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<91>〜<95>





<91>
「好き!」
§91§「好き!」

 追悼式の二日後、渡部親子は覇羅蛇の郷へと旅立って行った。
 蛇窟島は落ち着きを取り戻し、いつもの日々が戻っていた。

「こうしてると・・・南洋の楽園なのにね。」
 ミルクはビーチチェアに座って、海を眺めながら呟いた。
「ククッ。・・俺としては、日本では出来ない訓練をする場所が、欲しかっただけなんだがな。」
 マサトもビーチチェアに寝そべり、のんびりした時間を過ごしている。
 左足は裂傷があるものの、それほど大怪我でもなく、ヒビが入っただけだったので、ギブスで固定せずに、パイプで囲んで補強してある。
「・・戦う人達だけに許された島かぁ・・・ぅぅぅ・・・何かぁ、差別ぅ・・・」
 ミルクはマサトと手を絡ませるように繋いでいる。
「他の組織員達の保養施設もあるぜ。景山が案内したんだろ?」
 マサトがミルクの手の甲を親指でそっと撫でる。
「えー・・あれって保養施設ぅ?・・・特殊訓練の合宿所だって言ってたけどぉ?」
「ま・・そーとも言うがな。ハハッ。」
 他愛もない話とばかりに軽く笑うマサトは、緊張から解き放されたようで、猫笑いになっている。
 本当なら、旅行の後半は、ここでゆっくりしようとしていたらしい。
 マサトの怪我で日程を多少伸ばしたが、ミルク達もあと数日で日本へ帰国しなければならない。
 やっとマサトとゆっくりした時間が持てたのだから、甘えられるだけ甘えていたかった。
 不安だった分も、埋めるように甘えたい。
「・・マ・サ・ト・・・キスしてぇ・・・」
 ミルクが目を閉じて口を尖らせる。
「・・・どうせなら・・部屋で誘ってくれ。・・・ったく、何もビーチで誘惑しなくても・・」
 そう言いながらも、マサトはミルクの唇に軽く唇を重ねて、キスをする。
 実は、ミルクが生理になったのと、マサトの怪我に響くからということもあって、まだ”お預け”をされている状態なので、かなり欲求不満らしい。
 日に二回は”お口の奉仕”をしているが、マサトの暴れん坊蛇には物足りないようだった。
 太い蛇竿をあまり長くくわえていると、ミルクが酸欠になってしまうので、思い切り突き上げる訳にもいかずに、焦れったさが募るらしい。
「・・だってぇ・・・部屋だと、すーぐベッドに行きたがるんだもぉーん。」
 ミルクは、フフッ、と笑って、マサトの熱い頬にキスを返した。

 白浜のビーチは子供達が遊び、監視員が見守っている。
 不思議と親子連れという姿はあまり見かけない。
 大人は大人で、波の荒い場所でサーフィンを楽しんでいる。
「そー言えばぁ・・ミルにサーフィン教えてくれる、って言ってた人、いるかなぁ・・・」
 ミルクがサーフィンをしている人達を双眼鏡で覗く。
 マサトは、ムッ、として、
「おい。・・その不心得者は何奴だ?」
と、不機嫌な声で聞く。
「・・んー?・・・今日はいないみたいー・・・」
 双眼鏡を覗いたままミルクが答える。
「運のいい奴だ。いたら、あばら骨を一本一本砕いてやる所だったぜ。」
 マサトは、舌打ちをして、ミルクから双眼鏡を取り上げた。
「ぁん・・・彼ねぇ、ミルでもボディボードなら出来るだろう、って言ってたの。」
「・・フン。いい根性してるじゃねぇか。・・つーか、他の男を彼って言うな。」
「へ?・・だってぇ、he…三人称じゃん。・・ププッ、やぁーだぁ。」
「気に入らねぇんだから、言うんじゃねぇ。」
「・・・マサト・・何か、我が侭になってるぅ。」
「俺は元々、我が侭だぜ。」
「はぁ〜ん・・・そうかもねぇ。・・お仕事してる所をずっと見てたから、忘れちゃったぁ。」
「忘れるんじゃねぇッ。」
 マサトは、ミルクの肩に腕を回して抱き寄せると、濃厚なキスをした。
 熱い太陽に熱せられた砂が照り返し、微風も真昼の熱を含んで熱い。
 マサトの熱い体と熱い舌に、ミルクは逆上せそうになる。
「ん・・んん・・・ねぇ・・・かき氷、食べたいー。」
 やっと唇が離れた時、ミルクは甘えた上目遣いで頼んだ。
「かき氷か・・・」
「うんッ。上のバーガーショップで売ってるのが、超美味しいのぉ。・・ねぇ、行こ、行こッ?」
 ビーチチェアから立ち上がったミルクに手を引かれ、マサトもゆっくりと立ち上がった。
 足の怪我も、普通に歩く分には、支障はないようだった。

 水着の上にアロハシャツを羽織り、マサトと手を繋いで、馴染みとなった道を歩く。
 昼時ということもあって、商店が並ぶ通りには、訓練生だけでなく隊員達の姿もあった。
 彼等には、普段着でのんびり歩いているマサトが珍しいようで、気付いた途端に緊張して敬礼をした。
 マサトは二本指で軽く挨拶を返し、
「オフの俺に、気ぃ使うこたぁねぇぜ。」
と、笑って言った。
「・・きっとマサトってオフのイメージがないのかもぉ。・・ミルだって、マサトがいっつも仕事してるみたいに思えちゃうもん。」
「ぉぃぉぃ・・・ベッドでもかぁ?」
 マサトがミルクに顔を近付け、小声で囁く。
 ミルクは顔を赤らめて、
「ぃゃ〜ん・・・エッチィ・・・マサトのバカァァ・・・」
と、繋いだ手を大きく揺らした。
 マサトは猫笑いで、ミルクを愛しそうに眺め、クスクス、と笑いをこぼす。
 穏やかで優しい、心からの笑顔に、二人を見守る人々にも笑みが浮かび、ミルクを愛したマサトも、マサトを愛するミルクも、どちらも好きだと思った。
 これまで、疾風のように駆け抜け、荒ぶる怒濤のように怒号し、骨まで凍り付くブリザードのように厳しく、灼熱のマグマのように容赦ない、マサトの姿ばかりを見てきたのだ。
 それはそれで、もちろん崇拝の源であり、熱狂的狂信者を生み出すカリスマの姿ではあったが、そうして求める先にある存在がミルクなのだと、理解することが出来た。
 甘く芳しく魅惑的でありながらも、ほのぼのと穏やかで、ふわりふわりと優しく舞う羽のような、優しい世界がそこにある。
 ミルクを見ていると、”覇羅蛇の郷を思い出す”と誰かが言っていたように、覇羅蛇村出身者もそうでない者も、マサトの心が決して地獄の荒野を望んではいないことを実感出来た。
 が、ともかく、そうした意味合いを取り立てるまでもなく、二人の姿は微笑ましかった。

「こんにちわぁー。」
 ミルクが窓口で呼び掛けると、いつもの女性が、
「いらっしゃいませ、アリス様。」
と、いつもの笑顔で返事をし、
「この間の放送、すごく良かったですよ。」
と、窓口に近付きながら言った。
「この間の・・?」
「総裁様との出会いのエピソードですよ。」
「アッハッ・・・あれですかぁ?・・あの時、途中で中断して、色々慌ただしかったから、感想とか聞くような状況でもないしぃ、ちょっと場違いだったかなぁ、って反省してたんですぅ。・・そう言って頂けると、ホッとします。」
「あーねぇ。大変でしたねぇ。・・でも、総裁様がご無事で本当に良かったですわぁ。総裁様は私共には太陽ですもの。太陽が隠れたら生きてはいけません。」
「ですねぇ。」
 ミルクも笑顔で相槌を打つ。
「ですが、それとは別に・・あの放送はとっても素敵でしたよ。胸が熱くなりましたもの。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ。お話してくださって、お礼を言いたいのはこちらですよ。」
 夫がフランス人のその女性は、にっこりと笑って頭を下げた。
 それから、
「あ・・ご注文をお聞きしないと・・いつものですか?」
と聞いた。
「今日は、かき氷を二つ、お願いします。・・イチゴのとぉ・・マサトは?」
 ミルクが隣りを見上げて聞いた時点で、マサトの存在に気付いた女性は、目を丸くして口を開き、声にならない声で、あわわわ、と口を動かした。
「俺は・・甘くねぇのがいい。・・ワインとかあるのか?」
 マサトが上半身を屈めて、窓口を覗き込みながら聞く。
「ぁ・・・申し訳ありません。ウチには・・・甘くないのでしたら、お抹茶とかございますが・・」
「なら、それでいい。」
「はいッ。承りました。」
 緊張でどこかぎこちない動きの女性が、氷を削り始める。
 出来上がるのを待つ間、ミルクは、
「旦那様は研究所で働いているフランス人なんですってぇ。」
と、説明する。
 マサトは苦笑して、
「バーカ。覇羅蛇の郷出身の者は、みんな知り合いだぜ。お前が説明しなくても知ってるさ。」
と、ミルクの額を指で軽く弾いた。
「あそっか。・・えへっ。そだよね。」
 ミルクは嬉しそうに頷いたが、マサトの言葉を聞いていた彼女も、嬉しそうに頬を赤らめていた。

 出来上がったかき氷を食べながら、白浜ビーチへとまた戻っていく。
 この時ばかりは手を繋げない。
 ミルクはマサトの真緑のかき氷を覗き込み、
「それって美味しい?・・・一口ぃ・・あーん。」
と、鯉のように口を開けた。
「多分シロップ抜きにしてくれたんだろうな。ほとんど甘みはないぜ。」
 マサトはそう言って、ミルクの口に少し入れてやった。
「ぅッ・・・苦ぁぁぁ・・・」
 ミルクは、自分のイチゴのかき氷を掻き込んで、口の中の苦みを中和してから、コメカミに響いた冷たさに顔をしかめ、
「そーゆーのは、先に言ってよねぇ。」
と、頬を膨らませた。
「ククッ。食い意地を張るからだ。」
 マサトは可笑しそうに笑い、スプーンをカップに差して片手で持つと、ミルクの手を握った。
 ミルクはスプーンを持っている手をつかまれ、どうやってかき氷を食べようか悩む。
「ほら。階段になるから、気を付けろよ。・・座ってから食べればいいだろうが。・・ったく。」
「ぅぅ・・・ぁぃ・・・」
 唇を尖らせながらも、ミルクが返事をすると、マサトが赤くなった唇に軽くキスをした。
「甘ぇ・・・」
 と言ったマサトが、体を起こして眉をひそめても、ミルクは嬉しくて、耳を赤くしながら笑みを浮かべた。

 ビーチに戻ってかき氷を食べ終わると、ミルクは冷えたお腹を温めようとシートに腹這いになった。
 食べ終わった容器をゴミ箱に捨ててきたマサトが、ミルクに並んで寝そべり、
「子供がこれをくれたぜ。」
と、ミルクの前に貝を置いた。
 エスカルゴより大きい巻き貝だった。
「ん?・・・食べるの?」
 ミルクがじっと眺めながら聞くと、貝がモゾモゾっと動いた。
「喰うのかぁ?・・ククッ。喰うと言われて逃げ出しにかかったか。」
 マサトがからかって言う。
 ミルクがムッとしてマサトに顔を向けると、少年のように目を輝かせたマサトの、巻き貝を楽しそうに眺めている横顔があった。
 ミルクは、ドキッ、として、また貝に視線を戻し、ドキドキしながら同じように貝を眺めた。
 巻き貝だと思っていた貝から、カニのようなハサミと細い足が出てくる。
「あ・・・これ・・・」
「ヤドカリって言うんだぜ。」
「うん。」
「可愛いだろ?」
「うん。」
「・・喰うか?」
「・・・ぅ-・・・」
「アハハッ。冗談、冗談。」
 マサトは明るい声で笑って、ミルクを仰向けに転がすと、上から押さえ込み、両手の指を絡め合わせてキスをした。
 人目のあるビーチだったが、ミルクはドキドキしたまま、キスに応えた。
 ヤドカリは、やれやれ、とばかりにテコテコと海へ向かって歩いていく。
「・・逃げちゃうよぉ・・・」
「いいさ。・・喰っても美味くねぇし、海に帰してやろうぜ。」
「・・うん。」
 ミルクは小さく頷き、自分からマサトの唇を求めて重ねた。
 熱い砂浜で、熱いマサトと肌を合わせ、熱いキスをしながら、本当にどうしようもなくマサトが好きな自分を感じる。
 今でも時々、ドキドキが止まらなくなる。
 愛していると言うより、本当に好きで堪らない。
 愛という言葉には、何かをしてあげたい、とか、別の想いも含まれているような気がする。
 もちろん愛してもいるが、理屈ではなく、直感で≪好きぃぃー!≫と感じてしまうのだ。
 強さとか、逞しさとか、不撓不屈の精神力とか、年齢以上に大人に見える一方で子供っぽさもあるとか、理由は後からいくらでも思い浮かぶが、理由もなく何の確約もないのに”好き”と感じてしまうのは何故なのだろう。
 愛して欲しいから、愛している、と言葉を口にする時がある。
 けれど、好き、という感情は、相手がどう思おうと好きなのだ。
 愛していたら、ストーカーにはならないだろう。
 相手を思い遣り、相手が傷付いたり困ったりすることは、しないはず。
 一方的に好きだから、相手を苦しめても、自分の気持ちを押し通すように思う。
 ある種、好きという感情の方が、愛する感情より、激しい部分があるのかも知れない。
 ミルクは、自分の中にある激しい想いを、痛切に実感していた。

