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<21> 「家族」 |
§21§「家族」 一週間ぶりのメイクラブとなった日曜日。 風邪のほとんどの症状は治ったが、まだいくらか咳の残るミルクを気遣って、マサトはゆっくり優しくミルクを抱いた。 蛇の交尾は、長い体をゆっくり絡ませ合って何時間も続くという。 マサトもミルクの呼吸が乱れないペースで、深呼吸するように優しく優しく、ひとつに結ばれる時間を味わっていた。 マサトの腕や足が蛇のように、ミルクの体に絡まり、肌をそっと滑り撫でていく。 焦れったいほどに甘く切ない時が流れ、たまらず鼻を鳴らすミルクをあやして、マサトはゆっくりゆっくりミルクを抱いた。 繋がったままの状態でほとんど動きがなくても、その存在感にミルクは何度か絶頂に達して痙攣する。 そんな時も、マサトはミルクをそっと抱き包んで背中を撫でていた。 ぬるま湯でも長く浸かっていると逆上せるように、ミルクも恍惚として幻覚の世界を意識が彷徨い、抱かれながら夢を見た。 蛇の化身となったマサトが体中を這いずり回り、チロチロと赤い舌で肌を舐める。 股間から蜜壺に頭を突っ込んだ蛇は、奥へ奥へと体をうねらせ、ミルクの体内を動き回る。 ふっくらとした胸を細い蛇がグルリと渦巻き、乳首へチリリと細い牙を立てる。 腕にも首にも巻き付いてきて、口へ鼻へ耳へと穴を見つけては入り込もうとしている。 むっとする血生臭さが体を包む。 それでも快感の高まりに仰け反っては体を震わせ、恍惚と痺れに酔う自分がいる。 「あぁぁ、、、、、もぉ、、、だめぇぇ、、、、、マサトも、、イッってぇぇ、、、、、」 ミルクが切なく哀願して、マサトはようやく自分も絶頂へと到達させた。 しばらく目眩と幻覚が続いた。 ようやく意識が現実に戻ってきても、体の芯まで火照りが浸透し、体温は上昇したままなかなか熱が冷めない。 いつも以上に怠さを感じ、ミルクはぼんやりマサトにもたれていた。 金のブレスレットが五本になった腕を、顔の前で動かして、シャランッ、シャララッ、という音を聞いている。 キラキラキラ、と小さな光がいくつも煌めき、揺れる様子も可愛らしい。 クラスの話し掛けてくるようになった友達が誉めてくれた。 ミルクのこのブレスレットに影響を受けたのか、学園でも、ブレスレットの重ね付けが流行り始めている。 校則ではアクセサリーは禁止されているが、ブレスウゥッチやミサンガなど注意しきれない為、ブレスレットだけは黙認状態にあった。 ただ、マネはしても、ミルク以上に似合う子はいなかった。 細く白い手首に煌めく細い光。 さり気ない動きに合わせて、シャラッ、シャラッ、と小さな音が囁く。 手首が柔らかいのか、ミルクの動きが遅いのか、見せつけている訳ではないのに、みんなの視線がそこに止まってしまうのだ。 一本、また一本と増えていくのも、噂になり始めている。 親に紹介した以上、もう”彼氏がいる”と公言しようか、とも思う。 兄のミツルももう反対は出来ないだろう。 ミツルは「今は負けを認めるしかない。」と言っていた。 ・・・はぁぁ・・・ ミルクは腕が怠くなり、溜息を吐いて腕を降ろした。 寝返りをうち、目を閉じてマサトの胸に頬ずりをする。 ミルクに腕枕した状態で、若松と仕事の話をしていたマサトが髪を撫でる。 ミルクは目を閉じたまま微笑んで、また頬ずりをした。 気怠さに目を閉じていると、夢の続きのように、昨夜のミツルとの会話が蘇ってくる。 昨夜、ミルクがお風呂に入っている間、母にしては珍しく長いお説教をミツルにしていたようだった。 ミツルは一言も喋らず、頑なに沈黙していたらしい。 お風呂から上がったミルクに、母親が、「お店のこと、お兄ちゃんにも相談しようと思ってたのに、石みたいにダンマリなのよぉ。」と溜息混じりで愚痴っていた。 そして、ミルクが自分の部屋に上がって程なく、ミツルがドアをノックして部屋に入ってきたのだ。 「ミル、お兄ちゃんと話すこと何もないもん。」 ベッドで足の指にペニキュアを塗りながら、ミルクは頬を膨らませた。 「お袋の前では話せないことだ。」 「あー・・お兄ちゃん、何かやましいことあるんだぁ?」 「バカ。やましいのはお前だろ?・・・アイツが言ってたぞ。お前はアイツの全てを知ってるってな。」 ミルクの手が止まる。 「・・・なぁに?・・・やらしいなぁ、もぉ・・・」 ミルクは知らん顔で、また作業を続ける。 「話せとは言わないが、自分が一番わかってるなら、どうして俺がアイツを嫌うかも、わかるはずだ。」 「・・・わかんないもん。」 「引き返せる時に引き返さないと、取り返しがつかなくなるぞ?深みに嵌ってボロボロに傷ついてからじゃ遅いだろう?」 「だって、傷つかないもん。ミルはマサトを信じてるんだぁ〜。」 ミルクは顔を上げ、マサトを虚空に思い浮かべるようなうっとりした表情で言ってから、塗ったネイルに息を吹きかける。 「どうして物事の善悪が判断できないのかなぁ・・・」 「マサト、ミルに悪いことしたことないよぉ?・・変なお兄ちゃん。」 ミツルは溜息を吐いた。 ミルクが、誤魔化しではなく、本気でそう思っているのがわかるだけに、困ったものだと思う。 「お兄ちゃんが認めないって言うなら勝負してみればぁ?」 「・・いや。・・・今の俺には敵わない相手だ。あれだけの体躯で無駄のない動き。冗談を言っている時さえ隙がない。それにあの刀さばき。お袋もお前もパフォーマンスのサービスぐらいに思ってたようだが、あれは正真正銘、殺人剣だ。箸であれだけ鋭く空を切る音が簡単に出せると思ってるのか?しかも、あのゾッとする禍々しさ。・・・俺も小学生で剣道を始めてから、かなり本気で鍛錬してきたつもりだったが、そんな生半可な訓練じゃない凄まじさを感じたよ。・・・今は負けを認めるしかない。」 「なら、文句言わないでよぉ。」 「文句じゃない。・・・心配なんだ。」 「んーっとねぇ・・ミルも初めは不安だったのぉ。・・だってぇ、あんなにカッコいいんだもん。ミルなんかでいいのかなぁって心配だった。・・・でもね、マサトって超ぉー優しいんだよぉ。フフッ。・・それにぃ、ミルより美人でも興味ない、ってぇ。もうこれは運命なんだ、ってぇ。」 「そんな台詞、誰にでも言うくらい出来るさ。」 「違うもんッ。本当なんだもんッ。・・・だって、マサトだって女性と付き合うのは初めてだって言ってたもん。モテないとかじゃなく、付き合いたい、って思ったのがミルだけだったって。」 「・・・そうだろうな。・・・ミルクは・・美人以上に・・綺麗で可愛い。」 「・・・へ?」 ミルクは意味がわからず眉を寄せたが、首を傾げた後マニキュアを指に塗ることに専念し始めた。 ミツルはちょっと眉間にシワを寄せ、 「シンナー臭いぞ。そーゆーものは少し窓を開けてやれよ。」 と、ミルクの机の椅子から立って、窓を開けた。 「あーん・・・寒くなっちゃうじゃん。」 「少し空気が入る程度だ。・・それが終わったら閉めてやるから。」 「・・・っもぉ・・・何がシンナー臭いんだか・・・これはネイルってものなのに、全然わかってないんだからぁ・・・」 ミルクは独り言のようにブツブツと愚痴った。 ミツルはイスに戻って座ると、しばらくミルクを見つめていた。 それから苦しそうに息を吐くと、 「アイツがミルクに本気だっていうのは認めたっていいさ。・・一寸の虫にも五分の魂だからな。」 と言った。 ミルクは、ちょと違くない?と首を捻ったが、認めるならいっかぁ、と頷いた。 「アイツが本気だろうが関係ない。問題はそんなことじゃないからな。」 「あーもぉー・・・また難しいことを言い出すぅぅ・・・」 「アイツが普通じゃないことは、お前だってわかってるんだろう?・・しかも、お袋まで巻き込んで・・・」 「マサトは親切で相談に乗ってるだけじゃん。」 「どんなに苦しくたって、悪魔に相談なんかするもんじゃない。」 「うっわぁ・・・お兄ちゃんって・・・ひっどぉーい・・・もぉ、最低ッ!」 「お袋はな、お前には話してないが・・・色々辛いことを抱えてるんだ。お前にはそんな陰は見せないようにって笑ってるけどな・・・これ以上、苦しませるようなことはしないでくれ。」 「・・・それって・・・パパのこと?」 「・・え・・・ミルク・・・知ってたのか?」 「最近ね。・・・マサトが調べてくれたの。」 「クッ・・あの野郎ぉ・・・」 「違うよぉ。ママがパパと電話してるの聞いちゃって・・その時、”離婚”って言ってたから、ミル怖くなって泣いちゃったの。それで、マサトが調べてくれたのぉ。・・・そっか・・・お兄ちゃん、知ってたんだ。」 「・・そりゃ、家に帰らなくなりゃ、変だと思うさ。」 「・・・そうなのぉ?・・・だって・・・忙しいって・・・」 「何十日も船で渡航してた時代じゃあるまいし、どんな忙しさだよ。」 「・・・そう言ってたくせにぃ・・・」 ミルクは頬を膨らませ目を眇めて睨んだ。 「とにかく。これ以上、お袋を悩ませたくないから、アイツのことは黙っておく。が、お袋を巻き込むのはやめろ。いいな?」 「巻き込むって何よぉ?・・ママが辛いだろうからって、明るい気持ちになれるように楽しくなれる目標を持てるといいね、って・・・マサト、そう言ってたもん。・・・ママを悲しくさせてるのはお兄ちゃんじゃん。」 「・・ったく・・・何で表面的なことしか見られないんだ?」 「お兄ちゃんこそわかんないよぉ。何で幸せになっちゃいけないのぉ?何でマサトが悪いのぉ?・・・マサトはミルを幸せにしてくれる。辛いことも悲しいことも包み込んで消してくれる。ミルが大事だから、ママも幸せにしたいって心配してくれる。マサトは何も悪くないじゃん。・・・ミルやママを不幸にして悲しくしてるのは・・パパじゃんッ!」 そう言われたら返す言葉もない。 ミツルはミルクの説得を諦めるしかなかった。 「・・・もう、いい。・・・そんなにアイツがいいなら、好きにしろ。」 「好きにするもんッ。」 ミツルは微かに首を振り、イスから立ち上がった。 そして、窓を閉めると、ミルクの部屋を出ていった。 