--私に構わないで--
そう言った彼女の淋しげな顔が、
今でも胸の中に焼き付いている。
遠野舞子。
彼女が転校してから1週間。
美月との一件以来、
クラスの誰も遠野舞子に近づこうとしなかった。
ただ一人。
美月を除いては。
「おい、美月。今日も遠野にアタックするのか?」
「もちろん!絶対友達になるの!」
美月はやる気マンマンだ。
そして、遠野舞子を探しに教室から出ていった。
周りがあきれかえるくらい、美月は頑張っていた。
学校帰りもいつもならオレと英斗と美月の3人だった。
だけど今、美月は毎日遠野舞子と一緒に帰っている。
いや、付いてまわっていると言った方が正しい。
「美月って・・忍耐力あるんだな・・・」
ぼそっと呟いたオレを見て英斗が言った。
「まぁ、オレの彼女だからな。」
得意げな英斗。
恋人っぽくない2人だけど、
変なところで思い合ってるらしい・・。
「ねぇ」
突然背後から声が聞こえた。
英斗と同時に振り返るとそこには遠野舞子が立っていた。
「うわっ」
英斗は驚きで声をあげた。
遠野舞子はやっぱり顔色一つ変えずにオレ達を見ている。
「な・・何?」
返事をするオレとほとんど同時だった。
「あの子に、もう私に構わないでって言っておいて」
それだけ言い終えるときびすを返して去っていく遠野舞子。
しばらく開いた口がふさがらなかった。
「う・・うわ・・怖えぇぇぇ!!」
英斗が叫ぶ。
<怖い>
それがみんなの彼女に対するイメージだろう。
もちろん、オレもそうだ。
「美月、よくあんなのと一緒にいられるよな」
「・・同感・・・」
遠野舞子の後ろ姿を見て、英斗とオレは大きく頷いた。
「じゃぁ、オレ先帰るからな」
英斗はそういうと申し訳なさそうに
教室から出ていった。
ついてない・・・。
夏休み明けの実力テスト。
まさかあんな所が問題になるなんて。
はぁ・・何故か追試はオレ一人。
あれ・・?
先生は2人って言ってなかったっけ?
まぁ、いいか。
そうして、机の上の白い用紙に向き合う。
チクタクチクタク・・・。
時間が刻々と過ぎていく。
ザァー・・・
小さな雑音に気づき外を見た。
「雨・・・」
傘持ってきてない。
まったくもってついてない。
今日は濡れて帰ること決定・・。
きーんこーんかーんこーん・・・・。
「・・ふぅぅ・・・」
コキン・・
チャイムの音に大きく伸びをして腰の骨を鳴らす。
ガタンッ
「え!?」
椅子を引く音に驚いて振り向くとさっきまでいなかったはずの、
遠野舞子がテスト用紙を持って立っていた。
先生が言っていたもう一人は遠野舞子だったのか・・。
だけど、いつのまに・・・。
遠野舞子は何も言わずに俺に近づいてくる。
何を言われるのかと冷や冷やした。
「貸して。それ、一緒に持って行くから」
「へ・・?」
オレは遠野の言葉に耳を疑った。
「・・あ・・ありがとう」
テスト用紙を渡すと遠野はさっさとでていってしまった。
遠野からあんな言葉を聞くなんて思っていなかった。
・・・。
「帰るか・・・」
・・・・・・。
玄関前。
大雨。
「まじかよ・・・」
やっぱり、濡れて帰らなきゃいけないらしい。
走り決定。
「よし」
覚悟を決めて走り出そうとしたその瞬間。
「待ってっ」
「え?」
誰かに呼び止められた。
「遠野・・?」
振り向くと遠野舞子。
遠野の手には傘が一本。
「これ・・。私、傘、折り畳みと・・2本もってるから。」
「え・・でも・・あ・・ちょっと!」
遠野はオレの腕に傘を押しつけると
雨の中折り畳み傘を開きながら走っていった。
「・・・遠野・・・」
その雨の日が。
本当の遠野を見た最初の日だった。
だけど・・。
遠野舞子。
何故、みんなにうち解けようとしないのか。
何故、他人に触れられるのを嫌がるのか。
まだ、何も解らなかったんだ。
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