「・・マサトが好き。」
 ミルクはうっとりとマサトを見つめて言う。
「愛しているぜ、ミルク。」
 マサトも熱い眼差しで答えてくれる。
 きっとそうなのだろう。
 マサトはよく、”俺の方が何倍も愛している”と言う。
 相手の全てを承知した上で、包み込むように愛する、という思いは簡単ではないのだろう。
 好き、と思うのは誰にでもすぐに出来る。
 けれど、愛する、のは本当に難しい。
 ミルクの心が子供な分、まだまだマサトの思いには届かないのだろう。
「・・どうした?」
 マサトが、ミルクの前髪を後ろに撫でつけながら、聞いた。
 ミルクの顔に、フッ、と悲しげな影が過ぎったような気がしたのだ。
「ぁのね・・・ミルね・・・」
「うん?」
「・・マサトが好きで堪らないの。」
「俺も好きだぜ。滅茶苦茶、好きで堪らない。・・で、困ってる所だ。」
「・・そうなの?」
「あぁ。」
「・・そっか。」
 ミルクはクスクスと笑い出す。
 マサトも鼻を擦り合わせて笑う。
「だけど・・愛してるよぉ。」
「あぁ。俺もな。」
「・・・ぁ・・・ちょっと略したよぉぉぉ・・・」
「お前の一万倍愛しているぜ。・・と、心で付け足したんだ。」
「ゃぁーん・・・ズルゥーイ・・・」
「クククッ。惚れてりゃ、狡くもなるさ。」
 マサトはミルクを抱き締めて、人目も憚らない熱いキスを繰り返した。

<92>
「もう一人の自分」
§92§「もう一人の自分」

「あー・・やっぱり火照ってるぅ。」
 海から戻ってシャワーを浴びたミルクは、キャミソール姿でローションを肌にパッティングしている。
「あまりローションを塗りたくるなよ。」
「え?・・何でぇ?」
「ミルクの匂いの方が俺は好きだぜ。」
「ゃ〜ん・・・そーゆー問題じゃないじゃぁーん。」
 ミルクはクスクス笑って、更に足までローションを叩く。
 足を上げると、水玉パンティがチラチラ覗く。
 よく冷やした白ワインを飲みながら、マサトはまだ濡れている髪を首に掛けたタオルで拭く素振りで、パンティを眺める。
 トランクスの中の蛇が、欠伸を一つして伸び上がる。
「・・なぁ・・・もういいんだろ?」
「ん?・・なぁに?」
「潮干狩りは解禁だろ、ってこと。」
 ミルクは、すぐにはわからず、眉を寄せて首を傾げる。
「潮吹き貝が喰いてぇ、って言ってんだよ。」
 やっと意味がわかったミルクは、
「なぁーんか・・・その言い方、ヤらしいぃぃ・・・」
と、膨れる。
 けれど、ミルクの股間がキュンと疼いてしまう。
 マサトが慌ただしく出掛けてから二週間。
 ミルクの体も我慢出来ないほどに、マサトを恋しがっている。
「・・ミルはもう・・いいけどぉ・・・だって、マサトが・・・」
「補強パイプは外せねぇけど、俺も全然かまわねぇんだぜ?」
「・・・ぅん・・・」
 ミルクは頬を赤らめ、上目遣いに瞬きを繰り返す。
 マサトはワインを飲み干すと、ソファーから立ち上がり、ミルクの手首をつかんで、
「ベッドに行こうぜ。」
と、強い力で引っ張った。
 少しも変わらない力強いマサトがそこにいる。
 ミルクは、ドキドキしながら、マサトの腕に腕を絡ませた。

 ホタテの形のベッドは円形でかなり広い。
 マサトは蓋を平行に移動させ、蓋の内側に取り付けられた鏡にベッドの全てが映るようにした。
 海に夕日が沈んでいく。
 涼しくなった潮風が、薄く透けるカーテンをゆらゆら揺らせている。
「俺だけの真珠を見つけたみてぇに可愛いぜ。」
 マサトは日に焼けても白いままのミルクの肌を、掌でなぞり、熱い眼差しで見つめて言った。
 ゾクゾクッ、と快感がつま先から駆け上がってくる。
「、、ぁ、、、マサトは、、海ぃ?」
 ミルクの意識は、すでに夢見るような陶酔の中にいるようで、甘えた囁き声になっている。
 その可愛い澄んだ声が、マサトの欲望を一層駆り立てる。
「俺は世界を股に、大海原で暴れ回る海賊船だ。・・俺だけの宝を手に入れたぜ。クックッ。」
「、、、ミルで、、いいの?」
 ミルクは、マサトの存在の大きさが、時々怖くなる。
「バーカ・・・お前でなきゃダメなんだ、って何度も言ってるだろ?」
 マサトはミルクの胸を、ギュッ、ときつくつかんだ。
「ぁッ、、ぁぁッ、、、クフン、、、」
 ふっくらと丸い胸の先端に、突起しているピンクの乳首を、チュゥーッ、と吸う。
「ぁぁ、、、マサトぉ、、、」
「磨き上げられた美貌も体も、言うなれば、作られた虚飾の街のようだぜ。摩天楼は嫌ぇじゃねぇが、俺には金を産み出す戦場に見える。・・・俺の心は、戦場では安まらない。自然のままに、愛らしく優しく、気取らないのに気高い・・そんなお前にぞっこんだぜ。」
「、、、マサトぉ、、、」
 マサト以外の誰かに、同じことを言われても嬉しくないだろう。
 買い被りだと、逆に怒りたくなるかも知れない。
 だけど、マサトに言って貰えるのが嬉しい。
 マサトの愛を受け止めていいんだ、という許可証のような気がするのだ。
「、、、つかまえててね?、、、離さないでね?、、、嫌わないで、、、」
 ミルクはマサトの背中にしがみつく。
「お前を嫌う訳ねぇだろが。・・殺したって離さねぇぜ。」
 マサトが凄味を効かせて睨んでみせると、ミルクは小さく笑いを洩らす。
「バーカ。本気だぜ?」
「ぅん。、、、それが嬉しいの。、、だって、、マサトがいない世界を考えなくていいんだもん。、、、マサトのいないミルって、、存在しないのと同じ。、、、マサト以外、、何も見たくない、、何も欲しくない、、、」
「・・・ミルク・・・」
 マサトは愛しさが募り、激しく唇を重ねた。

「あぁッ、、、ぁ、、ぁ、、ぁぁぁ、、、」
 トロトロに熟れた果実は甘酸っぱい蜜が溢れている。
 飢えた蛇が香りに誘われるように潜り込む。
「あぁぁぁぁ、、、気持ちいいぃぃぃ、、、」
 ミルクは押し広げられ、押し込められる感覚に、体を震わせて感激する。
 潮が満ち、月が満月になるように、やっと本当の自分に還れる気がする。
「マサト、、マサトぉ、、、欲しかったよぉぉ、、、」
 マサトに抱きついて、股間を擦り付ける。
「そうだろぉ?なぁ?・・素直が一番だぜ?」
「うん、、、あぁぁ、、、めちゃめちゃ感じるぅぅ、、、」
「我慢させちまったもんな。・・・いっぱい感じさせてやるぜぇ。」
「うん、、、いっぱい、、いっぱい、、、マサトでいっぱいにしてぇぇ、、、」
 ミルクは身悶えてよがり、自分からも腰を振って快感を貪る。
 ズンズンズンズンッ、、、
 クチュックチュックチュッ、、、
 密着を保ちながら、ミルクの膣を奥へ奥へと突き上げる。
「あぁぁぁ、、、奥まで届いてるぅぅ、、、あぁぁぁ、、、気持ちいいよぉぉ、、、」
 ズンズンズンズンッ、、、
 クッチュックッチュックッチュッ、、、
 足の怪我を感じさせないマサトの動きが、ミルクを快感の渦に引き込んでいく。
 ズップズップズップッ、、、
 グチュッグチュッグチュッ、、、
 調子に乗った蛇が、赤黒い胴体をうねらせて次第に大きく突き動く。
「あぁん、、マサトぉぉ、、、ぁぁぁん、、、」
 ミルクはマサトの背中に腕を回し、大きく開いた足を巻き付かせる。
 快感に仰け反りながら、薄目を開けたミルクに、絡まった男女の姿が浮かび上がる。
 男はマサト、女はミルク。
 ミルクは初めて抱かれている女の自分を目の当たりにした。
 熱っぽく潤んだ目、上気した頬、半ば開いた赤い口。
 鏡に映った男は、蛇を纏い、筋肉をうねらせて腰を動かしている。
 突き上げられる感覚と男の動きが呼応している。
「あぁぁぁ、、、マサトが、、ミルの中にいるぅぅぅ、、、」
 鏡の女が喘ぎながら口を動かす。
 淫らに足を広げ、男の動きに足も揺れる。
 足でマサトの肌を擦ってみる。
 マサトの熱い肌の感触が、足の裏に伝わってくる。
 鏡の中でも白い触手のように足が肌を滑っていく。
 ミルクの白い腕と足が、淫らに絡みつく。
 何て嫌らしい格好をしてるんだろう、と思う一方で、もっと醜く自分を晒け出したい淫魔の囁きが聞こえてくる。
「あぁぁッ、、、もっと、、、もっと、、突き上げてぇぇぇ、、、」
 キュゥゥゥゥーーッ、、、と、煽動し蠢く肉襞が、蛇を締め付ける。
「うぅぅ・・・最高のおまんこだぜぇぇッ・・・くぅぅ・・・」
 マサトの腰が戦慄いて勢いを増す。
 奥の奥まで捻り込まれて、内蔵を押し上げてくる。
「あぁぁぁ、、、いいよぉぉ、、、すごくぅ、、いいぃぃぃ、、、」
 眉を寄せ、感じて歪めた顔は、妖艶な色魔そのものに見えた。