ミルクは大きく溜息を吐いた。 「・・もう、10回目だぞ。・・・どうしたんだ?」 マサトがミルクの顎に手を当て、マサトの方に向かせる。 「・・・え?」 「溜息だよ。・・さっきから何度も繰り返してるぜ?」 「はぁぁ・・・そっか。」 「ほら、また。」 「・・ぅ・・・だってぇ・・・はぁぁぁぁ・・・ぁあ〜あ・・・」 ミルクは思い切り不機嫌な顔をする。 「ミルク?・・・さっきのセックスは気に入らなかったのか?」 マサトが少し眉を曇らせた。 「え?・・ううん。そうじゃなくって・・・お兄ちゃんのことぉ。」 「・・・兄貴?・・何か言ったのか?」 「んー・・・一応、認めてはくれたけどぉ・・・賛成してくれないんだもん。」 「ほぅ。・・認めたのか・・・」 マサトは片頬に不敵な笑みを浮かべ、煙草をくわえる。 すかさず、若松が火を差し出す。 「でもぉ、マサトが親切でママの相談に乗ってくれてるのに、それも気に入らないみたいで文句言うんだもん。」 「クックッ。まぁ、兄貴にしてみれば、父親の存在がない分、自分が一家の大黒柱にならなければって気負い・・プライドみたいなのがあるからな。それを突然現れた得体の知れない男に掻き回されたくねぇんだろぜ。」 「だけど、マサトは・・・いつかはミルと・・・ミルの家族になるでしょう?」 ミルクは遠慮がちに聞く。 まだ、自分から”将来は結婚する”と言える自信がない。 マサトは煙草の煙を細く吐いてから、優しく微笑む。 「ミルクは俺の妻。だから、ミルクの家族は俺にも家族。・・その気持ちは今も持ってるぜ。形式的な結婚はまだしてなくても、な。」 「うんッ。」 ミルクは嬉しそうに頷き、マサトの胸にスリスリと頬ずりする。 「・・お兄ちゃんにもわかって欲しいのに・・・」 「信用ってのは一朝一夕で築けるもんじゃないからな。・・時間をかけて理解し合える関係になれるよう努力するしかねぇな。」 「・・マサトぉ・・・」 「クスッ。そんな情けない顔するなよ。」 「・・だって・・・」 「認めて貰えただけ良かったと思おうぜ?・・・なかなか、”負け”ってのは、認めたくないもんさ。それが、出来るってのは・・見所あるぜ。」 「そうなの?・・・ふーん・・・そっかぁ・・・」 「・・・ママは特に変わってねぇだろ?」 マサトはミツルが母親に自分の裏の顔を言ってるか、多少気になっていた。 「うん。」 「ならいい。」 マサトは笑みを浮かべ灰皿に煙草を捨てた。 「ねぇ・・・マサトぉ・・・」 「ん?」 「・・・お兄ちゃんのこと・・嫌いにならないでね?」 「クックッ。ミルクの大事な兄貴だ。・・嫌ったりしないさ。」 マサトは優しくミルクの髪を撫で、 「・・そう卑怯者でもなさそうだしな。」 と、呟くと喉で笑った。 「良かったぁ。」 ミルクはマサトの胸に抱きついて、首の蛇にキスをした。 マサトもミルクを胸に抱き上げて、熱いキスをする。 若松はすぐ側にいながら、呼ばれるまで気配を消していた。 ミルクから唇を離したマサトが呟くように、 「・・だが、今はこれ以上近付いて、兄貴を刺激しない方がいいだろう。」 と言う。 ミルクが不安そうにマサトを見つめるので、フッと微笑んで頬を撫でる。 「兄貴・・受験を控えて神経質になってるんだろ?」 「あ・・うん。」 「取り敢えず、ミルクのママと会えて交際宣言も出来たことだし、兄貴の神経を逆撫でしてミルクの家庭に波風立てたくねぇしな。・・俺がミルクの家に行くのは控えることにしよう。」 「・・・う・・ん・・・」 「ママの相談相手は、覇羅蛇家の顧問弁護士にさせるから心配するな。」 「弁護士ぃ?」 「店を持つにしても・・・それにミルクのパパとのことも・・・色々法律的なことが絡んでくるから、弁護士がついてれば安心だろ?」 「・・・そっかぁ。・・・あ、だけどぉ・・・弁護士さんって相談するだけでも高いお金取られるって聞いたことあるぅ。」 「クックックッ。俺が抱えてる弁護士事務所だから、金はいらねぇに決まってるだろ。・・つーか、弁護士ってかしこばらず、友人感覚で話せる相手をママに紹介するからさ。」 「いいのぉ?」 「俺も表と裏で仕事抱えてるし、ミルクとの時間も大事にしたい。・・俺が相談相手になるにも時間が取れないことが多いと思う。・・・だから、俺としてもその方が安心なんだ。」 「あー・・そーだよねぇ。・・ありがと、マサト。」 マサトは、うんうん、と頷いた後、早速若松に適切な人選をするよう指示した。 この日は、回復したばかりのミルクの体調を気遣って、出掛けないことにしていたので、食事も出前で済ませた。 「うーん・・・美味しいけど物足りない。」 「ん?」 「・・ここのキッチンに調理器具があれば、出掛けない日はミルがお料理作るのになぁ。」 マサトは驚いた顔をする。 「あー・・ミルに作れないと思ってるぅ。」 ミルクが拗ねて頬を膨らませる。 「あ・・いや。料理は料理人が作るものと思ってきたから、ミルクが俺の為に作ってくれるなんて考えつかなかったんだ。」 「・・・そりゃ・・・専門家みたいに上手には作れないけどぉ・・・」 「いや、それはいいんだ。・・つーか、いつも料理人のいる場所にいる訳でもないし、俺一人の時はファーストフードも喰うし、インスタントで済ませちまう時だってある。・・ミルクが作ってくれるなら、最高に嬉しいぜ。」 「・・・ホント?」 「ああ。・・アッハッ。感激して驚いたのさ。・・いや、ホント。マジだぜ。」 「フフッ。じゃぁ、お鍋とかフライパンとか買わなきゃね。」 「そうだな。あ・・今度ミルクが来るまでには用意させとくよ。」 「えー・・・つまんなぁーい。」 「・・・え?」 「だってぇ・・・どうせ超一流の料理器具とかでキッチン埋めちゃう気でしょう?」 「それじゃ嫌なのか?」 「・・・だって・・・そんなプロが使うようなのを揃えられちゃったって、ミルには使いこなせないもん。・・・それよりも、可愛いーッ、って嬉しくなっちゃうようなのを自分で選びたいなぁ。」 マサトは、ああ、そうか、と納得し、クスクスと笑い出した。 「わかった、わかった。今度一緒に買いに行こうな?」 「うんッ。」 ミルクは楽しげに頷くと、わぁい、と小さく手を叩いた。 マサトは目を細め、そんなミルクを愛おしく見つめていた。 |
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<22> 「故郷」 |
§22§「故郷」 ガタン、、ゴトン、、ゴトン、、、、ガタン、、ゴトン、、ゴトン、、、、 しばらく田園風景が続いてから、いくつかのトンネルを抜けた。 キィーィーッ、、、シュゥー、、、 緩いカーブでもブレーキ音が悲鳴を上げる。 電車が大きく揺れる度に、ミルクは足を踏ん張って前のめりになる体を支えた。 「・・プッ・・クククッ・・・クスクスクスッ・・・」 ミルクはたまらなくなって、両手で口元を押さえて笑い出してしまう。 この電車は異様に揺れるのだ。 都会のいつも乗り慣れている電車とは全然違う。 車両は一昔前のような作りで、凸凹とした座席は座る場所によってお尻に固いバネが当たる。 ローカル線は街の路線で老朽化した車両を買って、整備して使用してるのだ、とマサトが説明した。 それにしてもよく揺れる。 前後左右だけでなく、上下にも大きくホッピングする。 黙って真面目な顔で乗ってる人達が、全員でホッピングする時など、もう可笑しくて可笑しくて、ミルクは笑いを堪えるのに必死だった。 つり革が並ぶ席ではつかまる人もなく、無人のつり革が並んで大きく揺れている。 一糸乱れず、振り子のように、飽きもせず、揺れ続ける様子さえ何だか可笑しい。 「・・クックックッ・・プププッ・・・クスクスッ・・・」 「・・・ミルク・・・わざと跳ねてないか?」 マサトは窓枠に頬杖をついて、片目を眇めて言う。 ミルクは上下に大きくホッピングしながら、 「ううん。マサトのお膝に乗ってる時くらい自然だよぉ。」 と、無邪気に答えた。 「・・・意味・・わかって言ってんのか?」 「え?・・・ぁ・・・」 自分で言って恥ずかしくなったミルクが頬を赤らめる。 マサトが、バーカ、と口だけで言った時、ガタンッ!と大きく揺れて、マサトの顎が手から外れる。 それでミルクがまた吹き出して笑った。 マサトは、やれやれ、と片眉をそびやかすが、口元には笑みが浮かんでいる。 窓の外、何でもないような田舎の風景さえ、ミルクといると輝いて見えてくる。 マサトは言葉では言い尽くせない愛しさに、一層無口となってミルクを眺めていた。 カタン、、タタン、、タタン、、、、カタン、、タタン、、タタン、、、、 響く音が高くなる。 窓の外に目をやると山と山の谷間が細く広がっていた。 「・・ゥッキャァー・・・超ぉー高ぁーいッ!」 ミルクが窓から顔を下へ覗かせる。 マサトが慌ててミルクのお腹に腕を回し引き寄せた。 「バカッ。首、持ってかれたらどうするんだッ。」 「・・ぁぅ・・・ごめんチャイ・・・」 ミルクはマサトの膝に抱っこされた姿勢で、唇を尖らせた。 「今からそんなにはしゃいでると、後が続かないぞ。」 マサトはそう言いながら、花の香りがするミルクの髪にそっとキスをした。 「まだ先が長いのぉ?」 「電車はこれが最後だけどな。・・降りてからが、まだあるんだ。」 「ふぇぇ〜・・・」 いくつ電車を乗り換えたろう。 連休の最後の三日間。 マサトの生まれ故郷をミルクに見せたいからと、母親に許可を貰って泊まり掛けで訪れることになったのだ。 泊まりになる理由として、マサトは、「日本の辺境のような土地ですので、とても日帰りでは往復出来ません。」と言っていた。 一体、どんな所なのだろう。 辺境というぐらいだから、飛行機で北か南に飛んだ先にある小島かな、と思っていたが、そうではないらしい。 ずっと電車に乗っているということは、少なくても陸続きだろう。 これだけ交通網が進んで、どんな田舎でも観光に訪れる人達の姿が見られる時代に、本当に辺境なんて言える場所があるのだろうか。 それでも、連休でありながら、ここまで田舎になるとローカル線の乗客はまばらだった。 