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<76>
「機内」
§76§「機内」

 数カ国を回ることになる今回の旅行の、最初の目的地はフランスだった。
 ミルクは飛行機の窓から地表が見えなくなるまで眺めていたが、雲しか見えなくなると溜息を吐いてシートにもたれた。
 ゆったりとしたシートは、ミルクには大きすぎるほどに感じる。
 クッションも良く、シートをリクライニングさせると、足先まで伸ばして寝ることが出来る。
 ミルクがファーストクラスの座席をあれこれ試していると、横で新聞を読んでいたマサトがクスクス笑った。
「・・・ぅ・・なぁに?」
「いや。・・寝ていくなら毛布を掛けた方がいいぜ。」
「寝ないもん。」
 ミルクはシートを倒したまま、靴を脱いでいた足を曲げた。
「おい。リラックスするのはいいが、その格好はみっともないぞ。その格好が許されるのは小学生以下だな。クククッ。」
「どうせお子ちゃまですぅ。」
 ミルクは頬を膨らませて、足を伸ばし、リクライニングを起こした。
「・・眠くなったら寝た方がいいぞ。緊張して疲れただろ?」
「そんな年寄りじゃないですぅ。」
 ミルクの都合で、ミルクは子供になったり年寄りになったりするようだ。
 寂しさや不安を拭おうと、わざと強気に出ているのだろうが、何を言っても可愛い所がミルクらしい、とマサトはまた笑ってしまう。
 ミルクが頬を膨らませたまま、目を眇めてマサトを睨む。
「怒るなよ。別にからかった訳じゃないぜ。・・時差があるから、今日は一日が長くなる。パリに着くのは昼頃だろう。」
「・・ぇ・・・そうなの?」
「ああ。夏時間だから時差は7時間遅れだな。7時間分長い一日だと、起きたままでいるのはミルクにはキツイかな、って思ったのさ。しかも、パリは深夜まで遊べるスポットが多いからな。・・つーか、ミルクに門限の制限がなくなって、遅くまで遊べる、って言う方が正解か。」
 不夜城の都会に住んでいて、ほとんど夜の街を知らないミルクには、パリの夜は別世界のようだろう。
 観光やショッピングで落とされるお金が、国家財政を支える一部になっている都市だけに、その華やかさは世界でも五指に入る。
「・・そっかぁ・・・でも、まだ眠くならないもん。」
 ミルクはちょっと考えるように小首を傾げたが、そう言うとショルダーバッグから文庫本を取り出した。
 ミルクが本を読み始めたので、マサトは笑みを浮かべ、また新聞に目を落とした。

「・・・あッ?!」
 ミルクがいきなり叫んだので、マサトだけでなく、他の座席にいた景山や若松も、ミルクに注目した。
「どうした?」
 マサトが気遣わしげにミルクを見つめる。
「・・ぇ・・・ぁ・・・」
 ミルクはみんなの視線を感じて真っ赤になると、うつむいて口ごもってしまった。
 マサトが振り返って目配せしたので、景山達は再び機内サービスのワインを飲みながら上映されている映画を鑑賞し始めた。
「どうした?」
 マサトが小声でまた聞いた。
「ぁ・・うん。・・時差があるってことは日本の時間とは違うんだよね?」
「ああ。日本の午後7時が、パリの正午ってことになるな。」
「・・・ってことはぁ・・・お薬の時間ってどうしたらいいのぉ?」
「薬?・・どこか悪いのか?」
「・・ううん。・・・そうじゃないけどぉ・・・」
 ミルクは恥ずかしそうに周囲に視線を走らせてから、小声で、
「・・ぁのね・・・」
と、口を開いた。
 マサトが聞き漏らさないように顔を近付ける。
「旅行中に・・アレ・・になっちゃうと色々大変だからって、ずらすお薬をお医者様で貰ったの。」
「アレ・・・あぁ、女の子の・・ップ・・」
 ミルクがマサトの口を、グワッシッ、と手で塞いだ。
 マサトは喉で笑いながら、ミルクの指を唇で挟み込み、アムアムと食べるマネをする。
「もぉぉぉ・・・言わないでよぉ・・・」
 手をマサトの口から剥がし、ミルクは唇を尖らせた。
 どうして女の子は生理をこうも恥ずかしがるのだろう、とマサトは思ってしまうが、本人が嫌がるのだから仕方がない。
「アレを遅らせる薬ねぇ。・・ようはピルってことか。ふむふむ。」
 マサトは真面目な顔で頷きながら、内心、
 ・・・よっしゃぁーッ!
 ・・中出しヤリ放題だぜぇッ!
 と、両手でVサインを出していた。
 普段でも一応安全日を確認して中出しもしていたが、まだ周期が安定せず狂いがちのミルクなので、中出しした時は一抹の不安があったのだ。
 精神的ストレスでも変調しやすいらしいので、旅行中のことをマサトも気にしていた。
 だが、ピルが効いていれば、そうした心配はなくなり、いつでもどこでも思い切り抱ける、とわかって、マサトは顔がニヤけてくるのを止められなかった。
「・・何だか、妙ぉーに嬉しそう。」
「そぉーかぁ?・・クックックッ。」
「真面目に聞いてるのにぃ・・・」
「俺だって真面目だぞ?・・・そうだな。時差は気を付けねぇとな。」
「うん。・・朝晩決まった時間に飲むことになってるんだけどぉ・・それって、フランスの時間でもいいの?」
「いや。日本時間で決めてた時間があるだろ?」
「うん。朝晩7時。」
「・・ってことは、パリだと正午と夜中の12時かぁ。夜がちょっとキツイな。・・まぁ、街で遊んで帰れば、それくらいになるけどな。何より忘れねぇようにすることだぜ。」
「・・うん。」
 マサトは腕時計を見ながら、何やら操作を始めた。
「あれ?・・いつものと違う時計だぁ。」
「ああ。これは三ヶ国の時刻を同時に表示してあるんだ。日本時間と現地時間、それと継続して連絡を取りたい国の時刻に合わせてある。」
「ほぇぇ・・・すごぉーい。」
「ミルクの薬を飲む時間にアラームが鳴るようにセットしたから、これで大丈夫だ。」
 マサトはにんまりと笑って言った。
「でも、マサトは昼間はほとんどお仕事で別行動でしょう?・・ミルが忘れないようにしなきゃなぁ。」
「景山にも話しておくから・・」
「ぇー・・・やだぁ。・・正午なら忘れないよぉ。」
「そんな恥ずかしがる必要はねぇって。・・それに景山はパパなんだろ?」
「パパにだって、こんな女の子特定の話はしませんーッ。」
「クックッ。そんなもんかなぁ。・・けど、忘れちまったら困るだろ?・・パリでは正午でも他の国へ行けばまた時間も違うし、その都度覚えていられるか?」
「・・・ぅぅ・・・無理かも。」
「だろ?・・まぁ、気にするな、って。」
 マサトはミルクの髪を撫でてから、近付けていた顔を更に寄せ、唇を重ねた。
 マサトの温かい唇が触れると、肩の力が抜け、穏やかな気持ちになれる。
 ミルクも唇を割って入ってきたマサトの舌に舌を絡めて応えた。
 ・・・気持ちいい・・・
 ミルクはゆっくりとマサトとのキスを味わっていた。

 特に急いでしなければならないことは何もない。
 目を閉じて、キスに酔っていると、体が宙に浮いているような気がする。
 本当に空に浮いている飛行機の中で、更に浮き上がる感覚は、宇宙遊泳だろうか。
 ミルクは夢の続きを見ているような、不思議な感覚に囚われながら、キスをしていた。
 目が覚めたら、また宿題が机の上にありそうで、夢なら醒めないで、とマサトの熱い舌を吸う。
 と、マサトの手が、服の上からだったが胸に触れ、ゆっくりと優しく揉み始めたことに気付いた。
 長いキスで、体が火照り、敏感な部分が疼きだしていたので、乳首も突起してきていた。
 本当は揉まれるのが気持ちいい。
 それでも、機内の他にも人がいる空間であることを思い出し、ミルクは一度唇を離して、マサトに上目遣いの視線を向けて首を振った。
「俺の背中で隠れてるから、見えねぇよ。」
 マサトが熱い息で囁く。
「、、だって、、声が我慢出来なくなっちゃうかも、、、」
 ミルクも息だけで囁いた。
「少しくらい声が洩れたって、聞こえねぇさ。」
 マサトはそう囁くと、ミルクの耳をしゃぶり始める。
 ミルクは、ゾクゾクゾクッ、と駆け上る快感に首を竦めて、
「、、ぁぁ、、、ダメぇ、、、感じて、、我慢出来なくなるぅ、、、」
と、切なそうに喘いだ。
「俺はもうとっくにビンビンだぜ。」
 マサトはミルクの手をつかんで、ズボンの股間を触らせた。
 固くて太いモノがズボンを押し上げてテントを張っている。
「、、、そんなこと言ったってぇ、、、」
 ミルクは困ったように瞬きを繰り返す。
「・・じゃぁ・・トイレ行こうか?」
「、、、ぇ?」
「いいから。・・・おいで。」
 マサトは体を起こしながらミルクの手を握ると、ミルクに席を立つように促した。
 ミルクはまだトイレに行きたいとは思っていなかったが、仕方なくマサトに手を握られたまま付いて行った。

「、、、どうするの?」
 トイレのドア前に立って、ミルクが怪訝な顔をする。
「いいから、入ろう。」
 マサトが後ろからトイレのドアを開けた。
「、、、ろう?、、、って、、、マサトぉ、、、」
 ミルクはマサトに押されるようにしてトイレの中に入った。
 マサトも一緒に入ってきて、ドアを閉める。
 二人で立ってるのがやっとくらいの狭いスペースである。
 ミルクが抗議するように後ろのマサトを振り返ると、
「ミルクはそこに座って。」
と、マサトがミルクを、フタが閉じている状態の便座に座らせた。
 それから、マサトはミルクの前に少し足を開いて立ち、ベルトの金具を外してズボンの前を開けた。
「な?・・ここなら二人だけの空間だろ?」
と、マサトがニヤリと笑った。
「、、、ここでぇ?」
 ミルクは不安そうにマサトを見上げる。
「ここが嫌なら座席でするか?」
「ぅ、、、ここでいいです、、、」
 ミルクはマサトのシルクのトランクスを下げて、反り返っている蛇をつかみ出した。
 蛇竿の根元と玉袋に手を添えて、先端から舐め始める。
 座った態勢なので、意外と舐めやすい。
 初めの内は躊躇いがあったミルクも、次第に舐める行為が楽しくなってきた。
 すぐに口の中にくわえず、舌先で焦らすように舐めて刺激していく。
 蛇頭のくぼみからカリ顎へと万遍なく舐め回し、カリ顎のくびれへと舌を滑り込ませて擦る。
「あぁぁ・・・気持ちいいぜぇ・・・」
 マサトは時々目を閉じて熱い息を洩らし、ミルクの髪を指先で撫でている。
 ミルクは鎌首を立てている蛇の腹を下から舐め上げ、ドクン、、ドクン、、と脈打つ筋を唇で擦り上げた。
「ミルク・・・お前、どんどん上手くなるなぁ・・・」
 マサトがミルクの幼い頬を、愛しそうに撫でる。
「、、蛇しゃんとは、、相性がいいの、、、ゥフン、、、」
 ミルクは赤味の強い唇に妖艶な笑みを浮かべつつ、明るい目を、クルン、、と輝かせて笑った。
 そして、ようやく大きく口を開いて、パクリッ、、と蛇頭をくわえ込んだ。
 シュブリッ、、、シュブリッ、、、
 初めはゆっくりと、カリを唇に引っ掛けるようにして扱く。
「・・うぅ・・・いいぜぇ・・・あぁぁ・・・」
 ジュブリッ、、ジュブリッ、、ジュブリッ、、、
 唾液が絡まって滑りが良くなるにつれ、頭の動きが早くなり、くわえる部分が深くなる。
 それに合わせて、根元を握っている手も上下に動きだし、もう一方の手も袋をやんわりと揉む。
「・・う、う、う、ぅぅぅ・・・三つ巴の責め方を・・どこで覚えたんだ?」
 マサトの怒ったような口調に、ミルクは不思議そうに顔を上げて、首を傾げた。
 マサトはミルクの前髪を上げながら髪をつかむと、
「・・DNAに組み込まれた習性か・・・」
と、溜息を吐いて呟いた。
「・・いい。・・・続けろ。」
 ミルクは、一生懸命にしているのに何で怒られるのか、納得出来なかったが、命令に従いフェラチオを続けることにした。
 ジュボッ、ジュボッ、ジュボッ、ジュボッ、ジュブッ、ジュブッ、ジュブッ、、、
 忙しく首を振り、サラサラの髪が、フワッ、、サラッ、、フワッ、、サラッ、、と揺れる。
 前髪は額に滲んできた汗で、次第に肌に貼り付いてくる。
 マサトは苦悶の表情で股間へと集中してくる快感を味わいながら、呻くような喘ぎ声を洩らしていたが、
「もう、いいぞ。」
と言って、まだ勃起したままの蛇を、ミルクの口から引き抜いた。

