をひそめる。
 一つが疑わしいと、”妖しい”美貌さえ”怪しく”見えてくるようだ。
 マサトは急いで対立する彼等の所へと歩を進めた。

「ご苦労様です。・・ウチの者達が失礼を致しました。・・何か問題がありましたでしょうか?」
 マサトの不思議な響きのある声に、警官達の視線が注がれる。
「こんにちわぁ。ご苦労様ですぅ。」
 マサトと手を繋いでいるミルクも、向けられた視線に対して笑顔で挨拶をした。
 すると、警官達の不機嫌な顔が一変する。
「・・え・・・あ・・・これはこれは・・・」
「・・確か・・原田会長と・・婚約者の・・?」
 警官達もマサトとミルクの顔に覚えがあるらしい。
「ミルクです。クリスマスなのに、お仕事で大変ですね。本当に頭が下がります。」
 ミルクがペコリと頭を下げると、警官達の顔が緩んで口元に笑みが浮かぶ。
「いやぁ・・・こーゆー仕事はクリスマスも関係ありませんよ。」
 そう言いながら警察の帽子を取って、額に浮かんだ汗を拭う。
 ミルクは純粋に尊敬の眼差しを向けている。
 その気持ちが伝わるようで、警官達の態度も解れてきた。
 マサトも表向きの笑みを浮かべ、
「今朝は大雪の影響で、大変でしたでしょう。我々が無事に日々を送れるのも皆さん方のご尽力あってのことと感謝しております。」
と、軽く頭を下げてから、
「私の配下の者達もクリスマス返上でここの雪かきをさせられたもので、気分が悪かったようです。特出勤務を労おうにも食堂も使えず、急遽野外でのバーベキューをしようということになったのですが・・先にご連絡すれば良かったですね。申し訳ありません。」
と、丁寧に説明した。
「そうでしたか。・・あ、いや。理由がわかれば、それで良かったのですが・・喧嘩腰に睨まれるとどうも・・・」
 警察官が苦笑して頭を掻いた。
「海外勤務をクリスマス休暇で帰ってきた者なので、私への不平がそちらに向いてしまったようです。失礼な態度は、私からお詫び申し上げます。」
 マサトの真摯な態度に警官達もすっかり機嫌を直し、
「いや、どうも・・ご丁寧に恐縮です。」
「警邏の者には説明しておきますので、どうぞごゆっくりバーベキューを楽しまれてください。」
と言って、パトカーに乗り込み、立ち去っていった。

 倉庫街の敷地からパトカーが見えなくなるのを確かめて、
「私がついていながらこのような騒ぎになりまして申し訳ありません。」
と、景山がマサトに頭を下げた。
「クックッ。言い訳のように言ったが、けっこうコイツ等の本音じゃねぇか?」
 マサトが笑ってボムへ視線を向けると、ギクリ、と体を強ばらせ、
「ボスッ。そんな滅相もないですッ。アイツ等の態度があんまり不遜でクソ生意気だから・・・」
と、焦って言い訳をする。
 大男の焦る姿は何とも情けなく見える。
 存外、見た目よりも怖い性格ではなさそうだ。
「クソと思ったら、クソなりの扱いをすりゃいいんだ。はい、ご苦労さん、でとっとと流しちまえばいいだろ?・・拳を振り上げる価値もねぇぜ。まして、拳をぶち込めば、自分の手が汚れるだけじゃねぇか。」
 警官達が帰った途端に、マサトも随分な言い様である。
 しかも口元には嘲笑さえ浮かべている。
 ミルクは、先生に隠れて悪態を吐く小学時代の男子を思い出し、クスクス笑い出していた。
 マサトの組織と国家権力との対立は、そんな軽いものではなかったが、ミルクの理解を越えているだけに、わかれと言うのも無理がある。
 マサトはミルクの笑顔に目を細めると、
「みんな、ご苦労だったな。邪魔者は消えたことだし、早速バーベキューでクリスマスの宴会としよう。・・上下なく無礼講で楽しんでくれ。」
と、野外X'masパーティーの開会を宣言した。
≪オーーーーーッ!!≫
 みんな、待ってました、とばかりに歓声を上げる。
 ボムもドルフィンも”無礼講”と聞いて、ニヤリと景山にワザとらしい視線を投げ、酒瓶を数本小脇に抱えてスナイパーが陣取っていた席に着いた。
 そこには若林もいて、
「ボースッ!こっちこっち!」
と、手招きしている。
 マサトはミルクに、
「猛獣達ばかりだが、あそこでいいか?」
と聞き、ミルクが笑みの零れる口元を押さえながら頷くので、それではと手を引いて彼等の並びの空いている席へと腰を下ろした。

 マサトとミルクが並んで座ると、すぐに若松が割烹着姿で料理を持ってきてくれたので、ミルクはお礼を言って食事を始めた。
 まだ、逆上せた状態が冷めず、空腹なのに胃が働かないように思えたが、辺りに立ちこめるバーベキューの香ばしい匂いが食欲をそそってくれた。
 焦げ目をつけてから蓋をして蒸し焼きにし、更に特製ソースを塗ってから軽く炙ったスペアリブは、ジューシーでありつつ香ばしく特製ソースとの相性が絶妙で、ミルクは男性に混じって手づかみで囓りついた。
 囲いのない自由な空間で、堅苦しいマナーに囚われることなく、美味しい料理を堪能出来るのがバーベキューの良さとも言える。
 ミルクは両手に骨の先を持ち、ハグハグ、と熱そうに食べる。
 口のまわりが”ヘンなおじさん”状態で、鏡で自分を見たら爆笑してしまうだろう。
「ミルク。・・赤ん坊じゃねぇんだから・・・」
 マサトが時々ミルクの口のまわりをおしぼりで拭いてやる。
「・・ムーン・・・だってぇ・・・これってどうやって食べるのぉ?」
 弓なりのスペアリブの内側を食べると、どうしても頬にまでタレがつく。
「姫。食べにくい時はこうすればいいんです。」
 ボムがそう言うと、バキッ、と骨を二つに割りしゃぶってみせた。
 ミルクも試しに割ろうとしてみたが、到底ミルクの力で割れるはずもなく、残念そうに溜息を吐くと、長い骨の片端からしゃぶり始めた。
 その口元に一瞬見取れたボムが慌てて横を向く。
 周囲の視線が口元で止まってるような気がしたミルクが、骨をしゃぶったまま、ん?、と上目遣いに見回した。
 と、鼻を手で押さえたボムとスナイパーが、山になっている雪の塊へと突進して行った。
 ドルフィンがクスクス笑いを洩らし、
「アリス姫。その口の形は・・色っぽすぎますよ。」
と、自分も軽々骨を割って、天然に赤い口元を汚さずに肉を頬張った。
 ミルクは訳が分からず、綺麗な顔で力持ちのドルフィンに感心しながら、雪に頭をめり込ませているボムとスナイパーを不思議そうに見ていた。

