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<41> 「シアトル」 |
<41>「シアトル」 ワシントン州シアトル。 北アメリカ大陸の西海岸沿岸でも、カナダ国境に近く、北海道より高緯度にある為、夏場でも20℃前後の涼しい所である。 アメリカの中でも治安のいい、ゆったりとした雰囲気のある都市で、医療技術は世界最高峰と言えた。 大規模な総合病院が多数あり、世界中から患者や研修医が集まっている。 唯と大河がバイトすることになった、ワシントン州立総合病院も、広大な敷地に総合医療施設をメインとして様々な施設を完備した、一つの町ともいえる規模の大きな病院だった。 アメリカ国内からも難しい病気の患者が集まる他、世界中から難病を抱えた人々が訪れ、最高レベルの治療を受けていた。 その為、医師免許を持っている人達も、より高度の知識と技術を学ぼうと世界中から集まってきていた。 病院の敷地内には、そうした人達の為の宿舎も用意されていて、唯と大河もそこで夏休みの約2ヶ月を暮らすことになっている。 宿舎といっても、ホテル並みの外観と設備が整っていて、入り口にはドアマンが常駐し、不審人物の侵入を禁止していた。 他にも独身の看護婦の為の女子寮や施設従業員の為の寮もあったが、プライベートは病院の雰囲気から離れたいと思う人達は、ダウンタウンの賑やかな場所や、逆にキャピトルヒルやクイーンアンといった落ち着いた場所で生活していた。 中でも医学博士クラスになると、高級住宅地の一戸建てで優雅に生活していた。 唯や大河も、研修ではなく医学博士としての知識と技術を期待されてのバイトだったので、病院側からもっと設備のいい高級ホテルを提供するという話もあったが、基本的宿泊料は掛からなくても日々の生活でチップが掛かり過ぎるので、宿舎での滞在を頼んだのである。 日本から最も近いアメリカと言われるシアトルは、8時間程度の飛行時間で到着し、調度時差もその程度なので、日本を出立すると出立した時と同じ時間に到着するという不思議な現象になる。 唯と大河は翌日からの勤務だったが、荷物を宿舎の部屋に置くと、すぐに病院に挨拶に出向いた。 パスポートと医師免許と労働許可証と委任状を事務に提示すると、すぐに手続きをして病院施設内の身分証を発行して貰えた。 それから事務の女性が病院内を説明しながら、配置されることが決まっている緊急処置センターへと案内した。 緊急処置科のナースセンターを通りかかると、数名の医師が居合わせていたので、事務の女性が声をかけた。 難しい顔をしていたその場の医師と看護婦は迷惑そうな視線を向けたが、事務の女性が唯と大河を紹介すると、 「君達が?・・随分、若いけど・・・手術の経験とかはあるのか?」 と、驚いたように唯と大河を交互に見た。 「もちろん。オペは得意分野です。」 大河が自信満々に頷いたので、 「調度良かったよ。脳挫傷の患者の受け入れを要請されているんだが、脳外科は今日は3つの手術を抱えている上に、もう二つの手術が始まってしまっていて、手の空いてる外科医がいなかったんだ。心臓外科からも手一杯だと断られてしまったし、整形外科は専門外は無理だと言うし、・・・まさか、研修医にさせたらウチの評判に関わるからな。・・・じゃぁ、早速準備してくれたまえ。」 と、にこやかに言った。 「了解。」 大河が余裕の笑みで承諾したので、急に慌ただしく活動が始まった。 看護婦が支度する為の部屋へ大河と唯を案内し、着替える間に手術室の準備が整えられ、ほどなくヘリコプターで緊急の患者が運ばれてきた。 頭部の怪我はかなり酷い状態で、 「まあ、助からなくてもベストを尽くせばそれでいいから。」 と、緊急処置科の副主任というDr.ジョンソンは大河と唯の肩を叩いた。 唯も大河ほどではなかったが、大抵の手術は修得していたので、補佐をすることになったのだ。 だが、いざ手術が始まり、手術室を見学出来るようになっている部屋から見ていたDr.ジョンソンは、神業とも言うべき大河の素早く的確な手捌きに感嘆した。 バイトで配属されたばかりの青年が難しい手術をしていると聞いて、見物に来た他の科の医師達も、目を皿のようにして見入っていた。 手術に慣れている看護婦でも、大河の素早さに対応が出来ず、ほとんど手が出せずにいた為、補佐は唯が一人で受け持っているような状況だった。 また、唯も患者の状態を的確に把握し、必要な処置を取っていたので、患者が一時心臓停止になりかけたが、事なきを得た。 通常5時間は掛かるだろうと思われていた手術を、2時間で無事終了させ成功を収めた大河は、手術室を出る時には見学していた医師達や看護婦から拍手を浴びていた。 「いやぁ、見事だったよ。」 Dr.ジョンソンは大河の両肩を頼もしげに叩いて、 「上で見学しながら君達の経歴を聞いたんだが、まさか世界的に有名な天才医学博士の御両名とは知らなかったな。ハハハッ。」 と言った。 「だって、そうだろう?まさか、そんな天才がバイトで来るなんて、聞かされてなかったんだから。」 と、Dr.ジョンソンは緊急処置科の主任が勝手に決めて、さっさと休暇に入ってしまったので、詳しい情報を聞いてなかったことを詫びた。 そして改めて、緊急処置科の医師チームと看護婦チームに大河と唯を紹介してくれた。 それから昼食を一緒にしようとスタッフ専用の食堂へ案内してくれた。 Dr.ジョンソンは大きなステーキを頬張りながら、 「緊急処置科っていうのはあらゆる知識を掌握してないと対処出来ない科なんだ。」 と、蘊蓄を語るように言った。 「そうでしょうね。」 唯はベジタリアン用のサンドイッチをゆっくり食べていた。 「それでいて待遇は内科以下ときている。脳外科や心臓外科の連中は、自分達の下働きくらいに蔑視しているんだから、医師が定着しないのも無理ないだろう?」 「そうなんですか。」 大河はハンバーガーを食べながら、いきなりそんなことを言われても困るなぁ、と適当に相槌を打っていた。 「専門の科は、世界中から依頼される予約の手術で、毎日のスケジュールが決まっているから優雅なもんさ。午後からの手術が決まってる執刀医なんて、その日の午前中は出て来ないんだ。」 Dr.ジョンソンはナイフとフォークで肉を切りながら肩をすくめた。 「だが、緊急処置科はそうした患者が術後の容態が急変したって、対応しなきゃならない。それこそ24時間常時医師は待機してなきゃならないんだ。」 「・・24時間ですか?」 大河は嫌な予感がして眉をひそめた。 「ハハッ。当番制だし、研修医やインターンが留守居してるから、我々が常時詰めてる訳じゃないさ。」 Dr.ジョンソンが大河の懸念を察したように言った。 大河はほっとした笑みを浮かべて頷いたが、 「とは言え、容態に応じて呼び出しがかかるから、その辺はよろしく頼むよ。・・まあ、週2回くらいの出動は覚悟しておいてくれ。」 と、言われて、口元に浮かんだ笑みを引きつらせた。 「ただでさえ忙しいのに、医師が定着しないんだから、責任者としての立場は辛いよ。まったく、休暇くらいは呼び出しのかからない、海外に逃避したくもなるってものだ。」 「フリーモントには大きな救命救急病院があると聞いてますが?」 「事故や怪我で救急車を呼んだ場合、普通はそっちへ運ばれるが、そこでは手に負えない重傷な場合はウチがあてにされる。だから、軽い手術はほとんどないな。」 「そうですか・・・」 唯は食欲がないまま圧倒されて頷いた。 ハンバーガーを食べ終えた大河が、唯が食べないサンドイッチに手を伸ばしたので、唯は皿ごと大河の方へ押した。 「Dr.ユイは手術は苦手ですかな?」 Dr.ジョンソンに聞かれ、 「いえ。・・大丈夫です。」 と、唯は控え目に微笑んだ。 「唯がいなければ俺のテクニックも半分も実力を出せないでしょうね。俺が次にすることを指示する前に理解してくれているから迅速に出来るんです。それに唯の的確なアドバイスも俺を助けてくれてます。」 大河は唯の存在が自分より軽く見られていることに気付いて、唯の必要性を説いた。 Dr.ジョンソンは、ほうほう、と頷き、 「ベストパートナーということだね。」 と、納得したように言った。 それでも、唯が世界屈指の大富豪の御曹司であることが心の隅にあるのか、大河が唯をサポートしながら立てているのだと、思っている節があった。 アメリカでは、パフォーマンスの派手な目立つ外科医こそが医療の頂点、と捉えられているようだった。 確かに即、行動を問われる現場では、唯の真価は理解されにくいだろうとは思う。 時間がかかる上に成果の見えにくい研究は、ノーベル賞でも取らないと認められにくいのかも知れない。 だが、現場でも唯の価値は充分にあることを、一緒に仕事をする内にはわかるだろうと、大河はそれ以上言うのは控えた。 「あ、そうそう。実は私も後1週間で休暇に入るから、わからないことはそれまでに聞いておいてくれたまえ。」 Dr.ジョンソンはにこやかにそう言って、食後のコーヒーを美味しそうに飲んだ。 「は?・・・主任が戻られるのでは?」 「主任はまだ4週間は戻らないだろう。」 「・・・随分長い休暇ですね。」 「それがあるから辞めないでいるんじゃないか。ハッハッハッ。」 「ですが、主任、副主任と留守にされたら、俺達は誰に指示を仰いだらいいんですか?」 「緊急処置科は、自分で判断して、自己責任において自分のベストを尽くす。と、言うことだな。」 唯と大河はさすがに困惑して顔を見合わせた。 「もし、責任者が欲しいなら君達がやってくれたまえ。肩書きなら充分その資格があるだろう?ハハハッ。ま、頑張ってくれ。」 Dr.ジョンソンはそう言って席を立つと、 「さて、私は少し休憩室で仮眠を取らせてもらうよ。昨夜呼び出しがかかって、あまり寝ていないんだ。早速だが、午後は君達に頼むから、よろしくな。」 と、言い残して先に食堂を出て行ってしまった。 残された唯と大河は、呆気に取られながら見送った。 「何か・・・思い切りとんでもない所に来させられちまったな。」 「臨機応変に対処しろ、ってことだろ?ふふっ。いい勉強になりそうだね。」 