本当は。
知ってはいけなかったのかもしれない。
彼女は全てを抱え込んで
弱みなど見せたくなかったはずなのに。
日が落ちてから
雨は一層激しさを増していた。
夏が終わるのだと感じる。
目の前にある水色の傘。
結局オレは傘を差さずに走って帰ってきた。
傘を濡らさないように。
何のための傘なのかと親に怒られたけど・・。
「っくしゅん・・っ」
ぐずぐずと鼻の奥がむずがゆい。
「やべ・・風邪引いたな・・」
やっぱりさして帰れば良かったかな。
もう一度傘を見る。
真夏の空のような水色の傘。
遠野にはミスマッチだと思った。
遠野には木枯らしの吹く冬の空。
そんな淋しい色が似合っていたから・・・・。
「っくしゅん・・っ!」
「ほら、昨日濡れて帰ってくるからでしょ!」
母親の檄が飛ぶ中オレはそそくさと家を出る。
頭が重い。
鈍痛。
そんな名前がピッタリな頭痛。
右手には水色の傘。
もう、雨は降っていなかったけど。
空の色はどんよりとしている。
「・・また降るかな・・」
数秒空を見上げ、まぁいいかとオレは歩き出した。
キーンコーンカーンコーーン
始業の鐘が鳴り生徒達は次々と教室に入ってくる。
その中に遠野の姿は見えなかった。
欠席?
「なぁ、美月・・遠野は??」
「え?うん・・今日もいつもの場所で待ってたんだけど・・
来なくて・・学校にもいないから欠席みたいだね。」
淋しそうに苦笑いしながら美月が答える。
欠席か〜・・。
せっかく傘持ってきたのに。
ぱら・・ぱらぱら・・
小さな水音が聞こえてきた。
ふと外を見ると雨粒が窓を叩いていた。
「あ〜・・降っちゃったね」
美月は窓に張り付いている。
「英斗大丈夫かな?まだ来てないみたいだけど」
オレも窓を見つめて美月に話しかける。
美月は顔をしかめて首を振った。
まだ、小降りとはいえ雨は止みそうになかった。
「席につけー」
先生が来て、生徒がざわめき、そして静かになった。
その時。
「先生〜遠野さんは??」
美月が立ち上がった。
「ああ・・遠野は風邪で欠席だそうだ」
その後先生は何もなかったように出席取る。
風邪・・。
遠野も雨に濡れたのだろうか?
いや、折り畳みガサを持ってるっていってたし。
傘を差していても多少濡れるだろうから
それで、風邪を引いたのか・・。
遠野は体が弱いのかも知れないな。
やがて午前の授業が終わり、
昼休みに突入する。
まだ、英斗は来ない。
大胆な遅刻か?
それとも遠野と同じように風邪?
「英斗こないーーー!」
美月も同じ事を考えていたようだ。
そのあと、
「いやっほうーー!昼飯ーー!」
けたたましい声と共に誰かが教室に飛び込んできた。
「遅いって、英斗。遅刻って言うの?これ」
笑いながら美月が英斗の背中を叩く。
「何やってたんだよ、英斗。」
オレも苦笑いしながら問いかける。
「いや、何か昨日の夜さ、救急車の音がうるさくて
眠れなかったんだよな、で、寝坊」
舌を出して可愛く言いわけする英斗。
が、全然可愛くない。
救急車か。
物騒だな。
「で、良く濡れなかったな」
「ああ、そうそう学校行く途中に遠野に逢ってさ、
なんか病院の帰りらしくて車で学校まで送ってくれたんだよ。」
「えーーーー!!!良いな!良いな!あたしも逢いたかったー!」
英斗の言葉に美月は興奮している。
・・・病院か。
遠野、風邪酷いのだろうか??
「遠野の様子は??」
オレがそう聞くと英斗はにやっとしながらつぶやいた。
「何?和哉、遠野のこと気になるの?」
ばしっ
話し終えた英斗の頭を思い切り叩く。
「心配なだけだろ」
「いってーなー。冗談じゃんか〜!」
英斗は大げさに頭を抑える。
「で、様子は?」
「ん?元気そうだったよ。っていうか無言でただ座ってた」
「でも、よく車に乗れたな、怖い怖いいってたわりに」
英斗は遠野のことをめちゃくちゃ怖がっていたから
以外で溜まらなかった。
「ん〜・・・なんかさ、口調が優しかったんだよなー。
しゃべらないけどさ、なんか変な感じだったよ」
昨日、オレが感じた違和感を英斗も感じたらしい。
「遠野って思ったよりいい奴なのかもな。」
英斗が笑う。
「当たり前でしょ!あたしのお墨付きだもん!」
美月は得意げに微笑む。
そう考えると、美月は誰よりも先に、
遠野の矛盾に気づいていたのかも知れない。
何故かは解らなくても遠野は強がっている、と。
本当は、みんなにうち解けたいはずなのに
何らかの理由で、それが出来ない。
でも、そんな理由なんかどうでもいいくらいに、
オレはもう、遠野に惹かれはじめていたのかも知れない。
もっと、遠野のことを知りたかった。
それはたぶん、
英斗や美月も同じ気持ちなのだと思う。
その時、遠野が何と戦っているのかさえ
知らなかったくせに。
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