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<66> 「闇を継ぐ者」 |
<66>「闇を継ぐ者」 クルックキュルルルッ。 南国を想わせる明るい鳴き声で、唯を目覚めさせた鳥は、思っていたより大きくて羽にも力強さと光沢があった。 ヒナから人に飼われていただけあって、よく慣れている。 指をくちばしに持っていくと、軽く噛んで温かい舌を押しつけてくる。 巣から落ちたヒナを育てたのは、とある企業の現地駐在員だったが、帰国するにあたり連れて帰れない鳥であることを知り、今になってジャングルに放しても生きていけないだろうと、飼い主を捜していたらしい。 本国のイギリスに帰った元の飼い主は、巡り巡って日本で飼われることになったとは知らないだろう。 飼われていた時の呼び名はプロフィールには出ていなかった。 調べればわかることかもしれないが、唯は敢えて新しい名前をつけた。 唯が19歳になって初めて飼うことにした鳥、という意味と、美しい夜のような羽から”ナイティー”と呼ぶことにした。 「ナイティー。今日から君はナイティーだよ。」 唯が指先で胸の柔らかい羽毛を撫でると、片足を唯の指にかけて握手をするように握った。 「仲良くしてくれるの?・・ふふっ。ありがとう。」 唯が更に撫でると、ナイティーは止まり木から唯の指に乗ってきた。 鳥が見た目より軽いとはいえ、これだけの大きさになると指だけで支えるとなると重さを感じる。 唯はナイティーを肩に乗せてやった。 だが、ナイティーの片足に嵌められた輪から下がった鎖が止まり木に括られている。 唯は眉をひそめてナイティーを止まり木に戻すと、冬馬を呼んで鎖を外して貰った。 鎖が外されたナイティーは翼を広げて、寝室を二週飛び回ってから唯の肩に留まった。 「寝室で飼うのは狭くて可哀想だな。中央ホールなら吹き抜けだから、もっと自由に飛べていいと思わない?」 唯はナイティーが自発的に肩に乗ってくれたことが嬉しくて、冬馬に笑顔で言った。 「ですが、坊ちゃま。ホールは各部屋に通じてますから、窓が開いている部屋に間違って迷い込むと、逃げる可能性がありますよ?」 「逃げたければ逃げてもいいさ。・・でも、外の環境では生きれないだろうね。」 「熱帯の鳥ですからねぇ。」 「だってさ、ナイティー。外へ行ってはダメだよ。ふふふっ。」 唯はナイティーを肩に乗せたまま、部屋を出て中央ホールへと向かった。 今朝は唯の体調も随分回復してきていたので、拓磨は一緒に朝食を摂った後、執務室の方で仕事をすることにした。 拓磨のブレーンなら唯の寝室でベッドに寝ながらでも話が出来るが、表の仕事で訪ねて来る客にはそうもいかない。 ここ数日、アポイントの約束をキャンセルして先延ばしにしてきたので、一度執務室に入ると、分刻みで接客に追われていた。 それでも、どうにか午前中の仕事を切り上げて、唯と昼食を共にしようと執務室を後にした。 廊下を中央ホールへと歩いていると、唯の明るい笑い声が聞こえてくる。 鳥の天をつくようなさえずりも聞こえる。 高い所から聞こえるということは、鎖を外してやったのだろう、と拓磨にはすぐに想像がついた。 唯様らしい、と拓磨は笑みを浮かべ中央ホールに足を踏み入れた。 「あ、拓磨さん。今、冬馬さんとも相談していたんだけど、ここにナイティーが留まれるような樹木を置いてやったらいいと思うんだ。」 「それではかなり大きな木でないと、枝が負けてしまいますね。」 拓磨はホールの天井の窓枠に留まっている鳥を、眩しそうに見上げながら言った。 「うん。冬馬さんはりんごの木がいいって言うんだけどぉ、拓磨さんは何がいいと思う?」 「りんごは寒い所の木ですから、温室のように暖かいホールには向かないでしょう。」 「う・・確かに。」 冬馬は迂闊だったとばかりに頭を掻いた。 「あはは。冬馬さんは実がなる木なら、自分も楽しめると思ってるんだよ。」 「実ですか・・ふむ・・いいかも知れませんね。」 「えー・・・拓磨さんまでぇ・・・」 「唯様がきっと楽しまれると思いましたので。」 「俺は一番は巨砲が好きだけどぉ・・止まり木には向かないでしょう?」 「木の枝に蔓を巻き付ければ、葡萄もきっとなりますよ。」 「そっかぁ。・・それって楽しみだなぁ。」 「では、温室向きの木を調べて、設置させましょう。」 「うん。」 唯は満面の笑みで頷いた。 昼食は中央ホールのテーブルで冬馬も一緒に食べることになった。 唯が食後に果物を食べ始めると、それまで高い所に留まっていたナイティーが滑空してきて、唯の肩に乗った。 「ん?・・ナイティーも葡萄欲しいの?」 唯が一粒つまんで見せると、顔を前に出して欲しそうにする。 「持って食べてよ。俺も食べてる途中だから。」 唯が笑って言うと、ナイティーは片足で葡萄の実をつかんで食べ始めた。 ロイがテーブルの上に顔を出し、ナイティーを睨んで呻った。 「ロイ。来たばかりの友達を脅かしちゃダメだよ。」 「坊ちゃまが今朝からナイティーに掛かり切りなので妬いているのでしょう。」 「そうなの?・・ロイ。俺はロイも大好きだよ。」 唯は葡萄の粒を一つ放ってやる。 ロイはパクンと飲み込んで、嬉しそうに笑う。 すると、他の4匹も顔を出して欲しそうにするので、唯は笑いをこぼしながら順番に葡萄を放ってやった。 まるでピクニックでもしているような和やかな時間が流れていく。 「坊ちゃまがいらっしゃると戦場の行軍もハイキング気分になってしまいそうですね。」 冬馬がにやにやして顎を撫でる。 「あん。冬馬さんはすぐ子供扱いするんだからなぁ。・・俺だってTPOに合わせて真剣な顔になるんだよ。」 「それはそれは、・・楽しみですな。」 「そうですとも。唯様はきちんとなさっておいでです。」 拓磨が笑みを浮かべて頷き、チラッと時計を見ると、 「午後は別の仕事場へ参りますが、唯様もご同行なさいますか?」 と、昼食を切り上げるように言った。 冬馬が眉をピクリと動かした。 「んー・・・どうしよう・・・」 唯は頬杖をついて考えていたが、一人になるのが寂しかったので、 「うん。行ってみる。」 と答えた。 拓磨は満足そうに微笑むと、 「では、着替えをなさいませ。メイドに服を用意させましょう。」 と言って、席を立った。 「この服じゃダメなの?」 「初対面の者もいるでしょうから、ジーンズでは・・・職場ですし・・・」 「あ・・・そうだね。」 唯は自分のジーンズにトレーナーというラフな格好を見て、納得して笑った。 「じゃぁ、着替えてきます。」 そう言って、肩のナイティーを冬馬の肩に乗せると、 「似合うよ。」 と、笑いながらウィンクし、部屋へと駆けだした。 拓磨が指示しておいた服に着替えた唯は、待っていた拓磨と一端、執務室へ向かった。 肩にナイティーを乗せた冬馬と5匹の犬達も、唯と拓磨の後に続く。 執務室の奥は休憩する為のプライベートルームがある。 が、そこに入って隠しスイッチを押すと、秘密のエレベーターが現れた。 唯は、はぁーん、と納得して、拓磨に続いてエレベーターに乗り込んだ。 「かなり深いんだぁ。」 なかなか止まらないエレベーターに、唯は何故か声を潜めて聞いた。 動揺しないようにしていても、やはり緊張しているようだった。 拓磨は目を細め、 「ここのエレベーターは本部に直通していますので、その上の階はパスしてます。」 と、説明した。 「・・・地下って・・何だか怖くない?」 「地上よりも安全です。」 「だって・・・空気がもし途絶えたら苦しそうだもん。」 「クスッ。もし、通風口が塞がれたとしても、酸素発生装置が作動して、1年間は外部との接触なしでも暮らしていけます。もちろん食料やその他の燃料等の備蓄も万全です。」 「・・・地震とかは?」 「核シェルターの数倍の強度がありますから、地殻変動でも影響は受けないでしょうね。」 