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<36>
「幸福の条件」
§36§「幸福の条件」

 ミツルが学習塾から通りに出て深呼吸した時、不愉快な男の姿が目に入り、思い切り顔をしかめた。
「よぅ、お疲れ。・・ククッ。そんな顔するなよ。待っててやったんだぜ?」
「・・俺に用はない。」
「生憎だが、俺の方にあってな。」
 ミツルはマサトの威圧的な雰囲気に目尻を痙攣させて睨んだ。
「有栖川、どうした?・・帰ろうぜ。」
 ミツルの肩を叩いて、川端が声を掛けてきた。
 いつも塾から駅まで一緒に帰っているのだ。
 川端はマサトの方へ顔を向け、目が合うと会釈してきた。
 マサトは指二本をコメカミに軽く当てて放し、挨拶を返した。
「有栖川の知り合いか?」
「ああ。・・ちょっとな。」
 ミツルは目を伏せ、強ばった肩を解すように溜息を吐くと、
「川端。今夜は先に帰ってくれ。」
と言った。
「ふーん・・・いいのか?・・一人で大丈夫か?」
 川端はマサトを警戒してミツルに小声で囁いた。
「ああ。心配ないよ。・・また、明日な。」
「そっか。・・わかった。じゃぁ、またなぁ。」
 川端はミツルに手を上げると、駅の方へと歩いていった。

 クラブ『蛇窟』(ジャック)。
 けたたましい騒音のような音楽が薄暗い店中に響き渡っている。
 タトゥーも露わなフレンチスリーブのライダースーツを着たマサトの後ろを、制服姿のミツルが付いていくのも奇妙な取り合わせだった。
 ダンスフロアは人がいっぱいで、席と席の間でも腰を振って踊っている男女がいる。
 マサトは人を掻き分けるようにしてカウンターまで行くと、
「マスター。上の部屋、借りるぜ。」
と声を掛けた。
 マスターはマサトに鍵を渡し、
「飲み物はいかがなさいますか?」
と身を乗り出して聞く。
 音楽に掻き消されがちの声を聞き取る為だろう。
「ブランディーと・・・」
「アイスコーヒーをブラックで。」
「だそうだ。すぐに持って来い。」
「畏まりました。」
 マスターが丁寧に頭を下げている間に、マサトは二階への階段を上がり始めた。
 二階は一階ほどの騒音はなく、ビリヤードのテーブルがいくつか並んでいるフロアがあった。
 その反対側に、部屋が並び、一番奥の部屋をマサトは鍵を使って開けた。
 エアコンがすでに効いているようで、ドアを閉めると店内に充満していた淀んだ空気が一掃される。
 照明は暗かったが、窓からは街の通りのネオンライトが瞬いていた。
「ここの夜景もけっこう気に入っているんだ。」
 マサトはゆったりとした革張りのソファーに座り、ミツルにも座るように促した。
 防音室になっているのか、二階まで届いていた音楽がピタリと止んでいる。
 普通に話せる空間にミツルは安堵の息を洩らして、マサトの向かい側に座った。
「・・あなたの店ですか?」
「いや。マスターと知り合い、という程度かな。」
 マサトはそう言うと、窓の外に目を向けた。
 店に入る時、外観を観察したが、この部屋には気付かなかった。
 多分外から見えないガラスを使っているのだろう。
 防音設備といい、この室内の店とはガラリと雰囲気の違う豪華さから判断すれば、マサトの為だけに用意されている部屋に思える。
 カツッ、カツッ、
 ドアに取り付けられているノック用の飾り具が鳴らされ、マスターが注文した飲み物を持ってくる。
 それをテーブルに並べたマスターは、
「他にご用がございましたら、内線でお申し付け下さい。」
と言って、部屋を出ていった。
 呼ばれるまでは邪魔はしない、と言う意思表示か。
 ミツルはアイスコーヒーをストローは使わず、グラスのまま一口飲んだ。

「あなたの用件は何です?」
「ミルクに頼んで渡して貰った本は読んで貰えたかな?」
「あのつまらない民話ですか。受験には何の役にも立たない本など、ありがたくないですね。」
「君が書店で買い求める本も、法律や哲学といったものばかりで、受験に関係ねぇだろ?」
 ミツルは目を眇めた。
「・・そこまで調べて・・・何のつもりですか?」
「君とも友好関係を持ちたいと思ってね。」
「・・それは無理ですね。」
「フッ。そうやって、君も鬼になるか。・・兄というのは愚かなもんだぜ。」
 ミツルは、カッ、と目を見開いてマサトを睨んだ。
 マサトはブランディーで唇を湿らせ、続けて言った。
「わざわざ君達の先祖の系図と、歴史の概略まで添えて、枝折りを挟んだ部分を読むようにと、手紙を書いてやったのに、何にも感じねぇのか?」
「民話はともかく、それ以外のことはすでに知ってました。」
「ほぅ・・・それで?」
「歴史に非情さや理不尽さは付き物でしょう。」
 マサトは呆れた顔でミツルを上下に眺め回した。
「これが、人と国と自然を愛した王の末裔か?・・・ざけんじゃねぇッ!テメェは腰抜けかッ?」
「恨みを抱き続けてどうなると言うのです?・・今は皆、昔の悲しい記憶を乗り越え、平和に暮らしているじゃないですか。」
「平和だと?・・悲しい記憶は消えたみたいに言うんじゃねぇぜ。・・敗戦国の代償として占領下にあったのはつい最近のことだぞ?・・しかも、今でも軍事基地が置かれ、度々悲惨な事件に巻き込まれてんじゃねぇか。」
「・・だからと言って、俺に何が出来ます?・・出来ることは、不当な弾圧を受けたり、権利を主張出来ない人達に代わって、正当な権利を確保するよう努力することぐらいでしょう?・・だから、弁護士を目指していました。・・・あなたに会うまでは。」
「俺に会うまでだぁ?・・ケッ。それが冷静な判断を失った鬼の行為だって教えてやったのに、わかんねぇのか?・・・俺の何が気に食わねぇ?・・お前に俺の何がわかる?・・チッ!・・同じ境遇で少しは理解しあえると思っていたが、とんだ見込み違いだな。こんな腰抜けの腑抜け野郎ッ。プライドの欠片も持ち合わせちゃいねぇぜッ。」
 ミツルは唇を噛んだ。
「俺にもプライドぐらいあります。・・あなたの話はさっぱりわからない。ただ、あなたが現に俺のプライドを傷つけているという事実以外は。」
「くだらねぇぜッ!何がプライドだッ?・・・テメェ自身のちっせぇ感情的憤慨ぐらいでプライドなんて言葉を気安く使うんじゃねぇッ!」
 マサトの激しい怒りにミツルは度肝を抜かれた。
 怒りのオーラが渦を巻いてマサトから立ち上っているようだった。

「・・いいだろう。・・お前に俺の郷の歴史を教えてやろう。」
 そう言って、マサトはミルクが立ち聞きした覇羅蛇の郷の裏切りと迫害の歴史を語った。
「・・あの第二次大戦の最終手段だった特攻を知っているか?・・飛行機ごと敵艦に突っ込めと命令された特攻だ。・・歴史じゃ皆志願したことになってるが、”お国の為”と無理矢理納得させられたんだぞ。その選ばれた特攻兵に俺達一族の村の者が何人いたか、わかるか?・・これまでも散々兵役に取られ、激戦地での戦士者を出してきた村だぜ?・・人口はすでに三分の二以下に激減してた。・・その村から100名以上が特攻兵に選ばれているんだぞッ!信じられるかッ?・・だが、それが現実なんだッ!」
 ミツルは息を飲んで聞いていた。
「法律で人権を守るって?・・国家が”お国の為”という正義を振り翳してやってることに、どんな抗議が出来るってんだッ!・・権力にはそれに対抗出来るだけの力がなきゃ、潰されちまうだけなんだよッ!」
 マサトはグラスにブランディーを注ぎ、ゴクゴクと飲み干した。
「・・お前にはもうプライドなんかねぇ。かつて繁栄した王国の王家の血筋だろうが大昔のことと知ったこっちゃねぇ。かつて独立国家だった島国が、武力で吸収しちまった国の起こした戦争で、もっとも激しい戦禍を受けて、何万という人々が亡くなった事実さえ、もう過去の他人事だ。今尚、敵国の基地にされちまってても、何の憤りも感じやしねぇ。・・・島を追い出されたとはいえ、ヤマトも住めば都か?・・遠い土地のことなんて興味もねぇか?・・残された島民が今でも苦痛の悲鳴をあげてるのが聞こえもしねぇってか?・・・それで、どんなプライドがあるって言うのか、教えて貰おうじゃねぇか。・・えッ!」
 ミツルは膝の上で拳を握り締め震えていた。
「ミルクは・・泣いたぜ?・・・可哀想だってなぁ。・・・ワンワン、ワンワン、・・滅びた王国も、残された島民も、島を愛しながら追い出された曾祖父さんも、みんな可哀想だって、泣いて震えてたぜ。・・・なのに、テメェは、”もう関係ない”の一言で済ますのか?・・挙げ句が”歴史に非情さや理不尽さは付き物”だと抜かしやがるッ。・・冗談じゃねぇぇぇッ!!”付き物”なんて言葉で、同胞を殺された抉られるような胸の痛みを片付けられてたまるかッ!!・・・もう、テメェのその心には鬼が住んじまってるようだな。」
 マサトの目から一筋の涙が零れて頬を伝った。
 マサトは革手袋の甲で拭うと、またブランディーを煽った。

