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<41> 「婚約指輪」 |
§41§「婚約指輪」 「わぁぁ…ぁぁ… …」 声がかすれて、後は息を飲んだ静寂に変わる。 マサトが婚約指輪をミルクの薬指にはめてくれたのだ。 大きな一粒ダイヤの回りを、ハート形の花びらが五枚、ふっくらと丸みを持って囲んでいる。 プラチナで縁取られた花びらは、びっしりと細かいダイヤが埋め込まれていた。 丸みのある表面のせいか、どんな角度から見ても虹色の煌めきが耐えず輝いている。 その中央に、花びらとの違和感がない程度に突起して、ピンクがかったダイヤが鎮座している。 全体は指より一回り大きく、中指と小指にも花びらがかかる程だった。 ミルクは息を飲んだり、溜息を吐いたり、言葉もなく感心して見入っていた。 「…はぁぁ… … すごいねぇ… …」 指輪をはめた手を顔の前に翳して、また溜息を吐き、指を広げたり閉じたりしていたミルクは、手を返して掌の方から見てみた。 広げた指の間から花びらが見えている。 「・・こんなに大きい指輪って・・むかーし幼稚園の頃に買ってもらったオモチャ以来だぁ。」 ミルクの台詞にマサトが苦笑する。 「オモチャの大きさには負けるかもな。クククッ。」 「・・でも重さが全然違う。・・何か指が疲れそぉ・・・」 「あ?・・ったく・・ひ弱な指だなぁ。・・・で・・どうかな?・・気に入って貰えた?」 マサトが気懸かりそうに聞く。 ミルクは手を胸に抱くようにして、うるうるとマサトを見つめ、 「もぉぉ…感動をどう言葉で表現したらいいか、わからないくらい…感激してるぅ。」 と、体を左右に揺らせた。 マサトが猫笑いで喉を震わす。 「ククッ。・・それは良かった。」 「・・ありがとぉ・・マサト。」 ミルクはマサトの顎にキスをすると、また指輪を眺め始めた。 「・・う・・なぁ・・・顎より、口がいいぞぉ・・・」 マサトがミルクの肩に置いている手に力を入れて、ミルクを抱き寄せようとした時、 「あッ・・・ねぇ、これって蛇?」 と、指輪のリングの部分を顔に近付けた。 指輪のリングの部分全体が蛇になっている。 ぐるりと指を回って花びらの下に頭を隠しているが、頭の目の部分に赤いルビーが埋まっている。 よく見るとシッポもちゃんとあって、全体に繊細な細工が施されていた。 「ああ。ミルクを守ってくれるように、お呪いにね。」 「…すごぉーい…こんな指輪見たことないよぉ…」 「だろ?・・世界に一つしかない物を贈りたかったんだ。」 「マサトぉ・・・ホントに・・ありがとぉ・・・」 今度はちゃんとマサトの唇にキスをした。 舌を吸われ、優しくマサトの舌が絡みついてくる。 甘いキスにしばらく身を委ね、それからマサトの胸に目を閉じたまま頬ずりをする。 こんなに愛されていいのだろうか。 あんまり幸せ過ぎると、いつかしっぺ返しが来そうで怖くさえなる。 ミルクは目を開けて、マサトの膝に置かれた自分の手をじっと見る。 まぶしさとは違う、まばゆさに包まれた指輪。 いつまでも眺めていたい変化し続ける七色の光。 けれど、どんなに豪華でも、指輪だけあってもミルクには価値がなかった。 マサトがいるから、指輪も嬉しいのだ、と幼いミルクは思う。 物の価値を知らない、と笑われてしまいそうだが、ミルクは物への執着心が希薄だった。 物に込められた心が嬉しかったし、その想いこそ価値があるように思えてしまう。 もし、この指輪の為に、マサトとこうしていられる時を失うとしたら、何の躊躇いもなく放棄するだろう。 「・・どうした?」 指輪に視線を落としていたミルクの顔が、悲しげになっていることに気付いたマサトが、ミルクの顎に手をあて上向かせて目を覗き込む。 「・・・マサトぉ・・・」 「ん?」 「・・マサトが望むなら、ミルはマサトのショーウィンドゥになっても構わないけど・・・カラッポのミルのことも、ずっと好きでいてね?」 マサトは目を見張った。 ミルクは指輪を贈られても、今だそれを自分の物だとは思っていないのだ。 何を贈ってもきっとこの先もずっと、ミルクは自分の物と思わないのかも知れない。 マサトがミルクを飾りたくて、マネキンに身に着けさせているくらいに感じているのだろうか。 それをミルクの幼さと言ってしまえば簡単だが、マサトはミルクの気高さをそこに感じて、鳥肌立った。 ・・・あぁ・・やはり、・・己を守る武力を持たず、天の恵みに感謝し、富みを分かち合ったという、貴い王の末裔たる姫。 マサトは恭しくミルクをそっと抱き締めた。 「・・この世にたった一輪しかない、枯れない花を贈りたかった男のエゴだ。・・ミルクの髪の毛一本の価値さえない。ミルクの流す涙ほどの美しさもない。・・・ミルクこそ・・俺の愛するたった一輪の美しい花。この無垢な美しさに、どんな飾りが必要だろう。・・何もいらない。そんなことわかっている。」 「え・・あの・・・マサト・・大袈裟・・・」 「真白な雪に他の色はいらない。・・透明なせせらぎに混じり物はいらない。」 「あ・・でも、雪だるまとか雪うさぎって可愛いよ。南天の赤い実の目とか・・ね?」 ミルクはマサトの言いたいことがわからずに、思ったままを普通に答える。 マサトは優しく笑い、 「クスッ。・・そうだな。・・・冷たい湧き水で割ったウィスキーも旨いしな。」 と言ってから、 「だが、それも・・・雪が白いからこその南天の赤い実。・・清らかな水ならではの旨味。・・・だから、ミルクあってこそ、指輪も映えるって意味だよ。」 と、ミルクの額にキスをした。 ミルクは、うーん、と考えてから、 「・・ううん。宝石は宝石として魅力があるし、これだけ綺麗な細工って鑑賞するだけでも価値があると思うなぁ。・・ミル、けっこうショーケースの宝石とか見るのって好きだもん。時々美術館とかでも、由緒あるいわく付きの宝石とか展示されるじゃん?・・見て綺麗だなぁって感動しちゃう。」 と言った。 「ククッ。子供でも女は女なんだなぁ。」 「男の人だって好きでしょう?」 「フッ。・・・見るだけで満足する男は珍しいだろうぜ。男は手に入れてこそ価値があると思うからな。」 「えー・・・そぉなんだぁ・・・」 「例えば・・・1時間、この指輪とミルクとどちらかを好きなように好きなだけ観察していい、って言われたら、99%の男はミルクを選ぶぜ。」 「・・嘘ぉ・・・やだぁ・・・そんなに見られたくなぁーい。」 ミルクは頬を膨らませた。 が、ふと思いつき、 「でも、どっちが欲しいかって聞かれたら、100%指輪を選ぶと思うな。」 と断言した。 「ほぅ・・・そうかな?」 「だって、指輪は誰にでも綺麗だけど、ミルはマサト以外の男性には興味ないもん。」 マサトは瞬きをしてから吹き出した。 「プッ・・クククッ・・あはは・・・そりゃ、そうだ。ミルクに、嫌ぁーい、と睨まれてちゃ、ちょっと手ぇ出せねぇよな。・・・あ、いや。それでも欲しい奴はいるぞ。きっと・・・」 マサトが眉を寄せる。 「ミルのハートはマサト以外、誰のものにもならないもん。体だけつかまえても、ミルの心は絶対手につかまらないんだから、そんなの価値ないでしょう?」 「・・・いや。・・・そうなら苦労はないが・・・つーか、ミルクの体に手ぇ出されてたまるか!」 「・・ぅ・・・怒らなくてもいいじゃん。」 「あんまり世間知らずで・・・たまに不安でどーにも参っちまうぜ。・・・いいか?・・世の中には、レイプして喜ぶ奴等もいるんだぜ?」 「・・レイプ?」 「知らない?・・・っだぁぁ・・・こーゆー子もいるんだなぁ。」 「・・ぅぅ・・・ごめんなさい。」 マサトはコメカミを指で押さえながら、ミルクの生活環境にない言葉なのだから、知らなくても無理はないかも知れない、と改めて思った。 そして、苦笑すると、落ち込んでうつむいているミルクの髪を、クシャクシャッと撫でた。 「知らないでこれたのはいいことだよ。英語の授業じゃ教えねぇもんな。クックックッ。」 「・・・でぇ、意味はぁ?」 「レイプってのは、泣き叫んで嫌がる女を無理矢理押さえつけて犯すことを言うんだぜ。」 「・・・ふーん・・・あッ!」 「何?」 「さっき、マサト・・ミルをレイプしたぁ・・・」 「・・・・・あのな・・・犯しちゃいねぇだろ?・・・恋人同士なら泣いててもいいんだ。」 少々勝手な言い分ではあったが、変な知識で事情を知らない誰かに言われると、誤解を生じ兼ねない。 「・・そっか。」 ミルクがあっさり納得したので、マサトはほっと溜息を漏らした。 話が変な方向へ行ってしまったので、マサトは婚約指輪の話に戻した。 「指輪も渡せたことだし、後は結納だな。」 「結納?!」 「正式な形で婚約した方がいいだろ?・・学校側も、婚約しての交際は認めるって言ってんだろ?」 「うん・・・」 メールで家庭訪問のことは簡単に報告してあった。 その時に、担任が”婚約者との交際は公認する。”と言ったことと、相手がS商事の会長と知って異様に喜んだことを伝えたのだ。 返事はすぐになかったが、約束の場所で会う前に、マサトがミルクからのメールを見ていてくれたらしい。 「俺の方としても、お堅い頭の連中は儀式を重んじたりするし、妙なクレームが入らないように公表しておきたいしな。」 「そうなのぉ?・・・でもぉ・・・結納ってよくわかんない。」 「クスッ。別にミルクが何かをする訳じゃねぇから心配するな。・・ま、ちょっとだけ操り人形にでもなった気分で、回りが指示するように動いて貰えれば充分だよ。」 「・・・うん。」 「具体的に言えば、ホテルで両家の親族が集まって結納式をしたら、お披露目のパーティーをするって感じだな。」 「えー・・・ホテル?・・・お披露目のパーティー?・・・って、何だかそのまま結婚式みたいじゃん。」 「結婚式ほど招待客はいないし、ウェディングドレスもまだ着ないんだぜ。そんなに固くならなくて大丈夫さ。」 「・・・ミルの親族って言っても・・・ママとお兄ちゃんくらいだなぁ。」 「バーカ。そんなことを言ったら、俺は親も兄弟もいねぇんだぜ?」 「あ・・・そうだね。・・・ごめん。」 