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<31>
「我慢の時」
§31§「我慢の時」

 ハフゥゥ…ッ……
 竹ぼうきを動かす手を休めて、ミルクは溜息を吐いた。
 玄関から門までの敷石を掃いて枯葉を集めていたが、急に吹いた突風でまた散らかってしまった。
 こまめにゴミ袋に入れれば良かったと思う。
 一人で拗ねて頬を膨らませているのを、門前でガードしている男に見られてしまった。
 そう、ボディーガードの存在もミルクの気を重くしていた。
 マサトと別れた時、そうしたガードは全て外して貰い、再会してからも特にボディーガードを付けることなく自由な行動を認めて貰っていたのに、また厳重なガードが施されてしまった。

 年が明けた8日になってやっと帰ってきたマサトは、夜中に電話してきたが、「ただいま。」よりも先に、「どーゆーことだッ?」と怒った声で詰問してきた。
――――――――――
 原因はわかっている。
 一条小百合の二番目の兄である、竜二のことを怒っているのだ。
 一条家の新年のパーティーに呼ばれた時、竜二と知り合って以来、ミルクがケーキショップに手伝いに行くと必ず顔を出すようになった。
 ケーキを眺めながらミルクに話し掛け、時には3時間以上も粘って話し込み、ようやく一個のケーキを買って帰る、という日が続いた。
 ミルクも竜二の悲しい姿を知っているだけに、素っ気ない態度も出来ず、積極的ではないがそれなりに楽しく会話の相手をしていた。
 不思議と話すことに違和感がなく、マイペースで自分本位に会話を持っていくのも小百合で慣れていたし、逆に小百合とは違う屈折した心の闇が、竜二本人の言った通り”不器用な生き方”のようで、どこかミルクと似た寂しさを感じていた。
 竜二の話では、父親は優秀な跡継ぎの長男だけを優遇し、母親は長男のことに口出し出来ない分、小百合を超お嬢様に育てたのだと言うことらしい。
 竜二は父親に認めて貰う努力を重ねたが、超優秀な兄にはどうしても及ばず、父と母の不和の中でどちらからも放棄された存在になってしまった。
 家にいるのが面白くなく、夜中すぎまで外で遊び、当然のように遊び仲間は悪ばかりとなった。
 問題を起こして初めて、母親が青ざめた顔で自分に目を向けた。
 それが嬉しくて、また問題を起こす。
 父親は問題を起こしても弁護士任せで、警察の上層部に働きかけて事件性の高い問題でもうやむやに流して済ませた。
 それでも母親は心配してくれていると思っていたが、母親が心配していたのは、スター女優であり”良妻賢母”を売りにして番組のメイン司会者をしている自分の立場だった。
 竜二の為に離れを造り、「小遣いはいくらでもやるから問題を起こすな。」、というのが、両親が出した最終結論だった。
 悪の遊び仲間は、自分より自分の小遣いの多さに目をつけていたのだと、気付いていたが今更離れるのも面倒で、そのまま付き合っていたのだと言う。
 「けど飽きちまった。お前ぇの顔を見てる方がいいや。」と、竜二は笑う。
 笑うほど寂しげな表情になる。
 ……無視なんて出来るハズがない。
――――――――――
 ミルクはそうした事情を話して、マサトに理解を求めた。
 マサトは、「わかった。これまでのことは不問に付そう。」と言ったが、代わりに母親のケーキショップでのバイトは前面禁止、ボディーガードを配置し、外出は車での送迎に限ること、と言い渡された。
 そう言っておいて、マサトは「色々緊急を要する事項を抱えているから、会えるのが先になる。」と突き放す。
 ミツルもここ数日、帰りが遅い。
 心配だから理由を尋ねているのに、何も話してくれない。
 バイトで遅くなる妹のお守りがなくなって羽を伸ばしているのだろうか。
 ……男ってぇー男ってぇー勝手ぇーッ!!
 ……風のバカぁぁぁーーーッ!!!
 風にも八つ当たりしながら、ミルクはどうにか暇潰しの庭掃除を終えた。

 掃除道具を片付けて家に入ろうとした時、門の前にタクシーが停まった。
 え?・・・と振り返ると、母親が青白い顔で下りてきた。
「ママッ?!」
 ミルクが駆け寄って母親を支える。
「・・・大丈夫。・・・少し気分が悪くなっただけだから。」
 母親は口元をハンカチで押さえながら弱々しく言って、前屈みになった体をミルクの助けを借りて、どうにか家に入った。
「…ママ、無理しすぎだよ。朝から夜まで……」
 寝室のベッドに母親を寝かせ、熱を計ってみると多少微熱もあるようだった。
「ほらぁ…もぉ…高藤さんだって、一人で仕事を抱え込まないように、って言ってるんでしょう?」
「・・・ええ。・・・でも、オープンしたばかりだもの。手は抜けないわ。」
 母親は、ミルクの心配で怒ったような顔に、優しく微笑んで小さく溜息を吐いた。
「…頭、冷やす?」
「ううん。そんなには酷くないから。・・・きっと、軽い風邪ね。横になってれば治るわ。」
「風邪だって油断出来ない、ってママがいつも言ってるじゃない。…やっぱマサトさんにお店手伝えるように認めて貰おっと。」
「大丈夫よ。・・ミルちゃんはもう学校が始まっているんだから、自分のことを優先させてね?」
「……でもぉ……」
「お店には従業員もいるんですもの。パティシエが一通りのケーキの味を覚えてくれたから、新作以外はもう任せられるの。だから、そんなに無理はしてないから心配ないのよ。」
「……うん。」
 ミルクは納得出来なかったが、母親に休んで貰った方がいいと思い、寝室を後にした。


 翌朝、ミルクは浮かない顔で家を出てきた。
 母親は仕事を休んでまだ寝ている。
 ――昨夜、高藤が母親の具合を心配して訪ねてきた。
 高藤は医者を呼ぶことを勧めたが、母親はそこまで大袈裟にしないで欲しい、と頼み、数日仕事を休むことだけは聞き入れたのだった。――
 玄関から外に出ると、すでに送迎用の車が門の前で待機し、その脇に最新流行のファッションで身を包んだ青年が待ち構えていた。
 マサトにガードを付けると言われた翌朝、新品のいかにも慣れてない様子のスーツを着込んだ星野に、「…それって変。」と言ったミルクは、せめて普通の服で来てくれるようにとお願いした結果だった。
 このいかにも今風の青年が、21歳の星野優である。
 まだ若いがボディーガードの総責任者として、香蘭学園への送迎には必ず自分で供をしていた。
「おはようございますッ。」
「……ぉはよぉ…ですぅ……ハァ…」
 ミルクは、星野が朝の挨拶をしても、元気なく気の抜けた声で挨拶を返した。
 そして、車に乗り込んでからは、窓から空の方にぼんやりと視線を向けている。
 助手席に座った星野は、何度か言葉を掛けようかと迷い、言い出そうと息を吸っては、言い出せないままに溜息を吐くことを繰り返していた。
 ミルクをガードする者は、必要がない限り自分から話し掛けることは禁止されている。
 それでも、ミルクのことを報告していたのは自分だっただけに、もしガードされることになったことで気分を害していたらと思うと、申し訳ないと思っていた。
 ボスの命令は絶対であり、”崇拝してやまないボスの為ならどんな汚い仕事でもする”、と決めてはいるが、アリス姫の浮かない様子を直接目にしてしまうと気持ちが暗くなる。
 星野は何度か躊躇った後、ミルクに声を掛けた。
「母君のご様子は如何ですか?・・病院へ行かれるようでしたら、自分が付き添い致しますが。」
 ミルクは、え?、と星野に視線を向け、
「ぁ…大丈夫です。……軽い風邪らしいから。」
と答え、微かに笑ってみせた。
「アリス姫。母君のお店の方でしたらいくらでも応援を要請出来ますし、もし留守中がご心配のようでしたら看護婦を派遣致しますので、何でも仰ってください。」
「…ぇ…ありがとうですぅ。…でも、お店のことは高藤さんがみんなしてくださってるし、あんまり周りで騒ぐと、かえってママが休めないと思うので、そんなに気にしないでください。」
 ミルクは感謝を込めて頭を下げた。
「・・・そうですかぁ。・・わかりました。ですが、本当に何でもお気兼ねなく、申し付けください。」
「ええ。そうします。」
 そう答えたミルクは、また窓から外の景色を眺め始めた。
 母親の具合が悪ければ心配なのは当然だったが、星野はそれとは違う妙な違和感を感じていた。
 ただ、それを聞く資格は自分にはない、と諦めて、車の前方へと視線を向けた。

 学園に着いてミルクが昇降口に来ると、クラスメートの香坂成美が駆け寄ってきて腕をつかんだ。
「ねぇねぇ〜アリスぅ。」
「あ、おはよう、ナルっち。」
「おはよ!・・てゆーか、ねぇ〜あの人って誰ぇ?」
「…あの人?」
「んっもぉーッ!・・わかってるでしょ?車で一緒に来た人ぉ〜!」
「…一緒って…マサトさんの部下の人で、一応ボディーガードしてくれてるだけなんだけどぉ…」
「やっぱ、そぉーなんだぁ。・・・あぁ〜いいなぁ〜・・・」
「…ほぇ?……ナルっちのタイプ?」
「めっちゃタイプーッ!ねぇ、今度紹介してぇ?」
「…ぅー……ガードの人とはプライベートな会話はしちゃいけない約束になってるからなぁ。」
「いいじゃーん!・・・紹介だけでいいからぁさぁ。ね?」
 ミルクは困ったように曖昧に笑みを浮かべた。
 いくらSS隊員とはいえ恋愛は自由だろうし、相手が成美でも悪くはないだろう。
 けれど、仕事とプライベートは分けたい、と星野は思うような気がする。
 ミルクと親しいクラスメートとなれば、時には仕事中に彼女と出くわす場合も出てくるし、そうなれば彼女の目の前で別の女性を守るのも辛いはず。
 もし、万が一にも同時に危険が迫った時、瞬時に究極の選択が出来るだろうか。
 マサトの部下は普通の上下関係を越えた崇拝心があるだけに、通常の考え方は及ばないだろう。
 そうなれば彼女自身も辛くなるはず。
 そう思っても、紹介しなければ「意地悪」と受け取られ兼ねない。
 ミルクが「うん。」と言うまで諦めない様子の成美に、内心溜息を吐いた時、
「成美さん。無理を言うものではなくてよ。」
と、威厳のある小百合の声がした。
「小百合さん…おはようございますぅ。」
 救いの神とばかりに、ミルクは小百合に笑顔を向けた。
「おはようございます。ミルクさん。・・・成美さん。」
 小百合は悠然と微笑んで挨拶してから、
「私だって家や会社関係の知人を、交際を希望するような友人に紹介したりしませんわ。問題が起きる度に文句を言われたらたまりませんもの。どうしても好きならご自分で勝手に調べて”プライベート”な時にお誘いすればよろしくてよ。」
と、キッパリと言った。
 成美は不服そうに眉を寄せたが、
「私、ミルクさんに大切なお話がありますの。失礼ですけど、遠慮してくださいね。」
と、ミルクの腕に腕を回して、その場から引っ張っていった。

