ギャルズタウンのお好きな街にあなたのサイトの看板を出せます。 ギャルズタウンをご利用いただいているレジデントの皆様に参加していただきたいです。 21000人以上の皆様にご利用していただいている無料サービスです。 ギャルズタウンのヘルプ委員、メイヤー、レジデントの皆さんが真心を込めて作ってくれたヘルプページです。 ギャルズタウンの案内ページです。 商用サイトを運営なさっている方のための相談・提案サービスです。
ギャルズタウンの総合トップページへ!
Click here to visit our sponsor








<16>〜<20>





<16>
「彩香の恋」
<16>「彩香の恋」

 彩香は今日、クラブがあると思うだけで気が重かった。
 シルクフラワーという、布で本物そっくりの花を作り、ブーケや髪飾りにするクラブである。
 クラブそのものは楽しかったが、そこで一緒になる玲奈と顔を合わせたくなかった。
 いくらなんでも、昨日の玲奈はヒドすぎると思う。
 自分であれほど犬に会いたがっていたのに、犬が懐かないからといって、あんなことをするなんて・・・。
 まだ、耳から離れない、あの厭らしい声。
 自分がこんなにも愛されているのだ、と見せつけるような玲奈の行為は、彩香にとって、まだ男性を知らない自分への嫌味に思えてしまう。
 どうしてあんな場所であんな事が出来るのだろう。
 姿は見えてないとはいっても、あんなに声をあげていたら、人に聞かれると思わないのだろうか。
 しかも、一度途切れてホッとしたのも束の間、更に激しく乱れた声が続けざまに聞こえてきてしまった。
 唯が気を逸らすように話しかけてくれて、自分も気にするもんか、とムキになるほど犬と駆け回り、声を上げて笑った。
 ・・・だが、家に戻って、惨めさが募った。

 授業に出ているものの、講師の声が頭上を通過していく。
 彩香はぼんやりと何も書かれていないノートを眺めながら、言いようのない寂しさに沈み込んでいた。
 すると、いきなりバッグの奥で携帯が鳴り出してしまった。
 周囲の視線が集まり、講師が眉をひそめる中、バッグに手を入れて携帯をつかんだ。
 だが、短い着信音で携帯を持った時には音楽は止まっていた。
 それでも、一応携帯をそっと出して、マナーモードに切り替えた。
 周囲の目は、初めからマナーモードにしとけよ、と言っている。
 滅多に電話もメールもかからない彩香は、マナーモードにすることを忘れがちだった。
 どうして自分はこうドジばかりしてしまうのだろう。
 彩香はますます惨めになりながら、携帯を睨んだ。
 着信音が短かったのはメールだったからで、授業中にメールしてくるような非常識な相手は玲奈に違いない、とメールを確認してみた。
 が、相手は最近メールを頻繁に交換している大河からだった。
 彩香は周囲を見回し、すでにみんなの意識が授業に戻っているのを確かめて、そっとメールを読んでみた。
 ―∈やあ!授業中かな?∋
 何の意味もない簡単な挨拶。
 こんなものの為に恥をかいたのかと思うとムッとしてしまう。
 大体、玲奈という彼女がいるのに何で自分にメールをしてくるのか、わからない。
 また、昨日のことを思い出して嫌な気分になってしまった。
 ∈当然のことをわざわざ聞かないでください。大河さんだって授業中じゃないんですか?∋
 ―∈あれ?怒ってる?∋
 ∈思いっきり迷惑してます。∋
 ―∈あはは。もしかしてマナーにしてなかったんだろ?∋
 彩香は大河に見抜かれて恥ずかしさで顔を赤くした。
 自分が迂闊だったことは認めるが、授業中とわかっているのにメールしてきて恥をかき、しかも笑われていることに段々腹が立ってきて、返事を返さないことにした。
 だが、すぐにまた大河からメールが入った。
 ―∈ごめん。・・・俺、今日は大学を休んでいるから暇でさ、話し相手が欲しかったんだ。迷惑かけたなら謝るよ。∋
 彩香は大河が休んでいると聞いて驚いてしまった。
 それと同時に、隣りの席には玲奈がいるだろうと想像して、余計に気分が悪かった思いがスーッと消えた。
 ∈休みってどうして?具合でも悪いの?∋
 ―∈唯が風邪引いて熱があるから・・・∋
 ∈ええ?!大丈夫?∋
 ―∈俺は医者だぜ?(^^)v∋
 彩香は大河の顔文字に思わず小さな笑いをこぼした。
 慌てて周囲を見回したが、講師は黒板に書き込みをして、みんな写している所だった。
 彩香は授業に気分が乗らなかったこともあり、大河とのメールのやり取りが面白くなってきていた。
 人に向かってはあまり上手く言葉を出せない彩香も、メールだと何故か色々なことが話せた。
 ジョンに向かって独り言を言ってた時のような、素の自分が出せるような気がして、顔が赤くなったり言葉が詰まったりすることを心配しなくても済むだけ、気が楽だったのだ。
 結局、授業にはほとんど身が入らないまま、大河からのメールに応えていた。

 1時限目の授業が終わって、彩香は喉が乾いたので、校舎の入り口に設置されている自動販売機で飲み物を買った。
 2時限目の教室は2階だったので、2階の廊下の窓からキャンパスを眺めながら、買った飲み物を飲んでいると、教室を移動している途中の玲奈の姿が見えた。
 愛らしく華のある玲奈は遠目でも目立って見える。
 仕草のひとつひとつが可愛さに溢れていると、同性から見ても思う。
 その玲奈がふと立ち止まって携帯で誰かと話を始めた。
 相手は大河だろうか、と思うと、彩香の胸がツキッと痛みを感じた。
 大河が玲奈の彼氏であることくらいわかっている。
 それに自分は唯派なのだ。
 唯の優しい微笑みは、全てを受け入れて、許し、包んでくれるような暖かさがある。
 風がそよぐと甘い香りがする唯。
 光が降り注ぐと虹色の光が煌めいて眩しさに霞むほど綺麗な唯。
 背中から白い翼が現れても不思議ではないように思えてしまう。
 見ているだけで幸せな気分になるような美しい唯。
 話すことが出来るようになって、一層唯を素敵だと思うようになった。
 ・・・なのに、今は大河が気になってしまう。
 大河とメール交換をするようになってまだ数日、初めはハイキング関連の必要な連絡だったが、用件が済んでも大河からのメールは途切れなかった。
 大河は彩香の家がマンションに近いことから、付近の情報を欲しがっていた。
 便利な店や美味しいレストラン、公園や犬を連れて行けるような場所など聞く一方で、唯が辛い物が苦手なことや本中毒だとか、けっこう嫌味も言ったりすることなど教えてくれた。
 唯の生活感があって人間味を感じさせてくれる実体を覗けるようで、あまり好きではなかった大河とのメールに応えていた。
 そう・・・どちらかと言えば、嫌いなタイプだったのだ。
 話すようになる前のイメージは大きくて怖くて無神経でプレイボーイ。
 玲奈と親しくなった切っ掛けも、玲奈が高校からの親友に大河を取られたと落ち込んでいたのを慰めたのが始まりだった。
 玲奈に責められて親友の方が身を引く形で納まったものの、大河は同じサークルの先輩と付き合いだしてしまった。
 悪びれもせず、二股交際を続ける大河。
 玲奈は大河の前では見せないけれど、大河が先輩とデートする度に悲しそうな溜息を吐いているのだ。
 そんなヒドイ男のどこがいいのだろうと思うのだが、愛される時の幸せな充実感が最高なのだと玲奈は夢見るような顔で言う。
 悪いとわかっていても嵌り込み、病みつきなってのめり込むのは麻薬みたいだと思っていた。
 ・・・まさか、自分までいつの間にか虜になっているなんて。
 昨日のことで、玲奈に嫉妬している自分に気付き、大河に惹かれてしまっている自分を知った。
 レストランで嘲笑された自分の為に怒ってくれたのは唯だった。
 だが、大河に一瞬抱き締められた、あの包み込まれるような大きさと温もりが忘れられない。
 玲奈の彼氏とわかっているのにどうかしてる、と思っても、大河の顔が浮かんできて胸が甘酸っぱい切なさで苦しくなる。
 彩香は、携帯で話ながら校舎の陰に消えていった玲奈の、愛らしい姿の残像を消し去ろうと窓に背を向け、手に持っていた缶を飲み干した。
 けれど、あまり一気に飲むことに慣れていない彩香は、咽せて咳き込み、また惨めな気分になって涙が滲んできてしまった。

 手に握りしめていた携帯にメールが着信した。
 手から放せずにずっと持っていたのに、彩香がメールを送ってからしばらく、大河のメールは届かなかった。
 玲奈との話が終わったからだろうか。
 そう思うと自分がおまけのようで、惨めさの八つ当たりのように大河に対して腹が立ってきてしまう。
 講師の姿が見えたので、彩香は空き缶を肩からかけているバッグの中に入れて、教室の後ろの隅に席を取って座った。
 返事をしないでいると、またメールがきた。
 彩香は、今度は乗せられないようにしようと、メールは見ずに教科書とノートを広げた。
 続けてメールがきたが、やはり無視をしていた。
 だが、それっきりメールが届かなくなった。
 彩香は気になって授業が出来ないことを言い訳に、メールを読むことにした。
 ―∈彩香の顔が見たくなったな。昼飯でも一緒に喰うか?∋
 ―∈OKなら近くまでジープで迎えに行くぜ。∋
 ―∈この時間はメール出来ない?・・・返事あるまで俺からのメールは控えることにするな。∋
 大河がどうして自分を誘うのか。
 からかわれている気分になった彩香は、腹立たしさをぶつけるように返事を返した。
 ∈今、玲奈と電話してたでしょう?玲奈を誘えばいいじゃない。∋
 大河からすぐに返事が届いた。
 ―∈電話なんてしてないぞ。∋
 ∈嘘つき!∋
 ―∈ノートパソコンを見るのに携帯を繋げてたんだぜ?電話なんて出来るわけがないだろ。∋
 ∈だって、玲奈が電話してたから・・・∋
 ―∈相手が俺だとでも言ったのか?∋
 ∈違うけど・・・∋
 彩香が半信半疑で短く返事を返してから、大河からのメールがなかなか届かなかった。
 怒ったのだろうか。
 不安になった彩香がメールを打ち込もうとした所に着信があった。
 ―∈大学を休んでいるから近くの店には入れないと思って、車で行ける周辺の店を探していたんだよ。あまり遠いと彩香が午後の授業に遅れると思ってさ。けど、迷惑だったみたいだな。彩香が行けないなら、他の誰かを誘ってみるよ。授業の邪魔をして済まなかった。∋
 大河からのメールは長文だった。
 怒らせてしまった。
 彩香は泣きたくなるほど悲しくなった。
 ∈ごめんなさい。遠くから玲奈が電話しているのが見えただけなの。でも、大河さんからのメールも来なかったから、勘違いしちゃったの。本当にごめんなさい。∋
 文字を打つ手が震えて、ぎこちない指の動きに何度も打ち間違えてしまう。
 それでも、やっと送信すると、すぐに返事がきた。
 ―∈それで昼飯の誘いはOKなのかな?∋
 ∈♪OK♪∋
 ―∈やったぜ。(^_-)vブイブイッ☆∋
 顔文字が泣きそうになっていた彩香の心をほんわりと温めてくれた。
 昼食の約束をしてからは、シープで迎えにくるという大河と待ち合わせする場所の相談をし、その後も取り留めもなくメールのやり取りは続けられた。