 長い沈黙が続いていた。
 が、ようやくミツルが、震える息で溜息を吐くと、
「・・済みませんでした。」
と言った。
 マサトは黙ったまま窓の外を眺め、ブランディーグラスを傾けている。
 ミツルはしばらくその横顔を見つめてから、また口を開いた。
「・・それで・・・あなたは・・あなたの一族は、何をしようとされているのですか?」
 マサトはゆっくり目線だけをミツルに向けた。
「政府が覇羅蛇の郷の者達を潰しちまいたいのは、郷の豊かな自然に目ぇ付けた金持ち連中に金を積まれて唆されてるからだった。政府と財界が手ぇ組んで私利私欲の悪巧みを謀ったら、もう法律なんて届きゃしねぇぜ。・・わかるか?」
「・・・はい。」
「国家権力をバックに持つ奴等と抵抗するにはこっちも金と力を持つしかねぇんだ。・・だが、普通に地道に働いて、どれだけのことが出来る?・・日本経済は相手の掌に握られちまってるんだぜ?・・働き盛りの若者をみんな殺されちまった年寄りと子供ばかりの貧しい村に何が出来る?・・・お前の理論で言えば、泣き寝入りしかねぇよなぁ?」
「・・・済みません。」
「国家を背負った悪党に対抗するには、それ以上の賢い悪党になるっきゃねぇんだよ。有無を言わせぬだけの金をつかむしかねぇ。押し潰されねぇだけの力を持つしかねぇ。・・・悪党と誹られて結構。一般人の理解なんていらねぇ。・・俺には一族と郷と郷の人々を守るってぇプライドがあるからなッ!」
 ミツルは何度か放心したように頷いた。
「・・・わかりました。」
「・・フンッ。何がわかったって?」
「俺にはあなたを非難する資格がない、ということと、・・妹が何故あなたに惹かれたのか、ということを、・・です。」
 マサトは片頬に不敵な笑みを浮かべた。
「そりゃ、結構なことだ。」
「・・・・・ただ・・・・・」
「あ?」
「・・・あなたの闇の組織が、もし麻薬といった類を扱っているなら、やめて頂きたい。」
「・・・はぁ?」
 マサトは内心、ギクリ、としたが顔には出さずに眉をひそめた。
「騙し騙され、陥れ陥れられる。そうした関係は闇に限ったことではなく何処にでも存在します。例え闇がそうした行為を得意としていたとしても、あなたの言われる金と力を持つ為の手段だと言うなら認めましょう。・・・ですが・・・麻薬だけはどんな大義名分があろうと、許されざる物です。」
「・・・フッ。随分、潔癖症じゃねぇか。・・・国によっちゃぁ、国家レベルで売り捌いてるぜ?」
「そんな国、消えてしまえばいい。」
 ミツルは静かながら、キッパリ、と言い放った。
 マサトはミツルの眉目秀麗な顔を見つめた。
 光を纏ったように、内面からの正義感が眩しいほどの輝きとなって、滲み出しているように見える。
 視線を逸らして煙草を取り出し、火を灯した。
「麻薬は人から人の心を奪います。・・・あなたは俺の心に鬼が住んでいると言いました。・・そうかも知れません。・・人は多少の差はあれ、心に鬼の住処を持っているものです。心が迷ったり、怒りに激昂した時に鬼は住み着いてしまうのでしょうね。・・・ですが、麻薬の類は人から人の心を奪い鬼と化します。鬼を追い出す為の人の心さえ失ってしまったら、人そのものが鬼になってしまいます。・・・それはもう、悪魔の所業です。」
 マサトは奥歯を、ギリッ、と噛みしめた。
「・・誰もが正しく生きられる訳じゃねぇぜ。中には薬に頼らなきゃ生きられねぇって奴だっている。それだけ、社会が矛盾や裏切りに満ちてるってことだ。・・・だから、麻薬の使用を認めてる国だってあるんだぜ?・・・かつては中国もそうだったし・・・歴史でもアヘン戦争ってのがあるだろうが。・・世の中、そんな綺麗事じゃ済まねぇんだよ。」
 マサトの言葉にミツルは小さく溜息を吐いて首を振った。
「・・・やはり・・・扱っているんですね?」
「俺はまだ何とも答えちゃいねぇぜ。世間一般の常識ってものの裏側を言ったまでだ。」
 なるべく冷静を装いながら、マサトは煙草の煙を吐き出した。
「でしたら、答えてください。」
「言う必要はねぇな。」
「・・言えないんですね?」
「あのなぁ・・・お前は俺を国家権力を使っても潰すって抜かしやがったんだぜ?・・そんな奴に組織に関することを言えるかよ。麻薬に限らず、どんなことでもな。」
「・・その考えは今の俺にはもうありません。・・やはり弁護士を目指し、非情な社会に対し、非力ながらも自分に出来る抵抗をしていこうと思います。」
「ご苦労なこったぜ。」
「武力を持たない民族の末裔ですから・・戦うにしても、己の頭脳、英知のみでするしかありません。」
「なるほど。」
「それはともかく、・・・あなたが麻薬に関わっていない、と断言してくださらない限り、俺はあなたと妹の関係を祝福しかねます。」
 マサトの頬がピクリと動いた。
 煙そうに目を細め、煙草の煙を燻らせる。
「・・・何故そこまで麻薬にこだわる?」
「では、あなたは妹に麻薬を与えますか?」
「そんなことするわけねぇッ!」
 マサトは革手袋をした掌で煙草を握り潰した。
「俺も家族や友人には麻薬に染まって欲しくない。それは、どんな人達にもある思いでしょう。」
「そーゆーありがたい家族や友人がいても、自分から進んで欲しがる奴等は腐るほどいるんだぜ。適当な遊び感覚で、落ちていく自分を楽しんですらいる。そーゆー連中をまずご指導されたらどうなんだ?優等生さんよ?」
「簡単に手に入らなければ興味も持たないでしょう。まずは供給をやめるべきです。」
「フン・・・なら、その辺の組織団体を一つずつ回って訴えるんだな。」
 マサトはブランディーをグラスに注いで、乾きを覚えた喉に流し込む。
「・・・そのことを今俺一人が叫んでも、どうにもならないことぐらいわかっています。・・ですから、今問題にしているのは、あなたと妹と俺とのことです。・・・俺自身反省すべき点もあり、あなたを先入観で誤解していたことは認めます。出来れば、妹と幸せになって頂きたい。・・ですが、俺の心情として、あなたが悪魔の仕事に手を染めている限り、妹は幸せにはなれないと思っています。妹が幸せになれないと思う以上、祝福は出来ません。」
 マサトはブランディーをゆっくり飲みながら、眉間にシワを刻んだ。
「俺としても、出来れば妹の為に祝福したい。・・・お願いします。・・たった一つの条件を呑んで頂ければ、もう他のことは一切問いません。どうか、俺に祝福させてください。」
 ミツルはソファーから立ち上がって頭を下げた。
 だが、マサトは黙ったまま答えなかった。
 ミツルは立ったまま待っていたが、チラリと腕時計に目をやった後、
「済みませんが、今夜はもう遅いので、これで失礼させて頂きます。」
と、礼儀正しく頭をさげて挨拶をした。

 荷物を持ったミツルが部屋を出る時、ハードロックの音楽が部屋に飛び込んできた。
 ドアが閉められ、また静寂が戻り、マサトは深い溜息を吐いた。
 麻薬に関しては、ミツルの言い分が正しいだろう。
 それぐらいわかっている。
 わかってはいるが・・・
 マサトは舌打ちをすると、また煙草に火を点けて煙りを燻らせ始めた。

<37>
「悪魔でも…」
§37§「悪魔でも…」

 ・・・悪魔かも知れねぇな・・・。
 目の前に転がる死体を冷たく見下ろしながら、マサトは心の中で呟いた。
「おい。」
「はッ。」
「こいつのペニスを切り取って、愛人の部屋に放り込んでやれ。」
「・・愛人ですか?」
「女房はもう長いこと見てねぇかも知れねぇからな。クククッ。」
「承知しました。」
 ・・・俺に刃向かう奴は容赦しねぇ。
 マサトは木偶人形と化した男の腹を思い切り蹴りあげた。
 巨漢が一度宙に浮き上がり、数メートル先へと転がっていく。
 マサトの密売ルートに割り込もうとした組織の親玉の末路だった。

 シャワーを浴びてローションを肌に擦り込み血の臭いを消す。
 それからライダースーツを着込み、毒蛇エキス入りのワインを一気に飲み干したマサトは、ハーレーのFLHTCUI1450でマンションに急いだ。
 マンション近くで白い半袖のセーラー服を着たミルクの後ろ姿を見つける。
「よぉ。夏服か?」
 近づいてバイクを停め、声をかける。
「あ、マサト。・・うん。もぉ、冬服は暑いもん。」
 ミルクは嬉しそうな笑顔で腕に抱きついてくる。
 ミルクの髪から、フワッ、と甘い香りがする。
「可ー愛いーなぁ。・・このままイチゴシロップでもかけて喰っちまいたいぜ。クックッ。」
「・・ぅー・・かき氷じゃなぁーい・・・」
「しっかし、日焼けしねぇ肌だぜ。」
 マサトはミルクの短い袖から見えている細い腕をつかんで唇を滑らせた。
「、、、ぁん、、、」
「クスッ。バッグ持ってやるから後ろに乗れよ。」
「わぁい。」
 ミルクはスポーツバックをマサトに渡して、バイクに跨った。
 通学鞄は背中に背負っている。
 マサトのお腹に腕を回して、背中に頬を押しつけた。
「しっかりつかまってろよ?」
「うんッ。」
 マサトはゆっくりとバイクをスタートさせた。

「・・制服のまま押し倒してぇ・・・」
「だぁめぇ。」
 ミルクは制服を自分で脱いで、ハンガーに掛けていく。
 2時間くらいしか一緒にいられない放課後デート。
 少しでも長くマサトの腕の中で甘えたい。
 それでも、まだショーツだけは自分で脱ぐ勇気がなかった。
「今日はピンクの水玉か・・・いいね。」
「やぁ〜ん、、、マサトのエッチィ〜、、、」
 ミルクはすでにベッドで待っているマサトの横へとダイブする。
 マサトはすかさずミルクの上に覆い被さる。
「捕まえた。」
 マサトがミルクの顔を覗き込むと、頬を赤らめたミルクが上目遣いに瞬きする。
「、、ゥフッ、、、」
「・・ミルク・・・お前さえいてくれりゃ・・他には何もいらねぇ。」
 マサトは唇を重ねて、ミルクの甘い唾液を貪る。
 自分のものだと主張するように、ミルクの丸い胸を鷲掴みにする。
 弾力のある柔らかな肉が指から零れそうだ。
 突起する可愛いピンクの先端に吸い付く。
「、、ぁ、、、ぁ、ぁ、、、」
 両手で左右の膨らみをつかんだマサトは、谷間に顔を埋め、両方の胸を寄せて甘い匂いに浸る。
 ・・・何て魅惑的な香りだ・・・。
 ・・これなら毒蛇も自分の醜さを恥じて寄りつけねぇだろうぜ。
 マサトは脹らんだ滑らかな肌に舌を這わせ、交互に乳首を吸った。
「、、ぁぁん、、、マサトぉ、、、」
 体を捻って感じているミルクの両足が、自然と開いてくる。
 マサトはピンクの水玉パンツに手を掛けて、一気に剥がした。
 蜜が染みたパンツを鼻に押し当て、甘酸っぱい香りを胸いっぱいに吸い込む。
「・・いい匂いだぜ・・・」
「ぁ、、ぃゃん、、、」
 ミルクはマサトからパンツを取り返すと、ソファーの方へ放り投げた。
「クックッ。いいじゃねぇか。・・ん?」
「やぁだぁ、、、っもぉ、、、男のそーゆー気持ちって、、、ホンットわかんない、、、」
 ミルクは頬を膨らませ、背中を向ける。
「なら・・こーゆーのはわかるのか?」
 マサトはミルクの両足を肩に担いで、股間に顔を埋めた。
 蜜が染み出して濡れている花唇にキスをする。
「ぁぁ、、、ぁぁん、、、」
 花唇を舌で割り、花弁を舐めると、蜜が溢れてくる。
 鼻を押しつけ蜜をつけて、クリトリスを鼻でグリグリと擦る。
「ぁ、ぁ、ぁ、、ぁぁ、、、」
 ミルクはマサトの髪をつかんで背中を仰け反らせる。
 鼻でクリトリスを刺激され、舌と唇で花弁と蜜壺を愛撫され、腰を何度も浮かせてよがり声をあげる。
 ようやく顔を上げたマサトは蜜まみれのままミルクにキスをした。
「、、ん、、、ん、ん、、、いゃぁ、、、」
「何が嫌なんだよ?・・わっかんねぇなぁ。」
 マサトは悪戯っぽく笑って、顔をミルクの顔に擦り付けた。
「、、ぁぅぅ、、、だってぇ、、、」
「俺のには夢中でしゃぶりつくくせによ。」
「、、、ぅぅぅ、、、」
 ミルクが拗ねた顔でうるうると見つめる。
「クックッ。今日は舐めたくねぇのか?」
「、、、舐めるぅ、、、」
 ミルクはマサトの股間から伸び上がっている蛇を握ると、ペロペロと舐め始めた。
 最近は段々マサトの感じる場所や喜ぶポイントがわかってきた。
 大きく張ったカリをクルクルと舌で回し舐め、くぼみを舌を尖らせてつつく。
「あぁぁ・・・いいぜぇ。・・・そのままくわえてくれ。」
「うん。」
 ミルクは大きく口を開けてくわえ込む。
 吸い付きながら唇でカリを擦る。
 蛇の胴体を握った手も同時に動かし、次第に深くくわえて擦り上げる。
 ジュブッ、、ジュブッ、、ジュブッ、、、
 我慢汁とヨダレが混じって、湿った音が響く。
「うぅ・・・最高にいけてる・・・」
 マサトは眉間に苦悶のシワを寄せ、熱い息を洩らす。
「はぁ・・・いいぜ。後はひとつになろう。」
 マサトに髪を撫でられ、頷いたミルクは蛇をズルッと口から出した。
 マサトはミルクを仰向けにすると、両足を曲げさせ膝を左右に大きく開いた。
 膣口に蛇の頭を合わせて、ゆっくりと押し込んでいく。
「ぁぁぁー、、、ぁぁ、、、んー、、、」
 ズブッ、、、ズブゥッ、、、ズッ、、、
 蛇の赤黒い胴体がめり込んでいく。
 大きさに慣らせるようにゆっくりと動かす。
「ぁぁぁん、、、ぁぁぁ、、、奥まで当たるぅ、、、」
 蛇の胴体が根元まで蜜で濡れて妖しくテカる。
 ズブリッ、、ズブリッ、、、
 次第に速度を上げて膣を擦る。
「あぁ、、あぁ、、あぁん、、、気持ちいい〜、、、」
 ミルクの膣壁がキュゥゥゥ〜ッと締め付けてくる。
「はぁぁ・・・俺も気持ちいいぜぇ・・・」
 ズッブッ、ズッブッ、ズッブッ、、、
 マサトは時々目を閉じて、天井に顔を向けて快感を噛みしめているようだ。
 ミルクは擦られる股間の熱さに思わず手を伸ばす。
 ズルッ、、ズルッ、、ズルッ、、ズルッ、、
 熱く脈打つ固い胴が、指先を滑って体の奥深くまで侵入してくる。
 太く硬直した胴体に押し広げられた花弁が、引き裂かれんばかりに広がっている。
「、、ぁぁぁ、、、マサトの蛇ぃ、、、コチコチぃぃ、、、」
「はぁ・・・ミルクの膣壁は・・トロけそうなほど柔らかいぜぇ・・・」
「、、ん、、ん、、ぁぁぁ、、、マサトぉぉ、、、」
 ミルクが両手をマサトに向けて伸ばし、甘えて首を傾ける。
「あぁ・・・ミルク・・・いい子だぜ。」
 マサトは上体をミルクの上に傾けてやる。
「、、ぁふん、、、マサトぉ、、、」
 ミルクはマサトの背中に腕を回してしがみついた。
「よし。・・一気にイクぜぇ。」
「うん、、、イクぅ、、、」
 マサトは腰を大きく動かし、ミルクの子宮を突き上げる。
「あぁぁぁ、、、あん、、あん、、、ぁぁぁぁん、、、」
 ジュップッ、、ジュップッ、、ジュップッ、、グッチュッ、、、
「、、ぁん、ぁん、、ぁぁん、、、あふっ、、、ぁん、ぁぁん、、、」
 ミルクは大きく仰け反り、開いた足のつま先まで反り返して感じている。
 学校の授業で上手く答えられなかったことも、どこかに飛んでいく。
 体育の時間にコケたこともキレイに消えていってしまう。
 何もかもが消えて、マサトだけが心いっぱいに広がっていく。
「あぁぁぁ、、、マサトぉぉ、、、あぁぁ、、、愛してるぅぅ、、、」
「俺も、めいっぱい愛してるぜぇぇ・・ミルクぅぅ・・・うぅぅ・・・」
 マサトは小刻みに腰を震わせ登り詰めていく。
「あ、あ、あ、ぁぁ、あ、ぁぁぁ、、、イク、、、イクぅ、、、あぁぁぁぁ、、、」
「イクぜぇぇーーッ!・・・はぅぅぅっっっ・・・くぅぅぅ・・ぁぁぁっっ!」
 