「まぁ、難しい手術が多い、ってのは楽しみだけどな。」 「大河の実力発揮ってとこだね。」 唯は楽しそうに微笑んだ。 「よっしゃぁ。俺の腕を振るってやるぜ。」 大河も不敵な笑いを浮かべた。 挨拶だけのつもりだったのが、いきなりのハードワークとなった。 午後にもまた緊急手術が必要な患者が運ばれた他、拒絶反応で意識不明に陥った患者、重度の火傷の患者等々、ゆっくり座る暇もなく立ち働いた。 唯と大河が宿舎に戻れたのは夜8時を過ぎてからで、これから荷物を紐解いて整理するのかと思うと、どっと疲れが出た。 しかも、宿舎の食堂はもう終了してしまっていた。 「クソッ。こんなことならホテルの提供を受けるべきだったぜ。」 大河が唯を横目で睨んで言った。 「明日からは病院の売店で何か買っておくようにすればいいじゃん。」 「俺は今、腹が減ってるんだ。」 空腹で機嫌が悪い大河が、食堂前のホールのような所にあるソファーにドッと腰を下ろした。 「ピザでも頼めないかなぁ?」 唯が機嫌を取るように笑みを張り付けて言った。 「どーこーに注文するんだぁ?・・・場所を聞こうにも、入り口のサービスカウンターだって、もう人なんかいやぁしなかっただろが。・・・やっぱ、ホテルじゃねぇって実感しちまうぜ。」 「バイトするのにホテル住まいなんて方が可笑しいだろ。」 「肩書き分の仕事を要求されてるのに、バイト扱いなんだから笑っちまうよな。」 「バイトはバイトだもん。仕方ないよ。」 「・・・お前ってほんっと冷めてんなぁ。」 大河が溜息を吐いて首を振る。 唯は宥めるように、 「ここで愚痴ってたって仕方ないじゃない。荷物整理は明日に回して、ダウンタウンにでも食事に行こう。」 と、小首を傾げて微笑んだ。 同じだけ労働しているのに疲れを見せず、穏やかに微笑む唯は、まるで一日が始まる朝日の中に佇んでいるように爽やかだった。 大河は、可愛いなぁ、と見取れながら、少しだけ疲れが軽くなった気がした。 「そうだな。そうしよう。」 大河も笑ってソファーから立ち上がった。 「これから、お出かけですか?・・・それは危険だ。」 不意に声が聞こえ、唯はビクッとして声の方へ顔を向けた。 薄暗い廊下から声の主は唯達の方へ歩いてくる。 身長は大河と同じくらいで、明るめの金髪に青い目をした、生粋のアメリカ人といった感じの男だった。 「まだ外は明るいですからね、お気持ちはわかりますが。・・・いくら治安がいいと言っても、犯罪の数は日本の比ではありませんよ。普通の市民なら午後6時以降の外出は控えるのが常識です。」 金髪の男は東部なまりの英語で言った。 大河は、唯と自分を見ただけで日本人と判断したことを怪訝に思い、男を警戒しながら観察した。 唯の美貌と大河の体格で、初対面の外国人に日本人と見られることはまずなかったのだ。 男は大河の視線に気付き、 「あぁ・・・これは失礼致しました。」 と、にこやかに笑った。 「初めまして。私はロバート。政府よりあなた方のガードをするように命令されている者です。」 ロバートは身分証明書を唯と大河の顔の前まで差し出して提示した後、 「どうぞ、よろしく。」 と、握手を求めてきた。 「あ、初めまして。ご存知でいらっしゃるでしょうが、私が唯です。」 唯は笑顔で握手に応えながらも、 「そうしたお気遣いはいらない、と申し上げたはずですが・・・」 と、困ったように言った。 ロバートは大袈裟な身振りを付けて、 「とんでもない。Dr.ユイ。あなたにもしものことがあったら戦争になりかねません。我がアメリカに御滞在されることは歓迎いたしますが、あまり勝手なことは慎んで頂かないと、我々としても困ります。」 と、また東部なまりで不遜に言った。 「そーゆーのは、ガードって言わずに、監視って言うんじゃないのか?」 大河がますます不機嫌な声で言った。 「これはこれは、Dr.タイガ。見事な手術、拝見させて頂きました。あなたの執刀はまさにゴットハンドですねぇ、敬服致しますよ。」 ロバートは大河に笑みを向けてそう言ってから、 「ですが、あなたなら我々の心配も御理解頂けると思いますよ。知らない土地で、あなただけのガードではあまりにも不用心だということを。」 と、下から探るような眼差しで見つめた。 「病院内ならともかく、敷地以外への外出には、私と部下の者数名が同行させて頂きます。」 「そんなことされたら余計目立つだろうが。」 「ですから、外出されないのが一番、ということです。」 「勝手なことを言うな。」 「大河・・」 唯が、声を荒げる大河を宥めるように腕をつかんだ。 「お夕食に間に合わずにご立腹ですか?」 ロバートはクスクスと笑った。 「ピザでもスシでもチャイニーズフーズでも、ご希望の物をお部屋まで届けさせましょう。」 「それは助かります。」 唯は微笑んで頷いた。 「そうですとも。ギブアンドテイクで友好的にやっていきましょう。我々を快く受け入れて頂ければ、我々としても様々な協力を提供させて頂きます。」 「わかりました。よろしくお願い致します。」 唯の返事に、ロバートは満足そうに頷いた。 「ああ・・申し遅れましたが、私の部屋はお二方の隣りですので、必要な時にはいつでも声をかけて下さい。」 大河は嫌そうに顔をしかめたが、唯に腕を引かれたので、仕方なく部屋に戻ることにした。 隣りの部屋だというロバートも当然付いてくる。 街に出る自由もなく、仕事はハード。 先の思いやられるスタートとなった一日だった。 |
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<42> 「近くて遠い存在」 |
<42>「近くて遠い存在」 シアトルの朝。 「おはよう、大河。そろそろ起きないと朝食の時間がなくなるぞ。」 シャワーを浴びた体にバスローブを羽織り、タオルで髪を拭きながら、唯が大河の部屋に入ってきた。 窓に掛かった厚手のカーテンを開くと一気に部屋が明るくなる。 「うー・・・」 大河が布団を頭に被せて呻る。 唯はクスッと笑って、窓を開け、新鮮な空気を入れる。 「うわっ・・・風が冷たい・・・」 夏でも朝晩は10℃以下に冷え込むこともあると、拓磨から届いた資料に書いてあったことを思い出した。 それでも、しばらくは新鮮な空気に深呼吸していた唯だったが、さすがに寒くなって窓を閉めた。 「ほらぁ・・・起きろよ。」 寒くなった唯は自分の部屋に戻って着替えたくなったので、大河を早く起こそうと布団ごと揺すった。 と、大河の逞しい腕が布団からニョキッと出て、唯の腕をつかんだ。 それから、布団を一度上げて唯を引っ張り込むと、唯ごと布団にくるまった。 「ちょっ・・っ大河・・」 唯の体を足と腕で押さえつけ、すっぽり腕に抱き包んだ大河は、有無を言わせずにキスをした。 唯は眉を寄せたが、前に”キスくらいならしてやる。”と言ってしまった手前仕方なく、おとなしくキスに応じた。 大河は唯の舌を絡め取るように吸いながら、唯のバスローブの紐を解いた。 「んん、、、ぁ、、、それは反則だぞ。」 「どこにルールブックがあんだよ。・・・こんなに冷えて、アホか?俺が燃える思いで温めてやるぜ。」 大河が余裕の笑みを浮かべ、再び唇を重ねる。 唯を腕の中に確保したまま、モゾモゾと動いてパジャマのズボンを下げていく。 大河の筋肉の張った足が絡みつき、固くそそり立つ男根が唯の下腹部に押し当てられる。 「ん、、、おい・・大河・・・」 「扱き方は教えてあるだろ。・・やれよ。・・唯。」 大河が唯の手を、自分の肉棒まで強引に誘導する。 「・・あのなぁ・・・お前のシモの世話までしてやる義理はないぞ。」 唯は嫌そうに顔をしかめながらも、大河の固くビンビンに張った肉棒を、手に包むようにして擦り始めた。 「あぁ・・・気持ちいいぜ。」 大河は目を閉じて、たまらなそうな息を吐いた。 「・・ったく・・・これくらい自分でしろよ。・・・横着な奴。」 「フン。・・・あいつのはしてやったんだろ?」 「・・・してないよ。・・・無理しなくていい、って言うんだもん。」 唯の目に寂しそうな影が差し、声が弱々しくなる。 「・・・へぇ・・・」 大河は本気で意外だったので、目を何度か瞬いた。 それから、唯の手の感触を堪能しつつ、唯の顔にかかっていた髪を指先で後ろに流してやった。 「まぁ・・・あいつのことは、もう忘れろよ。な?」 唯が拗ねたように眉を寄せる。 「忘れる訳ないだろ。戻るって約束してくれてるし、俺は待ってるよ。」 「待って、どうすんだよ?」 大河はムッとして、唯の手の動きをもっと早くするようにと促す。 唯は溜息を吐いて、手を早く動かしながら、大河の問いかけに答えが見つからないまま、九条の顔を思い浮かべていた。 「・・・俺が忘れさせてやるさ。」 大河は囁くように言って、熱いキスを繰り返した。 「うぅ・・・あぁ・・・いい朝だなぁ。」 大河が気持ち良さそうに喘ぐので、唯は、 「・・・早く済ませちゃってくれ・・・」 と、恨めしそうに小さく呟いた。 「んー・・・この幸せをずっと噛みしめていたいぜ。」 「マジで朝食の時間がなくなるぞ。」 「朝飯より、唯が喰いたい。」 「腹減ると機嫌悪くなるくせに。」 「やっと、二匹のお邪魔虫から開放されたんだ。・・・あぁぁ・・・すぅぅっ・・・はぁぁ・・・」 大河自身も腰を動かして、唯の肌に肉棒の先端を擦りつけ出す。 はち切れそうに張り出し赤く熱を持つ亀頭から、ヌルヌルの汁が零れ出している。 ヌルヌルと肌に塗られて、唯は、せっかくシャワー浴びたのになぁ、と異様な生き物のような大河の巨根を眺めていた。 「くわえてくれるのか?」 「なっ・・・」 唯は顔を上げ、大河を睨んだ。 「そこまで面倒見れるか。・・・二匹じゃなく五匹とも呼び寄せるぞ。」 「フフン。ここはペット禁止だぜ。」 「・・・あーあ・・・ペットが飼えるホテル探すかなぁ。」 「そんな寂しそうに言うなよぉ。・・・俺がいるだろ?・・・ん?」 大河はすっかり恋人気分に浸って、唯を可愛がり始めていた。 「節約してバイト代、貯めなきゃな?・・・そうだろ?」 「・・・うん。」 大河は素直に頷く唯の額にキスをすると、ギュゥッと抱き締め腰の動きを早めた。 