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<26> 「唯の秘密」 |
<26>「唯の秘密」 「ルル、レイド。」 冬馬がトレーニングウェアを着て部屋から出てきて、読書をする唯の側でくつろいでいるルルとレイドを呼ぶ。 「あれ?散歩?」 唯が本から顔を上げ、冬馬を見てから時計を見上げた。 「いつもより早いけど・・・ごめん。すぐに支度するね。」 唯がソファーから立ち上がると、冬馬が、 「唯様は今日はお休みください。アルコールが抜けない内は運動をしない方がいいでしょう。」 と、側に来て嬉しそうにシッポを振っている二匹の犬の頭を撫でた。 「大丈夫だよ。」 「いいえ。守り役としてお止め致します。」 唯はまだ諦められないようで、 「後1時間も待ってくれれば、アルコールも分解出来るよ。」 と、ねだる顔をする。 冬馬は目を細め、その可愛さを噛みしめながら、 「しばらく本格的な訓練もしてないようですし、今日は多少時間をかけて、ルルとレイドの調教もしようと思っています。不審な輩が徘徊するようになる可能性もありますから、二匹にも自覚を持たせなければなりません。」 と、唯が納得出来る理由を説明した。 「そうなんだ。・・・でも、俺も訓練の仕方を習いたかったなぁ。」 冬馬は苦笑する。 「唯様がいらっしゃると甘えてしまって訓練になりません。」 「・・・俺って甘い?」 「甘甘です。」 「・・・ごめんなさい。」 「いいえ。唯様はそれでよろしいのですよ。」 冬馬は優しく笑うと、 「それでは行ってまいります。」 と、ルルとレイドを玄関に促した。 「あ、よろしくお願いします。・・行ってらっしゃい。」 唯は玄関まで見送ってから、残念そうに溜息をこぼしつつリビングに戻ってきた。 唯がまたソファーに座り、本を読み始めた所に、大河が部屋から出てきた。 「冬馬さん、出掛けたんだな。」 「うん。今日は散歩一人で行くって。」 「そっか。」 大河はいつものように本から顔を上げない唯の隣りに座り込んだ。 「・・ちょっと・・・狭いよぉ。」 唯のお気に入りのカウチソファーはゆったりしているものの、大河のように大柄な男と二人で座るには小さかった。 「なら、こっちか・・・」 大河は唯から本を取り上げてテーブルに置くと、唯の手首をつかんで強引に広いソファーに座らせた。 が、いざ自分が座った時、TVの大画面が前にあることが大河の気分を害した。 (チッ。ここじゃ、あいつに睨まれてる気分になるぜ。) 大河はまた唯の手首をつかんで立ち上がり、 「ちょっと俺の部屋に来い。」 と言った。 「何だよ?」 唯は大河の訳のわからない行動に訝しそうな顔をした。 「話がある。」 「話ならここでいいだろ?」 「ちゃんと目と目を合わせて話がしたいんだ。」 「・・・本を読むなって言うならそうするけど?」 「いいから来いよ。」 大河は不審がる唯を自分の部屋へと引っ張って行った。 「わかったから・・・そんなに引くなよ。腕が痛くなるだろ。」 唯がそう言っても、大河は唯が自分の部屋に入るまでは、つかんだ唯の手首を離さなかった。 そして、 「まあ、座れ。」 と、唯をベッドに座らせると、自分も片足だけベッドの上にあぐらをかき、唯の方へ体を向けて唯を見つめた。 唯は諦めたように溜息を吐き、ベッドに足を上げて壁に背中がつくまで後ろに下がり、もたれかかった。 「話って何だ?」 唯は軽く立てた膝の上で手を組んだ。 「時間があまりないから、単刀直入に聞く。」 大河は唯をまっすぐに見つめて言った。 「唯。お前が抱えてる悩みって何なんだ?・・お前の秘密が知りたい。」 唯は目を大きく見開いて、驚いた様子で大河を見た。 それから眉をひそめて、 「お前、冬馬さんに頼んだのか?」 と非難するように言った。 「お前だってこの前はそうしただろう?」 「・・ぅ・・・そうだけど・・・」 唯は唇を噛んで視線を逸らした。 「・・・なぁ、話してくれよ。」 大河はうつむいている唯の側まで体をずらせて、丸くなっている唯の肩を抱くように腕を回した。 「俺を信用してくれ。お前の秘密は俺の胸の内だけに収めとく。・・・お前の抱えてる苦しみを一緒に抱えてやりたいだけなんだよ。・・・なぁ・・・わかってくれ。」 唯の体が微かに震えてくる。 「お前にとって、俺はいらない人間なのか?」 大河は優しく唯の背中を撫でながら、静かな口調で話しかける。 「ずっと一緒だろ?・・・俺にもお前の心の痛みをわけてくれよ。な?」 唯は少しだけ顔を上げた。 すでに苦しみの代償の紫の炎が瞳に宿っている。 何度か溜息と唾を飲む仕草を繰り返す。 そうしてやっと口を開いた唯は、 「・・・きっと・・・俺を軽蔑するよ。」 と、切ないほどに澄んだ声で言った。 遠くを見るような眼差しは悲しみに潤んでいた。 「何聞いたって軽蔑なんかするもんか。」 「いや、する。」 「しねぇ、つってんだろ!」 大河がつい声を大きくしたので、唯が眉をひそめた横目で一瞥した。 「あ・・・済まん。」 大河は詫びるように唯の髪を撫でた。 サラサラでしなやかな髪が指をくすぐり、友情以外の感情がムクムクと沸き上がってきてしまう。 (違うだろぉぉ。今は冷静に話す時なんだぞ。) 大河は自分自身を叱りつけ、 「どんなことを聞いたって、それが俺の宝になるんだ。」 と、また穏やかな話し方に戻って言った。 「唯が俺にわけてくれる痛みは、俺の宝物なんだぜ。」 大河は笑みを浮かべ、唯の肩を力強く抱き寄せた。 唯は一度目を閉じてから、ゆっくり目を開くと、 「わかった。話すよ。」 と、覚悟を決めたように言った。 唯は大河にもたれかかるようにして顔を天井の方に向けた。 が、その視線は遙か遠くを見つめている。 「俺とパパの夢が何だったか知ってる?」 「・・唯の母親を健康にすることだろ?」 「・・・うん。」 唯は頷くと、昔の思い出のひとこまを話し出した。 それは、まだ唯が5歳にもならない頃。 父親の書斎で医学雑誌を読んでいた唯が、そこに載っていた記事に目を輝かせた。 「ねぇ、パパ。もうすぐクローン人間が出来そうだって。」 「技術的には可能、ってことだろうが・・・それが面白いのか?」 「だってパパ。もしクローン人間が出来たら、人はずっと生きられるんじゃない?」 唯が興奮気味に言うと父親は眉を曇らせた。 だが、唯は続けた。 「それにママだって、新しい体に記憶を移せば、すぐに健康になれちゃうよ?これってすごいことでしょう?」 「何がすごいんだ?」 父親は険しい表情になっていた。 「だって・・・新しい健康な体がクローンで出来れば・・・」 「では、聞く。クローンで誕生した命は人間ではないのか?」 唯は父親の言うことがすぐには理解出来なかった。 唯がわからずに悲しげな顔をしていたので、父親はフッと表情を和らげた。 「唯。命がこの世に誕生するのは、神様の御意志なのだ。」 「・・・じゃぁ、パパは人が人を造るべきじゃないと思うの?」 「そのことは、今、お前と議論するつもりはないよ。計画出産、避妊、堕胎、人工授精。人の誕生のあらゆる分野はすでに人の意志によってコントロールされているのが現実だからね。」 「うん。」 「今はクローンが誕生したと仮定して考えてみよう。」 「はい。」 唯の父親は優しく頷いた。 「神様は命が誕生する時に魂をその肉体に吹き込んでくださるのだ。」 「・・・魂・・・?」 「そう。魂を肉体の頭の部分にね。」 父親がフフッと笑って目を細めたので、唯は自分が子供だから誤魔化そうとしているのかと一瞬思ったが、これまで父親が自分に誤魔化したことはなかったので、真面目に聞くことにした。 「そして命はその魂に生きた歴史を刻んでいく。」 「あ・・それって、脳?」 「まぁ、それだけを限定するつもりはないが・・・より多くの記憶が宿る場所として、脳を魂の仮の宿としよう。」 「うん。」 「クローンとして誕生した命には脳がないのか?」 「・・・あるだろうけど・・・」 「神様は平等だ。人が勝手に作り上げた命だとしても、ちゃんと魂を下さるものだ。つまり、クローンであっても、別の魂を持ったひとつの命だと言える。」 「・・・必要な時までずっと眠っていたら?」 父親は眉間にシワを寄せて首を振った。 「なんと傲慢な行為だ。生きる為に誕生した命を自分のエゴで弄ぶのか?」 「・・・ごめんなさい。」 「記憶をクローンに移すということは、クローンの体に脳を移植するということだろう?・・・では、その為に元々あった脳はどうする?捨てるのか?」 唯は唇を噛んで項垂れた。 「神様は肉体を与えてくださるのではない。魂を命に宿してくださるのだ。その神様が吹き込んだ魂を、自分の都合で捨ててしまうのか?」 「・・・ごめんなさい。」 「それほど新しい体が欲しいなら、精巧なロボットを作って、それに脳を繋げればいい。それだって技術が進歩すれば不可能ではないだろう。」 唯はロボットは嫌だと首を振った。 「私もロボットの彼女は嫌だな。