ミルクはマサトの胸に抱きついて顔を埋めた。 「・・だから・・・早くミルクに俺の家族になって欲しいのさ。・・な?」 「うん。」 ミルクはマサトに顔を埋めたまま頷いた。 マサトはミルクの髪を撫でてキスをすると、何かを考え込むように深い息を吐いた。 それから、 「・・ミルクの方はミルクの父親にも出て貰わなきゃな。」 と、静かに言った。 ミルクは、えっ?!とマサトの顔を見上げた。 「・・パパにもいて欲しいだろ?」 ミルクはしばらくマサトと見つめ合っていたが、再び胸に顔を埋めると、 「・・・わかんない。」 と、首を振った。 「パパを好きなんだろ?」 「・・・でも・・・きっと・・・パパ、来ないよ。」 「夫婦の問題はともかく、娘を可愛いと思わない父親はいないだろう。俺からよく頼んでみるから・・」 「・・・ママが・・・辛いと思うし・・・」 「離婚の話は出させないよ。・・つーか、もう当事者同士で話し合わないようにミルクのママにも言ってあるんだ。当事者同士で話し合っても、女性・・特に日本女性の場合は言いたいことも言えない場合が多いからね。」 「・・だけど・・・顔を見るだけだって辛いはずじゃん。」 「・・・確かにな。・・・だが、生きているのに父親が娘のお目出度い席に出ないことの方が、後々思い出した時に辛くなると思うぜ。」 「・・・そーかなぁ・・・」 「現状はどうであれ、積み重ねてきた過去を否定することはない。ミルクは確かに愛の結晶なのだからね。・・ミルクのママはミルクが思うより、ずっと強い人だよ。だからこそ、こんなにいい子に育ったんじゃないか。・・自分の人生を否定するような女性じゃないよ。」 「・・・ありがと・・・」 「ん?」 「・・・ママを誉めてくれて。」 「当然だろ?・・ミルクのご両親に、俺は感謝しているんだ。二人の出会いがあり、ミルクがこの世に誕生しなければ、俺は巡り会うことが出来なかったんだからな。」 「・・マサトぉ・・・」 ミルクはマサトの羽織っている銀色のガウンの胸元から直接肌に顔を擦り付けた。 そろそろ出番か?・・と、赤い頭の蛇が、シルクガウンの裾を割って顔を出す。 「・・ミルク・・・」 マサトは、ガウンの襟元からのぞくミルクのうなじから背中への白く滑らかな肌に、唇を滑らせたい欲望が疼き出していた。 欲望のままに、耳から首筋、そしてうなじへとキスをしていく。 「…ぁ…あのねぇ…」 「・・うん?」 「…ミルもぉ…マサトのパパとママに感謝してるぅ。」 「・・そうか・・・」 マサトは複雑な思いで頷いた。 母親に甘えた甘酸っぱい記憶はない。 息子でさえ警戒し、徹底したスパルタ教育を施し、絶対的服従を誓わせる、独裁者だった父親。 温もりを感じさせてくれるような親ではなかったが、それでも、愛していないとは言いきれないのかも知れない。 確かに、あの二人の存在があって、今の自分があると思えば感謝もしよう。 決して甘い感傷ではないにしろ・・・。 「…あれ?…蛇さんが…隠れちゃったぁ…」 「クッ・・・親父の腐臭にあたったかな?」 ミルクが眉を寄せて首を傾げる。 「・・親父の趣味は毒蛇の収集。アマゾンの奥地まで自分で探しに出掛けていた。・・連絡が途絶え、行方不明になって二週間後に発見した時・・・」 ・・・腐って半分骨になった体からはウジ虫が溢れていた。 そう言いかけてやめた。 想像するだけでも、ミルクには耐えられないだろう。 「いや。・・やめよう。・・・生きているからこそ、憎みもするが、愛することも感謝することも出来るのさ。・・・墓前で手を合わせることは出来るが、結局それは自己満足。自分の罪悪感を拭う言い訳でしかない。」 「・・・ぅぅ・・・それって・・・何か、悲しい・・・」 「霊能者や宗教家は違う意見だろうが・・・俺は今を後悔しねぇように生きたいのさ。」 「・・・うん。」 「だから・・・隠れちまった蛇を元気にしてやってくれ。」 目を潤ませたミルクが怪訝な顔をする。 マサトは片眉を上げ、不敵な笑みを浮かべる。 あっ、とミルクはマサトの言った意味がわかって唇を尖らせた。 「・・・真面目なんだか・・・Hなんだか・・・」 そう言いながらも、ミルクはソファーから腰を絨毯に下ろし、マサトの前に正座した。 マサトが両足を広げたので、ミルクは体を伸ばし、蛇の胴体を握って頭をくわえる。 蛇はここぞとばかりに伸び上がってくる。 ミルクは頭を上下に振りながら、指輪の煌めきを眺めていた。 |
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<42> 「アジトのお部屋」 |
§42§「アジトのお部屋」 翌、日曜日。 ミルクはマサトが助けた組織の女性だというアザミを見舞った。 「まぁ・・奥様にお会い出来るなんて光栄ですわ。」 と、吸いかけの煙草を灰皿で消し、居住まいを正したアザミは、素顔でも充分美人だった。 マサトより二歳年上の30歳。 透けるネグリジェに肩からガウンを羽織った姿は、妖艶な色気に満ちていた。 それでも、肋骨が二本折れているとかで、薄いネグリジェから透けて見えるギブスが痛々しかった。 丁度、組織で風俗を取り仕切っている島田も来ていたので、ミルクは初対面の挨拶をした。 島田も30歳で、アザミとは同期ということもあり、公私で親しいのが雰囲気でわかる。 風俗関係の支配が島田に移ってから、それまで高級娼婦としてトップの稼ぎを誇っていたアザミが、島田の補佐で女達を仕切るようになっていた。 「突然、伺って済みません。マサトさんと一緒に訓練したことのある方だとお聞きして、お会いしてみたくなっちゃたんです。」 ミルクがペコリと頭を下げると、アザミは艶っぽい笑みをこぼした。 「一緒なんて・・クスッ。・・ボスは、私達に格闘の必殺技を教えて下さったり、英語の実践的使い方を指導して下さってたんですよ。・・ねぇ、衛ちゃん?」 「はい。・・ボスは我々とは格が違いますから。」 衛と呼ばれた島田も敬意を込めて頷いた。 「俺が会社を設立した当時は事務の仕事もしていてくれたんだよ。」 マサトが補足して言った。 「ほんの2年で風俗の仕事に移っちゃったけど・・・」 アザミは苦笑して肩をすくめた。 「・・風俗って・・よくわからないんですけどぉ・・・」 ミルクが申し訳なさそうに言うと、島田とアザミが顔を見合わせてから、マサトに視線を向けた。 マサトはどう説明しようかと、顎に手を当てて眉を寄せた。 「あ・・いえ・・言葉は聞いたことあります。・・大人の人達が遊ぶ場所・・のことですよね?」 風俗と言っても漠然としていてたくさんの業種がある。 ミルクには、それがわからなかった。 「そうねぇ・・・風俗って一括りでは実体がつかめないわよね。・・私の場合は愛人クラブでしばらく仕事して、男の扱いに慣れた所で、すぐに高級娼婦の秘密クラブに入ったんだけど・・って、お話しても良かったかしら・・?」 アザミに視線を投げられ、マサトは、 「それくらいなら知っていて構わねぇぜ。・・何しろ、俺の妻だからな。ある程度裏社会も知らねぇと、かえって危険なこともある。」 と、溜息まじりに答えた。 「そぅ・・・大事にされてるのね。」 フッと目を伏せて呟くように言ったアザミの表情に、切なそうな影が過ぎった。 ミルクは、この人もマサトを好きだったのか、と感じた。 アザミは吹っ切るように明るい笑顔になると、 「でも、奥様は、あまり知りすぎない方がいいかも知れなくてよ。・・でないと、私みたいに人の妻に納まっているより、スリリングな生き方がしたくなったら・・困るでしょう?・・フフッ。」 と、妖艶な眼差しをミルクとマサトに向けた。 「ミルクには俺の妻でいるだけで、充分スリリングらしいぜ。」 「あー・・言えてるぅ。」 ミルクはこくこくと頷いた。 「そっか。・・ボスも生き方が過激だものね。」 アザミも納得して溜息を吐いた。 ギブスの胸を押さえて息をする姿は、まだ痛むせいだろう。 あまり長居しても、とマサトとミルクはアザミの病室を後にした。 それから、マサトはミルクに見せたい部屋があるから、と案内した。 総裁室の隣りにあった資料室を移動し、そこにミルクの為の部屋を用意したということだった。 総裁室からも通路からも出入り出来る部屋で、マサトが地下で仕事をする時にミルクが退屈しないようにと、景山が改装を指示したのだ。 窓のない地下の部屋ということで、ミルクは多少気が重かったが、マサトの側にいられることは嬉しかった。 「・・・ほぇぇぇ・・・」 部屋を見たミルクの第一声がこれだった。 「クックッ。・・だろ?・・・ったく、景山がこんなロリ趣味だとは思わなかったぜ。」 マサトはミルクの反応に苦笑して言った。 地下は鉄骨やコンクリートが剥き出しの部分がけっこうあって、殺伐とした雰囲気が全体に漂っていたが、この部屋のドアを開けた途端、あまりのメルヘンチックに異空間に迷い込んでしまった気分だった。 病室でさえコンクリートの壁なのに、この部屋の壁は下の方が一面の花畑で上は白い雲が浮かぶ青空なのだ。 それも、コンクリートに描かれた物ではなく、ふかふかな感触をしていた。 8畳ほどの空間は、半分がベッドスペースで、半分が遊び場的作りになっている。 どれもこれも可愛さを凝らした物ばかりで、抱き人形はもとよりハート形や星形のクッションがあったり、動物のぬいぐるみも籐篭に山盛りになっていた。 「・・・可愛い〜・・・」 ミルクはペンギンのぬいぐるみを胸に抱いて頬ずりをした。 「・・ククッ。・・・まぁ・・似合ってなくはないか。」 マサトは腕組みをして苦笑した。 「・・しっかし・・・ベッドまであるとムラムラしちまうぜ。・・シャワー室はちょっと離れてるし、トレーニングした連中が使うから、そこをミルクには使わせられねぇしなぁ。」 「んー・・・でもぉ・・・気持ちいい〜・・・」 ミルクはぬいぐるみを抱いたまま、ベッドに寝そべった。 「おいおい。・・・言ってるそばから誘惑するなよ。」 「・・してないもぉーん。」 ミルクはクスクス笑ってベッドの上を転がった。 やれやれ、とマサトは首を振り、 「一応ゲームも出来るようになってるらしいぜ。」 