「はぁぁ・・・仕事はキツイが、唯を独占出来るのは最高の気分だなぁ。・・・冬馬さんが一緒に来るかと思ったが、仕事で・・ゥプッ・・」 唯が大河の口を、扱いていた手で押さえた。 唯の手についていたヌルヌルの青臭い臭いが鼻をつく。 「なんだぁ?」 大河が顔をしかめる。 「だって・・・こっちの手しか動かせなかったから・・・」 唯が小声で言う。 「いや、そうじゃなく・・・って、え?・・何?」 大河も唯の表情に気付いて声を潜めた。 唯が大河の耳元に口を寄せて囁く。 「昨日、ロバートが言っただろ?大河が俺をガードしてるって。」 大河は、そう言えばそんなことを言ってたな、と頷く。 「普通、俺達のことは対等に見るもんだろ?学友なんて昔のことで、今はお互いにドクターなんだからさ。」 大河はまた、ふんふん、と頷く。 「天才外科医をつかまえて、ボディーガードって言うのは、相当事情を知ってるってことだろ?」 「・・じゃぁ・・・」 大河は声に出さず、唇だけで後を続けた。 {秘密結社を知ってる?} 唯も唇だけで話すことにした。 {そう思わない?・・・だって、俺が戦争を起こすみたいな言い方するしさ。} {確かに怪しいな。・・ってことは、ここは盗聴されてる?} {そう思ってた方がいいかも。迂闊に冬馬さんや拓磨さんの話題は出せないよ。} {そうだな。} 大河は頷き、 「俺達が恋人同士だとバレるくらいならいいけどな。」 と、唯の耳元に楽しそうに囁いた。 「いつからそうなったんだ?」 「まあまあ、そうしとこうぜ。な?」 大河は、思い切り眉を寄せた唯にディープキスをしながら、たっぷりと熱いミルクを迸らせた。 唯の胸からヘソまでが大河の白濁液まみれになる。 「ううう・・・また、シャワー浴びなおさなきゃ。」 唯はベッドから飛び降りると、浴室へと駆けんだ。 大河もすっきりした顔で唯に続き、一緒にシャワーを浴びた。 唯と大河が支度して食堂へ行くと、食堂前の小さなホールのソファーで、ロバートが新聞を読みながら待っていた。 「おはよう。ロバートさん。」 唯が声をかけると、顔を上げ、 「あ、おはよう。Dr.ユイ。Dr.タイガ。」 と言って、新聞を折り畳み、ソファーから立ち上がった。 どうやら一緒に食事をするらしい。 食堂はそれぞれ、サラダとメインディッシュとパンやパスタ、そして飲み物とデザートのコーナーに何種類かのメニューが用意されていて、好きな物をチョイスした後、レジで部屋番号に打ち込まれるシステムになっていた。 滞在期間に応じて、週ごとか月ごとに精算がされるということだった。 料理を乗せたトレーを持って空いている席に唯と並んで座った大河は、周囲の視線が自分に向けられていることに気付いた。 「Dr.タイガ。あなたは一躍有名人ですよ。」 大河が視線を気にしていることに気付いたロバートが言った。 「俺が?」 「ええ。昨日の活躍は病院中の評判になってましたからねぇ。」 「・・・あんたがふれ回ってるんじゃないだろなぁ?」 「とんでもない。何故私がそんなことをするんです?・・Dr.タイガ。あなたはご自分の真価がわかってないようですね。」 「けっこう、わかってるぜ。」 大河は片頬に笑いを浮かべた。 「それなら噂になるのも当然と思いませんか?」 「なるほど。・・・こーゆー現場だけの仕事は初めてだから、これほど注目されるとは思ってなかったけどな。」 「ああ・・・そう言えば、ずっと研究室でしたね。・・・勿体ない。あなたのような方はどんどん現場で活躍されるべきですよ。」 「将来的には考えなくもないが、今はまだ遊びたい・・コホッ・・学びたい気持ちが優先してるもので。」 「Dr.ユイの為に?・・文学などご自分の専門外でしょう?」 大河はロバートの言い方が気に障って、 「そこまで干渉されたくないな。」 と、話を打ち切るように横を向いた。 ふと、唯を見ると、唯はある一点に視線を向けて、食事をするのも忘れるほど気を取られているようだった。 大河が唯の視線を追うと、そこには明らかにアラブ人とわかる男がもう一人のアラブ人とアメリカ人の三人で食事をしていた。 隅の方の席で、少し他の集団からは間隔を置いているように見える。 大河の存在を気にしている集団とは雰囲気が違い、自分の世界に浸っているようにも見えた。 側にいたアラブ人が唯の視線に気付いたようで、男にそっと耳打ちをする。 特に驚くこともなく、唯が見つめていたアラブ人は唯に顔を向け、軽く頭を下げた。 唯の方がドキッとしたようで、慌てて照れたように微笑むと会釈を返した。 大河が面白くなさそうに目を眇めていると、アラブ人と一緒にいるアメリカ人がロバートに軽く手を挙げて、口だけで「Hi!」と言った。 ロバートも同じように返してから、 「Dr.ユイ。彼が気になりますか?」 と聞いてきた。 唯は顔を前に戻し、ロバートに視線を向けた。 「・・何となく・・・」 「彼にも私の同僚、つまり政府のガードがついていますからね。」 ロバートは笑顔で言った。 「あぁ・・・やはりそうでしたか。」 「彼は某国の王子の子息です。ただ、父上が王子と言っても、政権からはかなり遠い13番目の王子なので、その子息ともなると政治とは違う職業につくようですね。」 「あの方もドクターですか?」 「ええ。最先端の医療器械を導入するのに、その実践的使用方法を学びたいからと、2週間ほど前から研修の為に滞在されてます。」 「そうですか。」 唯はなるほど、と頷いた。 「人のことを気にするより、さっさと喰っちまえよ。時間がないぞ。」 「あ・・・うん。」 唯は、誰のせいで時間がないんだ、と言いたげな視線を大河に投げて、バターロールを千切って口に入れた。 唯が食べることに専念していると、食事を済ませたアラブ人が唯達の席に近付いてきた。 大河に肘をつつかれて、唯が顔を上げると、視線が合ったアラブ人が静かに微笑みかけてた。 「さきほどはどうも。」 そう言われて、唯は赤面して席を立ち、 「どうも、失礼しました。・・私は日本から研修に来ている唯といいます。と言っても、昨日到着したばかりなので何も知らなくて・・・」 と、ずっと見ていた言い訳のように言葉を濁した。 アラブ人は気にする様子もなく、 「構いません。こちらもあなた方お二方のお噂をお聞きしていましたので、気になっていた所です。」 と、穏やかに笑った。 「むしろ、お話をするきっかけが出来て、幸運に思っております。」 アラブ人が握手を求めるように手を出したので、唯は、 「良かった。しばらくは同じ病院で働く同僚ということになりますね。どうぞ、よろしくお願いします。」 と、握手した。 大河も席を立ち、 「唯の親友の大河です。よろしく。」 と、唯に続いて握手をした。 「よろしく、Dr.タイガ。・・ああ、名乗るのをうっかりしてました。私はラウールといいます。」 「Dr.ラウール。・・時間があればゆっくりお話したい所ですが・・・」 「そうですね。まだ、しばらく滞在する予定ですので、・・また、後ほど。」 「ええ、是非に。」 唯が目を輝かせて微笑むのを、ラウールは目を細めて笑みを返して、食堂を立ち去っていった。 大河は、嬉しそうな顔でポーッとしている唯を急かして、食事を済ませた。 時間ギリギリで、走り込むように緊急処置センターに出勤した唯と大河が、呼吸を整える間もなく、容態の急変した患者が運び込まれてきた。 大河はロバートのいない所で、さっきのことを唯に意見してやろう、と思っていたが、その暇もなく緊急手術に駆り出されることになった。 病院側は、大河の外科医としての腕の確かさを、すっかり頼りにしてしまったようで、他の科で担当するべき手術まで回してくるようになっていた。 唯は大河の助手をする一方、Dr.ジョンソンから事務的なことを頼まれる他、抱えている患者への対処法も指示され、諸々の雑用を引き受けるはめになったいた。 Dr.ジョンソンは、大河が手術であてにされている分、自分の留守の責任を唯に任せようという考えのようだった。 大河は大河で、唯がいないと手術が出来ない、と主張するので、唯は目が回るほどに忙しくなってしまった。 それでも、そつなくこなす唯は、大河とは別の意味で緊急処置センターに欠かせない存在になっていった。 けれど、やはり注目を浴び続けるのは、1%の成功率でも楽々こなして成功させる大河だった。 「お前が手術の段取りを決めて、難しい処置でも的確な指示を出してくれてるから、俺の成功に繋がってるのにな。」 と、大河は自分ばかり評価されていくことを不思議そうに言ったが、唯は、 「お前が評価されるのは妥当だし、俺も友人として自慢に思うよ。・・クスッ。それにお前が目立ってくれると楽でいい。」 と、大河以上に忙しくし働いていながら、嬉しそうに笑うのだった。 確かにこれまでは、並み居る教授達が唯を集中的にあてにしていたので、その重圧や責任は想像を超えるものだったろう、と大河も今回のことで一層理解出来るようになっていた。 その当時に比べれば、どんなに忙しくても、今の方が楽なのかも知れない。 「けどなぁ、大河。評価が高いのはいいが、看護婦さん達がやけに親切だからって、あまり甘い顔はしてるなよ。」 唯は自分のことより、大河の女遊びが始まることを心配しているようだった。 「お?・・妬いてるのか?」 大河が嬉しそうにニヤニヤして言うので、 「待ってる彩香ちゃんのことを考えてやれよ。」 と、釘を刺すように言った。 大河は、何だ、とばかりに伸びをして、肩の凝りをほぐすように首を回した。 「唯。・・ここ、マッサージしてくれ。」 大河が肩を指先で叩く。 唯は、やれやれ、と椅子に座っている大河の背中に回って、揉み始めた。 「んー・・・いいなぁ。・・・まあ、お前が朝晩、俺に奉仕してくれるなら、他の女に興味は向けないんだけどな。」 「・・・あ・・・朝晩?!」 「ィテテテテェッ・・・もっと、ソフトにしろよ。」 唯がツボを思い切り押したので、大河が首をすくめて文句を言った。 「あんなマネ、毎日してられるか。」 「なら、干渉するな。」 唯の言葉に大河がふてくされて言った。 それでもマッサージを続けている唯に、大河は自分を親友として以上に見てくれない寂しさを感じていた。 九条の一件で紫の発光体を何度も爆発させていた唯は、見るからに消耗が激しく、一時は5kgも体重を落としてしまっていた。 どうにか顔色は良くなってきているが、まだ体力的には、相当に落ちているのだろうか。 そう思うと無理強いも出来ない。 これほど身近にいながら、大河は唯への距離が遠く感じて、恋しさに胸が切なく痛むのだった。 |