 大学から車で20分。
 彩香をジープに乗せた大河が連れてきた店は、ハンバーグが美味しいと定評のあるファミリーレストランだった。
「時間があれば、もっといい店に連れていってやれたけどね。」
 そう言った大河が苦笑いを浮かべる。
「あ・・でも・・・ここも美味しいって・・・」
 彩香は大河を目の前にすると、言葉が出なくなってしまう。
「へぇ。友達とかの評判?・・来たことあるの?」
「はい。・・・あ・・いいえ。」
 彩香の返事に大河が苦笑する。
「ごめん。立て続けに質問するもんじゃなかったな。」
 彩香は顔が赤くなっていくのを感じてうつむいてしまう。
「そんなに緊張しなくていいから。写真つきのメールだとでも思ったら?それとも向き合ってメールでもしようか?」
「・・・それって・・・変です。」
「そう?」
 大河は片眉をあげて笑うと、頬杖をついて窓の外に視線を向けた。
 大河の精悍な横顔が一枚の絵のように見える。
 彩香は話し下手な自分が相手を飽きさせてしまうのではないかと思って、余計緊張してしまう所があった。
「あの・・・唯さんの御加減はいかがですか?」
 大河の眉が一瞬雲って、頬が微妙にヒクつく。
 が、すぐに軽い笑みを浮かべて、
「俺がいると休めないらしいから、放ってきた。」
と、答えた。
 彩香は、それでいいんだろうか、と思ったが、大河の様子から触れない方が良さそうなので、それ以上唯のことを聞くことはやめた。
 大河は腕時計を見て、
「料理がくるのが遅いなぁ。この調子だと午後の授業に遅れちまいそうだぜ。」
と、舌打ちした。
「大河さんも午後から授業を受ける予定だったんですか?」
「いや。彩香のことを言ったんだ。誘った責任があるからな。」
 彩香は、あっ、と開いた口を押さえて瞬きをした。
「・・・私のことなら気にしなくていいです。・・・何だか今日は受講してても聞く気になれなくて。座ってるだけなら意味ないから、午後はサボっちゃおうかな、って思ってたとこなの。」
「・・・ふーん・・・いいの?」
「ええ。」
 彩香が微笑んで頷くと、大河がじっと目を覗き込むように見つめてきた。
 ドキドキしながら見つめ返すと、
「なら、午後は俺とデートしないか?」
と、軽い調子で大河が言った。
 彩香は自分がサボると言い出した時から、誘われる気がしていた。
 デートという言葉に罪の意識を感じる。
 それでも彩香は、
「はい。」
と答えていた。

<17>
「温もり」
<17>「温もり」

 食事の後、大河はジープを高速道路に進めた。
「こんなことなら、唯の車で来れば良かったかな。」
 ジープでも充分な速度が出ているが、大河は少し不満そうだった。
「唯さんの車って、あの赤いスポーツカーですか?」
「そう。真っ赤なフェラーリ。あの型は日本には2台しかないんだぜ。」
「・・・そうなんですか・・・」
 彩香には総称くらいは知っていたが型まではさっぱりわからない。
「でも・・・私はこうゆう安定感のある車が好きかも・・・」
「乗ったことない奴はそーゆーけどな。あの走りを体感したら、普通の車がかったるくなるぜ。道路にピタッと吸い付くようでいて、摩擦を感じさせないほどの滑らかな走り。風を突き抜ける爽快感はたまらないな。」
 大河は道路を見据えた眼を熱く滾らせた。
「・・・そう言えば、玲奈もそんなことを言って自慢してたっけ・・・」
 彩香は車好き同士の会話はわからなくて、ポツリと呟いた。
 すると、大河が眉をしかめて溜息を吐いた。
 話に乗れない自分をつまらなく感じてしまったのかと、彩香は不安で居たたまれなくなった。
 だが、大河の口から出てきた言葉は、彩香の不安とは別のものだった。
「なぁ・・・彼女のことは忘れないか?」
 彩香は、ハッとして大河の横顔を見つめた。
 浮気していることの罪悪感でもあるのだろうか?
「・・・忘れるって・・・?」
「今ここにいない奴の話はやめよう、ってことさ。仮に俺が彼女の名前を会話に出せば、彩香は面白くないだろ?俺も彩香が唯のことばかり話してたら、つまんねぇしな。」
「あ・・・はい。」
 彩香はそうゆう意味の溜息だったのかと、少しホッとした。
 彩香自身にとっても玲奈の話題は心苦しかった。
 玲奈を大切な友達と思うなら、デートの誘いは断れば良かったのだ。
 言い訳なんて出来ない。
 大河を選んだ以上、もう善い友達のフリはやめよう。
 そう思っても、玲奈を嫌ってるわけではないのだ。
 嫉妬はいつも感じていたが、それ以上に玲奈の可愛さに魅力を感じていた。
 今でも玲奈の愛らしさを思うと笑みが浮かぶ。
 だからこそ玲奈を悲しませる大河が嫌いだったのだ。
 けれど、今度は自分が玲奈を悲しませることになるだろう。
 人を好きになるのは罪深いものなのかも知れない。
 彩香は思わず顔を両手で覆って、深い吐息を洩らした。
「彩香・・・」
 大河が顔を覆っている彩香の手首をつかんだ。
 彩香はドキッとして顔から手を離した。
「・・・大河さん?」
「俺が彩香といたい、って思ったんだ。自分を責めるなよ。な?」
 大河はそう言うと、彩香の手を包むように握って、そっと彩香の膝に置いた。
「つーか・・・その、”さん”って付けるのはやめないか?」
 彩香の手を握ったまま、大河は優しく笑った。
「・・・はい。」
 握られた手に伝わる大河の体温以上に、大河の温かい心に包まれるようで、彩香は頬を染めながら小さく頷いた。

 車が高速を降りて山道を登り始めた時、彩香の心にまた不安がよぎった。
 動揺が顔に出ていたのか、大河が高速料金を払う時に一度離していた手を、再び握ってきた。
「近郊の高原を調べていた時に、ここも候補に考えていたんだけどね。小さな湖もあって、案内の写真とか見ると、すっげー綺麗でさ。・・ただ、観光地すぎてデートにはいいけど犬は放してやれないからな。」
 彩香は、そっかぁ、と納得して頷いてから、クスッと笑った。
「・・ん?」
「だって・・・大河の言葉って、”すっげー”慣れてるから・・・」 
「ちぇっ。どの国の言葉でもスラングの方が使い勝手がいいように出来てんのさ。USAじゃ大統領だって演説にジョークを混ぜる時に使ったりするんだぜ。」
「あ、そう言えば、アメリカ人講師の授業では、時々スラングも教えてくれてるの。・・うっかり使わない方がいい言葉とか・・・」
「あっはははっ。どこにでもあるよなぁ。そーゆー隠語は。」
 大河はいくつか例をあげてみせた。
「それそれ。先生もそれ言ってた。」
 彩香も声をあげて笑った。
 大河の手の温もりが緊張を解してくれる。
 時々さり気なく指の脇を擦られて、くすぐったいような感覚に顔が火照ってきてしまう。
 友達同士で繋ぐ手とは違うのだと実感する。
「イギリスではもっと崩れた言葉もあるんだぜ。下町と上流階級の言葉も違うし、若者特有の言葉もある。ま、日本語もそうみたいだけど、日本語のはまだよくわからないな。」
「そうなの?・・・大河って何処の国の言葉が一番得意なの?」
「一番まともで一番丁寧に使う言葉って言ったら英語だろうな。何しろ、その頃の守り役ときたら、やたら厳しい奴だったから。次がフランス語とドイツ語か・・・日本語も必要なら丁寧語も敬語も謙譲語も使うけど・・・きっちり型にはまった言葉って冷たい感じしないか?」
「・・・そうかも。・・・乱暴すぎるのもたまに不遜に聞こえるけど。」
「アウチッ。・・・俺がそうだってか?」
「さぁ・・・どうかなぁ・・・」
 彩香はクスクスと笑いながらも、各国の言葉を自由に使える大河の凄さを感じていた。

 会話に詰まったらどうしよう、と初めの頃は心配していたが、大河の自然な誘導のせいか、ずっと楽しく話が続いていた。
 やがて、登っていた道が下り始めると、輝く湖面と湖面に淡く映る濃緑の山陰の風景が目に飛び込んできた。
「わぁ・・・綺麗ぃ・・・」
 彩香が思わず声をあげると、大河は左右の窓を全開にした。
 深緑の息吹を含んだ新鮮な空気が車内を満たし、火照った頬を適度な冷たさで覚ましてくれる。
 彩香は目を閉じて深く息を吸ってから、また湖をうっとりと眺めた。
「・・・素敵・・・」
「だろ?・・・彩香にこの景色を見せてやりたかったんだ。」
 気取らない声で大河がサラリと言う。
 彩香は感動で胸がいっぱいになっていた。

 湖畔を半周ほどすると、林の先に湖面が見える場所があった。
「ちょっと降りて近くまで行ってみようか?」
と言って、大河が車を脇に寄せた。
 そして、彩香がジープの高い座席から降りやすいようにと手を取ってくれる。
 彩香はこれほど大事にしてくれる男性は初めてで、戸惑いながらもヒロインにでもなったような気分になってしまう。
 足が地に着かないようにふわふわとする。
 それでも林の中には、利用者が多いせいか、湖面まで繋がっている小道が出来ていて歩きにくくはなかった。
 大河はずっと手を繋いでいて、彩香が転ばないようにと気遣ってくれる。
 湖の畔は海とは違って、静かな波がタプン…タプンと打ち寄せている。
 しばらく黙って湖面を眺めていたが、背中から包み込まれるような温かさを感じ、ゆっくりと振り返った時、唇が重ねられた。
 彩香は、ウッ、と目を閉じて息を止めた。
 すると大河が一度重ねた唇を離し、彩香の顔に添えた手で頬をそっと撫でながら、
「自然に息をしてごらん。・・・大丈夫。・・・怖くないよ。」
と、耳たぶを唇で挟むようにして囁いた。
 そう言われても、再び唇が重ねられると、どうしても緊張してしまう。
 心臓が飛び出しそうなほどドキドキしている。
 心拍があがり、呼吸も乱れてきてしまう。
「大丈夫。・・・意識しないで、感じるままに任せていればいいんだよ。」
 大河は彩香に時々息継ぎが出来るように気遣いつつ、次第に濃厚で長いキスをしていく。
 もう、立っている感覚さえわからなくなり、膝に力が入らなくなっていた。
「支えてるからリラックスしていいよ。」
「・・・ん、、、」
 大河の言葉に自分でも予期しなかった甘い鼻声が洩れる。
「・・ん、、ん、、、」
 一度洩れだした声は自分の意識とは関係なく込み上げてしまうものらしい。
 でも、その分呼吸が楽になった気がする。
 気が付けば、いつの間にか彩香自身も大河の舌を吸っていた。
 こんなに濃厚なキスは生まれて初めてだった。
 無理矢理舌をねじ込まれた乱暴なキスの記憶はあるが、すぐに相手を突き飛ばして、手で口を拭いながら逃げ出した。
 風のように一瞬吹き抜けた、感覚さえはっきりとしないキスもあった。
 本当のキスがこれほど甘美なものなのだとようやくわかった。
 体温が上昇し、体が火照る。
 乳首が痛いほど立ってブラジャーに当たるのがわかる。
 そして、股間の一部がどうしようもなく切なく疼いてしまっていた。
 ドキドキがいっそう強まり、目の前が暗く霞む。
 彩香は軽い目眩を感じて、ぐったりと大河の腕の中に体をもたれかけた。
 大河は彩香の感覚が戻ってくるまで髪を撫でながら待っていてくれた。

 車に戻るとまた湖畔を巡るようにドライブした。
 少し開けてお土産物を売っている店並みが見えてきた所に、シックで洗練された建物があった。
 山小屋風のレストランがテラスを張り出している。
 大河と彩香はお洒落な感じが気に入って寄ってみることにした。
 けっこう混んでいる店で、二人はテラスの方に席を決めて、メニューから炭火焼きコーヒーと手作りの”クルミと栗のケーキ”という品を頼んだ。
 大河は注文してからもメニューを眺めていて、
「くっそぉー、この肉、美味そうだなぁ。・・・けど、いくらなんでも、まだ夕飯には早いよなぁ。」
と、悔しそうに言った。
 それから、
「彩香は今日、何時くらいまで俺といられる?」
と、聞いてきた。
「え・・・っとぉ・・・って、どうして?」
 考えながら先に聞いてしまった。
「多少遅くなれるなら、ちょっと時間潰して、ここで夕飯喰えたらなぁって思ってさ。・・どう?」
 そんなに食べたいのだろうか、と苦笑を洩らした彩香は、
「それくらいなら大丈夫だけど・・・」
と答えた。
「よし。それじゃ、そうしよう。・・・さて・・何を喰うかなぁ。」
 大河はニッコリと彩香に笑いかけてから、またメニューを眺め始めた。
 それから、ふっと顔をあげると、
「また混んで時間がかかるのも嫌だな。ここに予約可能って書いてあるから、先に席と料理を予約しておくか。」
と、独り言のように言って、彩香に確認するように、ん?と目で聞いてきた。
「・・・ええ。」
 彩香が微笑んで頷くと、それなら早速、と大河は席を立って店の中に入っていった。

 コーヒーをお代わりしてケーキを堪能した後、会計を済ませた大河は、彩香と手を繋いで建物の奥へと入っていった。
 レストランだけにしては大きな建物だと思っていたら、奥がホテルになっていて、2階部分がそれぞれの部屋だったらしい。
 手を繋いでエレベーターに乗った彩香は、え?・・・ええ?、と焦り始めていた。
 お土産屋さんでも回って時間を潰すと思っていたのだ。
 エレベーターに乗ったということは、レストランの席だけでなく部屋まで予約してしまったということなのだろうか。
 初めてのデートでそこまでいくとは思っていなかった。
 うつむきながら大河についていく彩香は、思考が回らないほど頭がパニクってしまっていた。