終着駅。 降りた乗客はマサトとミルクだけだった。 いくら観光地化されてないからといって、ここまで人がいないものなのか、ミルクは閑散とした駅の様子に戸惑っていた。 マサトに手を引かれ、改札口に行くと、 「これはこれは、お舘様。お帰りなさいませ。」 と、年輩の駅員が緊張した面持ちで頭を下げた。 「ああ。元気そうだな。」 「はいッ。お陰様で。・・ありがとうございます。」 マサトは、深々と頭を下げたままの駅員に、二人分の切符を渡して改札を出た。 駅前には・・・何もない。 えぇ?・・とミルクは目を疑った。 いくら寂れた駅でも、食堂とか売店の一つくらいはあっていいはずだろう。 せめてバス乗り場くらいあって欲しい。 バスもタクシーも、自家用車さえ見えない。 ・・・誰も降りる人がいないはずだ。 「ねぇ・・マサトの家って、ここから近いの?」 「いや。もっと山の奥だよ。」 「どれくらい?」 「そうだなぁ・・・ここからだと10km程度かな。」 「えーッ?!・・・バスとかないのぉ?」 「ある訳ないだろ。ほとんど自給自足で賄っている田舎だし、日用雑貨や電化製品みたいな村で製産出来ない物は、週一回の貨物便で届く。その時だけ村からトラックが出て、注文をした各家に配るんだ。」 ミルクはタイムスリップした心境に陥り、不安に瞬きを繰り返した。 「それじゃ・・・迎えの車はないのぉ?」 10kmも先のわからない山道を登るのだろうか。 「迎えなら来てるぜ。」 マサトは笑って大きな木を指差した。 ミルクは嫌ぁ〜な予感がして、ゆっくり視線を向けた。 さっき、グルリと見回した時、木陰にいる箱台のような物を括り付けられた馬が目に入ったのだ。 「・・・あれ?」 「そう。あれだ。」 マサトはミルクの手をしっかり握って近付いて行った。 馬の側には、割とキチッとした服装の男が立っていた。 「お帰りなさいませ。旦那様。」 男は直角に近く頭を下げて言ってから、顔を上げ、 「・・本当にこれでよろしかったでしょうか?」 と、不安そうに聞いた。 「ああ。これでいいんだ。俺の妻に、ゆっくり俺の故郷を見せてやりたいからな。」 「左様でございましたか。・・ようこそ、お出でなさいませ。」 男はミルクに笑顔で挨拶をした。 「・・ぁ・・初めまして。よろしくお願いします。」 ミルクは緊張して、ペコッと頭を下げた。 「そんなに緊張しなくていいから。・・のんびり行こうぜ。」 マサトはミルクに笑って言うと、ミルクを抱き上げ箱の中に座らせた。 箱の中は毛布が敷かれ、その上にふっくらした座布団があったので、座り心地は悪くなかった。 ミルクは靴を脱いで端に置き、膝を崩して箱にもたれた。 マサトも背負っていたリュックを脇に置くと、ヒラリと乗り込んだ。 荷物はマサトのリュックとミルクの小さなショルダーバックだけだった。 駅まで見送りに来た若松が、他の泊まりに必要な荷物は後で届けると言っていた。 夕方くらいまでには届くのだろうか。 ミルクはまた少し不安になったが、馬車のような乗り物が動き出したので、ビクッとして箱の縁につかまった。 迎えに来た男は、御者台のような所に座って、馬を操っている。 荷馬車は、駅前のガランとした広場から、こんもりと木の茂る森の細道へと入って行った。 森は新緑のトンネルのようだった。 木漏れ日が差し、木々の息吹に満ちた爽やかな空気が吹き抜ける。 狭く鬱蒼と暗い道は、森の入り口の短い距離だけで、その先は意外に広く整備された道になっていた。 まるで、好奇心か間違いで駅に降り立った部外者の立ち入りを拒むべく、わざと寂れた風景を造り出しているかのようだ。 舗装された道路は滑らかで、荷馬車の乗り心地も快適だった。 数km続いた森を抜けると、明るい光が降り注ぐ集落になる。 舗装されたメイン道路脇には花が咲き乱れ、花の回廊になっている。 そして、その向こうに田んぼや畑が続いている。 水の張った田んぼの脇を通る時には、カエルの鳴き声がする。 「わぁぁ・・・可愛いー・・・」 何度、綺麗、可愛い、素敵、という言葉を繰り返したかわからない。 木々が風にざわめき、小鳥がさえずり、小川のせせらぎが聞こえ、花の甘い香りが漂い、田んぼのカエルが鳴く。 それだけで、こんなに感動出来るのか、と感心するほど、ミルクは目を輝かせて喜んでいた。 馬のお尻が間近に見えるのも、慣れてしまえば気にならない。 パッカパッカ、とリズムを刻む蹄の音も頼もしい。 確かに車で通り過ぎてしまったら、味わえない景色だった。 農作業している人達は、マサトの姿に気付くと、帽子や手ぬぐいを頭から外して何度も頭を下げる。 近くにいた人は、 「お舘様。お帰りなさいませ。」 と、挨拶をする。 「・・・オヤカタ様って?」 「古い言い方だよな。・・ま、古い因習の残る隠れ村だから、仕方ねぇけど・・村で一番大きくて、村をまとめてきた家の総領をそう呼ぶのさ。」 「総領?」 「つまり本家の筆頭・・・一族の長・・・んー・・・どう説明すればいいかなぁ・・・」 「・・ドスコーイッ、ドスコォーイッ、、って?」 「ぅ・・・その親方じゃなく・・・ま、いっか。似たようなもんだぜ。クックックッ。」 マサトは苦笑して、煙草に火をつけた。 煙を吐き出しながら、景色を懐かしそうに眺める。 「ここで実際に暮らしたのは10歳までだ。都内にも本宅はあるからな。年に数回戻れればいい方だろう。」 「・・そうなんだぁ・・・」 「けど、覇羅蛇家の基盤はここにある。・・ほら、あの山。あそこには村の守り神が祭られている神社があって、その神社を守っているのも覇羅蛇家の一門なんだぜ。」 「・・ふーん・・・」 荷馬車が向かう先に、鬱蒼とした黒い森が盛り上がっている。 まるで昔話の絵本に描かれるみたいな黒い山。 それだけ高い木々が密集して、光を通さないのだろうか。 「・・守り神がミルクを歓迎してるぜ。」 「ほぇ?・・・プッププッ・・・うっそぉーッ。」 ミルクはマサトが冗談を言ったと思い、ケラケラ笑った。 「旦那様の仰る通りでございますよ。・・あの様に、山の姿がはっきり見えることは滅多にございません。普段は厚い雲が懸かり、濃い霧で入山者を拒む山ですから。」 御者をしている男が真面目な口調で言う。 ミルクは訳がわからず、眉を寄せてマサトに首を傾げて見せる。 「クックッ。天候に恵まれるのも、神様のお恵みってね。」 マサトは肩をすくめて、軽く流した。 「そっか。」 ミルクも笑顔になって頷くと、山に向かって両手を合わせ目を閉じた。 「お山様。初めまして。ミルクと言います。よろしくね。」 ミルクは小さな声で呟いた。 普段、それほど信心深くもなかったが、自然の恵み溢れた光景に、人知の及ばぬ力を感じていたのかも知れない。 明るい陽射しに包まれたミルクは、白い肌が一層際立ち、風になびくワンピースの白い衿が羽衣のようにフワフワと揺れた。 そんな様子を畑から眺めていた老人が、思わず跪いて手を合わせるのを、マサトは目の端でとらえ、喉元で含み笑いをした。 けれどミルクは気付くこともなく、またカエルの鳴き声に耳を傾け、無邪気に喜ぶのだった。 開けた集落といっても山の中の小さな里。 道はまた高い木々の茂る坂道となり、曲がりくねりながら進む。 黒い山が迫ってくるように近くなる。 気温が2℃くらい下がったように感じて、ミルクは腕を擦った。 「もうすぐだからね。」 マサトがミルクに並んで肩を抱いた。 「うん。」 マサトの温もりが伝わってくる。 どんな場所でもマサトといれば怖くない。 ミルクは目を閉じてマサトの胸に頬ずりをした。 瞼が再び明るさを感じ、ミルクは目を開けた。 百花繚乱。 眩しさに目を細めるミルクの視界を、咲き乱れる花々が埋め尽くしている。 「・・ぅっわぁぁ・・・スゴイッ・・・スゴォーイッ・・・」 下で見た花とは比較にならないほどの花の回廊だった。 大きな枝垂れ桜の枝が荷馬車の中まで枝を伸ばしている。 桜に梅に名前はわからないが様々な木々が花を咲かせ見事な枝振りだが、その根元を覆い隠して可憐な花々が咲いている。 ミルクが口を開けて呆気に取られている間に、荷馬車は大きな門を抜けて屋敷の玄関先へと進んでいった。 「さぁ、着いたよ。」 マサトがミルクを抱いて降ろす。 「お帰りなさいませ、旦那様。」 玄関には迎えに出た人達が立って待っていた。 「ただいま。久し振りだな。みんな元気そうでなによりだ。」 「ありがとうございます。」 マサトが挨拶を交わす人達の中に、ミルクは信じられない人物を見つけた。 その男はミルクと目が合うと笑顔になって、 「お疲れ様でした。」 と、頭を下げた。 「・・・ぅえ?・・・若松さん・・何でここにいるのぉ?」 「お荷物をお届けすると申し上げたはずですが?」 「・・そうだけどぉ・・・だって・・・駅で見送ったのにぃ・・・」 「あぁ。・・クスッ。私はあれで・・・」 若松が指差した先の一角にヘリコプターが鎮座している。 「・・・あーッ・・・ズッルゥーーイッ。」 ミルクが思い切り頬を膨らませたので、マサトが笑って、 「簡単に飛んで来ちまったら、つまんねぇだろ?・・ゆっくり時間をかけて、味わいながら旅をするのが、本当の贅沢っていうもんだぜ。」 と言って、ミルクの頭を撫でた。 言われれば確かにそうかも知れない。 ここまでの道のりで、何度感動したか。 まだ、胸がドキドキと興奮している。 「・・そっか。・・・うんッ。・・・ありがとぉ、マサト。」 ミルクは胸で手を合わせ、ニッコリと笑った。 マサトは微笑んでゆっくりと頷き、腰を折るとミルクにキスをした。 迎えに出た人々は、何かを待つように、じっと見守っている。 やがて、熱いキスから顔を上げたマサトが言った。 「紹介しよう。・・俺の花嫁だ。」 と、一斉に歓声が起こる。 「おめでとうございます。」 「奥方様、ようこそお出で下さいました。」 「ようこそ、我等が一族の郷へ。」 口々に祝福と歓迎の言葉を叫ぶので、ミルクは返事をしようにも圧倒されて、ただ笑顔でペコペコと頭を下げるしか出来なかった。 |