・・・それに、クローンの真っ新な体でも嫌だ。愛してきた記憶がある彼女の体そのものも愛しているのだから。」 父親はそう言って唯を膝に抱き上げてくれた。 「魂を愛せる子におなり。」 そう言って、髪を撫でてくれた父親の温もりを今でも覚えている。 と、唯はそこまで話すと大きく息を吐いた。 「立派な父上だな。」 大河は感銘を受けてそう言った。 だが、 「・・・そうだね。」 と、力無く答えた唯の横顔は苦痛に歪んでいた。 紫の炎は光彩を覆い尽くし、悲しいほどに美しい光を放っている。 「唯・・・」 「だけど・・・パパはママと海の彼方に消えてしまった。・・・俺に残されたのはラーガだけ。」 「・・他の人達だってお前を愛してるだろう?」 唯は膝を胸に引き寄せて、両腕で抱くようにした。 「ラーガと離れたくなかった。」 「・・サバンナに置いてきたのか?」 「うん。・・・日本では猛獣は檻の中でしか飼えないからって、それでは野性の動物には可哀想だろう、って。」 大河は額を指先で押さえた。 「難しい選択だな。・・・閉じ込められることと、引き離されることと、ラーガはどっちが良かったんだろう・・・?」 「俺がずっとサバンナにいれたら一番だったんだけどね。」 唯は項垂れて首を振った。 「ダディが、パパとママの命を奪ったサバンナに俺を留めておきたくなかったのも、無理ないことだと思うし・・・危険な猛獣を連れて行けないのだと、子供の俺に諭す大人達を恨む訳にもいかない。」 唯の指が白くなるほど足に食い込み、腕が振るえている。 「みんな俺を愛してくれているから、俺の為を思って、良かれと思うことをしてくれてるだけなんだから、俺は我が侭を言っちゃいけないんだ。」 「唯・・・」 大河は、いい子でいなければならなかった唯の苦しさを知って、咄嗟に、唯を包むように抱き締めると頬ずりをしてしまっていた。 「我が侭を言っちゃいけない。・・・たった一言・・・ラーガといたい、とは・・・」 顔を上げた唯の紫の目から、涙が溢れ出した。 「それ以上の望みはなかった。・・・それ以外の希望もなかった。・・・俺には、もうラーガしかいないんだもん。」 唯が自嘲するような笑みを浮かべた。 あまりにも悲しい笑みだった。 「一番欲しいものが、手に入らないなら、他には何もいらない。・・・ラーガの温もり以外、俺を満たしてくれる物など有りはしないのだから。」 唯に欲がなかったのではなかった。 たった一つの強烈な欲望が、他の全ての存在を色のない物にしてしまっていたのだ。 「いつか・・・俺が一人でも生きられるようになったら、ラーガを迎えに行く。そして、一緒に暮らせる所に行く。・・・そう願っていたけど・・・」 「黒豹は人より寿命が短いからなぁ・・・」 「必死で全力疾走してたんだけど間に合わなかったな。」 唯のヒタムキさの先には黒豹がいたのだ。 父親と目指した目的の替わりに、唯の目指す対象は黒豹のラーガになっていた。 (哀れな唯。親に捨てられ、たった一つの願いも叶わず、夢に見るのは黒豹と駆けたサバンナか。・・・唯一残された温もりがラーガだったのか・・・) 大河は唯を抱き締め髪を撫でながら、額やこめかみや鼻の先にキスを繰り返した。 「ラーガね・・・俺が日本へ行ってからしばらくして、パパや仲間みんなで暮らしていた家から姿を消しちゃったんだ。」 「・・じゃぁ、行方不明に?」 唯は切なそうに目を閉じて首を振った。 「・・・数年後、・・・パパの友人が引き継いで暮らしていたその家に戻ってきた。・・・家にいつものラーガ用の扉から入って、旅立った時のままにしてあった俺の部屋のベッドに・・・衰弱しきった姿で・・・じっとしてたんだって。」 唯の声が震える。 「俺に別れを言う為に・・・俺を待ち続けて・・・」 唯の言葉が嗚咽で途切れた。 大河にも、腕の中で震えながら泣きじゃくる唯の悲しみが伝わってきて、涙が込み上げてきた。 どんな言葉をかけてやればいいのか、わからなかった。 慰めなど言えなかった。 ただ、自分で意識する前に口から零れだしていた。 「俺がいる。・・・俺がラーガの替わりになってやる。」 大河は想いを込めて、唯に口づけをした。 冬馬との約束は何処かに飛んでいってしまった。 熱い想いが伝わるようにと、熱いキスは続いた。 「・・ん・・・でも・・・」 キスをしながら喘ぐように唯が言った。 「・・・ラーガはいるんだ。」 「あ?」 大河は唇を離して、唯の顔を見つめた。 唯は心の葛藤に息を乱していた。 「・・・いいって。・・・何でも言っちまえよ。」 大河は顔中にキスをしながら、唯の言葉を待った。 「・・・ラーガの脳を・・・生きたまま保存してある。」 ギクリ、と大河の動きが止まった。 「向こうの家の俺の部屋に・・・冷たいガラス容器の中で眠ってる。」 「・・・それは・・・」 大河は言葉にしないまま問うた。 唯は、黙ったまま頷いた。 「・・・パパの言うことはわかるよ。・・・だけど、・・・パパは俺を捨てたじゃない。・・・俺といつも一緒にいて、俺がいなくなった後も、俺を待ち続けてくれたのはラーガなんだ。」 「・・・そうだな。」 「ラーガを蘇らせる。・・・そう心に誓った時から、俺は悪魔の領域に踏み込んでしまったのかも知れない。」 唯は大河と見つめ合っていた視線を逸らした。 「軽蔑するならしろよ。」 「バカだなぁ。俺にそんなモラルがあると思うか?」 「・・・モラルなんて甘い言い訳じゃない。これは神の領域を侵す行為なんだ。命ある肉体を作り、そこに自分の求める魂を宿らせよう、っていうんだもんな。・・・天罰か・・・地獄行きは免れない。」 「構うもんか。地獄までも一緒に行ってやるさ。」 唯は大河の言葉に困惑していた。 大河がニヤリとして言った。 「俺が執刀してやるぜ。お前よりも確実だろ?」 唯は喜んでいいのか、大河を巻き込もうとする自分のエゴを憎むべきなのか、揺れる心が揺れる眼差しになり、紫の光も悲しげに揺れた。 「俺達はどこまでも一緒だぜ。」 大河は、もう迷わせない、とばかりに唯を抱き締め、ベッドに押し倒しながら激しいキスをした。 そして、唯の心を絡め取ろうとするかのように、熱く粘つく舌を絡ませて唯の舌を吸った。 唯は戸惑いながらも、大河のなすがままに任せていた。 |
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<27> 「喧嘩」 |
<27>「喧嘩」 大河の口づけは耐えることなく続いた。 時には想いの丈だけ激しく、時には慈しみに満ちて甘く、 「俺がずっと側にいるぜ。・・・そしていつか、ラーガも俺達と一緒に暮らせるようにしような。」 と、熱く囁いては、キスを繰り返した。 唯も以前よりも素直にキスに応えてくれているように思えた。 「愛してる、・・唯。・・・愛してる。」 大河は唯の髪を撫で、額から首筋まで肌の露出している全てに、唇を這わせキスをした。 やがて、それだけでは物足りなくなり、唯のシャツのボタンを外し始めた。 唯の眉がわずかに寄せられる。 大河は構わず、手を唯の胸に滑り込ませた。 指先にあたった乳首を摘むと、ビクンと唯の背中が反り上がる。 「愛している、・・俺の唯。」 大河は宥めるようにキスをしながら、手をそのまま下へ移動させ、唯のズボンに手をかけた。 「大河・・・」 唯は首を振って大河のキスから逃れると、 「お前、酒飲むとほんッとタチが悪くなるなぁ。」 と、醒めた声で言った。 大河はムッとして、 「酒なんかのせいじゃねぇ!」 と、苦しい胸の内をぶつけた。 唯は紫の眼差しでじっと大河を見据えた。 「・・・キスくらいなら、いつだって相手してやるけど・・・お前、冬馬さんを裏切るなよ。」 唯の言葉に大河はギクッと唾を飲んだ。 「お前が俺にHなことをすると承知で、冬馬さんが時間を作ってくれるはずないんだ。」 「・・エ・・Hってなぁ・・・」 (くそぉ・・・紫の目の時は性欲が皆無だったっけ・・・) 唯は動揺する大河を押し退けて起きあがると、ベッドから降りて、乱れた服装を直し始めた。 取り残された気分の大河は唯の背中をぼんやり眺めていた。 シャツの裾をズボンにしまい直した唯が、大河の部屋の鏡で髪の乱れを指で直そうとする。 「・・・お前の友情には感謝してる。」 鏡に向かったまま唯がポツリと言った。 「それに・・・俺だって、お前を愛してるよ。」 「唯・・・」 「ラーガほどじゃないけど。」 (はいはいはいはい・・・チェッ。) 「・・・俺の方が付き合いは長いけどな。」 大河がふてくされて呟いた。 唯が鏡から振り返った。 その美しい容貌の美しい目は、紫の光が弱まり、優しい色を取り戻しつつあった。 「ラーガは一度も俺を裏切ったことはない。」 大河は舌打ちをして目を逸らした。 (どうせ俺は、ずっとお前を憎んできた・・・信用ならねぇ奴さ。) 「だけど、大河は・・・裏切られても、愛してるよ。」 (えっ?!) 大河がハッとして顔をあげた。 そこには最上級の優しさを湛えて微笑む唯がいた。 