 部屋の鍵をズボンのポケットから出してドアを開けた大河は、手を繋いだまま彩香を部屋に招き入れた。
 彩香は特に逆らうこともなく、呆然と従っていた。
 大河はそのままベッドを通り越し、大きな窓の方へと進んだ。
「ああ、やっぱり思った通りに見晴らしがいいなぁ。」
 そう言って窓を開けた大河は彩香にも景色を見るように促した。
「湖と山がよく見えるだろう?」
「・・・ええ。」
「もっと早くから来れば、ボートに乗れたなぁ。」
 湖面に浮かぶ数隻のボートに大河が目を細めて言う。
「・・・まだ乗れるかも・・・」
「じき太陽が山の木々に隠れるから、急に寒くなるだろう?俺達みたいな半袖じゃ、とてもじゃないけどいられないぜ。」
「・・・そう・・・」
 彩香の返事は微かに震えていた。
 彩香が窓から入ってくるヒンヤリとした風に髪をなびかせながら眺めていると、大河が少し離れた後ろから声をかけた。
「だから俺達はここで暖かくなろう。」
 振り返るとベッドに腰掛けた大河が片手を彩香の方に差し出していた。
 近付いて大河の手をつかむのも自由。
 拒絶するのも自由。
 彩香の股間の疼きは大河を求めている。
 想いだって大河に愛されたいと望んでいる。
 なのに、脅える心が逃げ出したがっている。
 どうすればいいのだろう。
 困った彩香が、泣きそうになって大河の目を見ると、何故か瞳の奥には寂しげな翳りがあった。
「彩香・・・おいで。」
 大河の声は静かで優しかった。
 彩香は一歩二歩と歩み寄り、手をつかむよりその胸に飛び込んだ。
 そのまま抱き締められ、再び熱いキスをする。
 今度は膝に抱きかかえられているので、体の力を抜いてキスだけに応えていられた。

「ん、、んん、、、・・・あ・・・いやぁ・・・」
 鼻を鳴らして濃厚なキスに夢中になっていた彩香は、シャツブラウスの前がはだけていたことに気付かなかった。
 ブラジャーの肩紐を落として、大河が露わになった胸を揉み始めたのだ。
「大丈夫。・・・可愛いよ。」
「・・ゃぁ・・・あぁ・・・ん、、んんん、、、」
 固くなった乳首を摘まれ、恥ずかしさと怖さで上げた声をキスで塞がれる。
 恥ずかしくてたまらないのに、固い乳首を揉みほぐされて、気持ちよくなっていってしまう。
 大河はキスを続けながら、片側の乳房をたっぷり愛撫してから、もう一方の乳房もまた同じように乳首を揉みほぐして愛撫する。
 彩香は唇が離れる度に、
「あぁ、、、あぁん、、、あぁぁぁ、、、んふっ、、、」
と声を出してしまう。
 あれほど嫌悪したよがり声を、乳首を愛撫されるだけで我慢出来ずにあげてしまう自分に呆れて情けなかった。
「・・・どうした?」
 目に涙を滲ませる彩香に、大河は瞼にキスをしながら聞いた。
「・・・だって・・・感じすぎて・・・怖い・・・」
「・・・男性との行為は初めて?」
 彩香はコクリと頷く。
「・・・んー・・・どうしても無理ならやめるけど?」
 どうして聞くのだろう。
 自分みたいな分からず屋に疲れて失望してしまったのだろうか。
 抱かれるのが嫌な相手なら、とっくに逃げ出している。
 大河に抱かれたい。
 それがどんな感覚のものかは想像出来ないけれど、体が欲しがっているのがわかる。
 ずっとドライブを始めた時から、体の奥で確実に芽生えていたのだ。
 やがてそれは疼きとなって体中を巡り、じれったさが間断なく続いている。
 特に股間の疼きは熱を持ち、トロ〜ッとした蜜でショーツをグショグショに濡らしてしまっている。
 まさか今日がこんな日になるなんて思ってもいなかったから、ショーツの換えを持ってきてなかったことが悔やまれる。
 それでも、そんな惨めな自分を晒しても、大河とひとつになりたかった。
 繋いだ手よりも、温かな胸にもたれる以上に、もっと深い結びつきが欲しかった。
「・・・抱いて・・・欲しいの。」
 彩香は勇気を振り絞って言葉にした。
「うん、わかった。・・・ひとつになろうな。」
 大河は優しくそう言って彩香の額にキスをした。
 それから彩香をベッドに寝かせると、立ち上がり、
「じゃぁ、まずは窓を閉めようぜ。」
と、彩香にウィンクをしてみせた。
 彩香も胸を愛撫されながら、窓からの風を冷たいと思ってはいたのだ。
 けれど、雰囲気を壊すまいと我慢していた。
 あまり几帳面だと相手をシラケさせてしまうのだと経験で知っていた。
 だが、大河は窓を閉めてくると、彩香を抱き締めて背中をさすり、
「寒かっただろ?・・・ごめんな。」
と言ってくれた。
 この大河なら、どんな自分でも受け止めてくれるように思えた。
 彩香は自分から大河の背中に腕を回して、
「大河・・・大好き・・・」
と唇を重ねていた。

 彩香はシャツブラウスの上にカジュアルな半袖ジャケットスーツを着ていた。
 大河は先に服を脱がせて、シワにならないようにと、小さなクローゼットにあったハンガーにかけてくれた。
 キャミソール姿になった彩香は毛布の中に滑り込み、ドキドキしながら大河を待った。
 大河もラフな支度だったが、ハンガーにかけていた。
 大河は下着を着ていなかったので、いきなり裸の上半身を見せつけられて、彩香は息を飲んだ。
 鍛え上げられた体は筋肉が盛り上がり、腹筋がギリシャ彫刻のように分かれている。
 とは言ってもレスラーのような太さや厚みはなく、東洋的なスリムに引き締まった体つきをしていた。
 そして大河のトランクスの前の盛り上がりが、想像を越えて前に突き出ていた。
 彩香は気になってたまらなかったが、大河がトランクスに手をかけた時、ギュッと目を閉じて毛布を顔まで引き上げていた。

 ベッドが重さを感じて揺れる。
 毛布で顔を隠す彩香の髪を、大河が宥めるように撫でながら、ゆっくりと毛布を足元まで下げていった。
 毛布の代わりに手で顔を隠していた彩香に、腕枕をして抱き包んだ大河は、キスをしながら手を外させた。
 彩香もキスに応えて、差し込まれる大河の舌に舌を絡めた。
 彩香は自分でも不思議なほどに、初めての行為に馴染んでいってしまう。
 ブラジャーが外され露わになった乳房を揉まれることにも、抵抗を感じなくなっていた。
「あぁ、、、ぁぁん、、、」
 感じてたまらない部分を刺激されると声が我慢出来なくなる。
 指よりも優しい感触の、舌と唇での刺激は、かつてないほどに気持ちが良くて、よがり声が止まらなくなってしまった。
「クスッ。・・今からそんなにさえずっていたら、後が続かないよ。」
 大河は乳首を舐めながら言って、軽く囓った。
「あぁぁぁ、、、あぁん、、、意地悪ぅ・・・」
 仰け反って叫んでしまった彩香が拗ねた声で言う。
 大河はキャミソールを下げていくのに合わせて、キスも下へと移動させていく。
 おへその辺りまではじっと我慢していたが、ショーツも合わせて引き下げられた時、たまらず股をギュッと閉じて、両手で陰毛部分を隠してしまった。
 大河は取り敢えず下着を全て脱がせてしまうと、両手で陰毛を隠す彩香の両腕を跨いで、軽く乗るように押さえ込んだ。
 体重はかけてないので重さはそれほど感じなかったが、身動きが取れなくなり、動けなくなった彩香の目の前に、大河の逞しい巨根がそびえ立った。
 彩香が目を閉じると、顔に思い切り押しつけられた。
「んーんー・・・いやぁぁ・・・」
 彩香は目を閉じたまま顔を左右に振ったが、それが余計顔中で擦ることになったらしく、大きさと重さを増したように思えた。
「欲望には正直に。・・これが俺のモットーだ。俺が欲しいなら、目を開けて欲しいモノをじっくり見ろ。どんなものかも知らずに欲しがるのか?」
 そう言われて逆らえなくなった彩香は、目を開けて大きく腫れ上がった男根を見つめた。
 もちろん本物をこんなに間近で見るのは初めてだった。
 松茸に似ているとよく言われるが、太い筋が異様に脈打つこの大きな赤黒い物体を、とても食べ物には例えられそうになかった。
「・・・見ました。」
「それじゃ、次は口開けてナメナメしよう。」
 彩香は口を開けたが目も大きく見開いていた。
 舐めるのではなく、驚いて開けた口だったが、
「ん。素直でいい子だ。」
と、誉められてしまった。
 仕方なく指示されるままに先端から根元まで舌を使って舐めていった。
「出来れば手も使って愛撫して欲しいな。」
 彩香が先端をくわえながら頷くと、大河はやっと押さえ込んでいた腕を開放してくれた。
 それから、彩香の体の向きを変えさせ、上からくわえるように教えた。
 両手を添えて擦りながら頭を上下に振るよう言われても、大きな先端を口いっぱいで頬張るのがやっとだった。
 それでも傘のように張っている部分を唇で擦るといいのだとわかって、必死でしゃぶった。
 何だか、普通あるべき初体験と違う気がしていたが、素直だと誉められた手前頑張るしかないようにも思えて、苦しさに耐えながらなるべく奥までくわえた。

「はぁはぁはぁ・・・」
 やっと許されてフェラから開放された彩香が息を整えていると、
「それじゃ、今度は俺が舐めてあげよう。」
と、言った大河は、彩香の足を軽く曲げて立ててから、膝を左右に割った。
 ぼんやりしていて、咄嗟のことに対処出来なかった彩香は、いきなり大きく開いた股を大河の目の前に晒すことになってしまった。
 股を閉じようにもすでに大河の頭がそこにあり、足を閉じれば頭を挟み込んでしまう。
「いや・・いや・・いやぁ・・・お願いぃぃ・・・そこだけはいやぁぁ・・・」
 彩香は涙を浮かべて嫌がった。
「どうして?・・・俺もちゃんと見せただろう?」
 大河は彩香の太腿の一番付け根あたりにキスをしながら言った。
「だってぇ・・・恥ずかしいのぉぉ・・・」
「バカだなぁ。こんなに綺麗で可愛いのに、恥ずかしがらなくていいんだぜ。」
「・・・だってぇ・・・くふん・・・」
「他の知らない男に見せるんじゃないんだから・・・そうだろ?」
 大河はクリトリスを舌でペロンと舐めた。
 彩香の体がビクンと反応して、
「あ、、、ぁぁ、、、」
と仰け反ってしまう。
 ヒュゥ〜ッ、っと大河が口笛を吹く。
 こんなに恥ずかしいのに、何で口笛なんて、と彩香は眉を寄せたが、
「初めてでこれだけ感じやすかったら最高だぜ。」
と、また誉められてしまった。
「・・・そんなこと・・・わかんない・・・」
と言ったものの、大河が続けてレロレロレロと舐めたので、
「あぁぁん、、、んんぁぁぁ、、、」
とまた感じて仰け反ってしまった。
「な?・・・最高だよ。」
 大河の言葉に段々その気になってくる。
 誉めてくれるなら、もっと見られてもいいかも。
 もっと素直に感じていたいかも。
 彩香は嫌がって強ばらせていた体の緊張を解いた。
「いい子だ。ホントに素直で可愛いよ。彩香。」
 受け入れてもいい、という彩香の気持ちの変化は大河にも伝わった。
 大河は花陰を押し広げ、花弁、花芯へと舌を這わせて舐めていった。
「あぁ、、、あんん、、、あぁぁぁ、、、あふん、、、」
 彩香は身を捩って体中に広がる快感に痺れた。
 そして、大河が欲しくて欲しくてたまらなくなった。
 もっと奥の疼きのもとを満たして欲しくなったのだ。