 小百合は周りにあまり人がいなくなるのを待って、
「ミルクさん、ごめんなさいね。」
と、小声で言った。
「また、車の送迎やボディーガードが付いたのって、兄のせいでしょう?・・もぉ・・お兄様ったら、いくら私が”ミルクさんには婚約者がもういらっしゃる”と説明しても聞いてくれないの。」
「…そんな……」
 違う、とは言えなかったが、無理をしてまたあんな暴力沙汰になって欲しくない。
「大切なお友達の大切なお兄様、って思ってるし、マサトさんにもそう説明して理解して貰ってるから、大丈夫です。」
「ありがとう。そう言って頂けると少しは安心出来ますけど。・・・あぁぁ・・・でも、ミツル様にもご迷惑をお掛けしてしまうんじゃないかと思うと、気が休まりませんわぁ・・・」
「そんなに気にしないでください。ミル、小百合さんのお兄様のこと好きですよ。お友達になれたらいいな、って思ってます。…フフッ。お兄ちゃんのこともあるし、家族ぐるみでお付き合い出来るといいですね。」
「・・・ミルクさん・・・ありがと。」
 小百合はミルクに抱きついて、ギュッ、と抱き締めてから、安心した笑みを浮かべた。
 ミルクも笑みを返し、一緒に教室へと向かった。
 今のミルクには、竜二のこと以上に深刻な悩みがあったのだ。
 でも、こればかりは迂闊に誰にでも相談出来ることではなかった。
 マサトにもすぐには話せないことだった。
 ……よく、考えなければ……ミルには…わからない……
 ミルクは廊下の窓から見える空を、時々眺めては小さく溜息を吐いた。


 三日仕事を休んだ母親も、元気になった様子でまたいつも通りにケーキショップへと出掛けるようになった。
 一方ミルクは最近読書に凝り始めたのか、学校から帰る途中で書店に寄っては色々本を探し求めていた。
 ミルクも風邪気味なのか、喉が痛いから、と薬局にも立ち寄った。
 書店でも薬局でも、ミルクが「店内くらい自由にさせて。」と頼んだので、星野は入り口から様子を伺うしか出来なかった。
 ミルクが元気がなく、どこかぼんやりとしていたのは、調子が悪かったせいなのだろうか。
 星野は気になりながらも、ミルクの機嫌を損ねたくなくて深く追求は出来なかった。

 星野から毎日報告を受けていたマサトは、
「ミルクが元気ねぇのは俺の責任だぜ。ずっと会ってやれなかったからな。」
と、渋面で歯軋りした。
 ミツルの一件だけでなく、面倒な問題が立て続けに起こり、ミルクの方も母親の看病もあって、お互いに時間の調整がつかなかったのだ。
 すでに我慢の限度を超えている。
 あの別れていた期間の経験がなければ、とっくにキレて当たり散らしていたかも知れない。
 だが、会おうと思えば会えるはず、という状態が違った意味で苛立ちと苦痛に感じられた。
 それでも会わずにいたのは、一度会ったら歯止めが効かなくなり、ミルクの立場や決まり事を無視して拉致しそうなほど恋しかったからだ。
 やっと問題も解決の目処が立ち、時間が作れる。
 今度の週末はゆっくりと会おう、と決めていた。

 マサトのそうした状態がわかる景山が、
「いかがでしょう、ボス。週末を温泉で過ごされるというのは?」
と、提案した。
「覇羅蛇村か?」
「いいえ。あちらではまたボスが必要もない雑用で忙しくなられてしまいますし、アリス様も気を使って大変でしょう。移動に時間の掛からない近場の温泉宿へ行かれてはいかがなものかと。・・・ボスとアリス様お二人だけの少し遅れた年明けをなさっては、と思いますが?」
「成る程。・・・いい案だな。」
「はい。では早速手配いたします。」
「うむ。頼んだぞ。」
 景山は、御意、とばかりに笑みを浮かべ、恭しく頭を下げて総裁室を出ていった。
 一人になったマサトは、ミルクの悩みも知らずに、
 ・・・よっしゃーーッ!!
 ・・・思いっきりラブラブするぜぇーーッ!!
 と、心の中で叫んでいた。

<32>
「温泉宿」
§32§「温泉宿」

 温泉街からは少し奥まった所にある温泉宿。
 本館の他に中庭を通って行った林の中にこぢんまりした一軒家の離れがある。
 離れは大小三棟あるが、各々の建物は樹木が囲い、通路も各々独立しているので、自分達だけの空間というイメージが二人のムードを静かに盛り上げてくれる。
 マサトが借りた離れは和室二間に縁側、内風呂と露天風呂も備わっていた。
 露天風呂はそれほど広くなかったが、内風呂からも縁側続きの板敷きからも行けるようになっている。

「ふぅ……いいお湯だったぁ。…さっぱりぃ。」
 ミルクが内風呂で体を洗い、宿の浴衣に着替えてきた。
 ――金曜日、学校から帰ったミルクをマサトがすぐに迎えに来たので、汗を流す暇がなかったのだ。
 母親には金曜の夜から日曜まで、外泊の許可を貰ってある。
 学期間の長期休み以外は、外泊に渋い顔をするミツルも、何故か今回はあっさり認めてくれた。――
「ミルク、早くこっち来いよ。」
 マサトがこたつのある和室からミルクを呼んだ。
 こたつの上にはもう料理が並べられてあった。
「あ…もう、お料理来てたんだぁ。」
「時間も遅いから早く出したいんだろ。」
 こたつに浴衣姿で座っているマサトが、ミルクの浴衣姿に目を細めながら言った。
 マサトは露天風呂の方で、さっと汗を流してきたようだ。
 ――週末の道路は混み合っていて、学校を終えてから来たのですでに10時を回っている。
 この時間でも作り立ての料理を出してくれるのだから文句は言えない。
 客の要望を最大限聞いてくれる宿は三つ星ランクと言っていい。
 さすが景山が手配した宿である。――
「お料理、いっぱいだねぇ。」
 ミルクが嬉しそうにマサトの隣りに座った。
 体を付けるようにして並ぶと、マサトからほんのりゆずの香りがする。
「…マサト…いい匂い。」
 ミルクがマサトの開いた胸元に鼻を擦り付けて言うと、
「ミルクもゴージャスな花の匂いがするぜ。」
と、ミルクの額にキスをした。
 ――案内された時、露天風呂にはゆずがいっぱい浮かんでいた。
 内風呂には好みの入用剤が選べるように色々な種類が用意されていたので、ミルクは背伸びして薔薇の薫りを選んだのだ。――
「髪がまだ乾いてねぇじゃねぇか。」
 マサトがミルクの髪に鼻を埋めて言った。
「ちゃんと乾かさねぇと、体が冷えちまうぞ。」
「乾いたもぉーん。」
 ミルクは頬を膨らませて、間近なマサトの顔を見上げた。
「ま、こたつに入ってるし、料理を食べてる内には乾くか。」
 マサトは優しく笑って、ミルクの膨れた頬と唇に軽いキスをした。
 ・・・料理を喰うのを省いても、こっちの御馳走が喰いてぇーッ!
 こたつ布団に隠れている我慢のきかない蛇が熱く血を滾らせて伸び上がってくる。
 ――暮れに覇羅蛇村から戻ってすぐ海外に飛び立ち、年が明けて帰国してから今日まで、会いたい気持ちをどうにか押さえてきたのだ。
 迎えに行き、やっと直接会えたミルクを抱き締め、熱いキスを交わしたが、玄関先ではそれ以上は出来ない。
 こうなったら早く温泉宿に着くしかない!、と車を多少強引に割り込みながら走らせ続けた。
 離れに荷物を下ろした時、やっとミルクを思い切り抱き締められる、と途中で激情が爆発しないでいてくれたことに安堵した。
 けれどミルクはお風呂に入りたい、と言うし、料理はドンドン運ばれてきてしまう。
 心行くまでミルクの甘い肌を堪能出来る、と思っていたが甘くはなかった。
 まあ、ここまで我慢したのだから、完全に二人きりになれるまで待ってやろう、と腹を括った。――
 マサトにとって、もう食事をすることも、クリアすべき試練の一つに過ぎなくなっていた。

「おこたぁ…暖かいねぇ。」
 家にこたつのないミルクが珍しそうに言って、布団を胸近くまで上げて掛けた。
 こたつは掘り炬燵になっていて、足を中に入れるとイスに座った状態になる。
「卓上コンロと掘り炬燵で、上下が熱に煽られると、これだけで汗かきそうだぜ。」
 マサトもこたつにあたった記憶がなく、慣れない様子で言った。
 ――郷の舘には確かあったように思うが、”止まる時は眠る時”というほど猪突猛進のごとく全力疾走で生きてきたマサトには、こたつでのんびりするという時間はなかった。――
「じゃぁ、食べるか?」
「うんッ。」
 ミルクはにっこりと頷き、体を擦り寄せてくる。
 マサトは、グワァーッ、と込み上げてくる欲望を顔に出さないようにして、
「あー・・箸はぁ・・一人分か?・・・あぁ、向こうにもう一組あるな。」
と、手を伸ばして反対側にある箸を取った。
 ミルクの座高ではコンロと鍋で反対側が見えない。
 身長も手も長いマサトならではの荒技だろう。
 マサトは箸を取った時になって、向き合って食事するように置かれてあることに気付いたが、ミルクが箸を手に取り無邪気な顔で、
「どれから食べよぉ……」
と、可愛い声で言うので、このままでいいか、と気付いた事実は流すことにした。
「鍋がもう煮えてそうだぜ。」
 マサトが土鍋の厚いフタを外すと、一気に湯気が上がる。
「…ぅっわぁ……熱そぉ…。でも、美味しそうだね。フフフッ。」
「今取ってやるから、待ってろ。」
「うんッ。」
 マサトが小鉢に取り分ける。
 ミルクは熱い汁が飛ぶのを怖がって体を引いた。
 と、引いた手がマサトの方に伸びて、固く盛り上がっている部分に触れた。
 マサトの暴れ蛇が気の早いことにもうビンビンになっているのだと、ミルクにもわかった。
 ミルクは、フフッ、と口を引き上げると、布団の上からマサトの暴れ蛇を撫で始めた。
「うッ・・・こら。手元が狂うだろ。」
「…だってぇ……見つけちゃったんだもぉーん。……松茸かなぁ…蛇の薫製かなぁ…。キャハハッ。」
 マサトはよそってやった小鉢を置きながら、
「・・・・・食事、パスしていいなら、俺は構わないんだぜ?」
と、片眉を吊り上げて言った。
「…ぅッ……食べりゅ……」
 ミルクは撫でる手を引っ込めて、小鉢の熱々の料理を、フーッフーッ、と冷ましながら食べ始めた。
 ・・・俺はパスしてぇぇぇーーーッ!!
 マサトは向かい側からもう一つの小鉢を取って、鍋の料理をよそった。