 情熱の甘い嵐が過ぎ去って、気怠く心地いい余韻に浸る。
 マサトは、ミルクの汗ばんだ髪を撫でながら、煙草をゆっくりと味わっている。
「・・もっとゆっくりしてぇよなぁ。」
「、、う、ん、、、」
 ミルクはブリックパックのいちごオレをストローで飲んでいる。
「・・結婚式はともかく・・早く一緒に暮らしてぇよなぁ。」
「、、、んー、、、でもぉ、、、ママがきっと寂しがっちゃうもん。」
「そんなこと言ってもなぁ、いずれ結婚すればそうなるんだぞ?」
「、、、ママも一緒に暮らしちゃダメ?」
「あー?・・・クックックッ。そりゃなぁ、俺は構わねぇけど・・・兄貴が拗ねるんじゃねぇか?」
「、、、そっか、、、」
 ミルクはストローをくわえたまま頬を膨らませた。
 マサトは煙草を灰皿に消し捨て、ペットボトルの水を飲む。
 ミルクにはミツルを言い訳に出したが、自分の背負う闇の世界を考えると、ミルクの母親の年齢では容認しきれないだろうと思う。
「・・一緒に暮らさなくても、いつでも泊まりで遊びに来て貰えばいいさ。」
 髪を撫でて言ってやると、ミルクが嬉しそうに、
「うんッ。」
と答える。
 と、口を離したストローから中身が吹き出してきた。
 頬を膨らませた時、空気が入ったようだ。
「あぁーぁ・・・ククッ。・・ったく、赤ちゃんだなぁ。」
「、、、ぅぅー、、、ごめんなしゃぁーい、、、」
 ベッドに零れたいちごオレを拭き、
「いいから・・・シャワー浴びてきちまえよ。」
と、優しく言う。
「、、ぅん、、、」
 ミルクはパックのストローをくわえながら頷き、浴室へと向かった。

 ミルクに続いてマサトがシャワーを浴びて寝室に戻ると、
「あーん・・・パンツないーー・・・」
と、ミルクがキャミソール姿でソファーの下を覗き込んでいる。
 丸いお尻が見え隠れして、マサトはカブリ付きたくなり、苦笑する。
「ククッ。さっき投げ飛ばしただろ?」
「だからぁ・・・うぇ〜ん・・・」
「泣かない、泣かない。・・探してやるから。」
 マサトは、よしよし、と頭を撫でて笑う。
「この辺じゃねぇかぁ?」
 マサトがソファーと壁の間を覗くと、ピンクの水玉が見えた。
「ほーら、あったぜ。」
「・・ありがと・・・」
 ミルクは恥ずかしそうに受け取って、コソコソッ、と履いた。
「いっそ見つからずにノーパンでも・・・つーか、風が吹いたらヤバイか。俺だけが見える分にはいいが、他の奴に見せたくはねぇな。」
「ノーパンなんてやぁだぁ・・・」
「そんな履いてるのか引っ掛かってるのか、わかんねぇような小っせぇパンツじゃ、履いてる意味ねぇだろ?・・ブルマでも履けよ。」
「そんなの持ってないもん。」
「体操着は?」
「ハーフパンツ。」
「なら、それでいいから・・・履け!」
「やぁ〜ん・・・ムレるじゃん。」
「チッ。・・・危なっかしくて、心配の種が尽きねぇぜ。」
 マサトは自分も服を着ながら文句を続ける。
「普段の通学でも、変な男がいたら、近寄って来る前に逃げ出すんだぞ?」
「マサトが付けてくれてるガードの人以上に変な人っていないよぉ。・・もう、問題ないんだし・・あれって辞めて欲しいなぁ。」
「周囲に気付かれない程度に距離を持つように注意してあるぜ。」
「でもぉ・・・ずっと後を付けてたら、やっぱ・・・変だもん。」
「それぐらい我慢しろ。・・・本当なら、登下校は学校の門から家の玄関まで、車で送迎させたい所を、あれで済ませてるんだぜ?」
「何でぇ?」
「・・・俺の女だってわかると・・・色々危険も付き纏うようになるからな。」
 マサトはネクタイを締めかけた手を止め、溜息を吐く。
 ・・・本気で車の送迎をさせた方がいいかも知れない。
 ・・今度の一件で、相手の組織も報復を考えてくるだろう。
 ・・一番弱い所を狙ってくるとしたら、やはりミルクが危ない。
「明日の朝から車を迎えに行かせる。」
「え・・・うっそぉ・・・」
 制服を着たミルクが目を瞬かせる。
「いや。マジで頼む。・・・ちょっと俺の周囲が落ち着くまでは、ミルクも協力してくれ。」
「・・・ぅぅ・・・それが協力になるのぉ?」
「お前が誘拐されたり、傷つけられるようなことがあったら、俺はまともな神経じゃいらんねぇ。・・鬼になっちまうぜ。」
「やぁぁ・・・マサトが鬼になっちゃ、やぁぁん・・・」
 ミルクがマサトにしがみつく。
「だから・・な?・・・言うこと、聞いてくれるな?」
「・・うん・・・聞くぅ・・・」
「よしよし。・・じゃぁ、何か美味い物でも食べて帰ろう。」
「・・時間・・ないよぉ?」
「たまには一緒に食事するくらい認めて貰おうぜ?・・電話しておけば大丈夫さ。」
「・・うん。」
 マサトはミルクを抱き締め、優しくキスをした。
 ミルクは顔を胸に擦り付け甘えてくる。
 ・・・大事すぎるほど愛しい俺のミルク。
 ・・例え、悪魔だとしても・・・この想いに偽りはない。
 マサトはきつくミルクを抱き締め、髪に頬ずりをした。

<38>
「明と暗」
§38§「明と暗」

 放課後の『チャレンジクラブ』。
 窓枠に寄り掛かって校庭を眺めながら、コーヒーを飲んでいた二年の上杉が、
「おっ・・・来てる、来てる。」
と言った。
「なぁに?・・どうしたの?」
 テーブルで女子部員と世間話に花を咲かせていた部長の麗子が振り返って聞く。
「今日もアリスのお迎えのロールスロイスが来てるぜ。・・っしっかし・・すごい車だな。あれって特別仕様だろ?」
 上杉がミルクに向かって聞くが、そんなことをミルクが知るはずもない。
 ミルクは頬を赤らめ、わからない、と答えるように首を振った。
「アリスって超お嬢様だったんだなぁ。」
 川島が感心したように言うので、
「全然違いますぅー。」
と、頬を膨らませた。
 マサトがどうしてもミルクの登下校が心配だと言うので、仕方なく従っているだけだが理由はよくわからない。
「でも、どうして急に車で通学することにしたの?」
 麗子が興味深そうに聞いてくる。
「・・えー・・っとぉ・・・」
 ミルクは、クリームをたっぷり入れたコーヒーの入ったカップに顔を隠しながら、答えに窮していた。
 カップを持つ腕には、七本になった金のブレスレットがキラキラと輝いている。
 これまでも、ブレスレットが少しずつ増えることで噂になっていたのに、今度はロールスロイスでの送迎で、学園内の噂に拍車をかけてしまっていた。
 理由がわからないから余計興味が沸くらしい。
 ミルクはこれ以上、マサトのことを隠しているのが辛くなっていた。

「・・あの・・・実は・・・」
 ミルクが口ごもりながら言うと、
「うんうん。・・実は?」
と、身を乗り出して聞く麗子だけでなく、みんなの視線がミルクに注がれた。
「・・正式じゃないんですけどぉ・・・婚約してる人がいるんですぅ。」
 ミルクは小さな声で告白した。
「「「「「・・えぇぇーーッ?!」」」」」
 皆一斉に重なって驚きの声を上げた。
「あ・・いえ。・・でも、本当に正式じゃなく・・・結婚を約束している、って程度なんですけどぉ・・・」
 ミルクはみんなの反応にたじろいで言い訳する。
 香蘭学園はお金持ちの生徒が多い為、深層の令嬢や富豪のお嬢様の中には、すでに婚約している人もいたので、ここまで驚かれると思わなかったのだ。
「ねぇねぇ、どんな人?」
「婚約するくらいだから、相手は社会人か?」
「あの超ー怖ぇ兄貴はどーしたんだよッ!」
「そうだ、そうだッ!学園のアイドルに手ぇ出したのは誰だッ?」
「まいったなぁ。有栖川先輩のガードあるからって気ぃ抜いてる間に、トンビに油揚げ奪われちまったぜッ。」
 矢継ぎ早に質問を浴びせかけられ、ミルクは答えられずにうつむいてしまった。
「こぉーら。アリスちゃんが困ってるでしょ。」
 麗子が部室をひと睨みして、騒然となっている空気を沈めた。
 それから、
「私が代表して聞きます。」
と、ニッコリ言った。