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<23> 「蛇屋敷」 |
§23§「蛇屋敷」 屋敷に上がってミルクが驚いたのは、そこら中に蛇がいることだった。 生きた本物や剥製といったものではなく、さり気なく至る所に、彫り込まれたり飾られたりしているのだ。 傘立ては蛇が螺旋状になった形になっているし、柱は巻き付く蛇が浮き彫りになっている。 大きな立派な額縁にも蛇が彫り込まれ、もちろん絵は堂々とした大蛇だった。 建物自体は古い造りのようだが、内装は意外と新しく、洋風のお洒落な照明がついていたりするが、よく見るとそこにも蛇がデザインされてたりする。 あれもこれも蛇だらけなので、広い屋敷の奥まで案内される頃には、ミルクも驚かなくなっていた。 手入れの行き届いた庭園造りがよく見える広い和室が泊まる場所らしい。 先に届いた荷物が置かれている。 「ここがマサトのお部屋なの?」 「まぁ、一部と言えば言えるけど・・普段、使っている寝室じゃないよ。」 「・・そこはミルには秘密なんだ。」 「クックッ。案内してもいいが・・1分といられねぇだろうな。」 「何でぇ?」 ミルクが拗ねてムクれる。 「生きた蛇が好き勝手な場所でトグロ巻いてるからさ。中には毒を持った奴もいるし、ミルクには危険かもな。」 「・・ゥゲッ・・・ミルだけじゃなく、マサトだって危ないじゃん。」 「俺は蛇の毒には免疫があるから平気なんだ。」 「・・・きょぇ〜・・・マジ?」 「ああ。小さい頃から慣らしてきたのと・・持って生まれた体質かな。覇羅蛇家の一族でもこの体質を持ってる者は少ない。慣らそうとしてアレルギーになった者もいれば、突然発作が起きて命を落とした者も少なくないしな。・・・村の人達も毒には弱いから、この屋敷が村里から離れている理由でもあるのさ。・・つーか、逆か。この家から離れて村里を開いたのかな。」 「・・どっちでもいいけどぉ・・・」 「まぁ、そうだな。」 「・・でも・・・何で命を危険にしてまで毒に慣らす必要があるの?」 「毒を怖がってたら毒蛇は操れないだろ?・・それに毒を持って毒を征する、というように、微量の毒が病気を治したりする。・・覇羅蛇家は古くは平安の書物に薬師としてその名前が出てくる古い家柄で、柳生一族との親交によって徳川幕府の影となって長い間仕えてきたんだ。」 「・・・えー・・・歴史で習ってないよぉ?」 「裏の歴史が教科書に載るかよ。・・それに、覇羅蛇家の存在はごく一部の人間しか知らない秘密の一族なんだ。・・江戸時代には表向きは御殿医だが、裏の顔は暗殺集団。幕府にとって邪魔な存在や反旗を掲げそうな人物を抹殺していた・・らしい。」 「・・・らしい・・・って・・・」 「言い伝えなんて適当だからなぁ・・・」 「なぁんだぁ。・・・あー・・もぉぉ・・・信じそうになっちゃったじゃん。」 「クックックッ。古ぃ昔のことなんて、どーだっていいじゃねぇか。・・それより、疲れただろ?温泉に浸かって、汗流してこようぜ。」 「温泉?」 「この屋敷の地下には源泉が通ってるんだぜ。地面が温かいから雪で覆われる時期を除いて、色々な花が咲き誇る。・・ここへ来る途中の森で流れが変わるせいか、村までは届かないが、それでも村には山から温泉を各家庭に引いてるし、山奥にしては一年を通して暖かく過ごせて、年寄りも元気だ。ハハッ。」 「そっかぁ・・・いい所なんだぁ・・・」 ・・・毒蛇がいなければ・・・ ミルクは生きた蛇がいると聞いて急に足元が気になりだした。 マサトに促されて温泉の湧く風呂場へと向かう時も、マサトの腕にしがみついて足元ばかり見ていた。 いや・・・蛇は枝にも巻き付くし、天井裏を這ったりするんだが・・・ マサトはそう思いつつも、これ以上ミルクを怖がらせないように黙っていた。 岩に囲まれた露天風呂。 ツンと硫黄の匂いがする。 滑って転ばないようにとマサトに手を引かれながら、ゆっくりお湯に足を入れる。 「・・あ・・・そんなに熱くないんだぁ。」 ミルクはほっとして、マサトにつかまりながら肩までお湯に浸かった。 「クスッ。源泉そのものはもっと熱いけど冷ましてるのさ。長く浸かることで、それだけ薬効成分が肌から吸収されるだろ?」 「・・・ふーん・・・このお湯・・・なんかヌルヌルしない?」 「成分が濃いからな。」 「・・・なんか・・マッチを擦った時の匂い・・・」 「それは硫黄分が含まれてるからだよ。」 「・・・へぇ・・・どんな効用があるの?」 「硫黄分が多いと怪我や皮膚病にいいらしいな。・・他にも成分が色々含まれてるし、美肌効果もあるらしいぜ。」 「美肌?・・うふん・・じゃぁ、いっぱい擦り込んでスベスベにしちゃお〜っと。」 「クックッ。ミルクはもう充分、スベスベだよ。」 「もっともっと、ツルツルゥ〜にしちゃうのぉ。フフッ。」 「どのあたりを?・・・この辺か?」 「・・・ぁん、、、ぃゃん、、、・・・」 マサトがミルクを後ろから抱き包んで、胸を撫で回す。 ヌルッとしたお湯の手触りのせいか、肌を滑るマサトの指がいつもより滑らかだ。 「、、、ぁふっ、、、マサトぉ、、、」 あぐらをかいたマサトに後ろ座りで抱っこされ、胸を両手で揉み揉みされる。 お湯がクッションとなった浮遊感がいつもと違う感覚にさせる。 淡い湯気に包まれているとはいえ、夕焼けに染まった雲を見上げながら涼しい風を頬に受けている中での行為に、とてもいけないことをしている気になってくる。 自分は本当に高校に入学したばかりの15歳なんだろうか。 それともマサトの女?・・妻? よくわからない。 必要な勉強もまだ途中。 社会常識とかも知るはずもなく、幼い心のまま、女としての喜びだけを先に知ってしまったミルクだった。 花嫁と紹介されても、ミルク自身に実感はない。 結婚の意味さえよく知らないミルクにわかるはずがない。 ・・今はただ・・・肌を滑るマサトの手の感触が気持ち良かった。 それだけでいいじゃん。 マサトを信じて付いて行くって決めたんだもん。 素直に感じてればいいよね? 誰に聞いたのかもわからなかったが、ミルクはマサトの肩に頭をもたれかけて、愛撫に甘い喘ぎ声を洩らし始めた。 「、、、ぁん、、、はぁぁ、、、ぁぁん、、、」 マサトの指がお湯に漂う薄い恥毛を掻き回す。 指先がクリトリスに触れ、クルクルと擦る。 「、、ぁ、、ぁぁ、、、そこ、、、感じちゃぅぅ、、、んふっ、、、」 ミルクは顔を仰け反らせ、指の関節をくわえて囓る。 「ほらまた。・・・自分の指を囓るなよ。」 「んん、、、だって、、、くふん、、、」 「声を我慢しなくていいから・・・臓腑の底から沸き上がる本当の自分を吐き出してごらん。」 「、、本当の、、、自分?、、、ぁぁっ、、、あふぁ、、、」 「気持ち良くて・・堪らないだろう?」 「、、ぅん、、、ぁぁぁ、、、気持ち、、ぃぃ、、、」 「もっともっと感じて・・・いつもいつも気持ちいいのが・・・好きだろ?」 「、、、うん、、、好ゅきぃ、、、」 「クックッ。なら・・素直に感じてればいいのさ。・・ん?」 「、、うん、、、あぁぁ、、、感じるぅぅ、、、」 マサトの指が割れ目を滑り、花弁を開いて蜜壺に侵入する。 「あ、、、ぁ、、ぁぁ、、、そんなに、、、クチュクチュしたら、、、」 「気持ちいいだろ?」 「、、ん、、、だってぇ、、、お湯が入っちゃうよぉ、、、あぁぁん、、、」 「大丈夫。・・効用満点で・・ここもつるつるになるぞ。クックックッ。」 マサトは指二本を奥まで突っ込んで掻き回す。 「、、ぁぁぁっ、、、ん、、ん、、お湯が、、、いっぱい、、入ってくるぅ、、、ぁぁん、、、」 「蛇さんに入って欲しい?」 「、、ぁぅ、、、うん、、、入って欲しい、、、」 「よしよし。・・じゃぁ、入れるよ。」 マサトは軽くミルクの体を浮かせると、蛇の頭を合わせてから、グゥッと押し込んだ。 「あぁぁぁ、、、ぁぁぁん、、、ぁぁ、、、」 ミルクは何度も大きく体を仰け反らせ、体をくねらせて感じている。 「・・感じる?」 「ぁぁぁ、、、感じるぅぅぅ、、、マサトが、、いっぱいで、、、あぁぁぁ、、、」 「はぁ・・・俺も感じるぜ。・・・ミルクがスッポンみたいに吸い付いてくるぜ。クックックッ。」 「ぁぅぅ、、そんなのぉ、、わかんないよぉ、、、」 「ここが・・キュゥーッと・・キツイくらいに締め付けているんだ。」 「あ、、ぁぁ、、、ぁん、、、自分じゃ、、、わかんない、、、」 「もっと慣れてくれば、自分でもコントロール出来るようになるんだぜ。・・俺が仕込んでやる。・・可愛い俺のミルク。」 「、、ぁふん、、、マサトぉ、、、」 「あ、そうだ。・・電車の時みたいにホッピングしようか?」 「、、、ぇ、、、」 「今日はいっぱい練習出来たようだから・・いつもより上手いかな?」 「、、、ぁぅ、、、ぃゃん、、、」 「ほぉ〜ら・・・」 マサトが膝を浮かせてミルクの体を上下させる。 チャプン、、チャプン、、とお湯が波立つ。 それでも家の湯船と違って、波は破門となって広がっていく。 ミルクはマサトの膝に手を伸ばしてつかまりながら腰を上下に動かす。 お湯より浮力のある温泉の中で、フワフワと体が浮く感覚が腰の負担を軽くして、いつも以上に大きく上下する。 ズリッ、、ズルッ、、、ズリッ、、ズルッ、、、 マサトの確かな存在感を膣いっぱいに感じて、ミルクは腰を捻らせよがり狂う。 「あぁぁっ、、あぁぁん、、、あん、、、あん、、あぁぁん、、、」 ミルクのよがり声が岩に響く。 沈みかけの夕日が、雲を赤黒い血の色に染めている。 「あぁぁん、、、ぁぁん、、、あんん、、、あぁん、、、マサトぉぉ、、、」 「いい子だ・・ミルク・・・可愛いぜ。」 「ぁぁ、、もぉ、、どうにかなっちゃぅぅ、、、」 ミルクは何度も痙攣を繰り返し、絶頂の山を越えていく。 どんどん上昇し、天にまで昇りそうな快感だった。 ずっとお湯に浸かっている逆上せも重なって、フラフラと頭を揺らせるミルクの体は、薔薇色に染まっている。 マサトはもう限界だと理解し、 「じゃぁ、イクぞ。」 と言って、ミルクの中にザーメンを迸らせた。 すぐに体を離し、お湯で中を洗い流ように指で掻き出す。 