と、上に巻き上がるロールカーテンの掛かっている棚を指し示した。 「開けてぇ〜・・ぅふっ。」 ミルクはベビーベッドのようなデコレーションがされたベッドが気に入ったらしく、まだ転がりながらマサトに言った。 「・・・襲うぞ?」 マサトは軽く舌打ちをしてジョークとも本気とも取れるように言いながら、ロールカーテンを上げて見せた。 棚にはTVが置かれてあり、ゲーム機やソフトも色々揃っている他、アニメのビデオも並んでいた。 「わぁ・・・ソフトまでぇ?・・クスクスッ・・スゴイねぇ。」 「スゴイと言うか、呆れると言うか・・俺は初めてこの部屋を見た時、目眩を感じたぜ。・・・まぁ、ミルクが気に入ったんならいいけどな。」 「うん。すごぉーく気に入ったぁ。フフフッ。」 「・・なるべくミルクといる時には仕事しないで済むように、と思ってはいるが・・・」 「でも、夏休みとかぁ・・休みが続く時はマサトがお仕事してても側にいたいしぃ・・・」 「ああ・・・そうだな。・・けど、いい子でいられるかな?」 「うん。」 「・・部下'で'遊ぶなよ?」 「・・・ぅ・・・」 前に上の事務所で待っていた時は、部下'と'遊んでいていい、と言われて、ワザと困らせ部下'で'遊んでいたミルクだった。 「あ、そうだ。ミルクの遊び相手を用意していたんだっけ。」 マサトはドアを開け、外で待機していた若松に、 「例の物を。」 と指示した。 若松が小振りで浅めの飼育ケースを持ってきた。 リンゴの形のテーブルの上にそっと置く。 「・・なぁに?」 ミルクはムートンの敷物の上を四つん這いでテーブルに近付き、そのままの姿勢で横からケースの中を見た。 「・・あ・・・」 と言った口を閉じるのも忘れて凝視する。 「ミルクスネークだよ。・・前に話しただろ?」 「・・・うん・・・小さい蛇ぃ・・・赤ちゃん?」 「まだ子供だが、それでも大人になっても50cm以上にはならない種類なんだ。」 「・・・ふーん・・・あ、動いた。・・・紅白で綺麗ぃ・・・」 「この種で普通のタイプは赤と黒の縞だけどな。ミルクにはこっちの方が似合うよ。」 「・・似合うって・・・」 ミルクはケースから顔を上げて、マサトに眉をひそめてみせる。 「ペットにするなら可愛い方がいいだろ?」 マサトは片頬で笑うと、音の出ない口笛を吹いた。 微かに風のような特殊な波動が鼓膜を震わせた気がした。 すると、赤と白の縞柄の蛇が頭を上げて伸び上がる。 マサトはケースの上のフタを開け、手を差し出す。 スルスルッ、と細い蛇が指から手首へと巻き付いていく。 「・・噛まない?」 「おとなしい子だから大丈夫。それに毒もないから安全だよ。・・触ってみる?」 「・・うん。」 ミルクが胴を撫でると、今度はミルクの手から腕へと巻き付いて登り始めた。 「ぅ…わぁ…ぅぅ…何か・・・くすぐったいぃ・・・」 ミルクは腕をまっすぐ伸ばしてミルクスネークの動きを眺めている。 「怖くないだろ?」 「うん。」 「そうか。・・良かった。」 マサトは満足そうに微笑んだ。 蛇は上へ上へと登り、ミルクの半袖の中へと潜り込もうとしていた。 「こらッ。・・ミルクの洋服の中は立ち入り禁止だぞ。・・そこに触れていいのは、俺だけなんだからな。」 マサトはそう言って、また自分の手に巻き付くように仕向けて、飼育ケースに戻した。 「ここでしばらく飼うといい。・・急に親しくならずとも、少しずつ慣れていけばいいからね。」 「・・もう平気なのにぃ・・」 「怖さはなくても扱い方がわからないだろ?」 「あ・・うん。」 「特質を知っておかないと、何かあった時に困るからな。」 「はーい。」 「クスッ。よしよし。」 そう言ってマサトがミルクの髪を撫でた時、景山が顔を出した。 「あッ、景山さん。・・こんなに可愛いお部屋にしてくださって、ありがとうございます。」 ミルクはムートンの上に正座して頭を下げた。 「お気に召して頂けましたか?」 「はいッ。とても。」 「そう言って頂けますと、私としても嬉しい限りです。」 景山は目を細めて恭しく頭を下げた。 それから、マサトに向き直って、 「ボス。少しよろしいでしょうか?」 と、眉を曇らせて伺いをたてた。 マサトは溜息を吐き、 「・・・早速、部屋が役に立つか・・・」 と言ってから、ミルクに待っててくれるように言って、隣りの総裁室へと移った。 ミルクはマサトに手を振って見送った後、頬杖をついて飼育ケースを覗きながら、 「あなたにお名前をつけなくちゃね。」 と囁いて、透明なケースを人差し指でそっと叩いた。 3時間ほどが経過していた。 ミルクの部屋のドアを開けた入り口の所で、三人の男達は中に踏み込むのが憚られて立ち止まっていた。 やがて、微かに笑いを洩らした景山が、 「・・ボス。・・いずこより姫をさらってこられました?」 と、トーンを落とした声で言った。 景山がそう形容してしまう光景だったのだ。 小さめの洋ダンスに気付いたらしく、着ていたワンピースをそこに用意されていたピンクのナイティードレスに着替え、一番抱き心地が良かったらしいクマのぬいぐるみを抱いたミルクがベッドですやすやと眠っている。 一番抱き心地がいいのだろうと思えるのは、眠るミルクのまわりにズラッと他のぬいぐるみが転がっているからだった。 ぬいぐるみに囲まれ襞いっぱいのドレスで穏やかに眠る姿は、姫としか言いようがなかった。 「クックッ。・・南国の小島からな。」 マサトは愛おしげに見つめながら言うと、 「・・少し・・遠慮していてくれ。」 と、目配せした。 「はい。・・では、ごゆるりと。」 「失礼します。」 景山と若松は頭を下げ、静かに立ち去って行った。 マサトはそっとドアを閉めてベッドに歩み寄った。 まず、どこからキスしよう。 ぬいぐるみを一つどかして、ベッドに腰を下ろしたマサトは、ミルクの寝顔を見つめながら考える。 前髪から覗く白すぎる額にしようか。 それとも、赤く脹らんだ小さな唇にしようか。 まだ幼さを残す丸みのある頬がいいか。 いきなり華奢な首筋に噛みついてやろうか。 キスをしようとするだけで、これほど躊躇い、ドキドキしてしまう。 平熱でも高めの体温が上昇する。 熱い吐息が自然と漏れる。 股間に血が集中していき、ドクン、、ドクン、、と蛇の鼓動が聞こえそうなほどだ。 「・・ミルク・・・」 たまらず、マサトはミルクを抱き締めキスをする。 迷った場所すべてにキスを繰り返す。 「、、、ん、、、んぁ?」 ミルクは微睡みが覚めきらない中、いきなりのキスの雨に現状を把握しきれずにいた。 「ミルク・・愛している。」 甘く熱い息で囁かれ、体が火照ってくる。 マサトの熱い体に腕を回して、ミルクもキスに応える。 「、、ぁ、、、マサトぉ、、、」 マサトが、カチャカチャッ、とベルトをはずし、ミルクの幾重にも重なったドレスの裾をたくし上げる。 「はぁぁ・・我慢出来ねぇ。」 ミルクの秘部を守るにはあまりにも心許ない小さなパンティを、スルッ、と脱がせ、蜜壺を指で掻き回す。 「、、ぁ、、、ぁぁ、、、」 まだはっきりとしない意識でも、愛液は溢れ出してくる。 マサトはズボンと下着を少しだけ下げた状態で、固くそそり立つ蛇を蜜壺にねじり込んだ。 「ぁん、、、ぁぁぁ、、、んん、、、」 ミルクの膣壁がヒクヒクと痙攣する。 ヒクッ、ヒクッ、、ピクッ、ピクッ、、 じんわりと包み込みながら痙攣する感触が、蛇を一層興奮させる。 「あぁぁ・・・とろけるほど柔らかいのに弾力があって・・・何て気持ちがいいんだ。」 マサトは奥まで密着させると、目を閉じて腰を回転させる。 「、、ぁぁん、、、マサトぉ、、、」 ミルクは薄布が重なったフレアの裾が顔にまで掛かりそうで、胸元で束ねるように抱える。 と、テディベアも抱いていることに気付いたが、両肩の脇にマサトの腕があって、放すことも出来ず、そのまま抱いているしかなかった。 マサトはゆっくりと腰を動かしながら愛する蛇窟を味わっている。 「・・う・・あぁッ・・・この奥の当たる所がプチプチしてて・・・何とも言えねぇなぁ。」 「、、プチプチ?」 ミルクが不安そうな顔になる。 何か悪い病気なのかと思ったらしい。 「あ・・いや。・・・きっとカズノコ天井って奴だろ。聞いたことはある。」 マサトは苦笑して、優しく額にキスをする。 それから、腰を少しずつ大きくうねらせて、動きをつけて肉襞を擦り始めた。 「、、ぁぁ、、、ぁぁぁ、、、んー、、、ミルもぉ、、気持ちいい、、、」 テディベアを、ギュッ、と抱き締めたミルクが背中を反らせて喘ぎ声を上げる。 幼い姫の顔が、妖しい妖魔の艶を醸し出す。 愛液はどんどん溢れてきて、お尻の下のドレスまで濡らしている。 クッチュ、、クッチュ、、クッチュ、、、 淫靡な音が繰り返される度に、膣壁がヒクつきながら蛇の長い胴体を締め付けていく。 絡め取られそうになりながら、蛇は身を踊らせて体を擦らせる。 「ぁぁぁん、、、ぁぁ、、、感じちゃうぅ、、、」 ミルクがテディベアに顔を擦り付ける。 マサトはミルクの汗ばんだ額の髪を撫で上げてやりながら、 「いいぜ。・・いっぱい感じろ。・・・はぁぁ・・俺も最高に感じてるぜ。」 と、熱い息で言う。 ミルクの柔らかな肉襞は、まるで密集するミミズのように蠢き、魔力でもかけられているかと思うほどキツク巻き付いてくる。 淫魔の魔法をかけられた姫は、己の妖しさに気付くこともなく、無垢な心のままにぬいぐるみを抱き、押さえきれない快感に悶えている。 「あぁ・・・ミルク・・・俺の姫・・・このまま魂を吸い尽くされても悔いはない。」 マサトはミルクの両足を、伸ばした状態で左右に開き、両腕で抱く。 丁度頭の両脇に足先が来るようにして、ミルクのお尻を持ち上げる。 「、、あ、、、ぃゃん、、、」 剥き出しになった下半身が目の前に晒され、ミルクは熱く潤んだ目を閉じる。 グッチュ、、グッチュ、、グッチュ、、、 音を立てて、マサトは腰を激しく打ち付ける。 「あぁぁ、、、ぁぁぁぁぁ、、、ぁぅ、、、ぁぁぁん、、、」 目を閉じて顔を仰け反らせるミルクのよがり声が一段と高まっていく。 ギュゥゥゥッ、と根元を締め付けられ、マサトの腰から背中へと甘い疼きに痺れる。 