「それで・・・みんなが一番気になってるのは相手の男性だろうと思うし、私自身興味あるんだけど・・・聞いていい?」
「・・ぁ・・はい。」
 ミルクは躊躇いがちに頷いた。
「じゃぁ・・取り敢えず聞くとするなら、まずはこれかなぁ。・・相手の方って、社会人?」
「はい。・・・もう、お仕事してる人です。」
「やっぱりそーなんだぁ。・・で、歳は?」
「・・ぇ・・28歳。」
「ゲッ。オヤジじゃんッ!」
 男子部員から、口笛やらブーイングやらが起きる。
「シーッ!・・・そっかぁ、もう大人なんだねぇ。」
「・・はい。」
「ロールスロイスで送迎させるくらいだから、相当なお金持ちなんでしょうねぇ。」
「・・そーゆーのは・・・よく、わからないですぅ。」
「そのブレスレットも彼のプレゼントなんでしょう?」
「・・ぁ・・ええ。」
「チェッ。そんなに細い金のブレスレットくらい、俺にだってプレゼント出来るぜ。」
 響木がふてくされた様子で頬杖をつき、胡乱な目でミルクの手首に視線を投げた。
「・・・これは・・・記念日の・・・」
 そう言いかけて、ミルクは急に赤くなり言葉を途切れさせた。
 いくら何でも人には言えない記念日だったことを思い出したのだ。
「記念日?・・・どんな記念日なのぉ?」
「・・ぇ・・ぇっとぉ・・・」
 ヤバイ・・・と、ミルクは益々顔を赤くする。
 耳まで真っ赤になって湯気が出そうだ。
 本当は、(1:交際開始 2:初キス 3:初H 4:初ホテルH 5:交際宣言 6:初お泊まり 7:初フェラチオ)の記念なのだが、これを人前で言うことは出来なかった。
「・・ぇっとぉ・・・お付き合いを始めた日とぉ・・ぇっとぉ・・初めてデートした日とぉ・・初めて映画に行った日とぉ・・ぅぅ・・初めてハイキングに行った日とぉ・・んーっとぉ・・初めて家に来た日とぉ・・・」
 ミルクはしどろもどろに指折り数えながら記念日を探した。
 けれど思いつくままに言っていたが、もう思いつかない。
「・・ぅぅぅ・・・何だっけか・・・忘れちゃった。」
 ミルクは恥ずかしそうに肩をすぼめて小さく舌を出した。
「ふーーん。」
 麗子は半信半疑に流し目をミルクに送る。
「・・・ぁぅぅ・・・本当に・・ミル・・覚えてられなくて・・・」
「ま、いいでしょう。そこまで追求するのもプライベート侵害になっちゃうものね。フフッ。」
「随分簡単な記念日なんだなぁ。そんなので増やしていったら、両腕いっぱいになっちゃうだろ?」
「・・はい。・・ミルも、もう重くなるからって言ってるんですけどぉ・・・」
「それだけアリスのことが可愛いんでしょ。だから送迎しないと心配なくらい、惚れちゃってるってことなのよ。・・ねぇ?」
「・・アハッ・・・だと、嬉しいんですけどぉ・・・」
 ミルクは自信なさそうに首を傾げた。
 今だに、自分がそんなに愛されている自信が、本当になかったのだ。
 まだ、交際2ヶ月。
 夢のように毎日が過ぎていき、日々の生活は父親の問題もあって100%の幸せではないはずなのに、200%くらいの充実感と幸福感に満たされている今が、不思議でならない。
 体は確実に女性へと変化し、女である喜びを知り、快感の虜となってしまっているのに、それでも現実感が伴わず戸惑いが消えない。
「それにしても有栖川君がよく許したわねぇ。」
「そうそう。あれだけ反対・・てゆーか、相手には厳しかったのにね。」
「果たし状、叩き付けて決闘したとか?」
「いえ。そーゆーことはないんですけどぉ・・・彼もかなり鍛えてる人なので、兄でも敵わないって思ったみたいです。」
「へぇぇ!・・そーなんだぁ!」
 麗子は驚いた顔で瞬きをした。
「クッソォー・・・上には上がいるもんだなぁ。」
「そっかぁ。有栖川君が認めるなら、立派な人なのねぇ。・・・おめでとう、アリス。」
「・・ぁ・・ありがとうございます。」
 ミルクはペコリと頭を下げた。
 これで明日には学園中に、”アリス、婚約!”と情報が行き渡るだろう。
 それでも詮索や見当違いの噂を囁かれるよりはいい。
 ようやく彼氏がいることを告白出来たミルクは、恥ずかしさに小さくなりながらも内心ほっとするものがあった。

 夜、まだ兄のミツルが帰宅する前に、ミルクはマサトに電話した。
 そして、みんなに、”正式じゃないけど、婚約者がいる。”と言ってしまったことを話した。
―「別に正式でも良かったんだぜ?・・ミルクのママだって認めてくれてるんだから。・・つーか、俺の郷じゃ、もう俺の嫁だしな。組織の連中だって、みんなそう思ってるぞ。」
「・・そっか。・・・ごめんなさい。」
―「ミルクの気持ちの中で、まだ納得いかないのか?・・不満とかあるならちゃんと言えよ?」
「別にそーゆー訳じゃないけどぉ・・・」
―「あー・・・結納とかって儀式がやりてぇのか?・・それに婚約指輪も渡さないとな。頼んでおいたのが出来たから、今度会った時に渡すよ。」
「ぇ・・・でもぉ・・・」
―「ちゃんと”兄貴の祝福を受けながら”結婚式をあげるまでは、俺の妻だって公表するのは控えるが、婚約ならいいだろ?・・・他の男が言い寄らねぇように、きっちり所有権は主張しとかねぇとな。」
「ぅぅー・・所有権って・・・」
―「だから婚約指輪ってのは、結婚指輪と違って派手なんじゃねぇか。」
「・・そ・・そうなんだぁ・・・」
―「傷ついたり汚れねぇように、最高のダイヤを用意したぜ。ククッ。それに遠目でもわかるくらいに大きい奴をな。」
「えー・・・」
―「単品だと年増臭ぇから、ミルクに似合うように花の形にアレンジしてあるんだぜ。ま、見てのお楽しみだな。」
「・・そんなに凄い指輪・・普段付けらんないよぉ・・・」
―「大丈夫。ミルクの指ならきっと似合うぜ。チュッ!」
「・・ミルぅ・・・そんなお嬢様じゃないのにぃ・・・」
―「バーカ。俺の女房だろ?・・それぐらい当然だぜ。」
「ミル・・マサトさえいてくれたら、他には何もいらないもぉーん。」
―「俺だってお前さえいれば他には何もいらねぇさ。・・ただ、お前を俺から奪おうなんて気を他の男に持たせない為に、他の男には贈れねぇような指輪をつけさせたいんだよ。」
「・・ミル・・そんなにモテないから、心配しなくてもいいよぉ。・・・逆に指輪の方が欲しくて、ミルを襲うかもぉ・・・」
―「・・・・・それは絶対ぇさせねぇ。・・お前を傷つける奴は・・生かしちゃおかねぇぜ。」
「・・ぅ・・だから・・ミルじゃなくぅ・・指輪ぁぁ・・・」
「あーわかった、わかった。なら、普段はめてられるような小っせぇのも贈るから、それでいいだろ?」
 ・・いいのかなぁ・・・と、首を傾げながら、
「・・うん・・・」
と、納得するしかなかった。
―「で、明日は会えるのか?」
「ごめん。明日は家庭訪問で、ママが早く帰ってきてね、って。だから、授業終わったらそのまま家に帰るの。・・試験近いから勉強もしなくちゃいけないしぃ・・・」
―「そうかぁ・・・土曜日は午前中、抜けられない会議があるから・・・会えるのは明後日の午後になるな。」
「・・そーなのぉ?・・・わかったぁ。」
―「ミルクは午前中にしっかり勉強しとけよ。・・午後をゆっくり楽しめるようにさ。」
「・・うん。」
―「お昼は創作フレンチの店にでも行こう。」
「じゃぁ、街で待ち合わせした方がいいよね?」
―「そうだな。それでもいいよ。」
「うん。」
 ミルクはマサトと待ち合わせの場所と時間を決めて、電話を切った。
 もっと話していたかったが、ミツルの声が玄関から聞こえたので仕方がなかったのだ。
 ミツルは、ミルクとマサトのことを一応認めてくれてはいるが、今でもマサトの話題が出ると表情を暗くする。
 母親も弁護士の高藤の話題は避けている。
 幸せ感は満たされていたが、家族間で秘密が出来てしまっているなぁ、と思う時、ふと不安が過ぎることもあった。


 翌日はマサトに言っていたように家庭訪問があった。
 前日、”彼氏がいる”と告白したことで、その噂は担任の耳にも入っていた為、担任の話題はもっぱらそのことを母親に確認する内容となった。
 母親は、
「結婚を前提としたお付き合いなんですよ。」
と、肯定してくれた。
 それで、担任は、
「正式な婚約なら、学園側としては公認の交際として見守る姿勢をとることにしているのですが、相手の方の氏名とご職業は教えて頂くことになっています。勿論、これは生徒達には公表しませんのでご安心ください。」
と言った。
「あら、そうですの?・・そうねぇ、そうでしょうねぇ。」
 母親は妙に納得して頷き、
「S商事ってご存知ですか?・・そこの会長をされてらっしゃる原田雅人さんと仰る方がお相手ですのよ。」
と、微笑んだ。
 担任は目を丸くして、
「ああ!・・あのS商事の・・そうですかぁ!」
と、本気で驚いていた。
 ミルクは知らなかったが、S商事はかなり有名な会社らしい。
「日本を代表する若き実業家として、企業共々注目を集めている、あの原田雅人会長でしたかぁ。・・それは、それは・・おめでとうございます。」
 担任は急に姿勢を正して、深々と頭を下げた。
 この態度の変わりようには、ミルクも母親もむしろ戸惑ってしまった。
 学園側にとっては、在校生が玉の輿に乗ることは、東大合格者を出す以上に鼻が高いようだ。
 無理もない。
 相手が金持ちであればある程、寄付金が期待出来るし、結婚後も生まれた子供の入学を勧めることが出来、学園の財政は潤うのだ。
 担任は、学園長や理事長に嬉しい報告が出来る、と嬉々として帰っていった。
 母親の手作りケーキも気に入ったようで、お土産にあげる予定よりも多く持ち帰っていった。
 担任が帰った後、ミルクは大きく溜息を吐き、
「マサトの会社って、そんなに有名だったんだぁ。」
と、他人事のように感心して言った。
 母親はクスクス笑って、
「ミルちゃんは知らなかったの?・・そうねぇ、まだ社会のことには関心ないものねぇ。」
と、訳知り顔で言った。
 母親もさほど世間に詳しい方ではなかったが、高藤との付き合いでマサトやS商事に関して詳しくなっていたようだった。
 マサトが”俺の女とわかると色々危険が付き纏う。”と言っていたのは、単に裏の顔である組織のボスとしてのものだけでなく、表の顔の部分でも身代金目的の誘拐なども心配してのことなのだと理解した。
 それにしても、それだけ表の顔が有名だとするなら、裏の顔である闇の部分は、本来相当な秘密裏に動いてるはずであり、その秘密をミルクが知っているというのは大変なことなのだと、改めて思い知らされた。
 ・・・だから、時々バイクなども使って目立たないよう行動に注意していたのか・・・
 ・・・ふーん・・・
 ミルクは納得して頷いたが、元々マサトの表の顔より、裏の顔が好きだったので、表がどれくらい有名で若手実業家として注目を浴びているかは興味がなかった。

