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<41>
「塞翁が馬」
§41§「塞翁が馬」

 地下アジトの診療センターにある集中治療室。
 竜二が体中あちこちギブスをして、ミイラ男のように包帯巻きになって寝かされている。
 辛うじて顔は見えているが、瞼は腫れ、口元には酸素マスクが装着されている。
「意識が戻ったのか?」
 ベッドの横に佇んで顔を覗き込んだマサトが、向かい側にいる本郷に尋ねる。
「はい。もう大丈夫です。後は時間が回復してくれますよ。」
「そうか。」
 頷くマサトの顔はホッとしたように見える。

 倒しても倒しても起き上がるので、必要以上にダメージを受けてしまった。
 ・・・まぁ、若松にその辺の抜かりはないが・・・
 なまじ腕が立たない男に任せたら、寸止めで命を繋ぐマネは出来なかっただろう。
 ・・・思ったより根性はあるな。
 マサトは満足そうに笑みを浮かべた。

 と、竜二の目がわずかに開き、
「・・・何の・・・用だ?」
と、かすれた息だけの言葉がマスクの中でくぐもって聞こえた。
 マサトはじっと竜二の目を見つめ、
「一条氏に、しばらくお前を預かることは断っておいたぜ。」
と、答えた。
 竜二は微かに眉を寄せ、
「・・・関係・・ねぇ・・・」
と、吐き出す息で言った。
「フン。まぁな。一条氏も同じようなことを言ってたぜ。勘当するから、煮るなり焼くなりどうとでもしてくれ、だとさ。」
 竜二は返事の代わりに口の片端を引き上げた。
「つまり、お前はもう俺の掌中にあるということだ。」
「・・・好きに・・・しろ・・・」
「俺はわざわざ掌に敵を握ったりはしねぇぜ。お前を俺達の仲間にする、って言ってんだよ。」
 竜二は、腫れた瞼を無理矢理押し上げて目を見開き、初めてマサトに視線を向けた。
「仲間になった祝いにクソ親父を消してやろうか?」
 竜二は、はぁ?、とピンとこない顔をしている。
「嫌味な兄貴を潰すか?それとも自己中なお袋に思い知らせてやろうか?・・俺は本気だぜ?」
 竜二はようやく意味を理解したようで、目の色を恐怖に変えた。
「や・・めろッ・・・家族には・・・手ぇ・・出さねぇで・・くれぇ・・・」
「ほぉ・・・仕返ししてやりたくねぇのか?お前を蔑ろにしてきた事に抗議しねぇのか?」
「・・・家族は・・・家族だ・・・大事な・・・俺の・・・」
 マサトは、フッ、と表情を和らげて、竜二の頭をそっと撫でた。
「よしよし。・・・ククッ。お前、いい子じゃねぇか。・・なぁ、竜二?」
 そう言ったマサトの声が暖かく優しかったので、竜二はマサトの本当の真意を知って、胸を打たれた。
 何て懐の深い暖かい人だろう、と感動の涙が込み上げてきて、目尻から流れ包帯へと吸い込まれた。
 懐の広い人ならそれなりにいるだろう。
 だが、懐が広くても浅い人より、一見狭そうでありながら実は底が見えないほど深い人が、”好きだぁぁぁーー!!”、と竜二は思った。
 若松を始め、仲間の皆がマサトを崇拝し慕う理由が、竜二にも実感としてわかると同時に、同じ精神レベルに嵌ってしまった。
 竜二の目にも仲間に共通する輝く星が灯った。
 熱く輝く瞳となった竜二は、表情まで明るくなったように見える。
 マサトは笑みを深め、”よしよし。”と頭をそっと撫でていた。

「…ねぇ〜……もぉ〜いい〜?」
 集中治療室の入り口を少しだけ開けて、大きな目を片側だけ覗かせているミルクが声を掛けた。
 一緒にお見舞いに来たものの、「男同士の話がある。」と言われて廊下で待たされていたのだ。
「あぁ、いいぜ。」
 マサトが振り返って笑う。
「はーぃ。…お邪魔しまぁーす。」
 明るい声で挨拶したミルクが部屋に入ってくる。
 向かいの本郷に会釈したミルクは、マサトに並んで竜二の顔を覗き込む。
「…ぅわぁ……ホントにミイラ男だぁ……」
「・・・こらこら。」
「んでもぉ…ゲームのキャラでけっこう活躍するじゃん?もぉ〜めちゃめちゃタフな敵キャラ〜。キャハハッ。」
 竜二も可笑しくなって目を細める。
 これはゲーマー仲間にしかわからない共感だろう。
「…だから、早く復活して…ね?」
 そう言って胸の前で両手を祈るように組み合わせたミルクは、泣きそうな笑みを浮かべている。
 竜二は固定されて動かない首の変わりに、瞬きして応えた。
 その竜二の視線がミルクの手首に向けられた。
 ミルクの両腕にも包帯が巻かれているのが、袖口から見えている。
「・・・手首・・・大丈・・夫か?」
 ん?……と、聞き取れなかったミルクが首を傾げたので、マサトが代わりに伝えてやった。
「あ、これ?うんッ!もう全然平気なんだけどぉ…マサトがまだ心配だ、って言うからぁ、仕方なく湿布してるだけなの。」
 ミルクのはにかんだ笑顔に竜二も笑みを浮かべた。

「仕方ねぇじゃねぇぜ、ったく。・・あんなに暴れるとは計算外だったぜ。」
「…ぁぅ……ごめんなちゃぃ……」
 加害者が怒り、被害者が謝る奇妙な現象がそこにあった。
 マサトは、
「手首だけは誤魔化せねぇから、暴れねぇようにと足を縛ったのに、北風に揉まれる蓑虫みてぇに動き回るんだから参るぜ。」
と、ミルクのおでこを指でつつく。
「ぇー……だってぇ……そんなこと教えてくれなかったじゃなぁーい……」
 ミルクがマサトの胸に指先で”の”の字を描く。
「洋服を着替えるように言われてぇ…革製のボディスーツ着てからドレス着せられたからぁ、変だなぁ…とは思ったけどぉ……ロープでグルグル巻きにされたりぃ…超ぉー悲しかったんだからぁ……」
 ミルクがマサトに胸を押しつけて、頬を膨らませながら下からマサトの顔を見上げる。
「あのロープだってなぁ、ガードの一部だったんだぜ?」
 マサトが甘い声で言って、ミルクの頬を撫でる。
「…ぅーん……それはぁ後で聞いたけどぉ……ちゃんと前に説明してくれなきゃ、わかんないもぉーん。」
 ミルクがまだ頬を膨らませていると、マサトが背中を倒すように長身を屈めてミルクの両頬にキスをする。
 途端にミルクの顔が、ふにゃぁ〜、と崩れてマサトに抱きつき、胸に顔を埋める。

「あー・・コホンッ!・・・ここは病室だということをお忘れなく。」
 本郷が片目を眇めて、頬を指で掻きながら医師として注意する。
 ミルクを抱き締めて髪に頬ずりをしているマサトが、横目でギロリと本郷を睨む。
「診察室で子作りしてるてめぇにゃ言われたくねぇぜ。」
 …プゥッ…クスクスッ……
 マサトの胸でミルクが吹き出して笑っている。
「病人の心情もご考察を。」
 本郷が竜二のことを気遣って言ったのだが、当の本人は、
「・・いいッスよ・・・それより・・・可笑しくて・・・腹が痛いッス・・・」
と、目を細めて笑ったり、腹部の痛みに顔をしかめたりと忙しく表情を変える。
 それでも、吹っ切れた明るい顔だった。

 結局、見舞いに来たのか、ラブラブぶりを見せつけに来たのか、わからない二人は本郷に病室を追い出されてしまった。
「やれやれ。・・・いっつもあの調子のバカップルで・・・。慣れたら気にするのもバカらしくなるだろう。・・ん?」
 本郷が竜二の怪我の様子を診ながら言うと、
「・・・いえ。・・・素敵な・・お二人ッス。・・・それに・・ここは・・・暖っけぇ。」
と、息だけの声で答えた竜二が、満たされた顔で目を閉じた。
「・・そうだな。それがわかるようになれば、君は立派な仲間だよ。・・・さぁ、少し眠るといい。今は体を治すことに専念することだ。」
 竜二は目を閉じたまま、答える代わりに口元に笑みを浮かべた。
 そして、点滴に注入した薬が効いてきたのか、そのまま静かな寝息を立て始めた。


 竜二の見舞いを済ませたマサトとミルクは、二人だけで街に繰り出していた。
 ミルクの両腕の怪我は、誰もが痛々しく思うことだったが、二人の関係には幸運だったかも知れない。
 それまで母親の代わりを務めようと躍起になっていたミルクは、家事を優先する為にマサトとのデートも控えていた。
 けれど、怪我で家事が出来なくなり、前からマサトが提案していた家政婦を有栖川家に置くことを受け入れたのだ。
 母親はまだ昼間はケーキショップに出向いていたが、高藤の気遣いもあって早めに家に帰るようになり、通いの家政婦がいることで家事も楽になり、ミルクが家のことを心配しなくて済むようになった。
 マサトも竜二の出現に当初は怒りを露わにしていたが、それが公然とミルクをガード出来る理由になったし、ミツルともガードの星野を通じて距離を縮めることが出来た。
 感激屋の星野はミツルにも心酔してしまったようで、他のガードが当番の夜でも有栖川家を訪れて、ミツルの部屋で勉強の邪魔をしないように本を借りて読んだりしている。
 ミツルも星野の人柄が気に入ったらしく何かと話し相手になり、3歳の年齢差を飛び越えた友情が芽生えつつあった。
 ただ、ミルクが怪我した時には、ミツルが青筋立てて、「約束が違う!」とマサトを詰問した。
 マサトにもミルクの怪我は痛かったので、始めに心から謝罪したが、「猫に首輪をつけて散歩させるくれぇ、ミルクを大人しくさせておくのは難しかったんだぜ?頑固で融通が利かねぇ片鱗がお前にそっくりだぜ。」と開き直られると、ミツルにもそれ以上反論は出来なかったようだ。
 そんなこんなで色々あったが、マサトとミルクのラブラブは深まり、結果的には全てが好転していた。