膣壁は、マサトの膨張しきった蛇の胴を、根元からカリ首の張った先端へと扱き上げるようにうねっている。 「うぅぅ・・・良すぎて・・・はぅぅ・・・飲み込まれそうだぜぇ・・・」 妖魔の口に吸い込まれる感覚に、尻の穴から背骨を通って頭のてっぺんまで熱い電流が走り抜ける。 押し寄せる快感の波に、マサトの動きも力強く速度を増す。 パシパシパシッ、、、 ジュプジュプジュプッ、、、 「ぁぁぁぁぁぁ、、、ぁぁぁぁぁん、、、はぁぁぁん、、、ああぁぁぁ、、、」 ミルクの喘ぎ声が狂ったようにこぼれ出す。 思考を失い、快感にのたうつ人形がいる。 両腕にぬいぐるみとスカートの襞をきつく抱き締めた可愛い人形。 幼い顔が、チラリとマサトの心に痛みを過ぎらせた。 ・・・罪だろうか。 いや。・・・罪でもいい。 この愛を止めることなど、誰にも出来ない。 そう。・・・俺自身でさえ。 マサトは目を閉じて快感に身を委ねる。 キツク吸い付かれ扱かれて、もうギリギリ限界にきている。 「ミルク・・・イクぜぇ!」 「ああぁぁぁぁぁ、、、」 ミルクはブルブルと震えるように悶えている。 「はぅぅぅっっっ・・・ああぁぁぁ・・・ぅぅぅっっ!!」 マサトは戒めを解き放ち、勢い良く射精した。 背骨が焼け付く感覚に目眩を覚える。 と、同時に全身がたまらない快感に満たされていく。 ミルクの中で、満足しきった蛇が甘酸っぱい陶酔に浸っている。 マサトはしばらく呼吸を整えながら余韻を味わっていた。 それから、そっとミルクのお尻を降ろしてやり、力の抜けた足もベッドに置いてやった。 力なく開かれた股間に、ピンクの花弁がヒクヒクと痙攣しているのが見える。 花弁からはトロリと白濁液が滴り出てきている。 大人として自覚を持ち理性的であろうと思う時には、避妊も心掛けたが、どうしても支配欲に駆られた時は、騒ぎ立つ精子をミルクの中へ解き放ちたくなってしまう。 ミルクには、安全日を計算しているから、と言い訳しているが、まだ生理日が狂いがちのミルクでは確かとは言えなかった。 だが、子供が出来れば否応もなく結婚に踏み切ってくれるかも知れない、と期待する心が密かにあって、精子諸君にエールを送りたくなる。 「、、、ぁふっ、、、マサトぉ、、、」 登り詰めて恍惚となっていたミルクの意識が帰ってきたようだ。 マサトは自分の想像に苦笑を洩らし、ミルクに添って体を横たえた。 「、、クゥーン、、、」 子犬のような声でミルクが額を押しつけてくる。 マサトは腕枕をしてやり、額にキスをする。 「・・いっぱい感じた?」 「、、、ぅん、、、」 ミルクはテディベアを抱いたままマサトに頬ずりをする。 「クスッ。・・ずっと抱っこしてたんだな。」 マサトはクマの額を指で弾いた。 「ぁ、、、だめぇ、、、」 ミルクは庇うように抱いて頭を撫でる。 逆上せて火照った顔は、甘い色香が漂っていたが、表情はまだまだ幼いミルクだった。 「なら、俺はこっちを抱っこだ。」 マサトはぬいぐるみごとミルクを抱き締めて、熱い口づけを繰り返した。 |
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<43> 「珠玉の輝き」 |
§43§「珠玉の輝き」 マサトに髪を撫でられて、逆上せてぼーっとする意識を落ち着かせていたミルクが、次第に拗ねた表情になっていった。 「・・・ん?・・・どうした?」 心地いい気怠さに浸っていたマサトがミルクの頬を撫でる。 ミルクは目を伏せて何も答えない。 どこか不満気な表情が気になる。 「どうしたんだ?・・・ここで抱いたから怒ってるのか?」 ミルクは首を小さく振って、唇を尖らせた。 「何?・・・話してくれないとわからないだろ?」 マサトは宥めるように言って、ミルクの鼻の頭にキスをした。 「、、、だって、、、」 ミルクは小さな声で言うと、マサトの手をそっと自分の胸に乗せた。 マサトは習慣的にそのままミルクの胸を撫でる。 と、柔らかな布を通して、ミルクの乳首が固く突起していることに気付いた。 指先で触れるだけではっきりとわかるほど、取り残された乳首が固く起ったままになっていた。 「・・あ・・そうか。」 男は挿入だけでも満足出来る。 だが、女は挿入だけでは満たされない、もう一つのポイントがあった。 特にミルクのような甘えん坊は、胸への愛撫で愛されている実感を味わうらしい。 「ごめん。・・おっぱいが寂しがっちゃったか。」 マサトが優しく微笑んで言うと、ミルクが小さく頷いた。 「そうか、そうか。・・ごめん、ごめん。」 マサトはギュゥッとミルクを抱き締め、キスをしながら胸を撫でてやる。 そして、舌を絡めて慰めながら、ミルクのナイティドレスを脱がせていく。 スルリ、、、と白く丸い肩が現れると、しゃぶるようにキスをして舐める。 「、、ぁ、、、」 更に下へと顔を移動させながら、服も下へと脱がせていく。 やがて、ぷるるん、、とふっくらと弾力のある白い膨らみが剥き出しにされる。 付け根まで固く強ばって突起している乳首は濃いピンクに染まっている。 初めて触れた時より二回りは大きくなっているだろうか。 薄ピンクの小さな粒だった乳首が、抓み応えのある女の乳首に変化している。 丁度女性へと体が変化する時期と重なったせいもあるだろうが、春先の固い蕾が咲き綻ぶ前のふっくらした蕾に変わるように、乳首も可愛く色付いていた。 マサトは舌の先を回転させ突起している回りを舐めてやった。 「、、ぁ、、ぁぁ、、、」 ミルクはたまらなそうに仰け反って甘い吐息をもらす。 チュゥッ、、と吸い付いて、舌の先で転がしながら、ゆっくりと唇で固い先端を解す。 「、、ぁん、、、ん、、、」 ある程度解れてきたら、もう一方にも同じように吸い付いて愛撫してやる。 「、、ぁぁ、、、ぁふん、、、んん、、、」 切なそうに感じてマサトに向ける眼差しは、ゾクッとするほど色っぽい。 マサトの蛇が再び伸び上がっていく。 マサトは胸への愛撫を続けたまま、ミルクと自分の服も脱ぎ捨てていった。 二つの丸いおっぱいを充分にしゃぶって舐めてやってから、マサトはベッドに起きあがり、クッションを背中にあてて座ると、つるん、、と剥き出しになったミルクの体を後ろから抱きかかえた。 マサトの腰を跨いだミルクの股間から、蛇が顔を覗かせている。 「ククッ。・・ミルクにちんちんが生えたみたいだな。」 肩越しに耳をしゃぶりながら囁く。 「、、ぅぅ、、ゃぁ〜ん、、、ミルぅ、、男じゃないもぉ〜ん、、、」 ミルクは、いやいや、と体を左右に揺する。 「そうだよなぁ。・・こんなに愛らしいおっぱいがあるもんなぁ。」 マサトは喉で笑うと、ミルクの両脇から腕を前に伸ばして胸を両手で揉んだ。 「、、はぁ、、、ぁぁん、、、」 甘い吐息と共にもれる喘ぎ声は小さくかすれている。 両方同時に乳首をつまんで、クリクリ、、と捏ねてやると、体をグゥッともたれかけてきて、腰を絶妙にうねらせる。 「・・こうしてると・・ミルクのちんちんみたいだから・・・中に入れちゃおっか?」 子供に言い含めるような言い方で誘う。 ミルクは、こくり、、と頷き、 「、、うん、、、」 と答える。 「よしよし。・・いい子だ。」 マサトはそう言って、ミルクの髪にキスをしてから、腰を片腕で抱き上げ、蛇をぐっしょり濡れている膣に挿入する。 ズルッ、、ズブゥゥッ、、、 すでに散々捏ねられて柔らかくなっている蜜壺は、抵抗なく奥まで蛇を飲み込んだ。 「、、、ぁぁぁ、、、ぁぁ、、、」 「深呼吸してごらん。・・・ゆっくりと感じればいいからね。」 「、、、ぅん、、、スゥゥ、、、ハァァ、、、」 「そう。・・上手だよ。」 マサトは胸と腹をミルクの背中に密着させて抱き包み、愛おしく頬ずりをした。 向き合って顔が見られない分、肌と肌の密着で安心させる。 ミルクも内側と外側からの密着に緊張を解していく。 今更緊張してると思うのは変に聞こえるかも知れないが、女は抱かれる度にいつも高まる興奮で緊張するのだ。 男性にしか与えられない喜びを甘受すべく、女は心を捧げてその時を待つ。 心で感じられなければ、体をいくら愛されても満たされない、女の不可思議さがそこにある。 希に体だけの喜びを求める女性もいるが、そうした女性には計り知ることの出来ない、究極のエクスタシーがある。 貪るのではなく、全てを捧げて溶けていく快感。 ミルクは考えるのではなく、体でそれを知っていた。 「、、、はぁぁん、、、ぁぁ、、、あふっ、、、」 ずっと乳首をつままれ、グリグリ、、とこね回されている。 ミルクは無意識に腰が動いてしまう。 「・・あぁ・・・いい子だ。・・・可愛いよ。」 マサトは、緩急をつけて回転し、締めたり緩めたりと収縮する膣に、意識を奪われそうになりながら、優しく声をかけて乳首を愛撫し続ける。 ミルクを抱いてからも色々と集めた情報で、これが世に言う名器なのだとはわかっていたが、それにしても、意識せずにこうも悩ましく男心を駆り立て、精気を吸い取ってしまう体とワザに舌を巻く。 常に行き場のない激情が煮え滾り、周囲の人々が近付きがたく感じるほどに激しいオーラを燃やしていたマサトは、時に自分自身さえ焦がしてしまう魂の熱を持て余していた。 それが、ミルクと付き合うようになってから、周囲の人達の笑顔を見る機会が多くなっていることに最近気付いた。 自分でさえ、気付かずに笑みを浮かべている時がある。 苛立つほどに燃え滾っていた掌が、熱すぎる熱に震えなくなった。 そもそもマサトがシルバーアクセサリーに引かれたのも、その重量感と冷たさだった。 憎悪だけに心が囚われ、無差別に攻撃したくなる灼熱の炎。 闇夜よりも深く暗い地獄の闇に、心まで光を失いそうになる時、シルバーアクセサリーの冷たい輝きが正気を維持させてくれていた。 それが、今はファッション感覚で見ている自分に驚かされる。 忌み子として背負った十字架が、ミルクの中で溶けていく。 ミルクの幼さを愛しているのではない。 まだ幼さに隠れた美しい珠玉の輝きに惹かれたのだ。 急ぐことはない。 ゆっくりと、大切に、成長を見守っていけばいい。 マサトはミルクの壊れそうなほど華奢な体を、優しく抱き締めて、 「愛している。