「・・あ、それで、ボス。ベッドの使い心地はどうです?」
 若林がニヤニヤと聞く。
 マサトはからかうだけのつもりが、現実になってしまい、目を眇めて料理を頬張りながら、
「さぁな。」
と、とぼけた。
 が、ミルクが真っ赤になってうつむいてしまったので、バレバレの状況となっていた。
「いいじゃないですか、アリス姫。ボスの愛を堪能して頂ければ、プレゼントした我等SSSも光栄の至りです。」
「・・・ぁ…ぁりがとぉ…ございますぅ・・・」
 恥ずかしさで頭のてっぺんから湯気が出そうに真っ赤になっているミルクを、若林は楽しそうに見守る。
「そんな照れなくても。ハハッ。可ぁ愛ぃ〜なぁ。」
「若林。お前は一言も二言も余計だぞ。」
「何でだ?・・愛し合う行為を堪能するのはいいことだろ?」
「だからと言って人前で話すようなことでもねぇぜ。」
「熱ーい関係を隠すのが必要なのは、違う彼女の前だけだぜ。アッハハハ。」
 ミルクは、え?!、と目を丸くする。
「あ、いや。俺の場合は、ってことですよ、姫。・・ボスは今もそうだが、これまでも女っ気なしの仕事一途。・・ま、仕事に関しては俺もきっちりやる主義だし、必要があればプライベートな時間をさいても仕事を優先する男です。・・ただ、違うのは女性も崇拝している所で・・」
 若林が得意げな含み笑いをする。
「以前はそれでよくボスと喧嘩したり激論を交わしたものです。」
 激論に敬語は邪魔だったのだろう。
 景山が注意するので気を付けてはいるらしいが、時々言葉が雑になる。
「・・そーですかぁ・・」
 ミルクは、いいお友達だなぁ、と思い、笑顔で頷いた。
 ミルクがなるべく人前ではマサトに甘えないようにと思いながらも、つい甘えてしまうのと似ている気がした。
「アリス姫が目一杯ボスに甘えて、この苦虫を噛んだみたいな顔の、鼻の下を伸ばしてやってください。」
「チッ。勝手に言ってろ。」
 マサトはこの手の話題は苦手らしく、若林の相手を放棄してしまった。
「人生は楽しむものだぜ、ボス。」
 若林は気にすることもなく、ウィンクをしてみせた。
 マサトは、フン、とワインを煽る。
 ミルクは、クスッ、と笑みを零してから、真面目な顔になり、
「・・でも、若林さん・・・」
と、遠慮がちな小さな声で言った。
「はい?」
「・・マサトさんは、皆さんを引っ張っていくという使命感と情熱を持って、組織の方々のトップという立場に立たれている方です。・・ミルがそうした皆さんの前で個人的に甘えてしまうのはいけないと思うんです。」
「はぁ?・・構わないでしょう?」
「・・ミルが甘えるのは、マサトさんが休息される時だけで充分です。・・それ以外の時に、ミルを構って欲しいって思うのは、皆さんにも失礼だと思うので・・どうか、若林さんもあまり人前ではミルに触れないでいてください。」
 ミルクは肩をすぼめながら恐縮したように言うと、膝に手を乗せてお辞儀をした。
 マサトを焦がれるほどに慕う人達もいるから、とは人前では言えない。
 それでもわかって欲しくて、ミルクは必死な眼差しでお願いした。
 若林は固まって、気まずそうに頬を緊張させる。

「そーゆーことだ。・・ったく、ボスの立場ってものを、アリス様の方がよっぽどわかってらっしゃるぞ。いいな、若林。」
 頭上から景山の声がして、ミルクが顔を上げて見る。
 景山は若松とは色違いの割烹着姿で、手には自分が作った料理を持っている。
「プライベートはどう使おうと構わないし、時にはタメ口で語り合う時もあるだろう。だが、そうした特別な信頼感を胸に秘めておくのも、周囲への配慮であり、相手に対する思い遣りというものだ。」
 割烹着姿の説教というのも、微妙に笑いを誘うが、若林は笑うことも出来ずに首を竦めて眉を寄せた。
 若林へ説教をした景山がミルクに視線を向けた。
 ミルクは自分が上手く言えないことを景山が言ってくれたのが嬉しかったので、視線が合った景山に、
「ねぇ〜?」
と、笑顔で小首を傾げて言った。
「ねぇ〜。」
 景山も今度は承知で”ねぇ〜”と返事を返した。
 ドルフィンが吹き出した口を押さえて、自分の膝を叩く。
 席に戻ってきていたボムとスナイパーも笑いを噛み殺して震えながら、腹を押さえている。
 若林は呆気に取られていたが、込み上げる笑いに顔を歪めながら、
「了解しましたッ。」
と、景山に敬礼した。

 お腹が満たされたミルクは、席から立ち上がると、そこここで円陣になって酒と料理に舌鼓を打ちつつ話に興じている人達を眺め回した。
「ミルク?」
 マサトはSSSのメンバーと酒を酌み交わしていたが、立ち上がったミルクを心配そうに見上げた。
「ぁ・・ぅん。約束してたから・・・これ。」
 ミルクがオーバーコートのポケットからクリスマスカードの入った封筒を取り出した。
 その中には携帯ストラップが入っている。
「あぁ・・わかった。」
 マサトは納得して頷いた。
「じゃぁ、渡してくるねぇ。」
「早く戻れよ。」
「はーぃ。」
 明るい返事をして、ミルクは約束した人達の所へと向かった。
「ボス?・・何です?」
 若林が怪訝な顔をして聞いた。
「ククッ。いや、成り行きでミルクが手作りのクリスマスプレゼントをすることになっちまってな・・」
「なにぃーッ?!」
 ボムが怒った顔で立ち上がった。
「そう怒るな。忘年会にも提供するらしいぜ。まだ、作ってるって言ってたし。」
「それはそれ、これはこれでしょう?・・特定個人への姫からのプレゼントは納得出来ないですね。なぁ?」
 ドルフィンがボムを煽るように言って、スナイパーにも流し目をする。
「まったくだぜ。」
 スナイパーも目を鋭く光らせて立ち上がった。
「おい、ドルフィン。・・ったく、お前は隠れ番長みてぇだぜ。」
 マサトが片頬で笑い、溜息を吐く。
「「おぉぉぉーーー!!感激ですッ!!」」
 折しも田代と福島が、少し離れた円陣で、間の悪い歓喜の声を上げた。
「な・・名前入りッスね。」
 カードの封筒に自分の名前があるのを、田代が感動して見ている。
「色別になってるから。・・フフッ。・・気持ちだけの物だけど、良かったら使ってね?・・フフフッ。」
 ミルクは無邪気に笑って手を振り、本郷や財前、料理を真剣に作っている若松や景山の所にも、プレゼントを渡しに行った。
 島田とアザミの姿はなかったので、ミルクは残った分をポケットに戻すと、またマサトの隣りの席に戻ってきた。
 ボムとスナイパーの姿がないなぁ、と思っていると、後ろから悲痛な叫びが聞こえる。
「ダメっすーーッ!!」
「ええいッ!うるせぇッ!よこせってんだよッ!」
「いくらSSSだからって無茶言わないで下さいよーッ!」
 ミルクは目を見開いて、
「ぁ…ぁ…どぉーしよぉ…?」
と、マサトの腕をつかんだ。
「ほっとけ。・・ククッ。闇は実力世界だ。欲しけりゃ奪うまで。守りてぇなら、力を持つまでのことだぜ。」
「まったくだ。」
 若林も笑い、マサトのグラスにワインを注いで、軽く乾杯をした。