 自分の部屋に上がって、携帯にメールの着信がないか確認した。
 帰ってからマサトにメールをしたが、返事が返ってこなかったのだ。
 大抵はすぐに返事が届いたので、もう来てるかな、と思っていた。
 けれど、今日は珍しく返事がない。
 ミルクは溜息を吐いて、またメールを送った。
 それから夕食、入浴と一階で時間を潰し、部屋に戻ってきた。
 メールの返事は待ち遠しかったが、マサトからのメールにすぐに飛びついて返事を返すより、少しだけ焦らしたい気持ちがミルクの中にあった。
 ・・・嘘・・・
 ミルクは携帯を手に取って愕然とした。
 着信の表示がないのだ。
 電波が悪かったのかと、センターに問い合わせてみたが、メールはなかった。
 どうしてぇ?
 ミルクは急に不安になってきてしまった。
 メールしては10分待ち、またメールしては5分待ち、再びメールする。
 なのに、いくらメールしても返事が返って来ない。
 こんなことはこれまでになかった。
 喧嘩した記憶はないし、今日放課後デートが出来ないことはわかってくれていたし、マサトが怒っていると思うような理由は何も見つからなかった。
 迷った末に、マサトの側にいつも従っている若松にメールしてみた。
 電話やメールが通じない時には、連絡が取れるようにと、若松と景山の携帯番号とメールアドレスを教えられていた。
 景山は愛想も良く親切だったが、やはり闇組織のNo.2という実力のせいか、ミルクには重い雰囲気で話しにくかった。
 15分待っても若松からも返事がない。
 どうにも不安でたまらず、ミルクは仕方なく景山にメールした。
 10分ほどしてようやくミルクの携帯に着信があった。
 相手は景山で、
―@「申し訳ございません。会長は仕事中ですので、応対出来ないそうです。今夜は連絡出来ない、とのことですので、もうお休みください。」
と、素っ気ない内容のものだった。
 景山がマサトを”会長”と呼んだのは、文章が残るメールというものを警戒しているからだろうか。
 メールでは本当のことは聞けないのだ、とミルクにもわかった。
 ・・・電話で聞いてみようか・・・
 時計は夜の10時を回っている。
 兄のミツルはさっき帰ってきて、部屋にいる。
 けれど、このままでは不安ばかりが募って、とても眠れそうになかった。
 初めマサトに電話してみる。
―「―ただ今電話に出ることは出来ません。お客様の―」
 一方的な女性のアナウンスが流れてきた。
 苛立たしいアナウンスの声を聞いていたくなくて、急いで通話を切る。
 マサトの電話は通じない状態にあるらしい。
 ミルクは益々胸騒ぎを覚えた。
 次に若松に電話する。
 呼び出し音は鳴る。
 けれど、いくら待っても呼び出し音が鳴り続けるだけだ。
 マサトだけでなく、マサトの側にいつもいる若松がメールも電話も出来ないとしたら、マサトと一緒に何かあったのだろうか。
 ミルクは景山に電話してみた。
―「はい。景山です。」
 景山にはすぐに電話が通じたので、ミルクは小さく吐息を洩らした。
「あ、もしもし。ミルクです。」
―「アリス様。申し訳ありませんが、私も仕事中ですので電話はご遠慮願えませんでしょうか?」
「あ・・ごめんなさい。・・でも、どうしてもマサトさんが心配で・・・」
―「会長も難しい会議が続いておりますので、返事を返すことが出来ないのです。ご理解ください。」
「・・・本当なの?・・・何かあったんじゃないの?」
 景山の溜息が聞こえる。
―「仕事が終われば会長から連絡されるでしょう。どうぞ、ご心配なさらず、お休みになってください。」
「・・・そんなの・・無理だもん。」
―「・・アリス様。・・会長はアリス様を不安がらせることをとても嫌がっておられます。仕事の内容は詳しく申し上げられない私と致しましては、どのように申し上げて良いか、わかりません。・・ただ、アリス様にご心配のないように、と申し上げることしか出来ないのです。」
「・・・ごめんなさい。・・・でも・・・」
―「・・お待ちください。・・会長は大丈夫です。」
 そう言うと景山は通話を切ってしまった。
 景山の”大丈夫です。”と言った言葉が、かえって何かあったように聞こえてしまう。
 けれど、もうミルクに出来ることは何もなかった。
 ミルクは携帯を胸に抱いて、震えながら布団にくるまっていた。
 ひたすらマサトの無事を祈りながら・・・。

<39>
「闇の総裁」
§39§「闇の総裁」

 苛立った男が、薄暗い倉庫の中央で左右に歩いている。
 だいたい5m間隔で行ったり来たり。
 その男の前にはイスに縄でしばりつけられた女が一人。
 周囲には10人程度の男達が取り囲んでいる。
「吐け、と言ったら、吐けッ!」
 どやしつける声は声がかすれがちに唾ばかりが飛ぶ。
「・・アタシみたいな女が・・知ってるはずがないじゃないですか。」
 イスの女が斜に睨み上げる。
 途端に男の平手が女の頬に打ち据えられ、女はイスごと誇りまみれの床に倒れた。
 周囲にいた男達が、女の前にいる男の顔色を伺いながら、イスと女を起こす。
 起こされた女の口から血が流れる。
「クソッ。しぶてぇ女だぜ。」
 男は手についた血をポケットから出したハンカチで拭い、ついでに煙草を出して火を点けた。
 火に浮かび上がった顔は20代半ば。
 一見、ホストのようにも見える男だった。
「組織の仕事を10年もしてて、ボスを知らねぇって?・・っざけんじゃねぇッ!」
 男は女の縛り付けられている腕に煙草の火を押しつけた。
 女は顔をしかめたが声は出さなかった。
「こーなったら呼びつけてやるまでだ。・・おいッ。この女の指を切って、売春を取り仕切っている事務所に送りつけてやれ。組織のボスへの招待状も添えてな。」
「・・アタシなんかの為に・・誰一人来るもんか。」
「うるせぇッ!テメェは黙ってろッ!」
 男は女の腹を靴の底で蹴った。
 今度はイスごと後ろに倒される。
「テメェでダメなら、ボスが出てくるまで、女を次々と誘拐ってくるまでだぜ。フンッ!」
「若。・・女の指を添えずとも、呼び出し状でいいでしょう?」
「何だとぉッ?・・親父は・・急所を切られたんだぞッ!」
「お怒りはごもっとですが・・あれは命を奪ったという証明だったのでしょう。・・女を人質とするなら傷つけない方がよろしいかと。」
「どっちでも同じだッ!」
「傷をつけたら人質としての価値が下がります。期限つきで呼び出し、応じない時にはこの女の死体をドブ川にでも投げ込みましょう。」
「誘拐の証がねぇだろうが?」
「指を見て、わかるとも思えません。・・これなんてどうです?」
 年輩の男は女の中指にはめている変わった形の指輪に目を付けた。
 それは、銀色に渋く輝き、中指に胴体を巻き付けた蛇が頭を甲の方へ伸ばしている、目にダイヤを填め込んだシルバーアクセサリーの指輪だった。
「特殊なデザインですから、仲間なら気付くでしょう。」
「チッ。好きにしろッ!・・何の組織か知らねぇが・・絶対にボスの面を見てやらなきゃ気が済まねぇ。」
 ホスト風の若い男は、忌々しそうに女に唾を吐き掛けると、倉庫から出ていった。

 年輩の男はその場にいた部下達に指示を出し、交替でしっかり女を見張るように言って、倉庫を後にした。
 見張りで残された三人の男達は、他の部下も休憩で倉庫から出ていくと、顔を見合わせて溜息を吐いた。
「・・ハァ・・・若も父親を殺られて、だいぶ苛立ってるな。」
「それだけじゃねぇだろ。・・・あの組織の取引に目ぇ付けて、割り込むように親父さんを唆した張本人だから、余計なんじゃねぇか?」
「あの組織に手ぇ出したら、ロクなこたぁねぇぜ。・・だがら本家だって干渉するなって回状を出してるんだからな。」
「噂じゃ相手のボスは本家の大親分とは面識があるらしいが・・・」
「だったら、本家に聞けばいいんじゃねぇか?」
「アホッ。本家の通達を無視したんだ。破門にならなかっただけマシってもんだぜ。・・本家と相手方と、親父さんへの制裁で手を打ったんじゃねぇか、ってことだ。」
「なら、こんなことしてたら益々本家から睨まれちまうだろ?」
「・・そうだろうな。・・戦争になったって、どこも応援なんかしてくれねぇよ。・・今の現状さえ、ウチが孤立してんのによぉ。・・もう、ここはダメだぜ。」
「跡継ぎの若が、あれじゃなぁ。」
「後見の若頭はいい人っすけどね。」
「俺も頭には恩がある。・・が、あの若には付いていけねぇ。」
 三人は再び重い溜息を吐いた。
 その時、イスに縛り付けられている女が忍び笑いを洩らした。
「何なんだよ?」
「ケッ。放っとけ。・・どうせ命はねぇんだ。」
「アタシの命なんてどーでもいいわ。・・けど、あんた達だって似たようなものじゃないの。」
「何だとぉッ?」
「ウチの組織のボスがどうして誰にも正体を知られてないか、頭使えばわかりそうなものを・・」
「そりゃ命令だけ出してるからじゃねぇかッ!」
「違うわよ。あんた達のボスほど卑怯でも間抜けでもないんだから。」
「テメェッ!」
「命が惜しかったら、この場にはいないことね。ウチのボスの正体を知って生きてられるのは、余程ボスに信頼されている者か、絶対に裏切れない弱みを握られている者か。・・いずれにしろ、その名前を口にしたら殺されるけど。」
 三人は次第に青ざめていった。
「あんた達のような端っぱは・・顔を見ただけで命はないわね。・・だから、ここにいれば、先の心配なんかする必要ないのよ。」
「・・・だったら、テメェを助けにくるって思ってるのか?」
「さぁ、どうかしら。・・でも、アタシを殺しても、また次を狙うんでしょう?・・クスッ。そこまで組織に干渉してきたら、ボスだって怒るでしょうね。・・ボスが怒ったら、あんた達の組なんて全滅させられるわよ。皆殺しでね。」
 女はまた笑いを洩らした。
 見張り役の三人はもう言葉が出なかった。

 ジリッ、と一人が後ずさりした。
 と、他の二人も震えながら腰を落とし、次の瞬間、先を急ぐようにして倉庫から逃げ出していた。
 倉庫に一人取り残された女は、一頻り高笑いをした後、
「・・バカな奴等。・・・フッ。・・アタシもバカな女だけど・・・」
と呟いた。
 パンパンパンパンッ。
 どこからともなく拍手が聞こえた。
 上の方からの気がして女が顔を上げると、倉庫の高い天井からロープが垂らされ、スルスルッ、と影が音もなく降りてきた。
 女は目を見張り、我が目を疑った。
 影は女の前に進み、イスに縛り付けていた縄をナイフで切った。
「アザミ。見事な脅し文句だったぜ。クックックッ。」
「・・・ボス・・・」
「アイツ等より、アザミの方が格が上だな。」
 女は思わず涙が込み上げてきて、うつむくと首を振った。
「ちょっと苦しいだろうが、我慢しろ。入り口から出るのは危険だろうから、屋根裏を抜けて裏口に降りて貰う。そこに若松がいるから、安全な場所まで連れて行って貰え。」
 マサトは自分が降りてきたロープをアザミに巻き付け、握らせた。
「・・あ・・・ボスは?」
 上に引き上げられそうになって、アザミは焦って尋ねた。
「このまま放置しておけば、同じことの繰り返しになる。俺を敵にしたらどうなるか、思い知らせてやるぜ。」
 マサトはそう言って、上に合図した。
 ロープがゆっくり引き上げられていく。
「・・ボスの勧めてくれた結婚に逆らって、風俗に落ちたアタシなんかの為に・・済みません。・・ありがとうございます。」
 そう言うと、女はロープの負荷が体にかからないように、ロープの上の部分をギュッと握り締めた。
「アザミにはアザミの考える生き方があるさ。・・島田が右腕がいないと困る、って待ってるぜ。」
 女はぶら下がった状態で頭を下げた。
 マサトはアザミが裏口から抜け出すのを見届けると、
「さて・・大掃除だ。」
と呟き、アザミが括られていたイスに座って腕組みをし、虚空を睨んだ。