「、、ハァ、、ハァ、、、フィニッシュしないのぉ?」
「クスッ。・・ザーメンを飲みたかったのか?」
 ミルクの不満顔にそう言って笑ったマサトは、
「それはまた今度にして・・今はミルクの中に射精してぇな。」
と、体を屈めると、ヨダレまみれのミルクの唇にキスをした。
 それから、
「パンティを脱げ。」
と、命令した。
 ミルクは息を飲んで眉を寄せたが、喉まで出かかった言葉を飲み込んで、渋々パンティを脱いだ。
 マサトが手を出しているので、脱いだパンティを渡すと、
「落とすと困るから預かっておくぜ。」
と言って、スーツのポケットにしまった。
 そして、背後の壁ギリギリに下がって立つと、
「便座のフタにつかまって、尻を突き出せ。」
と、次の指示を出した。
 ミルクは座っていた便座のフタから立ち上がり、向きを替えるとフタに両手をついた。
 マサトは、襞がたっぷりとした柔らかな素材のフレアスカートを、腰の上までたくし上げ、ミルクの丸くて白いお尻を剥き出しにした。
 ミルクの花唇が濡れて光っている。
「ククッ。蜜が溢れてるぜ?・・嫌がっても、おまんこは正直ってことだな。」
「、、、ぁぅぅ、、、」
 屈み込んで観察するように眺めていたマサトは、
「クリトリスまで真っ赤に脹らませて・・欲しい、欲しい、って言ってんじゃねぇか。」
と、舌先でクリトリスを弄び始めた。
「、、、ん、、、ん、、、」
 ミルクはなるべく声を出さないように、口を固く引き結んでいる。
「・・ミルクの花弁はピンクで可愛いぜ。」
 しばらくクリトリスを舌先で転がしていたマサトは、次に、舌を左右に細かく動かしながら花弁を擦った。
「、、ぁぁッ、、、んッ、、、」
 気を付けていても、熱い吐息と共に喘ぎ声が洩れてしまう。
 マサトはミルクが泣きそうな顔になっているので、ポケットのハンカチを丸め、
「これを囓ってるといいぜ。」
と、ミルクにくわえさせた。
 それから、花弁を口で覆うと、蜜壺に舌を差し込んで蜜を啜り始めた。
 ピチャッ、ピチャッ、、チュプッ、チュプッ、、チュゥーッ、、ズズッ、、、
「、、、フグッ、、、んッ、、んーッ、、、」
 ミルクは籠もった鼻声でよがり声を上げ、頭を仰け反らせて、駆け上がってくる快感に体を震わせた。
 レロレロレロ、、と動くマサトの舌遣いが、ピチャピチャ、、クチュクチュ、、という嫌らしい音と共に、ダイレクトに伝わってくる。
「、、、ん、、、ふっ、、、んん、、、」
 ハンカチを噛んでいても、喘ぎ声が鼻に抜ける。
 満たされるよりも、焦らされているような、ムズムズとする快感。
 膣が、ビクビクビク、、と細かい収縮を繰り返している。
 無意識の内に、腰が切なそうに小さな円を描き始める。
 レロレロ、、、クチュックチュッ、、、チュプッチュプッ、、、
「、、ぅぅぅー、、、んッぅんー、、、」
 花弁も膣口も肉襞も、ヒクヒクヒク、、と痙攣し、腰が堪らなそうに、プルプルプルッ、、と震えだしてしまう。
「・・・欲しい?」
 口を花弁から離したマサトが、ミルクの開いた股の間からミルクの顔を覗き込む。
 ミルクは、マサトの顔を逆さまに見ながら、コクコク、と頷いた。

「よしよし。」
 マサトは立ち上がって、手の甲で口を拭うと、ミルクの白いお尻を撫で回した。
 それから、蛇の頭で数回花弁を擦り、頭の部分が蜜でヌルヌルとテカり出した所で、ググッ、、、と蛇頭を押し込んだ。
「、、ングゥッ、、、ぅぅぅ、、んん、、、」
 ズズッ、、、ズブズブッ、、、ズブゥゥーッ、、、
 赤黒い蛇の胴体が、白い丘の麓に咲く赤い花に、メリ込んでいく。
 まるで、秘密の洞窟でも発見したかのように、逞しい蛇は花に飲み込まれ姿を隠した。
 洞窟に侵入するなり、押し寄せる壁が密着してきて、細かい襞に蛇の全身が包まれて揉まれる。
「・・・んー・・・」
 マサトは根元まで押し込んだ後、しばらくそのまま肉襞の蠢く感触を味わっていた。
 ヒクッ、ヒクッ、ヒクッ、
 うねりながらヒクつく膣壁もまた、圧倒的支配者の存在を見出して、嬉しそうに固さを抱き締めているようだ。
 マサトは大きく深呼吸してから、少しずつ腰を回転させ、膣壁と蛇竿を馴染ませた。
 マサトの剛毛が、ミルクの柔らかいお尻の肌を、ザリザリ、、と擦る。
 アナルの小さな蕾が、キュッ、キュッ、、と収縮する。
 マサトはお尻の二つの山を左右に広げて、薄ピンクの蕾を眺めながら、その内ここも開発してやらなきゃな、と思う。
 赤ん坊のように薄くキメ細やかで敏感な肌だけに、道具のような荒々しい物はまだ使えそうにない。
 抵抗力のない体に、電池が終わらない限り刺激し続ける道具は、無闇に使えない。
 ・・・まずは指か・・・
 マサトは自分の中指を眺めていたが、根元までしゃぶって唾液を絡ませると、小さな蕾に、ズブリッ、、と突っ込んでみた。
「んんーーッ!」
 ミルクが呻いて、つま先立つ。
「んーん、、、んんー、、、ぅぅぅぅ、、んぅー、、、」
 抗議するように呻りながら、嫌がって腰を引こうとする。
 マサトは片手を前に回してミルクの体を支え、第二関節まで指をアナルに入れたまま、腰を前後に動かし始めた。
「、、ぅぅぅ、、、ぅぅ、、、ん、、、」
 ミルクは便座のフタに肘をつき、前屈みになって苦悶の表情を浮かべている。
 それでも、マサトと繋がっている尻は身動き取れずに、高く突き出されていた。
 ズッチュッ、、ズッチュッ、、ズッチュッ、、ズッチュッ、、
 マサトは大きく腰を動かし、子宮を力強く押し上げた。
「うぅぅ、、、ぅぅぅー、、、フグッ、、、んんーッ、、、」
 くわえているハンカチがヨダレでグッショリ濡れている。
 歯を立てながら、洩れるような荒い息を繰り返している。
 腕にも汗が滲んできて、フタの上が滑りやすくなり、強く突き上げられると前に滑ってしまう。
「・・しっかりつかまってろ。」
 マサトに叱られ、ミルクは便座の両側をつかみ、マサトの激しい動きに耐えた。
 前屈みの苦しい態勢だったが、高圧電流に痺れるようなビリビリする快感が、体中を駆け巡っている。
 初めは驚きと痛みと恥ずかしさで、これだけは受け容れ難いと、激しく抗議していたお尻の穴の指も、痺れの中で麻痺してきたのか、気にならなくなってきていた。
 顔からも汗が垂れて、目や鼻にも入ってくる。
 ミルクは息苦しさに口を大きく開き、くわえていたハンカチを落としてしまった。
「、、ハァハァ、、、あぁぁぁ、、、あぁぁぁん、、、」
 汗で目が霞み、逆上せた頭は何も考えられず、意識が朦朧としてきて、息をするのと同時によがり声も上げてしまう。

「どうかなさいましたか?」
 ドアの外でスチュワーデスの声がした。
 ミルクは、ドキッッ!!、、っとして、肘をついている手で、慌てて口を覆った。
 スチュワーデスの声にも驚いたが、更に続く声に、ミルクは胃が痛くなるような衝撃を受けた。
「いえ。何でもありません。」
と答えた若松の声に続いて、
「私達の同行者の一人が、気分が悪くなったと言うので、トイレに駆け込んで吐いているようです。どうぞ、ご心配なく。」
と、景山の声も聞こえてきたのだ。
 スチュワーデスの声よりドア近くで聞こえるということは、若松と景山がドアを守るように立っているということだろう。
 気分良くワインを飲んでいた二人が、どうしてここにいるのだろう、という疑問と同時に、もしかするとずっと中での行為を聞かれていたのかと、恥ずかしくなった。
「酔い止めのお薬でしたらございますが・・ドクターを呼んだ方がよろしいでしょうか?」
 まだスチュワーデスはトイレの中を気にしているようだった。
「いいえ。私達にも医師が同行しておりますので、大丈夫です。ここは私達がついておりますので、どうぞ仕事に戻られてください。」
 景山が穏やかに落ち着いた声で対応したので、スチュワーデスは、
「そうですか。・・では、何かありましたら、すぐに声を掛けてくださいませ。」
と言って、立ち去って行ったようだった。
 コンコン、、と、ドアがノックされ、
「行きました。」
とだけ、短い声がした。
「ご苦労。」
 動きを止めていたマサトも短く声を返した。