「ふーん・・・」 「ですが、より安全性の高さを求めるなら、ここよりも規模の大きな地下施設も国内外に数ヶ所ありますので、その内ご案内致しましょう。」 「・・うーわっ・・・もぐらの大集団みたいだなぁ・・・」 唯が感心するのと呆気に取られたのとで洩らした呟きに、冬馬が、プッ、と吹き出した。 「地上にも当然色々な施設がありますよ。活動するのは地上ですから。・・ただ、要塞のような施設は衛星写真で捕らえられないように地下に造る必要があるのです。」 拓磨がそう言った時、エレベーターが停止した。 搭乗口にいた警備員がいつものように敬礼して迎えるが、唯の姿を見て目を丸くすると、急に緊張した面持ちで敬礼する手を強ばらせた。 「こんにちは。ご苦労様です。」 唯がにこやかに声を掛けると、警備員は顔を真っ赤にして、 「・・そ・・総統閣下に忠誠を誓いますッ!!」 と、叫ぶように言った。 「バーカ。声がデカイぞ。」 冬馬が眉をひそめて注意する。 「イェッサー!ボス!」 警備員がまた声を張り上げて返事をするので、冬馬は、やれやれ、と首を振った。 丁度一つの部屋から通路に出てきた男が、警備員の声に唯達の方に視線を向け、やはり驚いたように目を大きく見開いて、出てきた部屋の中に声をかけた。 それから、警備員と同じような姿勢で敬礼すると、唯達が通るのを待っている。 声をかけられた部屋からも次々と通路に出てきて、通路の壁際にズラリと並んで同じように敬礼する。 その中の一人が、ハッ、と気付いたように他の部屋へと走っていき、何事かを伝えていったので、あっと言う間に通路は人垣でいっぱいになってしまった。 拓磨は苦笑して、しばらくその場に立ち止まって、人の動きが納まるのを待っていた。 「・・拓磨さん・・・どうしたらいいの?」 唯が小声で拓磨の耳元に囁くと、 「数人単位でお声をかければよろしいでしょう。」 と、やはり小声で囁いた。 人の動きが止まり、緊張した静寂が通路を支配するのを見届けた拓磨が、 「では、唯様。前へお進みください。」 と、唯に進むように促した。 「・・だって・・・何処に行けばいいか、わかんないのに・・・」 「この通路の突き当たりが総合指令本部、そこを左に折れた所に総統室がありますので、そこまでいらしてください。」 そう言われて、唯は通路のずっと先に視線を向けた。 見ないようにしても両側に並んだ人達の視線を感じる。 そうした状況での挨拶は初めてのことではなかったが、これまでよりも熱いものが伝わってきて、さすがの唯も緊張していた。 それでも進まない訳にはいかないので、小さく深呼吸をすると歩き始めた。 「こんにちは。初めまして。」 唯が声を掛けると、 「総統閣下に忠誠を誓います。」 と次々に答える。 一体どうゆうことなのだろう、と疑問で胸がいっぱいになっていても、挨拶を中断する訳にはいかない。 数歩進んでは、左右両サイドの人達へ挨拶をし、皆の挨拶を聞いて、また数歩進む。 皆の目を輝かせて上気した顔を見ると、飛ばすことも出来ずに、一人一人の挨拶を顔を見つめて聞いてやる。 自分よりはるかに年長者であっても、恭しく挨拶をされる。 自分にそれだけの価値があるとも思えないが、相手がそれを自分に求めているのがわかるだけに、姿勢を崩せなかった。 「総統閣下に忠誠を誓います。」 そう言われても、総統はダディのはずだし、影の総統なら拓磨だろう。 ”御曹司”という立場ならわかるが、相手の目は確かに唯を見つめて”総統”と言っているのだ。 やっと総統室に辿り着いてドアを閉め、拓磨と冬馬+犬5匹+鳥だけになれた時、唯は大きく溜息を吐いた。 「お疲れ様です。・・では、唯様。・・ぁ、いえ。・・総統閣下。・・どうぞ、総統のイスにお掛けなさいませ。」 「もぉぉ・・・拓磨さんまで冗談言わないでよぉ。」 唯が目を眇めて頬を膨らませると、 「いいえ。冗談ではありません。これは前から決まっていたことなのです。」 と、拓磨が笑みを浮かべて言った。 「決まっていたこと?」 「はい。・・唯様がこの地下にお出でになられた時、総統のイスを唯様にお譲りになる、と前総統がお決めになられたのです。」 今度は唯が目を丸くした。 口を開いたまま言葉が出てこない。 「ここへ唯様ご自身の足で来られたということは、組織の存在も理解出来ていると判断し、総統の座を譲る、と仰っておいででしたので、皆、その日を心待ちにしておりました。」 「・・・そんなの・・・俺、聞いてない!」 「唯様・・・」 拓磨は怒りに体を震わせる唯を抱き締めた。 そして、宥めるように髪を撫で、 「お義父様もお疲れなのです。・・もう、半年こちらには足を運ばれません。・・唯様に後を継ぐお気持ちがなければ、組織は解散する、とまでおっしゃっています。・・・ですが、この組織があるからこそ、アジアの小国でも大国の支配を受けずに自治を維持出来るのです。・・・皆、唯様がお出でになられることをずっと待っていたのです。・・・ご理解くださいませ。」 と、耳元で切々と訴えた。 唯は拓磨の肩に顔を埋め、 「・・・だけど・・・俺・・・何をどうすればいいか、わからないもん。」 と、泣きそうな声で言う。 いくら人前で大人っぽく振る舞っていても、まだ19歳になったばかりの未熟な子供なのだ。 「私がついていますよ。・・それに、冬馬や・・他の者達も、唯様を支えてくれます。」 唯が総統になっても、拓磨が”影の総統”であることは変わらないのだろう。 実力はなくても、雛壇を飾る男雛が必要だということか。 唯は諦めたように溜息を吐いて、顔を上げた。 「・・・わかりました。」 そう言って、唯が唇を引き結ぶと、拓磨は微笑みながら頷き、三歩下がると、 「総統閣下に忠誠を誓います。」 と、姿勢を正して敬礼をした。 冬馬は痛々しそうに唯を見ていたが、唯に視線を向けられると、ハッ、として、拓磨と同じように、皆が口々に言った言葉を、軍人らしい固さで敬礼しながら言った。 その拍子に、ずっと冬馬の肩に留まっていたナイティーが、驚いたように飛び上がり、総統室を何周か回った後、唯の肩に留まった。 唯は、 「ナイティー。・・お前が総統でも、俺とたいして変わらないだろな。」 と言って、そのまま総統のイスに座った。 「唯様。そのように悲観的に仰るものではありません。」 「だって・・・俺、石ころだもん。」 拓磨は苦笑すると、胸のポケットを押さえるようにして、 「大切な宝物です。」 と、恭しく頭を下げた。 |
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<67> 「日向の匂い」 |
<67>「日向の匂い」 総統のイスに座っても、唯には何をしていいか、わからない。 拓磨は、そんな唯の不安な気持ちを落ち着かせるように、総統の机の使い方を時間を掛けてゆっくり説明した。 総統の机には様々な機能が施されていて、ボタン一つでモニターが現れて世界中に設置された監視カメラの映像を見ることが出来たり、また別のボタンで世界各地の『秘密結社』支部と通信することも出来る。 総統室には総統の机の他、拓磨が使用する参謀用の机もあり、ほぼ同じ機能があるので、唯が職務に追われて席を離れられない、という状況にはならない。 また、ゆっくり体を伸ばして休めるようなソファーもあるし、仮眠をとる時の為にプライベートルームもあって、ベッドの他にシャワー等も設置されている。 深い地下にある施設とは思えないほど、設備は整っていた。 拓磨の一通りの説明は1時間ほどで終了し、拓磨に替わって冬馬が地下の施設全体を案内することになった。 総統室や司令本部のある階だけでなく、倉庫になっている階やトレーニングや訓練の出来る階、発電システムや緊急時の為の各システムがある階、必要な時には生活出来る居住区となっている階等、歩き回って見学するだけで3時間はかかった。 