 ミルクの目線に気付いたマサトが、
「もっと淫らな姿を見せてやろうか?」
と、体を起こして言った。
「、、、ぅん、、、」
 ミルクは甘えた笑みで小さく頷く。
「クックックッ。探求心が旺盛で結構な事だ。」
 マサトはからかうように言うと、枕元のスイッチを入れて、四方からライティングされる照明を点けた。
 薄暗くなっていたベッドの空間が、ステージのような明るさになる。
 ミルクは、どうなるのだろう、とドキドキしながら待っている。
「気取っている女が嘘つき狐に見えるくれぇ、生の女の正体をじっくりと目に焼き付けろ。」
 マサトはそう言ってミルクの両膝を左右に大きく広げ、
「ほぉら・・・おまんこが丸見えになったぜ。」
と、蛇の胴体に広げられている部分を鏡に映した。
「どうだ?・・見えるか?」
「、、、ぅん、、、マサトのおっきな蛇しゃんが、、、ミルの中に、、、」
 信じられないほどに太い蛇が、体にめり込んでいる。
「マサト、、、すごく、、、おっきぃぃ、、、」
「ミルクのおまんこの大好物だろ?」
 マサトが、ズゥリズゥーリ、、と蛇を動かして擦る。
「あぁッ、、、ぁぁぁ、、、」
 赤黒く膨張した蛇の体は、蜜にまみれて照り輝いている。
 引き攣れたような赤い花弁が、擦られヒクついている。
 気持ち良さと、卑猥な映像が、すぐには合致せずに、頭の中でグルグル回る。
 マサトは蛇のカリ顎が見えるまで引き抜き、それから、ズブズブズブゥッ、、と根元まで押し込む。
「あッ、、あぁぁぁぁ、、、スゴォーイ、、、あぁぁ、、、奥に当たってるぅぅ、、、」
 ミルクは片手を伸ばして、マサトと繋がっている部分を指で触れる。
 触ってみないと信じられない気がしたのだ。
 ズルズルズッ、、と出てくる赤黒い蛇竿を、指で触れて確認しながら、目で堪能する。
 マサトはミルクが実感出来るまで、ゆっくりな動作を繰り返した。
 ズルズルゥ、、と引き、ズブズブズブゥッ、、と押し込む。
「あぁぁぁぁ、、、感じるぅぅぅ、、、マサトに抱かれているミルがここにいるんだぁ、、、スゴイぃぃ、、、」
 擦られる快感と、奥に当たる鈍い痛みと、蛇の動きを指先で確かめている感覚と、そして全てを映し出す鏡の姿が、ミルクの意識の中で一つになる。
「あぁぁん、、、そぉぉ、、、これが好きなのぉぉぉ、、、」
 ミルクは自分の体の中を出入りする蛇を、愛おしそうに撫でる。
「あぁぁ、、、すごく素敵ぃぃぃ、、、ここが、、、感じてるぅぅぅ、、、」
 蛇を撫で回す指で、自分の目一杯開いた膣の花びらにも触れる。
「あぁん、、、ここもぉ、、、熱くなってるぅぅぅ、、、」
「あぁ・・・俺にもよぉーく見えてるぜ。・・ミルクの可愛いおまんこが、俺の蛇をすっぽりと飲み込んでるのがな。」
「、、ぅん、、、ぁふん、、、マサトの蛇しゃん、、、ミルのだよね?」
「あぁ。お前だけのもんだぜ。」
「あぁぁ、、、嬉しいぃぃ、、、」
「もっと暴れて欲しいか?」
「うん、、、もっと、、ジュブジュブしてぇ、、、もっともっと、ズンズンしてぇぇ、、、」
「よぉーっしッ。一気に中にザーメンをぶち込んでやるぜぇッ。」
 マサトはなるべく見えるようにしながら、大きくミルクを突き上げ始めた。
「あぁぁーーッ、、、気持ちいぃぃ、、、頭のてっぺんがジンジンするぅぅ、、、」
 ミルクはしっかりと目に焼き付けながら、体を駆け巡る快感に陶酔していった。

「あぁん、、あん、、あん、、、あぁぁぁ、、、」
 白く輝く丸い胸も大きく揺れている。
 ブルンブルン、、と振り回されるほど、激しく突き上げられる。
 先端の乳首が固く突起して赤味を増している。
 汗が谷間に溜まって光っている。
 上気した顔も、喘ぐ喉も、汗の玉が光っている。
 ジュップッジュップッジュップッ、、、
 クチュプクチュプクチュッ、、、
 熱く痺れる股間も、汗と蜜が入り交じり、湯気が出そうな蛇が奮闘している。
 コンセントが差し込まれて、初めて動く道具のように、男に繋がって初めて、女は女の姿になれる気がする。
 一生純潔を守る気高い女性もいるだろう。
 その強さや信念や崇高さは尊敬する。
 けれど、ミルクは、男に繋がってよがる女でいることが嬉しかった。
 想像を超える生々しい姿が、ミルクには綺麗に見えた。
「あぁぁぁぁぁ、、、いく、、いく、、いくぅぅぅ、、、」
「いいぜぇ・・・うぅぅ・・・俺もいくぜぇぇぇ・・・」
 マサトが腰を激しく打ち付け、小刻みに震わせて、
「はぅぅ・・・はぁぁぁぁっぅッ・・・ぅぅぁぁぁ・・・」
と、声を上げて、ピッタリと股間を密着させて止まる。
 ミルクも目を閉じて、瞼の裏にスパークする虹色の光の渦に意識を投げ出した。
 マサトがゆっくり体を離し、
「ミルク・・・目ぇ開けて見ろよ。」
と呼び掛ける。
「、、、、、ぅ、、、ん、、、、、」
 呼び戻されて、気怠そうに潤んだ目をわずかに開ける。
「綻んだ花びらから・・・俺のザーメンが垂れてくるぜ。」
「、、、ぁ、、、」
「ククッ。・・・何か・・ピンクがかってるなぁ・・・」
「、、、ぁぅ、、、」
「ちょっと残ってたかな?」
 ミルクは足を閉じて横を向いてしまう。
「あ・・おい、ちょっと待て。・・・なぁーに今更恥ずかしがってんだよ。・・ったく、拭き取ってやるから・・・」
 マサトは柔らかいティッシュで、そっとミルクの股間を拭いた。
 ミルクは逆上せた状態で、目を閉じ、されるままになっていた。
「、、、眩しぃ、、、」
「ん?・・・あ・・そうか・・・」
 マサトは照明のスイッチを入れ替え、淡いピンクに替えた。
 そして、ミルクを腕に抱き寄せ、
「少し寝るか?」
と、優しく髪を撫でた。
「、、、ぅん、、、」
 ミルクはマサトの胸に顔を押しつけ、かすれる息で答えると、そのまま眠りに落ちていった。

 ミルクが目を覚ますと、マサトがイヤホンを付けてMDを聞いていた。
 滅多に見ることのない珍しい格好に、ミルクはキョトンと眺めていた。
 マサトが視線に気付き、
「お目覚め?」
と、軽く笑って言う。
「、、、ん。、、、ねぇ、何を聞いてるのぉ?」
「これかぁ?・・・ククッ。・・・ひ・み・つ。」
「、、、ぅぅー、、、なぁにぃ?、、、なぁーんか嬉しそうじゃん。何の曲なのぉ?」
「だから・・秘密だって言ってんだろ。」
 マサトは猫笑いをしながらも、イヤホンに手を添えて、じっと聞いている。
 表情から想像すると、仕事とも思えない。
「ぁーん、、、気になるじゃぁーん、、、」
 ミルクが手を伸ばしても、マサトがミルクの手を押さえてしまう。
 そして、
「うーん・・・実にいい声だぜ。・・・まったく、惚れるね。」
と、わざと気にさせるように言う。
「、、、ぅぅぅーッ、、、意地悪ぅぅぅ、、、」
「それより腹空いただろ?」
 ミルクはプンと膨れてマサトを睨んでいる。
「俺は空いちまったぜ。・・まだ、一回きりだったのに、二時間も寝てんだもんなぁ。暇で退屈で、仕方ねぇから、若松にこれを持ってこさせたんだ。・・前から聞いてみてぇと思ってたが・・いいねぇ。」
「、、、誰の曲かくらい、、教えてくれてもいいのにぃ、、、」
「晩飯を食ったら、教えてやるぜ。」
 マサトは可笑しそうに笑って、ベッドから起き上がった。
 ミルクはまだ気怠さが残っていたが、仕方なくマサトの後に従った。

 食事の間もマサトはずっとMDを聞いている。
 ミルクは、ふと不安になってしまう。
 マサトが望めば、相手が芸能人でも、きっと付き合えるだろう。
 野望の為に後ろ盾となるパトロンが欲しい人でなくとも、マサトはきっと魅力的で素敵に感じるだろう、と思う。
 ただでさえ感覚が完全には戻らず、ふわふわしているのに、不安な気持ちになって、ミルクは食事があまり進まない。
「ちゃんと食べねぇと、夏バテするぜ?」
「・・・・・だってぇ・・・・・」
 ミルクが泣きそうな顔でうつむく。
「あー・・・もぉ・・何勘違いしてんだよ。」
 マサトが苦笑して席から立ち上がると、
「ほら。これを聞いてたんだぜ。」
と、イヤホンをミルクの耳にかけた。
 少し聞いていたミルクの顔が赤らんでいく。
「あぁぁーッ・・・ダメぇぇぇッ!」
「なぁ?・・そー言うと思ったから、内緒にしたんだ。」
 マサトはイヤホンを取り返し、席に戻って座ると、ニヤニヤと笑った。
「やぁーん・・・恥ずかしいよぉ・・・」
「かなり評判が良かったらしいな、ラジオ放送。」
「ぅぅぅ・・・マサトには内緒だったのにぃ・・・」
「あちこちで評判を聞かされたら、内緒も何もねぇだろうが。」
「・・・怒ってる?」
「・・んー・・・本音を言えば・・・ちょっと面白くねぇ気分だぜ。・・・何でこんな可愛いお前を、みんなに見せつけるんだ、と言いたい。・・言いたい所だが・・頑張って寂しさを紛らわせていたんだろうし・・・みんながミルクに好感を持ってくれたのは嬉しい。・・って事で、怒らねぇよ。」
「・・・ごめん。」
「しっかし・・・マイクを通した声がこんなに可愛いとはなぁ。」
「え?・・声が違う?」
 放送をミルク自身は聞いてないので、どう違うのかわからない。
 それに、自分で聞こえる声と、相手に伝わる声は微妙に違うらしい。
「もちろん生の・・特にあの時のミルクの声は最高だが・・・それくれぇ可愛い声だぜ。聞いてるだけで、蛇が元気になってきちまったぜ。クックッ。」
「嘘ぉぉ・・・そんなつもりないよぉ・・・」
「あってたまるかッ。・・・にしてもなぁ・・・何で誰とも知らねぇ奴に、こんな声を出すんだ?」
 マサトが少し目を眇める。
「・・・そんなぁ・・・ただ・・・マサトとお話出来たらいいのになぁ、って思いながら話してたけどぉ・・・」
 マサトは、ん?、と表情を変えると、
「・・・そうか・・・わかった。」
と、頷きながら優しい声で言った。
「今回は、辛い思いをさせちまったしな。・・認めてやるが・・他では許さねぇぞ?いいな?」
「・・うん。」
 ミルクは恥ずかしそうに笑って頷いた。
 不安まじりの嫉妬が、自分に対してだったのだとわかって、ちょっぴり嬉しかった。
 自分でも全部は覚えてないだけに、どんなことを話したっけ、と恥ずかしさもあったが、聞いているマサトが楽しそうなので、取り敢えずホッしたミルクは、新鮮なシーフードサラダを頬張った。

<93>
「旅の終わり」
§93§「旅の終わり」

 回復の早いマサトは、足の怪我もテーピングだけで普通に歩けるようになった。
 それで、せっかくだからと、蛇窟島での最終日には、ミルクにスキューバダイビングを教えてくれた。
 水圧や水の抵抗を心配したが、マサトは潮の流れのきつい場所でも、イルカと競争して泳ぐほど自在に水中を泳いでいた。
 ミルクもマサトの補助や、よく訓練されたイルカに助けられて、初挑戦ながら海の中を楽しむことが出来た。
 色とりどりの熱帯魚や珊瑚礁、透き通った海水を透ける光の美しさは、何故かミルクに郷愁を感じさせた。
 ダイビングに慣れてくるにつれ、ミルクも魚と一体になって泳げるようになり、しなやかな体の動きは、人魚のようだ、と、一緒に潜っていた景山を喜ばせた。
 この日のダイビングには、夕方から浜辺で開かれるお祭りの時に、磯焼きにする食料の調達という使命もあった。
 途中でバテたミルクは船に上がって待っていたが、マサトはもちろん、景山も若松も本郷まで、潜っては、アワビ、ウニ、巨大エビ、カニ、ロブスターなど、次々と獲ってきた。

