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「旅立ち」
§46§「旅立ち」

 パーティーの夜は、久々に家族四人揃って食事した。
 食事と言っても皆、軽い物を頼んだ。
 何しろ、パーティーでは次々と豪華な料理が運び込まれるので、閉会になった時にはどの参加者も満腹状態になってしまっていて、有栖川家の四人も例外ではなかった。
 ただ、父親の希望で、明日日曜日の早朝にはアメリカへ戻ってしまう為、その前に母親も交えた家族の時間を過ごすことにしたのだ。
 父親と母親が顔を合わせたからといって、分かれてしまった人生の川はもう同じ流れになることはない、ということはお互いにわかっていたし、二人の子供達にも察しがついた。
 父親が、かつて愛した女性の真の価値を再認識したとしても、取り戻すには遅すぎた。
 無理に元の鞘に納まろうとすれば、直に子供の生まれる麗華が黙ってはいないだろうし、生まれてくる子への責任を放棄も出来ず、かえって琉美江を苦しめてしまうだろう。
 母親も、夫への愛を失った訳ではないが、新しい目標とそれを支えてくれる高藤との充実した時間が、すでに大切な生き甲斐になりつつあった。
 娘の美琉玖も婚約者の彼がいれば安心だし、美都琉も目標を持って自分の人生を歩き出している。
 子供達の心配が、これまでの育てる責任から見守る愛へと変わった時、自分自身の夢と目標を持つことの方が有意義に思えていた。
 後は離婚の時期だけが問題だったが、それは弁護士同士の協議になるようだった。
 そうしたそれぞれの思惑を抱え、家族のひと時は穏やかに過ぎた。

 そして、日曜日。
 日曜日だから見送りに行く、と言ったミルクに、かえって寂しくなるよ、と告げ、父親は一人アメリカへ戻って行った。

 ミルクは晴れて正式な婚約者となり、マサトのお迎えでデートに出掛けた。
 出掛けると言っても、場所はいつものマンション。
 ミルクにとっては、マサトと二人きりになれる一番落ち着ける場所だった。
 昨日の婚約発表パーティーの破天荒な様子は、経済新聞だけでなく、スポーツ紙や一般紙でも報じられていた。
 型破りなパーティーだったが、参列者のコメントで、
”こんな常識破りのパーティーは初めてだ。ホテルに入った時はごく普通の会場だったのに、目の前であっと言う間に盛大な祭典に変わってしまった。必要なのは舞台装置ではない。いかに人材を使うかで、まったく違うものを生み出す。・・いやぁ、原田氏の才能の一端を垣間見させて貰ったよ。常識を破れない者は過去の幻影にしがみつくしかない。常識を破った先に、開拓地は見出されるのだ、ということか。・・楽しく、しかも勉強になる素晴らしいパーティーだったよ。”
と、絶賛されていた。
 どの報道を見ても、別の参加者のコメントでも、大方好意的であり、賞賛の言葉で飾られていた。
 経済界の”若き覇者”であるマサトの評判は益々上がりそうである。
 そして、その婚約者のあまりに無垢であどけない愛らしさは、マサトの暗い噂を払拭してしまっていた。
 しばらく周囲の興奮が冷めるまで、ミルクにも注目が集まってしまうことは、避けようがなかった。
 そうしたこともあって、当分は外でのデートは出来そうもなかった。
 飽きやすく忘れっぽい日本人気質が、こういった場合助かる。
 人の噂の75日。
 二月も辛抱すれば、利害関係のある人達以外の興味は消え、注目されることもなくなるだろう。
 それまで、マンションと本宅と地下アジトの三箇所で、デートすればいいだけのこと。
 ただ、本宅だけはミルクは未だ苦手だった。
 正式に結婚して妻となるまでは、あの王宮のような豪華な部屋は使われないだろう。
 マサトの郷の人達が共に生活する場所で、特別扱いされるのが嫌だったのだ。
 ”特別”という言葉に含まれる責任や自覚は、未熟なミルクにはまだ負担過ぎた。
 当分、マサトの恋人、という位置が一番居心地が良さそうだった。

 マンションの部屋に入るなり、マサトとミルクはお互いを求め合った。
 昨日一日、一緒にいられたことはいられたが、ゆっくりキスをする暇もなく、見つめ合う目は共に相手を求めながら、人目に阻まれ抱き合うことも出来なかった。
 ペアルックのTシャツも、脱ぐまでのパッケージ。
 互いの肌を求めて脱がし合い、キスを繰り返して縺れるようにベッドに倒れ込む。
「、、ぁんん、、、」
 キスをしながら、おっぱいを愛撫され、すでにたっぷりと満ちていた蜜が溢れ出す。
 マサトの股間の蛇も、ヘソに付きそうなほど伸び上がっている。
 ミルクは手を伸ばして自分のお腹に当てるようにして扱き始める。
「ミルク・・可愛いぜぇ。・・・あぁ・・甘酸っぱい蜜が俺を誘う。・・・なぁ、俺の顔を跨いでくれ。」
「、、、えぇ?、、、ぁぅぅ、、、恥ずかしいよぉ、、、」
「ミルクの蜜をいっぱい舐めて吸いたいんだよ。」
「、、、ぅぅぅ、、、どうやるか、、わかんない、、、」
「お尻を向けて顔を跨げばいいのさ。」
「、、、はぅぅ、、、」
 ミルクが躊躇って頬を膨らませる。
「跨いだらミルクは俺の蛇を舐めればいいだろ?」
「、、ぁ、、そっか、、、うん、、、」
 マサトの蛇を舐めるのもすっかり慣れて、ミルクの楽しみになっていた。
 ミルクは納得して、仰向けに横たわっているマサトの顔の上で、足を広げて跨いだ。
 自分から秘部を晒すことへの羞恥心はあったが、蛇を舐めたい気持ちが優先した。
「・・いいぜ。・・そのまま、少し屈んで・・」
 ミルクは言われた通りに腰を突き出すように下げる。
 微妙な位置はマサトが合わせた。
 お尻の肉を手で押し広げられるようにして、チュゥゥッ、と吸われる。
「ぁッ、、ぁぁッ、、、」
 恥ずかしさに腰が浮き上がってしまうが、マサトに太腿を押さえられ逃げられなかった。
 中途半端に前屈みになった状態で、膣口を吸われ続ける。
「あぁぁ、、、ぁぁん、、、」
 自分で跨いでいるだけに奇妙な感覚がある。
 膣口の花弁をマサトの舌が、レロレロ、、と忙しく舐める。
 蜜壺の奥まで舌を差し込んで、蜜を啜る。
 ミルクはオシッコがしたくなるような快感に戸惑っていた。
「あぁぁん、、、漏れちゃいそぉぉ、、、」
 マサトの蛇を舐めようとしたのに、身動きが取れずに体を震わせて感じてしまっている。
「出していいぜ。・・飲んでやるから・・」
「えッ?!、、、そんなぁ、、、いやぁ〜ん、、、」
 ミルクは両腕をツッパリ体を支えながら、プルプルと震えている。
 マサトは、舌で一層激しく蜜壺の入り口を掻き回し、大きな音をさせて啜り上げている。
 ジュルッ、、ズズズッ、、ピチャピチャッ、、ズズッ、、
「あ、、ぁぁぁ、、、ぁぁん、、、我慢出来ないよぉ、、、もぉ、ヤダぁぁ、、、」
 ミルクは泣きそうになって腰をモゾモゾと動かす。
「そう言える内はまだまだだな。・・ククッ。・・もっと感じさせてやるぜ。」
 マサトはそう言うと、少し位置をずれて、クリトリスを舐めながら膣へ中指を差込み、Gスポットを擦り始めた。
「あッ、、ぁぁッ、、、ぁぁぁん、、、そこぉぉ、、、」
 ミルクは目を閉じて顔を仰け反らせる。
 たまらない刺激に、おヘソの周りの筋肉がキュウゥゥッと締まる気がする。
「あぁぁぁ、、、そこぉ、、だめぇぇ、、、」
「クックッ。・・ダメじゃなくて、いい、だろ?」
「ぁぁ〜ん、、、だってぇぇ、、、あッ、、ぁッ、、んー、、、」
 ミルクの膣がビクビク、、ヒクヒク、、と絶え間なく痙攣している。
 漏れそうな感覚は高まっていくが感じている時にオシッコは出ない。
 それなのにクリトリスが熱く焦れている。
 マサトは絶え間なくGスポットを擦り続けている。
 一瞬痙攣する膣が感極まったようにトロリと緊張を緩めた。
 ピュッ、、ピュッピュッ、、、
「、、、あぁぁ、、、あぁ、、、」
 何かが飛び出した気がして、ミルクは泣きそうに真っ赤になった。
「大丈夫。・・もっといっぱい出してあげるよ。」
 マサトは更に位置をずらして、中指と薬指二本で、Gスポットの反対側を強く擦り始めた。
 裏Gスポットと呼ばれる、一部の者しか知らない性感帯である。
「あぁぁぁ、、、ミルぅぅ、、、どうかなっちゃうよぉぉ、、、」
 ミルクは体をガタガタ震わせて感じている。
 お腹周辺は感じる時に起こる緊張が続いているのに、膣は自分のものとは思えないほどにマサトのテクニックに翻弄されている。
 これほど集中して膣だけを刺激されるのは初めてだった。
 もう、開放されたい、と思う一方で、漏れそうな感覚が窮まっていく。
「あぁぁぁ、、、あぁぁッ、、、ああぁぁッ、、、」
 ピュッ、ピュピュッ、、ピュッ、ピュウ〜〜〜ッ!
 細く勢い良く透明な液体が噴き出した。
 断続的に噴水のように飛び散った。
 マサトはクリトリスを口で覆って、その液体を飲み込んだが、間に合わなかったものが顔中にかかってしまった。
「、、、ぅぅぅー、、、ぅぅ、、、」
 ミルクは恥ずかしさで泣き出していた。
「バカぁ・・・泣くなよ。」
 マサトはミルクの股間から頭を抜いて起きあがった。
 ミルクはペタンとお尻をつけると、顔を両手で隠して泣きじゃくる。
「、、ふぇぇ〜ん、、、マサトのイジワルぅぅ、、、」
「何がイジワルなんだ?・・・普通のことだぞ?」
 マサトは濡れた顔をタオルで拭き、それからミルクを胸に抱き締めてやった。
「、、、オシッコ飲むのが普通なのぉ?、、、ぅぅ、、、」
「アレはオシッコじゃねぇぜ。」
「、、、うそぉぉ、、、ミル、、、出しちゃったもん、、、」
「出る場所は同じでも、成分は全然違うんだぜ?・・色は透明でサラサラしてて、臭いだってしねぇ。」
「、、、だってぇ、、、」
「アレは潮って奴だぜ。潮吹きって聞いたこと・・・ねぇだろうなぁ。」
 マサトはミルクの髪を撫でながら溜息を吐いた。
「出方だってオシッコとは違うだろ?」
「、、、うん、、、」
「噴水みたいに細くて勢いもいい。・・くじらが潮を吹くのに似てるから潮吹きって呼ばれてる、セックスには付き物の現象なんだ。全然恥ずかしいことじゃねぇんだぜ。」
「、、、そうなのぉ?」
 ミルクがやっと顔を上げる。
 マサトは微笑んで涙に濡れた頬にキスをした。
「そうさ。・・むしろ、ミルクが潮吹きするくらいに感じるようになって、俺は嬉しいぜ。」
「、、、ん、、、」
 ミルクはようやくほっとしたように頷き、マサトにもたれかかった。
 マサトはゆっくりとディープキスをしながらミルクを寝かせ、足を開かせると舐められ損なった蛇をミルクの中へ挿入させた。