ミルクは半ば気絶状態で、マサトの腕の中、為すがままになっている。 「・・ん、これでいい。」 マサトはぐったりしているミルクの額にキスをすると、抱き上げてお湯から上がった。 頭がヒンヤリとする。 顔や首筋にも冷たいタオルをそっと宛う感触が続いている。 ミルクはぼんやりと目を開けた。 「お気づきになられましたか?」 落ち着いた女性の声に顔を向けると、中年の女性が優しく微笑んでいた。 「・・え?・・・あの・・・」 ミルクには記憶がない。 女性は額のタオルを取って、水の入った洗面器で絞ると、また額に乗せてくれた。 そして、 「私は旦那様の乳母をしておりました者にございます。」 と言って、頭を下げた。 ミルクはマサトの姿を探して視線を動かす。 「旦那様は今、御親族の方々とお話をなさっておいでです。もう少しで、夕餉の宴となりますので、その時には御一緒に、と仰っておられました。」 「・・・そう・・・」 ミルクは広い部屋に寝かされ、知らない女性に付き添われて、急に不安になってきてしまった。 目を閉じれば、体には鮮明にマサトの感覚が残っている。 股間がジンジンと熱い。 額のタオルを股間にも当てたいほどだ。 「・・あの・・・一人でも大丈夫です。・・ありがとうございました。」 ミルクがそう言うと、乳母だったという女性は、 「そうですか?・・では、私は宴の準備の方へ参りますね。どうぞ、ゆっくり休まれますように。」 と、丁寧にお辞儀をして部屋を下がっていった。 ミルクは洗面器の脇にあるもう一枚のタオルの方を、股間に挟んだ。 浴衣だけを紐で括らずに羽織っていただけだったので、膝を抱くようにして体を丸めると、冷たい感触を味わっていた。 「気が付いたって?」 いきなりマサトが障子を開けて入ってきた。 「・・ぁ・・うん・・・」 ミルクはドキッとして体を伸ばした。 「熱は下がったかな?」 マサトは薄い布団を掛けてあるミルクに並んで寝そべると、頬に手を当てた。 「うーん・・・まだかなり火照ってるなぁ。・・お湯の中でラブラブするのは気持ちいいけど逆上せちまうよな。クックッ。」 マサトは起きあがってタオルを絞ろうとするが、 「あれ?・・もう一枚はどこだ?」 と周囲を見回す。 「・・・ぁぅ・・・」 ミルクが気まずそうに爪を噛む。 マサトの片眉が微妙に上がる。 「ん?・・・どこだぁ?」 ピンとくるものがあったらしく、腕を布団の中に入れてくる。 ミルクは観念してじっとしていた。 「クックックッ。見ーつけた。」 マサトは温まってしまっているタオルを鼻に押し当て、 「俺とミルクの混ざった匂いがするぜ。」 と、からかうように笑った。 「・・・ぅー、、、クスン、、、」 「馬鹿だなぁ。・・そんなミルクが可愛いのに・・何を泣く必要があるんだよ?・・愛してるぜ、ミルク。」 マサトはミルクから布団を剥ぎ取る。 袖以外、全裸状態のミルクを愛しそうに眺め、 「我慢出来ねぇ・・」 と呟いて、自分も着ていた浴衣を脱ぎ捨てた。 「、、、ぇ?」 「もっともっと・・俺で熱くしてやりたい・・・」 マサトはミルクに熱いキスをしながら、いきなりミルクの中に硬直した蛇を突き立てた。 「あぁっ、、、あぁぁぁっ、、、んん、、、」 ミルクはマサトにしがみつき、足をマサトの腰に巻き付ける。 グイグイグイッ、、 いきなりの激しさに圧倒されながら、感じて感じて大きく仰け反り、よがり声を上げ続ける。 グイグイッ、、グイグイッ、、 マサトはミルクを抱き締めてキスを貪りながら、腰を激しく打ち付けるように動かす。 ビッチュ、、ビッチュ、、グッチュッ、、、 溢れ出す蜜が飛び散る勢いで突き上げられ続け、ミルクは啜り上げ始めた。 「あぁぁん、、、ぅぅ、、ぅふん、、、あぁぁぁ、、ん、、、」 激しくて、熱くて、感じて、感じて、狂いそうなほど気持ちいい。 もう自分がわからなくて啜り泣く。 「、、くふん、、、ぅああぁぁぁ、、、あぁぅぅぅ、、、」 「ミルク・・・可愛くて・・可愛くて・・・たまんねぇぇぇー・・・」 マサトは自身も雄叫びを上げて、一気に登り詰めた。 「ううぅぅっ・・・あぁぁぁぁぅぅーーーっ!」 静寂が訪れた。 ミルクはマサトの腕の中で時々息をひきつらせながら呼吸を整えている。 マサトもミルクの顔にキスを繰り返して息を整える。 まだ繋がったままの所から、熱い液体が染み出してくる。 ごめん。とマサトの口が動く。 ミルクは微かに笑みを浮かべ、小さく首を振ったが、また次の生理があるまでは不安を抱えそうだ。 マサトがゆっくり体を離し、タオルでミルクの白濁液まみれになった花弁を拭き取ってやっていると、 「恐れ入ります・・」 と、遠慮がちな声がいきなり聞こえた。 廊下に何の物音もせずに、声だけが聞こえてきたのだ。 「皆様、お揃いになられましたので、ご都合がよろしければ、お出でくださいますように、とのことでございます。」 「・・そうか。わかった。・・じきに行くから。」 「はい。では・・失礼いたします。」 立ち上がって去っていく足音は聞こえた。 と言うことは、かなり前から障子の外で、中の行為が終わるのを待っていたのかも知れない。 「・・ぁぅぅ・・聞かれたぁ?」 「クックッ。まぁ、いいじゃねぇか。・・・あれだけ叫べば・・他の客達の所まで聞こえてるだろうしな。」 「・・・えぇッ・・・ぁぅ〜ん・・・」 「こっちじゃ、”よめごと”・・って言うんだぜ。・・クックッ。これで確かに俺の嫁だってわかっただろうさ。」 「・・・ぅぅ・・ひどいー・・・」 「愚図ってねぇで、服に着替えて行こうぜ。」 「・・・恥ずかしい・・・」 「ここで一晩中、よめごとしてたいならそれでもいいぜ?」 ミルクは慌てて体を起こした。 「クスッ。よしよし。・・・愛してるよ、ミルク。・・・何も恥ずかしがることねぇんだぜ。」 マサトは優しくキスをして、頭を撫でた。 そう言われても、あれだけ乱れたよがり声を聞かれていたかと思うと、ミルクは恥ずかしくてまともに顔を上げられなかった。 マサトの親族が歓迎に集まったらしいが、誰がどんな繋がりでどうのこうのと説明されても、まったくわからずにうつむいていた。 マサトはミルクを気遣って、早めに宴を切り上げてくれた。 早めに切り上げてくれたのは嬉しかったが、まだ残ってお酒を飲んでいる人達がいたのに、部屋に戻るなり再び”よめごと”が始まってしまった。 ミルクは声を精一杯我慢していたが、そのうちわからなくなって、啜り泣きながらよがり声をあげていた。 |
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<24> 「蛇神山」 |
§24§「蛇神山」 ミルクが寝返りをうって無意識の中で手を伸ばす。 マサトの腕枕の心地良さを知ってから、自宅で一人で寝ている時も、つい手を伸ばしてマサトを探してしまうことがあった。 ・・・いる訳ないっかぁ・・・ ミルクはいつものように布団の中で、両手足を思い切り伸ばす。 「お目覚めになられましたか?」 知らない声にドキッとして、伸ばした手足を慌てて布団の中に隠した。 声のした方に顔を向けると、昨日、マサトの乳母だと言った女性が、布団の足元の所から少し離れて座っていた。 「おはようございます、奥方様。」 「・・おはよう・・ございます。」 条件反射で挨拶を返したが、ミルクはしばらくじっと頭が働くのを待ってから、この状況を把握しようと記憶を辿った。 ・・・そうだ。 昨夜はマサトの実家に泊まったんだ。 ・・・じゃぁ、マサトがいるはずじゃん? ようやく理解出来たミルクが、布団を胸につかんだまま起きあがって、だだっ広い部屋の中を見回す。 「旦那様でしたら、宮司様がお出でになられて、お話になっておいでです。」 「・・ぐうじ?」 「はい。蛇神神社の神官、宮司様です。」 「・・そうですか・・・」 神社とは縁のないミルクは、わからないまま頷いた。 ミルクの家は不思議なことに七五三のお祝いだけでなく、新年の初詣にも行ったことがなかった。 「少しお話に時間がかかるので、お風呂に入られて支度をされるようにとのことでございます。」 「・・あ・・わかりました。」 また、話し合い? 滅多に帰らない総領に話したいことは山積みかも知れない。 けれど、知らない家に家族と離れて泊まるのは初めてのミルクにとって、心細さが付きまとう。 唯一頼りなのはマサトなのだから、一人にして欲しくなかった。 そんな不満が顔に出てしまっているのか、乳母は申し訳なさそうに目を伏せている。 マサト以外の人に不満をぶつけても仕方がない。 ミルクは素直に伝言に従うことにした。 朝の露天風呂も気持ちいい。 若いミルクでも肩までお湯に浸かると思わず溜息が出る。 コンコンと湧き出るお湯は豊富で、地下が源泉のせいか、鉄分が多いわりにはお湯の色は透明に近かった。 それでも、朝の光の中で見ると黄色がかっている。 お湯の中の白いミルクの肌が、黄金のベールを纏ったように輝いて見える。 ミルクは、体中に薬効成分が浸みてくるのを味わいながら、朝の空気に深呼吸した。 激しく愛され続けた一夜を夢のように思い出す。 けれど、夢ではないことは体が一番良く知っていた。 あれほど激しく愛されたのは初めてだった。 というより、夜を一緒に過ごしたのが初めてなのだ。 ・・・初めての外泊なのに・・・ 朝、目覚めた時に傍らで寝ていて欲しかった。 そうすれば、もっと”初お泊まり”を実感出来たのに・・・ ミルクは何だか損した気分になって、頬を膨らませると、顔をお湯に浸けた。 「・・・ップハァッ・・・顔もスベスベ〜・・・」 ミルクは何度か顔をお湯に浸けて肌の手触りを確かめた。 成分の濃いヌルヌルしたお湯なので、髪もベトついた感じになる。 お風呂を出る前に、中のシャワーで洗わなきゃ。 ミルクは髪をつまみながら髪についた硫黄臭さに眉を寄せた。 それにしても露天風呂はリラックスする。 滑らかな岩肌に寄り掛かり、手足を伸ばす。 そして思いついたように足を大きく広げた。 敏感で柔らかい部分がジワーンと熱くなる。 