<17>
「宴の後」
§17§「宴の後」

 楽しい野外X’masパーティーの後、早めに家に帰ったミルクは、モヘアセーターの胸元で虹色の光を放つ、涙型のダイヤモンドのペンダントを鑑定書付きのケースにしまってダイニングテーブルの上に置いた。
 こんなに高価な物を貰ったら、家族に話さないとマズイだろうと思ったからだ。
 マサトは、「輝きを失わないからダイヤモンドには価値がある。」、と言って、ミルクが学校以外で常に身に着けていることを望んだが、それでも万一何かで紛失したりするのが怖くて、とても普段のアクセサリーとしてはつけられそうもなかった。
 豪華な婚約指輪と一緒に銀行に預けるか、ミルクの部屋にしまうかは、母親に相談してからにするつもりだ。
 ミルクはマサトと自分の世界の隔たりを家に戻ると感じてしまい、フゥッ、と溜息を吐くと、エプロンを掛けて、ギュッ、と気持ちを入れ替えるように紐を締めた。

 この日は母親も店仕舞いを高藤に頼んで、早めに家に帰ってきた。
 クリスマス当日はそれほどケーキの需要はなく、大雪の影響もあって客の姿はほとんどなかったらしい。
 本降りの雪で帰るのが大変だろうから、とミツルが「泊まっていい。」と母親に言ったという。
 高藤との関係を快く思わないミツルだけに、きっと素っ気ない言い方だったろうと思うが、それでも母親は嬉しかったようだ。
 帰った時からずっと少女のような笑みを浮かべて、頬を幸せに紅潮させている。
 ミルクがマサトからのプレゼントを見せると、
「まぁぁ・・・何て素敵なんでしょう!」
と感激して、自分が貰ったかのように喜んでくれた。
 そして、ミルクが母親に渡したプレゼントも、
「高藤さんねぇ、ミルちゃんからのプレゼントをとっても喜んでいたわよ。フフフッ。」
 と、楽しそうに話す。
 母親も充実したイブナイトを過ごせたようだ。
 人前では距離を置いて話す高藤と母親だったが、高藤が自宅を出たことで母親との関係は一層親密になっていた。
 ミツルの合格が決まったら、そろそろ母と父の関係も整理する方向に向かいそうだ。
 そうなったら、時期を待って高藤と母親は結婚するのだろうか。
 母親を応援したい気持ちはあっても、父親との思い出が残っているこの家を二人の新居にはして欲しくない。
 と言うより、この家は父と母とどちらの所有物になるのだろう。
 いずれにせよ、両親のいないこの家で、兄妹だけで暮らすようになるのだろうか。
 ふと寂しさが過ぎる。
 もっともマサトがそんなことを放っておくはずもない。
 けれど、ミツルが一人で暮らすには、広すぎる家だった。
 ミツルも家を出て、もし父親がこの家を処分するとなると、今ここで暮らしているこの瞬間が消えてしまうのだろうか。
 ミルクは、ゾクッ、と寒気を覚えた。
 知らない人が住むようになるのか、取り壊されるのか。
 春になれば一斉に咲き誇る小さな花とも二度と会えなくなる。
 花が咲く度に思い出す、天に召された小さな魂達。
 そんな花壇も、次の主は潰してしまうかも知れない。
 マサトという”一生を共に生きたい”愛する人と巡り会えた幸せの一方で、時と共に風化し消えようとする幸せだった日々を思うと、不安と切なさで心が疼く。
「…ッイタッ!」
 母親を手伝って一夜遅れのクリスマスの晩餐を作っていたミルクは、暗い考えに意識を取られて、包丁で指先を切ってしまった。
 真っ赤な鮮血が溢れてくる。
「まぁッ?!・・ミルちゃんッ、大丈夫ッ?」
「…痛ぃぃ…」
 ティッシュを何枚も押し当てるが、薄い紙がすぐに真っ赤に染まっていく。
 母親がすぐに救急箱を持ってくる。
 溢れ出る血に消毒液を吹き付ける。
 血で傷が良く見えないからだ。
 何度か血を拭いながら確認すると、傷はそれほど深くないようなので、バンドエイドを数枚使って指先を取り囲んだ。
「これで少し様子を見ましょう?」
「…ぅん…」
 ミルクは涙ぐんだ目で情けなさそうに頷いた。
 ズキズキと痛む指先以上に、こんな時間もいつかはなくなるのだ、と思うことが胸を痛いほど締め付けていた。

 「後はいいわ。二階で休んでいてね。」と言われて、自分の部屋に戻ったミルクは窓を開けて外の景色を眺めた。
 もう薄暗くなっていたが、雪に覆われた庭や向かいの屋根の雪のせいか、薄闇でも白っぽく見える。
 弱い風でもやはり冷たい。
 ミルクはズキズキとして熱い指先を窓の外に伸ばして、冷たい風で冷やした。
 いつも何気なく見てきたここからの景色も、もう見られる時間は残り少ないだろう。
 薄闇が満天の星空に変わるまで、ミルクはぼんやりと外を眺めていた。
 けれど、さすがに体が芯から冷えてしまったようで、ガタガタと震え出していた。
 もう窓を閉めようとした時、門扉の前の外灯にミツルの姿が照らし出された。
 首にはミルクがプレゼントしたオフホワイトのマフラーをしている。
「お兄ちゃーん・・・お帰りぃー!」
 ミルクは嬉しくなって窓からミツルに手を振った。
 ミツルは、ん?、と顔を上げてから眉を寄せ、
「何やってんだ?・・窓なんか開けて・・風邪引くぞ!」
と言って、玄関に向かった。
 ミルクは、チェッ、と唇を尖らせたが、すぐに窓を閉めると部屋を出て、玄関まで迎えに下りて行った。