 今夜のマサトは冷酒を水代わりに一人で飲んでいた。
 ミルクも少し欲しそうにしたが、クリームソーダを注文して誤魔化した。
 酔ったミルクも妖艶で可愛いいのだが、記憶が飛ぶのは困りものだった。
 特に今夜は二人にとって”二人だけの一足遅い年越し”という意味合いもあり、思い出を記憶していて欲しかった。
 そんなマサトの思いは知らず、ミルクは布団の膨らみが気に入ったようで、箸休めのように時々そっと手を伸ばして撫でていた。
 空腹が御馳走で満たされてくると、撫でる時間も長くなる。
「はふぅ……もぉ、お腹いっぱいですぅ。」
 ミルクは後ろにパタリと体を倒し、浴衣の上からお腹をさすった。
 そして、自分のお腹をさする一方で、布団の方も撫で回す。
 マサトも既にかなり料理を胃に収めていたので、食事を終わりにしても良かったが、こうなったら出来るだけ焦らせてやろうと決めた。
 ―――――
 ちょっと目を離すと他の男にまでいい顔をする。
 ミルク本人は、弱っている野良猫の頭を撫でてエサを分けてやった、くらいに思っているかも知れないが、男から見れば、これだけいい女が手を差し伸べるならと、しがみつきたくもなるというものだ。
 まして自暴自棄の状態で闇に落ち込んでいる時に、ほの明るく柔らかな光に包まれた優しい手の感触を知ったら、ミルクが女神にさえ思えてきてしまったとしても無理はない。
 そうした心理がわかるだけに一概に竜二という男を怒れなかった。
 もっとも、だからと言って付きまとうのを許すマサトではなかったし、事情を聞くまでは謀殺したいほどに憎悪もしていたのだが。
 ともかく、一番罪深いのは、自覚のない闇の天使・ミルクなのだ。
 ――ほの明るい光に包まれた天使。
 真昼の太陽のように目を射ることはない。
 闇ばかりを見続けた目に、強い光を当てると失明しかねないほど痛いものだが、柔らかな光は心の痛みまで癒してくれる。
 それは認めても、他の男に渡せるものじゃない。
 ―――――
 少しは人に優しすぎる態度を反省させたかった。

 マサトがワザとダラダラ食事を続けていると、足だけこたつに入れて寝転がっていたミルクが、飽きた様子で胸まで引き上げたこたつの掛け布団の下に手を入れた。
 こたつの中で手をマサトの方へ動かし、固い膨らみの元である蛇竿を探し始めた。
 マサトの浴衣の裾はこたつの中でかなり広がっていた。
 少し裾を引っ張ればすぐに、トランクスから頭を覗かせてしまっている、暴れ蛇を見つけることが出来る。
 ミルクは蛇頭の生肌の感触に、にこっ、と笑みを浮かべると、蛇頭の先端から撫で回して下へ下へと移動し、トランクスをズラして胴体を剥き出しにした。
 強くは握らず、指先で形を確認するようになぞりながら撫でている。
 手がうまく届かないと体をモゾモゾ動かし接近させて、丹念に撫で回す。
 天井に向けられた視線はそこまで届かず宙を彷徨う。
 赤い唇が少し開かれ、時々赤い舌の先で舐めている。
 たまらない、とばかりにうっとり目を閉じることもあり、その妖艶な色っぽさに、マサトは今すぐにも狼に変身して吠えたい衝動に駆られた。
「、、、ねぇ、、、マサトぉ、、、、、」
 誘うような猫なで声を出す。
「・・・・・まだ食事中だ。」
「、、、ぁん、、、もぉ、いっぱい食べたじゃぁーん、、、」
 拗ねて甘える声は切なげで可愛い。
「・・・・・ちゃんと待てねぇようじゃなぁ?・・・食事も・・留守番も。」
 竜二に引っ掛けて言う。
 ミルクにもその意味がわかったようで、唇を尖らせた。
「、、、ケチぃ。」
 ・・・・・ケチぃぃーッ?!
 ・・・意味が違うだろぉッ?!
 マサトは叫ぶ代わりに川魚の塩焼きの頭をバリバリと噛み砕いた。

「、、、プン。、、、ぃぃもん。」
 そう言うとミルクは掘り炬燵の中に潜り込んでしまった。
「・・おぃ・・・ミルク?」
 こたつの中に姿を隠してしまったミルクを足で確認しながら呼ぶと、返事の代わりに、グイッ、と股間の蛇を引っ張られた。
 強く握って引っ張られるので腰が前にずれ込む。
 こたつの熱気に晒された暴れ蛇は開放感に更に伸び上がる。
 カポッ、、、
 湿った物に蛇頭がスッポリと捕縛された。
 ミルクがマサトの蛇竿をくわえ込んだのだ。
 根元を握りながら、カリを唇で擦り上げ、舌で先端を舐め回す。
 マサトは箸を持ったまま動きを止め、目を閉じてミルクの舌の感触を味わう。
 ヨダレをたっぷりと絡ませた舌を擦り付けてくる。
 たまらなく気持ちがいい。
 ミルクは根元を握った手で蛇竿を左右上下に動かし、隈無く舌を這わせて舐め上げる。
 横から吸い付いたり、舌の回転に合わせて先端部分も回したり、裏筋をグリグリと擦ったりと、得意技を披露する。
 マサトはテーブルに腕を着き、顎を上げて目を閉じている。
 半ば開いた口から熱い息が微かな喘ぎ声と一緒にこぼれる。
 と、その時、
「失礼します。」
と声が掛けられ、部屋係の女性が二人部屋に入ってきた。
 マサトは目を開け頬杖をついて取り繕い、用件を聞く。
「恐れ入りますが、24時を過ぎますとお料理の方はサービスが出来ませんのでご了承下さいませ。」
 先輩格の部屋係がそう説明する間も、こたつの中ではミルクの舌が忙しく動き、マサトの敏感でたまらなく疼く部分を刺激し続けている。
「・・わかった。」
 マサトは眉を寄せて厳しい表情を作って頷いた。
「それから、下げられる食器がございましたら、お下げさせて頂きますが、・・宜しいでしょうか?」
「ああ・・そうだな。・・もう、全部片付けて貰っても構わないよ。」
「はい。畏まりました。・・・あの・・お連れ様も?」
 女はミルクの姿がないので確認で聞いたのだが、マサトは、
「今、ちょっとトイレに立っているが・・そっちも片付けていいから。」
と、言い訳してしまった。
 ミルクが蛇頭を深くくわえ込んで吸い付きながら擦り、握った手まで動かして胴体を扱くので、意識がそっちに絡め取られそうになったのだ。
 部屋係の女二人は手早く片付けを始めたが、こたつの所を行き来するので、マサトは灰皿を取って貰い煙草の煙を燻らせて、表情を隠していた。
 チュプチュプッ、、シュボシュボッ、、、
 ミルクがしゃぶりつく音が聞こえないかと心配になり、片付ける二人に必要もないのに、近場の観光名所を聞いたりしていた。
 マズイことに部屋係は片付ける手を止めては熱心に説明する。
 聞いた以上は相槌を打たなければならず、余計に時間が掛かってしまった。
 ミルクは長いトイレだと思われてるのだろうか。
 しかし、他に言い様がなかった。
 長引く片付けの間も、ミルクの口がイソギンチャクのように吸い付いてくる。
 ミルクを焦らしていたことを、今になって後悔する。
 溜まりに溜まった欲望はマサトの方が大きいはず、と知りながらミルクを焦らしていた付けが降り懸かってきたようだ。
 もう限界まで来ているのに、充填されたエネルギーを放出することが出来ずにいる。
 熱いスペルマが発射される時を待ち侘びて、ダラダラと先端から先走りを垂れ流しながら、早く堰を切れ、と腰から股間へ凝縮して押し寄せている。
 ようやく部屋係が挨拶をして部屋を出て行った直後、
「くぅぅぅーーッッッ・・・うぅぅぅ・・・」
と、呻くように喘いで濃縮したエキスを熱く迸らせた。

「、、、ぷはぁ、、、あちゅぅ、、、」
 熱気にあたったように真っ赤な顔をしたミルクが、こたつから顔を出した。
 ズリズリと這い出してきて、完全に足までこたつから出し切ると、仰向けになり、
「ぁぅぅ、、、逆上せちったぁ、、、」
と、情けない声で言った。
 マサトは苦笑して、タオルを冷たい水で絞ってきて、顔や首筋を冷やしてやった。
「食事も終わったし・・・向こうの部屋の布団にいくか?」
「ぁぃ、、、いきゅぅ、、、、、抱っこぉぉ、、、」
 お酒を飲んだわけではないのに、こたつの熱気に酔ったようで、甘えん坊の赤ちゃんに退化してしまったようだ。
 仰向けになったまま両腕を上に伸ばす。
 マサトは愛おしげに笑うと、ミルクの手を首に回してやり、優しくあやすように抱き上げた。

 夫婦布団が敷かれた和室。
 電灯の小さな明かりと枕元の電気行灯が布団を浮かび上がらせている。
 マサトは赤い錦柄の掛け布団を剥いで、真っ白いシーツがパリッと敷かれた敷き布団の上にミルクを寝かせた。
 一応暖房は入っているが、部屋の温度は低めで、シーツはヒンヤリとしていた。
 調節して室温を上げることも出来るが、これから夜を明かして続くであろう狂おしい熱情の時間には、これくらいが調度いい。
 とは言え、逆上せているミルクをすぐには抱けない。
 強引に無理をさせれば御馳走が詰まった胃がひっくり返ってしまう。
「、、シーツぅ、、、冷たくて気持ちいいねぇ、、、」
 こたつの中で熱を持った肌に、触れさせるように手足をシーツに滑らせている。
 マサトは並んで横になり、目を閉じているミルクの愛しい顔をじっと見つめていたが、ふと思いついてニヤリと片頬で笑った。

「今夜は先に、オナニーを教えてやるぜ。」
「、、、、、ぇ?」
 ミルクはビックリして目を開け、マサトの顔を見る。
「まだ、やったことねぇんだろ?」
「、、、、、ぅん。」
「だから教えてやるよ。・・・俺が仕事で会えない時に、ちょっとは体で俺を思い出すようにな。」
 ミルクは戸惑った様子で瞬きを繰り返す。
「お前、体で俺を思い出さねぇから、平気で他の男にいい顔が出来るんだぜ?」
「、、、違うもん、、、」
「いっつも体で俺を感じていたら、他の男が自分にとって危険だ、ってことぐれぇわかるだろうが。ん?」
 そう言われてしまうとミルクには言葉が返せない。
「言ってみりゃ、体が寂しいって思うと逆にそう思うことを封印したくて、心でばかり思おうとする。」
 ミルクはよくわからなくて首を傾げて聞いている。
「けど、お前の心は森羅万象全てを愛してる。・・・俺だけじゃなくな。」
「、、ぅぅ、、、違うぅぅ、、、」
「アイツがいい例じゃねぇか?・・・俺との区別がわからなくなっちまうんだ。・・で、していい事と悪い事の判断もつかなくなる。」
 ……何も言わないと思ってたけど、やっぱ怒ってたんだ……
 ミルクはシュンとなって口をすぼめた。
「これからは、俺の指示でオナニーをさせる。・・今夜はそれの練習だな。ククッ。」
 マサトは言う事はキツイが、顔はニヤけている。
「いいな?」
「、、、、、ぁぃ。」
 ミルクは少し脅えながら頷いた。
 マサトに翻弄されている時にはいくらでも淫らな自分を晒すことが出来るが、自分で愛撫する姿を見られるのは恥ずかしい。
 けれど、笑って誤魔化したり逃げたりするのは通用しない雰囲気だった。
 ミルクは覚悟して素直に従うことにした。