 マサトとミルクは特に決めずに映画館へ行き、ミルクがどれを観るか選んで映画を鑑賞した。
 それから、喫茶店で並んで座り、パンフレットを一緒に覗き込んだりして話をするのだが、
「この主人公がミルクの趣味なのか?」
と、マサトが面白くなさそうに聞くと、
「ぃゃん。役柄が好きなだけだよぉ。」
と、ミルクがマサトにもたれかかって答え、ミルクが、
「でもぉ…この人が恋人だったなんてぇ、ちょっとショックぅ。…男の人ってぇ、こーゆーキツイ女性が好きなのぉ?」
と、唇を尖らせて言うと、
「さぁな。人の趣味まではわからねぇ。・・けど、俺にはお前が一番だぜ。」
と、尖った唇に軽くキスをする。
 人目などお構いなしのラブラブバカップルで目も当てられないが、当人同士が幸せならそれもいいだろう、といった感じだ。

「…ぁ…そうだ。…あのねぇ……」
 ミルクが声を潜めて囁くので、マサトが耳を傾けた。
「うん?」
「小百合さんが、竜二さんのことを心配してたからぁ、…マサトさんが竜二さんを気に入ったらしくてぇ、バイトを頼んぢゃったの、…って言っちゃったのぉ。」
「・・・バイトか・・・ま、いいだろ。」
「んでもね…会えない理由がいるからぁ…海外のお仕事みたい〜…って。…えへへ…」
「海外かぁ?・・・じゃぁ、土産がいるな。」
「ぁ…やっぱ?」
「いいさ。傷の具合が良くなったら、一度蛇窟島へ静養を兼ねて行かせてやるぜ。その内、訓練にも参加するようになるだろうし、・・ぶつかりてぇならいくらでも相手がいる、って見せてやれば少しは井戸の中の大将だった目が開かれるだろうぜ。クククッ。」
「ぁー……SSSの人達が、また面白がって構いそぉ……」
「いいじゃねぇか。人に揉まれて成長していくんだぜ?」
「……ぅん。」
 こーゆー時は、マサトが大人に見える。
 ミルクがクリームソーダをストローで飲みながら、上目遣いにじっとマサトを見つめるので、マサトは、
「・・俺が欲しくなったか?」
と、ミルクの耳元で囁く。
「…ち…違うもん。…ぁ…違くもないけどぉ……ぅぅ……」
 ミルクは焦って赤面し、クリームソーダがなくなってもストローで底を吸っている。
「クックッ。・・・もう、行こうぜ。」
 マサトがミルクの手首より上の腕を優しくつかんで、席を立つように促す。
「……ぁぃ。」
 ミルクは耳まで真っ赤になりながら、マサトに従った。

<42>
「無意識」
§42§「無意識」

 二人だけの甘い時間を過ごす為に、街中にあるマンションへとやって来たマサトとミルク。
 ラブラブぶりを見せつけていた二人でも、やはり竜二が入院している同じ地下アジトでは気が引けた。

 玄関でミルクが靴を脱ぐのを待って抱き上げたマサトは、大人のムードたっぷりに優しいキスをして、ゆっくりと寝室に向かった。
 そして、ミルクをベッドに下ろしてやってから、ミルクの服を丁寧に脱がしていく。
 ミルクはうつむいて耳を赤くしている。
「・・クスッ。・・何、テレてんだよ?」
「、、、、、だって、、、、、」
 ……やっぱりドキドキしちゃうもん……
 マサトはミルクの赤く熱を持った耳にそっとキスをして、また服を脱がせていった。

 景山厳選の超フェミニンなワンピースの下は、お揃いのベビードール風白いレースのキャミソールとキュロットペチコート。
 そんな可愛い下着を脱がせると、白磁のように滑らかで透明感のある白い肌が現れる。
 ただ、まだ鞭で打たれた時の青あざが残っている。
 肌を切り裂くような傷は防御出来ても、うなる鞭の衝撃はどんなにガードしても防ぎきれない。
 加減していたとはいえ、骨に響く痛みだったことは間違いなかった。
 それでもミルクはマサトに鞭打たれる度に、マサトの苦しいほどの愛を感じていた。
 ――ミルクもマサトに従順になれない自分を持て余していた。
 嫌なものは嫌……そんな強情さが自分でも嫌になる。
 マサトにだって理があるし、素直に全てを無条件で受け入れられるのが本当の愛じゃないか、と悩んだりもした。
 だけど、マサトはミルクの強情さを尊重してくれたのだ。
 ミルクの主張を容認したからこそ、鞭打つことで黙らせるという手段を、ミルクだけでなくあの場にいた全ての人達に見せつけたのだと思う。
 男の理屈と女の願いは時には反発し合うもの。
 相容れなくとも否定はせず。
 ただしお互いの領域は侵すべからず。
 そんなことを、敢えて厳しくミルクに教えてくれたのだと、ミルクも理解していた。――

 ミルクの体に残る青あざを見ると、マサトの顔が苦渋に翳る。
「、、、マサトぉ、、、そんな顔、、しないでぇ、、、」
 ミルクがマサトの頬を指先で撫でると、マサトがその手を包むように握り、掌に唇を押し当てる。
 何度か掌へのキスを繰り返し、もう一度自分の頬に戻して愛おしそうに頬ずりをした。
「・・・ミルク。・・・もう二度とお前を傷付けない。」
 マサトの熱い視線にミルクは戸惑う。
 自分のことだから、また失敗をやらかしそうだった。
「、、、別に、、気にしてないもん、、、いいよぉ?、、、またペシペシしてもぉ、、、」
「・・・いや。・・・もう、こんな痛みは御免だぜ。・・・泣かせるなら愛して愛して狂うほど愛して泣かせてぇ。」
「、、、あの時だって、、、愛されてたもん。」
「・・・ミルク・・・」
 マサトは涙の滲んだ目を優しく弓形に細め、ミルクを抱き寄せて唇を重ねた。
 華奢な肩、細い腕、男の世界に関わっていくだけで苦労も多いはずなのに、いつも明るい笑顔で側にいてくれる。
 ・・・それ以上の何を望むというのか・・・
 マサトは愛しても愛し尽くせない思いの丈を込めて優しく舌を絡めた。

「、、ぁ、、、ン、、、マサトが欲しいよぉ、、、」
 ミルクはマサトのワイシャツに手を伸ばし、震える指先でボタンを外そうとする。
 まだ、指先に力を入れると手首に響いて痛みが走る。
「バカ。・・お前は当分手を使うな、って言ってるだろ?」
 マサトがやんわりとミルクの手を膝に置き、キスをしながら自分でも服を脱いでいく。
「、、、マサトぉ、、、」
 マサトの筋肉が盛り上がった肩が露わになると、ミルクはキスをして顔を擦り付ける。
 鍛え上げた意地の塊。
 悔しさを不屈魂に、悲しみを忍耐に、怒りを力に、弛まぬ努力を重ねてきた体。
 もちろん、持って生まれた特殊な能力や天与の才もあるとは思うが、ミルクはマサトの魂そのものの逞しい体が大好きで堪らなかった。
 自分には届かない先までも、マサトなら行けるような気がする。
 それは、組織の仲間達と共通する思い……きっと。
 お互い生まれたままの姿になると、
「、、、マサト、、、だぁ〜ぃ好きぃ〜、、、」
と、ミルクがマサトの首の後ろで両手をクロスさせて抱きついた。
「・・・ミルク・・・」
 マサトはミルクを抱き上げ、ベッドの真ん中へと移動し、体を重ね合わせて横になった。

 体重の負荷をかけないように、ミルクの体を抱き包み、ゆっくりとキスをする。
 マサトの股間の蛇が二人の間に伸び上がってくる。
 ミルクは手を差し込んで自分の肌に押しつけながら撫で上げた。
「・・こら。・・手は使うな。無理をすると、また腫れるぞ?」
「、、、ぅ、、ん、、、でもぉ、、、触ってると気持ちいいのぉ、、、」
「怪我がちゃんと完治してからだって、いくらでも触れるぜ?」
 マサトが可笑しそうに言うと、ミルクは小首を傾げ瞬きをする。
「、、、最近ねぇ、、、マサトの蛇しゃんがぁ、、、」
 言いにくそうに上目遣いの瞬き……
「ん?」
「、、、いっつも頭の中にいるみたい、、、」
 ミルクが困ったように唇を尖らすので、マサトは噛み殺した笑いで腹筋を震わす。
「ぅぅ、、、笑ったぁ、、、」
「・・・笑ってない。」
 ミルクはスンッと鼻を吸うと、フッ、と視線を逸らした。
 何気ない仕草なのに、あどけなさと妖艶さが入り交じり、蛇が、ドクンッ、と大きく撥ね上がる。
「、、、だってね、、、蛇しゃんとぉ、、、同じ太さの物を見るとぉ、、、つい握っちゃうんだもん、、、」
「・・・・・ぁあ?」
「、、、でね、、、気が付くとぉ、、、こぉ、、、」
 ミルクが蛇の腹を指先で上下にさする。
「・・・おいおい・・・何を扱くって?」
「、、、別にぃ、、、決まってないけどぉ、、、階段の手摺りとかぁ、、、電車のパイプとかぁ、、、」
 ミルクが思い出そうと視線を宙に彷徨わせる。
 ・・・マジかよ?
 ・・・それは・・・ちょっとヤバイぞ。
 ミルクの細い手首がしなやかに動き、白魚の指が妖しく動く様に、いつも見取れてしまうマサトは、危ない光景が浮かんで焦りを感じた。
「、、、それとぉ、、、先っぽがまぁーるい物があるとぉ、、、こぉ、、、」
 ミルクが、今度は蛇の頭を掌でクルクルと撫で回し始めた。
 マサトは気持ち良さに背中を駆け上がる快感を覚えながらも、
「それは絶対にやめろ。」
と、注意した。
 ミルクが、ピタッ、と手を止める。
「あ・・いや、今じゃなく・・・人前でする行為じゃねぇだろ?」
 ・・・まして俺のいない時になんて、危な過ぎるじゃねぇかッ!
「、、、ぁん、、、だってぇ、、、無意識なんだもぉん、、、」
「一緒の時はいくらでも握ってていいから・・・人前では絶対するなよ。」
「、、、、、ぁぃ、、、気を付けましゅ、、、、、」
 ミルクは自信なさそうに小さく頷いた。
 ・・・クッソォーッ・・・
 ・・・ミルクをどっかに隠しちまいたいぜ!
 マサトはまた第二の竜二がどこからか現れそうで気が気ではなかった。
 ・・・警備させる、って言っても、警備にも限界はあるしなぁ・・・
 ・・・何とか学校以外は俺の側にいるようにさせねぇとな。
 無意識の行為を責められない。
 無意識の可愛さも無意識なあどけなさも無意識の妖艶さも、罪深いほどに悩ましいとはいえ、ミルクを責められない。
 マサトは課題を一つ抱え込んだ心境だった。