「お帰りなさい、お兄ちゃん。」
「ただいま。」
 ミツルは無愛想に返事を返し、すぐに二階へ上がろうとする。
「ママが帰ってきてるの。料理の腕を振るってるから、お兄ちゃんもすぐに下りてきてよぉ?」
「・・・あぁ。」
「マフラー、早速使ってくれたんだぁ。フフッ。良かったぁ。」
 ミツルは、あっ、と思い出したようで、階段を上りかけた足を止めて振り返り、
「ありがとう。お陰で暖かいよ。」
と、優しい笑みを浮かべて言った。
「うんッ。」
 ミルクは嬉しくて笑顔で頷いた。
 喜んで貰えたことに満足したミルクが、また階段を上りかけたミツルの手にある袋に気付いた。
「・・・お兄ちゃん、その袋はどうしたのぉ?」
 ギクリ、と足を止めたミツルは、肩を落として大きく溜息を吐いた。
「・・いや。・・お前のクラスメートがクリスマスプレゼントだって押しつけてった。」
「え?・・・あーッ!小百合さん?」
「・・あぁ。」
「えー、なに、なにぃ?見せてぇ?」
 興味を持つとしつこいミルクだけに、ミツルは観念して袋ごとミルクに渡した。
「見ていいの?」
 ミルクはミツルが頷くのを確認して袋の中の物を取り出した。
 いかにも高級そうな手触りのいい軽いセーターだった。
「うわぁ・・・すごぉーい・・・あれ?・・・アルマーニ・・って・・・超高級じゃぁーん!」
 ミルクがタグを見て叫んだので、母親もキッチンから顔を出した。
「なぁに?・・もう夜なんだから、騒いじゃダメでしょ。」
「だってぇ・・・ママァ。・・小百合さんからお兄ちゃんへって、これ貰ったんだってぇ。」
「あら、まぁ・・・」
 母親も手に取って感心して眺める。
「やっぱりお嬢様ってプレゼントも違うねぇ。」
「ホントにねぇ。・・ミツルさん、ちゃんとお礼は言ったの?」
「・・・一応な。」
「一応なんて・・・ミルちゃんも学校で会ったら、小百合さんによろしく言っておいてね?」
「うん、わかったぁ。・・フフッ。お兄ちゃん、良かったね。」
「別に・・・」
 半強制的に貰わされた立場のミツルには、感激するような物でもなかったが、ひたすら感心している母親と妹を相手に文句を言っても仕方がない、と抗議するのは諦めた。
「・・礼を言うなら麗子にも言うべきだろ。」
「え?・・麗子さんもくれたんだぁ。なに、なぁにぃ?」
 ミツルは自分のバッグから分厚い本を取り出して見せる。
「ゲッ・・・何、それ?」
「『判例集』・・裁判記録の集成した本だよ。」
「うぇぇぇ・・・そんなのを読むのぉ?」
「『六法全書』は持ってるだろうから、ってさ。・・確かに実用性で言えば『判例集』の方が役に立つ。『六法全書』はあくまで罪を定める基礎法典集で、実践的じゃないからな。」
 ミルクは眉をひそめて首を捻る。
「あぁ、そうね。高藤さんもそう仰ってたわ。罪の軽重を『六法全書』で決めるのではなく、社会的影響や世相を反映して決められるから、前例に倣う傾向があるって。」
 ミルクはますます首を大きく捻る。
 ミツルも高藤の名前が出て、顔をしかめると、
「そーゆー訳だから、礼を言うなら両方じゃないとマズイだろ。いいな?」
と言って階段を上がって行った。
「・・ぁーぃ・・・」
 ミルクは、すっかり忘れていた指先がまたズキズキ痛みだしたので、力無く返事をして母親の後を追ってキッチンへ向かった。
「・・・ってゆーか・・・お兄ちゃんって受験生だよね?・・いいのかなぁ?あんな本読んでて。」
「そうねぇ。・・でも、お兄ちゃんのことだから、きっと大丈夫よ。ね?」
「そっか。・・そうだね。」
 ミルクはマサトの言葉を思い出し、納得して笑みを浮かべた。
 ミツルにもミツルを真剣に想ってくれる人達がいる。
 母親にも自分にも、何でも分かち合える人がいる。
 たとえ、この家から皆が離れることがあっても、幸せな笑顔を交わすことが出来るならそれでいいのかも知れない。
 離れても、お互いを思い合う心があれば、いつでも会えるし、心からは消えたりしないのだ。
 ミルクは少しだけ指先の痛みも引いたように感じた。

 晩餐の準備が整い、ミツルも呼ばれて下りてきたので、ダイニングでささやかなパーティーとなった。
 母親が子供達二人にとプレゼントを渡した。
 ミルクには綺麗なフォトフレームを、ミツルには革製の手袋だった。
「わぁ…超綺麗〜…ありがとぉ、ママぁ。」
「フフッ。ミルちゃんも飾りたい写真がたくさんあるでしょ?」
「ん?・・・ぁ…それってマサトさんのこと?・・・ぅーん…でも、これには家族の写真を入れたいなぁ。」
「あら、そう?・・そうねぇ、じゃぁ・・お兄ちゃんの合格が決まったら、写真館に行こうかしら?」
「キャハッ。写真館かぁ・・・懐かしいー。」
 父親がニューヨークに行ってから、家族で撮る写真がめっきり減った。
 父という存在のない家族の写真を、母親があまり見たがらなかったせいかも知れない。
 でも、家族三人で記念の写真を撮ろう、と思うようになったのは、過去に区切りをつけて新しい人生を生きよう、と決めたからなのだろう。
 それぞれの旅立ちが近いことを、母親も感じているようだ。
 ミツルは賛成も反対もせず、無愛想に手袋の礼を言った後は、黙々と料理を食べている。
 そして、一通りの料理を食べ終わると、
「ご馳走様。・・じゃ、俺は勉強があるから、部屋に戻ります。」
と言ってから、
「ミルクへのプレゼントは机の上に置いといたから。」
と、呟くように付け加えた。
「えぇー?・・・なんだろぉー・・・」
 ミルクは食事の途中だったが、席を立って二階へと走って行った。
 クリスマス用の可愛い包装紙に包まれた四角い箱。
 ワクワク、と包みを開けたミルクは、包装紙とは正反対に可愛げのない箱に手が止まる。
 しかも箱には「電子手帳」の文字が。
 念のため箱を開けて中身を確認すると、やはりそこにはTVでよく宣伝している小型で薄い物体が収まっていた。
「いいだろ?」
 ミルクが開けっ放しにしていたドアからミツルが顔を覗かせて言った。
 ミルクは振り返り、
「・・ぅぅ・・・どーも、ありがとーですぅぅぅ・・・」
と、頬を膨らませて言った。
「広辞苑、和英・英和辞典、諺や用語集まで網羅されているし、家庭の医学まで検索出来る優れものだぞ。」
「・・・なんか・・・どっかで聞いた宣伝文句みたい・・・」
「フッ。・・お祭り騒ぎに興じるのもいいが、学生の本分を忘れるな。勉強出来るのは今だけなんだぞ。人生のほんのわずかな時間しか、親切に教えて貰える時期はない。後は自分で学んでいくしかないんだ。勿体ない生き方はするなよ。」
「・・・ぁーぃ・・・」
 ミルクは膨れ顔のまま項垂れた。
 ミツルは、フフン、と満足そうな笑みを浮かべると、自分の部屋へと引き上げていった。