激しく突き上げられ続けて、赤く熱を持った肌に薬が浸みていく気がする。 「はぁぁ・・・癒されるぅ・・・」 ミルクはしばらく目を閉じて、どこからともなく聞こえてくる小鳥のさえずりに耳を傾けていた。 ミルクが部屋に戻ると、布団は上げられ食事の支度が整えられていた。 マサトも一緒に食事すると聞いて、まだ体は逆上せ気味に火照っていたが、洋服に着替えることにした。 マサトを待ちながら縁側に座って風に当たっていたが、なかなかマサトは戻ってこない。 縁側の石台にサンダルがあったので、ミルクはそれを借りて庭を散歩することにした。 手入れの行き届いた庭にも、花が咲き誇っている。 ミルクは次から次へと花を辿り、屋敷をぐるりと回り込んでいた。 「ミルクのことは誰にも干渉させねぇッ!」 マサトの怒鳴り声がする。 「これは干渉とか言う問題ではないでしょう?」 負けじと声を張る相手も、まだ若い声だった。 自分のことで言い争っている、と思うと急に不安になる。 自分の態度が嫁らしくない、と非難されてるのだろうか? それとも、知性や教養、あるいは家柄が相応しくないのだろうか? ミルクは庭から声のする部屋の方へと近付いて行った。 「覇羅蛇家の花嫁になる以上は、しなければならない仕来りなんです!」 「ミルクは覇羅蛇家のもんじゃねぇッ!俺のもんだッ!」 「魔郷様は覇羅蛇家の総領ということを忘れないで頂きたい!」 「忘れるだってぇ?!・・冗談じゃねぇぜッ!」 マサトは、バシッ!とテーブルを叩いて立ち上がった。 「総領として、俺ほどこの村に貢献した奴が他にいるか?・・組織を強大にし、明治政府に潰されかけ、時代の波から取り残されていた村を、ここまで再興させたのは俺だッ!俺が寝る間も惜しんで築き上げた会社の利益を、自分が贅沢することもなく、この村に注ぎ込んできたことを・・・忘れているのはどっちだッ!」 「・・・魔郷様。・・・忘れてなどいるはずもありません。魔郷様の血の滲む努力は、学友として共に学び、組織の一員として共に鍛え、我が一族を忌み嫌う者達と共に戦い、影となってお側に仕えたこともある私です。魔郷様のご苦労は一番理解していると自負しております。」 「だったら、俺に指図するようなことを言うなッ!」 「指図ではなく、お願いしているのです!」 白装束に薄紫の袴を履いた男が畳みに額を擦り付け懇願する。 「魔郷様の為にも、奥方様になられる方の為にも、どうぞ仕来り破りをなさいませぬよう・・・」 だが、マサトは仁王立ちになって眉間にシワを寄せ見下ろしている。 「伝統や因習が何をしてくれるってんだ?・・・その仕来りの為に、母は徹底した蛇嫌いになり、父を憎み、覇羅蛇家を憎み、俺を憎んだ。」 「ご生母様が先代を憎まれたのは、ご生母様の父君の命と財産を奪ったのが先代と知ってしまわれたからです。」 「だが、蛇への恐怖心を植え付けたのはその仕来りだ。だから、蛇が母の憎しみのシンボルとなっちまったんだぜ?・・・そんな恐怖をミルクに味わわせてたまるかッ!」 そっと立ち聞きしていたミルクにも、ようやく話が見えてきた。 「・・理不尽な理由のみで忌み嫌われる存在がどれほど孤独なものか。・・・忌み嫌われた一族の一員である悟にならわかるはずだ。・・我が一族のみ修得し得る秘技を、必要な時だけ利用して、必要がなくなった途端恐れ始める。・・江戸幕府もそうだった。維新の連中もそうだった。」 「・・・西郷様が、亡くなられなければ違っていたはずですが・・・」 「いや。幕府を裏切ったのがそもそもの間違いだ。・・でなければ、この隠れ郷で、少なくとも忘れ去られたまま、ひっそりと生きられたものを・・。」 「裏切ったのは明治政府の連中です。力を貸せば確たる役所に取り立てると約束しながら、それは西郷様の勝手な口約束とシラを切り、我等の復讐を恐れて、政府の名の元に村の若者をもっとも戦渦の激しい地へと追いやった。・・延々と続く、正義という名目に隠れた一族への迫害。日清日露戦争しかり、第一次第二次世界大戦しかり。・・憎むべきは現国家。・・先代が闇の力を得て、ようやく政府からの陰湿な攻撃を跳ね返せるようになりました。先代は御立派な方です。」 「だが、親父は残忍で勝手で傲慢だった。・・フンッ。ろくなもんじゃねぇ。・・俺は古ぃ話は嫌ぇだぜ。ったく、悟も田舎暮らしに浸かり過ぎて、頭が固くなっちまったんじゃねぇのか?」 「仕方ありません。私に宮司を継げと仰ったのは魔郷様ですし、蛇神様を奉る神官である以上、伝統は守らなければなりません。」 「古臭い伝統や恨みや因習なんてものに囚われてたら、時代に取り残されちまうぜ。・・そんなものの為に俺は・・ミルクを失いたくねぇ。」 「あの方はご生母様とは違われます。なにより魔郷様を愛されておられるではありませんか。」 「けど、泣き虫で怖がりで・・まだ子供だ。」 あ〜〜もぉぉ〜〜! そんなこと人に言わないでよねぇ〜! ミルクは恥ずかしくなって、一人頬を膨らませた。 「・・泣かせたくねぇ。・・怖がらせたくねぇ。・・俺は・・ミルクに嫌われたくねぇんだ。」 「・・・魔郷様・・・」 「・・俺を見るお袋の脅えた目。・・忌み子の俺に人を愛せるはずがないと思っていた。・・だが、孤独な心はいつも探し求めていた。何をか、誰をかもわからないまま・・ポッカリ空いた心を埋めてくれる存在を。・・・ミルクは俺の心にスッポリとはまっちまった日溜まりなんだ。春の温かけぇ日溜まりなんだ。・・・ミルクを俺から奪おうとするなら、俺はもうこの郷を捨てるぜッ!」 悟と呼ばれた宮司は困り切った顔で大きく溜息を吐いた。 腕組みをして目を閉じる。 マサトはまだ肩を怒らせて睨み付けている。 重苦しい沈黙が続く。 グゥゥ〜〜〜キュルルゥゥ〜〜〜 きょぇ〜、こんな時に鳴るなぁ〜! ミルクは慌ててお腹を押さえた。 けれど、万事休す。 同時に二人の男から視線を注がれてしまった。 ミルクは手を顔の横で開き、 「にゃん。」 と言うと、誤魔化すように笑った。 「・・ミルク・・・」 ググゥゥ〜〜 またお腹が鳴ってしまう。 こんな深刻な場面で、何とも間の抜けた音である。 ミルクは庭先から情けなさそうにマサトを見上げた。 マサトは縁側まで来ると、優しく笑った。 「悪い、悪い。腹、減っちまったよな。・・ったく、悟の奴が一つ年上なのを傘にきて、兄貴ぶって言いたい放題なんで参っちまったぜ。」 「・・・そなの?」 ミルクは、眉をひそめて首を傾げる。 「・・・明治政府がなんとかって・・・」 「聞いてたのか?」 マサトが眉を曇らせた。 「だってぇ・・マサトが怒ってるからぁ・・・」 「・・で、話の意味はわかった?」 「あー・・馬鹿にしてるぅ。・・・でも、よくわかんないや。えへへ・・」 「クックッ。わかんねぇよなぁ。そんな昔話。・・俺もわっかんねぇ。」 「・・・シキタリって?」 「う・・・それは・・・」 ググゥゥ〜〜 「つーか、朝飯にしようぜ。」 マサトは苦笑して庭に降りてくると、ミルクの肩を抱いて軽くキスをした。 昨夜は緊張と興奮でせっかくの御馳走もあまり食べられなかったのだ。 しかも初めて経験した激しいメイクラブ。 加えて朝から浸りきった温泉。 お腹の虫を責めるのは気の毒かも知れない。 「はぅぅ・・・まんぷくりんですぅ〜・・・」 ミルクは元乳母の入れてくれたお茶を何口か啜った後、後ろに倒れるように寝ると、脹らんだお腹を掌でさすった。 「食べてすぐ寝ると牛になるぜ。」 「・・ぅ・・もぉぉ・・・」 「ほらなった。ハハハッ。・・・つーか・・吐くなよ。」 「大丈夫だもぉーん。こーんな美味しいご飯、吐いたらもったいないじゃん。」 「ミルクのママだって、料理上手いじゃないか。」 「うん。・・でも、ご飯・・ここのって超美味しい。甘くてふっくらして香りがいいのぉ。特別高級なお米なのぉ?」 「いや。それは水が違うせいだろうな。・・あの山から石清水を飲料水として引いてるからな。」 「へぇ・・・それでかぁ・・・」 「ヘタに井戸を掘っても、温泉成分が混じっちまって料理の味を壊すらしい。」 「・・ふーん・・・山からは石清水・・地下は温泉。・・超贅沢な土地かも。フフッ。」 「交通は不便なままだがな。」 「マサトはヘリコプター使うからいいじゃん。・・村の人は大変だろうけど・・」 「年寄りばっかの村だから、それほど出掛けることもねぇし、人が流れてくるよりはマシって考えが村にはあるみたいだな。」 「あぁ・・そっかぁ。・・それでねぇ・・・」 ミルクは駅前の寂れた光景を思い出しながら頷いた。 「・・年寄りばっかって・・・若い人達は?・・・迫害?」 「クックックッ。今時そんなもんはねぇって。じゃなく、俺の会社か組織か、関連企業に出稼ぎに出てるからだよ。それに高校からは学資援助して都会で勉強させてるしな。」 「あー・・・そかそか。良かったぁ。」 ミルクは安心したように目を閉じて微笑んだ。 「何かスゴイ・・結束の固い村なんだねぇ。」 「ああ。・・・時たま嫌んなるくらいな。」 「えー・・クスッ。そんなこと言ってぇ、マサトだって、ここが好きなくせにぃ〜。」 「・・・何でそう思うんだ?」 「え・・だって、嫌いな所にミルを案内するぅ?」 マサトはハッとして口元を手で押さえた。 「・・・まぁ・・・確かにな。」 そう言うマサトの表情は元乳母が目を見張るほど優しい顔をしていた。 「それで・・シキタリのことはいつ教えてくれるのぉ?」 起きあがってお茶を飲みながらミルクが聞いた。 マサトは表情を暗くして眉間を指先で押さえた。 「・・チッ。仕方ねぇな。・・・田舎なんてものはどこでも似たようなバカげた風習が残ってるものさ。・・だから、ここが特別変だとか思わねぇで聞いてくれるか?」 「うん。」 ミルクが笑顔で頷くのを見て、マサトは深い溜息を吐いた。 「・・あの山は蛇神山って呼ばれている。昔活躍したって話じゃなく、あの山には特殊な蛇が巣くってる鍾乳洞の洞窟があるんだ。」 「わぁ・・鍾乳洞ってロマンチックじゃん。」 「暗い所は苦手なんだろ?」 「真っ暗は嫌だけどぉ・・・ライトアップされてるのは見たことあるよぉ。超綺麗だったぁ。フフッ。」 