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S





『S』番外編《幻想録》



byへなそうる様


§闇深き時も…§「漆黒の闇・深淵の夢」 (第2部:2章§10§「闇深き時…」の続編として頂きました☆)
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§闇深き時も…§「漆黒の闇・深淵の夢」
                              Simon様作


――身体より先に、心が引き裂かれた

  以前から、父のことは嫌いだった
  ニヤついた笑みも、公然と女を囲う姿も
  姉などは露骨に「クソじじい」呼ばわりしていた

  それでも……確かにこの人は、私の父親だったはずなのに

ガクガクと揺さぶられて、頭がぼおっとする
胸に食い込む指が痛い
ぴちゃぴちゃと耳障りな音(またどこかを舐めているのか)
腰から下は完全に痺れている

  本当に、これが私の身体なんだろうか

――父親の皮が裂けて現れた化け物、それに犯される娘
そんなB級ホラーみたいなことがあるなんて……

  ――ふふ……

わらうしかなかった

「――おっ お前も、気持ちいいのか? よ、よし、もっとよくしてやるぞ!」
娘の片足を担ぎ上げて、ペニスをさらに深く捻じ込んでいく『父親だった』男

……鏡の向こうで景山たちが眉を顰めていることなど、男には分からない
気づいたところで、今更やめることなどできないだろうが……


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……女の人たちにシャワーを使わせてもらって
今はこうしてベッドに横になっている
殺風景な部屋
ベージュのスリップとショーツ
シルクの滑らかな肌触り

  ……わたしのブラ……捨てられちゃったのかな……

  少し寒い……でも動く気にもならない……

――――コンコンッ

ノックの音が聞こえても、わたしのこころにはなにもきこえなかった


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  ……島田さんもアザミさんも、ミルにとっても優しくて
  マサトも景山さんも笑ってて
  多分……前のミルだったら分からなかったと思う
  本当は、みんなすごく痛くって、それでも前を向こうって頑張ってるから
  だからこんなに優しいんだよね


(マサトが皆を誘った食事会〜)

お食事も終わって――
あ、マサトが難しい電話始めちゃった
  (英語かな? 早すぎてよく分からないけど)
え? 少し待ってて欲しいの?
分かった アザミさんとお話してるね


――アザミさん、あのね……教えてほしいことがあるの……


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――コンコン――カチャ

「……お邪魔しまあす」

  ――だれ……?

  別に誰でもいいけど
  小さな影――わたしより小さいかな

「あ、ダメだよ エアコンが効いててもそんな格好でいたら風邪引いちゃうよ」
動こうとしないわたしの下から、一生懸命シーツを引っ張り出して
「震えてるね やっぱり寒いの?」

  わからない――けど

――バフッ――モソモソ

「えへへ これでどうかな?」
わたしはこの時になって初めて、ベッドに潜りこんできたのが同い年くらいの女の子(それも凄く可愛い)だということに気がついた
咄嗟に逃げようとした腕にキュッと抱きつかれて――
悲鳴を上げかけたわたしは……それが少しも不快でないことに驚いた
誰かに触られる(たとえそれが女の人であっても)のが耐えられなくて、バスルームでも吐いたのに

「……あなた……だれ?……」
「え? ミル? え〜と――(いきなり真っ赤になって頭をブンブン振って……何を思い浮かべたんだろう?)――あ、あの、ミルクって言います」

  本当――ミルクみたいに甘い香りがする
  それに、触れたところが暖かい
  だから……もう少しだけ
  擦り寄ったら、ふわって包まれてる気がして――



「――それでね、景山さんは手品ショー見せてくれるんだって ミル、チョー楽しみなの♪」
他愛ない――本当に他愛ないお喋り
わたしはただ頷くだけしかできないのに、ミル(そう呼んで欲しいって言われたから)はとってもきれいな笑顔を見せてくれる

  わたしも笑いたいのに――
  ――なんだろう……胸に大きな石が乗ってるみたいで……

「――ミルねぇ、その時クッション持っていったんだよぉー そしたらマサトがねぇ――」

  私にも分かるよ
  ミルもとっても苦しいことがあったんだよね――
  ――でも、ちゃんと笑えるんだね

  私も、ミルみたいになりたいよ――

「――ミル、あんまり頭よくないから上手く言えないけど――でもやっぱり、マサトのことが大好きなの♪」

  ――ああ……そうか……

「……ねぇ、ミル……」

「なぁに?」

「……お願いがあるの……わたし……ミルのこと――」

――好きになってもいい?