「唯・・・」 お前が欲しい、と想いを込めて唯を見つめた。 「あ・・・あのねぇ・・・もう一つ秘密を打ち明けるとさ・・・」 突然、唯が話題を変えた。 だが、唯の表情は秘密と言う割に明るかった。 「何だよ?」 大河は、その明るさが怪しい、とばかりに目を眇めた。 「ライラってね、ラーガの遺伝子をちょっと組み込んだんだって。」 「はぁぁ?・・・だってって?」 「拓磨さんが試しに作らせてみたらしい。」 大河は眉をひそめた。 「ライラは犬だろ?」 「うん。失敗だったみたい。」 ズルッ、と大河はコケそうになった。 「猫より犬の方が賢いだろうって犬の核にDNAを組み込んで、犬の卵子に埋め込んだらしいんだけど、生まれた子は犬そのものだったんだって。」 唯がクスクス笑った。 「そりゃ、犬になるにきまってるだろ。」 大河が呆れたように言ってやった。 「だよねぇ。・・・でも、ちょこっとは賢いらしいよ。・・・ほら、ルルもレイドもライラの子供で、賢いだろう?」 ああ、それで、と大河は納得したように頷いた。 「何で拓磨さんはそんなことを?」 「俺が寂しくないようにだろ?・・・俺にとってラーガが唯一の存在なんだけど・・・拓磨さんの気持ちには感謝してる。」 「・・・そっか。」 (唯にはラーガが全てなんだな。ラーガを蘇らせない内は、他への興味は沸かないのか。・・・こうなったら、とっととクローンを作って脳移植して、唯の心を自由にさせてやるっきゃないな。) 唯の夢が大河の目標になった。 (しかしそうなるとラーガが最大の恋敵になる可能性もあるなぁ。・・・ま、そん時はそん時で考えりゃいいさ。) 大河は腕組みをして考え込んでいた。 「大河ぁ・・・」 唯が甘い声で大河を呼ぶ。 ポワ〜ンと引き込まれるように大河が唯に視線を向けた。 唯がゾクッとするほど艶めいた微笑みを浮かべていた。 「なんだぁ?」 大河が鼻の下を伸ばして答える。 「俺のこと・・・好き?」 「バァ〜カ。愛してるって何度も言ってるだろ?」 「そっか・・・じゃぁ・・・」 唯が可愛らしく瞬きをする。 大河の股間に血液が集中してくる。 「コーヒー、入れてくれ。」 「・・・は?」 「大河の方が入れ方うまいしさ、頼むよ。」 そう言った唯は、にっこりと笑って大河の部屋を出ていった。 大河はボーッと見送った後、からかわれたことに気付き、ワナワナと震える拳を思い切り枕に叩きつけた。 (俺を〜〜弄ぶのかぁ〜〜・・・くそぉぉ〜〜・・・) そうは思っても、やはり唯が愛しい大河だった。 そして、唯の秘密を手に入れ、共謀者になれたことが嬉しかった。 大河は唯の甘美な残り香を大きく吸い込むと、満足そうな笑みを浮かべ、キッチンへと向かった。 唯はキッチンテーブルで大河の入れたコーヒーを美味しそうに飲んでいる。 大河も唯の嬉しそうな表情が好きだったので、それだけで満足して、自分もコーヒーを啜った。 「なぁ、大河。冬馬さんが戻る前に、もう一つ話したいことがあるんだけど・・・」 唯がビスケットの缶のフタを開けながら言う。 「何だ?」 大河が唯よりも先にビスケットに手を出し、頬張りながら聞く。 あっ、と、唯は大河を軽く睨んでから、自分も同じビスケットをつまみ上げ、小さく囓った。 粉がテーブルにパラパラと落ちて、大河は、「ガキ」と口だけで言う。 唯は無理矢理ビスケットを全部口に押し込んで、頬を膨らませながらザクザクザクと音を立てて噛み砕き、コーヒーで飲み下した。 そして、 「”後”って何だ?」 と、大河に聞いた。 大河はビスケットの粉を吹き出しそうになり、慌ててコーヒーを飲んだ。 「玲奈ちゃんと何の約束をしたんだ?」 大河は片眉を寄せて、こめかみを指で押さえた。 「あそこで別れ話も出来ねぇだろ?・・・拓磨さんは友好的にしろって言うし・・・玲奈は甘えてくるし・・・しょーがねぇから”後で抱いてやる”って言っちまったんだ。」 「・・・何でそうなるかなぁ・・・」 唯が額に手をあてた。 「お前が庭なんかでのほほんとしてるからだろ。」 大河が呟くように言った。 唯はますます訳がわからない、と首を振った。 「大河がなかなか二階から降りてこないから、時間を潰してたんじゃないか。庭でならヤバイ話は始めないと思ってさ。」 (そうか。唯は唯なりに考えていたのか。) 「・・済まん。何か、玲奈のアルバムを見てたら、いい家族なんだなぁ、とか思っちまってな。」 「アルバムか・・・」 唯は目線をテーブルに落とし、思い出すように頷いた。 「確かに玲奈ちゃんの父上は、あまり謀略とか計算をするような人物には見えないよな。」 「ああ。義理の兄と息子が世話になる手前って感じかもな。・・・けど、そんなのは言い訳にしかすぎないぜ。」 「・・・って、思うのなら何で蒸し返すかなぁ・・・」 「なら、お前だったら、あそこで冷たく突き放せたとでも言うのか?」 「俺はあちこち手を出す気はないもん。」 「・・チェッ。いい子ブリやがって。」 「悪かったな。・・・もう、俺はどっちもフォローしてやらないぞ?」 「いいさ。俺のことは俺が自分でどうにかするさ。」 「薄情者ぉ!」 「うるせぇ!いちいち文句言われたくねぇぜ!」 「心配してんだろ?」 「お前の小言はあいつそっくりだぜ!クソむかつく!」 唯がビスケットをつかんで大河に投げつけた。 「あっ・・・お前・・・食べ物を投げていいのか?」 そう言いつつ、大河もビスケットを唯に投げつけた。 「大河だってしてるだろ!」 また唯が、さっきより多くつかんで大河の顔目掛けてぶつける。 「お前が先にしたんだろ!」 大河も負けじと同じようにする。 「自分の方が男らしいと思って、威張るな!」 「誰が威張ってるってんだ?」 「大河!」 「お前の方がいちいち偉そうだぞ!」 「勝手なことを言うな!」 「勝手はお前だろ!俺がデカいのは俺のせいじゃねぇ!」 缶の中のビスケットがなくなると、今度は落ちて割れた物まで拾って投げ出した。 お互いイスから立ち上がり、テーブルから離れて、投げては身を隠し、ビスケットのかすを拾い集める。 「お前はドーパミンを出し過ぎなんだよ!」 「お前がなさすぎなんだろ!不感症!」 「大河!言っていいことと悪いことがあるぞ!」 「唯だって言いたいこと言ってんだろ!」 怒鳴り合いと投げ合いが続く。 ワンワンワンッ! ゥゥ〜ワンワンッ! ルルとレイドが珍しく吠える。 「おいおいおい!・・・二人とも・・・何やってんだ?」 冬馬が呆れ顔で立っていた。 「玄関の外にまで声が届いていたぞ。・・・ったく。エネルギーを持て余すなら、他のことで解消しろよ。」 冬馬の口調がドイツ時代に戻っていた。 冬馬が仁王立ちで腕組みをする。 唯と大河は肩を落としてうつむいた。 「喧嘩の原因は?」 冬馬が厳しい口調で言った。 大河は玲奈のことを言われる前に、 「唯が先にビスケットを投げつけたんだ。」 と言った。 「ああー・・・ズッルゥー・・・」 唯が横目で大河を睨む。 「そうなんですか?」 冬馬が唯に顔を向けたので、唯は仕方なく頷いた。 「・・わかりました。・・・大河。・・・お前が悪いぞ。」 「えー・・・何でだよ?」 「唯様をそこまで怒らせるお前が悪い。」 冬馬はしらっと答えるとニヤリと片頬に笑みを浮かべた。 「チェェェッ・・・ズッリィーなぁぁ・・・」 大河が舌打ちしながら面白くなさそうに言うと、 「ハハハッ。世の中とはそんなもんだ。」 と、冬馬が笑った。 「とは言え、この状況は二人の共同責任でしょうな。・・・私がシャワーを浴びる間に、ここを元の状態になるまで綺麗に掃除しなさい。」 唯と大河はシュンとして顔を見合わせると、 「はーい。」 と、同時に返事を返した。 「それから、ルルとレイドを綺麗に洗ってやるように。」 「はーい。」 冬馬は目を細めて頷き、浴室へと向かいかけた。 が、途中で振り返り、 「大河。特上の寿司は俺だけ三人前な。」 と、言って笑いながら部屋を後にした。 冬馬の姿が見えなくなって、 「お前・・・買収したのか?」 と、唯が小声で言った。 「フン。・・その結果がこれじゃ、踏んだり蹴ったりの心境だぜ。」 「俺も特上。ワサビは抜いてくれ。」 「ゆーいー・・・」 「ってゆーか、早く掃除しようよ。」 唯は、ふふん、と笑った。 「どうせなら、犬に舐めさせちまうってのはどうだ?」 唯は大河の提案に、ラーガの血筋にとんでもない、とばかりの顔をし、大袈裟に顔をしかめて首を振った。 「はーいはい。わかりましたよ。」 大河は溜息を吐いて、掃除道具を取りにいった。 |
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<28> 「涙の理由」 |