・・俺のミルク。」 と、繰り返し囁いた。 乳首を強くつまむと、膣もキュゥゥッと締め付けてくる。 腰のうねりも大きくなって体が上下に弾む。 「、、、ぁぁん、、、マサトぉぉ、、、」 充分に感じたミルクがマサトを求めて啜り泣く。 焦れったさに体を震わせ、鼻を鳴らす。 「、、あぁん、、、あん、、あん、、あん、、、」 腰を大きく上下させて膣口を蛇の根元に擦り付けてくる。 クチュッ、、クチュッ、、クチュッ、、、 と、ミルクが恥ずかしがる音を自分で立てていることに気付かず、一心不乱に腰をくねらせ弾ませる。 「いいぜ。・・・後は俺がいかせてやる。」 「、、ぁ、、、ぅん、、、」 ミルクはマサトに身を委ね、仰け反るようにもたれてくる。 マサトはミルクと繋がったまま、前に倒して四つん這いにすると、背中から覆い被さって肌を合わせて突き上げ始めた。 「、、あぁ、、、ぁぁぁ、、、あぁん、、、マサトぉぉ、、、」 「・・ミルク。・・・あぁぁ・・・可愛くてどーしようもないぜ。」 上半身はしっかりと抱き包み、腰だけ激しく動かして子宮を突き上げる。 全身に広がる甘い痺れ。 再び背骨が焼け付くように熱くなっていく。 それでも、心地いい熱だった。 「あぁぁ・・・ミルク・・・イクぜぇーッ。・・・くぅぅぅっっっッ・・・あぁぁぁぁッ!」 マサトは高まった熱を一気に噴出させた。 「あぁぁぁぁぁ、、、イクゥゥゥーーー、、、」 ミルクも体を痙攣させるように震わせて登り詰めた。 ミルクの満たされて溶けきった表情は、マサトにとって、この上もなく美しいものに思えた。 お互いに裸の肌を合わせて横たわっている。 火照りと余韻は甘く、いつまでも浸っていたい気持ちにさせる。 ミルクはマサトの腕枕で、ずっと目を閉じて甘い息をしている。 このままそっとしておけば眠ってしまうだろう。 マサトは壁のメルヘンチックな時計で時間を確かめた。 午前中に地下アジトへ来たのに、もう午後の3時を回っている。 「・・・ミルク?」 寝かせてやりたい気持ちはあったが、マサトは声をかけて、汗ばんだ額にキスをした。 「、、、ん、、、」 ミルクは目をわずかに開けてマサトを見つめる。 「・・お腹が空いただろ?」 「、、、どぉかなぁ、、、」 「・・夕方の約束まで我慢出来ればいいけどな・・・」 「、、、、、ん?」 ミルクはまだ思考がまとまらないようだ。 「ミルクのママと弁護士の高藤と夕食を一緒にする約束だぜ?・・忘れちまったのか?」 「、、、ぁ、、、そっか、、、んー、、、」 ミルクは怠そうにマサトの胸に顔を擦り付けた。 結納のセッティングを頼むホテルで、弁護士を交えて簡単な相談がてら、食事をすることになっていた。 母親には昨夜、段取りは全てマサト側で整え進めるからと、承諾を貰っていた。 マサトとしては、なるべく早く結納式をしたい事情があった。 仕事で海外に半月ほど出掛けなければならない。 以前から二月に一度は海外へ出向いていたが、ミルクの側から離れたくなくて、商談等を引き延ばしていたのだ。 マサトを信頼してる取引相手も、待たされて焦れてきているようだった。 これ以上待って貰う訳にもいかず、海外へ出掛けることは決めたが、ミルクにはまだ話していなかった。 一週間と離れていられないのに、半月会えないのはキツイだろう。 不安と寂しさで、また不必要に落ち込んでしまうかも知れない。 せめて正式な婚約が出来れば、ミルクの自信にもなると思えた。 その為、キャンセルで予定に空きの出来た式場を探していた所、近場で格としても遜色ないホテルが見つかったのだ。 早速とばかりに母親に報告し、下見をして貰うことにした。 母親は先にホテルへ行き、高藤にサポートされて、ホテル側の説明を聞いているだろう。 6時の待ち合わせに遅れる訳にはいかなかった。 「・・ミルク・・・このままじゃ行けないだろ?・・・支度しないと、な?」 「、、、ぅ、、ん、、、」 「・・それにしても・・シャワーが使えねぇと不便だぜ。」 「、、だって、、あるんでしょう?」 「・・あるには、あるが・・・」 「遠くてもいいよぉ。、、、マサトが抱っこしてくれたらぁ、、、ウフッ、、」 「そんな悩ましい姿を他の男達に見せられるかよ。」 「、、ぁん、、、」 マサトに額を小突かれ、ミルクは拗ねた上目遣いで瞬きをした。 「しょうがねぇから、取り敢えず服を着てマンションに行こう。」 「、、えー、、、ベトベトぉ、、、」 「今後は何とかするように考えとくが、今日の所は我慢してくれ。・・それに、服だってディナー用に着替えることだし・・な?」 「、、ぅぅ、、、わかったぁ、、、」 「よしよし。・・お利口さん。」 マサトはほっと安堵の息を吐いて、ミルクにキスをした。 結婚式場としても有名なGホテル。 結納とパーティーをするにも申し分ないだろう。 マサトの息のかかったホテルではないことが、警備上やサービスの点で不安はあったが、ホテルの支配人が玄関まで迎えに出てきた所をみると、ホテル側もかなり歓迎しているようだった。 レストランは予約してあったが、ミルクの母と高藤はロビーのラウンジで待っていた。 そこに支配人も加わって、長々と挨拶をする。 ミルクはお腹が鳴り出さないように、手で押さえていた。 結局あのままお昼抜きでここまで来たのだ。 マサトは笑みを洩らし、 「今夜は内々の席ですので、詳しいお話は後日また伺いましょう。」 と、支配人に断って、エレベーターへと一同を促した。 エレベーターの中で大きく溜息を吐いたミルクに、 「ククッ。だから、サンドイッチでもつまんでおけば良かったんだよ。」 と、マサトが苦笑して言った。 「・・だってぇ・・・今日のディナーはフルコースだって言ってたからぁ・・・それが食べられないと困るもん。」 「あらあら。それでお昼ご飯を抜いたの?」 「・・ぅ・・ん・・・まぁ・・・」 少し違うが曖昧に頷いた。 「一応、シェフの腕前を確認しておかないとな。コース料理の組み立てや盛りつけのセンスを見るには、お薦めフルコースを食べてみればわかるだろう。」 「ええ。それにソムリエのレベルやギャルソンの態度などもチェック出来ますでしょう。」 高藤がマサトに恭しく相槌を打つ。 「えー・・・そんなのを確認しながら食べたら・・・美味しくない気がするぅ。」 「クスッ。ミルクは気にせず、普通に食べていればいいぜ。・・料理の味付けとかは母上に吟味して頂けるしね。」 「まぁ・・・どうしましょう。」 ミルクの母親は、ポッ、と恥ずかしそうに頬を染める。 「大丈夫ですよ。琉美江さんの味覚センスは最高ですから。」 高藤がそっと母親の肩に手を乗せた。 が、コホンッ、とマサトが咳払いして、すぐに高藤の手は離れた。 「あ・・ねぇ・・お兄ちゃんは?」 ミルクはそんなやり取りに気付かず、ミツルのことを気に掛けていた。 「お友達の所で食事するって言ってたから大丈夫よ。帰りも少し遅くなるそうなの。」 「・・ふーん・・・そっか。」 ミルクはこくこくと頷いた。 「ミツル君ほどの腕があれば、多少遅くなっても安心ですね。」 「ええ。・・男の子は・・気ままですわ。」 食事には一応ミツルも誘ってあったが、遠慮したい、ということで来なかったことを済まなく思っていた母親は、マサトが気にしてない様子に安堵していた。 「ふぅ・・・美味しかったね。・・お腹いっぱい。フフッ。」 ミルクが満足そうにお腹を撫でる。 「あらあら・・・お行儀が悪いわよ。」 母親が小声で注意し、 「ミルちゃんも少し言葉遣いには気を付けるようにしないといけないわねぇ。」 と、心配そうにこぼした。 「・・・ぅぅ・・・」 ミルクは項垂れて頬を膨らませる。 「いや。構わないですよ。・・ミルクはありのままで可愛いのですから。」 マサトが優しく微笑む。 ミルクは上目遣いに瞬きをして、ニコッと笑う。 コロッと態度の変わりように、大人達三人は思わず笑い出してしまう。 「ハハハッ。会長からお噂は常々伺ってましたが、本当に愛らしいお嬢さんですね。」 「ホホホッ。・・ほんとに子供で・・・もう高校生とは思えませんわ。」 「クククッ。・・立派なレディーですよ。・・部下の中にはすでに熱烈なファンがいる程です。」 「まぁ・・そうですの?・・皆さんに受け入れて頂けるなら、少しは安心ですけど。」 チェックすると言いながらも、和やかで楽しい食事会となった。 料理も雰囲気もまずまずと言った所で、取り立てて問題はないように思えた。 マサトとしては二、三、気になる所はあったが、こちらの要望で注意を促せば大丈夫だろう。 「急なことだったが、いいホテルが確保出来て良かったな。」 「はい。会長もこれで安心して仕事に・・」 「いや。その話はまだ・・後にしよう。」 「あ・・申し訳ありません。」 「それより、高藤。明日渡米の方はよろしく頼む。」 「はい。承知しております。」 高藤はミルクの父親に参列して貰う為の話し合いで渡米するらしい。 母親はかすかに眉を曇らせたが、ミルクと目が合うと、大丈夫よ、と言うように微笑んだ。 目まぐるしく周囲は動いていく。 ミルクはその中心にあって、何も出来ずに、ただマサトを信じて従うしかなかった。 |
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<44> 「父の帰国」 |