「あぁぁ、、、大河ぁ、、、欲しいぃ、、、大河が欲しいぃぃ、、、」
 彩香の切ない訴えに、大河はようやく彩香の股間から顔を上げた。
 体を上に戻し、彩香と見つめ合った。
「初めてはかなり辛いけどいい?」
「うん・・・」
「痛くても最後まで我慢出来る?」
「・・・うん・・・」
「痛みを越えた先には・・・これまで味わったことのないくらい気持ちのいい陶酔が彩香を夢の世界に連れていってくれるからね。」
「・・・ホント・・・?」
「ああ。彩香ならきっと最高の楽園を垣間見ることが出来るよ。」
「・・・自信・・・ないけど・・・」
「俺を信じて。」
「・・・うん。」
 大河は笑みを浮かべて頷き、キスを繰り返した。
 キスをしながら、初めは指で膣を確認する。
「あ・・・あぁ、、、」
 彩香は奇妙な違和感に戸惑う。
 自分でさえ触れたことがなかったのだ。
 これまで入ったこともない体の中に異物が侵入したのだ。
 しかも微妙な動きが疼きを刺激して体中を痺れさせる。
「あぁぁ、、、ああぁぁん、、、」
 腰が浮きそうになってしまう。
 背中まで浮き上がって仰け反って感じてしまう。
 どうしてこんなに気持ちがいいのぉ。
 彩香は今まであんなに男性を怖がっていたのが嘘のように思えた。
「あっ、、、ん、、んん、、、つぅぅっっ、、、」
 大河が指を二本にした時ジワリジワリと痛みが広がりだした。
 あああ・・・どうしよう。
 これくらいで痛がってたらダメじゃない。
 彩香は涙が込み上げてくるのを堪えていた。
「辛い時は泣いていいからね。」
 大河は労るように髪を撫で、励ますようにキスをした。
 そして、
「それじゃ、彩香の中に入るよ。」
と、確認するように見つめる。
 彩香は潤んだ眼差しを向けて頷いた。
 指が抜かれ、足が大きく開かれて軽く上に持ち上げられた。
 大河が男根の先を馴染ませるように花陰に擦る。
 それから先端を花弁に合わせて、グググゥゥゥーーッと力強く押し込まれた。
 引き裂かれるような強烈な激痛が走り、彩香は歯を食いしばって呻いた。
 大河が彩香の体に覆い被さるようにして、彩香をしっかりと抱き締めた。
 彩香は大河にしがみついて激痛に耐えていた。
「もう少し、奥までいくからね。」
 また、ググゥゥーーッと体を沈める。
「うううーーぅぅっっ・・・んんーーっ・・・」
 我慢出来なくて彩香は泣きじゃくり出してしまった。
「よしよし。泣いていいよ。・・・大丈夫。・・・怖くないからね。」
 彩香は痛みに震えながらも、大河の優しさに包まれる喜びを感じていた。
 自分が思いきり小さな子供になったような気がする。
 苦しさに縮こまった体をさすってくれた病院の先生を思い出す。
 温かい手の温もりが伝わってきた時、不思議な安心感を覚えて、心まで縮こまっていたものが穏やかな気持ちになれたのだ。
 その時の記憶が脳裏を過ぎり、大河と重なる。
 そして今、彩香は密着する肌と肌の熱さに満たされ、幸せに包まれていた。
 痛みが少しだけ和らいだ気がする。
 痛みの奥から込み上げる不思議な充実感。
 大好きな人とピッタリと一つになれた喜びだけでなく、押し広げられた感覚の中に痛痒いような快感があった。
「・・・あふん・・・大河ぁ・・・」
 彩香は啜り上げながら甘えて名前を呼んだ。
「彩香。・・・いい子だ。・・・とても気持ちいいよ。・・・彩香の温かい体に包まれて、荒れた心も安らいでくる。・・・ああぁ・・・気持ちいいなぁぁ・・・」
 そう言ってキスをする大河は、普段の不遜で攻撃的な態度からは、想像出来ないほどに優しかった。
「彩香も・・・幸せ。」
 彩香は尽きることなく満たされていく喜びの中で、ふと、”愛される時の幸せな充実感が最高なの。”と言った玲奈の言葉を思い出した。
 ごめん、玲奈。
 でも、自分にとってはもう大河は掛け替えのない存在なの。
 彩香は頭に浮かんだ玲奈の姿を振り払うように大河にしがみついた。
「大河ぁ・・・愛してるぅ・・・」
 大河は答えるかわりに熱いキスをし、それから、
「少しずつ動かすからね。」
と言って、腰を動かし始めた。
「あ、、、あぁぁ、、、ぁぁん、、、」
 ズルッと引っ張られるような頼りなさから、また、ググッと押し上げられるような感覚が繰り返される。
 そしてその度に擦られる体の内側から、言いようのない快感が沸き上がってきた。
「あぁ、、、あんん、、、あっ、、あふっ、、、あぁぁぁ、、、」
 脳天まで突き抜けていく電流のように、快感が体を駆け巡る。
「あぁぁ、、、はぁ、、はぁ、、、あぁぁぁぁぁ、、、」
 消えない痛みより、生まれて初めて感じる快感の渦に意識が取り込まれていく。
「あぁぁん、、、あぁ、、、大河ぁ、、、気持ちいいぃぃ、、、」
 時々大きく仰け反って、足の先まで反り返って感じている彩香は、普段のおとなしく内気な姿が嘘のように、艶っぽい色気があった。
「すごいな。・・・こんなに感じやすい子だったなんて・・・素敵だぜ。」
 大河は腰の動きを次第に早めていく。
「あんん、、、あぁ、、、あぁぁん、、、はぁぁ、、、」
 彩香は突き上げる快感の中で、愛される女の喜びを噛みしめていた。

「・・・夢みたい・・・」
 大河の腕に抱き包まれて、彩香は熱い吐息とともに呟いた。
「クスッ。・・・だろ?」
 そう言って、彩香の乱れた髪を撫でる大河が浮かべた笑みには、いつもの不遜さが戻っていた。
 彩香は大河の胸に顔を埋めるようにして、
「・・・夢じゃないでしょう?」
と聞いた。
「彩香と俺の関係は夢でも何でもない現実だぜ?・・ん?」
「・・・うん。」
「夢心地の快感があるって言っただろ?って意味だよ。」
「・・・うん。」
「けど、ロストバージンでこれだけ感じる子って・・・あ・・いや・・・今はやめておこう。」
「え・・・なぁに?・・・気になるぅ・・・」
「いや。別に比較出来るほどは俺も経験豊富じゃねぇしな。」
「・・・そうなの?」
「あ?・・・なんだぁ?そんなに遊び人に見えるのか?」
「・・・わかんない・・・」
「ま、いいけどな。・・・けど、留学中は俺もずっと童貞だったんだぜ。」
 彩香は顔を上げて大河の顔を見つめた。
「唯についていくのに必死だったんだ。・・・唯みてぇな奴を本物の天才ってゆーんだろな。しかもその天才の方が努力家ってんだからまいっちまうぜ。」
 彩香はなんとなくだが大河の言うことがわかる気がして頷いた。
「初めは人間じゃねぇ、なんて思ったけど・・・今は・・・天使だと思ってる。」
 彩香は頷き、
「うん。・・・私も・・・いつも・・・真っ白な天使の翼が似合う人だなぁって思ってたの。」
と、言って微笑んだ。
 大河も笑いかけたが、表情が暗く悲しげになっていく。
 そして、彩香を抱き締めて、
「けど、俺は人間なんだ。温っけぇ肌の温もりが欲しいぜ。」
と、苦しそうに言った。
「うん。・・・うん。・・・私も大河の肌の熱さが好き。」
「・・・彩香・・・今日からお前は俺の女だ。」
「・・・嬉しい・・・」
 大河と彩香はお互いを求め合うように唇を重ねて舌を絡め合った。

<18>
「冬馬」
<18>「冬馬」

 唯と大河の生活するマンションの部屋には、冬馬の部屋も用意されていた。
 と、いうよりも客間なのだが、利用するのはいつも冬馬だけだった。
 唯と大河がここで生活を始めた最初の頃は、冬馬もしばらくここで生活したのだ。
 頭脳は大人顔負け、いや、普通の大人では足元にも及ばない二人だったが、生活感はまったくなかった。
 それで冬馬がドイツの時と同じように、親代わりとして付き、生活する基礎を教えてやった。
 勉強に専念するなら、ずっと継続して親代わりをしてもいい、と冬馬は言ったが、それでは日本で学生をやり直す意味がないからと、二人だけの生活を始めたのだ。
 これまでが勉強に専念するあまり、まったく世間に疎くなってしまていたので、このままでは常にガラスケースの人形のように、守られた中でしか生きられなくなってしまいそうだった。

 本来、唯は地平線まで草原が続くようなサバンナで、空の広さと大地の力強さを感じながら自由に走り回って育った子なのだ。
 生まれた時から寝食を共にしてきた黒豹のラーガと一緒に、母親が作ってくれた芋団子を腰に付け、父親から渡された磁石だけを頼りに、日の出から日没まで遊び回っていたこともある。
 そして夜には、一日中かけて集めた植物や小石や虫といった物を、父親と一緒に分析したり解剖したりしてノートに書き記していった。
 そのノートは十数冊に及び、詳細に記された内容は、野生植物を研究する学者を唸らせ感嘆と賞賛を浴びた。
 調べた物の中には発見されてなかった珍しい植物や虫もあり、子供の自由研究の域を超えた貴重なデータだったので、立派な図鑑として発表された。
 そうした経緯があって、イギリスの自然科学の学者グループに留学を勧められたのが、留学の始まりだった。

 けれど、勉学と研究に没頭する日々は、唯から自然を遠ざけていってしまった。
 それでも、研究が微分細分化されていく中でも、唯の自然を愛し求める心は失われていなかった。
 大河はよく「学者バカ”にはなりたくねぇ。」、と言っていた。
 唯も「同じバカならバカ元気がいいな。」、と笑って答えた。
 それで保護者のいる生活から、自立した生活を目指したのだった。
 だが、まだ4ヶ月も経たない内に、自立失敗の烙印を押されそうである。
 大河の為にも、それだけは避けたい唯は、どうしても実家に戻る訳にはいかなかったのだ。

 冬馬は部屋に荷物を片付けると、各部屋の状況をチェックした。
 そして、ソファーで本を読みふけっている唯に、
「こんなに天気がいい日は布団を干さなくてはいけません。」
と、唯に布団のカバーやシーツをはがして、ベランダに干すようにと指示をした。
 それから大物を洗濯する間に、
「動物と一緒に生活するなら、掃除はマメにするものですよ。」
と、自ら掃除機を手に取り、
「坊ちゃまはローラーで掃除機をかけた後の布に入り込んだ毛を取っていってください。」
と、粘着テープのローラを手渡した。
 それが済むと洗濯物を干し、拭き掃除もし、自分が台所を換気扇からレンジまで磨き上げる間に、唯には窓拭きをさせて、といった具合に2時間近くかけて部屋を隅々まで綺麗にした。
 ここまで綺麗になると空気まで違って感じる。
 唯は深呼吸して微笑むと、
「ありがとう、冬馬さん。随分さっぱりするものですね。」
と、礼を言った。
 冬馬は頷いて、
「毎日は無理でも、休みの時くらいは心掛けてください。これだけ体を動かせば、けっこういい運動にもなりますからね。」
と、笑顔でウィンクをした。
 唯と大河が時々会話にウィンクを入れるのも、この冬馬の癖が移ったと言える。
 留学中の冬馬は今よりもっとくだけた話し方をしていた為、大河の日本語が乱暴なのも、それを真似たからだった。
 唯もついつられることがあって、うっかり拓磨の前でもそうした話し方をしてしまい、驚いた拓磨が冬馬を厳重注意したのだ。
 それ以来、冬馬も話し方に気を付けているようだったが、大らかな性格はそのままで、時には大胆に拓磨さえからかったりする不敵さは変わらなかった。

「もうお昼だけど、どうします?簡単で良ければ作るけど・・・」
 唯が時計を見て、そう言うと、
「ほう。ちゃんと食事に気づけるようには、なられたようですね。」
と、冬馬が笑った。
「だから、それくらいは出来るって・・・もぉ・・・」
 そんなに子供扱いはしないでよ、と言いたそうに、唯が苦笑する。
「そうですねぇ・・・さっき冷蔵庫を見たら、あまり材料がなかったようですし、買い物に出がてら食事してきましょう。いつもはどの辺りで買い物をされてますか?店のチェックもしておきたいですしね。」
「買い物はほとんど大学の帰りにスーパーマーケットでしてるんだけど・・・この辺だと、10分程歩いた先の商店街で足りない物を買い足してるかな。特に果物屋が気に入ってるんだ。」
「ハハハッ。坊ちゃまは果物さえあればお気に入りなんじゃないですか?」
「でも、その店は外国のも色々取り揃えてあるんだよ。」
「ほうほう。では帰りに寄って果物も買いましょう。商店街なら美味い食べ物屋もあるでしょうし、行ってみますか。」
「うん。そうだね。」
 冬馬はルルとレイドには留守番をさせて、唯と二人だけで出掛けた。
 唯が一人で行動する時のガードとして付けた存在だったが、冬馬がいればもっと心強いガードとなる。
 軍隊の特殊部隊以上に厳しい訓練施設で、常にトップの成績を維持していた冬馬は、あらゆる武道、あらゆる武器、あらゆる乗り物のスペシャリストだった。
 しかも大胆不敵でありながら優しさも失わない心の強さを、総統に認められ直属の組織員として仕えるようになったのだ。
 唯にはそこまで話してなかったが、武道の達人であることは紹介された時に説明してあったし、一緒に生活していれば頼りになることくらいわかる。
 犬を連れていると確かに買い物するには困るのだ。
 それで大学帰りにスーパーで買い物を済ませるようにして、犬連れの時には店先だけで買える物を少し買う程度にしていた。
 冬馬と商店街を歩くと、けっこう色々な店があることに、唯は改めて気付いた。
 それで、必要な物以外にも、あれやこれやと欲しがって買って貰ったので、帰る時には二人とも両手いっぱいの荷物を下げて戻ってきた。