総統室に戻って、ぐったりソファーに座り込んだ唯は、改めて『秘密結社』が大変な組織なのだと実感した。 唯が見学から戻ってきたので、司令本部で仕事をしていた拓磨が総統室に顔を出した。 拓磨は唯の様子を見て、先に上に戻るように言った。 体力の回復が完全ではないだけでなく、精神的重圧が、唯をかなり疲労させていたのだ。 唯も素直に屋敷に戻ることにした。 いつもの地上の屋敷に戻ると、明るい光が降り注いでいた中央ホールは、すっかり夜になって広い窓に星を映していた。 地下施設がどれほど充実していても、太陽の暖かな陽射しも瞬く星の煌めきも届かない。 唯は、地上が好きだなぁ、とつくづく感じた。 部屋に戻り、ゆっくり入浴した後、ラフな部屋着になった唯が、本でも読もうと勉強部屋に行くと、携帯が鳴っていた。 急いで電話に出ると、 ―「何やってんだよッ!」 と、大河の怒鳴り声が耳に響いた。 「ちょっ・・・大河。声が大きすぎるよ。」 ―「・・っせぇ!・・もうすぐ来るって言っておきながら、全然連絡もねぇし、携帯にかけたってちっとも出ねぇし・・・どうなってんだよッ?!」 大河のいつもの不機嫌さが懐かしい。 唯は日向の草むらの匂いを思い出した。 大河も大河の雰囲気も、日向の匂いがすることに初めて気付いた。 大河の怒鳴り声を聞きながら、唯がクスクス笑うので、 ―「唯ッ!俺をバカにしてんのかッ?」 と、大河の声に泣きそうな切なさが滲む。 「ごめん、ごめん。そうじゃなく・・大河が怒るのを、懐かしいなぁって、つい浸っちゃったから。」 ―「・・唯・・・お前、声が沈んでないか?・・・まだ、調子が悪いのか?」 「ううん。もう、かなり元気だよ。」 ―「だったら、早くこっちに出て来いよ。お前がいねぇと・・・寂しいだろ。」 「ちょっと携帯では話せない事情があってさ・・・あっちで話そう。」 唯は盗聴されにくい特殊回線での通話に切り替えるように言った。 大河は唯の姿を見ながら話せるのが嬉しかったので、すぐに了解した。 大河は、5匹の犬だけでなく、見たこともない大きな鳥を肩に乗せている唯に、呆気に取られていた。 ―「・・・何だ?・・・ペットブリーダーにでもなる気か?」 「あ、この子?・・ふふっ。ネットオークションで買ったんだ。ナイティーって名前をつけたから、そう呼んでやってね。」 ―「・・・やってね、って・・・お前、何遊んでんだよ?・・来週から試験が始まることを忘れちまってんのか?」 「試験かぁ・・・俺、行けないかも・・・」 呆れ顔だった大河の目が怒りに、カッ、と見開かれた。 「ちょっと、怒らないで聞いてくれよ。説明するから。」 ―「その変わった鳥を買って貰って、てなづけられちまったんじゃねぇのか?」 「違うよぉ・・・」 唯は大河にどう説明すればいいのか躊躇ったが、ストレートに、 「俺さぁ・・・何か、総統になっちゃったみたいなんだ。」 と言った。 ―「はぁ?・・・総統に?・・・って、どこの一日署長になったって?」 「バカぁ、冗談じゃないんだぞ。・・・ダディがもう総統を降りたかったらしくて・・・成り行きで、そうなっちゃったんだ。」 大河はすぐには信じ難いことだったが、唯が嘘でも冗談でもなく、そう言っているのだと理解した。 だが、理解しても納得出来ることではない。 ―「おやじさんが引退するなら、拓磨さんが後を継げばいいだろうが。」 「・・多分・・お飾りでも、総統ってシンボルがいる方が、拓磨さんは動き易いんだろうな。”影の総統”が拓磨さんだってことは、みんな承知してるさ。」 唯は自嘲気味に笑って、肩をすくめてみせた。 「拓磨さんは、徹底した支配主義だけど、組織のトップが支配主義を前面に出すと反発を受けるだろ?・・だから、俺みたいな無害な石ころを鎮座しとけば、トップには文句を言えないし、実力者がトップを立てるように仕向けていく方が、まとめ易いってことなんじゃないかなぁ。」 ―「・・・お前は石ころなんかじゃないさ。」 大河は唯が自分の立場を醒めた目で見ていることに感心する一方で、そうしたことが見えていても、従うしかない唯が哀れに思えた。 「何の役にも立たないんだもん。石ころだよ。」 ―「そんなに自分を卑下するなら、いっそとんでも無い命令とか出してみたらどうだ?・・お飾りだって総統は総統なんだから、出した命令を無視も出来ねぇだろうし、それで困れば、まだ時期が早かったって、わかって貰えるかもしれねぇだろ?」 大河が不敵に笑う。 唯は大河の発想の大胆さに可笑しくなってまたクスクス笑った。 「そうだねぇ。・・・あははっ。大河って、ほんっと最高。」 唯は懐かしそうに大河を見つめる。 ―「お前も最高だぜ。・・その目に見つめられると、ぞくぞくしてくる。・・もう、俺のペニスはビンビンではち切れそうだよ。」 大河が勃起した男根をズボンの上からなぞって見せる。 唯は思わず赤面して、 「バーカッ!・・人が真面目に話してる時にぃ!」 と、頬を膨らませた。 ―「お前の切なげな視線が、無意識に、抱いてくれ、って訴えてるんだよ。」 「それは思いっ切り、勘違いだぞ。」 ―「素直になれよ。俺に抱かれたいだろ?」 「遠慮しとく。・・・つーか、お前は彩香ちゃんとラブラブしてるんだからいいじゃないか。」 ―「お前がこっちに戻らないなら、俺も明日にでもそっちに行くぜ。」 「なッ・・・無茶言うなよ!」 ―「お前がいねぇのに、俺だけ大学通っても意味ねぇだろうがッ!」 そうかもしれない。 大河が唯に大学を勧めたのは、世間を知らない唯に普通の生活をさせてやりたかったからなのだ。 唯はふと大学生活が懐かしくなった。 「・・・出来れば、俺もそっちに戻りたいもん。」 ―「雁字搦めにガードされてて、出て来れるのか?」 「お雛様は1年に一度、披露されればいいのさ。・・・どんなに頑張ろうとしても、実質的な総統にはまだなれないもん。・・・仕事がわからない、ってこともあるけど、それは勉強していけば理解出来るようになるかもしれない。だけど、・・・自分の未熟な心が、総統としては不完全すぎるんだ。」 ―「・・・唯・・・」 「総統のイスに座っていた時ね、・・・俺、もしかして九条さんを呼び戻せるかもしれない、なんて思ってた。」 ―「おいッ!」 「だって・・・会いたいもん。」 ―「お前には俺がいるだろッ!」 「・・・会いたい。」 唯の悲しげな呟きに、大河は唇を噛んだ。 「・・・でも、拓磨さんの決定を覆すべきじゃないんだ。・・・拓磨さんがいなければ組織はまとまらない。俺がそれを乱すような行動をとったら、指揮系統が混乱しちゃうもんね。」 唯は深い溜息を吐いた。 「・・・総統であっても・・・我が侭を言うべきじゃないだろ?」 ―「・・まあ・・そうだろうな。」 「だけど、俺が我が侭言っても、大河の言葉じゃないけど、みんな従わなきゃならない。従いながら不満を募らせ、・・不満や疑念を持ちながらも従うしかない。」 ―「そりゃ、総統だしなぁ。」 「・・・そんな総統じゃ、いない方がマシだもん。」 ―「それはどうかな。俺にはよくわからんが、我が侭でもいいからお前といたい、って俺なら思うぜ。」 「そーゆー個人的な問題じゃないぞ。」 ―「忘れるなよ。俺だって組織の一員だぜ?・・個人的に言えば、総統なんか辞めちまえッ!って言いたいところだけどな。・・・一員として、お前なら、どんな我が侭も聞いてやりてぇ、って言ってんだよ。」 唯は不意に胸がキュンとした。 「大河ぁ・・・お前って・・・殺し文句がウマイよなぁ。」 唯が感心して言うのを、大河は顔をしかめて舌打ちする。 ―「チェッ。そーゆーお前は可愛げがねぇぞ。」 「大河に可愛いって思われたくないもん。」 唯がにんまりと笑う。 他愛ない会話が、唯の疲れた心を癒していく。 「・・やっぱ、大河がいて欲しい。」 唯が呟くように言った言葉が、大河の全身を電流が走るように痺れさせる。 ―「来れるか、来れないか、どっちかはっきりさせろよ。お前がそこを出れないなら俺が側に行ってやるぜ。な?」 「・・うん。・・・今夜、拓磨さんと話し合ってみるよ。」 ―「今日はフレームアウトでいねぇのか?」 「今日はまだ仕事してる。・・大河がそっちに行った後、また少し体調崩してたから、拓磨さんが看病してくれてて、まともな仕事が出来なかったみたい。」 ―「え・・・何でそれを早く言わねぇんだよッ!」 大河が顔色を変えて怒鳴る。 「ごめん。・・だって、もう良くなってきたし、余計な心配させてもさぁ・・・」 ―「そーゆー問題じゃねぇッ!」 「ごめん、って言ってるだろ。・・ったく、怒りんぼ。」 唯が頬を膨らませるのを、大河が泣きそうに見つめる。 ―「俺を除け者にするなよ。・・・俺はお前の一部なんだ。お前なしじゃ・・・生きていけねぇ。」 「・・うん。・・・俺達は二人で一人前だもんな。」 唯が、フワッ、と微笑む。 と、その時、部屋をノックして拓磨が入ってきた。 「あ・・・拓磨さん。お仕事終わったの?」 大河は唯が横を向いてそう言ったので、姿勢を正して緊張した。 「まだ、上での仕事はありますが・・唯様が夕食を摂られてないと聞きましたので、下の仕事は切り上げて参りました。」 拓磨は小声でそう言った。 「そっか。ごめんなさい。・・ずっと一緒だったから、待ってたんだけど・・」 唯が済まなそうに言うので、 「構いません。御一緒しましょう。」 と、拓磨が優しく微笑んだ。 画面には見えてない拓磨と唯との甘い会話に、大河は猛烈な嫉妬を感じていたが、歯を食いしばって我慢していた。 ここで拓磨を怒らせる態度を取れば、唯から引き離されかねない。 「それじゃ、大河・・・」 唯は大河の方に向き直って、 「遅くても明後日にはそっちに行けるようにするから。」 と、話を切り上げるように言った。 拓磨は、え?、と眉をひそめた。 ―「無理はするなよ。俺が戻ってもいいんだからな。」 「うん。・・じゃぁ。」 大河に手を振って、唯は通信を切った。 小さく溜息を吐いて立ち上がった唯を、拓磨は眉をひそめたまま、問いただすように見つめていた。 「唯様。・・どうゆうことでしょう?」 「だって・・・試験が明々後日から始まるんだもん。明後日には帰らなきゃ間に合わないじゃん。」 唯は何気ない風に言う。 「総統になられた、ということをお忘れですか?」 「忘れてないよ。・・でも、大学を卒業するまでは保留にしておいてね。」 そう言って、優美に微笑む唯に、拓磨は額に手をあてた。 「だって・・・いいでしょう?」 唯は拓磨の腰に腕を回して体をぴったり重ねると、甘えるようにキスをした。 「・・・それが・・・総統の御意志なら・・・仕方がありません。」 拓磨は苦しそうに言うと、唯を抱き締め熱いキスを繰り返した。 |
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<68> 「新しい仲間」 |
<68>「新しい仲間」 大河は落ち着きなく部屋の中を歩き回っている。 今朝、唯から、今日の内に戻る、と連絡があったのだ。 大河はベッドの中で寝惚け眼でいたが、それを聞いて一気に血が熱く湧き上がり、飛び起きた。 多分、冬馬も唯のガードとして同行してくるだろう。 まだ健康に不安のある唯を迎えるのに、部屋が汚れている、などと言われたくない。 掃除機くらいなら毎日かけているが、今日は隅々まで拭き掃除をし、床も磨き上げた。 仕上げに粘着ローラーを持って部屋中を点検して回り、チリ一つない状態にした。 だが、することがなくなると、かえって落ち着かなくなった。 唯がどんな交通手段で上京するのか聞いてない。 専用機か、新幹線か、車か。 わかっていれば、迎えに行けるのに。 彩香が待ちきれずに駅まで来た気持ちが、今更に理解出来る。 その彩香とは、三日前からデートを控えている。 さすがに、明日からの試験に備えて、勉強に専念する時間が必要だろう、と判断したからだ。 大河も100%の自信はない。 俺も勉強していよう、と机に向かってみるが、気持ちがソワソワして本を開いても、文字が読みとれない。 ただ、文字の羅列を眺めても、意味が頭に入らないのだ。 クソッ!っとベッドに寝転がってみるが、ハッ、として起きあがると、ベッドメイクしたシーツのシワを伸ばし、ローラーを持ってきてなぞる。 結局はダイニングテーブルで頬杖をついて、窓の外の景色を眺めている。 待ち遠しさと恋しさで、胸は熱く高まったり、急に不安を感じたり、どうやっても落ち着けない。 つくづく、唯に惚れている自分に呆れてしまう。 唯と離れていたのは、ほんの一週間でしかない。 それでも、身を切られるように、離された心は血を流し続けていた。 一週間、大量の血を流し続ければ、相当な重傷だろう。 大河の今の気持ちは、つまり、それほどに苦しかったのだ。 テーブルの上で組んだ手に額を押し当て、祈るような気持ちで溜息を吐いた時、部屋玄関のチャイムが鳴った。 大河は飛び跳ねるように立ち上がり、玄関へ急ぐ。 大河が玄関に迎えに出た時には、唯は鍵を開けてドアから顔を見せていた。 「ただいまぁ、大河。」 ほっそりとした顔の唯はサングラスをかけていた。 大河は、唯が靴を脱ぐ前にその場で抱き締めていた。 「唯ーッ!」 「・・ぁうッ・・・大河ぁ、上がらせてくれよ。」 唯のいつもと変わらない口調に、大河の高まったテンションは捌け口が見つからない。 「バカ野郎ッ!心配したんだぞッ!」 大河は怒鳴ってから、抱き締めている唯の唇を激しく貪った。 「・・ッ・・んんーッ・・・」 唯が抗議するように大河の脇腹を叩くが、唇を塞ぐ大河はビクともしない。 すると、 「大河ッ!後がつかえてるんだッ!玄関口ですることじゃねぇだろッ!」 と、冬馬が唯の後ろに立って、大河の頭を叩いた。 「・・・ッチッ。・・やっぱり付いて来たか。」 大河は渋々、唯から離れると忌々しく冬馬を睨んだ。 が、睨んでからギクリとした。 冬馬の後ろに知らない顔が覗いているのだ。 「・・・誰だ?」 大河が目を眇めて問いただす。 唯は大河につかまりながら靴を脱ぐと、 「中で説明するよ。」 と、大河を促し、リビングへと向かった。 「総統閣下の護衛を仰せつかりました海斗(カイト)であります。」 背筋を伸ばして敬礼しながら、そう自己紹介した男は、笑うと子供っぽい顔になるサラサラした黒髪の美青年だった。 大河はソファーに唯と並んで座り、唯の肩に腕をかけて、海斗をジロジロと観察した。 それから、 「こんな子供が唯の護衛だって?」 と、不機嫌に言った。 「クスッ。そう思うだろ?・・俺も何で未成年を・・って思ったらさぁ、大河よりも年上なんだって。」 「あー?!」 大河は信じられないという顔で唯を見たが、唯は頷いて肯定した。 「海斗は24歳。れっきとした組織の精鋭部隊員だ。」 と、冬馬が説明する。 「特にテコンドの腕前は部隊一という優秀な男だ。甘く見ていると痛い思いをすることになるぞ。」 冬馬は牽制するように大河に笑いながら言った。 「へぇ・・・」 「だが、お前が勘違いした通り、見た目はどう見ても未成年だからな、大学で唯様と並んで座っていても違和感はないだろう?・・俺は残念だが、大学構内のガードは出来ない。そこまで目立つガードをするのは、逆に注目を浴びて危険を招き兼ねないし、唯様も窮屈な思いをされてしまうだろう。・・それで、海斗が大学での唯様をガードするべく選ばれた訳だ。」 大河は面白くなくて舌打ちをする。 「チェッ。・・こんな途中から大学に入れんのかよ?」 「それは心配ない。入学ではなく、聴講生という名目で授業を受けるからな。それと、唯様の親戚ということにしてある。だから、お前もそのつもりで接するように注意して欲しい。」 「・・名目はわかった。・・・けど、何でここで一緒に暮らすんだよ?