 初めての経験で顔を真っ赤にしているミルクが可愛くてたまらない。
 マサトはキスをしながら、ゆっくりと奥まであたるようにピストン運動を繰り返す。
「、、ぁぁ、、、マサトぉぉ、、、愛してるぅぅ、、、」
 奥を突かれる度に背中を浮かせて感じている。
「俺も愛しているぜ。」
 マサトもミルクの細かい襞に包み込まれる感覚を味わう。
 ミルクの膣のもっとも奥まった辺りのぷちぷちが、蛇頭とカリ、そして裏筋を刺激する。
 蛇の胴は細かい襞が蠢きながら締め付けてくる。
 アザミが地下にいる機会に聞いておこうと、射精を我慢する方法を聞いた時、「最高どれくらい持つの?」と聞かれ、「30分が限度。」と答えると、フッ、と笑われた。
 ムカッ、として、ミルクのオマンコの気持ち良さを羅列したら、目を丸くして、「あんな童顔で・・本当なの?!」と呆れてから、「それは相当な名器ですね。宝くじに当たりましたか?」とまた笑っていた。
 まったく、女というのは扱いにくい。
 アザミは散々面白そうに笑いを洩らした後で、「それはもう我慢するしかないでしょう。」と、あっさり言われてしまった。
 我慢出来るものなら、我慢するぜ。
 じゃなきゃ、数をこなせばいい。
 裏を知り尽くしているマサトでも、まだ女性の扱いには慣れていなかった。
「、、マサトぉぉ、、、」
 ミルクが下で締め付けながら、うっとりとした眼差しで甘えてくる。
 マジで身震いする。
 少し別のことに意識が向くと、切なそうに甘えてくるミルク。
 キュゥゥゥッ、、と締め付けられる蛇が快感に戦慄き、魂までも吸い込まれそうになる。
 心を絡め取るような妖艶なあどけなさ。
「はぁぁぁ・・・我慢出来ねぇもんは、我慢しようがねぇぇッ!」
 マサトは勢いをつけて力強くミルクの子宮を突き上げ始めた。
「あぁぁ、、、ぁぁん、、、ぁぁぁ、、、脳がうにぃぃぃ、、、」
 ミルクは高まる快感に思考が溶けだし、目映い光に包まれるように真っ白な意識に包まれる。
「、、マサトぉ、、、あぁぁん、、、ああぁぁぁ、、、」
 マサトはミルクの足を曲げ、膝の裏に手を当てて顔近くまで持ち上げる。
 尻から腰と背中にかけて浮き上がる。
 その状態で、上から思い切り突き刺す。
 ジュブッ、、ジュブッ、、ジュブッ、、、
「ぅぅ、、、ぁ、、あん、、あん、、ぁぁ、、、あん、、あん、、あぁぁ、、、」
 グッチュ、、グチュグチュ、、グチュグチュ、、グチュッ、、、
 速度を上げると、ミルクのよがり声が一段と高まる。
「ああぁぁぁぁぁぁ、、、」
「イクぜぇぇーーーッ!」
 ドピュッ、、ドピュドピュッ、、ドッピュゥーッッ!
 背中が焼け付くような快感と同時に、マサトのザーメンが噴き出す。
 瞼の裏が赤く染まるのを感じながら、精子を全て出しきった所で、繋がったままミルクの足を降ろしてやる。
 ミルクは恍惚とした表情で痙攣している。
 余韻を味わう蛇をピクッ、、ピクッ、、とひくつく膣内に収めたままで、ミルクをそっと抱き締めた。
「・・愛してるぜ・・・」
 ミルクは痙攣しながらマサトに顔を押しつけてくる。
 マサトはミルクの痙攣が治まるまで抱き締めてやった。
 それからぐったりとするミルクを腕枕してやり、
「ゆっくりお休み。」
と言って、毛布を掛けてやった。
 今日はもっともっと愛し合うと決めている。
 そして、話さなければならないこともある。
 話せば泣かれるだろう。
 半月はそう長い期間ではないが、ミルクが寂しがり屋なだけに不安なマサトだった。

 1時間ほど眠って眼を覚ましたミルクに、レモンティーを飲ませてやってから、再び時間をかけて抱いた。
 何度も絶頂を繰り返して、気絶するように眠ったミルクが、ようやく起きあがれるまでに意識を戻したのは昼を過ぎてからだった。
 起きてもトロンとした状態なので、マサトは最近覚えたフレンチトーストを作ってやった。
「・・おぉぉ・・・すごぉーい・・・」
 ミルクは目の前のお皿に乗った黄金色のパンの甘い香りに笑顔をこぼした。
「このシュガーの焦げた、香ばしい味がいいんだよねぇ。」
「クスッ。気に入って貰えて良かった。・・どう?・・食べれそうかな?」
「・・・うん。・・どうにか・・・」
 ミルクは恥ずかしそうに頷いて、肩をちょっと上げた。
「・・あんなにいっぱい感じて・・・まだクラクラするけどぉ・・・」
「クックックッ。まだまだ。今日は一日ミルクを放さないぜ。」
「・・あ〜ん・・・気が変になっちゃうよぉ。・・・まだぁ・・アソコがジンジン痺れてるんだからぁ。」
「いっぱい、いっぱい・・・ミルクが、当分H嫌ぁーい、って言うくらい、たっぷり愛し合おうな。」
「・・何でぇ?・・・放課後デート出来ないのぉ?」
「・・・ま、先に食事しちまおうぜ。」
 マサトは微かに眉を寄せると、ミルクが覗き込んでくる眼差しと視線を合わせないように、パンをフォークで押さえナイフを入れた。
 ミルクは少し怪訝な表情になったが、甘いバニラの香りに誘われてフレンチトーストへと気持ちを向けた。
 甘い物が苦手なマサトは、自分の分には砂糖抜きでシナモンを利かせていた。
 これをやはり砂糖抜きのレモンティーと合わせるとなかなかイケる。
「どうだ?・・旨いか?」
「うんッ。」
 ミルクは、はふはふ、させながら頬張り、嬉しそうな笑みで答えた。

「ええええええええええーーーーーーーっっっ!!」
 ミルクの絶叫が響いた。
 TVを見ながら食休みをし、頃合いを見計らって、マサトが海外出張の話を切りだしたのだ。
「・・・うっそぉぉーーッ!・・・何でぇ?・・何でなのぉ?」
「・・これまでも二月に一度は海外に仕事で出掛けていたんだ。」
「・・・うそぉ・・・」
「ミルクが心配で・・商談も先延ばしにして海外へ行くことは延期してたけど、これ以上は信用にかかわるから仕方ねぇんだ。・・わかってくれ。」
「・・・ぅぅぅ・・・」
 そう言われたら、何も言えない。
 ミルクはうつむいて頬を膨らませた。
 涙がぽろぽろと零れる。
 マサトはミルクを抱き締め、よしよし、と髪を撫でた。
「電話は毎日するし、メールも届くようにする。・・多少、メールの場合は返事がすぐに出来ないこともあるが、なるべくマメに返事を返すようにするから。・・な?」
 ミルクは答えられずに唇を尖らせる。
「・・大きなぬいぐるみを買ってきてやるぜ?」
「・・・あんまり・・・大きすぎると可愛くない・・・」
「うッ・・・じゃぁ・・バケツくらい大きな香水は?」
「・・・臭いだけじゃん・・・」
「・・うぅーん・・・外国でしか手に入らないチョコレートとか・・・?」
「・・・ママのケーキの方がいいもん・・・」
「くッ・・・何か欲しい物はねぇのか?」
「・・・ない・・・」
 マサトは眉間を押さえた。
 物欲に疎いミルクを物で誤魔化すのは難しいようだ。
「・・なぁ・・・わかってくれよ。・・・俺だって辛いんだぜ?・・出来ればミルクも連れて行きてぇくらいだ。・・つーか、ミルクが一緒に行く、って言ってくれりゃぁ、勿論連れてくぜ?」
 ミルクは眉を寄せて、困ったように指を噛む。
「学校、休みたくねぇんだろ?」
「・・・う・・ん・・・」
 マサトは溜息を吐く。
「だったら、しょうがねぇじゃねぇか。・・な?」
「・・・うん。」
「・・いい子で待っててくれるな?」
「・・・うん。」
「よしよし。・・ミルクが嫌がるほど、土産を買ってきてやるぜ。」
 マサトはミルクの額にキスをした。
 と、ミルクが顔を上げ、うるうる、とマサトを見つめた。
「・・ん?」
「・・・お土産・・・一つでいい。・・・手刺繍のハンカチ。・・ずっと憧れてたから。」
「へぇ・・・そんなのがあるのか。・・よしッ、わかったぜ。」
「・・うん。」
 どうにかミルクに納得して貰えたので、マサトは肩の力を抜いて微笑んだ。

 それからの時間は、本当にベッドの中で抱き合ったまま過ごした。
 少しでも長く、肌と肌を触れ合っていられるように、体を重ねた。
 ギュウギュウ、としがみついてくるミルクが愛しくてたまらず、マサトは何度もミルクの中を精液で満たした。

 夜、ミルクを自宅へ送った時に、母親へも少しの間日本を留守にすることを話して、ミルクのことを頼んだ。
 そして、翌月曜日、マサトは日本を飛び立った。

<47>
「祭の余波」
§47§「祭の余波」

 月曜日。
 ロールスロイスでの送迎も、日常的な生活の一部になりつつある今日この頃ではあったが、この日の朝は少し趣が違っていた。
 車はいつも校門近く数メートル手前で停まるようにしていたが、カメラやビデオを持った報道関係者が待ち構えていて、とても車から降りられる状態ではなかった為、学校側の誘導で校門を車に乗ったまま通過した。
 校舎に入れば入ったで、生徒達の好奇の目に晒され、教室に入るなり歓声が上がった。
 みんな婚約発表パーティーのことを知っていて、わざわざそれを派手に取り上げてあるスポーツ紙を持ち込んで、回し読みしている人達もいた。
 婚約していても相手に関しては秘密にされる原則が、この状態では守られようもなかった。
 ミルクに婚約相手がいる、という噂はすでに周知のことで、今更騒ぐ必要はないはずなのに、騒ぎ立てるマスコミに煽られている感じだった。
 それに相手の原田雅人についても、経済に感心のある一部の人でなければ、名前を聞いても知らないし、興味の対象になる存在ではないはずなのに、”Sグループ会長”という肩書きが紙面を踊り、生徒達の興奮を煽ってしまったようだ。