§44§「父の帰国」 有栖川孝司は日本へ向かう飛行機の中、深い物思いに耽っていた。 一年以上、日本には戻っていなかった。 記憶にある娘の美琉玖は、人形のようにあどけない少女だった。 それが、男性を愛し、結婚を前提として交際しているという。 日本に帰らない一年が数年のような錯覚に陥ってしまう。 帰国を促しにきた弁護士の高藤という人物の説明によれば、見合いなどという縁談ではなく、本人同士の恋愛だそうだ。 まだ、15歳の少女に手を出したら淫行じゃないかッ! ・・・そう怒鳴りつけたい心境だったが、電話で原田雅人本人と話した時に、 「彼女は、あなたが父親としての務めを放棄されるから、不安な心を埋めてくれる存在を求めたのです。頼りなげに漂う魂を放ってはおけなかった。あなたに私を責める資格があるとお思いですか?」 と、手厳しく叱責されてしまった。 弱冠28歳という若さでありながら、その威圧感と風格には圧倒された。 噂は日本にいる当時から見聞きしていた男。 低迷する日本経済にあって、昇り龍のごとき躍進を続け、”若き覇者”とさえ称される男。 だが、”頭抜けた叡智と流れを掴む先見の明を、天与として授かる代わりに、人としての心を忘れてきたらしい。”と、影で囁かれるほどに冷徹な男として聞いていた。 あの泣き虫で甘えん坊の娘が本当に好きになった相手なのだろうか、と疑いたくなる。 しかし、真実なのだろう。 本社の社長自ら、 「君ももちろん婚約発表のパーティーには参加するのだろうね?・・いやぁ、実に羨ましい限りだ。彼ほど有望な人物は今の日本経済では希有だからねぇ。」 と、言われてしまった。 これでは仕事を言い訳にも出来ないし、会社の立場を考えると顔を出さない訳にはいかなくなった。 有無を言わせず人を動かす術を、原田雅人という男は心得ているようだ。 人のもっとも弱い部分を突いてくる。 離婚の話も弁護士を通すようにと勧告されてしまった。 アメリカで独立して仕事を始めようとしていたが、上手く進んでいた話が次々と潰されていくのも、彼の差し金だろうか。 9割方、順調に進んでいたのだ。 それが、ここ1ヶ月ほどで、職場として借りるはずだったオフィスも、始めるにあたっての取引先も、仕事を手伝ってくれるはずだった仲間も、全てが訳のわからない理由でキャンセルになってしまった。 今、会社を辞めれば路頭に迷うしかない。 愛人とやがて生まれる子供との生活の為にも、会社を辞める訳にはいかない状況で、本社社長から念を押させる。 しかも、 「そろそろ君を日本に呼び戻そうかとも思っているが、そっちのニューヨーク支社でも君が必要だと言っていてねぇ。・・戻ったら奥方ともよく相談して君の判断に任せるよ。君の家族は本当に素晴らしいからね。ご子息の良い噂も時々耳に入っているよ。・・会社のせいで家庭が壊れたなどということのないように、くれぐれも頼むよ。」 と、ほとんど公認の愛人がいることを承知でそう言ったのも、離婚はするな、と釘を刺されているようなものだ。 じわじわと見えない手で首を締め上げられている気分に、背筋が寒くなる。 原田雅人。・・・恐ろしい男だ。 ミルクの父親は深い溜息を吐いて目を閉じた。 琉美江を嫌いになった訳ではない。 しかし、”アメリカに渡って基盤を整えたら、独立して永住したい。”、という夢を話した時、悲しい表情で無言の拒否をしたのは彼女なのだ。 琉美江との関係がギクシャクし出して、積極的に協力してくれる秘書の麗華に惹かれたのか、麗華に惹かれるに連れ、夫婦関係が崩れていったのか、今となっては自分でもよくわからない。 有栖川の家系を継ぐのが琉美江しかいない、と知り、長男の身でありながら、彼女の籍にも入ったほど愛していた。 両親は激怒し、親戚も反対したが、それでも琉美江を選んだのだ。 身内と疎遠になっても、愛した女性だった。 ・・・何故かアメリカを嫌う琉美江がわからない。 出来れば一緒に来て欲しかった、と・・・今更言っても仕方がないが・・・。 勿論、二人の子供達への愛情は今でも変わらない。 特に娘の美琉玖への想いは恋しい程に愛おしかった。 男なら自分の夢は自分で切り開いていけるだろう。 まして美都琉は幼い時から良く出来た子供だった。 だが、美琉玖は親の目から見ても、いや、親としての欲目を引いても、愛しさに溢れていた。 美琉玖だけでもアメリカに呼び寄せ、引き取りたいと思っていたが、多少キツイ性格の麗華と生まれる子供に、神経を使いすぎてはかえって可哀想だとも思ったのだ。 いっそ嫌う理由でもあれば良かった。 一方的に自分が悪い、とわかっている。 だからこそ、余計に日本から足が遠退いてしまっていた。 ミルクの父親は日本に到着すると、ホテルにチェックインした。 本来なら自宅がある以上、そこへ帰るべきだろうが、お互いのストレスにならないようにと母親の方とも相談して、ホテルに滞在することにした。 母親の方と言っても、弁護士の高藤だったが。 自宅の電話番号が変えられてしまって、直接話せなくなったのも、あの原田雅人の入れ知恵だろう。 旧ナンバーに掛けると、留守録にメッセージを入れるか、緊急時にはと、アメリカで買った家の方のナンバーを告げる。 お陰で時々よく判らない電話が舞い込んでくるようになり、麗華がヒステリックに文句を言う回数が増えた。 仕事は有能で機敏だが、家庭では少々喧しすぎる所がある。 それでも、独立すれば良いパートナーになってくれることを期待していたが、当分は彼女が満足出来る活躍場所を提供出来そうもなくなった。 それもあって麗華の不満が蓄積され、ヒステリーになるようだった。 平和な家庭を築くには、不向きな女だ。 女房の愚痴をこぼす同僚の話を慰めながら聞き流していたが、今度は自分がどこかで愚痴るようになるのかと、自嘲的に思う。 長旅というほどでもないが、シャワーで汗を流して、スーツに着替えた。 結納式と婚約発表パーティーは明日。 今夜は美都琉と美琉玖が訪ねてくることになっていた。 結納式がいきなりの再会ではマズイだろうと、弁護士の提案だった。 フロントから連絡が入り、ロビーへ向かう。 緊張する息を整え、なるべく明るい笑みを作った。 すぐに気付いてイスから立ち上がったのはミツルだった。 ミツルに声を掛けられ、顔を上げたミルクも腰を上げた。 「・・あ・・・やぁ・・・」 掛ける言葉が見つからない。 ミツルは一瞬、目を合わせただけで、片眉をそびやかすと溜息を吐きながら視線を逸らした。 ミルクは子犬のように丸い目をしてじっと見つめている。 ミルクの着ているドレスは春先に父から贈られた物だ。 以前のミルクなら、駆け寄って父の首に手を巻き付けて抱きついたが、今夜は不安そうに緊張している。 ぷるぷる、と震える子犬のような姿は、一年前とそう変わらず、明日には婚約しようというレディーには思えなかった。 胸でギュッと両手を合わせた左指には、金のリングにルビーが花の形に並んでいる。 右腕には金のブレスレットが何本も掛かっている。 噂の原田氏からの婚約指輪にしては少し控え目に思えたが、ベイビーピンクのパーティードレスにはよく似合っている。 やはり父から贈られた靴とバッグの、金の飾りともマッチしていた。 「・・可愛いね。・・ドレス、着てくれたんだね。」 「・・うん。・・明日は違うのを着るみたいだから・・パパに見せてあげなさい、って・・」 ・・ママが。・・そう言いかけてやめた。 けれど、父親にはわかったようで、うんうん、と頷いた。 「嬉しいよ。・・・マイプリンセス。」 父親は自然な笑みをこぼし、両腕を広げた。 ミルクの不安そうな表情が、パッ、と明るくなり、うるうると大きな目を潤ませると、 「・・パパぁッ・・・」 と、広げた腕に飛び込んで抱きついた。 フワッ、と甘い香りと共に、柔らかい頬が頬に触れる。 赤ん坊のように柔らかで滑らかな、ヒンヤリとした頬は、以前のままのミルクだ。 父親はミルクを首にぶら下げたまま抱き締め、頬ずりをした。 「・・パパぁ・・・パパぁ・・・」 ミルクが泣きそうに何度も父を呼ぶ。 「・・・済まない。・・・寂しい思いをさせてしまったね。」 父親も目を潤ませて、愛しそうに抱き締めていた。 「・・いつまでもここにいても仕方ないでしょう。」 ミツルが冷めた口調で水を差す。 「・・あぁ・・そうだな。」 父親はそっとミルクを立たせると、腕を放した。 一緒に食事しようと、滞在するホテルのレストランに予約しておいたのだ。 父親はミルクの手を腕に掛けてエスコートしてやり、エレベーターへと向かった。 ミツルは少し離れた後ろを、義務的に従っていた。 今夜は母親が参加しない為、ミルクの保護者代わりでもあるので、嫌でもここにいるしかなかった。 妻を裏切り家庭を捨てた父親など、顔も見たくない。 だが、ミルクが会いたがる以上仕方なかった。 展望レストランでは、無言のミツルを前にして、父親とミルクの会話が続いていた。 「でね、香蘭学園でも婚約した上での交際は公認なんですって。」 「そうかぁ。・・まぁ、あそこは昔からそうだったらしいね。」 「それで、周囲からクレームがつかないようにって、正式な結納を交わすことにしたんだけど、結婚とかは高校を卒業してから考えるから、ずっと先のことで、全然現実味がないの。」 「ハハッ。まだ、一年生がスタートしたばかりじゃ無理ないよ。」 父親は苦笑を洩らした。 「それじゃ、学校にもその婚約指輪をしていくのかい?」 「え?・・これ?・・・あ・・・これは・・・」 ミルクは指輪を眺めて、どう説明したらいいのか、わからなかった。 「・・えっとぉ・・・学園では装飾品は基本的に禁止なの。ブレスレットだけは黙認って形で特に華美でなければ注意はされないけど・・・。てゆーか・・・これって・・・うぅー・・・」 「ミルクが正式に婚約指輪として貰った物は、もっと大きなダイヤのついた派手なデザインの物です。・・それは婚約しているという意思表示のような物で、普段用らしいですね。」 ミツルが不機嫌そうに、説明に困っていたミルクを補足した。 「ほぅ・・・そうなのか。」 父親は、なるほど、と納得した。 「明日のパーティーではちゃんとそっちをはめるから・・。」 ミルクが照れくさそうに笑った。 頬をわずかに上気させて笑う仕草は童女の愛らしさだった。 父親は目を細めて頷きながら、成長していく娘を甘酸っぱい感傷に浸りながら見つめた。 誰にも渡したくはなかったマイプリンセス。 それでも花嫁の父になるのはまだ3年の猶予がありそうなので、どこか安堵する思いがあった。 「それで・・婚約相手の原田氏は、ミルクに優しくしてくれているのかい?」 「うん。すっごく優しいよぉ。」 ミルクは益々頬を染めて嬉しそうに言う。 右手の金のブレスレットが、シャラッ、、シャララッ、、と小さな音を立てて移動するのを、うっとりと眺める眼差しに、ゾクッ、とする女らしさを感じて、父親は、ドキッ、とした。 「・・随分、いっぱいしているんだね。・・そのブレスレット。」 