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<43> 「責任能力」 |
<43>「責任能力」 金曜日の夕方、Dr.ジョンソンは、 「いやぁ、これまでになく気持ちのいい旅立ちだ。」 と、にこやかな笑顔で言った。 「君達のように、頼りになるバイトが来てくれて、私としても安心して留守を任せられると言うものだ。」 Dr.ジョンソンも、唯の目立たないがズバ抜けた才能に、最近になってようやくわかってきたようだった。 唯の豊富な知識のみならず、管理能力や緊急時における判断力、鋭い視点から的確に繰り出される指示能力、等々に、大河への驚嘆とは違った感嘆を持つようになっていた。 それで、冗談で言っていた自分の留守の代理として、唯を緊急処置科の責任者に抜擢してしまったのだ。 元からいる他の医師達も、自分達には及ばない唯と大河の才能に敬意を持つようになっていたし、むしろ責任者という逃げようのない立場に、ならずに済んでホッとしているようだった。 「それでは、Dr.ユイ、Dr.タイガ。後はよろしく。」 明日には国外へ旅立つというDr.ジョンソンは、患者への対応に追われる二人へ手を振って、さっさと病院を後にした。 大河が呆れて、 「なぁ。Dr.ジョンソンは後一週間はいるって言ってなかったか?」 と、月曜日の初めて挨拶した日のことを言った。 「週末は休日として含まれてなかったんだろ。」 唯は看護婦への指示を出すかたわら、大河の愚痴を宥めて苦笑した。 「手が空いてる時には、宿直用の仮眠室で少し寝るといいよ。」 「昼間にか?」 「手術がどんなに神経を使うかは、みんな知っているさ。実際、細かい神経や血管を間違いなく繋げていくのは、並みの神経じゃ出来ないし、集中力も維持させ続けるのは大変だもの。」 唯はカルテを見ながら、各々の処置を指示書に書き込みながら、大河と会話している。 Dr.ジョンソンを始めとする他の医師や看護婦達は、初めてその様子を見た時には、唯が遊び気分で仕事をしているのかと、疑ったこともあったが、指示書に書き込まれた内容は、詳細な注意まで書き込まれた正確なものだったので、今はそうした才能なのだと理解し、唯に絶対の信頼を寄せるようになっていた。 「俺ばかり休んでもなぁ。」 大河は忙しそうな唯に申し訳なさそうに言った。 「大河だから一日に三つも四つも手術をこなせるんだ。充分すぎる活躍だよ。」 「全部お前が補佐してるじゃないか。」 「あはっ。俺は助手だからな。」 「お前の指示がなきゃ、俺は今の倍は時間かかるぞ。」 「言うは行うより易し、ってね。」 「それを言うなら、行うは言うより難し、じゃねぇか?」 「どっちだって同じようなものだろ。いいから、次のお呼びが掛かるまで休んでろよ。」 「んー・・じゃぁ、そうさせて貰うわ。」 大河は疲れたように首を回すと、仮眠室へと向かった。 「Dr.タイガ。」 大河が廊下を歩いていると、看護婦が体を擦り寄せてきた。 「お飲物でもお持ちしましょうか?」 大河は、ん?と看護婦を見下ろした。 アメリカの女性から見ても、大河は身長がある方だった。 特に看護婦はローヒールの為、並んで立つと大河を見上げる視線になる。 その視線には女を感じさせる色香があった。 大河は内心ニヤリとして、 「そうだなぁ。お願いするか。」 と答えた。 「コーヒーかコーラ、それともジュースがいいですか?」 「ダイエットコーラにして貰うかな。」 「はい。それじゃ、すぐにお持ちしますね。」 看護婦は嬉しそうに笑って、スタッフ用の食堂に取りに行った。 おいおい、仕事中にいいのか?、と思いながらも、なかなか唯に奉仕して貰えない大河は、溜まっているエネルギーが股間に集中していくのを感じて、鼻歌まじりに仮眠室のドアを開けた。 大河がベッドに横になって目を閉じていると、看護婦の入ってくる気配がした。 看護婦はベッドの脇のサイドボードに飲み物を置いた。 飲み物が揺れて、氷のあたる音がする。 それでも、大河が目を閉じたままでいると、看護婦が大河の腰の横辺りに座り、両脇に腕をついて、体を乗せてきた。 息を間近に感じて、大河が薄目を開けると、看護婦が唇を重ねてきた。 大河は看護婦の背中に腕を回して、抱き寄せてやった。 キスをしながら、大河は看護婦のリストを思い出し、データを探した。 名前はキャシーだったな、と胸を愛撫するようにしてネームで確認し、23歳、看護婦寮にいるフロリダ出身の子だ、と改めて頭にインプットした。 「キャシー。仕事はいいのかい?」 「ドクターの疲れを取るのも看護婦の仕事だわ。」 キャシーは一度顔を引いて、フフン、と笑うと、また熱烈にキスをしてくる。 「ん・・嬉しいけど、・・こんなサービスがあるとはバイトの条件には載ってなかったなぁ。」 「・・・あん・・・意地悪ぅ。・・・初めて会った時から、Dr.タイガに夢中になっちゃったんだもの。」 キャシーは体をくねらせて擦り付けながら、大河の股間に手を伸ばす。 すでに勃起した男根がズボンを大きく押し上げている。 キャシーは、ワァォ!、と目を輝かせ、掌で撫で始めた。 「今はマズイよ。・・・それに、俺は日本に彼女がいるんだぜ。」 大河はキャシーの胸をいつの間にかはだけて、ブラジャーの中に手を滑り込ませ愛撫しながら言った。 「ぁぁ、、、ん、、、それでもいいの。・・・お互いサマーバケイションを取れない者同士、楽しみましょう?」 「君がそれを承知していてくれるなら、俺としては拒む理由はないけどね。」 大河は片眉を上げて、不敵な笑みを浮かべた。 ゆっくりと前戯をしている暇はなかった。 いつ呼び出しがかかるか、わからない。 大河とキャシーは急いで制服を脱ぎ捨てると、体を一つに合わせた。 キャシーが大河の上に馬乗りになる形で、 「Ah!・・・オー、イェス、、、スーッ、、、オー、ナイス、、、」 と、あまり高い喘ぎ声は出さずに、それでも激しく腰を振りながら、体を仰け反らせて感じていた。 大河も力強く突き上げてやりながら、金髪の陰毛も悪くないな、とアメリカ人女性の体を鑑賞していた。 キャシーは大河が、 「時間がないから、早めにフィニッシュさせるよ。」 と、言うと、自分から大河の男根をくわえて、口の中でいかせてくれた。 そして、 「Dr.タイガはベッドテクニックも最高なのね。」 と、言ってウィンクすると、上気した顔で急いで制服を身につけ、先に部屋を出て行った。 大河は心地いい虚脱感に浸りつつ、アメリカ娘も悪くないな、と満更でもない満足感にニヤつきながら、氷の溶けきったダイエットコーラをゆっくりと飲むのだった。 それから30分ほど微睡んでいると、アナウンスで呼び出しが掛かり、処置室へと向かった。 「また緊急手術が入ったんだ。・・どう?少しは休めた?」 唯が済まなそうに言うので、 「充分休めたよ。すっかりリフレッシュしてるぜ。」 と、意欲満々に答えた。 そして、チラリとキャシーの方に視線を向け、目が合った瞬間にウィンクを投げてやった。 ベッドでは大胆なキャシーも、先輩看護婦のいる前では控え目にしているようで、気付かれない程度の笑みを返してよこした。 ただ、うつむいたキャシーの横顔には、天才外科医の大河と特別な関係になれた優越感があった。 抱かれる前は、ただ男としての大河に抱かれたい欲望だけだったキャシーも、まだ大河達の長い滞在期間を思うと、日本の彼女より自分の方を好きにさせることが出来れば、略奪婚も夢じゃないかも、と密かな野望が生まれていた。 夜中になって緊急の呼び出しが掛かった。 これでもう三度目である。 「週二回くらいじゃなかったのかよ。」 熟睡を叩き起こされた大河が不機嫌に起き出してきた。 「心臓外科に掛かってる患者の容態が悪化したらしい。再手術が必要になるかもな。」 電話を受けた唯が支度をしながら大河に説明する。 「心臓か・・・ヤバイな。」 大河も文句を言ってる場合じゃないと支度を急いで、部屋を飛び出した。 宿舎から緊急処置センターまで、最近は自転車で行くことにしていた。 呼び出しが多いのと勤務時間がどうしても長くなってしまうので、通勤の負担を減らす為にロバートに調達して貰ったのだ。 処置室に駆けつけると、唯に指示された応急処置をしていた宿直の研修医が、泣きそうな顔で振り返った。 「すぐに手術に入ります。準備は?」 「はい。看護婦に指示しました。」 「手伝ってください。運びますから。」 「はい。」 研修医がオドオドして答えたので、唯は微笑んで、 「大丈夫。至急頼みます。」 と、急ぐように促した。 唯は症状を確認しながら、手術の目的と段取りを大河と相談していたが、 「・・・もう、無理じゃないか?」 と、大河が弱音をこぼした。 「大河になら出来るさ。何としても助けよう。」 そう唯に肩をグッとつかまれると、不思議と大河も自信が湧いてくる。 「そうだな。ベストを尽くそう。」 大河も力強く答えた。 唯の大河への信頼度は、大河が自分の技術に自惚れる以上のものがあった。 この絶対の信頼が、これまでも難しい手術を投げ出したくなる時でも、大河に自信を与えてくれ、技術を向上させてきてくれたと、実感する。 スポーツでも、金メダルを取る選手の陰には名コーチの存在があるように、大河にも的確な指示を出してくれる唯の存在は欠かせなかった。 お互いを信じ合う強さはどんな関係よりも強いと言えた。 だから大河は、唯と手術に向かっている時が、一番充実し、幸せだった。 例え唯が患者を救うことだけに全身全霊を傾けていても、その祈りを叶えられるのは自分だけなのだ、と思えることが快感だった。 大河のエクスタシーは手術をすればするぼど蓄積されていく。 手術は神経的な疲労はあったが、逆にエネルギーは充填されていってしまう。 