 ミルクは、
「アリス、婚約おめでとう!」
と声をかけられ、
「ありがとう。」
と、力無く答えたものの、魂が抜けたように自分の席に座った。
 昨日の激しいセックスで燃焼しきってしまい、まだ燃え尽きた状態だったこともあるが、マサトが海外へ出掛けてしまった寂しさもあり、笑う気力もなかった。
 まだ、体中が痛む。
 乳首は下着に触れる度にズキズキするし、腰は重く怠い。
 赤く腫れてしまった秘部は、薬を塗ってナプキンを宛っているが、じっとしていても熱く疼いてピリピリとした痛みが走る。
 誰とも視線を合わせたくなくて、目を閉じて机に頬杖をつき、溜息をもらした。
「ミルクさん、どうしたの?」
 一条小百合の声に目を開ける。
「今朝の主役が、そんな浮かない顔をしているものじゃなくてよ。」
「・・小百合さん・・・ハァァ・・・主役になんかなりたくないですぅ。」
「まぁ。・・なりたくてもなれない人達がほとんどですのに、そんなことを仰るものではないわ。」
 小百合はミルクの前の席にいた生徒を退かして、イスに座る。
「・・だって・・・ミルは芸能人じゃないんだもん。・・こんな騒ぎは苦手ですぅ。」
 ミルクは別の理由の怠さを誤魔化すように、殊更不機嫌そうに頬を膨らませた。
 小百合は苦笑し、
「それはそうでしょうけど・・」
と、同情的に言った。
「でも、お相手の方のお名前は私も耳にしたことがありますのよ。とても素敵な方だそうね?」
「・・ぁ・・そっか。小百合さんのお父様も企業家でいらっしゃるから・・」
「ええ。もちろん父も面識があると話してましたけど、母もお会いしたことがあるそうなの。」
「・・ほぇぇ・・・」
 今更ながらミルクは小百合を、お嬢様だなぁ、と感心した。
「じゃぁ、ミルが彼と知り合う前から知ってたんだぁ。・・何かスゴイ・・」
「ホホッ。・・私はお会いしたことはなくてよ。」
 小百合はまんざらでもないように笑った。
「・・ふーん・・・小百合さんなら、こんな時でも困ったりしないんでしょうねぇ。」
 ミルクはまた溜息を吐いた。
「母が芸能人ですもの。・・仕方ないですわ。・・いいこともあれば、悪いこともあるものなのよ。」
「・・でしょうねぇ・・・」
 ミルクは、うんうん、と頷いた。
「こんな騒ぎでも1ヶ月もしない内に消えてしまいますわ。・・そう・・半月も我慢していれば、また普段通りですわ。」
「・・半月・・・」
 ミルクは眉を曇らせ、ぐったりと机に顔を伏せた。
「あら・・・どうなさったの?」
「・・彼・・・お仕事で今日から半月、日本にいないの。」
「まぁぁ・・・それは心細いですわねぇ。」
「・・っんっとにぃ・・こんな騒ぎ起こして、自分だけいないなんてズルイぃぃ・・・」
 ミルクは机に顎をつけたまま、思い切り頬を膨らませた。
 その様子に、小百合はクスクス笑って、
「ミルクさんって、本当に可愛い甘えん坊さんね。」
と言ってから、
「・・そうね。・・お寂しいでしょうから、良かったら電話とかメールしましょう?・・お話相手くらいなら私でも出来ますもの。」
と、優雅に微笑んで、自分の席に戻っていった。
 ミルクは、さすがに貫禄あるなぁ、と感心して、後ろ姿を眺めていた。

 授業が始まると浮き足だっていた校舎全体も静けさを取り戻した。
 けれど、昼休みになると、他の学年やクラスから見物に来る生徒もいて、ミルクはチャレンジクラブの部室に逃げるように移動した。
「今更こんなに騒がなくてもいいのにね。」
 部長の篠田麗子が同情して言った。
「けど、相当凄いパーティーだったらしいぜ。招待された叔母が年甲斐もなく興奮してたって、親父が話してたよ。」
「上杉先輩のお父様もいらっしゃったでしょう?・・似てたからすぐわかったぁ。フフッ。」
「理事だからね。・・しかしなぁ・・似てると言われるのは嬉しくない。」
「そうなのぉ?・・ミルはママに似てるって言われると嬉しいけどなぁ。」
「アリスの母上は美人だからいいさ。ウチの親父ときたら・・つるつる・・・」
 上杉謙也は頭の上に掌を翳して回して見せた。
「あはっ。それくらいいいじゃん。全然、気にならなかったよぉ。」
 ミルクは笑顔で言う。
 やはりこの部室は落ち着いてリラックス出来る。
「しっかし、アリスの相手が、あの原田雅人氏だったとはねぇ。」
 川島大介が溜息まじりに言う。
「・・川島先輩。・・その”あの”ってどーゆー意味ですかぁ?」
「だから、あのS商事会長の、って意味さ。俺、将来そこに就職したいって思ってたんだぜぇ。・・けっこうショックだよ。」
「クスッ。何でショックなのかしら?」
 麗子が苦笑する。
「・・何でかな?・・ハハッ。自分でもわからないけど・・まぁ、色々な意味でさ。こんな永久就職もあるのかぁ、とか、・・あの原田氏じゃ有栖川先輩が敵わないと認めるのも当然かぁ、とかね。」
「それは確かにあるな。あの原田氏じゃぁ、敵わねぇよなぁ。」
 響木渡も頷く。
「プゥゥ・・・あの、あの、って言わないでくださいー。・・っとにぃ・・」
「だってさ、原田氏は武道全般を得意とし、ボクシングやテコンドーなどの競技を趣味としてる、とかって、前に雑誌で紹介されてた時に書いてあったぜ。」
「・・ほぇぇぇ・・・知らなかったぁ。」
「・・・呑気な婚約者だなぁ。」
 上杉が呆れたように言ったので、部室に笑いが起こった。
「・・ぅぅ・・・だってぇ・・・ミルはボクシングとかしないもん。」
「ま・・・確かにな。」
「それより、川島君。S商事就職、アリスちゃんにお願いしたら?フフッ。」
「お、麗子先輩・・言うねぇ。」
「そりゃぁ有力なコネだもの。ねぇ、アリス?」
「ぇ・・・あは・・・ミル、お仕事のことは全然わからないですぅ。」
「一言、お・ね・が・い、って言えばいいのよぉ。」
 麗子はからかうような口調で言う。
 本気とも冗談ともわからない含み笑いに、ミルクは曖昧に笑って、
「じゃぁ、そうします。」
と答えた。
「いや。実力で入らなきゃ意味ないぜ。コネで入るようじゃ、会社で使えない奴って思われそうで嫌だしな。あの原田氏も、そーゆーとこは厳しいだろう。」
 川島がきっぱりと言う。
「そうだよなぁ。仕事に関してはかなり厳しいし、冷徹だって評判だもんな。」
 響木の台詞に麗子も頷く。
「そうでなきゃ、この低迷する日本で伸びるなんて出来ないでしょう。・・でも、アリスには優しいんでしょう?」
「・・うん・・・」
「相当凄い婚約指輪だそうね?」
「・・あれは・・彼の婚約者、って装う時のアイテムみたいな物かもぉ。・・ママがお家に置いておくのは怖いからって、銀行に預けちゃったもん。」
「アハハハッ。確かになぁ。1億近いって噂されりゃ、怖いよなぁ。」
「だったら、レプリカを作ればいいのよ。」
「レプリカ?」
「本物そっくりの偽物。・・そうやってる人ってけっこういるのよ。」
「へぇ・・・そうなんだぁ。」
「彼も知らなかったのかしら?」
「・・うーん・・・どぉだろぉ?」
「だって普段してられなかったら意味ないでしょう?」
「あ、普段用のはもっと小さくて可愛いのをくれたですぅ。」
「甘ッ!・・・クスクス・・・愛されてるのねぇ。・・いつの間にかブレスレットもそんなに増えてるしぃ・・今、何本なの?」
「・・ぇ・・9本ですけどぉ・・・」
 ミルクは顔を赤らめて答えた。
 昨日、家に送ってくれる前に、”初潮吹き”の記念にと、また腕に掛けてくれたのだ。
 思い出したら、顔から火が出そうなほど恥ずかしくなった。
 どうしてこうもH関係の日を記念日にしたがるのだろう。
 ミルクは、シャラランッ、、と音がする度に、マサトとのHが浮かんできてしまうので、顔に出さないようにするのが大変だった。
「婚約パーティー記念?」
「・・そんな感じかも・・・」
「・・違うの?」
 麗子がチラッ、と流し目をする。
「いえ。そうです。」
 ミルクは焦って笑った。
「そぉ・・いいけど。・・・一生、記念日を決める度にブレスレットを贈ってったら、両手両足が肌も見えないくらいになりそうねぇ。」 
「・・そんなぁ・・・いくら何でもそこまでは・・・」
「1年は365日だから365本で終わりじゃないか?」
「いや。意味が違えば同じ日でもかまわないだろう?」
「ふむ。」
 チャレンジクラブはすぐに話題が飛躍したり逸れたりする所が面白い。
 ミルクはあれこれ聞かれても嫌味がないので、安心して笑って答えられた。
 そして、昼休みを楽しく過ごせて教室に戻った。

 帰りの迎えの車も校庭まで入って待っていた。
 しばらくはこうした特別扱いも仕方ないようだ。
 ミルクはチャレンジクラブは辞退して家に帰った。
 帰ると家の前でも報道関係者が待っていた。
 警護の為に同乗していたマサトの部下と運転手が庇ってくれたので、どうにか家の中に入れたが、これでは庭に出ることさえ出来そうもなかった。

 母親は家にいた。
「お帰りなさい。・・大変だったでしょう?」
と、母親自身も困惑顔で言った。
「騒がしくて不安だから、今日の料理教室はお休みにして貰ったの。・・でも、洗濯物も外に干せないし、お買い物も行きにくくて・・・」
 母親も頬杖をついて溜息をこぼした。
「・・ごめんなさい。」
「え?・・あら、ミルちゃんのせいじゃないわよ。」
「・・だって・・・ミルがパーティーを怖がらなかったら、あんな派手なお祭り騒ぎにはならなかったのに・・・」
「でも、その分皆様が楽しんでくださったんですもの、良かったじゃないの。ね?」
「・・・う・・ん・・・」
「それに、報道されたのは少し戸惑ったけど、どれも好意的な記事でマサトさんを誉めてくれてるでしょう?」
「・・・うん。」
「だから、ミルちゃんは気にしないこと。・・ママこそごめんなさいね。ミルちゃんが一番気にしてたのに、つい愚痴っちゃって・・」
「・・・ミルは、いいの。・・ただ、ママやお兄ちゃんまで巻き込まれて大変なのって・・ミル、悲しい・・・」
「いいのよ。・・きっと少しすれば落ち着くわ。」
「・・うん。小百合さんが、1ヶ月もすればみんな忘れるって。騒がしいのも半月くらいだって。」
「あら、そう。・・フフッ。やっぱりお母様がスターだから、心得てるわねぇ。」
「うん。」
「そうね。それくらい我慢しましょう。・・あと、身の回りに注意しないといけないわね。・・ミルちゃんも、着替えとかする時は厚いカーテンを閉めた方がいいわ。・・あぁ、お風呂の窓にも遮光する物を考えないと・・高藤さんに相談してみましょう。」
「うん。」
「そしたら、着替えてらっしゃい。マンゴープリンがあるわよ。」
「はーい。」
 ミルクはおやつを聞いて、笑みを浮かべると、気を取り直して二階へと着替えに上がっていった。