 マサトが再び腰を動かし、
 ズリズリ、、ジュブジュブ、、
 と、蛇の赤黒い胴体を膣壁に擦り始めたので、ミルクは慌ててフタに落としていたハンカチを拾って、顔の汗を拭ってから口にくわえ直した。
 これほど間近で聞かれていると思わなかったミルクは、懸命に声を堪えるようにした。
 マサトは特別気にする様子もなく、時々呻き声を洩らしながら、腰を動かし続ける。
 声を押さえなければ、と思いながらも、激しく突き上げられると、ビリビリビリッ、、と快感が脳天まで駆け上ってきて、立っている足に力が入らなくなってくる。
 ズンッ、ズンッ、ズンッ、ズンッ、ズンッ、ズンッ、、、
 グチュッ、グチュッ、グチュッ、
「、、、ぅぅぅーッ、、、ぅぅーん、、、」
 ミルクが、頭を仰け反らせてよがり声を上げた時、震えていた膝がガクリと折れてしまった。
 マサトはアナルから指を抜いて、両手でミルクの尻を抱え上げ、半ば宙に浮かせた態勢でピストン運動を続けた。
 ズンズンッ、、ズンズンズンズンッ、、、
 ジュップジュップッ、、ジュップジュップッ、、、
「うぅぅー、、、んんッ、、、んぅぅッ、、、」
 辛うじてつま先だけ床に触れているが、何の支えにもならない。
 しかも腕にかかる重さだけでなく、マサトの押し上げてくる圧力が、汗で滑るフタでは支えきれなくなっていた。
 ミルクが前のめりにフタの上を滑っていくのに気付いたマサトは、ミルクの体を起こして、腰を軸に抱え上げた。
 応援団員が、大きな校旗を腰で支えて持つような姿勢で、ミルクの体を完全に浮かせて、繋がっている蛇を心棒に、腰をバウンドさせた。
「うぅッ、、、ぅぅん、、、ぅぅぅん、、、ぅぅぅぅーッ、、、」
 ズズンッ、、ズズンッ、、ズズンッ、、、
 強烈な刺激が走り、子宮が突き破られそうに感じて、ミルクは背中を反らせて首を振った。
 目の裏が真っ赤に染まっている。
 脳が溶けて沸騰しそうに感じる。
 それでも、強烈な刺激が強烈な快感となって、ミルクはガクガク痙攣しながら絶頂へと昇っていった。
「、、んっぅぅーーんんんッ、、、うううぅぅぅぅーーッ、、、」
「ぐぅぅッ・・・俺もいくぜぇぇッ・・・くっ・・・うぅぅぅぅッ・・・」
 マサトもミルクが絶頂に達して硬直する一瞬に合わせて、勢い良くザーメンを噴出させた。
 怒濤のごとくミルクの中に精液が注ぎ込まれる。
 ミルクはぐったりとして、目眩くエクスタシーに体を痙攣させている。
 マサトはしばらくじっとして、甘い快感に酔いながら、肩で大きく息をしていた。
 それから、このままでは外に出られないので、ミルクの上半身を便座のフタに乗せ、足を支えながら、静かに体を離した。
 カラカラカラ、とトイレットペーパーを手に巻き取り、溢れてくるザーメンを拭き取る。
 そして、ポケットにしまっておいたミルクのパンティを履かせると、意識を飛ばしてしまっているミルクを抱き上げた。

 トイレのロックを外すと、マサトが開ける前に若松がドアを開いた。
「・・後を頼むぜ。」
「はい。心得ております。」
 若松はマサトが出やすいように体を避けてから、空きになったトイレに入った。
 汗や蜜やザーメンで汚れたトイレを、拭き取っておかなければならないからだ。
 マサトは後の始末を若松に任せて、ミルクを抱き上げたまま座席に戻ろうとした。
「ぁ・・会長・・・」
 景山がマサトの前に立ち、ミルクの口からハンカチを外してやった。
「あぁ・・そうだったな。・・よく我慢出来たぜ。なぁ?」
 マサトは苦笑しながら言った。
「はい。御立派でした。」
 景山もにっこりと微笑んでミルクの幼い寝顔を眺めた。
「このまま寝かせてやろう。」
 マサトはそう言って、ミルクを座席に運んだ。
 景山がミルクのシートを倒して、上掛けと毛布を借りてくる。
 その間にマサトがミルクを寝かせ、景山から受け取った上掛けと毛布を掛けてやった。
 スチュワーデスが怪訝な顔で、様子を伺いに来るが、マサトに声を掛ける前に景山が間に入り、
「ご心配なく。」
と、再度、気遣いしないように告げた後、おしぼりを幾つか頼んだ。
 スチュワーデスが持ってきたおしぼりで、マサトはミルクの顔を丁寧に拭いてやり、自分も顔と手を拭き取った。
 そして、軽くリクライニングを倒すと、満足そうに目を閉じた。

<77>
「パリの一日」
§77§「パリの一日」

 シャルル・ド・ゴール空港に飛行機が到着する前に、ミルクは景山が用意しておいた服に着替えた。
 出来れば、ホテルに着いてから、ゆっくりお風呂に入って、着替えたかったが、
「ホテルには色々な人達が集まってきてますので、第一印象が大切なのです。」
と言われ、セミロングのパーティードレスでも通りそうな、襞とレースとフリルがふんだんに使われた服を着せられた。
 どこに置いてあったのか、ドレスに合わせた帽子も被り、靴もバッグも如何にも高級仕様といった物に替えた。
 ピンヒールの高い靴は、一歩一歩ゆっくりとしか歩けそうにない。
 それでもバランスを崩しそうで、自然とマサトの差し出す手をつかんでいるしかなかった。
 一昔前の時代、中国の貴族の女性は、纏足という足を小さい頃から小さく固める風習があったという。
 歩く度に痛くて、まともに歩いたり走ったりなど、到底出来なかったらしい。
 日本でも、花魁が重い着物を着込み、高下駄を補助付きで歩いて見せるといったショーがあるし、遙か昔の十二単も歩くのが大変だったろう、と思ってしまう。
 ヨーロッパの貴婦人も、かつてはコルセットでウエストを細く締め上げる習慣があり、その為に女性は難産で短命だったらしい。
 ヨーロッパの童話に継母が出てくる物が多いのも、こうした背景があってのことだと聞いたことがある。
 ・・・それって・・・男性は女性があまり動けない方が嬉しいのぉ?
 ミルクが妙な所に疑問を感じて、眉を寄せたしかめっ面をしていると、
「俺の最高のお姫様がブスくれてんじゃねぇぜ。」
と、マサトが笑いながら鼻をつまんだ。
「・・・ぅん・・・」
 ・・・そうだった。
 ・・ミルクがちゃんとしないとマサトが笑われちゃうんだ。
 ミルクは、いつも兄のミツルから言われてた言葉を思い出し、言葉もわからず貴婦人の雰囲気もない自分に出来るのは、おとなしく人形のように控え、添え花のように微笑んでいるしかない、と気持ちを引き締めた。

   空港にはマサトの会社関係の人と、ミルクの通訳兼案内係となる女性が出迎えに来ていた。  マサトは勿論、景山もフランス語は話せたが、同性でないと困ることもあるだろう、というマサトの配慮だった。
 しかも、通訳の女性は日本人で、海外生活が長いとはいえ、日本の事情や習慣や性格的なものを理解してくれる人物だった。
 名前をカズコ・エヴァ・ピエールと言い、年齢は30代後半。
 フランス人男性と結婚して、フランスに永住する覚悟を決めていたが、時々は日本にも里帰りしているそうだ。
 穏やかな笑みは何となく母親に似ているようで、ミルクは親近感を覚えて、すぐに親しく話を弾ませた。
「ミルク。・・どうかな?気が合いそうか?」
「うんッ。何でも相談に乗って貰えそうで、安心しちゃった。ふふっ。」
 ミルクが嬉しそうに答えると、マサトは笑顔で頷き、カズコに向かって、
「マダム。御覧の通りまだ子供ですので、通訳だけでなくお世話になりそうですが、よろしくお願いします。」
と、挨拶をした。
 カズコは、マサトに敬意を込めて頭を下げてから、
「とても素敵なマドモワゼルでいらっしゃいますわ。・・あ、マダム・ハラダとお呼びした方がよろしいかしら?」
と、首を傾げた。
「いえ。皆、ミルクをアリスと呼んでますので、そのように。」
「では、マダム・アリスとお呼び致しますわね。」
「え?!・・・まだマダムじゃないよぉ・・・」
 ミルクが困ったように口を尖らせたので、
「未婚でも敬意を込めてそう呼ぶ場合もあるのさ。気にするな。」
と、マサトが片頬で笑い、
「俺の部下で、ヨーロッパ方面の責任者を紹介しよう。」
と、後ろに控えていた男を隣りに呼んだ。
「若林猛と申します。アリス姫にお目にかかれて光栄です。」
 若林はそう言って胸に手を当ててお辞儀をした。
 ミルクは声を出さずに、あッ、と口を開いた。
 アリスに姫を付けるのは組織関係の人達だけのはずである。
「若林はS商事パリ支社の代表取締役なんだ。若松とは同期で家も近い・・悪友かな?ハハッ。・・ロンドンでの国際フォーラムに参加してなければ、婚約パーティーにも呼びたかったが、仕事熱心なこいつをヘタに呼び戻すと機嫌が悪くなるからな。ハハハッ。」
 若松と同期ならマサトよりは5歳年上のはずだが、こいつと呼ぶマサトは親しげに見える。
 若松よりもマサトの悪友的存在なのかも知れない、とミルクは感じた。
 本社の社長は組織とは関係なく、官庁の天下りだったので、実際の仕事はマサトがこなしていたのだが、普段目が届かない海外の会社は、組織の中でも信頼出来る人物に任せているのだと、ミルクは納得した。
 組織の人だと何だかホッとするミルクは、
「初めまして。よろしくお願いします。」
と、笑顔で手を差し伸べた。
 すると、若林は一瞬ギクリと固まり、チラッ、とマサトに視線を投げてから、恭しく手袋を嵌めているミルクの手を握り、指先にキスをした。
 指先と言っても、外見ではそう見える素振りだけで、実際にはミルクの指の上にある自分の親指に唇を触れただけだった。
 悪友と呼ばれるほど親しくしていても、やはりマサトは絶対的存在であり、畏敬の念は持っているらしい。
「バーカ。普通に握手だけしろ。」
 マサトが若林の高等部を軽く叩く。
「っぇ・・ぁ・・ですが、姫様でいらっしゃいますし・・・これくらいで嫉妬されてては、どなたにも紹介出来ないでしょう。・・中には頬を合わせる人もおりますよ。」
「させるかッ。」
 マサトは指を立てると、クイッ、と曲げた。
 途端に屈強な男二人がミルクを挟むように立った。
「・・はぁん・・・」
 若林は苦笑を浮かべた口を手で覆い、喉で笑った。
 マサトへ崇拝と畏敬の念は抱いていても、景山と同じタフな神経の持ち主らしい。
「いつまでも、ここにいても仕方ないだろ。ホテルへ行くぞ。」
 マサトはボディーガードに目配せで下がらせると、再びミルクの手をとって歩き始めた。