「とにかく・・・今日は手を使うな。」
 と、マサトはミルクに包帯の巻かれている両手を頭の両脇に置かせて、ミルクの体を上から丹念に愛撫していった。
 真珠のように輝く丸い胸を両脇から掌で包み、感じて固く窄んでいる乳首を舌先で擦り、チュッ、と吸って唇で解す。
「、、ンッ、、、ぁ、、、」
 唇に力を入れて強く吸い付くと、ビクンッ、と反応して背中を浮き上がらせる。
 両方の乳首を交互に吸った後、指先で抓みクリクリと回す。
「、、ぁぁん、、、感じるぅ、、、」
 ミルクがうっとりと目を細め、甘い息を吐く。
 背中が浮き上がる度に滑らかな腹部の白い肌が波打つ。
 乳首をクリクリと抓みながら、甘い肌を腹からヘソへと舐めていく。
「、、、ン、、ンン、、、ぁぁぁ、、、」
 次第にミルクの息遣いが早くなっていく。
 悶えて体を左右に揺らしている内に、自然と膝が曲がって足が開かれていく。
 マサトはミルクの太腿を押し上げ、股間に顔を埋める。
「、、ぁッ、、、ぁぁッ、、、ん、、、」
 甘い蜜がトロけ出している花陰を鼻で擦る。
 クチュッ、、クチュッ、、、
 湿った音をさせて花弁が綻び、トロォ〜リと蜜を溢れさせる。
 甘酸っぱい果実の薫り……
 蜜を舌ですくいあげ、そのまま蜜壺に舌を差し込んで、蜜を啜る。
 ズズッ、、、ズズゥゥッ、、、
「、、ぁぁん、、、マサトぉぉ、、、」
 膣口がヒクヒクと痙攣して花弁が震え、肉襞が細かく微動しながら吸引するようにうねる。
 差し込んだ舌が奥へと吸い込まれるように締め付けられて甘い痺れを感じる。
 いつも思うことだが、これほどの名器はまさに魔性の存在としか言い様がない。
 マサトは蜜が綺麗になるまで舐め続ける。
 それでも、尽きることなく蜜が溢れ出てくる。

「、、マサトぉ、、、きてぇ、、、」
 ミルクが甘い息でおねだりする。
「・・・ん・・・そうだな。」
 マサトも、もう我慢出来ないと、ドクンドクンと腹を打ちながらヨダレを垂らしている蛇に追い立てられていた。
 背骨が熱く疼き腰から股間へとエネルギーが充填されていく。
 真っ赤になった蛇は鋼鉄の固さに硬直して、愛の花園への突入を催促している。
 マサトはミルクの両足を大きく開かせ、その間に膝を着き、蛇の頭を花弁に擦り付けた。
 花弁から溢れる蜜と蛇の垂らすヨダレを捏ね合わせ、グゥッ、と力を入れて押し込むと、蛇頭が花弁を裂くようにめり込んで埋没する。
「、、ぁ、、あぁぁ、、、めちゃめちゃ大っきいぃぃ、、、」
 ミルクが顎を上げて仰け反り、喘ぎ声を洩らす。
「・・これがお前の好きな太さか?」
 マサトはしばらくその状態で、意地悪く笑う。
 無意識の罪への、ちょっとしたお仕置き。
「、、ン、、、ぁん、、、ハァ、、、ぁぁ、、、」
 ミルクが肩を少し上げて手を伸ばし、赤黒い蛇の胴体をつかむ。
「、、ンー、、、これぇ、、、ミルを狂わせるのぉ、、、」
 キュゥゥゥーーッ、、、
 蛇の首を締め付けながら胴体を指でさすり上げる。
 マサトの全身に電撃が走り、髪の毛が逆立つほどの快感に悶えてしまう。
 眉間にシワを寄せ目を閉じて、呻くような息を洩らす。
 天性の淫魔に敵うはずがない。
 マサトは観念して、グゥゥッ、、と腰を前に突き出し、体を深く埋めていった。

「アァァァーーーッ、、、んっんーーッ、、、」
 ミルクは背中を浮かせてマサトの首に抱きついた。
 マサトはミルクの腰に手を添えて抱っこしてやる。
 深く繋がった股間をピッタリと密着させ、しっかりと抱き合ってお互いがお互いの一部となった喜びを噛み締める。
 向き合って膝に抱っこされたミルクは、マサトの肩に頬ずりをして甘える。
 マサトもミルクの背中を支えながら、一方の手で髪を優しく撫でてやる。
「、、、ミルの中に、、、マサトがいるぅ、、、」
「・・・俺の中にもミルクがいるぜ・・・」
 ……ん?
 と、ミルクが顔を上げてマサトを見つめる。
 マサトが優しく笑って、
「ほら。・・俺の腕の中にスッポリとはまってるだろ?」
と、膝と腰をちょっと動かしてミルクの体を揺する。
「、、、ぁ、、ぁぁ、、、ぅん、、、」
 股間が擦られて、ミルクの中の蛇が暴れて肉壁を強く擦った。
 感じて喘いだミルクが恥ずかしそうに頷く。
「クックックッ。・・・本当は、俺の魂の中にいる、って言ったんだよ。」
 ぁー……
 声を出さずに口だけで言ったミルクが拗ねて膨れる。
 けれど、すぐに笑って顔を覗き込んでいるマサトの鼻と自分の鼻先を擦り合わせた。
 くすぐったいほどの甘い繋がり。
 自然と引き合う唇が重ねられる。
 クチュ、、クチュ、、クチュ、、、
 唾液を絡ませ合い、舌を絡ませ合う、官能的なキス。
「、、、ッ、、、ぁふっ、、、ハァァ、、、」
 ミルクは堪らないとばかりにマサトの肩に腕をかけて腰を動かし、自ら捕らえた蛇を細かく痙攣する肉襞で擦り始めた。
 マサトも逞しい太腿でミルクの体をホッピングさせて動きを助ける。
「、、っぁぁ、、、んぁぁ、、、ハァハァ、、、ぁぁぁ、、、気持ちぃぃ、、、」
 ちょっと眉を寄せたミルクの顔が泣き出しそうな幼子のようで可愛くてたまらない。
「・・あぁ・・・俺も気持ちいいぜ・・・はぁぁ・・・」
 マサトはもっと感じさせたくてミルクを大きく上下させる。
 擦られて感じる蜜壺が奥まで、ズンズンズンズンッ、、と響く。
 ミルクの脳天まで快感が突き抜けていく。
「あぁぁ、、、あっぁぁん、、、あぁぁぁ、、、ぁぁん、、、」
 ミルクのよがり声が一際甘く高まっていく。
 ふっくらと丸みのある胸がマサトの胸と挟まれて、乳首の先を捏ね回しながら大きく揺れる。
「スゥ、、ハァァ、、、スゥゥ、、ハァァ、、、あぁぁ、、、どうかしちゃぅぅぅ、、、」
「・・いいぜ。・・・好きなだけ乱れろ。俺がしっかり抱いてるから・・・乱れ咲いて花吹雪を散らせろ。」
「、、、ぁぃ、、、ハァハァ、、、あぁぁぁぁん、、、」
 ミルクは手首に力が入らないので、肘に力を入れてマサトの肩につかまり、激しく腰を振って快感を貪っている。
 ピッチピッチピッチ、、、
 クッチュクッチュクッチュ、、、
 肌がぶつかり合い、蜜壺が乱暴にこね回される淫靡な音と絡まり合う。
 重なり合わせた胸と胸の間に、汗が入り交じって伝っていく。
 ミルクの甘い花の香りと、マサトの魔的な香りに、果実の甘酸っぱい香りが溶け合って、芳醇な媚薬となり脳を冒していく。
「、、、あぁぁ、、、熱くてぇ、、、気持ちぃぃ、、、擦れてぇ、、、感じるぅぅ、、、あぁぁぁ、、、奥がズンズンってぇ、、、痺れるのぉ、、、あぁぁん、、、めちゃめちゃいいのぉぉぉ、、、」
 ミルクの動きが早く細かくなり、オルガズムの頂点に近付いていく。
「あぁぁぁぁぁ、、、いく、、、いく、、いくッいくぅ、、、あぁぁぁぁぁぁーーッ!」
 ミルクの動きが止まり、カクカクと体の震えがやってきて、痺れたように痙攣する。
「うぅ・・くぅぅぅ・・・はぁぁ・・・いい子だ・・・可愛いぜ・・・」
 マサトはまだ続けるつもりで自分がいくのを我慢しようとしたが、ミルクのキツイ締め付けと吸引に絡め取られるように熱いザーメンを放出させてしまった。
「・・・はぁぁ・・・ったく・・・ミルクには敵わねぇよ・・・」
 苦笑を浮かべ、まだエクスタシーに恍惚となっているミルクの汗ばんだ額にキスをした。

<43>
「ラブストーム」
§43§「ラブストーム」

 マサトは繋がったままのミルクをそっと胸に抱きながらベッドに横になった。
 片腕を頭の後ろに回して枕にし、片方の手はミルクの髪を撫でる。
 汗ばんだ髪が一際甘く香って鼻孔をくすぐり、マサトは笑みを浮かべて天井を眺めた。
 天井には一面銀河の写真が張ってある。
 本物の星空には敵わないが、それでも覇羅蛇の郷の星空を思い出して、孤独に疲れた心を慰めた夜もあった。
 今は心に、宇宙を抱くミルクがいる。
 愛という宇宙に、時にたゆたい微睡みながら、掛け替えのないその宇宙を守る為に、より大きな男になりたいとマサトは思った。