毎日の手術三昧の日々が、大河の股間をビンビンにしてしまい、誘惑に勝てないのも無理からぬことだった。 「お疲れ様、大河。」 まだ、予断は許さなかったが、取り敢えず難しい手術が無事終了すると、唯が最高の微笑みで労ってくれる。 いつものことではあるが、大河は極上の微笑みを浮かべる唯を見る度に、たった今まで執刀していた血まみれの手術台に、唯を押し倒して犯してみたい欲望に駆られてしまう。 実行する気はない、というより、唯がそう簡単には押し倒されてくれないし、もし実行しようものなら、拓磨に明かりも入らない独房に押し込められそうで、出来るはずもなかった。 が、それでも、頭に浮かぶ妄想は消しようがなかった。 「何とかご期待に添えたかな?」 「うん。さすがは大河だね。」 唯が透明感のある綺麗な目を輝かせ、敬意を込めて頷く。 「それは、どうも。」 大河は、はぁぁ、たまらなく可愛い、と抱き締めたい欲望を抑えて、目を細めてウィンクをする。 唯はクスッと笑い、 「大河は先に宿舎に戻って休んでよ。」 と、言った。 「唯は帰らないのか?」 「うーん・・・まだ、目が離せないし、症状を診ながらでないと次の対処が出来ないから、今夜は付いてることにするよ。」 「なら、俺も付き合うぜ。」 「大河にはちゃんと疲れを取っておいて欲しいから。」 「唯だって疲れてるだろう?」 「そうでもないさ。それに、付き添いしながらでも書類の整理くらい出来るし、その分明日が楽になるしな。」 「・・・明日?・・・明日って、土曜日のことだよな?」 「うん。」 「つーか、もう今日だけど・・・バイト契約、週休二日だったはずだぞ。」 「だって・・・仕方ないじゃん。人手不足なんだから。」 大河は大きく溜息を吐いた。 「Dr.ジョンソン。唯に管理を任せて欲しくなかったぜ。・・・ったく、これだからなぁ・・・」 「日曜日は、大河は完全オフにしてあるから、協力してくれよ。」 「お前のことを心配してるんだ。」 「だから、俺は大丈夫だって。今、宿舎に戻っても、もっと気になって眠れなくなるからさ。」 「なら、俺もここにいる。」 「じゃぁ、せめて仮眠しててくれ。寝不足で手術の時、手元が狂ったら一大事だからな。」 唯がそう言って苦笑するので、 「チェッ。わかったよ。・・・あまり一人で抱え込まずに、何かあったら俺を呼べよ。」 と、唯の頬にキスをした大河は、また仮眠室へ行くことにした。 大河が仮眠室のベッドに座って、途中で買ったスポーツドリンクを飲んでいると、 「Dr.タイガ。ふふっ。お疲れ様ぁ。」 と、私服のキャシーが入ってきた。 「キャシー?・・君は夜勤じゃなかったよな?」 「ええ、そうよ。」 「何でこんな時間に病院に来てるんだ?」 「だってぇ・・・ルームメートの子が時間になっても戻って来ないから、また緊急の患者さんかなぁ、って思ったの。」 そう言いながら、キャシーは大河の隣りに座った。 「ルームメイトって・・・エミリー?」 「あー・・Dr.タイガ。エミリーにまで気があるのぉ?」 キャシーが頬を膨らませて、体を押しつけてくる。 「今夜、この時間にいた看護婦の中で、寮に入っている独身の子は、エミリーしかいないだろ?・・それだけのことだよ。」 大河は、キャシーの来た目的が、自分の今一番欲するものと符合していることを理解して、キャシーの体を抱き寄せた。 「あ、、ん、、、ドクター・・・」 キャシーも大河の首に腕を回し、自分から唇を合わせていく。 アメリカの女性だからとは思わないが、これほどセックスに積極的な子はこれまでの経験でなかったので、大河としても、どれほどのテクニックがあるのか、興味があった。 それに、セックスに特別な意味を持たせない軽い感覚が、自分と気が合うように思えていた。 お互いが気持ちのいいことを楽しめばいいんだ、と思う大河には、セックスに対して罪悪感の強い古い大人達が理解出来なかった。 特に厳格なカトリックの神父のように禁欲をモットーとする拓磨や、あの冬馬でさえ唯に性欲を抱くことは罪悪のように思っている。 唯自身は生理現象の一つとして、排尿と同じく処理するものと捉えている所があり、精神年齢が実は低いのではないか、と思っているのだが。 キャシーの熱烈なキスに応えながら、そんな思いが過ぎっていたが、手術が終わってから勃起した状態が続いている男根を、キャシーにズボンの上からギュゥゥッと握られ、欲望が堰を切って溢れ出した。 大河がキャシーをベッドに押し倒すと、キャシーは自分から服を脱いでいき、大河が脱ぐのも手伝って求めてきた。 「あなたのコックって逞しくて素敵。」 キャシーはストレートに表現して笑顔でしゃぶりついてくる。 「君にそう言って貰えると嬉しいね。」 大河は、いかにも美味しそうに舐め回す、キャシーの髪を撫でながら言った。 キャシーは上目遣いにペロン、ペロン、と舐めて見せ、 「本当よ。あなたよりビッグなコックは二人しか知らないもの。」 と言って、驚くほど深くくわえ込み、頭を早いペースで上下させ始めた。 二人かぁ、それって多いのか少ないのか、微妙な所だな。 大河は苦笑したが、まあ、いい、と目を閉じて快感に心を明け渡した。 唯は手術後の経過を診ながら、書類への書き込みを終えると、他の患者の様子を見回ることにした。 緊急の対応が求められる患者は、専門の病室に戻る前に、しばらく預かって様子を看る場合もあったのだ。 Dr.ジョンソンの言っていたように、あらゆる知識を掌握してないと対処出来ない科というのは本当だったようだ。 もっとも、患者の担当の医師が様子を診に来て、指示をしていくこともあったが、咄嗟の判断は現場にいる者にしか出来ない。 重責に堪えかねて辞めていく医師が多いのも頷けた。 けれど、唯には様々な症状の患者と直接出会えることは、とてもいい勉強になると感じていたので、拓磨がこの職場を見つけてくれたことに感謝していた。 大河はいくらか不満もあるようだったが、それでも毎日盲腸や痔程度の手術が続くような病院だったら、もっと不満でたまらなかっただろう。 大河の拓磨への文句は、一種の甘えなのだろう、と唯も冬馬も拓磨自身もわかっていることだった。 だから拓磨も、大河が文句を言うのを承知で、厳しいことを言ったりしているが、大河が思うほどには大河に対して厳しくはなかったのである。 秘密結社の厳しさはこんなものではないことを冬馬は知っていたし、唯に触れさせようとしない配慮に、唯も充分察していることだった。 拓磨に全てを任せてしまっていることを申し訳なく思う唯は、どんなに忙しくても、拓磨の比ではないと思うと、もっと頑張ろうと、気持ちが引き締まるのだ。 世の中はもっと厳しい。 時には冷酷になり、制裁や処罰を、決断しなければならないこともあるだろう。 少なくても、自分は今、人(患者)を救うことだけを考えていられるのだ。 こんな幸せなことはない、と思う唯だった。 患者を見回った後、唯は大河の様子が気になって仮眠室に立ち寄った。 ノックをしたが返事がなかったので、眠っているのかと、そっとドアを開けた唯は目を丸くした。 ベッドに上半身うつ伏せになった女性が、秘部を剥き出しの状態で床に立っている。 そして、大河が仁王立ちになって後ろから責め立てるように突き上げているのだ。 一瞬、何事かと、聡明な唯の理解を越えた。 これまで詰め込んできた知識の中には答えがなかったのだ。 「ぅあっ・・・唯・・・」 大河が唯に気付き、動きを止め、キャシーと繋がったまま立ち尽くした。 ベッドに顔を伏せていたキャシーが、うっとりとした表情で唯に視線を投げた。 その表情でようやく理解した唯は、 「あ・・・ごめん。邪魔するつもりはなかったんだ。」 と、慌てて仮眠室を出ていった。 大河は、しまったぁ、と顔をしかめたが、 「Ohooo、、、カモォ〜ン、、、」 と、キャシーがじれったそうに、自分で繋がった部分を動かして欲しがるので、 「・・・見られちまったもんは、しょーがねぇな・・・」 と呟いて、再び激しく突き上げ始めた。 ジュブ、ジュブ、ジュブッ、、、 深く肉棒を食い込ませる度に、キャシーの蜜と一緒に、さっき中に放出した大河のミルクも溢れてくる。 それがキャシーの股を伝って、打ち付ける肌がピチャピチャと嫌らしい音を立てている。 「Ahuuu、、、スィーッ、、、オー、、、グレィト、、、」 キャシーは体をうねらせてよがり、自分でも赤く開いた花弁を大河に擦りつける。 大河は開き直りの心境で、キャシーがベッドに倒れ込み、悶絶に恍惚と体を震わせるまで、激しく抱いてやった。 それからキャシーに毛布をかけてやると、仮眠室のシャワーを浴び、白衣を着て診療室へと戻った。 唯は机に向かって、最新の医学誌を読んでいた。 「・・唯・・・さっきは悪かったな。」 「ううん。俺の方がうっかりしてたよ。ごめん。」 唯は医学誌に目を向けたまま答えた。 「・・あのなぁ・・・」 「あ、でも、仮眠室は個室じゃないから、気を付けないと他のドクターから苦情が出されるぞ。」 「・・そうだな。」 「付き合い始めちゃったものは文句を言っても仕方ないし、デートしたいなら大河の部屋に呼んであげるといいよ。」 「え・・・いいのか?」 「あの宿舎は看護婦寮と違って、恋人禁止じゃなかったはずだけど?」 「いや、それは知ってるが・・・唯がさ・・・」 「俺は気にしないからいいよ。宿舎生活も俺の節約に付き合わせちゃってることだしな。それくらいの自由がなかったら、大河も息が詰まるよな。」 唯がそう言って顔を上げ、大河に優しく微笑んだ。 「・・・彩香のことは言わないのか?」 「だからさ・・・付き合い始めてから文句言えないだろ?・・・それを言ったらキャシーだって辛くなるだろうし・・・」 「キャシーには、日本に彼女がいることは話したんだ。」 「そっか。・・・でも、その言葉に甘えずに、付き合う間くらいは優しくしてやれよ。」 「ああ、そうだな。」 「・・・彩香ちゃんには・・・秘密にするか告白するか、日本に帰った時点で考えるしかないよな。」 「そう思うか?」 「だって、今知らせたら、泣いても縋る相手がいないんだぞ。怒ってもそれをぶつけられる相手もいない。・・・バレないようにしろよ。」 大河にとって唯の言葉は意外だったが、確かにその通りだと思い頷いた。 「俺は朝食前にシャワー浴びたいから、その頃に一度戻るけど、大河はキャシーを送りがてら先に帰るといい。」 「ああ、わかった。そうする。」 大河はほっと溜息を吐いて、気の抜けたような笑みで頷くと、唯の指示に従うことにした。 Dr.ジョンソンが責任者に抜擢するのも頷ける。 拓磨が唯は大人だと言うのも納得出来る。 医師や看護婦が信頼を寄せるのも無理なかった。 それでも、部屋を出ながらドアを閉めかけた大河の目に映った唯の横顔は、頼りない迷子のように寂しそうな影が漂っていた。 |