空いてる部屋なんかねぇだろうが?」 「俺の部屋を一緒に使うさ。・・俺も支部での仕事で留守にする時もあるし、海斗がいれば安心して仕事が出来るからな。」 大河は冬馬の説明を聞きながら、言うに言えない不満を募らせていた。 唯の身辺警護が必要なのはわかる。 だが、その対策に自分という存在がまったく無視されているのだ。 とはいえ、彼女との付き合いで、これまでも唯を一人で留守番させてきた前科があるだけに、そこを指摘されたら、何の反論も出来ない。 これまでもそんな大河に呆れて、冬馬や犬達が警護強化で唯に張り付くようにはなっていたが、更に大学でも自分の存在が否定されてしまったということで、自分で招いた結果とはいえ、大河は屈辱を噛みしめていた。 大河は人懐っこい笑顔の海斗を無視するように、唯の頬に顔を押しつけた。 ヒンヤリとした滑らかな唯の肌は、ほのかなラベンダーの香りがする。 大河の腹立たしさも唯の肌に触れていると落ち着いてくる。 「なぁ、犬は連れて来なかったのか?」 「あ、うん。」 「唯様の体調が万全ではないので、逆に散歩等の心配が負担になられるだろうと、今回は見合わせたんだ。」 冬馬が二人の会話に割り込んできたので、 「てめぇにゃ聞いてねぇぜッ!」 と、大河は苛立ちを露わに冬馬を睨んで怒鳴った。 「大河ぁ・・・」 唯が大河の頬を宥めるように撫でる。 大河は唯の方へ向き直り、切なそうにキスをする。 冬馬はもう親代わりの冬馬ではないのだ。 総統付き特殊部隊の隊長として、唯の警護の全面責任を負っている。 もう、良き相談相手の兄貴ではないのだ、と思うと、寂しさが込み上げてくる。 これまでは、叱りながらも庇ってくれる所があったが、これからは、唯に不利益な存在と見なされたら、容赦なく自分を排除するだろう。 すでにその足固めのように、唯と常に行動を共にする男を用意している。 取り残され、排斥されそうな不安に、大河は唯をきつく抱き締めた。 「ん・・・ちょっと、待って。大河。」 唯が大河のキスから顔を逸らし、大河の唇を指先で押さえた。 「・・唯・・・唯まで俺を・・・」 「違うって、バカ。待ってろ、って言ってんだろ?」 唯は大河の気持ちがわかっていた。 自分もまた、周囲の大きなうねりの中で、身を任せるしかない存在なのだ。 唯は冬馬に顔を向けると、 「冬馬さん。海斗にこの辺を案内してやって。いくら地図が頭に入っていても、実際に建物とかでイメージが変わるものだしね。」 と、大河と二人だけになれる時間を作って欲しい、と暗に要求した。 「わかりました。そうしましょう。」 冬馬も察して頷いた。 そして、固いスーツのまま歩き回るより、ラフな格好がいいだろうと、冬馬と海斗はトレーニングウェアに着替えて、出掛けていった。 大河は唯と二人だけになれて、ホッ、と溜息を吐くと、改めて唯を抱き締めキスをした。 唯も今度は素直に大河のキスに応える。 大河は唇を離さないまま、唯を見つめてはキスを繰り返し、髪や頬を撫でる。 「唯・・・まだ・・目が戻らないんだな・・・」 「・・うん。・・戻るのを待ってられないから・・サングラスで誤魔化すしかないな。」 「・・・体・・・キツイのか?」 「そうでもないよ。」 「・・そっか。・・・じゃぁ・・・いいか?」 唯の目を覗き込む大河の切ない眼差しに、唯は黙って頷いた。 大河は唯を抱き上げようとしたが、唯は、 「バーカ。・・女じゃないんだ。抱かれてベッドなんか行けるか。」 と、笑って、立ち上がると自分で部屋へと向かった。 大河は頭を掻いて、心の中で舌打ちをしながら唯の後に従った。 「ふーん。・・フカフカだね。」 「何度も干しといてやったんだぞ。」 「ありがと。・・・あぁ、いい匂い。お日様の匂いがする。」 唯は素肌でシーツに横たわり、顔を埋めて匂いを嗅ぐ。 裸になった大河が唯を覆うように体を重ねる。 シルクのような唯の肌の感触に、大河の全身が感激に震える。 「唯・・・愛してる。」 「俺も大河を愛してるよ。」 顔を上げた唯が、ゾクゾクするほど優美に微笑んで言う。 大河は唯を抱き包んで、体を撫でながら熱いキスをする。 ふと、大河の手が唯の股間に伸びて、唯のペニスを握った時、 「ん・・ごめん。・・・そこはダメ。」 と、唯が嫌がった。 「・・・やっぱり、こっちは使い物にならず、か?」 「・・ぅ・・・」 唯はイジケて口を尖らせた。 「まあ、焦ることはないさ。・・まだ、ブッ倒れて10日ほどしか経ってねぇんだ。そう簡単には回復出来るもんじゃねぇもんな。・・むしろ、あの消耗からよく10日でここまで回復したものさ。」 「・・すっかり体力が落ちちゃったけどね。」 「お前の回復力なら、すぐに元気になるさ。・・な?」 「・・うん。」 「それまで・・俺が、お前の消耗するエナジーを補給してやるぜ。」 大河は自信満々な笑みを浮かべると、唯の丸い尻を愛おしそうに撫でた。 「・・何の根拠でそんなことを・・・」 「やってみなきゃ、わかんねぇだろ。」 大河は指に唾液を取ると、唯のアナルに塗りつけた。 そして、勃起して透明の我慢汁でヌルヌルになった亀頭を唯の蕾に押し込んだ。 グッ、、、ググゥッ、、、 「ぁ、、ぁああッ、、、んんーッ、、、」 一気に押し広げられ、張り裂けそうな感覚に、唯は背中を仰け反らせた。 唯の蕾が一度に満開になる。 大河の大きさに皮膚が攣れ、腰骨が強引に割られる気がする。 「あぁ・・・唯ぃ・・・やっぱ、お前が最高だぜ。」 「ぅぅ、、、お前は最悪に大きすぎ、、、」 唯は恨めしそうに文句を言う。 「大丈夫。裂けてないよ。・・・そんなに痛くはないだろ?」 「、、くッ、、、ぁぅ、、、圧迫感だけで・・・充分痛いぞッ、、、ぅぁん、、、」 大河は一度根元まで押し込むと、少しずつ腰を動かし、突き上げ始める。 唯の体はビクン、ビクン、と反応する。 「・・ほら・・・もう慣れて、気持ち良くなってきただろ?」 唯が感じてくるのがわかると、大河は調子に乗って、次第に激しく突き上げていった。 「はぅぅ・・・俺もよすぎて・・我慢出来ねぇ・・・」 「、、、ぁぁぁ、、、早めにイッてくれ。・・・キツイ・・・」 唯の言葉にまだ体調が完全でないことを思い出し、 「ん・・わかった。・・・お前に俺のエナジーを注ぎ込んでやるぜ。」 と言った大河は、動きを早めて頂点に昇り詰めた。 「はぁぁッッ・・・うぅぅッッ・・・あぁぁぁぁッッッッ!!」 大河の熱いエキスが唯を満たしていく。 大河は、唯を背中から抱き締めながら、汗ばんだ肌にキスを繰り返し、 「・・俺の超パワフル精子が・・唯の体内に入りこんでいくだろ?」 と、耳元に囁いた。 「・・・クスッ、、、根拠はないけど・・・体が熱くなってくるね・・・」 唯も甘い声で答えた。 「・・だろ?」 大河は満足そうに笑うと、唯に無理をさせないように体を離し、腕枕をして肩に頭を乗せてやった。 唯と一つになれたことで、大河はようやく居場所を見つけることが出来た気持ちだった。 周囲がどんなに変わっても、唯だけは変わらず自分と一つでいてくれる。 そう思うと、何があっても唯とならやっていける、という自信が湧いてくる。 「誰が何と言おうと、俺はお前から離れないからな。」 「クスッ。誰が何を言うんだよ?・・誰も何も言ってないだろ?」 「けど・・冬馬の奴、態度が変わったぞ。」 「大河ぁ・・・クスクスッ・・・拗ねちゃダメだよ。冬馬さんだって、部下の前で戸惑うこともあるだろ?」 「何で戸惑うんだ?」 「だってさ、・・やっぱ冬馬さんの本職は軍人だし、部下の前では厳しい隊長として接してきたのを、俺や大河の前では甘甘だったから。」 「甘甘かぁ?!」 「拓磨さんが求める厳格さや規律の正しさは、ここでは崩れた関係でいただろ?」 「・・・まあ・・それはあるか・・・」 「俺達にはその方が都合が良かったし、俺達も冬馬さんを軍人としてより、兄貴的に頼りにしてきたしな。」 