 冬馬は買った荷物を冷蔵庫や棚にしまいながら、唯が嬉しそうに買って貰った物を広げている姿を眺めて、愛しさを噛みしめていた。
 普通の人から見れば、あれもこれもとおねだりしたら、これだから子供扱いされるのだ、と言われそうだったが、冬馬はサラサラそんなことを言う気も、思うこともなかった。
 子供時代に一緒に買い物をしたことはなかった。
 一緒に縁日の屋台を歩くようなこともなかった。
 食事さえ促さないと忘れてしまうほどに、研究に没頭する白衣姿の唯を見てきたのだ。
 唯が寝ることも忘れて、読んだ本をベッド脇に積み上げていく時、冬馬は親代わりとしての自分の力不足を痛感させられた。
 拓磨ならこれ以上の無理は厳禁、と唯を寝かしつけるだろう。
 拓磨には言葉にしなくても相手をコントロール出来る才能があるのだ。
 だが、冬馬に出来ることは、食事をさせ、運動をさせ、大河の相談相手になって心配する唯の心労を少しでも減らし、勉学に邁進出来る環境を作ることくらいだった。
 唯を見ていると涙が出そうになる。
 何もしてやれないと己の未熟さを責める自分を気遣い、微笑むことで満たされているのだと伝えてくれる。
 そしていつも謙虚に感謝してくれ、友情と慈しむ愛を注いでくれるのだ。
 唯を抱き締めたくなる大河の気持ちは、自分も同じ気持ちがあるだけによくわかる。
 けれど、それをしてしまったら、透明な朝の光で出来ている、唯の背中の翼を手折ることになるのだ。
 冬馬は唯が微笑む時、目には見えない光の翼が大きく広がり、母鳥がヒナを胸に抱えるように、相手をふんわりと包み込むように思えた。
 そして、その翼は一人だけのものではなく、全ての存在に向けられているのだと。
 唯が意識してそうしているのではなく、自我の自覚がない唯の無意識の行為なのだと、冬馬は感じていた。
 だから唯を抱き締める行為は、唯の意識を求める者だけに向けさせることであり、自我を目覚めさせることなのだと。
 自我に目覚めたからといって、翼が消えるとは思わないが、少なくとも微笑む対象が一人になれば、一人以外の他の者達は天使を失った気分になるだろう。
 自然に自我に目覚めるならそれでもいい。
 だが、故意に揺さぶり起こすことは許されざる行為だ。
 天使を汚す者、侵略する存在、妨げる事象といった、あらゆる敵から守らなければならない。
 その為に自分は天界の森番になる、と冬馬は固く心に誓っていた。
 大河とて、その例外ではない。
 もちろん、それを唯に気付かれないようにすることもまた、心を悲しませない為には必要だったが。

 唯が買って貰った物は、小さな陶器の子犬や大河とお揃いのマグカップといった可愛い物だったが、その中に雑貨屋で見つけた紙風船もあった。
 サバンナにいた頃、総統が唯の為にと日本から送ったオモチャの中に紙風船もあって、母親が膨らませて掌で飛ばして見せてくれた光景が懐かしかった。
 高価な物は何もなかったが、唯は宝物のように大事に抱えて、部屋に持っていった。
 そして、リビングに戻った唯の手には、宝物の代わりに分厚い本があった。
 特に用事もなかったので、犬の散歩時間まで読書をしようと思ったのだ。
 唯が窓際のソファーで読書を始めると、冬馬が斜向かいのソファーに座った。
「犬の散歩はどちらに行かれてますか?」
「河川敷にけっこう広い広場があるから、そこまで行って遊んでくるんだ。ここから3kmくらいの所なんだけど、大河と犬が走りやすいコースを選んで決めたんだ。あまり車が通る道だと排気ガスがかかって可哀想だしね。」
「昨夜は随分、大河の帰りが遅かったようですね。拓磨さんはそれで心配されて私にこちらへ来るようにと指示されたのです。」
「大河だって夜まで遊びたい時もあるさ。それに11時はすぎてなかったよ。今朝だってちゃんと早起きして犬の散歩に一緒に行ったし、それを注意したら可哀想だと思うけどな。」
「出先を言わないのは困りますね。それと携帯の電源を切ってるのも問題です。拓磨さんもそのことを特に怒ってらしたようです。」
「大河には大河の都合があるんだから認めてやるべきだよ。まして今は辛い時なんだから。・・・拓磨さんが大河に厳しいのは前からだけど、冬馬さんまで詰問するようなことはしないでください。」
 唯は読んでいた本から顔をあげて、冬馬を見つめた。
「お願いです。大河が今荒れているのは無理ないでしょう?」
 冬馬は頷き、
「それはわかっていますよ。」
と、笑みを浮かべた。
 唯は安心して微笑み、
「ありがとう。」
と、言って、また読書を始めた。
 唯が人の数倍の早さで本を読みながら、普通に会話が出来るのは昔からのことなので、冬馬は必要な会話も特に気にすることなく読書中の唯と話した。
「あちらに戻られるお気持ちにはなりませんか?」
「今戻って何が出来る?研究の依頼はかなり来てるのはわかってるけど、自分が本当にしたいことが見つからないままに与えられた課題をこなしていくのでは、何も進歩がないでしょう?」
「自然科学研究所には興味を持たれたんじゃないですか?」
「興味はね。この本と同じで興味が引かれる物は色々とあるけど、研究に一生を捧げるよりも人のいる場所で生きていきたいんだ。」
「何処にでも人はいますよ。まだまだ、これから先も多くの出会いがあるでしょう。」
「うん。・・・夏休みにね、USAの医師としてバイトしようって大河と相談してる所なんだ。長期の夏期休暇を取る医師の代理要員としてね。」
「ほう・・・」
「試しにUSA医師会のサイトの掲示板で、募集がないか聞いてみたら、あちこちから短期の雇用でいいから来て欲しいって依頼が入って、何処がいいか迷ってるんだ。」
「拓磨さんはご存知なのですか?」
「だいたいの候補地が決まったら話そうって思ってたんだけどね。」
「R財団でも世界中に病院を設置してますが?」
「ダディが関係してくると、あまり無責任じゃいられないじゃない。」
「・・こらこら。・・・無責任にバイトしようってことですか?」
「いや、そうじゃなく・・・期待されすぎちゃって、休みでも休めない状況になりそうだから、ちゃんと契約して、休みも貰えるようにして、観光出来たらいいなってことだよ。」
「どうも大河の意見が反映しすぎてるようですね。」
「大河は俺の為に提案してくれてるんです。」
「ですが、夏休みにも戻られないのでは総統もお寂しいでしょうな。」
 唯は、あっ、と本から顔をあげた。
 思いが揺れているようで、冬馬を見つめたまましばらく考え込んでいた。
 が、フッと微笑むと、
「ダディならわかってくださるよ。」
と、敬愛を込めた優しい響きのある声で言った。
「・・・確かに。」
 冬馬は納得して頷くよりなかった。
 総統が唯を跡継ぎと宣言したのは、唯に何かを期待してのことではなく、ただただ愛しさ故なのだと、身近な者なら誰もが知っていた。
 だから唯に跡継ぎとしての教育をしよう、等という考えは一切なく、未だに秘密結社の存在は隠し、唯を守れるブレーンを集め育てているのだ。
「冬休みには戻るし、その前でも連休がある時にはマメに顔を出すようにするから。」
「そうですね。」
 冬馬は頷くと、しばらく言葉を途切れさせた。
 ”唯一の存在、唯一の愛。唯(ただ)、愛するのみ。”と言って”唯(ゆい)”と命名した総統の深い想いに浸っていた。
 それから、またいくつかの質問と会話をしてから、
「今夜は私が料理の腕を振るいましょう。」
と、早めの夕食の下拵えに取りかかった。

「何だ、冬馬さんが来てたのか。」
 夕方戻った大河が表情を曇らせて言った。
「何だはないだろう?せっかく久々に俺の手料理を御馳走してやろうと、張り切って作ってるんだぞ。」
「はいはい。久々のエプロン姿が妙に不気味だけど、感謝しますよ。」
 大河は肩をすくめて苦笑いをした。
 唯は、プッ、と吹き出して、
「大河の髑髏マークのエプロンよりはマシだと思うよ。」
と、楽しそうに言った。
「あれは俺サイズのがなくて仕方なく使ってただけで、今はもう変えただろ。」
 大河は舌打ちして言ってから、溜息を吐いた。
 唯は冬馬が来たことを単純に喜んでいるようだったが、大河には冬馬が自分の処分が決まるまでの監視に来たのだと思えた。
 だが、冬馬はその話題に触れることはなく、前と同じ調子で大河に話しかけてくる。
 唯が頼んだのか、唯の前なのでそうしているのかは判断がつかなかったが、取り敢えず大河も普通にすることにした。
「それで、・・・今日はもう散歩しちまったのか?」
「ううん。まだだよ。」
「そっか。なら良かった。唯だけだと外出禁止なんて、人間の勝手な言い分で散歩出来ねぇんじゃ可哀想だからな。」
「うん。昨夜も行ってやれば良かったんだけど・・・」
「拓磨さんの命令は絶対ってか?」
「別に命令なんてされてないよ。ただ、逆らう気になれないだけでさ。」
「いわゆるマインドコントロールか・・・」
「あはは、まさか。」
 唯は大河が、犬の散歩が出来るように、時間を合わせて帰ってくれたことが嬉しくて、機嫌良く話していた。
「ま、その話はいいや。それより、もう散歩に行こうぜ。」
 大河は拓磨に関しては唯との見解が一致しないとわかっているので、敢えて議論しないことにしていた。