「・・蝋燭の明かりしかねぇぜ。」 「・・・ぇ・・・」 「都から落ちてきた覇羅蛇家の先祖が、この土地に住もうと決めた時、その蛇と、お互いを守ろう、と、契約したっていうんだが・・本当かどうかは知る由もない。・・ただ、それ依頼契約の証として、覇羅蛇家の本家では妻を娶る時と子供が生まれた時には紹介するってことになっちまったんだ。」 「・・・紹介?・・・って、じゃぁ今でも生きてるの?」 「クックッ。契約したっていう当の蛇が生きてる訳ねぇだろ。こっちだって代替わりするように、向こうも種を繋げてるってだけさ。」 「あ〜・・・そだよね。」 ミルクは納得して頷いた。 「今、蛇長なのは俺が昔飼ってた奴だ。」 「・・神様を飼ってたのぉ?!」 「クックッ。紹介された赤ん坊が、小さな子供の蛇をつかんで離さなかったそうだ。これも何かの縁、とそのまま子蛇を連れ帰ったら、赤ん坊がえらく気に入っておもちゃ代わりに遊んでいたらしい。」 「・・らしいってマサトのことでしょう?」 「赤ん坊時代の俺の行動に、俺が責任取れるかよ。」 「・・・ぅぅ・・・」 「けど、確かに可愛い奴で、俺なりに大事にしてやってたんだぜ。」 「・・・おもちゃ代わり・・・」 ミルクが小声でツッコミを入れると、マサトは、 「だからぁ・・赤ん坊の時までは知るかよッ。」 と、微かに顔を赤らめて言った。 「10歳になって、組織の方で修行しなければならない時になっても、ここを離れ難かったのは、アイツがいたからだ。・・・それを察したのか、アイツが突然姿を消した。俺は心配で三日三晩探し回った。・・けど、結局見つからず、俺は裏切られた思いで寂しくここを去った。・・・フンッ。そしたらどうだ。用があって蛇長に会いにいったら、アイツが偉そうにふんぞり返ってるじゃねぇか。 ”この野郎ッ!心配かけやがってッ!”と頭を殴ってやったぜ。クックックッ。」 「・・・神様じゃ・・・」 「だからな、その程度のものなのさ。言い伝えとか因習ってものはよ。」 「でも、どうしてそれが、いなくなった蛇ってわかるのぉ?」 「・・あはは・・・赤ん坊の頃、思い切り振り回してどこかにぶつけた時に付けた傷が、何度脱皮しても額に残ってるんだ。」 「・・・蛇神様・・・」 「記憶にねぇことまで俺の責任じゃねぇ。」 「・・・ぅぅぅ・・・」 「別れるまで、俺には一番の親友だった。・・気のいい奴なんだがな。」 「だったら紹介してくれたらいいのにぃ・・・」 「けど・・・真っ暗な洞窟だぜ?・・・しかも・・・昔は小さくて可愛かったが、今はとんでもねぇ大蛇だ。・・・お袋は気絶したらしい。」 「・・・ミル・・一人で行くの?」 「いや。俺もついて行くけどな。」 「なら大丈夫。ウフッ。」 「それに、一応仕来りっていうくらいで、妙に形式張るから・・・気味悪く感じるかも知れないぜ?」 「・・・我慢する。」 「巫女みたな着物も着なきゃなんねぇしな。」 「え・・・あの赤い袴姿?」 「ああ。」 「わぁーい。やる、やるぅぅ〜。マサト、写真撮ってねぇ。ママに見せるんだからぁ。」 ミルクが目を輝かせて言う。 マサトはしばらく目を瞬かせてミルクを見ていたが、やがて吹き出すと声を出して笑った。 高い岩壁に三方を囲まれた場所に蛇神神社はあった。 その岩壁に張り付くようにして、お社が建てられている。 外から見た印象は、蛇の彫刻や飾りが多いということ以外は、普通の神社と代わりはなかった。 内側もそう変わらないし、覇羅蛇家以外の者はその奥に入れない定めになっているし、際立って変わっているとは思えなかった。 それでも、神社そのものが初めてのミルクは、珍しそうにキョロキョロと見回していた。 普通は御神体が置かれているという奥の部屋は洞窟への入り口になっていた。 洞窟の中は、確かに蝋燭の明かりだけだと足元にまでは光も届き辛く、揺れる光が不気味ではあった。 ミルクはマサトの腕につかまって、時々顔を隠しながら奥へと進んで行った。 祠のような場所にようやく到着し、奉られた台が手前にあった。 けれど、蛇の姿はない。 マサトはミルクをそこに立たせると数歩前へ出た。 シュゥーッ、、シャーッ、、 と聞こえる特殊な音のない口笛をマサトが吹くと、 ズルッ、、ズズッ、、 と地面を這う音がして、暗い穴蔵から蛇が姿を現した。 長さを測ることはとても出来ない。 太さはマサトの太腿くらいだろうか。 真っ白な鱗は不思議な黄金色の光に包まれている。 黄金の光を放つ真っ白い大蛇。 確かに神を思わせる神々しさだった。 「よう。久し振りだなぁ。元気にしてるか?」 マサトがかつての親友らしく声を掛けると、体を伸ばして顔を間近に近付けた。 額に小さく赤いダイヤ型の痣がある。 マサトはその額から鼻先まで何度も撫でて、懐かしそうな笑みを浮かべる。 白い大蛇も喜んでいるように目を細めていた。 そんな光景が暗闇と静寂の中で続いていたが、ふと、大蛇がミルクの方へ顔を向け赤い舌をチロチロと伸ばした。 「俺の花嫁だ。・・脅かすなよ。」 大蛇は、わかってる、と言いたげにマサトの頬を舌で舐める。 「・・・ミルも・・・撫でていい?」 ミルクが遠慮がちに言うと、マサトは驚いた顔で、 「大丈夫か?・・無理はするなよ。」 と言った。 「・・・ミルも挨拶したいもん。」 そうか、とマサトが頷くと、会話を理解したように、白い大蛇は金色に輝く体をミルクの方まで伸ばした。 ミルクは近くで見るほどに大きな大蛇に息を飲んだが、そっと手を伸ばしてマサトがしたように、額から鼻先へと撫でた。 ヒンヤリとした感触は想像より滑らかだった。 「・・・気持ちいい・・・」 「おい。ソイツにはもう奥さんも子供もいるぞ。」 マサトが片眉をそびやかして面白くなさそうに言う。 「・・・神様なのに・・・焼き餅妬くのぉ?」 「ミルクが嬉しそうな顔をするからだろ。」 大蛇の口が後ろに引かれるように大きく裂けた。 ニンマリ。・・・そう表現するのが一番と思える顔をしたのだ。 「お前も嬉しそうな顔をするなよ。・・フンッ。俺が焦ってるのが可笑しいって?」 大蛇の少し口を開いた顔は声のない大笑いといった感じだ。 が、大蛇はマサトの所に戻って、宥めるように頬をチロチロと舐めた。 「紹介したからな。これでいいだろ?」 大蛇は頭を下げ、体を引く。 「お前も家族を大事にしろよ。・・また、そのうち会いに来てやるぜ。」 大蛇は、数回頭を下げると、また暗い穴蔵へと戻っていった。 ミルクはマサトが”気のいい奴”と言ってたのを思い出し、本当にそうだなぁ、と感心して見守っていた。 そして、ここまでの道中は泣きたくなるほど不気味だったけれど、やっぱり来て良かった、と思うのだった。
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<25> 「魔郷(まきょう)」 |
§25§「魔郷(まきょう)」 神官・宮司悟が息を潜めて随行し、立会人として見守る中、滞りなく対面の儀式は無事終了した。 結婚式や披露宴、それに入籍といった形式は、覇羅蛇家にとってさほど重要ではなかった。 この対面の儀式をすることによって、正式な花嫁として認められるのだ。 つまりミルクは、まだ15歳という幼さで、誰もが認める覇羅蛇家の嫁となったのである。 もっとも、誰もが認めると言っても、この覇羅蛇村と覇羅蛇家に係わる人達の間でのみのことであり、家庭に戻れば悩める少女であり、学園では普通の高校生でしかない。 マサトも、「それほど深刻に受け止めなくていいんだぜ。」と優しく笑って言ってくれるし、「何かをしなければ、何て義務感はいらねぇ。ただ、俺の側で笑っていてくれるだけでいい。」と、甘いキスでミルクの萎縮しがちな心をほぐしてくれた。 それでも、急に慌ただしくなった覇羅蛇家の屋敷で、ミルクは所在なくイジケていた。 披露宴というほどでもないのだろうが、今夜はお祝いの宴が開かれるという。 昨日、親族による歓迎の宴があったばかりなのに、今日はそれを上回る賑やかで華々しい宴になるらしい。 村人も次々とお祝いに訪れるという。 親族だけでも全然覚えきれないのに、これ以上人目に晒されることが苦痛だった。 相手はミルク一人を”覇羅蛇家の嫁”として見れば済むだろうし、集まる人々は皆顔馴染みで気心も知れているだろう。 けれどミルクにとっては、全ての人が全然知らない他人なのだ。 しかも年寄りばかりの村だけに、集まってくるのは皆超大人で、ミルクが気軽に話せる世代はいないだろう。 それでも”覇羅蛇家の嫁”として、笑顔で挨拶し続け、失敗のないよう、失礼のないよう、緊張し続けなければならない。 ミルクの唯一の頼りであるマサトだって、皆から慕われている旧知の存在で、ミルクの知らない世界がそこにはあった。 ミルク側からの人間は誰もいない。 こんな不公平ってある? ミルクは少々膨れ顔でイジケてしまっていた。 深い意味も知らず、ただ、マサトが可愛がっていた蛇に会いたかっただけなのに、それがこんな結果になるなんて、とミルクは自分の思慮の足りなさを後悔していた。 儀式から戻ってすぐに、マサトはまた相談事があるからと待っていた客達の所へ行ってしまった。 ミルクの所には乳母の他二人の女中がやってきて、今夜の宴で着るようにと、何枚かの防腐剤臭い着物に袖を通して合わせ、見立てていった。 ミルクが着物に付着した臭いで咳き込むと、「風を通しておきますので、夜までには臭いも消えますでしょう。」と申し訳なさそうに言っていた。 この申し訳なさそうな顔がミルクは苦手だった。 ミルクの顔に、相手が気を使うような不機嫌さが出てしまっているのだろうか、とまた落ち込んでしまう。 自分が偉ぶる気も、人を見下す気もない。 だけど、気分が悪い時に顔に出てしまう表情はどうしようもなかった。 とびきりのお嬢様でも芸能人でもないもん。 いつもいい子で笑顔でなんかいられない。 そう思いながらも、相手を気遣えない未熟さが自己嫌悪となってのし掛かる。 一人になって、することもなく縁側で日向ぼっこをしていたミルクは、真っ青な空を見上げて、雨が降り出しそうな心の雲が晴れることを祈った。 