 こんなに獲っても食べきれないだろうと思うほど大漁だったが、白浜ビーチに行くと、島中の人々が集まったかと思うほど、大勢の人が集まっていた。
 マサト達がトラックに大漁の獲物を積んで浜に着くと、歓声で迎えられ、男達が手伝いに駆け付けた。
 磯焼き用の大きな金の網では、すでに色々な魚が焼かれて、香ばしい匂いが漂っていた。
 色々あって延期されていた祭だったので、子供達だけでなく大人も嬉しそうな笑顔だった。
 やぐらの上ではお囃子や太鼓が披露され、歌に合わせて踊る人達もいる。
 マサト達はお酒を飲みながら、磯焼きを仕切って配っていた。
 ビーチにはお祭りに付き物の屋台もちゃんと出ていて、子供達を喜ばせていた。
 ミルクも綿菓子やリンゴ飴を買ってきては、マサトの横にちょこんと座って、楽しそうに食べていた。
 宴もたけなわの頃、研究所から花火が打ち上げられた。
 海に上がる花火は、海面にも映って二重に煌めき、夢のように綺麗だった。

 花火が終わった所で、マサトはミルクを連れて研究所に戻った。
 それから、要塞で仕事があるからと出掛けて行った。
 残されたミルクは、明日の出立に備えた荷造りの確認をした後、テラスに出て月明かりが波に映る海を眺めた。
 一面に見渡せる海は、昼の明るい時と夜では表情が違う。
 表と闇の顔を持つマサトのようだ。
 夜の潮風は涼しかった。
 それでも、昼にはない優しさも感じる。
 怒り荒ぶる嵐の夜は、きっと生きた心地がしないほど恐ろしいのだろう。
 打ち付ける荒波や暴風雨に軋む木々が目に見えないだけに、得体の知れない恐怖に襲われるのかも知れない。
 けれど、静かな夜の海は、悲しいくらい優しく感じられた。

 どれくらい海を眺めていただろう。
 背中に暖かい風を感じた次の瞬間、大きな存在に背中から抱き包まれた。
「・・冷えるぜ?」
 ミルクの肩に顎を乗せ、頬を重ね合わせてマサトが囁く。
「、、ぁ、、、マサト?、、お仕事はもういいの?」
「後は景山に任せてきた。・・俺達は、バカンスを最後まで楽しまなきゃな。」
「、、、ぅん、、、」
「・・・ま・・色々あるが、自分自身がしっかりしてなきゃ、変動する世の中や激流のような時代の流れに負けちまう。強くなることも必要なことだが、それ以上に確固たる自分という存在を確立しなければ意味がないんだぜ。」
「、、、ぅ-、、、」
 ミルクには、時々マサトの言う意味が把握出来ない時がある。
「・・例えばだな・・・倒れて嘆く人がいるとする。・・ミルクなら、声を掛けたり一緒に泣いたりするだろう?」
「、、、ぅん、、、」
「俺は怒鳴ってでも立たせる。聞かなきゃ、引きずり起こす。そうやって立たせても自分で立つ意志がなきゃ、放り投げる。で、後は知らん。」
「、、、ぇ、、、」
「俺の意志は立たせるのが目的だった。だから力も貸してやった。それでも、本人に立つ意志がないなら、もう見捨てるしかねぇ。俺には他にも立たせなきゃならねぇものがあるからな。」
「、、、ぅん、、、」
「同情して一緒に動けなくなっちまったら、自分って存在が消えちまうぜ?・・時には非情になることも、俺には必要なんだ。」
「、、、ぅん、、、」
 マサトはそうかも知れない、とミルクは思う。
 自分の弱さは、動けなくなってしまうことなのかも知れない。
「、、、マサトって、、、やっぱ海みたい、、、」
 海はけっして優しいだけの存在ではない。
 多くの恵をもたらしながら、容赦なく命を奪うこともあるのだ。
 無謀に戦いを挑む者達をうち砕き、決まり事を破り不文律を犯す者達を叩きのめし、思い上がった侵略者に天誅を下す。
「・・・海は好きか?」
「、、うんッ。、、大好き。」
「そりゃ良かった。」
 マサトが唇をミルクの頬に撫でつける。
 ミルクは顔を向けて唇を触れ合わせた。
 ゆっくりと優しいキスを交わす。
 冷えた体にマサトの温もりが気持ち良かった。

「ここでしようぜ。」
 マサトが熱い息で囁き、スカートの中へ手を入れると、お尻からパンティの中へ手を滑り込ませた。
「、、、ぁん、、、」
 ミルクはテラスの手摺りに両手でしっかりとつかまる。
 お尻から前へと伸びてくる指が、花唇をとらえ、花弁を擦る。
「ぁ、、、ぁ、、、ん、、、」
 ミルクは軽く足を開いて、指が動かしやすいようにした。
 それに応えるように、マサトの指二本が蜜壺に侵入する。
 マサトは指をゆっくり掻き回し、蜜が指に絡まってくるのを待って、忙しく動かし始めた。
 クチュクチュクチュクチュ、、、
 潮騒に掻き消されながらも、淫靡な音が洩れてくる。
「ぁ、、ぁぁ、、、んん、、、」
 ミルクは顎を上げて後ろに仰け反る。
 前屈みになっているマサトの肩に、ミルクの頭が支えられる。
「気持ちいいか?」
「ぁぁ、、、ぅん、、、気持ちぃぃ、、、」
 マサトは指を巧みに回転させ、Gスポットや裏Gスポットを擦り続ける。
「ぁぁぁぁ、、、マサトぉぉ、、、漏れちゃうよぉぉ、、、」
 ミルクが切なそうに言うと、
「ククッ・・・じゃぁ、潮に潮を飛ばしてみるか。」
と、マサトはミルクのパンティを脱がせ、スカートを腰までたくし上げた。
 夜の闇とはいえ、月明かりにミルクの白い下半身が晒される。
 ミルクは片手でスカートが落ちないように持ち、片手は前に回されてミルクを支えるマサトの腕につかまった。
 小便小僧のようにお腹を突き出し、後ろに反った態勢で、開いた股間を後ろから責め続けられる。
 クチュクチュッ、、チュプチュプッ、、
 忙しく指を動かし、膣壁を擦り続ける音が、はっきりと聞こえる。
「ぁぁぁん、、、ホントに漏れちゃうぅぅ、、、」
「いいぜ。・・思い切り飛ばしてみろ。」
「、、ぅん、、、ぁぅぅぅ、、、ぁぁぁぁぁ、、、あぁぁッ、、、」
 ピュッ、、、ピュピュッ、、、ピュゥゥーッ、、ピュゥゥゥーッ、、、
 月明かりに光ながら、勢い良く潮が噴き出した。
 ミルクはエクスタシーに足をガクガク震わせる。
 マサトはしっかり体を支えてやりながら、
「いい子だ。・・・綺麗だぜぇ。」
と、囁いてキスを繰り返した。

 上り詰めた快感と開放感に、ミルクはぐったりと手摺りに寄り掛かり、目を閉じて荒い息をしていた。
 マサトは片腕で足に力の入らないミルクを支え、もう一方でズボンの前をはだけた。
 ズボンがマサトの足首まで落ちて、ミルクは閉じていた目を開けた。
「俺もミルクの中に飛ばすぜ。」
「、、ハァハァ、、、ぁ、、ぅん、、、」
 ミルクは息を整えるように唾を飲み、足に力を入れて立つと、手摺りにつかまってお尻を突き出した。
 最近、ミルクはセックスに対して従順になっていた。
 恥ずかしさはまだ消えていなかったが、それよりも、マサトに抱かれる喜びを素直に受け容れたかった。
 明るい月明かりに、形のいい丸いお尻が白く輝いている。
 マサトは掌で愛しそうに撫で回してから、首を伸ばしている蛇頭を、可愛い割れ目にめり込ませた。
 ズブズブズブゥッ、、、
 柔らかくこね回された蜜壺が、肉襞をうねらせながら蛇を受け入れる。
「ぁぁぁぁ、、、ぁぁん、、、熱くて、、トロけそぉぉ、、、」
 ミルクのお尻がたまらなそうに震える。
「はぁぁ・・・俺もたまらねぇぜぇ・・・」
 マサトは腰を打ち付けるように動かしている。
 肌をぶつけて奥まで突き上げる度に、ミルクの体が前のめりになり、抜き出す時に後ろへ引かれる。
 その速度が速くなっていくと、スカートもヒラヒラとなびいた。
「・・まるで月明かりのダンスだな。」
 マサトはこの構図を楽しむように眺め、腰を動かし続けながら言った。
 そして、
「もっと大胆にしようぜ。」
と、思いついたように言うと、ミルクのワンピースを脱がせにかかった。
「、、ぇ、、、ぁ、、、」
 ミルクは剥き取られるようにして服を脱がされ、完全な裸体を晒け出した。
 海から覗く人はいないだろう。
 そうは思ってもどこかから、テラスを覗く人がいるかも知れない。
 我慢出来ずによがり声をあげているのだから、聞きつけて上を見上げる人がいないとは言い切れなかった。
 見上げてテラスに見えるのは、闇に白く浮かび上がるミルクの姿なのだ。
 全裸で手摺りにつかまり、両足を開いてお尻を突き出している姿は、余りにもはしたない。
 はしたないことは百も承知で、ミルクは海風に嬲られる体が気持ち良かった。
「最高に綺麗だぜ。・・俺のビーナス。」
 マサトが熱い掌で肌を撫で回す。
 前にも手を伸ばし、ふっくらと熟れた乳房を愛撫する。
「ぁぁん、、、マサトぉ、、、」
 ミルクは目を閉じて、快感に神経を集中させて、羞恥心に耐えた。
 マサトの動きは、激しさを増していき、胸が前後に大きく揺れる。
「あぁぁぁ・・・気持ちいいぜぇ・・・」
「ぁぁぁぁぁ、、、ミルもぉぉ、、、気持ちいぃぃぃ、、、」
「このまま・・朝日が昇るまで繋がっていてぇ・・」
「、、、ぁぅぅ、、、マサトの好きに、、、してぇぇ、、、」
 ミルクは快感に悶え、足を震わせながら健気に答える。
「ククッ。・・可愛いことを・・・けど無茶してテラスから転がってもヤバイしな・・・」
 マサトは腰をつかむと、
「一気にいくぜぇぇッ。」
と、小刻みに腰を叩き付けだした。
「あっぁぁぁ、、、ぁぁぁん、、、あぁぁぁぁぁ、、、」
 パンパンパンパンッ、、、ズンズンズンズンッ、、、
 ビッチュッビッチュッビッチュッビッチュッ、、、
「はぅぅ・・・よしッ・・いくぜッ・・・あぁ・・・うぅぅぅ・・・あぁぁっくぅぅッ・・・」
 マサトの激情が白濁液となって撃ち込まれた。
 発射された精子群が勢い良く飛び出して子宮を目指す。
 マサトの全身に甘い陶酔が広がっていく。
「はぁはぁ・・・最高だったぜ・・・」
 マサトはまだ繋がったまま、ミルクを抱き起こし、背中から両腕で抱き締めた。
「・・今夜も・・・めちゃめちゃ可愛かったな・・・」
 一緒に絶頂に達したミルクは体を痙攣させている。
 言葉も出ない様子に、
「よしよし。・・ベッドに行こうな。」
とあやすように言ったマサトは、そっと蛇竿を抜き出して、ミルクを抱き上げた。

 この夜は、更にベッドでたっぷりと時間をかけて抱かれ続け、白々と空と海が明るくなるまで、ミルクのよがり声が続いた。
 そして朝、気怠さが残るまま眠りから起こされて、旅立ちの支度を促された。
 来た時と同じく、研究所の所長他数名に見送られ、飛行場へと向かった。
 特にイベントもなく、普通に飛行機に搭乗したが、飛行機が飛び立った時、ビーチで手を振る人達の姿に気が付いた。
 手を振り返す間もない一瞬だったが、ミルクは暖かい気持ちに包まれ、蛇窟島を離れる寂しさに胸がキュンと切なくなった。
「・・また・・来れる?」
 ミルクがマサトの胸に顔を埋めて聞く。
「当たり前じゃねぇか。あの島は俺の城。・・そして第二の故郷。・・いつだって帰って来れるぜ。」
 帰る、と言う言葉が嬉しかった。
「・・うん。」
 ミルクは滲んだ涙をマサトの服で拭って、笑みを浮かべて頷いた。