 大河が散歩用の支度をして部屋から出てくると、支度を整えた唯の隣りに、ジョギングウエアを着た冬馬がいた。
「冬馬さんもついてくるって?」
「そう邪険にするなよ。まだまだお前には負けないぞ。」
「・・・つーか・・・初めから勝てる訳ねぇよ。」
「おいおい。随分弱気だなぁ。」
「武道の達人に体力勝負を挑んでも疲れるだけだぜ。」
「ハハハッ。若い者が何言ってる。よぉし。この際だから俺がここにいる間、お前には柔道を仕込んでやろう。」
「お・・俺だけかよ?」
「エネルギーを持て余してるようだからな。」
「持て余してねぇーよ。投げ飛ばされて腰でも痛めたら、デート出来なくなっちまうだろ。」
 うっかり言った言葉に冬馬だけでなく唯も驚いた顔になる。
「デート?」
「デートって・・・」
 冬馬と唯に見つめられて、大河は片頬で笑って肩をすくめた。
「新しい彼女と付き合い始めたんだ。これで玲奈とは別れる理由が出来たってことさ。調査結果を待ってるのもかったるいし、結果がわかってもそんな理由で別れるなんて最低だからな。・・・他の女に惚れた、って理由の方が玲奈も納得出来るだろ?」
「大河・・・それでいいのか?」
「新しい彼女、けっこうイケてるぜ。」
「・・・そうなんだ。・・・大河がそれでいいなら、いいんだけど・・・」
 唯はそう呟くように言うと、溜息を吐いて目を伏せた。
「随分早業だなぁ。ルルの一件は一昨日のことだろう?いつの間にそんな相手を見つけたんだ?・・・ナンパか?」
 腕組みをした冬馬が眉間にシワを寄せて聞く。
「いや。最近親しくなってた子がいたから、ちょっと誘ってみたら、俺の彼女になることを承知してくれたんだ。」
 唯は、ハッ、と目を見開き、
「彩香ちゃんなのか?」
と、驚きの声をあげた。
「ん?・・唯様もご存知の方なのですか?」
「・・・うん。・・・学部は違うけど同じ大学の子で、家もけっこう近いんだ。・・・真面目でおとなしいけど明るい、いい子だよ。」
「ほう。・・・特に問題はないようですか?」
 冬馬がやんわりと懸念を表す。
 大河は、ムッ、として冬馬を睨み、
「彩香に問題があったら、俺は世界中の女が信じらんなくなるぜ。」
と言った。
 唯は大河の腕を軽くつかんで、
「大丈夫だよ。だいいち、ルルとあんなに気が合ってるじゃない。」
と、宥めた。
 冬馬も納得して、
「それなら安心ですね。・・・済まん、大河。」
と、笑顔になった。
 大河は、
「まぁ、気になるなら明日の散歩の時にでも紹介してやるよ。子犬を連れて、河原の広場に顔出しするって言ってたから。」
と、憮然とした表情のまま冬馬に言ってから、唯に向かって、
「今日、ドライブの帰りに犬ランドって所に寄ってなぁ、展示とかショーとか見てたら、販売のコーナーにゴールデンの子犬がいたんだ。ジョンのことは忘れられないけど、ルルやレイドと遊ぶ内に、やっぱり飼いたくなってたみたいでさ、切なそうに見てたから思わず買ってやっちまったんだ。唯にも子犬を見せたいし、ルルとレイドにもお披露目するってさ。」
と、説明した。
「・・・そっか。・・・また犬を飼うことにしたんだ。良かったね。」
 唯は静かに微笑んで頷いた。
 ただ、唯の目の奥には悲しげな淡い紫の光が微かに灯っていた。
 冬馬がそれに気付き、凍り付いた顔で息を飲んだ。
 大河はじっとその目を見つめていたが、
「・・・仕方ねぇだろ?」
と、苦しそうに言った。
「・・・うん。・・・仕方ないのかも。・・・玲奈ちゃんはショックだろうけど。・・・大河も俺との関係がなければ、誰と付き合ったって咎められることはなかったんだし・・・こんな訳のわからないことで別れる必要もないのに。・・・玲奈ちゃんにも、大河にも、済まないと思ってる。」
「玲奈のことまで気にするな。あいつが故意なのははっきりしてるんだ。自業自得だろうが。」
 大河は一層苦しそうに吐き捨てた。
「でも・・・大河のことを本気で・・」
「言うな!もうあいつの話はいいんだ!」
「・・・大河だって・・・」
「俺は唯を困らせる奴はいらねぇんだよ。だから、もう気にするんじゃねぇ。」
「だけど・・・玲奈ちゃんだって、俺が同じ大学に入らなければ、普通に大河と出会って普通に恋ができたのに・・・」
「アホか?お前がいなきゃ、俺もいねぇんだぜ?」
 冬馬はようやく訳がわかってきたが、しばらく静観することにして口出ししなかった。
「・・・どうしても・・・別れなきゃならないのかなぁ・・・」
 唯は玲奈の大河に向ける一途な眼差しに嘘はないと感じていた。
 玲奈もまた誰かに利用されただけの犠牲者に思える。
「結果はどうあれ、玲奈の気持ちがどうであれ、俺自身の気持ちがもう玲奈を受け入れらんねぇんだから、しゃぁーねぇーだろ。」
「・・・うん。」
「俺だって・・・こんなことがなかったら、彩香に手ぇ出したりしなかったさ。」
 唯は、わかってる、と口だけ動かし、頷く。
「けど、付き合ってみたら思ってた以上にいい子でさ、俺としても大事にしてやりてぇ、なんて思うようになっちまってな。・・・この際だから、梨香とも別れるつもりなんだ。」
 唯は、ああ、と目を細めて頷いた。
「梨香は俺以外にもパトロンがいたり、気前のいい男達と適当に付き合ってるから、べつにいつ別れを言っても問題ないしな。」
 そうか、とばかりに唯は、うんうん、と頷いて、労るように微笑んだ。
 それでも、唯の目の紫の炎は消えなかった。
 どうにもならない運命の理不尽さに、自分の存在の罪深さを感じてしまっているようだった。
 大河は抱き締めて、お前のせいじゃねぇだろうが、と言ってやりたがったが、冬馬の手前もあり踏みとどまった。
 冬馬は大河の握りしめた拳が、手の指が白くなるほど強い力が入っているのを見て、ここまでだな、と判断し、
「話のキリがついたら、散歩に出掛けましょう。」
と、声をかけた。
 大河は冬馬に、
「ああ、そうだな。」
と言ってから、唯には、
「お前は今夜はやめとけよ。その目で走ったら噂になっちまうぜ。」
と、言った。
 ああ、そうだった、と自分の迂闊さに気付いた冬馬は、大河がしっかり唯をガードしてることが確認出来て、嬉しく思うのだった。

<19>
「玲奈の家」
<19>「玲奈の家」

 大河、どうしちゃったんだろう。
 玲奈は通じない携帯を見ながら溜息を吐いた。
 日曜日、一緒にハイキングに行った時には優しかった大河。
 けれど、その夜から大河の携帯に繋がらなくなってしまったのだ。
 何度かけても通話中か、電源が入ってないと言う機会的に繰り返す言葉。
 メールもアドレスを変えたのか、戻ってきてしまう。
 もしかして携帯を水の中に落としてしまったのだろうか?
 聞いてみたいのに、月曜・火曜と大河も唯も大学を休んでいた。
 何かあったのかなぁ?
 大河といると大河の一部になった気がするほど、繋がっているように感じていたのに、二日会えず、連絡取れないだけで、不安で堪らなくなり大河を遠くに感じてしまう。
 日曜日の森の中で、首の付け根につけられたキスマークはまだ消えてない。
 スカーフで隠しているけど、時々鏡に写して見ては、「大丈夫、ちゃんと愛されてるもん。」と、自分を慰め励ましていた。

 水曜日の1時限目は玲奈は大河と違う授業を取っていた。
 2時限目は同じ授業なので、いつものように校舎の入り口で時間ギリギリまで待っていた玲奈だったが、唯と大河の姿は現れず、仕方なく教室へと向かった。
 教室の後ろの方に席を取り、大河は今日もお休みかぁ、と思っていると、なんと唯と大河が教授と談笑しながら教室へ入ってきたのだ。
 「ありがとうございました。」
と言う唯の小さな声が風に運ばれるように微かに聞こえた。
 何かの質問をして話ながら来たようだ。
 玲奈は大河の姿が見えたことに取り敢えずホッとしていた。
 大河が席を探すように一瞬教室を見回した。
 玲奈は笑顔で手を振る。
 だが、大河は気付かないのか、前の方の席に唯を促し、背中を向けて座ってしまった。
 玲奈は頬を膨らませて、薄情な背中を睨んだが、教授と一緒に前から入って一番後ろに座るのは失礼だ、と大河が思ったのかも知れない、と思うことにした。
 この時間の教授はびっちり要点を書き込むのが好きらしく、大きなホワイトボードに三色のマジックを使って書いていく。
 年二回の学期末テストでは、この書き込みから問題が出されると、先輩から聞いていた。
 玲奈は大河のことが気になって、チラチラ後ろ姿を観察しながらも、ホワイトボードの書き込みをノートに写していた。
 大河は初めの内はノートに写していたが、教授がボードに向かいっきりになると、携帯を出して文字を打ち込んでいる。
 玲奈は、えっ?、と目を瞬かせた。
 授業中は電源を切るようにと言ったのは大河だったのだ。
 それでも、もしかして同じ席に座れなかったことを謝るつもりなのだろうか、と玲奈も携帯を取り出すと電源を入れてマナーモードにした。
 メールの着信はなく、問い合わせしてみたが、何も来てはいなかった。
 メールではなかったのかと思っていると、大河の携帯が微かに光ったように見えた。
 大河が唯に何かを耳打ちした。
 唯の肩がわずかに上下する。
 溜息でもついたのだろう。
 それから、大河のノートに何かを走り書きした。
 大河は肩が凝ったように首を動かし、また携帯に何かを打ち込んでから、ポケットにしまい込んだ。
 やっぱりメールを誰かとしてたんだ、と玲奈は感じた。
 一体相手は誰?
 ・・・また浮気してるのぉ?!
 玲奈の胸はざわつき、指先が冷たくなって震えてくる。
 相手は梨香という人ではないはず。
 梨香ならわざわざメールアドレスを変えたりはしないだろう。
 念のため、大河にメールを送ってみた玲奈は、戻ってきてしまった自分のメールを見ながら、大河の新しい浮気相手が誰なのかと唇を噛んだ。
 涙がジュワッと込み上げてくる。
 もう授業なんて聞いてられない。
 ボードの字も歪んで見えない。
 胸が締め付けられるようで、シクシクと寒気のする痛みを感じる。
 ・・・だけど、大河の浮気はいつものことじゃない。
 浮気をしても、しばらくすると、やっぱり玲奈を一番に愛してくれた。
 今度だってそうに決まっている。
 玲奈は大河には涙を見せまい、と懸命に泣き出しそうになる気持ちを押さえ込んでいた。

 2時限目の授業が終わると、大河と唯は後ろを振り返ることなく教室を出ていってしまった。
 玲奈は大河の側に行きたかった。
 さり気なく、「二日も休んでどうしたの?」、と聞こうと思っていた。
 けれど、前から出ようとしても他の学生が詰まっている。
 仕方なく後ろのドアから出ても、すでに廊下には学生が溢れている。
 ただ、身長の高い大河の頭がずっと先に見えていた。
 玲奈は人混みを掻き分けるようにして、必死でついて行った。
 校舎を出て、一度見失った姿を探す。
 足の速い大河達はもうかなり先を歩いていた。
 玲奈は教科書の入った重いバッグを、腕で押さえるように脇に挟み、小走りに追いかけた。
 泣くまいと思っていても、鼻水が出てきてしまって、鼻を啜りながら走る。
 大河達は、昼食を外でするつもりなのか、門の方へ向かっていた。
 が、大河の足が止まった。
 別の校舎からの通路に繋がっている分かれ道で立ち止まり、その校舎の方へ顔を向けたのだ。
 誰かを捜すような横顔が玲奈に見えた。
 ふと、大河の横顔に笑顔が浮かぶ。
 誰?
 玲奈は足を止め、肩で大きく息継ぎをした。
 相手が誰なのか見極めてやろう。
 玲奈は乱れた呼吸を整えながら、額に浮かんだ汗をハンカチで拭った。
 そして玲奈が、近付きすぎないように、ゆっくりと歩いていると、水色のフレアスカートを揺らめかせた相手の姿が植木の陰から現れた。
 彩香?!
 まさか??
 ・・・どーゆーこと?!!
 玲奈は立ち竦んで、笑顔で見つめ合う大河と彩香の横顔を食い入るように見つめた。
 どーゆーこと?どーゆー訳?どうなってるのーー!
 玲奈は激しく打ち付ける鼓動に息を荒げながら、咄嗟に携帯をかけていた。
 ・・・話し中。
 電話してない大河の携帯が話し中になっている。
 着信拒否をするとそうなるのだと、前に聞いたことがある。
 玲奈は、自分が大河から拒絶されているのだと、やっと理解した。
 でも、どうして?
 浮気してもいい、って言ったじゃない。
 束縛しないから側にいさせて、って言ったら、抱き締めてくれたじゃない。
 相手が彩香だからなの?
 彩香がそうしろって言ったの?
 玲奈はポロポロと涙が溢れてきてしまった。
 泣いちゃダメ。
 泣いたら負けちゃうもん。
 玲奈がハンカチで涙を拭い、顔を上げると、唯と言葉を交わした大河が、彩香の肩に手をかけて歩き出した。
 唯はその場に立っていた。
 玲奈の知る限り、唯と大河が別々に昼食を摂ることは今までないことだった。
 唯も誰かを待っているのだろうか。
 玲奈はゆっくりと歩き出した。
 もう、大河を追いかける気力はなくなっていた。
 今、大河をつかまえて問いただしても、かえって怒らせてしまうだろう。
 それに大河には嫉妬に狂った醜い顔を見られたくなかった。
 玲奈はずっと佇んでいる唯に近付いて行った。