 一旦下に戻ったミルクは母親に愚痴を言いながら片付けを手伝い、お風呂に入ってから二階に上がってきた。
 開け放して冷え切っていた部屋も暖かさを取り戻している。
 ミルクは、ミツルへの愚痴を母親が笑って聞き流すだけなので今一スッキリせず、香織に電話した。
 けれど、電話に出た香織の様子もどこかいつもと違っていた。
 気になったミルクが何度か繰り返して、
「ねぇ・・・どうかした?・・・元気ないのぉ?」
と聞くので、初めは言い渋っていた香織が、
―「あん・・・じゃぁ、明日ミルの家に言って詳しく話すからさぁ・・・」
と言って、小声で上杉とイブナイトを過ごしたことを打ち明けた。
「えーーーッ?!」
 ミルクが叫ぶのを、シィーッ、シィーッ、と電話の向こうで香織が焦ったように制した。
「・・・そーなんだぁ。・・おめでと、香織。」
 ミルクは小声でそっと言った。
 香織にとっては初体験のはずだった。
 以前、上杉と交際していた頃はキスまでと言っていた気がする。
―「・・ん。・・何だか恥ずかしくて・・家族と顔を合わせたくなかったから、風邪引いたって言って、部屋に来ちゃったの。」
「うん。わかる、わかる。」
 ミルクも初めてマサトに抱かれた時は、母親やミツルの顔を真っ直ぐ見れなかった。
 後ろめたいと言うより、一人の男性に全てを晒して受け入れた事実が、自分自身でも受け止めきれずに恥ずかしくてたまらなかったのだ。
 固い殻を被っていた果実。
 割ってツルンと剥き出しにされたような、痛々しいほどの純情。
 いつの間にか瑞々しく熟れていた自身への驚きと戸惑い。
 初めてしがみつくことを覚えた肌の感触。
 満たされた幸せを感じながらも、剥き出しになって晒された敏感な魂が、羞恥心を過剰反応させてしまう。
 だから、後悔はなくても恥ずかしいのだ。
―「・・でも・・・すごく満たされていて幸せな気分。」
「うん。・・そうだよねぇ。」
―「・・だから・・ミルには聞いて欲しい。」
「うん。ミルも聞きたぁーい。フフフッ。」
―「明日、大丈夫?」
「大丈夫だよ。お店はもうそれほど忙しくないし、従業員もいるからって、家のお手伝いだけすればいいって。・・午後の3時頃から出掛けるけど、それまではストラップ作りもあって、ずっと家にいるから。・・あ、お昼頃くれば?ママが今日作った御馳走、まだいっぱい残ってるし・・」
―「そっか、午前中は家の用事があるもんね。」
「そんな大したことないけどぉ・・」
―「じゃぁ、11時すぎくらいに行くね。」
「うん。待ってるねぇ。」
 ミルクはドキドキしながら電話を切った。
 切ってからミツルへの文句を言い忘れたことに気付いたが、もうどうでも良くなっていた。
 考えて見れば、ミツルにはミツルの思いがあってプレゼントしてくれた物に、文句を言う自分が間違っているように思える。
 ちょっと反省したミルクは、ミツルの部屋の方へ向いて、ペコッ、と頭を下げた。
 それからベッドに寝転がると枕を胸に抱えて、明日の香織の話が楽しみだぁ、と一人でニヤニヤと笑っていた。
 少しずつ、周囲も変化していく。
 幸せな変化だと、聞いてる自分も嬉しくなる。
 悲しい変化は辛すぎる。
 みんなが幸せになれますように☆
 ミルクは目を閉じてさっき見た星空に祈りを捧げた。

<18>
「闇組織の忘年会(1)」
§18§「闇組織の忘年会(1)」≪万里様作品≫

 12月27日、都心から離れたHホテルを貸しきって組織の忘年会が開催された。
 表立っては、ホテル内改装と点検の為休業となっている。
 マスコミが嗅ぎまわるのを防ぐ為である。
 まあ、組織以外の人間が紛れ込んだとしても、ばれないで生きて帰れる保証はないのだが・・・。
 なんせ料理人から、給仕するボーイまで全員組織の構成員なのだから。

 集合時間が近づくと、ぞくぞくと皆集まってくる。
 形ばかりの受付で田代と福島はプログラムを訪れる者達に手渡していた。
「あの、競技で上位になるとアリス様の手作りのプレゼントがもらえるって本当ですか?」
「あ?そう聞いてるが・・・」
 福島が答えると、質問してきた者達が、
「「「「わぁ〜〜!やったぁ!!」」」」
と歓声をあげる。
「ほら、後がつかえてるからさっさと中に入れ。」
 苦笑しながら、入場を促すと田代と目を合わせ肩をすくめて見せた。

*****************************************************

  ◆「忘年会プログラム」◆

  ◎総合司会・進行役:若松 司

  ◎開催の挨拶:景山参謀

  ◎総帥挨拶(乾杯の音頭)

   (演目準備の為、しばし会食)

  ◇アリス姫杯争奪、訓練生による競技◇
   第一種目
   「BERETTA M93R」の分解&組み立てタイムトライアル
   第二種目
   実務戦闘装備の装着タイムトライアル
   第三種目
   アームレスリングの勝ち抜き戦

  ◇表彰&休憩◇

  ☆かくし芸演目☆

   1:日本本部若手によるミュージカル

   2:特別参加SSSによる「白鳥の湖」

   3:景山参謀によるイリュージョン

   4:「美女軍団」によるダンスショー

   5:総帥&SSSによるバンドの演奏

   6:アリス姫による演目

   7:抽選者によるアリス姫との写真撮影

  ◎閉会の挨拶:若林 猛側近

*****************************************************

「なんだこりゃ? ミュージカルぅ?あいつら歌えるのか?」
 プログラムを眺めながら、若林は呟く。
「何でも田代と福島が歌詞を作って、本郷と島田が曲を付けたそうですよ?」
「何でそんな事知ってんだ?ドルフィン?」
「ふふふふっ、な・い・しょ・うふ♪」
 ちらりと若林に流し目を送り、楽しそうにドルフィンは笑う。
 まぁ、どうやって聞き出したかがその笑いで分かるだけに、ため息しか出てこないが・・・。


≪「皆さん、席についてください。そろそろ時間ですので、始めさせて頂きます。」≫

 マサトやミルクの円卓にちかい所にSSSの席は準備されていた。
 なぜか、福島と田代も同じ円卓である。
 ストラップの一件以来どうも福島はスナイパーに、田代はボムに気に入られ訓練といいつつ連れまわされていた。
 (嫌がる2人を、歌舞伎町まで連行したという噂も・・・・)
 ちなみに、ストラップは死守したようだ。


≪「皆さん、進行を私若松が勤めますので、よろしくお願いします。早速、開催の挨拶を景山参謀にお願いしたいと思います。」≫

 若松は淡々と挨拶をし、景山にマイクを渡した。

≪「皆、今年も1年よくやってくれた。今日は色々な趣向を凝らしている。楽しんでくれ。」≫

 さっさと挨拶をおわらし、マサトにかわる。
 マサトは苦笑しながらマイクを持つと正面を向いた。
 会場をゆっくりと見渡した後おもむろに口を開く。

≪「おつかれさま。忘年会を始める前に、皆に伝えたい事がある。
  知ってると思うが、先の出撃の際にSSS隊員の渡部を失った。最後まで優秀な隊員として職務をこなしてくれていた。状況的に仕方がなかったとはいえ、遺体を持ち帰れなかったことを申し訳なく思う。
  渡部の為に皆祈りを捧げてくれ。
  黙祷!」≫

 マサトが言うと皆いっせいに立ち上がり、黙祷を捧げた。
 渡部の遺族は今回参加してもらえなかったが、遺児達にはクリスマスプレゼントがマサトから贈られていた。
 それに、あの国が少しでも落ち着いたら遺体を捜しにいく事が決まっていた。

≪「皆ありがとう。渡部も喜んでくれてると思う。これからも戦いには犠牲がつくかもしれない。しかし我々には後退は許されない。力で奪われた物は、力で取り返すのだ!
  自分を磨け!自分を高めろ!
  それが組織の力になる!大事な物を守る為の力だ!
  ・・・・・まっ、少し熱くなっちまったが、たまには休養も必要だ。今日は羽目を外して楽しんでくれ。
  乾杯!」≫