<28>「涙の理由」 大河から―∈会いたい。∋―とメールが入り、彩香は急いで支度をして、家を出た。 家を出てコンビニに向かおうとすると、後ろからゆっくりと近付いてきた車が彩香を越してすぐの所で停まった。 大河のジープだった。 「大河?」 彩香はシンとした住宅街に響かないように小声で聞いた。 運転席の窓は開いていて、 「早く、乗れ。」 と、大河が顔を出して言った。 「うん。」 彩香は嬉しさに顔を輝かせ、助手席に乗り込んだ。 まだ高い座席に慣れずもたついていると、大河が腕をつかんで引き上げてくれた。 そして、引き上げた勢いでキスをする。 助手席のドアもまだ閉めてない状態で、しばらく甘いキスが続いた。 「急に呼び出して、ごめんな。」 大河が耳元で囁く。 「ううん。彩香も会いたかったから・・」 彩香はほとんど息で答えた。 「彩香。」 大河はもう一度軽くキスをし、彩香にドアを閉めるように言って、車を静かに発進させた。 ベッドで彩香を抱きたいからと、大河は空室のあるラブホテルを探した。 夜のこの時間は利用者が多いらしく、満室の表示ばかりが続いた。 舌打ちをして車を反転させる大河の姿は、性欲を漲らせた男そのものだった。 彩香は襲われる時を待つ生け贄か捧げ物よろしく、黙ってうつむいていた。 大河が自分を欲しがってくれるのが嬉しかったのだ。 車が次のホテルに向かう時、 「悪いな。ちゃんとしたホテルを予約すれば良かったんだけどさ、今日は予定が立たなかったんだ。」 と、彩香の手を握って詫びた。 「会えただけで嬉しいから、このままドライブだけでもいいの。」 彩香は大河と二人でいるだけで心が満たされていた。 「俺は抱きたい。」 大河は苦笑して言った。 男ってそんなものかしら、と彩香は思いながらも、ギュッと手を強く握られると、股間が疼いてくる。 昨日の土曜日は、午後からずっと高層ビルの高級ホテルの部屋で時間をすごした。 愛される甘く激しい時間の中で、彩香は大河に翻弄され溺れていた。 体には昨日の疼きが残っている。 ハイキングに行ったのは先週の日曜のことだ。 月曜から始まった激動の一週間。 一週間で自分がこれほど変わるものかと、自分で驚いてしまう。 片意地を張ったように頑なだった心が、季節に少し遅れて春を迎えた。 それが一気に雪解けし、雪崩を起こしたかのように、彩香の身も心も大きく揺さぶり、今は新緑の息吹溢れる初夏のようだ。 体の火照りが冷める時がないほどに愛されている。 両親は薄々感付いているのかも知れない。 言い訳をして家を出てきたが、母親の返事は素っ気ないほどにあっさりしていた。 夜の外出が続けば当然かも知れないが、大学生になってやっと恋することが出来た娘を見守ってくれているのだろうか。 今日は朝から家の手伝いをしていた。 何だか急に娘らしいことがしたくなったのだ。 言い付けられて用事をするより、娘としての自分が感じられたように思う。 ・・・女になって、何も知らなかった子供の心に、ちょっとだけ戻ってみたかったのかも。 まだほんの一週間しか経ってないのに。 彩香はそんな思いに浸って、クスッと笑いをこぼした。 「ん?・・どうした?」 大河は手を繋いだまま、優しく声をかける。 「やっぱり、彩香も抱かれたいかも・・・」 「だろぉ?・・普通はそんなもんだぜ。」 「・・・え?」 「いや。・・よっしゃぁ。一晩中かかっても見つけてやるぜ。」 大河は鼻息も荒く、カッカッカッ、と笑った。 彩香もそんな大河にクスクスと笑った。 やっと空室のあるホテルを見つけて車を降りた。 大河に手を引かれ部屋に入るまでが一番緊張してドキドキする。 けれど、部屋に入って抱き締められると、女の心が剥き出しになって、どんなことでもされたい、と思ってしまう。 キスをしながらお互いの服を脱がせていく。 一枚ずつ、丁寧にソファーにかけていき、お互いが一糸纏わぬ姿になって、もう一度抱き合ってキスをする。 大河の固く勃起した男根が抱き合う二人の間にある。 彩香は自分の肌に押し当てながら、そっとさする。 初めての時は見るだけでさえ怖かったのに、今は赤黒い肉の塊が愛しくてたまらない。 儀式のように跪いて両手で包むように押し抱き、頬ずりをしてキスを繰り返す。 ピチャッ、、、チュプッ、、、ンチュッ、、、 舌で唾液を塗りつけては、脈打つ筋や張り出したカリに吸い付く。 大河は足を広げて立ち、その様子をじっと見下ろしている。 まだ玲奈ほどの技術はないが、いきなりくわえこむ玲奈と違って、彩香のかしづく姿は大河の男としての征服欲を満たし、一層の欲望へと駆り立ててくれる。 彩香には支配されたい奴隷としての要素があるのかも知れない。 少しずつ開発して、俺だけの奴隷に仕込むのも悪くない、と大河は彩香の慎ましやかな横顔を見ながら思った。 彩香の手の中で、大河の男のシンボルが、ドクン、ドクン、と大きさと固さを増していく。 こんなに大きな異物が自分の体の中に入ってしまうのが不思議に思えるほど、大河の男根は逞しくそびえ立っている。 突かれる時の痛みはまだ慣れなくて、大河の動きが激しくなると悲鳴に近い声をあげてしまう。 それでも、体から離れた瞬間から、恋しくてたまらなくなるのだ。 彩香は膣の肉壁を擦られる時をイメージしながら口いっぱいに頬張った。 大河のモノをくわえると口が性器に変わる。 言葉を話す為でも、物を食べる為でもなく、愛を受け入れる性器だった。 どんなに叫んでもこれほど大きく口を開けたことはなかった。 顎が痛くなるまで開き、吸い付きながら首を振る。 上顎、舌の付け根、頬肉で感じる。 鼻孔が大河の男の匂いでくすぐられる。 うっとりと彩香が大河を見上げると、大河の熱い視線と出会う。 「美味いか?」 大河が片頬で不敵に笑う。 「ん、、、」 彩香がくわえたまま頷くと、よしよし、と頭を撫でてくれる。 それから、 「今度は俺がたっぷり感じさせてやるぜ。」 と言って、屈んで彩香を抱き上げ、ベッドに運んだ。 大河が彩香の蜜壺を啜る。 「あぁ、、、あ、、、ぁふっ、、、」 大股を開き、男の欲望に身を任せる姿が天井に映し出されている。 鏡ではなかったが、黒い光沢のあるタイルが白い体を浮き上がらせているのだ。 彩香は愛撫される快感を噛みしめながら、身悶える自分の姿を恥ずかしく思う一方で、愛されている最高に幸せな光景を目に焼き付けていた。 「あっ、、、あぁぁ、、、んー、、、」 大河が顔を股間から上げ、男根を挿入してきた。 両膝を、グッと上に押し上げられると、オチンチンの先端が入ったオマンコまでが見える。 「ん?」 大河が彩香の視線に気付いて、天井を見上げた。 彩香は途中まで入った肉棒に感じて頬を上気させていたが、天井の中で大河にじっと見られて、余計に顔を赤らめた。 大河が彩香に視線を戻し、 「この天井が気に入った?」 と言って、ニヤリと笑った。 彩香ははしたない気がして、視線を逸らすと情けない表情になった。 「いいんだぜ。思い切り感じて、思い切り素直に喜んで。」 大河は優しく言うと、彩香の体に被さり、彩香の髪を撫でて口づけをした。 そして、 「せっかくだから、思い切り見えるようにしてやるぜ。」 と、また体を起こすと、彩香の腰が浮き上がるまで足を上げた。 「まだ、彩香には自分であげてるのは無理だろうなぁ。」 独り言のように言った大河が、腰の下に枕を一つ押し込んだ。 「ほら。これで力が抜けてもオマンコが良く見えるだろ?」 嬉しそうに言う大河に、彩香は、 「いやぁ・・・」 と拗ねた眼差しを送った。 「素直さが彩香のいい所なんだぜ。俺が入るのをよーく観察してごらん。」 彩香に指示する時の大河は医者のような言い方になる。 そう言われると、何だかそうしないといけない気がしてきてしまうのだ。 「・・・うん。」 彩香は羞恥心で全身から熱を出しそうだったが、コクリと頷いた。 大河がゆっくり腰を前に出して、肉棒を彩香の膣に押し込んでくる。 「あぁぁ、、、大河ぁ、、、ん、、んん、、、あぁぁぁ、、、」 奥深くまで押し広げられ、花弁がはち切れそうなほど広がっている。 根元まで埋められ、グッグッ、と奥の感触をたしかめて、今度はゆっくりと引いていく。 蜜がたっぷり絡まった肉棒は、照明に照り輝いている。 カリが見えそうになって、またゆっくりと押し込められる。 「んー、、、あぁぁ、、、気持ち良くて、、、おかしくなりそう、、、」 「いくらでも乱れていいんだぜ。俺が全部受け止めてやるからな。」 「うん。」 彩香は大河が普段の何倍も男らしく感じる。 普段でさえ男らしすぎて時には怖いほどなのに、何倍も男らしい今の大河は夢のように優しかった。 愛される喜びがこれほど満たされるものなのだと実感する。 体を求められているのだとしても、欲しいと思って貰えることが、それだけでも幸せなのだ。 繰り返し躰の中にめり込んでくる大河の肉棒の動きを、感じて潤んでくる目でじっと観察した。 何を恥ずかしがる必要がある。 他の誰でもない、自分を愛してくれる大河の肉棒であり、大河に愛されている自分の躰なのだ。 彩香は次第に動きが早くなる行為に身悶え、体を走る電流のような快感に、意識が絡め取られていく。 「あぁぁ、、、ああん、、、あん、、あん、、、あぁぁ、、、」 もう観察する余裕もなくなり、半ば閉じた目は視界が霞んでいる。 