--風になりたい--
彼女は呟いた。
それだけが。
彼女の願いだったのに。
・・・オレたちは。
ジリジリと焼けつく太陽が、
心なしか和らいだ気がする。
そろそろ夏も終わってしまう。
いつものように学校が始まり、
そしていつものように、
同じような毎日をくり返す。
そうやってオレたちは過ごしてきた。
「ねぇーー夏休み、終わっちゃうよー英斗ー。」
「だなー。何かやること無いのかー?和哉ー。」
「んーーって、何でオレに聞くんだよ。」
蝉がみんみん鳴き響く公園。
小さな子供達が無邪気に走りまわっている。
「だって、やること無いんだもん、ね、英斗」
「そうそう、だから、お前に聞いてるわけ」
口を尖らせながらオレを見つめる英斗と美月。
「お前らなー・・。デートして来いよ。付きあってるんだろ?」
英斗と美月はこの夏から一応「恋人同士」になってるはずだ。
なのに、いつまでたっても、オレを誘いに来る。
邪魔じゃないのか?オレって。
「デートってガラじゃないじゃん?今さら」
苦笑いしながら英斗がオレの背中をこづいた。
「そ、みんな一緒の方が楽しいって」
英斗の言葉を追って美月も背中をこづく。
「そういうもんなのか・・?」
恋愛経験が無いオレにとって未知の領域。
2人よりも3人の方が楽しい物なのだろうか?
まぁ、考えても答えが出ないのは解っている。
「そういえばさ、先生が夏休み明けから転校生来るって言ってなかった?」
美月が突然思いついたように話し出した。
「あ、みんなの噂になってたな〜男か女か!って」
「女の子って聞いたけど。」
その瞬間美月の瞳が輝いた。
「女の子!?ヤッタ!アタシ友達にならなきゃ!」
「お前な・・普通男の方が嬉しがるだろ・・?可愛い子かなーって」
英斗がはしゃぐ美月の頭を軽く叩いた。
「えーー!別にいいじゃない?!
アタシ、女の子だったら絶対友達になるって決めてたもん」
ほっぺたをふくらませて美月は座り込んだ。
「どんな・・子かな」
オレがそう呟くと拗ねていた美月が笑顔で答えた。
「きっと、いい子だよ」
クリーニングばっちりの制服に身を包み。
遅刻しないように早めに学校へ向かう。
久々の学校は少し変な感じがしたけど、
すぐに慣れてしまった。
夏休みが終わり、また繰り返しの毎日が始まる。
いつもなら憂鬱で進む足取りも重かった。
だけど、今日はいつもとは違っていた。
きっと、何かが起こる・・・そう思っていたから。
「おはよう、美月」
「和哉・・、おはよ」
珍しくオレよりも早く学校に来て、
眠そうな目をこする美月に声をかけた。
「早いんだな。」
「だって、早く転校生に会いたいから」
満面の笑みで答える美月。
無邪気な子供のように美月は、
本当に転校生のことを楽しみにしているようだ。
「英斗は?一緒じゃないの?」
「え?英斗?ううん、一緒じゃないよ」
・・・・。
付き合ってるっていっても一緒に学校来たりはしないんだな。
っていうか、こいつらは本当に付き合ってるのか?
毎日毎日3人で遊んでたし、2人の時間なんて無かったはずだ。
・・・・謎だ。
ザワザワ・・・
何だか騒がしくなってきた。
いつのまにか教室の中は生徒達でいっぱいだった。
「もう、そんな時間なんだ」
「うん、なんだかドキドキして来ちゃった」
美月は胸に手を当てて冷や汗を流している。
「おいおい・・大丈夫か?」
きーーんこーーんかーーーんこーーん。
始業のベルが鳴り響く。
「じゃ、席戻るな」
「英斗、遅いな。遅刻かな」
席に着こうとしたオレを見ようとせず、
美月は教室のドアを凝視していた。
その行動を見てオレは少し安心した。
ガラガラッピシャ
突然ドアを開いて閉める音。
「起立っ礼っおはようございまーーす」
小学生のような挨拶が済んだ後。
先生がドアの外に合図を送った。
美月の方を見ると期待でいっぱいになった瞳で
ドアの外を見つめている。
ガラガラ・・・・
控えめな音で開かれる扉。
入ってきたのは・・・女の子。
薄茶色の長い髪。
真っ白な肌。
クラス中にどよめきが走る。
思わず見とれてしまいそうな女の子。
美月は・・。
やっぱりオレと同じ気持ちのようだ。
胸一杯と言った顔で女の子に見とれている。
「夏休み前にも事前に知らせて置いたが、
今日から君達と同じクラスになる「遠野 舞子」さんだ」
「・・初めまして。遠野舞子です。」
少し俯き気味な顔で小さく挨拶をする「遠野舞子」。
どことなく淋しげな雰囲気が漂っている。
近寄ってはいけない・・。
そんな気さえした。
だけど、美月にはそんなことどうでもいいようだ。
HRが終わった後群がる生徒達を押しのけて、
一番乗りで話しかけていたのは美月だった。
「遠野さん、アタシ池永美月!よろしくね。」
「・・・」
遠野舞子は答えない。
「アタシのことは美月ってよんでね?」
「・・・・」
黙ったまま動こうともしない遠野舞子。
「遠野さんはどこに住んでるの?」
必死で笑いかける美月に見向きもせず
遠野は立ち上がった。
「何処行くの?校内案内するよ」
「・・・」
美月は歩き去っていく遠野舞子を追いかけて教室から出ていこうとした。
その直後だった。
「触らないで!」
教室中に遠野舞子の叫び声が響いた。
「・・え・・」
美月は何が起こったのか解らないようだ。
「私に構わないで」
遠野舞子は顔色一つ変えずにそう美月に言い放つと、
教室から出ていった。
シーンと静まり返る教室。
そしてすぐザワザワと騒ぎ出す。
みんな遠野舞子の事ばかりを噂しているようだ。
「美月・・・大丈夫か?」
「うん・・遠野さん、機嫌悪かったのかな・・?
今度は機嫌のいい時に話しかけなきゃ!」
・・・懲りていないようだ。
ガラッ
勢いよくドアの開く音。
「おいおい!今の美人が転校生か!?」
思いっきり遅刻してきた英斗が顔を真っ赤にしながら
教室に飛び込んできた。
「おはよう、英斗。」
「おはよーっ」
「んなことより、転校生!」
のんきに朝の挨拶より英斗は転校生でいっぱいらしい。
「多分、英斗が見た美人がそうだよ。」
「あのね!「遠野舞子」さんっていうんだって!」
美月はさっき在った出来事などすっかり忘れているようだ。
だけど、オレは忘れられなかった。
無表情のまま、人形のように話す遠野舞子。
それが、彼女の強がりだと解ったのは、
ずっと後のことだった。
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