―「ボスはすでに倉庫で待っております。」
 事務所に戻って程なく一本の電話が入り、若と若頭は部下を引き連れて、急いで倉庫に駆けつけてきた。
「・・総勢12名か。・・ククッ。俺を相手にするには少な過ぎるぜ。」
 イスからゆっくり立ち上がったマサトが言った。
 数歩進んで照明の明かりが落ちている場所で立ち止まる。
 マサトの姿が浮き上がり、一同は息を飲んだ。
 あれだけの闇の組織を統轄する男が、これほど若いことに驚いたこともあるが、照明の下にあってもまだ暗い闇を纏った禍々しい雰囲気が、一同を圧倒していた。
 若頭の他数名がマサトの顔に見覚えがあることに気付いた。
 週刊誌や経済新聞で見たことがある顔だ。
 若頭は全身に戦慄を覚えて目尻を痙攣させた。
 とんでも無いものを見てしまった、と後悔しても始まらない。
「生憎だが、こっちにはコレがあるんだぜ。」
 若が手にしたマシンガンを得意げに上げて見せた。
「それがどうした?・・俺が動かない的でいるとでも思ってるのか?」
 マサトは片頬に不敵な笑みを浮かべた。
「若。挑発よりも交渉をすべきです。」
 事の重大さに気付いていない若を若頭が諫めたが、若は聞こうとしない。
「っせぇッ!話し合いの余地なんてねぇッ!」
「俺もだぜ。ククッ。意見が合ったな。」
「余裕こいてんじゃねぇぜ。こっちにはテメェが動かねぇ的になる切り札があるんだぜ。・・おいッ。」
 若の声で暗がりにいた男が、一人の痩せた男に拳銃を突き付けて前に進んだ。
 マサトが目を眇める。
「わかったようだな。・・こいつはテメェが取引してる某国の親玉の甥っ子だ。そして、俺に取引のことを教えて親玉との交渉役を買って出た。」
「ならば俺にとっては裏切り者。あんた等の仲間じゃねぇのか?」
「ケッ!今となっちゃクズ同然の奴さ。俺にとってはな。・・だが、テメェは取引を続けるんだろ?・・だったら、こいつがとうにかされちまったら困るんじゃねぇか?」
「ア・・アナタ・・私ヲ・・ドウスルツモリ?」
 拳銃を突き付けられている男がたどたどしい日本語で抗議する。
「テメェのせいで、親父は惨めに殺されちまったんだぜ?」
「ソ・・ソンナ・・・」
「っせぇッ、黙ってろッ!」
 若が顎をしゃくり、また部下は男を後ろに下がらせた。
「さぁ、どうする?・・やっと顔を見せた腰抜けボスさんよぉ。」
「どうして欲しいんだ?」
「武器を捨てておとなしくしな。」
「武器ねぇ・・・ロープを切るナイフしか持ってこなかったぜ。」
 マサトは革手袋をはめた手に持っていたナイフを放り投げた。
「調べさせて貰うぜ。」
 若が部下にマサトの体を調べるように指示する。
「おっとその前に、そのあんたにとってのクズを放して貰おう。」
「テメェにそんなこと言う権利はねぇッ!」
「それなら俺ももう知らん。」
 マサトは低い声で言うと、革手袋をはめた指を鳴らせた。
 若はギクリとして後ずさりし、
「わかった。テメェがおとなしくするなら、放してやる。」
と言った。
「俺は約束は破らねぇ主義だが、あんたは色々裏切り過ぎるようだ。先にこちらの要求を呑んで貰おう。」
「チッ!」
 若は舌打ちをして、捕らえていた某国の親玉の甥っ子を放した。
 甥っ子は一目散に倉庫から逃げ出した。

 バシッ!ビシッ!ボカッ!
 若がイスに縛り付けられたマサトを殴る。
「クソッ!・・クソッ!・・テメェが親父を・・テメェのせいで親父は・・・」
 いくら殴ってもマサトの表情は変わらない。
 むしろ殴れば殴るほど、若の表情が強ばっていく。
 得体の知れない恐怖を感じ始めているようだった。
「若。もう、それくらいで。」
 若頭が止めようとするが、汗まみれで髪を振り乱し、拳に血を滲ませている若は、更に蹴りを入れてマサトを痛めつけた。
 腰を折り、広げた両足の膝に手を当てて、肩で大きく息をする若に、
「クククッ。その程度かい?・・ひ弱な坊ちゃんよぉ?」
と、マサトが笑って言った。
 若は、キッ、とマサトを睨んで体を起こすと、部下に持たせていたマシンガンを手に取った。
「これでテメェもお終いだぜぇッ!!」
「それはこっちの台詞だッ!」
 マサトは言うと同時に後ろに大きく倒れ込んだ。
 ガシャンッ!グシャッ!
 イスが大きな音を立てて壊れ、その拍子に緩んだロープからマサトはあっさりと抜け出した。
 若は怒りで血走った目をして唇を噛み、マシンガンをかまえた。
 マサトはまだ両手両足を縛られていたが、高く飛んで回転しながら靴に仕込んであったナイフで手首のロープを切り、続いて靴から引き抜いたナイフで足のロープも切ってしまった。
 バリバリバリバリッ!
 マシンガンがマサトを追ってうなりを上げる。
 だが、マサトに気を取られ過ぎて、マサトが部下のいる方へと回り込んでいたことに気づけなかった。
「ギャァーッ!」
「グァァーッ!」
 叫んで倒れ込んだのは、若の組員だった。
 マサトは倒れた組員が持っていた拳銃で、倉庫のわずかな照明を撃った。
 ドキュンッ!バリンッ。。 ドキュンッ!バリンッ。。
 続けて照明が撃ち抜かれていき、倉庫内は暗闇と化した。
 天窓からの月明かりが、わずかに物の影だけを浮かび上がらせる。
「若ッ!いけませんッ!」
 若頭が蒼白になってマシンガンを止めようとするが、
「うるせぇッ!どかねぇ奴等が悪ぃんだッ!」
と、また、バリバリバリバリッ、とマシンガンを撃ちまくる。
 部下は持っている拳銃でマサトを狙う以前に、マシンガンを恐れて床に這い蹲る。
「クククッ。何でも人のせいにする坊ちゃんも、困りもんだなぁ。」
 すっかり体の自由を取り戻したマサトが闇から声を掛ける。
 バリバリバリバリッ!
「ウガッ!・・・ぐぇぇぇ・・・」
「イデェェェーッ・・・な・・なんでだぁ・・・ゲボッ・・・」
 闇に向かって撃ったが、また部下に当たってしまった。
「バカヤローーッ!俺の邪魔をするなぁぁーーッ!!」
 バリバリバリバリッ!
「ギャァァァーーッ!」
 すでに狂っているとしか言いようがなかった。
 所構わずマシンガンを振り回して撃ち続ける。
 だが、いくらマシンガンでも弾はきれる。
 カチッ、カチッ、っと虚しい音がして弾が発射されなくなった。
「それで終わりか?・・情けねぇなぁ。」
 素早く闇から闇へと動く影が嘲笑って通り過ぎていく。
「ックショォォーーッ!!」
 若は胸から拳銃を取り出し、マサトの声を狙って撃つ。
 足も膝も腕も震えているのは、さっきマサトを殴り続けた疲労以上に、恐怖に支配されているからだろう。
「頭ッ!テメェは何で撃たねぇんだッ!」
 若頭は拳銃を握ったまま呆然と立っていた。
 ドゥッ!ドキュゥーン!
 マシンガンでさえ当たらないのに、拳銃が当たる訳もない。
 それでも若は影を狙って撃つ。
 ドウッ!
「グガッ!・・・若ァ・・・あんまりだぜぇ・・・」
 また一人組員が倒れた。
 どうやらマサトは組員のいる方へと誘導しては撃たせているようだった。
 若は自分の拳銃も弾が尽きると、若頭の拳銃をその手からもぎ取って撃ち始めた。
「テメェが撃たねぇなら引っ込んでろッ!」
「・・・若・・・」
 若頭は、組織の跡継ぎとして、若をみんなで甘やかして育ててきたことを、思い知らされていた。
 言っても始まらないが・・・。
 力なくうなだれている若頭の体が影に捕らえられ、口元を塞がれたと思うと、勝手に一人歩きを始めた。
 そして、若の後ろに回り込み背中に触れた。
 ギクッ、と悪寒が走った若が、振り返り様に拳銃を撃つ。
 ドキューンッ!
「グァッ!」
 影は闇に消え、若頭は後ろにバタリッと倒れた。
「なッ・・・何やってんだッ?!・・頭ッ!・・・頭ぁッ!」
 若はもっとも頼りにしていた若頭を自分が撃ってしまったことで、自分が取り返しのつかないことをしてしまったことに、ようやく気付いた。
 マサトを撃とうという気力は失せ、拳銃を指から落とすと、若頭の前にペタリと座り込んだ。

 ドウッ!ドウッ!ドウッ!
 倉庫の出入り口付近で銃声がした。
 マシンガンの難をどうにか逃れ、這い蹲って逃げようとしていた他の部下数名が、駆けつけたマサトの部下に撃ち殺されたのだ。
 マサトの部下はマサトから倉庫を離れているように指示されて、周辺に息を潜めて待機していた。
 そこに某国の痩せた男が逃げ出してきたので捕らえて事情を聞き出し、自分達が必要にならないかと入り口で待っていたのだった。
「ボスッ。ご無事ですか?」
 財前が駆け寄ってきた。
「バーカ。見てわかんねぇのか?」
 マサトが苦笑して言う。
「え・・ご無事のようにも見受けられますが・・」
「この救いようのねぇボンに殴られたくれぇじゃビクともしねぇぜ。」
「クソォー・・・よくもボスに・・・」
 財前が睨みつけても、若頭の前に放心したように座っている男はピクリとも動かない。
 そこへ若松が近付いてきて、
「ボス。ボスの顔を見た奴等はコイツを除いて全て絶命しております。」
と、転がっている死体を確認し、息が残ってる相手にとどめを刺してきたことを報告した。
「それで、コイツはどのような制裁を?」
「そこに落ちている銃で始末しろ。まだ弾が残ってるだろ。・・自分を一番庇ってきてくれた男を自分の手で撃った銃だ。自分が侵した罪を味わうだろうぜ。」
「承知しました。」
 マサトは喉で含み笑いをすると、若と若頭に背を向けて歩き始めた。
 ドキュゥゥーン・・・
 一発の銃声が全ての終わりを告げていた。