「クスッ。もうこれ以上は無理かな?」 大河はそう言って彩香を抱き締めると、キスをしながら腰の動きを早めた。 「あぁぁ、、、大河ぁ、、、んんん、、、」 彩香は大河の腰に足を巻き付けるようにし、背中にしがみついた。 「可愛いぜ、彩香。・・はぁはぁ・・マジ、いい女だ。」 大河は、グッチュ、グッチュ、と音をさせて激しく突き上げる。 「あぁぁぁあぁ、、、あぁん、、あぁぁあぁぁ、、、」 彩香は大きく揺れながら、よがり声を甲高く上げていく。 つま先から頭の頂点まで快感が駆け巡り、大きな快感の渦が意識の上まで登っていく。 「あぁぁ、、イク、、、イク、、、あぁぁぁあぁ、、、イクゥゥゥーーー!!」 「はぅ・・・・うぅぅぅっっっ・・・はぁぁ・・・」 大河も同時にいった。 しばらく抱き合って呼吸を整えた後、大河は体を離しながら、 「彩香の中に入れた俺のミルク、見てみるか?」 と、彩香の赤い花弁を押し広げた。 トロォ〜ッと白濁液が垂れてくる。 彩香は逆上せそうな意識の中で、大河に染まっていく自分を感じていた。 時間がないからと、更に二度、抱っこスタイルとバックからの犬責めで、立て続けに彩香を抱いた大河は、ぐったりと力が入らない彩香を浴室まで抱えていき、綺麗に洗い流してやった。 彩香がフラつきながらも何とか服を着る間に、大河は精算を済ませていた。 車に乗り込んでヒンヤリとしたシートに体をもたれかけた彩香は、シートの冷たさが火照った体に気持ち良く感じて、目を閉じて熱い吐息をついた。 その様子に、 「急がせてごめん。家に着くまで眠っていってもいいからな。」 と、後ろからボアの膝掛けを取ると、彩香の肩から膝までかけてくれた。 「寒くないのにぃ・・・」 「まだ火照ってるからな。・・でも油断していると風邪引くから、ちゃんとかけとけよ。」 大河の労ってくれる言葉が嬉しくて、 「うん。・・・ありがとぉ。」 と、微笑んだ。 「よしよし。いい子だ。」 運転席から体を伸ばした大河が、彩香の額にキスをする。 体も心も満たされて、彩香は幸せに酔うようだった。 車が走り出し、ぼんやりと景色を眺めながら、怒濤のように押し寄せて過ぎた時間を愛おしく噛みしめていた。 今夜も目眩のような感覚に包まれて眠ることになるだろう。 ベッドに横になると、圧倒的な大河の記憶が、体中の愛する痛みとともに蘇ってくる。 時には、その感覚だけで感じて身悶えてしまう。 触れることも出来ないほど腫れてヒリつく秘部が、懲りずに疼く。 トイレの度に涙が滲んでしまうのに。 何度も吸われ噛まれた乳首は、パジャマが触れるだけでも痛みを感じてビクッとしてしまう。 それなのに、全ての痛みが嬉しくてたまらなかった。 離れていても、大河に支配されているようで充実していられるのだ。 今まで自分に自信を持ったことはなかった。 でも、大河が愛してくれる自分には、自信を持たせてあげてもいいように思ってしまう。 彩香は大河の横顔をうっとりと見つめた。 「眠らなくて平気?」 彩香の視線に気付いた大河が聞いた。 「うん。平気。・・・っていうより、興奮してて眠れないの。」 彩香が恥ずかしそうに答える。 「そっか。」 大河は、どんなに激しく乱れても、こんな時の恥じらいを失わない彩香が可愛いかった。 手を伸ばし、彩香の頬をそっと撫でた。 まだ熱を持っていたが、いくらか落ち着いてきているようだった。 それから、ちょっと躊躇っていたが、 「あのさ・・・実は彩香に話しておきたいことがあったんだ。」 と切り出した。 「え?」 彩香の顔が不安げに曇る。 「あ、いや。・・それほど重い話じゃないんだけどさ。」 「・・・そうなの?」 「俺の彩香への気持ちは変わらない。可愛いし、大好きだし、大事に付き合っていきたいって思ってるよ。」 それを聞いた彩香は、ホッとして笑顔になった。 「話ってゆーのは・・・玲奈のことなんだ。」 彩香は、あぁ、と頷いた。 「ちょっと色々あって・・・すぐにきっぱり別れ話が出来ないんだ。」 「・・・そう・・・」 彩香が別れてくれと言ったことはない。 言える自信もない。 大河が自分と付き合ってくれるだけで幸せなのだ。 ・・・でも、大河の口から玲奈の名前が出ると、胸がシクリと痛くなった。 「同じ学部で授業が一緒のことが多いだろ?」 「・・・うん。」 「だから、あんまりヒドイことも出来なくてさ。」 「・・・うん。」 彩香がうつむいていると、 「・・・彩香・・・泣かないでくれよ。」 と、大河が手を伸ばし、彩香の髪を撫でながら優しく言った。 泣くな、と言われた途端、涙が溢れてきた。 「・・・泣いてないもん。」 そう返す言葉がすでに涙声だった。 「なるべく早くきっちりさせるから。」 彩香は返事が出来なかった。 急がなくていい、と言おうとしたが言えず、うん、とも言い難かった。 「・・・ごめんな。」 いいの、という言葉の替わりに首を振った。 「お前が俺の女なんだ。自信持ってろよ。」 「・・・うん。」 やっと答えた彩香はまた一粒涙を落とした。 理由はわからない。 悲しい涙ではなかった。 大河の優しさが心に染みた、女の涙なのかも知れない。 切ないけれど、暖かい涙だった。 家の前まで送ってくれた大河は、車から降りて労るように抱き締め、甘いキスをしてくれた。 大河の温かい唇と舌を感じながら、彩香は、何があっても大河を信じて付いて行こう、と思うのだった。 |
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<29> 「ひとつの別れ」 |
<29>「ひとつの別れ」 月曜日、大学へ向かう途中で大河が言った。 「玲奈とは大学が終わった帰りに話し合う時間を作るよ。だから、それまで玲奈の相手をしてやってくれ。」 「相手って、大河は授業どうするんだ?」 「受けるけどさ。・・前みたいに張り付かれても困るからな。」 「・・・ヒドイ奴。」 「本当のことが言えりゃ、俺だってこんな苦労はしないぜ。」 「・・・なら、言ってやったらどうだ?」 唯の言葉に大河が驚いて唯を見つめた。 「前、前!・・前を見ろ!」 唯に叫ばれ、大河は前に視線を戻した。 「ライセンス持ってる俺を信じろ。・・つーか、お前がバカなことを言い出すからだろうが!」 「バカじゃないさ。・・・言ってやれよ。そうすれば玲奈ちゃんも納得も出来るだろ。」 「そんなことしたら、こっちの手の内が相手にバレちまうだろが!」 「何がバレるって?・・ただ、彼等が玲奈ちゃんを利用して近付いたことを俺達が気付いた、ってわかるだけじゃん。相手だって、こっちがそんなに抜けてないくらい承知してるさ。だからいきなり九条まで出てきたんだろ?九条クラスの人間がホームパーティーごときに出てきたら、何かある、って思わない方が変じゃないか。」 大河は、そうかも知れない、と考え込んだ。 「大河が言えないなら、俺が昼休みの時間に、玲奈ちゃんに話してやってもいいよ。」 「唯?!」 唯は腕組みをすると、眉を悲しげに曇らせた。 「どうするのが、一番玲奈ちゃんを傷つけないだろう、って考えたんだけどさ。他のどんな方法だって、それが嘘である以上、苦しめることになる。・・・大河に思う気持ちがないのを隠して付き合うのだって可哀想だしな。」 大河は唇を噛んで黙って頷いた。 「嫌いになった理由を適当に言ったって、それも可哀想だろ?・・・玲奈ちゃんは可愛いままで、魅力的なことに変わらないんだから。」 「・・まあな。」 「彩香ちゃんを理由にしたら、彩香ちゃんに負担をかけるし、玲奈ちゃんの余計な苦しみを増やすだけだろ?」 「・・ああ。」 「結局、たった一つのことを除いて玲奈ちゃん自身には落ち度はないし、玲奈ちゃんより彩香ちゃんが魅力的だってことでもなく、利用しようとして近付いた、って切っ掛けがどうしても許せなかった、って。・・・実際、それが真実なんだから、そう話すしかないじゃん。・・・玲奈ちゃんだって、辛くてもそれが一番理解出来るし、もう戻れないってわかるだろ?」 「・・そうだな。」 大河も眉を曇らせ頷いた。 「・・けど・・・いいのか?」 「ん?・・・ああ、拓磨さん?・・じゃ、今、電話してみるね。」 大河はドキッ、としたが、唯がさっさと携帯を出して電話をかけてしまったので、息を潜めるようにした。 「――あ、拓磨さん。唯です。――今、向かっている途中。――そう車の中からです。ふふっ。」 唯がフワッと微笑む。 大河は今でも拓磨が苦手なのに、唯は本当に楽しそうに拓磨と話すのだ。 時には声を出して笑うこともある。 あの拓磨が冗談を言ってるとも思えないのに、よく笑い、甘えた声で話す。 (まあ、唯の為にラーガの遺伝子が組み込まれた犬を作ってくれちまうくらい大事にされてりゃ、甘える心境もわからなくはないけどな。) 大河は面白くなさげに溜息を吐いた。 「――だから、そーゆー訳で玲奈ちゃんに話すけど、いいでしょう?――俺がそう決めました。――はい。