 ホテルでは特別ミルクが気を使うような場面はなく、緊張感はあったものの、ただマサトに従って歩き、立ち止まり、また歩くという行為をしていれば済んだ。
 ミルクの泊まる部屋は四つ寝室のある部屋で、マサトとミルクそれぞれの寝室が用意されていた。
 マサトの寝室はキングサイズのWベッドで、ミルクもそこで充分に思えたが、ドレスに着替えたり支度を整える為に別の寝室も必要らしい。
 残りの寝室は若松とミルクのボディーガードで、景山と本郷は隣りの部屋に、他の部下は違う階の部屋に入った。
 マサトは、すぐ出掛けなければならないから、とシャワーを浴びて仕事用のスーツに着替え、若松と部下を引き連れホテルを後にした。
 ミルクはゆっくり入浴したかったが、カズコに、
「ご案内したい所がたくさんありますのよ。」
と言われ、シャワーだけで汗を流した。
 それから、自分で持ってきた服に着替えた。
 キュロットスカートのボーイッシュなセーラータイプの服で、白地に衿や袖口の淡いマリンブルーが爽やかな印象の物だった。
 靴も歩きやすいようにスニーカーに履き替え、服装に合わせた小さめのショルダーバッグを肩から掛けた。
 部屋の応接フロアで待っていた和子は、ドレスから普段着になったミルクを見て目を丸くし、
「まぁぁ・・・若さが眩しいようですわぁ。」
と、クスクス笑った。
「・・ぁ・・・何か、可笑しいですか?」
 急に不安になったミルクが自分の服を見直してから聞くと、
「いいえ。とても可愛らしいですわ。そのまま、パリジェンヌでも通りましてよ。」
と、目を細めた。
 先に着替えを済ませ、同じように待っていた景山も、
「観光で動き回るには活動的なのが一番でしょう。」
と、言ってくれたので、ミルクは少し安心して笑顔になった。
 けれど、ホテルの従業員やロビーにいた人々には、新鮮な驚きがあったようだった。
 ドレスには慣れている人達でも、短いキュロットからすんなりと伸びた白く輝く素足は、目を釘付けにしてしまうものだったらしい。
 ミルクには聞こえても理解出来ない会話だったが、
『彼女は、さっき人形のようにおとなしくしてたお嬢さんかい?』
『そうらしいね。』
『まるで人形に魂が入ったように生き生きと愛らしい。どこのお嬢さんだろう。お近づきになりたいものだ。』
『やめた方がいい。さっき左手に凄い婚約指輪をしていたじゃないか。』
『ああ・・・そうか。・・・しかし実にいいね。』
等と、ロビーにいた客達が話していた。
 出掛けるミルクが婚約指輪をしていなかったのは、観光に持ち歩くのが不安だったので、マサトに預けておいたのだ。
 指輪の背景にある責任感から開放されて、ミルクは15歳の弾ける若さのままに、眩しいほど無邪気な笑顔をしていた。

 ホテルの玄関前には、パリ支社で用意した車が二台、すでに待機していた。
 前の方にミルクと景山と通訳のカズコが乗り、後ろにはボディーガードと景山の秘書が乗り込んだ。
「今日は取り敢えず建造物をメインにご案内しますね。」
 カズコはそう言って運転手に行き先を指示した。
「凱旋門やエッフェル塔は昇ってもさほど面白くないでしょうから、車で通れば充分ですわ。やはり何と言っても、ベルサイユ宮殿を御覧なさいませ。マリーアントワネットの肖像画も見ることができますし、鏡の間や寝室、それに庭園の噴水もそれは見事ですのよ。」
「そぉーなんですかぁ。」
 ミルクはバッグから小さなガイドブックを取り出して、カズコが言った項目を探した。
「それからノートルダム寺院はステンドグラスがとても綺麗ですし、画家達が愛したモンマルトルの丘には今でも似顔絵を描く画家志望の人達が集ってます。」
「はぁ。・・・ぇ…ぇっとぉ・・・」
 ミルクは次々に言われて、焦りながらページを捲る。
 その様子に景山が、
「アリス様。本はいつでも見られますが、本に気を取られていると、外の景色を見逃してしまいます。・・百聞は一見にしかず。まずは目で見て、心のキャンパスに記憶を描かれた方がいいですよ。」
と言って、
「普通の街並み、普通の建物でさえ、パリは美しい。」
と、窓の外を示した。
 ミルクは本から顔を上げ、窓の外を眺めた。
「・・・ほんと・・・信号機まで可愛い。ふふっ。・・・景山さんはパリが好きなの?」
「歴史を守りながら、新しい文化も生み出している街ですからね。いにしえの遺産を破壊した上に最先端の文化で築き上げた都市より、ずっと好きですよ。」
「そっかぁ・・・」
 ミルクは、ふむふむと頷いてから、窓のガラスを開けて、入ってくる風に目を細めた。

 パリ滞在は三泊だけなので、観光スケジュールはけっこう忙しかった。
 それでも、真夏でも気温は25℃前後で、空気も乾燥しているので暑さ負けすることはなく快適だった。
 ベルサイユ宮殿の前の通りは、土産物店が並んでいて、ミルクはあれこれ悩みながらあちこちの店を歩き回った。
 精巧なミニチュアの家ばかりを置いている店もあり、しかもそれが宮殿やお城ではなく、普通の民家のような家だったので、ミルクは何に使うのだろう、と不思議そうに眺めていた。
 ミルクがあまり歩き回るので、「時間が惜しいから、次へ参りましょう?」と言っていたカズコの方がバテてしまい、カフェで休憩することになった。
 ミルクは母親からの課題もあって、ケーキを注文したが、出されたケーキの大きさと甘さにたじろいでしまった。
「・・あっまぁーい・・・何でこんなに甘いのぉ?」
「クスッ。そうですわね。特に日本の最近のケーキは、不思議なほど甘くないですものね。」
「それはやっぱり糖分を摂りすぎたくない女性が多いから・・・」
「マダム・アリスもダイエットを気になさるの?」
「・・やっぱ女の子だしぃ・・・」
「まぁ・・・そんな華奢でいらっしゃるのに。今夜、ご案内するバレエのプリマドンナでさえ、もっと筋肉がついてましてよ?」
「バレエを見にいくの?・・わぁーい。・・・てゆーか、バレエだってスポーツでしょう?・・運動量が違うし、比較にならないですぅ。」
「そうねぇ。芸術と言っても、運動量はスポーツ選手並みですものね。」
 カズコはクスクス笑いながら頷いた。
「アリス様。欧米のケーキが甘いのは、肉類が主食の為なのです。」
 景山は逸れた話を戻して説明を始めた。
「日本は米が主食ですが、米には体に必要な糖分が多く含まれています。その米を主食に他の栄養を摂る為のおかずを食べますが、欧米はパンを食べるとは言ってもメインは肉類なのです。またパン自体にも米ほどの糖分はありません。その為に甘い物をデザートに食べるのです。・・米を食べる日本人が同じ甘さのデザートを摂ると、必要摂取量を超えてしまうことになりますね。」
「そぉーなんだぁ。」
 ミルクはまた、ふむふむ、と頷いた。
「まぁ・・・そうでしたの。・・ムッシュー・カゲヤマは何でもよくご存知でらっしゃいますわねぇ。」
 カズコも感心して意外そうに瞬きをした。
「景山さんはマサトさんの先生だったんですよぉ。ふふっ。」
「え・・・それは存ぜず失礼しました。」
 カズコは恐縮して、頭を下げた。
「いえいえ。ほんの雑学です。」
 景山が控え目に微笑むと、カズコが頬を染めた。
 ミルクは、ほぇ?、と思ったが、30代後半のカズコには、43歳の景山が魅力的に映るようだ。
 ミルクにはパパのような存在だったが、そう思って見直してみると、知的でありながら柔和な印象で整った顔立ちかも知れない。
 ・・・独身だって知ったら、もっとドキドキしちゃうかなぁ?
 ミルクは密かに、ププッ、と笑いを洩らした。
「アリス様。食べきれないようでしたら、残された方がよろしいでしょう。夕食のディナーにレストランを予約してありますし、今度はそちらが食べられなくなりますよ。」
 ミルクの思惑を知ってか知らずか、真面目な顔で景山が言った。
「はーぃ。・・ホテルじゃないレストランなの?」
「パリに滞在して、ホテルで食事を摂るなど愚行もいいところです。」
「・・ぅ・・・じゃぁ、マサトさんとはホテルで待ち合わせして出掛けるの?」
「アリス様は着替えの為にホテルに戻られますが、会長は今夜のディナーは別になります。」
「えー?!・・・何でぇ?」
「取引先に招待されているのですが、そこが未成年は入れない場所なので・・」
「未成年が入れない場所ぉ?・・・ってぇ?」
「大人向けのショーを・・コホン・・お酒の臭いと煙草の煙が充満している店です。」
 景山は言い直したが、しっかり聞き逃さなかったミルクが目を眇めた。
「それも仕事の一部ですから、お気になさらないように。」
「気になるぅぅぅ・・・」
 ミルクが思いっきり頬を膨らませた。
「まぁ、マダム・アリス。私達はバレエという楽しみがございましてよ。今、パリで一番人気の舞台なので、よくチケットが取れたと驚いてましたの。・・きっと、会長様がマダム・アリスの御一緒出来ない寂しさを埋められようと、探し求められたのでしょう。」
「・・・ぅん・・・」
 ミルクは項垂れて答える。
「そのお気持ちを汲まれて、楽しんで夜を過ごされることが一番のお返しになりましてよ?」
「・・・はぃ。」
 ミルクは唇を尖らせて返事をした。
 けれど、いつまでも塞ぎ込んでいるのは、自分の為に動いてくれている大人達に悪いだろう、と言い聞かせ、機嫌を無理矢理直して、
「・・そうですね。・・そうします。」
と、微笑んで言った。

<78>
「夢の礎」
§78§「夢の礎」

 パリの初日、ミルクがマサトと一緒に過ごせたのは、空港に到着してからホテルの部屋に入るまでだった。
 ミルクはバレエの素晴らしいステージに興奮気味にホテルに戻ったが、マサトはまだ帰ってなく、急に気持ちも萎れてしまった。
 なるべくゆっくり泡のお風呂に入り、ジャグジーにも長く浸かっていたが、マサトからの電話も掛かってこなかった。
「明日は少し遠出することになりますから、もうお休みになられた方がよろしいでしょう。」
と、景山に言われて、ミルクは仕方なく広いベッドに一人で横になった。
 広過ぎるベッドは何だか落ち着かない。
 空いているスペースに、人ではない何者かが入り込みそうな気がして、そっちを振り向くことも出来ず、ベッドの端で毛布にくるまっている。
 マサトに何かあったのでは、と不安が胸を過ぎるが、一人で行動している訳ではないから、何かあればもっと騒がしくなってるだろう、とも思う。
 静寂の中で、時計の秒針の音だけが聞こえる。
 ・・・大人の為のショーってどーゆーものだろう?
 ミルクは、景山の言ったことが気になってきてしまった。
 ・・そう言えば、応接フロアにそうした夜の遊び場のガイドブックみたいなのがあったっけ?
 ミルクはベッドから起きだして、寝室のドアを開けた。
「・・どうかなさいましたか?」
 自分の部屋に戻っているとばかり思っていた景山が、ソファーで新聞を読んでいた。
 マサトが戻るまで、部屋にいてくれるらしい。
 この部屋が、ボディーガードとミルクだけになることを懸念したマサトの指示で、景山がいるのだということまでは、ミルクは気付かなかった。
「いえ、別に。・・・お休みなさい。」
 ミルクはそう言って、ニコッと照れ臭そうに笑って、顔を引っ込めた。
 マサトに何かあれば、景山がソファーでのんびりしているはずがないので、取り敢えず安心したミルクはベッドに戻った。
 それでも、横になるとやっぱり寂しい。
 新婚旅行で来ているのではないから、文句も言えない。
 マサトの立場を考えれば、深夜まで仕事になることもあるだろう。
 この前、マサトだけで海外へ出掛けた時も、忙しそうだった。
 あの時が寂しかったから、ミルクの夏休みに合わせて仕事を調整し、一緒に来られるようにしてくれたのだ。
 文句なんて言えない。
 ミルクが我が侭を言って、マサトの仕事に支障が出るようでは、婚約者として失格だろう。
 ミルクは、マサトの為にも留守中を楽しんでいなければいけない、と自分に言い聞かせた。