 マサトの演説に目頭を熱くしていた者達はそれぞれに、グラスを手に持ち、
「「「「「乾杯!」」」」」
と叫んだ。


 競技準備の間、若松はミルクに声を掛ける。
「アリス様、競技の上位者に差し上げるプレゼントはお持ちくださいましたでしょうか?」
「あっ、そんなに上手に作れなかったけど、大丈夫ぅ?」
「大丈夫ですよ。アリス様の手作りのお品というだけで、彼らには嬉しいのですから。それに、握手と写真まで撮れる。贅沢すぎますよ。」
「本当だ!なんでミルクが直接渡さなければいけない?!ましてや握手や写真まで!!!ふざけてやがる!」

 ミルクのファンも多く、一時期アジトにも顔を出さなくなった事で皆に心配をかけたということと、例年になく訓練生の仕上がりが早いという(ミルク効果(田代達のように傍につけるかもという期待))事もあって景山から提案があったのだ。
 ミルクがすぐに了承したのでしぶしぶ認めたが、どうにかして阻止しようと未だに考えているのだ。

 訓練生による競技は日ごろの成果をボスに見てもらえるとあって、参加者を決めるのは毎年大変な作業になる。
 今年はミルクの忘年会参加もあってどの種目も希望者が殺到し、初めて事前に予選が行われた。
 普段は監督している者達による推薦だけなのだが、その推薦者を決める事さえ優劣つけがたかったのだ。

 ≪競技が始まった。≫
 第一・第二とも普段の訓練の延長なので0.01の差しかない接戦の末15人中、上位5人が選ばれた。
 残るは第三種目である。
 ちょっとした遊びをということで今年はアームレスリングを組み込んだが、なんとレフリーを買って出たのはボムである。
 初めて姿を見ることが出来たSSS隊員に、参加している訓練生は、憧れと畏怖を込めた眼でみやる。
 しかも、レフリーなのだ。
 コウメイ福隊長などSSSの中でも2つ名を持つほどの者はめったに姿を現さない。
 訓練生のうちに姿を見れるのはまずない。

「お前ら!俺がレフリーをするからには、筋が切れるまで力を出し切れ!あっさり負けやがったらただじゃおかないぞ!」

 10人の参加者に激励とも脅しともとれる言葉を掛ける。
 皆、思わず敬礼をしながら返事を返す。
 勝ち抜き戦により選ばれただけあって、(傍に居るボムの脅しを受け)ミルクまで、
「がんばれー!どっちも負けるなぁー!」
などと、思わず声を上げるほどの接戦が繰り広げられた。
 ようやっと上位3人が決まると、ステージ上には全種目の上位者が上がってきて表彰された。

「おめでとうございます。これからもがんばってくださいね?」
「凄くちから強いんですね、ミルも思わず力が入っちゃいました。」
 などと、一人一人に声を掛けストラップや賞状を渡していく。
 差し出した手を顔を真っ赤にしながら握り返していく。
 (アァ、この手は洗えない・・・)
 全員背中に痛いほどの殺気を感じながら、こういう機会はもう絶対にない、と心から上位に入った事を嬉しく思った。
 しかし、写真撮影に関しては2人で収まる事は許されず、ミルクを真中にして上位者全員での撮影となった。
 (誰がミルクの近くで写るかで水面下で壮絶なる争いが在った事をミルクは知らない・・・)

<19>
「闇組織の忘年会(2)」
§19§「闇組織の忘年会(2)」≪万里様作品≫

 さて、そうこうしている内に後半に突入。
 忘年会らしくお遊び演目である。

 これに関しては、”何があってもマサトは怒らない”という事になっている。
 羽目を外しすぎて逆鱗に触れる事もたまにあるからだ。
 最初の年など病院送りになった者もいるほどに・・・・。


 ≪演目の最初は≫
 日本支部の若手(若手といっても、2人しか居ないけど)による、
 ♪♪ミュージカル(?)「ボスこそすべて」♪♪だ。

 題からしてふざけてるが、皆、ノリノリで練習を重ねていた。

 衣装もギリシャ神話風の白い布を纏い
  (なぜにギリシャ神話なのかは謎)
 頭にはわざわざ本物の月桂樹の葉で冠を作るほどの力のいれようだ。
 本郷・財前・田代・福島そして恥ずかしそうな若松・・・・
 5人が壇上に上がる。

  ♪♪∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽♪♪
     ♪目指す物は
        一つ

       道しるべは
        一つ(最近2つ)

       ただ ただ
        前を見つめ
         ボス一筋(アリス様お慕いしてます)

       黒陽を
        守る衛星のように
         常にお傍に(あっベットは別です…)

       女なんかに目もくれず
          (一部だけな…)
        自分の幸せかえりみず
          (ボスとアリス様の傍が幸せ…)
         常に手足として

       ボスとあの方だけが
          (天使が舞い降りた…)
        世界の中心

       闇の厳しさと
        天使の慈悲が
         我らの力となる

       ただ前を見据え真っ直ぐと
        ボスの(アリス様の)お傍に♪
  ♪♪∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽♪♪

 ミュージカルというよりは、振りを入れた合唱?が終わると皆総立ちで、
「いいぞ〜!」
「そのとおりだぁ!」
「ボスと天使の為に!」
 などと叫びだす。

 マサトは苦虫を噛み潰したような顔をして、思わず叫ぶ。
「おっ、おめぇらぁ!!!!!! ミルクは俺のだぁ!!!!」

 それを聞いた、ミルク・景山・SSSのメンバー達が思わず笑い出し、それにつられて会場が笑いに包まれる。
 舞台上の五人も笑いながら降りていく。


≪「次はSSS隊員による”白鳥の湖”です」≫

  ♪〜〜〜♪〜〜
   曲が流れ出すと、ステージにスポットライトがあたる。
   そこにいたのは・・・なっなんと、白鳥のチュチュを着たボムである。

 (会場のあちこちで、飲み物を噴出す音がする・・・・・。)

  ♪〜〜〜♪〜〜
   筋肉隆々の体に可憐なチュチュを纏って踊りだした。
   ボムがみごとにトゥ(つま先)で立ち、
   腕をしなやかに揺らして手を横に伸ばしたとたん、
   なぜか宝塚ばりの羽根を背負った王子様ドルフィンが出てくる。

 (あまりにも似合いすぎるドルフィンに笑いを漏らしていた会場は静かになる。)

  ♪〜〜〜♪〜〜
   細身で男装の美女のごとき王子と
   筋肉隆々でティアラと羽飾りをつけたゴツイ白鳥オデッセイ・・・・
   怪しい雰囲気が漂い始めたその時、
   曲調が変わり黒いチュチュを着たスナイパーが舞台に踊り出た!
   ボムと色違いのチュチュでドルフィン王子を取り合うように踊る・・・・

「「「「わっ、ぶっははははは!!」」」
 (会場は笑いの渦に包まれる。)

  ♪〜〜〜★〜〜
   バレエとは名ばかりの殴り合いに発展した舞台・・・
   「おりゃー!」 「なんの!」 「このやろう!」

 (回し蹴り・・・飛び蹴り・・・突きに頭突きまで出てくるにあたって、お腹を抱えて笑い転げるものまでいる始末。)