――」 電話の向こうの拓磨の溜息が聞こえてくるようだった。 妙な所で頑固な唯は、拓磨でも手を焼くらしい。 「――あははは。うん、大丈夫だよ。――」 唯の言葉が砕けた調子になるのは甘えている証拠だった。 唯が拓磨に言われるから”いい子”でいる訳ではないことを、大河が理解したのは昨日のことだ。 ”いい子”でしかいられない唯を、拓磨も冬馬も哀れに思い、慈しみ守ろうとしているのだ。 (俺はっどっちなんだ?・・・守りたいのか、壊したいのか。・・・殻をブチ破り、剥き出しになった唯を守りたいのかな。) 唯の涼やかな声を聞きながら大河は朝の光に目を細めた。 「――はい。わかりました。――うん。じゃぁ、またね。――」 話を終えて携帯をしまった唯が、 「OKだって。」 と、にこやかに言った。 大河は歪んだ笑みを浮かべ、電話をかける前からそれしかなかった、拓磨の返答に頷いた。 (もしかして、この強引さは総統以上なのか?) そう思うと、大河は間に立って苦慮する拓磨に同情を感じた。 唯が自分の我を通そうとするなら諭しようもあるが、誰かを思う気持ちをどうやって止めるだけの正論があるだろう。 たった一つの許されない願いを隠し持つがゆえに、”いい子”であり続ける唯が、それでも本来の優しさを失わずに人を想う心を、誰に止められるだろう。 たった一つの自我を封印した唯は、無我無心の天使だった。 たった一つの罪の為に、大空を舞う翼を傷つけ、透明な紫の血を流し続ける、堕天使。 その堕天使を愛する拓磨。 天使と信じて奉るように愛する冬馬。 (だが俺は、生身の唯がいい。) 三人三様の想いが入り乱れる中、唯はラーガしか見えない。 玲奈が、”唯君は優しい。優しいけど冷たい。”と言った言葉は、女の直感だったのだろうか。 広く浅く平等に愛してくれても、決して自分だけを見てくれることはない唯。 自分だけが特別だから、女は愛される実感を味わえるのだ。 誰にでも優しい男はいらない。 自分だけに優しい男が、女の言う本当の”優しい男”なのだ。 だから愛を失った時、自分だけの特権も失ってしまう。 それでも、愛されている瞬間の夢見るような甘い感覚が欲しい。 彩香が唯に憧れながらも、大河に惹かれていった理由もそこにあった。 大学に到着して、大河は彩香に朝の挨拶をしてくる、と唯を先に教室へ行かせた。 教室の入り口で玲奈が待っていた。 唯は大河が後から来ることを話して、一緒に並んで席に座った。 時間ギリギリになって教室に入ってきた大河は玲奈とは反対側の唯の隣りに座った。 玲奈は、大河と仲直り出来たかも、という淡い期待を抱いていたが、その行動に不安を覚え始めていた。 次の教室へ向かう時も、先に教室を出て行ってしまった大河が、ギリギリで次の教室に入り、唯を挟んだ反対側に座ってしまう。 玲奈はうつむいて授業を受けられる状態ではなくなっていた。 このまま午後も同じことを繰り返すのは拷問に近い、と唯に窘められ、大河は今にも泣き出しそうな玲奈に、 「玲奈。午後、ちょっと付き合ってくれ。」 と言った。 玲奈は動揺し、困惑し、いっそ逃げてしまいたくなったが、 「ゆっくり話をしよう。」 と、大河に優しい声で言われ、暖かい手で手を握られた時、覚悟を決めて小さく頷いた。 その様子を見ていた唯が、 「大河。車使っていいから、ちゃんと家まで送ってやれよ。」 と、静かに微笑んで言った。 「お前はどうするんだ?」 「帰りは冬馬さんに迎えに来て貰うから。」 「そっか。悪いな。」 大河は頷いて、一度玲奈の手を離して唯に近付くと、昼食を約束していた彩香のことを唯に小声で頼んだ。 そして、また玲奈と手を繋ぐと、 「じゃぁ、行こう。」 と、促し、歩いて行った。 頷くだけで返事を返し、手を引かれて付いて行く玲奈の後ろ姿は、迷子の子供のように頼りなげだった。 超高層のおしゃれなホテル。 玲奈と初めて体を合わせたのも、このホテルだった。 同じレストランで昼食を摂り、調度空いていた同じ部屋をチャージした。 軽いノリでエレベーターへ乗ったあの時とは違い、お互い会話も少なく、重い空気が垂れ込めていた。 部屋に入った大河は、玲奈を抱き締めることもなく、シックなゆったりとしたソファーに静かに座った。 「玲奈も座ってくれ。」 そう言って、大河が指し示したのは、向かい側のソファーだった。 玲奈は目を閉じて深呼吸してから、大河と目を合わせないようにして、言われた場所に座った。 「・・・玲奈。・・・もうはっきり言うしかないから、本当のことを話す。」 大河がそこで間をとって、玲奈の顔を見た。 玲奈はうつむいたまま両手を膝の上で重ねて握っている。 「俺はもう、お前とはつき合えない。」 「・・・彩香を好きになったから?」 「彩香は関係ない。」 「・・・嘘つき。」 玲奈は大河をキッと睨み付けた。 「嘘じゃない。・・・初めは彩香を理由にしようとも思ったけどな。そんな理由じゃ、お前は納得しないもんな。」 大河が他の女性と付き合う度に、玲奈は取り返してきたのだ。 「だけど、彩香と付き合ってるんでしょう?」 玲奈は相手が彩香でも奪い返すと決心していた。 だが、大河は、 「彩香が原因じゃない以上、彩香のことは外して話をしよう。」 と、厳しい口調で言った。 「玲奈とは別れなければならなかった。・・・俺だって苦しかったよ。・・・一人じゃいられないほどに・・・」 大河の目が熱く潤んできた。 「何それ?訳わかんない!」 玲奈は納得出来ずに叫んだ。 ”別れなければならない”と言う言葉は重い。 玲奈は、自分は何も変わってないのに、と大河の言葉の答えが見つからなかった。 「だから、それを今から説明するんだ。」 大河は大きく息を吐いて、 「頼む。落ち着いて聞いてくれ。」 と、低い声で言った。 玲奈は目にいっぱい涙を溜めて黙っていた。 「俺がバカだったんだよな。お前の誘いに簡単に乗っちまってさ。」 玲奈は、ハッ、として瞬いた。 涙がポロポロッと握った手に落ちた。 「お前は唯に近付く為に、俺を誘惑したんだ。」 玲奈は唇を噛んで左右に激しく首を振った。 「あのパーティーに来ていた連中を、唯に引き合わせる為に、俺を利用した。」 「・・・違ぅぅぅ・・・」 「ずっと騙されていた俺もバカだが、・・・お前もバカだよ。」 「違うー!・・・玲奈は大河のことを本気で好きになったんだもん!」 「だから、バカだって言ってるんだ。・・・騙すなら最後まで騙して利用すればいい。そして目的を果たしたら、勝ち誇った笑いを残して、俺を捨てれば良かったんだ。」 大河の頬に一筋の涙が伝って落ちた。 玲奈は顔を上げ、大河の目を見ながら、ゆっくり首を振る。 「誘惑しろなんて言われてないもん。大河を好きになったのは、玲奈の気持ちなんだもん。」 「好きになってどうするよ?事実が知れた時、俺達の関係は終わる、って分かり切っているだろう?」 「・・・どうして終わらなきゃいけないの?」 「利用する為に近付いた女を、俺が好きなままでいれると思うか?」 「・・・玲奈のことを好きになってくれたんでしょう?・・・切っ掛けは・・・何だっていいじゃない。」 「事実を知っても付き合っていたら、俺はバカの上塗りだぜ。」 「だけど、玲奈は本気で大河を愛してるのに・・・それじゃ、いけないの?」 「お前と付き合い続ける限り、俺は騙されて利用されたバカな男のままでいるしかないんだ。・・・悪いが・・・もう今は、玲奈を好きという感情はない。」 玲奈は目を大きく見開いて大河を見つめた。 体が震えてくる。 「・・・意味わかんない。・・・何でそうなるの?」 「人を欺くっていうのはそーゆーことなんだ。・・・お前は、友達になればいい、と簡単な気持ちで引き受けたかも知れない。・・・大好きな家族の為、可愛がってくれる兄貴の為、その可愛さを武器にして、ちょっとだけ頑張ってみたんだよな?」 玲奈は答えられずに手を握りしめた。 「罪の意識はなかったろうさ。」 大河の言葉に玲奈が頷く。 「だが、スパイはスパイだ。例え利用されただけでも、その罪の代償は自分に降りかかってくるもんだぞ。」 「・・・大河ぁ・・・許してぇ・・・」 「許すもなにも、俺の気持ちが萎えちまったもんはどうにもならねぇだろうが。」 玲奈はボロボロ、ボロボロ、大粒の涙を流していた。 「唯は怒っちゃいねぇ。むしろお前が可哀想だって言ってるよ。・・・だけど、それじゃ、俺の気持ちが済まねぇんだ。・・・お前は俺に、親友を貶めさせたんだぜ?・・・もっとも、あのパーティーは承知で行ったんだけどな。けど、それは結果論だ。・・・もし、相手が凶悪犯で騙されてると知らずに行ったら、俺は親友を殺す手助けをさせられてたかも知れない。そう思うとゾッとするぜ。」 「・・・だって・・・そんな悪い人達じゃないじゃない。」 「お前はお前を利用しようとする相手を調べたのか?その結果を言ってるのか?自分で確かめないで何がわかるっていうんだ?利用されてるお前自身が騙されてるかも知れないだろ?」 「・・・悪い人達なの?」 「だから、仮にって話だ。