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<44> 「それぞれの立場」 |
<44>「それぞれの立場」 朝食の時、ロバートが、 「徹夜のお仕事、お疲れ様ですね。」 と、唯に言った。 初めの頃は、唯に敵意を含むような言い方をしていたロバートも、唯の仕事ぶりを見ている内に、唯が心から患者を思う医師なのだと理解したようで、態度も言葉も柔和になっていた。 ロバートは、ずっと病院に詰めている訳ではなかったが、時々巡回しているようで、唯の評判が日増しに高くなっていることも知っていた。 そして、唯の患者に向ける真摯で慈愛溢れる眼差しに、ともすると引き込まれるように見取れている自分に気付いて、人知れず赤面したりしていた。 最近では唯に真っ直ぐ視線を向けられる度に、胸がドキドキして体温が上昇してきてしまう。 こんなことでは自分の責務が果たせない、と気持ちを引き締めるものの、唯があまり無理をしているようだと心配でたまらなくなった。 「明日、日曜日はお休みになるのでしょう?」 そうロバートに言われて、唯は、あっ、と顔を上げた。 「私は特に用事がないのでセンターに行ってますが、出来れば大河に自由な休日を取らせてやって貰えませんか?」 「ほう?・・それはどうしてですか?」 「大河に付き合い始めた彼女がいるので、・・・まさか監視付きのデートは出来ないでしょう?」 唯の言葉に大河が慌てたように、 「おい、唯。」 と、眉間にシワを寄せた。 けれど、唯は、ふふっ、と笑って、 「だって、日曜日くらいしか休みあげられないもん。せっかく観光を兼ねたバイトをしようって発案だったのが、どこも行けなかったらガッカリだろ?案内してくれる彼女も出来たことだし、ゆっくり羽を伸ばして来いよ。」 と言った。 ロバートは、ああ、そうだったのか、と頷いた。 「夜の外出をお引き留めしたのは、安全の為だったのです。昼間のデートのお邪魔をするほど無粋ではありませんよ。」 ロバートはにこやかに答えた。 大河は、それはどうも、という顔をロバートにしてから、唯に向かって、 「そんなこと言って、お前の羽はいつ伸ばすんだ?」 と、怒ったように言った。 「俺は元々学べることが楽しみだし、より効果的な治療法に思いを巡らせるのも充分楽しい時間だと思っているから、センターにいることが負担にはならないもん。」 ロバートは感心して頷いたが、大河は不機嫌そうに舌打ちをした。 「チェッ。嫌味な奴。」 「別に大河と比較してないだろ。俺と大河とでは性質が違うんだ。大河は張りつめた弓のような、必要とされる時の集中力や研ぎ澄まされた感覚が要求される分、普段は弦も休める必要があるけど、俺はバネみたいなものだからさ。ジャンプを繰り返しながら高みを目指すって感じだから、普段でも軽いジャンプを続けるのはそれほど苦にはならないもん。」 「なるほどぉ、その違いなのですね。」 ロバートは眩しそうに唯を見つめて、敬服したように言った。 大河の不機嫌な理由には、この掌を返したようなロバートの態度にも原因があったのだが、それは表に出さず、 「頑丈なバネだって金属疲労はするぜ。」 と、苦労性だな、と言いたげな顔で言った。 ロバートは大河の言い分にも、それはそうだ、と頷き、思案するように顎に手をあてていたが、 「では、こうしましょう。日曜日の夕食は、私がお二方をダウンタウンにご案内するというのはどうです?供の者はボディーガートとは思わずに、友人と思ってくださればいいのです。」 と、提案した。 唯と大河は顔を見合わせ、どうしよう、と目で相談していたが、答えを出す前に別の声が、 「ナイスアイデア。私達も乗せて頂きたいですね。」 と、言った。 声の主はロバートの同僚で、ラウールのガードをしているチャーリーという栗色の髪をした男だった。 唯がチャーリーを見上げると、少し赤面しながら笑顔を返し、 「ご挨拶をして以来、お互いになかなか顔を合わせることも出来なかったでしょう?この機会にゆっくり話す時間を持つというのはいかがですか?」 と言ってから、ラウールにも確認するように笑顔を向けた。 「Dr.ユイのご都合さえよろしければ、私は構いませんが。」 ラウールは穏やかな笑みで言った。 唯は嬉しそうな表情になり、 「では、是非に。」 と、答えた。 ロバートは多少不満そうに肩をすくめたが、 「それでは、そうゆうことで予定を立てましょう。」 と言って、すました笑みで一同を見回した。 日曜日の朝。 唯が宿舎から出てくると、 「Dr.ユイ。おはようございます。」 と、キャシーが声をかけてきた。 「おはよう、キャシー。・・あれ?もう約束の時間だった?」 唯は部屋を出てくる時に、大河がまだ布団にくるまって寝ている様子を覗いてきていたのだ。 「デートって久しぶりだからドキドキしちゃって・・」 キャシーが嬉しそうな笑顔で言う。 「そっかぁ・・・大河はまだ寝てたみたいだけど・・・じゃぁ、部屋に行ってみる?」 「え?・・いいんですか?」 キャシーは頬を赤らめて瞬きを繰り返した。 「大河も歓迎するよ、きっと。」 唯は微笑んで、うんうん、と頷くと、宿舎の入り口の警備員にキャシーを紹介してから、二人の部屋へと案内した。 部屋のドアを鍵で開けてやった唯は、 「入って右側の奥が大河の部屋だから。・・・驚かしてやったら?」 と、クスクス笑いながら、それじゃ、と手を振って、また出掛けて行った。 キャシーは唯に教えられた部屋を小さめにノックした。 耳を澄ませて返事があるか待ってみたが、何の反応もないので、そっとドアを開けて覗いた。 盛り上がった布団の端から、大河の足と短めの髪が見えていた。 男性の無防備な寝姿は、何故か母性本能をくすぐる可愛さがある。 キャシーは零れる笑いを押さえて、ベッドに近付いて行った。 それから布団の真ん中辺りから手を忍び込ませ、股間をまさぐって目当てのモノを見つけると、パジャマに手を滑り込ませて直接握りしめた。 大河の男根は朝立ちの為か、すでに固く勃起している。 キャシーが手でゆっくり扱き始めると、大河が寝返りをうって仰向けになり、顔を出した。 「ん・・・おはよう、キャシー。」 大河は目が覚めきらない様子だったが、キャシーのサマーセーターをたくし上げて、胸を愛撫しながら言った。 「おはようございます、Dr.タイガ。」 キャシーが体を倒して大河の唇にキスをする。 「服、脱いで入っておいで。」 大河が甘い声で囁く。 キャシーは嬉しそうな笑い声を洩らすと、大河の男根から一度手を離して、服を脱ぎ始めた。 大河も布団の中でモゾモゾと動き、端から脱いだパジャマを床に落とした。 全裸になったキャシーは、大河の脱ぎ捨てたパジャマを拾って近くのソファーにかけてやってから、布団に潜り込んだ。 キスをしながらお互いを愛撫し合う。 「最高の朝だな。・・・一体どうやって忍び込んだんだ?」 ようやく目が覚めてきた大河が、キャシーの豊かな胸を揉みながら聞く。 「あら、人聞きの悪い。・・・ぁふっ、、、Dr.ユイが案内してくださったのよ。」 キャシーは巧みな指遣いで大河の肉棒を扱きながら答えた。 「何だ。・・恋の一途さで壁を登ってきたのかと思ってたのにな。」 大河がからかうように言った。 「スパイダーマンじゃないんだからぁ・・・あ、、、ん、、、」 大河はキャシーの花弁から蜜壺へと指を侵入させ、 「ここは糸を引いて、絡みついてくるのにな。」 と、更に意地悪くからかった。 アメリカ人女性の花弁は、大河の知っている日本人女性のものより、襞が広く大きいようだった。 大河の長い指が楽々三本入ってしまう。 それでも、キツク締め付けてくるので、不満はなかった。 「あふっ、、ん、、、んん、、、ォォォ、、、」 キャシーは気持ち良さそうに腰をくねらせ、目を閉じて背中を仰け反らせる。 大河は長く伸びた白い首筋に唇を這わせてキスをする。 「ん、、、素敵・・・やっぱりエミリーが間違いだったわ。」 「エミリー・・が何?」 「Dr.タイガとDr.ユイは恋人同士だって言うのよ。だから、好きになっても無駄だって。」 キャシーは拗ねたように言って、大河の顎のラインにキスをしていく。 「ふーん・・・そんな風に見える?」 「ぁぁ、、、ううん。全然そんな雰囲気は見えないから、余計に意見が分かれちゃうの。だって・・・Dr.ユイはゲイでしょう?」 「は?」 大河は目を丸くして瞬かせた。 「何だ、それ?」 「だって、あれだけ綺麗な男性がゲイじゃないわけないでしょう?」 「うーん・・・男には確かにモテるけどなぁ・・・」 唯が根っからのゲイなら苦労はしないのに、と思う大河である。 「・・・唯がずっと好きだった恋人は女だよ。」 ラーガという黒豹だが。 「ええ?・・・そうなのぉ?・・・知らなかったわぁ。・・・でも、過去形なのね。」 「まぁな。死に別れて以来、唯は誰にも心を開かない。」 と、いうこともないが、そうしておこう。 大河はこうした時でも盗聴されてる危険性を考えていた。 「それって・・・病死か何か?」 「・・・あまり詳しくは話せないが・・・そんな所だな。」 こうした噂を流しておけば、唯を狙う看護婦は出ないだろう。 「そう・・・それで、あんなに患者さんに対して熱心なのね。」 キャシーは同情したように顔を曇らせ、溜息を吐いた。 「・・・何だか・・・可哀想・・・」 「まったくだ。」 大河は、嘘がバレない内に唯の話題を終わらせようと、キャシーを体の下に組み敷いて熱いキスをした。 