「、、、ン、、、ァフゥ、、、」
 ミルクが次第に陶酔から覚めてきて、マサトの胸に頬ずりをする。
「、、、マサト、、、温かぁ〜ぃ、、、ウフフ、、、」
「暖房、少し高めにしてあるからな。」
「、、、、、背中は温かくないのぉ、、、プゥゥ、、、」
「じゃぁ、熱い風呂にでも入るか?」
「、、、、、ゃん、、、まだ繋がってたいもん、、、」
 ミルクはマサトの胸にキスをしていき、乳首に吸い付く。
「くっすぐってぇ、って言ってるだろ。」
「、、、ムーン、、、マサトってぇ、、、不感症ぉ?」
 意外な質問だったが、マサトはふと考え込んだ。
 しばらく待っても返事がないので、ミルクはマサトの胸に顎をつけて顔を見上げた。
「、、、マサト?」
「・・・感覚がないわけじゃねぇが・・・ある種、鋭すぎて快感にならねぇ時があるかもな。」
 ミルクは、わからない、と首を傾げる。
「感じるより先に、その対象が何であるか、物質的にどんな物か、何を目的としているか、次の行動は何か、そんなことを判断しようとしちまうみてぇだな。」
「、、、えー?!、、、ならぁ、、ここもぉ?」
 ミルクが体の中に居座っている蛇をキュゥゥッ、、と締め付けた。
 マサトの蛇はいつでも行動を起こせるように態勢を整えて直立していたが、急に締め付けられて、「出番か?」と背伸びする。
「、、ぁ、、、ぁん、、、」
 ミルクは自分で意識して締め付けながら、自分で感じてしまい思わず甘い息を吐く。
「ククッ。・・・多分、そこもそうなんだろうな。」
 そう答えて、マサトは愛おしそうにミルクの頬を撫でる。
「、、、感じないのぉ?」
「お前以外はな。」
「、、、ふーん、、、」
 ミルクが疑わしそうに目を眇めた流し目をマサトに送る。
「クククッ。・・言っただろ。他の女に欲情したことはねぇ、って。・・・けど、ミルクは別だ。気持ちが先行していっつも欲情してるぜ。」
 マサトはいきなり体を起こし反転させると、ミルクを羽交い締めにした。
「好きで好きでたまらねぇから、欲しくて欲しくてたまんねぇのさ。」
 グィッ、、
 少し外に出ていた蛇竿の根元部分を、再びミルクの体の中へと戻すように押し込んだ。
「、、あぁ、、、ぁぁん、、、ミルはぁ、、、めちゃめちゃ感じちゃぅぅ、、、」
「俺だって感じてるぜ。・・・こんなに愛しくて可愛い場所はねぇ、って蛇が感激してる。」
 マサトは、喉で笑ってから、ミルクの額にキスをすると、
「感激だけじゃ物足りねぇから暴れてぇとさ。」
と言って、ミルクだけ寝かせておいて、体を起こした。
 それからミルクの両足をカエルのように左右に大きく押し開き、腰を大きく上下させて蜜壺を突き上げ始めた。
「あっぁぁ、、、ぁんん、、、あぁぁ、、、熱いぃぃぃ、、、」
 いきなりの展開に戸惑いながら、ミルクは熱い陶酔に溺れていく。
 力強く突き上げられ子宮が押し上げられる度に鈍い痛みが響く。
 激しく擦られる膣襞が悲鳴を上げるかのように蠢く。
「ハァハァ、、、あぁぁ、、、すごいぃぃぃ、、、ああっぁぁぁっ、、、壊れるぅぅぅ、、、」
 もう自分がわからなくなるほど、快感の激流に揉まれて流されていく。
「あ、、あ、、あぁ、、あぁぁ、、あぁぁぁ、、、あぁぁぁぁ、、、」
 体が大きく揺れるに任せ、ミルクは何度も大きく仰け反って、一気に昇りつめていく。
「まだだ。・・・もっともっと感じようぜ。」
 マサトはミルクの絶頂の震えが続いている中、ミルクの足をつかんで体の前を通して横向きにさせる。
 横向きになったミルクの片足をマサトの太腿に乗せて、今度は横向きの後ろからミルクを責め立て始めた。
 絶頂の高波から更に次の波へと乗り継いで快感が押し寄せてくる。
 ミルクは圧倒される激情に翻弄されて、体の中で暴れ狂う逞しい蛇にしがみついているのがやっとだった。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、、、、」
 体が揺れてよがり声も揺れる。
 蛇頭がズズン、、ズズン、、と当たる場所も変わって、そこの膣壁も悲鳴を上げている。
 白旗を振って降参したくなる。
 両足を閉じて膝を抱えて丸くなりたくなる。
 それでも足を閉じることは許されず、激しく責め続けられている。
「アァァァーーーッ、、、もぉぉ、、、アァァァーーン、、、だめぇぇぇ、、、」
「まだまだ・・こんなもんじゃねぇぜ。」
 マサトはミルクの片足を自分の体の前で高く上げ、足がクロスに組み合うようにした。
「ハァハァ、、、あっ、、あぁぁ、、、あぅぅ、、、あぅん、、、ハァハァ、、、」
 膣壁は抵抗をやめ、なすがまま状態で熱くとろけていく。
 激しい息の熱さを感じる。
 胸が忙しく上下している。
 汗が飛び散り、視界が霞む。
 自分の体が自分のものではないような感覚になり、快感の渦の中で錐揉み状態の意識が薄れていく。
 まるで知らない男に立て続けにレイプされているような気がしてくる。
 けれど、確かにマサトなのだ。
 恋しくて恋しくてたまらない男。
 男の逞しい肉体が躍動する。
 これがマサトなのだ。
 恋い焦がれ、愛しくてたまらない男。
 暴れる蛇が狂おしいほどに好き。
 尽きることない激愛が降り注ぐ。
「あぁぁぁ、、、もっとぉ、、、もっとぉぉぉ、、、めちゃくちゃにしてぇぇぇ、、、」
 勝利者のマサトの顔に魔的な笑みが浮かぶ。
 魔王が淫魔ごときに屈服するわけがないのだ。
 まだまだ、と闇の毒を注ぎ込む。
 乱れ、狂い、喚き、泣き叫べ!
 性奴隷へと仕向ける調教はまだ始まったばかり。
「、、あぁぁ、、、、、ハァハァハァ、、、、、あぁぁんん、、、、、」
 声がかすれ横隔膜が痙攣している。
 朦朧として目が虚ろになっている。
「・・・ククッ。・・・そろそろいかせてやるか・・・」
 そう言うと、マサトはラストスパートをかけて激しさに拍車をかけた。
「ァヒッ、、、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ、、、、、あぁぁぁぁぁぁーーーッ、、、、、」
 喉から声を絞り出すように悲鳴を上げ、ミルクは宇宙の果てのブラックホールへと吸い込まれていく。
「いくぜぇぇぇーーーッ!・・・ぐぅぅがぁぁぁぁぁーーーーッッ!!」
 マサトも魔王の怒号のように吠えて、沸騰しそうなスペルマを発射させた。
 マシンガンの弾となった精子が溶鉱炉となった子宮に打ち込まれていく。
 ミルクはガクガク痙攣しながらブルブルと震えている。
 絶叫して果てた後、意識をなくしても、体の神経が激しい快感から抜け出せずにいるらしい。
 マサトはゆっくり体を離すと、ミルクを優しく抱き締めた。

 深い眠りに落ちて数時間・・・。
 大きく息をして目覚めたミルクは、意識が戻ってもボンヤリしている。
「・・・クスッ。・・・大丈夫かな?」
「、、、、、ぅ、、ん、、、、、」
 ミルクが恥ずかしそうに頷く。
「レモンティー、作っておいたぞ。飲むか?」
「、、、、、ぅん、、、、、」
 ミルクがまた大きく息をしてから頷く。
 マサトは優しく笑ってミルクの体を起こしてやり、サイドボードからグラスを取ってミルクの前に差し出す。
 ミルクが震える手でグラスを持とうとしたので、
「持てねぇだろ?・・いいから、俺が持っててやるよ。ほら。」
と言って、マサトがストローをミルクの口にくわえさせる。
 コクン、、、コクン、、、コクン、、、
「、、ハァァ、、、おいちぃ、、、」
 ミルクはホッとしたように笑みを浮かべる。
「ハードなやつは久し振りだったから、けっこうキツかったか?」
「、、、、、ぅ、、、ん、、、、、」
 コクリ、と頷くミルクの頭がフラフラしている。
「これを飲んだら風呂に入れてやるからな。」
「、、、、、ぅん、、、、、」
 ミルクはどうにも恥ずかしそうに頬を赤くする。
 自分じゃないほどに乱れたことも恥ずかしさはあったが、それよりも、女として全身でマサトを男と感じているせいだった。
 魂が剥き出しにされたようで心細くて頼りない自分がいる。
 マサトの視線だけで触れる愛撫以上に感じてしまう。
「、、、、、マ、、サ、、ト、、、、、」
 小さな声がかすれて消える。
「ん?・・・何?」
 マサトがミルクの顔を覗き込む。
 ミルクは拗ねた上目遣いで、
「、、、マサトの視線、、、、、卑猥、、、、、」
と、抗議する。
 マサトは目を丸くし、ちょっと固まってから吹き出して笑った。
 レモンティーの入ったグラスが揺れて、中身が飛び出す。
「、、、、、ぁ、、、、、」
 ミルクがシルクのシーツに染み込む紅茶に眉を寄せる。
「、、、マサトぉ、、、零したぁ、、、」
「クックックックッ。お前が笑わせるからだろ。」
「、、、、、ぇ?」
「俺はこれまで一度もそんなこたぁ言われたことねぇぞ。・・・ったく、自分が感じちまうからって俺のせいにするな。バーカ。・・・そう感じるのは俺の女であるミルクだけだぜ。」
 マサトはミルクの頭を撫でて、
「さて、風呂に湯を入れてこよう。」
と、ベッドを抜け出していった。
 ミルクは、キョトン、としてから眉を更に寄せて首をひねっていた。