「まず・・・胸を愛撫してやろうな?」
 マサトの声は優しい。
「、、、ぅん。」
 ミルクは浴衣の上からそっと胸の膨らみを揉む。
「襟元から手を滑り込ませて、直接肌に触れて愛撫するんだ。」
「、、、ぁぃ。」
 ミルクは目を合わせるのが恥ずかしくて、目を閉じて指示に従う。  自分でも滑らかだと思う肌を指先が滑っていき、小さく突起している部分に触れる。
「親指と中指でつまみ・・・グリグリと捏ね回す。」
「、、、ぁ、、、ん、、、」
 赤い唇が開かれ、甘い吐息がもれる。
 乳首は敏感に反応して、固さを増していく。
 ミルクが自分の乳首を愛撫している間に、マサトはミルクの浴衣の紐を解き、前を剥き出しにした。
 空気に触れる肌の感触で、胸が露わになったことに気付いていたが、感じてきている行為を止めることは出来ず、続けていた。
「反対の胸も愛撫して・・・乳首を摘んで・・・グリグリ・・グリグリ・・・」
 マサトは指示しながら、ミルクの腕を浴衣の袖から引き出してやる。
 広げた浴衣の上で、白いレースのパンティだけの姿になり、ミルクは自分で触れる自分の肌の感触にいつもとは違うものを感じていた。
「今度は両手を使って・・両側からおっぱいを押し上げ・・・左右の乳首を同時に愛撫する。・・・そう。・・グリグリ・・グリグリ・・・時々膨らみ全体を包んで揉んでやるのも忘れるな。」
「、、、ぁぃ、、、ぁ、、、ぁぁ、、、んふっ、、、」
 感じてきたミルクは無意識にお尻をシーツの上で回転させている。
「・・そう・・・いい子だ。・・・可愛いぜ。」
「、、、ぁぁ、、、ぅん、、、」
 マサトはミルクの反応から、次の段階へ進むことにした。
「それじゃ、膝を軽く立てて開いて・・・そう・・・もう蜜が溢れてきているのがわかるだろ?」
「、、、ぅ、、ん、、、」
「邪魔なパンツは脱いでしまおう。」
「、、、ぁぃ。」
 ミルクはお尻を浮かせて、自分でパンティを脱ぎ、足先に引っ掛けて飛ばした。
「よしよし。・・さぁ、足を開いて・・・」
 ミルクは言われた通り、膝を曲げて開いた姿勢になる。
「右手を胸から下へ滑らせ・・・人差し指、中指、薬指を揃えて・・・恥丘の恥毛をそっと掻き回す。」
「、、、ぁぃ、、、」
 いよいよ下への愛撫にミルクは生唾を飲み込んだ。
「揃えた三本指をもう少し下へ・・・そう・・そこで人差し指と薬指で花陰を押し広げて・・中指で触れるとクリトリスがあるだろ?・・・そう、それだ。・・・そこを中指で擦ってやろう。」
「、、、ぁぃ、、、」
 ミルクはまだ小さく隠れていたクリトリスを指先で擦り始めた。
「中指だけもう少し下へ・・花弁から溢れている蜜を指先につけて・・またクリトリスを擦る。・・・グリグリ・・グリグリ・・・指先を回転させるようにグリグリ・・グリグリ・・・」
「ハァ、、、ぁぁぁ、、、ハァハァ、、、」
 ミルクの息遣いがだんだん早くなってくる。
 クリトリスもぷっくりと赤味を帯びて脹らむ。
「・・・気持ちいいか?」
「、、、ぅん、、、気持ちいい、、、」
「その指を俺と思うんだ。・・ミルクの指に俺の指が乗り移っている。・・・今、ミルクのクリトリスを擦っているのは・・俺の指だ。・・・感じるだろ?」
 マサトの声が一層優しく耳元で囁かれる。
「ぁぁ、、、マサトぉ、、、」
「そう、俺だ。・・・グリグリ・・グリグリ・・・今、ミルクに触れている指は俺の指だ。わかるな?」
「、、、ぁぃ、、、」
 実際には触れていないが、ミルクは本当にマサトに愛撫されている錯覚を覚え始めた。
「俺の指が花弁に触れたがっているぞ?」
「、、、ぅん、、、」
「そのまま手を下へ動かし、中指だけで花弁を弄ってやろう。」
「、、、ぁぃ、、、」
 ピチャッ、、、
 中指で軽く花弁に触れただけのつもりが、蜜が溢れた花唇が、ドキッ、とするほど淫靡な音を立てた。
 ミルクに躊躇いの色が見えたので、
「いい音だぜ。・・・さぁ、そのまま続けて・・・もっとその可愛い音を聞かせてくれ。」
と、熱い息で囁いた。
「、、ぅぅ、、、ぁ、、ぃ、、、ハァァ、、、」
 ミルクは中指で濡れた花弁を擦る。
 ピチャピチャッ、、クチュクチュッ、、、
 シンと静まり返った部屋に、ミルクの小さな息遣いと湿った音が広がっていく。
「ぁぁ、、、ぁぁぁ、、、んん、、、ぁぁん、、、」
 ミルクの様子が変わり、開いていた股をピッタリと閉じてしまった。
 伸ばしていた手も巻き込んで、ギュゥーッ、、と締め付ける。
 口が開き、体が小刻みに震えている。
「いいぜ。快感の波がきたんだな。・・そのまま波が越えるまで俺の名前を呼べ。」
「、、マサトぉ、、、ぁぁ、、、マサトぉぉ、、、」
「そうだ。その快感の中に俺がいる。わかるな?」
 ミルクはじっと目を閉じ、エクスタシーに震えながら頷いた。
 ・・・クククッ。指一本、まだ少し擦っただけでこれだけ感じるんだからな。
 迂闊に男を近付けさせられない、とマサトはあらためて実感した。

 小さな波が去って、ミルクは股を開き、乾いた唇を舐めた。
「おまんこはまだまだ欲しがってるぞ。・・・さぁ・・続けて。」
「、、、ぅん、、、ぁぁ、、、ァハァ、、、」
 ピチャピチャピチャッ、、クチュクチュクチュッ、、、
「一度イクともっと感じたくなるだろ?」
「ハァァ、、、ぅん、、、ぁぁぁ、、、」
「じゃぁ、今度は体を横にして・・・下側の足を伸ばし・・上の足を曲げて下の膝に乗せる。・・・それで少し前屈みになったら・・・中指をもう少し奥で遊ばせてやろう。」
「、、、ぁ、、ぁぁぁぁ、、、」
 ミルクはどうすればいいのか、なんとなく試すように体と足を動かしてみたが、その態勢になった時、中指がグッと蜜壺に侵入したので、喘ぎ声で返事をしてしまった。
「ぁぁぁぁ、、、ぁぁん、、、ぁふっ、、、ハァハァ、、、」
 クチュックチュックチュックチュッ、、ピチャッピチャッピチャッ、、、
 快感が込み上げてきて自然と中指の動きが早くなる。
 腰も前後に動いてしまう。
「感じたら、ちゃんと俺を呼べ。」
「ぁ、、ぁぃ、、、マサトぉ、、、マサトぉ、、、ぁぁぁぁぁぁ、、、」
 ミルクはまたエクスタシーの波に襲われて、横向きで股を閉じて体を震わせる。
「、、、マサトぉ、、、マサトぉぉ、、、マサトぉぉぉ、、、」
 呼ぶ声が甘くかすれて切なげに闇に消えていく。
「そう。・・・俺も感じているぜ。・・・お前が感じる時・・・俺はいつも側にいる。」
「、、、、、ぁ、、ぃ、、、、、ハァ、、ハァ、、、」
 ミルクの快感の波が過ぎると、マサトはまた愛撫を続けるように指示をする。
「・・・気持ちいいだろ?」
「、、ぁぁん、、、めちゃめちゃ気持ちいぃぃぃ、、、」
「乳首もグリグリしてやれよ。」
「、、、ぁぃ、、、ぁぁぁ、、、感じるぅぅ、、、」
 ミルクはもう夢中で指を動かして愛撫を続け、快感を貪っていた。
「じゃぁ、おまんこから一度指を抜いて・・・曲げた膝を前に倒してシーツに付ける。・・・それから手をお尻に回して撫でてやろう。」
「、、、ぁぃ、、、」
「そのまま下へ・・・今度は後ろからおまんこを擦ってやるんだ。・・いいな?」
「、、、ぅん、、、」
 触れにくいと思ったが、指の当たる角度が違って新しい快感のツボを刺激する。
「、、ぁ、、、ぁぁ、、、んん、、、」
「体の位置や向きで感じ方も違うだろ?」
「、、、ん、、、スゴイ、、、ぁぁぁ、、、んん、、、またいっちゃうぅぅ、、、」
 今度は足を閉じても、多少指が動かせるので、ミルクは感じて震えながら指を動かし続けた。
「ぁぁぁ、、、マサトぉぉ、、、いいのぉぉ、、、ぁぁぁ、、、」
 口を開けたミルクが目も開けてマサトに視線を投げる。
 潤んだ目はすでに愛欲に溺れる淫乱な妖魔と化していた。
 感じ続け、快感に体を震わせ、更に快感を貪りながら、マサトを誘う。
 自分の恥ずかしい姿を晒して見せ、もっともっと欲しいの、と訴えかけている。
「・・・可愛いぜ・・・ミルク・・・」
 マサトも熱く潤んだ眼差しでミルクの感じている顔を見つめている。
「、、マサトぉ、、、ぁぁぁ、、、マサト、、欲しぃぃ、、、」
「あぁ・・・俺も欲しくてたまんねぇ。」
「ぁぁぁん、、、マサトぉぉぉ、、、」
 繰り返し襲ってくるエクスタシーの波に、ミルクは眉を寄せて苦悶する。
 それでもマサトを見つめたまま、欲しがって甘える。
「・・・もう・・・他の男にいい顔するなよ?」
「、、、ぅん。」
「約束だぞ?」
「ぁぃ。」
 マサトは、フゥーッ、と大きく息を吐くと、
「いいだろう。・・・クククッ。俺もいい加減限界だぜ。」
と、初めてミルクに触れて抱き締め、ねっとりとした唾液を絡ませながら熱いキスをした。

<33>
「除夜の鐘」
§33§「除夜の鐘」

 ようやくミルクを抱き締めることの出来たマサトは、ミルクが自分で触れて愛撫した部分を復習するように愛撫していった。
 ミルクはうっとりとなって身を任せる。
 舌を絡ませてキスをしたまま、胸を愛撫される。
 自分で触れる感触とは違う快感がミルクを包み込む。
 掌の熱も違うし、大きさや指の太さも違うが、一番違うのはミルクより遙かに巧みな指使いだった。
 意識して触るのではない感触も愛される喜びとなって、ビリビリする快感が体中を走り抜けていく。
「、、、ぁぁぁ、、、マサトぉぉ、、、」
 ミルクは顎を上げて仰け反り快感に浸る。
 マサトは白い喉に唇を滑らせ、掌で包んでいる胸まで顔を下げていく。
 固く突起した乳首の先を舐めて擦り、乳輪も舌先を回転させて舐めてから、チュッ、と吸い付く。
「ぁ、、んー、、、やっぱ、、マサトのがいいー、、、」
「・・バーカ。・・つーか、誰と比べてんだ?」
「、、、ミルぅ、、、」
「んなのは当たり前だろーが。」
 マサトは、クッ、と歯を立てて乳首を噛んでみせる。
「ぁッ、、、ぁぁん、、、優しいのぉがぃぃ、、、」
「ククッ。俺はお前にはいつだって優しいぜ?」
 マサトは笑いを洩らしながら、左右の乳首に交互に吸い付いた。