 母親の電話で高藤がすぐに駆け付けてきてくれた。
 そして、家周りの警備を数人常駐させるように手配した。
 風呂場は外からも内側からも完璧に覆い隠し、他にも一階は特に覗かれないように目隠しをした。
 季節柄、葦簀や観葉植物を置くことで、かなり外からの視界を遮ることが出来た。
「本当に助かりますわ。・・いつも済みません。」
 そう、頬を赤らめて礼を言う母親は、少女のように初々しい表情をしていた。
「これくらい当然です。・・こちら側の責任ですし、そうでなくても皆さんをお守りするのが私達の務めですから。」
 高藤は事務的に言ったが、母親に向ける眼差しは優しく、甘いムードが漂っていた。
 ミルクは高藤がそーゆー雰囲気の人だと思っていたが、実は母親と高藤はすでに体の関係も持っていたのだ。
 母親は高藤に家庭があることも承知していたし、その家庭を壊そうなどという気持ちはなかった。
 それでも、申し訳ないと思いながらも、すでに高藤の存在が自分にとっては不可欠となってしまっていた。
 高藤に初めて抱かれた時、不安に戦きながらも、忘れかけていた女としての喜びに歓喜の声を上げていた。
 それは夫との行為を続けていた頃よりも、興奮と陶酔をもたらせた。
 高藤も、琉美江が年齢よりずっと若く見えるだけでなく、実際その体も妖艶な美しさを留め、魅惑的なことに驚き、すっかり虜となっていた。
 ミルクだけでなく、母親もまた同じ資質を持った妖魔だったのだ。
 しかし、こう周囲が騒がしくなって、逢瀬は控えなければならないだろう。

 ミルクが部屋に上がった束の間、かつては夫と愛し合ったベッドで、二人は熱いキスを交わした。
 高藤の手が琉美江のスカートから滑り込み、秘部に触れる。
「、、ぁぁ、、、英さん、、、いけないわ、、、」
「・・ミツル君はまだ帰らないのでしょう?・・アリス様はきっと会長へのメールで下りてはこられないでしょう。」
「、、だって、、、」
 高藤はキスで琉美江の口を塞ぎ、パンティーの隙間から膣へと指を差し込み、熟れた蜜壺を掻き回し始めた。
 琉美江は声を堪えて悶える。
 そこを愛撫されたら、もう欲望が止まらなくなる。
 娘が同じ屋根の下にいる時に、いけない、と思いながらも、琉美江は抵抗をやめて自らも高藤の股間の高まりを指先でさすった。
 高藤は琉美江のパンティーをスルリと足から抜き取り、ベルトを外したズボンを膝まで降ろした。
「、、、ぁ、、、ん、、、」
 高藤のそそり立った肉棒を押し込まれ、琉美江は仰け反りながら声を堪えた。
 口づけで声を押さえ込みながら、二人は激しく絡み合った。
 グチュグチュグチュッ、、
 蜜壺がこね回される音と二人の荒い息遣いだけが寝室に響いている。
 琉美江は、ドアの外の音に警戒して脅えながら、高まる快感に体を震わせて陶酔した。
「・・琉美江さん・・・ハァハァ・・・中出ししていい?」
「、、、ぁ、、、今日は、、、ダメ、、、」
「・・出したい・・・」
「、、ぁぁん、、、口で、、、お願い、、、」
「・・わかった。・・じゃぁ、先にいかせてあげるよ。」
「、、ん、、、ぁぁ、、、ぁぁぁ、、、んん、、、」
 琉美江は毛布で口を覆い、声を押し殺しながら登り詰め、エクスタシーに痙攣した。
「・・あぁ・・・琉美江さん・・・頼む・・・」
 高藤が感極まって喘ぎ声を洩らし、琉美江は高藤の硬直したペニスをくわえた。
 ジュブッ、、シュビゥッ、、ジュビッ、、、
 円熟したテクニックは高藤の脳をとろけさせ、骨抜き状態にさせる。
「あぁぁ・・・素敵だ・・・うぅぅッ・・・クッッ・・・はぁぁ・・・」
 背中から腰、そして股間へと熱い炎に焼かれるような快感に、高藤は痺れ、目眩を感じながらベッドに倒れた。
 しばらく抱き合って、甘い余韻に浸り、キスを繰り返していた。

「、、、そろそろ息子が帰ってくるから、、、」
 琉美江は鏡台に向かって化粧を直し、高藤に微笑んだ。
 まだ目が熱を持って潤んでいる。
「・・では、その前に帰るよ。・・僕はミツル君には嫌われているようだから。」
「あら、、そんなこと、、、」
「・・まだ側にいてあげたいけどね。」
「、、、大丈夫よ。」
 琉美江はフッと寂しげな笑みを浮かべて言った。
 二人は寝室を出る前にもう一度熱いキスを交わした。
「、、あら、、、口紅が、、、」
 琉美江がティッシュでそっと拭き取ってやる。
「また、来られるようにするから・・」
「、、ええ。」
 高藤は琉美江をギュッ、と抱き締めてからドアを開け、玄関へ向かった。
 琉美江も高藤も玄関では礼儀正しく別れの挨拶をした。
 高藤は警護する者達へ声を掛けてから、駐車場に置いた車に乗って、帰っていった。
 琉美江はキッチンテーブルの前に座り、冷たい紅茶を飲んで、女の顔から母親の顔に戻るようにと火照る頬に手を押し当てた。

<48>
「禁断の恋?」
§48§「禁断の恋?」

 金曜日。
 マサトと会えない日が五日過ぎた。
 体に残された痛みも癒え、心に寂しさが蓄積してくる。
 マサトからの電話は毎日あったし、1時間は話し込んでいる。
 話す時は、なるべく心配かけないようにと、明るく話すように気を付けていたし、報道陣のしつこさを愚痴っても、”寂しい”とか”辛い”という言葉はミルクの中で禁句にしていた。
 マサトは遊びで出掛けたのではないのだ。
 一緒にいくか?、と言われたのに、答えられなかったのもミルク自身なのだ。
 電話で詳しい仕事の話はしないマサトだったが、それでも様子から時間に追われて忙しそうなのは伺えた。
 わかっている。
 自分を中心に世界が回っている訳じゃない。
 我慢するべき所は我慢しなきゃいけない。
 マサトがミルクに甘いだけに、不平や不満をぶつけてしまったら、仕事に支障をきたしてしまうかも知れない。
 そうなって辛いのもミルク自身なのだから、マサトが仕事に専念出来るように”いい子”でいるように努力しなきゃいけない。
 ・・・そう、わかっているのに・・・やっぱり辛かった。

―「明日は土曜日だな。」
「・・うん。」
―「週末は何か予定が入っているのか?」
「・・うん。来週が香蘭学園の学園祭だから、チャレンジクラブの出し物の準備でいつも通りに登校するの。他のクラブもそうだから、授業はないけど普通に一日学園で過ごすの。」
―「そうかぁ。ミルクも頑張ってるんだな。」
 マサトの優しい声が猫笑いを思い浮かばせる。
 ミルクは切なさに小さく溜息を吐いた。
―「なら、日曜日も準備?」
「ううん。大体、明日で仕上げて、間に合わない分は平日の放課後にするんですって。・・カトリック系の学園だから、日曜日は安息日で学園活動はしないみたい。」
―「あ、そっか。・・なるほどな。」
「日曜日はお兄ちゃんの剣道の試合があって、小百合さんが応援に行きたいって言うから一緒に行くことにしたの。」
―「小百合?・・あぁ、一条家のお嬢様か。・・クククッ。全然、兄貴に相手にされてないんだろ?・・まだ諦めてなかったのかぁ?」
「お兄ちゃんのそーゆー硬派な所が大好きなんですって。」
―「・・ふむ。・・・まぁ、その子の父親はけっこう軟派だからな。」
「・・え?・・・嘘ぉ・・・財閥の一門で超一流企業の重役でしょう?」
―「クックックッ。そうした連中の方が女遊びは派手なものさ。一条氏には確か未成年の愛人がいたなぁ。17か18だったかな?」
「そんなぁ・・・」
―「もっとも普通の高校生じゃないぜ。いわゆる芸子って奴さ。」
「芸子?」
―「芸者とか舞妓とかならミルクも聞いたことあるだろ?」
「あ・・うん。」
―「早い子は中学生の頃から親元を離れて住み込みで芸の修行して、14、5歳で旦那がつくんじゃないかな。その方面はあまり詳しくないからよく知らないが。」
「旦那?」
―「クックッ。ミルクには何でも一から教えないとわかんないか。旦那っていうのは、その子の後見人みたいなもので、着物とか簪とか色々必要な道具があるだろ?・・そうした物を買ってくれるパトロンってことさ。」
「・・・ふーん・・・」
―「一条氏も旦那になってる子がいるそうだよ。14歳で男を教えたって自慢してるらしい。」
「えー・・・」
―「ウチの社長がお座敷に招かれた時、その子も呼ばれて来てて、ワカメ汁を御馳走された、と苦笑しながら報告してたよ。」
「・・へぇ・・・お座敷の御馳走ってワカメ汁なんだぁ・・・」
 マサトが笑い出し、言葉が少しの間途切れた。
「・・・なぁに?」
―「アハハッ・・クククッ。・・いや、ワカメ汁って言っても、ミルクが想像するような味噌汁じゃないぜ?」
「え?・・違うのぉ?」
―「お吸い物のお椀におまんこを浸すのさ。そうすると陰毛が澄まし汁の中で漂うだろ?・・それがワカメのようだ、ってとこからワカメ汁って呼ばれてるんだよ。」
 ミルクは絶句した。
 何てキモイ世界なんだろう、と大きく溜息を吐く。
―「ミルクには刺激が強過ぎたかな。・・結局、金があればそんな破廉恥なことが普通に出来ちまうってことさ。・・もっとも、俺が知ってる世界はもっとエロくてグロイがな。その程度なら可愛いもんだぜ。」
「・・・最低ぇ・・・」
―「そうか?・・俺はミルクのワカメ汁なら飲みてぇ。・・うッ・・想像したら、ヨダレが・・クックックッ。」
「もぉ・・・Hなジョークは嫌いー。・・・それに、ミル・・漂うほどないもん。」
 ミルクの陰毛は、細く柔らかい毛が丘に薄く貼り付いてる程度しかなかった。
―「あ・・いや。やっぱ直接蜜を啜る方がいいぜ。」
 マサトは焦って訂正すると、
―「・・つまり、そうやって自分が面倒見ている子のおまんこ汁を振る舞うってことは、それだけ招待した相手に遜ってます、って感じのパフォーマンスってことじゃねぇかな。」
と、説明した。
「・・・ふーん・・・」
 ミルクはつまらなそうに返事をした。
―「ごめん。・・変な方向に話が逸れちまったな。・・あ・・だから、そうした大人の醜さみたいな親の一面を、小百合って子が感じ取って、潔癖な印象のあるミルクの兄貴に惹かれるのかもな、って話さ。」
「・・・そっか。・・・じゃぁ、ミルも嫌われそう・・・」
―「大丈夫。ミルクはネンネ顔だから、普通にしてたらHしてるようには見えねぇぜ。」
「・・・だって・・・婚約してるじゃん。」
―「クスッ。婚前交渉しない婚約者だっているぞ。」
「・・・うぅぅ・・・そーかなぁ?」
―「それに、その手の話題が苦手な奴は、初めからそうした話題は振らねぇものさ。隠すとかじゃなく、聞かれないことには答えない、って姿勢でいればいいだろ。」
「・・じゃぁ、聞く人には?」
―「そんなプライベートなことまで聞きたがる奴はロクなもんじゃねぇ。無視してりゃいいんだよ。」
「あぁ・・ね。・・そかそか。」
 ミルクは笑って頷いた。