 何度か飛行機を乗り換え、イギリスで日本行きの便を待つ間、けっこう時間があったので、パリで買うはずだった友達へのお土産を買い求めることにした。
 気持ちが急いて、誰にどれを、と選ぶ余裕がなく、益々パニックになったミルクに、
「取り敢えず、必要と思う数より多目に買っておけば、間違いはねぇだろ。」
と言われ、仕方なくお金の足りない分は出して貰って、あれこれと買い集め、時間ギリギリに空港へと戻った。
 飛び立った飛行機の中で、ようやく安堵の息を吐いたミルクは、遠離る街を眺めながら、この飛行機が再び地面に着く時は、もう日本なんだなぁ、と不思議な感慨に包まれた。
 長かったような、過ぎてみれば早かったような、色々な思い出が詰まった旅行だったな、と思う。
 一番楽しかった蛇窟島のことは誰にも話せないが、マサトとの絆が深まった日々は、大切な思い出として心に刻まれている。
 予定が少し延びて、帰ったらバカンス気分が抜けない内に、いつもの高校生活が始まりそうだ。
 普段の生活とはあまりにもかけ離れた旅だっただけに、現実感覚を戻すのは、時差ボケを直すより大変に思えた。
 ミルクが窓の外を眺めながら何度か溜息を吐くので、
「どうした?」
と、マサトが聞いた。
「・・・ぅん。・・・旅が終わるなぁ、って思ったら・・・何だか寂しくなっちゃった。」
「クックッ。終わりじゃないぜ。・・・俺達の旅は一歩を踏み出したばかりなんだぜ?」
「・・・ぇ・・・」
「俺達・・ミルクと俺の旅は、始まったばかりだろ?」
「・・ぁ・・・うん。」
 ミルクは頬を染めて、嬉しそうな笑みを浮かべて頷いた。
「ずっと、手を繋いで行こうな?」
「うん。」
 マサトも満足そうに微笑み、ミルクの髪を撫でると、唇を重ねた。
 愛し合う二人の甘いキスは、思い出を振り返るように、いつまでも離れそうになかった。

<94>
「帰国」
§94§「帰国」

 飛行機が日本に到着したのは、日も暮れた夜だった。
 マサトは景山達と空港で別れて、ミルクを自宅まで送ることにしたが、マサトの足がまだテーピングで固定しているのを心配した景山の指示で、若松も一緒についてきた。
「若松さん、まだ落ち込んでるのぉ?」
「え・・あ・・いいえ。」
「なぁーんか、暗い影背負っちゃってるよぉ。」
 ミルクは後部座席でマサトにもたれながら、クスクス笑った。
「・・・そんなことは、ありません。」
 若松は助手席で、前を向いたまま答えた。
 マサトの怪我を景山に責められただけでなく、若松自身に自分を責める気持ちが強く、蛇窟島に戻ってからは、時間があれば訓練所で自分を虐めるように鍛えていたのだ。
 マサトは、「不可抗力だから自分を責めるな。」、と言ったのだが、それでもそうしなければいられないほど、マサトの怪我が若松にはショックだったらしい。
 常に危険と隣り合わせの生き方をしているのだから、マサトが怪我をすることも珍しくないのではないか、とミルクは思っていたが、鍛え上げられた頑丈で機敏な肉体に、緻密な計算と冷静な判断による絶対的確信によって、危険を回避しているという。
 けれど、敵が目の前にいれば、”盾になって守る”と決意している若松が身代わりになることも出来るだろうが、秘密基地を急襲されたのでは、どうすることも出来ない。
 しかも、心を閉ざした指導者は、マサト以外の外部の人間が同席することを嫌っていた為、若松はその場にいることさえ出来なかったのだ。
 それでも、不可抗力ではあっても、味方の陣地内だという過信を、若松は悔しがっていた。
 側についてさえいれば、咄嗟にでもマサトの体を覆って守れたのではないか、と自分を責めていた。
 同志のフリをして入り込んだのか、同志だったのに裏切ったのか、”裏切り”という卑劣で醜い行為は、ミルクでも憤りを感じる。
 どんな事でも、大きな事を成そういう時には、味方の協力者が必要だし、味方を信じなければ計画は進まない。
 だが、どんなに緻密に計算された計画でも、”裏切り”によって全てを潰されることもあるのだ。
 マサトが裏切り者を許さない気持ちが、今回のことで、ミルクにも少しはわかった気がする。

「・・でも・・・ホント・・・誰のせいでなくても・・・マサトが怪我するのは嫌・・・」
 ミルクはマサトの胸に顔を押しつけて呟いた。
「それを言いたいのは、俺の方だぜ。」
 マサトはミルクの髪を撫でて言った。
「俺は用心深いし、充分気を付けているが、お前は自分に対して無頓着過ぎるぞ。・・24時間側に貼り付いて守ってやるのは、誰にも出来ねぇんだぜ?」
「・・・ぅん・・・ごめんなさい・・・」
 ミルクは、やぶ蛇ぃ、とばかりに顔をマサトのスーツに擦りつけた。
 飛行機の中で着替えたマサトのスーツからは、爽やかなシトラス系の香りがする。
 それはそれで好きな香りだったが、ミルクにはマサトのムンとする体臭が恋しかった。
 ミルク自身に自覚はないが、マサトの血生臭い汗の匂いが、ミルクの淫魔を呼び起こすのだ。
 だから、離れている時ほど、マサトの匂いが恋しかった。
 今日からは、また別々の夜を過ごすようになる。
 旅の間もずっと一緒にいられたわけではなかったし、束の間ではあったが、延期した数日が楽しく幸せな時間だっただけに、離れるのが辛かった。
 何となくマサトのワイシャツのボタンを弄っていたミルクは、無意識にボタンを外し、手を滑り込ませていた。
 直接触れるマサトの肌の温かさが、エアコンの効いている車内で気持ち良かった。
 胸に彫り込まれた蛇を探して、肌を撫で回す。
 触れてわかるものでもなかったけれど、脳裏にはマサトの蛇が鮮明に浮かび上がっていた。
 無心に撫で回す内に、マサトの乳首に指が触れ、ミルクは指先で転がして遊び始めた。
「クックックッ。・・今日は立場が逆になるなぁ。・・ん?」
 くすぐったさに堪りかねたマサトが、喉を震わせて笑いながら言った。
 それで、ハッ、としたミルクだったが、そのまま手を肌に触れていた。
「・・だって・・・離れるの・・寂しい・・・」
「ミルクが一緒にいたいなら、一緒にいればいい。家の方には荷物とお土産だけ置いてな。」
 マサトもミルクを手放したくなかった。
「・・明後日が始業式だもんなぁ・・・」
「朝、ちゃんと送ってやるぜ?」
「・・ぅん・・・」
 ミルクは切なそうに顔を擦り付け、顎を上げた。
 マサトがミルクを抱き締めてキスをする。
 キスに応えるミルクの手が、マサトの脇に伸びる。
 それほど毛深くないマサトでも、脇毛と陰毛はそれなりにあった。
 空港の人混みで汗ばんだ脇毛は、少し湿っぽかった。
 ミルクが指先で脇毛を弄っていると、マサトが唇を触れたまま、
「ぅ・・こら・・くすぐったいぞ・・」
と、熱い息で囁いた。
「・・ぅー・・・たまにはいいじゃぁーん・・・」
 ミルクは頬を膨らませてそう言ったが、家が近くなったので、諦めたように手をワイシャツの中から引き抜いた。
 指先についた汗の匂いを嗅ぐ。
 マサト特有の匂いに、股間の奥が、キュン、と疼いた。
 ミルクの表情から、ミルクが疼いていることを察したマサトも、ムラムラの限界を越えていた。
 さっきからのミルクの甘える仕草に、蛇が思い切りズボンを押し上げていたのだ。
「木下。」
 マサトが運転手に声を掛けた。
「ぁ・・はい。」
 なるべく後ろを見ないで意識しないようにしていた運転手は、ビクッ、として返事をした。
「一時間、遠回りしろ。」
「・・は?」
 意味がわからず首を傾げた運転手に、
「アリス様のご自宅への到着時間を、一時間遅らせろ、と仰っておられるんだ。」
と、若松が叱るように言う。
「あ・・は、はい。畏まりました。」
 運転手はようやく理解して、前を向いたまま頭を下げた。

 マサトはスイッチを押して、後部座席と前との仕切を上げた。
 密室になった空間でミルクを抱き寄せる。
 ミルクにもマサトの望んでいることがわかり、急に羞恥心が込み上げてきたが、それ以上にミルクもマサトが欲しかった。
 長く日本を離れていたマサトには、急務が山積みに違いない。
 マサトの所に泊まればいい、と言ってくれてはいるが、ミルクが眠ってから一晩中、組織の方の仕事に掛かり切りになってしまうのが、目に見えていた。
 明日は明日で、会社の方が忙しいに決まっている。
 ミルクも荷物を解いて整理する間もなく、明後日からの用意もしなければならないし、いつも通りの日常が戻るということは、門限も夜7時というのが復活することになる。
 マサトに会いたくても、会えないことが多くなるだろう。
 別々の寝場所に別れる前に、マサトの熱で心を温めておきたかった。
 マサトがズボンとトランクスを下げると、マサトに言われる前に、ミルクが自分から頭を屈めて、伸び上がった蛇をしゃぶり始めた。
「ククッ。・・可愛くて、堪んねぇぜぇ・・」
 マサトは腰を前にずらした。
 ミルクは、蛇竿の根元を指で扱き上げながら、頬張った口で吸い上げながら擦る。
 シュボッシュボッシュボッ、、、
 気持ちが急いているせいか、いつもよりピッチが早い。
「はぁぁ・・・そんなに頑張ると、先にいっちまうぜ?」
「、、、ぇ-、、、ゃぁ、、、」
 ミルクがヨダレにまみれた顔を上げる。
「じゃぁ、パンティ脱いで、ここに座るか?」
「、、ぅん、、座るぅ、、、」
 ミルクはパンティを脱いで、座席の脇に置くと、スカートをたくしあげてマサトを跨いだ。
 広めの車内とはいえ、体を真っ直ぐに立てる高さはなく、前屈みになったミルクは、前の座席との仕切りギリギリに顔を近付け、マサトの前にお尻を突き出した。
 薄く透ける仕切ガラスから若松の横顔が間近に見える。
 おそらく向こうからは見えない仕組みになっているのだろうが、淫らな息遣いを聞かれそうで恥ずかしくなった。
「、、マサトぉ、、、早く入れてぇ、、、」
 ミルクの膣口を蜜壺から溢れる蜜で柔らかく解していたマサトは、
「・・ちょい、待て・・」
と言って、蛇頭を花唇に押し当てると、
「いいぜ。・・ゆっくり座ってこい。」
と、ミルクの腰を支えてやった。
 ミルクは前屈みで蛇を蜜壺に飲み込ませながら腰を下げていった。
 ズブリッ、、ズブズブズブゥッ、、、
「ぁぁぁ、、、ぁぁ、、、んー、、、」
 蛇の胴体を根元まで、体の中に包み込んでから、背中をマサトに寄り掛からせた。
「気持ちいいか?」
「ぅん、、、最高ぉ、、、」
「・・また、ワンピース・・脱いじまおうぜ?」
「、、ぅん、、、」
「よしよし。・・随分いい子になったな。ククッ。」
 マサトは、背中のファスナーを下げ、ミルクのワンピースを脱がせた。
 そして、ネクタイピンでミルクの肌を傷付けないようにネクタイを外し、ワイシャツの前をはだけてミルクの背中と肌を合わせてやった。
「あぁぁ、、、気持ちぃぃぃ、、、」
 ミルクは大股を開いて繋がっている体を反らせて身悶える。
 マサトはミルクの両脇から手を前に回して、胸を包むようにして揉む。
「ぁ、、ぁ、、、ぁぁん、、、」
 ミルクは感じて堪らず、腰を震わせた。
 自分から尻を密着して回転させ、腰をうねらせて快感を貪る。
 まだ肉付きが足らない華奢な手足をし、幼さを残した顔立ちの少女人形。
 全身が性感帯のように敏感で、欲望に従順な性奴隷の抱き人形。
 車内で裸体をくねらせ、歓喜のよがり声をあげる少女を見たら、そう思ってしまう人もいるだろう。
 妖艶さとあどけなさが融和して、猛烈な欲望をそそらせる魅惑の表情をしている。
 金に糸目を付けずに手に入れたい、と上流階級の男共が洩らすのも、無理はないとマサトも思う。
 自分から離れられないようにしたいと願った結果だが、逆に男が惹き付けられて離れられなくなる魅力を醸し出すようになってしまった。
 内在する天性の魔性なのだろうが、幼さを残して魔性が花開いてしまったことで、一層妖しい魅力となっていた。
 これだけ素直に自分を求めてくれれば、マサトとしても満足ではあったが、前以上に危なくて目が離せなくなってしまった。