パッカ、パッカ、パッカ、、 馬の蹄の音に、ミルクは空から視線を庭に戻した。 音の方へ顔を向けると、真っ白な馬に跨ったマサトが、庭伝いにミルクのいる縁側に近付いてくる。 ミルクは唖然として、目の前に来るまで言葉も出ずに眺めていた。 真っ白な馬は足を止めると、ブルルルンッ、と首を振った。 白く長いタテガミがバサバサッと揺れて、何て綺麗な馬なの、とミルクは感心してしまった。 「クスッ。何て顔してるんだ?」 「・・え・・・だって・・・どうしたのぉ?」 「退屈だろ?・・村の奥の方を案内しようと思ってな。」 「・・ふーん・・・話の方はもういいの?」 ミルクは少し拗ねて言ったが、言った途端、目から一粒涙がポロンとこぼれ落ちた。 寂しかったのだ。 マサトの顔を見るだけで泣けてしまうほど心細かった。 「あー、悪かった。俺が悪かったよ。泣かないでくれ。」 マサトは馬から飛び降りると、ミルクの側にきて胸に抱き寄せた。 よしよし、と髪を撫で、頬ずりをする。 「・・・ミル・・・いい子じゃないもん・・・」 「ごめん。一人きりにさせちまって、マジに悪かったと思ってるよ。」 「・・・マサトの為に・・いい子でいようと思ったけど・・・ミル・・そんなに強くないもん・・・」 「いいんだって。いい子でいて欲しいなんて思ってねぇぜ。・・それに、ミルクはそのままで充分にいい子じゃねぇか。・・ん?」 「・・・いい子になれない・・・」 「それは俺に責任があることで、ミルクが悪いんじゃねぇ。」 「・・・だけど・・・」 「ミルクが不安がってるのはわかってたんだ。・・もう、面倒なことばっか言う連中には付き合いきれねぇ。勝手にしろッ、て蹴散らしてきてやったぜ。クックッ。」 「・・・マサトぉ・・・」 「お祭り騒ぎでも何でも好きにすりゃぁいいのさ。・・俺達は俺達で、大事な休日を楽しまなきゃなぁ?」 「・・・ぅん・・・」 ミルクは鼻を啜って頷いた。 「よしよし。じゃぁ、さっさと出掛けちまおうぜ。どうせ俺達にする用事なんかねぇんだし、ミルクにはまだ見せたい景色があるんだ。」 「・・見せたい景色?」 「ああ。村のメイン通りは普通の田舎と変わらねぇけど、細い脇道に入っていくと意外な絶景が隠れてたりするんだぜ。・・興味あるだろ?」 「うん。」 ミルクは絶景という言葉につられて機嫌を直すと、笑みを浮かべて頷いた。 マサトはほっとしたように笑って、ミルクにキスをするとそのままミルクを抱き上げた。 「・・・ぇ?」 ミルクが戸惑っている間に、ミルクを軽々と馬の鞍に乗せ、自分もヒラリと鞍を跨いで手綱を握った。 そして、手綱を引いて馬を方向転換させ、 「しっかりつかまってろよ。・・それッ!」 と、軽く蹴りを入れて走り出した。 「・・ぇ・・ぇ・・・庭走っていいのぉ?」 「平気、平気。コイツは山道で鍛えてるから細い道でも怖がらねぇのさ。」 「・・へぇ・・・あッ・・・ミル・・靴履いてないよぉ・・・」 「歩く時は抱いてやるから必要ねぇよ。」 ・・随分乱暴な王子様だなぁ・・ ミルクは呆れながらも、白馬の王子様の出現に、心の重苦しい黒い雲から薄日が細く差して広がるのを感じていた。 花の咲く野道を勢い良く走り抜けていた白馬も、森の中の細道になると慎重に足元を気にしてゆっくり進むようになった。 太い幹の高い木々が茂る森は薄暗く肌寒い。 樹木の根もボコボコと盛り上がって入り組んでいる。 車が入れるはずもなく、バイクで無理矢理通ろうとしても事故ってしまうだろう。 人が歩くだけでもよろけそうな道だった。 それでもこの白馬は慣れているのか、躓くこともなくマサトとミルクを運んでくれた。 「・・ねぇ・・・どこ行くのぉ?」 「耳を澄ませてれば、そのうちわかるぜ。」 そう言われてミルクは耳を澄ませた。 川の流れのような音と、もっと大きな水音が聞こえる。 何処から聞こえるのかわからない。 森の中は、いったん音を木々が吸収してから反射するので、音の方向がつかみにくい。 ミルクはマサトの胸にもたれて目を閉じた。 森林の豊かで透明な空気を深く吸い込んで深呼吸した。 「そのまま目を閉じていてごらん。」 「・・ぇ・・・」 「いいって言うまで開けちゃダメだよ。」 「・・ぁ・・うん・・・」 ミルクは小首を傾げながら言われる通りにした。 ズザザザァァーーッ---- 大きな水音が近付く。 空気が冷たく湿った感じになる。 ズザザザァァーーッ---- 水音は脅威を感じる程大きくなっていった。 霧のような風が頬に当たる。 「いいよ。・・目を開けて。」 「うん。」 ミルクが目を開けると、目の前に大きな滝が現れた。 見上げる空さえ樹木で覆われる程の深い森の中に、荘厳なほどに美しい細い滝があった。 「・・・ぅ・・ぅっわぁぁ・・ぁ・・ぁ・・・」 見上げながらあげた歓声も圧倒されて途切れてしまう。 水飛沫を巻き上げている滝壺は小さな湖となり、それが川になって森を流れていく。 「・・・スゴイ・・・スゴすぎ・・・」 辺境と言うより、秘境と言った方が相応しい。 どんな神秘も素直に受け入れてしまいそうな雰囲気がここにはあった。 「開発され観光地化されれば、あっと言う間に人とゴミの山だ。自然保護なんて気にもしない大企業は金の亡者の政治家と手を組んで、次々と自然を破壊していった。・・人が荒らした土地に神は住めない。けれど、憂う人々の声は弱く届かず、権利ばかりを主張する肩を怒らせた連中が勝手気ままに踏み荒らしていく。・・ここをそのにの前にはしたくない。」 ミルクは、うんうん、と頷く。 「だが、権力は金っていう木に咲く花。金の木が枯れれば権力も消える。それで、金の木を枯らすまいと、権力は金という養分を求め続ける。・・金に裏付けされない権力なんて存在しねぇんだ。だから権力は金持ちを養護し金持ちの理論を振りかざす。・・・弱者に何が言える?・・・対抗するにもそれに匹敵する力を持たなければ潰されるだけだ。」 「・・・はぁぁ・・・」 ミルクはよくわからなかったが、悲しい気持ちになって溜息を吐いた。 「・・フッ。・・なんて言ってもわかんねぇよな。」 「・・・ぅぅぅ・・・」 「アイヌも、琉球も、心優しい民族だけに、時の権力に潰されちまった。・・けど、この魔郷だけは潰させねぇ。」 「・・・マサト・・・」 「俺は俺の大事なもんを傷つけられたくねぇのさ。・・もちろん、お前もな。」 「・・・え?」 「だから、お前も俺の大事な守るべき存在だって言ってんだよ。」 「・・・あ・・・」 「お前を傷つける奴等は容赦しねぇ。・・これは戦いなんだ。勝たなきゃ意味ねぇんだぜ。・・クックックッ。誰かが言ってたっけな。”勝てば官軍”ってな。」 「・・・意味わかんない・・・」 「つまり、勝った方が正義になるってことさ。裏でどんな汚ねぇことをしてようがな。・・フンッ。」 ミルクは何とか理解しようとしていたが、頭が混乱してきて溜息を吐くと、 「ミル・・わかんない。」 と、頬を膨らませた。 「あぅ・・・また、機嫌損ねちまったかぁ?・・・悪ぃなぁ・・どうもこの郷にいると、調子が狂うぜ。」 マサトは苦笑して、 「滝、もっと近くで見るか?」 と、耳にキスをしながら言った。 ミルクは近付き過ぎることに何だか怖さを感じて首を振った。 「そうか・・・よし、それならもっと明るい所へ行こうぜ。」 マサトは白馬を反転させて、来た道を戻り始めた。 マサトが次に案内したのは見晴らしのいい峠だった。 村の集落の半分くらいは見通せる所だったが、マサトの屋敷は高い森に阻まれ見つけることは出来なかった。 ただ、この郷と谷境に、更に高い山々が囲んでいることはわかった。 いくつもトンネルをくぐり抜けてきたはずである。 「・・・遠い故郷だねぇ・・・」 「・・ああ。・・・遠いな。」 「・・・マサトは・・・都会は嫌い?」 「いや。言っただろ。俺はけっこう人混みが好きだって。」 「・・うん。」 「別に俺は人が嫌いな訳じゃねぇんだぜ。・・それに、街の方が俺の性に合ってるみたいだ。」 「そっか。・・フフッ。良かったぁ。」 「俺の生き方に理屈はいらねぇ。ただ、負けたくねぇ、それだけでいいのさ。なぁ?」 「・・ミル・・・負けてばっかだけどぉ・・・」 「負けてもミルクは可愛いからいいんだよ。」 「・・ぅぅ・・それって意味不明ぃぃ・・・」 「誰もお前の可愛さには勝てねぇってことさ。」 「それってねぇ・・判官贔屓って言うんだってぇ。・・多分・・・」 「アッハハハッ。何だっていい。・・俺は俺の思うように生きるだけだぜ。」 ミルクは肩越しにマサトの顔を見上げた。 少年のような熱い眼差しは、遙か地平線に向けられていた。 ふと、蛇神の子供を振り回しておもちゃにしていた赤ん坊のマサトの姿が浮かんで重なる。 ミルクは何だか可笑しくなって、クスクスと笑い出した。 「・・?・・何だよ?」 「ううん。・・クスッ。ただ、強いっていいなぁ、って思っただけ。」 「・・ミルクは俺が守ってやるぜ。」 マサトはそう言ってミルクを胸に抱き包むと、優しいキスをした。 その時、空から、バリバリバリバリ、と音が聞こえてきた。 マサトは空を見上げ目を凝らす。 「・・・どうやら戻らなきゃならねぇらしいな。」 と、呟いたマサトは、 「急いで屋敷に戻るぜ。しっかりつかまってろ。」 と言うなり、馬を蹴った。 前屈みになって馬を走らせるマサトと、激しく首を振り全力疾走する白馬に挟まれ、ミルクは振り落とされないように必死でしがみついていた。 屋敷に戻るとヘリコプターが先に到着していた。 馬を降り、ミルクを腕に抱き上げたマサトがヘリコプターに近付く。 「景山、どうした?」 「すぐにお戻りいただけますか?・・事情は中で。」 「うむ。」 マサトはミルクを抱いたままヘリコプターに乗り込んだ。 屋敷から飛び出してきた男が、 「旦那様ッ。・・あの・・お祝いの宴の方は・・?」 と、困惑顔で聞く。 「好きに祝ってくれ。それでいい。」 マサトは不敵に笑ってドアを勢い良く閉めた。 |
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