 マンションの浴室は海外仕様で広く出来ている。
 長身のマサトでもゆったりと入れるので、ミルクと一緒に入っても余裕がある。
 泡が盛り上がった湯船で、マサトはミルクを後ろ向きで抱っこし、柔らかい海綿でそっと肌を擦ってやる。
 赤ちゃんでも使える、という宣伝文句の入浴剤らしいが、外国のでミルクにはよくわからない。
 ただ、薫り高いバラの芳香が気に入っている。
 ミルクは泡遊びに夢中で何とか形を作ろうとしているが、上手くきまらずその度に足をバタつかせてもっと泡立てようとする。
「・・・ちょっと大人しくしてろ、って。」
 取り敢えず背中は擦れたが、なかなか他の部分が洗えないマサトが叱る。
「、、、、、ぁぃ、、、、、」
 ミルクは唇を尖らせてマサトに寄り掛かった。
 マサトは小さく溜息を吐き、手を前に回して胸をまぁーるく海綿で擦る。
「、、、ぁ、、ん、、、感じちゃぅぅ、、、」
「感じてもいいぜ?・・・まだまだ夜は長ぇし・・・」
 マサトがニヤニヤしながら言う。
「、、、ぁぅ、、、だってぇ、、、今夜はアザミさんのクラブに連れて行ってくれる、って言ったじゃん、、、」
「・・・チェッ・・・覚えてたか・・・」
 家事から開放されても、あまり手を使えないので何も出来ず、退屈して愚痴が多くなるのを機嫌取る為にそう言ったのだが・・・。
 マサトは、包帯を外したミルクの腕をそっとつかんで包むように洗ってやりながら、舌打ちした。
「あんな店、行ったって面白くねぇぜ?」
「、、、約束ぅぅぅ、、したもぉーん、、、」
 ミルクが足でバシャバシャとお湯を蹴る。
「・・・わかったから暴れるんじゃねぇ。」
 マサトはミルクの足を捕まえて、グイッ、と曲げて引き寄せると海綿で擦った。

 鏡の前に座ったミルクの髪をマサトがドライヤーで乾かす。
 こんな姿は部下には見せられねぇ、と思いながらも、丁寧にブラシを使ってサラサラに仕上げていく。
 光沢のある柔らかな髪は手触りも良い。
「、、もぉ、、それくらいでいいのにぃ、、、」
 鏡の中のマサトに視線を向けて言うと、
「根元が乾いてねぇまま外に出たら風邪引いちまうだろ。」
と、完璧を求めるマサトがギロッと睨む。
「、、プッ、、、マサト、、何だかカリスマ美容師みたい〜、、、」
 ミルクが前屈みになってクスクス笑うと、
「ほぉら・・動くんじゃねぇよ。」
と、片眉を吊り上げる。
「、、、ぁーぃ、、、」
 ミルクは肩を竦めて返事をし、目を閉じた。
 湯上がりで暖かく、ドライヤーも暖かく、だんだん眠くなってきてしまう。
 マサトが、
「よし。・・・いいだろう。」
と、自分の腕前もまんざらじゃねぇな、と一人頷いた時には、ミルクは瞼も上がらないほど睡魔に襲われていた。
「クックックッ。やっぱ、お子ちゃまには夜遊びは無理みてぇだな。」
 マサトはドライヤーを片付けて、ミルクを抱き上げた。
「、、、、、ゃぁ〜ん、、、、、ぃくぅ〜、、、、、」
 と、言いながら、ミルクはマサトの肩に頭をもたれかけて目を閉じてしまった。
 完璧に仕上げたストレートヘアも、今夜は出番がないらしい。
 ・・・それもいいさ。
 マサトは優しく笑ってミルクを寝室へと運んだ。

<44>
「両腕とシッポ」
§44§「両腕とシッポ」

 ……マサト……
 枕に顔を埋めたまま、シルクのシーツを滑るように腕を動かす。
 下から半円を描いて頭までいってから、もう一度下へと半円を描く。
 ……マサト……?
 覚めきらない意識に、マサトに手が触れない原因を問う。
 ……ここ…マサトのマンションだよね…?
 うなじに当たる陽射しが暑く感じる。
 もうかなり日が昇っているようだ。
 ミルクの部屋ならこんな風にベッドに光は当たらない。
 ミルクはもう一度確認する為に、今度は足を大きく開脚してシーツを滑らせた。
 ほぼ直角に開いたコンパスを虚しく閉じる。
 ……やっぱ…いない……
 ミルクは仕方なく枕から少しだけ顔を上げた。
 陽射しが眩しすぎるので、目が覚めても目を開けられなかったのだ。
 窓の遮光カーテンは両端まで開かれているのに、毛布を頭まで上げて枕に顔を埋め、この温室状態に化したベッドで粘って眠り続けていたらしい。
 ……朧に毛布を足で蹴った記憶が……
 ミルクは枕を抱いて顔を半分埋めながら起き上がった。
 足にムートンの柔らかな感触が触れる。
 ……昨夜はぁ……
 ミルクは両腕で抱いた枕に頬ずりをして記憶を辿ってみる。
 サラッ、と髪が頬に滑り落ち、あ…、っと大事なことを思い出した。
 ……昨夜は『蛇窟蘭』に行く約束だったんだぁー!
 ミルクは枕を放り投げて、頬を膨らませる。
 ……ん……?
 頬を膨らませたまま胸の前でふわふわと揺れているシースルーの生地に視線を向けた。
 白く透ける生地のベビードール。
 大きく開いた衿回りから肩までは豪華なレースが囲んでいて、腰丈の裾回りにも同じレースの襞が飾られている。
 カボチャパンティの股回りも同じレース仕様になっている。
 自分で着た記憶がないから、きっとマサトが着せて寝かせてくれたのだろう。
 手首にも、お風呂上がりにはしてなかった包帯が巻かれてある。
 ……ミルが悪いのに……
 『蛇窟蘭』に行けなかったのはマサトのせいじゃない。
 ミルクは小さく、ペコッ、と頭を下げると、ベッドから立ち上がり、思い切り両手を上に上げて伸びをした。

 ドレッサーの前で簡単に髪を梳かす。
 ブラシからこぼれるように、サラサラと髪が落ちる。
 あれだけ丁寧にドライヤーで仕上げると、起きてからも違うのだと感心して嬉しくなる。
 いつも自分で乾かす時は手で水気を飛ばしながら乾かす程度なので、ここまでサラサラにはならなかった。
 ドレッサーの鏡の横に、真っ白い羽の扇が飾られてあるのを、フフッ、と笑みを浮かべて手にしたミルクは、羽の扇で顔を扇いでみた。
 サラサラ…サラサラ…と頬をくすぐって髪が揺れる。
 ……うふん……いい感じぃ〜……
 悪戯っぽい笑顔を鏡の中に残して、ミルクは寝室のドアを開けた。

「…ぱぁ〜ぱらっぱぁ〜…るぷっぷぷぅ〜…ぷるるん…ぷるるん…ぷるるぅ〜ん…」
 ワザと腰をくねらせ、羽扇を開いて顔を隠しながら歩く。
「…ミ〜ルと付き合いたぃのぉならぁ〜…24時間〜電話に出てよぉ〜…」
 鼻にかかる甘え声。
 TVのCMで聞きかじった歌を口ずさみ、露出した生足を強調させて色っぽく歩いていく。
 もちろんシースルーのベビードールからは、揺れる白い胸とピンクの乳首が見えている。
 二人だけの時間のちょっとした悪戯心。
 マサトがベッドにいない時は、大抵リビングフロアのソファーで仕事の為のPCを開いていた。
 それを計算しての行動だった。
 ソファー近くまでその調子で歌いながら歩いてきたミルクが、立ち止まってポーズを決めて顔の前から羽扇を下げた。
 …… …… …… …ゥゲッ!!?
 マサトが片頬をひきつらせるように苦笑を浮かべている。
「おはようございます。アリス様。」
 景山がソファーに座ったまま軽く会釈した。
 その隣りでは無表情に手元の資料に目を落としている島田がいる。
 島田にとっては他の女性でなら珍しくもない光景だろうが、さすがに冷静を装う背中が緊張している。
 景山は、デザイナーがモデル女性の裸体を、デザインを思い浮かべながら体のラインで見るように、目を輝かせてミルクに見取れていたが、視線に嫌らしさはなかった。
 ただ、マサトの心情を察してか、多少気まずそうに微笑んでいる。
「・・・ミルク・・・ガウンくれぇ着てこい。」
「……ぁぃッ……」
 ミルクは、あまりの恥ずかしさで真っ赤になった顔を羽扇で隠しながら、寝室へと駆け戻った。

 ハァハァ……ハァァ……
 ベッドに座ってドキドキする胸を押さえ、逆上せそうに熱い顔を羽扇で扇ぐ。
 ……また…失敗しちゃった……
 落ち込んで肩を落としたミルクは、何度か溜息を吐いた後、気持ちを切り替えて洋服に着替えることにした。
 …………ぅッ…………
 上のベビードールを脱いで気付いた。
 カボチャパンティの生地もシースルー。
 薄いとはいえ、陰毛が透けて見えてしまっている。
 立ってるミルクの位置では、レースの裾で隠れていたが、座っていた彼等からは丸見えだったに違いない。
 ……思いっきり……おバカ……
 ミルクはムートンの床に座り込んで、脱いだベビードールで顔を覆って泣き出してしまった。