「・・・ああ。」 「だけど、部下の前であまり組織の規律を崩した姿を見せてしまったら、組織の厳しさを若い部下が舐めてしまって風紀が乱れるのを心配しているみたいだよ。」 「へぇ・・・そうなのか?」 「拓磨さんだって、俺がいると厳しくなれない、って困る時あるしね。」 「ははっ。お前がすーぐ庇っちまうからだろ?」 「俺は意見しないようにしてるけどぉ・・・」 「表情で言ってるんじゃねぇのか?」 「・・みたいだね。」 唯と話していると、みんな許したくなる。 気持ちがふんわりと暖かくなるのだ。 その雰囲気が極寒のブリザードを春風に変えてしまう。 部下全員が春惚けしていたら、指揮を執る者にはたまらないだろう。 大河は拓磨や冬馬の困っている顔が浮かんできて、可笑しくなって笑った。 そして、 「甘甘の総統じゃなぁ・・・」 と、唯の鼻にキスをした。 「俺は俺だもん。簡単に人格を変えられるものじゃないよ。・・冬馬さんだって、態度に注意しようとはしているけど、中身まで変わっている訳じゃないから・・わかってやれよ。」 「・・・そうだな。」 大河は唯を抱き締め、頬ずりをすると、 「お前が変わらないでいてくれるなら、俺はそれだけで充分さ。」 と、熱い息で囁いた。 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<69> 「悪ガキ」 |
<69>「悪ガキ」 冬馬と海斗は3時間ほどでマンションに戻ってきた。 二人とも汗だくになって、いい運動が出来た、と部屋に入ってきた。 犬達の散歩で行っていた河原で運動してきたらしい。 「犬も連れてきてやれば良かったのに。・・俺と冬馬さんと海斗の三人が交替で散歩させてやれば、当番だって三日に一度だし、それほど負担にはならないだろう?」 シャワーを浴びてきた冬馬に、すっかり機嫌を直した大河が言った。 「まあ、様子を見てだな。唯様も自分が行けないと拗ねられるだろ?」 「あぁ・・・それはあるな。」 大河は笑いを洩らしながら頷いた。 「やっぱり子供扱いしてるぅ・・・ぷっ・・・」 唯が頬を膨らませるのを、大河が指で挟んで潰す。 「おいッ!」 「そーゆーとこが子供っぽいんだから、しょーがねぇじゃねぇか。ん?」 大河が唯の短い髪をクシャクシャッと撫でて、頬にキスをする。 「チェッ。・・どーせ・・・」 唯は一応怒った顔をするが、本気でないことはすぐに浮かべた笑みでわかる。 唯と大河は二人だけの長いバイト期間で、確実に絆が深まっていた。 冬馬もアメリカへ行って、それを感じていたので、唯と大河のじゃれ合いのような素振りは見て見ぬ振りをするようになっていた。 冬馬に続いてシャワーを浴びてきた海斗は、唯と大河の遠慮のない関係に、しばらく驚いた顔で見つめていた。 「どうした?・・海斗もこっちにきて座るといい。」 冬馬が立ち尽くしている海斗に声をかけた。 「え・・・あ・・・はい。」 海斗は緊張した面持ちで、遠慮がちにソファーに座った。 「海斗って美形だよな。」 大河が品定めするように眺めて言った。 「え?・・・いえ。たいしたことないです。」 「心配するな。俺は唯以外の男には興味ねぇからよ。」 「バーカ。」 唯がクスクス笑いながら、大河の頭を小突く。 「けど、とても冬馬さんと5歳しか違わねぇとは思えないだろ?」 大河が唯に同意を求める。 唯は大河の耳に手をあて、 「むしろ、冬馬さんがフケてるんじゃん。」 と、そっと囁いた。 「おいおい。聞こえてるぞ。」 冬馬が目を眇めて首を振る。 「うわっ。・・・地獄耳・・・」 「聴力、視力、嗅覚は人の倍の感覚はありますから。お忘れなく。」 冬馬が片眉を上げて、ふふん、と鼻で笑う。 すると、大河が、 「感覚の鋭敏さは山間の牡鹿並み。・・パワフルな腕力と健脚は草原の雄馬並み。・・両方合わせて・・・」 と言い、唯が、 「馬鹿力ぁー!」 と、後を続ける。 そして、唯と大河が声を出して大笑いするので、海斗は呆気に取られていた。 だが、海斗がそれよりも、もっと驚いたのは、 「まったく・・・こーゆーガキ共の面倒を見なきゃならねぇんだから、世話が焼けるぜ。」 と、海斗に肩をすくめてみせたことだった。 実は、海斗がシャワーを浴びている間に、冬馬と相談して、こっちでの生活には組織の上下関係は出さず、家族として接していこう、と決めていたのだ。 海斗にも早くそうした関係に慣れて欲しかった。 一緒に大学に行くのに、そこで上下関係を出されたら、唯も困ってしまう。 堅苦しいのが苦手な大河も、プライベートな空間にまで雁字搦めの規律を持ち込まれたくなかった。 「ここではみんな家族って思って生活しようよ。」 「・・・総統・・・」 「その呼び方もなしだよ。唯、って呼んで貰えないなら、一緒に大学は行かないからな。」 「・・そ・・・そう仰られましても・・・」 海斗は困惑顔で、濡れた髪をタオルでゴシゴシと拭く。 「まあ、試験期間は海斗も同行出来ませんから、それまでには慣れるでしょう。」 真面目な話の時は、冬馬も恭しく敬語で話す。 どんなに打ち解け合っていても、立場や崇拝精神を忘れている訳ではなかった。 それに気付いた海斗は、安心したようで、笑顔になると、 「なるべく努力します。」 と言った。 それから夕食までは、各々部屋で荷物を開いて整理に費やした。 大河は唯の部屋で荷物整理を手伝ってやりながら、抱き締めたりキスしたり、独占した時間のスキンシップを楽しんでいた。 「あーもー・・・手伝ってるのか、邪魔してるのか、わかんないじゃん。」 と、文句を言う唯も、じゃれ合う時間を楽しんでいた。 夕食はいつも出前を頼んでいる料亭に、寿司や酒の肴になる料理を頼んで、遅ればせながらの帰国祝賀会と、海斗の歓迎会を兼ねることにした。 「カンパーイ!」 唯を除いた三人は日本酒で乾杯をする。 「ぅぅ・・・何で俺だけ薬湯で乾杯しなきゃならないんだぁ・・・」 顔をしかめながら薬湯を飲む唯が愚痴る。 「目の色が治るまでは食前の薬湯を約束されたでしょう?・・それが大学復帰の条件なのですから我慢するしかないですね。」 冬馬は美味しそうに日本酒を飲み干して笑った。 「そんなに不味いのか?」 大河が冬馬に酌をして、自分も空になったグラスに酒を注ぐ。 「大河のザーメンより不味い。」 ブッ、と海斗が含んだ酒を吹き出した。 大河は笑って、 「なら、俺のを入れてやろうか?」 と、からかう。 「お前のはさっき飲んだから、もういらない。」 唯の返事に、海斗は真っ赤になった顔を両手で覆った。 「お二人共、何を仰ってるんですかぁ?・・食事中に下ネタはやめましょうよ。」 海斗の言葉に唯と大河は顔を見合わせ笑った。 「へぇ・・・冬馬さんの部下にしては純情なんだねぇ。」 「俺達がこんな下ネタ好きなのは、冬馬さんの影響だぜ。」 そう二人に言われてしまった冬馬は、 「何言ってる?・・俺はいつだって真面目だろうが。」 と言うが、唯に、 「へぇぇぇぇ・・・で、・・いつから?」 と、つっこまれ、気まずそうに毛深いモミアゲを指先で掻いた。 「海斗は部下としても新人なんだな?・・そうでなきゃ、これくらいの会話で赤くなる訳ねぇもんなぁ。」 「だねぇ。」 唯もうんうん、と頷く。 「あ、はい。先月から直属に配属されたばかりです。」 「ふーん。・・じゃぁ、夜は冬馬さんに遊びに連れて行って貰うといいよ。」 「ああ。俺も夜は唯の側に張り付いているし、余程のことがない限り、このマンションに不審者は入れねぇしさ。」 「え・・いえ、それは・・・自分には恋人がおりますので。」 「恋人がいるのぉ?・・・いいなぁ・・・」 唯は唇を尖らせて、薬湯を飲み干すと、顔を思い切りしかめた。 「お前の恋人は俺だろ?」 大河は唯の肩を抱き寄せると、キスをしたが、 「・・うッ・・ッげぇ・・・マジで不味いな、それ。」 