「今日は久し振りに潮吹きさせてやるぜ。」
 マサトはミルクの足を広げてその前に座った。
 まだ浴衣は着たままで、かなり胸元も裾も広がっていたが、気にせずにミルクの足を両膝に抱えた。
 ミルクのオナニーで綻んだ蕾が濃いピンクに染まり、蜜に濡れて甘く香っている。
 マサトは中指と薬指を揃えて花弁から蜜壺へと侵入した。
「あぁぁぁーッ、、、んー、、、たまらないぃぃ、、、」
 指を動かす前にミルクは腰を振って喜んでいる。
 しかも、キュウキュウ、と吸い付いてくる肉襞の締め具合といったら、指が、ドックンドックン、脈打ってきそうである。
 指一本の愛撫だけであれだけ感じていたのだから、こうして感じる快感は100倍より上かも知れない。
 感度を良くするのに薬を使う人達もいるが、今でさえ感じ過ぎて気絶することが度々あるミルクにそんな薬を使ったら、イッたきり戻ってこれなくなりそうだ。
 マサトは、内在する魔性と折り合いが付かずに戸惑うミルクを愛おしく見つめて、
「愛してるぜ。・・ミルク。」
と呟くと、指を動かし始めた。
 膣の中で揃えた指を軽く曲げ、Gスポットと呼ばれる性感のツボを擦ってやる。
 ビクンッ、と反応したミルクは背中を浮き上がらせて、
「あぁぁぁぁぁー、、、感じるぅぅぅ、、、マサトぉぉぉ、、、」
と、甲高いよがり声をあげた。
 透明に澄んだ甘い声は、離れを包み込む樹木を越えて、深く茂った林まで届きそうだ。
 木々の精霊達がビックリして目を覚まさなければいいが、などと想像してしまう。
 チュプッチュプッチュプッチュプッチュプッ、、、
 ――極限まで感じさせるには、手首のスナップを利かせて根気よく擦り上げることが大切だった。
 感じ過ぎて、もうやめてぇ、と思うほどになった時、体に特殊な変化が起きて、潮を発生する。
 尿道から噴出されても尿とは全く異質の、いわば女性の射精のようなものなのだ。
 これを経験すると体が自分のものでないような感覚に囚われ、体を痙攣させてオルガズムの陶酔の中で放出する。――
 チュプッチュプッチュプッチュプッチュプッ、、、
 手首を返して裏Gスポットも一定のリズムで擦り続ける。
「あぁん、、、ぁぁぁ、、、あぁぁぁん、、、あぁぁ、、、」
 ミルクの喘ぎ声が止まらなくなる。
 両腕を頭の脇に投げ出し、目を閉じたまま苦悶に顔を歪める。
 小刻みな振動で揺れる胸も、剥き出しの状態で揺れるに任せている。
 お尻を何度も浮かせて体内に抱えきれない快感の渦が噴き上がってくる。
 そろそろだな、っと思った時、ピュッ、と透明な液がマサトの手を濡らした。
 ・・・来るぜ。
 マサトが自分の浴衣の裾をつかんで丸め、指を膣から抜くと同時に押さえた。
「ああああああああぁぁぁぁぁん、、、あぁぁぁぁーーーッ!」
 ピュッピュッピュゥゥゥーーーッ、、、
 と、勢い良く吹き出してくる潮を浴衣に吸い込ませる。
 自前の布団なら汚してもいいが、宿の布団はさすがに気を使う。
 本来なら、細い噴水のような透明に煌めく潮吹きを眺めたかったが、それは次の機会に回した。
 ミルクは、ガックンガックン、、と大きく痙攣している。
「よしよし・・・いい子だぜぇ・・・」
 マサトは浴衣をおむつのようにあてがって、ミルクの痙攣が治まるまで抱き締めていた。

 ・・・よし。これで準備は整ったな。
 マサトは浴衣の帯を解き、濡れた浴衣を脱いで布団の脇に丸めた。
 ――本当のエクスタシー、本物のオルガズムはこれからだ。――
「、、、マサトぉ、、、、、」
 ミルクは、ぼぉぉッ、と潤んだ目をマサトに向ける。
 ぼやける視界に、蛇を体中に纏った逞しい体が映る。
 長身なマサトは無駄に筋肉を増強することはなかったので、必要なだけ鍛えていたが、その強い筋力はボディビルダーでも敵わなかった。
 それで服を着ていると、これだけ筋肉の発達した逞しい男だと、気付かれないことが多い。
「、、ぅー、、、マサトぉぉ、、、」
 ミルクがマサトに手を伸ばす。
 マサトは手の届く位置まで顔を近付けてやる。
 まだ恍惚とした状態から戻りきらないミルクが、現実との境を彷徨い、不安になってマサトの確かな存在を求めているのだとわかる。
 ミルクは手に触れたマサトの顔をそっと撫で回す。
 唇に指が触れるとマサトの唇が動いてキスをする。
 それに気が付き、半開きだった目を閉じたミルクが嬉しそうに微笑む。
 ゾクリ、とするほどあどけない笑み。
 ・・・可愛くて可愛くてたまらない。
 ・・・何でこんなに可愛い天使がこの世に存在してしまうんだ。
 マサトはゆっくりと光を滲ませて微笑む頬に顔を近付け、慈しむようにキスをした。
「・・俺の天使。・・・今、地上のパラダイスに連れていってやるぜ。・・・もっともっと感じさせて、究極のパラダイスに行こうな?」
 聞こえてないか、聞こえても理解するだけの思考力が飛んでいるように見えたミルクが、
「、、、ぁぃ、、、」
と、小さく答えた。
 マサトは、ハッ、と目を見開いてから、熱く込み上げてきたものを閉じ込めるように固く目を閉じ、ミルクに頬ずりをした。

 愛し合い感じ合うことさえ切ないのだと、欲望だけを貪る人々に理解出来るだろうか。
 ――肉体を道具に見立てた時、快感は道具としての肉体に留まって、それ以上の喜びを与えない。
 薬など無意味だ。
 薬は一人で飛行を楽しむようなもの。
 二人で使おうと関係ない。
 個々が個々に飛行を楽しむだけの行為でしかない。
 共に手を取り合い、虹色の光に包まれて、ゆっくりと飛行したいなら、愛し合った魂で舞い上がることだ。
 そして、これほどに素晴らしい瞬間を愛する人と分かち合える喜びと同時に、生きることの脆さや儚さを愛する想い故に切なく感じてしまうのだ。
 無駄な快楽は魂を浪費するだけ。
 慈しみ合える愛こそ、未來へと繋がる道標となる。――

 マサトはミルクを四つん這いにさせて後ろから腰をつかみ、太くそそり立つ蛇をミルクの鮮やかな朱に色付いた花弁の奥へと押し込んだ。
「ぅぅ、、ぁぁぁ、、、あぁぁぁぁぁ、、、」
 四つ足の白い妖魔が、甘い声で呻く。
 マサトは、グッ、、グググッ、、と、赤黒い蛇の胴体をめり込ませていく。
 白く丸い二つの丘の間に、異様に生々しい蛇が洞窟を見つけたとばかりに、太い胴体を奥へ奥へと侵入させていく。
「くぅぅん、、、ハァハァ、、、あぅぅん、、、」
 顎を天に向けて切なく吠える。
 マサトは弓形に反った背中を優しく撫でてやった。
 今夜は二人だけの年明けなのだ。
 日が昇るまで寝かせない、と決めていた。
 ゆっくりと時間を掛けて愛し合うには、無理な体勢は向いてない。
 ミルクがじっくりとマサトを体の中で感じられるように、少しずつ奥へと挿入していった。
 一度蛇頭の先端が当たって止まった所で、動きを止め、ミルクの肌を撫で回した。
 肌を滑る優しい指の感触と、内側から押し広げられる強烈な圧迫感に、ミルクの膣がヒクつき肉襞がうねって絡みついてくる。
「・・・なぁ、ミルク?」
「ぁぁぅ、、、、、ぁぃ、、、?」
 ミルクが少し振り返って首を傾げる。
「車の中でも話したことだが、・・景山が”二人だけのちょっと遅れた年越し”が出来るようにと、宿を手配してくれただろ?」
「、、、ぅん、、、?」
「せっかくだから除夜の鐘も突こうか?」
「、、、ほぇ?、、、鐘ぇ、、、?」
 近くに鐘突堂でもあるんだろうか?…とミルクは怪訝に思う。
 何もこんな状態の時に思い出さなくても…と、お尻をモジモジと動かし、今の所おとなしくしている暴れ蛇の首を、ギュッギュゥ〜ッ、、とキツク締め上げた。
「クックククッ。・・・何処かに出掛けようって言ってんじゃねぇぜ。・・・鐘ならここに陶磁器の綺麗な鐘があるだろ?」
 マサトが、ペシペシッ、、と軽くミルクのお尻を叩いた。
「鐘を突く棍棒が俺の蛇。・・・108回、数えながら突いて俺達の除夜の鐘にしようぜ?」
「、、、ぅぅぅ、、、」
「そうだなぁ・・・俺が一突きしたら、ミルクの鐘が鳴って数を報告する、ってことにしよう?」
「、、、ミルぅ、、、突いても鳴らないぃぃ、、、」
「ゴーン、って口で言やぁいいだろ?・・で、その後に数を言う。・・”ゴーン、ひとぉーつ。”ってな?」
「ぇぇぇ、、、ぅーー、、、」
「・・・やる気ねぇなら・・・抜いちまうぞ?」
「、、、ぁぅぅ、、、クフン、、、やるぅぅ、、、」
「よしよし。・・・じゃぁ、早速やろうぜ。」
 マサトは腰を引いて蛇の胴体を途中まで抜いてから、
「いくぜッ。」
と言って、腰を突き出し、ズブゥーッ、と力強く押し込んだ。
「ぁぁッ、、、ゴ、、ゴーン、、、ひとぉーちゅ、、、ぁふん、、、」
「そうそう、その調子だ。」
 マサトは満足そうに頷き、また腰を引いて途中まで蛇を引っ張り出し再び、ズブゥーッ、、とミルクの子宮を突く。
「はぁぁ、、ん、、、ゴーン、、、ふたぁーちゅぅぅ、、、」
 ミルクは感じて喘ぎ声も出しながら、マサトの言われた通りに続ける。
「ぁぁん、、、ゴーン、、みっちゅ、、ハァハァ、、ぁぅッ、、ゴーン、、よっちゅぅ、、、」
 マサトの突く早さがアップしていき、数えていくのが追いつかなくなってくる。
「あーん、、、早ぁぃ、、、」
「早く年を越さねぇと世間に追い付けねぇぜ?クククッ。」
「ぁぅー、、、プゥゥー、、こっこのっちゅ、、とぉ、、、」
「・・そんな鐘の音色があるかぁ?・・しかも省いてるし・・・」
「、、、グシュ、、グフン、、、出来なぃもぉん、、、」
 ミルクが半ベソで愚図り出したので、マサトは苦笑して名案と思った計画を変更した。
「ま、いっか。なら、数だけは数えてろよ?」
「、、、ぁぃ、、、」
 ミルクは鼻を啜って大きく息継ぎをし、仕方なさそうに頷いた。
 数を数えていると感じることに専念出来ない。
 それでも陶酔しきっていない頭で繋がりを意識することになり、体の中を動いていくマサトの蛇をより鮮明に実感出来る。
 百八つの煩悩を刻み込まれるように、マサトに突かれ続けた。
「、、ハァハァ、、ひゃくぅ、、、ひゃくにぃ、、、ハァハァ、、、」
 ミルクの声が弱々しくかすれていく。
「・・・数が飛んでる。」
 それでもマサトのチェックは厳しい。
「、、、ぇ、、、どれぇ?」
「今のは百一だぞ。」
「、、、ぅ、、、ひゃくいちぃぃ、、、」
「そう。・・後少し・・頑張れ。」
「、、ぁぃ、、、ぁん、、ひゃくにぃ、、、っぁん、、ひゃくさぁん、、、んぁっ、、ひゃくしぃ、、、あん、、ひゃくごぉ、、ハァハァ、、ひゃっくろっくぅぅ、、、ひゃっくななぁぁ、、、あぁん、、ひゃくはちぃぃぃーッ!」
 108回目に声を大きくして叫んだミルクは、布団に両手を広げて突っ伏した。