 コンコン・・・
 ドアをノックする音がして、マサトが寝室に入ってきた。
 ・・・ん?
 部屋を見回し、大きなベッドの向こう側で床に踞っているミルクを見つける。
 大股にミルクに歩み寄り、向かい側にあぐらを掻いて座り込んだマサトは、ミルクを膝に抱きかかえた。
 ミルクはベビードールごとマサトの肩に顔を押しつけ、小さな涙声で、
「……ゴメン…チャィ……」
と、呟いた。
「・・・お前が悪ぃわけじゃねぇさ。」
 マサトがミルクの剥き出しの背中を撫でながら囁く。
「電話じゃ出来ねぇ話があって、奴等を呼んだのは俺だからな。・・・誰かいるなんて思ってねぇミルクが、俺を喜ばせたくてしたことを責めたり出来ねぇよ。」
「……怒ッテ…ナイ…?」
 ミルクがおずおずと顔を覗かせる。
 マサトはミルクの赤らんだ鼻と頬にキスをし、
「これくれぇで怒るなら、初めから呼ばねぇぜ。・・・あの二人と若松は別格だからな。」
と言って笑うと、赤味の強い唇にキスをした。
「……ン……別格ぅ……?」
「俺の右手と左手・・・若松はシッポか・・・ククッ。」
「……フーン……」
「若林あたりは絶対ぇー部屋に一歩たりとも入れる気はねぇぜ。」
「……ドシテェ…?」
「若林は色魔じゃねぇか。」
「……ぁ……プッ……」
 泣きべそだったミルクがようやく笑顔になる。
 マサトはもう一度ミルクに優しくキスをしてから、
「服に着替えてもいいし、ガウンだけでもいいし・・・若松がキッチンで朝食作ってるから、行って食べるといいぜ。」
と言って、ミルクをベッドに座らせ、フロアに戻っていった。


 今日はおとなしめの洋服を着たミルクは、顔を洗ってサラサラの髪にヘアーバンドをして、スッキリした装いを整えた。
 マサトが景山や島田と打ち合わせをしているソファー脇を、会釈しながら小走りに通り抜け、ダイニングキッチンへと向かった。
 キッチンではエプロンを掛けた若松が、丁度オーブンから焼きたてのクロワッサンを取り出している所だった。
 フワッ、と香ばしいバターの香りが広がる。
「わぁァ……いい匂いィ〜……」
「あ、アリス様。おはようございます。」
「おはようございますぅ〜、若松さん。…すごぉ〜ぃ!クロワッサンまで作れるのぉ〜?!」
 ミルクが鉄板を覗きながら感激して言うと、
「いぇ・・・習ったばかりのを試してみたので自信はなかったんですが・・・見た目は成功したようですね。」
と、照れたように答えた。
「匂いだってすごくいいもん。味も成功だよぉー!」
「だといいのですが。・・すぐに召し上がりますか?」
「うんッ!」
「ではテーブルの方へ。・・・熱いですから皿に移します。」
「はーぃ。」
 ミルクはすっかりさっきの失敗も忘れ、るんるん気分でテーブルの席に着いた。

 若松が焼きたてのクロワッサンにカリカリベーコンとスクランブルエッグを添えて、ミルクの前に置く。
「すごぉーぃ!」
 ミルクが小さく拍手して喜ぶと、益々照れた様子で、
「今、レモンティーを入れますね。」
と、嬉しそうに言った。
「…ぇ…先に食べていい?」
「ぁ・・どうぞ。」
「はーぃ!…いっただっきまぁーす!」
 ミルクはサックサクのクロワッサンを、手で千切って口に入れる。
 若松が紅茶をカップに注ぎながら、チラチラと気にして見ている。
「…モグ…モグ……んーーッ!めっちゃ美味ちぃ〜ッ!」
 ホッとした笑顔の若松から白い歯がこぼれる。
「安心しました。」
 レモンを一切れカップに浮かべて持ってきた若松が言った。
「若松さんも食べようよぉ〜…」
「え・・・そうですね。じゃぁ、向こうにも出してきたら御一緒させて頂きます。」
 そう答えた若松は、三人分の朝食を大きなお盆に乗せて運んで行った。

「みんな美味しいって言ったでしょう?」
 戻った若松が斜向かいの席に座ったので、ミルクが笑顔で聞くと、
「今は真剣な相談をしてるようでしたので、置いてきただけです。」
と、サラリと答えた。
「えー……せっかく美味しく作ったのにぃ……」
「アリス様に喜んで頂ければ充分です。」
 若松は控え目に笑って、自分も一口頬張った。
 視線を少し上に向けて味を確かめながら、うんうん、と満足そうに頷く。
「…ね?……美味しいでしょう?」
「はい。なかなかな物です。」
 質問と答えが逆になっていることに気付いたミルクと若松は、顔を見合わせて笑い出した。
 お互いそう大きく笑うタイプではなかったので、クスクスと笑いを洩らすという感じに。
 若松は笑うと本当に優しい顔になる。
 この同じ人物が、ほとんど無表情で竜二を叩きのめしたとは、すぐには信じ難い。
 それが闇世界の摩訶不思議な所なのかも知れない。
 ミルクは若松が通っているという『男の料理教室』のことをあれこれと聞きながら、楽しく食事をすることが出来た。

 食後にもう一杯レモンティーを入れて貰い、ミルクはゆっくりと味わって飲んでいる。
 若松は向こうに出した朝食を片付けてお盆に乗せ戻ってくると、そのまま洗い物を始めた。
 料理の乗った皿はどれも綺麗になっていたので、けっこう背中が嬉しそうだった。
 その背中を見ていて、ふと思い出したミルクが、
「…ねぇねぇ…マサトさんがねぇ、若松さんのことをシッポだって言ってたよぉ……」
と言うと、若松が顔半分向けて、
「それは光栄ですね。」
と、笑顔で答えた。
「…え……シッポで光栄なのぉ?」
「・・・年長の組織員達は私を”金魚のフン”と陰口に言ってるそうです。ま、常に側にいられることへの嫉妬でしょうけど。・・・”金魚のフン”ではいつかは離れてしまいますが、シッポならずっとボスのお側にいられますので・・・光栄です。」
 そう言って目を細め、また洗い物を続ける。
「……そーなんだぁ……」
 ……こんなに才能あるのに、仲間内でもそんな確執もあるんだぁ……
 ……人間関係って…難しい……
 ……ぁ……じゃぁ、ミルもけっこう陰口言われてるんだろか……
 ……マサトの足手まといにばっかなってる子だもんなぁ……
 ミルクはちょっと暗い気持ちになって、レモンティーを飲み干した。


「ご馳走様ぁ〜!」
 ミルクが空になったカップを持って流しに持っていく。
「お片づけ、一緒に出来なくてごめんなさい。」
「いえいえ。私もアリス様の手料理を御馳走して頂くこともあるのですから、お気遣いなく。」
「…じゃぁ、お言葉に甘えちゃいますぅ……」
「はい。」
 若松は優しい笑顔でカップを受け取った。

 ミルクがフロアに出てくると、まだソファーでの密談は終わってないようだった。
 ……何か……面白くない……
 ミルクは黙ってマサトの前まで行くと、そのまま膝の上に座ってしまった。
「・・・あ?・・・何やってんだぁ?」
 マサトが面食らった顔で顎を引くので、ミルクは拗ねた顔を胸にグリグリと押しつけた。
「・・・・・どうした?」
 マサトは口調を変え、そっと髪を撫でてミルクの額にキスをした。
「……若松さんのクロワッサン…美味しかった……」
「・・・あぁ、美味かったな。」
「……手作りなんだよ……」
「・・・うむ。焼きたてだったからわかるぜ?」
「……ちゃんと美味しいって言った?……ありがとーって言った?」
 マサトは、ハッ、として景山や島田と視線を合わせた。
「・・・ちょっと話の腰を折れなかったから言えなかったが、後で言うつもりだったぞ。」
「……そぅ……」
 ミルクはまだ面白くなさそうな顔で溜息を吐いた。
「・・・若松が何か言ってたのか?」
「…言うわけないじゃん。」
「・・・だろうな。」
「若松さんは食べて貰えるだけで嬉しいんだもん。…ミルが、感想をどう言ってたか、って聞いたの。」
「・・・あぁ・・・美味かったぜ。」
 ミルクはまた溜息を吐く。
「……ミル……もし三回何も言って貰えなかったら……きっともう二度と作んない、って思うだろなぁ……」
「あぁ?・・・お前に何も言わねぇ訳ねぇだろ?」
「……そぉーかなぁ……」
「若松にだって話す機会がある時にはちゃんとそう言うぜ?・・・物にはタイミングってのもあるんだから、言えねぇ時だってあるさ。それは仕方ねぇことじゃねぇのか?」
「……そだね……」
 ミルクは、もう話すのはいいや、とばかりに目を閉じて、マサトにもたれ掛かった。
 マサトはミルクの肩を抱き、髪に頬ずりをすると、
「もう少しで話のキリがつくから、我慢してくれ。」
と、宥めるようにキスをし、密談の続きを始めた。
 チャイニーズマフィアとの関わりがどうのこうの、島田さんを一度行かせるから何たらかんたら、マサト自身も近い内に行くことにするからあーだこーだ・・・
 詰まる所、ミルクには訳がわからない。
 その場にいながら見えない会話が続き、ミルクは否応なくマサトとの距離を感じていた。


 若松を残して景山と島田が帰っていった。
 マサトは若松に、
「さっきのクロワッサン、パリの三つ星レストラン並みに美味かったぜ。」
と誉めてから、幾つかの仕事の指示をした。
 そして、人形と化しているミルクを抱き上げて寝室へと連れて行った。