「・・・唯君。」
 玲奈が声をかけると、唯が振り返って微笑んだ。
「やぁ。玲奈ちゃん。」
 唯は驚くこともなく、君を待っていたんだよ、と言うような優しい眼差しで玲奈を見つめた。
 そして、
「辛かったよね。・・・ごめんね。」
と、言ったのだ。
 玲奈は大きく目を見開いた。
 そして、我慢していた涙がまたボロボロと溢れ出した。
 唯も大河も、玲奈が後を追っていることをわかっていたのだ。
 だから、唯は大河とは行かずに待っていたのだ。
「・・えぐっ・・・ぐふっ・・・唯くぅーん・・・」
 玲奈は泣きじゃくって唯の胸に抱きついた。
 唯は玲奈の背中にそっと手をあて、もう一方の手で髪を撫でた。
「よく我慢出来たね。・・・偉かったよ。」
 そう言って背中を軽く撫でる。
 唯は強く抱き締めることはしない。
 誰に対してもそうなのだ。
 それでも、玲奈が落ち着くまで、ずっと胸を貸してくれていた。
 玲奈は大きく息をつくと、唯から離れた。
 いつまでも唯に寄りかかっていてはいけない、と玲奈の理性が言っている。
「・・・ごめんなさい。泣いたりして・・・」
 玲奈が鼻を啜りながら涙を拭く。
「いや。・・構わないよ。」
 唯は優しく微笑んでそう言うと、
「・・・落ち着いた?」
と、軽く小首を傾げた。
 玲奈はぐっしょり濡れたハンカチで口元を押さえながら、コクリと頷いた。
 まだ諦めた訳じゃないのだ。
 高校の親友の時だって奪い返したじゃない。
 彩香になんか負けない。
 玲奈の胸の奥に闘志が沸き上がっていた。
「唯君はお昼、大河と一緒にしないの?」
「ああ。今日は購買でパンでも買って食べるよ。」
「・・・玲奈の為に残ってくれたんでしょう?」
「ちょっと気になってね。・・・いくら何でも、あのままじゃ無責任だし・・・」
 玲奈は一度も振り返ってくれなかった大河の背中を思い出し、また鼻の奥がツンとした。
「・・・大河の浮気くらい・・慣れてるもん。」
 玲奈は鼻を啜り上げながら、拗ねた子供のように言った。
「俺は大河の付き合いには口出ししないことにしてるから・・・何も力にはなれないけど・・・」
 唯が済まなそうに目を伏せる。
「・・・じゃぁ、大河が冷たくするなら唯君に付き合って貰おっかなぁ・・・」
 玲奈が唯の腕をつかんで、下から見上げるように覗き込んだ。
 そこには唯の悲しげな眼差しがあった。
「友達でいることは出来るけど・・・玲奈ちゃんが辛くなるばかりだろ?」
 玲奈は言葉が出なくて、また鼻の奥がツンとする。
 涙が滲んできてしまいそうで、玲奈も視線を落としてうつむいた。
「・・・大河をヒドイ奴だと思っていい。俺を薄情な友達だと思っていい。・・・俺達を憎むことで自分を支えられるなら憎んでいいよ。・・・そして、少しずつでも、心の傷を癒して、新しい愛を見つけて欲しい。」
 玲奈は唯の腕につかまったまま、しばらく項垂れて黙っていた。
 何度か何かを言いたそうに息を吸ったが、言えないまま、また口を閉ざした。
 それでも、ようやく口を開いた。
「・・・それって・・・もう、望みがないってこと?」
 玲奈の言葉は震えてかすれていた。
 唯は希望を持たせることは言えなかった。
「さぁ・・・俺にはわからないな。」
「・・・玲奈の何がいけないの?」
 唯は黙って首を振った。
「玲奈、何かした?・・嫌われる理由って何?」
 唯は溜息を吐いて首を振ると、空を仰いだ。
 どうしてやることも出来ないのだ。
 せめて玲奈が悲しみで崩れ落ちないように、つっかえ棒のように立っているしかなかった。
「・・・もう、いい。」
 玲奈はそう言って、唯の腕を放すと、
「こんなの信じらんない。大河が玲奈を嫌うなんて信じない。・・・絶対認めない。絶対諦めない。・・・玲奈は大河が好きなんだもん。」
と言って、その場から駆けだしていた。

 玲奈は午後からの授業を受ける気持ちになれず、大学を抜け出した。
 失恋なんて認めない。
 そう思っていても、極端に変わってしまった大河の態度は胸に堪えた。
 気を紛らせようと賑やかな街を歩いてみたが、いくら歩いても玲奈の心を埋めてくれるものは見つからず、何の魅力も感じない男達が声をかけてくるだけ。
 穴が開いてしまったみたいな寂しさに、泣ける場所が欲しくなった。
 誰かの胸で泣いても、それが求める相手でなかったら虚しいだけ。
 結局、自分の部屋で泣くのが一番だった。
 玲奈の母親は娘の様子を心配して何度か声をかけたが、ボリュームをあげた音楽が会話を拒絶するように響いていた。

 夕方になって玲奈が部屋から降りてきた。
「ママァ・・・お腹空いたぁ。」
 玲奈は冷蔵庫からペットボトルの水を出して飲みながら言った。
「今日の御夕飯はすき焼きだから、みんなが帰るのを待っててね。」
「えー・・・お昼食べてないから待てないよぉ・・・」
 玲奈はキッチンテーブルに座って、頬を膨らませた。
「あら・・・そうだったの?・・・じゃぁ、シュークリーム食べる?」
「うん。」
 玲奈の母親は冷蔵庫から箱を出して、一個をお皿に移した。
「一個だけぇ?・・もっと、欲しいー。」
「すき焼きが入らなくなっちゃうわよ。後は食後にまた、みんなで頂きましょう。」
「お姉ちゃん、ダイエット中だから、どうせ食べないよ。」
「そんなこと言わないの。今、お紅茶入れてあげるから。・・・向こうで食べる?」
 玲奈の家は、キッチンとダイニングが別れているので、母親はダイニングの大きなテーブルを指して言った。
「ここでいい。」
 玲奈がそう言ったので、笑みを浮かべた母親は、シュークリームの乗ったお皿を玲奈の前に置いてやった。
 姉と兄がいる三人兄弟の末っ子で甘えん坊の玲奈は、いつもキッチンの小さなテーブルに座って母親と話すのが好きだったのだ。
 紅茶を入れた母親が玲奈の向かい側に座った。
 しばらく玲奈の様子を眺めていた母親は、食欲があるなら大丈夫ね、と内心ホッとしていた。
 ただ、気になることがあって、玲奈が食べ終わるのを待ってから切り出した。
「ねぇ、玲奈。・・・彼と何かあったの?」
 母親の言葉に玲奈がまた頬を膨らませた。
「・・・別に・・・」
「そう。・・・実はね、香坂の叔父様が、そろそろホームパーティーを開いて唯さんと大河さんを招待したらどうか、って言うの。」
「そんな勝手なこと言わないでよぉ。」
「・・・でも、香坂の叔父様も上から急かされてるらしいのよ。・・・先方にはお兄ちゃんも来年からお世話になるでしょう?何とか協力出来ないかしら?」
 玲奈の表情が暗くなる。
「・・・そんなこと言ったって・・・」
「やっぱり、喧嘩したの?」
 玲奈はうつむいて黙っていた。
「パーティーに誘えば、仲直り出来るかも知れないわよ?」
「・・・簡単に言わないで。・・・大河は自分の付き合いと唯君とは切り離してるんだもん。大河を誘っても、唯君は来ないと思うよ。」
「でも、唯さんともお友達になれたんでしょう?・・・大河さんと仲直りしたいから、パーティーに大河さんを誘って欲しい、って頼んでみたら?そうすれば唯さんも当然一緒に来てくれるだろうし、玲奈にとっても叔父様にとっても都合がいいじゃない。」
 玲奈はテーブルに肘を付いた両手に顎を乗せて考え込んでいた。
「・・・唯君・・・お願い聞いてくれるかなぁ・・・」
「大丈夫よ、きっと。唯さんってとても優しい方なんでしょう?」
「・・・優しいよ。・・・優しいけど・・・冷たいもん。」
「冷たいの?」
「優しいけど、冷たいの。・・・説明したくないー。」
「・・・そう。・・・でも、誘ってみる価値はあるでしょう?・・・日にちは特定しないで、予定が空いてる日をさり気なく聞いてみるの。それで、この日は空いてるって言ってくれたら、調度その日にパーティーがあるからって誘えばいいのよ。先に日にちを言ってしまうと、それを断る理由にするかも知れないから。・・・ね?聞いてごらんなさいな。」
 玲奈は唇を尖らせて渋々頷いた。
「・・・聞いてみればいいんでしょ。」
「ええ。頑張ってみて。」
「・・・無理かも知れないけどぉ・・・」
「そんな弱気な玲奈じゃないでしょう?・・・お兄ちゃんの為に頑張るって言ってたじゃない。」
「・・・頑張るけどぉ・・・」
 頬を膨らませる玲奈に母親はにっこりと微笑んだ。

<20>
「額へのキス」
<20>「額へのキス」

 夜の8時を回っていた。
 彩香は、「中学時代の友達に会うから。」と言って家を出た。
 一戸建てが並ぶ普通の住宅地で、古くから住んでいる家が多く、ほとんどが顔馴染みという町内だった。
 家の前の通りを少し歩けば、コンビニや小さな商店がある通りになる。
 中学時代の友達もこの付近に住んでいるので、母親も、「あまり遅くならないようにね。」と言っただけで済んだ。
 住宅街だけあって、シンとしている。
 道路を吹き抜ける風がスカートをフワッと浮かせる。
 彩香は、ドキッとして立ち止まり、スカートの裾を押さえた。
 出掛ける支度をした時に、ショーツは脱いできた。
 半袖のTシャツの下にはブラジャーもつけていない。
 まだ夜の空気は涼しかったので、薄手のカーディガンを羽織って家を出たが、こんなにも心許ない感覚は初めてだった。
 大河からのメールで―∈家を出る時、上下とも下着はつけないように∋―と指示され、会いたい一心で言われるままに従ったが、スカートが揺れる度、微妙に露わになっている肌に触れてきて、何も付けてない下半身を意識させられた。
 風が収まったのでまた歩き出した彩香は、大河が待っている通りのコンビニへと歩みを早めた。

 通りに出るとかなりの車の流れがあり、舗道を歩く人もいる。
 一段と明るい灯りが広がっているコンビニ前には、まだ制服姿の高校生や座り込んで話す男達がいる。
 彩香は少し手前の暗がりに立ち、胸の前で手を握って胸が揺れるのを隠すようにした。
 Tシャツだけの胸は丸い形が目立ち、乳首の突起が浮き上がって見えていたのだ。
 それでも大河のジープが停まっているのが見えたので、深呼吸すると勇気を出して歩き出した。
 ジープには大河の姿がなく、ガラス越しに店の中を眺めると、レジで会計をしている大河を見つけた。
 入り口のドアに向かう大河も彩香の姿に気付いて、片手を軽く上げて笑顔になった。
「ごめん。飲み物を買ってたんだ。」
 店から出てきた大河はそう言って、彩香を先にジープの助手席に座らせた。
 手を貸して彩香を乗せる様子に、座り込んでいる男達から、ヒュゥ〜ッ、と口笛を吹かれたが、大河は無視して車に乗り込んだ。
 車が走り出してすぐに、
「メールの指示はちゃんと出来た?」
と大河が聞いた。
 彩香はずっと胸の前で握っていた両手を膝に置き、
「・・・うん。」
と、小さく答えた。
「寒かった?」
 そう言いながら大河は片腕を伸ばすと、薄いカーディガンを脇に寄せ、Tシャツの上から胸に手を当てた。
 大河の掌に柔らかな丸みがすっぽりと包まれる。
「・・ぁ・・少し・・・」
 彩香は恥ずかしさで耳を赤く染めていた。
「いい子だ。」
 大河は確認するように、彩香の胸の膨らみを軽く揉んでから手を離し、膝の上に置かれた彩香の手を握った。
「無理言って悪かったな。・・けど、どうしても会いたかったんだ。」
「うん。彩香も。」
「大学で会えると言っても、手を繋ぐのが限度だもんなぁ。・・彩香の顔を見てれば抱きたくなるし、我慢出来ねぇよ。」
「・・・彩香も。」
 彩香は大河が「彩香、彩香」と名前を何度も呼ぶので、いつの間にか自分でも、自分を「彩香」と言うようになっていた。
 大河も、「あ、その言い方って可愛いぜ。」と言ってくれたので、意識しても使うようにしていた。
 まだ、大河の彼女になって三日目なのに、随分自分が変わってしまったように感じる。
 月曜日に家に帰るのが遅くなった言い訳を高校時代の友達のせいにしてしまった。
 昨日は大学に行くフリをして、一日中大河と過ごしていた。
 今夜もまた嘘をついてしまった。
 これまで親に嘘をつく必要がなかっただけに、後ろめたさを感じるが、それでも大河と一緒にいたかった。
 少し自分勝手になってるのだろうか。
 今日の昼間だって、唯が昼食を別にするからと残った時、気になって振り返ろうとしたのを、「玲奈が来てるから振り返るな。」と大河に言われて、罪の意識にドキドキしながらも、庇うように肩を抱き寄せて歩いてくれる大河の優しさが嬉しかったのだ。
 悲しんで涙を流す存在があるとわかっているのに、優しくされる度に幸せな気持ちに浸ってしまう。
 それでも、玲奈が黙って引き下がるとは思えなかったし、同じ大学に通っているだけに不安がある。
 けれど大河が、「玲奈が何か言ってきたり、嫌がらせをしたら、すぐ俺に言っていいんだぜ。彩香は俺が守ってやるからな。」と言ってくれた。
 どうして大河はこんなに自分に優しくしてくれるのだろう。
 それとも元々優しかったのを気付かなかっただけなのだろうか。
 優しい大河を知っていたのは、唯と大河の彼女だけ。
 親友の唯は別としても、優しい大河は彼女になった者だけに与えられる特典なのだ。
 これまで、その特典を甘受してきたのは玲奈だった。
 だから、浮気されても二股でも、大河から離れられないのかも知れない。
 彩香も大河の優しさを知ったばかりだったが、失いたくないと強烈に思う。
 大河に愛される為なら何でもする。
 どんなことでも出来る。
 そう思ってしまう彩香だった。
「どうした?・・あいつから何か言ってきたか?」
 彩香が考え込んでいるようなので、大河が聞いた。
「え?・・あ、ううん。まだ、何も・・・」
「そっか。ならいいけど・・・俺の気持ちはもう彩香から動かないから安心して、嫌味を言われても気にするんじゃねぇぞ。いいな?」
「うん。」
 彩香は繋いでいた大河の手をギュッと握って笑みを返した。