 マサトの声を聞いていると、安心して体も温かくなってくる。
 それだけに、電話を切った後、興奮が落ち着いてくると、急激な寂しさに囚われてしまう。
 寝ちゃうに限る、とベッドに潜り込んでもなかなか眠れない。
 寂しさはシンシンと降り積もっていった。

 眠れない深夜。
 ペンギンのランプシェードの淡い光が、天井をぼんやりと明るくしている。
 羊を一匹ずつ数えていくように、マサトのことを出会った頃から丁寧に思い出す。
 しつこく絡んでくる男達に連れていかれそうになった時、突然現れて助けてくれたマサト。
 あれほど、憎悪に燃え滾る冷たく激しい眼差しを、ミルクはかつて見たこともなかった。
 外灯の明かりの届かない薄闇で、目だけが異様に強い光を放っているように思えた。
 目にも留まらぬほど素早く動く黒い影に翼が見えたのは、多分マサトの腕の動きによる錯覚だろう。
 圧倒的な強さで、ミルクにとっての怖い敵を追い払ってくれた聖騎士様。
 ゆっくりと近付き跪いて、転んで擦り剥いた傷口を舐めて埃や小石を拭ってくれた。
 その時の温かさと柔らかな舌の感触を今でも覚えている。
 膝を縛ってくれたハンカチ。
 会いたい言い訳に洗って返しちゃったけど、本当は記念にとっておきたかった。
 お土産にハンカチが欲しかったのは、それの代わり。
 白い布に白い糸で一刺し一刺し丁寧に刺繍されたハンカチは、マサトの切なくて綺麗な心のよう。
 マサトは、
「俺は悪魔かも知れねぇぜ?」
と笑う。
 でも、マサトも言うように、
「けどな・・・悪魔より怖ぇのが人間なんだぜ。・・悪魔は人間の欲望に手を貸すだけ。・・悪魔には美学がある。冒さざるべきは犯さず、必要ならざれば奪わず、神聖な誓いは守る。・・・ところが、人間って存在は欲望に留めがない。見境なく奪い、犯し、裏切り、己の欲望を満たす。・・面白くてたまんねぇぜ。」
・・・なのかも知れない。
 (もっとも、面白いというマサトの言葉には、たっぷりの皮肉が込められていることを、気付かないミルクは、眉をひそめて首を傾げるのだが。)
 神に背を向けながら、誰より神に近い存在が悪魔なのかも・・・。
 ミルクはマサトがどんな存在であっても信じられる。
 穢れてない真っ白な心を感じるから。
 血を流し続ける魂によって、真っ赤に染まったとしても、白は白さを失わない。
 戦いの中で重油にまみれたかと思うほど、真っ黒に汚れたとしても、やはり白く輝く心。
 だから信じられる。
 信じる根拠なんていらない。
 それはもう、直感というか、閃きというか、思い込みであっても構わない。
 マサトが悪魔なら、ミルクは魔界でそっと息を潜めて生きていく。
 マサトが戦うなら、ミルクも戦う。
 そして、マサトが苦しい時には支え、悲しい時には抱き締め、疲れた時には膝を枕に寝かせてあげたい。
 ・・・そうなれたらいいなぁ・・・。
 ミルクは睡魔に引き込まれながら、未だ未熟な甘えん坊でしかない自分を、投げ出したくなるほど持て余していた。


 土曜日。
 チャレンジクラブに顔を出したミルクは、麗子が書き上げた台本を渡された。
 屋台を出すだけでは物足りない、と、チャレンジクラブも出し物に挑戦することになったようだ。
 あまり放課後に顔を出していなかったので、ミルクにはまだ内容がつかめていない。
 台本の表書きに『創作赤ずきん』とある。
「あー、アリス。ちょっとそこに立って台本を見ててね。採寸しなきゃいけないから。」
「え?・・ミルも出るんですかぁ?」
「もちろん。学園のアイドルには主役をやって貰うわよ。」
「・・・って、・・・ミルのことですかぁ?」
「決まってるでしょ。・・フフッ。アリスが出れば、お客様は集まるし、チケットも売れる。ついでに屋台の食券も売れば、一石二鳥。・・ん?一挙両得だっけ?・・ま、いいわ。」
「えー・・・」
「そんな難しい台詞はないから、すぐに覚えられるわよ。」
「・・・そーゆー問題以前に・・・そんな目立つのは苦手ですぅ・・・」
「部長命令よ。・・衣装縫わなきゃならないんだから、ほら、文句言わずに立って。」
「・・・ぅ・・わかりましたぁ・・・」
 ミルクは立って、麗子達に言われるまま、手を伸ばしたり曲げたりしながら、パラパラと台本に目を通した。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 お話の設定は山や森ではなく、ある王国の都。
 対立する貴族の赤ずきん一族とオオカミ一族。
 ある日、オオカミの着ぐるみを着て、パーティーを覗きに行った赤ずきん姫は、そこで一人の格好いいオオカミの青年に恋をする。
 乳母に恋心を打ち明けて、乳母がその青年を調べると、なんとオオカミ一族の王子だという。
 ああ、なんて悲しい宿命。
 赤ずきん姫はベランダで切なく訴える。
 「オオカミ様、オオカミ様。あなたは何故オオカミ様なのですか。」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ・・・・・おい・・・・・
「麗子さぁーん・・・これって、まるで『ロミオとジュリエット』じゃないですかぁ。」
「うふん。ちゃんと赤ずきんちゃんとオオカミが出てくるじゃないの。いいのよ。適当で。」
 ・・・・・いいのかぁぁ???
「それに有名な台詞の方が覚えやすいでしょう?」
「・・・まぁ・・それは・・・」
「観客だってわかりやすいし・・・赤ずきんちゃんがオオカミの着ぐるみを着たり、オオカミが切なく吠えたりするのが面白い訳よ。」
「・・・はぁ・・・」
「結末は読んでのお楽しみに。フフッ。」
 ・・・どっちのお話の結末になるんだろぉ?
 ミルクは首を傾げて、後ろのページを捲る。
「あ、続きは家で読んで覚えて。・・今日しか大道具作れないから、背景描いてる男子の方を手伝ってあげてね。色塗りとかの手が足りないって上杉君が言ってたから。・・場所は体育館の北側なの。」
「・・はーい。」
 ミルクは台本をバッグにしまい、体育館へと向かった。

<49>
「距離」
§49§「距離」

 涙が零れた。
 パロディーなコメディーなのに、切なくなった。
 マサトからの電話を待つ間、ベッドに寝転がって劇の台本に目を通していたミルクは、溢れ出した涙が止まらなくなってしまった。
 そんな泣くようなラストではないのだろう。
 と言うより、内容がコントのテンポで進行するので、ラストが深刻にならないようになっている。
 それでも、悲しい結末だった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 恋に落ちた赤ずきんとオオカミ。
 罪を犯して都落ちしたオオカミ王子に、会いたくてたまらない赤ずきんが、猟師の策に乗り、盗賊にさらわれたことにして乳母と森の小屋に隠れた。
 オオカミ王子には”森の小屋で待ってます。”と手紙を送ったが、赤ずきん姫がさらわれた噂の方が先に伝わってしまった。
 怒り狂ったオオカミ王子が、盗賊が隠れているらしい森の小屋を突き止める。
 小屋の中では乳母が楽しそうに編み物をしていた。
 赤ずきんはこの日、森の南の丘にある木苺を摘みに行き、近くに花畑を見つけて花も摘んでいて帰りが遅くなってしまっていた。
 オオカミ王子は乳母が盗賊と通じていると誤解し、激しくなじりながら詰め寄った。
 乳母は慌てふためいてイスからよろけながら立ち上がり、床で寝ていた猫のシッポを思い切り踏んでしまった。
 そこに城から派遣された盗賊征伐の一軍が、猫の叫びを乳母の悲鳴と間違えて駆け付け、オオカミ王子を盗賊と勘違いして射殺してしまったのだ。
 銃声が森中に響き渡る。
 赤ずきん姫は胸騒ぎを覚えて、小屋まで走って帰った。
 そして、血まみれになって倒れているオオカミ王子を発見する。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ストーリー的にはまったく『ロミオとジュリエット』だった。
 設定が『赤ずきん』だとこんな陳腐なお話になる、というパロディーなのだろう。
 その結末になるまでに、笑い箇所があちこちに盛り込まれている。
 けれど、ミルクには笑えなかった。
 離れている恋人に会いたい気持ちが、自分の気持ちと重なって、ラストでオオカミ王子を抱き締めて泣く赤ずきん姫が哀れでならなかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 猟師の策に乗らず、会える日をじっと耐えて待っていれば。
 噂より手紙が早く届いていれば。
 この日赤ずきん姫がお花摘みをしていなければ。
 乳母が慌てて猫のシッポを踏まなければ。
 盗賊征伐の一軍が、オオカミ王子を盗賊と勘違いしなければ。
 全ては仮定…もしも、の話。
 起こってしまった悲劇は、もう取り返しがつかない。
 ”皆様はこのような、「もしもあの時」と後悔することがないように、くれぐれもご注意なされませ。”
 という国王の言葉で劇は締め括られる。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ・・・充分に悲劇じゃん。
 ミルクは手の甲で涙を拭って、鼻を真っ赤にして頬を膨らませた。
 こんな悲しいラストは嫌だ。
 こんな悲しい赤ずきん姫を演じたくない。
 ミルクはベッドに突っ伏して啜り泣いた。