「ぁ・・うん。今、8本。・・記念日を見つける度にプレゼントしてくれるんだけどぉ・・すっごく簡単な理由で記念日になっちゃうから・・ちょっと困っちゃう。フフッ。」 8本目は最近貰ったものだった。 記念日の理由は、地下アジトで初めてHしたから。 とても、人には話せない記念日である。 「そうか・・・大事にして貰っているんだね。」 「うんッ。」 娘の幸せそうな表情からは、相手の原田雅人が、噂のような冷徹な人物とはとても感じられなかった。 だが、自分に対する妨害や圧力、そして嫌がらせの類は、どう考えても原田雅人の裏工作としか思えない。 娘のミルクを愛する故の行為ともとれるが、そこまで手を回せる人物に、得体の知れない怖さがあった。 「・・ミツルは原田氏と面識があるのだろう?・・君の目から見て、どんな人物か、教えてくれないかな?」 ミツルは目を眇め、嫌そうな顔をした。 「・・・あなたに話して何になると言うのです?」 「お兄ちゃん。そーゆー言い方ってないでしょう?・・プーンだ。自分が勝てないからって拗ねてるぅ。」 「バカ。誰が拗ねるかよ。お前じゃあるまいし。」 「・・ぁぅ・・・」 ミルクは頬を膨らませて、恨めしそうにミツルを睨んだ。 「クスッ。・・兄妹喧嘩か?・・珍しいな。」 「全然珍しくないよ。・・お兄ちゃん、すぐミルをバカにするんだもん。」 「・・ん?・・・そうなのか?」 「バカにしているのではなく、注意を促しているだけです。頼りない上に抜けているから・・」 「ミツル。その言い方はないだろう?・・もっと妹には優しくするものだよ。」 「あなたに言われたくない。・・父親のいない分、俺が厳しく注意しなくて、躾のなっていない子と陰口を叩かれたら、困るのはミルク自身です。」 父親は言葉に詰まり、苦い笑みを洩らした。 「・・・責めるばかりでは、人は育たないよ。・・それで付いて行ける者ならいいが、ミルクのように優しすぎる子は行き詰まってしまう。・・・私の責任を弁明する気はないがね。」 「・・パパぁ・・・」 やはり優しい父だった。 ミルクはうるうると目を潤ませて、父恋しさに切なく父親を見つめた。 その純粋で真っ直ぐな視線に、父親は自分の犯した罪の重さを噛みしめていた。 それからは当たり障りない会話で時を過ごし、食事を終えた。 デザートの時、ミルクが、 「ここじゃなく・・周りに人がいない所で・・聞きたいことがあるの。」 と言ったので、部屋で話をすることにした。 ミツルは舌打ちをして嫌そうな顔をしたが、保護者の立場として部屋にもついてきた。 ミルクと父親は、ホテルの部屋の小さなソファーに向き合って座ったが、ミツルは二人に背を向け、窓から夜景を眺めている。 「・・聞きたいこと・・だったかな?・・・どんなことだろう。私に答えられるといいが・・?」 父親はなかなか切り出せないでいるミルクに話を促した。 「・・・ぅん。・・・あのね・・・」 「うん。」 「・・・ミルは・・すっごくマサトさんが好きなの。」 「・・そうか。」 「マサトさんも・・ミルをすっごく愛してくれているの。」 「そうだろうね。」 これまでの話を聞く中で、それは充分に感じていた。 「・・・だけど・・・不安なの。」 「・・ん?・・・何か気になる所があるのか?」 「そういうんじゃなく・・・」 「性格的に問題があるとか?」 「違うー!・・マサトさんは、いつだってミルを守ってくれる優しいナイトだもん。いつだってミルを庇ってくれて・・いつだって・・・」 「わかった。・・よく、わかったよ。・・・それで、何が不安なんだろう?」 「・・・あのね・・・今はすっごく幸せだけど・・・いつか・・・何もかもこの幸せが消えちゃったら・・って・・・そう思うと不安でたまらないの。」 「・・うむ。」 「だって・・・パパだってママを愛してたでしょう?・・・お友達によく言われてた。ミルのパパとママはいつも仲良しでいいね、って。・・ミルも仲良しのパパとママが大好きで、それはずっと変わらないで、ずっと続くって信じてて・・・」 ミルクの目から涙が零れた。 「・・・ミルク・・・」 父親は見るに忍びなく、眉間を指で押さえて目を閉じた。 「・・ミル・・・ずっと信じてた。・・パパはお仕事が忙しいんだって。・・・ママはパパの悪口、言ったことないもん。ミルがパパに他に好きな人がいるんだって、知ってからだって・・悪口聞いたことない。」 「・・・済まない・・・」 父親は震える息でやっとそれだけを言った。 ミルは鼻水を啜って、溜息を吐いた。 「・・ハァァ・・・どうしてママを嫌いになっちゃったの?・・・ミル、ママみたいになりたい、っていつも思ってた。優しくて笑顔が綺麗で、お料理が得意で・・・自慢のママだもん。今だってそう思ってる。」 「・・・あぁ・・・本当にそうだね・・・」 「・・ミル・・頑張ったって、ママみたいに素敵になれるか、わかんない。・・・賢くないし、抜けてるのは本当だし・・頼りなくて情けない子だし・・泣き虫で我が侭だし・・・」 ミルクが自分を責めるように欠点を羅列するので、父親は首を振って、優しくミルクに視線を向けると、 「ミルクはとてもいい子だよ。もっと自信を持ちなさい。」 と、諭すように言った。 側で聞いていたミツルも胸が痛んだ。 全て自分がミルクに言ってきた言葉だった。 そこまで自分を否定してしまうほど、ミルクが傷ついていることを、初めて自覚した。 マサトに指摘された時は腹立たしかったが、いつの間にか自分がミルクへの虐めに走っていたことに気付かされ、シクシクと痛む胸に唇を噛んだ。 「・・・だけど・・・マサトは、どんなミルでも好きだって言ってくれてる。・・・言ってくれてるけど・・・」 ミルクはまたポロポロッと涙を溢れさせた。 「ミルク・・・パパだって、今のままで充分、ミルクが大好きで、自慢の娘だよ。」 「・・グスン・・・本当?」 ミルクは捨てられた子犬のように脅えた悲しい目で父親を見つめた。 「ああ。可愛い娘のミルクを心から愛しているよ。」 父親も涙を浮かべて訴えかけるように言った。 「・・・ママは?」 「・・そぅ・・・ママも・・・美しく愛しい人だと・・・」 「でも、ママより好きな人が出来ちゃったんでしょう?」 「・・いや・・・それは・・・色々な事情が重なって・・・」 「・・・どんな事情かは、ミルにはわかんない。・・・マサトが言ってた。立場によって考え方も事情も違うから、いくら聞いても納得出来ない事情もある、って。だから、ミルは聞かない方がいい、って。聞いても悩むだけだから、悩んで辛くなるだけだから、そのことは聞いちゃいけない、って。」 父親は黙って頷いた。 マサトという人物は、精神面でも賢明な考えの持ち主のように思える。 「・・・そうだね。」 子供に親の醜い感情を剥き出しにするものではない。 つい、言い訳がましく弁解しそうになっていた自分を恥じた。 「・・原田氏は年齢以上にしっかりされた人物のようだ。・・彼ならミルクも信じてついていけばいいんじゃないか?」 「・・・うん。・・・でも・・・」 「悩みすぎないことだよ。・・将来の不安や不信感を抱かせてしまった責任は、パパにもあることだが・・・パパも・・ミルクやミツル・・そして、ママも・・今でも愛しているんだ。・・・少しだけ、形は変わってしまったが・・・家族は離れるべきではなかった、と反省している。」 「・・・離れたことが・・いけなかったの?」 「・・多分。・・・そんなものかも知れないな。」 「・・・そうなんだぁ・・・」 もうミルクにはわけがわからなくなっていた。 自分が言いたいことも、聞きたいことも、もうわからない。 神経を使いすぎて頭がガンガンと痛くなっていた。 父親はミルクの隣りに移ると、フラフラとしているミルクを優しく抱き締めた。 「・・愛しいマイプリンセス・・・本当に済まなかった。」 「・・・うん。」 ミルクは力無く頷いて、父親の胸に寄り掛かった。 貧血を起こして目眩がしていたのだ。 ミルクの顔色が悪いことに気付いた父親が医者を呼ぼうとしたが、 「家で安静に寝かせれば大丈夫だと思います。・・昨夜はあなたに会うことで緊張して眠れなかったようですから。」 と、ミツルが言い、 「俺がミルクの保護者です。俺が連れて帰ります。」 と、父親の腕から奪うようにミルクを抱き上げた。 それでも、父親もホテルの玄関まで付き添って、見送った。 自宅へ帰る娘と一緒に行けない今の自分の立場が、愚かさの象徴のように思えて、部屋に戻った父親は、娘の残した花のような残り香に声を殺して泣いた。 |
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<45> 「婚約発表パーティー」 |