 ・・・いつ眠ったのだろう。
 薄目を開けると、生地の厚い遮光カーテンの向こう側が明るくなっている。
 寝室の中はかなり暗いが、もう朝なのだとわかる。
 ミルクはベッドの端で、体を丸めるようにして毛布にくるまっていた態勢のまま、寝返りも打たなかったようだ。
 怠そうに溜息を吐き、体を伸ばそうとした。
 けれど、毛布が引っ掛かっているのか、足が伸ばせない。
 毛布から肩を出し、毛布を引っ張りながら何とか足を下まで伸ばそうとするが、それも上手くいかなくて、段々頭にきたミルクは、
「あーもぉぉッ!」
と、足で障害物を蹴りながら、腕を大きく振って寝返りをうった。
 ベシッッ!
「・・ぃッ・・ってぇッ・・・」
 シーツより高い位置で腕が何かに当たり、強かに打ち据えてしまった。
 ミルクが恐る恐る顔を向けると、マサトが苦笑しながら胸を撫でている。
「・・・ぁ?」
「あ、じゃねぇ。・・ったく、怒ってんじゃねぇよ。」
「・・ぅ・・・別に・・・」
「いきなり脹ら脛蹴られて、胸を叩かれたら、寝惚けて間違って首の骨をへし折っちまうぞ。」
「だってぇ・・・いるって思わなかったんだもん。」
 ミルクが毛布で顔半分隠す。
 マサトは、フッ、と笑うと、
「・・遅くなって悪かったな。」
と言って、ミルクの前髪を後ろに撫でつけながら、額にキスをした。
 ミルクは鼻の奥がツンと熱くなり、涙が、ジュワッ、と溢れてきてしまった。
「・・ミルク・・・」
 マサトは一筋零れた涙を唇ですくうと、涙を吸うように目元にキスを繰り返した。
 それから、ミルクの体を抱き締めながら、唇を重ね合わせた。
 微かにしょっぱいキス。
 ミルクは鼻を啜って、マサトの舌の熱さを貪るようにキスをした。

 マサトはミルクから優しく毛布を剥ぎ取り、薄いナイティーの上から胸をつかんだ。
「、、ぁぁ、、、マサトぉ、、、」
 足を開き気味に体を反らせた時、ベッドから足がずり落ちてしまった。
「こんな端っこに寝なくても・・」
 マサトはそう言って、ミルクの体をベッドの真ん中に移動させた。
「戻った時に腕枕をしようとしたが、動かすと落ちそうで、起こすのも可哀想だから出来なかったんだぞ。」
「、、、だってぇ、、、広いベッド、、、怖いもん、、、」
「クックッ。・・じゃぁ、一人の時に寂しくないように、ぬいぐるみを買ってくることだな。」
「、、、ぇ、、、今夜も遅いのぉ?」
「いや。今夜は一緒にディナーショーに行く予定だ。」
「ホント?」
 ミルクが嬉しそうに目を輝かせる。
「ああ。・・こっちで付き合いのある人物が、是非俺の嫁さんに会いたいって言うから、紹介することにしてあるんだ。」
「えー、、、なぁんだぁ、、、」
 ミルクは溜息を吐いて口を尖らせた。
「日程の前半はあまり一緒の時間を取ってやれないが、後半は時間も出来る。・・そうしたらゆっくりしような?」
「、、、ぅん、、、」
 マサトはミルクの逸れた気持ちを戻すように、再び熱いキスをした。
 キスをしながらナイティーを脱がせていき、胸を力強く揉んだ。
「はぅッ、、、ん、、ん、、、」
 痛いほど強く揉まれ、つま先までビリビリと電流が走った。
 それからマサトは乳首の周辺をきつく吸って、キスマークを付けた。
「ぁ、、、ぁん、、、」
「ミルク・・・俺のミルク・・・愛しているぜ。」
 ドレスを着た時見える首や肩周辺は避け、マーキングするようにキスマークを付けていく。
「ぁぁん、、、マサトぉ、、、ミルもぉ、、、」
 これだけ愛されていて、愚痴を言うのは贅沢というものだ。
 日本でマサトの帰りを待っていた時の寂しさを思えば、毎日会えるのだから充分過ぎるほど幸せだろう。
 ミルクはマサトの肌の熱さにうっとりしながら、為すがままに身を任せていた。

 ズブズブズブゥゥゥ、、、、、
「あぁ、、ぁぁぁ、、、ぁぁん、、、ん、、んー、、、」
 ミルクを抱き包むようにして、マサトがミルクの中に体を埋めた。
 ミルクは甘い吐息を洩らし、マサトを体いっぱいに感じながら、見慣れてない部屋をぼんやりと眺めた。
 ・・・どこにいようと、マサトといられるなら、何も怖くない。
 ・・マサトと一つに繋がっていれば、それだけで幸せ。
 ・・それ以上の何も望まない。
 ミルクは、魂の求める唯一の存在に素直になって、愛し合える喜びを感謝しながら噛みしめようと思った。
 着飾らなければいけないことも、堅苦しいマナーも、一緒に観光出来ないことも、求める本質から見れば些細なことだ。
 むしろ、何度も訪れて慣れているマサトに、観光することを強要する方が、我が侭というものだ。
「、、あぁ、、あぁ、、あぁぁん、、あぁ、、、」
 ゆっくりと力強く突き上げられ、押し開かれた花の周りを固い毛に擦られる。
 豊かに茂る陰毛は、男のたてがみのようで、愛おしい。
 荒々しい獣・・・でも、狂おしいほどに愛しい獣。
 ミルクはマサトの背中に爪を立てていた。
 傷をつけるほどの力強さはミルクにはなかったが、小さな猫が振り落とされないように必死に爪を立てるように、ミルクはマサトにしがみついていた。

「・・ミルク・・・ミルク・・・」
 マサトはもどかしそうに名前を呼び、キスを繰り返す。
 愛しているのに、思いを伝える術がわからない。
 甘く香る肌も愛しい。
 したたる甘酸っぱい蜜に脳が侵蝕されていく。
 妖魔しか持ち得ないほどの体に溺れる自分を感じている。
 だが、それは二次的な問題であり、究極の求める存在は魂なのだ。
 その魂を抱き締めていたいのに、方法がわからない。
 透明な魂はどんな色にも染まらずに、ゆらん、、ゆらん、、と煌めいている。
 だから、唯一、食い込める楔を打つしかない。
 マサトは猛り立つ蛇に思いを込めて、ミルクの魂へと楔打つ。
 出来ることなら大蛇と化して、魂を包み込むようにとぐろ巻き、赤い舌で思う存分味わってみたい。
 近付くものは容赦なく噛み殺し、自分のものだと主張する。
 とぐろの中で、ミルクの魂は、眠るように、ゆらん、、ゆらん、、と煌めき続けるのだ。
 そう出来ればいいのに、と思っても、現実は弾むボールか風に舞うシャボン玉のように、取り残された思いで見守るしか出来ない。
 焦れったくて、もどかしい。
「ミルク・・・ミルク・・・俺のミルク・・・」
 マサトはひたすらミルクを、腕の中で突き上げ続けた。

「あぁぁ、、、あぁん、、あぁぁん、、あぁぁぁぁ、、、」
 ミルクのよがり声がひときわ高まり、寝室に甘く響く。
 マサトの熱と、体中に駆け巡る電流のような快感に翻弄され続け、甘く香る汗が噴き出してくる。
 マサトも、自らの魂の焦げ付きを鎮静させるように、ぐっしょりと汗だくになっている。
 パンパンパンパンッ、、、
 ズッチュッズッチュッズッチュッ、、、
 汗と蜜が混じり合って、蛇を突き立てるたびに雫が飛び散る。
 何度もエクスタシーに痙攣を繰り返し、ミルクの意識は朦朧としている。
 霞む目に映る天井が、グルグルと回って、近付いたり遠退いたりしているように感じる。
 体の奥から渦巻いて駆け上がる快感が、上昇気流となって意識を天上へと押し上げていく。
「あぁん、、、あん、、あん、、あん、、あぁぁんんッ、、、」
 ビッチュッビッチュッビッチュッ、、、
 グッチュッグッチュッグッチュッ、、、
 湿った音と突かれて捏ねられる音が淫靡に重なる。
「あのぉ・・・恐れ入りますが・・・」
 恐々と躊躇いがちな声がすぐ後ろで聞こえる。
「何だ?」
 マサトは動きを続けたまま答える。
 ミルクは意識の遠くで若松の声を聞いていた。
 夢か現実か判断がつかない。
 判断がついたとしても、もうミルクにはどうにもならない状態だった。
 マサトに突き上げられ続け、快感の高波から下りようにも下りられないでいる。
「ん、、ん、、ん、、、あぁぁぁ、、、あぁぁ、、、んー、、、」
 ミルクが苦悶に表情を歪めるのを、宥めるようにキスをしたマサトは、若松の方へ顔を向け用件を言うように促す。
「何度もノックしたのですが・・・」
「だから何だと聞いているッ。」
「あッ・・は、はい。・・・お迎えの車が来ておりまして、若林が時間を気にしておりますが・・・」
「チッ。・・・後15分で行くと言っておけ。」
「承知しました。・・失礼致します。」
 若松は恐縮して頭を下げると、寝室を急いで出ていった。
「うッぅぅぅッ、、、んん、、、あぁぁぁ、、、」
 ミルクにも全てを見られてしまったという認識はあった。
 正確な判断力はなかったが、すぐそこに二人以外の人間がいたのだ。
 両足を頭近くまで抱え上げられた態勢では、押し広げられた赤い花唇を、太い蛇の胴体が忙しく上下する様が、声のした方向からは丸見えだったはず。
 こんなことが有り得るのだろうか、と朦朧とする意識に過ぎる。
「気にするな。・・あれは俺の影だ。」
 マサトはミルクの顔中にキスを降り注ぐと、動きを一層早めた。
「あぁぁぁぁぁ、、、あぁぁぁん、、、あぁぁぁぁぅぅぅ、、、」
 ミルクの目の前が虹色にスパークし、頭の中が真っ白になっていく。
「うぅぅッ・・・いい子だ。・・・一緒にいくぜッ!」
 ビシッビシッビシュッビシュッ、、、
 ズンズズンッ、ズンズズンッ、、、
 ジュップジュップジュップジュップッ、、、
「あぁぁぁぁあぁぁぁあああああああーーーッ、、、」
「ぐぅぅぁぁぁぅぅぅぅぅ・・・あぅぅぅ・・・ぅぅぅっくぅぅッ・・・」
 ドッピュゥゥーーッドピュピュッ、、、ドクドクドクッ、、、
 ミルクが絶叫して果てると同時に、マサトもミルクの中に勢い良く精液を噴射した。
「・・はぁはぁ・・・最高に愛してるぜ。」
 マサトは、ミルクの閉じた瞼にキスをすると、名残惜しそうに体を離した。
 ミルクの赤く綻んだ花弁から、溢れてくる白濁のザーメンを拭き取ってやったマサトは、恍惚と放心しているミルクの体を包むように毛布を掛けてやり、ベッドを下りた。