 マサトがそんなことを思いながら、触れるだけでゾクゾク感じてしまうミルクの肌を、撫で回している間も、ミルクは自ら腰をホッピングさせて、肉襞で蛇竿を扱き上げている。
 きつすぎない締め付けで蛇を巧みに捕らえて離さず、感じて堪らないとばかりに甘い声でよがる。
「あぁ・・・可愛いぜ、ミルク・・・」
「、、ぅぅ、、、ぁふん、、、マサトぉ、、、感じるぅぅ、、、」
「俺も・・ビンビンに感じてるぜ・・・うぅぅ・・・」
「ぁぁん、、、めちゃめちゃ気持ちいいよぉ、、、」
 ミルクは仰け反った頭をマサトの肩に乗せ、甘えてマサトの顎にキスをする。
 マサトが応えるように、肩越しにミルクの唇と唇を重ねる。
 舌を絡めたくてミルクが舌を伸ばすが、背中からでは上手く絡ませることが出来なかった。
「、、ぁん、、、マサトぉ、、、そっち向いていい?」
「ん?・・あぁ、いいぜ。・・一度抜くか?」
「うん、、、」
 ミルクは腰を上げ、蛇をズルズルッ、、と抜き出した。
 それから靴を脱いで、マサトの方に向きを変え、膝を立ててマサトの股を跨ぐと、首に腕を回してつかまりながら、脈打って待ちかねている蛇を、再び蜜壺に誘った。
 ズブゥ、、ズブズブズブゥッ、、、
「あぁぁぁぁ、、、んっんーッ、、、やっぱ、この方が嬉しいかもぉ、、、」
 ミルクは、マサトの首にしっかりとつかまって、思い切り仰け反った。
 一糸纏わぬ姿を恥ずかしげもなく晒し、膝を立て小刻みに上下し、自分で擦って快感によがる姿を、”小悪魔”のようだ、と思ってしまったマサトが、苦笑した。
「、、ぁぅ、、、なぁにぃぃ?」
 マサトに笑われたミルクが、唇を尖らせて上目遣いに睨む。
 その表情が殊更に”小悪魔”的雰囲気を出していて、妙に可愛いので、マサトは笑うまいとしても口元が綻んできてしまう。
 ミルクは益々拗ねたように唇を尖らせる。
「ククッ。・・ぁ・・ぃゃ・・その内、ミルクの耳が尖ってきて、先っぽが尖ったシッポが生えてきそうだな、と・・・想像したら・・な。」
「、、、先っぽが尖ったシッポぉ、、、?」
「まぁ、普通は黒いのが定番だが・・ミルクのシッポは真っ白かもな。クックックッ。」
「、、、黒くてぇ?、、、尖ったシッポぉ?、、、あーッ、、悪魔ぁ?!」
「いや。そこまで大物じゃねぇな。・・だから、小悪魔ってとこか・・・」
「、、、ぅぅぅー、、、いいもんッ。、、ミルが小悪魔なら、マサトの血ぃ吸ぅたるぅぅッ。」
 ミルクは、マサトの首筋に噛みつくようにキスをした。
 マサトの首に、チリチリとしたむず痒い痛みが走る。
 どうやら本気で吸い付いているらしい。
 マサトは益々可笑しくなって、喉を震わせた。
「フルーツバットでさえ怖がって、食べれないくせに・・」
 ミルクが喋っているマサトの口を塞ぐようにキスをした。
 吸いながら大胆に舌を絡めてくる。
 マサトの背骨を中心にした全身に、電撃が走り抜ける。
 まさに痺れる快感だった。
「・・・ぁぁ・・・お前に・・・ぞっこんだぜ・・・」
 マサトも舌を絡ませ、喘ぐように声を洩らす。
 人形などと高を括ると、魂を吸い取られてしまう。
 天使の羽の生えた、角とシッポが白い小悪魔。
 マサトは、ミルクの新しい魅力を見出して、心が熱くトロけそうになっていた。

 足と背中で腰を浮かせるように動かし、激しくミルクを突き上げてやって、ミルクがいくのに合わせてマサトも戒めを解き放った。
 車に常備されているウェットティシュで、ミルクの体を拭いてやり、脱がせたワンピースを着せた。
「・・ミルク・・・大丈夫か?」
「、、、ぁ、、、ぅ、、ん、、、」
 トロン、、と甘い陶酔から覚めきらない顔で、ミルクは小さく答えた。
「パンティ・・そっちだろ?・・・履けるか?」
「、、、ん、、、」
 ミルクは気怠い動作でゆっくりとパンティを履いた。
 マサトも身支度を整え、キッチリとネクタイを締めると、乱れた髪を直した。
「、、、ミルもぉ、、、」
 そう言ってマサトにくったりともたれてしまうので、
「こらこら・・・それじゃ、梳かせねぇだろうが・・・」
と言って、体を支えながらミルクの髪を梳かしてやった。
 意識を現実に戻させようと、敢えて素っ気なく話してはいるが、込み上げる愛しさに抱き締めたくなる。
 何故、これほど愛している存在を、一時的とはいえ、手放さなければならないのだ、と怒りが沸々と湧いてくる。
 自らの暴れ出しそうな凶暴性を落ち着かせる為にも、素っ気なくするしかなかった。
 それでも、運転手にミルクの家へ向かうように告げてから、家に着くまで、ずっと手を繋いでいた。

「ただいまぁ・・・」
 ミルクが玄関を開けて言った時には、車が停まったのに気付いた母親が、出迎えに玄関まで来ていた。
「お帰りなさい。・・あらあら・・・」
 ミルクは挨拶をしたまま玄関の上がり口に座り込んでしまった。
「・・・疲れたぁ・・・」
「まぁまぁ・・・」
 母親が戸惑っていると、
「遅くなって済みません。・・荷物が多くて、入国手続きに手間取ってしまいまして・・」
と、マサトが庇うように言った。
 そして、ミルクの荷物や大量のお土産を若松と運転手に運ばせ、
「旅行のご報告をしようと思っておりましたが、長旅でミルクも疲れているようですし、それはまた日を改めて伺った時にさせて頂きます。・・今日は早めに寝かせてやって下さい。・・仕事の都合で日程が延び、帰国が遅れて大変申し訳なく思っております。・・しばらく時差ボケや体調の変調などがあるでしょうから、ミルクのこと、どうかよろしくお願いします。」
と、頭を下げて詫びた。
「あらぁ・・クスクスッ・・ミルちゃんの保護者がマサトさんに移ってしまったかしら・・・」
 母親は思わず可笑しそうに笑った。
「あ・・・済みません。・・実は、ヨーロッパでは、私の妻として知人に紹介していたので・・すっかりそうした意識になってしまいました。」
「フフッ。嬉しいことですわ。・・ねぇ、ミルちゃん?」
 声を掛けられたミルクは、眠そうに目を閉じて項垂れている。
 マサトが膝を折って屈み込む。
「ミルク・・家に着いたんだぞ?・・・大丈夫か?・・・二階まで抱っこしてやろうか?」
 マサトは優しい声で呼び掛け、頬を掌で撫でる。
 本当に愛されている娘に、母親まで嬉しくなり、頬を赤らめて目を細める。
「・・大丈夫ぅ・・・」
 ミルクは立ち上がって靴を脱ぎ、家に上がった。
 けれど荷物を運ぶ気力もなく、
「お休みなさい・・マサト・・・」
と、何処か寂しそうに言うと、二階へ上がって行ってしまった。
「まぁ・・・色々お世話になったのに・・・済みません。」
 母親が自分の躾を詫びるように頭を下げた。
「いいえ、母上殿。・・私の知人は皆、ミルクのファンになってしまったようです。どうぞ、遠慮なく自慢してやって下さい。・・本当に素晴らしいお嬢様です。」
 マサトの言葉に、母親は目を見開き、感激して涙ぐんだ。
「では、また改めてお邪魔致しますので、今夜はこれで失礼致します。」
「・・ありがとうございます。・・お世話になりました。」
 母親は正座して深々とお辞儀をして、マサトを見送った。

 自分の部屋に上がり、懐かしいベッドに倒れ込んだミルクは、しばらく目を閉じて懐かしい空間と匂いに浸っていた。
 母親がゼリーとケーキに紅茶を添えて、様子を見がてら持ってきてくれた。
「んー・・・美味しいぃ・・・ママのケーキがやっぱ最高ぉ。」
「そぉかしらぁ・・・」
「うん。・・・ぁ・・でも、あまりケーキ自体、食べなかったけどぉ・・・」
「あら・・・そうなの?」
「だってぇ・・・すっごく甘いんだもん。やっぱ、日本人には日本人にあったケーキが一番みたいだよ。」
「・・ふぅん・・フフッ。そう言って貰えると、何だか嬉しくなっちゃうわね。」
 母親は、ケーキを食べる娘の笑顔が少しも変わっていないことで、内心ホッとしていた。
 玄関を開けて入ってきた時には、大人の色香を纏っているようで、どう声を掛けたらいいのか、一瞬迷ったほどだった。
 そして、娘が遠くへ行ってしまうような寂しさがよぎった。
 いつかはそうした時も来るのだろうが、もう少し甘えん坊のままの娘でいて欲しかった。
「・・ぁ・・ねぇ・・お兄ちゃんは?」
「今日は塾の日よ。でも、もうじき帰るでしょう。」
「そっか・・・お土産、開けるの・・・明日でいいかなぁ・・・」
「もちろんよ。・・明日の楽しみにするわ。今夜は早く休んで、疲れを取らなきゃね?」
「・・ぅん。・・・でも、ケーキで元気が出たから、お風呂入ろぉっと。」
「そう?」
「うん。」
 ミルクは娘の顔に戻って、無邪気な笑みを浮かべて頷いた。

 ミルクがお風呂から上がると、ダイニングで母親と話していたミツルが、いつもと変わらない調子で、
「お帰り。」
と言った。
「ただいまぁ。・・・ってか、もうちょっと感激して迎えてくれない?」
「あ?」
 ミツルは機嫌が悪そうに、片眉を上げる。
「・・・ぅ・・・いいよ、もぉ・・・」
 部活動と受験勉強で、夏休みが終わったミツルには、まだバカンス気分のミルクがうざいのだろうか。
 ミルクは拗ねたように溜息を吐いて、冷蔵庫から水のペットボトルを出して飲む。
 ふと、剣道はどうなったのか気になり、
「そー言えば、お兄ちゃん、剣道はどうだった?」
と聞いた。
「・・ついでに聞くな。・・・全国制覇したぜ。」
 ミルクは飲みかけた水に咽せそうになり、
「・・ぅッ・・ケホッ・・・凄いじゃぁーんッ!」
と、叫んだ。
「あぁー・・・見たかったなぁ。・・・小百合さん、応援に行った?」
「・・・来てたようだな。」
「へぇ・・・ふふふっ。」
「何だよ?」
「きっと、感激して、益々お兄ちゃんのファンになっちゃっただろうなぁ。」
「・・・知るか。」
「おめでとうッ!お兄ちゃんッ!」
「・・・サンキュ。・・・まぁ、いいから・・もう寝ろ。疲れてんだろ?」
 ミツルは、機嫌の悪さは変わらないものの、ミルクの体調を気遣っているようだった。
「・・うん。・・・お土産は明日あげるね。」
「ああ。・・お休み。」
「お休みなさい。・・お兄ちゃん、ママ。」
「はい。お休みなさい。・・風邪、引かないようにね。」
「はーい。」
 静かに微笑む母親に、ミルクは手を振って、水を持って二階へと上がった。