  「ボス。ご無事でなによりです。お疲れ様でした。」
 島田が埠頭で頭を下げ、出迎えた。
 島田は風俗部門を取り締まっている組織のNo.5だ。
「アザミはどうした?」
「はい。肋骨が折れてますので、本郷の所へ。」
 本郷、つまり地下アジトにある医療施設のことだ。
「そうか。」
 マサトは島田に頷いてから、
「直に騒ぎを聞きつけた警官が乗り込んでくるだろう。皆、散り散りに解散。ご苦労だった。」
と言って、接岸しているゴムボートに乗り込んだ。
 ゴムボートにはすでに若松と某国の親玉の甥っ子が乗っていた。
 ボスはどうされるのですか、とは聞かない。
 ただ、敬意を込めて深々と頭を下げると、蜘蛛の子を散らすように闇へと消えていった。

 陸からは音も姿も捉えられない海上に、快速艇が無人で待機していた。
 マサト達はゴムボートを沈めて乗り込み、更に海上を北へと進んだ。
 目的地点へ到着するまでに、マサトは返り血を拭き取り、革製のツナギから別のライダースーツに着替えた。
 目的地点では潜水艇が浮上して待っていた。
 痩せた甥っ子は、マサトに何度も頭を下げて感謝すると、本国からの迎えの潜水艇に乗り込んだ。
 若松と二人になり、陸を目指す頃には辺りが白々と明けてきていた。
「やれやれだな。」
 マサトは快速艇を操縦しながら、溜息を吐いた。
「いつもながら見事なお手並みでした。・・ですが、このような危険なマネはもうなさないで頂きたいものです。私共にお任せしてくださればよろしいのです。」
「・・そうだな。次回は出来るだけそうするよう検討しよう。」
「あぁぁ・・・いっつもそう仰る。」
「嘘じゃねぇさ。クックックッ。」
「アリス様が心配されておられるようですよ。」
 若松は頬杖をついて水平線を眺めながらボソリと呟いた。
 途端にマサトの不敵な表情が苦悶の顔になる。
「今回は俺個人の携帯は持って出れなかったからな。相手に奪われると厄介な事にもなり兼ねねぇし・・・デートで埋め合わせしてやるしかねぇ。」
「会議はどうされます?」
「多少遅れるが出席しねぇとな。相手も海千山千の奴等だ。気ぃ抜けねぇぜ。」
「だいぶ迂回していますが、・・ヘリを用意させましょうか?」
「いや。バイクの方が目立たなくていい。・・陸に上がったら、お前はこの船を部下に回収させ、それから頃合いをみてミルクに電話を入れてやってくれ。・・俺は何でもないから心配するな、ってな。」
「畏まりました。」
 ・・・何て強いお方だろう。
 若松はずっと側に仕えながら、いつも感心してしまう。
 マサトは疲れの色ひとつ見せずに、遙か海原を見つめていた。

<40>
「ニュース」
§40§「ニュース」

 土曜日、約束のデートの日。
 マサトとの連絡が取れずに、ほとんど眠れず一夜を明かした。
 朝になって若松から、
―「会長はお忙しいだけで何も心配はありませんので、ご安心くださるようにとのことです。連絡出来ないのは時間に追われているだけで、他に理由はございません。重要会議が詰まっておりまして、会長自らの連絡が出来ないことを、大変気にされておられます。今日の約束には必ず伺うとのことですので、どうぞお待ちくださいますよう。」
と、連絡があった。
 側にいる若松がそう言うのだからマサトは大丈夫なのだろう、とミルクは少しだけ安心することが出来た。

 電話の後、少し寝ようかとも思ったが、妙に目が冴えて眠れそうになかったので、ミルクは一階のダイニングへと下りていった。
「あら、お早う。お休みなのに早いのね。マサトさんと約束?」
 テーブルでTVを見ながらお茶を飲んでいた母親が笑顔で聞く。
「・・ううん。約束は午後からだけど・・・」
「そう。・・ママ、今日は午前中に出掛けちゃうけど、大丈夫?」
「えー・・・そぉーなんだぁ・・・」
「お兄ちゃんも練習試合があるからって、さっき出掛けたのよ。」
「ゥゲッ・・超早ぁーい。」
 時計を見れば、まだ朝の6時過ぎ。
「今日は隣りの県に遠征なんですって。学校に集まってから行くから、時間かかるみたいね。」
「・・ふーん・・・」
 ミルクはテーブルに両肘をついて頬杖をする。
「お茶飲む?・・それともミルクティーがいいかしら?」
「ミルクティー。」
「はいはい。」
 母親は微笑んで席を立ってキッチンへ移動した。
「食事するでしょう?・・用意するから待っててね。」
「うん。」
 ミルクはあくびまじりに返事をし、ぼんやりとTVを眺めていた。
 土曜日の朝は日曜日と違ってあまり面白い番組はない。
 母親が見ていたニュース番組をそのまま眺めていた。
 ニュースに埠頭からの中継画面が現れた。
 大きな事件が起きたのか、黄色いテープを張られた手前に報道各社が集まって、騒然としている状況が映し出されている。
「それ、もう何度もニュースで流れてるのよ。・・暴力団同士の抗争じゃないか、とか言ってるけど・・怖いわねぇ。10人以上の人が・・・」
 母親は言いかけて途中でやめた。
 朝の食事時にする話題ではないと思えたのだ。
「どのチャンネルでもそのニュースだから・・3chでも見る?」
「ママぁ・・・ミルはもぉそんなに子供じゃないのにぃ・・・」
「でも、やっぱりお食事の時はやめましょう。」
 母親はミルクにミルクティーを持ってくると、リモコンでTVを消してしまった。
 子供にはあまり悲惨なニュースを見せたくない、ごく普通の良識を持った母親だった。
 マサトの人柄は認めてくれている母親だが、マサトが闇の組織の総裁だと知ったら、本人の性格以前に存在を否定しかねない。
 ・・・ママにはマサトの裏の顔は話せないよなぁ。
 そう思った時、ミルクの中で奇妙なパズルが符合してしまった。
 ・・・まさかッ?!
 ミルクは何も映っていないTVの画面に目をやり、じわじわと恐怖が背筋を這い上がってくるのを感じていた。

 母親が出掛けてから、ミルクはTVでニュースをしていないか探した。
 けれど、もうその時間にニュースをしているチャンネルはなかった。
 一度符合してしまったパズルは外れてくれそうにない。
 昨夜起こった暴力団関係の悲惨な事件。
 一晩中連絡の取れなかったマサト。
 それだけで、何の関係もない、と言ってしまえばそれまでだが、得体の知れない恐怖がミルクの心を包み込んでしまっていた。
 一人きりの空間が怖い。
 ミルクは約束の時間にはまだ早かったが、出掛けることにした。
 特に目的もなく賑やかな通りで可愛い小物を探す。
 ことさらに意識をニュースから遠ざけようと、これからのシーズンに向いた透明な小物に一人で喜んでみたりする。
 ただ、一人で潰す時間は、かなり経っただろうと思って時計を見ても、たいして進んでないことが多い。
 散々歩き回って喉が乾いたミルクは、デパートの地下でフレッシュジュースを飲んだ。
 それから、エスカレーターで順々に階を上がって行ってみた。
 家電コーナーで新しいMDを見ようと立ち寄った時、ズラリと並んだTVにニュース映像が出ていた。
 昼近くなってまたニュースをしているらしい。
 朝よりも更に詳しい情報をつかんだようで、状況説明も詳しくなっている。
 ミルクは音量を上げてニュースに聞き入った。
 どうやら不思議な事件らしい。
 当初、暴力団同士の抗争と見られていたが、内部抗争の色が濃くなったと警察側は見ているようだった。
 11人が亡くなるという状況でありながら、使用された凶器が全て現場にあり、亡くなった人達の指紋以外検出されないと言うのだ。
 首謀者と見られる二十歳代の男性は、行方不明の組長の息子だと言う。
 だが、その首謀者も自殺か他殺か、まだ判明せず、恐ろしくも不思議な事件だと中継レポーターが話している。
 ミルクはニュースが別の話題に移っても、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
 それから、ふと、約束の時間を思い出して、MDを見ることもなく家電コーナーを立ち去った。

 約束していた場所に向かっていたミルクは、体躯の優れたマサトの後ろ姿に気付いた。
 ミルクが気付くと同時くらいにマサトが振り返って、ミルクに笑みを向けた。
 ミルクはようやく姿を確認出来たことにほっとして走り出していた。
 息を切らせて駆け寄り、飛び付こうとした足が止まる。
 マサトの口と目元に痣が出来ていて、少し腫れていたのだ。
 心臓が鷲掴みにされたような恐怖がミルクを支配した。
 ミルクはマサトを黙って見上げたまま言葉も出なかった。
「・・どうした?・・あぁ、そっか。・・連絡が出来なくて悪かったな。」
 ミルクは返事の代わりに思い切り頬を膨らませた。
「今、電話してたんだぜ?・・気付かなかった?」
 ミルクは頬を膨らませたまま、電車でマナーモードにしたままだったことに気付いた。
 けれど、そんなことはどうでもいいのだ。
 ミルクの目にみるみる涙が溜まっていく。
「え・・あ・・おい。・・何で泣くんだぁ?・・泣くなよなぁ。」
 マサトが焦って腰を屈めてミルクの頬にキスをする。
 ミルクは小声で、
「・・ニュース・・・」
と言うと、唇を噛んだ。
 マサトはそれだけでミルクが何を言いたいのかを理解した。
 ・・・いっそ関係ないと言ってしまおうか。
 ・・誤魔化そうと思えば出来ないことではない。
 ・・現に会議では顔の痣を、ボクシングのスパークリングで本気を出し過ぎた、などとジョークまじりに流したのだ。
 ・・・だが、この涙の前にどんな嘘が付けると言うのだろう。
「バカ。・・泣くな。」
 マサトは同じように小声で囁くと、ミルクを抱き締めた。
 ミルクの目から涙が溢れ出し、
「・・ぅぅー・・・」
と、今にも泣き叫びそうに震えている。
「ゥッ・・ちょい・・待ってろッ。」
 マサトは、ミルクの後を尾行してガードしていた男を手招きし、車をすぐに用意するよう指示した。
「・・ぅぅぅー・・・」
「頼むから・・な?・・ちゃんと説明するから・・」
 マサトは車が来るまで、腰を屈めてミルクを抱き包み、髪や背を撫でて宥めていた。