「いい子だ。・・頑張ったな。」
 マサトは背中を包みこんで覆い被さり、後ろから頬ずりをしながら髪を撫でてやった。
「、、、ぅん、、、」
 ミルクは熱くなっている蜜壺を焦れったそうに、キュッキュ、、キュッキュゥ、、と収縮させている。
「・・はぁぁ・・・締まりのいいおまんこ鐘だぜぇ・・・」
 マサトは腰をミルクの尻の上で回転させ、蜜壺を捏ね回し、肉襞の細かく微動する魅惑的な感触を味わう。
「いい子には御褒美をやらねぇとな。」
 そう言って肩にキスをしたマサトは、腰を大きく動かして思い切りミルクの子宮を突き上げ始めた。
「あぁ、、、あぁぁぁ、、、あぁん、、、」
 マサトの腕の中でミルクの背中が大きく反り返る。
 顎を上げて仰け反る白い喉元にキスをする。
 顎にも頬にもキスの雨を降らせながら、マサトは腰を激しく動かし続ける。
 いきなり強烈な快感が襲ってきたミルクは、虹色にスパークする目眩に襲われていた。
 片腕を虚空に伸ばし、伸ばした状態で止まっている。
 白い腕が淡い照明の中で美しくし浮かび上がり、白魚の指が微かに震えている。
「あぁ、、ぁぁん、、、マサトぉぉ、、、あぁぁん、、、」
 美しくしなる体を押さえ込み、激しい突き上げは繰り返される。
 マサトにとっても、一定のリズムでミルクが数えられる程度に突き上げる行為は、もっと暴れたいと激情を募らせる蛇を宥めながらのことで、焦れったさが蓄積していた。
 煩悩を越えた先にある究極の快楽を求めるように、籠もったエナジーを爆発させた。
 熱く吹き出す爆風がミルクを襲い、ミルクも煽られるように飛翔していく。
 暴れる大蛇の頭に乗って、天高く舞い昇るように、魂を天空に飛ばす。
「あっあああぁぁぁぁぁぁっっ、、、いっくぅぅぅぅーーーっっ!!!」
「俺もいくぜぇぇぇーー!・・・ぐぅぁぁぁぁぁぅぅぅーーーッッ!!!」
 同時に叫んで、同時に昇天していく。
 マサトの熱いスペルマが勢い良く子宮に注がれる。
 ミルクの腕がパタリとシーツに落ちた。
 快感直後の痙攣が起こっている。
 マサトはミルクを抱き締めて、抱え込むように横になった。
 愛おしくて愛おしくてたまらない魂の半身と、ピッタリ寄り添い、一つになれた充実感に満たされていた。

<34>
「露天風呂」
§34§「露天風呂」

「、、、ン、、、ぁふっ、、、喉乾いたぁ、、、」
 オルガズムの痙攣が治まってからも放心していたミルクが、小さく呟いた。
 布団は掛けていなかったが、マサトの熱気に包まれて体の火照りが続いている。
「ん?・・あぁ、そうだな。何か飲み物を取って来よう。」
 マサトはミルクの額にキスをして、まだ繋がってままだった蛇をゆっくりと抜いた。
 ミルクに布団を掛けてやり、起き上がったついでに濡れた浴衣を持って浴室に行く。
 脱衣場の戸棚には予備の浴衣も用意されているがまだ必要ないので、戸棚の並びにあるミニ冷蔵庫から冷たいジュースとビールを取り出した。

 マサトが戻ると、ミルクが起き上がって体育座りのような恰好で股間を覗き込んでいる。
 そして、花弁から溢れ出してきている白濁液を指にすくって、不思議そうに眺めた。
「・・・何やってんだぁ?」
 マサトが笑いを堪えて声を掛けると、まぁーるい目を瞬きさせながら見つめ返してくる。
「ほら。・・ジュースでいいだろ?」
 マサトはミルクの前にあぐらを掻いて座ると、ジュースを差し出した。
「ぅん。ありがとぉ。」
 ミルクはジュースのペットボトルを受取ったものの、まだ指先の粘る液体を眺めていた。
「どうかしたのか?」
 マサトには訳がわからず、取り敢えず缶ビールのタブを開けて一口飲んだ。
「、、、これってぇ、、、精子が泳いでるんでしょう?」
 ブッッ!
 ビールが霧吹き状に飛び出し、慌てて浴室から持ってきてあったタオルで口元を拭った。
「・・・な・・何だぁ?・・・そりゃ泳いでるだろうが、空気に触れたらそう長くは生きてねぇだろ。」
 ・・・まさか、精子まで可哀想だと言い出すんじゃねぇだろなぁ?
 マサトは自分の頭に浮かんだ考えに苦笑して、あらためてビールを飲んだ。
「、、、マサトは子供、、好き?」
 ゴクリッ!
 飲み込んだビールが喉に詰まりそうになり、咽せて咳き込んだ。
「はぁ?・・・好きかどうかは・・・時と場合によりけりだな。」
「、、、ふーん、、、そーなんだぁ、、、」
 ミルクは小さく溜息を吐いて、指を舐めてからペットボトルのフタを捻って開けた。
 冷たいジュースを、コクコクコクッ、、と飲んでいく。
「ミルクの子供・・つーか、俺達の子供なら論じるもなく好きに決まってるだろ。」
 ミルクはまだペットボトルを口につけ、傾けたままマサトに視線を向ける。
 その目が妙に探りを入れているような感じだ。
 マサトは怪訝そうに視線を合わせながら、ビールを、ゴクゴク、と喉に流し込んだ。
「・・・で?・・・ミルクは子供は好きか?」
「、、ミルは、、、もちろん大好きだよ、、、」
 やっとペットボトルから口を離して、躊躇いがちに答えた。
「、、、でも、、、育てるのって、、、大変だろなぁ、、、」
 ミルクの視線が下へ向けられ、長い睫毛で表情を隠す。
 ・・・どーゆーことだ?
 頭脳明晰であるはずのマサトの思考がフリーズしている。
「・・・そりゃぁ・・・高校生としての生活と両立させるのは大変だろうが・・・俺が子育てしたっていいんだし・・・」
「マサトがぁ?!」
 ミルクは丸い目を更に丸くしてから、プゥーッ!っと吹き出して笑い出した。
「アハハハッ、、、キャハハハッ、、、可笑しぃーーッ、、、」
「・・・何だよ・・・悪ぃか?」
 マサトが目を眇めて、チッ!っと舌打ちをする。
「だってぇ、、、マサト、、おっぱい出ないじゃぁーん、、、」
「100%母乳でなくても育てられるんだぜ。・・夜だけ直接授乳にして、昼間は粉ミルクか冷凍させておいた母乳をやれば、高校に通いながらだって充分育てられるさ。」
「、、、、、そーなのぉ?」
「本郷の女房達もそうしてる時があったから・・・お前よりは子育ての知識はあるぞ。」
 マサトは自慢げに片眉を上げて言う。
「、、、そっかぁ、、、経験があれば、、、両立も出来るんだぁ、、、ふーん、、、」
 ミルクは考え込むように俯いて頷いた。

 ミルクはジュースを半分ほど飲むと、
「ちょと、おちっこぉ。」
と、トイレに行ってしまった。
 マサトは飲み干したビールの缶を握ったまま、眉を寄せている。
 ”ふーん”と言ったきり、ミルクは何も言わなくなった。
 マサトはじっと焦れながら次の言葉を待っていたのだが、ミルクは言いそうになかった。
 ベキッ!
 ビールの缶を指先だけで縦に圧縮して、ゴミ箱に投げた。
 しばらく腕組みをして考え込んでいたマサトの耳に、パシャッ、、ピチャッ、、と水の撥ねる音が聞こえてきた。
 音は外からで、マサトがガラス戸から覗くと、ミルクが露天風呂に浸かっている。
 急いで縁側伝いに露天風呂に行く。

「あ、、マサトぉ、、、入ろぉ〜。あったかぁ〜いよぉ。、、フフフッ、、、」
 ミルクがゆずを一つ手に取って、鼻に押し当てながら言う。
 全裸で冬空に立っていたマサトだが、寒さは感じていなかった。
 必要があれば極寒のツンドラさえソリで何日も走ることもあり、それを思えば適度に気持ちのいい寒さと言えた。
 それでも、ミルクが手招きするのが可愛くて、マサトも、
「んー・・・気持ちいいなぁ。」
と言って、湯に浸かった。
 それほど広い露天風呂でもないので、ミルクはすぐに側に寄ってきた。
 マサトは伸ばした足の上にミルクを座らせ、掌で湯をすくいながらミルクの顔を撫でてやる。
 温泉に浸かる時は顔を湯で濡らすと逆上せるのが防げるのだ。
 濡れた前髪を左右に分けてやり、額も湯で濡らす。
 ミルクは睫毛に滴り落ちた雫を瞬きして落とす。
 何気ない表情が幼子のようで、愛しさが募る。
「・・・風呂に入るなら、そう言えばいいのに・・・」
「違うのぉ、、、おちっこしたら、、、沁みて痛かったからぁ、、、」
 ミルクはちょっと口を尖らせてから恥ずかしそうに笑い、マサトの肩に頬ずりをする。
 そして、そのまま寄り掛かって冬の夜空を見上げた。
「、、、わぁぁ、、、見てぇ、、、綺麗ぇだねぇ、、、」
 ミルクの見上げた瞳に星の輝きが映る。
 紅い唇が形良く開かれ、白い息が夜空へと小さく吐き出された。
 マサトはずっとミルクを見つめていたかったが、ミルクが夜空を見上げたまま首を傾げて額をマサトの頬に押し当てるので、おとなしくなっていた蛇が鎌首を擡げ始めてしまい、気を逸らそうと空を見上げた。
 ――マサトが空を見上げる時、いつも孤独だった。
 怒りと悲しみと焦燥と、自分の非力さとの折り合いがつかず、宇宙の真理というものに届かぬ想いを問い掛けていた。――
 だが、今は愛する魂と共にある。
 こうして眺めてみると、本当に綺麗だとマサトも思った。
「・・・あぁ・・・綺麗だなぁ・・・」
「、、、、、うん、、、、、」
 ミルクの目が嬉しそうに弓形になるのを頬に触れる睫毛で感じた。
 クサイセリフかも知れないが、「果てしない宇宙の真っ只中で、小さな地球という惑星の更に小さな一点で、二つの魂が一つになって輝いているのだ。」と思えてしまう。
 小さな輝きかも知れないが、星の輝きにも負けないほどに熱く燃え滾っている、と胸を張って言おう。