 ふわふわと足が地に着かない奇妙な違和感があって、ミルクはベッドに入った途端に眠気に襲われた。
 それでも香織に明日お土産を渡そうと思い、携帯を手にしていた。
 もう遅い時間だったので、寝ている可能性もあり、電話ではなくメールを送ることにした。
∈香織ぃー!ただいまぁー!帰ってきたよぉー!・・・予定が狂って遅くなりましたぁ。どう?元気してる?・・・明日、お土産渡したいんだけど、予定空いてたら、美佳と家に来てぇ?・・はぅ・・眠いや・・・お休みぃー☆∋
 閉じかけた目で送信すると、ミルクは携帯を握ったまま睡魔に引き込まれた。
 意識がなくなりかける寸前に、メールの着信があった。
 片目をどうにかこじ開けて、メールを開く。
―∈お帰り、ミルク。旅行は楽しかった?・・・眠い時にごめんね。・・・帰ったばかりで疲れてるだろうし、今夜、話すことじゃないかも知れないけど・・・美佳ねぇ・・・亡くなったの。・・・だから、明日は私だけで行くね。・・お土産より、今はミルクに会いたいよ。ミルクの顔を見たいよ。ミルクと一緒に泣きたい。・・・ごめん。また明日ね。お休み☆∋―
 ・・・美佳が・・・?!
 ミルクは一瞬息が止まった。
 ガバッ、と起き上がり、もう一度メールを読み返す。
 全身が凍り付きそうなほど寒く、体がガタガタ震える。
 信じられなかった。
 一体どういうことなのだろう。
 聞き返そうとメールを打ち始めたが、指が硬直して動かない。
 ミルクはメールをやめて、電話を掛けた。
―「ミルク?」
 香織の悲しげな声がすぐに聞こえた。
「嘘でしょう?・・・ねぇ?・・そんなの嘘でしょう?」
―「私だって・・嘘だって思いたかったよぉ・・・」
 香織はそう言うと、泣き出していた。
 その泣き声が、事実だと告げている。
「それって・・いつッ?・・何でぇッ?・・どーしてそーなるのぉッ?」
―「・・よくわかんないの。・・・私もわかんないから、知りたくて色んな記事とか見たんだけど・・・それでも信じられなくて・・・」
 ミルクはガタガタ震えながら携帯を耳にあてていた。
 一体美佳に何があったのだろう。
「・・香織・・・今からそっちに行っていい?」
―「え・・いいけど・・・でも、いいの?」
「うん。すぐに支度して、行くから。」
―「わかった。家の前で待ってる。」
「うん。」
 ミルクは一端通話を切ると、ベッドから起き出し、急いでナイティから服に着替えた。

<95>
「自我の連鎖」
§95§「自我の連鎖」

 服に着替えたミルクが、階段を駆け下りてくると、
「まぁ、ミルちゃん。どうしたの?」
と、母親が驚いた顔で奥から顔を出した。
「ママッ。美佳が・・」
 ミルクの言葉に母親の表情が変わる。
 そこに腰にタオルを巻いただけのミツルも、風呂場から飛び出してきた。
「ミルクッ。もう、夜中だぞ。」
「だって・・美佳が・・・とにかく、香織の所に行ってくるぅ。」
 ミルクは玄関で靴を履こうとする。
「待てよ。明日でもいいだろ?」
「そうよ、ミルちゃん。明日になさい。」
「明日までなんて待てないよぉ。・・それにもう香織が外で待ってるから・・」
「だったら俺も行くから、服を着て来るまでそこにいろ。」
「何でお兄ちゃんが・・」
「夜中に女一人で出歩かせられるかッ。いいな、待ってろよ?」
 ミツルはそう言って、二階へと駆け上がって行った。
 その後ろ姿を見送った母親が溜息を吐く。
「ハァァ・・・やっぱり、ミルちゃんに話しておいた方が良かったのかしら。」
「そうだよ。何で教えてくれなかったの?」
 咎めるように言ったミルクは、靴を履いたものの、出るに出られず、足元から這い上がってくる悪寒に震えている。
「・・でも、疲れてるみたいだったし・・せっかく帰ったばかりなのに、悲しい話を聞かせたくなかったのよ。」
 母親は頬に手を当てて、目を伏せた。
 自分の気持ちがザワザワするせいで、気遣ってくれていた母親を詰ってしまったことを、ミルクは反省した。
「・・ママ・・・ごめん。」
 そう言って、今度は、
「・・・それで、ママはどうしてか知ってるの?」
と、美佳のことを聞いてみた。
 半年前まで同級生で、よく遊びに来ていた美佳のことを、気にしていないはずがなかった。
 だが、子供同士ほど親同士の交流はなかった。
「詳しくはわからないけど、自殺だとは聞いてるわ。」
「自殺ぅッ?!」
 ミルクは益々わからなくなっていた。
 けれど、母親にわかっているのは、それくらいなのだろう。
 元々、近所でうわさ話をするタイプではなかった。
 ミルクは悪寒が止まらず、震える足で足踏みしながら、ミツルを待っていた。
 ミツルはすぐに服を着て玄関に戻ってきたが、待つ時間がミルクには長く感じられた。
 そして、ミツルの自転車の後ろに乗り、香織の家に向かう間も、目眩がするほど長い距離に思えた。
 ミツルは、肩につかまるミルクの手が震え続けているのに気付き、胸が痛くなりながらペダルを漕いだ。

 香織は門の所で、自分で両腕を抱くようにして待っていた。
 ミツルが一緒に来たことに戸惑っていたが、
「今夜はボディーガードもいないし、夜は危ないからな。」
とミツルが説明したので、
「あ、そうか。そうだよね。」
と、納得したように頷くと、ミツルも二階の香織の部屋へと招き入れた。
 そして、
「ミルクは日本にいなかったから、けっこう騒ぎになったのを知らないでしょう?」
と切り出した。
「え・・騒ぎ?」
「事件絡みだったから、TVのワイドショーでも取り上げたくらいで、この辺まで取材記者がうろついていたの。」
「そのついでのようにウチまで覗きに来るから、また母さんが外に出られなくなって、けっこう大変だったんだぜ。」
 香織の話にミツルも説明を加えた。
「そうだったのぉ?!」
 ミルクは目を丸くしてから、うるうると潤ませながら視線を彷徨わせた。
「だから、神経を病むくらいなら、少し家を離れた方がいい、って・・・あいつに勧められたらしくて、一週間ほどホテル泊まり。俺も道場の宿舎に間借りさせて貰ってたんだ。」
 あいつ、というのは高藤だろう。
「・・・それで機嫌悪かったんだ・・・」
「そうじゃない。・・母さんが、このことをまだ話してない、って言うから、隠しておけることじゃない、って意見してた時だったんで、すぐに態度を崩せなかったのさ。」
「・・・そっか・・・ごめんなさい。」
 確かに、”友人の死”という深刻な話についてヒソヒソと話していた所に、脳天気に浮かれている当事者がきたら、口を噤んでしまうだろう。
 それでも、ミルクを気遣えばのことなのだから、感謝するべきだった。
「・・・香織もごめんね。・・・何も知らないで・・・」
「日本にいなかったんだもん。仕方ないって。」
 香織が項垂れるミルクの肩を抱くように手を置いて軽く叩いた。
 門で待っていた時の心細そうな表情は消え、凛とした強さを感じる表情に変わっていた。
 誰かを”守らなければ”と思うと、ファイトが湧く性格らしい。
「・・・でも・・・ホント・・・実感なくて・・・信じらんないよぉ・・・」
 ミルクが震える息で言った時、涙がポトポトっと正座する膝に落ちた。
「無理ないよ。・・・お葬式に出た私だって・・まだ信じられないくらいだもん・・・」
 香織は両腕でミルクの肩を抱き、頭を付け合った。
 ミツルは、香織の部屋の小さなテーブルに頬杖をついて、溜息を吐いた。
 女同士の甘ったるい連帯感は苦手だった。
 間がもたず、香織の部屋を眺め回した。
 ミルクのファンタジックな部屋と違って、青を基調としたサッパリした部屋は、息苦しさを感じずに済む。
 壁に飾られた写真や絵も、青い海や海中のイメージ画で、好感が持てる。
 ミルクのように可愛い小物やぬいぐるみの類はなく、女の子らしい物といえば、机の横の壁に貼ったボードに、プリクラや色々な写真がクリップされている所だろう。
 その写真の中には、小学生の頃のミルクもいた。
 ふと懐かしさに笑みを浮かべたミツルだったが、亡くなった美佳も含めた三人で笑っている写真を見つけて、現実に意識が戻った。
 目の前の二人は、肩を寄せ合って啜り泣いている。
 このままでは埒が明かない。
「で、・・・どうするんだ?・・朝までそうやって泣いてれば気が済むのか?」
 ミツルに言われ、二人は同時に顔を上げた。
 泣き顔の女二人に見つめられると、何も悪いことをしてないつもりでも、ギクリと後ろめたさを感じてしまう。
「・・まぁ・・そうしていたいなら、それでもいいけど・・・」
 ボソリと言葉を濁す。
「ううん。・・ごめんなさい。ミルクが訳を知りたいって言ってたから・・・新聞や雑誌から切り抜いておいた記事を見せようと思ってたの。」
 香織が涙を拭って立ち上がると、机の棚からスクラップブックを取り、テーブルに置いた。
「・・へぇ・・・随分、あるなぁ。」
 先に手に取って開いたミツルが感心して言う。
「ええ。美佳の自殺に関連してる、って言われている事件の記事も集めたから・・」
「あぁ。あれかぁ・・・」
 ミツルは記事を眺めながら頷いた。
 ミツルも興味が引かれたらしく、真剣な顔で読み始めた。
 ミルクは涙で霞んだ目を擦りながら、横から覗き込む。
「読むだけでも時間掛かっちゃうだろうから、コーヒー持ってくるね。」
「あ、サンキュ。悪いな。」
「いーえ。お兄様もご遠慮なく。」
 クスッ、と笑みを零し、香織は部屋を出ていった。

「・・事件って?」
 ミルクはまだ目が霞むようで、体を伸び上がって記事に頭を近付けた。
「そんなに頭出すなよ。読めねぇだろ。」
 ミツルがミルクの頭を押し返す。
 記事が読みにくいのも本当だったが、洗い立ての髪の匂いに混じって、ミルク特有の甘い花の香りが鼻孔をくすぐり、胸に微かな痛みを感じてしまうのだ。
 ミルクはミツルにとって、ついキツイ言葉を向けてしまうこともあったが、自慢の妹だった。
 近所でも知り合いでも、ミルクを貶す人というのがいなかった。
 ミルク自身には自覚がないが、柔らかで透明な光を纏った印象は、まるで日溜まりのようで、通り過ぎるだけで周囲が明るくなる雰囲気があった。
 だから、誉めそやす、というのとは違うけれど、特別な敵意でも抱かない限り、誰もが好感を持つ少女だった。
 ミルクを知っている友人も、可愛い、を連呼する。
 だが、ミツルには永遠に触れることの許されない聖域にいる”妹”なのである。
 大事に思っても、もどかしさに心が騒ぐ。
 ”愛しい”妹、”可愛い”妹。
 ”兄”として接する時に、敢えて厳しさを自身に求めたのも、封印するしかない”恋しさ”故だったかも知れない。
 その想いをマサトに察知されて指摘された時には、殺してやりたいほどに憎悪した。
 だが、マサトを知るほどに、敵わない存在があるのだ、と思い知らされ、打ちのめされた。
 そして、ミツル自身がミルクを追い詰めていたことを気付かされ、己の心に棲む鬼の怖さを痛感した。
 ミルクはマサトと付き合うことで、弱々しかった笑顔が輝くほど綺麗になっていった。
 ”兄”としては喜んでやるべきだろう。
 マサトほど、ミルクを守るのに相応しく、誠実に愛している相手はないように思える。
 ”闇”を背負った男ではあったが、自分が”鬼”の心を自覚した時、闇に生きる慟哭を少しだけ理解出来たようにも感じた。
 今は素直に妹の幸せを願っている。
 兄として、見守りつつ援助してやりたい、と素直に思えるようになった。
 ただ、こうして肩を擦り寄せ、顔が付きそうなほどに側に来られると、納得して諦めたはずの”恋しさ”が疼いてしまう。
 頭を押し戻されて、ミルクは不服そうに唇を尖らせている。
 赤味を増した唇が白い頬と対照的で、一層艶やかに愛らしく、男心をくすぐる。
 まったく、罪がないだけに、罪深い可愛さである。
 キスをねだる相手が違うだろ、と嫌味の一つも言ってやりたくなるのを押さえて、
「よく読めねぇんだろ?・・ミルクが全部読んでたら時間が掛かっちまうぜ。必要なとこだけ抜粋して要約してやるから。」
と、言うに留めた。