そして、キャシーの体の中に男根を挿入しながら、 「こんなに気持ちいいことにも興味が沸かないんだからな。」 と言って、ググッと奥まで押し込んだ。 「Ohoooo・・・あはん、、、大きくて素敵ぃ、、、」 キャシーも同情より、気持ちいいことが好きなようで、足を大河に巻き付けてくる。 今日は仮眠室と違って、安心してゆっくり愛し合える、という思いがお互いにあり、ゆっくりしたペースでお互いの体を味わうように堪能している。 大河は静かに体を上下させながら、 「・・唯が綺麗なのは・・・心の殉教者だからなのかもな。」 と、呟くように言った。 「ぁぁ、、、ん、、、それって・・・心が死んでるってこと?」 「・・心が・・・天国に近い奴なんだよ。」 キャシーは、ああっ、と目を見開いた。 大河の言いたいことがわかる気がした。 「そうね・・・Dr.ユイって・・・全然、私欲が感じられないもの。・・・まだ、幽霊の方が思いが強いかも。」 「おいおい。いくら何でも、幽霊と比較するなよ。」 「あん、、、だってぇ・・・欲がない人って理解出来ないものぉ・・・」 自分というものをはっきりと表現するアメリカ人にとっては、唯のような感情をあまり出さない相手は苦手なのかも知れない。 自己表現もなく、欲望も見せず、弱点も晒さない相手は、尊敬しても近寄りがたい存在なのだろう。 大河は何故か自分ばかりがモテる理由が納得出来た。 完璧に仕事をこなせばこなすほど、人として感じられなくなってしまう。 昔、大河も唯に、同じ印象を抱いていたことを思い出した。 その心に触れれば、誰よりも温かく穏やかで、気持ちの良い日溜まりなのに、誰も近付く術を知らない。 フン、誰にも渡してたまるか、と大河は思う。 それなのに、何故か男は、甘い蜜に誘われるように、唯に群がってくるのだ。 いや、唯の美貌と優美な表情を思えば当然とも思えたが、その程度の理由で近付いて欲しくなかった。 唯がゲイではないと、きっぱり断言しておく必要性を感じてしまう大河だった。 大河とキャシーは午前中を部屋でゆっくり過ごし、昼食を街で摂ることにして出掛けて行った。 シアトルに来て1年近くになるキャシーは、もうすっかり街に馴染んでいたので、大河をあちこちと案内してくれた。 夕方、病院エリアに戻ると、唯も仕事から上がってくる所で、大河が看護婦寮に送って行こうとしていたキャシーに、みんなと同行するように誘った。 キャシーは感激で顔を上気させ、服を着替えてくるからと、寮に走っていった。 アメリカでは、それなりのレストランで食事をするには、きちんとした服装が求められるのである。 唯と大河も日本から持参したスーツを着込み、宿舎の入り口に向かった。 スーツ姿の唯は白衣の時以上に優雅に見えた。 元々、御曹司としての立ち居振る舞いを拓磨に仕込まれてきたので、優美な動きがスーツを引き立てるのだ。 服装は見た目だけでなく、気持ちも正す効果があるようだった。 そして、それはラウールにも言えた。 アラブ民族の正装は異国情緒に溢れ、頭から被られた布はラウールのくっきりとした黒い目を際立たせていた。 動く度に揺れるたっぷりとした布地の服は逞しい男でも優雅に見せた。 キャシーは口を押さえて、ただただ、その高貴さに見取れるばかりだった。 キャシーのみならず、唯までが感嘆したように見取れている。 ラウールが穏やかに微笑むと、まさに王族そのものだった。 しかも、ラウールは大人数で移動出来るようにと、宿舎前にリムジンを待機させていた。 いつもは有色人種を軽視する所のあるロバートも圧倒されているようだった。 「どうぞ。」 と言われ、感激して無邪気に目を輝かせる二人と、少々クサリ気味の男三人と、ラウールと付き人を乗せてリムジンは出発した。 ロバートとチャーリーの部下達は別の車で同行した。 「さすが、アラブの王族はすごいなぁ。」 唯は初めて乗る、特別仕様で豪華に装飾された、大型のリムジンを感心して眺め回した。 「Rカンパニーの御曹司ともあろう方が、何もこれくらいで・・・」 ロバートが苦笑して首をゆっくり横に振る。 「え?・・・でも、ウチは質素だよね?」 唯は大河に同意を求めた。 「質素とは言わないが、普段の生活では贅沢してないだろうな。」 大河は軽く肩をすくめた。 「私共も同じようなものですよ。人を持てなす為には多少贅も尽くしますが、普段の生活は堅実をモットーとしております。」 ラウールは静かな笑みを湛えて言った。 「そう言えば、宿舎で生活されてましたね。」 唯は、ふふふっ、と笑った。 その笑い声があまりに耳にくすぐったく響いたので、男性陣の毛穴という毛穴から一斉に汗が噴き出した。 特にチャーリーは真っ赤になって、額の汗を何度も拭った。 しかもチャーリーは唯を、うっとりと逆上せた顔で食い入るように見つめているので、唯に恋い焦がれてしまっているのがバレバレだった。 ロバートは、惚れるにしても人に気付かれずに惚れるものだ、と内心思いながら、咳払いをしてチャーリーを睨んでから、 「まったく・・・宿舎はもっと厳しい生活をする人達の為にあるのですよ。裕福なお二方がアメリカで倹約生活をされてたのでは、アメリカ経済が潤わないじゃないですか。」 と冗談ぽく言った。 「しかも、政府はガードする者に高給を支払わなければならない?」 大河が皮肉げに言い添えた。 ロバートが眉をひそめ、 「滞在を歓迎し、技術を提供し、安全を確保して差し上げながら、嫌味しか言われないのは残念ですね。」 と、溜息まじりに言った。 「済みません、ロバートさん。私達にも事情があって、倹約しなければならない立場なので、大河もつい不遜な言い方になってしまいました。そのことはお詫びします。・・・ですが、けっして貴国のご厚意をないがしろにするつもりはありませんし、勉強させて頂く間は、誠心誠意、真面目に仕事させて頂きますので、ご理解ください。」 唯が申し訳なさそうに眉を曇らせて言うので、ロバートは柔和な笑顔になり、 「承知しておりますとも。ご心配なく。」 と、唯の頬を撫でた。 唯は一瞬ビクッとしてから、どことなく寂しげな笑みを返した。 「大富豪の御曹司が倹約されなければならないご事情とは?」 チャーリーは唯を心配するあまり、あまりにもストレートな質問をぶつけてしまった。 ロバートが思い切り睨み付けて舌打ちをした。 まるでガードは立て前で、監視しているのだと暴露しているような、発言になってしまっていたのだ。 けれど、唯は気にする様子もなく、クスクスと笑い出した。 「少し父のカードを借用して遊びすぎてしまったので、教育係にきちんと返済するように叱られてしまったのです。」 唯が悪戯っぽく明るい目をクルンと回したので、その場にいた人々は呆気に取られた後、声を出して笑い出した。 やはり、どんなに大人びていても子供なのだ、と感じたことが嬉しかったようだ。 「お陰で、リッチな観光を兼ねたバイトが、爪に火を灯す日々になってしまったという訳で、付き合わされる俺としては、恋でもしていないとやってられない。」 そう言った大河が、キャシーの肩を抱き寄せて頬にキスをした。 これ以上、ロバート達に敵意を向けることは、唯を困らせるだけだと判断したのだ。 恋、と言われてキャシーは嬉しそうに頬を赤らめ、大河にもたれかかった。 ロバートとチャリーは、お好きなように、と言わんばかりに苦笑した。 ラウールが頃合いを見て、 「私のことで皆様に不快な思いをお掛けしたことをお詫び致します。私の場合、倹約を必要とするのではなく、学ぶ立場として他の方々と同じ環境に身を置きたかったのです。」 と、説明してから、 「今夜は日頃のご厚意に感謝して、私に持てなさせてください。」 と、丁寧な口調で言った。 「これはこれは・・・痛み入ります。」 チャーリーはアラブ式の挨拶を披露するように、頭を下げてみせた。 唯は、あっ、と嬉しそうな顔になり、同じようにマネをした。 ロバートも、おやおや、と笑みを洩らしながら唯に続き、その後に大河とキャシーもマネをした。 初めはお互いの思惑がぶつかり合って心配な雰囲気があったが、車がレストランに到着する頃には、皆がお互いを敬称を付けずに呼び合える関係になっていた。 |
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<45> 「砂漠への憧れ」 |
<45>「砂漠への憧れ」 案内されたのは、少し高級なレストラン。 落ち着いた雰囲気の中に華やかさがある。 煌めくシャンデリアと、控え目に流れるクラシック。 モーツァルトの曲に、唯はふと九条を思い出していた。 ロバートに頬を撫でられた時も、九条がいつも唯にしていた仕草だったので、思わず体が震えてしまった。 唯の為にと誘ってくれたロバートの気持ち。 今夜のディナーを持てなしてくれるというラウールの気持ち。 それを思うと、塞ぎ込んではいけない、となるべく明るく振る舞おうとする唯だったが、心の隅がほつれて、闇からの冷たい風が吹き込んでいた。 オードブルから始まるフルコース。 唯だけが未成年なので、みんなのようにワインを飲む訳にいかず、ミネラルウォーターを飲んでいる。 そうした点はアメリカの方が厳しいのだ。 個人を尊重する国家のアメリカでは、子供や未成年に対する責任は、親よりも社会にあると捉えているようだった。 虐待をすれば親権は剥奪され、自分の子供でも会うことも出来なくなるのが常識だった。 その代わり、社会人になった子供は自立して生活費を自分で稼ぐのも常識で、いつまでも親をあてにしているスネかじりはほとんどいなかった。 そして、自立するからこそ個人の自由も尊重された。 誰を好きになろうと、最終的には個人の自由なのだ。 もちろん、あまりにも特殊な場合、反対されたり親子の縁を切られることもあったが、無理矢理引き離す権利は誰にもなかった。 同性愛に対する理解も深く、アメリカの中でも特にシアトルは、世界的なゲイパレードが催される場所柄、普通に同性愛カップルが街を歩いている。 それで、キャシー達周囲の人々が、唯と大河を初めの内、ゲイカップルと勘違いしていたのだ。 