 一度眠ってから、目を覚ましたミルクは、ゆるゆるとベッドから起きだして、シャワーを浴びた。
 バスローブを羽織ってベッドの端に座り、虚脱状態でぼんやりしていると、ドアがノックされる。
「アリス様。・・お目覚めですか?」
 景山の声だ。
「ぁ・・はぃ・・・」
 声を出したが、弱々しくて聞こえそうもない。
 ミルクは立ち上がると、ドアを開けた。
「あ・・アリス様。・・ルームサービスで朝食を運ばせましょうか?」
「・・・食欲ないから・・いいです。」
「そうですか。・・今日は美術館へご案内すると、カズコがロビーで待っておりますが、どうされますか?」
「じゃぁ、支度します。」
 ミルクはまだ濡れた髪のまま、自分用の寝室へ行く為に、マサトとの寝室から出た。
「今日は多少畏まった服がよろしいでしょう。」
「・・はぃ。」
「白いレースのセミロングでしたら、美術館巡りにはよろしいでしょう。」
 景山は元気のないミルクを気遣うように、微笑んだ。
 ミルクは力のない目線で、じっと景山を見ていたが、溜息を吐いて頷いた。
 景山は微かに眉を寄せ、
「ご気分が優れないのでしたら、無理に外出されなくてもいいのですよ?」
と言った。
 ミルクはまた、じっと景山を見つめる。
「いかがなさいました?」
「・・・どうして?」
「・・は?」
「景山さんの方がずっと立派な方なのに・・・。ずっと偉いのに・・・。どうして、そんなにミルを大事にしてくれるの?・・ミルの方が畏まって頭を下げるべきでしょう?」
 景山は穏やかに目を細めて苦笑する。
「私など会長から見れば取るに足らない存在です。アリス様は会長が最も大切にされておられる姫君。敬意を持って接するのは当然のことです。」
「・・・じゃぁ・・・マサトさんがミルに興味をなくしたら?」
「有り得ません。」
 景山は迷うことなく即答した。
「むしろ、そのようにアリス様がお考えになっていると知ったら、嘆かれるでしょうね。」
「・・・ごめんなさい。」
 ミルクは目を伏せて、呟くように言った。
「謝られることではありませんよ。・・何かあったのですか?」
 ミルクは答えに詰まり、見る見る顔を赤らめていった。
 俯いていても、耳まで真っ赤になっているので、そうとわかる。
「・・色々、ご不自由な所もあると思いますが、・・お許しください。」
「・・ぇ・・・?!」
 ミルクが顔を上げ、目を丸くして瞬きをした。
 景山は静かに頷いてみせた。
「・・若松は、まだ郷にいた頃、会長に命を救われました。その時、会長ご自身も危険な状況に陥りながら、必死に守られたのです。・・以来、若松は会長に命を捧げようと決意していたようです。・・会長の世話役として選ばれた時、感激に打ち震えた若松は、永久の忠誠を誓う為に自らベニスを削ぎ落とそうとしました。会長が、”種を無駄に枯らすな。男でない者を戦場の前線には立たせない。そして俺は常に先陣を切って戦う位置にいるつもりだ。俺に影として従うなら男でいろ。”と、仰られたので、未然に済みましたが、・・若松とはそうゆう男です。」
「・・・はぃ。」
 ミルクはわかる気がして頷いた。
 そして、そう説明する景山自身、若松に勝るとも劣らず、忠誠心の塊なのだと思う。
「・・ぁ・・ねぇ・・・」
「はい?」
「若松さんが”影”なら、・・景山さんは?」
「私は・・・そうですね・・踏み台にでもして頂ければ、満足です。」
「・・踏み台?」
「会長が水の上を歩かれるなら、私は会長が沈まぬように水中から押し上げましょう。会長が火の中を歩かれるなら、熱く焼けた炭を踏みしめながら、会長のお体に少しでも火の粉が掛からないように高く掲げて進みましょう。・・例え私が水底に没しようと、炎に灰と化そうと、他の者達が私に代わって続けるでしょう。」
 ミルクはあまりの驚きに鳥肌立った。
「・・どうして?」
「会長がおられる限り、夢を信じられるからです。・・私が倒れても、夢を信じて未来へと希望を抱いていけます。ですが、会長の存在を失えば、夢は消え、絶望と悲嘆しか残りません。・・その会長の、魂の痛みを癒せるお方がアリス様だけなのですから、私達にとって掛け替えのない大切なお方です。」
 ミルクは悲しげに眉を寄せた。
「・・ミルは・・マサトさんを愛することしか出来ないもん。」
「それでよろしいのですよ。」
 景山は優しく微笑んだ。
「・・でも・・皆さんの愛する気持ちには・・きっと届かない。・・・だって・・ミルは、すぐ不安になったり、我が侭言ったり、文句言ったり、泣いたり、蹴ったり・・」
「プッ。・・蹴るのですか?」
「ぁ・・それは、たまたまだけどぉ・・・」
「クスクスッ。・・好きになさいませ。会長も毎日が楽しくて堪らない様子でいらっしゃいますよ。」
「・・ぅぅ-・・・いいのかなぁ・・・?」
「アリス様はありのままでいらっしゃればよろしいのです。ありのままであることを、何も恥ずかしく思われる必要はありません。・・若松も同じように思っていることでしょう。」
「・・何か・・言ってたの?」
「若松は何も申しません。・・ただ会長が、アリス様が気にされているようだから、気を付けて刺激しないでやってくれ、と。・・おっと・・かえって刺激してしまいましたか?」
「ううん。・・ありがとうございます。何だかスッキリしました。・・着替えてきますね。」
 ミルクは、明るい笑顔になって、ペコッ、と頭を下げ、ミルク用の寝室へと急いだ。
「・・何と素晴らしき姫君・・」
 景山は小さく呟いて、ミルクの後ろ姿に恭しく頭を下げていた。

<79>
「欲しい物」
§79§「欲しい物」

 美術館巡りの手始めに、ルーブル美術館を見学したミルクは、あまりの広さと展示物の多さに圧倒された。
 あまり芸術とは縁もなく、それほど興味がなくても、普段色々な所で目にすることのある絵画の現物を見ると、なるほど本物は迫力があるなぁ、と感心してしまう。
 けれど、画家を目指し、その手本にしようと真剣に見つめる人以外、どんなに有名な絵でも10分も鑑賞はしていられないだろう。
 しかも、次々と色々な展示物を見る内に、頭の中が訳がわからなくなってきてしまう。
 人の流れに合わせるように、広い階段や狭い通路を上がったり下がったりして、ようやく入り口付近まで辿り着いた時には、2時間以上が経過していた。
 ミルクは『モナリザの微笑み』だけは、せめて印象を焼き付けておきたくて、もう一度見てから美術館を後にした。

 ミルクが支度を整えてホテルを出掛けた時間が遅かったせいもあるが、ルーブル美術館を出た時には正午を過ぎていた。
 景山は焦って、「取り敢えず、お薬を。」と、飲み物を探してきて、ミルクに薬を飲むように促した。
 それから食事する場所を、通訳のカズコと相談し始めた。
 カズコは、モネの絵が展示されている美術館の近くにある、有名なレストランを予定していたが、そこまでが時間が掛かってしまうので、景山は近くのすぐ入れそうな店にしようと主張した。
「あのぉ・・ミル、もう美術館の見学はいいですぅ。」
 意見の合わない二人の間に割り込んで、ミルクが申し訳なさそうに言った。
「まぁ、マダム・アリス?!・・まだまだ素晴らしい絵画がありましてよ?」
「ぇぇ・・そーでしょうけど・・・お買い物もしたいしぃ・・・」
「お買い物でしたら、明日の予定にお時間を組んでございます。」
「・・でも・・絵のことって、ミルにはよくわからないし・・普通に生活している空間で、この国の人達の息遣いや肌の温もりみたいなのを感じたいです。・・あ、別に本当に触れるとかじゃなく、今現在の生きた文化ってゆーか・・」
 ミルクは口ごもりながら俯いてしまった。
 景山がフォローするように笑みを浮かべ、
「確かに。アリス様のご年令では古い文化を探索するよりも、普通の若者達が普段生活する空間に興味を持つのは当然でしょう。・・デパートならレストランもありますし、そちらに変更しましょう。」
と、言ってくれた。
 カズコは、ミルクを案内するコースなどを、実際に現地を回って検討し練り上げただけに、残念そうだったが、
「アリス様がパリを訪れるのは一度きりではありません。これからは会長に同行されることも度々あるでしょうから、その都度、色々な所へゆっくりと足を伸ばされればよろしいでしょう。」
と言う景山の言葉に納得して、
「わかりました。では、そう致しましょう。」
と、笑顔で答えた。