「うん いいよー えへへ嬉しいっ!」

――ぎゅっ

  ミルの胸に抱きしめられて――
  一生……
  ――二度と溶ける筈がないと思った胸の石が――溶けていく
  石が溶けて……涙になる
  ミルが、溶かしてくれる……だから……

「……ぅ……うああああぁぁぁぁっ」

優しく抱きしめられながら
泣くのがこんなに気持ちがいいなんて、知らなかった

  湧き上がってくる――
  ――あの男への……これからわたしを抱く男たちへの――憎悪
  心が黒く塗り潰されていく……なのに

  こんなに、あたたかい


  私はもう、光の中には戻れない

  『憎む』ということを、知ってしまったから
  でも、暗闇の底にも天使が――ミルがいた

  泣きながら誓う
  ミルのために死のう――と

  それなら、わたしの命にも意味があると思えるから
  神様なんていない
  でも、天使はちゃんといたんだ


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「――アザミ、お前何やってるんだ?」

半分呆れたようなマサトの声に、それまでドアに凭れていたアザミは弾かれたように背筋を伸ばした
少しだけ目が赤くなっている
――マサトはそれには触れずに、部屋の中から漏れてくる嗚咽に耳を澄ませて……
そして、アザミと同じものを読み取ったのだろう

「しょうがねぇ――少しだけミルクの胸を貸してやるか」
――男だったら絶対に許さねぇがな

「ボス……」
「覚えてるか? お前もあんな感じだったんだぜ」

  そう――覚えている
  あの瞬間から、この方は私の全てになったのだから
  痺れるような快感の中の、微かな痛み……

  ――でも、きっと彼女なら――

彼女なら……なんだというのか
アザミ自身、はっきりとは分かっていない

それでもこんな風に涙を流せるなら……きっと彼女なら……


     fin


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――その後――

 ミルクの為に生きようと誓った彼女は、あの忌まわしい父から受け継いだ名を捨て、『キリエ』という新しい名前で新しい戸籍も取得した。
 商品となった女性としては異例の処遇であったが、彼女の眼差しの奥にある強い光に共鳴するものを感じ取ったアザミの推奨と、ミルクの駄々っ子のごとき諦めない☆お願い☆があってのことだった。
 『キリエ』という名の由来も――
 まだ療養中の彼女にミルクが賛美歌のCDを差し入れて、
「…ウフッ…でねぇ…この”キリエ”って賛美歌を初めて聴いた時は、キリエさんって人を連呼してるのかと思っちゃったぁ。ウフフッ…――なんかねぇ…蓮如様って偉い方が説いた仏道はね……この世でいっぱい苦しんだ人こそ、仏様は救ってくださるんだってぇ…。――ミルは宗教のことは良くわかんないけどぉ…神様があなたにもいっぱいの光を注いでくれるといいなぁ。…ウフフフッ…」
と、甘えるように肩に頬を押し当てて、優しく囁いたことがあり、その時のことが忘れられない彼女が付けた名前だった。

 けれど、組織員となるには厳しい修練鍛錬をクリアしなければならない。
 無条件で誰にでも優しくしてしまうミルクの側に、すぐに置くほど総裁としてのマサトは甘くない。
 キリエもそれは当然と思っていたので、自ら進んで厳しい特訓に励んだ。
 自分という個の全てを捨てて、一人の人に命を捧げようとした時、彼女は誰よりも強い魂と輝く命を持った存在となっていた。
 ――そう。――あの若松のように・・・。

 ミルクが再びキリエに会ったのは、マサトの正式な妻となった時だった。
 マサトが静かに微笑み、徐に宣う。
「ミルク。・・・新しい同胞を紹介しよう。名前は”キリエ”。・・・これからは、常に共にあり、共に生きるミルクの影となる。・・・クックッ。お前のことだから、絶好の遊び相手と思うだろうが・・・それは、お前の勝手だ。」
 マサトは高らかに笑うと、用事があるから、と部屋を出て行った。
 ミルクは感激に見開いていた目から、大粒の涙を零しながら、キリエに抱きついた。
 キリエも、静かな戦士の笑みを浮かべる頬を、暖かい涙で濡らしていた。