 ミルクは眠っている訳ではなく、時々、虚ろに目を開ける。
 ベッドに寝かされても、せっかく着た服を脱がされても、何の反応もせずに虚脱状態でいる。
 マサトは自分もガウンとスェットのズボンを脱ぎ捨て、
「・・・そう怒るなって・・・」
と、ミルクに添うように横になった。
 ミルクは答えず、窓の外に見える空へ視線を向ける。
 ……怒ってない……けど……
 ミルクは心で答えた。
「・・・アザミの店、今夜連れてってやるから・・・」
 ……興味ない……
「どうしても、急ぎ手を回しておかなきゃならねぇ事があってな・・・」
 ……いいもん……どうせまた海外出張なんでしょ……
 ミルクは眩しくて細かい星が飛び交う目を閉じて溜息を吐いた。
 マサトは言い訳のように言葉を重ねることをやめて、ミルクを抱き寄せ、唇を重ねた。
 逆らいこそしないが、全然乗り気にならないミルクを、マサトは根気よく愛撫し、どうにか愛蜜を誘い出すと、臨戦態勢に入っていた蛇を潜入させた。
「、、、ぁ、、、ぁぁ、、、」
 ようやくミルクから喘ぎ声が返ってくる。
「・・・ミルク・・・」
 マサトはホッとしてミルクの顔中にキスをする。
 と、ミルクの目から涙が一筋こぼれた。
「・・・ミルク・・・?」
 マサトは腰をゆっくり動かし続けて蜜壺を優しく擦ってやりながら、ミルクをじっと見つめる。
「、、、ぁぁ、、、ぁん、、、」
 感じて喘ぎ声をあげる度に涙がこぼれ落ちる。
「・・・どうして?」
 マサトにはミルクの心がつかめなかった。
 いつもの拗ねた時と様子が違い過ぎる。
 言い様のない不安が胸を覆っていく。
「・・・言えよ。我慢してねぇで、言いたいことを言え。」
 マサトは腰の動きを早めて、力強くミルクを突き上げた。
「あぁ、、、んん、、、ぁぁぁん、、、」
 悲しげに目を閉じてマサトにしがみつくミルクを、マサトはきつく抱き締めてやる。
「・・・言ってくれ。・・・不満でも愚痴でも何でもいいから・・・な?」
 マサトはミルクを抱き締めたまま、蛇竿で蜜壺を擦り熱くしていく。
 魂を吹き込むように、愛を注ぎ込むように・・・。
「あぁぁぁぁ、、、あぁん、、、あぁぁん、、、」
 ミルクは悲しみを帯びたよがり声をあげて、体を仰け反らせる。
 流れる涙と一緒に髪を撫で、天井に向けられた顎にキスをしたマサトは、狂おしく首筋に吸い付いた。
「ぁ、、、あぁ、、、んん、、、」
 チリチリと熱い痛みが走り、真っ赤な痣が浮かぶ。
 一つつけてはまた別の場所へと、クッキリとしたキスマークをつけていく。
 繋がったまま届く範囲の全てに、真っ赤なキスマークを刻印していき、
「いいか?・・お前が甘えていいのは俺だけだ。泣いても怒っても俺だけにぶつけて来い。」
と言ってから息を潜め、
「・・・次は助けねぇぜ。・・・次からはどいつだろうとブッ殺す。」
と、闇に響く魔物の声で囁いた。
「、、、ん、、、んん、、、クスン、、、」
 ミルクは泣きながらマサトにしがみついた。

 長く続いた恍惚と陶酔の時間。
 気が付けば、あれだけ明るかった空が夕日に染まっている。
 ミルクの下半身はもうほとんど感覚がなくなり、ただ熱い痺れに包まれ投げ出されている。
 マサトは腕枕をしたミルクの髪を指先で梳いて、汗ばんでひんやりした白い額に唇を押しつけている。
「・・・冬休みの約束・・・守ってやれなかったな・・・」
「、、、、、約束、、、?」
「中国に連れてってやる、って・・・前に約束しただろ?」
「、、、、、ぁ、、、そだっけ、、、」
「・・・それで拗ねてたんじゃねぇのか?」
「、、、、、違ぅもん、、、」
「なら、わかるように言ってくれ。・・俺だって千里眼じゃねぇんだから、言って貰わなきゃわかんねぇことだってあるんだぜ?」
「、、、、、ぅん、、、、、」
 ミルクにも本当のところはわからない。
 ただ……無性に寂しかったのだ。
「、、、ねぇ、、、、、ミルはぁ、、、マサトの何?」
「・・・何って?」
「景山さんが右手でぇ、、島田さんが左手でぇ、、若松さんがシッポならぁ、、、ミルはぁ?」
「・・・そんなことで拗ねてたのか?」
 マサトが呆れ顔でミルクの顔を覗き込む。
「、、、だってぇ、、、」
 ミルクは悲しそうに頬を膨らませる。
 マサトはミルクの頬を両側から指で挟んで潰してから、
「お前は俺の心臓に決まってんだろ。バーカ。」
と言って、指で押し出されている唇にキスをした。
 ミルクは思わずマサトの胸を見てから、
「、、、マサト、、、心臓が二つあるの?」
と、怪訝そうに聞く。
「いや。」
「、、、だって、、、じゃぁ、ミルと会う前はぁ?」
「ああ、取り敢えず氷を拾って入れといた。・・・クククッ。」
「、、、、、ぅぅぅー、、、嘘つきぃぃぃ、、、」
「妖怪じゃあるまいし、例え話だろぉーが。嘘もなんもあるかよ。・・・けど、ミルクが心臓になったせいで、妙にシクシクするわ、切なくなるわ、チリチリ痛むわ、大変だぜ。」
「、、、、、ごめんなさぃ、、、、、」
「お前が悲しい顔をすると特に痛むぜ。」
「、、、、、、、、、、グシュ、、、、、」
 ミルクはマサトに肌を重ね、胸に顔を埋める。
「、、、ミル、、、足手まとい?」
「あのなぁー・・・・・ったく、何を勘違いしてんだ?・・・お前が・・ここ・・にいるお陰で、俺は生きている実感も喜びも感じられんだぜ?」
 マサトが自分の胸を拳で叩いてみせる。
「・・・氷の心臓だって生きていけねぇわけじゃねぇが・・・もうごめんだな。」
「、、、、、マサト、、、、、」
「だから・・・飛び出さねぇでくれ。・・・ん?」
「、、、ぅん。」
 ミルクはマサトの胸にそっとキスをして、安心したように頬ずりをした。

<45>
「愛のムチ」
§45§「愛のムチ」

 光の洪水、入り乱れて溢れ出す音楽と喧噪。
 舗道は立ち止まっている人達もいるし、ブラブラと目的を探すように歩く人もいれば、急ぎ足に通りすぎていく人々もいる。
 とても一人では怖くて歩けない夜の街。
 …フフ……ウフフ……
 ……マサトと一緒なら怖くないもん……
 ミルクはマサトの腕につかまり、夢世界を浮遊するように歩く。
 実際、腰から下の感覚が、まだ自分じゃないように感じられて、地面を踏みしめてる気がしない。
 それでも、マサトと歩きたかった。
 …サラサラサラ……
 歩くたびに揺れる髪が気持ちいい。
 今夜もマサトがサラサラストレートに仕上げてくれた。
 …サラサラ……サラサラ……
 微かな風でも頬をくすぐるように揺れる。
 火照る頬にマサトの優しさを感じながら、ぼんやりする視界にネオンライトを映して、ミルクは甘い時間を思い出す。
 逞しい体に包まれ、居丈高な暴れ蛇に体を貫かれ、熱く結ばれた陶酔の時。
 まだ体の一部がマサトと繋がって、魂が半分マサトの中に溶けてしまっているように感じる。
「・・ミルク・・・大丈夫か?」
 ミルクがぼんやりしているので、マサトが立ち止まり軽く頬に触れて聞いてきた。
「…ぅん。」
 ミルクはふんわりと微笑んでマサトを見上げた。
 明るく大きな目にネオンライトが写る様子は万華鏡を覗くように綺麗だ、とマサトはフッと笑みをこぼす。
 羽のように軽く、月明かりのように密やかで優しく、夜陰に香る月下美人のように忍んで咲く白い花。
 ・・・俺の魂の花だ・・・
 目映く輝く空からつかみ取って闇に持ち帰った。
 天界では天使泥棒に慌てただろう。
 ・・・だが、天使は純白の花となって傍らにひっそりと咲いていてくれる。
 マサトは誇らしげに目を細めて、もう一度ミルクの頬を撫でた。

 明日は学校があるから、と『蛇窟蘭』へは行かずに「家に帰る」と言うミルクを、敢えて電車で送ることにした。
 車で点と点を繋ぐように送るのではなく、ミルクの育った町並みをまた二人で歩きたくなったのだ。
 かなりハードな愛欲の時間が続き、歩くのは無理かと思えたが、ミルクも「街を歩きたい」と言った。
 目の焦点が定まらないほど魂が溶けてしまっている状態で、家に戻るのが恥ずかしかったのだろう。
 それに、また仕事で海外に行くマサトと、人並みに街を歩く時間が欲しかったらしい。
 すぐに駅に向かわず、遠回りして街のストリートを歩く。
 虹色のスポットライトに煌めく可愛いアクセサリーに気を引かれて、立ち止まって眺めたりしている。
 小首を傾げてマサトを見上げると、サラサラの髪が頬を滑り落ちる。
 マサトが指先で耳にかけてやってもすぐに落ちて意味がない。
「・・これ・・・似合いそうじゃねぇか。」
 ままごと遊びに使いそうなほど可愛らしい飾りの付いたヘアーピン。
 小さな鏡を覗き込むミルクの髪にあてがってみせる。
 ミルクが嬉しそうに頷くので、店員にお金を渡してその場でつけてやる。
「…ありがとぉ……」
 ミルクのピンクに火照った頬が赤味を増す。
 女の子というのは不思議なものだ。
 あれほど大胆に快感を貪り腰を振るくせに、こんな些細なことで恥ずかしそうにする。
 ・・・ま・・・そこが可愛いんだけどな。
 マサトは鼻の下を伸ばさないように気を引き締めて、込み上げる笑みを噛み殺した。