 マサトから電話があった時、ミルクが涙声なので、
―「ミルク?!・・どうした?何があったんだ?」
と、焦った様子だった。
 ミルクはチャレンジクラブの創作劇の話をした。
―「何だ。そんなことか。バカだなぁ。たかが作り話じゃねぇか。」
 マサトは溜息を吐きながら笑った。
 ミルクは一瞬何故か言葉が返せなくなった。
 どんなに愛し合っていても、感性を完全に同一化することは出来ないのだと気が付いた。
 ミルクは何かを言おうとしては息を飲み、それを繰り返す内に悲しくなってきてしまった。
 フッと父親の言葉を思い出す。
 ”離れるべきではなかった。”
 お互いに感性も考え方も違うからこそ、一緒にいることが大切なのだ、と。
 側にいて、日々の生活の中で相手の気持ちに寄り添うからこそ、理解し合えるのだ、と。
―「・・ミルク?」
「・・・ごめんなさい。」
―「え?・・・何を謝っているんだ?」
「もう、いいの。愚痴ってごめんなさい。」
―「ミルク・・・」
「もう、休むから。・・・お休みなさい。」
―「おい。ちょっと待てよ。」
「ごめん。・・・今日は疲れちゃって。お休み。」
 ミルクはまだ何か言いたそうにしていたマサトに、一方的に別れを言って電話を終わらせた。
 これ以上話したら、自分でもよくわからない悲しさや不安をぶつけてしまいそうだった。
 ベッドにペタンとお尻をつけて、項垂れて涙を零した。

 どれぐらいそうしていただろう。
「おい、ミルク。さっきから呼んでるのが・・」
 ドアノブに手をかけたまま、ミルクの部屋に顔を出したミツルが、言葉を途切れさせた。
 声に反応して顔を向けたミルクが、目も鼻もほっぺも真っ赤にして涙を溢れさせている。
 ミツルは息を飲んで溜息を吐いてから、ゆっくりと部屋に入ってきた。
 ミルクのベッドの端に座り、
「どうした?」
と、肩に手をかけ優しく言った。
 ミルクは答えられずに視線を落としてうつむいた。
 ミツルはミルクの手元にあった台本に気付き、
「チャレンジクラブ演目『創作赤ずきん』?・・・何だ、これ?」
と、拾い上げてパラパラと中を眺めた。
「あー?・・・これって『ロミオとジュリエット』じゃねぇか。麗子の奴、相変わらず発想が飛んでるなぁ。」
「・・・それね・・・最後にオオカミ王子が死んじゃうの。」
「へぇ・・・パロってる割に普通なんだな。」
「・・・ミルが赤ずきん姫なの。」
「ミルクが?・・・チッ。婚約したばっかの子に何やらせるやら。」
「・・ぅぅ・・・だよねぇ?・・そう思うよねぇ?」
「麗子の突拍子もない性格を知らなきゃ、嫌味だと思うぜ。」
「・・だけど・・・その企画は婚約発表する前からのだから・・・」
「わかってるよ。そんな悪気はなかったんだろうさ。・・けど、結末がそのままロミジュリ真似たって面白くねぇって。・・麗子にそう言って、ラスト替えさせてやるよ。」
「・・そんなこと出来るの?」
「簡単だろ?・・そうだなぁ。姫がプレゼントしたコインのお守りに弾が当たって、気絶してただけ、とかさ。」
「・・でも、血まみれって・・・」
「別にそこを替えりゃいいだろ?・・・どうしても血まみれシーンが欲しけりゃ・・・王子が姫にやろうと胸に入れてたトマトが倒れた拍子に潰れた、とかな。クスッ。」
 ミツルは自分の発想をイメージして、軽く笑った。
「・・そう出来ればいいけどぉ・・・」
「仲間内でやることで、決まりはないんだから、いくらだって変更はきくさ。連絡先は知ってるから話しておいてやるよ。」
 ミルクは涙を拭って瞬きをした。
 重苦しく悲しかった胸が次第に軽くなるのを感じていた。
「だから、そんな泣きべそ顔してないで、早く風呂入って寝ろよ。明日、応援に来てくれるんだろ?」
「うん。」
「母さんが早く風呂に入るように、って言ってるぞ。」
「うん。」
 ミルクが頷くと、ミツルは、よしよし、と頭を撫でてベッドから立ち上がった。
「あ・・おにいちゃん。」
「うん?」
「用事って?」
「・・・だから、風呂だって言ってたんだよ。」
 ミツルはミルクの額を小突いて笑った。
「ぁぅ・・・」
 ミルクは頬を膨らませて額を撫でたが、口元には笑みが浮かんでいた。


 日曜日。
 ミルクは少し早起きをして、母親と応援の差し入れ用の料理を作った。
「お早う。いい匂いがすると思ったら、朝から御馳走だなぁ。」
「あ、お兄ちゃん、今食べちゃダメェ。お昼の時の差し入れなのぉ。」
「わかってるよ。・・でも、一個味見。」
「あんッ・・・・・で、どう?・・いけてる?」
「うん。旨い。」
「良かったぁ。ね、ママ?」
「フフッ。ミルちゃんが頑張って作ったのよ。ミツルも頑張らなきゃね。」
「ああ。・・今日は一年も出場させるから、あいつ等がどこまでやれるか、ってとこだな。」
「そっか。部長してると、そーゆーことも心配しなきゃいけないんだぁ。」
「後輩を育ててこその先輩だからな。」
「お兄ちゃん、偉い!」
「おう。」
「まぁ・・・ホホッ。」
 母親は久し振りに和やかな家族の雰囲気に、楽しそうに微笑んだ。
 特に、喧嘩ばかりしていた兄妹の、以前のような仲の良さが嬉しかったのだ。
「あ・・ミルク。あの話、麗子に話しておいたから。済まなかった、って言ってたよ。」
「え・・もう?」
「早い方がいいだろ?・・今日、ラストを書き換えるって言ってたよ。」
「うん。・・ありがと。」
 ミツルは、うんうん、と頷き、先に朝食を済ませると、支度をして出掛けていった。
 ミルクは小百合が来るのを待って、小百合の家の車で試合会場へと向かった。

「部長。妹さんが見えられてますよ。」
 慶京高校剣道部の一年生が体育館の二階を見上げながら言った。
「わかってる。」
 ミツルは特に視線を向けることもなく、手ぬぐいを頭に被っている。
「噂に違わず、可愛ッスねぇ。」
「・・・お前なぁ、・・これから試合なんだから、精神統一して気を引き締めていけよ。余計なことは考えるな。」
「うぃッス。」
 睨まれて一年部員は頭を下げた。
「けど、すっごい美人も一緒ですよ。」
 今度は二年部員が言う。
 ミツルは眉を寄せ、ひと睨みする。
「うッ・・済みません。」
 二年部員も肩をすぼめてコソコソと手ぬぐいを頭に被った。
 一方、二階では。
「あら・・・座席がないんですの?」
「地区大会くらいだと席がないのは普通なの。」
「・・仕方ありませんわね。・・・あ、あそこにミツル様が・・・まぁぁ、何て凛々しいお姿でしょう。」
 小百合は手摺りから身を乗り出してうっとりと見つめる。
「・・・小百合さん、落ちないでね。」
「大丈夫でしてよ。・・・あぁ・・こちらを見てくださらないかしら。」
「お兄ちゃん、試合の時はそれに集中しているから、応援席の方とかって見ないよぉ。」
「・・そうですの。・・・御立派ですわぁ。」
 何を言っても小百合には良く聞こえるらしい。
 小百合の、目を輝かせ頬を微かに赤らめている姿は、健気なほどにミツルを慕っているのが伺える。
 ミルクは一途で可愛いなぁ、と思うが、ミツルはどう思っているのだろう。
 麗子とは中学時代、生徒会で一緒だった関係で親しそうなのが気になる。
 麗子はミツルをどう思っているのだろう。
 クラブで一緒の時は上杉とかなり仲が良さそうなのだが、上杉は一学年下になるし、恋愛対象として見ているか、わからない。
 もし、麗子と小百合がミツルを巡るライバルになったら、どっちを応援したらいいのか、ミルクにはわからなかった。
 もっとも、受験勉強と部活で忙しい、と言うミツルが恋愛に興味を持つとも思えなかったが。
 ・・でも、恋愛って、興味を持ってするものじゃなく、突然、ピピッ、と感じちゃうものだよなぁ。
 ミルクはミツルの出番まで、他校の試合をぼんやり眺めながら、兄を巡る恋の行方を勝手に想像していた。

 慶京高校の試合の時は、ミルクも小百合も声を出して応援した。
 と、言っても剣道の試合は判定がよくわからない。
 当たっているように見えても審判が旗を挙げなかったり、同時に見えても一方に旗が挙がる。
 時々副審の判定が違う時もあるし、審判にもわかってない気がするのだが、剣道に慣れた人にはわかるらしい。
 面でも胴でも小手でも、タッチの差で勝敗が決まるらしいが、もし真剣勝負なら共倒れのような気もする。
 応援には何度か来ているミルクだったが、未だにさっぱりわからなかった。
 小百合はどっちでもいいようで、ただ、生の試合の迫力と体育館に響くかけ声に興奮気味で、声援に熱が入っていた。
 お昼に差し入れを届けてから、体育館の近くにあるファーストフード店で、ミルクと小百合が食事をした時も、
「さすがミツル様ですわぁ。・・勝負が早くて・・目にも留まらないくらいなんですもの、瞬きも出来ませんでしたのよ。」
と、嬉しそうに微笑んでいた。
「気迫って言うのかしら。勝負をする前からミツル様が勝ってらしたわ。もう、絶対ミツル様が優勝ですわ。」
 小百合の話はミツルのことばかりである。
「でも今日は団体戦だから、お兄ちゃんだけが強くてもダメなんですって。」
「強い先輩がいらっしゃれば後輩も強くなるものでしょう?」
「そうなのかなぁ?・・わかんないけど、顧問やコーチだけでなく、先輩としても後輩の指導を心掛けてるみたい。」
「まぁぁ・・・素晴らしいですわね。」
「けっこう厳しいみたいだけど、後輩からは慕われてるみたい。年賀はがきとか暑中見舞いがいっぱい来るもん。」
「・・・女性からも?」
「うん。いっぱい。」
「・・・ミツル様が好きな方っていらっしゃるのかしら・・・」
「え・・・うーん・・・バレンタインチョコは貰わない主義だからって、持って帰ったことないから、いないんじゃないかなぁ。」
「まぁ、そうですの?・・ウフッ。」
 小百合は嬉しそうに笑うと、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
 ・・・純愛だなぁ。
 ミルクは、小百合が前より好きになっていることに気付き、そっと笑みを浮かべた。

 店を出ると、いきなり記者やカメラマン数人に囲まれてしまった。
 ミルクは目を丸くして体が硬直してしまった。
 逃げたいのに足が竦んで動けず、フラッシュを焚かれる中、矢継ぎ早に質問を浴びせられた。
「あなた方、どうゆうおつもりですの?」
 小百合がミルクの肩を両腕で抱くようにして庇いながら、取材陣を睨み付けた。
「そんな警戒しないでくださいよ。ちょっと幼妻になる心境を教えて貰きたいだけなんですから。」
 記者は二人の女子高生相手のせいか、ニヤニヤと嫌らしく笑って言った。
「まだ婚約の段階ですのよ。そーした質問は結婚会見の時にでもなさいませ。」
 小百合は毅然とした態度でミルクを庇い続ける。
 そこに、ミルクの警護をしている男達が駆け付け、記者との間に割って入った。
 その間にミルクと小百合は車に乗り込んだ。
「・・ハァ・・・小百合さん・・・ごめんなさい。・・ありがとう。」
「気になさらないでね。・・よくあることですわ。」
 小百合は動揺もせず、優雅に微笑んでいた。
「・・でも、もう応援には行けませんわね。・・・これからでしたのに、残念ですけど、・・試合のお邪魔になってもミツル様に申し訳ないですもの。このまま、帰りましょう。」
「・・・ごめんなさい。」
「午前中だけでも、試合を拝見出来て、楽しかったですわ。・・ミツル様の声が響く度、竹刀が打ち下ろされる度に、ドキドキと興奮してしまいましたの。・・とても素敵な経験でしたわ。・・・また、周囲が落ち着いたら、応援に誘ってくださいませね?」
「・・はい。・・もちろん。」
 ミルクは微笑んで頷いた。