・・・それに、騙して利用するって行為自体が悪だろうが。・・・その気持ちのどこに純粋な想いがある?どの面下げて本気だなんて甘い言葉が言えるんだ?」 大河の冷たい口調に玲奈は肩をすぼめた。 「唯が許したって、俺は許せねぇ。・・・俺の気持ちが冷めた理由はそれなんだ。わかって貰えただろうか?」 玲奈は顔を両手で覆って泣きじゃくる。 もう、取り返しがつかないのだと、自分に納得させるしかない。 けれど、どんなに否定されても、本気で愛してる心が大河に縋ろうと疼く。 香坂の叔父に頼まれたのではない自分が、もう一度大河と出会った時に戻れるものなら、と祈っても奇跡は起こらない。 「・・・こんな形でなく出会えていたら良かったな。」 玲奈の思いが伝わったかのように、大河が呟いた。 「約束だったから、・・・お前が望むなら、抱いてやる。・・・これが最後になるだろうが、気が済むまで抱いてやるぜ?」 玲奈が啜り上げながら大河を見ると、大河は、 「どうする?」 と、苦しげではあったが、優しい目で微かな笑みを浮かべていた。 玲奈はしばらく泣きじゃくったまま、じっとしていた。 が、やがて立ち上がり、大河の前までゆっくりと進んだ。 「・・・抱いて・・・」 玲奈がかすれた声で小さく言った。 大河は頷いて、手を差し出した。 玲奈がその手をつかむと、グッと引き寄せ、膝の上で玲奈を抱き締めキスをした。 優しい労るようなキスをしてから、 「今度・・生まれ変わって出会える時があったら・・・今度こそ、ちゃんとした出会いをしような?」 と、大河が言った。 「・・・うん。」 玲奈は涙が止まらないまま頷いた。 大河は玲奈をそのまま抱き上げ、ベッドへ寝かせた。 「俺達が始まった場所へ戻ろう。」 玲奈の髪を撫でながら言う大河は、玲奈が愛した優しい大河だった。 玲奈は、どうしても別れなければならないことが、まだ信じられずにいた。 それでも認めるしかないのだ。 大河の優しい眼差しが、愛ではなく哀れみ色の悲しい陰を落としている。 「無に還って、・・・本物の恋をしてくれ。」 「・・・大河ぁ・・・」 「こんなに可愛いんだ。お前がちゃんと本気で向かえば、どんな男だって本気で愛してくれるだろうぜ。」 玲奈は涙が後から後から零れて止まらなかった。 「もう、誰にも利用されるなよ。・・・っとに、バカなんだから・・・」 そう言った大河も涙が溢れていた。 何故涙が出るのか、わからなかった。 自分はもっと冷酷だと思っていたのだ。 大河は話すことをやめて、キスをした。 キスをしながら玲奈の服を脱がしていく。 玲奈の綺麗な体を優しく抱き締め、キスを繰り返して自分も服を脱ぎ捨てる。 感じさせる愛撫は、もう二人の間には無意味だった。 指で受け入れやすいようにしてやると、すぐに固く張ったモノを玲奈の中に入れてやった。 「んー、、、大河ぁ、、、」 玲奈は大河に腕を回して抱きついた。 体の中でも、熱い肉襞が大河の男根にしがみつくように締め付けている。 もう二度と結ばれることがない愛しい男。 もう二度と抱いては貰えない最後の恋しい躰。 玲奈は、このまま時が止まってくれれば、と祈りながら身を任せていた。 大河は玲奈を力強く抱き締めながらグイグイと突き上げてやった。 悲しみに萎縮していた玲奈も、やがて快感に喘ぎ始めた。 「大河、、、あぁぁ、、、大河ぁ、、、」 玲奈はもう呼ぶことの出来なくなる名前を何度も呼んだ。 快感に浸りながら泣き、泣きながら快感に溺れた。 刻み込もう。 もう、これほど夢中に愛した男は一生出会えない気がした。 だからせめて、愛された記憶を、躰に刻みつけよう。 玲奈は大河の躰を貪り、駆け巡る快感に躰を震わせて、泣きながらよがり声をあげた。 大河は玲奈の求めるままに、優しく激しく何度も抱いてやった。 「大河ぁ、、、大河ぁ、、、大河ぁぁぁぁ、、、」 甘える玲奈の声が大河の心に切なく響く。 「玲奈・・・俺を忘れて幸せになれ。」 「いやぁぁぁ、、、忘れないぃぃぃ、、、大河ぁぁぁ、、、」 「これだけ可愛い子、滅多にいないぜ。・・・自分の為に生きて、幸せをつかめよ。」 「バカァァァー、、、大河のバカァァァー、、、」 玲奈は繋がったまま、抱きついたまま、大河の背中を叩いた。 大河は泣きじゃくる玲奈にキスを繰り返し、 「もっといい男と出会えるさ。・・・そして、もっと優しい男にしっかり愛して貰えよ。・・な?」 と、宥めるように囁いた。 気が済んだのかどうかはわからない。 何度も絶頂に登り詰め、泣き疲れて、気絶するように眠った玲奈を眺めながら、大河は終わったな、と大きく溜息を吐いた。 玲奈が眠りから醒めた時、ホテルの窓の外には煌びやかな夜景が瞬いていた。 大河は動きたがらない玲奈を促して、帰り支度をさせた。 それから、ホテルを後にして、玲奈を家まで送っていった。 「お別れだ。・・玲奈。」 大河が差し出した手を玲奈は触れることが出来なかった。 そして、何も言わずに、家の中に駆け込んで行った。 玲奈が家に入ったのを見届けて、少しだけホッとした大河は、車に戻って発進させた。 翌日から玲奈は大学に出て来なくなった。 数日後、心配する唯に拓磨が、玲奈が大学を辞めたことを報告した。 項垂れて深い溜息を吐く唯に、 「済まん。」 と、大河が沈痛な面持ちで言った。 が、唯は、 「大河のせいじゃないさ。・・・やっぱりずっと同じ教室で学ぶには無理があったもんな。・・・拓磨さんに、玲奈ちゃんが留学出来る場所を探して貰って、あちらに勧めて貰おう。・・・穏やかな気候で、いつも花が咲き乱れているような優しい場所がいいな。・・・優しい自然は誰のどんな言葉より、傷ついた心を癒してくれる、ってこともあるからね。・・・そして、心が寂しいって感じられるようになったら、自ずと新しい出会いが欲しくなるものだよ。」 と言って、静かに微笑んだ。 「・・・唯・・・」 大河は柔らかな翼に抱き包まれるような暖かさを感じ、思わず唯を抱き締めた。 (俺はお前の側が一番安らぐ。お前が俺の楽園なんだ。) レイドが呻りながら大河のズボンの裾をくわえても、しばらくは唯を離さなかった。 (・・・多少・・・邪魔は入るが・・・) 大河はそんなことを思う内に、何だか気持ちが軽く明るくなってきて、レイドを退かせようと足を振った。 だが、いくら振っても裾を離さないレイドに、 「レイド。お前スッポンみたいだぞ。」 と言って、睨み付けてやった。 唯はクスッと笑って、 「散歩に行きたいんじゃない?・・気分転換に果物買って来よう。」 と言った。 大河も笑顔になって、 「ああ、そうだな。」 と、答えた。 |
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<30> 「団欒」 |
<30>「団欒」 拓磨が上京してきた。 玲奈の両親に今回のお詫びをする為と、玲奈に留学を勧める為だ。 玲奈は部屋に籠もりきりで泣いてばかりいるという。 ただ、玲奈の父親は自分達に非があることを充分承知していたので、総統の右腕とも言われる拓磨が出向いて謝罪してくれたことに恐縮していた。 拓磨の勧める留学には、初めの内、今の状態の玲奈を海外へ行かせる不安もあり辞退する雰囲気があった。 だが、学費・生活費・他必要経費の全てを全額こちらサイドで負担し、玲奈が前向きに独り立ち出来るまで生活全般のケアが出来る看護婦を同行させるから、と説明され、玲奈の両親も唯サイドからの好意を受け入れることにした。 そして、 「今回のことは悪いウィルスに感染してしまったと受け止められ、ご家族の皆様方もどうぞ前向きなお気持ちを持って、早く立ち直られたらと思っております。」 と、言った拓磨は、 「警視庁には私の弟もおりますから、ご子息のことも気に掛けるように話しておきました。どうぞ、いつでも気軽に風磨に相談してください。」 と、笑みを浮かべた。 「・・・何故そこまでしていただけるのでしょう?・・・私共の犯した過ちは、お怒りを買いこそすれ、このような手厚い加護を頂ける立場ではないものを・・・」 玲奈の父親は涙を溜めた目で聞いた。 母親はすでにハンカチで目を覆ったまま、顔を上げられずにいた。 「御曹司の御意志です。」 拓磨はそう言って、席を立ち、いとまを告げた。 それから拓磨は唯のマンションに立ち寄り、冬馬に経緯を説明した後、いくつかの指示と注意を伝え、ルルとレイドの頭を撫でてやってから、大阪に戻って行った。 「えー・・・拓磨さん、もう帰っちゃったの?」 大学から帰った唯が残念そうに言った。 「お忙しい方ですからな。・・・ですが、坊ちゃまのお好きな鶴亀堂の水ようかんをお土産に置いていかれましたよ。冷やしてありますから、召し上がりますか?」 「わぁ、やったぁ。」 「では、着替えられて、手洗いとうがいをなさいませ。」 「はーい。」 拗ねた顔をしていた唯が笑顔になって部屋に行く姿を、冬馬は暖かい眼差しで見守っていた。 以前より、ずっと表情が豊かになった唯は、成長したというより子供っぽくなったように見える。 