 マンションの部屋に入るなり、ミルクは堰を切ったように声を出して泣き出した。
「マサトのバカァァァーッ!!・・危険なことはしないって言ってたくせにぃぃーッ!!・・うぇぇ〜ん・・バカ、バカァァーッ!!」
「泣くなッ!・・危険じゃねぇってッ!」
 マサトはミルクを抱き締めようとするが、ミルクは暴れて手をバタバタと叩き付けてくるので思うように抱けない。
 ヘタに力を入れれば、ミルクの腕を捻ってしまう。
「あぁ〜ん・・何で痣が出来てるのぉッ?・・あそこにいたからでしょうッ?」
 女の勘はどうしてこうも時々鋭く働いてしまうのだろう。
 マサトは説明する前にミルクを落ち着かせるしかないと、ミルクを肩に担ぎ上げた。
「やぁ〜ん・・バカァァァー・・・」
 マサトは、手足をバタつかせるミルクを寝室のベッドに押さえつけ、口を塞ぐようにキスをする。
 けれどミルクは首を振って嫌がってしまう。
 激しく抵抗を続けて暴れる。
 恐怖に支配されていた分、パニック状態になっているようだった。
 マサトは有無を言わせずミルクの服を脱がせ始めた。
「ヤダァァーー!・・えぐっ、、えぐっ、、・・マサトなんか嫌いーー!」
「落ち着けよ。・・ミルク・・なぁ、頼むから・・・」
 マサトはミルクを全裸に剥いた後、体の下に嫌がって暴れるミルクを捕縛したまま、自分も服を脱ぎ捨てた。
 体にも所々痣がある。
 それがさらにミルクをパニックに陥れてしまった。
 言葉では言い聞かせることも出来ない。
 マサトは暴れるミルクを押さえつけ、強引にミルクの中に体を捻り込んだ。
「いやぁぁーー、、、」
 まだ充分には濡れてないミルクの膣口が攣れる。
「ミルク・・・落ち着け。・・・ほら・・俺はちゃんとここにいるだろ?」
 マサトは腰をわずかに動かし、ミルクの蜜を促す。
「、、、ぅぅぅー、、、」
 マサトの体に捕らえられ、ミルクの手足の動きは弱くなったが、悲しい表情でしゃくり上げて泣き続けている。
「ミルク・・・愛している。」
 マサトは様子を見ながら、時々腰を動かしては、ミルクが感じるように誘う。
「、、ぐふん、、、いやぁぁ、、、」
 嫌と言いながらも、ミルクはマサトの背中に腕を回していた。
 泣きじゃくりながら顔を擦り付けてくる。
「、、怖かったんだからぁ、、、ニュース見た時、、、すっごく、、すっごく、、怖くてたまらなかったんだからぁ、、、ぐしゅ、、、」
「・・ニュースなんて表面しか、わかってねぇもんなんだぜ。あんなの気にすんじゃねぇ。」
「、、、だけどぉ、、、マサト、、怪我してるじゃぁん、、、くふっ、、ん、、、」
 ミルクがギュゥーッとマサトにしがみつく。
「・・・そうか。・・・俺が怪我するのが怖かったんだな。・・・よしよし。」
 マサトはミルクの恐怖がどこから発生してるのか原因を理解した。
 ミルクは事件の内容より、マサトのしたかも知れない行為より、マサトをそれによって失っていたかも知れない、と思ってしまったことが怖かったのだ。
 ・・・可愛い俺のミルク。
 マサトは愛しさが込み上げて全身で震えた。
「ミルク・・・俺はここにいる。・・・何も怖いことなんかねぇんだぜ。」
「、、ぅぅぅー、、、ぅぅー、、だってぇ、、、」
 昨日からのこともあり、余程怖かったのだろう。
 こうして繋がっているのに、ミルクはなかなか感じる所まで心の緊張が溶けないらしい。
 マサトは労るように腰を動かし、蜜壺を掻き回す。
 少しずつ蜜が全体に浸透しつつあったが、ミルクの体はまだ逃げ腰だった。
 それでも、涙は止まらないものの抵抗はなくなり、キスにも応えるようになってきた。
 マサトはミルクを腕にすっぽり抱き包み、ゆっくりと蛇を動かし、自分の存在を確認させる。
「・・な?・・・ちゃんとミルクの中にいるだろう?」
「、、、ぅぅ、、、」
 ミルクの膣壁が収縮を始めて、マサトの蛇を締め付け始めた。
「・・そう・・・いい子だ。・・・ひとつに繋がっているのをわかってくれたね?」
「、、くすん、、、マサトぉ、、、」
 まだ心は感じたがっていないようだ。
 そんな所をマサトは余計愛しく感じてしまう。
 愛する男が危険に晒されていたことを思うと、とても快楽に身を委ねる気になれないのは、当然なのかも知れない。
 体の一部を強烈に締め付けてくる熱さが、どれほどの恐怖だったかを物語っている。
 そこまで思ってくれる気持ちが嬉しい。
 体に走る快感以上に、マサトも心が熱くなっていた。
「ミルク・・・俺はどこへも行かない。・・・いつだってミルクの側にいるぜ。・・な?」
 マサトは優しいキスを繰り返しては、腰を動かしてミルクの子宮を突き上げる。
 ミルクの肉襞が微妙に蠢き始める。
 ゾワゾワと快感を嗅ぎ付けて淫乱虫が集まってくるようなゾクゾクする感覚に、マサトは熱い息を吐く。
「あぁぁ・・・いい体だぜぇ。・・・最高の蛇窟だ。」
 マサトはミルクの目を覗き込む。
「なぁ・・・感じようぜ。・・・こうしてお互いがここにいるってことを・・・喜び合うのは悪いことじゃねぇだろ?」
 ミルクは真っ赤に潤んだ目をゆっくり瞬きして、
「、、、ぅん、、、」
と答える。
「よし。・・三日会えなかった分も、思い切り感じような。」
 マサトはミルクをギュッと抱き締めて熱い口づけをした。

「、、はぅ、、、あぁん、、、あん、、あん、、あ、、ぁん、、、」
 ミルクの体が上下にバウンドする。
 下から大きく突き上げられ、奥深くを突かれる度に快感が脳天まで走り抜ける。
「あぁぁ、、、はぁん、、ん、、あぁぁん、、、あん、あん、あぁん、、、」
「・・あぁ・・・いいぜぇ。・・・ミルク・・・お前は最高だぁぁ・・・」
 マサトは馬乗りになったミルクの腰を支えてやりながら、激しく突き上げ続ける。
 ミルクが仰け反る度、きつすぎるほど締め付けられるのも、マサトの腰から全体へと甘い快感を走らせる。
 ミルクはいつも以上に悶えてよがり声を上げる。
 ミルクの蜜が溢れ出し、マサトのヘソの方から尻の後ろまで、グッショリと濡らしている。
 パニック状態がミルクの理性といった部分を吹き飛ばしてしまったようだ。
「、、あ、あ、あぁ、、あぁぁん、、、マサトぉぉぉ、、、」
 マサトの男のシンボルである赤黒い蛇が愛しくてたまらない。
 誇り高く天を突き、ドクン、ドクン、と力強く脈打って存在を主張する。
 肉襞をこれでもかとばかりに抉って身を擦りつけてくる。
「あぁぁん、、、マサトのぉ、、、コチコチで痛いよぉ、、、」
 膣口が大きく押し広げられ、花弁は赤く染まっていく。
「ククッ。ミルクが俺の蛇にキュウキュウ吸い付いてくるんじゃねぇか。」
「、、、あ、、ん、、、だってぇ、、、あぁぁん、、、感じるぅぅぅ、、、」
「いいぜぇ。・・いっぱい感じろよ。・・はぁぁ・・・俺も感じるぜぇ・・・」
 ミルクは自分でも腰を回転させて捻り、より複雑に蜜壺を掻き混ぜる。
 捏ねるように動かすと、グチュグチュ、と卑猥な音がする。
「あぁぁ、、、マサトぉ、、、もっとぉ、、、もっとぉ、、、ミルクを突いてぇ、、、」
 ミルクは自分で胸をつかんで揉みながら腰をくねらせる。
 マサトは思わず口笛を吹いて、喉で笑う。
「クククッ。・・そろそろ芽吹き出したかぁ?」
「、、ぁぁん、、、なぁに?、、、あふん、、、あん、、、」
「・・さぁな。クックックッ。」
 マサトは答える代わりに、ミルクを激しく突き上げた。
「あ、ああ、、あああん、、、ああああぁぁぁ、、、すごくぅ、、、いい、、、」
「ああ、俺もだぜぇ。・・・ミルクが感じる程・・俺も感じる。・・はぁぁ・・」
「あぁ、、あぁぁ、、あぁぁぁ、、、イクゥゥゥーーー、、、」
「俺もイクぜぇぇぇ・・・はぅッ・・うぅぅぅ・・・あぁぁ・・・っっっ!」
 マサトはミルクの中に熱いエキスを放出させた。
 ミルクはゆっくりとマサトの胸に体を倒す。
 まだ繋がったまま、マサトの胸で大きく息をしている。
 マサトも何度か大きく深呼吸して息を整え、ミルクの髪を優しく撫でてやる。
 繋がった部分から、ジュワジュワ、とマサトのザーメンが零れ出てくる。
「、、、熱いマサトが、、、いっぱい、、、」
「クスッ。・・・貯まっちまってたからな。」
「、、、でも、、、気持ちいい、、、」
「・・ミルク・・・」
 マサトはミルクを抱き締め、汗ばんだ肌を摺り合わせて頬ずりをした。

 ミルクが落ち着いたので、マサトは事件のあらましを簡単に説明してやった。
 ミルクはマサトの腕枕で甘えながら、時々溜息を吐く。
「おいおい。・・・だから、ちゃんと計算しての行動で、心配はねぇんだって説明してるだろが。」
「、、、だってぇ、、、」
「行き当たりばったりで、個人の強運やとっさの思いつきなんてものに頼ってたら、それこそ無謀ってもので誉められた行為じゃねぇさ。・・・けど、俺は前もって予測して行動しているんだぜ?・・・怖いことねぇだろ?」
「、、、ぅぅぅ、、、危険には変わらないじゃぁぁん、、、」
「・・そりゃぁ・・多少は危険と背中合わせだが、紙一重ってのは運なんかじゃねぇって肝に銘じてる。勝算がなければ引く場合だってあるさ。」
「、、くすん、、、でもぉ、、、捕まって殴られたんでしょう?」
「これだって計算の内さ。・・・組織の女が縛られてた状況で、相手がそのイスに縛る時の癖はつかんだ。イスの強度も確かめた。ネジの2.3本抜いといてやりゃぁ簡単に壊れる。照明とかの場所も確認して、暗くなった時の安全な位置や死角もチェックしておいたしな。・・・その場しのぎで行動はしてねぇ。」
「、、、だけど、、、怪我してるぅ、、、」
「好きに殴らせているようで、急所は避けてるし、俺の受ける衝撃もかわすようにしてたんだぜ。・・で、相手を疲れさせることで、銃の狙いを狂わせる。・・あの長い前髪じゃ、汗かいたら顔に貼り付いて邪魔になるし、汗も拭いにくいから目に入っちまう。・・自分が狂わされてることも知らずに、勝ち誇ったように殴ってくれたぜ。クックックッ。」
「、、、痛かったでしょう?、、、ぅぅ、、、」
 ミルクがマサトの怪我にそっと指で触れ、うるうると見つめる。
「あ・・・いや。・・・この場合、痛てぇのは相手だろうぜ。」
 マサトは苦笑した。
 ミルクの関心が呆れるほどにマサトにしか向いてないことが、妙にくすぐったい。
「肉を切らせて骨を立つ、って言葉があるが、今回は肉ほども切られちゃいねぇぜ。」
「、、、でも、、やっぱ、、怖いー、、、」
「あー、悪かったって。」
「、、、一人でなんて、、、戦わないでぇ、、、」
 ・・ああ、そうか。
 ・・ミルクは戦争と捉えているのか。
 マサトはミルクが相手に目を向けようとしないでいられるのは、これがマサトのしている戦いだと思っているからなのだ。
 マサトは慈しみを込めてミルクを抱き締めた。
「・・まぁ、時と場合によりけりで・・・一人の方が安全な時もある。・・・けど、そうだな。仲間がいることを忘れないで戦うよ。」
 マサトはミルクのヒンヤリとする額に唇を押し当てた。
「、、、ねぇ、、、助けた組織の女性って、、、マサトとどんな関係なの?」
 来ると思っていた質問だった。
「クックッ。・・ミルクの焼き餅が始まったぞ。」
 マサトはからかうように笑って言った。
「、、、ぁぅぅ、、、」
「ぁ・・ッツッ・・抓るなよ。・・ただ、一緒に訓練とかした仲間だっただけだぜ。歳が近いからな。」
「、、、ほんと?」
「確かめたけりゃ、今、地下で治療してるから連れてってやるぜ?」
「、、うん。、、、会ってみたい。」
「クククッ。・・よしよし。好きにすればいい。」
 マサトは笑いながら、ミルクに覆い被さりキスをした。
「、、ぁ、、、」
「これで、説明はしたぜ。・・今度は俺がミルクの体に聞く番だ。」
「、、え?、、、何を?」
「クスッ。どんな体位がお気に召すかってな。」
「、、ぁん、、、」
 ミルクは恥ずかしそうに拗ねた目をしながらも、甘えた瞬きを繰り返した。