 その夜のマサトとの電話は、試合と小百合のことについてばかりだった。
 マサトは昨日のことを気にして聞いてきたが、
「それはもういいの。」
と、ミツルが劇の結末を替えるように話してくれたことを、簡単に説明した。
―「・・・そうか。・・・そんなに気にしてたんだ。・・・ごめん。」
「・・だから・・・もう気にしないで、って言ってるじゃん。・・マサトも仕事が大変なんでしょう?・・もう、慣れてるんだろうけど、体に気を付けて頑張ってね。」
―「・・・ミルク・・・」
 興奮して疲れたせいか、今夜はマサトと話していても、あまり楽しくなかった。
 ミルクは30分も話さない内に、
「何だか眠くて・・・お休みなさい。」
と言って、電話を終わらせた。
 携帯を充電器に置いて溜息を吐いたミルクは、本当に怠さを覚えてすぐにベッドで横になってしまった。
 マサトのいる所は昼間なのだろうか。
 ・・・知らない。
 ミルクは肩を覆った毛布の端に顔を押しつけて目を閉じた。

<50>
「母と女の狭間」
§50§「母と女の狭間」

 十日も過ぎると、家の周りにいた取材記者も、ほとんど姿を見せなくなった。
 ミルクの母親は先週中休んだお菓子作り教室を、今週からは始めていた。
 今日はスタッフとの打ち合わせと準備の後、高藤とケーキ店を出す土地の売買契約をするらしい。
「お夕食には間に合うように帰るけど、少し遅れるかも知れないの。おやつは作って冷蔵庫に入れておくから、それを食べて待っていてね。」
 そう言う母親は笑顔が花のように綻んでいた。
 来年オープン予定のケーキ屋さんは、計画が着々と進んでいるようだった。
「御夕飯、ミルが作ろうかぁ?」
「あら。・・でも、いいわ。ミルちゃんだって、文化祭の準備で大変でしょう?」
「大道具や衣装は出来てるから、後は台詞を覚えるくらいだもん。」
「そうなの。順調に進んで良かったわね。」
「うん。」
「・・そうねぇ。・・でも、遅くなるから、今夜は何か出来合いの物を買ってくるわ。中華料理なら好きでしょう?」
「うん。・・辛いのは抜きにしてね。」
「はいはい。」
 母親はにっこりと微笑んだ。

 今日は久し振りに高藤とゆっくり逢瀬が出来そうだった。
 午前中にスタッフとの打ち合わせを済ませ、昼食を高藤と待ち合わせも兼ねて一緒にする。
 契約にはさほど時間もかからず、高藤は少しドライブをして市街地を離れると、ラブホテルに車を入れた。
「琉美江さん・・」
 部屋に入るなり高藤英が抱き締めてくる。
「、、あ、、シャワーを浴びさせて、、、」
「帰るときでいいだろ?・・時間が惜しいよ。・・それに琉美江の匂いはとても素敵で魅惑的だ。」
「、、英さん、、、」
 キスをされ、琉美江は高藤の肩に腕を回す。
 キスをしながら高藤の手がブラウスのボタンを外していく。
 高藤の繊細そうな手がブラジャーの中に滑り込み、胸を鷲掴みにして揉む。
「ぁ、、あぁ、、、」
 琉美江は甘い息を洩らし、自分でホックを外してスカートを脱いでいく。
 お互いに脱がせ合い、服がシワにならないようにソファーにふわりと置いていく。
 愛し合った形跡は残してはいけない。
 高藤には家庭があり、琉美江には多感な年頃の子供達がいる。
 高藤も家庭に波風は立てたくなかったし、琉美江も子供達には女の顔を見せたなかった。
 大人の恋。
 お互いを気遣い、労り合う関係でいたいと思う。
 それでも貪り合うキスは、甘く激しかった。

 高藤は琉美江をベッドに寝かせてから、照明を淡いピンク色に変え、ムードのあるBGMを流した。
 それからスイッチの説明をしばらく眺めていた高藤がボタンを押すと、天井部分が開かれて鏡が現れた。
 琉美江は、ドキッ、として自分の姿が映し出されている天井から視線を逸らした。
「・・クスッ。恥ずかしがらないで。・・琉美江の裸はとても綺麗だよ。」
 高藤が体を添わせて横になり、琉美江の顔をじっと見つめる。
「、、英さん、、、何だか、、怖いの。、、、心がまだ、女になりきってしまうことを恐れているみたい、、、」
 琉美江は涙を浮かべて高藤を見つめ返した。
「琉美江の気持ちはわかるよ。・・僕も家に帰ればつまらない父親だ。・・でも、だからこそ・・僕の腕の中では、めいっぱい女でいて欲しい。」
 高藤は舌を絡めてキスをしてから、琉美江のまだ形の崩れないふくよかな胸を掌に包み、固く突起した乳首をつまんで愛撫した。
「、、あぁ、、、ぁん、、、」
「感じてる時の顔が一番素敵だ。・・もっと、もっと感じさせて、僕でいっぱいにしたくなる。・・フフ・・子供っぽいかな?」
「、、いいえ。、、、私も、、、高藤さんに、いっぱい満たされたいの。」
「愛している。・・こんなことを言う資格はないかも知れないが、・・それでも今は君に夢中なんだ。押さえようと努力したが、・・もう、引き返せない。」
「、、英さん、、、私もあなたを、、お慕いしてますわ。」
「・・母親としての戸惑いや躊躇いがあるのは当然だ。・・たが、母親として強くあろうとしている君が、健気でたまらない。・・僕の腕の中だけは、一人の女になって、甘え縋り泣いて欲しい。」
 琉美江は高藤の言葉に嬉しさが極まって涙を零した。
 高藤は唇でその涙を拭い、そのままキスをして琉美江を強く抱き締めた。

 高藤が琉美江の蜜壺に舌を差し込み啜る間、琉美江は高藤の固く勃起した肉棒をしゃぶる。
 夫しか知らずにきたが、積み重ねた年月が琉美江のワザを磨いていた。
 巧みに玉袋まで含むように舐められ、高藤は何度も喘ぎ声をあげて身を捩らせた。
「あぁぁ・・・ハァハァ・・・君にかかると・・僕もただの獣になれるよ。・・ハゥゥ・・眠っていた欲望が剥き出しにされて・・心を鷲掴みに揺さぶられるようだ。」
 琉美江は答える代わりに、喉の奥までくわえ込み、首を忙しく振り続けた。
「あ・・あ・あぁ・・・ああぁぁ・・・我慢出来なくなる。・・・琉美江の中に・・・」
「、、ええ、、、」
 琉美江は上気させた顔をうっとりと高藤に向けた。
 ゾクッ、とするほどの妖艶さがそこにあった。
 これだけの女を妻にしながら、浮気に走った男の気持ちがわからない。
 楊貴妃もさもありなん、と思えるほどに、美しい眼差しだった。
 琉美江は仰向けの高藤に跨り、自分で亀頭を花弁に擦り付ける。
 亀頭はあまりの気持ち良さに我慢汁を溢れさせ続ける。
 破裂しそうなほどに熱く膨張した竿が、ドクンドクン、と脈打っている。
 ズブッ、、ズルッ、、ズルッ、、ズブリッ、、、
 赤黒い男根が、琉美江の咲き誇る花のような赤い膣口に飲み込まれていく。
 入り口は柔らかく、奥へいくほど締め付けてくる。
 細かく扇動している肉襞が、しっとりと肉棒を包み込む。
「、、あ、、あぁぁ、、、はぁぁん、、、」
 琉美江の甘い声はBGMの吐息よりも甘く響く。
「ああぁ・・・素敵だ・・・君のような女性は初めてだよ。」
 高藤は苦悶に眉を寄せて琉美江を見上げる。
「・・さぁ・・・いつものように・・僕を狂わせてくれ。・・・君の下僕となって泣き叫ぶまで・・・」
「、、英さん、、、ぁぁぁ、、、もぅ、、、離れられない、、、」
 琉美江はゆっくりと腰を回転させ始めた。

 男が激しく悶え、喘ぎ苦しんでいる。
 何度も背中を大きく反り返らせ、熱病に浮かされたように首を振っている。
 腰は自分の意志とは関係なくバウンドを続けている。
「あああぁぁ・・・ハァァ・・・琉美江・・・君ほどの女は他にはいない・・・」
 男の喘ぎ声が時々啜り泣きに変わる。
 それほどに女の体とテクニックは、男の魂を翻弄し精気を絞り上げた。
 高藤は自分をずっと冷静沈着だと思ってきた。
 どんな時でも感情に囚われることはないと自負してきた。
 人前で涙を見せることなどあり得ないとさえ信じ込んでいた。
 だが、琉美江と出会い、その体を知って以来、そんなプライド全てが下らなく思えるようになった。
「あぁぁぁあぁ・・・琉美江ぇ・・・最高だぁぁ・・・ハァハァ・・・あぁぁ・・」
「あぁん、、、あぁぁ、、、奥まで英さんを感じるぅ、、、あぁぁ、、、素敵ぃぃ、、、」
 琉美江は二人だけの空間で、誰にも憚らず、切ない喘ぎ声を上げる。
 大きく仰け反った時に、天井の鏡に映し出された淫乱な女が目に入る。
 乱れた髪、上気した頬に熱く潤んだ目。
 自ら腰を振り、快感に喘ぐ女は、母親である自分そのものなのだ。
 母親であっても女なのだと思い知る。
 琉美江はもっと乱れたい衝動に駆られた。
 ふくよかな胸は揺れるに任せて、片手で高藤の肌を指先でなぞり、片手は自分でクリトリスを擦っている。
「はぁぁ・・・君は僕のビーナスそのものだよ。・・あぁぁ・・琉美江ぇ・・」
 高藤も喘ぎながら、かすれた声で思いを訴える。
 丸く回転するように揺れる二つの膨らみを熱く霞む目で眺める。
 この胸に挟まれて扱かれるのが、また最高だった。
 どこもかしこもムチムチと熟れていて、しかも締まった体つきは、30歳の妻より魅惑的だった。
 おとなしそうで、少女のようにはにかむ淑女の何処に、これほど激しく腰を振るパワーが秘められているのだろう。
 比較してしまうのは罪深いと思いながらも、つい比べてしまう。
 妻へは自分からの奉仕が多い。
 受け身が好きで甘えてくる妻を可愛いとは思うが、一度知ってしまったこの欲情の嵐は、これまで積み上げてきたものを粉砕し、新たな自分を目覚めさせてしまった。
 琉美江の前なら平伏すことが出来る。
 足に取り縋って、足の指一本一本を舐めることさえ何でもない。
 この前はオシッコを飲ませて貰った。
 アナルにも躊躇いもなく舌を差し込める。
 アナルを舌で愛撫してやる時の琉美江の切なげな声と表情がたまらない。
 琉美江の為なら奴隷になっても厭わない。
 高藤は獣の雄叫びのような声をあげながら、翻弄される自分を楽しんでいた。