 大河のジープは、いつも散歩で来る河川敷の広場の隣りにある、広い駐車場に乗り入れた。
 駐車場を挟んだ隣りには、野球場やサッカーグラウンドの設備もあって、夜でも申し込めば使用可能で、仕事が終わった社会人グループがけっこう利用していた。
 それで夜の駐車場でも、人の出入りがあるので、大河はなるべく目立たない隅の方に車を停めた。
 シートベルトを外して、助手席に体を伸ばし、彩香にキスをする。
 舌を絡め合わせながらTシャツの上から胸を揉む。
 突起してきた乳首を布ごとつまんでこね回す。
「ん、、んん、、、」
 大河の舌を吸いながら、彩香が鼻を鳴らして甘える。
 抱き締めてやりたいがレバーが邪魔をしている。
「後ろの座席に行こう。」
 大河が耳をしゃぶりながら囁くと、彩香は熱い吐息を洩らして、
「ぁ・・うん。」
と、頷く。
 大河は人目がないことを確認して、彩香を助手席から降ろし、一緒に後部座席に乗り込んだ。
 お互い、座るのももどかしく抱き合って唇を重ねる。
 シンとした闇の中、
チュッ、チュプッ、、、クチュッ、、、
と、舌を絡め吸い合う音が、乱れる息遣いと混じり合う。
「ここも言う通りに出来たかな?」
 大河がスカートをたくし上げながら聞く。
「・・うん。」
 彩香は膝を少し広げて頷く。
「いい子だ。」
 大河は満足そうな笑みを浮かべて、彩香の額にキスをする。
 どうやら額へのキスは大河の御褒美のようだった。
 彩香は誉められる度に嬉しくなってしまう。
 学校の先生に誉められるのは嫌いだったのに、大河にはもっと誉めて欲しくなる。
 大河に誉めて欲しくて、どんどん自分を晒け出していく。
「あぁ、、、ん、、、んふっ、、、」
 大河の指が熱をもった膣にいきなり入ってくる。
「まだ熱があるなぁ。昨日、やりすぎたか・・・」
 大河が彩香の顔を覗き込むようにして、片頬で笑う。
 見つめられながら、膣を愛撫される行為も、彩香にはたまらなく恥ずかしかった。
 でも、ちゃんと見つめ合って感じるようにと教えられ、真っ赤になった顔までドキドキしながら見つめ返す。
「あぁぁ、、、ぁぁぁん、、、」
 指が激しく動かされ、喘ぎ声と一緒に、頭が後ろに反ってしまう。
「声はなるべく我慢しろよ。人が来るとも限らないからな。」
「・・ん・・・ん、、ぁぁぁ、、、あん、、、」
 大河がそう言っていると、駐車場の入り口付近に集団のざわつきが聞こえる。
「チッ・・・もう来ちまったぜ。」
 対抗試合を終えた野球チームが車に戻ってきたのだ。
「ちょっと彼奴等が行くまで、俺のをくわえてろ。」
 大河はズボンとトランクスを足元まで下げて、彩香の頭を股間に押さえ込んだ。
 彩香は大河の固くそそり立った肉棒を根元に手を添えてくわえた。
 昨日はゆっくりベッドで時間を過ごせたので、フェラチオの遣り方も丁寧に繰り返し教え込まれた。
 まだ、あまり奥まではくわえ込めなかったが、手首のスナップをきかせて擦り、首を振るリズムと合わせて扱き上げるのは上手くなったと思う。
チュプ、、チュプ、、チュプ、、
 目を閉じて一心に首を上下させる。
 舌と唇で形を確認して、張り出したカリや食い込み、先端の割れ目も舌の先で擦って刺激する。
「う・・・ん・・・ぅぅ・・・覚えるのが早いな。気持ちいいぜ。」
 大河が腰を前にずらし、彩香の髪を撫でて囁く。
チュップ、、チュップ、、チュップ、、、
 彩香は更に奥までくわえて、両手を添えて懸命に扱く。
 近くで2〜3人の会話する声が聞こえる。
 後部座席の窓はスモークになっているから見えないはずだったが、それでも自分の行為が見られてるような気がして、動きが小さくなってしまう。
「だいじょうぶ。・・続けて。」
 囁いた大河が彩香の髪をつかんでグイグイと上下させる。
チュプッ、チュプッ、チュプッ、チュプッ、、、
 喉まで当たりそうになり、込み上げてくる吐き気を飲み下して、彩香は忙しく首を振り続けた。
 やがて幾つかのドアが開け閉めされてエンジンがかかる音がし、遠ざかって行った。
 再びあたりは静けさに包まれ、彩香が男根をしゃぶる音だけが闇に響く。
「あぁ・・・最高だぜ。・・・うぅぅ・・・彩香は可愛いなぁ。」
 大河が感じて熱い息を吐く。
「いい子で飲めるかな?」
 髪を撫でながら聞かれて、彩香は頭を上下させながら頷いた。
「じゃぁ、教えたようにしてごらん。」
「・・ん。」
 彩香は手と頭の動きを早め、下から擦り上げながら強く吸い込んで大河が登り詰めるように誘う。
 大河は呻き声を洩らし、腰を堪らなげに動かす。
「んー・・・あぁぁ・・・行くぜ。・・・うぅぅっっっ・・・ああぁぁっっっ・・・ふぅっ・・・」
 彩香の口いっぱいに、青臭くて苦いねっとりした液体が溢れ出してくる。
 初めての時はなかなか飲み込めなくて泣きそうになったが、大河の生きたエキスなのだと思うと、飲めることが幸せなのだと思うようになっていた。
「ちゃんと飲んだ?」
 大河がからかうように言う。
 彩香は頭を上げて、口を開けて見せる。
「ん、よしよし。偉いぞ。」
 まるで犬を誉めるような言い方だったが、それでも彩香は嬉しかった。
 大河は彩香を膝に抱きかかえ、しばらくキスをして労った。
 剥き出しの大河の太腿に、剥き出しの彩香のお尻が乗っている。
 大河のゴワッとした陰毛が肌に当たるとくすぐったかった。
 精液を放出したばかりの男根はもう固さを取り戻している。
「彩香とひとつになりたい。」
「うん。彩香も。」
「じゃぁ、俺の足を跨いでお座りして。」
 まだ、車の中でしたことはなかったので、彩香にはよくわからなかった。
 取り敢えず言われた通り、跳び箱を跨ぐ感覚で大河の逞しい両足を跨ぐ。
「腰を上げて・・・」
「・・・ん。」
 スカートで見えないが、大河が男根の先を彩香の花陰に押し当てているのがわかる。
「ちょっと腰を下げて・・・」
「・・・うん。・・・あ、、、っぁぁ、、、」
 腰を下げた時、大河の亀頭が彩香の花弁を押し開いて蜜壺に侵入してきた。
「そのまま、彩香の下のお口で飲み込みように、奥へ・・・奥へ・・・」
「・・・ぁぁ、、、くふん、、、あぁっ、、、あぁぁん、、、」
 彩香はゆっくり自分で腰を下げながら、大河の逞しい肉棒に体を沈めていく。
 自分で挿入させる方が彩香自身の肉襞に抵抗があるように思う。
「どうした?」
「・・・上手く出来ない・・・」
「大丈夫。ちゃんと入ってるよ。・・・もう少し頑張って。」
「うん・・・ん、、、んん、、、あぁぁ、、、あん、、、あぁぁぁ、、、」
 彩香はどうにか根元近くまで入れることが出来た。
 が、その先がまだ痛くて力が入らなくなってしまう。
 大河は彩香の腰をつかんで、グゥゥッと引き下ろした。
「あぁぁぁぁっっっっっ・・・んー、、、あふっ、、、はぁはぁ、、、」
 彩香は思わず叫んで仰け反った。
 大河は力強く抱き締め、自分の腰を微妙に回転させて膣と男根を馴染ませている。
「まだ痛かった?」
「・・・ん。・・・少し。・・・ぁ、、、ん、、、」
 逞しい腕に抱き包まれて、彩香は大河の肩にもたれて顔を擦りつけて甘える。
 めいっぱい押し広げられて、ピッタリ根元まで押し込まれ、ズキズキした痛みを覚えながらも、ジワリジワリと堪らない快感が込み上げてくる。
「俺が彩香の中にいる。」
「あぁ・・うん。彩香の中に大河がいる。」
 見つめ合い、確かめ合うようにキスを繰り返す。
「彩香の中はとっても気持ちいいぜ。」
「・・ぁぁぁ、、、ん・・・いっぱいの大河が気持ちいい、、、あ、、はぁぁ、、、」
 慣れてきた彩香が、自分でもお尻を回転させ始める。
 キスも次第に濃厚になっていく。
「膝のバウンドを使って、自分で擦るようにしてごらん。」
「うん・・・あぁ、、、あん、、、んん・・・こう?」
 彩香は腰を小さく上下させた。
「もっと思い切り俺にぶつかってきていいんだぜ?彩香が全体重かけたって潰れやしないから・・クスッ。」
 彩香は悪戯っぽく笑った大河に鼻を擦りつけてキスをしてから、
「・・・意地悪・・・」
と言って、腰をさっきより大きく上下させ始めた。
「あぁ、、、あん、、、あん、、、ぁぁぁん、、、」
 奥に当たる痛さを彩香自身で求めているのがわかる。
「あぁぁん、、、あぁん、、、大河ぁ、、、」
 自分で快感を貪るように動かす行為が、大河に見つめられていると、奉仕する喜びになる。
「ああ・・・最高だ。・・・上手いよ。・・・可愛い彩香。」
 誉められる度に動きが一層大胆になっていく。
 彩香も感じて何度も仰け反り、よがり声をあげた。
「はぁぁ・・・ううぅぅ・・・彩香の中に出すよ。」
「うん。彩香の体をいっぱいに満たしてぇ・・・あぁぁぁぁ、、、」
 昨日、彩香の生理のサイクルを計算して安全日だと確認してある。
 大河は彩香の腰をつかんで力強く突き上げた。
「あぁぁぁぁ、、、あああぁぁぁぁ、、、あぁぁぁっっっ、、、」
 彩香は大河にしがみついて快感の渦に乗り、登り詰めていく。
「あぁぁ、、、いくぅぅぅっっっ、、、あああぁぁぁぁぁぁーーっっっ!!」
「俺もいくぜぇぇー・・・はぅぅぅっっっ・・・くぅぅっっ・・・あ・・はぁはぁはぁ・・・」
 思い切り抱き締められて、彩香は絶頂の陶酔を味わっていた。
「・・・幸せ・・・」
「彩香・・・俺の彩香・・・最高に可愛いぜ。」
 大河は、連休中にプロの女性達から教えられたワザを、全部彩香に教え込もうと思うようになっていた。
 俺が全て教え込む俺好みの女。
 そう思うと彩香への可愛さが増した。
 彩香の素直さや従順さ、そして男を知らずにきた純情さが、大河の思惑にピッタリ嵌った。
「俺以外の男は跨ぐなよ?」
 顔を覗き込んで言ってやると、彩香は火照った顔をもっと赤くして、
「彩香は大河のものだもの。そんなの考えもしないのに・・・」
と潤んだ目で訴えた。
「そうだな。」
 大河は、うんうんと満足して頷き、御褒美の額へのキスをした。