§45§「婚約発表パーティー」 父と久し振りの再会を果たした翌日。 ミルクは母親とミツルと共に、結納式と婚約発表パーティーの会場となるGホテルへと向かった。 ミルクよりも先にホテルに来ていたマサトが、心配そうにロビーでミルクを迎える。 「・・どう?・・・少しは良くなった?」 「・・・うん。大丈夫・・・」 昨夜、ミルクがミツルに抱き上げられてタクシーに乗り込んだのを、警護でついていた部下から聞いて、自宅に電話を入れた。 特に熱もなかったので、緊張したせいだろう、という母親の話に、駆け付けたい気持ちを押さえて様子をみることにしたのだ。 一晩寝れば、ということだったが、今朝になってもミルクの顔色は優れなかった。 「・・ちゃんと眠れたのか?」 「・・・あんまり・・・」 ミルクの元気のない声に、マサトは眉間にシワを寄せ、ミルクを抱き締めていた。 「済みません。・・父親のこともあって、二重に緊張してしまったようで・・」 母親が申し訳なさそうに頭を下げた。 「食事は摂れてますか?」 マサトはミルクを胸に抱き締めたまま、母親に尋ねた。 「お粥とフルーツを少し・・」 「・・そうですか。」 マサトは表情を曇らせて頷いた後、ロビーにいた本郷を手招きした。 そして、 「紹介します。原田家のホームドクターの本郷です。同郷ということもあり、友人としても親しくしているので、今日のパーティーに招待してあったのですが、ミルクの昨夜の様子が心配でしたので、朝から来て貰っていました。・・今日は本郷に付き添って貰います。必要があれば、応急の手当ても出来ますから、・・それでよろしいでしょうか?」 と紹介して言った。 「本郷と申します。」 本郷は母親とミツルにそれぞれ頭を下げて挨拶をした。 「まぁ・・・よろしいんですの?・・ご招待のお客様ですのに、お手数かけて申し訳ありません。・・でも、助かりますわ。ありがとうございます。」 母親はほっとした笑みを浮かべて、丁寧に挨拶を返した。 「いや。お母様。・・本郷はそんな気を使う相手ではありませんよ。早く言えば、悪友。飲み友達といった存在ですから、何でも気軽に言い付けてやってください。」 「・・ハハ。・・会長を崇拝しております悪友ですが・・」 本郷は、勿体ない、とばかりにマサトに恭しく頭を下げてから、母親に微笑みかけた。 「あらぁ・・・ホホッ。素敵なお友達ですのね。」 医者が側に付いていてくれるという安心感からか、母親は表情を明るくして笑いをこぼした。 それぞれに支度があるからと、ホテル側のコンダクターに案内されて、それぞれの控え室へと向かった。 ミルクが軽い貧血を起こしていたので、本郷は取り敢えず栄養剤と貧血の薬を注射した。 それから、結納式は古式ゆかしく執り行われるということで、ミルクは和装することになった。 母親はホテル側との打ち合わせの時、和装と聞いて躊躇ったが、高藤から、「大丈夫です。お任せ下さい。」と言われて、頷くしかなかった。 実際にミルクの為に用意された和装の着物を見て、母親は感激で涙を零した。 そこにあったのは、和服ではなく、南国のいにしえから伝わる着物だったのだ。 結納式を進行する神官も、覇羅蛇の郷から呼ばれた宮司だったので、母親は自分の祖父の遺言を守れる、と胸を撫で下ろした。 母親自身には”ヤマトへの恨み”心はなかったが、それでも祖父の悲しい魂を思うと、せめて血縁として祖父が遺言に託した”プライド”を受け継いであげたかったのだ。 ミルクの支度が整った頃、父親も控え室を訪ねてきた。 母親と顔を合わせた時、一度目を伏せたが、南国の民族人形のような娘に目を細め、 「あぁ・・・何て綺麗な姫様だろうね。・・・君によく似て・・・」 と言うと、母親に優しく微笑んだ。 母親は一瞬目を丸くして驚いていたが、少女のように頬を赤らめてから、ハンカチでそっと目元を押さえた。 その様子に、ずっと母親に付き添っている高藤は、嫉妬の感情が燃え上がったが、奥歯を噛んで表面上は冷静を装っていた。 結納式はそれほど時間も掛からず、無事終了した。 それでも支度に時間が掛かったので、朝9時前にホテルに来たのが、終わった時は11時を回っていた。 パーティーは12時から開場になり、午後1時から招待客の前での挨拶になる。 今度はドレス用に髪をセットして支度しなければならないので、あまり休んでいる時間はなかった。 ミルクはドレス用のロングの下着を着てから、その上にガウンを羽織って髪をセットアップした。 けれど、ドレスを着るという段階になって、急に愚図り出してしまった。 何とか母親が宥めようとするが、怖がってしまっていて、「嫌ぁ・・」と首を振るばかりだった。 どうやら、髪をセットした美容師が、お世辞か羨望からかは知らないが、パーティーの規模の大きさや招待客の面々の肩書きの凄さを大袈裟に話してしまったらしい。 本来美容師が知っている内容ではなかったが、イベントコンサルタント部門に配属されている事務員と友達で、「こーゆー恵まれたお嬢様っていいよねぇ。」的に、招待客名簿のことも話してしまっていたのだ。 事情を聞いたマサトは、これだから他人のホテルは厄介だ、と舌打ちをして、ミルクの控え室に駆け付けた。 ミルクはガウン姿でイスに座り、半べそ状態で目と鼻を赤くして、口をへの字に曲げてしまっている。 かなり根性の入ったヘソの曲がりようだった。 「・・ミルク・・・」 マサトはミルクの前に跪き、膝においてあった手を握って、ミルクの顔を見上げた。 ミルクは視線が合うと、プンッ、と横を向く。 「・・そんなに怖がらなくてもいいんだぜ?・・・ミルクの学園の学園長や理事の人達も来ているし・・・」 「・・そんな偉い人・・ミル、知らないもん。」 逆効果だったようだ。 「学園長なら入学式とか・・朝礼とかでも顔は見てるだろ?」 「・・遠くから見てるだけで、話したことないもん。」 「別にパーティーだって特別話すようなことはないさ。ただ、笑ってお辞儀してればいいんだよ。」 「・・笑えない・・・グシュ・・・」 マサトは溜息を吐いて、ミルクの膝に額を押しつけた。 クスッ、、と背後で笑いが洩れる。 マサトは、顔をわずかに上げると、鋭い視線を向けた。 視線の先には、片足に重心を乗せ、腕組みをしているミツルがいた。 マサトは眉をひそめ、 「・・おい。・・笑ってる場合じゃねぇだろ?」 と、つい普段の口調で文句を言ってしまった。 ミツルはニヤニヤと笑いを噛み殺しながら、 「いえ。・・あなたでも手に負えない相手がいるものだと・・ご同情申し上げてますよ。」 と、楽しそうに答えた。 「ミツルさん。失礼ですよ。」 母親が注意すると、ミツルは大袈裟に肩をすくめる。 「心配しなくていいよ、母さん。・・俺は別に嫌味を言ってる訳じゃない。・・俺なりにマサトさんのことは尊敬しているしね。」 「ほぅ・・・それは知らなかった。光栄だね。」 マサトは警戒する蛇のようにじっとミツルを見つめる。 ミツルは確かに敬意を込めて、真っ直ぐにマサトの視線に応えている。 微かな敵意が臭うのは、兄としての嫉妬なのかも知れない。 マサトは片頬に笑みを浮かべると、すぐにまたミルクの方へと顔を戻した。 ミツルの心境の変化より、今はミルクの機嫌をどう直せばいいのか、が問題だった。 「・・ミルク・・・みんな、ミルクを祝福する為に来てくれているんだ。・・俺がずっと側についているだろ?・・ミルクのパパもママも兄貴もいる。何も怖がることはないさ。・・な?」 そう言って、マサトはミルクの頬を優しく撫で、手にそっとキスをする。 本当に大切に思い、慈しみ、愛しているのが端で見守る人達にも伝わっていく。 ミルクがマサトを”ナイト様”と形容するのも頷けると、駆け付けて様子を伺っていた父親も感じていた。 けれど今日のミルクはナイト様にふくれっ面を向けている。 「・・なぁ・・ミルク・・・」 「・・・だってぇ・・・知らない人がいっぱいいてぇ・・怖いんだもん・・・」 「んー・・・人が多いって言ったら、遊園地だって知らない人ばかりだぞ。似たようなものだと思ってればいいんだよ。」 「・・・違ぁーうぅぅぅ・・・アトラクションとかないじゃん。」 「・・アトラクション?・・・・・わかった。用意させよう。」 マサトは立ち上がると、本郷に会場にいる景山を呼びに行かせた。 そして、景山が来るなり、 「一時間以内に集められる芸人を呼べ。大道芸でも手品でも漫才でもいい。出来るだけ呼び集めて会場中でパフォーマンスをさせろ。・・クラシックは中止だ。ロックでもフォークでもラップでもいいからミュージシャンも集めて、生で歌わせろ。」 と指示をした。 これにはミルクの両親も驚いて絶句してしまったが、ミツルだけは可笑しそうに笑い出していた。 景山は突然の無理難題でありながら、 「畏まりました。」 と、すんなり頭を下げた。 「いいか、出来るだけ派手にしろよ。客達の度肝を抜くような祭りにしてやれ。」 景山はにっこりと笑って、 「心得ました。」 と、答えると、楽しそうに部屋から下がって行った。 「・・さて・・・」 マサトは不敵な笑みを浮かべて、ミルクに首を傾げ、 「マイプリンセス。・・お祭りにお誘いしてもよろしいかな?」 と、宮廷風のお辞儀をしてみせた。 呆気に取られていたミルクは、上目遣いに瞬きをすると、 「・・うん。」 と、小さく頷いた。 マサトはほっと吐息を洩らし、ミルクを覆うように屈むと、 「良かった。・・愛しているよ、ミルク。」 と言って抱き締め、熱いキスをした。 母親は顔を赤らめて視線を逸らし、父親は顔をしかめて背中を向けた。 ミツルは、まだ納まらない笑いのこぼれる口元を手で押さえながら、やれやれ、とばかりに控え室を出ていった。 ホテルは前代未聞のお祭り騒ぎとなった。 ホテルの企画として小規模のお祭りを開くことはあったが、これほど賑やかに沸いたことはなかった。 借りた三つの会場に入りきらないほどに芸人達が集まって、ロビーや通路でも芸を披露し始める人達もいて、従業員の通行を妨げたりもしたが、招待客には意外なほど歓迎された。 堅苦しい挨拶は一切省いて、各々好き勝手に飲み、喰い、歌い、踊る。 マサトとミルクの居場所がわかるのは、乾杯や万歳の声が周囲で沸き上がるからだ。 どこから持ち出してきたのか、御輿まで現れ、人々を沸かせた。 エキストラには、組織の方の仕事だけしていてパーティーには参加できなかった部下達も、こっそり顔を出し、パーティーを盛り上げると同時に自分達も楽しんでいた。 上も下もなく、手を取り合って踊り、知り合いも初対面も関係なく肩を組んで笑った。 呼ばれた芸人達にも、お酒や料理が振る舞われ、一緒に今日の婚約を祝う気分になっていた。 景山の指示で、料理も飲み物も他から調達されたので、全てに充分行き渡り、足りなくなることもなかった。 ミルクはドレスの裾を波打たせ、会場中をマサトの手を引いて走った。 息を弾ませながら花のように笑顔を振りまき、マサトもそんなミルクを狂おしいほどの愛しさを込めて見つめ、共に笑った。 マサトを信頼しきって甘えるミルクと、ミルクに心底惚れているマサトの姿は、人々に好意をもって受け入れられた。 初めの内は、この騒動に渋い顔をしていたホテル側も、いつしかお祭りの輪の中に入って一緒に乾杯したりと、楽しみ始めた。 後々の語り草となった婚約発表パーティーは、2時間も延長して続き、招待客は皆、心地よい疲労感と記念品を抱えて気持ちよく帰っていった。 |
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