 三度目の高まりに、琉美江の中に精液をぶちまけた。
 琉美江も同時に絶頂に達し、仰け反って震えていたが、ぐったりと倒れ込んだ。
 恍惚とした表情で痙攣する琉美江を、しっかりと抱き締めていてやる。
「、、、ぁぁ、、、目眩がしちゃう、、、感じすぎたかしら、、、」
 目を閉じたまま、小さく息で呟く。
「・・僕はもう・・トロトロに溶けてしまっているよ。」
 高藤も目を閉じて余韻に浸りながら、琉美江の顔中にキスをする。
「・・今日は・・・アナルもしようか?」
「、、、あ、、、でも、、、」
「・・ローションは持ってきてるよ。・・また、琉美江のあの声が聞きたい。」
 高藤が甘い声で強請る。
「、、、でも、、、アナルの後は、、、気絶しちゃうもの、、、」
「大丈夫だよ。・・まだ、時間はある。」
 高藤は枕元に置いておいたローションを指につけ、中指を琉美江のアナルに差し込んだ。
「、、、あッ、、、ァァッ、、、ぁ、、ぅ〜ん、、、」
 琉美江が切なそうに眉を寄せる。
 高藤は中指をゆっくり回し、締め付ける筋肉の緊張を解していく。
 女性がアナルでも最高のエクスタシーを感じるのだと初めて知った。
 知って病みつきになった。
 名器に翻弄された後で、アナルを責め立てて泣かせると、男としての征服欲が満たされた。
 最高の女を自分のものにしているという実感が湧く。
「んんッ、、、あぁぁ、、、んー、、、そこが、、、たまらないぃ、、、」
 琉美江は体を震わせて感じている。
 ここまで感じることに素直だと愛しさが止め処なく溢れてくる。
 高藤は指を一度抜いてローションをまたたっぷりとつけて、今度は薬指も添えた二本でアナルを愛撫する。
 まったりと粘り着く舌を絡ませてキスを続けながら、アナルの筋肉を解し、指三本が入るまで広げていく。
 その間に高藤の男根も勢いを取り戻し、挿入に充分な固さになってきた。
「・・もう、いけそうだね?」
「、、、ええ、、、お願い、、、」
 琉美江は自分から四つん這いになり、お尻を突き出してくる。
 高藤は膝立ちになり、腰をつかんでアナルへと押し込んでいく。
「あぁぁぁ、、、ぁぁぁッ、、、」
 頭を反らせた琉美江が腰を微妙にくねらせ、おまんことは違う喘ぎ声をあげる。
 高藤も違った快感に甘い痺れを感じる。
「はぁぁ・・・すごくいいよ。・・・もう一つの名器の共演だ。」
 高藤はローションがアナルに馴染んでくるまでゆっくり動かしていた腰を、次第に早く激しく打ち付け始めた。
「うぅぅ、、、あぅぅ、、、あぁぁぁ、、、いいわぁ、、、感じるぅ、、、」
 琉美江も自ら腰を振り、押しつけてくる。
 バシバシバシッ、、、
 スブッ、、ジュブッ、、ズブズブッ、、ジュッ、、ジュッ、、
 肌の当たる音とローションを巻き込みながら侵入を繰り返す音が大きく響く。
 高藤は力強くピストン運動を続ける。
 琉美江の胸が大きく縦に揺れている。
「ああぅぅ・・・琉美江ぇ・・・君の全ての虜だよ。・・ああぁぁぁ・・・」
 高藤は背中から覆い被さるようにして胸をつかんで力強く揉む。
 乳首をつまんでこね回し、強く引っ張る。
「あぁぁ、、、英ぅぅ、、、」
 全ての痛みが快感となって琉美江を襲う。
 快感は上昇気流となって琉美江の意識を高みへと押し上げていく。
 虹色の彼方に目映い純白の世界が待っている。
「あぁぁぁ、、、感じるぅぅぅ、、、イクわ、、、あぁぁ、、、イクゥゥゥーー、、、」
「うぅぅーー・・・搾り取られるぅぅぅ・・・あぁぁぁぁ・・・」
 高藤も絡め取られるように思い切り射精した。
 琉美江は絶頂のエクスタシーと共に意識を手放した。
 高藤も体中が熱く燃え尽くしたようにベッドに倒れた。
 心臓も肺も焼け付きそうなほど熱い。
 荒い息が火を噴いているように感じる。
 燃焼しきって燃え尽きたようだ。
 高藤も琉美江を腕に抱くと、そのまま深い眠りに落ちていった。

 夕方6時すぎ。
 ミルクが家に帰ってきた時、まだ明かりはついていなかった。
 いつものように家中の電気をつけてから、ミルクは冷蔵庫にあった杏仁豆腐を食べた。
 柔らかく、口の中でトロけて消える食感に、思わず頬も綻ぶ。
 多目に作ったようで、全部で8個の器が冷蔵庫にあった。
「もう一個食べちゃお。」
 ミルクは独り言を言って、また冷蔵庫から杏仁豆腐を出した。
 時計を見ると、6時半。
 観たいアニメが始まる時間だった。
 ミルクは大きな画面で見たかったので、居間へと移動することにした。
 食べながら観て笑ったら、制服の胸に垂らしてしまった。
「・・ぅげぇ・・・ついてなぁーい・・・」
 取り敢えずアニメを観るだけ観て、部屋に行って着替え、汚した部分を洗面台で濯ぐ。
「・・洗濯しちゃった方が良かったかも・・・」
 ちょっと制服を眺めながら考えていたが、面倒になってしまったので、
「いいや。・・ここに掛けておこうっと。ママが洗ってくれるよね。」
と勝手に納得する。
 独り言は言えば言うだけ寂しくなる。
 ミルクは自分の部屋に上がり、音楽を聴きながら台本の暗記を始めた。
「・・・オオカミ様、オオカミ様・・・」
 ベッドに寝転がっていたミルクは、台本を胸に置いて天井へ両腕を差し伸ばす。
 金のブレスレットがシャララッと音を立てる。
 ミルクはしばらくそのまま、虚空に伸ばした手を眺めていた。
 やがて、力無く腕をベッドに戻し、目を閉じた。
 寂しさがジワジワと染み込んでくる。
 後、数日の辛抱じゃん。
 自分を言い聞かせるが、その数日も耐えられない気がする。
 マサトとの電話は今も続いていたが、どんどん話す時間が短くなっていく。
 マサトと話していても笑えないのだ。
 言いようのない悲しさに怠くなってしまう。
 夫が単身赴任で海外へ行ってしまった、母親の寂しさは、どれほどのものだったろう。
 ミルクには計り知れない長さだった。
 母親のようになりたいと思うが、なれそうもない、と思う。
 自分には別れて暮らすなんて耐えられない。
 ・・・強くなんかなれない。
 ツンと鼻が熱くなり、閉じている目から涙が零れた。
 体がベッドに沈み込むほど重く感じる。
 ズーンと引き込まれそうだ。
 怠さと目眩を感じて、ミルクはそのまま眠りに誘われていった。

「ミルちゃん、大丈夫?」
 母親に肩を揺すられて眼を覚ます。
「・・んぁ・・・ママ?」
 ぼやける目を擦りながら母親の顔を見ると、目が赤く潤んでいる。
「いくら呼んでも返事がないから、どうしたのかと思っちゃったわ。」
「何でもないよぉ。・・心配性。」
「どこか具合が悪いの?」
「全然。・・・ただ、台本の台詞覚えるのが大変なのぉ。・・そんなに記憶力が良かったら、もっと賢くなってますぅ、って感じぃ。」
 ミルクは起きあがりながら溜息を吐いた。
「・・あらあら・・クスッ・・大変ねぇ。」
 母親は安心したのか、小さく苦笑した。
「無理矢理、頭使うと眠くなっちゃうんだもん。・・はぁ・・前途多難・・・」
「そう・・・じゃぁ、お兄ちゃんに覚えるコツを教えて貰ったら?」
「・・うん。・・・お兄ちゃんは?」
「まだだけど・・・直に帰るでしょう。」
「・・ふーん・・・」
 ミルクが部屋の時計を見ると9時を回っている。
「お腹空いたでしょう?・・中華料理、色々買ってきたから、食べましょう。」
「あ・・うん。」
「下で用意しておくから、音楽止めてらっしゃい。」
「はーい。」
 母親はまだ潤んだ目だったが、優しく微笑むと部屋を出ていった。
 ミルクも遅れないようにと、急いでコンポの電源を切り、部屋を後にした。

 ミルクが食事を終え、お風呂に入ってる時、ミツルが帰宅した。
 バスタオルを巻いたミルクが、食事中の所に顔を出す。
 ミツルは咽せて咳き込み、冷たいウーロン茶を飲んで息を吐く。
「何て格好なんだぁ?」
「だってぇ・・・お兄ちゃんに頼もうと思ってぇ・・・」
「まぁ、ミルちゃん。女の子がはしたなくてよ。・・ママが話しておいてあげるから、ちゃんとパジャマを着てらっしゃい。」
「・・ぅん。」
 ミルクは唇を尖らせて浴室へ戻った。
 白いナイティーを着て、ミルクが戻ってくると、母親から事情を聞いたミツルが、
「台詞を一度に全部覚えなくても、暗記カードに書いておいて、シーンごとに見ればいいだろ?」
と、簡単に言った。
「あ・・・その手があったかぁ。」
 ミルクが笑みを浮かべて頷くと、
「ほら。髪がまだ濡れてるぞ。」
と、頭を撫で、
「じゃぁ、俺も続けて風呂に入るよ。」
と、母親に言って、浴室へといった。
 母親はミツルに頷いてから、
「どうかしら?・・お兄ちゃんの案でやってみる?」
と、ミルクに微笑んだ。
「うん。・・書き写すのが面倒だけどぉ・・・自分の台詞だけでいいんだもんね。何とか頑張ってみるぅ。」
「そう。良かったわ。・・学園祭には高藤さんも来るそうよ。」
「えー・・・知り合いに見られるの恥ずかしいよぉ。」
「あら。お兄ちゃんもミルちゃんの舞台は観るって言ってるわよ。」
「えぇー・・・益々プレッシャー。」
「ママはクッキーかケーキを差し入れするから。・・ね?」
「・・ホント?・・・わぁい。なら、ケーキがいい。みんな食べたがってるのぉ。」
「わかったわ。じゃぁ、頑張ってなるべくたくさん差し入れするわね。」
「うん。ありがとぉ。」
 ミルクは少しだけ気分が明るくなって、自分の部屋へと戻っていった。