  ♪〜〜〜★〜〜
   二人の周りをドルフィンが優雅に踊ってるだけに、
   なおさら笑いを誘う。
   まだ殴りあう二人を尻目に幕はおりた・・・・。
  ★〜〜〜★〜〜〜★

「あははははっ、お腹いた〜〜いぃ!」
「なんだ、あいつらは・・・・」
 笑い転げるミルクに目を細めながらマサトは呟いた。


≪「次は景山参謀によるイリュージョンです」≫

「じゃ、次は私ですね。アリス様楽しんでください。」

 そう言って景山は裏方の者達が準備した小道具に手を掛けた。
 そのとたん後方やサイドからカラーライトや、スモークが舞台を彩る。

  ☆お決まりの∬カードやコインの手品∬や∬空中浮遊∬、
  ☆∬区間移動∬、縛られた状態からの∬脱出劇∬、
  ☆∬人体切断∬などなど・・・・・つぎつぎと披露する。

 豪華さだけはかの有名な手品師にも劣らない。

 手品の出来不出来はともかく、「魅せる」という点では成功といえる物になった。
   (正面はともかく、少し横から見るとネタがバレバレなのだ・・・・怖くて誰も言えないが・・・)

 アリス様の為といいつつ、正面に席をわざわざ用意した若松の配慮もあってミルク的にはすばらしいイリュージョンだったようだ。
 舞台から降りてくる景山に、感激の瞳を向ける。

「すっごぉ〜〜!うま〜〜い!ミルもおしえてほしぃ〜〜〜!」
「簡単な物ならすぐに出来るようになりますよ。お暇な時にお教えしましょう。」
「わ〜〜い♪約束ね?景山さん!」
☆「「ねぇ〜〜〜」」☆

 顔を見合わせハモル2人の後ろには、面白くなさそうに酒をあおるマサトと苦笑しながらSSS達と顔を見合わせる若林の姿があった・・・・。

<20>
「闇組織の忘年会(3)」
§20§「闇組織の忘年会(3)」≪万里様作品≫

「次はなんだ?」
 衣装を脱いで席に戻ったSSS三人衆。プログラムを覗き込む。
「おっ、”美女軍団”か・・・・こりゃ、酒が居るな」ボム
「いいねぇ、ちょっと動いたらのどが渇いたし、おい福島、裏いって酒持ってこい!」スナイパー
「ふ〜ん・・・・・島田さんも出るの?」ドルフィン
「おめぇら・・・・・演奏できるぐらいに抑えとけよ?」若林
「「「大丈夫だってコウメイ福隊長、酒なんて水と一緒」」」
 ハモル三人にため息の若林。
 田代と福島はせかされて、厨房まで酒を調達に行く。
 テーブルの上にはすでにからの酒ビンが・・・
  (ビール・ウイスキー・焼酎・ワイン・ウォッカまで・・・・・ざるというより、わく?)


≪「次は”美女軍団によるダンスショー”です」≫

☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆・:.,;*
☆〜♪〜〜〜♪〜☆・:.,;*
 音楽が鳴り響く。
 組織の美女達が金ラメのレオタードに燕尾服、編みタイツにシルクハットを持って踊りだす。
 一糸乱れぬ動きで音楽に合わせてラインダンスを踊りだす。
☆〜☆〜〜〜〜〜〜☆・:.,;*

 会場からは男達の楽しげな野次が飛んでくる。
「いいぞ〜〜〜。」
「もっと足上げろ〜〜〜」
「ヒュ〜〜〜!」
 ジョッキを片手に皆、騒ぎ始める。
 ボム、スナイパーはかぶりつきで酒を楽しむ。

☆〜♪〜〜〜♪〜☆・:.,;*
 曲調が変わりフラメンコのリズムが流れ出したとたん、深紅のドレスを纏ったアザミと光沢のある黒のシャツを着崩した島田が現れる。
 アザミの妖艶なフラメンコ、島田の男っぽい色香を漂わせた踊りに会場は眼を奪われる・・・・・。
☆〜☆〜〜〜〜〜〜☆・:.,;*

 それを破ったのは、やはりというか、怖い物知らずの2人組み。
「よっ!アザミ姉さん、イロッペ〜〜〜!」
「島田〜〜〜ドサクサにまぎれて変なとこ触るなよ〜〜〜〜!」

☆〜♪〜〜〜♪〜☆・:.,;*
 2人を挑発するように流し目をくれながら踊るアザミ。
 島田もそれに合わせて情熱的に踊る。
 また転調すると、いったんは袖に引いた美女軍団も現れて、ラテンあり、サンバありの転調に次ぐ転調で、息をもつかせぬステージを魅せる。
 会場もさらにヒートアップして熱気に包まれる。
 アザミの踊りにタップダンスで返す島田。
 普段の姿からは想像できない。
 曲と一緒にフィニッシュを決めるダンサー達。
☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆・:.,;*

 会場は皆総立ちで拍手と歓声を送った。
「かっこいい〜〜〜、アザミさんっ!島田さんもステキ〜〜〜!」
 頬を赤らめて興奮した状態のミルクの声援に、ステージ上で優雅にお辞儀する島田とアザミ。
 息を弾ませて、ステージを降りる美女軍団に惜しみない拍手が送られた・・・。


「参謀ちょっといいですか?」
「なんだ?」
「準備してあった酒類がなくなりそうなんで、調達するのに何人か借りていいですか?」
「あぁ?あんなにあったのに、もう無いのか?酒屋3件分ぐらい準備してなかったか?」
「そうなんですが・・・・・予想以上に飲まれる方が約数名ほど・・・・・」
「SSSか・・・・・しょうがない、近くの酒屋何件か空にして来い」
「わかりました。」
 厨房担当の部下を見送って振り返ると、酒瓶片手にステージに上がっていくSSSのメンバー達の姿。
「ウワバミどもめっ、水のようにがばがば飲みやがって・・・・」
 景山は仕方なさそうに呟いた・・・・・


≪「次は総帥&SSSメンバーによるバンド演奏です」≫

★。、:*:。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜★。、:*:。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜★。、:*:。.:*:・'゜
 ステージ中央にはマサトの姿。
 マサトが忘年会の演目に参加するのは、初めてのことだ。
 しかも、SSSのメンバーとのバンドなんて・・・・・・。
 ドラムにボム・ギターにスナイパー・キーボードにドルフィン・ベースに若林・・・そして★マサトのボーカル★だ。
★。、:*:。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜★。、:*:。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜★。、:*:。.:*:・'゜

 皆の期待感は高まる。
 ボムのカウントをキッカケに、スナイパーのギターが走り出し、
 ドルフィン、若林が音を絡めていく。
 マイクスタンドに手を掛け、静かにリズムを取っていたマサトが歌いだす。

   ♪★‥‥……━★‥‥……━★‥‥……━★♪

          ★差し伸べた手に
          ★掴み取る 真実の力

          ★闇の覇者と純白の天使
          ★黒き荒野に 降り立つ時
          ★我らの力は溢れ出す

          ★力を示せ!知恵を得ろ!
          ★光に背を向け 闇に集え!
          ★我らの世界を手に入れろ!

          ★闇の覇者と純白の天使
          ★指し示す先は 安住の地

          ★力を求め 天に示せ!
          ★闇を纏って 我に集え!
          ★我らの力を見せ付けろ!

