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花火


「よっちゃーん、早くはやくぅ!花火、始まっちゃうよ〜!」
「ん〜、大丈夫だよ。それよりちゃんと蚊除けスプレーたっぷりつけた?」
「つけたよ。」
「しっかりつけとかなきゃ、この辺の山のやぶ蚊はマジですごいんだから…。さされたら、痛いんだよ?」
「うん。」
「これでもかってくらい、塗っとかなくちゃ…」
「はいはい、ねえ、もう行こうよ〜」
「あ〜、はいはい。わかったよ。」
私は苦笑しながら腰をあげる。
私達は体中にスプレーを吹き付けて、おまけに携帯用蚊取りマットも装着済み、という完全防備だ。これに、うちわと懐中電灯を持てば、準備完了だ。

「じゃ、母さん行ってくる。」
「はい、いってらっしゃい。でもあんた達も物好きね〜、子供じゃあるまいし…」
苦笑する母親に肩を竦めて見せる
「いいじゃん、久しぶりにこの街の花火見るんだし。」
「はいはい、お好きにしなさい。佳乃、あんた気を付けなさいよ。理央ちゃんも気をつけてね、真っ暗だし…ヘビもいるから。」
「はーい、行ってきまーす!」
私ははしゃぐ理央に手を引かれて表へ出た。外はまだ、道路から昼間の熱気の名残が立ち上っているけど、夕闇の涼しい風が吹き始めていた。

裏山の高台へと続く道に向って歩き始めた。
住宅が立ち並ぶ、すぐ後ろにある、八幡様の森…小高い丘、というか山のようになっている。 明日は神社のお祭りで、参道になっている山道は下草がきれいに刈り取られて、乾いた夏草の匂いがしていた。道の両側には、神社に奉納された行灯が並んでいる。
「いいにおーい…干草の、匂いみたいだね。」
「うん。」
静かな参道で、理央はそっと私の手に手を重ねてきた…。
だけど、私達が目指しているのは、神社ではなかった、お宮の山と対になっている双子山のもう一方のてっぺんだ。そこからは、遠く離れた街で上がる花火の様子もよく見える…私が子供の頃にはよく近所の子供達で集まって見に行った、秘密のベストスポットだ。
「こっちだよ。」
私は理央の手を引いて、お宮の参道を離れると、果樹畑を繋ぐ細い山道に入った。

先ほどまでの道と違い、草も生い茂り、木々も頭上から枝をたらしている。明かりも何もなく、真っ暗になった。
理央が繋いだ手にぎゅっと力をこめてくるのが分かった。
「コワイ?」
「…別に…。」
怖くなんかないもん、と口を尖らす理央が、あんまりかわいくて、私の悪戯心が頭をもたげた。
道に落ちた長い枯れ枝を指すと、理央の手を強く引いた。
「あ、ヘビ!!」
「え?!」
理央は一瞬泣きそうな顔で、あわてて、飛びのいた。
その様子がおかしくて、笑う私の肩を軽く叩く。
「もぉ〜!!」
ぷっと膨らませたほっぺを軽くつついてみる。
「でも、本当だよ。ヘビいるんだから。間違えて、踏んで、噛まれちゃったりしないようにね。」
そういうと、少し不満そうに、上目使いにこちらを見ながらも、ぎゅっと腕にしがみついてきた。
 私が子供の頃にも、よくそう言って、大人にからかわれたものだった。でも、実際噛まれた人もいたので、あながち嘘でもないだろう…。昔はそれでも、もっと人の手が入っていたけど、以前果樹畑だったところも、今はうち捨てられてて、草が生い茂っていたりする…。ヘビの二匹や三匹、平気で潜んでいそうな草むらだ…。
家を出たときに感じた、地面からの熱は、山道に入ってからは、感じられない。
ひんやりとした空気と、むせ返るような夏草と、土の匂いがしていた。

しばらく、そのまま寄り添うようにして歩くと、やがて開けた高台に出た。
今は草が生い茂っている、その広場の中心には、何かの石碑が立っている。子供の頃、山城の跡だったとか、古戦場跡だとか、聞いたことがあるような気がするが…地元の人間ですら、存在を忘れるような、あいまいな遺跡だった。
その時、遠くから、ポンポンという、威勢のいい音が聞こえてきた。
「花火だ!」
石碑の南側に回ると、遠くの空に上がる花火がはっきりと見えた。
「うわぁ…」
キレイ…小さくため息のようにつぶやく理央の目はきらきらと輝いている。
7Kmほど離れた川原であげられている花火は、光と音とが少しづつずれて届いてくるけれど、意外とはっきり大きく見えるのだ。
「すごいねぇ…」
石碑の前に腰を下ろして、本当に感心したように、つぶやく理央に、なぜだか私はほんの少し、誇らしげなキモチになった。

他には誰もいない、この場所は、わたし達のために用意された、特別シートみたいだ。昔は、それでも、ここに来れば、何人かの友達にあったりしたものだけど、その子達も、今はこの街を出てしまっているし…最近の子供達は、こんな山の中にやって来たりはしないんだろうなあ…。
ぼんやり考えながら、遠くで光る花火を見つめていた。
時折、吹きぬける、川からの風は、ここに来るまでに少しほてった体を心地よく冷やしてくれる。

10分ほどすると、それまで連続して上がっていた花火は、止まってしまった。
「終わったのかなぁ…?」
「まだだよ、今点火とか…多分、入れ替えの準備してるんだよ…」
「そっかぁ…」
吹き上げる風が、理央の前髪を揺らした。
「すごいねぇ…」
また理央がつぶやくように言った。
「うん…」
「よっちゃんの秘密の場所なんだね…。ありがと。連れてきてくれて…」
理央の背中に腕を回すと、彼女は体を預けてきた。
頬をくっつけるようにして、それからそっと唇にキスをした。
花火の音のしなくなった今、周りの草むらから、虫の鳴き声が聞こえてきていた。
もうすぐ、秋なのかもしれない…
ふと、そう思った…。





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あとがき。

いやあ…ずいぶん久しぶりの更新になってしまった…(^^;;
熱心に新作を…と言ってて下さった皆様、ありがとうございました。
最近、夏祭りの多いシーズンで、うちの周りでも花火大会やら、連日各地で行われています。 残念ながら、私自身は、まだきちんと見に行けてはないのですが…。
人ごみはあまり好きではないので…こんな風にこっそりみれたらいいな…なんて考えてたら、 ふと書きたいかもって思ってしまったのですね。
いつもこういう風に一気に書ければいいんですけど…。
らぶらぶ度、ちょっと足りないかもしれないけど…(笑)
さいご、一応あそこで切ってみました、あれ以上いちゃいちゃさせちゃうのも…ねえ(笑)どうでしょう?(笑)
また感想などいただければありがたいです。



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