 マサトは挑むように星空を眺めていたが、首を傾けミルクの顔に被さるようにして口づけをした。
 微かに硫黄の匂いのするキス。
 チュピッ、、、チュッ、、、チュゥッ、、、
 優しく摘むようなキス。
 ミルクがクスクスと笑い始め、笑う唇に更にキスを重ねる。
 マサトも何だか可笑しくなってきて、喉を震わせて笑う。
 と、今度はミルクがキスを始めた。
 マサトの震える喉元から顎へ、顎を伝って耳たぶへ、耳の輪郭を辿ってうなじ、うなじから首の付け根へとキスをしていく。
 お湯に阻まれると、今度は鎖骨を渡って反対側へとキスを移動させていく。
 マサトはミルクの好きにさせながら、背中をゆっくりと撫で、外気に剥き出しになっているミルクの肩に湯をかけてやる。
 股間の蛇は伸び上がって、俺もまぜろ、と主張する。
「アハッ、、、またぁ松茸ぇ、、見ぃつけたぁ、、、キャハハハッ、、、」
 ミルクの手が蛇の頭をナデナデする。
「・・鍋で煮えてた松茸食べただろ?・・・少し控えないと食中りになるぞ。」
「ぇー、、、これは違うじゃぁーん、、、」
「コイツは蛇科のマツタケだから、アクが強いんだぜ。」
「プッ、、、クスクス、、、変なのぉ、、、クスクス、、、」
 胸をピッタリ付けたミルクが下から覗き込むようにして首を傾げる。
 ・・・くぅぅ・・・可愛すぎるぜ。
 ・・・俺も抱きてぇぇぇ!!
 ・・・だが・・・無理はさせらんねぇだろ?
 マサトは朝まで寝かせない勢いでいたが、今はある懸念がミルクに無理をさせることに警鐘を鳴らしていた。
「・・さて・・・そろそろ上がろうか。・・・頭が冷やされてるからって調子に乗ると、湯当たりするぜ。」
「、、、ぅ、、ん、、、」
 ミルクはまだ気持ちのいい湯の中で甘えていたかったが、そう言われると頭が、ボォーッ、としてきたような気がして、素直に従った。

 内風呂を通って浴室へ行き、体をよく拭いた後、マサトとミルクは新しい浴衣に袖を通した。
「、、、はふぅ、、、まだ熱ぅー、、、」
「油断して体を冷やすとマズイだろ。」
 そう言うマサトも首に掛けたタオルで汗を拭っている。
「喉乾いたぁ、、、あ、、そうだぁ、、、まだジュース残ってたっけ、、、」
 ミルクは冷蔵庫を開けかけたが、思い出して寝室へと向かう。
 マサトはもう一缶ビールを出し、その場で半分ほど飲んで気持ちを落ち着け、寝室へと戻って行った。
 ミルクは布団の脇で正座してジュースを飲んでいる。
「そんな畳に直接座ってたら冷えちまうだろ。」
 マサトは汗を吸ったミルクの前の浴衣を引っ張って丸め、脇に置いて、
「ほら、こっちに入れよ。」
と促す。
「、、、ぅん。」
 ミルクは膝で立って敷き布団に移動し、残りのジュースを飲み干した。
 マサトも残っていたビールを飲みきって、また指先で潰してゴミ箱に投げた。
「、、、スゴッ、、、握力あるぅ、、、」
 それなりに付き合ってきたのに、ふとしたことで知らなかったマサトの威力を感じてしまう。
 ミルクは負けじとペットボトルを片手で潰そうと試みる。
「ぅにゅにゅにゅにゅぅぅぅー、、、ハァハァハァハァ、、、ダメだぁ、、、」
 あまり力を入れ過ぎて目眩を感じたミルクは、両手で半分ほど押し潰す。
「ククッ。貸してみろ。」
 マサトはミルクから空のペットボトルを取り上げ、雑巾のように軽く絞り上げてしまう。
「、、ぅぅぅ、、、投げるのはミルがすりゅぅーッ、、、」
 ドックボーン状のペットボトルをゴミ箱に狙いを定めてダーツのごとく投げるミルク。
 わずかでもゴミ箱をかすればフォローする言葉も見つかるが、全く見当違いの所に転がっては見なかったことにするしかない。
 まさとは布団に寝転がって天井を眺め始めた。
 コソコソッ、と足元を白い影が横切り、カコンッ、とアルミ缶とぶつかる音がした後、また、コソコソッ、と影が戻ってくる。
 と、思ったら、いきなり顔の上にミルクの顔が突き出された。
「マーサトッ、、、フフフッ、、、ナデナデしてあげよっかぁ?」
 浴衣を押し上げてテントを張っている物を指先でつついて言う。
 ・・・撫でてくれぇぇーーッ!
 そう叫びたい気持ちを押さえ、
「まぁ、ちょっと休もうぜ。」
と、腕を伸ばして反対の手で、ポンポンッ、と叩く。
「、、、いいんだぁ、、、」
 変なの、と言いたそうに首を傾げたミルクは、それでもルンルンとマサトの腕枕に収まった。

「・・・なぁ、ミルク・・・」
 マサトは天井を向いたままミルクの髪を撫でる。
「、、、んー?」
 ミルクはマサトの足に足を乗せて、マサトの浴衣の衿当たりを指でつまんで遊んでいる。
「俺達・・・隠し事はしないようにしてぇよなぁ?」
 回りくどい言い方だったが、ミルクの手が、ピタッ、と止まる。
 やはり隠していることがあるようだ。
「・・なぁ・・・どんな些細な悩みだって、言ってくれなきゃわからない事だってあるんだぜ?」
「、、、ぅ、、ん、、、」
 ミルクの指が、マサトの胸に、ツツーッ、と線を書く。
「・・・さっき・・・子供のことを聞いただろ?」
「、、、ん、、、」
「・・・あれって・・どうしてなんだ?・・・何か気になることでもあるのか?」
「、、、んー、、、」
 ミルクは曖昧に返事をして、マサトの浴衣の上でグルグルと指を回す。
 マサトはくすぐったくて堪らないが、話を逸らさない為に好きにさせていた。
 だが、ミルクはしばらく黙ったままで、グルグル、、グルグル、、と指を回し、指を動かすのを止めると、溜息を吐いた。
「、、、何か、、、眠くなっちゃった、、、」
 ・・・はぁ??
「なぁ・・・」
「ごめん、、、お休みなさぃ、、、」
 ミルクはマサトの胸に顔を埋めてしまう。
 ・・・どーして言えねぇんだ?
 ・・・子供が出来たなら出来たって言やぁいいだろーが?!
 ・・・それとも・・・産むのが怖いのか?
 ・・・だったら・・・怖くねぇように気持ちを持ってってやらなきゃならねぇよなぁ?
 マサトがあれこれ自問自答している間に、ミルクは本当に静かな寝息を立て始めてしまった。
 高くテントを張った蛇が、恨めしそうに、ドックンドックン、と抗議している。
 ・・・我慢しろッ!
 マサトは掛け布団を足でたぐり寄せ、ミルクの背中に隙間が空かないように気をつけながら掛けてやった。

<35>
「白状」
§35§「白状」

 二人にとっての新年が目出度く明けた翌日、新しい門出を祝うかのように晴れ渡った日となった。
 マサトは、
「せっかく近場の観光名所を教えて貰ったことだし、出掛けてみようぜ。」
と、ミルクを誘った。
 この宿にはもう一泊する予定になっていて、当初はたっぷり時間を掛けて”甘く激しい愛欲に浸ろう”と考えていたが、ミルクの体を気遣い出掛けることにした。
 二人っきりでいると、どうしても欲しくてたまらなくなり求めてしまう。
 ―――――
 今朝、というより明け方にも、つい我慢が出来なくてミルクを抱いてしまった。
 3時間ほど熟睡した後、少し強い風が吹き付ける音に目を覚ますと、ミルクがいつの間にか蛇竿をしっかり握って眠っていた。
 いつの間に?!・・・と、困惑してしまう。
 敵の気配なら数十メートル先からでも察知出来るのに、大事な相棒を捕虜に取られても気付かないでいるなんてこと、《有り得るはずがない》と思っていた。
 長年連れ添ってきた相棒に裏切られた気分になる。
 だが、相手はミルクなのだ。
 心底惚れた相手というだけでなく、樹木の精霊達の息遣いよりも密やかな気配で存在する天使。
 考えてみれば、ミルクと添い寝するようになる以前は、完全に熟睡することは稀だった。
 それが、ミルクを抱いて眠ると、うっかり寝過ごしそうになって慌てることさえある。
 こんなに心地の良い目覚めがあることを、生まれて初めて知った。
 油断大敵、と言うが、ミルクとなら何があっても構わない、とさえ思ってしまう。
 ・・・お前もすっかり虜になったか。
 相棒の蛇に言ってやる。
 すると、ドクンッ、と脈打って《当然だろう》と答える。
 気付かず熟睡していたとは言え、意識してしまうとミルクの手の感触がたまらなく気持ちいい。
 ドクンッ、、ドクンッ、、ドクンッ、、、
 たちまち蛇は真っ赤な頭をテカらせて、ミルクの手の中で目一杯膨張していた。
 我慢させて寝かし付けただけに、《もう我慢は出来ない》、とヌルヌルの涙を流す。
 宥める為に、ミルクの手に握らせたまま太腿に擦りつけていたので、ミルクも目を覚ました。
 目が合った途端、ハァゥ、、と甘い吐息がもれた口を強引に吸って、・・・後は一気に愛欲の世界へと雪崩れ込んでしまった。
 しかも、堰を切って溢れ出した欲情の激流は留まることを知らず、朝日が天窓から射し込み、雀がチュンチュンとさえずり出し、部屋係が朝食の伺いを立てに来るまで続いていたのだ。
 隣りの和室との襖を閉めてなかったので、15分待って貰うことにして、数度目の熱い射精で打ち止めにした。
 そして、ミルクを露天風呂に浸らせてる間に、朝食を運んで貰った。
 朝食の用意が出来たのでミルクを迎えに露天風呂へ行くと、くったりとお湯の中で気絶したようになっている姿を見て、無理をさせないようにと思っていたはずの自分をなじった。
 ・・・馬鹿野郎ッ!
 ・・・これじゃぁ、一緒に遊んでいるだけのつもりで蛇神に消えない傷を負わせたガキの頃のままじゃねぇかッ!
 ・・・傷付けるような愛し方しか出来ねぇガキじゃねぇだろッ?
 ―――――
 と、深く反省し、気分を変えようと出掛けることにしたのだ。