          ★差し伸べた手に
          ★掴み取る 真実の力

          ★時が満ちて
          ★我らの世界が動き出す
          ★闇に集え 黒き従者達・・・・

   ♪★‥‥……━★‥‥……━★‥‥……━★♪
                   
 ヘビメタっぽい激しい曲調と、マサトの低音の声が場内を熱くする。
 こぶしを振り上げまさにライブハウス状態だ。
 ミルクは激しい音に耳を塞ぎつつ、マサトの声に酔いしれた。
★。、:*:。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜★。、:*:。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜★。、:*:。.:*:・'゜

 突然肩を叩かれて、振り返ると景山の姿。
「アリス様。そろそろ準備をしませんと・・・。」
「あっ、そっかぁ。よろしくお願いしますぅ。」
 にっこり笑って、景山についていく。


 盛大な歓声を浴びながら、歌い終え席に戻ると、景山についていったミルクが気になってしょうがない。
 歌っていても、ミルクの姿は視野の中にあった。
 どんな時でもミルクレーダーは働いているのだ。
 自分の演目の準備にいったのだろうが、景山はともかく若松・田代・福島までついていったのが気に入らない。
 何となく面白くなくて、マサトはテーブルに肘をつき酒を流し込んだ。


≪「次は、アリス姫による”花魁道中”です」≫

 会場の照明が一斉に落とされて、後方のドアにだけスポットライトがあてられた。
「はぁ?」
 マサトはミルクが何をするのか聞いていなかった為、びっくりして後ろを振り返る。

☆.。.:*・°  ☆.。.:*・°  ☆.。.:*・°  ☆.。.:*・°
 雅楽が響き渡る中、着物を着た景山の肩に手を置いたミルクが、三枚歯の塗下駄で内八文字を踏みながらゆっくりゆっくり進んでくる。
 後ろからは大きな緋色の番傘を持った若松。
 サイドには籠に盛った花びらをミルクに掛けるように撒く、田代と福島の姿・・・・・・。
☆.。.:*・°  ☆.。.:*・°  ☆.。.:*・°  ☆.。.:*・°

 一瞬異世界に迷い込んだかのようにマサトの、会場の、時間が止まった・・・・。
 普段とは違うミルクの妖艶なる花魁姿。
 幻でも見ているように、傍を通り過ぎるミルクを目で追う男達。
 SSSのメンバー達でさえ、酒を持つ手が止まって口を開けたまま、花魁道中を見つめていた。
「すっげぇ・・・・・・・・きれいだぁ・・・・・・・・」
「ほんとに・・・・・・・」
「色白だから余計に着物が映えるんでしょうねぇ」
「おしたおしてぇ・・・」
 傍で聞こえたSSSの呟きに、正気を取り戻したマサトは、全身に震えがくるのを止められなかった。

☆.。.:*・°  ☆.。.:*・°  ☆.。.:*・°  ☆.。.:*・°
 ようやくステージ中央まで来たミルクは、正面に向き直る。
 消えていたライトがつき、会場は夢から覚めたように音が戻ってきた。

「白雪(しらゆき)太夫でありんす。よろしゅうぅおたの申しますぅ…。」
☆.。.:*・°  ☆.。.:*・°  ☆.。.:*・°  ☆.。.:*・°

 軽く膝をおり、ミルクが声を発すると、男達の歓声が上がった。
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」
「「「「「きれいっす!!!!!アリス様!!!!!」」」」」
 お化粧をされている頬を染め、照れている姿にまた眼を奪われる。
 そこここで、密かに写真を撮っている者を目の端に入れたマサトは、音を立てて椅子から立ち上がった。

「おめぇらぁーーーーー!写真とるんじゃねぇーーーーーーー!
 見るなぁーーーーーー!!!!!!」

 会場を震わす怒声を放つと、足音を響かせながらミルクに近づき、担ぎ上げると、
「景山、後で覚えてろよ。若松、後は任せた。好きにしろ。」
 そう言い捨てて、びっくりして声も出せないミルクを落とさないように抱えなおし、会場を後にした。


「ぶっ、はははははははぁ、おっ、おかし〜〜〜〜;;;;;;」
 テーブルを叩きながら涙まで流して笑う若林。
 あっけにとられながらも、笑いを堪えられない、SSSのメンバーが居た。
「さすがボス。すっげー独占欲。」
「あれじゃぁ、しかたがないかも・・・」
「アリス姫、壊されなきゃいいがなぁ。」

 SSSの無責任なセリフに若松は、景山を見やる。
 景山は肩をすくめてみせた。
「後が怖いな・・・・仕方ない、写真撮影は中止だ。」
「「えぇ〜〜〜〜〜〜、楽しみだったんですよぉ〜〜〜」」
 田代・福島の言葉に周りに居たものたちは、一斉にうなずき返す。
「・・・・じゃあお前ら、あの状態のボスに言えるのか?」
「うっ・・・・・いえないっす。」

 諦めムード漂う会場に、思わず舌打ちしたボムが声を掛ける。
「おい、誰か楽器引けるやついねぇのかっ?!誰か派手でいきのいい音だしてくれ!」
「あっ、俺引けます!」
 訓練生の1人が手を上げる。
 そうすると、何人かが名乗り出て軽快な音楽が流れ始めた。
 後は、飛び入り参加してくる者あり、踊りだす者ありの賑やかな場になる。


「さて、俺は待ってる女の所に行くかな。」
 若林がさっさと会場を後にすると、ドルフィンまで
「夜更かしはお肌の敵なんですよ。先に休ませて頂きます。」
と、ホテル内の部屋へ帰っていった。
 景山と若松はしょうがないな、と着物を着替えに裏へ戻っていく。

 残された福島と田代は、自分達も騒ぎに混じろうと歩き出そうとした時、
「おい、おめぇら。俺達に付き合え」
「そうだ、酒もってついて来い!ファンクラブの事を詳しく聞かせてもらおうかぁ、あぁ?」
 スナイパーとボムに拉致された2人は、何本もの酒瓶を持たされ引きずられるように、歩き出す。
「えっ、うおぉっ、かっ、勘弁してください;;;;;」
「そ、そうですよぉ、かたずけがぁ〜;;;;;;」
 泣きそうになりながら抗う2人を物ともせず、自分達にあてがわれた部屋へ引きずり込む。
「さて、朝まで付き合ってもらうぞ。」
「そうそう、時間はたっぷりあるからな♪」
「どうせなら郷へも一緒に行こうぜ♪」
「あっそれいいかも!行く前にもう一回歌舞伎町だな♪」
「「いいねぇ〜〜!」」
 自分達の予定が勝手に決められていくのを、信じられないように酒瓶を抱えたまま二人は聞いているのだった・・・・。


 会場では止める上層部の者もいないまま、騒ぎが続いている。
 景山・若松は本郷・財前に後を任せたのだか、島田・アザミに連れられて会場を後にしていた。
 そこここで、潰れている者もいれば、腕前を見せ合うといって組み手を始める者、ヌンチャクやトンファーなどの武器を練習と称して振り回す者、ひたすら楽器をいじってる者、すでに収拾がつかない状態だ・・・・・。

 会場を半壊状態にしつつ、忘年会の夜はふけていく・・・・・・・・。