天使の心に人としての血が通い始めたからかも知れない。 心血を注いで研究に没頭してきたドイツ時代の唯も敬愛していたが、明るくなった唯の表情を見ていると、研究を離れた今の時間も唯には必要だったのだろうと納得する。 そして、闇に沈む唯の心を光の方向へと導いているのが大河なのだ。 唯が大河を手放さないのも、光の暖かさを感じるからだろう。 拓磨が大河の尻拭いをしてやるのも、唯に大河が必要だと思っているからに違いない。 拓磨の唯への深い愛情に敬服する。 大河が拓磨とソリが合わないのも、そうした拓磨の思いを感じているからだろうか。 もっともエゴの強い大河が、誰よりも唯に必要とされていることを、当の本人は気付きもせず、叶わぬ恋に足掻いている。 人とは面白いものだな、と冬馬は唯を待ちながら、熱いお茶を啜った。 冬馬は水ようかんを食べる唯に、拓磨の話を伝えてやった。 唯は、うんうん、と聞いた後、ほっとした表情で微笑んだ。 虹色の光が弾けるような優しい微笑みに、やはり唯様は天使だ、と冬馬はうっとりと見取れた。 「でも、やっぱり拓磨さんに会いたかったなぁ。」 「大河は会いたくないようですが。」 帰って来ない大河のことを冬馬が苦笑して言った。 「そりゃぁ、拓磨さんの小言を聞くより、彩香ちゃんとデートしてる方が楽しいだろ。」 唯はクスッと笑いをこぼして、湯飲みを手の上に置いた。 作法に則り、音を立てずにお茶を飲む。 「坊ちゃまは甘過ぎですな。夕方の犬の散歩を免除したり・・」 「仕方ないでしょう?毎晩彩香ちゃんを誘い出してたら、今度は彩香ちゃんのご両親が心配で気に病んでしまわれるし・・。夕食までには送っていくようにしなきゃ。」 最近、大河と唯は行動を別にしていた。 大河は毎朝彩香を迎えに行って、一緒に大学へ向かい、帰りはそのままデートして、夜に送り届けてから帰ってくる日が続いている。 「あ・・・だけど、冬馬さんがいてくれるから、俺もつい甘えちゃってるけど、拓磨さん、そろそろ戻るようにって言ってたんじゃない?」 「坊ちゃまをお守りする以上に大切な用事など、私にはありません。」 「冬馬さんだって、俺に甘過ぎますよ。・・・二人の時は未だに”坊ちゃま”だしさ。」 唯は可笑しそうに含み笑いをして、片眉をピクピクと動かした。 冬馬もつられて笑いをこぼしながら、 「あちらのお屋敷で、坊ちゃまの御尊名を口に出せるのは、総統と拓磨さんだけです。うっかりこちらでの癖が出てしまうと困りますから、坊ちゃまが大河を気遣う必要がない時には、そう呼ばせて頂きます。」 と、静かに言った。 二人で話す時の方が、冬馬は丁寧な敬語を使った。 大河がいる時はなるべく差が出ないように、大河に合わせて話すようにして貰っていたのだ。 「屋敷かぁ・・・一度戻りたいんだけどね。」 唯はふと物思いに耽る面持ちになり、ベランダの方へと顔を向けた。 今日は朝から雨が降っている。 「・・・よく降るね。」 「もう梅雨入りですから、しばらくこんな日が続きますよ。」 「・・・そう・・・」 唯の白い頬はどことなく寂しそうだった。 冬馬は唯が雨が苦手なのを知っていたが、不平や不満は口にしない唯の為に、わかっていても触れないようにしていた。 「早めですが、散歩にいきますか?」 冬馬が明るい声で言った。 唯が顔を冬馬に戻すと、 「思い切り走って汗だくになれば、濡れても一緒というもんです。」 と言って笑ってから、ウィンクをした。 「そうだね。」 唯も笑顔になって頷いた。 大河が帰って来た時、唯と冬馬は綿麻の甚平姿でうちわを扇いでいた。 「うわっ・・・ペアルックかよ。嫌だねぇ・・・二人で仲良し子よししちまってさ。超キモイぜ。」 唯と冬馬は顔を見合わせて、吹き出した。 「何バカ言ってんだ。除け者気分で拗ねてるもんじゃないぞ。」 「拓磨さんが、鬱陶しい季節だからって、わざわざ持ってきてくれたんだよ。大河のもあるから風呂上がりに着たらいいじゃん。」 「へぇ・・・相変わらず良く気が回るよな。」 「それに神戸牛もいっぱい届けてくれたから、今夜はすき焼きだよ。」 「唯様がお前を待つって仰るから、腹ペコで待ってたんだ。早く風呂に入ってこい。」 「そりゃ、いいや。」 大河は、こんな雨の日に大荷物を抱えてきた拓磨の姿を想像して、何だか可笑しくなって機嫌を直したように笑った。 除湿されてる部屋の中までは湿気がなかったが、それでも湯上がりに甚平を着ると、気分が変わる。 一日中、衣服が体にまとわりつくようだった不快感から、開放された気持ちになるのだ。 「よーし。じゃんじゃん喰おうぜ。」 冷たいビールで冬馬と乾杯した大河が、山盛りの肉をどんどんすき焼き鍋に入れていく。 「野菜も入れなきゃ・・・」 「まずは肉だ、肉。」 「そんなに一度に入れたら煮えるのが遅くなるだろうが。」 「牛だぜ?しかも超高級牛。生で喰えるって。」 大河がカカカッと笑って、勢い良く卵をかき混ぜる。 「まったく・・・冬眠から覚めた熊みたいだな。」 冬馬は苦笑しながらも、大河の元気パワーに目を細める。 唯も楽しそうに笑っている。 「冬馬さんもいっぱい食べなきゃ。・・ビールもどうぞ。」 唯が冬馬にビールを注ぐと、 「何だよぉ。俺にも注げ。」 と、大河がグラスを突き出してくる。 「飲み過ぎるなよ。」 と言いつつ、大河にも注ぐ。 「くぁーっ・・・美味ぇ・・・」 大河は口についた泡を手の甲で拭い、 「唯に注いで貰うと、ひと味違うな。」 と、満足そうに笑う。 「フン。彩香ちゃんならもっと良かったろうけど。」 唯が目を眇めて言うと、 「バーカ。」 と、素っ気なく言ってから、煮えてきた肉を黙々と食べ始めた。 唯はクスリと笑みをこぼして、 「でも、彩香ちゃんと真面目に付き合ってるみたいで安心した。」 と言った。 「まぁ、今の所はな。」 「おいおい。」 冬馬が眉をひそめる。 「冬馬さんはこっちの遊び場は知らないのか?」 「知らなくもないが、まだそんな遊び回る余裕はないな。」 「何でだよ?」 「こっちはこっちで顔出ししたり、色々本部からの指示もあるからな。昼間ボケッと遊んでる訳じゃないぞ。」 「けど、接待とかされるだろ?」 「そういう類は一切受けないことにしている。遊ぶ時は自腹でないとな。」 「お?・・・じゃぁ、今度連れてってくれよ。」 大河がニヤリとする。 「大河。」 唯が顔をしかめて首を振るが、 「彼女は彩香だけでいいけどな、それと遊びは別さ。」 と、軽く肩をすくめる。 「なぁ、冬馬さん?」 冬馬は、うーん、と顎を撫でながら、 「向こうほどにはハメを外せないが、顔が利く店は何軒かあるし、たまには連れて行ってやってもいいぜ。」 と、不敵な笑いを浮かべて言った。 「冬馬さん?!」 「ハハハッ。若い内は仕方ないですよ。・・・今度、唯様も行かれますか?」 「唯はダメだぞ!」 大河が腕で×を作る。 「ああ。・・ハハッ。まだ未成年でしたね。失礼しました。」 「そんなに怪しい店?」 「いやいや。ですが、アルコールを出すような場所へお連れするのはマズイでしょう。二十歳になられた暁には、お連れいたしますよ。」 「ふーん・・・そうなんだ。」 唯は、何となく怪しい、と言いたげな表情で、大河と冬馬を見比べていたが、 「ま、いいけどね。」 と、片眉をそびやかして呟くように言った。 それから、視線を二匹の犬に向けた。 ルルとレイドは各々のマットで、やはり拓磨の土産である骨付き肉の塊を囓っている。 「おい、唯。お前もせっせと喰えよ。大きくなれないぞ。」 大河がラーガに思いをはせそうになる唯を呼び戻す。 「え・・・あ、うん。」 唯はハッとして視線を戻すと、すき焼き鍋に箸を伸ばした。 が、卵を溶いた小鉢に肉と野菜を取りながら、ん?、と眉を寄せた。 「・・・って・・・大河。俺は充分大きいぞ。」 唯が大河を睨み付ける。 唯も178cmの身長があるのだから、普通は充分だろう。 193cmの大河と188cmの冬馬といるから小さく感じるだけなのだ。 しかも大河も冬馬も筋骨隆々ともなると、三人が並んだ姿はどうしても唯が華奢に見えてしまう。 それでも瞬発力・持久力・跳躍力では二人に勝るとも劣らない唯だった。 外見で見下されることに抵抗がある。 「なら、逞しく、って言い換えるぜ。」 「くっそぉ・・・嫌味な奴ぅ・・・」 「ほらほら、二人とも。」 冬馬が肉の投げ合いになってはたまらん、とばかりに苦笑して仲裁する。 「喧嘩出来る関係もよろしいですが、食事は楽しく頂きましょう。・・いいですね?」 「はーい。」 返事だけはちゃんと返した二人だったが、相変わらず肉ばかり入れようとする大河と、野菜は煮えるのに時間がかかるからと野菜中心に入れたがる唯とで、何かと言い争ってしまう。 それでも、何故か楽しげな二人なので、冬馬もやれやれと思いつつ、にこやかに見守っていた。 |
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