 更に数年後、同じ影として生きる若松と心を通わせるようになったキリエが、ミルクの後押しによって結婚した、と今だ続く『アリス姫ファンクラブ会報』で報じられた。――
                         (Simon様のあとがきより――)

§闇深き時も…§「漆黒の闇・炎夢」
(Simon様から頂いたお話の続編として、菫様から頂きました☆)
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§闇深き時も…§「漆黒の闇・炎夢」
                               菫様作

     きっとそれは自己満足でしかない

     そんなことは分かってる

     誰よりも、自分が一番分かってる

     でも

     それでも

     ――――――――望んでしまう

     高望みなのは分かってる

     でも

     それでも

     ―――――――――――この気持ちは変えられないから

     ―――――――――――――この気持ちは偽りではないから

     だから

     期待してしまう

     たとえ報われないと

     ―――分かってはいても

     ―――――自己満足でしかなくても

     ―――それでも

     私は幸せだったのかもしれない

     天使に、出会えたから―――――――――――――――


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 訓練は想像を絶するものだった。
 何度となく死を覚悟したであろうか。
 途中からはそれすらも面倒くさくなって数えるのを辞めてしまったが、多分四肢では収まらないだろう。
 今日の友は明日の敵、とは良く言ったもので、昨日まで仲良く会話に花を咲かせ、励まし合い、たった一人のお方に忠誠を誓い、役に立ちたいと瞳を輝かせながら語った者達と、本気の殺し合いを展開する。
 無論、訓練中に死者などは出ないが、それでも常人には耐え難い程の恐怖が身を襲い、神経をすり減らしながら毎日を生き延びる。
 でも、苦労を共にするからこその仲間意識というものも芽生えて来るし、それによって結束が堅くなることは確かなのだが。

 こんな訓練に耐えられる者など、本当に居るのだろうか?
 一体何人の人々が挫折して行くのだろうか?
 そんな疑問が常に付き纏っていた。
 だからと言って、私の頭を挫折の三文字がよぎったかどうかと問われれば、勿論それは否、だ。
 途中で投げ出すなど、端から私の脳裏には無い。
 それでは、意味が無いのだ。
 この命は既に私には属していない。
 あの時から、この命はあのお方の物だから。
 そして、あのお方が最も大切にされている天使の物だから。
 だから、この命をあの方達に捧げた。
 少しでも役に立ちたいと、そう思ったから。
 だから挫折するなんてことは有り得なかった。
 私が味わった痛みや苦しみなど、判断基準にはならなかったのだから。


 ―――――そしてそれは、他の者達も同じだったのだろう。
 訓練課程が全て終了し、晴れて組織の一員として―――まだまだ下っ端ではあるが―――認められる今日までに、挫折し、途中で断念した者はいなかった。
 今こうして考えてみれば、それは当然のことだったのかもしれない。
 何故なら、ここに居る者達は皆、あの方に心底惚れているし、この訓練を受けられるまでにいくつもの試練や試験を突破しなければならなかった。
 中途半端な覚悟でいた者達は、容赦なく切られていった。
 そして彼らはもっと別の、「闘う」という言葉とはあまり関わりの少ない方面へと移されて行く。
 組織に関わりがある限り、「戦う」ことに代わりはないのだが。
 まぁ中には平穏な生活を送る者も居たのかもしれないが。

 そしてそれを乗り越えた者達だけがこの訓練場までの切符を手にするのだ。
 我々の中から挫折者が出ることはついに無かった。
 ここに居る者達は、それだけの覚悟をしてきたということだろう。
 訓練中、どんな窮地に追い遣られても、皆の眼から鋭い光が失われることは一度として無かった。
 諦めの色を顔に浮かばせた者など、決して見ることは無かった。
 私たちの眼は、常に一点を見つめていたから。あの空の向こうに、きっと我々が求めているものがある、と。
 そこへはきっと、あの方が導いてくれる、と。

 だからこそ、耐えた。
 私はこんなところで立ち止まる訳にはいかなかったから。


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     天使に、聞いた。
       好きになっても良いか、と。