 セーヌ川を最上階のテラスから見下ろせるレストランで、ようやく遅い昼食を摂り、そのレストランが入っているデパートの売り場を見て回ることにした。
 パリで生活する一般の人達もよく利用するデパートなので、普通に日用雑貨が陳列されている。
 それでも、色使いがカラフルで、ミルクは目を輝かせて感激した。
「わぁ・・見てぇ。この色ぉ・・信じられなぁーい。」
「やはり肌の白い金髪の人達を主に想定した色使いですから、柔らかな色調が多いようですね。」
「・・じゃぁ・・ミルには似合わないかなぁ?」
「いいえ。アリス様だからこそ、お似合いになりますよ。」
 ミルクのスタイリストを自負する景山の目も、キランッ、と光る。
「わぁぃ。ふふっ。・・それじゃ、いっぱい買っちゃおーっと。」
「お見立ては私が・・」
「でも、友達のお土産にもしたいしぃ・・」
 景山の顔に一瞬影が過ぎった。
 が、すぐに、
「あ・・それは、明日のブランド店の方で、お求めになられてはいかがでしょう?・・服には好みがありますし、アリス様にお似合いになる物がご友人にも合うとは限りませんから。」
と、普通に穏やかな笑みを浮かべて言った。
「・・そぉ?」
「シャネルやヴィトンのロゴ入りの方が、お土産に向いてますよ。」
「・・そっか。・・だったら、お金を使い過ぎないようにしないとなぁ。」
「アリス様がお支払いの心配をなさる必要はありません。」
「ぇ・・・だってぇ・・・」
「私が会長に叱られます。」
「でもぉ・・・自分で出さないと、欲しい物も欲しいって言えなくなっちゃうもん。マサトさんの為に支度する時に必要な物は、もちろんミルのお小遣いくらいじゃ買えないだろうし、買って頂くしかないけどぉ・・・普段着にする物や友達のお土産くらいは自分で買いたいの。」
 景山は、何故か悲しげに眉を寄せる。
「私を会長の代理でここにいるとお思いください。そして、何でも欲しいものを欲しいままにお求めになればよろしいのです。アリス様が両手に抱えきれなくなるまで、求められたからと言って、たいした額ではありませんし、そうした消費を誰も咎めることもありません。お気遣いなさらずに、甘えてくださるよう、お願い致します。」
「・・・景山さんは、ミルにそんなに嫌な女になれ、って言うの?」
 ミルクは真剣に怒った表情で言った。
 景山はミルクが怒る理由がわからず、ドキリ、として言葉に詰まった。
「え・・・いえ・・・」
「大切にして頂いているのはわかってます。これまでもミルの為に、色々お金を使わせてしまっていることも承知してます。景山さんが、素敵なドレスや可愛い小物を用意してくださってることに、感謝もしています。・・ミル自身、ドレスを選ぶ時にはワクワクするし、可愛い小物を身に着けると嬉しくなります。・・初めは戸惑っていたけれど、ミルがそうして楽しんでいることが、マサトさんには嬉しいのだと思うと、それでもいいかな、って考えるようになりました。」
「はい。それでよろしいのです。」
「でも、それはマサトさんが喜んでくれるからで、ミルが自分で欲しいと思ったり、友達の為に買う物まで、買って頂いていい理由にはならないでしょう?」
「アリス様がお買い物を楽しまれれば、会長も喜ばれます。」
「ミル自身の持ってきたお小遣いで買い物をして、それが楽しければ、マサトさんだって怒ったりはしないでしょう?」
「・・お金が足りなくて、欲しい物を諦められたら、会長はガッカリなさるでしょうね。」
「違う、違う。」
 ミルクは駄々っ子のように首を振った。
「買った物が欲しい物なのぉ。・・買えなかった物は、次の機会に欲しい物で、今欲しかった物じゃないの。」
 景山は、すぐにはミルクの言いたいことが理解出来ず、腕組みをして首を傾げた。
「どうしても欲しい物なんてない。買える物を買えたら充分じゃない。だけど、買いたいって思うから、お小遣いをあれこれ遣り繰りして買うんだもん。そうして買えた物が欲しかった物なのぉ。・・ぅぅぅ・・・」
 ミルクは上手く説明が出来なくて爪を噛む。
 そして、
「だって、欲しいって思うだけで手に入ったら、欲望に際限がなくなるじゃない。際限がなくなった欲望を満たしてくれる物が本当にある?・・どーしても欲しいと思ったら、貯金するとか、出来れば親が認めてくれる範囲でバイトをするとか、働いてお金を貰えるようになるまで心に留めておくとか、そうやって手に入れたらいいんだもん。・・それでも手に入らない物なら、諦めるか、買ってくれる男性と結婚?・・・ミルには、そこまで理解出来ないけど。・・・だって・・幸せって、物では満たされないから。・・心でしか感じられないから。・・心を売ってまで欲しい物なんて、ミルにはないもん。・・・あーもぉッ。ミルにもよくわかんないッ。」
と、泣きそうな顔で訴えた。
「・・仰られたいことは、わかりますが・・・」
 景山は漠然とだが、理解は出来た。
 すると、それまで傍観者でいたカズコが、
「そうですとも。」
と、満面の笑顔で言った。
「パリジェンヌはとても節約上手ですのよ。・・若いお嬢さん達は皆、自分の出せるお金の範囲で、いかに自分の魅力を引き出し素敵に見せるかと、創意工夫をします。だからこそ、皆個性的でセンスも磨かれ、新しいファッションが生まれるのです。・・ホホッ。ブランドを求めるのは、ヨーロッパではそれなりの地位や職業についている大人の女性が主流。買える立場になったステータスシンボルであり、普通に学校に通う若いお嬢さん方が持っていても、誰も誉めたりはしませんわ。・・それ一点だけを持っていても全然素敵ではありませんものねぇ?・・それに見合った服装や宝石、生活スタイル等、全てが揃ってこそ、さり気ないファッションの一部として持てるんですもの。」
 ミルクは、我が意を得たり、とばかりに、胸の前で両手を合わせて、うんうん、と目を輝かせて頷いた。
 だが、景山は不服そうに、
「アリス様は私達には姫君です。」
と、低い声で言った。
「それはわかりますわ。・・会長様の隣りに立たれる時は、マダム・アリスでいる必要があるのでしょうね。・・けれど、舞踏会で煌びやかに着飾ったマリー・アントワネット様も、晩年は民家風に造られた家で、コルセットも付けない楽な服装で生活するのが、お好きだったそうですわ。ただ、そうした生活を好まれるあまり、特定の側近以外近付けず、世情が見えず反感を買ったそうですけど。・・それに、それまで王妃としての威厳の為に、着飾ることにかけてきたお金のせいで、財政を圧迫したとか。・・最後はギロチンにかけられてしまった悲劇の王妃。幼い少女の時に嫁いだ彼女を、そうしてしまったのは民衆でしょうか?・・それとも、何でも欲しいままに与え続けた周囲の人達でしょうか?・・彼女が本当に求めた幸せって、何だったのでしょうね。」
「ハァァ・・・わかりました。」
 景山は溜息を吐いて言った。
「アリス様の御意志にお任せ致します。」
 ミルクはホッして笑顔になると、
「ありがとうございます。・・ごめんなさい。景山さんやマサトさんの気持ちは、すっごく嬉しいんですけど、・・我が侭を通してしまって・・・」
と、頭を下げた。
「いえいえ。・・私の方が間違っていたようです。勉強になりました。」
 景山は敬意を込めた眼差しでミルクを見つめて微笑んだ。
 ミルクも笑みを返したが、何かを思い出したように、
「あッ・・一つだけ、景山さんに買って欲しい物があるの。」
と言った。
「は?・・何でしょう?」
「ぬいぐるみ。」
「ぬいぐるみ・・ですか?」
「ええ。・・マサトさんが、広いベッドで一人で眠るのが怖いなら、ぬいぐるみを買えばいい、って言ったの。マサトさんの代わりのぬいぐるみだから、景山さんが買ってぇ?」
 景山は目を見開いてから、口元を押さえて笑い出した。
 カズコも、
「あらあら・・まぁまぁ・・・」
と、頬を赤らめながら、やはり可笑しそうに笑い出した。
 ミルクは、キョトン、として瞬きを繰り返し、何が可笑しかったのだろう、と首をひねった。
 景山は一頻り笑ってから、
「では、特大のぬいぐるみが必要でしょうね。」
と言った。
「えー・・・あまり大きいと、抱っこしてても疲れちゃうから、中くらいでいいですぅ。」
 ミルクが注文を付けるように首を振って言うと、再び二人の大人は笑い出してしまった。
 じっと控えていたボディーガード達も、笑いを噛み殺すのに苦心しているようで、逞しい肩を小さく震わせていた。

 結局、ぬいぐるみは身長が1メートル程度の白いテディベアに決まった。
 毛の感触がとても柔らかくて、ミルクが手にした途端、
「可愛いーッ!」
と、抱き締めたので、景山はそれを買い求めた。
 店員がミルクを見て、
『このままお持ち帰りになりますか?』
と、言ったので、カズコがミルクに通訳すると、ミルクは嬉しそうに頷いた。
 白いセミロングドレスは、レース使いが贅沢ではあったが、たっぷりとしたフレアスカートが歩く度に揺れて、可愛らしいものだった。
 それに加えて、ミルクが華奢な白い腕で、白いテディベアを抱っこして歩いている様子は、まるで童話から抜け出したきた小さなお姫様のように、一層愛らしかった。
 ミルクが歩く先々で、男性が振り返り注目するのを気付くこともなく、ミルクは気に入った物を選ぶことに頭を悩ませていた。
 あんまりあれこれと悩んでいるので、カズコが、
「もし、宜しかったら、若い方達に人気のあるショッピングモールへご案内しましょうか?・・デパートよりも全般的に安い品揃えになってますけど・・?」
と、提案した。
 ミルクは飛び跳ねて喜び、
「ぜひ、ぜひ・・行きます、行きますぅ。」
と、頬を紅潮させて答えた。

 そうして、買い物を楽しんでホテルに戻った時には、散々歩き回って、皆ぐったりと疲れていた。
 ミルクは、景山が車から荷物を下ろしフロントでキーを受け取る間も、立っていられないようで、ロビーのイスに座り込んでしまった。
 腕には白いテディベアを抱き、トロンと放心したようなミルクは、大人にはない不思議な妖艶さを醸し出していた。
 周辺にいた男達の視線がミルクに注がれ、釘付けになっていた。
「ボンソワァー、マドモワゼル。」
 一人の男が堪りかねて声を掛けてきた。
 けれど、フランス語が通じないミルクは、ただじっと相手の顔を見てるしかなかった。
 それをどう勘違いしたのか、男は更にミルクの側へと接近してきた。
 空かさずボディーガードが立ち塞がる。
 男は少しの間、何事かを交渉するように話していたが、ボディーガードが黙ったまま頑として動かないので、肩を竦めて立ち去っていった。
 その様子を見て景山が早足でやって来た。
「アリス様、お待たせして済みません。お疲れでしょうが、お部屋へ行ってから休憩なさってください。」
「ぁ・・はい。ごめんなさい。」
 ミルクは何とか疲労の滲む顔に笑みを作って、イスから立ち上がった。
 ミルクが歩き出した時、後ろの方からフランス語で囁く声がした。
『彼女はジャポンで有名な会社のオーナーの所有物らしい。』
『フン。金で生きた人形を手に入れたってか?・・野蛮な東洋人がいい気なものだ。』
『だが、彼女は実に愛くるしいじゃないか。羨ましい限りだよ。』
『事業にでも失敗して、オークションに出してくれないかな。一度あの肌を味わってみたいものだ。』
『彼女のオークションなら私も名乗りを挙げよう。ククッ。』
『おい。君と競り合うのか?・・厳しい競争になりそうだな。クスクスッ。』
 こうした会話がミルクの耳に入らないことに、景山は感謝した。
 そして、目で殺せるなら、とっくに殺しただろう、と思えるほどに憎悪を込めて、男達を睨み付けた。
 男達はその視線に気付き、悪寒が走って、顔を青ざめさせた。
 景山は、ここでは問題を起こせない、と自分に言い聞かせ、黙ってミルクの後に従ったが、煮えくり返る腸で、
 ・・・ゲス野郎ッ!
 ・・テメェ等に、ボスの孤高な偉大さがわかるもんかッ!
 ・・アリス様の気高さがわかるものかッ!
 ・・・・・テメェ等の顔は忘れねぇぜ。
 ・・・・・・・・いつか、破滅させてやる。
と、牙を剥いて呻っていた。