と、唇を拭った。 唯が飲んだ薬湯が口に残っていたのだ。 「大河の恋人は彩香ちゃんだろうが。・・つーか・・あまり人前でキスするなよ。癖になると、彩香ちゃんがいる時、ヤバイだろ。」 「唯は絶対の存在。・・彩香は必須の存在。・・俺が唯を大事に思っていることは、彩香も承知しているさ。」 「え?!・・・話したのか?」 「いや。・・関係を持ってるってことは知らねぇけどな。」 「だろぉ?・・・親友なら認められても、Hまでしてたら彩香ちゃんだって許せないと思うぞ。」 「そん時はそん時だ。気にするな。」 「気にするよ!」 唯は、ムッ、として言うと、溜息まじりに首を振った。 「唯様。痴話喧嘩もその辺にして、料理を食べなければダメですよ。」 静観していた冬馬が唯に食事を促す。 「・・・うん。」 唯は仕方なさそうに箸を持ち、少しずつ料理を小皿に取って食べ始めた。 時間の経過と共に、海斗も次第にリラックスしてきていた。 酒量もかなり進んでいたが、顔に似合わず酒豪らしく、さほど酔った様子はなかった。 それでも、暖かな団欒に浸ってきたようで、テーブルに肘を付いて、 「本当に唯様と大河さんは仲がよろしいんですねぇ。」 と、微笑んだ。 「俺と唯は二人揃って初めて完全体になるのさ。」 大河は不敵な笑みを浮かべて言った。 組織にとっては大胆過ぎる発言だろう。 唯は組織員にとって神にも等しい崇拝する存在なのだ。 冬馬は、ピクリ、と眉をひくつかせた。 だが、海斗は若さもあってか、微笑んだまま、 「そうですかぁ。」 と、感心して頷いていた。 「てっきり唯様は・・・」 そう言いかけた海斗が、ハッ、として口を噤む。 「え?・・何?・・遠慮しないで言ってよ。」 「そうそう。ここでは遠慮は禁物だぜ。」 海斗は言い辛そうに、 「そうですかぁ?」 と言ったが、唯も大河もにこやかに頷いているので、言葉を続けた。 「あの・・・こちらに来るまでは、てっきり参謀が唯様の恋人でいらっしゃるのかと思っておりました。」 海斗の言葉に、今度は冬馬がむせそうになった。 「海斗ッ。いくら打ち解けるにしても、言っていいことと悪いことがあるぞ。」 冬馬が慌てて窘めたが、唯は、 「いいじゃない、冬馬さん。言えないことが蟠りになるのは良くないよ。」 と言って、 「拓磨さんのこと?・・あははっ。そうかもね。」 と、可笑しそうに笑った。 反対に大河は思いきり嫌そうに顔をしかめた。 「・・どーゆーことだ?・・・お前、あいつに抱かれたのか?」 「・・・うふん・・・」 「・・うふんじゃねぇッ!」 「そんなの、どっちだっていいだろ?・・拓磨さんが徹底した過保護なのは、大河も知ってることじゃない。ね?」 「過保護とそれとは違ぇだろうがッ!」 「ふぅん・・・違うかぁ。・・・俺はどっちでもいいんだけどなぁ。」 「ゆいぃぃぃ・・・」 大河がバキッ、と箸を割り、握った拳を震わせる。 唯は頬杖をついて横目でそれを一瞥すると、遠い目で小さく息を吐いた。 それから、 「大河の言う”抱く”って意味は、ペニスを突っ込むか、突っ込まないか、ってことだろ?・・くだらないよ、そんなの。」 と、冷めた口調で言った。 海斗は”穏やかな天使”と思っていた唯のその様子に、ギクリ、として固まった。 冬馬は、ほう、と様子見の姿勢でいる。 「悪いか?・・俺にはそれくらいしか拓磨さんに対抗出来ねぇんだ。俺にはそこが重要なことなんだよ。」 大河は呻るように言って、唯を睨んだ。 「じゃぁ、俺はとっくに大河に見切りをつけてるんじゃないのか?・・お前がペニスを突っ込んだ相手はどうせ片手じゃ足りないだろ?」 「・・それとこれとは・・・」 「どう違うんだよ?・・そのことに拘るって言うなら、そーゆーことだろ?」 大河は反論出来ずに唇を噛む。 「俺は俺を必要として求める相手がいるなら、誰に抱かれたっていいと思ってる。こんな体一つで相手が救われるなら、容易いことさ。・・・チャーリーにだって・・抱かれてやりたかったよ。」 「・・・唯・・・」 「・・・拓磨さんは・・・俺がチャーリーを抱いてやったんだ、って思うようにって言うんだ。・・赤ん坊は血まみれになって生まれてくる。・・だから、俺も血まみれのチャーリーを新しい命として繋ぐ為に抱いてやったんだ、って。・・・それが愛することなんだ、って。」 唯の紫の目が輝きを強める。 大河は苦しげな眼差しで唯を見つめた。 「ねぇ、・・知ってる?・・・ラーガの墓にラーガのブロンズ像が建ってるのを。」 「・・・いや。」 「生きていた頃の姿そっくりに・・・建っていたんだ。」 「・・・そうか。」 「でも、拓磨さんは俺が気付くまでなにも言わなかった。」 大河は到底敵わない拓磨の懐の深さに体が震えてきて、それを隠すように握った拳を唇に押し当てた。 「それを見た時、・・・俺はもうラーガに拘るべきじゃないんだ、って思った。・・・サバンナに帰りたい、って思っても、帰った所でパパもママも・・ラーガもいない。サバンナはもう俺の故郷じゃないんだ。・・・それで、わかったんだ。」 「・・・何を?」 「うん。・・・拓磨さんが俺の故郷なんだ、って。」 大河は一瞬目の前が真っ白になった。 視界が戻ってきても耳鳴りがして、空間が歪んで見える。 「拓磨さんを愛している。・・・その気持ちを大河に隠すつもりはないよ。・・・だから、拓磨さんが俺を大河の言う意味で抱かないとしても、俺にはもっと大切な存在なんだ。」 「・・・じゃぁ・・・俺は?」 大河が泣きそうになって尋ねる。 「バーカ。何で俺が無茶だって言われながらも、こっちに戻ってきたと思うんだよ?・・お前がいるからじゃないか。」 「・・・拓磨さんを愛しているんだろ?」 「故郷を愛しちゃ悪いか?・・・お前にだって何度も愛してるって言ってんじゃん?・・じゃぁ、言うけどなぁ、俺は冬馬さんだって愛してるぞ。」 大河は眉をひそめて唯を見ていたが、ギロッ、と冬馬に視線を向ける。 冬馬は声に出さずに苦笑した。 「でも、他にももっと愛してる人っているし・・・」 「ゆーいー・・・」 大河は段々唯の話が逸れていくように思えた。 「なぁ・・・そーゆー広範囲の愛とは違う、独占したい愛ってのはないのか?」 「・・あ・・拓磨さんは独占していたい。」 「ほら、みろ。・・問題はそこさ。」 「でもさ、”故郷は、遠きにありて、想うもの。”って言うじゃん。」 シラッと言って微笑む唯を、大河は眇めた目で見ながら、ふと拓磨が哀れに思えてきた。 少なくても拓磨は唯を手元に置いておきたいだろう。 そう考えれば、自分といてくれることに感謝すべきなのかもしれない。 自分の嫉妬する気持ちより、拓磨が自分を嫉妬する気持ちの方が強いだろう、と想像がつく。 「・・・何で拓磨さんはお前を抱かないんだろうな?」 大河は不意に囚われた寂寥感に、しんみりとして言った。 「・・どうしてだろう?」 唯も拓磨が望むなら構わないと思っているだけに、同じ疑問はあった。 すると、ずっと黙っていた冬馬が、 「参謀は、唯様の為に生きる、と決められた時から私欲を捨てられたのだろう。」 と言った。 「私欲のない愛なんて存在するのか?」 「見返りを求めない愛、とも言えるかな。・・・もし、参謀が私欲に走っていたら、お前なんかとっくにこの世から消えてるぞ。私欲と権力が手を握ったら、そこには恐怖政治しかねぇだろうが。・・・だから、敢えて私欲を捨てた。・・捨てたと言っても、愛すれば愛するほどに求める心も強くなるだろうし、そうした感情まで殺してしまうことは参謀であっても出来ないだろう。逆に言えば、そこまで感情を殺せたら、それはもう愛してるとは言わないだろうしな。」 「だったら、抱いてやればいいのに。・・唯が可哀想だぜ。」 「目の色を変えて怒るお前がいるのにか?」 「愛は奪いつつ与えるものだと俺は思う。」 「お前の考えはともかく・・・嫉妬に狂ったお前が唯様を傷つけては意味がない。