     天使は、笑った。
       嬉しそうに笑って、良いよ、と言った。


 守りたい。
 天使の笑顔を守りたい。
 闇に墜ちた私に光りを届けてくれた天使を守りたい。

 頭のどこかでは分かっている。
 私なんかが守ることなど出来ないと。
 私なんかの力量では、全然足りないと。
 だからこそあのお方が全てを注いで守ろうとしているのだから。

 それで良い。
 私はあの方の手となり足となり、天使を守る壁の一部になるだけ。
 飛ぶことに疲れた天使が羽を休める為に、少しの間寄りかかる壁になるだけ。
 天使は全てに優しさを振りまくから、ただの壁である私にさえ笑顔を向けてくれる。

 それで良い。
 天使の笑顔が見られれば、それは至上の幸福。
 そこが楽園。


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 誰かが言うかもしれない。
 そんなものは私の傲慢でしかないと。
 汚れを知らない天使を守っている振りをして、光の世界を覗きたいだけなのだと。
 汚れを知らなかった頃の自分に戻りたいからだろうと、せせら笑う声が聞こえる。

 では、自分に問おう。
 果たして私はあの頃の自分に戻りたいだろうか?

 ―――そうなのかもしれない。

 きっと楽しいだろう。
 今頃、友人達と馬鹿騒ぎを起こして、誰にでも笑顔を振りまく、どこにでも居る様な一人の女の子として生活を送っているのだろう。
 それに魅力を感じない訳では無い。
 私だって女として生まれた以上は、そういった事への憧れはある。
 否定はしない。

 けれども、今の自分が前の様な生活に戻ったところで、心から楽しむことは出来ないだろう、ということが分かる。

 私は、天使の存在を知ってしまったから。
 天使に出会ってしまったから。

 傲慢なのは分かってる。
 矛盾していることだって、分かってる。

     でも

     それでも

     天使を守りたい

 今の私にとって、それが全てだから。
 あの男への憎しみが消えた訳ではないけれど。
 でもそれは、今の私にとって、それ程重要なことではなかった。
 もし、あの男に敵意を向けることがあるとすれば、それはきっと奴が私たちの天使に危害を加えようとしたときだけであろう。
 今の私は、天使を中心に動いているから。
 生きているから。
 あの方と、天使の為なら命を捨てることだって出来るから。

 ただそれは最後の手段。
 心優しい天使は、散っていく羽を思って涙を流すから。
 散りゆく花びらは、天使の笑顔を奪うから。
 だからそれは最後の最後まで選択には入れない。
 そうならないように、精一杯のことをするだけ。
 天使が悲しまないで済むように、全力を注ぐだけ。


 明日、そう明日、私はまた天使が居る場所へと戻ることが出来る。
 とりあえずは約束を守れて良かった。
 天使のがっかりする顔を見なくて済むと思うと、知らず顔が微笑む。
 きっと再開したときはあの笑顔を見せてくれるのだろうか。
 それだけで、訓練で傷付いた身体が癒される気がしてくる。
 どこからか力が沸いて出てくる気がする。
 本当に不思議なものだ。

 さあ、いつまでも浮かれてはいられない。
 気を引き締めなければ。
 とりあえず、天使の前に出た時に綺麗でいられるようにしなくては。
 この様な薄汚れて所々ほつれている服なんかではお会い出来ない。
 今からどれだけのことが出来るかは分からないが、精一杯努力しなくては。
 期限は一日しかない。
 なるべく傷を隠すような服が必要だ。
 きっとこの傷を見たら天使は悲しんでしまうだろうから。
 それは駄目だ。

 明日、明日天使に会える。あぁ駄目だ。
 やらなければいけないことが沢山あるのに。
 天使に会えると思うと顔が笑ってしまう。
 きっと最後に会ったときよりも綺麗になられて居るのだろう。
 自分に与えられた任務を、ただただ名誉に思うばかりだ。
 期待を裏切らないようにしなければならない。
 私を選んでくれたあの方に報いる為にも。

 期待を不安が混じり合う思いを胸に、私は明日帰国致します。
 天使が授けてくれた名前と共に。



     そして、そんな私があの方のお側に、

     私と同じ様な方を見つけるのは、

     もう少し先の話――――――――――――