<80>
「痛み」
§80§「痛み」

 泡のお風呂で街の埃と昼間の汗を洗い流し、ミルクはワインレッドのイブニングドレスに着替えた。
 髪にもワインレッド色の薔薇のコサージュを飾り、少しは大人っぽく見えるように工夫した。
「ほぅ・・・なかなかセクシーだな。」
 ミルクの寝室に入ってきたマサトが、口の端に笑みを浮かべて言った。
「マサトぉ・・・」
 朝以来の再会に、ミルクはマサトの胸に抱きついた。
「ククッ。せっかくの髪型が崩れるぞ。・・ドレスは似合っても、着こなすにはもう少し大人にならないと無理らしいな。」
「子供でいいもん。」
 ミルクはマサトを見上げて、頬を膨らませる。
「ほほぅ?・・悟りでも開いたか?」
「そんなんじゃないーッ・・・」
 やっと再会出来たのに、軽い口調でいなされてしまうのが、何だか悔しくなって、ミルクは涙を滲ませてマサトの胸に顔を擦りつけた。
「確かに、化粧した女性には、こんな甘え方は出来ねぇよな。クックックッ。」
「・・・ぅぅ・・・もう、いいッ!お出掛けしないーッ!」
 ミルクはマサトの胸を突き飛ばすようにして離れると、プィッ、と背中を向けてしまった。
「あ?・・・何怒ってんだ?」
「・・・せっかく、マサトがミルを連れていても恥ずかしくないように、って思って、頑張って綺麗にしたのにぃ・・・」
「だから誉めたじゃねぇか。・・だろ?」
「だけど・・・やっと会えたから嬉しくて甘えたかったのに・・・ずっとバカにしてたじゃんッ!」
「・・バカにした訳じゃねぇよ。」
「したもんッ!」
「してねぇよッ!可愛いから、つい構っちまっただけだろッ!・・ったく、帰る早々、何を怒ってんだ?こっちの方が、訳わかんねぇぜッ!」
 マサトが声を荒げたので、ミルクは頬を膨らませたまま俯いて、涙をポロポロ零してしまう。
 言いたいことはいっぱいあった。
 言えずに貯め込んでいた文句が、喉まで出かかっている。
 そもそも、大元を辿っていけば、大人しか見れないショーのことが気になっていた。
 いくら仕事の付き合いでも、待ってるミルクがいることを思えば、途中で帰ってきてくれたって良さそうなものだし、年齢制限があるくらいHなショーを見ること自体気に入らない。
 マサトとひとつになれるのは嬉しいけれど、Hする時しか一緒にいれない気がする。
 しかも、他人にHを見られるという、ミルクには思い出すだけで顔から火が出そうなくらい恥ずかしいことがあったのに、さっさと出掛けて行ってしまった。
 百歩譲って、どうしても大切な仕事があって仕方なかったにしても、帰るまで電話一本掛けてはくれず、帰った途端にいきなりからかい出すのだ。
 ・・・こんな無神経なことがある?
 いつもならミルクの気持ちに気付いてくれた気がする。
 気付けないのは、マサトがパリでの滞在を楽しんでいるからで、自分が楽しい分ミルクも楽しんでいるだろうと、決めてしまっているように思えた。
 そう勝手に思い込むのも、ミルクと話す暇さえ作ってくれないのが原因じゃないのか。
 離れていた時の方が、余程たくさんの会話があったように思う。
 仕事の為の旅行なのはわかる。
 遊んでいる訳じゃないし、その分ミルクに気を使ってくれているのもわかるし、感謝もしている。
 だけど、ミルク自身も、つい我が侭を言いそうになる気持ちを押さえて、わかろう、理解しよう、感謝しよう、と我慢してきたのだ。
 マサトに迷惑が掛からないように、マサトに相応しい婚約者でいる為に、ミルクだって頑張ってきた。
 今日も美術館巡りだからと、上品なドレスを着て、それに合わせて慣れないハイヒールも履いていた。
 予定を変えたのはミルク自身だし、夢中になって歩き回ったのもミルクの責任だけど、帰って靴を脱いだら血豆や靴擦れが出来ていた。
 痛い、痛い、と思っていたのが、それを見た途端、余計痛くなった。
 それでも、お出掛けの為に無理して、またハイヒールを履いて待っていたのだ。
 こんなに頑張っているのを、簡単に笑って欲しくなかった。
 ミルクは悔しさで、ボロボロと涙が止まらなくなっていた。

「・・・ミルク・・・」
 マサトは、ミルクの涙が氷雨となって、心に降りしきるような寒さを感じた。
 ・・・俺が怒らせたのか?
 ・・俺が泣かせちまったのか?
 寒気と同時に、得体の知れない恐怖で胸が苦しくなってきた。
「ミルク・・・傷付けたなら謝るよ。・・俺が悪かった。」
 マサトがミルクの肩を抱き締めようとしたが、ミルクは顔をしかめてベッドの端に座ってしまった。
 マサトは跪いて体を屈め、ミルクの顔を覗き込んだ。
「・・・何か、あったのか?」
 ミルクは涙が溢れてくる顔を背けてしまう。
 膝に置かれてある手を握ろうと、そっと触れただけで、嫌そうに手を後ろに隠す。
 一瞬、マサトの顔が凍り付いた。
 ・・・ミルクが俺を拒絶する?!
 いつだって、マサトを求めて甘えてきたミルクが、マサトに嫌悪感を示したのだ。
 ズキンッ!
 と、マサトの胸に痛みが走った。
「ミルクッ!」
 マサトが立ち上がって、ミルクを無理矢理でも抱き締めようとした時、マサトの靴のつま先がミルクのハイヒールを蹴ってしまった。
「痛ぁーいッ!」
 ミルクが悲鳴のように叫んだ。
「え・・・?」
「痛いーッ・・・ぅぇ〜んん・・・痛いよぉぉぉ・・・」
「あぁ?・・・どこが痛いんだ?」
「足ぃーッ!・・ぅぅ・・グシュッ・・今ぁ、足ぃ蹴ったじゃないぃぃ・・・」
「足?」
 マサトはもう一度屈み込んで、ミルクの足を眺める。
 外見的にはどこにも以上は見えなかったので、靴を脱がせてみた。
「痛いぃぃッ!」
 靴が動いて擦れたので、またミルクが叫んだ。
 足全体が赤く腫れて膨張していたので、脱ぐだけでも痛みが走ったのだ。
 しかも、血豆と靴擦れに張ったバンドエイドから、血が滲み出してきていた。
「なッ・・・バカッ。何で早く言わないんだッ?」
 ミルクは痛みで顔をしかめたまま、悔しそうに泣きじゃくっている。
「取り敢えず、手当が先だな。」
 マサトはそう言うと、ドアを開け、
「若松ッ!洗面器に氷水を入れてこいッ!・・景山ッ!本郷に応急手当の道具を持ってこさせろッ!」
と、怒鳴った。

 触れることも出来ないほど腫れて痛がっているので、氷水で冷やして、腫れの熱を下げ感覚を麻痺させた。
 それから、本郷が慎重に手当をした。
 実はその前に、マサトが自分で手当すると言い張ったのだが、「専門家にお任せ下さい。」と宥められ、渋々諦めたのだった。
 それでマサトは、ベッドに横たわるミルクの手を握り、顔中にキスを繰り返していた。
 本郷が治療を終えて出ていくと、マサトは、
「景山ッ、これはどーゆーことだッ?」
と、厳しい口調で言った。
「申し訳ありません。・・ずっとお元気にしてらしたので、気付ませんでした。」
「迂闊過ぎるぞッ!」
「はい、面目ありません。」
「やめてよッ。マサトだって気付かなかったじゃん。景山さんのことを言う資格ないでしょッ。」
 いつになく皮肉な口調でそう言うと、
「ミルも帰るまで痛がるのを忘れてた。・・・途中から痛くなってたけど、それよりお買い物が楽しかったんだもん。・・・観光のコースを変えたのもミル自身だし、誰に責任があるか、って言ったら、それはミルだよ。」
と、ベッドから起き上がりながら言った。
「・・マサトだって・・帰ってくるなりミルをからかって、今日のことなんて聞いてくれなかったじゃない。・・ミルが痛いのを我慢して履いたハイヒールを蹴ったじゃん。」
「あ・・いや・・あれはワザとじゃねぇだろ?」
「なら、景山さんだって、ワザと気付かないでいたんじゃないんだから、八つ当たりで怒鳴りつけないでよ。」
「ミルク・・・八つ当たりって・・・」
「ディナーショーに行く時間が気になるなら、すぐに髪を直します。」
「数日は歩かない方がいい。外出は取りやめだ。・・若松、連絡を入れておいてくれ。」
「はい。」
「靴擦れくらい我慢してれば大丈夫だもん。」
「痛くて辛いのを我慢してショーを見たって、楽しくねぇだろ?・・今夜紹介しようと思ってたのは、婚約指輪を作ってもらった宝石店のオーナーと、装飾デザイナーでもある夫人なんだ。夫人は覇羅蛇の郷の出身で、あの指輪のデザインもしたんだぜ?・・だから、是非紹介してくれって前から頼まれてたけど、無理に我慢して会うような相手じゃない。・・そんな機嫌が悪い時に行っても、相手だって嬉しくないだろう?」
「・・・どうせ・・・どうせ・・・ミルなんか・・・」
 ミルクは取れかけていた髪飾りを髪からもぎ取り、マサトに投げつけた。
 そして、わッ、とばかりに泣き出すと、ベッドに突っ伏してしまった。
 マサトはベッドの上で胡座をかき、困ったように額に手を当てたが、景山と若松に気付いて手振りで部屋を出るように合図した。

「・・そんなに怒るなよ・・・なぁ?」
 マサトはミルクの肩や背中を慰めるように撫でていたが、手に当たったホックを外してチャックを下ろしていった。
 ワインレッドのドレスから覗く白い背中に直接触れて撫でる。
「ぅぅ、、、嫌ぁぁぁ、、、」
 ミルクは本気で嫌がって体を左右に振る。
「・・俺が色々気付いてやれなかったことは・・反省する。・・景山に任せきりにして、話す時間もなかったことは、マジに悪かったと思うよ。」
 マサトは白い背中に顔を埋めて、甘い香りを吸い込みながらキスを繰り返す。
「嫌だってばぁぁぁ、、、」
 ミルクは体を反転させて、背中を下にした。
 泣き腫らして、目も鼻も頬も唇まで、真っ赤になっている顔が現れた。
「・・寂しくて、不安だったんだよな?・・・もっとわかってやるべきだったと思ってるよ。」
「、、、そんなんじゃないぃぃ、、、」
「・・我慢ばっかさせちまったよな?・・まだ親に甘えていたい年頃なのに・・責任やら義務やら、いっぱい背負わしちまったぜ。」
 ジュワァッ、と涙が溢れ出す。
「・・なのに・・こんなに痛いのを我慢しても頑張ってるお前を・・子供扱いしてからかっちまったなんて・・最低だよな。・・ちゃんと見てれば、どれだけ頑張ってるか・・どんなに大人でいようと努力していたか・・わかってやれたのにな・・・」
 止め処なく涙が込み上げてきてしまい、ミルクは喉と横隔膜を震わせて息をする。
「・・ガキなのは俺だったな。・・・お前の優しさに甘え過ぎていたぜ。」
 マサトは苦しそうに息を吐くと、顔をミルクの顔に擦り合わせた。
「・・許してくれ。」
 涙に頬ずりをし、キスをする。
「頼む。・・・俺を・・嫌いにならないでくれ。・・・愛しているんだ。・・・頼む。」
「、、マサトぉ、、、」
「・・俺は我が侭だ。・・お前のいない人生なんて考えられない。考えられないから、絶対にお前は手放さない。何があろうと、つかんだ手を放さない。・・嫌われても・・憎まれても・・愛し続けることしか出来ねぇんだ。」
「、、嫌ったりしない、、、憎むわけない、、、」
「・・さっき・・・お前に拒絶された時、心臓が凍り付くかと思ったぜ。」
「、、、だって、、、ミルだって、、、痛い時はあるんだもん、、、」
「ああ。・・・そうだよな。」
「、、、足だけじゃなく、、、」
「わかってる。・・・ハートが痛かったんだよな?」
「、、、ぅん、、、」
「済まなかった。」
「、、、うん、、、」
「・・許してくれるか?」
「、、うん。」
 ミルクはマサトの首に腕を回し、髪を撫でるようにして抱きついた。
「愛してるよ、、、マサト、、、」
「ミルク・・・」
 マサトもミルクの背中に腕を回して、優しく強く抱き締めた。