 史跡といった類は、ミルクにはまだ興味が薄いようだったが、沿道に土産物屋が並ぶけっこう有名な神社に来ると、表情が一気に明るくなった。
「あッ、ねぇねぇ、見てッ。カルメ焼きがあるぅぅ〜。」
「あの蒸籠っておまんじゅうだってぇ〜。アッツアツのおまんじゅう食べたぁ〜ぃぃぃ!」
「キーホルダー可愛いのがあるかなぁ?限定品とかあったら記念に欲しいねぇ〜。フフフッ。」
 と、さすがは現役女子高生。
 何かを見つける度に歓声をあげ、拳を握ってプルプル震える。
「土産物は参内してからだぞ。」
「……ぇ…ミルの家は…大和の神社仏閣に、お参りするとぉ…縁起が悪いってゆーしぃ……」
 そうだった。
 有栖川家の秘められた家訓として、そうした決まり事があるのだ。
 だから、初詣もしないし、受験だからと言って神社のお守りを求めることもなかった。
「建物見学と思えばいいさ。仏像だって芸術品として見れば、なかなか綺麗なもんだぜ?」
「…そっか。…うんッ、そだね。フフッ。」
 それであっさり了解してしまうのも、ミルク世代ゆえだろう。
 すでに感覚的にはミルクに何の拘りもなかった。
 だから、”縁起が悪い”という言葉で恐怖心を植え付けて警戒させているように思える。
 ミツルあたりだと既に”論理的根拠がない”と判断し、敢えて神頼みする気もないから行かないだけで、人から貰ったお守り等は平気で持ち歩いたりする。
 ――八百万の神々が健在な頃なら、霊験もあらたかな分、祟りも恐ろしかったのだろうが、こうも和洋折衷入り乱れた文化が狂瀾する時代になると、神々もわざわざ光臨する気もなくすのだろうか。
 ご加護もあやふやだが、祟りもあまり聞かなくなった。――

「うわッ……階段長ぁーい……」
 ミルクはお社が見えないほど高い階段にゲンナリとした顔になる。
 ・・・お腹の子に悪いだろうか?
 今更だが、父親志望のマサトは不安になった。
 マサトの心の中では、ミルクの懐妊は疑惑ではなく願望になりつつあった。
「・・やっぱりやめておこうか?・・それともおんぶしてやろうか?」
「大丈ブイッ!…フフッ。…景山さんに縄跳びで鍛えて貰ってるもぉーん。」
「ボイラー壊れて以来、行ってねぇだろ。」
「でも、冬休みだってバイトで立ち通しで鍛えられちゃってるもん。」
 宿を出てからずっと、マサトの過度の心配性と過保護ぶりに肩が凝ってきたミルクは、つま先立ちになって階段を駆け上がり始めた。
「あ・・おいッ。転ぶなよッ。」
 マサトは冷や冷やしながら後を追いかけた。

 神社では、マサトがパンフレットを見ながら概要や言い伝えなどを説明してやったが、ミルクは、
「へぇ……」
「ふーん……」
と、多分耳から耳へと通過していってるだろう、と思える返事を繰り返すだけだった。
 ただ、お守りを売っているコーナーで、《安産》系のお守りをかなり熱心に眺めていた。
 ・・・ほら・・・やっぱりなぁ?
 と、マサトは内心ホクホクとしながら、
「どれか、買ってやるぜ?」
と言った。
「…ぅーん……どぉーしよぉ……」
 その返事はもう、ほぼ肯定と受け取れる。
 けれど、”縁起が悪い”という禁忌が脳裏を過ぎったミルクは、
「やっぱ、いらない。」
と、諦めて肩を竦めた。
 こうなったら、後はミルク本人の口から直接言わせるのみ。
 マサトは帰りの土産物屋で、ミルクがあれこれ買い込む間中、気も漫ろに父親としての心得を頭の中で数え上げていた。


 部屋係の仲居が教えてくれたもう一つの場所は、少し遠出になるがゆっくりされたい方にはお薦めだと言っていた、高原美術館だった。
 マサトはミルクと落ち着いて話がしたかったので、足を伸ばすことにした。
 高原美術館は、館内の展示物の他に、山の斜面を利用して造形物を点在させた空間的美術品展示スペースもあった。
 ただ、冬枯れの景色の中では寒さばかりが目立ってしまって、夏なら深緑の背景に映えるだろう作品も、寒々としている。
 そのせいか、冬晴れの土曜日でも一歩外に出ると人影がめっきり少なくなった。

 本館が見えない坂下にベンチ代わりにも使用されている展示物があったので、マサトは、
「少し休んで行こう。」
と、ミルクを誘って座った。
 膝に座らせてやろうかとも思ったが、ミルクも厚いコートを着ているので、直接ベンチに座る方が楽そうだった。
 山の斜面だけに見晴らしは良く、眼下には山の景色とその先に温泉街も小さく見えている。
 ミルクは座ると早速、買ったばかりのカルメ焼きを袋から取り出して嬉しそうに食べ始めたので、マサトはしばらく景色を見ながら黙っていた。

 それでも、ここでちゃんとミルクに白状させよう、と決めていたので、意を決して尋ねることにした。
「なぁ・・・さっき、本当は安産のお守りが欲しかったんだろ?」
 いきなり切り出されてミルクは目を丸くしてマサトに視線を向けた。
 そして、視線が合うと、目を泳がせて逸らしてしまったが、うなじから耳まで赤く染まる。
「なんだったら蛇神神社で祈祷して貰ったお守りを取り寄せたっていいんだぜ?」
 ぁ…とミルクの口が開く。
 それから唇を軽く噛んでうつむき、少し考え込んでから、
「……絶対…誰にも言わない?」
と、白状する気になったようで、そう聞いてきた。
「言うな、ってゆーなら言わないさ。・・ま、いずれはわかることだがな。」
 お腹が大きくなったら誤魔化せるものではないだろう。
「…ぅん。…それはわかってるの。…でも、今はまだお兄ちゃんも受験が間近だし、余計な心配は掛けたくないし……」
「わかってる。」
 ・・・って、言ってもアイツは自分から心配の種を拾ってるぞ・・・
「…それにまだ色々問題あって…はっきり決めてないし……」
「決めてない、って?」
「…産むか、…どうか……」
 マサトは眉をひそめた。
「何言ってるんだ?すでに誕生した命を、親の都合で抹殺していいと思ってるのか?」
 少し厳しい口調になる。
 ミルクらしくない考え方に思えたのだ。
「…ぅん。…そーだよねぇ……」
 ミルクは悲しそうに溜息を吐く。
「・・大変なのはわかるが、俺も最大限協力するし・・・」
「…本当?」
「当たり前だろッ!家族じゃねぇかッ!」
「だよねぇッ?…そうだよッ。家族なんだもん。どんな協力だってするのが当然なのに……」
 ミルクも、うんうん、と自分を納得させるように言う。
「…ぁ…でも、まだ病院で診て貰ってないし…確かじゃないんだけどぉ……」
「・・診察かぁ・・・」
 マサトは腕組みをして眉間にシワを刻む。
 ・・・優秀な女医がいる産婦人科を探さなきゃならねぇな。
 ・・・俺が医学書を見て、一人で取り上げてやってもいいが・・・いや、いっその事そうしちまうか?
「…でも…お互いの立場があるから……」
「立場?・・まだ入籍してない、って事か?」
「…ぅん。…それもあるけどぉ……」
「だったら入籍すればいいじゃねぇか。赤ん坊が産まれるまでには時間もあるし、周囲の環境を整える時間はたっぷりあるさ。何も問題なんかねぇよ。」
「…だって…パパのこともあるし……」
「向こうは向こうで勝手にガキを作っちまってるんだ。関係ねぇだろ?」
「……ぅん……」
 ミルクは大きく溜息を吐いた。
「…でも…ママが…産まない方がいい、って言うの……」
「バカ言うんじゃねぇーッ!」
 マサトは腹が立って思わず叫んでしまった。
「だよねぇッ?絶対、産んだ方がいいよねぇッ?」
「・・ったり前ぇだろッ!」
「うんッ。…やっぱ、ママを説得しよう。」
 ミルクがホッとした笑顔になった。
 マサトも途中で怒りを感じることもあったが、父親になるんだ、と思うと顔がニヤけてくる。

「俺達に似た可愛い子が産まれるぜ。」
 マサトの言葉にミルクが、キョトン、として瞬きをする。
「……俺達って…?」
「え・・・そりゃ、お前に似た方が可愛いだろうが・・・俺にもどこか似ると思うぞ。」
「……何で?」
「何でって・・俺が父親なんだから、当然そうなるだろーが。」
「えーーッ?!……ウッソォーーッ!」
 ミルクは信じられないとばかりに首を振る。
「・・・・・違うのかッ?!」
 マサトは怒りに頬を痙攣させてミルクを凝視する。
「だってぇ……ママと付き合ってるのは高藤さんじゃないのぉ?」
 ミルクも、ムッ、としてマサトを睨み付ける。
「・・・は?・・・何でここでミルクの母親と高藤の話題が出るんだ?」
「ここでって…ずっとその話題をしてたじゃん。」
「・・・はぁー?!・・・って、もしかして・・・妊娠してるかも、ってゆーのは、・・・お前のお袋かぁ?」
「他に誰が……あぁぁーーーッ!ミルだと思ってたんだぁッ!」
 ミルクはようやく過保護過ぎるマサトの態度に納得した。
「・・・・・違うのかよ?」
「違うに決まってるじゃん。…やーね!」
「やーね、ってなぁ・・・まだ、可能性はあるぞ。」
「えぇぇぇーーー……ぅぅぅー……やだぁ……」
「・・・ぉぃ・・・俺の子供は欲しくねぇのか?」
「…グシュ…そりゃぁ、いつかは欲しいけどぉ…グシュグシュ…子供出来るとぉ…マサトのミルへの気持ちが半分になっちゃうかもぉ……」
「バーカ。んなことあるわけねぇだろッ。」
「……だってぇ……」
 ミルクはマサトの胸に顔を埋めて、鼻を啜りながら顔を擦り付けて甘える。
 マサトは、ガックリ、と肩を落として大きく息を吐いた。
 まだまだお子ちゃまのミルクには、母親になるのは無理らしい。
 ・・・・・それにしても・・・・・
 ・・・くっそぉーーッ!高藤の奴ぅぅーーッ!
 ・・・俺達より後から付き合い出したくせに、先に子供作りやがってぇッ!
 いや、そーゆー問題では・・。
 ・・・ミルクの手前、反対も出来ねぇが・・・クソッ。・・・イビってやる・・・。
 だから、そーゆー問題では・・・。

 産まれてくる新しい命の為に、ちゃんとした環境を作ることが先決だろう。
 琉美江がまだ籍の入っているミルクの父親との離婚を早急に進めなければならない。
 しかも、高藤もまだ離婚という話まで進んでいない。
 これらをどうにかクリアした後、琉美江と高藤を結婚させた上で、赤ん坊の誕生を待つことが望ましく思われる。
 簡単にクリア出来る問題と、クリアまでの難問を抱えている問題もあり、完全に解決するのはずっと先のことになりそうだ。
 更にマサトとミルクの二世誕生は、遙か遠い先のことになりそうだった。