しかも、唯様はお前がどれほど暴君であろうと守ろうとする。虐待されても愛し続けてしまう唯様を思えば、余計な争いは起こさない方がいいだろう?・・・参謀の口癖に、”唯様を守れなければ意味がない。”というものがある。・・・何を最優先に考えるか、だ。・・だから、言っただろうが。お前なんかの愛より遙かに深い愛があるってな。」 「・・・チェッ。・・虐待なんかしてねぇぞ・・・」 大河はふてくされてみせたが、反面耳が痛かった。 「そうだったのかぁ・・・」 唯は、なるほど、と感心して頷く。 「拓磨さんが手を出せないなら、誘惑してあげれば良かったかも。」 「おーいーッ!」 「あ・・ちょこっと誘惑しかけたんだけどね、オークションで話を逸らされちゃった。」 「ゆーいーッ!!」 「あははっ。・・で、買ったのが、ナイティーなんだぁ。うふっ。」 「うふ、じゃねぇぇぇ!・・ったく・・バカかッ?」 「側で見ると、スッゴイ綺麗な鳥なんだよ。鳴き声も綺麗でさぁ。・・ね、冬馬さん?」 唯にふられて、 「そうですね。」 と、冬馬も頷く。 「だったら、連れて来ればよかったのに。俺も見たかったぜ。」 大河がふてくされたまま言う。 「だって、大きい鳥だけに、飛ぶ空間が狭いと可哀想じゃん。中央ホールは暖かいし、三階までの吹き抜けだから、あそこで飼うことにしたんだ。・・ふふっ。冬馬さんったら、リンゴの木を置いたらどうか、って言ってたんだよぉ。」 「・・へぇ・・リンゴじゃ拙いのか?」 「リンゴは温暖向きじゃないらしいよ。拓磨さんはレモンとかライムとか、アーモンドとかマンゴウとか、・・色々考えてるみたいでね、中央ホールを熱帯ジャングル化させようって思ってるみたいなんだけど、執事が、そこまで植物を設置したら掃除が大変だ、って渋い顔していたから・・・どうなるかなぁ・・・」 「拓磨さんが?」 「え・・大河は知らなかった?・・拓磨さんって超動物好きなんだよ。小学生の頃は獣医か飼育係になりたかったんだって。」 「・・・ほぉぉ・・・そりゃぁ、お前とラーガの故郷には打って付けだな。」 「うんッ。」 唯がにっこり笑う。 大河は顔半分を手で覆いながら、はいはい、と頷く。 冬馬は苦笑して、 「どうやら、話は落ち着いたらしいな。」 と言って、 「では、そろそろお開きにしましょう。」 と、唯にもう休むようにと促した。 唯もいくらか疲れを感じていたので、素直に従うことにした。 大河も唯を気遣いながら一緒に席を立ち、体を支えてやる。 「それじゃ、冬馬さん、海斗。お休みなさい。」 「お休みなさいませ。唯様。」 冬馬が席を立って軽く頭を下げたので、ハッとした海斗も席を立ち、 「ご・・ごゆっくりお休みになられますことを・・・」 と、言葉を詰まらせながら敬礼をした。 口を出す余裕のないままに、ただ聞いていた海斗は、自分が迂闊に言ってしまったことで唯と大河の喧嘩が始まり、どうなるかとハラハラしていたが、恐れ戦く存在だった拓磨の意外な一面を知ることが出来て、感動していた。 唯を取り巻く複雑な関係図は、まだ理解の及ばないものを感じていたが、それでも飄々と微笑む唯と、激しても唯にべったり甘える大河の関係が、切り離せない絆に見えていた。 だが、大河には彩香という彼女がいるらしいし、なんとも大変な人間関係の渦に入り込んでしまったなぁ、と目眩を覚えていた。 興奮して寝つけない海斗に、 「いい子達だろ?」 と、冬馬が言った。 「あ・・はい。・・そうですね。」 海斗は唯も含めて”いい子”と言ってしまっていいものか、戸惑ったが、そう思うと気持ちが楽になる気がした。 「海斗は年上なんだし、ちょっと面倒な弟達って目で見てやればいいんじゃないかな。・・ここではな。」 「・・・はぁ・・・」 海斗は、相手は総統なのにいいのかなぁ、と不安なまま曖昧に返事をした。 そして寝返りをうった冬馬の背中に、 「あの・・・隊長殿は、総統閣下をどのように・・・」 と、どう質問すればいいのか、わからないまま聞いてみた。 冬馬は背中を向けたまま、 「心底、崇拝しているぜ。立場がそうだからじゃなくな。・・・唯様は心底素晴らしい方だ。・・・命を捧げるに相応しい方だと心から感じている。」 と答えた。 「・・・あ・・・それは・・・もしかして・・・」 「ああ。愛しているぜ。・・いいじゃねぇか。唯様だって愛してくださっている。・・俺は幸せだね。」 冬馬はそう言って、 「もう、寝ろよ。」 とあくびまじりに呟いた。 「・・イェッサー。」 海斗はますます目眩を感じて、布団に顔を押し当てて目を閉じた。 そして、ほどなく聞こえてきた冬馬の寝息に誘われ、海斗も眠りに落ちていった。 |
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<70> 「週末」 |
<70>「週末」 試験が始まった。 その朝、唯が久々に大学に姿を現すと、学生達は一時騒然となった。 唯の髪型が変わり、顔がほっそりとして、しかもサングラスをかけているのだ。 試験日まで休んでいたのも、余程の事情があるように思えた。 しかも、唯は試験中もサングラスを外さない。 大学理事長のサングラス着用許可の書状を提示して、講師にも納得して貰っていた。 一体何があったのだろう、と休み時間になると、学生達の間でメールが飛び交った。 それでも、午後になると試験に追われて、皆、自分のことで忙しくなって、気にしている暇がなくなったようだった。 そして、試験が終わる週末には、唯のサングラス姿も定着して、取り立てて騒ぐこともなくなった。 試験が終わった週末。 一緒に暮らし始めた4人はそれぞれに別々の休日を過ごした。 海斗は休みを貰って、恋人に会いに行った。 大河は彩香と一泊の京都旅行に行った。 唯は御曹司としての務めに駆り出された。 総統としての仕事は大学卒業まで棚上げにして貰ったとはいえ、Rカンパニー&財団の御曹司であることは変わらない。 R財団のチャリティーコンサートに出向いて、招待客に感謝の意を表する挨拶をしたり、Rカンパニー主催のパーティーにも出席しなければならなかった。 唯の養父が、総統のイスを唯に譲ったことで安心したのか、Rカンパニー所有の豪華客船で、世界旅行に出掛けてしまったのだ。 その為、必然的に唯が代表として挨拶するしかなかった。 それでも、拓磨が同席してくれていたので心強かったし、夜はホテルで同じ部屋に泊まり、かなりラブラブに甘えて過ごせたので、唯としても楽しい時間だったようだ。 そして冬馬は、総統付き特殊部隊として、唯や拓磨の身辺警護に忙しい週末を送っていた。 変わらない日々のようでいて、少しずつ変化していく自分達を感じさせられる週末だった。 世界屈指の大財閥の御曹司として、責任が重くなっていく唯。 唯の後ろ盾として、絶大な権力を手中に収めた拓磨。 唯と拓磨を取り巻く人々の思惑。 噂では、唯が総統に地位についた事実が、他の二大勢力にも漏れ伝わってしまっているらしい。 それによって、不穏に動き出す怪しい影が見え隠れし始めた。 ロバートから身辺には前以上に注意するようにと言ってきていた。 冬馬の仕事も気を抜けなくなってきた。 更に、中東情勢やラウールの祖国でも様々な問題が起こりつつあって、ラウールを敬愛する唯にとっては心配だった。 拓磨はそれぞれの立場があるから干渉しないようにと釘を刺しているが、思い込んだら制止がきかない唯だけに、拓磨や冬馬の心配は絶えない。 大河は彩香と平穏な日常を送りながらも、唯との過激な冒険を待ち望んでいる所があって、ワクワクと唯が動き出すのを待っている。 まだ、唯の人生は始まったばかりで、この先どんな波乱が待ち受けているか計り知れなかった。 |
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