 ミルクの母親の琉美江に、夕食を食べてから帰ることを告げ、駅近くのラーメン屋に立ち寄った。
 まだ食欲がなさそうなミルクだったが、ラーメンなら多少は流し込めるだろう。
 ミルクはさっぱり塩味、マサトはトンコツを注文した。
 駅前だけあって客を待たせないよう気を付けているのか、白い湯気を立ててすぐにラーメンがテーブルに置かれた。
「熱そうだな。・・ミルク、気を付けて喰えよ?」
「うんッ。」
「小鉢貸して貰うか?」
「ぅぅん。大丈夫ぅ〜。ふふ。」
 ミルクはチリレンゲを左手に持って、箸で数本つまみチリレンゲの上に乗せて、フーフーと息を吹きかける。
 手首はだいぶ回復して、力を入れなければ痛みもないようだ。
 冷ました麺をチリレンゲに全部入れてから、口にスルリと流し込む。
 厳しい店長がいたら追い出されそうな食べ方だが、幸い人の良さそうな店長は店の常連らしい客と談笑している。
 マサトはトンコツラーメンを半分ほど食べてから、餃子を追加注文した。
 ミルクの食べる速度に合わせるのに、時間を稼ぐ為もあった。
「餃子も食え。元気がでるぞ。」
 マサトはタレを入れる小皿を二つ頼んでミルクの前にも置いた。
 マサトはラー油を多目に入れるが、ミルクは酢をたっぷりと入れる。
「よくそれだけ酸っぱくして喰えるな。」
 マサトが苦笑して言うと、ミルクは酢の小瓶を手にして、
「酢だって体にいいんだよぉ。」
と、口を尖らせる。
「中国の黒酢は好きだが・・・それは咽せそうになるぜ。」
 マサトの意外な苦手発言にミルクはクスクス笑う。
「なら、黒酢をお土産に買ってきてね。」
 そう言いながらミルクの手が、酢の小瓶の丸いキャップを指先で撫で撫でしている。
 先端を擦るように時々回転させたりして撫でる仕草がヤケに妖しく色っぽい。
 マサトは慌ててミルクから酢の小瓶を奪い、
「たまには酢を効かせてもいいかもな。」
と、自分の小皿に注して、元の場所に戻した。
 ミルクは、ぇ…??、と瞬きしてから、丸い先端撫で撫で症候群をしてたことに気付いて、赤らめた顔を伸び始めたラーメンの器に伏せるようにした。
 ちまちまと食べるミルクの目の前で、マサトが案の定咽せながら餃子を頬張っていた。

 食事が終わって駅に向かい、電車に乗り込んだ時、マサトがミルクを手摺りから遠ざけて自分の腕につかまらせたことは言うまでもない。

 ミルクの家に一番近い駅に降り、商店街を歩くマサトは、平和という言葉が浮かんだ。
 学習塾やカルチャースクールも近くにあるせいか、賑わっていても家庭的な雰囲気に満ちている。
 ここでは援助交際目当ての偽制服を着た女子高生の姿はなく、ナンパや勧誘をするホスト系の男達の姿もない。
 落ち着いた住宅街の一環として、健全な空気の流れる街並みは恵まれているだろう。
 ミルクも見知った顔を見つけると、笑顔で会釈し挨拶をしている。
 噂話というのは、時には無責任に人を傷付けたりするが、隣近所に目が行き届く環境というのもある意味では必要なのかも知れない。
 マサトはもう少しミルクとこの商店街にいたくて、
「ちょっとそこの喫茶店に寄ってくか?」
と、誘った。
「うんッ。」
 ミルクもまだマサトと離れたくないと思っていたので、笑顔で即答した。

 喫茶店のボックス席。
 やはり地元という意識があって、ミルクはマサトの向かい側に座る。
 お腹はいっぱいなので、マサトは普通にコーヒー、ミルクはアイスクリームを注文する。
 ・・・アイスクリーム・・・
 ・・・この後のキスが甘くなるな・・・
 マサトはそんなことを思いながら苦いコーヒーを含むように飲む。
 ……ゃぁ〜ん……コーヒーが苦いまんまぁ……
 ……クリームとシュガー入れたらいいのにぃ……
 ……お休みのキスが苦くなるぅ……
 見つめ合う恋人同士。
 黙って愛を確かめ合う光景も、そんな他愛ないことをそれぞれ勝手に思ってたりする。
「……ねぇ……出張、長くなるのぉ?」
「どうかな・・。部下に任せた会議の感触次第だが、そう長くはならねぇと思うぜ。」
「…そぅ……」
「何れにしろ、すぐに俺が行く訳じゃねぇし、今そんな心配すんなよ。」
「…ぅん……」
 他愛ない会話でも、恋する心には切なく痛い。
「それまでは毎日会えばいいだろ?」
「…明日から期末試験だもん……出歩いてると叱られちゃう……」
「試験なんて落第しねぇ程度に点取ってりゃいいさ。」
「………ぅ………」
「・・・あ?」
「…………赤点取っちゃうかもぉ……」
 ミルクがネチョネチョとアイスクリームをスプーンで攻撃する。
 そのとろけ具合が見てるだけで甘ったるく感じて、マサトは片眉をひそめた。
「なら、また景山に勉強見て貰うか?」
「……でも……忙しいんでしょう?……いいよ、一人で頑張るもん。」
「兄貴も受験が間近で勉強教えて貰えねぇだろ?」
「……ぅ…ん……」
「遠慮しねぇで、景山に何でも相談しろ。・・喜ぶぞ。クックックッ。」
「……ぅん……」
 ミルクは小さく頷くと、トロトロになったアイスクリームを垂らしそうになりながら口へ運んだ。
 本当はこの週末、出掛けずに勉強するようにミツルから言われていた。
 竜二のお見舞いがしたいからと言って出掛け、後から電話で母親に外泊の許可を貰うという姑息なマネをしてしまい、帰ってからのミツルのお説教が気になる。
 ミルクの表情が曇るのを見て、
「ん?・・兄貴の雷が落ちるのが怖いってか?」
と、マサトがミルクの顎をつまむ。
「……ちょっとね……」
 ミルクは肩を竦めてから、フッ、と小さく笑った。

 ミルクの自宅前。
 マサトが門の前でミルクを抱き寄せようとすると、どこからともなくガードの男が現れ、緊張の面持ちで挨拶した。
「・・・ご苦労・・・だが・・・スッ込んでろッ。」
 マサトに睨まれ、ガードは焦りながらまた夜陰に姿を消した。
 ミルクはマサトの胸に顔を隠して笑っている。
「・・チッ。・・もう少し気が利くようにならねぇと、使えねぇぜ。」
 マサトはミルクの顔を上向かせ、まだ笑いをこぼす口を覆って熱いキスをした。
 ……苦みなんて気にならない……
 胸がキュンとする甘酸っぱく切ないキスの味。
 キスは心を重ね合わせるものなのだと、改めて実感する。
 唇の優しい微妙な動きは、心の襞模様と同じ。
 熱く絡み合う舌は、心に流れる魂の血潮と同じ。
 抱き締められ、魂に包まれて、心を触れ合わせる熱いキス。
 ミルクは広い宇宙を抱え込むように、星空の下、熱いオーラに包まれたマサトにつかまっていた。

 ミルクが玄関を開けると、中からミツルの声がした。
 マサトにちょっと顔を出すように、と言っている。
 ミルクに言われる前にわかっていたマサトは、頷いてミルクに優しく微笑んでみせた。
 マサトが玄関の中に入ると、ミツルが仁王立ちして腕組みをしている。
 母親は廊下口から心配そうな顔を覗かせている。
 ガードに来ていた星野がその母親の脇で庇護するように立っている。
 万が一、取っ組み合いの喧嘩になったら、妊娠している琉美江に被害が及ばないようにと警戒しているつもりのようだ。
 ミツルがまだ母親の妊娠を知らないだけに、そこまで気遣えないという不安な要素があったせいもある。
「何だ?」
 マサトが単刀直入に理由を尋ねる。
「ミルクには後で注意しますが・・・原田さんも、少しはミルクが高校生だという配慮を持って、お付き合いくださるようお願いします。試験日前に外泊したり、夜遅くまで遊び歩くようでは困ります。」
「てめぇに言われたくねぇな。・・それと・・俺がいない時にミルクを責めんじゃねぇぜ。」
「そうやって貴方が甘やかすからミルクが調子に乗って・・ブッ!!」
 瞬間、影が動いた。
 と、ミツルが仰け反って後ろによろける。
 倒れそうになるのを踏ん張って持ち堪えたが、顔をしかめて鼻を手で押さえている。
「…キャッ……」
 ミツルの手の下から血が流れ出てくるのを見て、ミルクが叫び口元を押さえた。
「入試前だ。鼻っ柱をヘシ折るのはやめといてやったぜ。」
 マサトは殴る前の態勢と変わらずに平然として言った。
「だが、いいか?二度と俺の女に口出しするんじゃねぇッ!自分好みに躾てぇなら自分の女にしろッ!」
 ミツルは目を怒らせてマサトを睨む。
「・・・俺は・・・父親代わりとして・・・」
「っせぇッ!ミルクは俺の女房だぜッ!保護責任者も俺ってことだッ!父親ぶりてぇなら、てめぇでさっさとガキでも作ってからにしろッ!」
 マサトは冷酷な目に残忍な輝きを灯して低い声で命令した。
 家の外では、近所の犬が妖しい気配を感じ取ったか、けたたましく吠えたてている。
「・・・・・俺には・・貴方を理解しきれない。」
「おう!上等だぜッ!・・ケッ!俺もてめぇの生意気さが鼻についてウンザリだぜッ!」
 火花を散らして睨み合う二人。
 鼻血を流している分、ミツルに分が悪い。
「……ぃやぁ……喧嘩しないでぇ……」
 ミルクがマサトの胸にしがみつく。
 マサトは小さく溜息を吐いて、
「・・・見ろ。・・・ミルクは自分が叱られるってわかってたって、てめぇを守ろうとするじゃねぇか。・・・それで充分じゃねぇのか?・・・それでもまだ文句言うなら、二度とこの家に帰さねぇぞ。」
と言って、ミルクを抱き締め髪を撫でてやった。
「・・ミルク。どうする?・・荷物を纏めて俺の所に来るか?面倒なら身一つで来たっていいんだぜ?」
 ミルクはマサトを見上げ、ゆっくりと首を振った。
「・・・そうか・・・」
 マサトは残念そうに頷き、ミルクの額にキスをした。
 そして、
「星野。しっかりガードしろよ。」
と、軽く手を挙げて、玄関を出ていった。
 星野はビシッと敬礼して見送り、驚いている母親を支えて、
「愛のムチっすよ。心配ないっしょ。」
と、明るく笑ってみせた。
 ミツルはムンとした顔で浴室に手を洗いに行き、ミルクはコソォ〜っと自分の部屋に上がって行った。