「えー・・・まずは、最初の記事か。これは枠も小さい、ごく普通の女子高生の自殺を扱った記事だな。」
 マサトはミルクの心が傷付かないように配慮して、詳しい状況は簡略化して伝えた。
「・・発見された時には、すでに亡くなっていたらしい。マンションの非常階段の6F部分からじゃ、無理ねぇよなぁ。」
 ミルクは両手で口を押さえ、体を震わせる。
「次の記事からは一騒動だな。・・・女子高生の足取りを辿った所、交際していたと思われるホストが殺害された現場を見つけた。ホストを刺したナイフからは女子高生の指紋が検出され、ホスト殺害後に後追い自殺をしたと推測される。」
「・・・まさか・・そんなッ・・・」
 ミルクは息を飲んで固まった後、徐々に顔を歪めていった。
 ホストで思いつくのは、美佳が好きだったカズヤ。
 だが、カズヤとは別れたはずだった。
「・・・しかも、このホストは、数日前に同僚のホストを殺害して、逃亡していた男と判明。事件は深い謎に陥った。・・・とある。」
「嘘だぁ・・・」
 記事にある一連の出来事が信じられないミルクは、激しく首を振る。
 連続殺人というより、連鎖殺人。
 そんなことが有り得るのだろうか。
「いや。これはちゃんとした新聞記事だし、ニュースでも言ってたから、この辺は事実みたいだぜ。・・詳しい事情、ってのは、・・・こっちの週刊誌の記事に、憶測も含めて興味本意に書かれてるけどな。」
「美佳・・・別れたって言ってたのに・・・」
「週刊誌の記事の方も読むか?」
「・・・うん。」
「けどなぁ・・・憶測や中傷で飾られてるし、真実とは違うかも知れねぇぞ。」
「・・・ぅ・・ん・・・」
 ミルクは躊躇いがあるのか、曖昧に答える。
 取り敢えず、ミツルは要約する為に、週刊誌の記事を読み始めた。
 ミルクは、まさかそれほどの大事件だったとは思ってもみなかったので、不安に爪を噛みながらミツルが話してくれるのを待っていた。
 そこに香織が、コーヒーのボトルと氷をたっぷり入れたコップ三つとスナック類をお盆に乗せて、部屋に戻ってきた。
 ミツルはスクラップブックを持って、少し後ろに下がった。
 ベッドに背中が当たったので、そのまま寄り掛かって記事を読み耽る。
 ミルクはお盆から小さなテーブルに乗せるのを手伝いながら、ミツルが要約してくれていることを、香織に説明した。
 香織は、うんうん、と頷き、
「ねぇ?・・スゴイ事件でしょう?」
と、小声でミルクに言い、氷の入ったコップにアイスコーヒーを注いで、
「お兄様、どーぞ。」
と、声を掛けた。
「あ・・どうも。頂きます。」
 ミツルは二口ほど飲んでから、濡れた唇を舐め、要約した説明を始めた。

「事件の発端は、一つのホストクラブのNo.1争いから始まった。・・とある。・・未成年者を客とするホストクラブが問題視される中、このクラブもその違法性の高いクラブである。しかも、暴力団組織との繋がりもあって、支払の出来ない少女達を暴力団に回し、裏ビデオや少女売春をさせていた疑いが掛けられている、そうだ。」
「・・・ぅん・・・」
 ミルクにも思い当たることがあった。
「・・知ってたのか?」
「えッ?・・ミルク、知ってたの?」
 ミツルと香織がミルクの反応に驚いて聞き返した。
「え・・・ぁ・・・」
 ミルクは、ドキッ、として口を噤んだが、美佳が亡くなった今、事実を打ち明けても傷付けることもないだろうと思い、事件を不審がる二人に、ミルクが遭遇したあの一件を話すことにした。
 支払が出来ずに困っているから、と呼び出されて行った先で、危うく裏ビデオを強要される所だったのを、マサトが駆け付けてくれて助けられたことを話した。
「何でそんな大変な事を言わないんだッ!」
 夜中だというのに、怒り心頭となったミツルが叫んだ。
「お兄ちゃん、シィーッ!」
 ミルクが口に指を立てて、牽制する。
「・・だって・・ミルは何でもなかったんだし・・・そんな酷い目にあった美佳を思うと、人に話していいことじゃないって思ったんだもん。」
「自分が酷い目にあったからって、何でお前を巻き込むんだ?」
 ミツルは声を落としこそすれ、怒りが治まらないでいた。
「いくら無事だったからって、なかった事には出来ないだろうが?・・万が一にも、ってことだってあるだろ?・・ミルク自身に何も悪い所がねぇのに、引きずり込もうって方がどうかしてるぜ。しかも、金まで持っていってやったのに。」
 怒りが沸々と腸を煮え繰り返している。
 本人にしてみれば過ぎてしまった事実でも、初めて聞いた者にとっては、怒りの治まる場所が見つからない。
 香織も同様の衝撃があったようで、
「・・そーいうことだったんだぁ・・」
と、悲壮に顔を歪めた。
 そして、美佳がミルクから巻き上げたお金を、小学校の改修工事中だった体育館の上から契り捨て、自殺しようとしていたのを、ミルクの説得で思い留まり、下りられなくなった美佳をマサトが助けたことを、ミルクに代わってミツルに話した。
 ミツルは歯ぎしりして聞いていた。
 ・・何で助けてやる義理がある?・・俺なら助けないぞ。
 と、思ったが、目の前でミルクが泣いていたら、ミルクの為に助けるしかなかったのかも知れない、とも思えてきた。
 殺してやりたいほどに憎い相手を、助けてやる苦さ・・・と思った瞬間、ミツルの背中は冷水を浴びせられたように凍り付いた。
 ミツルはミルクの顔が見れなくなった。
 自分に浮かんだ疑惑を、ミルクに気取られたくなかった。
 だが、一方で、ミルクが真っ青になって震える原因に、単純な”親しい友人の死”というだけでない、そうした疑惑があるのだろうか、という疑問が頭の中をグルグル回っていた。
「・・お兄ちゃん?」
 黙り込んだミツルを、ミルクが覗き込む。
「あ・・・あぁ・・・記事の続きだったな。」
 ミツルは頬を強ばらせながら、記事に集中するフリをした。
「女子高生の客が多かったKと、年上から人気のあったY。・・No.1は常にKだったが、最近羽振りの良くなったYが独立して店を構えるという噂に嫉妬し、客の取り合いから逆上してYを殺害。・・Kは逃走したが、目撃者の通報ですぐに手配された。逃亡中、Kは付き合いのあった女達を頼って転々とし、客だった少女達からも逃亡資金を募っていたらしい。」
「・・ぁ・・それで美佳にも声を掛けたのかぁ・・・」
 ミルクは溜息まじりに呟くと、悔しそうに顔をしかめた。
「自殺した女子高生MもKの客として、足繁くホストクラブに通っていた一人だった。Kに頼られたことで、お金の都合さえつけばKを独占出来ると思った少女Mは、バイト先のレジから売上金を盗んでKに渡した。・・しかし、Kは金だけ受け取ると他の女の所へ行こうとしたのだろう。手に車の鍵を握った状態で背中からナイフを突き刺されていた。」
「・・・酷い・・・」
「・・自我の連鎖だな。・・誰かが何処かで、自我を抑えることが出来ていれば、一連の事件はここまで悲惨なものにはならなかっただろう。」
 ミツルは自分の感想を述べてから、記事の続きを読んだ。
「盗みと殺人という罪を犯した少女Mは、放心したように街を彷徨い歩き、扉の開いていた非常階段を死刑台の階段のように上がっていった。そして、自らの罪を裁くように6Fの踊り場から地上へとダイブした。」
「いやぁぁぁぁぁぁ・・・」
 呻くように声を絞り出したミルクは、耳を塞いで首を激しく振る。
「ミルクぅ・・・」
 香織が肩を抱き、髪を撫でて宥める。
「こんな酷い事件・・・私も・・・どうしてこんなことになったのか、いくら記事を読んでも納得出来ないし、信じられないよ。・・・何も自殺することなかったのに。・・・こんな最低な男・・・事情を知れば、罪だってそう問われることはないと思うよ。第一未成年なんだし・・・」
「未成年だから罪を問われない、って考え方は嫌いだな。」
 ミツルが冷たく言う。
「私は女を・・純真な乙女心を弄ぶ男が、大ッ嫌いッ!」
 香織は、キッ、とミツルを睨んだ。
「・・おい・・・俺とこいつを同一視するなよ。・・・それにな、一途な女心故の我が侭なら、何でも通ると思う女が嫌いだぜ。」
 ミツルも香織を睨み返す。
「もぉぉ・・・二人ともやめてよぉぉ・・・」
 ミルクが泣き顔でしゃくり上げながら間に入る。
「・・ごめん、ミルク。」
 香織がミルクの髪に頬ずりをして言うと、ミツルも溜息を吐き、
「悪い。・・つい、記事の内容に・・気が立っちまったな。」
と、落ち着きを取り戻そうとアイスコーヒーを一気に飲み干した。
「そうだよね。落ち着かなきゃ。・・ミルクもコーヒー飲んで?・・生クリームもあるから、たっぷり入れていいよ。」
「・・・ぅん・・・」
 ミルクは鼻を啜り上げて、頷いた。
 香織は、ミツルの氷だけになったカップにコーヒーを継ぎ足すと、
「今日発売の週刊誌に新しい記事があったから・・まだ切り抜いてないけど・・」
と言って、真新しい雑誌をミツルに手渡した。
 記事の出ている場所に枝折りが挟んであったので、すぐに開くことが出来た。
 ミツルはざっと目を通すと、
「少女相手の悪徳ホストクラブは閉鎖され、ホスト数名も事情聴取の後に書類送検された、そうだ。バックにいた暴力団も捜査中、とある。高利貸しと少女ポルノに少女売春をしていた連中も逮捕された、ようだな。」
と、ミルクを安心させるように話してやった。
 ミルクは生クリームで白っぽくなったコーヒーを飲みながら、小さく頷いたものの、納得いかない顔で、半ば放心していた。
 そして、
「・・・自我の連鎖かぁ・・・」
と、ミツルの言った言葉を、悲しそうに呟いた。
 ミツルは堅い表情で頷く。
「自分の欲求だけを押し通し、自分が一番でなければ気が済まないっていう我が侭。自分の幸せの為なら他人の犠牲は厭わないという勝手な思い上がり。・・そして、それが満たされないとわかった時、感情の暴発を押さえきれずに、相手を傷付ける。・・ある種、起こるべくして起こった悲劇とも言えるかもな。」
「・・・そんなぁ・・・」
 ミルクは悲しそうに首を振る。
「・・そんな事・・・あっていいはずない。・・・誰にも、事件を肯定する権利はないでしょう?・・・亡くなった人達への冒涜だよ。」
 ミツルは、ハッ、として目を見開いた。
 妹に諭されることがあるとは思わなかった。
 いつの間に、ミルクはここまで自分の意見を言えるようになったのだろう。
 それとも、自分が気付いてやれなかっただけなのだろうか。
「そうだったな。」
 ミツルは素直に反省して頭を下げると、
「・・・俺もこれで解決したとは思えない。・・・警察関係に知り合いもいるし・・・俺なりに少し探ってみることにするよ。」
と、納得出来ないでいる妹と香織に、協力を申し出た。
 香織は笑みを浮かべると、
「よし。・・それじゃ、作戦会議ね。」
と、明るい顔になって言った。
「・・香織ぃ・・・」
「あぁ。こうなれば、とことん調べてやるぜ。」
「・・お兄ちゃん・・・」
 急にやる気を出した二人を、ミルクは気圧され気味に、呆然として眺めた。