けれど、唯と大河はお互いを認め必要とし、助け合う関係にありながら、恋人同士には見えなかった。 友人と恋人とは、決定的に違うものがある。 それは、好きな相手に尽くす行為ではない。 才能を認めたり、外見を褒めそやしたり、内面を讃える行為でもない。 開放的な性格なら、友人に対してでも、弱音や愚痴を言い、弱点を晒せる人もいるだろう。 そうしたものではなく、恋人は強く求める自我なのだ。 友人は自由を認め合い、恋人は自由を奪い合う。 どうやってでも手に入れたい。 相手の意見や気持ちが何であろうと、自分が望むことを押しつけたい。 犯罪に繋がり兼ねない危険な感情ではあるが、そこまで思えない関係は、恋人を装っていても友人関係から所詮抜け出せていないように思う。 唯は大河の自由を認めすぎるのだ。 それが、二人を恋人同士には見えさせない決定的な理由だった。 「私の父は、どれほど高価な資源が豊富にあろうとも、それが地球の歴史からの贈り物である以上、いつかは失われるものだと、常々話しております。けれど、失われない資源もある、とも。」 唯から医学を学ぼうと思った切っ掛けを問われたラウールはそう語り始めた。 失われない資源、と聞いて、ロバートとチャーリーの目がキラリと光った。 ラウールは思わず失笑し、 「それは、どこの国にもあるものです。」 と言った。 「人、ですね?」 唯がそう聞くと、ラウールはゆっくりと頷いた。 「国を愛する国民がいれば、国が滅びることはないのだと。国民から愛される国家を目指さなければ、国は滅んでしまう。」 「愛国心くらい、誰にでもあるでしょう?」 ロバートは、そんな当然のことを、と面白くなさそうに言った。 「生活が豊かで恵まれている間なら、国に不平を持つ国民は少ないでしょう。まして、他国と比較して裕福な暮らしが出来るとなれば、自分がその国に生まれたことに感謝します。」 「確かに貧しい国からは逃げ出す国民もいますね。」 大河はアジアの難民に思いを巡らせて頷いた。 「だけど、貧しくても国を愛してる国民もいるよ。」 唯は豊かさからはほど遠いサバンナの生活を思いながら、今でも懐かしく、帰りたいと思ってしまう自分を感じていた。 「そうです。余程の極限に追い込まれ、その国を離れるしかないというのならともかく、生きていけるなら、豊かさが愛国心を計る基盤にはなりません。」 「では、何を持って愛国心を煽るおつもりですか?」 「ロバート。煽るなんて・・・失礼だぞ。」 チャーリーがロバートに眉をひそめて注意した。 ラウールは気にすることもなく、 「煽らなければならないものを愛国心とは呼ばないでしょう。」 と、言ってから、 「個人個人にある誇り。その国に生まれたことを誇りに思う人々は国の宝です。そして、誇りは与えるものではなく、長い歴史の中で育まれたものです。・・・ですから、王族に出来ることは、その国の宝、つまり国民を守ることなのだ、と父は言います。それで、父は自らも病院を運営し、充実した医療を目指しているのです。」 と、尊敬を込めた遙か祖国を思う眼差しで言った。 唯もまた、その眼差しの行方を追うように、うっとりと遠い目をしていた。 「唯。少しは目の前の食べ物も味わってやれよ。愛国心が込められてるかは知らないが、シェフが心を込めて作ってくれたものを蔑ろにするもんじゃないぞ。」 大河が食が進まない唯を気にして促した。 「あ・・・そうだね。」 唯が、ハッ、として、急いで口元に料理を運んだので、うっかり料理に絡まっていたソースを顎に垂らしてしまった。 大河が、やれやれ、と自分のナプキンで拭いてやろうとしたが、その前にチャーリーが腕を伸ばし、指先で拭き取り、しかもその指を舐めた。 キャシーがその様子に、あーッ、と口を開けて、声に出さなかったものの、ゲイだわ、と大河に目で訴えていた。 大河はキャシーの耳元で「唯がガキすぎるんだよ。」と囁いた。 キャシーはプッと吹き出した笑いをナプキンで押さえ、うんうん、と頷いた。 ゆっくりとしたペースの食事も、ようやくデザートに漕ぎ着けた。 「ユイは、どうしてそんなにアラブに興味があるんですか?」 チャーリーは、唯が砂漠の国の様子をラウールにあれこれと聞きたがるので、不思議そうに聞いた。 唯は自分でも意識してなかったようで、小首を傾げて少し考えているようだった。 弱冠18歳という歳を感じさせない仕事ぶりに、唯がまだ少年であることも忘れていることが多かったが、そうした仕草は年齢以上に幼く見えて、どことなく儚さを感じさせた。 「んー・・・童謡のせいかなぁ・・・?」 「・・・童謡?」 「そう。アメリカにも『メリーさんの羊』とかあるでしょう?」 「ああ。・・ええ、ありますね。」 チャーリーは笑顔で頷いた。 「亡くなった母が、日本を知らない私に、自分達の祖国である日本に対して、私が愛着を持てるようにと、よく童謡を歌って聞かせてくれました。」 「日本の童謡ですか・・・」 「ええ。・・・色々と聞かされた中で、何故か惹かれたのが『月の砂漠』という歌だったのです。・・・クスッ。日本への愛着心のはずが、遠い異国への憧れになってしまったみたいです。」 唯が自嘲気味に笑いをこぼすので、 「歌が憧れを呼び起こすというのは、よくあることですよ。」 と、ロバートが優しい笑みで言った。 チャーリーは自分が言おうとしていたことを、ロバートに先を越されたので少しムッとしたが、 「どんな歌か、是非聞かせて欲しいです。」 と、緑の目を輝かせて言った。 唯は照れくさそうに、 「いずれ、そのうちに。」 と言ったが、 「あらぁ、私も聞きたいですわ。」 と、キャシーが興味津々といった表情で言うので、その場の皆が、是非、と言い出してしまった。 唯は、場違いだから、と断っていたが、ラウールにも、 「この場の皆が望むことです。是非、お聞かせ下さい。」 と言われたので、控え目に小さく歌い出した。 「…月の〜砂漠を〜…はぁる〜ばると〜…」 その曲は、月明かりの広大な砂漠を、何故か二頭だけのラクダがゆっくりと歩いていく状況を歌ったもので、金銀の鞍に王子様と御姫様が乗って旅をしている、という不思議な内容だった。 お付きの者がいないのは、亡命なのか、駆け落ちなのか、有り得そうもない設定が、むしろ逆に不思議な雰囲気を醸し出し、色々な想像を膨らませた。 そして、唯の透明で涼やかな中に甘さを含んだ美しい声が、心の襞を震わせて、その場に異国の情景を投影させるようだった。 「・・・ありがとう。美しい曲ですね。」 ラウールは微かに目を潤ませて、アラブ式の敬意を込めた感謝を唯に贈った。 「・・ゥワンダフル・・・ビューティフル・・・」 チャーリーは一言ずつに投げキスをしながら感激していた。 「音階はまさに日本的でありながら、静かな砂漠の情景を浮かび上がらせる。・・・傑作ですね。」 ロバートも感心して言った。 「素敵ねぇ。・・・さしずめ、その王子様はラウールかしら?」 キャシーが夢見るような目で言った。 「そう。ラウールとその歌がいつも重なってしまいます。」 唯がクスクスッと笑った。 「それじゃ、お姫様は誰かしら?」 「それはアラブだけに、すっぽりと布に覆われていて見えないんですけど。」 「あ、確かに。」 キャシーは、フフッ、と楽しそうに笑った。 「日本で私達の国が、そのようにロマンティックに歌われているというのは、とても光栄なことです。」 と言うラウールの言葉に、 「現実からは、かけ離れたイメージのようですがね。」 と、ロバートが苦言を呈した。 「歌なんだからいいじゃないか。」 チャーリーは、何かにつけて皮肉るロバートを睨んだ。 キャシーも、ロバートの態度が同じアメリカ国民として気になっていたので、なるべく友好的に明るい雰囲気に戻そうと、 「ねぇ、もしユイが王子様だったら、お姫様はどんな方かしら?」 と、女性らしい質問をした。 唯も目を細め、軽く受け答えしようとした。 が、脳裏に浮かんだのは、月明かりで青白い砂漠を、小さくなった自分がラーガの背に乗り駆けて行く、情景だった。 見る見る唯の目に涙が溢れてきてしまった。 体が強ばり、息が震えてくる。 いけない、こんな場で取り乱してはいけない、と言い聞かせるのに、どうしても押さえられず、押さえられないことに更に動揺して、悲しみを深めていってしまった。 ・・・寂しい。 寂しい・・・たまらなく寂しい。 「あ・・あ・・・ごめんなさい。亡くなった恋人を思い出させちゃったんだわ。・・・あぁ、どうしよう。」 キャシーが困った顔で大河の腕にしがみついた。 「亡くなった恋人?!」 チャーリーが唯を心配しながらも、目を丸くして聞き返した。 「・・ええ。・・とっても愛してらした彼女が、病気で亡くなられたんですって。・・・だから、患者さんを救うことで、忘れられない思いを慰めているそうなの。」 キャシーの中で、すっかり物語が出来上がっているようだった。 大河は、唯をどうにかしてやりたい、と思う一方、困惑するキャシーを落ち着かせなければと思い、尚かつ、都合のいい噂が出来たものだ、という思いも心をかすめていった。 唯が心を喪失してしまったように、焦燥とした表情で涙を流し続けるので、皆はどう声をかけていいものか、戸惑っているようだった。 その時、ラウールが席から立ち上がり、唯をたっぷりとした布で包み込むように抱き上げた。 そして、 「私があなたの砂漠になりましょう。」 と、静かな声で言った。 「砂漠の砂は涙も血も全て吸い取って乾かしてしまいます。あらゆる感情も膨大な砂の前には無力です。砂漠は全てが無に還る場所なのかも知れません。・・・我々はそんな砂漠に負けまいとする国民です。砂漠を恐れ、敬い、憎み、愛している。・・・確かに歌ほど甘くはないかも知れませんが、今宵は、ロマンティックな歌に感謝して、あなたの涙を拭い、静かな眠りに誘う砂漠となりましょう。」 そう言ったラウールは、供の者に帰ることを告げ、その場の一同に散会を促した。 先手を取られてしまった三人の男達は、抗議することも出来ず、ラウールの提案を受け入れる他なかった。 |
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